以下に、本願発明を具体化した実施形態を、作業車両の一例としてのトラクタに適用した場合の図面に基づいて説明する。なお、図2では便宜上、キャビンの図示を省略している。
(1).トラクタの概要
まず始めに、図1及び図2を参照しながら、トラクタの概要について説明する。
第1実施形態におけるトラクタ1の走行機体2は、走行部としての左右一対の前車輪3と同じく左右一対の後車輪4とで支持されている。走行機体2の前部に搭載したディーゼルエンジン5(以下、単にエンジンという)にて後車輪4及び前車輪3を駆動することにより、トラクタ1は前後進走行するように構成されている。エンジン5はボンネット6にて覆われている。
走行機体2の上面にはキャビン7が設置され、該キャビン7の内部には、操縦座席8と、かじ取りすることによって前車輪3の操向方向を左右に動かすようにした操縦ハンドル9とが配置されている。キャビン7の底部より下側には、エンジン5に燃料を供給する燃料タンク11が設けられている。
キャビン7内の操縦ハンドル9は、操縦座席8の前方に立設されたステアリングコラム25上に設けられている。ステアリングコラム25の上面には、トラクタ1の各種情報を示す計器盤26が配置されている。計器盤26の下部には、表示手段としての液晶モニタ124(図6及び図12参照)が設けられている。ステアリングコラム25の右側には、エンジン5の出力回転数を設定保持するスロットルレバー30と、左右後車輪4を制動操作するための左右一対のブレーキペダル31とが配置されている。ステアリングコラム25の左側には、走行機体2の進行方向を前進と後進とに切り換え操作するための前後進切換レバー32と、メインクラッチ(図示省略)を切り作動させるためのクラッチペダル33とが配置されている。ステアリングコラム25の背面側には、左右ブレーキペダル31を踏み込み位置に保持するための駐車ブレーキレバー34が配置されている。
キャビン7内の床板28のうちステアリングコラム25の右側には、スロットルレバー30にて設定されたエンジン回転数を最低回転数として、これ以上の範囲にてエンジン回転数を増減速させるアクセル操作手段としてのアクセルペダル35が配置されている。
操縦座席8の左側には、後述するミッションケース17からの出力範囲を低速(作業モード)と高速(走行モード)とに切り換えるモード切換手段としての副変速レバー40と、後述するPTO軸23の駆動速度を切り換え操作するためのPTO変速レバー36とが配置されている。ここで、副変速レバー40にて選択されるモードのうち作業モードは農作業時等の低速走行に適したモードである。走行モードは路上走行時等の高速走行に適したモードである。なお、モード切換手段はレバー式に限らず、スイッチ式でもよい。
操縦座席8の右側には、変速操作用の主変速レバー38と、後述するフロントローダ51操作用のローダレバー41と、後述するロータリ耕耘機15の高さ位置を手動で変更調節するための耕耘操作レバー39とが配置されている。操縦座席8の下方には、左右の後車輪4を等速で回転駆動させる操作を実行するためのデフロックペダル37が配置されている。
実施形態のスロットルレバー30、前後進切換レバー32、アクセルペダル35、副変速レバー40及び主変速レバー38は、走行機体2の走行操作に関連する走行系操作手段に相当する。また、PTO変速レバー36、ローダレバー41及び耕耘操作レバー39は、フロントローダ51やロータリ耕耘機39の駆動操作に関連する作業機系操作手段に相当する。
一方、走行機体2は、フロントバンパ12及び前車軸ケース13を有するエンジンフレーム14と、エンジンフレーム14の後部にボルトにて着脱自在に固定する左右の機体フレーム16とにより構成されている。機体フレーム16の後部には、エンジン5からの回転動力を適宜変速して前後四輪3,3,4,4に伝達するミッションケース17が搭載されている。後車輪4は、ミッションケース17の外側面から外向きに突出するように装着された後車軸ケース18を介して、ミッションケース17に取り付けられている。左右の後車輪4の上方は、機体フレーム16に固定されたフェンダ19にて覆われている。
ミッションケース17の後部上面には、リヤ作業機としてのロータリ耕耘機15を昇降動させるための油圧式昇降機構20が着脱可能に取り付けられている。ロータリ耕耘機15は、ミッションケース17の後部に、一対の左右ロワーリンク21及びトップリンク22からなる3点リンク機構を介して連結されている。ミッションケース17の後側面には、ロータリ耕耘機15にPTO駆動力を伝達するためのPTO軸23が後ろ向きに突設されている。
油圧式昇降機構20には、単動形の昇降制御油圧シリンダ45(図3参照)にて上下回動可能な一対の左右リヤアーム46が設置されている。進行方向に向かって左側のロワーリンク21とリヤアーム46とは、左リフトロッド47を介して連結されている。進行方向に向かって右側のロワーリンク21とリヤアーム46とは、右リフトロッドとしての複動形の傾斜制御油圧シリンダ48及びそのピストンロッド49を介して連結されている。
この場合、操縦座席8の右側方にある耕耘操作レバー39の手動操作にて、昇降制御油圧シリンダ45を伸縮駆動させることにより、左右リヤアーム46が昇降回動する結果、左右ロワーリンク21を介してロータリ耕耘機15が昇降動することになる。
走行機体2の前部にはフロント作業機としてのフロントローダ51を備えている。フロントローダ51は、ボンネット6を挟んで左右両側に配置されたローダポスト52と、各ローダポスト52の上端に上下揺動可能に連結された左右一対のリフトアーム53と、両リフトアーム53の先端部に上下揺動可能に連結されたバケット54とを有している。
左右のローダポスト52はそれぞれ、機体フレーム16の前後中途部から左右外向きに突設されたポスト支持部材55に立設されている。左右いずれか一方のローダポスト52とこれに対応したリフトアーム53との間には、リフトアーム53を上下揺動させるためのリフトシリンダ56が設けられている。両リフトアーム53の長手中途部間をつなぐ横フレーム57とバケット54との間には、バケット54を上下揺動させるためのバケットシリンダ58が設けられている。
この場合、操縦座席16の右側方にあるローダレバー41の操作にて、リフトシリンダ56やバケットシリンダ58を伸縮駆動させることにより、両リフトアーム53やバケット54が上下揺動することになる。なお、ロータリ耕耘機15の使用時において、フロントローダ51は使用することがないので取り外される。
(2).トラクタの油圧回路構造
次に、図3を参照しながらトラクタの油圧回路構造について説明する。
トラクタ1の油圧回路60は、エンジン5の回転動力にて駆動する油圧供給装置としての作業機用油圧ポンプ61と、油圧式昇降機構20内にある昇降制御油圧シリンダ45及び傾斜制御油圧シリンダ48とを備えている。作業機用油圧ポンプ61は、油圧アクチュエータとしての昇降制御油圧シリンダ45、傾斜制御油圧シリンダ48、リフトシリンダ56及びバケットシリンダ58に作動油を供給するためのものである。この場合、ミッションケース17が作動油タンクとしても機能していて、ミッションケース17内の作動油が作業機用油圧ポンプ61に供給されることになる。
作業機用油圧ポンプ61の吸引側は、作動油タンクとしてのミッションケース17内に配置されたストレーナ62に接続されている。作業機用油圧ポンプ61の吐出側は、昇降制御油圧シリンダ45への作動油の供給を制御するための上昇油圧電磁弁63及び下降油圧電磁弁64と、傾斜制御油圧シリンダ48に作動油を供給制御するための傾斜制御電磁弁65とに、第1分流弁66を介して接続されている。
上昇油圧電磁弁63と下降油圧電磁弁64とは、耕耘操作レバー39の手動操作量や後述するリフト角センサ120等の検出情報に対応した電磁ソレノイドの駆動によって、自動的に切換作動するように構成されている。傾斜制御電磁弁65は、油圧式昇降機構20の上面に配置されたローリングセンサ(図示省略)及び作業機ポジションセンサ(図示省略)の検出情報に対応した電磁ソレノイドの駆動にて、自動的に切換作動するように構成されている。
耕耘操作レバー39の手動操作量やリフト角センサ120等の検出情報に対応して上昇又は下降油圧電磁弁63,64が自動的に切換作動すると、昇降制御油圧シリンダ45が伸縮駆動して、左右リヤアーム46を昇降回動させる。その結果、左右ロワーリンク21を介してロータリ耕耘機15が昇降動することになる。
また、ローリングセンサ及び作業機ポジションセンサの検出情報に基づいて傾斜制御電磁弁65が自動的に切換作動すると、傾斜制御油圧シリンダ48が伸縮駆動して、ピストンロッド49の長さが変化する。その結果、左右ロワーリンク21を介してロータリ耕耘機15が左右に傾斜することになる。
第1分流弁66と上昇油圧電磁弁63との間の油路中には、第2分流弁67が設けられている。第2分流弁67には、油圧カプラ68を介してローダ用油圧回路70が接続される。ローダ用油圧回路70は、フロントローダ51用のリフトシリンダ56及びバケットシリンダ58を備えている。実施形態では、油圧カプラ68の吐出側が、リフトシリンダ56への作動油の供給を制御するためのリフト制御電磁弁71と、バケットシリンダ58への作動油の供給を制御するためのバケット制御電磁弁72とに分岐して接続されている。
リフト制御電磁弁71は、ローダレバー41の前後傾動操作に対応した電磁ソレノイドの駆動によって、自動的に切換作動するように構成されている。また、バケット制御電磁弁72は、ローダレバー41の左右傾動操作に対応した電磁ソレノイドの駆動によって、自動的に切換作動するように構成されている。
ローダレバー41の前後傾動操作に対応してリフト制御電磁弁71が自動的に切換作動すると、リフトシリンダ56が伸縮駆動して左右リフトアーム53を昇降回動させる結果、バケット54が昇降動することになる。また、ローダレバー41の左右傾動操作に対応してバケット制御電磁弁72が自動的に切換作動すると、バケットシリンダ58が伸縮駆動して、バケット54を上向き回動させて土等を掬うチルト動作を実行したり、バケット54を下向き回動させて土等を落とすダンプ動作を実行したりすることになる。なお、油圧回路60及びローダ用油圧回路70には、リリーフ弁や流量調整弁、チェック弁等も備えている。
(3).エンジン及びその周辺の構造
次に、図4〜図6を参照しながら、エンジン及びその周辺の構造について説明する。
実施形態におけるトラクタ1のエンジン5は、上面にシリンダヘッド74が締結されたシリンダブロック(図示省略)を備えており、シリンダヘッド74の一側面に排気マニホールド75が接続されている。排気マニホールド75の先端側に接続された排気管76には、後処理装置としてのパティキュレートフィルタ77(以下、DPFという)及びNOx触媒78が設けられている。エンジン5の各気筒から排気マニホールド75に排出された排気ガスは、DPF77及びNOx触媒78を経由して浄化処理をされたのち外部に放出される。
DPF77は排気ガス中の粒子状物質(PM)等を捕集するためのものである。詳細は図示していないが、実施形態のDPF77は、耐熱金属材料製のケーシング内にある略筒型のフィルタケースに、例えば白金等の酸化触媒とハニカム構造体とを直列に並べて収容した構造になっている。
NOx触媒78は、排気ガス中の窒素酸化物(NOx)を還元して無害化するためのものであり、実施形態のNOx触媒78としては、尿素水を還元剤とした選択接触還元触媒を採用している。この場合、排気管76のうちDPF77とNOx触媒78との間には、尿素水溶液を噴射するための尿素供給装置79が接続されている。
図4に示すように、エンジン5には、燃料供給手段としてのコモンレール式燃料噴射装置80が関連付けられている。コモンレール式燃料噴射装置80は、エンジン5の各気筒に高圧燃料を噴射する複数のインジェクタ81(燃料噴射弁)と、高圧燃料を蓄圧して各インジェクタ81に分配するコモンレール82(蓄圧室)と、燃料タンク11から燃料フィルタ84を介して吸入した燃料を高圧に加圧してからコモンレール82に圧送するサプライポンプ83とを備えている。
各インジェクタ81は個別の高圧配管85を介してコモンレール82に接続されており、後述するエンジンコントローラ102の指令にて開き作動している間、コモンレール82から圧送された高圧燃料を各気筒の燃焼室に向けて噴射するように構成されている。コモンレール82には、その内圧(コモンレール82内の燃料圧力)を検出する圧力センサ86が取り付けられている。
サプライポンプ83は、エンジン5の回転動力にて駆動するように構成されていて、コモンレール82への燃料圧送量を調節するための圧力制御電磁弁87を有している。圧力制御電磁弁87は、エンジンコントローラ102の指令にてサプライポンプ83から燃料タンク11への燃料戻し量を増減させることによって、コモンレール82への燃料圧送量を調節してコモンレール内圧を制御するように構成されている。各インジェクタ81からの高圧燃料の噴射圧はコモンレール内圧に略等しい。このため、圧力制御電磁弁87によるコモンレール内圧の制御にて、間接的に各インジェクタ81の噴射圧が制御されることになる。
各インジェクタ81、コモンレール82及びサプライポンプ83は戻し配管88を介して燃料タンク11に接続されている。コモンレール82と戻し配管88との間には、コモンレール内圧が必要以上に高まるのを防止するための圧力リミッタ弁89が設けられている。サプライポンプ83と戻し配管88との間に前述の圧力制御電磁弁87が設けられている。各インジェクタ81、コモンレール82及びサプライポンプ83での余剰燃料は、戻し配管88を通じて燃料タンク11に戻されることになる。
図5に示すように、コモンレール式燃料噴射装置80は、上死点(TDC)を挟む付近でメイン噴射Aを実行するように構成されている。また、コモンレール式燃料噴射装置80は、メイン噴射A以外に、上死点より約60°だけ以前のクランク角度θ1の時期に、NOx及び騒音の低減を目的として少量のパイロット噴射Bを実行したり、上死点直前のクランク角度θ2の時期に、騒音低減を目的としてプレ噴射Cを実行したり、上死点後のクランク角度θ3及びθ4の時期に、粒子状物質の低減や排気ガスの浄化促進を目的としてアフタ噴射D及びポスト噴射Eを実行したりするように構成されている。
(4).トラクタの作動全般を制御するための構成
次に、図6を参照しながら、トラクタの作動全般を制御するための構成について説明する。
トラクタ1には、制御手段としての本機コントローラ100、作業機コントローラ101及びエンジンコントローラ102(エンジン制御手段)が搭載されている。当該コントローラ100〜102は、トラクタ1の作動全般を制御すると共に、後述する燃料噴射制御やモード切換制御、液晶モニタ124の表示制御等を実行するものである。これらコントローラ100〜102は、各種演算処理や制御を実行するCPU100a〜102aの他、制御プログラムやデータを記憶させる記憶手段としてのPROM100b〜102b、制御プログラムやデータを一時的に記憶させるためのRAM100c〜102c、及び入出力インターフェイス等を備えている。本機コントローラ100と作業機コントローラ101とエンジンコントローラ102とは、互いにCAN通信バス99を介して電気的に接続されている。
本機コントローラ100は、電源印加用のキースイッチ108を介してバッテリ109に接続されている。キースイッチ108は、エンジン5を始動させるためのスタータ110にも本機コントローラ100を介して接続可能に構成されている。
本機コントローラ100には、入出力系機器として、主変速レバー38の操作位置を検出する主変速ポテンショ111、前後進切換レバー32の操作位置を検出する前後進ポテンショ112、前後車輪3,4の回転速度(走行速度)を検出する車速センサ113、駐車ブレーキレバー34の入り切り状態を検出する駐車ブレーキセンサ114、副変速レバー40の操作位置を検出する副変速センサ115、PTO変速レバー36の操作位置を検出するPTOレバーセンサ122、後述する診断モードを起動させるためのモード切換スイッチ123、及び、表示手段としての液晶モニタ124等が接続されている。
作業機コントローラ101には、入力系機器として、ローダレバー41の操作位置を検出するローダレバーセンサ116、左右リフトアーム53の上下揺動角度を検出するリフトセンサ117、バケット54の上下揺動角度を検出するバケットセンサ118、耕耘操作レバー39の操作位置を検出する耕耘レバーセンサ119、左右リヤアーム46の回動角度を検出するリフト角センサ120、ロータリ耕耘機15を所定高さまで強制的に昇降操作するための自動昇降スイッチ121等が接続されている。
また、作業機コントローラ100には、出力系機器として、昇降制御油圧シリンダ45に作動油を供給制御するための上昇油圧電磁弁63及び下降油圧電磁弁64、傾斜制御油圧シリンダ48に作動油を供給制御するための傾斜制御電磁弁65、リフトシリンダ56に作動油を供給制御するためのリフト制御電磁弁71、及び、バケットシリンダ58に作動油を供給制御するためのバケット制御電磁弁72等が接続されている。
エンジンコントローラ102は、エンジン5の駆動状態に応じた適切なコモンレール内圧となるように、圧力センサ86の検出情報に基づき圧力制御電磁弁87を作動させると共に、エンジン5の駆動状態に応じた適切な噴射タイミング及び噴射量となるように、各インジェクタ81を開閉作動させるという燃料噴射制御を実行するものである。
エンジンコントローラ102には、コモンレール式燃料噴射装置80を構成する各インジェクタ81、コモンレール内圧を検出する圧力センサ86、コモンレール82への燃料圧送量を調節するための圧力制御電磁弁87、エンジン回転数を検出する回転数検出手段としてのエンジン回転センサ103、アクセルペダル35の踏み込み量を検出するアクセルセンサ104、及びスロットルレバー30の操作位置を検出するスロットルポテンショ105等が接続されている。
走行機体2が停止した状態では原則として、エンジンコントローラ102は、エンジン回転センサ103にて検出された実際のエンジン回転数が予め設定されたアイドリング回転数と一致するように、各インジェクタ81からの高圧燃料の噴射圧、噴射タイミング及び噴射量(以下、目標噴射パターンという)をフィードバック制御している。また、停止状態以外では、エンジンコントローラ102は、実際のエンジン回転数がスロットルレバー30の操作位置(スロットルポテンショ105の検出情報)に対応した基準回転数と一致するように、目標噴射パターンをフィードバック制御している。
ここで、図示を省略しているが、エンジン回転数と目標噴射パターンとの関係は、例えばマップ形式又は関数表形式にて、エンジンコントローラ102(例えばPROM102b等)に予め記憶されている。なお、これらの関係は本機コントローラ100や作業機コントローラ101に予め記憶させてもよい。
実施形態では、エンジンコントローラ102が、各インジェクタ81の開度及び開き時間、並びに圧力センサ86にて検出される噴射圧に基づいて、コモンレール式燃料噴射装置80の噴射量(インジェクタ81全体の噴射量)を算出するように構成されている。すなわち、エンジンコントローラ102が、コモンレール式燃料噴射装置80の噴射量を検出する噴射量検出手段としての役割を担っている。
(5).燃料噴射制御の説明
次に、図7〜図9に示すフローチャートを参照しながら、燃料噴射制御の一例について説明する。
実施形態のエンジンコントローラ102は、燃料噴射制御の一例として、アクセルペダル35を踏み込み操作した場合に、副変速レバー40にて選択されたモードと走行機体2の状態とに応じて、コモンレール式燃料噴射装置80でのメイン噴射の噴射速さを切り換える噴射速さ切換制御を実行するように構成されている。
図7に示すフローチャートを用いて、噴射速さ切換制御の流れを説明する。この場合は、走行機体2の前部にフロントローダ51が装着されていて、ロータリ耕耘機15は取り外されているものとする。まず、噴射速さ切換制御のスタートに続いて、エンジン回転センサ103の検出値、コモンレール82における圧力センサ86の検出値、アクセルペダル35の操作量に相当するアクセルセンサ104の検出値、及び、副変速センサ115の検出値を読み込む(ステップS1)。
次いで、アクセルセンサ104の検出値から、オペレータがアクセルペダル35を踏み込み操作しているか否かを判別する(ステップS2)。アクセルペダル35を踏み込み操作していなければ(S2:NO)そのままリターンする。アクセルペダル35を踏み込み操作していれば(S2:YES)、ステップS1にて読み込まれた各検出値と、エンジンコントローラ102に予め記憶されたマップ又は関数表とに基づいて、アクセルペダル35の操作量に対応した目標エンジン回転数と、目標エンジン回転数に対応したメイン噴射での各インジェクタ81の目標噴射量とを演算する(ステップS3)。
次いで、副変速センサ115の検出値から、副変速レバー40にて選択されたモードが作業モードか走行モードかを判別する(ステップS4)。走行モードを選択しているときは(S4:走行)、ステップS3にて演算された目標噴射量分の高圧燃料を、メイン噴射の際に各インジェクタ81から適宜時間をかけて噴射させ、エンジン回転数を目標エンジン回転数にまで徐々に上昇させる(ステップS5)。
副変速レバー40にて作業モードを選択しているときは(S4:作業)、次いで、前後進ポテンショ112の検出値、車速センサ113の検出値、及び駐車ブレーキセンサ114の検出値を読み込み(ステップS6)、これら検出値から走行機体2が停止状態か否かを判別する(ステップS7)。
走行機体2が停止状態でなければ(S7:NO)、前述のステップS5へ移行して、エンジン回転数を目標エンジン回転数にまで徐々に上昇させる。走行機体2が停止状態であれば(S7:YES)、ステップS3にて演算された目標噴射量分の高圧燃料を、メイン噴射の際に各インジェクタ81から極めて短い時間で一挙に噴射させ、エンジン回転数を目標エンジン回転数にまで瞬時に上昇させるのである(ステップS8)。
作業モードにおいて、走行機体2を停止させてアクセルペダル35を踏み込み操作するときというのは通常、オペレータがフロントローダ51を上昇動させるためにエンジン出力を高めたいときである。かかる状況では、ステップS8に示すように、メイン噴射の噴射量を瞬時に増量させ、エンジン回転数を目標エンジン回転数にまで瞬時に上昇させるから、エンジン5の回転動力にて駆動する作業機用油圧ポンプ61の作動油吐出量を素早く且つ十分に確保することが可能になる。このため、その後にローダレバー41の操作にてフロントローダ51を上昇動させる際の作動応答性が確実且つ迅速になる結果、作業能率の向上に貢献できる。
また、作業モードで且つ走行機体2が停止した状態を除いた場合において、アクセルペダル35を踏み込み操作したときは、ステップS7に示すように、適宜時間をかけてメイン噴射の噴射量を増量させ、エンジン回転数を目標エンジン回転数にまで徐々に上昇させるから、例えば路上走行時等に、アクセルペダル35を急激に踏み込み操作したりしても、エンジン回転数が急激に変化することはない。このため、走行機体2の急激な速度変化(急発進・急加速)を回避して、安全性を確保できると共に、操作感覚や乗り心地を向上できる。
ところで、実施形態のエンジンコントローラ102は、燃料噴射制御の別例として、走行機体2の後部に装着されたロータリ耕耘機15の自動昇降に連動しながら、コモンレール式燃料噴射装置80でのメイン噴射の噴射量を増減する昇降連動制御を実行するように構成されている。ここで、後述する設定回転数は、スロットルレバー30の操作位置に対応した基準回転数とアイドリング回転数との間の値(例えば1500rpm程度)に設定されていて、エンジンコントローラ102等に予め記憶されている。
図8に示すフローチャートを用いて、昇降連動制御の流れを説明する。この場合は、走行機体2の後部にロータリ耕耘機15が装着されていて、フロントローダ51は取り外されているものとする。まず、昇降連動制御のスタートに続いて、エンジン回転センサ103の検出値、コモンレール82における圧力センサ86の検出値、エンジンコントローラ102に予め記憶された設定回転数、及び、副変速センサ115の検出値を読み込み(ステップS9)、副変速センサ115の検出値から、副変速レバー40にて選択されたモードが作業モードか走行モードかを判別する(ステップS10)。
走行モードを選択しているときは(S10:走行)、トラクタが耕耘作業を行っていないことを意味するので、そのままリターンする。作業モードを選択しているときは(S10:作業)、次いで、自動昇降スイッチ121を上昇操作したか否かを判別する(ステップS11)。
自動昇降スイッチ121を上昇操作するときとは、例えば耕耘作業中のトラクタ1が圃場の枕地付近に到達して180°方向転換をしようとするときである。自動昇降スイッチ121を上昇操作していなければ(S11:NO)リターンする。自動昇降スイッチ121を上昇操作していれば(S11:YES)、上昇油圧電磁弁63の切換作動にて昇降制御油圧シリンダ45を短縮駆動させ、ロータリ耕耘機15を所定の高さまで強制的に上昇させる(ステップS12)。
それから、ステップS9にて読み込まれた設定回転数と、エンジンコントローラ102に予め記憶されたマップ又は関数表とに基づいて、設定回転数に対応したメイン噴射での各インジェクタ81の減量噴射量とを演算し(ステップS13)、減量噴射量分の高圧燃料を、メイン噴射の際に各インジェクタ81から極めて短い時間で一挙に噴射させ、エンジン回転数を設定回転数にまで瞬時に下降させる(ステップS14)。
次いで、自動昇降スイッチ121を下降操作したか否かを判別する(ステップS15)。自動昇降スイッチ121を下降操作するときとは、例えば枕地付近のトラクタ1が180°方向転換を終えて前進しようとするときである。自動昇降スイッチ121を下降操作していなければ(S15:NO)リターンする。自動昇降スイッチ121を下降操作していれば(S15:YES)、下降油圧電磁弁64の切換作動にて昇降制御油圧シリンダ45を伸長駆動させ、ロータリ耕耘機15を元の耕耘高さまで強制的に下降させる(ステップS16)。
次いで、ステップS9にて読み込まれた元(上昇動前)のエンジン回転数と、エンジンコントローラ102に予め記憶されたマップ又は関数表とに基づいて、元のエンジン回転数に対応したメイン噴射での各インジェクタ81の増量噴射量とを演算し(ステップS17)、増量噴射量分の高圧燃料を、メイン噴射の際に各インジェクタ81から極めて短い時間で一挙に噴射させ、エンジン回転数を上昇動前の回転数にまで瞬時に上昇させるのである(ステップS18)。
以上の制御によると、作業モードの実行中にロータリ耕耘機15が上昇動した後は、メイン噴射の噴射量を瞬時に減量させ、エンジン回転数を設定回転数にまで瞬時に下降させるから、例えば走行機体2が圃場の枕地付近に到達して180°方向転換をしようとするときに、走行機体2の車速を素早く減速できる。従って、方向転換時の安全性を確保しながら、走行機体2の方向転換操作を簡略化でき、オペレータの操作負担を軽減できる。また、メイン噴射の噴射量の減少はロータリ耕耘機15を上昇動させた後に行うので、作業機用油圧ポンプ61における作動油吐出量の確保に支障はなく、エンジンストールも抑制できる。
更に、作業モードの実行中に、一旦上昇動したロータリ耕耘機15が下降動するときは、メイン噴射の噴射量を瞬時に増量させ、エンジン回転数を、上昇動前のエンジン回転数に瞬時に戻すから、例えば枕地付近の走行機体2が180°方向転換を終えて前進しようとするときに、走行機体2の車速を素早く元に戻せる。従って、方向転換後に引き続いての耕耘作業にスムーズに移行でき、トラクタ1を往復動させる耕耘作業を効率よく実行できるのである。
図9のフローチャートは噴射量増減制御のもう一つの例である。この場合のエンジンコントローラ102は、走行機体2の前後進を切り換える際のロータリ耕耘機15の自動昇降に連動しながら、コモンレール式燃料噴射装置80でのメイン噴射の噴射量を増減するバック昇降連動制御を実行するように構成されている。この場合も、設定回転数は、スロットルレバー30の操作位置に対応した基準回転数とアイドリング回転数との間の値(例えば1500rpm程度)に設定されていて、エンジンコントローラ102等に予め記憶されている。
図9のフローチャートに示すように、まずはバック昇降連動制御のスタートに続いて、エンジン回転センサ103の検出値、コモンレール82における圧力センサ86の検出値、エンジンコントローラ102に予め記憶された設定回転数、及び、副変速センサ115の検出値を読み込み(ステップS19)、副変速センサ115の検出値から、副変速レバー40にて選択されたモードが作業モードか走行モードかを判別する(ステップS20)。
走行モードを選択しているときは(S20:走行)、トラクタが耕耘作業を行っていないことを意味するので、そのままリターンする。作業モードを選択しているときは(S20:作業)、次いで、前後進ポテンショ112の検出情報に基づいて前後進切換レバー32を後進操作したか否かを判別する(ステップS21)。
前後進切換レバー32を後進操作していなければ(S21:NO)リターンする。前後進切換レバー32を後進操作していれば(S21:YES)、上昇油圧電磁弁63の切換作動にて昇降制御油圧シリンダ45を短縮駆動させ、ロータリ耕耘機15を所定高さまで強制的に上昇させる(ステップS22)。
それから、ステップS19にて読み込まれた設定回転数と、エンジンコントローラ102に予め記憶されたマップ又は関数表とに基づいて、設定回転数に対応したメイン噴射での各インジェクタ81の減量噴射量とを演算し(ステップS23)、減量噴射量分の高圧燃料を、メイン噴射の際に各インジェクタ81から極めて短い時間で一挙に噴射させ、エンジン回転数を設定回転数にまで瞬時に下降させる(ステップS24)。
次いで、前後進切換レバー32を前進操作したか否かを判別する(ステップS25)。前後進切換レバー32を前進操作していなければ(S25:NO)リターンする。前後進切換レバー32を前進操作していれば(S25:YES)、下降油圧電磁弁64の切換作動にて昇降制御油圧シリンダ45を伸長駆動させ、ロータリ耕耘機15を元の耕耘高さまで強制的に下降させる(ステップS26)。
次いで、ステップS19にて読み込まれた元(上昇動前)のエンジン回転数と、エンジンコントローラ102に予め記憶されたマップ又は関数表とに基づいて、元のエンジン回転数に対応したメイン噴射での各インジェクタ81の増量噴射量とを演算し(ステップS27)、増量噴射量分の高圧燃料を、メイン噴射の際に各インジェクタ81から極めて短い時間で一挙に噴射させ、エンジン回転数を上昇動前の回転数にまで瞬時に上昇させるのである(ステップS28)。
以上の制御によると、作業モードの実行中に、走行機体2が後進動する前にロータリ耕耘機15が上昇動した後は、メイン噴射の噴射量を瞬時に減量させ、エンジン回転数を設定回転数にまで瞬時に下降させるから、走行機体2が後進動するに際して、走行機体2の車速を素早く減速できる。従って、後進時の安全性を確保しながら、走行機体2の後進操作を簡略化でき、オペレータの操作負担を軽減できる。また、メイン噴射の噴射量の減少はロータリ耕耘機15を上昇動させた後に行うので、作業機用油圧ポンプ61における作動油吐出量の確保に支障はなく、エンジンストールも抑制できる。
更に、作業モードの実行中において、走行機体2が前進動する前に、一旦上昇動したロータリ耕耘機15が下降動するときは、メイン噴射の噴射量を瞬時に増量させ、エンジン回転数を、上昇動前のエンジン回転数に瞬時に戻すから、走行機体2が前進動に切り換えるに際して、走行機体2の車速を素早く元に戻せる。従って、前後進切換後に引き続いての耕耘作業にスムーズに移行でき、トラクタ1を往復動させる耕耘作業を効率よく実行できるのである。
なお、上記のバック昇降連動制御は、前後進切換レバー32の機能を前進及び後進ペダルに置き換えた場合でも実行することが可能である。
(6).エンジン診断制御の詳細
次に、図6及び図10〜図14を参照しながら、エンジン診断制御の詳細について説明する。
さて、トラクタ1のモード(動作の状態)としては、初期モード、路上走行や各種作業を実行する通常モード(前述した作業モード及び走行モードを含む)、及び、エンジン5の駆動状態をチェックするためのテストシーケンスTSを実行する診断モード等がある。
作業機コントローラ101は、走行機体2に設けられた操作手段(実施形態ではモード切換スイッチ123及びキースイッチ108)の特定操作にて診断モードに移行し、走行機体2が停止した状態でエンジン診断用のテストシーケンスTSを実行するように構成されている。実施形態では、モード切換スイッチ123を押下した状態でキースイッチ108を入り操作するという特定操作により、作業機コントローラ100が診断モードを実行することになる。
なお、診断モードではテストシーケンスTSの実行にてエンジン5の駆動状態をチェックするため、前述の特定操作手順を踏まない限り、安全性に配慮して診断モードの起動が禁止されている。また、診断モードでは、一旦キースイッチを切り操作しない限り、通常モード等の他のモードへの復帰も禁止されている。
エンジン診断用のテストシーケンスTSは、作業機コントローラ101のPROM101bに予め記憶されている。テストシーケンスTSは、エンジン回転数のテストパターンPr(図10参照)と、テストパターンPrに対応した噴射量の許容変動領域Ar(図11参照)とを含んでおり、テストパターンPrのエンジン回転数となるように、コモンレール式燃料噴射装置80の噴射量を変動させ、実際の変動結果と許容変動領域Arとを比較するというエンジン診断制御を司る制御プログラムになっている。
エンジン回転数のテストパターンPrと、テストパターンPrに対応した噴射量の許容変動領域Arとは、例えばマップ形式又は関数表形式にて、作業機コントローラ101のPROM101bに予め記憶されている。図10及び図11には、PROM101bに記憶されたテストパターンPrの一部と、許容変動領域Arの一部とを抜粋しグラフ化して示している。図10に示すテストパターンPrのグラフでは、時間を横軸に採り、エンジン回転数を縦軸に採っている。図11に示す許容変動領域Arのグラフでは、時間を横軸に採り、コモンレール式燃料噴射装置80の噴射量(インジェクタ81全体の噴射量)を縦軸に採っている。
図10に示すように、テストパターンPrは上向き凸の階段状に変化した実線にて表されている。図11に示した二点鎖線は、テストパターンPrに対応した噴射量の理論値に相当する理論噴射パターンPiを表している。理論噴射パターンPiを挟んで上下対称状に位置する第1上限線U1と第1下限線D1とで囲まれた領域は、エンジン回転数に対する噴射量が正常な値である正常領域Ar1になっている。理論噴射パターンPiを挟んで上下対称状に位置する第2上限線U2と第2下限線D2とで囲まれた領域のうち正常領域Ar1を除いた領域は、正常領域Ar1と後述する異常領域Ar3との境界に相当する注意領域Ar2になっている。第2上限線U2より上側及び第2下限線D2より下側の領域は、エンジン回転数に対する噴射量が異常な値である異常領域Ar3になっている。第2上限線U2と第2下限線D2とで囲まれた領域(正常領域Ar1と注意領域Ar2との組合せ)が許容変動領域Arになっている。
作業機コントローラ101のPROM101bには、トラクタ1のモード(動作の状態)に関して、計器盤26の液晶モニタ124に表示される文字、記号、画像等の各種情報も予め記憶されている。この種の情報としては、例えば通常モード情報(図示省略)や、テストシーケンスTS実行に関するメッセージ情報131〜138(図12参照)等がある。
図13に示すフローチャートを用いて、エンジン診断制御の流れを説明する。まず、モード切換スイッチ123を押下した状態でキースイッチ108を入り操作すると、作業機コントローラ100が診断モードを実行する。この場合はまず、スタートに続いて、前後進ポテンショ112、PTOレバーセンサ122及び駐車ブレーキセンサ114の検出値を読み込み(ステップS29)、次いで、前後進ポテンショ112の検出値から、前後進切換レバー32が中立位置にあるか否かを判別する(ステップS30)。
前後進切換レバー32が中立位置にない場合は(S30:NO)、このままテストシーケンスTSを実行すると走行機体2が不用意に動くおそれがあるので、液晶モニタ124に「前後進切換レバーを中立にしてください。」というメッセージ情報131を表示し(ステップS31)、その後ステップS29に戻る。前後進切換レバー32が中立位置にある場合は(S30:YES)、次いで、PTOレバーセンサ122の検出値から、PTO変速レバー36が中立位置にあるか否かを判別する(ステップS32)。
PTO変速レバー36が中立位置にない場合は(S32:NO)、このままテストシーケンスTSを実行するとロータリ耕耘機15が不用意に駆動するおそれがあるので、液晶モニタ124に「PTO変速レバーを中立にしてください。」というメッセージ情報132を表示し(ステップS33)、その後ステップS29に戻る。PTO変速レバー36が中立位置にある場合は(S32:YES)、次いで、駐車ブレーキセンサ114の検出値から、駐車ブレーキレバー34が入り状態か否かを判別する(ステップS34)。
駐車ブレーキレバー34が切り状態であれば(S34:NO)、テストシーケンスTSの実行にて走行機体2が不用意に動くおそれがあるので、液晶モニタ124に「駐車ブレーキレバーを入りにしてください。」というメッセージ情報133を表示し(ステップS35)、その後ステップS29に戻る。駐車ブレーキレバー34が入り状態であれば(S34:YES)、液晶モニタ124に「エンジン診断を始めます。」というメッセージ情報134を表示する(ステップS36)。
次いで、作業コントローラ101のPROM101bに記憶されたテストシーケンスTSを読み込み(ステップS37)、エンジン回転センサ103にて検出された実際のエンジン回転数がテストパターンPrのエンジン回転数となる単位時間当りの噴射量分の高圧燃料を、各インジェクタ81から噴射する(ステップS38)。
次いで、エンジンコントローラ102にて、各インジェクタ81の開度及び開き時間、並びに圧力センサ86にて検出される噴射圧に基づき、単位時間当りの噴射量の実測結果を算出する(ステップS39)。そして、算出された実測結果と、テストパターンPrに対応した噴射量の許容変動領域Arとを比較して、実測結果が正常領域Ar1内か否かを判別する(ステップS40)。
単位時間当りの実測結果が正常領域Ar1内であれば(S40:YES)、次いで、テストシーケンスTSでの最初の噴射開示時からの累積時間tが予め設定されたテスト時間T以上か否かを判別する(ステップS41)。テスト時間Tに達していなければ(S41:NO)、前述したステップS38に戻る。テスト時間Tが経過していれば(S41:YES)、後述するステップS48へ移行する。
ステップS40において、単位時間当りの実測結果が正常領域Ar1から外れていれば(S40:NO)、当該実測結果が注意領域Ar2内か否かを判別する(ステップS42)。この実測結果が注意領域Ar2内であれば(S42:YES)、次いで、注意領域Ar2の値の検出回数nが予め設定された設定回数N以上か否かを判別する(ステップS43)。
注意領域Ar2の値の検出回数nが設定回数N未満であれば(S43:NO)、前述したステップS41へ移行する。注意領域Ar2の値の検出回数nが設定回数N以上であれば(S43:YES)、後述するステップS44へ移行する。
ステップS42において、単位時間当りの実測結果が注意領域Ar2から外れていれば(S42:NO)、この実測結果は異常領域Ar3の値になっているから、液晶モニタ124に「エンジンに重度の問題がある可能性があり危険ですので、診断を中止しエンジンを停止します。お買い上げいただいた販売店にご連絡ください。」というメッセージ情報135を表示する(ステップS44)。そして、テストシーケンスTSを中止し(ステップS45)、コモンレール式燃料噴射装置80の噴射量を瞬時に減量させ、エンジン回転数を一旦アイドリング回転数にまで低下させてから(ステップS46)、コモンレール式燃料噴射装置80による高圧燃料噴射を停止させ、エンジン5の駆動を停止させる(ステップS47)。
ステップS41においてテスト時間Tが経過していて(S41:YES)、ステップS48へ移行して、注意領域Ar2の値の検出回数nが0(零)か否かを判別する。注意領域Ar2の値の検出回数nが0であれば(S48:YES)、全ての実測結果が正常領域Ar1内であるから、液晶モニタ124に「エンジンの状態は正常です。」というメッセージ情報136を表示する(ステップS49)。
注意領域Ar2の値の検出回数nが0でなければ(S48:NO)、実測結果の中で注意領域Ar2の値をN回未満検出したことになるから、液晶モニタ124に「エンジンに軽度の問題がある可能性があります。できるだけ早い時期にお買い上げいただいた販売店でのチェックをお勧めします。」というメッセージ情報137を表示する(ステップS50)。なお、テストシーケンスTSの実行中(ステップS37〜S50)は、警報ブザー(図示省略)を断続的に鳴動させて、オペレータに注意を促すようにしてもよい。
以上の制御によると、作業機コントローラ101は、走行機体2に設けられた操作手段(実施形態ではモード切換スイッチ123及びキースイッチ108)の特定操作にて診断モードに移行し、走行機体2が停止した状態でエンジン診断用のテストシーケンスTSを実行するように構成されているから、エンジン5の仕組みをよく知らないオペレータであっても、エンジン5の駆動状態を専用の診断装置なしで手軽にチェックできる。
しかも、テストシーケンスTSは、エンジン回転数のテストパターンPrと、テストパターンPrに対応した噴射量の理論噴射パターンPiを含む許容変動領域Arとを有しており、且つ、テストパターンPrのエンジン回転数となるように、コモンレール式燃料噴射装置80の噴射量を変動させ、噴射量の実測結果と許容変動領域Arとを比較する設定になっているから、エンジン診断をするオペレータが異なっていても、エンジン診断の条件(テストシーケンスTS)が統一されることになり、診断結果に人為的な誤差(ブレ)の入る余地がなくなる。従って、高精度なエンジン診断を行える。
また、テストシーケンスTSの許容変動領域Arは、エンジン回転数に対する噴射量が正常な値である正常領域Ar1と、正常領域Ar1と異常領域Ar3との境界に相当する注意領域Ar2とにより構成されているから、注意領域Ar2の存在によって、エンジン5の故障予測がし易くなる。
更に、作業機コントローラ101は、診断モードの実行中に、計器盤26の液晶モニタ124に診断モードの情報(例えばメッセージ情報131〜137)を表示するから、オペレータの注意を喚起して、エンジン5の駆動状態をオペレータに的確に伝えられる。その結果、エンジン5に不具合があれば、修理したり部品を取り寄せたりするなどして、迅速に対処できることになる。
実施形態では、テストシーケンスTSの実行中に、異常領域Ar3の値を検出したり、注意領域Ar2の値を予め設定された設定回数N以上検出したりした場合は、テストシーケンスTSを中止するから(ステップS44参照)、重度の問題を有する可能性のある状況下でのエンジン5の駆動を確実に回避できる。特にこの場合は、エンジン回転数をアイドリング回転数にしてからエンジン5を停止させるため(ステップS46及びS47参照)、走行機体2が急発進したりするおそれは著しく抑制されることになり、エンジン停止時の安全性を確保できる。
ところで、テストシーケンスTSの実行中(ステップS37〜S50参照)に、オペレータが走行系操作手段30,32,35,38,40又は作業機系操作手段36,39,41を手動操作した場合は、作業機コントローラ101が図14に示す割り込み処理を実行するように構成されている。
作業機コントローラ101は、割り込み処理のルーチンをスタートさせ、まず始めに、液晶モニタ124に「エンジン診断中にレバー又はペダルが操作されましたので、診断を中止しエンジンを停止します。」というメッセージ情報138を表示する(ステップS51、図12(h)参照)。そして、テストシーケンスTSを中止し(ステップS52)、コモンレール式燃料噴射装置80の噴射量を瞬時に減量させ、エンジン回転数を一旦アイドリング回転数にまで低下させてから(ステップS53)、コモンレール式燃料噴射装置80による高圧燃料噴射を停止させ、エンジン5の駆動を停止させる(ステップS54)。
テストシーケンスTSの実行中に、オペレータが走行系操作手段30,32,35,38,40又は作業機系操作手段36,39,41を手動操作してしまうと、エンジン診断の条件(テストシーケンスTS)が変わることになる。このため、実施形態では、かかる状況下でのエンジン診断を強制的に中止することによって、診断結果に誤差(ブレ)の入る余地をなくしているのである。その上、この場合も、エンジン回転数をアイドリング回転数にしてからエンジン5を停止させるため、エンジン停止時の安全性を確保できるのである。
なお、診断モードを実行する制御手段は、本機コントローラ100やエンジンコントローラ102(エンジン制御手段)でも構わないが、実施形態のようにエンジンコントローラ102以外の制御手段を用いると、エンジンコントローラ102に作用する負荷を低減できて好ましい。
特に実施形態では、診断モードを実行する制御手段として、フロントローダ51やロータリ耕耘機15等の作業機を制御するための作業機コントローラ101を用いているので、本機コントローラ100やエンジンコントローラ102の設定を変更することなく、走行機体2に装着される作業機毎の独自の設定をテストシーケンスTSに盛り込むことが可能になる。
(7).割り込み診断処理の説明
次に、図6、図15〜図18を参照しながら、割り込み診断処理の詳細について説明する。
ところで、前述の診断モードにおいては、走行機体2が停止した状態でのみ、エンジン診断用のテストシーケンスTSを実行する設定になっているが、実施形態のトラクタ1では、路上走行や各種作業をする通常モードの実行中に、エンジン5の駆動状態をチェックすることが可能になっている。
この場合は、作業機コントローラ101が、通常モードの実行中に適宜時間間隔にて、そのときのエンジン5の駆動状態をチェックする割り込み診断処理を実行し、当該割り込み診断処理において、エンジン回転数rの実測結果に対する噴射量iの実測結果と、後述する噴射量診断マップMPとを比較するように構成されている。噴射量診断マップMPは、エンジン回転数rと噴射量iとの関係を示す理論パターンPfを含むものであり、実施形態では、テストシーケンスTSとは別に、作業機コントローラ101のPROM101bに予め記憶されている。
図15(a)(b)には、PROM101bに記憶された噴射量診断マップMPの一部を抜粋しグラフ化して示している。図15(a)(b)に示す噴射量診断マップMPのグラフでは、エンジン回転数rを横軸に採り、コモンレール式燃料噴射装置80の噴射量i(インジェクタ81全体の噴射量)を縦軸に採っている。
図15(a)(b)に示した二点鎖線は、エンジン回転数rに対応した噴射量iの理論値に相当する理論パターンPfを表している。理論パターンPfの関係式としては例えばi=A×r+Bが挙げられる。ここでA及びBは比例定数である。図15(a)(b)から明らかなように、エンジン回転数rと噴射量iとの関係は正の傾きを持つ直線で表される。すなわち、エンジン回転数rと噴射量iとは、エンジン回転数rが大きいほど噴射量iが増大するという関係にある。
理論パターンPfを挟んで上下対称状に位置する第1上限線u1と第1下限線d1とで囲まれた範囲は、エンジン回転数rに対する噴射量iが正常な値である正常範囲Am1になっている。理論パターンPfを挟んで上下対称状に位置する第2上限線u2と第2下限線d2とで囲まれた範囲のうち正常範囲Am1を除いた範囲は、正常範囲Am1と後述する異常範囲Am3との境界に相当する注意範囲Am2になっている。第2上限線u2より上側及び第2下限線d2より下側の領域は、エンジン回転数rに対する噴射量iが異常な値である異常範囲Am3になっている。
実施形態では、エンジンコントローラ102にて算出されるコモンレール式燃料噴射装置80の噴射量の累積値Qacc(新品時からの合計値:以下、累積噴射量という)が多くなると、注意範囲Am2の幅が狭まるように変更可能に設定されている。図15(a)の噴射量診断マップMPは、コモンレール式燃料噴射装置80の累積噴射量Qaccが所定量Qr未満である場合を示しており、図15(b)の噴射量診断マップMPは、累積噴射量Qaccが所定量Qr以上である場合を示している。
この場合、コモンレール式燃料噴射装置80の累積噴射量Qaccが所定量Qr未満であれば、図15(a)の噴射量診断マップMPを用いて割り込み診断処理がなされ、コモンレール式燃料噴射装置80の累積噴射量Qaccが所定量Qr以上であれば、図15(b)の噴射量診断マップMPを用いて割り込み診断処理がなされることになる。
図15(b)の噴射量診断マップMPでは、第2上限線について、傾きを変えずに切片の値を小さくしてu2をu2′にし、第2下限線について、傾きを変えずに切片の値を大きくしてd2をd2′にすることによって、これら上下限線u2′,d2′を理論パターンPfに近づけ、注意範囲の幅をAm2からAm2′に狭めている。
作業機コントローラ101のPROM101bには、注意範囲Am2の値についての累積検出回数Wacc、警戒回数Walm及び危険回数Wmaxに関するデータが予め記憶されている。警戒回数Walm及び危険回数Wmaxは、エンジン診断を促すためのトリガーとなる値であり、警戒回数Walm及び危険回数Wmaxのいずれも、コモンレール式燃料噴射装置80の累積噴射量Qaccが多くなると少なくなるように変更可能に設定されている。ただし、危険回数Wmaxは警戒回数Walmより常に多い数になっている(Wmax>Walm)。
図18(a)(b)には、PROM101bに記憶された警戒回数Walm及び危険回数Wmaxに関するデータを表形式にして示している。図18(a)の回数表は、コモンレール式燃料噴射装置80の累積噴射量Qaccが所定量Qr未満の場合であり、図18(b)の回数表は、コモンレール式燃料噴射装置80の累積噴射量Qaccが所定量Qr以上の場合である。
図18(a)の回数表では第1段階の警戒回数Walmは20回目であるのに対して、図18(b)の回数表では第1段階の警戒回数Walmは15回目である。また、図18(a)における第2段階の警戒回数Walmは40回目であるのに対して、図18(b)における第2段階の警戒回数Walmは25回目である。更に、図18(a)の危険回数Wmaxは60回目であるのに対して、図18(b)の危険回数Wmaxは40回目である。このように、警戒回数Walm及び危険回数Wmaxのいずれも、コモンレール式燃料噴射装置80の累積噴射量Qaccが多くなると少なくなるように設定されている。なお、図18(a)(b)から明らかなように実施形態では、警戒回数Walmに関して適宜回数間隔毎の複数の値を採用している。
実施形態では、コモンレール式燃料噴射装置80の累積噴射量Qaccが所定量Qr未満であれば、図18(a)の回数表を用いて割り込み診断処理がなされ、コモンレール式燃料噴射装置80の累積噴射量Qaccが所定量Qr以上であれば、図18(b)の回数表を用いて割り込み診断処理がなされることになる。
コモンレール式燃料噴射装置80の累積噴射量Qaccは、各インジェクタ81の開度及び開き時間、並びに圧力センサ86にて検出される噴射圧に基づいて、エンジンコントローラ102にて算出され、当該エンジンコントローラ102のPROM102bに格納・蓄積される。
図17に示すフローチャートを用いて、割り込み診断処理の流れを説明する。実施形態の作業機コントローラ101は、通常モードの実行中に、作業機コントローラ101に搭載されたタイマ(図示せず)からの適宜時間間隔での割り込み要求に基づいて、図17に示す割り込み診断処理を実行する。ここで、累積検出回数Waccは診断モードの実行にてリセットされるものとする。
この場合はまず、スタートに続いて、エンジンコントローラ102のPROM102bから、コモンレール式燃料噴射装置80の累積噴射量Qaccを読み込み(ステップS55)、当該累積噴射量Qaccが所定量Qr未満か否かを判別する(ステップS56)。
累積噴射量Qaccが所定量Qr未満であれば(S56:YES)、エンジン回転センサ103によるエンジン回転数の実測結果rx(検出値)と、作業コントローラ101のPROM101bに記憶された図15(a)の噴射量診断マップMP及び図18(a)の回数表とを読み込んで(ステップS57)、後述するステップS59へ移行する。
累積噴射量Qaccが所定量Qr以上であれば(S56:NO)、エンジン回転センサ103によるエンジン回転数の実測結果rx(検出値)と、作業コントローラ101のPROM101bに記憶された図15(b)の噴射量診断マップMP及び図18(b)の回数表とを読み込んで(ステップS58)、後述するステップS59へ移行する。
ステップS59では、エンジンコントローラ102にて、各インジェクタ81の開度及び開き時間、並びに圧力センサ86にて検出される噴射圧に基づき、単位時間当りの噴射量の実測結果ixを算出する。そして、エンジン回転数の実測結果rxに対する噴射量の実測結果ixと、噴射量診断マップMPとを比較して、エンジン回転数の実測結果rxに対する噴射量の実測結果ixが正常範囲Am1内か否かを判別する(ステップS60)。
エンジン回転数の実測結果rxに対する噴射量の実測結果ixが正常範囲Am1内にある場合は(S60:YES)、エンジン5の駆動状態が良好であることを意味しているので、そのままリターンする。エンジン回転数の実測結果rxに対する噴射量の実測結果ixが正常範囲Am1から外れていれば(S60:NO)、当該実測結果ixが注意範囲Am2(又はAm2′)内か否かを判別する(ステップS61)。この実測結果ixが注意範囲Am2(又はAm2′)内であれば(S61:YES)、注意範囲Am2(又はAm2′)の値の累積検出回数Waccを1つ加算したのち(ステップS62)、累積検出回数WaccがステップS57又はS58にて読み込まれた警戒回数Walmであるか否かを判別する(ステップS63)。
累積検出回数Waccが警戒回数Walmであれば(S63:YES)、液晶モニタ124に「エンジンに問題がある可能性があります。診断モードにてエンジン診断を実行してください。」というメッセージ情報141を表示し(ステップS64)、その後リターンする。この場合、走行機体2に設けられた操作手段(例えばモード切換スイッチ123)の特定操作にて、メッセージ情報141の表示を液晶モニタ124から消去するように構成してもよい。
ステップS63において、累積検出回数Waccが警戒回数Walmでなければ(S63:NO)、次いで、累積検出回数WaccがステップS57又はS58にて読み込まれた危険回数Wmaxであるか否かを判別する(ステップS65)。累積検出回数Waccが危険回数Wmaxでなければ(S65:NO)、危険回数Wmaxになるまで頻繁には注意範囲Am2(又はAm2′)の値を検出していないことになるから、そのままリターンする。
累積検出回数Waccが危険回数Wmaxであれば(S65:YES)、エンジン5に問題のある可能性が極めて高いことを意味しているから、まず、液晶モニタ124に「エンジンに問題がある可能性があります。診断モードにてエンジン診断を実行してください。」というメッセージ情報141を表示する(ステップS66)。それから、スロットルレバー30の操作量に拘らず、エンジン回転数rの上限値を例えば1500rpm程度に強制的に制限するように、コモンレール式燃料噴射装置80による燃料噴射制御を実行する(ステップS67)。
なお、ステップS67においてエンジン始動禁止フラグを立ち上げておくことによって、次回にキースイッチ108を入り操作したときに、本機コントローラ100に前述のエンジン始動禁止フラグを読み込ませて、エンジン5の始動を禁止するように構成することも可能である。
ステップS61に戻り、エンジン回転数の実測結果rxに対する噴射量の実測結果ixが注意範囲Am2から外れていれば(S61:NO)、当該実測結果ixは異常範囲Am3の値になっているから、液晶モニタ124に「エンジンに重度の問題がある可能性があり危険ですので、エンジンを強制停止します。お買い上げいただいた販売店にご連絡ください。」というメッセージ情報142を表示する(ステップS68)。そして、コモンレール式燃料噴射装置80の噴射量を瞬時に減量させ、エンジン回転数rを一旦アイドリング回転数にまで低下させてから(ステップS69)、コモンレール式燃料噴射装置80による高圧燃料噴射を停止させ、エンジン5の駆動を停止させるのである(ステップS70)。
以上の制御によると、作業機コントローラ101は、通常モードの実行中に、適宜時間間隔にて、そのときのエンジン5の駆動状態をチェックする割り込み診断処理を実行するように構成されているから、エンジン5の仕組みをよく知らないオペレータであっても、エンジン5の駆動状態を専用の診断装置も特別な操作もなしで自動的にチェックでき、オペレータにエンジン点検の負担が掛からない。
しかも、作業機コントローラ101は、エンジン回転数rと噴射量iとの関係を示す理論パターンPfを含む噴射量診断マップMPが予め記憶されたPROM101bを有しており、割り込み診断処理において、エンジン回転数の実測結果rxに対する噴射量の実測結果ixと噴射量診断マップMPとを比較するように構成されているから、エンジン診断の条件が統一されることになり、診断結果に人為的な誤差(ブレ)の入る余地がなくなる。従って、高精度なエンジン診断を行える。
その上、噴射量診断マップMPは、エンジン回転数rに対する噴射量iが正常な値である正常範囲Am1と、エンジン回転数rに対する噴射量iが異常な値である異常範囲Am3と、正常範囲Am1と異常範囲Am3との境界に相当する注意範囲Am2(又はAm2′)とにより構成されているから、注意範囲Am2(又はAm2′)の存在によって、エンジン5の故障予測がし易くなる。
また、作業機コントローラ101は、割り込み診断処理において注意範囲Am2(又はAm2′)の値を予め設定された警戒回数Walm分検出した場合は、エンジン診断を促すメッセージ情報141を液晶モニタ124に表示するように構成されているから、エンジン関係が劣化等の故障状態に近付きつつあることをオペレータに報知して、オペレータの注意を喚起できる。その結果、エンジン5に不具合があれば、修理したり部品を取り寄せたりするなどして、迅速に対処できることになる。
その上、コモンレール式燃料噴射装置80の累積噴射量Qaccが多くなると、警戒回数Walmが少なくなるように変更可能になっているから、例えば使用期間は短いものの、エンジン5に高負荷を掛け続けたような場合でも、かかる状況に合わせて適切に、エンジン診断を促すメッセージ情報141を液晶モニタ124に表示できる。すなわち、エンジン5に作用した負荷の多寡(エンジン5の使用状況)を考慮した上で、オペレータの注意を喚起できる。
更に、作業機コントローラ101は、割り込み診断処理において注意範囲Am2(又はAm2′)の値を予め設定された危険回数Wmax分検出した場合は、エンジン回転数rの上限を強制的に制限するか、又は、その後におけるエンジン5の始動を禁止するように構成されているから、重度の問題を有する可能性のある状況下でのエンジン5の駆動を確実に抑制又は回避でき、致命的な故障が生ずるおそれを回避できる。
しかも、コモンレール式燃料噴射装置80の累積噴射量Qaccが多くなると、危険回数Wmaxが警戒回数Walmより回数の多い条件下で少なくなるように変更可能になっているから、警戒回数Walmの件と同様に、エンジン5に作用した負荷の多寡(エンジン5の使用状況)を考慮した上で、オペレータの注意を喚起できる。
実施形態では、割り込み診断処理において異常範囲Am3の値を検出した場合は、エンジン回転数rをアイドリング回転数にしてから、エンジン5を停止させるように構成されているから、走行機体2が急発進したりするおそれは著しく抑制されることになり、エンジン停止時の安全性を確保できる。
また、噴射量診断マップMPの注意範囲Am2,Am2′は、コモンレール式燃料噴射装置80の累積噴射量Qaccが多くなると狭まるように変更可能になっているから、例えば使用期間は短いものの、エンジン5に高負荷を掛け続けたような場合に、エンジン関係が高負荷に起因して故障状態に近付きつつあると判定し易くなる。このため、警戒回数Walm及び危険回数Wmaxの件と相俟って、適切な時期にオペレータの注意を喚起できるのである。
なお、割り込み診断処理を実行する制御手段は、本機コントローラ100やエンジンコントローラ102(エンジン制御手段)でも構わないが、実施形態のようにエンジンコントローラ102以外の制御手段を用いると、エンジンコントローラ102に作用する負荷を低減できて好ましい。
特に実施形態では、割り込み診断処理を実行する制御手段として、フロントローダ51やロータリ耕耘機15等の作業機を制御するための作業機コントローラ101を用いているので、本機コントローラ100やエンジンコントローラ102の設定を変更することなく、走行機体2に装着される作業機毎の独自の設定を、作業機コントローラ101に盛り込むことが可能になる。
(8).その他
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば本願発明はトラクタに限らず、田植機やコンバイン等の農作業機や、ホイルローダ等の特殊作業用車両にも適用可能である。その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。