従来、フッ素を含む廃水の処理方法として、水酸化カルシウム、塩化カルシウム等のカルシウム塩を添加して難溶性のフッ化カルシウム(CaF2)を沈殿分離する方法が最も多用されてきた。しかしながら、例えばめっき工場廃水、ガラス製造工場廃水、石炭火力発電所の排煙脱硫廃水、非鉄金属精錬の工場廃水や半導体製造廃水のように、廃水中に、フッ素とホウ素が反応することにより難分解性のホウフッ化物が形成されている場合には、カルシウム塩を加えても下記の反応式(1)に示したように可溶性のCa(BF4)2が生成されるだけで、廃水中のフッ素濃度はほとんど低減されない。
また、フッ素はすべての元素の中で最も電気陰性度の高い元素であることから、フッ化物イオンが多価金属元素に対して高い親和性を有する特性を利用した脱フッ素処理法として、多価金属凝集沈殿分離法がある。
この多価金属凝集沈殿分離法は、具体的に、処理対象廃水に無機凝集剤として硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸第二鉄や塩化第二鉄等の多価金属塩化合物を添加する。そして、アルカリ剤を用いてpH調整を行い、生成した水酸化アルミニウムや水酸化鉄のコロイドにフッ素を吸着共沈させて固液分離するというものである。
しかしながら、この多価金属凝集沈殿分離法においても。ホウフッ化物イオンはゲル状の水酸化アルミニウムや水酸化鉄にはほとんど吸着しないため、多価金属塩を添加してもほとんど処理することができない。
すなわち、水溶液中のホウフッ化物は、安定した錯イオンを形成しているため、フッ素を水溶液から除去することは容易ではなく、フッ素を除去するにあたってはフッ素とホウ素との結合を切断することが重要となる。しかしながら、ホウフッ化物イオン(BF4 −)は、ホウ素(B)とフッ素(F)との結合エネルギーが非常に強く、下記の一般式(2)〜(5)に示すように、HBF4 −は加水分解を受けると、Bに配位するFが1つずつ水酸基に置換しながら徐々に分解が進行していく。この分解反応は、通常その速度が遅く、これら一連の反応は温度、pH、遊離HFの除去等の要因により決定されると考えられている。なお、上記一般式(2)〜(5)は酸性溶液中における平衡反応である。
したがって、上記一般式(2)〜(5)への反応を速やかに進行させるためには、例えば反応系外からホウフッ化物を分解するための熱エネルギーを与える処理等が必要となる。また、各一般式(2)〜(5)における右辺で生成する遊離HFを効率的に反応系外へ除去する必要があり、除去されない場合は、上記各一般式で表される後段の反応が進行しない。
このため、酸性条件下において、高温に加熱処理してホウフッ化物イオンを分解するとともに、アルミニウム化合物を添加して、下記一般式(6)のように、生成した遊離フッ化水素をヘキサフルオロアルミニウム酸として安定化させて、実質的に反応系外へ除去する方法が採られている。
例えば、特許文献1(特公昭54−18064号公報)には、ホウフッ化物に含まれるフッ素成分を一時的にヘキサフルオロアルミニウム酸として安定化させ、その後カルシウムイオン等を添加することによって、ヘキサフルオロアルミニウム酸中のフッ素成分を難溶性のフッ化カルシウムとして分離除去する方法が開示されている。
また、特許文献2(特開平9−131592号公報)には、例えば鉄塩を添加し、酸性条件下で加熱処理してホウフッ化物を分解し、生成した鉄のフルオロ錯体をカルシウム又はアルミニウム塩により沈殿処理する方法が開示されている。
しかし、このような一般的な処理方法においては、低温では上記一般式(2)〜(5)に示した分解反応速度が遅く、実用上、約60℃以上もの高温に加熱する必要がある。そのため、エネルギーコストが上昇してしまい、経済性が悪化したり、処理設備等に特殊材料を用いる必要があるという大きな問題があった。
これらの問題に対して、例えば特許文献3(特開2000−189980号公報)には、ホウフッ化物を含有する廃水に、水酸化アルミニウムを添加し、その廃水に大気を吹き込み曝気することにより、添加した水酸化アルミニウムの溶解度を上昇させる方法が開示されている。また、特許文献4(特開2002−143841号公報)においては、ホウフッ化物を含有する排水に、アルミニウム化合物を添加し、超音波の照射により得られる強力な音圧によって発砲現象を生じさせ、反応速度を促進させる方法が開示されている。
しかしながら、これら先行技術に係る方法はいずれも、アルミニウム化合物の溶解促進のための技術であり、生成したフッ化水素をヘキサフルオロアルミニウム酸として安定化させて、実質的に反応系外へ除去することを目的とするものであって、上記一般式(6)の右辺への反応を進行させるためのものに過ぎず、難分解性のホウフッ化物の分解効率を向上させるものではない。また、そのため加熱によるエネルギーコスト上昇という問題の解決にも至っていない。
上述したように、これまでの、フッ素及びホウ素を含み、かつフッ素とホウ素が反応することにより形成される難分解性のホウフッ化物等を含有する廃水の処理方法では、難分解性のホウフッ化物を常温で分解するには反応時間が非常に長くなるとともに、分解性も低い。そのため、実用上は、最低でも60℃以上もの高温に加熱することが必要になるが、加熱にあたっては多くのエネルギーを必要とし、コスト上昇に伴って経済性を損なうという大きな問題がある。このように、従来の難分解性のホウフッ化物等を含有する廃水の処理方法においては大きな問題点があり、ホウフッ化物を効率的に分解し、廃水中のフッ素濃度を容易にかつ安価に低減させる処理方法が望まれている。
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る、フッ素及びホウ素を含有し、かつ少なくとも難分解性のホウフッ化物を含有する廃水1の処理方法の処理工程図である。この図1に示すように、ホウフッ化物を含む廃水1は、まずBF4分解反応槽2に導入される。
BF4分解反応槽2においては、廃水1に対して、多価金属塩4とpH調整剤5とを添加するとともに、BF4分解反応槽2に備えられた紫外線照射装置3により紫外線を照射する。この紫外線照射は、廃水1中に含まれる難分解性のホウフッ化物の分解を促進させ、BF4分解反応槽2内における下記一般式(2)〜(5)の反応の進行を速める。その結果、ホウフッ化物が効率的に分解されることになる。
具体的に、本実施の形態においては、廃水1に対して紫外線を照射することによって、紫外線の強力なエネルギーに基づきホウフッ化物の分解効率が高まり、下記一般式(2)〜(5)に示す反応を効率的に進行させることが可能となる。すなわち、紫外線を照射することによって、ホウフッ化物中のフッ素とホウ素との結合を効率的に切断させることができ、ホウフッ化物自体の分解反応効率を向上させることが可能となる。
BF4分解反応槽2において、多価金属塩4は、ホウフッ化物イオンの最終分解生成物である遊離フッ化水素を系外へ除去し、紫外線照射によるホウフッ化物イオンの分解反応を促進させるために添加する。
多価金属塩4を構成する多価金属元素としては、アルミニウム、鉄、チタニウム等から選択される少なくとも1種であり、そして多価金属塩4としては、遊離フッ化水素と反応する物質であれば特に限定されるものではなく、例えば硫酸アルミニウムなどのアルミニウム塩、塩化第二鉄、硫酸第二鉄などの第二鉄塩、又は塩化チタニウムなどの第二チタニウム塩等を挙げることができる。
これら多価金属塩4の添加量としては、多価金属塩4を構成する金属元素がアルミニウム又は鉄の場合には、廃水1中に含まれるホウフッ化物イオン1モルに対して、それぞれアルミニウムイオン又は鉄イオンが0.8〜5モルとなるように添加する。また、多価金属塩4を構成する金属元素がチタニウムの場合には、廃水1中に含まれるホウフッ化物イオン1モルに対して、チタニウムイオンが0.4〜3モルとなるように添加する。
このようにして、BF4分解反応槽2において、廃水1に多価金属塩4を添加することにより、下記一般式(6)に示すように、その多価金属イオンが、ホウフッ化物を分解して生じた遊離フッ化水素と反応して、安定なAlFn 3−n、FeFn 3−n、TiFn 4−nを生成させる。これにより、上記一般式(2)〜(5)に示す、ホウフッ化物イオンの分解反応を効率的に促進させることができる。なお、下記一般式(6)は、多価金属元素としてアルミニウムを添加した場合の反応式である。
なお、このBF4分解反応槽2において廃水1に添加してホウフッ化物イオン分解反応を促進させるものは、多価金属塩に限られず、同種の多価金属元素からなる多価金属を添加することによっても同様にホウフッ化物イオンの分解反応を促進させることができる。アルミニウム、鉄、チタニウム等の多価金属を廃水1に添加する場合においても、上述した添加量を添加する。
また、このBF4分解反応槽2において添加するpH調整剤5は、BF4分解反応槽2内における廃水1のpH条件を、酸性条件下、好ましくはpH4以下、より好ましくはpH2以下に調整して保持する。このように廃水1のpHを酸性条件、特にpH4以下に調整することにより、ホウフッ化物イオンを効率的に分解させることができる。
また、より好ましくpH2以下に調整することにより、添加された多価金属塩4や廃水1中に含まれる元素が加水分解されて生成する加水分解生成物によって紫外線光源に汚れが付着して紫外線照射効率が低下することを防止することができる。さらに、pH2以下に調整することにより、紫外線照射効率を向上させることが可能となり、より短時間でホウフッ化物を分解させることができるとともに、ホウフッ化物の分解によって生成したフッ素と多価金属イオンとの反応効率も向上させることができる。
このpH調整剤5としては、例えば硫酸、塩酸、硝酸等の酸薬剤や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ薬剤を使用することができる。
本実施の形態においては、上述したように、BF4分解反応槽2において、廃水1に対して紫外線を照射する。このように廃水1に紫外線を照射することによって、紫外線の強力なエネルギーによりホウフッ化物中のフッ素とホウ素との結合を効率的に切断させ、分解反応効率を向上させている。この難分解性のホウフッ化物を含む廃水1に対する紫外線照射は、BF4分解反応槽2に備えられた紫外線照射装置3を用いて行われる。
BF4分解反応槽2に備えられた紫外線照射装置3は、180〜400nmの波長領域を有する紫外線を照射できるものであることが好ましく、その光源としては、紫外部から可視部に亘る電磁波を発生する光源が使用される。具体的には、水銀ランプ、キセノンランプ等の希ガス放電灯、アルカリ蒸気ランプなどの、水銀灯に他の金属を封入した金属蒸気ランプ等を使用することができる。特に、紫外線光源として水銀ランプを用いる場合には、低圧水銀ランプ(0.01〜0.1mmHg)と高圧水銀ランプ(0.1〜10atm)のどちらも使用できるが、低圧水銀ランプの方が照射エネルギー効率に優れている点でより好ましい。
また、BF4分解反応槽2に備えられた紫外線照射装置3は、上述した光源を石英製等のジャケットに収めて設けられている。光源を収容するジャケットは、光源から発する放射光線を効率よく透過せしめて光エネルギーを供給するものであれば、石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラスの他、有機高分子材料からなるものであってもよく、目的に応じて適宜選択することが望ましい。また、光源を収容するジャケットは、BF4分解反応槽2に導入された廃水1の全体に亘り、均等な照射分布を形成する位置に配置すればよく、BF4分解反応槽2の上部、下部又は液中に装入する等、1個又は複数個を配置することができる。また、循環式の反応管の外周や配管内に配置してもよい。なお、光源が収容されたジャケットを液中に装入する場合は、特にジャケットの汚れによるBF4分解効率の低下を防止するためのクリーニング機構を備えることが好ましい。
また、この紫外線照射装置3による紫外線照射時間は、30分以上とすることが好ましい。ホウフッ化物を含有する廃水1に対して30分以上紫外線を照射することによって、短時間で効率的にホウフッ化物を分解することができる。なお、紫外線照射時間の上限は特に制限されないが、長時間に亘って照射し続けたとしても所定時間を超えてしまうと、それ以降については照射による分解効率の向上が図れず、短時間で効率的にホウフッ化物を分解させるという効果を考慮すれば、例えば120分程度までとすることが好ましい。
このようにして、BF4分解反応槽2に備えられた紫外線照射装置3により廃水1に対して紫外線が照射されるが、その際、BF4分解反応槽2内の廃水1を攪拌しながら行うことが好ましい。廃水1を攪拌しながら紫外線を照射することにより、廃水1の紫外線照射面積を増やして照射分布を均一にすることができ、より短時間で効率的にホウフッ化物を分解させることができる。廃水1の攪拌機構としては、特に限定されるものではなく、例えば擢型攪拌機、タービン型攪拌機、プロペラ型攪拌機のような機械式のもののほか、ポンプ等を用いた噴流攪拌機、さらにはガス吹込攪拌等を採用することができる。
本実施の形態に係る廃水の処理方法は、上述したように、廃水中に、フッ素とホウ素が反応することにより形成される難分解性のホウフッ化物を含有する廃水に対して、酸性条件下において、多価金属元素(アルミニウム、鉄及びチタニウムなど)を添加するとともに、紫外線照射を併用する分解工程を有する。これにより、難分解性のホウフッ化物の分解を促進させることができ、その分解によって遊離したフッ素イオンと多価金属元素との反応を促進させることができる。具体的には、廃水1に対して、可視光線に比して強いエネルギーを有している紫外線を照射することにより、その強力な光エネルギーによって、ホウフッ化物中のフッ素とホウ素との結合を効率的に切断することができる。これにより、ホウフッ化物の分解効率を向上させることができるとともに、フッ素等のハロゲンイオンと多価金属元素との反応を促進させることができ、分解速度を飛躍的に促進させることができる。
以上のことから、本実施の形態に係る廃水の処理方法によれば、フッ素とホウ素が反応することで形成される難分解性のホウフッ化物を含有した廃水1を、容易、迅速、かつ安価に、処理することができる。
上述のように、BF4分解反応槽2に導入されて、紫外線照射によりホウフッ化物が分解された廃水1は、次に、脱フッ素(F)反応槽6に導入される。
脱F反応槽6においては、廃水1に対して、消石灰等のカルシウム塩7とpH調整剤8とを添加して、廃水1中に含まれるフッ素を不溶化させる(フッ素不溶化工程)。すなわち、BF4分解反応槽2において紫外線照射によりホウフッ化物が分解されることによって生じたフッ素イオンを不溶化させる。
ここで、カルシウム塩7は、廃水1中に含有されるフッ素イオンを不溶性物質に転換させるために添加する。具体的には、例えば、前段のBF4分解反応槽2にて多価金属塩4としてアルミニウム塩、第二鉄塩や第二チタニウム塩を用いると、紫外線照射によってホウフッ化物が分解された後に、廃水1中に可溶性のAlFn 3−n、FeFn 3−n、TiFn 4−n錯体が生成される。これらの錯体が形成された廃水1に対し、この脱F反応槽6においてカルシウム塩を添加することによって、フッ素イオンをCaF2に転換して不溶化させる。または、固体水酸化カルシウム又はカルシウム塩の加水分解生成物の水酸化カルシウムへのフッ素イオンの吸着反応によって、フッ素イオンをCaF2に転換して不溶化させる。このようにしてフッ素成分を不溶性のCaF2に転換して不溶化させることにより、後述する凝集槽12において、フッ素成分を容易にフロック化させて除去することができるようになる。
添加するカルシウム塩としては、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等の無機系カルシウム塩を好適に用いることができる。
また、pH調整剤8は、脱F反応槽6内における廃水1のpH条件を調整する。この脱F反応槽6でのpH条件としては、カルシウム塩を添加して反応させた反応生成物を沈殿させるpHとすることが好ましい。例えば、BF4分解反応槽2において多価金属塩4としてアルミニウム塩を用いた場合には、pH4〜8に調整することが好ましく、多価金属塩4として第二鉄塩及び第二チタニウム塩を用いた場合には、pH4以上に調整することが好ましい。これにより、効率的に廃水1中のフッ素成分を不溶化させて除去することができる。
添加するpH調整剤8としては、特に限定されるものではなく、例えば硫酸、塩酸、硝酸等の酸薬剤や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ薬剤を使用することができる。
以上のようにして、脱F反応槽6に導入されて、フッ素成分が不溶性物質として沈殿した廃水1は、次に、脱ホウ素(B)反応槽9に導入される。
脱B処理槽9においては、廃水1に対して、さらに消石灰等のカルシウム塩10とpH調整剤11とを添加して、廃水1中に含まれるホウ素を不溶化させる(ホウ素不溶化工程)。すなわち、BF4分解反応槽2において紫外線照射によりホウフッ化物が分解されることによって生じたホウ素イオンを不溶化させる。
ここで、カルシウム塩10は、廃水1中に含有されるホウ素イオン(ホウ酸イオン)を、上述の脱F反応槽6におけるカルシウム塩の反応生成物やBF4分解反応槽2で添加された多価金属イオンの水酸化物によって包み込み、不溶化して除去するために添加する。このようにしてホウ素成分をカルシウム塩の反応生成物や多価金属イオンの水酸化物によって包み込んで不溶化させることにより、後述する凝集槽12において、ホウ素成分を容易にフロック化させて除去することができるようになる。
なお、この脱B処理槽9において添加するカルシウム塩やpH調整剤は、脱F反応槽6において添加したものと同様のものを用いることができる。
以上のようにして、脱B処理槽9に導入されて、ホウ素成分が不溶性物質として沈殿した廃水1は、次に、凝集槽12に導入される。
凝集槽12においては、廃水1に対して、アニオン系高分子凝集剤等の高分子凝集剤13を添加し、反応生成物の粒子を粗大化、すなわちフロック化させる(凝集工程)。すなわち、BF4分解反応槽2において分解生成し、脱F反応槽6及び脱B処理槽9にて不溶化されたフッ素イオンやホウ素イオンをフロック化する。
ここで、高分子凝集剤13は、上述の脱F反応槽6や脱B処理槽9において生成された不溶性物質の粒子をフロック化させるために添加する。
この高分子凝集剤13としては、酸性領域では、ノニオン性高分子凝集剤を用い、酸性から弱酸性領域では、弱アニオン系高分子凝集剤を用い、また弱酸性から弱アルカリ性領域では、中性アニオン系高分子凝集剤を用いることが好ましいが、得られるフロックの沈降性や清澄性等に応じて適宜選択することが望ましく、またこれら高分子凝集剤13は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、高分子凝集剤13の添加量としては、処理する廃水1に対して、例えば0.5mg/L〜15mg/Lの濃度範囲とする。
この凝集槽12においては、高分子凝集剤13を添加した後、例えばタービン型攪拌機、プロペラ型攪拌機等の撹拌手段によって、廃水1を撹拌することが好ましい。このように、高分子凝集剤13が添加された廃水1を攪拌することによって、高分子凝集剤13による、フッ素成分やホウ素成分を含んだ不溶性物質のフロック化を促進させることができる。
なお、本実施の形態においては、凝集剤として高分子凝集剤を用いる例を挙げたが、添加することによりこの凝集槽12において不溶性物質をフロック化させ得るものであれば、用いる凝集剤は特に有機系の高分子凝集剤に限られず、例えば無機凝集剤を用いてもよい。
以上のようにして、凝集槽12において不溶性粒子がフロック化されると、その沈降性を有したフロックは沈降槽14内において沈殿し、その結果廃水1は固液分離されて、清澄な上澄水、すなわち処理水16が得られるようになる。
具体的には、沈降槽14において、廃水1中に含有されていたフッ素はCaF2として、またホウ素はホウ酸として沈降分離されることによって、上澄水中のフッ素及びホウ素が低濃度まで処理されて、処理水16が得られるようになる。なお、固液分離された固体成分、すなわちフッ素やホウ素を含んだフロックは、沈殿物として払出される(殿物払出15)。
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る廃水の処理方法は、フッ素及びホウ素を含有し、かつ少なくとも難分解性のホウフッ化物を含有する廃水1の処理方法であって、廃水1に、多価金属塩を添加するとともに、廃水のpHを酸性条件下に保持し、紫外線を照射することによって難分解性のホウフッ化物を分解させる分解工程を有する。多価金属塩を構成する金属元素としては、アルミニウム、鉄及びチタニウム等から選択される少なくとも1種である。
このような本発明によれば、酸性条件下において、廃水1に対して多価金属元素を添加するとともに紫外線照射を併用することによって、難分解性のホウフッ化物の分解反応を促進させることができ、その分解反応によって遊離したフッ素イオンと多価金属元素との反応を促進させることができる。これにより、フッ素とホウ素が反応することにより形成される難分解性のホウフッ化物を含有した廃水を、容易にかつ安価に処理することができる。また、難分解性のホウフッ化物の分解反応効率が向上することにより、廃水の処理時間を飛躍的に迅速化させることができる。
なお、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。特に、本発明は、廃水に対して紫外線照射することによってホウフッ化物を分解する分解工程に特徴を有するものであって、その分解工程の前段若しくは後段のフッ素又はホウ素の除去操作については、上述した本実施の形態に何ら制限されるものではない。
したがって、ホウフッ化物の分解工程の後段において、例えば、消石灰や炭酸カルシウム、塩化カルシウムなどのカルシウム塩、硫酸アルミニウムなどのアルミニウム塩、硫酸マグネシウムなどのマグネシウム塩等を用いた一般的な凝集沈殿処理をする工程等を行うようにしてもよい。
また、本実施の形態においては、脱F反応槽6と脱B処理槽7とを別々に設け、フッ素イオンとホウ素イオンを別々に各槽にて不溶化させる工程を有する場合について説明したが、フッ素イオンとホウ素イオンとを不溶化させる処理を1槽の反応槽にて同時に行うようにしてもよい。
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
<実施例1〜9>
JIS特級試薬NaBF4を市水に溶解させて、BF4 −濃度2000mg/L(ホウフッ化物イオン含有模擬廃水に含まれるフッ素分の濃度が計算値で1750mg(F/L)、ホウ素分は249mg(B/L))となるように、BF4 −含有模擬廃水10Lを調整した。
次に、調整したBF4 −イオン含有模擬廃水1Lをポリエチレン製ビーカーに採水し、多価金属塩として市販硫酸バンド(8重量% Al2O3換算品;硫酸アルミニウム溶液)を用いて、下記の表1に示すアルミニウムイオン濃度になるように添加した。そして、H2SO4及びNaOHでpH2.0に調整し、攪拌しながら紫外線ランプ(10W低圧水銀灯;UL1−1DQ実験用 T-USHIO社製)を用いて、表1に示す所定時間で紫外線照射を行った。
紫外線を照射した後、廃水中におけるBF4 −残存量を測定した。測定にあたっては、模擬廃水中にCa(OH)2を添加してpH4.0で20分間攪拌した後、得られたスラリー溶液の一部(約20ml)を採取して固液分離を行い、BF4 −濃度をイオンクロマトグラフ分析装置(DIONEX DX-500型 ダイオネックス社製)で速やかに測定することによって、BF4 −残存量を求めた。
続いて、残りのスラリー溶液(BF4 −分解処理残液)において、Ca(OH)2又はH2SO4等を添加してpH11に調整し、有機高分子凝集剤(アニオン系高分子凝集剤 スミフロックFA-40、又はノニオン系高分子凝集剤 アコフロックND-102)を添加して20分間攪拌しながらフロック化させる一般的な凝集沈殿処理を行った。その後、固液分離を行い、得られた処理水中のフッ素(F)濃度をイオンクロマトグラフ分析装置(DIONEX DX-500型 ダイオネックス社製)で、ホウ素(B)濃度をICP発光分光分析装置(アイリスAP型 Thermo-scientific社製)で分析した。
なお、BF4 −含有模擬廃水の各処理工程においては、液温を18℃〜25℃に調整して行った。
<比較例1〜9>
比較例1〜9においては、多価金属塩として市販硫酸バンドを用いて下記表1に示すアルミニウムイオン濃度になるように添加し、H2SO4及びNaOHでpH2.0に調整後、紫外線を照射せずに、表1に示す所定時間で攪拌した。なお、他の条件は、実施例1〜9と全て同条件で処理した。
表1に、実施例1〜9及び比較例1〜9のそれぞれの、BF4残存量の測定結果、並びに処理水中のF濃度及びB濃度を併せて示す。なお、表1中の比較例の紫外線(UV)照射時間(min)の欄における「−」は、紫外線を照射せずに、紫外線照射の有無以外は同条件の、対応する実施例(比較例の番号と同一番号の実施例)における紫外線照射の時間、そのまま放置したことを示す(以下の表3においても同様。)。また、BF4残存量の結果における「D.L」は、使用したイオンクロマトグラフ分析装置の分析定量限界であることを示し、またpH値における()内は、実測値を示す(以下の表2及び3においても同様。)。
表1に示されるように、廃水に対して紫外線を照射した実施例では、紫外線を照射しなかった比較例と比べて、短時間で効率的にホウフッ化物を分解させることができた結果、ホウフッ化物(BF4)の残存量が飛躍的に減少したことがわかる。このことは、比較例では、ホウフッ化物の分解は徐々に進行するものの、その分解速度が遅いため、結合が切断されたフッ素とホウ素とが再結合し、再びホウフッ化物が形成されてしまったと考えられる。一方で、本発明を適用した実施例においては、紫外線照射により、ホウフッ化物の反応速度を促進させることができた結果、フッ素とホウ素とを再結合させずに、添加したアルミニウムイオンと結合させてホウフッ化物の再生成を抑制し、ホウフッ化物の残存量を飛躍的に減少させたものと考えられる。
また、多価金属塩である硫酸アルミニウムの添加量が多いほど、ホウフッ化物の残存量が減少することがわかる。このことは、紫外線照射により難分解性のホウフッ化物の分解が促進したことに加え、そのホウフッ化物の分解によって遊離したフッ素イオンがアルミニウムイオンと効率的に反応し、分解反応が促進したためであるといえる。
なお、表1中の比較例6、比較例9においては、それぞれ対応する実施例6、実施例9と同様にBF4残存量が5mg/L以下となった。しかしながら、これらの比較例におけるBF4 −残存量の測定は、対応する実施例におけるBF4 −残存量の測定終了後さらに数時間が経過した後に測定したことから、表1に示すような結果になったと考えられる。すなわち、比較例6、比較例9においてはBF4残存量が5mg/L以下となったものの、対応する実施例がそれぞれ約60分、約120分という短時間で5mg/L以下になったのに対し、比較例では、それ以上の長時間が経過した後に5mg/L以下となったことがわかる。したがって、これらの実施例、比較例からも、本発明を適用して紫外線を照射することによって、ホウフッ化物の分解速度を促進させることができ、より短時間で処理できることがわかる。
<実施例10〜18>
JIS特級試薬NaBF4を市水に溶解させて、BF4 −濃度2000mg/L(ホウフッ化物イオン含有模擬廃水に含まれるフッ素分の濃度が計算値で1750mg(F/L)、ホウ素分は249mg(B/L))となるように、BF4 −含有模擬廃水10Lを調整した。
次に、調整したBF4 −含有模擬廃水1Lをポリエチレン製ビーカーに採水し、多価金属塩として市販硫酸第二鉄(41%水溶液品)を用いて、下記の表2に示す鉄イオン濃度になるように添加した。そして、H2SO4及びNaOHでpH2.0に調整し、攪拌しながら可視光を増加させた紫外線ランプ(100W高圧水銀灯;LM-102 T-USHIO社製)を用いて表2に示す所定時間で紫外線照射した。
紫外線を照射した後、廃水中におけるBF4 −残存量を測定した。測定にあたっては、模擬廃水中にCa(OH)2を添加してpH4で20分間攪拌した後、固液分離を行い、得られた処理水の一部(20ml)を採取して、BF4 −濃度をイオンクロマトグラフ分析装置(DIONEX DX-500型 ダイオネックス社製)で速やかに測定することによって、BF4 −残存量を求めた。
続いて、BF4 −分解処理残液において、Ca(OH)2及びH2SO4等を添加してpH11に調整し、有機高分子凝集剤(アニオン系高分子凝集剤)を添加しながらフロック化させる一般的な凝集沈殿処理を行った。その後、固液分離を行い、得られた処理水中のF濃度をイオンクロマトグラフ分析装置(DIONEX DX-500型 ダイオネックス社製)で、B濃度をICP発光分光分析装置(アイリスAP型 Thermo-scientific社製)で分析した。
なお、BF4 −含有模擬廃水の各処理工程においては、液温を18℃〜25℃に調整して行った。
表2に、実施例10〜18のそれぞれの、BF4残存量の測定結果、並びに処理水中のF濃度及びB濃度を示す。
表2に示されるように、多価金属塩として硫酸第二鉄を添加した場合においても、紫外線を照射することによって、短時間で効率的にホウフッ化物を分解させることができた結果、ホウフッ化物の残存量を効果的に減少させることができたことがわかる。また、多価金属塩である硫酸第二鉄の添加量が多いほど、ホウフッ化物の残存量が減少する傾向にあり、特に鉄イオン濃度として3000mg/Lを添加した場合には、飛躍的にホウフッ化物を分解させることができたことがわかる。このことは、紫外線照射により難分解性のホウフッ化物の分解が促進したことに加え、そのホウフッ化物の分解によって遊離したフッ素イオンが鉄イオンと効率的に反応し、分解反応が促進したためであるといえる。
<実施例19〜27>
JIS特級試薬NaBF4を市水に溶解させて、BF4 −濃度2000mg/L(ホウフッ化物イオン含有模擬廃水に含まれるフッ素分の濃度が計算値で1750mg(F/L)、ホウ素分は249mg(B/L)となるようにBF4 −含有模擬廃水10Lを調整した。
次に、調整したBF4 −含有模擬廃水1Lをポリエチレン製ビーカーに採水し、多価金属塩として四塩化チタン溶液を用いて、下記の表3に示すチタニウムイオン濃度になるように添加した。そして、H2SO4及びNaOHで約pH1に調整し、攪拌しながら紫外線ランプ(10W低圧水銀灯;UL1−1DQ実験用 T-USHIO社製)を用いて下記表3に示す所定時間で紫外線照射した。
紫外線を照射した後、廃水中におけるBF4 −残存量を測定した。測定にあたっては、模擬廃水中にCa(OH)2を添加してpH4で20分間攪拌した後、固液分離を行い、得られた処理水の一部(20ml)を採取して、BF4 −濃度をイオンクロマトグラフ分析装置で速やかに測定することによって、BF4 −残存量を求めた。
続いて、BF4 −分解処理残液において、Ca(OH)2及びH2SO4等を添加してpH11に調整し、有機高分子凝集剤(アニオン系高分子凝集剤)を添加しながらフロック化させる一般的な凝集沈殿処理を行った。その後、固液分離を行い、得られた処理水中のF濃度をイオンクロマトグラフ分析装置で、B濃度をICP発光分光分析装置で分析した。
なお、BF4 −含有模擬廃水の各処理工程においては、液温を18℃〜25℃に調整して行った。
<比較例10〜18>
比較例10〜18においては、多価金属塩として市販四塩化チタン溶液を用いて表3に示すチタニウムイオン濃度になるように添加し、H2SO4及びNaOHで約pH1に調整した後、紫外線を照射せずに、下記表3に示す所定時間で攪拌した。なお、他の条件は、実施例19〜27と全て同条件で処理した。
表3に、実施例19〜27及び比較例10〜18のそれぞれの、BF4残存量の測定結果、並びに処理水中のF濃度及びB濃度を併せて示す。
表3に示されるように、廃水に対して紫外線を照射した実施例では、紫外線を照射しなかった比較例と比べて、短時間で効率的にホウフッ化物を分解させることができた結果、ホウフッ化物の残存量が飛躍的に減少したことがわかる。また、多価金属塩である四塩化チタンの添加量が多いほど、ホウフッ化物の残存量が減少することがわかる。このことは、紫外線照射により難分解性のホウフッ化物の分解が促進したことに加え、そのホウフッ化物の分解によって遊離したフッ素イオンがチタニウムイオンと効率的に反応し、分解反応が促進したためであるといえる。