JP4758053B2 - グリコール酸系ポリマーの組成物及びその加工品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は生分解性樹脂組成物およびこれらの組成物からなる成型加工品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、家庭や工場から廃棄されるプラスチックの増大が大きな社会問題となっている。従来より高分子材料の多くは長期にわたって安定であることを目的に作られてきたので、これらは自然環境の中では容易には分解されず、人手による処理が必須である。
現状の廃棄物処理は焼却処分や埋設処分であるが、不要となったプラスチック廃棄物の量は処理する側の能力をはるかに超え、いかに処分すべきかとの問題を引き起こしている。
【0003】
このような状況の中、加水分解・微生物分解等で崩壊する生分解性高分子が環境に負荷を与えない高分子材料として注目を集め、研究開発が多数行われている。
中でも透明性、耐熱性、安全性が優れている上、近年、原料が大量かつ安価に製造されるようになってきたポリ乳酸(PLA)が注目され、様々な応用がなされている。しかしながらポリ乳酸をはじめとしたポリ乳酸系樹脂は、耐熱性は比較的よいものの、酸素透過阻止性、水蒸気透過阻止性等のバリア性に劣っている。また、ガラス転移点が高く、剛直で脆いため、しなやかさが求められる材料としては使い勝手が悪く、これらにおける利用価値は制限される。
【0004】
一方でポリグリコール酸(PGA)をはじめとしたポリグリコール酸系樹脂は高い耐熱性および非常に優れたバリア性を示す材料である。しかし、PLAと同様に剛直で柔軟性が乏しく、その高い耐熱性ゆえに加工安定性が低いという問題がある。
そこでこれらを可塑化して柔軟性を与え、適当な伸び、適当な弾性率を発現させてポリオレフィンのように使い勝手を良くする工夫が種々なされている。
【0005】
このうちPLA系樹脂用の可塑剤としては、フタル酸ジエチルなどのフタル酸エステル、アジピン酸ジイソブチルなどの脂肪族二塩基酸エステル、リン酸ジフェニルオクチルなどのリン酸エステル、アセチルクエン酸トリブチルなどのヒドロキシ多価カルボン酸エステル、アセチルリシノール酸メチルなどの脂肪酸エステル、トリアセチン、トリプロピオニンなどの多価アルコールエステル、エポキシ価大豆油などのエポキシ系可塑剤などが知られる(例えば特開平4−335060号、特表2000−506204号の各公報)。
【0006】
しかしながら、上記PLA系樹脂の場合、可塑化すると耐熱性、バリア性が更に大幅に低下するという問題点を有する場合が多い。
一方で、PGA系樹脂はPLA系樹脂に比べ適切な可塑剤の種類が少なく、PLA系樹脂用の可塑剤をPGA系樹脂に使用しても、樹脂と可塑剤の相溶性があまり良好でないため適当な柔軟性を付与することが出来ない場合や、柔軟性の付与は出来るものの樹脂組成物が加水分解し易いため成型加工時の加工安定性が損なわれる場合、等の問題点を有する場合が多い。
【0007】
このように、優れた生分解性とともに柔軟性、加工安定性、耐熱性を発揮できる能力、実用強度、および薄肉化、可塑化した際のバリア性を有した生分解性樹脂材料は未だ得られていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、優れた生分解性とともに柔軟性、加工安定性、耐熱性を発揮できる能力(非晶状・低結晶状でも可)、実用強度、更には薄肉化、可塑化した際のバリア性をも有した、ポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂組成物、及びその成型加工品であるシート、フィルムを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、以下の通りである。
(1)結晶融点が110〜230℃のポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂(A)と添加剤(B)からなる樹脂組成物(C)であって、添加剤(B)の含有割合が0.5〜30重量%であり、添加剤(B)の主成分がクエン酸の飽和エステル化合物から選ばれる少なくとも一種であり、該クエン酸の飽和エステル化合物において、クエン酸中の1つのアルコール基とエステル結合を構成する酸成分が炭素数2の飽和脂肪酸であり、且つ上記クエン酸中のいずれか1つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分が炭素数4以上6以下の脂肪族飽和アルコールであり、残り2つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分がそれぞれ炭素数1以上2以下の脂肪族飽和アルコールであり、且つ上記の4つのエステル結合を構成する飽和脂肪酸と脂肪族飽和アルコールの炭素数の合計が8以上10以下であることを特徴とするグリコール酸系ポリマーの組成物。
(2)ポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂が、グリコール酸由来よりなる単位を主体とし、他に共重合成分として、乳酸誘導体、2−ヒドロキシ−2,2−ジアルキル酢酸、3−ヒドロキシ−2,2−ジアルキルプロピオン酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシカプロン酸、ε−カプロラクトンの単量体群から選択される単量体由来の単位を少なくとも一種含むことを特徴とする前記(1)に記載のグリコール酸系ポリマーの組成物。
(3)ポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂が、グリコール酸由来以外の共重合成分を1〜45モル%含んでいることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のグリコール酸系ポリマーの組成物。
(4)ポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂(A)が、混合樹脂としてポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂以外の他の脂肪族ポリエステル系樹脂(D)、その他の熱可塑性樹脂(E)から選択される少なくとも一種の樹脂を1〜45重量%含むことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のグリコール酸系ポリマーの組成物。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載のグリコール酸系ポリマーの組成物がフィルムまたはシートまたはボトル状に加工されたものであることを特徴とする成型加工品。
(6)シートが、2%引張弾性率が0.1〜200kg/mm 2 である(5)に記載の成型加工品。
(7)延伸加工されたフィルムが、2%引張弾性率が0.1〜200kg/mm 2 である前記(5)に記載の成型加工品。
【0017】
本発明における、結晶融点が110〜230℃のポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂は、グリコール酸、グリコール酸のオリゴマー、グリコール酸メチルなどのグリコール酸エステル等の縮重合からなる重合体、グリコライドの開環重合体、およびグリコール酸、グリコール酸のオリゴマー、グリコール酸エステル、グリコライド等とその他の単量体との共重合体等であり、共重合成分で光学異性体の存在するものはそのD体、L体、DL(ラセミ)体、メソ体等が含まれる。ここで共重合とは、ランダム状、ブロック状、両者の自由な混合構造をも含む。
【0018】
共重合する他の単量体としては、以下のものが挙げられる。
共重合する他の単量体のうち、脂肪族ヒドロキシカルボン酸類としては、例えば、乳酸誘導体、2−ヒドロキシ−2−モノアルキル酢酸、2−ヒドロキシ−2,2−ジアルキル酢酸、3−ヒドロキシ−2,2−ジアルキルプロピオン酸、3−ヒドロキシ−3−モノアルキルプロピオン酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ−4−モノアルキル酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ−2−モノアルキルプロピオン酸、4−ヒドロキシ−2−モノアルキル酪酸、4−ヒドロキシ−3−モノアルキル酪酸、3−ヒドロキシ−3,3−ジアルキルプロピオン酸、3−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、3−ヒドロキシ−2−モノアルキル吉草酸、4−ヒドロキシ−2−モノアルキル吉草酸、5−ヒドロキシ−2−モノアルキル吉草酸、5−ヒドロキシ−5−モノアルキル吉草酸、
2−ヒドロキシ−3,3−ジアルキルプロピオン酸、4−ヒドロキシ−3,4−ジアルキル酪酸、5−ヒドロキシ−3−モノアルキル吉草酸、4−ヒドロキシ−4,4−ジアルキル酪酸、5−ヒドロキシ−4−モノアルキル吉草酸、3−ヒドロキシ−2,2,3−トリアルキルプロピオン酸、4−ヒドロキシ−2,2−ジアルキル酪酸、4−ヒドロキシ−3,3−ジアルキル酪酸、3−ヒドロキシ−2,3,3−トリアルキルプロピオン酸、4−ヒドロキシ−2,3−ジアルキル酪酸、又は3−ヒドロキシアルカノエートで代表される3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシバリレート、3−ヒドロキシヘキサノエート、3−ヒドロキシオクタノエート、3−ヒドロキシデカノエート、3−ヒドロキシオクタデカノエート等が挙げられる。
【0019】
但し、脂肪族ヒドロキシカルボン酸類に環状二量体、光学異性体(D体、L体、DL体、メソ体)が存在する場合には、それらも含める。
共重合する他の単量体としては、これらの脂肪族ヒドロキシカルボン酸類から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。又、これらのエステル類を原料として使用し、共重合しても良い。
また、ラクトン類も共重合する他の単量体として用いることができる。ラクトン類としては、例えば、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン等が挙げられる。単量体としては、これらのラクトン類から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0020】
同様に共重合する他の単量体は、以下のアルコール成分、酸成分から選ばれる。アルコール成分としての脂肪族多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、その他のポリエチレングリコール類、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、その他のポリプロピレングリコール類、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、カーボネート結合を有するジオール類などが挙げられ、エチレンオキシドやプロピレンオキシド等を含む物も使用することが可能である。単量体としては、これらの脂肪族多価アルコール類から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0021】
また、共重合する他の単量体のうち、酸成分としての脂肪族多価カルボン酸類としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,2−シクロペンタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ジグリコール酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、及びこれらのエステル誘導体、酸無水物等を使用することが可能である。単量体としては、これらの脂肪族多価カルボン酸類から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0022】
好ましい組み合わせ例として、例えば、グリコール酸を主原料にして、グリコール酸とL−乳酸、D−乳酸、乳酸DL体、2−ヒドロキシ−2,2−ジアルキル酢酸、3−ヒドロキシ−2,2−ジアルキルプロピオン酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシカプロン酸およびε−カプロラクトンからなる群から選ばれる少なくとも1種と共重合したもの(前述のランダム状、ブロック状、その他をも含む)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらのエステルを原料として重縮合しても良い。
【0023】
共重合する他の単量体の比率は、対象成分同士によって多少異なるが、共重合する他の単量体の合計で表して好ましくは1〜45モル%、より好ましくは3〜40モル%、さらに好ましくは5〜35モル%程度である。
これら共重合する他の単量体の合計の好ましい比率は、下限は添加剤(B)とのなじみの悪化で制限され、上限はバリア性、耐熱性を維持するために制限される。
【0024】
本発明のポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂(A)は、他にポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂以外の脂肪族ポリエステル系樹脂(D)および、その他の熱可塑性樹脂(E)からなる群から選ばれる樹脂を1種もしくは2種以上混合して用いても構わない。本発明において、ポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂(A)とは、ポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂を50重量%以上含有する樹脂を言う。
【0025】
これら樹脂の混合する場合の比率は、対象成分同士によっても異なるが、混合する樹脂(D)および(E)の合計で表して好ましくは1〜45重量%であり、より好ましくは2〜40重量%、さらに好ましくは3〜30重量%程度である。
ポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂以外の脂肪族ポリエステル系樹脂(D)として、具体的には乳酸、2−ヒドロキシ−2,2−ジアルキル酢酸、3−ヒドロキシ−2,2−ジアルキルプロピオン酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシカプロン酸、ε−カプロラクトン等から選択される少なくとも一種の単量体単位(又はこれらのエステル単位)を50モル%以上含む重合体、及びこれらの共重合体、これらの光学異性体、又はこれらにグリコール酸を50モル%未満含む共重合体、更には前述の共重合成分からなる樹脂等が挙げられる(光学異性体は通常結晶構造に影響を与えるので別の単量体として換算する事とする。)。またポリL体とポリD体とのステレオコンプレックス体等のブレンド体をも含むものとする。
【0026】
また他には、バイオ技術等により菌により産出させたポリ3−ヒドロキシアルカノエートとして代表される、例えばポリ3−ヒドロシキブチラートもしくは、3−ヒドロシキブチラートに、3−ヒドロキシバリレート、3−ヒドロキシヘキサノエート、3−ヒドロキシオクタノエート、3−ヒドロキシデカノエート、3−ヒドロキシオクタデカノエート等のうち少なくとも一種を共重合させたもの等がある。
【0027】
これら該樹脂(D)は、該樹脂(A)の主体成分であるポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂より、ガラス転移温度(以下、Tgと略す。後述のDSC法に準じて測定。)が低いものが好ましく、より好ましくはTgが−70〜30℃のもの、さらに好ましくはTgが−60〜20℃のものである。
次に、その他の熱可塑性樹脂(E)としては、ポリオレフィン系樹脂、芳香族系単量体を含む通常のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系共重合樹脂、α−オレフィン( エチレン等)−スチレン共重合樹脂(同水添樹脂含む。)、α−オレフィン−一酸化炭素共重合樹脂(同水添樹脂含む。)、エチレン−脂環族炭化水素共重合樹脂(同水添樹脂含む。)、スチレン−ブタジエン又はイソプレン共重合樹脂(同水添樹脂含む。)、石油樹脂(同水添樹脂含む。)、天然樹脂(同水添樹脂含む。)、原料を天然品として重合した樹脂(同水添樹脂含む。)等が挙げられる。
【0028】
本発明のポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂の重合度の範囲は、重量平均分子量(Mw)(但し測定はASTM−D3536に準拠してゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより行い、標準ポリメチルメタクリレート換算にて分子量を算出。溶剤はHFIP(Hexafluoro iso propanol)を使用。)で、通常20,000〜1,000,000程度であり、好ましくは50,000〜800,000、より好ましくは70,000〜700,000である。
【0029】
これらの下限は強度、加工時の適正な熔融粘度(加工安定性)、耐熱性等より制限され、上限は添加剤との馴染みの度合い及び加工性により制限される。
本発明における樹脂(A)は、結晶融点(後述の示差走査熱量測定(以下DSC法と略)に準じて測定)が110〜230℃のポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体としている。
該樹脂(A)の結晶融点が110℃未満であると耐熱性が必要な用途の場合、耐熱性が不足し、また230℃を超えると分解温度が近くなり、分子量低下等による押出成形性の不安定化や着色し易くなることから好ましくない。
【0030】
好ましい結晶融点の範囲は同じ理由で120〜220℃であり、より好ましくは130〜215℃である。
上記ポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂の結晶構造は、重合の反応条件や触媒系などによりある程度自由に制御できるが、下述の範囲内であれば、各種の構造及びブロック的結晶構造のものも含むものとする。
更に上記ポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂の結晶化度(後述のDSC法に準じて測定。)の範囲は通常3〜50%程度であり、好ましくは4〜40%である。
【0031】
これらの下限は耐熱性、寸法安定性等より制限され、上限は添加剤との馴染みにより制限される。但し、組成物および樹脂自体については、加工条件および添加剤等の影響により結晶化度が低くなったとしても、そのまま使用できる場合は当然のこと、使用時に適度に結晶化し、実用上有効に耐熱性が出る場合があるので、結晶化度はここに定めた範囲を超えていてもかまわない。
本発明で使用する添加剤(B)は、樹脂(A)の可塑化を行い、加工性を向上させるために必要なものである。また、廃棄後のコンポスト処理を容易にする効果も有する。
【0032】
該添加剤(B)の主成分は、特定のクエン酸の飽和エステル化合物である。この特定のクエン酸の飽和エステル化合物とは、クエン酸中の1つのアルコール基とエステル結合を構成する酸成分が飽和脂肪酸であり、且つ上記クエン酸中の3つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分が脂肪族飽和アルコールであり、且つ上記の4つのエステル結合を構成する飽和脂肪酸と脂肪族飽和アルコールの炭素数の合計が7以上18以下であり、且つこれら4つのエステル結合を構成する飽和脂肪酸もしくは脂肪族飽和アルコールのうちのいずれか1つもしくは2つの炭素数がそれぞれ4以上12以下であり、残りの飽和脂肪酸もしくは脂肪族飽和アルコールの炭素数がそれぞれ1以上3以下である化合物である。該クエン酸の飽和エステル化合物は、1種使用することも、2種以上混合して使用することもできる。
【0033】
本発明は、ポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂(A)が、クエン酸の飽和エステル化合物により可塑化されることを本発明者らが見出したことによるものであるが、該クエン酸の飽和エステル化合物のエステル基を構成する酸成分もしくはアルコール成分の全炭素数の合計が大きくなりすぎると、該樹脂(A)との相溶性が悪化し、可塑化が進みにくくなる。一方で該炭素数が少なすぎると、加工成形時の加熱処理や長期保存の際に該樹脂組成物(C)から該添加剤(B)が揮発し易くなり、可塑化の効果が低下してしまう。また、ラップ等で密着性を重視する場合は、上記両者の混合体、つまり炭素数の長いものと短いものの両者を同時に含むものが表面へのブリードアウトの面で都合のよい場合がある。添加剤は、これらの点を考慮して選定する必要がある。
【0034】
以上の理由により、上記の添加剤(B)のクエン酸の飽和エステル化合物としては、好ましくは、クエン酸中の1つのアルコール基とエステル結合を構成する酸成分が飽和脂肪酸であり、且つ上記クエン酸中の3つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分が脂肪族飽和アルコールであり、且つ上記の4つのエステル結合を構成する飽和脂肪酸と脂肪族飽和アルコールの炭素数の合計が7以上16以下であり、且つこれら4つのエステル結合を構成する飽和脂肪酸もしくは脂肪族飽和アルコールのうちのいずれか1つの炭素数が4以上12以下であり、残り3つの飽和脂肪酸もしくは脂肪族飽和アルコールの炭素数がそれぞれ1以上3以下である化合物であり、
より好ましくは、クエン酸中の1つのアルコール基とエステル結合を構成する酸成分が飽和脂肪酸であり、且つ上記クエン酸中の3つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分が脂肪族飽和アルコールであり、且つ上記の4つのエステル結合を構成する飽和脂肪酸と脂肪族飽和アルコールの炭素数の合計が8以上14以下であり、且つこれら4つのエステル結合を構成する飽和脂肪酸もしくは脂肪族飽和アルコールのうちのいずれか1つの炭素数が4以上8以下であり、残り3つの飽和脂肪酸もしくは脂肪族飽和アルコールの炭素数がそれぞれ1以上3以下である化合物であり、
さらに好ましくはクエン酸中の1つのアルコール基とエステル結合を構成する酸成分が飽和脂肪酸であり、且つ上記クエン酸中の3つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分が脂肪族飽和アルコールであり、且つ上記の4つのエステル結合を構成する飽和脂肪酸と脂肪族飽和アルコールの炭素数の合計が8以上11以下であり、且つこれら4つのエステル結合を構成する飽和脂肪酸もしくは脂肪族飽和アルコールのうちのいずれか1つの炭素数が4以上6以下であり、残り3つの飽和脂肪酸もしくは脂肪族飽和アルコールの炭素数がそれぞれ1以上3以下である化合物であり、
最も好ましくはクエン酸中の1つのアルコール基とエステル結合を構成する酸成分が炭素数2の飽和脂肪酸であり、且つ上記クエン酸中のいずれか1つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分が炭素数4以上6以下の脂肪族飽和アルコールであり、残り2つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分がそれぞれ炭素数1以上2以下の脂肪族飽和アルコールであり、且つ上記の4つのエステル結合を構成する飽和脂肪酸と脂肪族飽和アルコールの炭素数の合計が8以上10以下である化合物である。
【0035】
該クエン酸の飽和エステル化合物としては、例えば、アセチルクエン酸ジメチルモノブチル、アセチルクエン酸ジエチルモノブチル、アセチルクエン酸ジプロピルモノブチル、アセチルクエン酸モノメチルジブチル、アセチルクエン酸ジメチルモノヘキシル、アセチルクエン酸モノメチルモノエチルモノヘキシル、アセチルクエン酸ジメチルモノオクチル、アセチルクエン酸ジメチルモノラウリル、アセチルクエン酸ジエチルモノラウリル、プロピオニルクエン酸ジメチルモノブチル、ブチリルクエン酸ジエチルモノブチル、バレリルクエン酸トリメチルなどが挙げられる。
【0036】
但し、これらのアルキル基には、例えば、n−ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチルなどのような異性体も含むものとする。
なお、該クエン酸の飽和エステル化合物の名称は、クエン酸のアルコール基とエステル結合を構成する酸成分を前に、クエン酸のカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分を後ろの順に記述する。
該樹脂組成物(C)中の該添加剤(B)の含有割合は、0.5〜30重量%の範囲であり、好ましい範囲は3〜27重量%であり、より好ましくは5〜25重量%である。これらの下限は該樹脂組成物(C)の柔軟性不足により制限され、上限は該樹脂組成物(C)から得られる成形加工品の寸法安定性、耐熱性、成形加工安定性不足、強度不足により制限される。
【0037】
また、該添加剤(B)は、主成分である上記のクエン酸の飽和エステル化合物の他に、グリセリンエステル、ポリグリセリンエステル、その他の単価アルコールもしくは多価アルコールとの脂肪族脂肪酸エステル、脂肪族ヒドロキシカルボン酸エステル、脂肪族多価カルボン酸エステル、エポキシ系可塑剤等のうち1種または2種以上を混合して使用しても構わず場合によっては好ましい場合がある。以下、添加剤(B)の主成分である上記のクエン酸の飽和エステル化合物以外の成分を添加剤(F)という。
【0038】
添加剤(F)の具体例としては、グリセリンエステル又はジグリセリンエステル等のポリグリセリンエステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類であり、そのエステルの酸成分としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸等の飽和脂肪酸や、オレイン酸等のノルマルモノ不飽和脂肪酸、リノール酸、リノレン酸等のジおよびトリ二重結合を有する脂肪酸から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0039】
又は、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコールおよびこれらの重縮合物と上記脂肪酸との自由なエステルである。
又は、グリコール酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸等の自由なエステルである(但し、クエン酸エステルの場合は、添加剤(B)の主成分である前述のクエン酸の飽和エステル化合物は除く)。
又は、多価カルボン酸としてマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の自由なエステルである。
【0040】
又は、エポキシ化変性大豆油、エポキシ化変性亜麻仁油等である。
これらの内、好ましいグリセリンエステル系では、エステルを構成する脂肪酸の全てが炭素数が2もしくは3の短鎖脂肪酸であるグリセリンエステルまたはポリグリセリンエステル、または分子中の全エステル基のうちの1つのエステルを構成する脂肪酸が炭素数が7〜12の中鎖脂肪酸であり、残りのエステルを構成する脂肪酸が炭素数が2もしくは3の短鎖脂肪酸であるグリセリンエステルまたはポリグリセリンエステルである。または、両者の混合物である。
【0041】
具体的には、トリアセチン、グリセリンジアセトモノプロピオネート、グリセリンジプロピオネートモノアセテート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノカプレート、グリセリンジアセトモノラウレート、トリプロピオニン、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリントリアセトモノカプレート、ジグリセリントリアセトモノラウレート、トリグリセリンヘプタアセテート、テトラグリセリンヘキサアセテート等が挙げられる。
【0042】
また、好ましいクエン酸エステル系としては、アセチルクエン酸トリメチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリプロピル、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリオクチル、アセチルクエン酸モノエチルジラウリル、プロピオニルクエン酸ジエチルモノラウリル又はこれらの混合エステル等が挙げられる。
また、好ましいリンゴ酸エステル系としては、リンゴ酸中の1つのアルコール基とエステル結合を構成する酸成分が飽和脂肪酸であり、且つ上記リンゴ酸中の2つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分が脂肪族飽和アルコールであり、且つ上記の3つのエステル結合を構成する飽和脂肪酸と脂肪族飽和アルコールの炭素数の合計が3以上20以下であるリンゴ酸エステルが挙げられる。
【0043】
具体的には、アセチルリンゴ酸ジメチル、アセチルリンゴ酸ジエチル、アセチルリンゴ酸ジプロピル、アセチルリンゴ酸ジブチル、アセチルリンゴ酸モノエチルモノプロピル、アセチルリンゴ酸モノエチルモノブチル、アセチルリンゴ酸モノエチルモノペンチル、アセチルリンゴ酸モノエチルモノヘキシル、アセチルリンゴ酸モノエチルモノオクチル、アセチルリンゴ酸ジヘキシル、アセチルリンゴ酸ジオクチル、アセチルリンゴ酸モノエチルモノラウリル、プロピオニルリンゴ酸ジエチル、ブチリルリンゴ酸ジエチル、バレリルリンゴ酸ジエチル等が挙げられる。また、アセチルリンゴ酸モノオクチルモノラウリル、アセチルリンゴ酸ジラウリル、又はこれらの混合エステル等が挙げられる。
【0044】
また、その他に好ましい例としてはエポキシ化変性亜麻仁油、等が挙げられる。
添加剤(F)を混合する場合、添加剤(B)中の添加剤(F)の含有割合が50重量%未満、好ましくは1〜40重量%、より好ましくは2〜30重量%となるようにする。
これらの添加剤(F)は、可塑化と同時に少量の粘度の高い成分が表面にブリードアウトすることで可塑化と密着性を同時に満足し、用途により、好ましい場合がある。
【0045】
本発明の樹脂組成物(C)は、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、カレンダ成形、真空成形、発泡成形、圧縮成形等の製法により、射出成形品、発泡体、連通気孔体、押出しシート、インフレ、キャストフィルム、延伸フィルム等に加工して、例えば包装材、又バイオ、医学用の用途(徐放材、培養材等)等に用いられる。この内好ましくは、分子配向をかけ少なくとも一部結晶化させたものであり、例えば結晶化度は少なくとも5%、好ましくは10%以上である。
【0046】
本発明の樹脂組成物(C)の引張弾性率(kg/mm2 )は、樹脂組成物(C)から作成した厚み200μmの急冷プレスシートをサンプルとして用い、ASTM−D882に準拠して室温23℃、湿度50%の条件下で測定される2%伸張時の応力を100%に換算し、更に厚み換算した値の平均値(サンプル数=5)である。この引張弾性率の好ましい範囲は、一般に0.1〜200kg/mm2であり、より好ましい範囲は0.2〜170kg/mm2、更に好ましくは0.4〜120kg/mm2である。
【0047】
本発明の樹脂組成物(C)の流れ指数(MFR)はASTM−D1238に準拠して2160gの荷重下において210℃で測定される。但し、樹脂の融点が210℃を超える場合は、同条件で230℃での値とする。得られた数値は10分間に押出された試料の質量(サンプル数=3の平均)であり、単位は(g/10分)である。MFRの好ましい範囲は50以下、より好ましくは40以下である。
【0048】
本発明の原料樹脂の結晶融点は、充分最適条件でアニールさせ結晶を平衡化せしめ、JIS K7121に準じたDSC法により10℃/分の昇温速度で測定した主ピーク温度で表す。
本発明の原料樹脂のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121に準じたDSC法により10℃/分の昇温速度で測定して求められる。
また本発明の原料樹脂の結晶化度は、簡易的に100%結晶の融解エネルギーにPGAの結晶融解エネルギー206.5J/g(出典:J.A.P.Sci Vol.26.1727〜1734:1981年)を用い、JIS K7122に準じたDSC法にて求めた原料樹脂の融解エネルギーとの相関を求めて決定する。
【0049】
本発明の樹脂組成物(C)の酸素透過度は、上記急冷プレスシートを最適条件で充分熱処理結晶化させたシート(厚さ200μm)を23℃に管理された室内においてデシケーター内で塩化カルシウムにより48時間乾燥処理をし、23℃に管理された室内でJIS−K−7126に準拠した方法により測定して決定される。得られた数値は24時間のうちに1m2 あたり1atmの圧力差のもとでシートを透過した酸素の体積で(サンプル数=3の平均値)、単位は(cc・200μm/m2 ・day・atm)である。酸素透過度の好ましい範囲は100以下、より好ましくは70以下、更に好ましい範囲は50以下である。
【0050】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施例を用いて更に詳しく説明する。
ここで使用するポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂(A)、およびポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂以外の脂肪族ポリエステル系樹脂(D)の詳細は以下の通りのものである。
A−1は、グリコライド80モル%にL−ラクタイド20モル%を開環重合法で共重合した樹脂(結晶融点197℃、結晶化度25%)である。
A−2は、グリコール酸90モル%にL−乳酸10モル%を直接重合法で共重合した樹脂(結晶融点192℃、結晶化度34%)である。
A−3は、グリコライド80モル%に2−ヒドロキシイソ酪酸20モル%を共重合した樹脂(結晶融点185℃、結晶化度20%)である。
A−4は、グリコライド75モル%にL-ラクタイド25モル%を開環重合法で共重合した樹脂(結晶融点187℃、結晶化度28%)である。
【0051】
D−1は、乳酸系脂肪族ポリエステル樹脂で、L−ラクタイド95モル%にD−ラクタイド5モル%を共重合した樹脂(結晶融点167℃、結晶化度37%)である。
D−2は、主成分が、ブタンジオール成分50モル%、テレフタル酸成分22.2モル%、アジピン酸成分27.8モル%からなる生分解性コポリエステル(BASF社製Ecoflex(商品名)、結晶融点110℃、Tg −30℃、結晶化度30%)である。
D−3は、ポリエチレンサクシネート(日本触媒社製ルナーレSE(商品名)、結晶融点100℃、Tg −11℃)である。
D−4は、ポリカプロラクトン(ダイセル化学工業社製セルグリーンPH(商品名)、結晶融点60℃、Tg −60℃)である。
【0052】
ここに使用する添加剤は以下の通りである。
B−1は、アセチルクエン酸ジメチルモノブチルである。
B−2は、アセチルクエン酸ジエチルモノブチルである。
B−3は、アセチルクエン酸モノメチルモノエチルモノヘキシルである。
B−4は、ブチリルクエン酸ジエチルモノブチルである。
B−5は、プロピオニルクエン酸ジエチルモノブチルである。
【0053】
F−1は、アセチルクエン酸トリオクチルである。
F−2は、グリセリンモノアセテートである。
F−3は、アセチルクエン酸トリエチルである。
F−4は、グリセリンジアセトモノカプレートである。
【0054】
【実施例1〜3、参考例4、実施例5、参考例6、実施例7〜9】
樹脂としてA−1〜4、D−2〜4と、添加剤としてB−1〜5、F−3〜4を、表1に示す割合(なお、表1の添加剤量は樹脂組成物(C)中の割合である。表1の樹脂の混合割合は樹脂(A)中の割合である。)で窒素フロー下において210℃で15分間ニーダーで混練し、200μmの急冷シートを作成して、該シートの物性を測定した。その結果を表1に示す(数値の単位は省略する)。
【0055】
実施例1〜3、参考例4、実施例5、参考例6、実施例7〜9では、混練の際に樹脂と添加剤はすみやかに馴染み、相溶性が良好であることが確認された。また、該組成物を混練後に冷却した場合でも、可塑剤が多量に掃き出されることはなく安定であった。
実施例1〜3、参考例4では、可塑剤としてB−1〜4のように、分子中の1つのもしくは2つのエステル基がそれぞれ炭素数4〜12の中長鎖のアルキル基であり、且つ残りのエステル基がそれぞれ炭素数1〜3の短鎖のアルキル基である可塑剤を用いると、引張弾性率が低く可塑化が進行している上に、MFRがあまり上昇せず該組成物が加水分解による分子量低下を起こし難くなっていることが見出された。
【0056】
また実施例5、参考例6では、添加剤(F)を混合しても、添加剤(B)の主成分であるクエン酸の飽和エステル化合物を単独で用いた場合と同様に、該樹脂(A)を可塑化し、かつ該組成物(C)の分子量低下を起こし難いことが確認された。さらに、実施例5、6の該シートを30℃で1週間経過させたところ、表面に多少の可塑剤をブリードアウトさせることができ、密着性の発現を認めることができた。このように可塑剤のブリードアウトが制御できることは、樹脂組成物の密着性が制御できることになり好ましい。
【0057】
実施例7〜9のように、ポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂(A)として、ポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂以外の脂肪族ポリエステル系樹脂(D)を混合して用いても、引張弾性率が低く可塑化が十分に進行している上に、MFRがあまり上昇せず該組成物が分子量低下を起こし難くなっていることが見出された。
【0058】
また、これら実施例7〜9の樹脂組成物(C)の柔軟性および密着性は、該樹脂(D)を混合しないものより、向上した。このように、該樹脂(A)の主体成分であるポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂よりもTgが低いD−2〜4のような樹脂を混合させることにより、樹脂組成物(C)の柔軟性や密着性を制御できる。これは、ラップ等の用途で、柔軟性や密着性を重視する場合は、特に好ましいと言える。
また、実施例2、5の樹脂組成物の酸素透過度はそれぞれ4、6(cc・200μm/m2・day・atm)と低く、本発明の樹脂組成物が優れたバリア性を有していることが確認された。
【0059】
【表1】
【0060】
【実施例10】
実施例2の樹脂組成物の200μm急冷シートを、東洋精機社製二軸延伸装置を用い、破れ防止の為の補助層をもうけて80℃で縦方向3.5倍、横方向3.5倍に二軸延伸し延伸フィルムを作成した。その結果、該フィルムは適度な腰と密着性をもち、プラスチック製コップ等に張り付いて内容物をうまく包装することができた。また、透明性の評価として、村上色彩技術研究所社製ヘーズ計HR−100を使用し、JIS K7105に準拠してヘーズを測定したところ、該フィルムのヘーズは1.1%であり、外観も透明で優れていた。
【0061】
【比較例1〜3】
樹脂としてA−2、A−4、D−1と、添加剤としてF−1〜2を表2に示す割合もしくは下記の割合(なお、表2の添加剤量は樹脂組成物(C)中の割合である)で窒素フロー下において210℃で15分間ニーダーで混練し、200μmの急冷シートを作成して、該シートの物性を測定した。その結果を表2に示す(数値の単位は省略する)。
F−1のように長いアルキル基を多く有し、分子中の炭素数の合計が大きい可塑剤は、樹脂との相溶性が悪く、実施例1と同量の可塑剤を加えようとすると、樹脂と分離してしまい混合できなかった。また、比較例2のように、F−1を混合可能な範囲内で添加した場合は、弾性率が大きくなり十分な柔軟性を付与することが出来なかった。
【0062】
また、F−2のように水酸基が分子内に存在する可塑剤の場合は、可塑化は進むものの、加水分解やエステル交換反応等によるポリマーの分子崩壊が起こるために、MFRが増大して加工安定性が損なわれた。
一方で、PLA系樹脂であるD−1に可塑剤としてB−2を15重量%混合した樹脂組成物の場合、酸素透過度は875(cc・200μm/m2・day・atm)と高く、ガスバリア性に劣っていた。
【0063】
【表2】
【0064】
【発明の効果】
本発明によれば、優れた生分解性とともに耐熱性、柔軟性および加工安定性、実用強度、および薄肉化・可塑化した際のバリア性を有した、ポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂組成物、及びその成型加工品であるシート、フィルムを提供することができた。
Claims (7)
- 結晶融点が110〜230℃のポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂(A)と添加剤(B)からなる樹脂組成物(C)であって、添加剤(B)の含有割合が0.5〜30重量%であり、添加剤(B)の主成分がクエン酸の飽和エステル化合物から選ばれる少なくとも一種であり、該クエン酸の飽和エステル化合物において、クエン酸中の1つのアルコール基とエステル結合を構成する酸成分が炭素数2の飽和脂肪酸であり、且つ上記クエン酸中のいずれか1つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分が炭素数4以上6以下の脂肪族飽和アルコールであり、残り2つのカルボキシル基とエステル結合を構成するアルコール成分がそれぞれ炭素数1以上2以下の脂肪族飽和アルコールであり、且つ上記の4つのエステル結合を構成する飽和脂肪酸と脂肪族飽和アルコールの炭素数の合計が8以上10以下であることを特徴とするグリコール酸系ポリマーの組成物。
- ポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂が、グリコール酸由来よりなる単位を主体とし、他に共重合成分として、乳酸誘導体、2−ヒドロキシ−2,2−ジアルキル酢酸、3−ヒドロキシ−2,2−ジアルキルプロピオン酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシカプロン酸、ε−カプロラクトンの単量体群から選択される単量体由来の単位を少なくとも一種含むことを特徴とする請求項1に記載のグリコール酸系ポリマーの組成物。
- ポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂が、グリコール酸由来以外の共重合成分を1〜45モル%含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載のグリコール酸系ポリマーの組成物。
- ポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂を主体とする樹脂(A)が、混合樹脂としてポリグリコール酸系脂肪族ポリエステル樹脂以外の他の脂肪族ポリエステル系樹脂(D)、その他の熱可塑性樹脂(E)から選択される少なくとも一種の樹脂を1〜45重量%含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のグリコール酸系ポリマーの組成物。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のグリコール酸系ポリマーの組成物がフィルムまたはシートまたはボトル状に加工されたものであることを特徴とする成型加工品。
- シートが、2%引張弾性率が0.1〜200kg/mm2である請求項5に記載の成型加工品。
- 延伸加工されたフィルムが、2%引張弾性率が0.1〜200kg/mm2である請求項5に記載の成型加工品。
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