本発明は、きめ細かな出力制御が可能である電動パワーステアリング装置および大出力が期待できる油圧パワーステアリング装置の各々のメリットを十分に生かしつつ、且つ各々のパワーステアリング装置のデメリットを補い得るように、両パワーステアリング装置を併用したステアリング装置を提供することを技術的課題とする。
上記課題を達成するために、本発明の特徴は、操舵ハンドルの操舵操作量を転舵輪に伝達する操舵量伝達手段を有する車両のステアリング装置において、回転駆動力を発生し、発生した回転駆動力を操舵補助力として前記操舵量伝達手段に伝達する電動モータと、操舵ハンドルに作用する操舵力に基づいて前記電動モータにて発生する回転駆動力を制御する制御手段とを備える電動パワーステアリング装置と、作動油を吐出する油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される作動油を給排することにより駆動力を発生し、発生した駆動力を操舵補助力として前記操舵量伝達手段に伝達する油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプと前記油圧アクチュエータとを連通する主配管中に設けられ、操舵ハンドルに作用する操舵力が所定値未満であるときには前記油圧アクチュエータが駆動力を発生せず、所定値以上となったときに駆動力を発生するように、前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給する油量を調節するコントロールバルブ機構を備える油圧パワーステアリング装置と、を備え、前記電動パワーステアリング装置は、操舵ハンドルの操舵操作によって捩られるように前記操舵量伝達手段に取り付けられ、所定の横弾性係数を持つ第1のトーションバーと、前記第1のトーションバーの捩り量に基づいて操舵ハンドルに作用する操舵力を検出する検出手段を備え、前記制御手段は前記検出手段により検出された操舵力に基づいて前記電動モータにて発生する回転駆動力を制御し、前記油圧パワーステアリング装置は、操舵ハンドルの操舵操作によって捩られるように前記操舵量伝達手段に取り付けられ、前記所定の横弾性係数よりも大きい横弾性係数を持つ第2のトーションバーを備え、前記コントロールバルブ機構は、前記第2のトーションバーの捩り量に応じた油量の作動油が前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給されるように前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに流れる油量を制御することを特徴とする、ステアリング装置とすることにある。
この場合、操舵ハンドルの操舵力が前記所定値未満の場合は主に前記電動パワーステアリング装置が操舵補助力を前記操舵量伝達手段に伝達し、操舵ハンドルの操舵力が前記所定値以上である場合は前記電動パワーステアリング装置および前記油圧パワーステアリング装置の双方が操舵補助力を前記操舵量伝達手段に伝達するものであるとよい。
上記発明に係るステアリング装置は、電動パワーステアリング装置と油圧パワーステアリング装置とを併用するとともに、操舵力(例えば操舵トルク)の大きさにより両パワーステアリング装置を使い分けている。つまり、操舵力が小さい(所定値以下の)領域では油圧アクチュエータが(有効な)駆動力を発生しないようにされているので、油圧パワーステアリング装置からは操舵補助力を得ることができず、そのため主として電動パワーステアリング装置から操舵補助力が発生する。また、操舵力が大きい(所定値以上の)領域では油圧アクチュエータからも駆動力が発生して油圧パワーステアリング装置が操舵補助力を発生するので、電動パワーステアリング装置と油圧パワーステアリング装置との双方から操舵補助力が発生する。本発明はこのようにして、操舵力に応じて電動パワーステアリング装置による操舵補助と電動パワーステアリング装置および油圧パワーステアリング装置の双方による操舵補助とを切り替えている。
操舵力が小さい場合は例えば車両の走行時などであり、このような場合は操舵ハンドルの微妙な取り回しに対する操舵フィーリングが運転時の快適性を左右する。たとえば車速が大きいときは操舵補助力を減少させて走行安定性を重視し、一方車速が小さい場合は操舵補助力を増加させて取り回し性を重視するなど、状況に適したきめ細かな操舵補助力の統合制御を行うことで、運転時の快適性を得る。このようなきめ細かな制御は、油圧を用いて機械的に駆動力を発生する油圧パワーステアリング装置には不向きであり、制御手段により適宜電動モータの回転駆動力を自由に制御し、より幅広い領域でのきめ細かな統合制御を行うことが可能な電動パワーステアリング装置に適している。この点に着目し、本発明では操舵力が小さいとき(操舵力が所定値以下のとき)には油圧パワーステアリング装置が有効に働かず、主として操舵補助力の設定自由度の高い電動パワーステアリング装置が操舵補助力を発生するため、この電動パワーステアリング装置によってきめ細かい操舵補助を行うことができる。加えて、電動パワーステアリングが主導で操舵補助を行うことにより燃費の向上を図ることができる。
一方、操舵力が大きいときは例えば据え切り時などであり、このようなときには大きな操舵補助力が必要となる。操舵補助力が大きい場合、電動パワーステアリング装置の電動モータは高出力状態となって過熱保護などの制御が働くことがある。このような保護制御が働くと出力が制限されるために、操舵補助力不足となることがある。この点につき本発明では、操舵力が大きいとき、つまりより大きな操舵補助力が必要となるときは、電動パワーステアリング装置から操舵補助力が出力されるとともに、油圧パワーステアリング装置の油圧ポンプから作動油が油圧アクチュエータに実質的に供給されて、油圧パワーステアリング装置からも有効な操舵補助力が発生する。このため、仮に電動パワーステアリング装置の電動モータが保護制御のために出力制限された場合であっても、その分を補うべく油圧パワーステアリング装置から操舵補助力が提供されるので、大きな操舵補助力を発生させることができ、操舵力不足が生じることを防止または効果的に抑制することができる。
このように、本発明のステアリング装置は、電動パワーステアリング装置および油圧パワーステアリング装置の各々のメリットを十分に生かしつつ、且つ各々のパワーステアリング装置のデメリットを補い得るように、両パワーステアリング装置を併用したステアリング装置とすることができる。
上記発明において、油圧ポンプからの作動油が油圧アクチュエータに実質的に供給されて油圧アクチュエータが有効な駆動力を発生する閾値となる操舵力の「所定値」は、一義的に決定するものではなく、きめ細かな操舵制御の必要性と大きな操舵補助力を出力する必要性との兼ね合いで決定すればよい。またこの所定値は固定的でなくてもよく、例えば車速に応じて変化してもよい。
上記発明において、操舵力が所定値未満であるときには油圧アクチュエータが駆動力を発生しないが、これは有効な駆動力を発生しないという意味であり、実際には僅かな駆動力を発生していても、その駆動力が微弱で操舵補助をしているとはいえないような場合も含む。例えば油圧アクチュエータからの駆動力に基づく操舵補助力が電動パワーステアリング装置からの操舵補助力に対して1割未満の駆動力であるような場合は、本発明においては駆動力を発生していないものとしてもよい。操舵力が所定値未満であるときに油圧パワーステアリング装置が発生する駆動力を積極的に小さくするためには、コントロールバルブ機構のバルブ形状を例えば面取りするなどして、操舵力に対する駆動力の特性を変化させることにより実現することができる。また、コントロールバルブ機構のバルブ形状を工夫(例えばバルブを構成するランドやグルーブの幅を広くするなどして)することによって操舵力に対する不感帯領域を調整することにより、所定の操舵力未満では油圧パワーステアリング装置から駆動力が出力しないようにすることもできる。また、上記発明において、「操舵力が所定値未満の場合は主に電動パワーステアリング装置が操舵補助力を操舵量伝達手段に伝達し」とは、操舵力が所定値未満の場合には、電動パワーステアリング装置が主体となって操舵補助力を操舵量伝達手段に伝達していれば足りることを意味し、このときに油圧パワーステアリング装置から多少の操舵補助力が操舵量伝達手段に伝達されていてもよい。例えば、電動パワーステアリング装置からの操舵補助力が全体の操舵補助力の9割以上であるときには、主に電動パワーステアリング装置が操舵補助力を操舵量伝達手段に伝達していると考えてもよい。
また、前記電動パワーステアリング装置は、操舵ハンドルの操舵操作によって捩られるように前記操舵量伝達手段に取り付けられ、所定の横弾性係数を持つ第1のトーションバーと、前記第1のトーションバーの捩り量に基づいて操舵ハンドルに作用する操舵力を検出する検出手段を備え、前記制御手段は前記検出手段により検出された操舵力に基づいて前記電動モータにて発生する回転駆動力を制御する。また、前記油圧パワーステアリング装置は、操舵ハンドルの操舵操作によって捩られるように前記操舵量伝達手段に取り付けられ、前記所定の横弾性係数よりも大きい横弾性係数を持つ第2のトーションバーを備え、前記コントロールバルブ機構は、前記第2のトーションバーの捩り量に応じた油量の作動油が前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給されるように前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに流れる油量を制御する。
これによれば、油圧パワーステアリング装置のコントロールバルブ機構は第2のトーションバーの捩り量に応じた油量の作動油が油圧ポンプから油圧アクチュエータに供給されるように油量を制御する。また、第2のトーションバーは操舵力を検出するための第1のトーションバーよりも横弾性係数が大きくされ、捩り難くされており、操舵力が小さい場合はほとんど捩られない(捩り量が小さい)。このため捩り量に応じて油圧ポンプから油圧アクチュエータに供給される油量も、横弾性係数が小さいトーションバーとの比較において少なくなる。油圧アクチュエータは供給される作動油によって駆動力を発生するので、供給される作動油が少ないと発生する駆動力も小さい。よって、操舵力が小さい場合は油圧パワーステアリング装置から発生する操舵補助力は極めて小さいか、あるいは油圧パワーステアリング装置から操舵補助力が発生しない。一方、操舵力が大きい場合は第2のトーションバーも十分に捩られるために油圧パワーステアリング装置が発生する操舵補助力が大きくなる。このような構成によって、操舵力が小さいとき(所定値以下のとき)は油圧パワーステアリング装置から操舵補助力が有効に発生せずに電動パワーステアリング装置が主として有効な操舵補助力を発生し、操舵力が大きいとき(所定値以上のとき)は電動パワーステアリング装置および油圧パワーステアリング装置の双方から操舵補助力を発生するようなステアリング装置を実現することができる。
上記発明から、以下の技術的思想も把握できる。
操舵ハンドルの操舵操作量を転舵輪に伝達する操舵量伝達手段を有する車両のステアリング装置において、回転駆動力を発生し、発生した回転駆動力を操舵補助力として前記操舵量伝達手段に伝達する電動モータと、操舵ハンドルの操舵操作によって捩じられるように前記操舵量伝達手段に取り付けられ、所定の横弾性係数を持つ第1のトーションバーと、前記第1のトーションバーの捩り量に基づいて操舵ハンドルに作用する操舵力を検出する検出手段と、前記検出手段により検出された操舵力に基づいて前記電動モータにて発生する回転駆動力を制御する制御手段と、を備える電動パワーステアリング装置と、作動油を吐出する油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される作動油を給排することにより駆動力を発生し、発生した駆動力を操舵補助力として前記操舵量伝達手段に伝達する油圧アクチュエータと、操舵ハンドルの操舵操作によって捩られるように前記操舵量伝達手段に取り付けられ、前記所定の横弾性係数よりも大きい横弾性係数を持つ第2のトーションバーと、前記油圧ポンプと前記油圧アクチュエータとを連通する主配管中に設けられ、前記第2のトーションバーの捩り量に応じた油量が前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給されるように前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに流れる油量を制御するコントロールバルブ機構を備える油圧パワーステアリング装置と、を備えることを特徴とする、ステアリング装置。
ところで、上記に説明した本発明においては、操舵力が小さいとき(所定値未満のとき)は主にきめ細かな操舵補助力の制御が可能な電動パワーステアリング装置が操舵補助力を発生し、操舵力が大きいとき(所定以上のとき)には電動パワーステアリング装置と油圧パワーステアリング装置の双方が操舵補助力を発生している。この場合、電動パワーステアリング装置が正常に作動しているときは、操舵力が上記所定値に達するまで電動パワーステアリング装置による操舵補助が行われるためにドライバーは難なく操舵ハンドルを操舵操作することができる。しかし、電動パワーステアリング装置が正常に作動せず、この電動パワーステアリング装置から操舵補助力が発生しなくなったときは、操舵トルクが上記所定値に達するまで操舵補助力は付与されない。この場合にはドライバーが操舵補助なしに操舵ハンドルを操舵操作する必要があるところ、油圧パワーステアリング装置は所定の操舵力が入力されるまで有効な操舵補助力を発生しないように、例えば横弾性係数が大きくて捩りにくいトーションバーを用いて操舵補助力を発生するようにしているため、このように捩りにくいトーションバーを捩るために大きな操舵力が必要となり、ドライバーは操舵補助力を得るまでに大きな操舵力で操舵ハンドルを操作しなければならない。
このような不具合を防止するために、本発明では、ステアリング装置を、操舵力に対抗する反力を発生し、発生した反力を前記操舵量伝達手段に伝達する反力発生手段と、前記電動パワーステアリング装置または前記油圧パワーステアリング装置のいずれか一方が正常に作動していない場合に前記操舵量伝達手段に伝達する反力が減少するように前記反力発生手段が発生する反力を制御する反力制御手段と、を備えるものとすることができる。前記反力発生手段は、前記油圧ポンプから吐出される作動油の圧力により反力を生成する油圧反力機構であり、前記反力制御手段は、前記電動パワーステアリング装置が正常に作動していない場合に前記油圧反力機構にて得られる反力としての圧力を開放する圧力開放手段であるのがよい。この場合、油圧パワーステアリング装置は、操舵ハンドルの操舵操作により変形可能なトーションバーのような変形部材を備え、コントロールバルブ機構はこの変形部材の変形量に応じた油量を前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給するように前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに流れる油量を制御するものであるのがよい。
上記発明によれば、例えば油圧パワーステアリング装置が反力発生手段としての油圧反力機構を備えており、且つ油圧パワーステアリング装置がトーションバーの捩れ量に応じて駆動力を発生する方式である場合、反力が操舵ハンドルから入力される操舵力に対抗するために、操舵力は反力に抗してトーションバーを捩ることになる。つまり、トーションバー自身が横弾性係数の小さい捩じりやすいものであっても、トーションバーの見かけ上の横弾性係数が反力の分だけ増加するので、反力の増加分だけトーションバーは捩り難くなる。このため操舵力に対するトーションバーの捩じれ量が反力の大きさに応じて減少し、操舵力が小さい領域では油圧パワーステアリング装置から操舵補助力が有効に発生しない。よって、この場合、電動パワーステアリング装置が正常に作動していれば、操舵トルクの小さい領域では電動パワーステアリング装置が主体として操舵補助力を発生する。
これに対し、電動パワーステアリング装置が失陥して正常に作動することができない場合には、圧力開放手段が作動して油圧反力機構にて得られる反力の基となる圧力を開放することにより、油圧反力機構から操舵量伝達手段に作用する反力が減少される。これにより油圧パワーステアリング装置に用いられるトーションバーの見かけ上の横弾性係数が小さくなり、小さな操舵力でこのトーションバーを十分に捩ることができるようになる。したがって、この場合は小さな操舵力でドライバーに負担をかけることなく油圧パワーステアリング装置から操舵補助力を発生させることができる。
このように、本発明においては、両方のステアリング装置が正常であるときには反力を操舵量伝達手段に作用させておき、一方のステアリング装置が正常に作動していない場合には操舵量伝達手段に作用させる反力を減少させあるいはなくすことによって、一方のステアリング装置が正常に作動していないときにドライバーにかかる負担を軽減することができる。なお、反力発生手段を電動パワーステアリング装置側に設けておき、両方のパワーステアリング装置が正常に作動しているときは反力発生手段による反力を操舵量伝達手段に作用させ、油圧パワーステアリング装置が正常に作動しない場合には操舵量伝達手段に作用させる反力を減少しあるいはなくすようにしてもよい。これによれば、油圧パワーステアリング装置が正常作動していないときには操舵量伝達手段に伝達される反力が減少され、あるいは反力が伝達されなくされるので、電動パワーステアリング装置からの操舵補助力が増加し、この増加分によりドライバーが負う操舵操作の負担を軽減することができる。
上記発明から、以下の技術的思想が把握できる。
操舵ハンドルの操舵操作量を転舵輪に伝達する操舵量伝達手段を有する車両のステアリング装置において、回転駆動力を発生し、発生した回転駆動力を操舵補助力として前記操舵量伝達手段に伝達する電動モータと、操舵ハンドルに作用する操舵力に基づいて前記電動モータにて発生する回転駆動力を制御する制御手段とを備える電動パワーステアリング装置と、作動油を吐出する油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される作動油を給排することにより駆動力を発生し、発生した駆動力を操舵補助力として前記操舵量伝達手段に伝達する油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプと前記油圧アクチュエータとを連通する主配管中に設けられ、操舵ハンドルに作用する操舵力に基づいて前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給される油量を調節するコントロールバルブ機構を備える油圧パワーステアリング装置と、操舵力に対抗する反力を発生し、発生した反力を前記操舵量伝達手段に伝達する反力発生手段と、前記電動パワーステアリング装置または前記油圧パワーステアリング装置のいずれか一方が正常に作動していない場合に前記操舵量伝達手段に伝達する反力が減少するように前記反力発生手段が発生する反力を制御する反力制御手段と、を備えることを特徴とする、ステアリング装置。
また、前記電動パワーステアリング装置または前記油圧パワーステアリング装置の少なくともいずれか一方は、前記電動パワーステアリング装置または前記油圧パワーステアリング装置のいずれか他方が正常に作動していない場合に操舵補助力を増加する補助力増加手段を備えるものとすることができる。これによれば、電動パワーステアリング装置または油圧パワーステアリング装置のどちらかが正常に作動しない場合には、補助力増加手段によって、正常に作動している側のパワーステアリング装置から発生する操舵補助力が増加される。この操舵補助力の増加によって正常に作動していない側のパワーステアリング装置から発生すべきであった操舵補助力が補われるので、ドライバーにかける操舵操作の負担を軽減することができる。
また、前記補助力増加手段は前記油圧パワーステアリング装置に設けられ、前記電動パワーステアリング装置が正常に作動している場合に前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給する油量を抑え、前記電動パワーステアリング装置が正常に作動しない場合に前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給する油量を増加させるものであるのがよい。この場合、前記補助力増加手段は、前記主配管から分岐して前記コントロールバルブ機構および前記油圧アクチュエータを経由せずに前記油圧ポンプに帰還するバイパス配管中に設けられ、前記電動パワーステアリング装置が正常に作動していない場合に昇圧する昇圧手段を備えるものとすることができる。この昇圧手段は、電動パワーステアリング装置が正常に作動している場合には昇圧しないように制御されるのがよい。
これによれば、電動パワーステアリング装置が正常に作動している場合には昇圧手段が昇圧していないので、油圧ポンプから吐出される作動油は主配管およびバイパス配管の双方に流れる。このため主配管を流れる油量が相対的に減少し、油圧パワーステアリング装置から出力される駆動力が減少する。よって、操舵トルクが小さい場合には油圧パワーステアリング装置から有効な操舵補助力が発生せず、電動パワーステアリング装置が主体として操舵補助力を発生する。一方、電動パワーステアリング装置が正常に作動していない場合には昇圧手段が昇圧するので、このバイパス配管に作動油が流れ難くなる。このため主配管を流れる油量が相対的に増加し、油圧パワーステアリング装置から出力される駆動力が増加する。よって、この場合には操舵トルクが小さくても油圧パワーステアリング装置から有効な操舵補助力が発生する。このため、電動パワーステアリング装置が正常に作動していないときに、小さな操舵力でドライバーに負担をかけることなく油圧パワーステアリング装置から操舵補助力を発生させることができる。
また、前記補助力増加手段は、前記主配管中に介挿された絞り弁手段と、前記電動パワーステアリング装置が正常に作動している場合に前記絞り弁手段の開度を小さくし、前記電動パワーステアリング装置が正常に作動していない場合に前記絞り弁手段の開度を大きくするように、前記絞り弁手段の開度を調整する開度調整手段とを備えるものとすることができる。また、前記補助力増加手段は、前記油圧ポンプを駆動するためのポンプ駆動用電動モータと、前記電動パワーステアリング装置が正常に作動している場合に前記ポンプ駆動用電動モータの出力回転数を小さくし、前記電動パワーステアリング装置が正常に作動していない場合に前記ポンプ駆動用電動モータの出力回転数を大きくするように、前記ポンプ駆動用電動モータの回転数を調整する回転数調整手段とを備えるものとすることができる。このような構成にすることによっても、上記と同様の効果を奏する。
上記発明から、以下の技術的思想が把握できる。
操舵ハンドルの操舵操作量を転舵輪に伝達する操舵量伝達手段を有する車両のステアリング装置において、回転駆動力を発生し、発生した回転駆動力を操舵補助力として前記操舵量伝達手段に伝達する電動モータと、操舵ハンドルに作用する操舵力に基づいて前記電動モータにて発生する回転駆動力を制御する制御手段とを備える電動パワーステアリング装置と、作動油を吐出する油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出される作動油を給排することにより駆動力を発生し、発生した駆動力を操舵補助力として前記操舵量伝達手段に伝達する油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプと前記油圧アクチュエータとを連通する主配管中に設けられ、操舵ハンドルに作用する操舵力に基づいて前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに供給される油量を調節するコントロールバルブ機構を備える油圧パワーステアリング装置と、前記電動パワーステアリング装置または前記油圧パワーステアリング装置の少なくともいずれか一方に設けられ、前記電動パワーステアリング装置または前記油圧パワーステアリング装置のいずれか他方が正常に作動していない場合に操舵補助力を増加する補助力増加手段と、を備えることを特徴とする、ステアリング装置。
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るステアリング装置1の概略図である。
図1に示すように、本実施形態のステアリング装置1は、操舵軸20および操向軸30を備える。操舵軸20はさらに第1の操舵軸210と第2の操舵軸220とを備えて構成されている。第1の操舵軸210と第2の操舵軸220とは図示しない中間軸などによって機械的に連結されている。第1の操舵軸210はその一端に操舵ハンドル11が同軸的に連結している。この操舵ハンドル11の操舵操作(回動操作)により第1の操舵軸210が軸回りに回転する。この回転は上記した中間軸などを介して第2の操舵軸220にも伝達され、この伝達によって第2の操舵軸220も回転する。
第1の操舵軸210は第1軸211および第2軸212を有し、第1軸211が操舵ハンドル11に連結している。第1軸211と第2軸212との間には第1トーションバー41が設けられている。第1トーションバー41はその一端が第1軸211に固定され、他端が第2軸212に固定されており、第1軸211が操舵ハンドル11の操舵操作(回動操作)に伴って回転すると捩られる。
この第1の操舵軸210には電動パワーステアリング装置40が取り付けられている。電動パワーステアリング装置40は、上述の第1トーションバー41と、この第1トーションバー41の両端側に取り付けられた一対の検出手段42a,42bと、制御ユニット(ECU)43と、電動モータ44と、減速機45とを備えて構成されている。検出手段42a,42bは、第1トーションバー41の捩れ量を検出するとともに検出した捩れ量から操舵ハンドル11に入力した操舵トルク(操舵力)を計算して出力する。検出手段42a,42bが出力した操舵トルクは制御装置43に入力される。そして、制御装置43は入力した操舵トルクに応じたアシストトルク(操舵補助力)を計算し、計算されたアシストトルクが操舵軸20に伝達されるように図示しないモータ駆動回路を通じて電動モータ44に制御指令を出力する。電動モータ44は減速機45を介して第2軸212に連結されており、制御手段からの制御指令に従った回転速度で回転して回転駆動力を発生する。電動モータ44の回転は例えばウォーム減速機などの減速機45に伝達され、この減速機45にて回転速度が減速されるとともに回転トルクが増加される。そして、減速機45から操舵軸20(第2軸212)に所望の回転トルクがアシストトルクとして伝達される。
制御装置43はCPU,ROM,RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とし、上記のように検出手段42a,42bから操舵トルクが入力される他、車速センサから車速が、操舵角センサから操舵ハンドル11の操舵角などが入力されることがある。制御装置43はこれらの入力情報を基に所定のアシスト制御プログラムを実行して、操舵トルクやその他の情報に基づいたアシストトルクを計算し、計算したアシストトルクが操舵軸20に入力されるように、電動モータ44にて発生する回転トルクを電流などにより制御する。このアシストトルクは、一般的には操舵トルクが大きくなるほど大きくなるように、また車速が大きくなるほど小さくなるように設定されるが、様々な車両の状況によって最適なアシストトルクを個々に設定することもできる。このように電動パワーステアリング装置40はアシストトルクを状況に応じてきめ細かく設定することが可能である。
第2の操舵軸220は入力軸221と出力軸(またはピニオン軸)222を有している。入力軸221と出力軸222とは第2トーションバー51により接続されている。第2トーションバー51は、一端が入力軸221に接続し、他端が出力軸222に接続しており、入力軸221側から回転トルクが加えられるとそのトルクに応じた量だけ捩れるように構成されている。また、出力軸222の一端側にはピニオンギヤ222aが形成されている。
操向軸30は、シャフト部31を備えている。このシャフト部31の両端には図示しないナックルアームなどを介して転舵輪FW1,FW2が連結している。また、シャフト部31にはラック部32が形成されている。ラック部32には上述のピニオンギヤ222aが噛合しており、このピニオンギヤ222aとラック部32によってラックアンドピニオン機構を構成している。このラックアンドピニオン機構によって操舵軸20の回転が操向軸30の軸方向移動に変換される。変換された軸方向移動によって転舵輪FW1,FW2が転舵する。なお、操舵軸20および操向軸30が、操舵ハンドル11の操舵操作量(回動操作量)を転舵輪FW1,FW2に伝達する操舵量伝達手段を構成する。
第2の操舵軸220および操向軸30には油圧パワーステアリング装置50が取り付けられている。この油圧パワーステアリング装置50は、上述の第2トーションバー51と、コントロールバルブ機構52と、油圧ポンプ53と、パワーシリンダ54と、油圧ポンプ53とパワーシリンダ54とを連通する主配管55aと、リザーバタンク56とを備えて構成される。第2トーションバー51は上述のように入力軸221と出力軸222とを連結しており、入力軸221から回転トルクが与えられるとその回転トルクによって捩れる。この捩れによって入力軸221と後述するバルブスリーブ521との回転方向における角度変位が生じる。
コントロールバルブ機構52は、油圧ポンプ53とパワーシリンダ54との間の主配管55a中に設けられ、内部に入力軸221および第2トーションバー51が挿通した円筒形状のバルブスリーブ521を備えて構成されている。バルブスリーブ521は出力軸222に連結され、この出力軸222と同軸的且つ一体的に回転する。また、バルブスリーブ521はその外壁に4つのポート(第1ポート521a、第2ポート521b、第3ポート521c、第4ポート521d)が形成されている。バルブスリーブ521の内部と入力軸221との間には、これらのポートを繋ぐ4つの油路が形成される。第1油路P12は第1ポート521aと第2ポート521bを連通する。第2油路P13は第1ポート521aと第3ポート521cを連通する。第3油路P24は第2ポート521bと第4ポート521dを連通する。第4油路P34は第3ポート521cと第4ポート521dを連通する。また、第1ポート521aは主配管55aを通じて油圧ポンプ53の吐出ポート53bと連通する。第4ポート521dはドレン配管55bを通じてリザーバタンク56に連通する。
また、図示はしないが、バルブスリーブ521と入力軸221(または入力軸221の外周に取り付けられるバルブロータ)との対向面は凹凸状に形成されていて、この凹凸状の対向面間の空間が各油路に連通しているとともに、入力軸221がバルブスリーブ521に対して相対回転することによって凹凸状の対向面の配置状態が変化し、この変化により各油路の流路断面積が変化して各油路が絞られる。つまり、入力軸221が第1の操舵軸20側から回転トルクが伝達されることによってバルブスリーブ521の内部で回転すると、この回転によって第2トーションバー51が捩れ、第2トーションバー51が捩れた分だけバルブスリーブ521と入力軸221との間で角度変位が生じる。この角度変位量に応じて各油路の流路断面積が変化するようにバルブスリーブ521の内壁形状が形成されている。この流路断面積の変化によりそれぞれの油路に流れる油量が調整される。よって、各油路P12,P13,P24,P34中には、バルブスリーブ521と入力軸221とで形成される流量制御バルブA,A’,B,B’がそれぞれ介挿している状態とされる(図2参照)。
油圧ポンプ53は吸入ポート53aおよび吐出ポート53bを有し、エンジンやモータなどの駆動源からの駆動力により駆動して吸入ポート53aからリザーバタンク56内の作動油を吸入配管55cを通じて吸入し、吸入した作動油を吐出ポート53bから主配管55a内に吐出する。本実施形態において油圧ポンプ53はエンジンにより駆動される。
パワーシリンダ54は本発明の油圧アクチュエータとして作動するものであり、油圧ポンプ53から吐出される作動油を供給・排出(給排)し、これにより駆動力を発生して発生した駆動力を操向軸30に伝達する。パワーシリンダ54はその内部に作動油が充填される空間が形成されている。この内部空間にはシャフト部31が挿通されているとともに、シャフト部31に取り付けられたパワーピストン541により内部空間が左室54Lと右室54Rとに区画されている。また、パワーシリンダ54には左室54Lに通じる左方ポート54aと右室54Rに通じる右方ポート54bとが形成されている。左方ポート54aは主配管55aを介してバルブスリーブ521の第2ポート521bに、右方ポート54bは主配管55aを介してバルブスリーブ521の第3ポート521cにそれぞれ連通している。
図2は、油圧パワーステアリング装置50の油圧回路図である。図2に示すように油圧ポンプ53とパワーシリンダ54との間にコントロールバルブ機構52が介在している。このコントロールバルブ機構52は図2のように四方向の絞り弁として構成されており、操舵ハンドル11の操舵操作に伴う入力軸221とバルブスリーブ521との相対的な角度変位量に応じて各バルブの絞り量が可変とされる。具体的には、操舵ハンドル11の操舵操作により第2トーションバー51が捩れて入力軸221とバルブスリーブ521の回転方向位置が一方向にずれた場合、第1ポート521aと第2ポート521bとを連通する第1油路P12中のバルブA、および、第3ポート521cと第4ポート521dとを連通する第4油路P34中のバルブA’が開き、第1ポート521aと第3ポート521cとを連通する第2油路P13中のバルブB、および、第2ポート521bと第4ポート521dとを連通する第3油路P24中のバルブB’が閉じる。このため、油圧ポンプ51から第1ポート521aに達した作動油はバルブが開いている第1油路P12側を主に流れて第2ポート521bに達し、この第2ポート521bから左方ポート54aを経てパワーシリンダ54の左室54Lに流れる。これにより左室54Lに油圧ポンプ53からの作動油が供給され、この供給された作動油により油圧が発生してパワーピストン541は図示左面から圧力を受ける。この圧力がシャフト部31に伝達されることによってシャフト部31が軸方向駆動力を発生し、この軸方向駆動力がアシスト力とされる。
操舵ハンドル11が上記のアシスト力を受けて操舵操作されてシャフト部31およびこのシャフト部31に取り付けられたパワーピストン541が図示右方に移動すると、パワーシリンダ54中の右室54Rの容積が減少し、それに伴い右室54R内の作動油が右方ポート54bから排出される。排出された作動油は主配管55aを通って第3ポート521cに入り、この第3ポート521cからバルブが開いている第4油路P34を通って第4ポート521dに達し、第4ポート521dからドレン配管55bを通ってリザーバタンク56に到達する。
一方、操舵ハンドル11の操舵操作により第2トーションバー51が捩れて入力軸221とバルブスリーブ521の回転方向位置が他方向にずれた場合、上記とは逆にバルブBおよびバルブB’が開き、バルブAおよびバルブA’が閉じる。したがって、第1ポート521aから流入した作動油はバルブが開いている第2油路P13を通って第3ポート521cに流れ、第3ポート521cから右方ポート54bを経てパワーシリンダ54の右室54Rに流れる。これにより右室54Rに油圧ポンプ53からの作動油が供給され、この供給された作動油によりパワーピストン541は図示右面から圧力を受ける。この圧力がシャフト部31に伝達されることによってシャフト部31が軸方向駆動力を発生し、この軸方向駆動力がアシスト力とされる。
操舵ハンドル11が上記のアシスト力を受けて操舵操作され、これに伴ってシャフト部31およびこのシャフト部31に取り付けられたパワーピストン541が図示左方に移動すると、パワーシリンダ54中の左室54Lの容積が減少し、それに伴い左室54L内の作動油が左方ポート54aから排出される。排出された作動油は主配管55aを通って第2ポート521bに入り、この第2ポート521bからバルブが開いている第3油路P24を通って第4ポート521dに達し、第4ポート521dからドレン配管55bを通ってリザーバタンク56に到達する。
また、操舵ハンドル11が中立状態であるときなどの第2トーションバー51が捩られていない場合には、全てのバルブA,A’,B,B’開いている。よって、この場合、油圧ポンプ51から第1ポート521aに流れた作動油は流路P12および流路P13に共に流れる。流路P12から第2ポート521bに達した作動油は流路P24を流れて第4ポート521dに達する。流路P13から第3ポート521cに達した作動油は流路P34を流れて第4ポート521dに達する。そして、第4ポート521dにて合流してドレン配管55bを通ってリザーバタンク56に流れる。このように、第2トーションバー51が捩られていない場合は、油圧ポンプ53からの油がパワーシリンダ54内を流れずにリザーバタンク56に達する。
本実施形態のステアリング装置1において、第2トーションバー51の横弾性係数k2は、第1トーションバー41の横弾性係数k1よりも大きくされている。つまり、第2トーションバー51は第1トーションバー41に比べて捩り難くされている。したがって、ドライバーが操舵ハンドル11に入力する操舵トルクが小さい場合には、第1トーションバー41のみが捩られ、第2トーションバー51は実質的に捩られない(実際には微小に捩られるが、この微小な捩れでは、油圧パワーステアリング装置50が有効な駆動力を発生しない)。このため操舵トルクが小さい場合には、実質的に電動パワーステアリング装置40のみが働き、第1トーションバー41の捩れにより検出された操舵トルクの大きさに応じて電動モータ44が駆動して電動パワーステアリング装置40による操舵補助が行われる。例えば、走行中の操舵操作などでは操舵トルクが小さく、このようなときに電動パワーステアリング装置40のみが実質的に働いて操舵アシストを行う。電動パワーステアリング装置40は上述のように様々な入力情報に応じてアシストトルクの統合制御を行うことにより、様々な状況に応じてきめ細かくアシストトルクを設定できる。よって、操舵トルクが小さいとき(所定値以下のとき)は、電動パワーステアリング装置40からのきめ細かい操舵補助によって、ドライバーは操舵感を損なわれずに快適な操舵操作を行うことができる。
一方、ドライバーが入力する操舵トルクが大きい場合には、その操舵トルクの大きさに応じて第1トーションバー41のみならず第2トーションバー51も十分に捩られる。このため、第1トーションバー41の捩れに応じて電動パワーステアリング装置40からアシストトルクが発生するとともに、第2トーションバー51の捩れに応じて油圧パワーステアリング装置50からもアシスト力が発生する。これにより、電動パワーステアリング装置40と油圧パワーステアリング装置50との双方により操舵補助が行われる。ここで、例えば据え切り動作を行う場合や車両のフロント質量が大きい場合などは、非常に大きな操舵トルクが必要となるが、このときに電動パワーステアリング装置40のみからアシストトルクを操舵軸20に供給した場合、電動モータ44が高出力状態(高電圧・高電流状態)となり、過熱保護等の制御が働いて出力トルクが制限されることがある。このような場合には出力の制限に伴ってアシストトルクも制限されてしまい、その分ドライバーに操舵操作に負担をかけることになる。これに対し、本実施形態では操舵トルクが大きいときは電動パワーステアリング装置40のみならず油圧パワーステアリング装置50からも操舵補助力を発生しているため、仮に上記のように電動パワーステアリング装置40からのアシストトルクが制限されても、その分を油圧パワーステアリング装置50からのアシスト力で補うことができる。このため、操舵トルクが大きい場合でも十分な操舵アシストを行うことができ、ドライバーの操舵操作に負担をかけることはない。
図3は、操舵トルクに対する操舵補助力(アシストトルク、アシスト力)の変化をパワーステアリング装置別に示したグラフである。図において、実線が電動パワーステアリング装置40における操舵トルクに対するアシストトルクの変化を示すグラフ、一点鎖線が油圧パワーステアリング装置50における操舵トルクに対するアシスト力の変化を示すグラフである。このグラフからわかるように、本実施形態のステアリング装置1によれば、操舵トルクが小さい(操舵トルクが所定値T未満の)領域では油圧パワーステアリング装置50が有効に働かずに主として電動パワーステアリング装置40からのアシストトルクが操舵量伝達手段に伝達され、操舵トルクが大きい(操舵トルクが所定値T以上の)領域では電動パワーステアリング装置40からのアシストトルクおよび油圧パワーステアリング装置50からのアシスト力が操舵量伝達手段に伝達される。このため、操舵トルクが小さい場合は電動パワーステアリング装置40によりきめ細かい統合制御を行うことができ、一方据え切りなどの大きな操舵トルクが必要なときには電動パワーステアリング装置40および油圧パワーステアリング装置50の双方から大きな操舵補助力を得ることができる。
また、上記のような作用効果を奏するために、油圧パワーステアリング装置50に設けられる第2トーションバー51の横弾性係数k2が操舵トルクを検出するための第1トーションバー41の横弾性係数k1よりも大きくされている。つまり、第2トーションバー51は捩り難く、入力トルクに対する捩り量が小さくなるように形成されているので、操舵トルクが小さい領域では油圧パワーステアリング装置50から駆動力が有効に生じない。よって、電動パワーステアリング装置40と油圧パワーステアリング装置50を併用しているにもかかわらず、操舵トルクが小さいときは電動パワーステアリング装置40を主導に操舵補助が行われ、操舵トルクが大きいときは両方のパワーステアリング装置で操舵補助が行なわれる。これにより各々のパワーステアリング装置のメリットを活かしつつ、両者を併用することができる。
また、本実施形態では操舵トルクを検出するために第1トーションバー41を用いているが、他の方法により操舵トルクを検出できるのであれば、この第1トーションバー41を省略することもできる。この場合、油圧パワーステアリング装置50に用いられる第2トーションバー51は、通常の油圧パワーステアリング装置に用いられるトーションバーよりも横弾性係数の大きなトーションバーを用いるようにしてもよい。このようにすれば、操舵トルクに対する捩じれ量が通常の油圧パワーステアリング装置よりも少なくなり、操舵トルクが小さい場合に油圧パワーステアリング装置から有効なアシスト力が発生せずに、主として電動パワーステアリング装置40からのアシストトルクにより操舵アシストを行うことができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明するが、本実施形態の基本的構成は上記第1実施形態と共通する。よって、本実施形態のステアリング装置の概略は図1に示すステアリング装置1と同様であるのでこの図を援用するものとする。図4は、本発明の第2実施形態に係るステアリング装置に適用される油圧回路図である。図に示すように、本実施形態のステアリング装置は、油圧パワーステアリング装置50に油圧反力機構58を設け、この油圧反力機構58からの油圧反力を操舵量伝達手段に作用させている点が第1実施形態と異なる。以下、異なる点を中心に説明し、上記第1実施形態と同様な構成部分については同一符号で示してその具体的説明を省略する。
図4に示すように、本実施形態における油圧パワーステアリング装置50の油圧回路中には、分配器(フローデバイダ)57と、油圧反力機構58と反力用電磁流量調整弁59が設けられている。分配器57は主配管55a中の油圧ポンプ53と第1ポート521aとの間に設けられている。分配器57はメイン油路57aと分岐油路57bを備えている。メイン油路57aは油圧ポンプ53と第1ポート521aとを連通する。分岐油路57bはメイン油路57aから分岐しており、油圧ポンプ53とリザーバタンク56とを連通する。また、メイン油路57aには絞り57cが、分岐油路57b中には絞り57dが設けられている。これらの絞りの比にしたがってメイン油路57aと分岐油路57b中を流れる油量が調整される。
油圧反力機構58は、分岐油路57bに連通しており、内部に油圧反力室58aを形成している。油圧反力室58aには入力軸221が挿通している。図4に示すように油圧反力室58a内に挿通された入力軸221には径方向外方に2つの平板状の羽部221aが対称的に形成されており、この羽部221aが油圧反力室58aに配置している。また、この羽部221aの両面に対面するように2対(4個)のプランジャ581,582が入力軸221を中心に対角配置している。各プランジャ581,582の羽部221aに対向した面と反対側の面(背面)は、油圧ポンプ53から吐出される作動油が発生する油圧を受けている。この状態で入力軸221が回転するためには、羽部221aがプランジャ581,582に当接するとともに、プランジャ581,582が受けている油圧に抗した回転トルクにより入力軸221がプランジャ581,582を押しのける必要がある。このときプランジャ581,582から作用する抵抗力が入力軸221に加えられる操舵トルクに対抗する反力として作用する。
また、反力用電磁流量調整弁59は本発明の圧力開放手段に該当し、図示しない制御装置からの制御指令により開度が調整される。この反力用電磁流量調整弁59が閉じている状態においては、油圧ポンプ53から油圧反力室58aに作用する油圧により油圧反力が発生しており、この油圧反力が入力軸221に作用する。一方、反力用電磁流量調整弁59が開いているときは、プランジャ581,582に油圧を供給するための作動油がリザーバタンク56に流れるので、各プランジャ581,582の背面に油圧は作用しなくなり、油圧反力機構58からの反力が入力軸221に作用しない。
油圧反力機構58で発生する油圧反力は、操舵トルクに対抗する力であり、入力軸221を回転し難くするための力として働いている。したがって、操舵ハンドル11から入力軸221に入力される操舵トルクはこの油圧反力に抗して入力軸221を回転させることになるので、入力軸221を回転させるための力は油圧反力の分だけ減少する。すなわち、油圧反力は、入力軸221と出力軸222との間に取り付けられた第2トーションバー51の捩り抵抗を増加させる力として作用し、その結果、第2トーションバー51の見かけ上の捩り抵抗が油圧反力の分だけ増加する。このように本実施形態では、第2トーションバー51の見かけ上の捩り抵抗が自身の持つ実際の横弾性係数に応じた捩り抵抗に油圧反力を加味した値となるので、実際の横弾性係数を小さいものとしても見かけ上は横弾性係数が大きいトーションバーとなる。本実施形態では、例えば第2トーションバー51の横弾性係数を第1トーションバー41の横弾性係数k1と等しいか、それ以下のものとすることができる。
上記構成において、電動パワーステアリング装置40が正常に作動している場合には、反力用電磁流量調整弁59は閉じている。したがって、油圧反力機構58から油圧反力が入力軸221に作用する。このため第2トーションバー51は油圧反力の分だけ見かけの横弾性係数が大きくなり、捩り難くなる。よって、小さな(所定のトルク以下の)操舵トルクでは第2トーションバー51はほとんど捩ることができず、このため油圧パワーステアリング装置50からはアシスト力はほとんど発生しない。よって、この場合は主に電動パワーステアリング装置40からアシストトルクが発生し、このアシストトルクによって操舵補助が行われる。上述のように電動パワーステアリング装置40は様々な状況に応じて適宜アシストトルク量を設定できるため、操舵トルクが小さいときは電動パワーステアリング装置40によってきめ細かい統合制御が行われる。
また、操舵ハンドル11から入力される操舵トルクが大きくなると、その操舵トルクが第2トーションバー51の持つ捩り抵抗および油圧反力に抗して第2トーションバー51に作用し、第2トーションバー51が捩られる。第2トーションバー51が捩られることにより入力軸221とバルブスリーブ521との角度変位が生じ、この角度変位の大きさに応じてパワーシリンダ54に油圧ポンプから吐出した作動油が給排し、油圧パワーステアリング装置50からもアシスト力が発生する。よって、操舵トルクが大きい(所定のトルク以上の)場合には、電動パワーステアリング装置40からのアシストトルクと油圧パワーステアリング装置50からのアシスト力との双方により操舵補助が行われる。このため電動パワーステアリング装置40が出力制限されても油圧パワーステアリング装置50からのアシスト力により補うことができる。
ここで、電動パワーステアリング装置40が電動モータ44の作動不良や電気回路の接続不良などにより正常に作動しない場合、特に電動モータ44の駆動が不可能となってアシストトルクを発生することができない状態となっている場合を想定する。この場合、上記第1実施形態に係るステアリング装置1においては、油圧パワーステアリング装置50のみからのアシスト力を受けて操舵操作を行うことになるが、油圧パワーステアリング装置50に用いられる第2トーションバー51の弾性係数k2は大きく、第2トーションバー51は捩じり難くなっている。したがって、ドライバーは、油圧パワーステアリング装置50から有効にアシスト力が発生するまでの間、大きな操舵トルクで操舵ハンドル11を操作して、捩り難くなっている第2トーションバー51を捩らなければならない。
これに対し、本実施形態に係るステアリング装置では、電動モータ44の駆動が不可能となりアシストトルクを発生することができない状態となっている場合には、制御装置43がこれを検知し、電動パワーステアリング装置40がフェイルしたという信号(例えばウォーニング信号)を発する。これとともに反力用電磁流量調整弁59が開く。反力用電磁流量調整弁59が開くことにより油圧反力室58a内のプランジャ581,582に油圧を作用している作動油がリザーバタンク56に流れるため、油圧反力室58a内の圧力が開放されて、油圧反力が入力軸221に作用しなくなる。これにより第2トーションバー51を捩ることに対する抵抗力としての油圧反力がなくなり、第2トーションバー51は実際の横弾性係数に従って捩れるようになる。本実施形態において第2トーションバー51の実際の横弾性係数は第1トーションバー41の横弾性係数と等しいかそれ以下であるので、僅かの操舵トルクによって第2トーションバー51を大きく捩ることができ、これにより僅かの操舵トルクにより油圧パワーステアリング装置50から有効なアシスト力を発生させることができる。
このように、本実施形態のステアリング装置によれば、油圧パワーステアリング装置50が反力発生手段としての油圧反力機構58を備え、この油圧反力機構58にて操舵力に対抗する油圧反力が発生する。このため第2トーションバー51の捩り抵抗が油圧反力の分だけ増加し、第2トーションバーの見かけ上の横弾性係数が増加して第2トーションバー51が捩り難くなり、操舵力に対する捩じれ量が減少する。よって、操舵力が小さい領域では油圧パワーステアリング装置50からアシスト力が有効に作用せずに電動パワーステアリング装置40を主体として操舵補助を行うことができる。また、電動パワーステアリング装置40が失陥などにより正常作動することができない状況下では、反力用電磁流量調整弁59が開くことにより油圧反力室58a内の油圧を開放し、油圧反力機構58から作用する油圧反力が減少される(または0とされる)。これにより第2トーションバー51の見かけ上の横弾性係数が小さくなり(本来の横弾性係数となり)、小さな操舵力でこの第2トーションバー51を十分に捩ることができる。したがって、電動パワーステアリング装置40が正常に作動していないときは、小さな操舵力でドライバーに負担をかけることなく油圧パワーステアリング装置50から有効な操舵補助力を発生させることができる。
(変形例1)
図5は、本実施形態のステアリング装置の油圧回路の変形例である。この変形例では、反力用電磁流量調整弁59が油圧反力室58aの上流側に配置されている。したがって、油圧反力機構58の油圧反力を有効に作用させるためには反力用電磁流量調整弁59が開いた状態とされ、作用させないためには反力用電磁流量調整弁59が閉じた状態とされる。また、分岐油路57bの油圧反力室58aが接続されている部分よりも下流側の部分からはリリーフ用分岐流路57eが分岐油路57bから分岐している。このリリーフ用分岐流路57e中にはリリーフバルブRBが介挿している。リリーフバルブRBは、電動パワーステアリング装置40が正常に作動している場合であっても油圧反力機構58にて生ずる油圧反力を入力軸221に作用させる必要がない場合や、油圧反力機構58にて作用すべき油圧力が所定圧力以上となったときなどに開き、油圧反力室58a内のプランジャ581,582に油圧力を作用させている圧油をリザーバタンク56に流す。これにより、必要なときのみに必要なだけ油圧反力機構58から油圧反力を入力軸221に作用させることができる。油圧反力の生成は油圧ポンプ53に負荷をかけるので、燃費などの省エネルギー的な見地からは常時油圧反力を生成しているのは好ましくない。よって、このように必要なときのみに必要なだけの油圧反力を生成することで、省エネルギーに貢献したステアリング装置を提供することができる。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。この実施形態に係るステアリング装置も、その概略構成が図1に示すステアリング装置1と同一である。図6は、本実施形態に係るステアリング装置に適用される油圧回路図である。本実施形態のステアリング装置は、油圧パワーステアリング装置50の油圧回路に昇圧用のコントロールバルブ機構を設けている点を特徴とする。以下、特徴点を中心に説明し、上記第1実施形態と同様な構成部分については同一符号で示してその具体的説明を省略する。
図6に示すように、本実施形態における油圧パワーステアリング装置には、油圧ポンプ53からパワーシリンダ54までの主配管55aから分岐したバイパス配管55dと、このバイパス配管55d中に設けられた昇圧用コントロールバルブ機構62を有している。バイパス配管55dは、上述のように主配管55aから分岐し、コントロールバルブ機構52およびパワーシリンダ54を経由せずにリザーバタンク56に流れ、このリザーバタンク56から油圧ポンプ53の吸入口53aに帰還する。昇圧用コントロールバルブ機構62は、コントロールバルブ機構52と同軸的に入力軸221とバルブスリーブ521(図1参照)との間に形成されている。昇圧用コントロールバルブ機構62には、図に示すように油路中に6個の絞り弁C,D,E,F,G,Hが形成されている。
また、昇圧用コントロールバルブ機構62は、第1ポート621a、第2ポート621b、第3ポート621c、第4ポート621dといった4つのポート、および、第1ポート621aと第2ポート621bとを連通する第1油路P12’、第1ポート621aと第3ポート621cとを連通する第2油路P13’、第2ポート621bと第4ポート621dとを連通する第3油路P24’、第3ポート621cと第4ポート621dとを連通する第4油路P34’が形成されている。
第1油路P12’には2つのバルブC,Eが形成されている。第2油路P13’にも2つのバルブD,Fが形成されている。第3油路P24’にはバルブGが、第4油路P34’にはバルブHがそれぞれ形成されている。これらのバルブは、コントロールバルブ機構52内の各バルブと同様に、入力軸221とバルブスリーブ521の角度変位に連動して絞り量が変更される。具体的には、入力軸221が図の矢印a方向に回転して入力軸221とバルブスリーブ521とが一方向に角度変位した場合には、コントロールバルブ機構52内のバルブAおよびA’の絞り開度が大きくなるとともにバルブBおよびB’の絞り開度は小さくなり、昇圧用コントロールバルブ機構62においては、バルブD,E,Gの絞り開度が大きくなるとともにバルブC,F,Hの絞り開度が小さくなる。
上記とは逆に、入力軸221が図の矢印b方向に回転して入力軸221とバルブスリーブ521とが他方向に角度変位した場合には、コントロールバルブ機構52内のバルブBおよびB’の絞り開度が大きくなるとともにバルブAおよびA’の絞り開度は小さくなり、昇圧用コントロールバルブ機構62においては、バルブC,F,Hの絞り開度が大きくなるとともにバルブD,E,Gの絞り開度が小さくなる。
昇圧用コントロールバルブ機構62の第2ポート621bと第3ポート621cは、連通油路55eにより連通している。この連通油路55eの途中には昇圧用電磁流量調整弁63が介挿している。この昇圧用電磁流量調整弁63は、通常時には開いており、電動パワーステアリング装置40が正常に作動していない場合、あるいは車速が小さいとき(低速走行時)に閉じる(または開度を小さくする)。昇圧用コントロールバルブ機構62の第4ポート621dはリザーバタンク56に連通している。また、バルブEおよびバルブFは流路断面積が大きく設計されており、バルブGおよびバルブHは流路断面積が小さく設計されている。
上記構成において、電動パワーステアリング装置40が正常に作動している場合には、昇圧用電磁流量調整弁63は開いている。この状態で例えば入力軸221が図の矢印a方向に回転してバルブスリーブ521との間で角度変位を生じた場合には、昇圧用コントロールバルブ機構62のバルブD,E,Gが開き、バルブC,F,Hが絞られる。よって、油圧ポンプ53からバイパス配管55dを通って昇圧用コントロールバルブ機構62の第1ポート621aに達した作動油は、第1ポート621aから第2油路P13’を通って第3ポート621cに流れる。ここで、第2油路P13’を通過するときに絞られているバルブFを通るが、もともとバルブFの流路断面積が大きいので、このバルブFを作動油が通過してもそれほど昇圧しない。
第3ポート621cに達した作動油は第4油路P34’に流れようとするが、第4油路P34’中のバルブHは絞られており、且つこのバルブHはもともとの流路断面積が小さく設計されているので、第4油路P34’を流れることはできない。したがって、作動油は連通油路55eを流れる。そして、連通油路55e中の昇圧用電磁流量調整弁63を通過して第2ポート621bに達する。第2ポート621bに達した作動油は第3油路P24’を通り、開度が大きくされているバルブGを経て第4ポート621dに達し、そこからリザーバタンク56に流れる。
上記のように、昇圧用電磁流量調整弁63が開いている状態では、昇圧用コントロールバルブ機構62中の油路内で昇圧はほとんど生じない。このためバイパス配管55dを通って昇圧用コントロールバルブ機構62を経てリザーバタンク56に流れる油量は比較的多くなり、その結果相対的に主配管55aを通ってコントロールバルブ機構52中を流れる油量が減少する。コントロールバルブ機構52を流れる油量が減少すると、パワーシリンダ54にて発生する駆動力も減少する。つまり、パワーシリンダ54にて発生する駆動力が抑えられる。したがって、操舵トルクが小さい(所定値以下のとき)ときは油圧パワーステアリング装置50から有効なアシスト力が発生せず、電動パワーステアリング装置40からのアシストトルクを主体とした操舵補助が行われる。また、操舵トルクが大きくなると、油圧パワーステアリング装置50からも有効なアシスト力が発生するので、この場合は電動パワーステアリング装置40と油圧パワーステアリング装置50の双方により操舵補助が行われる。なお、上記においては入力軸221が図6の矢印a方向に回転した場合について説明したが、矢印b方向に回転した場合は開くバルブと絞られるバルブが上記とは逆になるだけで、コントロールバルブ機構52に流れる油量は変わらない。
電動パワーステアリング装置40が正常に作動せず、電動モータ44からアシストトルクを発生することが不可能となっている場合には、昇圧用電磁流量調整弁63が閉じる。この場合において、例えば入力軸221が図6の矢印b方向に回転した場合には、昇圧用コントロールバルブ機構62のバルブC,F,Hが開き、バルブD,E,Gが絞られる。よって、油圧ポンプ53からバイパス配管55dを通って昇圧用コントロールバルブ機構62の第1ポート621aに達した作動油は、第1ポート621aから第1油路P12’を通り第2ポート621bに達する。ここで、第1油路P12’を通過するときに絞られているバルブEを通るが、もともとバルブEの流路断面積が大きいので、このバルブEを作動油が通過する際にそれほど昇圧しない。
第2ポート621bに達した圧油(作動油)は第3油路P24’または連通油路55eに流れるが、連通油路55e中の昇圧用電磁流量調整弁63は閉じられているので、作動油は第3油路P24’を通過せざるを得ない。よって、作動油はこの第3油路P24’を通って第4ポート621dに達し、そこからリザーバタンク56に流れる。このときバルブGの絞りによって昇圧される。なお、昇圧用電磁流量調整弁63は完全に閉じてなくてもよく、連通油路55eの流路を絞る程度でもよい。この場合、作動油は連通油路55eにも流れるが、この連通油路55eでも昇圧されることになる。
このように、昇圧用電磁流量調整弁63が閉じている場合は昇圧用コントロールバルブ機構62中の油路内で昇圧されるので、バイパス配管55dを通って昇圧用コントロールバルブ機構62を流れる油量が少なくなり、その結果相対的に主配管55aを通ってコントロールバルブ機構52を流れる圧量が増加する。コントロールバルブ機構52を流れる油量が増加すれば、パワーシリンダ54にて発生する駆動力も増加する。したがって、操舵トルクが小さい場合であっても油圧パワーステアリング装置50から有効なアシスト力が発生する。すなわち、電動パワーステアリング装置40が正常に作動していない場合は、昇圧用電磁流量調整弁63を閉じることによって、小さい操舵トルクで油圧パワーステアリング装置50から有効なアシスト力を発生させることができる。このため油圧パワーステアリング装置50からアシスト力が発生するまでに大きな操舵トルクが必要となってドライバーの操舵操作に負担をかけることはない。
以上のように、本実施形態は、電動パワーステアリング装置40が正常に作動しているときは油圧パワーステアリング装置50から出力されるアシスト力を抑え、電動パワーステアリング装置40が正常に作動していないときには油圧パワーステアリング装置50から出力されるアシスト力を増加する補助力増加手段として、主配管55aから分岐するバイパス配管55dと、このバイパス配管中に設けられて電動パワーステアリング装置が正常に作動していない場合に昇圧する昇圧手段(昇圧用コントロールバルブ機構62および昇圧用電磁流量調整弁63)を備えるように構成したので、電動パワーステアリング装置40の失陥時に小さな操舵トルクでドライバーに負担をかけることなく油圧パワーステアリング装置50から有効なアシスト力を得ることができる。
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。図7は、本実施形態に係るステアリング装置の概略図である。このステアリング装置1は、油圧ポンプ53とパワーシリンダ54との間の主配管55a中に絞り弁手段としての油圧用電磁流量調整弁71を設け、この油圧用電磁流量調整弁71の開度を開度調整手段72で調整することにより、油圧ポンプ53からパワーシリンダ54に供給される油量を調整することを特徴としている。その他の構成は第1実施形態のステアリング装置1と同一である。油圧用電磁流量調整弁71は、図に示すように主配管中であって油圧ポンプ53の吐出ポート53bの下流側に設けられている。この油圧用電磁流量調整弁71は開度調整手段72に電気的に接続されている。この開度調整手段72によって、油圧用電磁流量調整弁71は電動パワーステアリング装置40が正常に作動しているときには開度を減少し、正常に作動していないときには開度を増加するように制御される。
したがって、電動パワーステアリング装置40が正常に作動している場合は、油圧用電磁流量調整弁71の開度が絞られることによって油圧ポンプ53側からパワーシリンダ54側に供給される油量が少なくなる。これにより油圧パワーステアリング装置50から出力されるアシスト力が小さくなり、小さな操舵トルクでは油圧パワーステアリング装置50から有効なアシスト力が発生しない。このため操舵トルクが小さい領域では電動パワーステアリング装置40が主としてアシストトルクを発生する。一方、操舵トルクが大きくなると、油圧パワーステアリング装置50からも有効なアシスト力が発生するので、この場合は電動パワーステアリング装置40および油圧パワーステアリング装置50の双方からアシストトルクおよびアシスト力が操舵量伝達手段に伝達され、双方のパワーステアリング装置によって操舵補助が行われる。なお、電動パワーステアリング装置40が正常に作動している場合であって、操舵トルクが大きい場合には、油圧用電動流量調整弁71の開度を増加してパワーシリンダ54への供給油量を増加してもよい。
また、電動パワーステアリング装置40が正常に作動していない場合は、油圧用電磁流量調整弁71の開度が増加することによって油圧ポンプ53側からパワーシリンダ54側に供給される油量が上記の場合と比べて大きくなる。これにより油圧パワーステアリング装置50から出力されるアシスト力が上記の場合と比べて大きくなり、小さな操舵トルクで油圧パワーステアリング装置50から有効なアシスト力を発生させることができる。このため電動パワーステアリング装置40が正常に作動していない場合に油圧パワーステアリング装置50から有効にアシスト力を発生させるまでに大きな操舵トルクを必要とせず、ドライバーの操舵操作に負担をかけることはない。
このように、本実施形態のステアリング装置によれば、電動パワーステアリング装置40が正常に作動していないときに油圧パワーステアリング装置50から出力される操舵補助力を増加させる補助力増加手段として、油圧パワーステアリング装置50の主配管55a中に介挿された絞り弁手段としての油圧用電磁流量調整弁71と、電動パワーステアリング装置40が正常に作動している場合に油圧用電磁流量調整弁71の開度を小さくし、正常に作動していない場合に油圧用電磁流量調整弁71の開度を大きくするように、油圧用電磁流量調整弁71の開度を調整する開度調整手段72と、を備えるものしているので、簡単な構成で油圧パワーステアリング装置50のアシスト力を調整することができる。
なお、油圧ポンプ53をエンジンにより駆動している場合は、油圧ポンプ53の回転数はエンジン回転数に依存ので、アイドリング時などエンジ回転数が低い場合は油圧ポンプ53の回転数も低くなって吐出油量も少なくなる。このため電動パワーステアリング装置40が正常に作動しておらず、操舵トルクが小さい場合でも大きなアシスト力を油圧パワーステアリング装置50から発生させたいときに、エンジン回転数が低いと目標とする圧力まで油圧を高めることができないおそれがある。
図8は油圧ポンプ53の回転数と油圧ポンプ53から吐出される作動油の吐出流量との関係を表したグラフである。電動パワーステアリング装置40が正常に作動しているときは、油圧ポンプ53の回転数と吐出流量は図の実線で示されるように変化する。この場合は電動パワーステアリング装置40からのアシストトルクも発生しているため、油圧ポンプの53の回転数が低くて圧油の吐出量が少なくても電動パワーステアリング装置40からのアシストトルクが十分な操舵アシストを行うため、ドライバーの操舵操作に負担をかけることはない。これに対し、電動パワーステアリング装置40が正常に作動していないときは、油圧パワーステアリング装置50のみで操舵アシストを行う必要があるが、このときエンジンが低回転数で回転している場合は油圧ポンプも低回転でしか回転しないため、油圧パワーステアリング装置50から十分なアシスト力を発生することができないおそれがある。このような事態の発生を防止するため、本実施形態では、電動パワーステアリング装置40が正常に作動していないときは、必要なアシスト力を発生し得るだけの作動油を油圧ポンプ53が吐出できるように、エンジン回転数を一定回転数以上にしておく。
図8の例で示せば、電動パワーステアリング装置40が正常に作動していないときに油圧ポンプ53の吐出量が図の一点鎖線で示した量Qだけ必要と判断される場合には、エンジンがアイドリング中であっても、油圧ポンプ53が上記吐出量Qを吐出できるだけの回転数(図ではN回転数)で回転するようにエンジン回転数を制御する。具体的には、電動パワーステアリング装置40が正常でないと判断した場合にウォーニング信号などでこれを検知し、検知した信号をエンジン制御を行う制御装置に送信し、この制御装置にてエンジン回転数を上記のように制御する。この制御により、電動パワーステアリング装置40が正常に作動していないときは、例えエンジンがアイドリング状態であっても小さな操舵トルクにより油圧パワーステアリング装置50から有効なアシスト力を発生させることができる。
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について説明する。図9は、本実施形態に係るステアリング装置の概略図である。このステアリング装置1は、油圧ポンプ53を駆動するポンプ駆動用電動モータ73と、このポンプ駆動用電動モータ73の駆動を制御する駆動制御装置74とを備えている。その他の構成は第1実施形態のステアリング装置1と同一である。ポンプ駆動用電動モータ73は、電動パワーステアリング装置40が正常に作動している場合には低い回転数で作動し、正常に作動していない場合には高い回転数で作動するように、駆動制御装置74により回転数が調整され、この回転数制御により油圧ポンプ53の回転数が制御される。
図10は、ポンプ駆動用電動モータ73の回転数制御によって制御される油圧ポンプ53の回転数と油圧ポンプ53から吐出される作動油の吐出量との関係を表したグラフである。図において、一点鎖線および二点鎖線で示される直線部分が、電動パワーステアリング装置40が正常に作動している場合における油圧ポンプ53の回転数と吐出量との関係を示す部分であり、実線で示される直線部分が、電動パワーステアリング装置40が正常に作動していない場合における油圧ポンプ53の回転数と吐出量との関係を示す部分である。
電動パワーステアリング装置40が正常に作動している場合であるときは、ポンプ駆動用電動モータ73は操舵トルクの大小に応じてその回転数が駆動制御装置74により調整される。この場合、例えば走行時の操舵操作のように入力する操舵トルクが小さいときは、油圧ポンプ53が図10の一点鎖線で示される操舵トルク小領域の範囲内の低回転数で回転するように、駆動制御装置74がポンプ駆動用電動モータ73の回転数を制御する。このため油圧ポンプ53から吐出される油量も少量となって油圧パワーステアリング装置50から有効なアシスト力が発生せず、電動パワーステアリング装置40からのアシストトルクが主に操舵補助力として作用する。
また、電動パワーステアリング装置40が正常に作動している場合であって、例えば据え切り時などのように入力する操舵トルクが大きいときは、油圧ポンプ53が図10の二点鎖線で示される操舵トルク大領域の範囲内の中回転数で回転するように、駆動制御装置74がポンプ駆動用電動モータ73の回転数を制御する。このため油圧ポンプ53から吐出される油量も多くなって油圧パワーステアリング装置50からも有効にアシスト力が発生する。よって、電動パワーステアリング装置40と油圧パワーステアリング装置50との双方により大きな操舵補助力が発生する。
また、電動パワーステアリング装置が正常に作動していない場合は、油圧ポンプ53が図10の実線で示されるEPS異常領域の範囲内の高回転数で回転するように、駆動制御装置74がポンプ駆動用電動モータ73の回転数を制御する。このため入力する操舵トルクが小さい場合であっても油圧ポンプ53は高速で回転して大量の作動油を吐出するので、僅かな操舵トルクの入力でも油圧パワーステアリング装置50から有効なアシスト力が発生する。このように、電動パワーステアリング装置40が正常に作動していない場合に操舵トルクが小さくても油圧パワーステアリング装置50から有効にアシスト力が発生するので、油圧パワーステアリング装置50からのアシスト力を得るまでにドライバーの操舵操作に負担をかけることはない。
本実施形態のステアリング装置によれば、電動パワーステアリング装置40が正常に作動していないときに油圧パワーステアリング装置50から出力する操舵補助力を増加させる補助力増加手段として、油圧ポンプ53を駆動するためのポンプ駆動用電動モータ73と、電動パワーステアリング装置40が正常に作動している場合にポンプ駆動用電動モータ73の出力回転数を小さくし、電動パワーステアリング装置40が正常に作動していない場合にポンプ駆動用電動モータ73の出力回転数を大きくするように、ポンプ駆動用電動モータ73の回転数を調整する駆動制御装置74を備えるものとしているので、簡単な構成で油圧パワーステアリング装置50のアシスト力を調整することができる。
1…ステアリング装置、11…操舵ハンドル、20…操舵軸(操舵量伝達手段)、210…第1の操舵軸、211…第1軸、212…第2軸、220…第2の操舵軸、221…入力軸、221a…羽部、222…出力軸、30…操向軸(操舵量伝達手段)、40…電動パワーステアリング装置、41…第1トーションバー(第1のトーションバー)、42a,42b…検出手段、43…制御装置、44…電動モータ、50…油圧パワーステアリング装置、51…第2トーションバー(第2のトーションバー)、51…油圧ポンプ、52…コントロールバルブ機構、521…バルブスリーブ、53…油圧ポンプ、54…パワーシリンダ(油圧アクチュエータ)、55a…主配管、55d…バイパス配管、55e…連通油路、58…油圧反力機構(反力発生手段)、58a…油圧反力室、59…反力用電磁流量調整弁(反力制御手段、圧力開放手段)、62…昇圧用コントロールバルブ機構(昇圧手段)、63…昇圧用電磁流量調整弁(昇圧手段)、71…油圧用電磁流量調整弁(絞り弁手段)、72…開度調整手段、73…ポンプ駆動用電動モータ、74…駆動制御装置(回転数調整手段)