JP4916631B2 - 水性バインダー用イソシアネート含有組成物 - Google Patents

水性バインダー用イソシアネート含有組成物 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の技術分野】
本発明は、水性バインダー用イソシアネート含有組成物に関する。より詳しくは、アニオン性イソシアネートを特定量含有する水性バインダー用イソシアネート含有組成物に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
従来より、湿式抄造工程を経て成型体を製造するに際し、有機粉粒体を用いる場合と無機粉粒体を用いる場合がある。
有機粉粒体を用いる場合はリグノセルロース系材料を用いたものが多く、たとえば木材ファイバーを用い板状に成型し密度を800kg/m3以上としたものはハードボードと呼ばれ、建築用材料として有用である。また、同様にリグノセルロース系材料でも古紙を原料とし成型されるパルプモールドがある。これは400kg/m3以下の低比重で成型され、梱包時の緩衝材として有用である。
【0003】
無機粉粒体を用いた場合では、ロックウール等の鉱物質繊維や炭酸カルシウム等の無機フィラーを用い、板状に成型し難燃性の建築材料を製造することが提案されている。
このようないわゆる湿式法により、繊維状体を粒状体や結合剤とともに抄造しマットを形成させる場合には、その後の乾燥工程の負荷軽減のため、充分に水分を抜いておく(いわゆる「濾過」であるが、これを「濾水」ということもある。)必要があり、通常、吸引装置を通過させることで濾過を行っている。しかしながら吸引を強く行うと、物理的に留まっている粒状体や結合剤が水と一緒に抜け落ちてしまうという問題があった。
【0004】
この場合、濾過された濾液は通常リサイクルされるため、前記吸引により濾液中に抜け落ちた粒状体や結合剤は、最終的には再び繊維に歩留まることも可能である。しかし、イソシアネート類の乳化液を結合剤成分として用いる場合、イソシアネート類として主に用いられるポリメリックMDIなどでは、前記吸引による濾過を行うと、濾液中にイソシアネート類の一部が抜け落ち、経時でNCO基が水と反応し失活するため、リサイクルに供することはできず、生産性の観点から問題があった。
【0005】
このため、イソシアネート類の有機粉粒体、無機粉粒体(以下「有機無機粉粒体」ということがある。)への歩留まりを向上させ、イソシアネート類の添加量を最小限にして、しかも得られるボード強度等にも優れたボードを提供しうるイソシアネート成分の出現が望まれていた。
そこで、本願発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意研究し、イソシアネート成分として、アニオン性を有するイソシアネートを特定量含有するイソシアネート含有組成物を用いることにより、イソシアネート成分の有機無機粉粒体への歩留まりを向上させ、最小限の添加量で、ボードの強度、寸法安定性に関し従来と同等の効果を得ることができることを見いだし、本願発明を完成するに至った。
【0006】
【発明の目的】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、イソシアネート成分の有機無機粉粒体への歩留まりを向上させ、イソシアネートの添加量を最小限にしながら、ボード強度、寸法安定性などに関し従来と同等の効果を与える水性バインダー用イソシアネート含有組成物を提供することを目的としている。
【0007】
【発明の概要】
本発明に係る水性バインダー用イソシアネート含有組成物は、アニオン性イソシアネート(A)が、イソシアネート含有組成物に対して、0.1質量%以上含有されることを特徴としている。
本発明に係る水性バインダー用イソシアネート含有組成物は、アニオン性イソシアネート(A)を含有し、pHが5以上7以下の範囲における流動電位法によるポリ塩化ジアリルメチルアンモニウム溶液の滴定量が、1〜50μeq/gであることを特徴としている。
【0008】
前記水性バインダー用イソシアネート含有組成物は、前記アニオン性イソシアネート(A)と、未反応イソシアネート(B)と、界面活性作用を有する非イオン性化合物(C)とからなることが好ましい。
前記アニオン性イソシアネート(A)は、ポリメリックMDIの変性体であることが好ましい。
【0009】
前記アニオン性イソシアネート(A)はアニオン性官能基を有するポリメリックMDIであり、前記未反応イソシアネート(B)はポリメリックMDIであることが好ましい。
また、前記ポリメリックMDIを用いる場合、前記水性バインダー用イソシアネート含有組成物が、ボードに用いるものであることが好ましい。
【0010】
前記滴定量は、5〜40μeq/gであることが好ましい。
前記水性バインダー用イソシアネート含有組成物は、少なくとも有機無機粉粒体の水スラリーと、水性バインダー用イソシアネート含有組成物の乳化分散液と、カチオン性凝集剤とを混合して固形成分を凝集させた後、得られた混合物を濾過し、前記固形成分を加熱、乾燥して得られる成型体に好適に用いることができる。
【0011】
【発明の具体的説明】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係る水性バインダー用イソシアネート含有組成物は、アニオン性イソシアネート(A)が、特定量含有されている。
また、さらに、本発明に係る水性バインダー用イソシアネート含有組成物は、アニオン性イソシアネート(A)を含有し、pHが5以上7以下の範囲における流動電位法によるポリ塩化ジアリルメチルアンモニウム溶液の滴定量が、特定範囲にある。
【0012】
以下、水性バインダー用イソシアネート含有組成物に含まれるアニオン性イソシアネート(A)、水性バインダー用イソシアネート含有組成物、該組成物に含まれてもよい他の成分としての未反応イソシアネート(B)、界面活性作用を有する非イオン性化合物(C)等について説明する。
アニオン性イソシアネート(A)
本発明に係る水性バインダー用イソシアネート含有組成物は、有機無機粉粒体の接着に用いる水性バインダーとして添加されるものであり、アニオン性イソシアネート(A)を含有している。アニオン性イソシアネート(A)は、イソシアネート基と反応する活性水素基とアニオン性官能基とを有する化合物(b)(以下化合物(b)を「アニオン性活性水素化合物」ということがある。)と、イソシアネート(a)とを反応させて得られるイソシアネート変性体であり、イソシアネート基およびアニオン性官能基を有する。
イソシアネート(a)
前記アニオン性イソシアネート(A)の原料となるイソシアネート(a)としては、公知のイソシアネートを用いることができる。好ましくは、分子内に2個以上の分子末端イソシアネート基を有するポリイソシアネートを用いる。
【0013】
このようなイソシアネート(a)としては、たとえば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI) 、特公昭38-4576等に記載の従来公知の方法で液状化した液状ジフェニルメタンジイソシアネート(液状MDI)、トリレンジイソシアネートの粗製物(クルードTDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDIまたはクルードMDI)等の芳香族イソシアネート;
ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族イソシアネート;
イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添XDI(H6XDI)、水添MDI(H12MDI)、水添テトラメチルXDI、ノルボルナンジイソシアネートメチル(NBDI)等の脂環族ポリイソシアネートが挙げられる。
【0014】
また、これらのイソシアネートを用いたイソシアネート基末端プレポリマー(以下「ウレタンプレポリマー」ということがある)、カルボジイミド変性体、ウレトニミン変性体、アシル尿素ジイソシアネート、イソシアヌレート変性体、トリメチロールプロパンアダクト体、ビウレット変性物およびアロファネート変性体なども挙げられる。
【0015】
これらのうちでは、芳香族イソシアネートを好ましく用いることができ、芳香族イソシアネートのうちでは、ポリメリックMDIおよび/またはその変性体をより好ましく用いることができ、ポリメリックMDIを用いることが特に好ましい。ポリメリックMDIを用いる場合は、ポリメリックMDIの平均分子量は300〜500程度の範囲にあるものが好ましい。
【0016】
これらイソシアネート化合物は、1種単独で、または2種以上を混合して使用してもよい。
イソシアネート基と反応する活性水素基とアニオン性官能基とを有する化合物(b)(アニオン性活性水素化合物)
前記アニオン性活性水素化合物(b)としては、NCO基と反応する活性水素基を少なくとも1個有するとともに、水中でアニオンとなるアニオン性官能基を少なくとも1個有する化合物が挙げられる。
【0017】
このようなアニオン性活性水素化合物(b)に含まれる前記アニオン性官能基としては、カルボキシル基(−COOH)、スルホン酸基(−SO3H)、硫酸エステル基(−OSO3H)、リン酸エステル基(−OPO3H、−OPO2H)などが挙げられる。これらのアニオン性官能基は、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウムなどのアルカリ土類金属塩、NH4 +などのアンモニウム塩となっていてもよい。これらのうちでは、カルボキシル基またはスルホン酸基を有する化合物を好ましく用いることができる。
【0018】
NCO基と反応する活性水素基としては、−OH基、−NH基などが挙げられる。
このようなアニオン性活性水素化合物(b)としては、カルボキシル基またはスルホン酸基と、−OH基とを有する化合物を好ましく用いることができ、カルボキシル基と−OH基を有する化合物が特に好ましい。
【0019】
このような好ましいアニオン性活性水素化合物(b)としては、具体的には、たとえば、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、リンゴ酸、酒石酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸類またはその誘導体;2−ヒドロキシエタンスルホン酸などのヒドロキシスルホン酸類、アミノエチルスルフォン酸などが挙げられる。
【0020】
また、これら−OH基を有する化合物を開始剤として、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ε−カプロラクタム、テトラヒドロフラン等のアルキレンオキシドまたは開環性環状エーテルを反応して得られるポリエーテルポリオール等もアニオン性活性水素化合物(b)として用いることができる。
アニオン性イソシアネート(A)
本発明で用いられる前記アニオン性イソシアネート(A)は、1分子中にNCO基およびアニオン性官能基を有しており、具体的には、前記イソシアネート(a)に由来する成分と前記アニオン性活性水素化合物(b)に由来する成分とを含んでいる。
【0021】
前述のとおり、イソシアネート(a)としては、芳香族イソシアネートが好ましく、ポリメリックMDIがより好ましい。また、アニオン性活性水素化合物(b)としては、前記カルボキシル基またはスルホン酸基を有することが好ましく、前記カルボキシル基を有することがより好ましい。
したがって、アニオン性イソシアネート(A)は、好ましくは芳香族イソシアネートの変性体、より好ましくはポリメリックMDIの変性体であることが望ましい。
【0022】
アニオン性イソシアネート(A)において、1分子中のアニオン性官能基の数は、特に限定はないが、通常、平均1個以上のアニオン性官能基を有していればよく、好ましくは平均1〜5個、さらに好ましくは平均1〜3個のアニオン性官能基を有することが望ましい。
また、アニオン性イソシアネート(A)において、1分子中のNCO基の数は、少なくとも1個のNCO基を有していればよく、好ましくは1個以上、さらに好ましくは1または2個有することが望ましい。
【0023】
このようなアニオン性イソシアネート(A)は、前記イソシアネート(a)と前記アニオン性活性水素化合物(b)とを反応させて得られる。アニオン性イソシアネート(A)の合成方法に特に限定はなく、アニオン性イソシアネート(A)はイソシアネートを直接アニオン変性したものでも、あらかじめアニオン変性させたイソシアネートを添加してもよい。たとえば、アニオン性イソシアネート(A)がイソシアネートを直接アニオン変性させる場合は、イソシアネート(a)をアニオン性活性水素化合物(b)に対して化学量論的に過剰にして活性水素化合物と一括してブレンドまたはどちらか一方を先に仕込み、他方を後から添加して60〜120℃にて1時間〜15時間反応することにより得られる。反応を速めるために、3級アミン等の公知の触媒を添加して反応させ製造してもよい。
【0024】
前記イソシアネート(a)のアニオン性活性水素化合物(b)に対する使用量は、具体的には、NCO/H(活性水素)(モル比)で、好ましくは2.1〜120、さらに好ましくは4.0〜60であることが望ましい。NCO/Hが2.1より小さいと得られるアニオン性イソシアネート(A)の残存するNCO基が少なくなって水性バインダー用イソシアネート含有組成物中での他のイソシアネートとの相容性が低下することがあり、120を超えると得られるアニオン性イソシアネート(A)中のアニオン基の含有量が低下することがあり、好ましくない。
【0025】
水性バインダー用イソシアネート含有組成物
本発明に係る水性バインダー用イソシアネート含有組成物は、前記アニオン性イソシアネート(A)を特定量含有していればよく、アニオン性イソシアネート(A)と異なる他の成分の種類は限定されないが、好ましくは該他の成分としては、前記イソシアネート(a)が、前記アニオン性活性水素化合物(b)および/またはノニオン性活性水素化合物で変性されていないイソシアネート化合物(B)(以下本明細書において「未反応イソシアネート(B)」という。)であることが望ましい。このような未反応イソシアネート(B)は、前記アニオン性イソシアネート(A)の製造において未反応であったイソシアネート(a)を含んでいてもよい。
【0026】
なお、前記ノニオン性活性水素化合物としては、アルキル基末端ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
また、本水性バインダー用イソシアネート含有組成物は、使用時までにその他のイソシアネート化合物を添加して用いてもよい。
前記未反応イソシアネート(B)としては、具体的には、前記イソシアネート(a)に記載されたものが挙げられ、これらのうち、前記未反応イソシアネート(B)としては、芳香族イソシアネートを好ましく用いることができ、芳香族イソシアネートのうちでは、ポリメリックMDIおよび/またはその変性体をより好ましく用いることができ、これらのうちではポリメリックMDIを用いることが特に好ましい。
【0027】
また、未反応イソシアネート(B)としては、前記アニオン性イソシアネート(A)を誘導するイソシアネート(a)と同一のイソシアネート化合物を用いることが好ましい。同一のイソシアネート骨格を有する化合物を用いることにより、イソシアネート同士の相容性が向上し、粉粒体の接着時に、水分を吸引して濾過する場合にも、濾液中へのイソシアネート類の抜け落ちを抑制することができ、硬化物中へのイソシアネート類の歩留まりを向上させることができる。
【0028】
さらに、水性バインダー用イソシアネート含有組成物は、該水性バインダー用イソシアネート含有組成物の水への分散性、乳化性を高めるため、界面活性作用を有する非イオン性化合物(C)を含んでいてもよい。界面活性作用を有する非イオン性化合物(C)としては、公知の非イオン性界面活性剤あるいは、前記イソシアネート(a)が、ノニオン性活性水素化合物で変性され、かつ前記アニオン性活性水素化合物で変性されていないイソシアネート(以下本明細書において「ノニオン性イソシアネート」という。)を含有していてもよい。
【0029】
これら本発明に係る水性バインダー用イソシアネート含有組成物は、ボード用に用いることが好ましく、特に鉱物質繊維を用いたボードの接着に用いることが好ましい。ボードに用いる場合には、用いるイソシアネート類はポリメリックMDIまたはその誘導体が好ましい。
界面活性作用を有する非イオン性化合物(C)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルアリルホルムアルデヒド縮合ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピルアルキルエーテルなどのエーテル型非イオン性界面活性剤;
グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビトールエステルのポリオキシエチレンエーテルなどのエーテルエステル型非イオン性界面活性剤;
ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリンエステル、ポリグリセリンエステル、ソルビタンエステル、プロピレングリコールエステル、ショ糖エステルなどのエステル型非イオン性界面活性剤;
脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミンなど含窒素型非イオン性界面活性剤;
前記イソシアネート(a)と、アルキル基末端ポリエチレングリコールなどのノニオン性活性水素化合物とを反応させて得られる自己乳化型の前記ノニオン性イソシアネートなどが挙げられる。
【0030】
これらのうちでは、界面活性作用を有する非イオン性化合物(C)としては、
前記ノニオン性イソシアネートが好ましく、前記アニオン性イソシアネート(A)を誘導するイソシアネート(a)と同一のイソシアネート骨格を有する前記ノニオン性イソシアネートがさらに好ましい。
同一のイソシアネート骨格を有する化合物を用いることにより、イソシアネート同士の相容性が向上し、本発明の水性バインダー用イソシアネート含有組成物を用いたボードの形成において、水分を吸引して濾過する場合にも、濾液中への水性バインダー用イソシアネート含有組成物の抜け落ちを抑制することができ、硬化物中への水性バインダー用イソシアネート含有組成物の歩留まりを向上させることができる。
【0031】
前記アニオン性イソシアネート(A)の水性バインダー用イソシアネート含有組成物中の含有量は、アニオン性イソシアネート(A)のアニオン性官能基の数により異なり、全アニオン性イソシアネート(A)における1分子中の平均アニオン性官能基数をnとすると、前記アニオン性イソシアネート(A)の含有量は、全水性バインダー用イソシアネート含有組成物に対して、0.1質量%以上、好ましくは0.5〜15質量%、さらに好ましくは2〜6質量%の量であることが望ましい。
【0032】
アニオン性イソシアネート(A)が、水性バインダー用イソシアネート含有組成物に対して上記範囲で水性バインダー用イソシアネート含有組成物に含有されていると、成型体の形成において、水分を吸引により濾過する場合にも、濾液中にイソシアネート類の抜け落ちを抑制することができ、硬化物中へのイソシアネート類の歩留まりを向上させることができる。
【0033】
これは、アニオン性イソシアネート(A)を水性バインダー用イソシアネート含有組成物に含有させることにより、水性バインダー用イソシアネート含有組成物を乳化して得られる水性バインダー用イソシアネート含有組成物の粒子表面上に現れたアニオン性官能基が、カチオン性凝集剤と結合し易くなり、カチオン性凝集剤と有機無機粉粒体への相互作用と相まって、該カチオン性凝集剤を介在して水性バインダー用イソシアネート含有組成物の有機無機粉粒体に対する相互作用が高まるため、水性バインダー用イソシアネート含有組成物の硬化物中への歩留まりを向上させることができると推測される。
【0034】
本発明に係る前記水性バインダー用イソシアネート含有組成物は、水を添加して乳化分散させた場合に、乳化分散した水性バインダー用イソシアネート含有組成物粒子の有する表面電荷量が一定の範囲にある。具体的には、水性バインダー用イソシアネート含有組成物を含有する乳化分散液について、pHが5以上7以下の範囲における流動電位法によるポリ塩化ジアリルメチルアンモニウム溶液の滴定量が、1〜50μeq、好ましくは5〜40μeq、さらに好ましくは10〜30μeqの範囲にあることが望ましい。
【0035】
なお、前記滴定量は、水性バインダー用イソシアネート含有組成物の表面電荷量を示すもので、該表面電荷量は、水性バインダー用イソシアネート含有組成物中に含まれるアニオン性イソシアネート(A)のアニオン性官能基により発現される水性バインダー用イソシアネート含有組成物におけるアニオンの電荷量である。
【0036】
流動電位法による滴定は、公知の方法により行うことができる。なお、流動電位法による滴定とは、粒子の表面電荷量を測定する方法であって、電荷を有する目的粒子を有する試料溶液に、カウンターイオンを有する滴定液を添加し、流動電位がゼロmVとなる点に到達するのに要した滴定液の消費量から目的化合物の電荷量を測定するものである。
【0037】
本明細書においては、流動電位法による水性バインダー用イソシアネート含有組成物の表面電荷量の測定は、MuTEC社の「PCD(Particle Charge Detector:粒子表面電荷量測定装置)03」を用いて測定した。標準溶液としては、ポリ塩化ジアリルメチルアンモニウム溶液を用い、該標準溶液のpHを5〜7の範囲に設定して実施した。
【0038】
アニオン性イソシアネート(A)が、水性バインダー用イソシアネート含有組成物中に上記範囲の滴定量に相当する量で含有されていると、硬化物の形成において、水分を吸引により濾過する場合にも、濾液中にイソシアネート類の抜け落ちを抑制することができ、硬化物中へのイソシアネート類の歩留まりを向上させることができる。その理由は、前述と同様である。
【0039】
また、前記滴定量が1μeq/gより小さいと、イソシアネート類の歩留まりの向上を図ることが難しくなる。さらに、前記滴定量が50μeq/gより大きいと、水性バインダー用イソシアネート含有組成物の親水性が高くなって得られる硬化物の吸水率が高くなり、硬化物の寸法安定性あるいは強度が悪化することがある。
【0040】
前記水性バインダー用イソシアネート含有組成物は、たとえば、前記アニオン性イソシアネート(A)と、前記未反応イソシアネート(B)と、界面活性作用を有する非イオン性化合物(C)とを混合して、たとえば、50〜150℃の温度で30分〜5時間程度攪拌することにより、上記アニオン性イソシアネート(A)と、前記未反応イソシアネート(B)と、界面活性作用を有する非イオン性化合物(C)とが均一に混合した固体または液体状態の組成物として得ることができる。
【0041】
用途
本発明に係る水性バインダー用イソシアネート含有組成物は、水と混合させ、乳化分散液などとして用いることが好ましい。このような乳化分散液と、少なくとも有機無機粉粒体の水スラリーと、イソシアネート含有組成物の乳化分散液と、カチオン性凝集剤とを混合して固形成分を凝集させた後、得られた混合物を濾過し、前記固形成分を加熱、乾燥して得られる成型体のバインダーとして好適に用いることができる。
【0042】
具体的には、本発明に係る水性バインダー用イソシアネート含有組成物を含む乳化分散液と、木材ファイバー、古紙、パルプ、バガス、麦わら、稲わら、ケナフ、コーリャン茎等のリグノセルロース系粉粒体、ロックウール、スラグウール、ミネラルウール、ニッケルウール、ガラス繊維等の鉱物質繊維、および必要に応じ、炭酸カルシウム、硅砂、マイクロシリカ、スラグ、水酸化アルミニウム等の無機質フィラーなどの有機無機粉粒体を含有させた水スラリーと、フェノール樹脂等のその他のバインダー樹脂と、ポリ塩化アルミニウムなどのポリ塩化アルミ系化合物、ポリアクリルアミド等のカチオン系凝集剤と、サイズ剤、凝集剤、消泡剤等のその他の抄造用添加剤等とを攪拌機に所定量供給し、固形成分を凝集させてスラリー状にする。なお、該固形成分は、水性バインダー用イソシアネート含有組成物、リグノセルロース系ファイバーおよび/または鉱物質繊維および/または無機質フィラー等の有機無機粉粒体、カチオン系凝集剤、その他の樹脂などからなる。
【0043】
次いで、攪拌機において混合されたスラリー状混合物を抄造機に供給して抄造した後、濾過(脱水)して、固形成分からなる板状の湿潤マットを得ることができる。
このような湿潤マットを形成させる場合、その後に行う乾燥工程での乾燥負荷の軽減のため、前記濾過を充分に行う必要があり、通常前記濾過は、吸引装置を用いて実施する。
【0044】
湿潤マットは、イソシアネートとして、特定量あるいは特定の滴定量のアニオン性イソシアネート(A)が含まれた本発明に係る水性バインダー用イソシアネート含有組成物を用いているので、上記のように、イソシアネート成分の湿式マット中への歩留まりを高め、濾液に流出するイソシアネート成分を著しく低減することができる。たとえば、本発明では、前記濾過後の濾液中に流出した水性バインダー用イソシアネート含有組成物の含有量は、濾過前の全水性バインダー用イソシアネート含有組成物に対して好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは1〜20質量%の範囲にすることができる。
【0045】
このようにして得られた湿潤マットは、たとえば、加熱、圧縮、乾燥等の工程を経て、所望の成型体とすることができる。
また得られる成型体は、特定量のアニオン性イソシアネート(A)を含む水性バインダー用イソシアネート含有組成物を用いているので、成型体の実用性に優れた吸水率にすることができる。このため、本発明の方法により製造された成型体は、強度、寸法安定性にも優れている。たとえば、このようにして得られるボードの吸水率(20℃の水中で24時間浸せき後の吸水率)を、好ましくは55%以下、さらに好ましくは50%以下とすることができる。
【0046】
このような成型体は、必要に応じ、所望の寸法に切断、または所望の形状に成型し、表面加工、実加工、塗装などを経て、建築材料など最終製品として各種用途に用いることができる。
【0047】
【発明の効果】
本発明に係る水性バインダー用イソシアネート含有組成物は、アニオン性イソシアネートを特定量含んでいるので、該組成物を有機無機粉粒体などからなる成型体のバインダーとして用いる場合、イソシアネート成分の有機無機粉粒体への歩留まりを向上させ、最小限の添加量で、成型体の強度、寸法安定性に関し従来と同等の効果を得ることができる。
【0048】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中「部」とは「質量部」を意味する。
【0049】
【実施例1】
1リットルのセパラブルフラスコにポリメリックMDI(三井武田ケミカル(株)製、商品名:コスモネートM−50)960部と、メトキシ末端ポリエチレングリコール(日本油脂(株)製、商品名:ユニオックスM550)30部、および乳酸(和光純薬(株)製)10部を投入し、窒素気流下で内温を80℃にして2時間混合攪拌した。得られた反応物(以下「A−1」と記す)は粘度290mPa・s/25℃で、NCO含有量は29.5%であった。
【0050】
反応物(A−1)を蒸留水中に1%濃度となるように投入し、ホモディスパー(特殊機化工業(株)製)を用いて、1200rpmで1分間攪拌し、乳化液を得た。pHは6.7であった。
この乳化液を流動電位方式のコロイド滴定装置MuTEC製MODEL PCD−03を用いて表面電荷の測定を行った。このときの1/400Nポリ塩化ジアリルメチルアンモニウム溶液の滴定量は10.2μeq/gであった。このことは乳化粒子表面の電荷がアニオンであることを示している。
【0051】
未晒クラフトパルプ(日本製紙(株)製)を2%スラリーとし、JIS P8121に記載のカナディアンスタンダードフリーネス(濾水度)測定方法に準じて、その値が350mlとなるまでビーター処理(叩解)を行った。該スラリー中に反応物(A−1)を乾燥パルプあたり5%となるように滴下し、攪拌処理によって乳化を行った。次いで、ポリ塩化アルミニウム(住友化学(株)製)をAl23換算で、乾燥パルプ当たり1%投入した。このときのスラリーのpHは6.4であった。このスラリーを秤量で50g/m2となるように抄造装置に投入し、60メッシュの網で濾過操作を行った。
【0052】
漉いた紙を乾燥し、ケルダール窒素分析法により紙中の窒素分析を行いポリメリックMDIの歩留まりを測定した。結果は、91.0%であった。
なお、歩留まりは、次式の方法で求めた。
【0053】
【数1】
Figure 0004916631
【0054】
【比較例1】
1リットルのセパラブルフラスコにポリメリックMDI(三井武田ケミカル(株)製、商品名:コスモネートM−200)970部と、メトキシ末端ポリエチレングリコール(日本油脂(株)製、商品名:ユニオックスM550)30部を投入し、窒素気流下で内温を80℃にして2時間混合攪拌した。得られた反応物(以下「B−1」と記す。)は粘度230mPa・s/25℃で、NCO含有量は30.2%であった。
【0055】
反応物(B−1)を蒸留水中に1%濃度となるように投入し、ホモディスパー(特殊機化工業(株)製)を用いて、1200rpmで1分間攪拌し、乳化液を得た。pHは6.7であった。
この乳化液を流動電位方式のコロイド滴定装置MuTEC製MODEL PCD−03を用いて表面電荷の測定を行った。このときの1/400Nポリ塩化ジアリルメチルアンモニウム溶液の滴定量は3.5μeq/gであった。このことは乳化粒子表面の電荷がカチオンであることを示している。
【0056】
この反応物(B−1)を用いて、実施例1と同様にして、紙を抄造した。
漉いた紙を乾燥し、ケルダール窒素分析法により紙中の窒素分析を行いポリメリックMDIの歩留まりを実施例1と同様(ただし、前記式中、(A−1)の代わりに、(B−1)を用いた。)にして測定した。結果は、62.4%であった。

Claims (7)

  1. アニオン性イソシアネート(A)が、イソシアネート含有組成物に対して、0.1質量%以上含有される水性バインダー用イソシアネート含有組成物であって、前記水性バインダー用イソシアネート含有組成物がボードに用いるものであることを特徴とする水性バインダー用イソシアネート含有組成物
  2. アニオン性イソシアネート(A)を含有し、pHが5以上7以下の範囲における流動電位法によるポリ塩化ジアリルメチルアンモニウム溶液の滴定量が、1〜50μeq/gである水性バインダー用イソシアネート含有組成物であって、前記水性バインダー用イソシアネート含有組成物がボードに用いるものであることを特徴とする水性バインダー用イソシアネート含有組成物
  3. 前記水性バインダー用イソシアネート含有組成物が、前記アニオン性イソシアネート(A)と、未反応イソシアネート(B)と、界面活性作用を有する非イオン性化合物(C)とからなることを特徴とする請求項1または2に記載の水性バインダー用イソシアネート含有組成物。
  4. 前記アニオン性イソシアネート(A)が、ポリメリックMDIの変性体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水性バインダー用イソシアネート含有組成物。
  5. 前記アニオン性イソシアネート(A)がアニオン性官能基を有するポリメリックMDIであり、前記未反応イソシアネート(B)がポリメリックMDIであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水性バインダー用イソシアネート含有組成物。
  6. 前記滴定量が、5〜40μeq/gであることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の水性バインダー用イソシアネート含有組成物。
  7. 前記水性バインダー用イソシアネート含有組成物が、少なくとも有機粉粒体または無機粉粒体の水スラリーと、水性バインダー用イソシアネート含有組成物の乳化分散液と、カチオン性凝集剤とを混合して固形成分を凝集させた後、得られた混合物を濾過し、前記固形成分を加熱、乾燥して得られる成型体に用いる組成物であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の水性バインダー用イソシアネート含有組成物。
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