JP4586326B2 - 光学積層体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、容易に製造が可能で、これを用いて好適に複屈折を補償できる光学積層体及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
パーソナルコンピュータやワードプロセッサ等の種々の画面表示にSTN型等の複屈折性を利用した高コントラストな液晶表示装置が使用されている。しかしながら、ツイストネマチック液晶、コレステリック液晶及びスメクチック液晶を使用した液晶表示装置においては、液晶セルの持つ複屈折によって視野角特性が悪くなるという問題がある。視野角特性が悪いということは、表示画面を正面から見た場合の表示が良好でも、斜め方向から見た場合に着色や表示の消失などの不具合が生じるということである。この不具合を解消するために、液晶セルの複屈折による位相差を補償可能な位相差板を液晶セルと偏光板との間に介在させる方式が主流となっており、この位相差板について種々の検討がされている。
【0003】
特許文献1には、(1)波長632.8nmの単色光を垂直入射した場合のレターデーションをRe、波長632.8nmの単色光をフィルム面の法線とのなす角度が40°で斜入射した場合のレターデーションをR40としたとき0.92≦R40/Re≦1.08であることを特徴とする位相差フィルムが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、(2)フィルムの平面方向に配向した分子群と厚さ方向に配向した分子群とが混在してなることを特徴とする複屈折性フィルム、及び樹脂フィルムを延伸処理する際に、その樹脂フィルムの片面又は両面に収縮性フィルムを接着して積層体を形成し、その積層体を加熱延伸処理して前記樹脂フィルムの延伸方向と直交する方向の収縮力を付与することを特徴とする前記複屈折性フィルムの製造方法が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、(3)光透過性を有するフィルム(A)が、該フィルムの法線方向を基準として周囲45°以内に少なくとも1本の光軸又は光線軸を有するか、又は該フィルムの法線方向の屈折率をnTH、長手方向の屈折率をnMD、幅方向の屈折率をnTDとしたとき、nTH−(nMD−nTD)/2>0を満たすかのいずれかの条件を満たし、該フィルム(A)の少なくとも1枚と正の固有複屈折値を有するとともに光透過性を有する高分子から形成される1軸延伸フィルム(B)の少なくとも1枚とを、液晶セルと偏光板の間に挿入してなる液晶表示装置が開示されている。前記フィルム(A)として、固有複屈折値が負の材料からなる二軸延伸フィルム又は一軸延伸フィルムを積層したものが挙げられている。(特許文献3を参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開平2−160204号公報
【特許文献2】
特開平5−157911号公報
【特許文献3】
特開平2−256023号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの公報に記載されている方法でフィルムを製造すると、例えば、前記(1)に記載の方法では、レターデーションのばらつきが大きい及び製造効率に劣る問題があった。また、この方法には、ハイビジョンテレビ等の大液晶画面などに適用できる大判体を得ることが困難な問題点がある。また、前記(2)に記載の方法では、延伸と収縮との比率を精密にコントロールする必要があり、製造工程が複雑になって生産効率に劣る問題がある。
さらに前記(3)に開示されている液晶表示装置に使用されているフィルムは、特に該フィルム(A)として、固有複屈折値が負の材料からなる二軸延伸フィルム又は一軸延伸フィルムを用いた場合、比較的製造が容易で位相差のコントロールも容易にできるものと考えられる。しかしながら、実際には固有複屈折値が負の材料、例えば固有複屈折の絶対値が大きく、透明性に優れる点から特に好ましいビニル芳香族系重合体からなるフィルムを延伸して位相差フィルムを作成することは困難であった。即ち、好適な位相差(レターデーション)を発現し、しかもその均一性を保つためには、ゾーン加熱による縦一軸延伸やテンターによる横一軸延伸、あるいはこれらを組み合わせた逐次または同時二軸延伸などを行うことが必要である。しかしながら、延伸する材料の強度が不足しているために延伸時に破断しやすく、破断しないように高温の条件で延伸すると、望ましい位相差が発現しにくく、また位相差の発現にムラを生じやすくなる問題があった。従って、このように固有複屈折値が負の材料からなり、nTH−(nMD−nTD)/2>0の条件を満たすような位相差フィルムは、実用レベルで使用できるものは存在しなかった
【0008】
さらに、固有複屈折値が負の材料からなるフィルムを二軸延伸することにより、面内のレターデーションが実質的に無く、かつ面方向の屈折率よりも厚さ方向の屈折率が大きい位相差フィルム(いわゆるポジティブレターダー)の作成が可能となり、例えばコレステリック液晶を用いた表示装置の位相差補償フィルムへの応用などが期待できるが、やはり延伸する材料の強度が不足しているために延伸時に破断しやすく、破断しないように高温の条件で延伸すると、望ましい位相差が発現しにくく、また位相差の発現にムラを生じやすくなるという理由から、実用レベルで使用できるものは存在しなかった。
従って、本発明の目的は、従来のものよりも、容易に製造が可能で、これを用いて好適に複屈折を補償できる光学積層体及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、固有複屈折値が負である材料を主成分として含んでなる層の少なくとも片面に、透明な樹脂を主成分として含んでなる層を積層させて未延伸の積層体を得、次いでこの積層体を特定の条件で延伸処理することにより、上記目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明によれば、
(1)固有複屈折値が負である材料を主成分として含んでなる層(A層)の少なくとも片面に、透明な樹脂を主成分として含んでなる層(B層)を積層してなる未延伸積層体を共延伸してなる光学積層体からなる視野角補償板であって、前記光学積層体の厚さをD、波長550nmの光で測定した厚さ方向の屈折率をnz、厚さ方向に垂直な互いに直交する2方向の屈折率をnx、ny(ただしnx>ny)、前記固有複屈折値が負である材料のガラス転移温度(℃)をTgA、前記透明な樹脂のガラス転移温度(℃)をTgBとしたとき以下の要件〔1〕〜要件〔3〕を満たすことを特徴とする視野角補償板、
要件〔1〕:nz>(nx+ny)/2
要件〔2〕:(nx−ny)×Dで表される正面レターデーションReのばらつきが±10nm以内である
要件〔3〕:TgA−20≧TgB、
(2)前記nx、ny及びnzが、nz>nx、nz>nyの関係を満たすことを特徴とする前記(1)記載の視野角補償板、
(3)前記nx、ny及びnzが、nz>nx≒nyの関係を満たすことを特徴とする前記(1)又は(2)記載の視野角補償板、
(4)前記固有複屈折値が負である材料が、ビニル芳香族系重合体である前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の視野角補償板、
(5)前記ビニル芳香族系重合体が、スチレン及び/又はスチレン誘導体と無水マレイン酸との共重合体である前記(4)に記載の視野角補償板、
(6)前記透明な樹脂が、脂環式構造含有重合体樹脂である前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の視野角補償板、
(7)TgA≧110である前記(1)乃至(6)のいずれかに記載の視野角補償板、
(8)前記A層の両面に前記B層が積層されている前記(1)乃至(7)のいずれかに記載の視野角補償板、
(9)前記A層の両面に積層されている2層の前記B層のうちの、一方の前記B層の厚さが、他方の前記B層の厚さと実質的に等しいことを特徴とする前記(8)に記載の視野角補償板、
(10)前記A層の厚さが5〜400μmであり、前記B層の厚さが15〜250μmである前記(1)乃至(9)のいずれかに記載の視野角補償板、
(11)前記A層と前記B層との間に、接着剤層(C層)をさらに有する前記(1)乃至(10)のいずれかに記載の視野角補償板、
(12)C層に用いる接着剤のガラス転移温度又は軟化点TgCが、TgA>TgCの要件を満たす前記(1)乃至(11)のいずれかに記載の視野角補償板、
(13)前記B層に用いられる前記透明な樹脂は、ポリメタクリレート系重合体である前記(1)乃至(12)のいずれかに記載の視野角補償板、
(14)前記A層に用いられる固有複屈折が負である材料、および/または、前記B層に用いられる前記透明な樹脂には、添加剤が添加されている前記(1)乃至(13)のいずれかに記載の視野角補償板、
(15)厚さ方向のレターデーションRthが−50〜−1000nmである前記(1)乃至(14)のいずれかに記載の視野角補償板、
(16)固有複屈折値が負である材料を主成分として含んでなる層(A層)の少なくとも片面に、透明な樹脂を主成分として含んでなる層(B層)を積層してなる未延伸積層体を共延伸してなる光学積層体からなる視野角補償板であって、前記光学積層体の厚さをD、波長550nmの光で測定した厚さ方向の屈折率をn z 、厚さ方向に垂直な互いに直交する2方向の屈折率をn x 、n y (ただしn x >n y )、前記固有複屈折値が負である材料のガラス転移温度(℃)をTg A 、前記透明な樹脂のガラス転移温度(℃)をTg B としたとき以下の要件〔4〕〜要件〔6〕を満たすことを特徴とする視野角補償板、
要件〔4〕:n z >(n x +n y )/2
要件〔5〕:(n x −n y )×Dで表される正面レターデーションReのばらつきが±10nm以内である。
要件〔6〕:Tg A >Tg B 、
(17)固有複屈折値が負である材料を主成分として含んでなる層(A層)の少なくとも両面に、前記固有複屈折値が負である材料のガラス転移温度TgAよりも20℃以上低いガラス転移温度TgBを有する透明な樹脂を主成分として含んでなる層(B層)を積層して未延伸積層体を得、これをTgA−10(℃)〜TgA+20(℃)の温度で延伸することを特徴とする前記(1)乃至(15)のいずれか1項に記載の視野角補償板の製造方法、
(18)前記未延伸積層体を得る工程において、前記A層の両面に前記B層を積層する、前記(17)に記載の視野角補償板の製造方法。
(19)前記未延伸積層体を得る工程を、共押出により行う、前記(17)又は(18)に記載の視野角補償板の製造方法。
(20)延伸倍率が1.3倍以上である前記(17)〜(19)のいずれか1項に記載の視野角補償板の製造方法、
がそれぞれ提供される。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の光学積層体は、固有複屈折値が負である材料を主成分として含んでなる層(A層)の少なくとも片面に、透明な樹脂を主成分として含んでなる層(B層)を積層してなる未延伸積層体を共延伸してなり、前記積層体の厚さをD、波長550nmの光で測定した厚さ方向の屈折率をnz、厚さ方向に垂直な互いに直交する2方向の屈折率をnx、ny(ただしnx>ny)、前記固有複屈折値が負である材料のガラス転移温度(℃)をTg A 、前記透明な樹脂のガラス転移温度(℃)をTg B としたとき以下の要件〔1〕〜要件〔3〕を満たすことを特徴とする。
要件〔1〕:nz>(nx+ny)/2
要件〔2〕:(nx−ny)×Dで表される正面レターデーションReのばらつきが±10nm以内である。
要件〔3〕:Tg A −20≧Tg B
【0012】
本発明の光学積層体は、固有複屈折値が負である材料を主成分として含んでなる層(A層)の少なくとも片面に、透明な樹脂を主成分として含んでなる層(B層)を積層してなる。
【0013】
本発明の光学積層体のA層に用いる固有複屈折値が負である材料とは、分子が一軸性の秩序をもって配向したときに、光学的に負の一軸性を示す特性を有する材料をいう。例えば、前記負の材料が樹脂である場合、分子が一軸性の秩序をもって配向した層に光が入射したとき、前記配向方向の光の屈折率が前記配向方向の光の屈折率が前記配向方向に直交する方向の光の屈折率より小さくなるものをいう。前記負の材料としては、樹脂、ディスコティック液晶、ディスコティック液晶ポリマー等種々のものが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
A層に用いる固有複屈折率が負の材料としては、ディスコティック液晶、ディスコティック液晶ポリマー、ビニル芳香族系重合体、ポリアクリロニトリル系重合体、ポリメチルメタクリレート系重合体、セルロースエステル系重合体、これらの多元(二元、三元等)共重合体などが挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
これらの中でも、ビニル芳香族系重合体、ポリアクリロニトリル系重合体およびポリメチルメタクリレート系重合体の中から選択される少なくとも1種が好ましい。中でも複屈折発現性が高いという観点から、ビニル芳香族系重合体がより好ましい。
【0016】
ビニル芳香族系重合体とは、ビニル芳香族単量体の単独重合体、これらの2種以上の共重合体、又はビニル芳香族単量体と共重合可能な単量体との共重合体のことをいう。
ビニル芳香族単量体としては、スチレン;4−メチルスチレン、4−クロロスチレン、3−メチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−tert−ブトキシスチレン、α−メチルスチレンななどのスチレン誘導体;などが挙げられる。これらを単独若しくは2種以上併用して使用してもよい。
ビニル芳香族単量体と共重合可能な単量体としては、プロピレン、ブテン;アクリロニトリル;(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸;(メタ)アクリル酸エステル;マレイミド;酢酸ビニル、塩化ビニル;などが挙げられる。
ビニル芳香族系重合体の中でも、耐熱性が高い観点から、スチレン及び/又はスチレン誘導体と無水マレイン酸との共重合体が好ましい。
【0017】
本発明において、固有複屈折値が負である材料を主成分として含んでなる層(A層)の厚さは、特に限定されないが、通常5〜400μm、好ましくは15〜250μmである。
【0018】
本発明において、A層に用いる固有複屈折値が負である材料のガラス転移温度TgAは、使用時の耐熱性に優れる点から、好ましくは110℃以上、より好ましくは120℃以上である。
【0019】
本発明に使用するB層に用いる透明な樹脂としては、1mm厚で全光線透過率が80%以上のものであれば特に制限されず、例えば、脂環式構造含有重合体樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどの鎖状オレフィン系重合体、ポリカーボネート系重合体、ポリエステル系重合体、ポリスルホン系重合体、ポリエーテルスルホン系重合体、ポリスチレン系重合体、ポリオレフィン系重合体、ポリビニルアルコール系重合体、酢酸セルロース系重合体、ポリ塩化ビニル系重合体、ポリメタクリレート系重合体などが挙げられる。これらの中でも、脂環式構造含有重合体樹脂または鎖状オレフィン系重合体が好ましく、透明性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、脂環式構造含有重合体樹脂が特に好ましい。
【0020】
脂環式構造含有重合体樹脂は、重合体樹脂の繰り返し単位中に脂環式構造を有するものであり、主鎖中に脂環式構造を有する重合体樹脂および側鎖に脂環式構造を有する重合体樹脂のいずれも用いることができる。脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造などが挙げられるが、熱安定性などの観点からシクロアルカン構造が好ましい。脂環式構造を構成する炭素数に特に制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは6〜15個である。
【0021】
脂環式構造を有する重合体樹脂中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。脂環式構造を有する繰り返し単位が過度に少ないと、光学積層体の透明性の低下や成形性の悪化をもたらすそれがある。
【0022】
脂環式構造含有重合体樹脂に特に制限はなく、例えば、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、およびこれら重合体の水素化物などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性及び機械的強度に優れることなどから、ノルボルネン系重合体水素化物、ビニル脂環式炭化水素重合体およびその水素化物が好ましい。
【0023】
ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体、ノルボルネン系単量体とこれと共重合可能な単量体との開環重合体、ノルボルネン系単量体の付加重合体、ノルボルネン系単量体とこれと共重合可能な単量体との付加重合体、及びこれらの重合体の水素化物などを挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系単量体の開環重合体の水素化物は、耐熱性及び機械的強度が特に良好であり、特に好適に用いることができる。
【0024】
ノルボルネン系単量体としては、例えば、ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3,8−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基などが挙げられる。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン系単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。具体的には、8−メチル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−エチル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−メチリデン−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エンなどが挙げられる。
【0025】
ノルボルネン系単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類およびその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンおよびその誘導体;などが挙げられる。
【0026】
ノルボルネン系単量体の開環重合体およびノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を開環重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
【0027】
用いる開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と、硫酸塩またはアセチルアセトン化合物、および還元剤とからなる触媒;あるいは、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒;などが挙げられる。
【0028】
ノルボルネン系単量体の付加重合体およびノルボルネン系単量体とこれと付加共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
付加重合触媒としては、例えば、チタン、ジルコニウム、バナジウムなどの金属の化合物と有機アルミニウム化合物からなる触媒などを用いることができる。
【0029】
ノルボルネン系単量体とこれと付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンなどのシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0030】
本発明に用いる単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの付加重合体が挙げられる。
【0031】
本発明に用いる環状共役ジエン系重合体としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2−付加重合または1,4−付加重合した重合体が挙げられる。
【0032】
ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィンの重合体および環状共役ジエンの重合体の分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常5,000〜500,000、好ましくは8,000〜200,000、より好ましくは10,000〜100,000である。
【0033】
本発明に用いるビニル脂環式炭化水素重合体は、ビニルシクロアルケンまたはビニルシクロアルカン由来の繰り返し単位を有する重合体である。ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキサンなどのビニル基を有するビニルシクロアルカン、ビニルシクロヘキセンなどのビニル基を有するビニルシクロアルケンなどのビニル脂環式炭化水素化合物の重合体およびその水素化物;スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族炭化水素化合物の重合体の芳香環部分の水素化物などが挙げられる。
【0034】
また、ビニル脂環式炭化水素重合体は、ビニル脂環式炭化水素化合物やビニル芳香族炭化水素化合物と、これらの単量体と共重合可能な他の単量体とのランダム共重合体の芳香環部分の水素添加物、ブロック共重合体の芳香環部分の水素添加物であってもよい。ブロック共重合としては特に制限されない。ブロック共重合としては、例えば、ジブロック、トリブロック、またはそれ以上のマルチブロックや傾斜ブロック共重合などが挙げられる。
【0035】
ビニル脂環式炭化水素重合体の分子量は使用目的に応じて適宜選択されるが、溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量が、通常10,000〜300,000、好ましくは15,000〜250,000、より好ましくは20,000〜200,000の範囲であるときに、成形体の機械的強度および成形加工性とが高度にバランスされ好適である。
【0036】
ノルボルネン系単量体の開環重合体の水素化物、ノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素化物、ノルボルネン系単量体の付加重合体の水素化物、ノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体の水素化物、ビニル脂環式炭化水素化合物の重合体の水素化物、ビニル芳香族炭化水素化合物の重合体の芳香環部分の水素化物、ビニル脂環式化合物やビニル芳香族化合物と、これらの単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体の水素化物は、これらの重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素化することによって得ることができる。
【0037】
本発明に好適に用いる脂環式構造含有重合体樹脂は、その分子量2,000以下の樹脂成分(すなわち、オリゴマー成分)の含有量が5重量%以下、好ましくは3重量%以下、より好ましくは2重量%以下である。オリゴマー成分の量が多いと樹脂積層体を延伸する際に、表面に微細な凹凸が発生したり、厚さムラを生じたりして面精度が悪くなる。
【0038】
オリゴマー成分の量を低減するためには、重合触媒や水素化触媒の選択、重合、水素化などの反応条件、樹脂を成形用材料としてペレット化する工程における温度条件、などを最適化すればよい。オリゴマーの成分量は、シクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0039】
本発明において、透明な樹脂を主成分として含んでなる層(B層)の厚さは、特に限定されないが、通常15〜250μm、好ましくは25〜150μmである。
【0040】
本発明において、固有複屈折値が負である材料を主成分として含んでなる層(A層)及び透明な樹脂を主成分として含んでなる層(B層)は、それぞれ固有複屈折値が負である材料からなる層及び透明な樹脂からなる層でもよい。
【0041】
本発明において、A層に用いる固有複屈折値が負である材料及び/又はB層に用いる透明な樹脂には、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、塩素捕捉剤、難燃剤、結晶化核剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、離型剤、顔料、有機又は無機の充填材、中和剤、滑剤、分解剤、金属不活性化剤、汚染防止材、抗菌剤やその他の樹脂、熱可塑性エラストマーなどの公知の添加剤を発明の効果が損なわれない範囲で添加することができる。
【0042】
本発明の光学積層体は、波長550nmの光で測定した厚さ方向の屈折率をnz、厚さ方向に垂直な互いに直交する2方向の屈折率をnx、ny(ただしnx>ny)としたとき、nz>(nx+ny)/2である。
【0043】
本発明の光学積層体においては、前記nx、ny及びnzが、nz>nx、nz>nyの関係及び/又はnz>nx≒nyの関係を満たすことが好ましい。前記nx、ny及びnzを上記関係を満たすようにすることにより、ポジティブレターダーとして好適に使用することができる。ここで、nx≒nyとは、nxとnyとの差が、通常0.0002以下、好ましくは0.0001以下、さらに好ましくは0.00005以下の範囲にあることをいう。
【0044】
また、本発明の光学積層体をポジティブレターダーとして使用する場合は、厚さ方向のレターデーションRthが0以下であることが必要である。Rthは使用目的に応じて設定すればよいが、位相差補償素子としての機能を果たす上では−50〜−1000nmの範囲、好ましくは−100〜−500nmの範囲とする。Rthは、式:Rth=((nx+ny)/2−nz)×Dで定義される数値である。
【0045】
本発明において、(nx−ny)×Dで表される正面レターデーションReのばらつきは、±10nm以内、好ましくは±5nm以内、さらに好ましくは±2nm以内である。正面レターデーションReのばらつきを、前記範囲にすることにより、液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に表示品質を良好なものにすることが可能になる。ここで、正面レターデーションReのばらつきは、光入射角0°(入射光線と本発明の積層体表面が直交する状態)の時の面内レターデーションを光学積層体の幅方向に測定したときの、その面内レターデーションの平均値に対する測定値のばらつきとする。
【0046】
本発明において、A層に用いる固有複屈折値が負である材料のガラス転移温度TgAとB層に用いる透明な樹脂のガラス転移温度TgBとが、TgA>TgBであることが好ましく、TgA−20≧TgBであることがさらに好ましい。TgBがTgAと同等以上であると、特にB層に用いる透明な樹脂の固有複屈折値が正である場合、延伸によって発現するB層の屈折率異方性がA層の屈折率異方性と相殺してしまい、目的とする面内の直交軸方向の屈折率と厚さ方向の屈折率との関係が得られなくなる恐れがある。
【0047】
本発明の光学積層体においては、吸湿や温度変化、または経時変化による反りなどを防止する観点からは、固有複屈折値が負である材料を主成分として含んでなる層(A層)の両面に、透明な樹脂を主成分として含んでなる層(B層)が積層されることが好ましく、この場合2層のB層の厚さは実質的に等しいことが好ましい。また、片面のみにB層を積層する場合は、重ねるB層の数に限りはないが、通常は1層である。
【0048】
本発明の光学積層体においては、前記固有複屈折値が負である材料を主成分として含んでなる層(A層)と透明な樹脂を主成分として含んでなる層(B層)との間に接着剤層(C層)を設けてもよい。
【0049】
接着剤層(C層)は、A層に用いる固有複屈折値が負の材料とB層に用いる透明な樹脂との双方に対して親和性があるものから形成することができる。例えば、エチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エチル共重合体などのエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−スチレン共重合体などのエチレン系共重合体が挙げられる。また、これらの共重合体を酸化、ケン化、塩素化、クロルスルホン化などにより変性した変性物を用いることもできる。本発明において、変性したエチレン系共重合体を使用すると、積層構造体成形時のハンドリング性や接着力の耐熱劣化性を向上させることができる。
接着剤層(C層)の厚さは、好ましくは1〜50μm、さらに好ましくは5〜30μmである。
【0050】
本発明の光学積層体において、前記接着剤層(C層)を含む場合は、C層に用いる接着剤のガラス転移温度又は軟化点TgCは、TgA>TgCであることが好ましく、TgA−20≧TgCであることがさらに好ましい。
【0051】
本発明の光学積層体の厚さは、通常10〜500μm、好ましくは30〜300μm、さらに好ましくは50〜200μmである。液晶表示装置等に用いる場合、厚さが薄いほど装置全体の薄型化や軽量化が図れるが、機械的強度や取り扱いの容易性の観点ではある程度の厚さが必要である。
【0052】
本発明の光学積層体は、他の位相差フィルム、例えば固有複屈折値が正である材料からなるフィルムを一軸延伸して得られた位相差フィルムと組み合わせたこ構成として用いてもよい。
【0053】
本発明の光学積層体を製造する方法としては、特に制限されないが、固有複屈折値が負である材料を主成分として含んでなる層(A層)の少なくとも片面に、前記固有複屈折値が負である材料のガラス転移温度TgAよりも20℃以上低いガラス転移温度TgBを有する透明な樹脂を主成分として含んでなる層(B層)を積層して未延伸積層体を得、これをTgA−10(℃)〜TgA+20(℃)の温度で延伸する方法が好ましい(以下、この方法を「本発明の製造方法」とする。)。
【0054】
本発明の製造方法では、固有複屈折値が負である材料を主成分として含んでなる層(A層)の少なくとも片面に、前記固有複屈折値が負である材料のガラス転移温度TgAよりも20℃以上低いガラス転移温度TgBを有する透明な樹脂を主成分として含んでなる層(B層)を積層して未延伸積層体を得る。
【0055】
未延伸積層体を得る方法としては、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等の共押出による成形方法、ドライラミネーション等のフィルムラミネーション成形方法、及び基材樹脂フィルムに対して樹脂溶液をコーティングするようなコーティング成形方法などの公知の方法を適宜利用することができる。中でも、製造効率などの観点から、共押出による成形法方が好ましい。
押出し温度は、使用する固有複屈折値が負である材料や透明な樹脂及び必要に応じて用いられる接着剤の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0056】
本発明の製造方法では、前記未延伸積層体をA層に用いる固有複屈折値が負である材料のガラス転移温度をTgAとしたとき、TgA−10(℃)〜TgA+20(℃)の温度で延伸する。
【0057】
積層体を延伸する方法は特に制限はなく、従来公知の方法が適用され得る。具体的には、ロール側の周速の差を利用して縦方向に一軸延伸する方法、テンターを用いて横方向に一軸延伸する方法等の一軸延伸法;固定するクリップの間隔を開いての縦方向の延伸と同時に、ガイドレールの広がり角度により横方向に延伸する同時二軸延伸法や、ロール間の周速の差を利用して縦方向に延伸した後、その両端部をクリップ把持してテンターを用いて横方向に延伸する逐次二軸延伸法などの二軸延伸法;が挙げられる。面内の直交軸方向の屈折率をバランスさせ、面内レターデーションを実質的にゼロにする場合(ポジティブレターダー)には二軸延伸法が好ましい。
【0058】
本発明の製造方法においては、延伸温度は、A層に用いる固有複屈折値が負である材料のガラス転移温度をTgAとしたとき、TgA−10(℃)〜TgA+20(℃)、好ましくはTgA−5(℃)〜TgA+15(℃)の範囲である。延伸温度を上記範囲とすることにより、延伸時にB層に屈折率異方性を発現しにくくすることができ、目的とする面内の直交軸方向と厚さ方向の屈折率の関係を容易に得ることできる。
【0059】
本発明の製造方法においては、延伸倍率は、通常1.1〜30倍、好ましくは1.3〜10倍である。延伸倍率が、上記範囲を外れると、配向が不十分で屈折率異方性、ひいてはレターデーションの発現が不十分になったり、積層体が破断したりするおそれがある。
【0060】
本発明の光学積層体は、容易に製造が可能で、複屈折の高度な補償が可能なので、それ単独または他の部材と組み合わせて、位相差板や視野角補償板などとして、液晶表示装置、有機EL表示装置などの装置に広く応用可能である。
【0061】
【実施例】
本発明の方法を、実施例を示しながら、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお部及び%は特に断りのない限り重量基準である。
本実施例における評価は、以下の方法によって行う。
(1)分子量
シクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を溶媒にしてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレン又はポリイソプレン換算の重量平均分子量(Mw)を求める。
【0062】
(2)ガラス転移温度(Tg)
JIS K7121に基づいて示差走査熱量分析法(DSC)を用いて測定する。
(3)水素化率
重合体の主鎖及び芳香環の水素化率は、1H−NMRを測定し算出する。
(4)フィルム又は積層体の厚さ
フィルムまたは積層体の断面を光学顕微鏡で観察して測定する。積層体については各層ごとに測定する。
(5)波長550nmにおけるフィルム又は積層体の厚さ方向の屈折率(nz)、厚さ方向に垂直な互いに直交する2方向の屈折率(nx、ny)、レターデーション(正面Re、厚さ方向Rth)及び面内レターデーションのばらつき
自動複屈折計(王子計測器社製、KOBRA−21)を用いて測定する。なお、正面レターデーションReのばらつきは、フィルム又は積層体の幅方向に10mm間隔で正面レターデーションReを測定して、平均値を求め、測定値の平均値からのばらつきを算出する。
【0063】
(6)液晶表示装置の視野角特性とそのばらつき
光学積層体または光学フィルム、および一軸延伸位相差フィルムを重ね合わせ、TN型液晶表示装置の液晶表示素子(液晶セル)に隣接する位置に配置して、表示特性を目視で評価する。
一軸延伸位相差フィルムは、実施例の光学積層体又は比較例の光学積層体若しくは光学フィルムと組み合わせて用いた際に、波長550nmで測定したレターデーションが、おおよそ450nmになるものを選択する。
【0064】
(製造例1)ノルボルネン系ポリマー1の製造
脱水したシクロヘキサン500部に、窒素雰囲気下、1−ヘキセン0.82部、ジブチルエーテル0.15部、トリイソブチルアルミニウム0.30部を室温で反応器に入れ混合した後、45℃に保ちながら、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(ジシクロペンタジエン、以下「DCP」と略記する。)170部、8−エチリデン−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン(エチリデンテトラシクロドデセン、以下、「ETD」と略記する。)30部からなるノルボルネン系単量体混合物と、六塩化タングステン(0.7%トルエン溶液)40部とを、2時間かけて連続的に添加して重合した。重合溶液にブチルグリシジルエーテル1.06部とイソプロピルアルコール0.52部を加えて重合触媒を不活性化し、重合反応を停止させた。
【0065】
次に、得られた開環重合体を含有する反応溶液100部に対して、シクロヘキサン35部を加え、さらに水素化触媒としてニッケル−アルミナ触媒(日揮化学(株)製)5部を加え、水素により5MPaに加圧して攪拌しながら温度200℃まで加温した後、4時間反応させ、DCP/ETD開環共重合体水素化物ポリマーを20%含有する反応溶液を得た。
【0066】
得られたノルボルネン系ポリマー1中の各ノルボルネン系単量体の共重合比率を、重合後の溶液中の残留ノルボルネン類の組成(ガスクロマトグラフィー法による)から計算したところ、DCP/ETD=85/15でほぼ仕込み組成に等しかった。このノルボルネン系ポリマー1の重量平均分子量(Mw)は35,000であり、分子量分布は2.1、分子量2,000以下の樹脂成分の含有量は0.7重量%であった。また、水素添加率は99.9%、Tgは105℃であった。
【0067】
ろ過により水素化触媒を除去した後、酸化防止剤(商品名:イルガノックス1010、チバスペシャリティ・ケミカルズ社製)を、得られた溶液に添加して溶解させた(酸化防止剤の添加量は、重合体100部あたり0.1部)。
【0068】
次いで、円筒型濃縮乾燥器(日立製作所(株)製)を用いて、温度270℃、圧力1kPa以下で、溶液から、溶媒であるシクロヘキサンおよびその他の揮発性成分を除去することにより、開環重合体水素化物(ノルボルネン系ポリマー1)を得た。
【0069】
(製造例2)ノルボルネン系ポリマー2の製造
DCP170部を40部、ETD30部を160部とした他は、製造例1と同様にして開環重合体水素化物(ノルボルネン系ポリマー2)を得た。
このノルボルネン系ポリマー2の重量平均分子量(Mw)は37,000であり、分子量分布は2.3、分子量2,000以下の樹脂成分の含有量は0.9重量%であった。また、水素添加率は99.9%、Tgは130℃であった。
【0070】
(製造例3)未延伸の積層体1の製造
製造例1で得られたノルボルネン系ポリマーからなるB層、スチレン−マレイン酸共重合体(ノヴァ・ケミカル社製、商品名「Daylark D332」、ガラス転移温度130℃、オリゴマー成分含有量3重量%)からなるA層、及び変性したエチレン−酢酸ビニル共重合体(三菱化学社製、商品名「モディックAP A543」、ビカット軟化点80℃)からなる接着剤層を有する、B層(50μm)−C層(10μm)−A層(200μm)−C層(10μm)−B層(50μm)の未延伸積層体1を共押出し成形により得た。
【0071】
(製造例4)未延伸積層体2の製造
B層として製造例1で得られたノルボルネン系ポリマー1のかわりに製造例2で得られたノルボルネン系ポリマー2を用いた他は、製造例1と同様にして、A層(50μm)−C層(10μm)−B層(200μm)−C層(10μm)−A層(50μm)の未延伸積層体2を共押出し成形により得た。
【0072】
(製造例5)A層単層のフィルムの製造
製造例3におけるA層と同じスチレン−マレイン酸共重合体を押出し成形し、単層のスチレン−マレイン酸共重合体からなる厚さ200μmの未延伸フィルム1を得た。
【0073】
(製造例6)一軸延伸ポリカーボネートフィルム(位相差フィルム)の製造
ホスゲンとビスフェノールAの縮合により得られた、分子量80,000、固有複屈折値0.104のポリカーボネートを、塩化メチレンを溶媒とした溶液流延法により、厚さ90μmのフィルムに製膜した。このフィルムを温度170℃の条件でテンター延伸し、位相差フィルムを得た。
以下のように延伸倍率の異なる4種類の位相差フィルムを作成した。
位相差フィルムA:延伸倍率1.1倍、レターデーション195nm
位相差フィルムB:延伸倍率1.15倍、レターデーション310nm
位相差フィルムC:延伸倍率1.2倍、レターデーション365nm
位相差フィルムD:延伸倍率1.25倍、レターデーション440nm
【0074】
(実施例1)光学積層体1の製造
製造例3で得られた未延伸積層体1を100×100mmのシートに切断し、フィルム延伸試験機(ORIENTEC CORPORATION社製、「TENSILON UTM−10T−PL」)を用いて延伸温度140℃、延伸倍率1.8倍、延伸速度40mm/minで一軸延伸を行った。延伸した積層体を取り出し、中央部の80×80mmの部分を切り出し、光学積層体1を得た。得られた光学積層体1の測定結果及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0075】
(実施例2)光学積層体2の製造
実施例1で得られた光学積層体1を、実施例1と同様にして、実施例1での延伸方向とは直交する方向に、延伸倍率1.5倍で一軸延伸した。延伸した積層体の中央部の60×60mmの部分を切り出し、光学積層体2を得た。得られた光学積層体2の測定結果及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0076】
(比較例1)光学積層体3の製造
製造例3で得られた未延伸積層体1のかわりに製造例4で得られた未延伸積層体2を用いる他は、実施例1と同様に延伸を行い、光学積層体3を得た。得られた光学積層体3の測定結果及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0077】
(比較例2)光学積層体4の製造
実施例1で得られた光学積層体1のかわりに比較例1で得られた光学積層体3を用いる他は、実施例2と同様に延伸を行い、光学積層体4を得た。得られた光学積層体4の測定結果及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0078】
(比較例3)光学積層体5の製造
延伸温度を155℃とする他は、実施例1と同様にして延伸を行い、光学積層体5を得た。得られた光学積層体5の測定結果及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0079】
(比較例4)光学積層体6の製造
延伸温度を115℃とする他は、実施例1と同様にして延伸を行い、光学積層体6を得ようとしたが、A層が破断してしまい、積層体を得ることができなかった。
【0080】
(比較例5)延伸フィルム1の製造
製造例3で得られた未延伸積層体1のかわりに製造例5で得られた未延伸フィルム1を用いた他は実施例1と同様に延伸を行ったが、フィルムが破断してしまい、延伸フィルムは得られなかった。
【0081】
(比較例6)延伸フィルム2の製造
製造例3で得られた未延伸積層体1のかわりに製造例5で得られた未延伸フィルム1を用い、延伸温度を155℃、延伸速度を80mm/minとした以外は実施例1と同様に延伸を行い単層の延伸フィルム2を得た。得られた延伸フィルム2の測定結果及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
表1及び表2の結果から以下のことがわかる。実施例に示すように、本発明の製造方法により得られる光学積層体は、前記積層体の厚さをD、波長550nmの光で測定した厚さ方向の屈折率をnz、厚さ方向に垂直な互いに直交する2方向の屈折率をnx、ny(ただしnx>ny)としたとき、nz>(nx+ny)/2とすることができ、かつ(nx−ny)×Dで表される正面レターデーションReのばらつきを±10nm以内とすることができるので、この光学積層体を液晶表示装置に使用したとき、正面だけでなく斜め方向から見ても良好な表示を確認でき、面内の表示特性も良好である。
一方、A層に用いる固有複屈折値が負である材料のガラス転移温度TgAとB層に用いる透明な樹脂のガラス転移温度TgBが等しいもの未延伸積層体を延伸したもの(比較例1及び2)は、nz≦(nx+ny)/2となったり、厚さ方向のレターデーションが0より大きくなったりするので、この光学積層体を液晶表示装置に使用したとき、面内の表示特性は良好であるものの、良好な表示を得ることのできる視野角が小さく(30度や20度)なる。また、延伸温度が、固有複屈折値が負である材料のガラス転移温度TgAよりも25℃高い温度である場合(比較例3)や、前記TgAよりも15℃低い場合(比較例4)は、正面レターデーションReのばらつきが±10nmよりも大きくなったり、積層体が破断したりしてしまう。さらに、単層フィルムを用いた場合(比較例5)は、フィルムが破断する。また単層フィルムを用いて延伸できたもの(比較例6)でも、正面レターデーションのばらつきが±10nmより大きくなるので、この光学積層体を液晶表示装置に使用したとき、面内の表示特性は良好であるものの、良好な表示を得ることのできる視野角が20度と小さくなり、さらに全面で表示むらが見受けられる。
【0085】
【発明の効果】
本発明の光学積層体は、従来のものよりも、製造効率に優れ、レターデーションのコントロールが可能で、かつレターデーションのばらつきが少ないので、複屈折の高度な補償が可能となり、それ単独または他の部材と組み合わせて、位相差板や視野角補償板などとして、液晶表示装置、有機EL表示装置などの装置に広く応用可能である。
Claims (20)
- 固有複屈折値が負である材料を主成分として含んでなる層(A層)の少なくとも片面に、透明な樹脂を主成分として含んでなる層(B層)を積層してなる未延伸積層体を共延伸してなる光学積層体からなる視野角補償板であって、前記光学積層体の厚さをD、波長550nmの光で測定した厚さ方向の屈折率をnz、厚さ方向に垂直な互いに直交する2方向の屈折率をnx、ny(ただしnx>ny)、前記固有複屈折値が負である材料のガラス転移温度(℃)をTgA、前記透明な樹脂のガラス転移温度(℃)をTgBとしたとき以下の要件〔1〕〜要件〔3〕を満たすことを特徴とする視野角補償板。
要件〔1〕:nz>(nx+ny)/2
要件〔2〕:(nx−ny)×Dで表される正面レターデーションReのばらつきが±10nm以内である。
要件〔3〕:TgA−20≧TgB - 前記nx、ny及びnzが、nz>nx、nz>nyの関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の視野角補償板。
- 前記nx、ny及びnzが、nz>nx≒nyの関係を満たすことを特徴とする請求項1又は2記載の視野角補償板。
- 前記固有複屈折値が負である材料が、ビニル芳香族系重合体である請求項1乃至3のいずれかに記載の視野角補償板。
- 前記ビニル芳香族系重合体が、スチレン及び/又はスチレン誘導体と無水マレイン酸との共重合体である請求項4に記載の視野角補償板。
- 前記透明な樹脂が、脂環式構造含有重合体樹脂である請求項1乃至5のいずれかに記載の視野角補償板。
- TgA≧110である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の視野角補償板。
- 前記A層の両面に前記B層が積層されている請求項1乃至7のいずれか1項に記載の視野角補償板。
- 前記A層の両面に積層されている2層の前記B層のうちの、一方の前記B層の厚さが、他方の前記B層の厚さと実質的に等しいことを特徴とする請求項8に記載の視野角補償板。
- 前記A層の厚さが5〜400μmであり、前記B層の厚さが15〜250μmである請求項1乃至9のいずれか1項に記載の視野角補償板。
- 前記A層と前記B層との間に、接着剤層(C層)をさらに有する請求項1乃至10のいずれか1項に記載の視野角補償板。
- C層に用いる接着剤のガラス転移温度又は軟化点TgCが、TgA>TgCの要件を満たす請求項1乃至11のいずれか1項に記載の視野角補償板。
- 前記B層に用いられる前記透明な樹脂は、ポリメタクリレート系重合体である請求項1乃至12のいずれか1項に記載の視野角補償板。
- 前記A層に用いられる固有複屈折が負である材料、および/または、前記B層に用いられる前記透明な樹脂には、添加剤が添加されている請求項1乃至13のいずれか1項に記載の視野角補償板。
- 厚さ方向のレターデーションRthが−50〜−1000nmである請求項1乃至14のいずれか1項に記載の視野角補償板。
- 固有複屈折値が負である材料を主成分として含んでなる層(A層)の少なくとも片面に、透明な樹脂を主成分として含んでなる層(B層)を積層してなる未延伸積層体を共延伸してなる光学積層体からなる視野角補償板であって、前記光学積層体の厚さをD、波長550nmの光で測定した厚さ方向の屈折率をn z 、厚さ方向に垂直な互いに直交する2方向の屈折率をn x 、n y (ただしn x >n y )、前記固有複屈折値が負である材料のガラス転移温度(℃)をTg A 、前記透明な樹脂のガラス転移温度(℃)をTg B としたとき以下の要件〔4〕〜要件〔6〕を満たすことを特徴とする視野角補償板。
要件〔4〕:n z >(n x +n y )/2
要件〔5〕:(n x −n y )×Dで表される正面レターデーションReのばらつきが±10nm以内である。
要件〔6〕:Tg A >Tg B - 固有複屈折値が負である材料を主成分として含んでなる層(A層)の少なくとも片面に、前記固有複屈折値が負である材料のガラス転移温度TgAよりも20℃以上低いガラス転移温度TgBを有する透明な樹脂を主成分として含んでなる層(B層)を積層して未延伸積層体を得、これをTgA−10(℃)〜TgA+20(℃)の温度で延伸することを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の視野角補償板の製造方法。
- 前記未延伸積層体を得る工程において、前記A層の両面に前記B層を積層する、請求項17に記載の視野角補償板の製造方法。
- 前記未延伸積層体を得る工程を、共押出により行う、請求項17又は18に記載の視野角補償板の製造方法。
- 延伸倍率が1.3倍以上である請求項17乃至19のいずれか1項に記載の視野角補償板の製造方法。
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