JP4980795B2 - 正孔注入層用溶液、有機el素子の製造方法 - Google Patents
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既に、小型のディスプレイ等で実用化もされている。しかしながら、従来の方法では、高精細、大面積の有機ELディスプレイを低コストで製造することは難しいので、インクジェット法により有機ELディスプレイを作製する方法が注目され始めている。
さらに、画素領域以外の発光層の膜厚の薄い部分から無駄な発光を生じる場合も発生し、これらが有機ELディスプレイのコントラストを低下させたり、消費電力を増大させたり、画素欠陥を生じさせたりする原因となった。
前記正孔注入層用溶液42は、開口部70および開口部70の周辺部70a上に大きく盛り上がるように形成されている。
前記乾燥工程において、正孔注入層用溶液42の溶液が揮発していく過程では、乾燥がすばやくなされるので、まず、周辺部70aで前記溶液が揮発し、周辺部70a上に前記正孔注入層43は形成される。続いて、内壁部30aの上方から徐々に、前記正孔注入層43が形成され、最後に陽極20上の前記正孔注入層43が形成される。
従来、吐出した液滴が乾燥する際には、前記液滴は表面張力により中心部分に集まった後、蒸発していた。しかしながら、乾燥速度が速い場合や、液滴の表面張力が小さいときには、吐出した部分で等方的に乾燥を行う場合がある。液滴を吐出した領域の周辺内部をピンで留めるように乾燥が行われることから、これをピンニング現象という。
前記ピンニング現象により、陽極20の上だけに形成されるのではなく、絶縁層30の内壁部30a上、および周辺部70a上に正孔注入層43が形成される。
しかしながら、正孔注入層43の材料として、たとえば、ポリエチレンジオキシチオフェン(以下、PEDOT)とポリスチレンスルホネート(PSS)の混合物(PEDOT/PSS)を用いた場合には、前記混合物の比抵抗は、103〜105Ωcmであるので、前記電界発光の際、周辺部70aの正孔注入層43にも電子又はホールが流入してしまい、リーク電流を発生する場合があった。
さらに、前記周辺部70aにおける正孔注入層43上に発光層50が形成された場合には、周辺部70a上に発光層50に電子とホールが注入され、電界発光を行う場合があった。その結果、消費電力を増大させたり、コントラストを低下させるなどの問題を起こした。
本発明の正孔注入層用溶液は、有機EL素子の正孔注入層をインクジェット技術で形成する際に使用される溶液であって、前記溶液は、水と、2−プロパノールと、N、N−ジメチルホルムアミドまたはN−メチル−2−ピロリドンの何れか一方とからなる溶媒と、1種類以上の正孔注入層用材料とを含有し、前記溶液は、20℃において1mPa・s〜20mPa・sの粘度を有し、かつ、30mN/m〜70mN/mの表面張力を有しており、前記1種類以上の溶媒は、20℃で液体であり、前記水以外の前記溶媒の少なくとも1つが、150℃以上の沸点を有し、30mN/m以上の表面張力を有するものであり、かつ、前記溶液に10質量%以上含有されており、前記1種類以上の正孔注入層用材料は、前記溶液に0.1〜10質量%含有されていることを特徴とする。
図1は、本発明の実施形態である正孔注入層用溶液を用いて作製した有機EL素子の図であって、(a)は平面模式図であり、(b)は(a)のA−A’線における断面模式図の一部である。
本発明の実施形態である正孔注入層用溶液を用いて作製した有機EL素子は、基板10の上に、陽極20がライン状に形成され、それらの上に、絶縁層30が形成されている。前記絶縁層30には、開口部70が、例えばマトリックス状に設けられるとともに、前記陽極20の端部に、端子となる開口部71が設けられている。
前記開口部70においては、正孔注入層41、発光層50がこの順序で積層されている。さらに、前記陽極20のラインと垂直の方向に、各開口部70を覆うように陰極60が形成されている。
有機EL素子の製造工程は、一般的には、陽極形成工程、絶縁膜形成工程、正孔注入層形成工程、発光層形成工程、陰極形成工程からなる。
(陽極20形成工程)
まず、基板10上に、陽極20をライン状に形成する。ラインの形成は、陽極20の形成の際、マスクを用いて形成するか、もしくは、全面に陽極20を形成した後、レジストを塗布し、ガラスマスクにより露光処理して、ラインパターンを形成する。
前記基板10は、透明な材料が好ましい。たとえば、ガラス、石英、その他プラスチックフィルム等を例示することができる。
前記陽極20は、透明で導電性の高い材料が好ましい。たとえば、インジウム−錫−酸化物(以下、ITO)あるいはインジウム−亜鉛−酸化物(以下、IZO)などの導電性透明酸化物を用いることができる。
次に、絶縁膜30を、前記陽極20を形成した基板10全面に形成する。次に、レジストを塗布し、ガラスマスクにより露光処理して、開口部70、および各陽極20の端部の開口部71を形成する。陽極20の端部の開口部71は、電圧を印加するときの端子取り付け部として用いる。
前記絶縁膜30としては、一般的に用いられる絶縁膜材料を用いることができる。たとえば、フッ化物、ポリイミドあるいはレジスト材料などを挙げることができる。
たとえば、前記絶縁層30としてフッ化物を用いた場合には、フッ化物自身が表面エネルギーの低い材料なので、前記絶縁層30は撥液性となる。
また、前記絶縁層30としてポリイミドやレジスト材料などを用いた場合には、CF4プラズマで表面処理をすることにより、前記絶縁層30を撥液性とすることができる。
次に、前記開口部70にインクジェット法により、正孔注入層用溶液を吐出する。
前記範囲の粘度および表面張力を有する場合には、インクジェット法により、液滴を好適に吐出することができる。また、液滴乾燥後に、有機EL素子の正孔注入層41として好適な膜厚の薄膜を得ることができる。
前記特性を有する溶媒を10質量%以上含有すれば、インクジェット法により、基板上に液滴が吐出した後、ゆっくりと前記溶媒を揮発させて、液滴の大きさを徐々に収縮させることができ、ピンニング現象を抑制することができるためである。その結果、絶縁層30上には、正孔注入層41を形成せず、開口部70にだけ成膜することができる。
前記特性を有する溶媒を10質量%以上含有しない場合、あるいは溶媒が前記特性を有しない場合、すなわち、沸点が150℃未満であったり、表面張力が30mN/m未満である場合には、前記効果を発現させることはできず、前記溶媒がすばやく揮発し、ピンニング現象を起こすおそれが発生するので好ましくない。
吐出された前記正孔注入層用溶液40は、その表面張力によって、開口部70および周辺部70a上に、その液面が大きく盛り上がる。前記正孔注入層用溶液40に対して、絶縁層30は接触角が50°以上となる撥液性を有しているので、これ以上濡れ広がることはない。
なお、残留成分については、NMR、GC/MS、FT−IRなどの分析手法を用いて検出すればよい。
次に、図2(c)に示すように、スピンコーティング法により、発光層50を形成する。まず、正孔注入層41までを形成した前記基板10をスピンコーターの冶具取り付け部にセットし、所定の回転速度とした後、発光層用溶液を塗布する。所定の成膜条件で、スピンコーティングを行うことにより、開口部70内に所定の膜厚の発光層50を形成することができる。
また、前記高分子化合物に、電荷輸送性材料あるいは発光色素などを分散させてもかまわない。これらの材料を分散させることにより、発光波長を変えることができ、また、発光特性を上げることができる。
さらに、発光層50の上に正孔阻止層あるいは電子輸送層などを積層してもかまわない。前記正孔阻止層あるいは電子輸送層を設けることにより、さらに有機EL素子の発光特性を向上させることができる。
最後に、図2(c)に示すように、真空蒸着法により、陰極60を形成する。まず、発光層50までを形成した前記基板10を真空蒸着器のチャンバー内の所定の位置に取り付け、前記基板10の表面には、ライン状の開口部が設けられた金属マスクを配置する。その後、前記チャンバー内を減圧状態にし、金属材料を真空蒸着することによって、ストライプ状の前記金属材料からなる陰極60を前記基板10上に形成する。
図2(c)は、前記陰極60を形成した時点の断面模式図である。前記陰極60は、絶縁層30上と開口部70上を覆って、陽極20と垂直の方向に、ストライプ状に形成されている。
しかしながら、前記仕事関数の低い金属は、空気中の酸素や水分などと反応しやすいので、MgAgなどの前記金属を含む合金、あるいはLiF、LiO2、CsFなどの前記金属を含む化合物などとして形成することが好ましい。あるいは、前記アルカリ金属、アルカリ土類金属の上に、AlもしくはAuなどの仕事関数の高い金属を積層して形成することが望ましい。
以下、本発明の実施形態の効果について説明する。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
(正孔注入層用溶液の調整)
本発明の正孔注入層用の高分子材料を調整した。
まず、(1)式で示すPEDOTと(2)式で示すPSSを含む混合水溶液(H.C.スタルク社製(H.C.Starck)、Baytron P CH8000、固形分3%、以下、PEDOT/PSS混合水溶液)を用意した。
また、調整した正孔注入層用溶液の一部を用いて、表面張力と粘度の測定を行った。
次に、本発明の発光層用の高分子材料を調整した。
まず、(3)式で表される分子構造を有するトリフェニルアミンとオキサジアゾールの共重合高分子Poly[HMTPD−PBD]と、(4)式で表される構造を有するイリジウム錯体Ir(ppy)3とを用意し、これらを、9:1の重量比でトルエンに溶解させ、発光層用溶液を調整した。
25×35mm角のガラス基板上にITO陽極をパターニングし、その上部に厚さ2μmのポリイミド層を形成した。その後、フォトリソグラフィー法で、前記ポリイミド層に250μm×90μmの楕円形状の開口部を6×9個形成し、ITO表面を露出させた。
次に、ポリイミドおよびITO表面をO2プラズマ処理によりクリーニングし、CF4プラズマ処理を行い、ポリイミド表面を撥液性とした。
その後、前記正孔注入層用溶液をインクジェット法により、開口部に吐出した後、180℃で1時間乾燥させて、正孔注入層とした。
次に、メタルマスクを用いて、バリウムとアルミニウムを同時に真空蒸着し、ストライプ状の陰極を形成した。最後に、UV硬化樹脂により、ガラスキャップを基板上に接着し、有機EL素子を封止した。
図3(a)に示した写真が、得られた発光状態である。
また、NMR、GC/MS、FT/IRなどの分析手法を用いて、正孔注入層にN−メチル−2−ピロリドンの残留成分が存在していることが分かった。
なお、発光写真の観察結果は、開口部のみから発光が得られたサンプルを○と評価し、開口部以外からの発光が観察されたサンプルを×と評価した。
前記正孔注入層用溶液の調整の際、N−メチル−2−ピロリドンを混合せず、前記PEDOT/PSS混合水溶液を30wt%に対し、2−プロパノールを20wt%、水を50wt%として、これらを混合し、正孔注入層用溶液として調整した。
この正孔注入層用溶液を用いたほかは、実施例1と同様にして、有機EL素子を作製し、発光状態を写真観察した。
このようにして作製した素子の陽極と陰極との間に電圧を印加したところ、開口部以外にも、その周辺部分で発光が見られた。よって、発光写真の観察結果は、×と評価した。
図3(b)に示した写真が、得られた発光状態である。また、外部量子効率は、6.5%(100cd/m2時)であった。実施例1に比較して、外部量子効率は良くなかった。
比較例1の実験条件および実験結果も表1に合わせて示した。
前記正孔注入層用溶液の調整の際、N−メチル−2−ピロリドンを混合せず、前記PEDOT/PSS混合水溶液を30wt%に対し、2−エトキシエタノールを40wt%、水を30wt%として、これらを混合し、正孔注入層用溶液として調整した。
この正孔注入層用溶液を用いたほかは、実施例1と同様にして、有機EL素子を作製し、発光状態を写真観察した。
このようにして作製した素子の陽極と陰極との間に電圧を印加したところ、開口部以外にも、その周辺部分で発光が見られた。よって、発光写真の観察結果は、×と評価した。
図3(c)に示した写真が、得られた発光状態である。また、外部量子効率は、4.0%(100cd/m2時)であった。実施例1に比較して、外部量子効率は良くなかった。
比較例2の実験条件および実験結果も表1に合わせて示した。
前記正孔注入層用溶液の調整の際、前記PEDOT/PSS混合水溶液を30wt%に対し、N−メチル−2−ピロリドンを40wt%、2−プロパノールを10wt%、水を20wt%として、これらを混合し、正孔注入層用溶液として調整した。
この正孔注入層用溶液を用いたほかは、実施例1と同様にして、有機EL素子を作製し、発光状態を写真観察した。
図4(a)に示した写真が、得られた発光状態である。よって、発光写真の観察結果は、○と評価した。
前記正孔注入層用溶液の調整の際、N−メチル−2−ピロリドンに代えて、表2に示す各種極性溶媒を用いたほかは、実施例2と同様にして、有機EL素子を作製し、発光状態を写真観察した。
図4(b)に示した写真が、得られた発光状態である。
以上、実施例3において用いた正孔注入層用溶液の表面張力、粘度の測定結果と、発光写真の観察結果を表1にまとめた。
逆に、比較例1、2では、溶液の表面張力は、30mN/m、35mN/mであり、30mN/m〜70mN/mの範囲内であったが、使用溶媒の表面張力が30mN/m以下であるため、発光写真の観察結果で分かる通り、開口部以外にも、その周辺部分で発光が見られた。
Claims (3)
- 有機EL素子の正孔注入層をインクジェット技術で形成する際に使用される溶液であって、
前記溶液は、水と、2−プロパノールと、N、N−ジメチルホルムアミドまたはN−メチル−2−ピロリドンの何れか一方とからなる溶媒と、1種類以上の正孔注入層用材料とを含有し、
前記溶液は、20℃において1mPa・s〜20mPa・sの粘度を有し、かつ、30mN/m〜70mN/mの表面張力を有しており、
前記溶媒は、20℃で液体であり、
前記水以外の前記溶媒の少なくとも1つが、150℃以上の沸点を有し、30mN/m以上の表面張力を有するものであり、かつ、前記溶液に10質量%以上含有されており、
前記正孔注入層用材料は、前記溶液に0.1〜10質量%含有されていることを特徴とする正孔注入層用溶液。 - 前記正孔注入層用材料として、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホネ―トの混合物が含有されていることを特徴とする請求項1に記載の正孔注入層用溶液。
- 一対の電極と、前記電極に挟まれた2層以上の有機薄膜層とからなる有機EL素子の製造方法であって、
前記有機薄膜層のうち少なくとも1層が正孔注入層であり、
前記正孔注入層が、インクジェット法を用いて、請求項1または2に記載の正孔注入層用溶液を基板上に吐出して形成されることを特徴とする有機EL素子の製造方法。
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