以下、本発明の実施形態を図面と共に詳述する。
図1〜図10は本発明にかかる車両衝突時の乗員保護装置の一実施形態を示し、図1は乗員保護装置を搭載した車両前部の側面図、図2は第1シートバック変位手段の作動状態を(a),(b)によって示す側面図、図3は第2シートバック変位手段の作動状態を(a),(b)によって示す側面図、図4は第1シートクッション後部変位手段の斜視図、図5はシートベルトの着用状態の斜視図であり、図6は乗員保護装置の制御フローチャートの説明図である。
また、図7は乗員保護装置の作動状態を衝突直前と衝突直後と衝突後に分けて表形式で示す説明図、図8は衝突時における股関節部の機能を(a)の開き角度が小さい場合と(b)の開き角度が大きい場合とで示す説明図、図9は股関節角度の変化を時系列で示す解説図、図10はシートベルトのプリテンショナーの作用を(a),(b)に順を追って示す側面図である。
本実施形態の車両衝突時の乗員保護装置10は、図1に示すように車両1の正面衝突や斜め衝突およびオフセット衝突などの前方衝突を検知する衝突検知手段11と、前記前方衝突の検知によってシート12に着座した乗員(本実施形態では運転者を示す)Dの腰部Dwと大腿部Dtの角度θを広げる股関節部広げ手段13と、を設けてある。
また、本実施形態の車両衝突時の乗員保護方法は、車両1の正面衝突や斜め衝突およびオフセット衝突などの前方衝突を検知して、股関節部広げ手段13により、シート12に着座した乗員Dの腰部Dwと大腿部Dtの角度θを広げる手法が採られる。
前記衝突検知手段11は、衝突予知センサとしてのプリクラッシュセンサ11aと、実衝突を検知する衝突センサ11bとによって構成され、両者共に車両前端部に配置されて、プリクラッシュセンサ11aおよび衝突センサ11bの検出信号はコントローラ14に出力される。
プリクラッシュセンサ11aは前方の衝突対象物の存在を検知してその距離を検出するとともに、前記コントローラ14はそのプリクラッシュセンサ11aの検出信号から前方衝突の可能性を判断するようになっており、前記衝突検知手段11は衝突予測手段15を構成している。
即ち、前記衝突予測手段15は、衝突対象物との接近を検知する衝突検知センサとしての前記プリクラッシュセンサ11aと、このプリクラッシュセンサ11aの検出情報に基づいて前記前方衝突を判別して予測する予測判別手段としての前記コントローラ14と、によって構成される。
前記股関節部広げ手段13は、本実施形態ではシートバック12aの一部または全体を後方に変位または後傾させる第1・第2シートバック変位手段20,20Aによって構成してある。
また、前記股関節部広げ手段13は、シートクッション12bの前後ほぼ中央部を上方に変位させるシートクッション変位手段30を併用するようになっている。
尚、前記第1・第2シートバック変位手段20,20Aはそれぞれが独立して機能し、これら変位手段20,20Aのいずれか1つのみを設けることによっても本発明を成立させることができる。
また、前記股関節部広げ手段13は、衝突直前にシートベルト40を緊張させるシートベルト緊張手段としてのプリテンショナー41を併用してある。このとき、シートベルト40には衝突後の張力を一定以下に制限するロードリミッタ42が設けられる。
前記第1シートバック変位手段20は、図2(a)に示すようにシートバック12aをシートクッション12bの後端部に傾動角度を図外の駆動部を介して自在に可変とするリクライニング装置21で構成してあり、前方衝突時に前記コントローラ14から出力される作動信号により前記駆動部を駆動して、図2(b)に示すようにシートバック12aを所定量後傾させるようになっている。
また、前記第2シートバック変位手段20Aは、図3(a)に示すようにシートバック12aの乗員の胸部から腰部に対応する部分の内部に、シートバックフレーム12afの前側を凹設してエアバッグ22を内蔵することにより構成してあり、このエアバッグ22は通常運転時は膨張させた状態で本来のシートバック12aの形状を保持させる一方、前方衝突時に前記コントローラ14から出力される作動信号により膨張したエアバッグ22内の空気を排出して収縮させるようになっている。
従って、前記第1シートバック変位手段20が作動されることによりシートバック12aが後傾し、また、前記第2シートバック変位手段20Aが作動されることによりエアバッグ22が収縮し、いずれの変位手段20,20Aにあっても乗員Dの上体が後方移動して乗員Dの腰部Dwと大腿部Dtの角度θを広げるようになっている。
このとき、前記第1・第2シートバック変位手段20,20Aは、車両1が衝突する直前または直後に作動させるようになっている。
前記シートクッション変位手段30は、図4に示すようにシートクッションフレーム12bfの左右両側の前後方向ほぼ中央部間に、コ字状部材31の両端部を図外の駆動部を介して回転可能に支承し、通常運転時は図中実線に示すようにコ字状部材31のコ字状突出部31aを水平に配置しておき、前方衝突時に前記コントローラ14からの出力される作動信号により駆動部を駆動して、前記コ字状突出部31aを上方若しくは前方斜め上方に回転させるようになっている。
従って、前記コ字状部材31が回転してコ字状突出部31aが上方若しくは前方斜め上方に回転されることにより、シートクッション12bの上面の前後ほぼ中央部を上方に突出させる。
更にまた、前記シートベルト40は一般の車両に用いられるもので、図5に示すように乗員Dの片側の肩部から他側の腰部に亘って斜めに拘束するショルダーベルト43と、乗員Dの腰部を拘束するラップベルト44と、からなる3点式シートベルトとして構成され、ベルトを巻き取り・巻戻しするシートベルトリトラクタ45に前記プリテンショナー41が組み込まれる。
また、前記第2シートバック変位手段20Aを、衝突直後のシートベルト40の負荷荷重が一定以上の場合に、そのシートベルト40を弛緩させた後に作動させるようになっている。
この場合、前記第2シートバック変位手段20Aに代えて、第1シートバック変位手段20やシートクッション変位手段30を作動させることもできる。
また、前記第1・第2シートバック変位手段20,20Aと前記シートクッション変位手段30のうち、第1・第2シートバック変位手段20,20Aをシートクッション変位手段30に優先して作動させるようになっている。
かかる構成になる本実施形態の乗員保護装置10は、コントローラ14によって制御されるが、その制御は図6に示すフローチャートに従って実行されるようになっており、まず、ステップS1で衝突検知手段11のプリクラッシュセンサ11aおよび衝突センサ11bによって衝突情報を取り込み、ステップS2ではその情報を基に車速などの車両状態を参照して前方の衝突対象物との距離や相対車速を演算して衝突可能性を判断する。
ステップS2で前方衝突の可能性が大きいと判断した場合(YES)は、ステップS3に進み、第1・第2シートバック変位手段20,20Aを作動するとともに、シートベルト40のプリテンショナー41を作動して乗員Dの拘束力を高める。
次にステップS4によって車両1が衝突対象物と衝突したかどうかを判断し、衝突した場合(YES)はステップS5でシートベルト40のロードリミッタ42の働きにより乗員Dの拘束力を弛めて、乗員Dの上体に働く慣性力による衝撃を緩和し、かつ、第2シートバック変位手段20Aを作動して乗員Dの腰部をより後傾させるとともに、シートクッション変位手段30を作動し、その後、ステップS6によってシートベルト40のプリテンショナー41を作動して乗員Dの拘束力を高め、前方の車体側部材に二次衝突するのを防止する。
また、ステップS2で衝突しないと判断した場合(NO)およびステップS4で衝突しなかったと判断した場合(NO)はステップS1にリターンし、特にステップS4でリターンする場合にはステップS3で作動した第1・第2シートバック変位手段20,20Aとシートベルト40のプリテンショナー41を逆方向作動して初期状態に復帰させる。
従って、本実施形態の乗員保護装置10によれば、衝突予測手段15により前方衝突が予測されると、図7に示す順序を経て第1・第2シートバック変位手段20,20Aやシートクッション変位手段30およびシートベルト40が作動するようになっている。
尚、同図では乗員保護装置10の機能を、衝突直前と、衝突直後と、衝突から僅かの時間が経過した衝突後とに分けて説明し、かつ、同図に示す(A)は第1シートバック変位手段20の作動に関わる挙動、(B)は第2シートバック変位手段20Aに関わる挙動をそれぞれ示す。
(1)衝突直前では、図7中(A1)に示すように第1シートバック変位手段20が作動し、乗員Dの上体が後傾するとともに、シートベルト40のプリテンショナー41の働きにより乗員Dの拘束力を高める。
また、図7中(B1)に示すように前記第1シートバック変位手段20と同時若しくは相前後して第2シートバック変位手段20Aが作動し、乗員Dの上体が後傾するとともに、シートベルト40のプリテンショナー41の働きにより乗員Dの拘束力を高める。
このとき、第1シートバック変位手段20による乗員Dの上体の後傾量が第2シートバック変位手段20Aよりも大きくなっており、このように第1・第2シートバック変位手段20,20Aによって上体を後傾させることにより、乗員Dが前方の車体側部材に二次衝突する危険性を抑制するとともに、前方の車体側部材に設けたエアバッグの展開時の衝撃を緩和させることができる。
(2)衝突直後では、(A2)に示すようにシートベルト40のロードリミッタ42の働きによりベルト緊張力を弛緩して乗員Dへの衝撃を緩和し、その後、(A3)に示すようにシートクッション変位手段30が作動して、(AA)に示すように乗員Dの股関節部が広げられる。
また、(B2)に示すようにシートベルト40のロードリミッタ42の働きにより乗員Dへの衝撃を緩和し、その後、(B3)に示すように前記第2シートバック変位手段20Aを更に作動して、(BB)に示すように乗員Dの股関節部が広げられる。
このように衝突直後の作動では、シートベルト40を弛めることにより乗員Dへの衝撃を緩和し、その後、(A2)により乗員Dの前方への移動を防止することができ、(B3)で乗員Dの上体の後傾を促進するため、股関節部を広げる姿勢を確実にすることができる。
乗員Dへの衝撃のピークを慣性での運動で緩和した後に、ダッシュパネル(トウボード)の変形などによる膝からの入力に対して、(A3)では乗員Dの重心を低くすることにより頭部への衝撃を緩和するとともに、乗員Dがシート11から前方に滑り出すのを防止しつつ股関節部を広くする姿勢を形成する。
また、(B3)では乗員Dの上体が後傾することによりシートベルト40による衝撃緩和効果を高くして、股関節部を広くする姿勢をより確実に実現することができる。
(3)衝突後では、(A4)に示すようにシートベルト40のプリテンショナー41により乗員Dの拘束力を高めるとともに、(B4)に示すようにシートベルト40のプリテンショナー41により乗員Dの拘束力を高める。
このように、シートベルト40による拘束力を高めることにより、車室内変形や乗員Dの慣性力に伴う挙動による二次衝突を回避することができる。
ところで、前記図7では第1シートバック変位手段20と第2シートバック変位手段20Aとを併用して乗員保護装置10を作動させた場合を説明したが、これら第1シートバック変位手段20および第2シートバック変位手段20Aのいずれか一方のみの作動、つまり、(A)系列と(B)系列の分離によっても本発明を成立させることができる。
以上の構成により本実施形態の車両衝突時の乗員保護装置10および乗員保護方法によれば、衝突検知手段11により車両1の前方衝突を検知すると、第1・第2シートバック変位手段20,20Aおよびシートクッション変位手段30を作動して乗員Dの腰部と大腿部との角度を広げることができるため、下肢を介して圧迫力が腰関節部に入力されると、その荷重は大腿骨から骨盤の肉厚部分を介して剛性が比較的高い部分に入力されるため、前記圧迫力に対して高い支持剛性が得られ、ひいては股関節部の耐力が向上することにより、該股関節部の障害を低減することができる。
つまり、前記股関節部の機能を図8によって便宜上左右逆向きで示すと、図8(a)に示すように、大腿部の大腿骨Btと腰部の骨盤Bpとの角度θが小さい場合、つまり、通常の着座姿勢では、大腿骨Btからの入力が骨盤Bpの剛性中の部分に伝達され、その範囲の面積は小さくなっている。
これに対し、図8(b)に示すように大腿骨Btと骨盤Bpとの角度θが大きい場合は、大腿骨Btからの入力が剛性大の部分に伝達され、その範囲の面積は広くなっており、股関節部の障害を低減することができる。
そのときの股関節角度の変化を図9によって時系列で示すと、衝突直前のP1部分では大腿部からの入力を骨盤の剛な部位に伝達させて支持部の強度向上が図られ、衝突直後のP2部分では衝突時の衝撃緩和後、股関節をひろげてエネルギーを吸収し、衝突後のP3部分では継続して作用する入力を骨盤の剛な部位に伝達して、強度向上および荷重分散を図る。
また、本実施形態では前記作用効果に加えて、衝突検知手段11は、前記前方衝突を予測する衝突予測手段15を構成したことにより、車両1の実際の衝突以前に衝突を予知できるため、乗員保護装置10を実際の衝突に備えて作動して保護効果をより高めることができる。
更に、前記衝突予測手段15は、衝突対象物との接近を検知するプリクラッシュセンサ11aと、このプリクラッシュセンサ11aの検出情報に基づいて前方衝突を判別して予測するコントローラ14と、から構成したので、プリクラッシュセンサ11aの情報をコントローラ14で演算することにより、衝突予知を正確にかつ精度良く判断できるようになる。
更にまた、股関節部広げ手段13は、シートバック12aの全体を後方に傾斜させる第1シートバック変位手段20およびシートバック12aの一部を後方に変位させる第2シートバック変位手段20Aで構成したので、着座姿勢を不安定にすることなく股関節部を効率良く広げることができる。
また、前記股関節部広げ手段13は、シートクッション12bの前後ほぼ中央部を上方に変位させるシートクッション変位手段30を併用するようにしたので、衝突時に乗員Dの腰部が前方に移動するのを防止することができる。
更に、股関節部広げ手段13は、衝突直前にシートベルト40を緊張させるプリテンショナー41を併用したので、衝突時に図10に示すように乗員Dを(a)に示す状態から(b)に示すようにシートバック12aに拘束できるため、乗員Dの上体をシートバック12aに安定した状態で拘束し、乗員Dに働く衝撃を効率良くシート12によって吸収できるため、乗員Dに加わる衝撃を効果的に緩和することができる。
更にまた、第1・第2シートバック変位手段20,20Aを、車両が衝突する直前に作動し、更に、第2シートバック変位手段20Aを衝突直後に作動させるようにしたので、車両前方の車体側部材との二次衝突を防止し、かつ、車両前方のエアバッグが展開した際の衝撃を緩和することができる。
また、第2シートバック変位手段20Aを、衝突直後のシートベルト40の負荷荷重が一定以上の場合に、そのシートベルト40を弛緩させた後に作動させるようにしたので、衝突時に慣性により乗員Dの上体が前方に変位する際に、衝撃荷重を緩和しつつ衝撃エネルギーを吸収でき、股関節部を広げる姿勢を安定した状態で制御できる。
更に、前記第1・第2シートバック変位手段20,20Aと前記シートクッション変位手段30のうち、第1・第2シートバック変位手段20,20Aをシートクッション変位手段30に優先して作動させることにより、始めに第1・第2シートバック変位手段20,20Aの作動で乗員Dの上体を傾けることにより腰部に前向きの力が働くため、シートクッション変位手段30を作動した時点で腰部が前方に滑り易くなり、必要以上の制御を行うことなく股関節部を効率良く広げることができる。
尚、本実施形態では第1シートバック変位手段20と第2シートバック変位手段20Aとを併用して乗員保護装置10を構成したが、第1シートバック変位手段20と第2シートバック変位手段20Aのいずれか一方のみで乗員保護装置10を構成した場合にもほぼ同様の作用効果を奏することができる。
図11〜図17は一実施形態に示すシートバック変位手段の第1〜第7変形例を示し、それぞれの変形例を一実施形態と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べるものとする。
図11に示す第1変形例のシートバック変位手段20Bは、(a)に示すようにシートバック12aの乗員の胸部に対応する部分の内部に、シートバックフレーム12afの前側を凹設してエアバッグ22aを内蔵することにより構成してあり、一実施形態の第2シートバック変位手段20Aと同様に前記エアバッグ22aは通常運転時は膨張させた状態で本来のシートバック12aの形状を保持させる一方、前方衝突時には(b)に示すように前記コントローラ14から出力される作動信号により膨張したエアバッグ22a内の空気を排出して収縮させるようになっている。
図12に示す第2変形例のシートバック変位手段20Cは、(a)に示すようにシートバック12aのシートバックフレーム12afを補強部材12arで形状保持させておき、所定の荷重がシートバック12aに作用した時に補強部材12arを圧潰させることにより、(b)に示すようにシートバックフレーム12afの形状が維持できなくなって、シートバック12aの前面を後退させるようになっている。
この場合、補強部材12arは、所定の信号によって剛性を失うような材質や構造を備えた構造であってもよい。
図13に示す第3変形例のシートバック変位手段20Dは、(a)に示すようにシートバックフレーム12afを前方に突出する湾曲形状に形成して構成し、所定の荷重がシートバック12aに作用した時に、(b)に示すように湾曲した前記シートバックフレーム12afが反対側となる後方に変形して、シートバック12aの前面を後退させるようになっている。
図14に示す第4変形例のシートバック変位手段20Eは、シートバック12aに内蔵するクッション23と、このクッション23をシートバックフレーム12afに支持する剛性の高いワイヤー23aおよび剛性の低いワイヤー23bと、これらワイヤー23a,23bをシートバックフレーム12afに取り付ける取付部品24,24aと、両ワイヤー23a,23bを支持するピン23c,23dと、これらピン23c,23dを挿通して保持するブラケット24bと、によって構成される。
そして、所定の入力荷重若しくは衝突信号により剛性の高いワイヤー23aが、これを支持するピン23cが抜けることにより、若しくは剛性を失うことにより、クッション23が剛性の低いワイヤー23bのみで支持されるようになり、所定の荷重がシートバック12aに作用した時に、クッション23が容易に変形して、シートバック12aの前面を後退させるようになっている。
図15に示す第5変形例のシートバック変位手段20Fは、シートバック12aの内部に設置するクッション25と、このクッション25を裏面で支持する支持板25aと、支持板25aをシートバックフレーム12afに支持する支持ブラケット25bと、によって構成し、支持板25aの両端部に形成した溝部25cに支持ブラケット25bに突設した凸条25dを圧入して構成される。
そして、乗員Dに作用する後方押圧力で支持板25aがクッション25とともに、支持ブラケット25bに対して徐々に後方移動することにより、シートバック12aの前面を後退させるようになっている。
図16に示す第6変形例のシートバック変位手段20Gは、シートバック12の内部にエアクッション26を内蔵することにより構成し、乗員Dに作用する後方押圧力でエアクッション26が収縮して、シートバック12aの前面を後退させるようになっている。
図17に示す第7変形例のシートバック変位手段20Hは、シートバックフレームに、所定の荷重により破断若しくは離脱するボルト27aによってクロス状のワイヤー27を結合し、このワイヤー27によって図外のクッションを支持することにより構成し、乗員Dに作用する後方押圧力でボルト27aが外れることによりワイヤー27の一定の張力が保たれなくなって、ワイヤー27によって保持するクッションが後方に移動して、シートバック12aの前面を後退させるようになっている。
また、図18,図19は一実施形態に示すシートクッション変位手段の第1・第2変形例を示し、それぞれの変形例を一実施形態と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べるものとする。
図18に示す第1変形例のシートクッション変位手段30Aは、前後方向に配置した第1H型部材28と第2H型部材28aの対向部を互いに回動自在に連結する一方、第1・第2H型部材28,28aの反対側を連結部材28b,28cを介してシートクッションフレーム12bfの左右両側部に回動自在に連結して構成し、衝突時に図外の駆動手段を介して前記第1・第2H型部材28,28aを連結部材28b,28cを中心として上方に回動することにより、それぞれの連結部を上方に持ち上げてシートクッション12bの座面中央部を上方に変位させるようになっている。
図19に示す第2変形例のシートクッション変位手段30Bは、シートクッションフレーム12bfの左右両側部の後部に図外の駆動手段を介して前後移動可能に設けた掛止部材29と、シートクッションフレーム12bfの左右両側部の前部に支軸29asを介して上下回動自在に取り付けられ、その後端部29arが前方移動状態にある前記掛止部材29の下側に係止される回動部材29aと、シートクッションフレーム12bfの左右両側部に掛け渡した受け板29bに支持されて前記回動部材29aを上方に押圧付勢するスプリング29cと、によって構成し、衝突時に前記駆動手段を介して係止部材29を後方移動して受け板29bの後端部29arとの係合を解除することにより、回動部材29aをスプリング29cの付勢力で上方に押圧回動して、シートクッション12bの座面中央部を上方に変位させるようになっている。
図20〜図24は本発明の参考例を示し、前記一実施形態と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べるものとする。
図20は乗員保護装置を搭載した車両前部の側面図、図21はシートクッション後部変位手段の斜視図、図22はシートクッション前部変位手段の斜視図、図23は乗員保護装置の制御フローチャートの説明図、図24は乗員保護装置の作動状態を衝突直前と衝突直後と衝突後に分けて表形式で示す説明図である。
本参考例の乗員保護装置10Aは、一実施形態とほぼ同様に図20に示すように、車両1の正面衝突や斜め衝突およびオフセット衝突などの前方衝突を検知する衝突検知手段11と、前記前方衝突の検知によってシート12に着座した乗員(本実施形態では運転者を示す)Dの腰部Dwと大腿部Dtの角度θを広げる股関節部広げ手段13と、を設けてある。
また、前記衝突検知手段11にあっても、一実施形態と同様に衝突予知センサとしてのプリクラッシュセンサ11aと、実衝突を検知する衝突センサ11bとによって構成され、両センサ11a,11bの検出信号は予測判別手段としてのコントローラ14に出力される。
前記股関節部広げ手段13は、シートクッション12bの後部を上方若しくは前方斜め上方に変位させるシートクッション後部変位手段50によって構成してある。
また、前記シートクッション後部変位手段50は、シートクッション12bの前部を上方若しくは前方斜め上方に変位させるシートクッション前部変位手段60を併用するようになっている。
前記シートクッション後部変位手段50は、図21に示すようにシートクッションフレーム12bfの左右両側部の後部間に、図外の駆動手段を介して回動される偏心部材51の両端部を回動可能に取り付けることにより構成される。
そして、通常運転時はその偏心部材51が図中破線に示すように後方のほぼ水平位置に位置しており、前方衝突時に前記駆動手段を介して偏心部材51が図中実線に示すように上方に回動されることにより、シートクッション12bの座面後部を上方に持ち上げるようになっている。
また、前記シートクッション前部変位手段60は、図22に示すようにシートクッションフレーム12bfの左右両側部の前部間に、図外の駆動手段を介してコ字状部材61の両端部を上下回動可能に取り付けることにより構成される。
そして、通常運転時はそのコ字状部材61が図中破線に示すように前方下方に位置しており、前方衝突時に前記駆動手段を介してコ字状部材61が図中実線に示すように前方のほぼ水平位置に回動されることにより、シートクッション12bの座面前部を上方に持ち上げるようになっている。
前記乗員保護装置10Aは図20に示すようにシートベルト40を備えており、このシートベルト40は一実施形態と同様に、乗員Dの片側の肩部から他側の腰部に亘って斜めに拘束するショルダーベルト43と、乗員Dの腰部を拘束するラップベルト44と、からなる3点式シートベルトとして構成され、ベルトを巻き取り・巻戻しするシートベルトリトラクタ45に前記プリテンショナー41が組み込まれる。また、シートベルト40には衝突後の張力を一定以下に制限するロードリミッタ42が設けられる。
そして、前記シートクッション後部変位手段50は、シートベルト緊張手段としてのシートベルト40のプリテンショナー41を作動させた後に作動させるようになっている。
また、前記シートクッション前部変位手段60は、衝突直後のシートベルト40の負荷荷重が一定以上の場合に作動し、その作動後にシートベルト40を弛緩させるようになっている。
股関節部広げ手段13は、図20に示すようにその作動後に乗員D前方の車体部分としてステアリングホイール2(助手席側ではグローブボックス形成部分)に設置したエアバッグ3を展開するようになっている。
かかる構成になる本実施形態の乗員保護装置10Aは、図23に示すフローチャートに従って制御されるようになっており、まず、ステップS10で衝突検知手段11のプリクラッシュセンサ11aおよび衝突センサ11bによって衝突情報を取り込み、ステップS11ではその情報を基に車速などの車両状態を参照して前方の衝突対象物との距離や相対車速を演算して衝突可能性を判断する。
ステップS11で前方衝突の可能性が大きいと判断した場合(YES)は、ステップS12に進み、シートクッション後部変位手段50を作動するとともに、シートベルト40のプリテンショナー41を作動して乗員Dの拘束力を高める。
次にステップS13によって車両1が衝突対象物と衝突したかどうかを判断し、衝突した場合(YES)はステップS14でシートクッション前部変位手段60を作動するとともに、シートベルト40のロードリミッタ42の働きにより乗員Dの拘束力を弛めて、乗員Dの上体に働く慣性力による衝撃を緩和する。
その後、ステップS15によってシートベルト40のプリテンショナー41を作動して乗員Dの拘束力を高め、前方の車体側部材に二次衝突するのを防止する。
また、ステップS11で衝突しないと判断した場合(NO)およびステップS13で衝突しなかったと判断した場合(NO)はステップS10にリターンし、特にステップS13でリターンする場合にはステップS12で作動したシートクッション前部変位手段50とシートベルト40のプリテンショナー41を逆方向作動して初期状態に復帰させる。
従って、本参考例の乗員保護装置10Aによれば、衝突予測手段15により前方衝突が予測されると、図24に示す順序を経てシートクッション後部変位手段50やシートクッション前部変位手段60およびシートベルト40が作動するようになっている。
また、同図では一実施形態の図7と同様に乗員保護装置10Aの機能を、衝突直前と、衝突直後と、衝突から僅かの時間が経過した衝突後とに分けて説明する。
(1)衝突直前では、図24中(A1)に示すようにシートベルト40のプリテンショナー41の働きにより乗員Dの拘束力を高めた後、(A2)に示すようにシートクッション後部変位手段50を作動して、乗員Dの腰部を持ち上げることにより股関節部を広げる。
従って、プリテンショナー41の作動により、先に乗員Dをシートベルト40で拘束した後に、シートクッション後部変位手段50で乗員Dの姿勢を制御したことにより、シートクッション後部変位手段50で腰部が上方若しくは前方斜め上方に移動した際に発生し易くなる乗員Dの前方への変位を効率良く抑制することができる。
(2)衝突直後では、(A3)に示すようにシートクッション前部変位手段60を作動した後、(A4)に示すようにシートベルト40のロードリミッタ42を作動する。
従って、衝突直前にダッシュパネル(トウボード)の変形などによる膝からの入力に備えて、股関節部を広げるような制御が行われており、衝突の衝撃による乗員Dの前方への変位を抑制して防御姿勢を維持する。
また、腰部とシート12との間に空隙が生じることにより、膝からの大きな入力が発生した場合に、腰部の変位で衝撃を緩和して乗員下肢への負担を可能な限り軽減することができる。
(3)衝突後では、(A5)に示すようにシートベルト40のプリテンショナー41の働きにより乗員Dの拘束力を高める。
従って、車室内変形および乗員の減速に伴う挙動による二次衝突を回避することができる。
以上の構成により本参考例の乗員保護装置10Aによれば、衝突検知手段11により車両1の前方衝突を検知すると、シートクッション後部変位手段50を作動して乗員Dの腰部と大腿部との角度を広げることができるため、一実実施形態と同様に下肢を介して圧迫力が股関節部に入力されると、その荷重は大腿骨から骨盤の肉厚部分を介して剛性が比較的高い部分に入力されるため、前記圧迫力に対して高い支持剛性が得られ、ひいては腰関節部の耐力が向上することにより、その股関節部の障害を低減することができる。
また、本参考例では前記作用効果に加えて、前記シートクッション後部変位手段50とシートクッション前部変位手段60とを併用したので、シートクッション前部変位手段60によってシートクッション12bの前部を上方若しくは前方斜め上方に変位できるので、乗員Dが前方に必要以上に移動するのを防止して、膝がインストルメントパネルなどの前方車体部材に干渉するのを避けることができる。
更に、前記シートクッション後部変位手段50は、シートベルト40のプリテンショナー41を作動させた後に作動させるようにしたので、シートクッション後部変位手段50で腰部が上方若しくは前方斜め上方に移動した際に発生し易くなる乗員Dの前方への変位を効率良く抑制することができる。
更にまた、前記シートクッション前部変位手段60は、衝突直後のシートベルト40の負荷荷重が一定以上の場合に作動し、その作動後にシートベルト40を弛緩させるようにしたので、まず、シートクッション12bの前部の上方若しくは前方斜め上方への変位により、乗員Dの大腿部の前方(膝側)の方が後方(腰側)よりも相対的に高くなることで、乗員Dに働く過度の衝撃荷重を緩和できるとともに、慣性により乗員Dの上体が前方に変位して衝撃エネルギーを吸収する際にも、乗員Dの前方への過度な移動を阻止できる。
また、股関節部広げ手段13は、その作動後に乗員D前方の車体側に設置したエアバッグ3を展開するようにしたので、乗員Dの膝部の前方への移動を確実に阻止できることにより、乗員Dの上体を安定してシート12に保持できる。
図25〜図28は参考例に示すシートクッション後部変位手段の第1〜第4変形例を示し、それぞれの変形例を参考例と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べるものとする。
図25に示す第1変形例のシートバック後部変位手段50Aは、シートクッションフレーム12bfの左右両側部の前後方向ほぼ中央部よりも後方領域に前後に所定間隔をもって形成した前後長穴12bhに、図中2点鎖線で示すように台形状に二段折れされる折曲部材52の前後両端部に設けた軸部52aを挿入する一方、シートクッションフレーム12bfの後部に図外の駆動手段を介して上下方向に出没される出没部材52bを設けることにより構成される。
そして、通常走行時は前記出没部材52bを引っ込めておき、前方衝突時に上方に突出させることにより、図中実線で示す平坦状の前記折曲部材52を2点鎖線に示すように台形状に突出させて、その上面でシートクッション12bの座面後部を上方若しくは前方斜め上方に変位させるようになっている。
図26に示す第2変形例のシートバック後部変位手段50Bは、シートクッション12bの後部内にエアバッグ53を内蔵することにより構成し、衝突時にそのエアバッグ53を膨張させることにより、シートクッション12bの座面後部を上方若しくは前方斜め上方に変位させるようになっている。
図27に示す第3変形例のシートバック後部変位手段50Cは、シートクッションフレーム12bfの左右両側部の後部に形成した凹部12blに跨って、厚みの大きなクッション54を配置し、その上側を押え部材54aで押さえてシートクッションフレーム12bfに離脱可能な止め具54bを介して固定することにより構成してある。
そして、前方衝突時に前記止め具54bを破断などして離脱させることにより、押え部材54aによるクッション54の拘束を解除してクッション54を膨出させることにより、シートクッション12bの座面後部を上方若しくは前方斜め上方に変位させるようになっている。
図28に示す第4変形例のシートバック後部変位手段50Dは、シートクッションフレーム12bfの左右両側部の前後方向ほぼ中央部から後方に向かって回動部材55を配置し、その回動部材55の前端部を支軸55aを介してシートクッションフレーム12bfに回動自在に取り付けるとともに、シートクッションフレーム12bfの左右両側部の後部間に、前記回動部材55の後端部を上方から押さえる爪部55bを設けた回転部材55cを取り付け、かつ、回動部材55を下方からスプリング55dにより押圧付勢することにより構成してある。
そして、前方衝突時に前記回転部材55cを回転して爪部55bを上方に回動させて回転部材55との係止を解除することにより、回動部材55は支軸55aを中心としてスプリング55dの付勢力をもって上方に回動して、シートクッション12bの座面後部を上方若しくは前方斜め上方に変位させるようになっている。
図29〜図32は参考例に示すシートクッション前部変位手段の第1〜第4変形例を示し、それぞれの変形例を参考例と同一構成部分に同一符号を付して重複する説明を省略して述べるものとする。
図29に示す第1変形例のシートクッション前部変位手段60Aは、シートクッションフレーム12bfの左右両側部の前後方向ほぼ中央部よりも前方領域に前後所定間隔をもって形成した前後長穴12bhに、図中2点鎖線で示すように台形状に二段折れされる折曲部材62の前後両端部に設けた軸部62aを挿入する一方、シートクッションフレーム12bfの前部に図外の駆動手段を介して上下方向に出没される出没部材62bを設けることにより構成される。
そして、通常走行時は前記出没部材62bを引っ込めておき、前方衝突時に上方に突出させることにより、図中実線で示す平坦状の前記折曲部材62を2点鎖線に示すように台形状に突出させて、その上面でシートクッション12bの座面前部を上方若しくは前方斜め上方に変位させるようになっている。
図30に示す第2変形例のシートクッション前部変位手段60Bは、シートクッションフレーム12bfの左右両側部の前後方向ほぼ中央部に前後長穴12bhを形成しておき、それら長穴12bhに跨って挿通した前後移動軸63に、前方に突出する一対の後方腕部63aを固定しておく一方、シートクッションフレーム12bfの左右両側部の前端部に跨って回転自在に取り付けた回転軸63bに、後方に突出する一対の前方腕部63cを固定し、前記後方腕部63aと前方腕部63cの先端部同士を回転自在に連結することにより構成してある。
そして、通常走行時は前後移動軸63が後方移動位置にあって、後方腕部63aと前方腕部63cが図中実線に示すようにほぼ水平状態となっており、前方衝突時は前後移動軸63が前方に移動することにより、後方腕部63aと前方腕部63cが図中破線に示すように両者の連結部を頂点とする山形に変形して、シートクッション12bの座面前部を上方若しくは前方斜め上方に変位させるようになっている。
図31に示す第3変形例のシートクッション前部変位手段60Cは、シートクッションフレーム12bfの左右両側部の後部に図外の駆動手段を介して前後移動可能に設けた掛止部材64と、シートクッションフレーム12bfの左右両側部の前部に支軸64asを介して上下回動自在に取り付けられ、その後端部64arが前方移動状態にある前記掛止部材64の下側に係止される回動部材64aと、シートクッションフレーム12bfの左右両側部に掛け渡した受け板64bに支持されて前記回動部材64aを上方に押圧付勢するスプリング64cと、によって構成してある。
そして、前方衝突時に前記駆動手段を介して係止部材64を後方移動することにより、回動部材64aをスプリング64cの付勢力で上方に押圧回動することにより、シートクッション12bの座面前部を上方若しくは前方斜め上方に変位させるようになっている。
図32に示す第4変形例のシートクッション前部変位手段60Dは、シートクッション12bの前端に座部エアバッグ65を設けるとともに、その座部エアバッグ65よりも前方に所定距離を離して足部エアバッグ65aを設けることにより構成してある。尚、前記両エアバッグ65,65aは展開状態で示してある。
そして、通常走行時は前記座部エアバッグ65および足部エアバッグ65aは収縮して、足部エアバッグ65aに乗員Dの足を載置してあり、前方衝突時に図示するようにそれぞれのエアバッグ65,65aが展開して、シートクッション12bの前部を上方に変位させるとともに、乗員Dの足を座部エアバッグ65の展開により上方に持ち上げた分、足部エアバッグ65aにより持ち上げるようになっている。
更に、図33,図34は一実施形態、参考例に示した乗員保護装置10,10Aの実施形態または参考例をそれぞれ示し、図33の乗員保護装置10,10Aは、インストルメントパネル4の下部にエアバッグ70を設置して構成してある。
従って、この実施形態または参考例では衝突直前にエアバッグ70を展開することにより、そのエアバッグ70で乗員Dの膝部を押さえることができるため、衝突時に乗員Dの前方移動を確実に阻止できる。
また、図34の乗員保護装置10,10Aは、前記図33の実施形態または参考例のエアバッグ70とシートクッション12bの前端部に設けるエアバッグ71とを付加して構成してある。
従って、この実施形態または参考例では衝突直前にエアバッグ70,71を展開することにより、エアバッグ71で乗員Dの下肢を持ち上げることができるため、エアバッグ70は乗員Dの膝部よりも先の脛部を押さえることができるため、乗員をより後方で移動阻止できる。
ところで、本発明の乗員保護装置および乗員保護方法は、前記一実施形態およびそれぞれの各変形例に例をとって説明したが、これら実施形態に限ることなく本発明の要旨を逸脱しない範囲で他の実施形態を各種採用することができ、例えば、特に乗員Dを運転者として説明したが、勿論、シート12を助手席として助手席乗員の保護装置としても本発明を適用することができる。