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リン酸カルシウム系骨補填材の製造方法

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A61L27/425 Composite materials, i.e. containing one material dispersed in a matrix of the same or different material having an inorganic matrix of phosphorus containing material, e.g. apatite
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晃 山本
祐介 飯森
優子 宮崎
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2012-02-29
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Description

本発明は、生体内における安定性と親和性とを兼ね備えたリン酸カルシウム系骨補填材を製造する方法に関する。
リン酸カルシウム系の化合物は生体組織と同化・癒着し易い性質を有しており、生体内で拒否反応や壊死を起こさせない。このためセラミックス成形体、顆粒、パテ等、多種多様な製品が市販されており、人工骨、人工歯等、補填材(以下「骨補填材」という)として用いられている。
製品化されているリン酸カルシウム系骨補填材の多くは、ハイドロキシアパタイト[化学式:Ca10(PO4)6(OH)2]セラミックス製である。ハイドロキシアパタイトセラミックスは骨補填材として十分な強度を有するものであり、骨欠損部で骨の再生を促進する。ハイドロキシアパタイトセラミックス製の骨補填材を生体内に埋め込むと、生体硬組織に癒着及び/又は接合する。骨欠損部で骨の再生を促進する能力は、骨伝導能と呼ばれている。
骨補填材を埋め込んでから癒着及び接合するまでの間は、生体骨と補填材が十分に固定されていないのでトラブルが起こり易い。ハイドロキシアパタイトセラミックス製骨補填材は骨伝導能を有するものの、生体骨と素早く癒着又は接合するものではない。ハイドロキシアパタイトセラミックス製骨補填材が生体骨と癒着又は接合するには、通常4〜5週間かかると言われている。そこで、近年、骨補填材と生体硬組織との癒着等に要する期間の短縮を目的とした研究が行われている。
生体内における骨の形成能に関する指標として、骨伝導能の他に、骨誘導能と呼ばれるものがある。骨誘導能とは、骨欠損部以外に骨を形成される能力を示す。骨誘導能を示す材料を骨補填材に用いると、骨補填材と生体骨との隙間にも骨形成が誘導されるので、骨補填材が生体硬組織に癒着等するまでの期間を短縮するのに有効である。
リン酸三カルシウム(TCP)は生体内で溶解性を示し、骨誘導能を有する材料として知られている。TCPはハイドロキシアパタイトより生体内で溶解しやすいので、TCPを生体に埋入すると、骨芽細胞の分化誘導などが起こり易い環境ができると考えられている。しかしながら、TCPのみからなる補填材は、生体内で非常に溶解し易いために安定に存在することができない。このため埋入後長期間が経過すると、強度が不十分になってしまう惧れがあり、機械的強度を必要とする部位の骨補填材としては用いることができない。そこで、生体内で安定なハイドロキシアパタイトと易溶性のTCPとの複合体からなる補填材が開発されている。
ハイドロキシアパタイトとTCPとの複合体からなる補填材は、例えばハイドロキシアパタイト粉末を成形体にし、この成形体の周囲にTCP粉末を配置して焼結することにより作製することができる。この製造方法の出発物質となるハイドロキシアパタイト粉末及びTCP粉末は、例えばリン酸水溶液とカルシウム水溶液とを混合することによって合成することができる。しかし、多数存在するリン酸カルシウムの結晶系のうち、いずれが生成するかは、リン酸とカルシウムとの配合比率のみならず、混合溶液のpH等にも依存するため、合成反応の進行に伴って生成条件が変化し、均質なハイドロキシアパタイト又はTCPを得られないという問題がある。
特開平6-237984号(特許文献1)には「水酸アパタイト相と第三リン酸カルシウム相とを含むリン酸カルシウム焼結体よりなり、内部層と外部層でその結晶相の構成割合が異なることを特徴とする生体インプラント材料」が記載されている。またこの生体インプラント材料の製造方法として、1.4〜1.75のカルシウム/リン(Ca/P)原子比を有するリン酸カルシウム系多孔質体の表面に、(a) 水酸アパタイト粉末とリン酸カルシウム系フリットの混合物、又はリン酸カルシウム系フリットを塗布又は含浸させ、焼成する方法や、(b) リン化合物又はリン酸を塗布又は含浸させ、焼成する方法が記載されている。この方法によると、内部層と外部層でその結晶相の構成割合が異なる生体インプラント材料を作製することができ、外部層のTCP割合をある程度高くすることができる。しかし外部層を確実にTCPにしたり、外部層の厚さを制御したりするのが困難である他、作製し得る生体インプラント材料が限定的であるという問題がある。
特開平6-237984号公報
従って、本発明の目的は、十分な機械的強度と骨誘導能を兼ね備えたリン酸カルシウム系骨補填材を簡便に製造する方法を提供することである。
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、ハイドロキシアパタイトからなる母材とカルシウム水溶液とを混合したものにリン酸水溶液を徐々に加えると、母材の表面にリン酸カルシウムの結晶が析出し、これを熱処理することにより母材とそれを被覆する層とからなるリン酸カルシウム系骨充填材が得られることを発見し、本発明に想到した。
すなわち本発明のリン酸カルシウム系骨補填材の製造方法は、カルシウム溶液と、リン酸溶液とを含む混合液を調整し、その際前記混合液中にハイドロキシアパタイトからなる母材が存在するようにし、もって前記母材にリン酸カルシウムを析出させ、得られた複合体を熱処理することを特徴とする。
前記熱処理により得られる被覆層が前記母材より小さいCa/P比を有するように、カルシウム溶液とリン酸溶液とを混合するのが好ましく、前記混合液のCa/P比が1.0〜1.59となるように前記カルシウム溶液と前記リン酸水溶液とを混合するのがさらに好ましい。前記母材から前記被覆層にかけてCa/P比は連続的に小さくなっているのが好ましい。
前記母材としては、ハイドロキシアパタイトの焼結されたものを用いるのが好ましい。母材は多孔質でも良いし、緻密質でも良い。また母材は粒子でも良いし、成形体でも良い。
前記混合液のpHを4〜9にするのが好ましく、母材にリン酸カルシウムの針状結晶を析出させるのが好ましい。前記熱処理の温度は700〜1000℃とするのが好ましい。
本発明のリン酸カルシウム系骨補填材の製造方法によると、リン酸とカルシウムの混合比率や、反応溶液のpHを厳密に制御する必要なく、ハイドロキシアパタイト母材とリン酸カルシウム析出層からなる複合体を作製し、その後の熱処理によりハイドロキシアパタイト母材表面にTCPからなる被覆層を有する骨補填材を得ることができる。このようにハイドロキシアパタイト母材の表面に化学的にリン酸カルシウムを析出させる手法をとることにより、予めTCPを合成しなくてもTCPからなる被覆層を有するリン酸カルシウム系骨補填材を得られるので、非常に簡便である。またハイドロキシアパタイト母材が、微粒子でも、成形体でも簡便に被覆層を形成することができるので、色々な形状のリン酸カルシウム系骨補填材を製作し得る。すなわち本発明のリン酸カルシウム系骨補填材の製造方法は、非常に簡便である上、大きな汎用性を有する方法である。
本発明の製造方法によって得られるリン酸カルシウム系骨補填材はハイドロキシアパタイトからなる母材と、被覆層とからなり、母材は生体内で難溶性であり、被覆層は母材より小さいCa/P比を有するため易溶性であって、骨誘導能を示す。従って、リン酸カルシウム系骨補填材は大きな機械的強度と、優れた新生骨の形成能とを兼ね備えており、様々な部位の骨の代替材として利用可能である。
[1] リン酸カルシウム系骨補填材
(1) 母材
母材は微粒子でも良いし、成形体でも良い。微粒子の場合、平均粒径1〜9000μmとするのが好ましい。成形体の形状の例として円柱、角柱、円筒、直方体が挙げられる。また母材は多孔質でも良いし、緻密質でも良い。母材が多孔質であると、骨芽細胞等が入り込み易いためにリン酸カルシウム系骨補填材が大きな生体親和性を示す。母材が緻密質であると、リン酸カルシウム系骨補填材が大きな機械的強度を有する。
母材は生体内で難溶性を示すハイドロキシアパタイトからなる。母材は焼結されているのが好ましい。母材が焼結されていると、リン酸カルシウム系骨補填材が生体内で長期間安定に存在し得る。
母材として使用するハイドロキシアパタイト微粒子やハイドロキシアパタイト成形体は、一般的な製造方法で得られたもので良い。ハイドロキシアパタイト微粒子及びハイドロキシアパタイト成形体は、リン酸水溶液及びカルシウム水溶液を原料として作製できることが知られており、多孔質にする方法や緻密質にする方法も公知である。市販のハイドロキシアパタイト顆粒及びハイドロキシアパタイト成形体、並びにこれらの焼結体を母材として使用することができる。
(2) 被覆層
被覆層は母材表面の少なくとも一部に形成している。被覆層が母材表面の大部分(例えば80%以上)に形成していると、リン酸カルシウム系骨補填材が大きな骨誘導能を示す。母材が多孔質の場合、母材の気孔内にも被覆層が形成しているのが好ましい。被覆層の厚さは1nm〜15μmであるのが好ましい。
被覆層は生体内で易溶性を示すリン酸カルシウムからなる。被覆層のCa/P比は、母材のCa/P比より小さい。被覆層のCa/P比は1.0〜1.59であるのが好ましく、1.45〜1.55であるのがより好ましい。1.0〜1.59のCa/P比を有するリン酸カルシウムは生体内で易溶性を示す。このため被覆層が1.0〜1.59のCa/P比を有すると、生体内で被覆層からカルシウムイオンが溶出し易く、リン酸カルシウム系骨補填材が大きな生体親和性を示す。被覆層はβ-TCPからなるのが特に好ましい。β-TCPからなる被覆層は生体内で溶出し易く、大きな骨誘導能を示す。
Ca/P比は、母材から被覆層にかけて連続的に小さくなっているのが好ましい。例えばハイドロキシアパタイトからなる母材と、β-TCPからなる被覆層とを有するリン酸カルシウム系骨補填材のCa/P比が母材から被覆層にかけて連続的に小さくなっている場合、母材と被覆層が接する部分でハイドロキシアパタイトとβ-TCPが混在して境界が曖昧になっており、混在する部分の母材側ではハイドロキシアパタイト比率が大きく、被覆層側ではβ-TCP比率が大きくなっている。滑らかなCa/P比変化を有するリン酸カルシウム系骨補填材は、生体骨に接合し易い。このようなリン酸カルシウム系骨補填材は、後述する本発明の製造方法によって作製することができる。
[2] リン酸カルシウム系骨補填材の製造方法
(1) カルシウム水溶液の調製
カルシウム水溶液の濃度は10 mmol/L〜0.5 mol/Lとするのが好ましい。カルシウム濃度が0.5 mol/L超であると、リン酸カルシウム結晶が均一に析出し難過ぎる。カルシウム水溶液に用いるカルシウム塩の例として、水酸化カルシウム、硝酸カルシウムが挙げられる。
母材がカルシウム水溶液に接触している状態にする。例えば母材が粒子の場合、カルシウム水溶液に母材を入れて攪拌して懸濁液にする。母材が成形体の場合は、カルシウム水溶液に母材を浸漬させる。いずれの場合も、母材の表面全体に被覆層が形成したリン酸カルシウム系骨補填材を得るには、母材表面全体がカルシウム水溶液に接触した状態にする必要がある。母材として微粒子を使用する場合を例にとって以下説明する。

(2) リン酸カルシウム析出層の形成
カルシウム水溶液と母材を含む懸濁液にリン酸水溶液を徐々に加えると、母材の表面にリン酸カルシウムが析出し、母材とリン酸カルシウム析出層とからなる複合体が形成する。撹拌することによって懸濁液を均一に保ちながら、リン酸水溶液を滴下するのが好ましい。カルシウム水溶液、リン酸水溶液及び母材を含む混合液のpHが4〜9になるようにリン酸水溶液を添加するのが好ましく、pH5〜8にするのがより好ましい。混合液のpHを4〜9にすると、母材表面にリン酸カルシウム結晶が析出する。pHが4以上5未満であると、析出するリン酸カルシウムの結晶構造がブルシャイト(CaHPO4・2H2O)になり易く、pHが5以上9以下であると、ハイドロキシアパタイト又はその前駆体になり易い。析出層は針状の微粒子からなるのが好ましい。針状の微粒子は、母材が多孔構造である場合に、表面のみならず細孔内にも析出し易い。
滴下中の混合液のpHが常に好ましい範囲になるように、滴下するリン酸水溶液の濃度と滴下速度を設定するのが好ましい。リン酸水溶液の好ましい濃度は10 mmol/L〜0.5 mol/Lである。濃度0.5 mol/L超であると、混合液中のリン酸濃度が局所的に大きくなり過ぎて、均一なリン酸カルシウム結晶が生成し難過ぎる。
懸濁液中に生成した母材とリン酸カルシウム析出層からなる複合体は、遠心分離によって単離できる。遠心分離操作を具体的に説明する。懸濁液を回転速度1000〜10000 rpm程度で1〜15分間程度回転させ、生じた上清を除去する。残留物に水を加えて遠心分離し、上清除去する操作を3回以上繰り返すのが好ましい。
(3) 熱処理
単離した複合体を熱処理する。熱処理の温度は700〜1000℃とするのが好ましい。熱処理温度を1000℃超にすると、β-TCPがα-TCPに層転移する可能性が大きくなる。熱処理温度が700℃未満であると、十分な結晶化が起こらず、β-TCPが生成しにく過ぎる。例えば複合体を1000℃で熱処理する場合、0.5〜4時間程度で熱処理が完了する。
リン酸カルシウム析出層がブルシャイトであった場合も、熱処理によってβ-TCP等の易溶性リン酸カルシウムに転移する。この変化は母材の表面付近のカルシウム原子が析出層に供給され、析出層のCa/P比が大きくなることによって起こると考えられる。なお母材から被覆層に移動するカルシウム原子は母材のごく僅かだけであるので、母材の大部分のCa/P比は熱処理の前後で変化しない。従って、この製造方法により、ハイドロキシアパタイト等の生体内で難溶性を示す母材の表面に易溶性リン酸カルシウムからなる被覆層を具備し、母材から被覆層にかけて連続的に小さくなったCa/P比を有するリン酸カルシウム系骨補填材が生成する。
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
実施例1
(1) 焼結ハイドロキシアパタイト粒子(母材)の作製
リン酸塩水溶液とカルシウム塩水溶液を混合し、ハイドロキシアパタイトを含有するスラリーを得た。スプレードライ装置を用いてハイドロキシアパタイト含有スラリーを乾燥し、造粒した後、平均粒径約20μmになるように分級した。得られたハイドロキシアパタイト粒子(以下、HA粒子という。)を電気炉に入れ、約50℃/時で昇温し、1050℃で4時間焼結した。
(2) 焼結HA−リン酸カルシウム複合体の作製
実施例1(1) で得られた焼結HA粒子1.0 gに飽和水酸化カルシウム水溶液(濃度18 mM)50 mLを加え、マグネティックスターラーを用いて撹拌し、懸濁液にした。この懸濁液を撹拌しながら、pHが5になるように濃度0.1 Mのリン酸水溶液を滴下した。カルシウムとリン酸を十分に反応させ、懸濁液中に焼結HA−析出リン酸カルシウム複合体を含む沈殿物が生じた後、懸濁液を遠心分離(5000 rpm、5分間)し、上清を取り除いた。残留物に蒸留水を加えて懸濁させ、遠心分離(5000 rpm、5分間)及び上清除去する操作を3回繰り返した後、得られた焼結HA−析出リン酸カルシウム複合体を蒸留水で洗浄した。
(3) 熱処理
焼結HA−析出リン酸カルシウム複合体を1000℃で1時間加熱し、リン酸カルシウム系骨補填材を得た。
(4) 評価
焼結HA粒子、焼結HA−析出リン酸カルシウム複合体、及びリン酸カルシウム系骨補填材を走査電子顕微鏡(SEM)の試料台に載せ、白金−パラジウムを蒸着して表面を観察した。観察には株式会社日立製作所製のS-4200を使用した。
図1は、母材として用いた焼結HA粒子の顕微鏡写真である。図1に示すように、焼結HA粒子は、約200〜400 nmの直径を有する一次粒子が粒界によって結合したものであり、直径20μm程度の細孔を有する多孔体であった。焼結HA粒子の表面は平滑であった。
図2は、焼結HA−析出リン酸カルシウム複合体の顕微鏡写真である。図2から、焼結HA粒子の表面に長辺1〜10μm程度の細長い薄片状のものが析出していることが分かった。図3は、焼結HA−析出リン酸カルシウム複合体の熱処理により得られたリン酸カルシウム系骨補填材の顕微鏡写真である。図3から、リン酸カルシウム系骨補填材は平滑な表面を有することが分かった。
焼結HA粒子、焼結HA−析出リン酸カルシウム複合体、及びリン酸カルシウム系骨補填材の結晶相をX線回折装置(理学電機株式会社製)によって分析した。焼結HA粒子のX線回折パターンを図4に示す。焼結HA粒子は、ハイドロキシアパタイト構造を有することが確認された。比較のために、ハイドロキシアパタイトに特徴的なX線回折パターンを表1に示す。
図5は、焼結HA−析出リン酸カルシウム複合体のX線回折パターンを示す。図5に示すチャートに現れたピークのうち、母材であるハイドロキシアパタイトに帰属するもの以外のものは、ブルシャイト(CaHPO4・2H2O)に由来すると考えられた。比較のために、ブルシャイトのX線回折パターンを表2に示す。
図6に、リン酸カルシウム系骨補填材のX線回折パターンを示す。このX線回折パターンには、ハイドロキシアパタイトに由来するピークの他に、β-TCPに由来すると考えられるピークが現れていた。比較のために、β-TCPのX線回折パターンを表3に示す。
実施例2
飽和水酸化カルシウム水溶液にリン酸水溶液(濃度0.1 M)を滴下して、pHが8になるようにした以外実施例1と同様にして、焼結HA−析出リン酸カルシウム複合体、及びリン酸カルシウム系骨補填材を作製し、電子顕微鏡観察及びX線構造解析を行った。図7及び8にそれぞれ焼結HA−析出リン酸カルシウム複合体、及びリン酸カルシウム系骨補填材の顕微鏡写真を示し、図9及び10にぞれぞれのX線回折パターンを示す。
図7に示すように、焼結HA−析出リン酸カルシウム複合体は母材である焼結HA粒子の表面に、長さ10〜200 nm程度の針状結晶が析出したものであった。図9に示すX線回折パターンは典型的なハイドロキシアパタイトの回折パターンであり、他のリン酸カルシウム系化合物の回折パターンは見られなかった。
図8に示すように、リン酸カルシウム系骨補填材は平滑な表面を有する多孔体であることが分かった。また図10に示すように、リン酸カルシウム系骨補填材のX線回折パターンには、ハイドロキシアパタイトのX線回折パターンの他にβ-TCPのX線回折パターンが現れていた。
実施例3
実施例1(1) と同様にしてHA粒子を作製し、ラバープレス(2000 kgf/cm2)によって、直径16.25 mm、厚さ2.5 mmの円盤状に成形した。電気炉を用い、昇温速度約50℃/時として、HA円盤を1050℃で4時間焼結した。
焼結HA円盤を飽和水酸化カルシウム水溶液に浸漬し、混合液のpHが8になるまでリン酸水溶液を滴下した。反応終了後、焼結HA円盤とリン酸カルシウム析出層とからなる複合体を混合液から取り出し、蒸留水で十分に洗浄した後、50℃で乾燥した。この焼結HA円盤−リン酸カルシウム複合体を1000℃で1時間加熱し、円盤状リン酸カルシウム系骨補填材を得た。
焼結HA円盤、焼結HA円盤−リン酸カルシウム複合体、及び円盤状リン酸カルシウム系骨補填材の電子顕微鏡観察を行った。図11は、焼結HA円盤の電子顕微鏡写真を示す。図11から、焼結HA円盤は直径約500 nm〜数μm程度の一次粒子からなる緻密体であり、平滑な表面を有することが分かった。図12に示すように、焼結HA円盤−リン酸カルシウム複合体は、長さ数100 nm程度の針状結晶を表面に有していた。図13は、リン酸カルシウム系骨補填材の電子顕微鏡写真を示す。リン酸カルシウム系骨補填材は、平滑な表面を有する緻密体であった。
実施例4
実施例1及び2で用いた焼結HA粒子1gと、実施例1で得られたリン酸カルシウム系骨補填材1gとをフィルター付きカラムにそれぞれ充填した。得られた焼結HA粒子充填カラムとリン酸カルシウム系骨補填材充填カラムに、それぞれ約1mL/分の速度で蒸留水を注入し、各カラムから流出した液のカルシウムイオン濃度と、カルシウムイオンの溶出量を測定した。測定にはカルシウムイオンメータを用いた。
図14は、焼結HA粒子及びリン酸カルシウム系骨補填材の溶出カルシウムイオン濃度を示す。両者とも溶出カルシウム濃度は流出初期に大きく、以後は緩やかに減少した。測定中、リン酸カルシウム系骨補填材の溶出カルシウム濃度は焼結HA粒子のものより常に大きかった。
比較例1
焼結HA粒子を用いない以外実施例1(2) と同様にして、飽和水酸化カルシウム水溶液にリン酸水溶液を滴下して沈殿を生じさせ、沈殿物を遠心分離した後、洗浄及び乾燥した。得られたリン酸カルシウム粒子を1000℃で1時間加熱した。
焼結前のリン酸カルシウム粒子と焼結リン酸カルシウム粒子の走査電子顕微鏡(SEM)観察及びX線構造解析を行った。図15に示すように、リン酸カルシウム粒子は長辺1〜10μm程度の薄片からなっていた。図17は、焼結前のリン酸カルシウム粒子のX線回折パターンを示す。図17から、リン酸カルシウム粒子の結晶系はブルシャイトに同定された。
図16に示すように、焼結リン酸カルシウム粒子は部分的に焼結した薄片(一辺の長さ1〜数10μm程度)からなるものであった。図18は、焼結リン酸カルシウム粒子のX線回折パターンを示す。図18は、ピロリン酸カルシウム(化学式:Ca2P2O7)に特徴的な回折パターンであった。比較のために、ピロリン酸カルシウムのX線回折パターンを表4に示す。
参考例1
飽和水酸化カルシウム水溶液とリン酸水溶液の混合溶液のpHが8になるようにリン酸水溶液の滴下量を設定した以外比較例1と同様にして、リン酸カルシウム粒子及び焼結リン酸カルシウム粒子を作製した。
図19は、焼結前のリン酸カルシウム粒子のX線回折パターンを示す。図19に示すように、焼結前のリン酸カルシウム粒子のX線回折パターンは、未焼成のアパタイト系化合物の典型的なものであった。図20に、焼結リン酸カルシウム粒子のX線回折パターンを示す。焼結リン酸カルシウム粒子の結晶系はβ-TCPに同定された。図21に示すように、焼結リン酸カルシウム粒子は約500 nm〜数μmの直径を有する一次粒子からなり、平滑な表面を有していた。
実施例、比較例及び参考例の結果を表5に示す。
注1 焼結ハイドロキシアパタイト粒子を母材として用いた。
注2 HAはハイドロキシアパタイトを示す。
注3 焼結ハイドロキシアパタイト円盤を母材として用いた。
注4 a-HAはアパタイト系化合物(アパタイト前駆体)を示す。
注5 測定せず。
実施例1のリン酸カルシウム系骨補填材はハイドロキシアパタイトとβ-TCPからなり、ハイドロキシアパタイトからなる母材と同様の形状を有する。このことから実施例1は、母材の表面にβ-TCPからなる被覆層が形成したものであると考えられる。また焼結の前後を比較すると、ブルシャイトの薄片状組織が熱処理によってβ-TCPに変化したと考えられる。ブルシャイトのCa/P比は1.0であるのに対し、β-TCPのCa/P比は1.5であり、熱処理によって構造変化のみならずCa/P比変化も起こったことが分かった。このCa/P比の変化は、母材から被覆層にカルシウム原子が供給されたことによって生じたと考えられる。
一方、母材を有しないブルシャイト薄片状組織は、熱処理によってピロリン酸カルシウムに転移したことがわかった(比較例1)。ピロリン酸カルシウムのCa/P比は、ブルシャイトと同じ1.0である。母材を有しないブルシャイト薄片状組織の場合、熱処理の前後でCa/P比の変化は起こらず、Ca/P比1.5のβ-TCPは生成し得ない。このためCa/P比1.0のピロリン酸カルシウムが生成したと考えられる。
実施例2及び3のリン酸カルシウム系骨補填材も母材と同様の形状を有しており、母材の表面にβ-TCPからなる被覆層が形成したものであると考えられる。いずれのリン酸カルシウム系骨補填材も、カルシウム欠損型のハイドロキシアパタイトからなる析出層が熱処理によってβ-TCPからなる被覆層に変化したものであると考えられる。この構造変化は、参考例1からも確認された。実施例2及び3から、母材としてハイドロキシアパタイトからなる粒子を用いた場合も成形体を用いた場合も、母材表面にβ-TCPからなる被覆層が形成した骨補填材を得ることができた。
以上より、pHや母材形状等の作製条件の違いにより母材である焼結HA粒子に析出するリン酸カルシウムの結晶構造が異なっていても、β-TCPからなる被覆層を有するリン酸カルシウム系骨補填材を作製できることが分かった。またリン酸カルシウム系骨補填材は大きなカルシウムイオン溶解性を示し(実施例4)、生体内で大きな骨誘導能を示し得ることが確認された。
焼結HA粒子の顕微鏡写真である。 焼結HA−析出リン酸カルシウム複合体の顕微鏡写真である。 実施例1のリン酸カルシウム系骨補填材の顕微鏡写真である。 焼結HA粒子のX線回折パターンを示すグラフである。 焼結HA−析出リン酸カルシウム複合体のX線回折パターンを示すグラフである。 実施例1のリン酸カルシウム系骨補填材のX線回折パターンを示すグラフである。 焼結HA−析出リン酸カルシウム複合体の別の顕微鏡写真である。 実施例2のリン酸カルシウム系骨補填材の顕微鏡写真である。 焼結HA粒子のX線回折パターンを示す別のグラフである。 実施例2のリン酸カルシウム系骨補填材のX線回折パターンを示すグラフである。 焼結HA円盤の電子顕微鏡写真である。 焼結HA円盤−リン酸カルシウム複合体の電子顕微鏡写真である。 実施例3のリン酸カルシウム系骨補填材の電子顕微鏡写真である。 焼結HA粒子及び実施例1のリン酸カルシウム系骨補填材の溶出カルシウムイオン量及び濃度を示すグラフである。 リン酸カルシウム粒子の電子顕微鏡写真である。 比較例1の焼結リン酸カルシウム粒子の電子顕微鏡写真である。 リン酸カルシウム粒子のX線回折パターンを示すグラフである。 比較例1の焼結リン酸カルシウム粒子のX線回折パターンを示すグラフである。 リン酸カルシウム粒子のX線回折パターンを示すグラフである。 比較例1の焼結リン酸カルシウム粒子のX線回折パターンを示すグラフである。 比較例1の焼結リン酸カルシウム粒子の顕微鏡写真である。

Claims (9)
Hide Dependent

  1. カルシウム溶液と、リン酸溶液とを含む混合液を調整し、その際前記混合液中にハイドロキシアパタイトからなる母材が存在するようにし、もって前記母材にリン酸カルシウムを析出させ、得られた複合体を熱処理することを特徴とするリン酸カルシウム系骨補填材の製造方法。
  2. 請求項1に記載のリン酸カルシウム系骨補填材の製造方法において、前記熱処理により得られる被覆層が前記母材より小さいCa/P比を有するリン酸カルシウムからなることを特徴とする方法。
  3. 請求項1又は2に記載のリン酸カルシウム系骨補填材の製造方法において、前記混合液のCa/P比が1.0〜1.59となるように前記カルシウム水溶液と、前記リン酸水溶液とを混合することを特徴とする方法。
  4. 請求項1〜のいずれかに記載のリン酸カルシウム系骨補填材の製造方法において、前記母材として焼結体を用いることを特徴とする方法。
  5. 請求項1〜のいずれかに記載のリン酸カルシウム系骨補填材の製造方法において、前記母材が多孔質であることを特徴とする方法。
  6. 請求項1〜のいずれかに記載のリン酸カルシウム系骨補填材の製造方法において、前記母材が緻密質であることを特徴とする方法。
  7. 請求項1〜のいずれかに記載のリン酸カルシウム系骨補填材の製造方法において、前記混合液のpHを4〜9にすることを特徴とする方法。
  8. 請求項1〜のいずれかに記載のリン酸カルシウム系骨補填材の製造方法において、前記母材にリン酸カルシウムの針状結晶を析出させることを特徴とする方法。
  9. 請求項1〜のいずれかに記載のリン酸カルシウム系骨補填材の製造方法において、前記熱処理の温度を700〜1000℃とすることを特徴とする方法。