本発明は、燃料電池に関わり、詳しくは、発電セルで発生する熱に対する対策を施した燃料電池に関するものである。
現在、電子機器の電源として様々な一次電池および二次電池が用いられている。電池の特性を示す一つにエネルギー密度がある。エネルギー密度とは、電池の単位質量または単位体積あたりのエネルギー容量である。
近年、電子機器が小型化および高性能化するにつれて、これに用いられる電源の高容量化および高出力化、特に高容量化の必要性が大きくなってきており、従来の一次電池および二次電池では、電子機器の駆動に十分なエネルギーを供給することが困難になってきている。このような現状を打開する解決策として、よりエネルギー密度が高い電池の開発が急務とされており、燃料電池はその候補の一つとして注目されている。
燃料電池は負極(アノード)、正極(カソード)、および電解質などからなり、負極側に燃料が供給され、正極側に空気または酸素が供給される。この結果、燃料が酸素によって酸化される酸化還元反応が負極および正極上で起こり、燃料がもつ化学エネルギーの一部が電気エネルギーに変換されて取り出される。
既に、様々な種類の燃料電池が提案または試作され、一部は実用化されている。これらの燃料電池は、用いられる電解質によって、アルカリ電解質型燃料電池(AFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)および固体高分子型燃料電池(PEFC)などに分類される。このうち、固体高分子型燃料電池(PEFC)には、他の燃料電池に比べて低い温度、例えば30℃〜130℃程度の温度で動作させることができる利点がある。
燃料電池の燃料としては、水素やメタノールなど、種々の可燃性物質を用いることができる。しかし、水素などの気体燃料は、貯蔵用のボンベなどが必要になるため、小型化には適していない。一方、メタノールなどの液体燃料は、貯蔵しやすいという利点がある。とりわけ、メタノールを直接負極に供給して反応させる直接型メタノール燃料電池(DMFC)には、燃料から水素を取り出すための改質器を必要とせず、構成がシンプルになり、小型化が容易である利点がある。
メタノールのエネルギー密度は、理論的に4.8kW/Lであり、一般的なリチウムイオン二次電池のエネルギー密度の10倍以上である。すなわち、燃料としてメタノールを用いる燃料電池は、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を凌ぐ可能性がある。さらに、DMFCをはじめとする燃料電池は、燃料を供給することで連続して使用し続けることができるため、従来の二次電池と異なり、充電時間を必要としないという利点も有している。また、燃料電池は、有害な廃棄物を生成せず、クリーンであるという特長がある。
以上の点から、種々の燃料電池の中でPEFCのうち、DMFCは、小型化および高性能化がすすむ電子機器、とりわけ小型携帯電子機器の電源として最も適していると考えられている。
図8は、DMFCの発電セル100の構成の一例を示す概略断面図である。この装置の発電部は、固体高分子電解質膜101の両面に負極102と正極103とが(図示省略した)電極触媒等と共に接合された膜・電極接合体(MEA)104によって構成されている。通常、固体高分子電解質膜101としては、デュポン社のナフィオン(登録商標)に代表されるようなパーフルオロスルホン酸系の陽イオン交換樹脂がよく用いられる。また、負極102としては、触媒である白金PtやルテニウムRuを担持した炭素材料などからなる多孔質電極が用いられ、正極103としては、触媒である白金Ptを担持した炭素材料などからなる多孔質電極が用いられる。
膜・電極接合体(MEA)104は、セル下半部107とセル上半部108との間に挟持されて、DMFCに組み込まれている。セル下半部107およびセル上半部108には、それぞれガス供給管109および110が設けられており、ガス供給管109からはメタノールを含むガスが、またガス供給管110からは空気もしくは酸素が供給される。各ガスは、それぞれ、(図示省略した)通気孔を有するガス供給部105および106を通過して、負極102および正極103へ供給される。ガス供給部105は負極102とセル下半部107を電気的に接続し、ガス供給部106は正極103とセル上半部108を電気的に接続する。
発電は、上記のガスを供給しながら、セル下半部107およびセル上半部108に接続されている外部回路111を閉じることで行う。この時、負極102では次式(1)
CH3OH + H2O → CO2 + 6e- + 6H+ (1)
の反応によりメタノールが二酸化炭素に酸化され、負極102に電子を与える。生じた水素イオン(プロトン)H+は固体高分子電解質膜101を介して正極103側へ移動する。
正極103へ移動した水素イオンは、正極103に供給される酸素と次式(2)
(3/2)O2 + 6e- + 6H+ → 3H2O (2)
のように反応し、水を生成する。このとき、酸素は、正極103から電子を取り込み、還元される。
DMFC全体で起こる反応は、下記の反応式(3)で示す通りである。
CH3OH + (3/2)O2 → CO2 + 2H2O (3)
上記の例では100%メタノールを気体の状態で供給する例を示したが、メタノールを低濃度または高濃度の水溶液などとして供給してもよい。また、正極103側に酸素以外の酸化剤を供給することも可能である。
高分子電解質膜101中における水素イオンH+の移動には、膜中に存在する水が大きく関与しており、固体高分子電解質膜1中に含まれる水分の量が多いほど、水素イオンの移動が容易に行われることが知られている。また、反応(3)に際して放出されるエネルギーのうち、一部は電気エネルギーに変換されるが、残りは熱として放出されるので、発電は発熱を伴うことが知られている。
DMFCを小型携帯電子機器に搭載する場合、電子機器が必要とする電力をDMFCが確実に供給することが重要である。DMFCを安定して発電させるには、反応物質であるメタノールおよび空気の供給と、反応後のガスの排出とを確実に行い、発電が行われる膜・電極接合体104の動作を安定化するために、水分や熱を適切に管理することが重要である。
メタノールおよび空気の供給を安定化する方法としては、例えば、ポンプやブロアを使用してメタノールの供給速度および供給量を管理する方法がある。水分を管理する方法としては、例えば、負極に対し燃料とともに水を供給する方法や、正極側にブロアを設置し、正極上で水が滞留するのを防止する方法がある。発電セルで発生する熱を管理して温度を安定化する方法としては、例えば、熱交換器を利用する方法や放熱フィンを用いた放冷装置を設ける方法がある。
しかし、DMFCを小型電子機器に搭載する場合、発電の安定化を支援する補助部品は、燃料電池を小型化する妨げになり、高エネルギー密度という燃料電池の利点を損なうことになる。従って、小型電子機器に搭載する小型のDMFCを作製する場合には、上記のような補助部品をできるだけ用いずに発電を安定化する方法が必要ある。
小型の直接メタノール型燃料電池の発電を安定化させる方法の一つとして、メタノールを気体の状態で負極102に供給する方法が提案されている(特許第3413111号公報参照。)。この方法を用いると、メタノールのクロスオーバーを低減することができる。また、固体高分子電解質膜101の膨潤を抑えることができ、膜・電極接合体104を安定化することができる。また、正極103で生成した水を、固体高分子電解質膜101中を逆拡散させて負極102側に送り、負極での反応(1)によって消費される水を供給することによって、正極103上での水の滞留を防止するとともに、固体高分子電解質膜101中の水分の減少を抑制することができる。また、発電に際して発生した熱の一部を、生成した水が蒸発する際の蒸発熱として吸収することで、発電部の過度な温度上昇を防ぐことができる。
この方法によれば、正極103側にブロアやセル冷却装置といった部材を配置することなく、DMFCを構成することができるので、DMFCの小型化に好適である。
さて、メタノールなどの液体燃料を気体の状態で負極に供給する方法としては、燃料タンクに貯蔵されている液体燃料をポンプで気化室に送り、気化室で燃料を自然蒸発させるか、またはヒーター加熱などで強制的に蒸発させる方法がある。また、ポンプを用いずに、燃料タンクの燃料をそのまま自然蒸発させるか、またはヒーター加熱などで強制的に蒸発させる方法もある。
燃料電池をより一層小型化し、より一層高エネルギー密度化するためには、ポンプやヒーターを用いない燃料供給方法、すなわち自然蒸発によって生じた気体状の燃料を負極に供給する方法が最適である。この際、効率よく気体状の燃料を供給するためには、燃料タンクから負極までの燃料ガス通路の長さをできるだけ短縮し、燃料ガス通路の形状をガスが流れやすい形状にする必要がある。
しかしながら、燃料電池を小型化するにつれて、また、燃料ガス通路を短縮しようとするほど、燃料タンクと発電セルとの距離が近くなり、発電セルで発生した熱によって燃料タンクが加熱されやすくなる。
すなわち、燃料タンクが加熱され、燃料の温度が上昇すると、燃料の蒸発が促進される。この結果、必要以上に燃料ガスが負極に供給され、過剰に供給された燃料ガスがクロスオーバーして正極側に侵入する。これによって燃料電池の起電力が低下するだけでなく、正極における燃料の酸化にともなって、余分な熱が発生し、この熱がさらに一層燃料タンクを加熱する。
また、過剰に発生した熱によって発電セルの温度が上昇すると、正極上および固体高分子電解質膜中の水が所定量以上に気化してしまい、固体高分子電解質膜中の水分濃度が減少する。これによって固体高分子電解質膜中の水素イオンの移動が阻害されるだけでなく、水の逆拡散も阻害される。この結果、固体高分子電解質膜の内部抵抗が増大するため、燃料電池の起電力が低下し、発熱はさらに促進される。
このように、発電セルで発生した熱による燃料タンクの加熱には、正のフィードバックが作用するため、発電が不安定化する。この結果、発電できる電力は大きく減少する。この現象は、小型DMFC、特にポンプやヒーターなしに自然蒸発によって燃料ガスを発電セルに供給する小型DMFCの発電の安定化にとって大きな問題点となる。
この事実に加えて、小型DMFC特有の問題点として、電池のエネルギー密度や出力を高めようとすればするほど、非常に狭い電池の表面積に、より多くの電極、より大きな電極を設けなければならないという問題がある。電極は電気エネルギー生成部分であると同時に、熱の発生源でもあることから、熱の問題はより深刻なものとなる。
後述の特許文献1には、燃料タンクと、燃料タンクより導かれた燃料を利用して発電を行う発電セルと、燃料タンクおよび発電セルを覆う筐体を有する燃料電池において、燃料タンク筐体の内側に断熱構造を有することを特徴とする燃料電池が提案され、さらに燃料タンクと発電セルとの間に断熱構造を有する燃料電池も提案されている。
図9は、特許文献1で提案されている燃料電池120における燃料タンク121と発電セル部123との位置関係を示す概略図である。この装置では、燃料タンク121と発電セル部123とが直列に配置され、燃料タンク121は発電セル部123の側面に存在する。燃料タンク121と発電セル部123とは隔壁122によって隔てられている。燃料タンク121には水素吸蔵合金124が充填され、燃料としては水素が用いられる。隔壁122は、断熱材料からなるか、または真空室などの断熱構造を備え、燃料供給部125が設けられている。
特開2004−31096号公報(第8−10頁、図2−4)
特許文献1で提案されている発電セル120では、燃料供給部について全く説明されていない。ただ、図2−4から、隔壁122が多孔質隔壁であるか、または隔壁122に貫通孔などの開口部が設けられているものと推測される。いずれの場合でも、隔壁122が断熱機能と燃料供給機能との両方を担っているため、隔壁122の材料および構造として、それぞれの機能に最適な材料および構造を選択することができない。
また、燃料タンク内部に断熱構造を設けるため、その分タンク内に保持できる燃料量が減少する。また、燃料電池に燃料を供給する際、燃料を燃料タンクに注入するのではなく、燃料の充填された燃料タンクを空の燃料タンクと交換する方式も考えられる。このような場合、燃料タンクはできるだけ安価で取り扱いやすいものであることが望ましい。燃料タンクに断熱構造を設けると、重くなったりコスト高になったりするので避けるべきである。
本発明は、上述したような問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、発電セルで発生する熱によって発電効率が低下したり、発電が不安定化したりするのを防止できる燃料電池を提供することにある。
即ち、本発明は、燃料を貯蔵する燃料容器と、電解質が負極と正極との間に配置された電気化学デバイス部とを有し、気体状の燃料が前記燃料容器から前記電気化学デバイス部へ供給される燃料電池であって、
前記燃料容器と前記電気化学デバイス部との間に断熱性の隔壁が設けられ、
前記燃料容器の壁部に設けられた燃料ガス通気口、及び前記隔壁に備えられた燃料ガ ス通気手段によって、前記電気化学デバイス部への燃料供給量が制御されるように構成 されている、
燃料電池に係るものである。
本発明の燃料電池は、気体状の燃料が前記燃料容器から前記電気化学デバイス部へ供給される燃料電池であって、前記燃料容器と前記電気化学デバイス部との間に断熱性の隔壁が設けられているので、前記電気化学デバイス部で発生した熱が前記燃料容器に伝わり、
過熱された前記燃料容器から必要以上の燃料が前記電気化学デバイス部へ供給されるのを防止することができる。このため、最適化された燃料供給量で前記燃料電池を動作させることができ、高い発電効率を実現することができる。また、前記電気化学デバイス部から前記燃料容器へ伝わる熱によって、前記燃料電池の動作が不安定になるのを防止することができる。
しかも、燃料ガスの流路に、前記燃料容器の壁部に設けられた前記燃料ガス通気口、及び前記隔壁に備えられた前記燃料ガス通気手段を有するので、例えば、前記燃料ガス通気口の開口面積及び形状によって燃料供給量を制御し、前記燃料ガス通気手段において燃料ガスの空間分布を均一化するなど、前記電気化学デバイス部への燃料供給を細やかに制御することができる。
また、特許文献1の燃料電池とは異なり、燃料供給量制御機能を担う前記燃料ガス通気口と断熱機能を担う前記隔壁とが別個に設けられているので、それぞれに最適な材料及び構造を選択することができる。
なお、前記燃料として、メタノールなどの液体燃料が一般的であるが、水素吸蔵合金に吸蔵された水素なども用いることができる。
本発明の燃料電池において、前記燃料ガス通気手段が前記隔壁に設けられた開口部であって、この開口部の大きさが、前記燃料ガス通気口を包含する大きさであるのがよい。このように構成することで、前記燃料ガス通気口の開口面積及び形状によって燃料供給量を制御し、前記燃料ガス通気手段において燃料ガスの空間分布を均一化する際、その効果を高めることができる。
また、前記隔壁が多孔性材料からなり、前記燃料ガス通気手段が前記隔壁に含まれる多数の空孔によって形成されることで、前記燃料ガス通気手段が前記隔壁に含まれるのがよい。前記隔壁の材料として多孔性材料を用いれば、上記と同様の効果を、前記隔壁に含まれる空孔によって実現することができる。
また、前記燃料として液体状の燃料が貯蔵され、前記燃料容器において蒸発して気体状になった燃料が前記電気化学デバイス部へ供給されるのがよい。この際、前記液体状の燃料としてメタノール又はその溶液が用いられるのがよい。前述したように、メタノールは改質器なしに用いることができ、しかもエネルギー密度が大きく、小型携帯機器用の燃料電池に最適な燃料である。
また、前記燃料容器内、又は前記燃料容器から前記隔壁までの燃料ガス流路に、気体を通すが液体を通さない気液分離手段が設けられているのがよい。前記燃料容器の容量を最も有効に利用するためには、液体燃料をそのまま貯蔵するのがよいが、そのためには液体燃料が前記燃料ガス通気口から飛び出すのを防止する手段が必要になる。
また、前記燃料容器から前記電気化学デバイス部までの燃料ガス流路に、燃料ガス濃度を均一化する手段が設けられているのがよい。このようにすると、前記燃料電池の全ての反応領域に同じように燃料ガスを供給し、全反応領域を有効に利用することができる。
以下、本発明の実施の形態に基づく燃料電池として、直接型メタノール燃料電池(DMFC)として構成された例につき、図面を参照しながら説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は、本実施の形態に基づく小型のDMFC10の構成を示す斜視図(a)および断面図(b)である。但し、斜視図(a)では、わかりやすくするため、DMFC10を各部材1〜3に分解して示している。また、断面図(b)は、斜視図(a)に点線で示した位置における断面図である。
DMFC10は、主として、前記燃料貯蔵手段である燃料タンク部1、前記電気化学デバイス部である発電セル部3、および燃料タンク部1と発電セル部3との間に介在する断熱性隔壁2によって構成されている。断熱性隔壁2は、燃料タンク部1と発電セル部3とを熱的に遮断することによって、燃料タンク部1が、発電セル部3において発生する反応熱によって、熱的に影響されるのを防止する。
燃料タンク部1の燃料タンク11内には、液体燃料が貯蔵されている。燃料タンク11の材料は、燃料タンク11内の燃料が周囲の環境から影響を受けるのを防止できる材料を用いるのがよい。また、小型電子機器や小型携帯電子機器に搭載する場合には、ある程度の頑丈さを有し、より軽量で、より周囲に悪影響を与えないものがよい。これらの点から、燃料タンク11の材料としては、ポリプロピレンに代表される、軽量で絶縁性を有するポリマー材料などが好ましく、電気伝導性を有するアルミニウムや磁性を有する鉄などの材料は好ましくない。
断熱性隔壁21と対接する燃料タンク11の壁部には、蒸発して気体状になった燃料ガスを発電セル部3に供給するための通気孔12が設けられている。通気孔12は前記燃料ガス通気口に相当する。単位時間当たりに発電セル部3へ供給される燃料量は、通気孔12の開口面積や形状に依存する。
断熱性隔壁21の材料としては、ポリエチレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリカーボネートなどのプラスチック類、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどのゴム類、ガラス、炭化ケイ素、窒化ケイ素、非晶質炭素、多孔質セラミックス、木材、コルク、紙、陶磁器、またはこれらを組み合わせたものがある。必要とされる強度や断熱性といった物性、加工性といった利便性に合わせて、これらを取捨選択するのがよいが、少なくとも熱伝導性が0.4W/(m・K)以下ものを選ぶのがよい。
また、小型直接メタノール型燃料電池の小型である特長を失わないためには、断熱性隔壁21の厚みをできるだけ小さくするのがよい。例えば、断熱性隔壁21の厚みが、燃料タンク部1と隔壁部2と発電セル部3との厚みの合計の40%以下になるようにするのがよい。
燃料は燃料タンク11で蒸発し、燃料ガスが断熱性隔壁21を通過して、発電セル部3に供給されることから、断熱性隔壁21は燃料ガスを透過させる構造を有している必要がある。図1では、断熱性隔壁21に、前記燃料ガス通気手段である開口部22が設けられている例を示している。開口部22は、通気孔12によって燃料供給量が調節された燃料ガスの空間分布を均一化し、発電セル部3へ供給する。この際、図1に示すように、開口部22の大きさが通気孔12を包含する大きさであるのがよい。このように構成すると、燃料ガスの空間分布を均一化する効果を高めることができる。このように細やかに燃料ガス供給を制御することで、燃料電池の全ての反応領域に同じように燃料ガスを供給し、燃料電池の全反応領域を有効に利用することができる。この開口部22のサイズは、発電セル部3への燃料供給速度に影響を与える。
断熱性隔壁21に燃料ガス透過性をもたせる方法として、断熱性隔壁21の材料として多孔質材料を用いる方法がある。この際、断熱性隔壁21は燃料タンク1と発電セル3との間に存在するため、燃料が断熱性隔壁21から外部に漏れない構造であることが必要である。また、酸素に代表される酸化剤の流入を防ぐ構造であることが必要である。すなわち、側面部分に気密性をもたせる必要があり、断熱性隔壁21の側部に気密性を有する材料を加えるか、もしくは側面に(図示省略した)封止材などで気密性を有する構造を形成する必要がある。
図2(a)は、本実施の形態に基づく別の燃料タンク部1および隔壁部2を示す斜視図であり、図2(b)は点線で示した位置におけるその断面図である。この例では、燃料タンク11の通気孔12と断熱性隔壁21との間に、燃料供給量を抑制もしくは燃料の拡散を向上させるための多孔質材料層23が設けられている。このように構成することで、燃料供給量を制御し、燃料ガスの空間分布を均一化する効果を高めることができる。
図2(c)に示すように、多孔質材料層23を断熱性隔壁21の開口部22に埋め込むように設けてもよい。このようにすると、体積を増加させることなく、多孔質材料層23を設けることができる。ただし、多孔質材料層23の熱伝導度が断熱性隔壁21よりも高い場合、多孔質材料層23を通して発電セル部3で生成した熱が燃料タンク11へと伝熱してしまわないようにすることが重要である。
図3は、本実施の形態に基づくさらに別の燃料タンク部1および隔壁部2の構成を示す断面図である。この例では、液体燃料が通気孔12から飛び出すのを防止する手段として、気液分離性を有する膜13が設けられている。図3(a)は気液分離性を有する膜13を燃料タンク11の内部に設けた例であり、図3(b)は気液分離性を有する膜13を燃料タンク11の外部に設けた例である。
液体燃料を保持する方法としては、液体燃料をそのまま燃料タンク11に注入しておく方法と、液体燃料を吸収しうる材料に燃料を保持させ、そこから燃料を気化させる方法がある。燃料タンク11の容量を最も有効に利用するためには、液体燃料をそのまま注入するのがよいが、そのためには液体燃料が通気孔12から飛び出すのを防止する手段が必要になる。液体燃料をそのまま燃料タンク11に導入した場合、または液体燃料を保持する能力が低い材料に保持させた場合を考えると、例えば、DMFCを傾けて使用したときに液体燃料が燃料タンク11から漏れ出すおそれがあり、これを防止するためには、燃料に対して気液分離性を有する膜13が必要になる。
液体状の燃料としてメタノール又はその溶液が用いられるのがよい。前述したように、メタノールは改質器なしに用いることができ、しかもエネルギー密度が大きく、小型携帯機器用の燃料電池に最適な燃料である。
図4(a)は、発電セル部3の詳細な構成を示す斜視図であり、図4(b)は点線で示した位置におけるその断面図である。発電セル3の中心部には膜・電極接合体34が配置され、この膜・電極接合体34に上下から発電セル筐体35および36が圧着されている。膜・電極接合体34と接触する発電セル筐体35および36の表面には、それぞれ、集電体37および38が設けられている。発電セル筐体35および36は、例えば厚さ1mmのステンレス板からなり、集電体37および38は、例えば、集電能に優れた金めっき層からなる。膜・電極接合体34と発電セル筐体35および36との間は、それぞれ、例えば厚さ0.5mmのシリコンゴムシートからなるガスケット39および40によって密閉されている。
ガスケット39および40の中央部には、それぞれ、大きさ13mm×13mmの開口部43および44が設けられ、発電セル筐体35および36の中央部には、それぞれ、燃料ガスを取り込むための導入孔41、および空気(酸素)を取り込むための導入孔42が設けられている。導入孔41および42の大きさ、形状および配置は、小型DMFC10の電池特性に大きな影響を及ぼす。
すなわち、孔面積を大きくしすぎた場合、燃料ガスおよび空気(酸素)をより多く取り込むことができるが、発電セル筐体35および36を介して負極32および正極33に加えられる圧力が低くなるため、発電セル部3内の導電体同士が接触する領域における接触抵抗が大きくなってしまい、電池の特性の低下を招く可能性がある。逆に、孔面積を小さくしすぎた場合、負極32および正極33に加える圧力を高くすることができ、発電セル部3内の導電体同士の接触抵抗を低減することができるが、燃料ガスおよび空気(酸素)を取り込む能力が低くなり、やはり電池の特性低下を招く可能性がある。本実施の形態では、図4に示すように導入孔41および42を配置する。
図5は、膜・電極接合体(MEA)34の詳細を示す断面図である。膜・電極接合体34は下記のように作製する。まず、カーボンクロス上にPtブラック触媒層を塗布した正極33と、カーボンクロス上にPt−Ru系触媒層を塗布した負極32とで、固体高分子電解質膜31を挟持する。この際、触媒層が固体高分子電解質膜31に接するように配置する。各触媒は、公知のプロセス(R.Ramakumar et al.,J.Power Sources 69,75(1997))に基づいて合成し、固体高分子電解質膜31としては、例えば、ナフィオン117(登録通称;デュポン社製)を用いる。これらを、例えば、150℃で5分間、150kg/cm2の圧力でホットプレスして接合することで、膜・電極接合体34を作製する。
以下、実施の形態で図1に示した燃料電池10を作製し、特性を調べた実施例について説明する。但し、本発明が下記の実施例に限られるものではないことは言うまでもない。
<燃料電池の作製>
作製した燃料電池10の燃料タンク部1、隔壁部2、および発電セル部3の主要部の大きさは、例えば、縦19mm×横19mmである。燃料タンク11の構成材料として、厚さ1mmのポリプロピレン板を箱状に加工したものを用いた。断熱性隔壁21として熱伝導率が0.2〜0.4W/(m・K)である厚み1mmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)板を使用した。
膜・電極接合体34は、まず、カーボンクロス上にPtブラック触媒層を塗布した、大きさ13mm×13mmの正極33と、カーボンクロス上にPt−Ru系触媒層を塗布した、大きさ13mm×13mmの負極32とを形成した。次に、触媒層が固体高分子電解質膜31に接するようにして、正極33と負極32でナフィオン117からなる固体高分子電解質膜31を挟持した。次に、これらを、150℃で5分間、150kg/cm2の圧力でホットプレスして接合し、膜・電極接合体34を作製する。この膜・電極接合体34に上下から、厚さ1mmのステンレス板からなる発電セル筐体35および36を圧着した。膜・電極接合体34と発電セル筐体35および36との間は、それぞれ、厚さ0.5mmのシリコンゴムシートからなるガスケット39および40によって密閉した。
燃料タンク部1と発電セル部3との間に隔壁部2を介在させなかったこと以外は上記の実施例と同様にしてDMFCを作製し、これを比較例とした。
<直接メタノール型燃料電池の特性>
実施例と比較例のDMFCについて発電特性を比較することで、隔壁部2の断熱性がもたらす効果について検討を行った。以下に発電試験結果を示す。なお、測定は定電流出力下で行い、100mA/cm2下で250秒、120mA/cm2下で250秒、150mA/cm2下で200秒と、発電環境を段階的かつ連続的に変化させたときの燃料電池の起電力および燃料タンク11および発電セル部3の温度を読み取った。また燃料としては80wt%のメタノール水溶液を用いた。
図6(a)は、実施例および比較例の小型DMFCにおける発電時の発電セルの温度の時間変化を示し、図6(b)は発電時の燃料タンクの温度の時間変化を示す。これらから、実施例のDMFCの方が比較例のDMFCに比べて発電セル部3の温度が低く、安定化していることが明らかである。比較例の方が、発電セル2で生成した熱が燃料タンクに移動する分、発電セル2の温度が下がることが予想されたが、発電セル2の温度は、実施例と比較して逆に上昇した。これは燃料タンクの温度が上昇した影響で燃料の揮発量が増大し、クロスオーバーする燃料が増え、発熱がより促進されてしまったことが原因である。この影響は起電力の測定結果にも表れている。
図7は、実施例および比較例の小型DMFCにおける起電力の時間依存性を示す。比較例においては、起電力は発電当初は増大がみられるものの時間と共に低下し、150mA/cm2の定電流下では、途中からもはや発電できなくなっていることがわかる。これは時間の経過と共に発電セル2と燃料タンク1の温度が上昇し、燃料の揮発量が増大することでクロスオーバーが促進され、発電セル2の発電と熱環境がより不安定化されてしまったことに起因している。しかしながら実施例の場合、起電力、すなわち発電は長時間安定していることがわかる。
これらの起電力測定および温度測定結果から、断熱性隔壁21を導入して燃料タンク11と発電セル部3とを熱的に断絶することによって、小型DMFCの発電および熱環境を安定化させることができることが明らかになった。
以上、実施の形態および実施例に基づいて説明したように、本発明の実施の形態に基づく燃料電池は、気体状の燃料が燃料タンク11から発電セル部3へ供給される燃料電池であって、燃料タンク11と発電セル部3との間に断熱性の隔壁21が設けられているので、発電セル部3で発生した熱が燃料タンク11に伝わり、この結果、過熱された燃料タンク11から必要以上の燃料が発電セル部3へ供給されるのを防止することができる。このため、最適化された燃料供給量で燃料電池を動作させることができ、高い発電効率を実現することができる。また、発電セル部3から燃料タンク11へ伝わる熱によって、燃料電池の動作が不安定になるのを防止することができる。
しかも、燃料ガスの流路に、燃料タンク11の壁部に設けられた通気孔12、及び断熱性の隔壁21に設けられた開口部22を有するので、例えば、通気孔12の開口面積及び形状によって燃料供給量を制御し、開口部22において燃料ガスの空間分布を均一化するなど、発電セル部3への燃料供給を細やかに制御することができる。
また、特許文献1の燃料電池とは異なり、燃料供給量制御機能を担う通気孔12と断熱機能を担う断熱性隔壁21とが別個に設けられているので、それぞれに最適な材料及び構造を選択することができる。また、特許文献1の燃料電池では、燃料タンク内部に断熱構造を設けるため、その分タンク内に保持できる燃料量が減少する。これは高エネルギー密度であるという直接型メタノール燃料電池の特長を損なうことになる。これに対し、本実施の形態に基づく燃料電池では、断熱手段の配置を必要最小限に抑えることによって、断熱手段の体積を最小限に抑え、高エネルギー密度であるという直接型メタノール燃料電池の特長を損なうことがない。
以上、本発明を実施の形態および実施例に基づいて説明したが、上述の例は、本発明の技術的思想に基づき種々に変形が可能であることは言うまでもない。
例えば、実施例では燃料としてメタノール水溶液を用いたが、液体燃料はこれに限るものではない。また、実施の形態では一つの膜・電極接合体を組み込んだ発電セルを説明したが、本発明はこれに限らず、複数個の膜・電極接合体を電気的に並列または直列に接続した発電セルについても有効である。
本発明の実施の形態に基づくDMFCの構成を示す斜視図(a)および断面図(b)である。
同、別の燃料タンク部および隔壁部を示す斜視図(a)、その断面図(b)、および他の例の断面図(c)である。
同、さらに別の燃料タンク部および隔壁部の構成を示す断面図である。
同、発電セル部の構成を示す斜視図(a)および断面図(b)である。
同、膜・電極接合体(MEA)の詳細を示す断面図である。
本発明の実施例および比較例のDMFCにおける、発電時の発電セル部の温度の時間変化(a)、および発電時の燃料タンク温度の時間変化(b)を示すグラフである。
同、DMFCにおける起電力の時間変化を示すグラフである。
DMFCの発電セルの構成の一例を示す概略断面図である。
特許文献1で提案されている燃料電池の構成を示す断面図である。
符号の説明
1…燃料タンク部、2…隔壁部、3…発電セル部、
10…直接メタノール型燃料電池(DMFC)、11…燃料タンク、12…通気孔、
13…気液分離性を有する膜、14…液体燃料(メタノールなど)、21…断熱性隔壁、
22…開口部、23…多孔質材料層、31…固体高分子電解質膜、32…負極、
33…正極、34…膜・電極接合体(MEA)、35、36…発電セル筐体、
37、38…集電体、39、40…ガスケット、41、42…導入口、
43、44…開口部、100…発電セル、101…固体高分子電解質膜、102…負極、
103…正極、104…膜・電極接合体(MEA)、105、106…ガス供給部、
107…セル下半部、108…セル上半部、109、110…ガス供給管、
111…外部回路、120…燃料電池、121…燃料タンク、122…隔壁、
123…発電セル部、124…水素吸蔵合金、125…燃料供給部