本発明は、エチレンスルフィト,エチレンスルフィト誘導体およびイミド塩からなる群のうちの少なくとも1種を含む電解液を用いた二次電池に関する。
近年、カメラ一体型VTR(Videotape Recorder;ビデオテープレコーダ),携帯電話あるいはノートパソコンなどのポータブル電子機器が多く登場し、その小型軽量化が図られている。それに伴い、これらの電子機器の電源として、軽量で高エネルギー密度を得ることができる二次電池の開発が進められている。高エネルギー密度を得ることができる二次電池としては、例えばリチウム二次電池が知られている。
このリチウム二次電池では、従来より、サイクル特性などの電池特性を向上させるために電解液の組成について種々の検討がなされており、例えば、エチレンスルフィトまたはLiN(CF
3 SO
2 )
2 などのイミド塩を用いることが報告されている(例えば、特許文献1,2参照)。
特許第3546566号
特開平8−335465号公報
特に、最近では、パソコンの高性能CPUの発熱が大きくなってきたことに伴い、50℃程度の高温環境下においても優れたサイクル特性を得ることができる電池の開発が望まれており、エチレンスルフィトまたはイミド塩などの添加が検討されている。ところが、電解液にエチレンスルフィトまたはイミド塩を添加すると、電池電圧が低下してしまう場合があるという問題があった。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、高温特性を向上させることができると共に、電池電圧の低下を抑制することができる二次電池を提供することにある。
本発明の二次電池は、正極集電体に正極活物質層が設けられた正極と、負極集電体に負極活物質層が設けられた負極と、電解液とを備え、正極活物質層は、正極集電体の一部に設けられ、負極活物質層は、正極活物質層と対向し、かつ、正極集電体とも一部が対向するように配置され、電解液は、エチレンスルフィト,エチレンスルフィト誘導体およびSO2 −N−SO2 構造を有するイミド塩からなる群のうちの少なくとも1種を含み、負極活物質層と正極集電体とが対向している領域の少なくとも一部に、絶縁部材が配設されたものである。
本発明の二次電池によれば、電解液にエチレンスルフィト,エチレンスルフィト誘導体およびSO2 −N−SO2 構造を有するイミド塩からなる群のうちの少なくとも1種を含むようにしたので、正極または負極の表面に高温においても安定な被膜を形成することができる。また、電解液にこれらの化合物を含む場合には電位が高くなると金属を溶解しやすくなるが、本発明によれば、負極活物質層と正極集電体とが対向している領域の少なくとも一部に絶縁部材を配設するようにしたので、この領域における正極の電位が他の領域よりも高くなることを抑制することができる。よって、正極の電位の変動により電池内に存在する金属片あるいは金属くずが溶解および析出し、内部短絡を生じてしまうことを抑制することができる。従って、高温における電解液の化学的安定性を向上させることができ、高温特性を向上させることができると共に、電池電圧の低下などの不良を改善することができる。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係る二次電池の断面構造を表すものである。この二次電池は、負極の容量が、電極反応物質であるリチウム(Li)の吸蔵および放出による容量成分により表されるいわゆるリチウムイオン二次電池である。この二次電池はいわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池容器11の内部に電池素子20を有している。電池容器11は、例えば金属製の容器である缶よりなり、ニッケル(Ni)、ニッケル合金、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、またはニッケル,ニッケル合金,アルミニウムあるいはアルミニウム合金によりめっきされた金属材料などにより少なくとも一部が構成されている。電池容器11の内部には、電池素子20を挟むように円周面に対して垂直に一対の絶縁板12,13がそれぞれ配置されている。
電池容器11は、また、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池容器11の開放端部には、電池蓋14と、この電池蓋14の内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられており、電池容器11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池容器11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板15Aが反転して電池蓋14と電池素子20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
電池素子20は、例えば、一対の帯状の正極21と帯状の負極22とをセパレータ23を介して積層し巻回した構造を有しており、中心には例えばセンターピン24が挿入されている。正極21にはアルミニウムあるいはアルミニウム合金などよりなる正極リード25が接続されており、負極22にはニッケルあるいはニッケル合金などよりなる負極リード26が接続されている。正極リード25は安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は電池容器11に溶接され電気的に接続されている。
図2は図1に示した電池素子20の巻回方向に沿った一部の断面構造を拡大して表すものである。なお、図2では各構成要素を明確にするために、正極21と負極22とセパレータ23とを間隔をあけて表しているが、実際には隣接している。
正極21は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bが設けられた構造を有している。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム箔などの金属箔により構成されている。
正極活物質層21Bは、例えば、正極活物質として、リチウムを吸蔵および放出可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて炭素材料などの導電材およびポリフッ化ビニリデンなどの結着材を含んでいてもよい。リチウムを吸蔵および放出可能な正極材料としては、例えば、硫化チタン(TiS2 ),硫化モリブデン(MoS2 ),セレン化ニオブ(NbSe2 )あるいは酸化バナジウム(V2 O5 )などのリチウムを含有しないカルコゲン化物、またはリチウムを含有するリチウム含有化合物が挙げられる。
中でも、リチウム含有化合物は、高電圧および高エネルギー密度を得ることができるものがあるので好ましい。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、またはリチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物が挙げられ、特にコバルト(Co),ニッケル,マンガン(Mn)および鉄(Fe)のうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。より高い電圧を得ることができるからである。その化学式は、例えば、Lix MIO2 あるいはLiy MIIPO4 で表される。式中、MIおよびMIIは1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物の具体例としては、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(Lix Ni1-z Coz O2 (z<1))、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Lix Ni(1-v-w) Cov Mnw O2 (v+w<1))、あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2 O4 )などが挙げられる。リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物の具体例としては、例えばリチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-u Mnu PO4 (u<1))が挙げられる。
負極22は、例えば、正極21と同様に、対向する一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられた構造を有している。負極集電体22Aは、例えば、銅(Cu)箔などの金属箔により構成されている。
負極活物質層22Bは、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて導電材あるいは結着材などを含んでいてもよい。なお、本実施の形態では、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料と正極活物質との量を調整することにより、正極活物質による充電容量よりも、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料による充電容量の方が大きくなるようにし、完全充電時においても負極22にリチウム金属が析出しないようになっている。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭、あるいはカーボンブラック類などの炭素材料が挙げられる。このうちコークス類には、ピッチコークス,ニードルコークスあるいは石油コークスなどがあり、有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂などの高分子化合物を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、また、リチウムを吸蔵および放出することが可能であり、金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む材料が挙げられる。このような負極材料を用いれば、高いエネルギー密度を得ることができるので好ましい。この負極材料は金属元素あるいは半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、またこれらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、本発明において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には固溶体,共晶(共融混合物),金属間化合物あるいはそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
この負極材料を構成する金属元素あるいは半金属元素としては、例えばリチウムと合金
を形成可能な金属元素あるいは半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg),ホウ素(B),アルミニウム,ガリウム(Ga),インジウム(In),ケイ素(Si),ゲルマニウム(Ge),スズ(Sn),鉛(Pb),ビスマス(Bi),カドミウム(Cd),銀(Ag),亜鉛(Zn),ハフニウム(Hf),ジルコニウム(Zr),イットリウム(Y),パラジウム(Pd)あるいは白金(Pt)などが挙げられる。このうち特に好ましいのは、ケイ素またはスズである。リチウムを吸蔵および放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。
例えば、スズを構成元素として含む負極材料としては、スズを第1の構成元素とし、更に第2の構成元素と第3の構成元素とを含むものが好ましい。第2の構成元素は、コバルト,鉄,マグネシウム,チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),マンガン,ニッケル,銅,亜鉛,ガリウム,ジルコニウム,ニオブ(Nb),モリブデン(Mo),銀,インジウム,セリウム(Ce),ハフニウム,タンタル(Ta),タングステン(W),ビスマスおよびケイ素からなる群のうちの少なくとも1種である。第3の構成元素は、ホウ素,炭素(C),アルミニウムおよびリン(P)からなる群のうちの少なくとも1種である。第2の元素および第3の元素を含むことにより、サイクル特性を向上させることができるからである。
中でも、この負極材料としては、スズと、コバルトと、炭素とを構成元素として含み、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下であり、かつスズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合Co/(Sn+Co)が30質量%以上70質量%以下であるSnCoC含有材料が好ましい。このような組成範囲において高いエネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるからである。
このSnCoC含有材料は、必要に応じて更に他の構成元素を含んでいてもよい。他の構成元素としては、例えば、ケイ素,鉄,ニッケル,クロム,インジウム,ニオブ,ゲルマニウム,チタン,モリブデン,アルミニウム,リン,ガリウムまたはビスマスが好ましく、2種以上を含んでいてもよい。容量またはサイクル特性を更に向上させることができるからである。
なお、このSnCoC含有材料は、スズと、コバルトと、炭素とを含む相を有しており、この相は結晶性の低いまたは非晶質な構造を有していることが好ましい。また、このSnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合していることが好ましい。サイクル特性の低下はスズなどが凝集あるいは結晶化することによるものであると考えられるが、炭素が他の元素と結合することにより、そのような凝集あるいは結晶化を抑制することができるからである。
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えばX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。XPSでは、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば炭素が金属元素または半金属元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、SnCoC含有材料について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる場合には、SnCoC含有材料に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合していることが分かる。
なお、XPS測定では、スペクトルのエネルギー軸の補正に、例えばC1sのピークを用いる。通常、表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、これをエネルギー基準とする。XPS測定では、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、SnCoC含有材料中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン,ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック製の多孔質膜により構成されており、これら2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。
セパレータ23には、溶媒と、電解質塩とを含む電解液が含浸されている。電解液は、溶媒としてエチレンスルフィトとエチレンスルフィト誘導体とからなる群のうちの少なくとも1種を含有するか、または電解質塩としてSO2 −N−SO2 構造を有するイミド塩を含有しており、その両方を含有していてもよい。これらを含有することにより、正極21または負極22の表面に高温においても安定な被膜を形成することができ、高温における電解液の化学的安定性を向上させることができるからである。
エチレンスルフィトは化1(1)に示した構造を有するものである。エチレンスルフィト誘導体としては例えば化1(2)に示したものが挙げられ、具体的には、化1(3)に示した4−フルオロエチレンスルフィト、化1(4)に示した4−クロロエチレンスルフィト、化1(5)に示した4−メチルエチレンスルフィト、あるいは化1(6)に示した4−フェニルエチレンスルフィトなどが挙げられる。
(化1(2)において、R1,R2,R3,R4は、水素基、ハロゲン基、アルキル基、またはフェニル基をそれぞれ表し、それらは同一でも異なっていてもよい。但し、その少なくとも1つは水素基以外の置換基を表す。)
SO2 −N−SO2 構造を有するイミド塩としては、例えば、化2の(1)または(2)に示したリチウム塩が挙げられる。具体的には、例えば、化3(1)に示した1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウム、化3(2)に示したパーフルオロメタンジスルホニルイミドリチウム、化3(3)に示した1,2−パーフルオロエタンジス
ルホニルイミドリチウム、化3(4)に示した1,4−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウム、化3(5)に示した1,5−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウム、化3(6)に示した1,8−パーフルオロオクタンジスルホニルイミドリチウム、化3(7)に示した(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム、化3(8)に示した(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウム、化3(9)に示した(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウム、化3(10)に示したビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムが挙げられる。中でも、化2(1)に示した環式化合物、または化2(2)に示した鎖式化合物のうちmとnとの値が異なるものが好ましく、化2(1)におけるpの値が5以下、化2(2)におけるmとnとの合計の値が5以下のものがより好ましい。より高い効果を得ることができるからである。このイミド塩は、1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
(化2においてpは1から8の整数である。mおよびnは1から4の整数であり、それらは同一でも異なっていてもよい。)
電解液におけるエチレンスルフィトおよびエチレンスルフィト誘導体の含有量は、0.005質量%以上5質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.01質量%以上3質量%以下の範囲内であればより好ましい。また、電解液における上述したイミド塩の含有量は、0.005mol/dm3 以上2mol/dm3 以下の範囲内であることが好ましく、0.005mol/dm3 以上0.7mol/dm3 以下の範囲内であればより好ましいい。この範囲内でより高い効果を得ることができるからである。
なお、溶媒は、エチレンスルフィトのみにより構成するようにしてもよいが、他の1種または2種以上の非水溶媒と混合して用いることが好ましく、例えば、大気圧(1.01325×105 Pa)において沸点が150℃より高い高沸点溶媒と、沸点が150℃以下である低沸点溶媒とを混合して用いるようにすればより好ましい。イオン伝導性を向上させることができるからである。
高沸点溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、あるいは1,3−ジオキソール−2−オン(炭酸ビニレン)などの環式炭酸エステル、それらの水素の少なくとも一部をハロゲンで置換した環式炭酸エステル誘導体、γ−ブチロラクトンあるいはγ−バレロラクトンなどのラクトン、2−メチル−1−ピロリドンなどのラクタム、3−メチル−2−オキサゾリジノンなどの環式カルバミン酸エステル、またはテトラメチレンスルホンなどの環式スルホンが挙げられる。低沸点溶媒としては、例えば、炭
酸ジエチル、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、あるいは炭酸メチルプロピルなどの鎖式炭酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、イソ酪酸メチル、あるいはトリメチル酢酸メチルなどの鎖式カルボン酸エステル、ピナコリンなどのケトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、あるいは1,4−ジオキサンなどのエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの鎖式アミド、または、N,N−ジメチルカルバミン酸メチル、N,N−ジエチルカルバミン酸メチルなどの鎖式カルバミン酸エステルが挙げられる。
中でも、不飽和結合を有する環式炭酸エステルおよびハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体からなる群のうちの少なくとも1種を混合して用いるようにすればより好ましい。負極22における電解液の分解反応を抑制することができ、サイクル特性を向上させることができるからである。不飽和結合を有する環式炭酸エステルとしては、例えば、化4(1)に示した1,3−ジオキソール−2−オンまたは化4(2)に示した4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オンが挙げられる。ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体としては、例えば、化5(1)に示した4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、化5(2)に示した4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、化5(3)に示した4−ブロモ−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは化5(4)に示した4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなど、環式炭酸エステルの水素の少なくとも一部をハロゲンで置換した環式炭酸エステル誘導体が挙げられる。また、ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体としては、鎖式炭酸エステルの水素の少なくとも一部をハロゲンで置換した鎖式炭酸エステル誘導体も挙げられる。但し、環式炭酸エステル誘導体を用いた方が好ましく、具体的には4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが好ましく、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンがより好ましい。特に、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンとしては、シス異性体よりもトランス異性体が好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
電解質塩は、上述したイミド塩のみにより構成するようにしてもよいが、他の1種または2種以上のリチウム塩と混合して用いてもよい。他のリチウム塩としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )、メタンスルホン酸リチウム(CH3 SO3 Li)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 H5 )4 )、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド(LiC(CF3 SO2 )3 )、リチウムビスオキサレートボレート(LiB(C2 O4 )2 )、あるいはリチウムジフルオロオキサレートボレート(LiBF2 (OCO)2 )などが挙げられる。中でも、六フッ化リン酸リチウムを混合して用いるようにすれば、より高い特性を得ることができるので好ましい。特に、六フッ化リン酸リチウムと共に、リチウムジフルオロオキサレートボレート、リチウムビスオキサレートボレートあるいは四フッ化ホウ酸リチウムなどのホウ素を有するリチウム塩のうちの少なくとも1種を混合して用いるようにすれば、高い安定性も得ることができるので好ましい。この場合には、六フッ化リン酸リチウムと四フッ化ホウ酸リチウムとを組み合わせて用いることにより、より高い安定性を得ることができる。
また、この二次電池では、正極21の例えば巻回方向における端部に、正極活物質層21Bを形成せずに正極集電体21Aを露出させた領域が設けられている。正極リード25を取り付けると共に、放熱性を向上させるためである。負極22も同様に、例えば巻回方向における端部に、必要に応じて負極活物質層22Bを形成せずに負極集電体22Aを露出させた領域が設けられていてもよい。正極活物質層21Bおよび負極活物質層22Bが設けられている領域は、正極集電体21Aまたは負極集電体22Aの両面において一致している必要はなく、片面のみに正極活物質層21Bまたは負極活物質層22Bが設けられた領域が存在していてもよい。正極活物質層21Bと負極活物質層22Bとは互いに対向するように配置されているが、正極活物質層21Bよりも負極活物質層22Bの方が対向面において長くなるように形成されており、負極活物質層22Bと正極集電体21Aとが対向する領域27が設けられている。負極活物質層22Bの端部に電流が集中してリチウム金属が析出し、内部短絡を生じてしまうことを抑制するためである。
領域27には絶縁部材28が配設されており、正極21の電位が高くなることを抑制するようになっている。正極活物質層21Bと負極活物質層22Bとが対向している領域29では充電により負極活物質層22Bにリチウムが挿入されると負極活物質層22Bの電位が低くなるが、領域27では負極活物質層22Bにリチウムが挿入されないので領域29よりも負極活物質層22Bの電位は高くなり、その分だけ、領域27における正極活物質層21Bの電位が領域29よりも高くなってしまうからである。
例えば、絶縁部材28を配設しない場合には、負極活物質として炭素材料を用い、電池電圧が4.2Vとなるまで充電すると、領域29における負極活物質層22Bの対リチウム金属電位は約0.05V、正極活物質層21Bの対リチウム金属電位は約4.25Vとなるが、領域27における負極活物質層22Bの対リチウム金属電位は約0.4Vから2V、正極活物質層21Bの対リチウム金属電位は約4.6Vから6.2Vと高くなる。この場合、電解液にエチレンスルフィト、エチレンスルフィト誘導体、または上述したイミド塩が含まれていると、電池内に存在している電池容器11などから剥がれ落ちた金属片や、または正極リード25あるいは負極リード26の取り付け時に発生した金属くずなどが溶解しやすくなり、それが電位の変動により再び析出して内部短絡の原因となる。
図3,4は、作用極にニッケル、対極および参照極にリチウムを用い、電解液の組成を変えて電流−電位測定を行った結果を表すものである。図3において、Aは炭酸プロピレンにLiPF6 を0.6mol/dm3 の濃度で溶解させた電解液の電流−電圧曲線であり、B1は炭酸プロピレンにLiPF6 を0.6mol/dm3 の濃度で溶解させたものにエチレンスルフィトを1質量%の割合で添加した電解液の電流−電圧曲線であり、B2は炭酸プロピレンにLiPF6 を0.6mol/dm3 の濃度で溶解させたものにLiBF2 (OCO)2 を0.5質量%およびエチレンスルフィトを1質量%の割合で添加した電解液の電流−電圧曲線であり、B3は炭酸プロピレンにLiPF6 を0.6mol/dm3 の濃度で溶解させたものにLiB(C2 O4 )2 を0.5質量%およびエチレンスルフィトを1質量%の割合で添加した電解液の電流−電圧曲線であり、B4は炭酸プロピレンにLiPF6 を0.6mol/dm3 の濃度で溶解させたものにLiBF4 を0.5質量%およびエチレンスルフィトを1質量%の割合で添加した電解液の電流−電圧曲線である。図4において、Aは図3と同様に炭酸プロピレンにLiPF6 を0.6mol/dm3 の濃度で溶解させた電解液の電流−電圧曲線であり、Cは炭酸プロピレンに化3(1)に示した1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウムを0.6mol/dm3 の濃度で溶解させた電解液の電流−電圧曲線であり、Dは炭酸プロピレンに化3(10)に示したビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを0.6mol/dm3 の濃度で溶解させた電解液の電流−電圧曲線である。
また、図5は、作用極にアルミニウム、対極および参照極にリチウムを用い、電解液の組成を変えて電流−電位測定を行った結果を表すものである。図5において、Eは炭酸プロピレンにLiPF6 を0.6mol/dm3 の濃度で溶解させた電解液の電流−電圧曲線であり、Fは炭酸プロピレンに化3(1)に示した1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウムを0.6mol/dm3 の濃度で溶解させた電解液の電流−電圧曲線であり、Gは炭酸プロピレンに化3(10)に示したビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを0.6mol/dm3 の濃度で溶解させた電解液の電流−電圧曲線であり、Hは炭酸プロピレンにLiPF6 を0.6mol/dm3 の濃度で溶解させたものにエチレンスルフィトを1質量%の割合で添加した電解液の電流−電圧曲線である。なお、図3〜5に示した電流−電位測定には北斗電工株式会社製の電気化学測定装置を用い、測定環境温度は25℃、走査速度は0.5mV/secとした。
図3〜5に示したように、電解液にエチレンスルフィトおよびイミド塩を添加していないA,Eに比べて、エチレンスルフィトまたはイミド塩を添加したB1〜B3,C,D,F,Gでは低電位において電流の上昇がみられ、ニッケルおよびアルミニウムの溶解が起こることが分かる。すなわち、本実施の形態では、領域27に絶縁部材28を配設することにより、正極21の電位が上昇することを抑制し、電池内に存在する金属片あるいは金属くずが溶解および析出して内部短絡を生じてしまうことを抑制するようになっている。
なお、B4,Hでは、電解液にエチレンスルフィトを添加しているにもかかわらず、B1〜B3,C,D,F,Gで見られるような低電位における電流の上昇が見られず、その電流の上昇電位は、電解液にエチレンスルフィトを添加していないA,Eとそれぞれほぼ同程度であることが分かる。この場合には、B4において電流が大きく上昇していることから、エチレンスルフィトがニッケルを溶解しやすいことが分かると共に、Hにおいて電流がほとんど上昇していないことから、エチレンスルフィトがアルミニウムを溶解しにくいことが分かる。
特に、電解液にエチレンスルフィトを添加したB1〜B4を比べると、LiPF6 のみを用いたB1よりも、LiPF6 にLiBF2 (OCO)2 、LiB(C2 O4 )2 あるいはLiBF4 を添加したB2〜B4において電流の上昇電位が大きくなり、ニッケルの溶解が起こりにくくなることが分かる。この場合には、さらに、B2〜B4を比べると、LiBF2 (OCO)2 を添加したB2、LiB(C2 O4 )2 を添加したB3、LiBF4 を添加したB4の順にニッケルの溶解が起こりにくくなることが分かる。すなわち、本実施の形態では、電解液にエチレンスルフィトを添加した場合においても、その電解液にホウ素を有するリチウム塩を添加することにより、正極21の電位が上昇することを抑制するようになっている。
絶縁部材28は、イオンの移動を阻害または遮断できるものが好ましく、例えば、JIS P8117に規定されている透気度測定で5000s/100cm3 以上のものが好ましい。絶縁部材28を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、あるいはポリエチレンテレフタラートなどの合成樹脂が挙げられる。絶縁部材28は、領域27の少なくとも一部に設けられていればよいが、領域27の全体を覆うように設けられていることが好ましく、図2に示したように領域27を超えて設けられていてもよい。また、絶縁部材28は、図2に示したように正極活物質層21Bの一部を覆っていてもよいが、図6に示したように正極活物質層21Bを覆っていなくてもよい。更に、絶縁部材28は、正極21と負極22との間であればどこに配設されていてもよく、例えばセパレータ23に対して配設してもよいが、図2に示したように正極21に対して配設するか、または図7に示したように負極22に対して配設するようにすることが好ましい。位置合わせを容易にすることができるからである。絶縁部材28は、例えば、接着剤により貼り付けてもよく、熱融着などにより貼り付けてもよい。
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、例えば、正極集電体21Aに正極活物質層21Bを形成し正極21を作製する。正極活物質層21Bは、例えば、正極活物質の粉末と導電材と結着材とを混合して正極合剤を調製したのち、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとし、この正極合剤スラリーを正極集電体21Aに塗布し乾燥させ、圧縮成型することにより形成する。
また、例えば、負極集電体22Aに負極活物質層22Bを形成し負極22を作製する。負極活物質層22Bは正極活物質層21Bと同様にして形成してもよく、また、気相法、液相法、焼成法、またはそれらの2以上の方法を用いて形成するようにしてもよい。なお、気相法としては、例えば、物理堆積法あるいは化学堆積法を用いることができ、具体的には、真空蒸着法,スパッタ法,イオンプレーティング法,レーザーアブレーション法,熱化学気相成長(CVD;Chemical Vapor Deposition )法,プラズマ化学気相成長法あるいは溶射法などが挙げられる。液相法としては、電気鍍金あるいは無電解鍍金などの公知の手法を用いることができる。焼成法というのは、例えば、粒子状の負極活物質を結着材などと混合して溶剤に分散させ、塗布したのち、結着材などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法に関しても公知の手法が利用可能であり、例えば、雰囲気焼成法,反応焼成法あるいはホットプレス焼成法が挙げられる。
次いで、例えば、正極21または負極22の領域27に対応する位置に絶縁部材28を貼り付ける。また、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などにより取り付ける。続いて、正極21と負極22とをセパレータ23を介して巻回し、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に、負極リード26の先端部を電池容器11に溶接して、巻回した正極21および負極22を一対の絶縁板12,13で挟み電池容器11の内部に収納する。正極21および負極22を電池容器11の内部に収納したのち、電解液を電池容器11の内部に注入し、セパレータ23に含浸させる。そののち、電池容器11の開口端部に電池蓋14,安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより固定する。これにより、図1,2に示した二次電池が完成する。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極22に吸蔵される。放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極21に吸蔵される。その際、電解液にはエチレンスルフィト,エチレンスルフィト誘導体またはSO2 −N−SO2 構造を有するイミド塩が含まれているので、正極21または負極22の表面に高温においても安定な被膜が形成され、高温における電解液の分解反応が抑制される。また、領域27に絶縁部材28が配設されているので、正極21の電位の上昇が抑制される。よって、電位の変動に伴い、エチレンスルフィト,エチレンスルフィト誘導体またはイミド塩の作用により電池内に存在する金属片あるいは金属くずが溶解および析出し、内部短絡を生じてしまうことが抑制される。
このように本実施の形態によれば、電解液にエチレンスルフィト,エチレンスルフィト誘導体またはSO2 −N−SO2 構造を有するイミド塩を含むようにしたので、正極21または負極22の表面に高温においても安定な被膜を形成することができる。また、負極活物質層22Bと正極集電体21Aとが対向している領域27に絶縁部材28を配設するようにしたので、正極21の電位が高くなることを抑制することができ、電位の変動により電池内に存在する金属片あるいは金属くずが溶解および析出し、内部短絡を生じてしまうことを抑制することができる。従って、高温における電解液の化学的安定性を向上させることができ、高温特性を向上させることができると共に、電池電圧の低下などの不良を改善することができる。
特に、ニッケル、ニッケル合金、アルミニウム、アルミニウム合金、またはニッケル,ニッケル合金,アルミニウムあるいはアルミニウム合金によりめっきされた金属材料により少なくとも一部が構成された電池容器11を用いる場合、または、電池内部に、ニッケル、ニッケル合金、アルミニウム、またはアルミニウム合金を含む正極リード25あるいは負極リード26などの部材を有する場合に、高い効果を得ることができる。
また、電解液におけるエチレンスルフィトおよびエチレンスルフィト誘導体の含有量を0.005質量%以上5質量%以下とすれば、または、電解液における上述したイミド塩の含有量を0.005mol/dm3 以上2mol/dm3 以下とすれば、より高い効果を得ることができる。
更に、電解液に更に六フッ化リン酸リチウムを含有するようにすれば、または、不飽和結合を有する環式炭酸エステルおよびハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体からなる群のうちの少なくとも1種を含有するようにすれば、より高い特性を得ることができる。この場合には、六フッ化リン酸リチウムと共に、リチウムジフルオロオキサレートボレート、リチウムビスオキサレートボレートあるいは四フッ化ホウ酸リチウムなどのホウ素を有するリチウム化合物のうちの少なくとも1種を混合して含有するようにすれば、より高い安定性を得ることができる。
更に、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
(実施例1−1〜1−8)
図1,2に示した円筒型の二次電池を作製した。まず、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合し、空気中において890℃で5時間焼成してリチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。得られたLiCoO2 についてX線回折を行ったところ、JCPDS(Joint Committee of Powder Diffraction Standard)ファイルに登録されたLiCoO2 のピークとよく一致していた。続いて、このリチウム・コバルト複合酸化物を粉砕して平均粒子径が10μmの粉末状とし、正極活物質とした。
次いで、このLiCoO2 95質量部と、Li2 CO3 粉末5質量部とを混合し、この混合物91質量部と、導電材として人造黒鉛6質量部と、結着材としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合し、溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーとした。続いて、この正極合剤スラリーを帯状のアルミニウム箔よりなる正極集電体21Aの一部に均一に塗布して乾燥させ、圧縮成型して正極活物質層21Bを形成し正極21を作製した。そののち、図2に示したように、正極活物質層21Bの塗り際にポリプロピレンよりなる透気度が5000s/100cm3 以上の絶縁部材28を貼り付けると共に、正極集電体21Aの一端にアルミニウム製の正極リード25を取り付けた。
また、負極活物質として人造黒鉛94質量部と、導電材として気相成長炭素繊維1質量部と、結着材としてポリフッ化ビニリデン5質量部とを混合し、溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて負極合剤スラリーとした。次いで、この負極合剤スラリーを帯状の銅箔よりなる負極集電体22Aの一部に均一に塗布して乾燥させ、圧縮成型して負極活物質層22Bを形成し負極22を作製した。続いて、負極集電体22Aの一端にニッケル製の負極リード26を取り付けた。
正極21および負極22をそれぞれ作製したのち、ポリエチレン製のセパレータ23を用意し、負極22,セパレータ23,正極21,セパレータ23の順に積層してこの積層体を渦巻状に多数回巻回し、粘着テープを用いて巻き終わり部分を固定して電池素子20を作製した。
電池素子20を作製したのち、電池素子20を一対の絶縁板12,13で挟み、負極リード26を電池容器11に溶接すると共に、正極リード25を安全弁機構15に溶接して、電池素子20を電池容器11の内部に収納した。電池容器11には、ニッケルでめっきした鉄製の缶を用いた。そののち、電池容器11の内部に電解液を減圧方式により注入して、円筒型の二次電池を作製した。電解液には、炭酸エチレン30質量%と、炭酸プロピレン5質量%と、炭酸ビニレン1質量%と、炭酸エチルメチル4質量%と、炭酸ジメチル60質量%との混合物に、エチレンスルフィトを添加すると共に、電解質塩を溶解させたものを用いた。その際、電解質塩としては、実施例1−1〜1−7では六フッ化リン酸リチウム1mol/dm3 を用い、実施例1−8では六フッ化リン酸リチウム1mol/dm3 にリチウムジフルオロオキサレートボレートを0.5質量%の割合で添加したものを用いた。また、実施例1−1〜1−7ではエチレンスルフィトの電解液における含有量を0.005質量%から5質量%の範囲内で表1に示したように変化させ、実施例1−8ではエチレンスルフィトの電解液における含有量を1質量%にした。
実施例1−1〜1−7に対する比較例1−1として、電解液にエチレンスルフィトを添加しなかったことを除き、他は実施例1−1〜1−7と同様にして二次電池を作製した。また、比較例1−2として、絶縁部材28を配設せず、電解液にエチレンスルフィトを添加しなかったことを除き、他は実施例1−1〜1−7と同様にして二次電池を作製した。更に、比較例1−3〜1−10として、絶縁部材28を配設せず、電解液におけるエチレンスルフィトの含有量を表1に示したように設定したことを除き、他は実施例1−1〜1−8と同様にして二次電池を作製した。
作製した実施例1−1〜1−8および比較例1−1〜1−10の二次電池について、開回路電圧の不良率および50℃におけるサイクル特性を調べた。開回路電圧の不良率は、各二次電池を複数個ずつ用意し、25℃において500mAの定電流定電圧充電を上限電圧4.2Vまで行い、2週間放置したのちの開回路電圧が4.1V未満のものを不良として、不良率=(開回路電圧が4.1V未満の電池数/試験電池数)×100により求めた。また、サイクル特性は、50℃において、2500mAの定電流定電圧充電を上限電圧4.2Vまで行ったのち、2000mAの定電流放電を終止電圧2.6Vまで行うという充放電を150サイクル行い、1サイクル目の放電容量を100とした場合の150サイクル目の放電容量維持率(%)を求めた。得られた結果を表1に示す。
表1に示したように、実施例1−1〜1−8によれば、エチレンスルフィトを添加していない比較例1−1,1−2に比べて放電容量維持率を向上させることができた。また、絶縁部材28を配設していない比較例1−3〜1−9では、エチレンスルフィトの添加により不良率が大幅に上昇したのに対して、実施例1−1〜1−7によれば、不良率を改善することができた。実施例1−8によれば、絶縁部材28を配設していない比較例1−10より不良率を改善することができた。すなわち、電解液にエチレンスルフィトを添加し、かつ、領域27に絶縁部材28を配設するようにすれば、高温サイクル特性を向上させることができると共に、不良率を低くできることがわかった。
また、実施例1−1〜1−7を比べると、エチレンスルフィトの含有量を増加させると、不良率は上昇し、放電容量維持率は向上したのち低下する傾向がみられた。すなわち、電解液におけるエチレンスルフィトの含有量は、0.005質量%以上5質量%以下の範囲内とすることが好ましく、0.01質量%以上3質量%以下の範囲内とすればより好ましいことがわかった。特に、電解質塩の種類のみが異なっている実施例1−5,1−8を比べると、六フッ化リン酸リチウムのみを用いた実施例1−5よりも、六フッ化リン酸リチウムにリチウムジフルオロオキサレートボレートを添加して用いた実施例1−8において、不良率が低下すると共に放電容量維持率が上昇することがわかった。
(実施例2−1〜2−7)
電解液に、エチレンスルフィトに代えて化3(1)に示した1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウムを添加したことを除き、他は実施例1−1〜1−7と同様にして二次電池を作製した。その際、実施例2−1〜2−7で電解液におけるイミド塩および六フッ化リン酸リチウムの含有量を表2に示したように変化させた。また、実施例2−1〜2−7に対する比較例2−1〜2−7として、絶縁部材28を配設せず、イミド塩および六フッ化リン酸リチウムの含有量を表2に示したように変化させたことを除き、他は実施例2−1〜2−7と同様にして二次電池を作製した。作製した実施例2−1〜2−7および比較例2−1〜2−7の二次電池についても、実施例1−1〜1−8と同様にして、開回路電圧の不良率および50℃におけるサイクル特性を調べた。得られた結果を比較例1−1,1−2の結果と共に表2に示す。
表2に示したように、実施例2−1〜2−7によれば、イミド塩を添加していない比較例1−1,1−2に比べて放電容量維持率を向上させることができた。また、絶縁部材28を配設していない比較例2−1〜2−7では、イミド塩の添加により不良率が大幅に上昇したのに対して、実施例2−1〜2−7によれば、不良率を改善することができた。すなわち、電解液にイミド塩を添加し、かつ、領域27に絶縁部材28を配設するようにすれば、高温サイクル特性を向上させることができると共に、不良率を低くできることがわかった。
また、実施例2−1〜2−7を比べると、イミド塩の含有量を増加させると、不良率は上昇し、放電容量維持率は向上したのち低下する傾向がみられた。また、六フッ化リン酸リチウムを混合して用いた方が放電容量維持率を高くすることができた。すなわち、電解液におけるイミド塩の含有量は、0.005mol/dm3 以上2mol/dm3 以下の範囲内とすることが好ましく、0.005mol/dm3 以上0.7mol/dm3 以下の範囲内とすればより好ましいことがわかった。また、六フッ化リン酸リチウムと共に用いた方が好ましいこともわかった。
(実施例3−1〜3−10)
イミド塩の種類およびそれに混合する他の電解質塩の種類を表3に示したように変えたことを除き、他は実施例2−4と同様にして二次電池を作製した。また、比較例3−1〜3−10として、絶縁部材28を配設せず、イミド塩の種類および他の電解質塩の種類を表3に示したように変えたことを除き、他は実施例3−1〜3−10と同様にして二次電池を作製した。イミド塩としては、実施例3−1および比較例3−1では化3(2)に示したパーフルオロメタンジスルホニルイミドリチウムを用い、実施例3−2および比較例3−2では化3(3)に示した1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミドリチウムを用い、実施例3−3および比較例3−3では化3(4)に示した1,4−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウムを用い、実施例3−4および比較例3−4では化3(5)に示した1,5−パーフルオロブタンジスルホニルイミドリチウムを用い、実施例3−5および比較例3−5では化3(6)に示した1,8−パーフルオロオクタンジスルホニルイミドリチウムを用い、実施例3−6および比較例3−6では化3(7)に示した(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウムを用い、実施例3−7および比較例3−7では化3(8)に示した(トリフルオロメタンスルホニル)(ヘプタフルオロプロパンスルホニル)イミドリチウムを用い、実施例3−8および比較例3−8では化3(9)に示した(トリフルオロメタンスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドリチウムを用い、実施例3−9,3−10および比較例3−9,3−10では化3(10)に示したビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを用いた。また、他の電解質塩としては、実施例3−1〜3−9および比較例3−1〜3−9では六フッ化リン酸リチウム0.5mol/dm3 を用い、実施例3−10および比較例3−10では六フッ化リン酸リチウム0.5mol/dm3 にリチウムジフルオロオキサレートボレートを0.5質量%の割合で添加したものを用いた。
作製した実施例3−1〜3−10および比較例3−1〜3−10の二次電池についても、実施例1−1〜1−8と同様に、開回路電圧の不良率および50℃におけるサイクル特性を調べた。得られた結果を実施例2−4および比較例1−1,1−2,2−4の結果と共に表3に示す。
表3に示したように、実施例2−4と同様に、他のイミド塩を用いても高温サイクル特性を向上させることができ、また、絶縁部材28の配設により不良率を改善することができた。また、実施例2−4,3−1〜3−9を比べると、化2(2)におけるmとnとの値が同一のイミド塩を用いた実施例3−9よりも、化2(1)に示した環式化合物を用いた実施例2−4,3−1〜3−5および化2(2)におけるmとnとの値が異なる鎖式化合物を用いた実施例3−6〜3−8の方が高い特性を得ることができた。更に、化2(1)におけるpの値または化2(2)におけるmとnとの合計の値が小さい方がより高い特性が得られた。すなわち、イミド塩としては、化2(1)に示した環式化合物、または化2(2)に示した鎖式化合物のうちmとnとの値が異なるものが好ましく、化2(1)におけるpの値が5以下、化2(2)におけるmとnとの合計の値が5以下のものがより好ましいことがわかった。特に、他の電解質塩の種類のみが異なっている実施例3−9,3−10を比べると、六フッ化リン酸リチウムのみを用いた実施例3−9よりも、六フッ化リン酸リチウムにリチウムジフルオロオキサレートボレートを混合して用いた実施例3−10において、不良率が低下すると共に放電容量維持率が上昇することがわかった。
(実施例4−1−1,4−1−2〜4−27−1,4−27−2)
負極活物質として、炭素材料に代えて、スズを第1の構成元素として含む材料を用いると共に、電解液の組成を変えたことを除き、他は実施例1−1〜1−7または実施例2−1〜2−7と同様にして二次電池を作製した。
負極活物質はメカノケミカル反応を利用して合成し、その組成は、実施例4−1−1,2〜4−27−1,2で表4〜8に示したように変化させた。具体的には、実施例4−1−1,2〜4−21−1,2では、第2の構成元素をコバルト,鉄,マグネシウム,チタン,バナジウム,クロム,マンガン,ニッケル,銅,亜鉛,ガリウム,ジルコニウム,ニオブ,モリブデン,銀,インジウム,セリウム,ハフニウム,タンタル,タングステンまたはビスマスと変化させ、第3の構成元素は炭素とした。実施例4−22−1,2〜4−24−1,2では、第2の構成元素はコバルトとし、第3の構成元素をホウ素,アルミニウムまたはリンと変化させた。実施例4−25−1,2〜4−27−1,2では、第2の構成元素をコバルト、第3の構成元素を炭素とし、更にそれらに加えて、他の構成元素を添加した。
得られた負極活物質粉末について組成分析を行った。炭素の含有量は、炭素・硫黄分析装置により測定し、他の元素の含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分析により測定した。得られた結果を表4〜8の負極活物質の欄に括弧書きで示す。なお、括弧内においてスラッシュで区切って示した数字は、上に記した元素の含有量(質量%)を順に対応して表している。
負極22は、得られた負極活物質粉末80質量部と、導電材として人造黒鉛14質量部およびアセチレンブラック1質量部と、結着材としてポリフッ化ビニリデン5質量部とを混合し、溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、負極集電体22Aに塗布して負極活物質層22Bを形成することにより作製した。
また、実施例4−1−1〜4−27−1で用いた電解液は、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン20質量%と、炭酸エチレン20質量%と、炭酸ジメチル60質量%との混合物に、エチレンスルフィトを1質量%となるように添加すると共に、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム1mol/dm3 を溶解させて調製した。実施例4−1−2〜4−27−2で用いた電解液は、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン20質量%と、炭酸エチレン20質量%と、炭酸ジメチル60質量%との混合物に、化3(1)に示した1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウム0.5mol/dm3 と、六フッ化リン酸リチウム0.5mol/dm3 とを溶解させて調整した。
各実施例に対する比較例4−1−1〜4−27−1として、絶縁部材28を配設せず、電解液にエチレンスルフィトおよびイミド塩を添加しなかったことを除き、他は各実施例と同様にして二次電池を作製した。また、比較例4−1−2,3〜4−27−2,3として、絶縁部材28を配設しなかったことを除き、他は実施例4−1−2,3〜4−27−2,3と同様にして二次電池を作製した。作製した各実施例および各比較例の二次電池についても、実施例1−1〜1−8と同様にして、開回路電圧の不良率および50℃におけるサイクル特性を調べた。得られた結果を表4〜8に示す。
表4〜8に示したように、各実施例によれば、エチレンスルフィトおよびイミド塩を用いていない各比較例に比べて放電容量維持率を向上させることができた。また、絶縁部材28を配設していない各比較例に比べて不良率を改善することができた。すなわち、電解液にイミド塩を添加し、かつ、領域27に絶縁部材28を配設するようにすれば、負極活物質としてスズを含む負極材料を用いる場合においても、高温サイクル特性を向上させることができると共に、不良率を低くできることがわかった。
更に、各実施例を比較すれば分かるように、スズとコバルトと炭素とを含むSnCoC含有材料を用いた実施例4−1−1,4−1−2および実施例4−25−1,4−25−2,4−26−1,4−26−2において、特に高い特性を得ることができた。すなわち、SnCoC含有材料を用いるようにすれば、より特性を向上させることができ、好ましいことが分かった。
(実施例5−1〜5−4)
SnCoC含有材料の組成を変化させたことを除き、他は実施例4−1−1または4−1−2と同様にして二次電池を作製した。作製した実施例5−1〜5−4のCoSnC含有材料についても、実施例4−1−1,4−1−2と同様にして組成の分析を行った。それらの結果を表9に示す。また、実施例4−1−1,4−1−2および実施例5−1〜5−4のCoSnC含有材料についてX線回折を行ったところ、回折角2θ=20°〜50°の間に、回折角2θが1.0°以上の広い半値幅を有する回折ピークが観察された。更に、これらのCoSnC含有材料についてXPSを行ったところ、図8に示したようにピークP1が得られた。ピークP1を解析すると、表面汚染炭素のピークP2と、ピークP2よりも低エネルギー側にSnCoC含有材料中におけるC1sのピークP3とが得られた。このピークP3は、284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、SnCoC含有材料中の炭素が他の元素と結合していることが確認された。
また、作製した実施例5−1〜5−4の二次電池についても、実施例4−1−1,4−1−2と同様にして、開回路電圧の不良率および50℃におけるサイクル特性を調べた。得られた結果を実施例4−1−1,4−1−2および比較例4−1−2,4−1−3の結果と共に表9に示す。
表9に示したように、炭素の含有量を増加させるに従い、放電容量維持率は向上し、極大値を示したのち低下する傾向が見られた。すなわち、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下の範囲内のSnCoC含有材料を用いるようにすれば、優れたサイクル特性を得ることができ好ましいことが分かった。
(実施例6−1,6−2)
負極活物質として、炭素材料に代えてケイ素を用いると共に、電解液の組成を変えたことを除き、他は実施例1−1〜1−7または実施例2−1〜2−7と同様にして二次電池を作製した。
負極22は、負極集電体22Aに電子ビーム蒸着によりケイ素よりなる負極活物質層22Bを形成したのち、加熱処理することにより作製した。電解液は、実施例6−1では、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン20質量%と、炭酸エチレン20質量%と、炭酸ジメチル60質量%との混合物に、エチレンスルフィトを1質量%となるように添加すると共に、電解質塩として六フッ化リン酸リチウム1mol/dm3 を溶解させて調製した。また、実施例6−2では、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン20質量%と、炭酸エチレン20質量%と、炭酸ジメチル60質量%との混合物に、化3(1)に示した1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウム)0.5mol/dm3 と、六フッ化リン酸リチウム0.5mol/dm3 とを溶解させて調整した。
実施例6−1,6−2に対する比較例6−1として、絶縁部材28を配設せず、電解液にエチレンスルフィトおよびイミド塩を添加しなかったことを除き、他は各実施例と同様にして二次電池を作製した。また、比較例6−2,6−3として、絶縁部材28を配設しなかったことを除き、他は実施例6−1,6−2と同様にして二次電池を作製した。作製した実施例6−1,6−2および比較例6−1〜6−3の二次電池についても、実施例1−1〜1−8と同様にして、開回路電圧の不良率および50℃におけるサイクル特性を調べた。得られた結果を表10に示す。
表10に示したように、実施例6−1,6−2によれば、エチレンスルフィトおよびイミド塩を用いていない比較例6−1に比べて放電容量維持率を向上させることができた。また、絶縁部材28を配設していない比較例6−1〜6−3に比べて不良率を改善することができた。すなわち、電解液にイミド塩を添加し、かつ、領域27に絶縁部材28を配設するようにすれば、負極活物質としてケイ素を含む負極材料を用いる場合においても、高温サイクル特性を向上させることができると共に、不良率を低くできることがわかった。
(実施例7−1,7−2)
絶縁部材28の貼り付け位置を図7に示したように負極活物質層22Bの塗り際としたことを除き、他は実施例1−5または実施例2−4と同様にして二次電池を作製した。作製した実施例7−1,7−2の二次電池についても、実施例1−1〜1−8と同様にして、開回路電圧の不良率および50℃におけるサイクル特性を調べた。得られた結果を実施理恵1−5,2−4および比較例1−2,1−7,2−4と共に表11に示す。
表11に示したように、絶縁部材28を負極22に貼り付けるようにしても、同様の効果を得られることがわかった。
(実施例8−1〜8−4)
アルミニウムよりなる中空角柱状の電池容器11を用いたことを除き、他は実施例1−5または実施例2−4,3−6,3−9と同様にして二次電池を作製した。実施例8−1は電解液にエチレンスルフィトを添加し、実施例8−2は電解液に化3(1)に示した1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミドリチウムを添加し、実施例8−3は化3(7)に示した(トリフルオロメタンスルホニル)(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドリチウムを添加し、実施例8−5は化3(10)に示したビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを添加したものである。
実施例8−1〜8−4に対する比較例8−1として、絶縁部材28を配設せず、電解液にエチレンスルフィトおよびイミド塩を添加しなかったことを除き、他は実施例8−1〜8−4と同様にして二次電池を作製した。また、比較例8−2〜8−5として、絶縁部材28を配設しなかったことを除き、他は実施例8−1〜8−4と同様にして二次電池を作製した。作製した実施例8−1〜8−4および比較例8−1〜8−5の二次電池についても、実施例1−1〜1−8と同様にして、開回路電圧の不良率および50℃におけるサイクル特性を調べた。得られた結果を表12に示す。
表12に示したように、実施例8−1〜8−4によれば、エチレンスルフィトおよびイミド塩を用いていない比較例8−1に比べて放電容量維持率を向上させることができた。また、絶縁部材28を配設していない比較例8−2〜8−5に比べて不良率を改善することができた。すなわち、ニッケルでめっきした電池容器11を用いる場合と同様に、アルミニウム製の電池容器11を用いる場合においても、高い効果を得られることがわかった。
(実施例9−1〜9−7)
電解液の溶媒として炭酸プロピレンの代わりに4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用い、電解質塩の種類を表13に示したように変えたことを除き、他は実施例1−8と同様にして二次電池を作製した。また、比較例9として、絶縁部材28を配設しなかったことを除き、他は実施例9−3と同様にして二次電池を作製した。電解質塩としては、実施例9−1〜9−5では六フッ化リン酸リチウム1mol/dm3 にリチウムジフルオロオキサレートボレートを添加したものを用い、その電解液における含有量を0.05質量%から5質量%の範囲内で表13に示したように変化させ、実施例9−6では六フッ化リン酸リチウム1mol/dm3 にリチウムビスオキサレートボレートを0.5質量%の割合で添加したものを用い、実施例9−7では六フッ化リン酸リチウム1mol/dm3 に四フッ化ホウ酸リチウムを0.5質量%の割合で添加したものを用いた。作製した実施例9−1〜9−7および比較例9の二次電池についても、実施例1−1〜1−8と同様にして、開回路電圧の不良率および50℃におけるサイクル特性を調べた。得られた結果を実施例1−8および比較例1−10の結果と共に表13に示す。
表13に示したように、絶縁部材28を配設していない比較例9では、比較例1−10と同程度に不良率が大きくなったが、絶縁部材28を配設した実施例9−1〜9−5によれば、実施例1−8と同程度に不良率を改善することができた。また、溶媒の種類のみが異なっている実施例9−1〜9−7,1−8を比べると、炭酸プロピレンを用いた実施例1−8よりも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いた実施例9−1〜9−7において放電容量維持率が上昇することがわかった。すなわち、電解液にエチレンスルフィトを添加すると共に領域27に絶縁部材28を配設した上で、その電解液の溶媒に4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを含有させるようにすれば、高温サイクル特性をより向上させることができることがわかった。
特に、リチウムジフルオロオキサレートボレートの添加量を変化させた実施例9−1〜9−5を比べると、添加量の増加に伴い、不良率は一定のまま、放電容量維持率は向上したのちに低下する傾向が見られた。すなわち、電解液におけるジフルオロオキサレートボレートの含有量は、0.05質量%以上5質量%以下の範囲内とすることが好ましく、0.1質量%以上2質量%以下の範囲内とすればより好ましいことがわかった。この場合には、六フッ化リン酸リチウムに混合させた電解質塩の種類のみが異なっている実施例9−3,9−6,9−7を比べると、不良率は、リチウムジフルオロオキサレートボレートを用いた実施例9−3およびリチウムビスオキサレートボレートを用いた実施例9−6よりも四フッ化ホウ酸リチウムを用いた実施例9−7において低下し、一方、放電容量維持率は、実施例9−7,9−6,9−3の順に上昇することがわかった。不良率が実施例9−3,9−6よりも実施例9−7において低下するのは、図3に示した電流の上昇電位と電解質塩の種類との間の関係、すなわち六フッ化リン酸リチウムにリチウムジフルオロオキサレートボレートやリチウムビスオキサレートボレートを添加した場合よりも四フッ化ホウ酸リチウムを添加した場合において電流の上昇電位が大きくなる(ニッケルが溶解しにくくなる)ことと関係していると思われる。とりわけ、実施例9−7において不良率が0%になったことは注目すべきである。
(実施例10)
電解液の溶媒として4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンの代わりに4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いたことを除き、他は実施例9−3と同様にして二次電池を作製した。作製した実施例10の二次電池についても、実施例1−1〜1−8と同様にして、開回路電圧の不良率および50℃におけるサイクル特性を調べた。得られた結果を実施例9−3の結果と共に表14に示す。
表14に示したように、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いた実施例10によれば、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いた実施例9−3と同程度の不良率が維持されたまま、それよりも放電容量維持率が上昇した。すなわち、電解液にエチレンスルフィトを添加すると共に領域27に絶縁部材28を配設した上で、その電解液の溶媒に4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを含有させるようにすれば、高温サイクル特性を著しく向上させることができることがわかった。
(実施例11−1〜11−4)
他の電解質塩の種類を表15に示したように変えたことを除き、他は実施例3−10と同様にして二次電池を作製した。また、比較例11として、絶縁部材28を配設しなかったことを除き、他は実施例11−2と同様にして二次電池を作製した。電解質塩としては、六フッ化リン酸リチウム1mol/dm3 にリチウムジフルオロオキサレートボレートを添加したものを用い、その電解液における含有量を0.05質量%から5質量%の範囲内で表15に示したように変化させた。作製した実施例11−1〜11−4および比較例11の二次電池についても、実施例1−1〜1−8と同様にして、開回路電圧の不良率および50℃におけるサイクル特性を調べた。得られた結果を実施例3−10および比較例3−10の結果と共に表15に示す。
表15に示したように、絶縁部材28を配設していない比較例11では、比較例3−10と同程度に不良率が大きくなったが、絶縁部材28を配設した実施例11−1〜11−4によれば、実施例3−10と同程度に不良率を改善することができた。また、溶媒の種類のみが異なっている実施例11−1〜11−4,3−10を比べると、炭酸プロピレンを用いた実施例3−10よりも、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いた実施例11−1〜11−4において、放電容量維持率が上昇することがわかった。すなわち、電解液にイミド塩を添加すると共に領域27に絶縁部材28を配設した上で、その電解液の溶媒に4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを含有させるようにすれば、高温サイクル特性をより向上させることができることがわかった。
特に、リチウムジフルオロオキサレートボレートの添加量を変化させた実施例11−1〜11−4を比べると、添加量の増加に伴い、不良率は低下したのち上昇する傾向が見られ、放電容量維持率は上昇したのち低下する傾向が見られた。すなわち、電解液におけるジフルオロオキサレートボレートの含有量は、0.05質量%以上5質量%以下の範囲内とすることが好ましく、0.5質量%以上2質量%以下の範囲内とすればより好ましいことがわかった。
(実施例12)
電解液の溶媒として4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンの代わりに4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いたことを除き、他は実施例11−2と同様にして二次電池を作製した。作製した実施例11−2の二次電池についても、実施例1−1〜1−8と同様にして、開回路電圧の不良率および50℃におけるサイクル特性を調べた。得られた結果を実施例11−2の結果と共に表16に示す。
表16に示したように、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いた実施例12によれば、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを用いた実施例11−2と同程度の不良率が維持されたまま、それよりも放電容量維持率が上昇した。すなわち、電解液にイミド塩を添加すると共に領域27に絶縁部材28を配設した上で、その電解液の溶媒に4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンを含有させるようにすれば、高温サイクル特性を著しく向上させることができることがわかった。
なお、上記した表14〜16には、電解質塩として六フッ化リン酸リチウムにリチウムジフルオロオキサレートボレートを混合させた実施例のみを示しており、リチウムビスオキサレートボレートや四フッ化ホウ酸リチウムを混合させた実施例を示していないが、表14〜16に示した場合においても、上記したリチウムビスオキサレートボレートや四フッ化ホウ酸リチウムを混合することにより、表13に示した結果に見られた傾向が同様に得られることは言うまでもない。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は実施の形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、電解液をそのまま用いる場合について説明したが、電解液を高分子化合物に保持させていわゆるゲル状としてもよい。高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレートなどのエステル系高分子化合物あるいはアクリレート系高分子化合物、またはポリフッ化ビニリデンあるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ化ビニリデンの重合体が挙げられる。
また、上記実施の形態および実施例では、電池容器および電池素子の形状について具体的に説明したが、本発明は、他の形状を有する場合についても同様に適用することができる。更に、缶よりなる電池容器に代えて、ラミネートフィルムなどのフィルム状の外装部材を用いる場合についても、本発明を適用することができる。加えて、正極と負極とをセパレータを介して積層し巻回した電池素子に代えて、複数の正極と負極とをセパレータを介して積層したり、または、正極と負極とをセパレータを介して積層し折り畳んだ他の構造を有する電池素子を用いる場合についても、本発明を適用することができる。
更にまた、上記実施の形態および実施例では、負極の容量が、電極反応物質の吸蔵および放出による容量成分により表される二次電池について説明したが、負極の容量が、電極
反応物質の析出および溶解による容量成分により表される二次電池、または、負極の容量が、電極反応物質の吸蔵および放出による容量成分と、電極反応物質の析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表される二次電池についても本発明を適用することができる。
負極の容量が電極反応物質の析出および溶解による容量成分により表される二次電池は、負極活物質としてリチウム金属などの電極反応物質を用いるものであり、負極活物質層が電極反応物質により構成される。負極の容量が電極反応物質の吸蔵および放出による容量成分と、電極反応物質の析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表される二次電池は、負極活物質層にリチウムなどの電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な負極材料を用い、この負極材料と正極活物質との量を調整して、この負極材料による充電容量よりも正極活物質による充電容量の方が大きくなるようにし、充電の過程において、開回路電圧が過充電電圧よりも低い時点で負極活物質層にリチウム金属が析出し始めるようにしたものである。
加えてまた、上記実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる電池について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他のアルカリ金属、またはマグネシウムあるいはカルシウム(Ca)などのアルカリ土類金属、またはアルミニウムなどの他の軽金属を用いる場合についても、本発明を適用することができる。
本発明の一実施の形態に係る二次電池の構成を表す断面図である。
図1に示した二次電池における巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
作用極にニッケルを用い、電解液にエチレンスルフィトを添加した場合の電流−電位曲線を表す特性図である。
作用極にニッケルを用い、電解液にイミド塩を添加した場合の電流−電位曲線を表す特性図である。
作用極にアルミニウムを用い、電解液にイミド塩を添加した場合の電流−電位曲線を表す特性図である。
図1に示した二次電池における巻回電極体の他の構成例を表す断面図である。
図1に示した二次電池における巻回電極体の他の構成例を表す断面図である。
実施例で作製したCoSnC含有材料に係るX線光電子分光法により得られたピークの一例を表すものである。
符号の説明
11…電池容器、12,13…絶縁板、14…電池蓋、15…安全弁機構、15A…ディスク板、16…熱感抵抗素子、17…ガスケット、20…電池素子、21…正極、21A…正極集電体、21B…正極活物質層、22…負極、22A…負極集電体、22B…負極活物質層、23…セパレータ、24…センターピン、25…正極リード、26…負極リード、27,29…領域、28…絶縁部材