JP4582853B2 - グルタチオン−s−トランスフェラーゼ遺伝子を導入した低温抵抗性イネ - Google Patents

グルタチオン−s−トランスフェラーゼ遺伝子を導入した低温抵抗性イネ Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、イネのグルタチオンS-トランスフェラーゼ(以下GST )をコードする遺伝子、組換えGST、前記遺伝子の導入用ベクター、GST遺伝子が導入された低温抵抗性等のストレス抵抗性が増強されたイネの作出方法および該作出で得られるイネに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、遺伝子工学技術を用いて植物に有用遺伝子を導入し、様々な環境ストレスに対する抵抗性植物を作出する試みが進められている。
例えば、低温耐性[特開平 10-179167号公報]、乾燥耐性(Science , 259: 508-510, 1993)、農薬耐性(Trend Biotechnol.,8:61, 1990)など、遺伝子組換え技術によるストレス耐性植物が作出されている。
【0003】
上記のような技術的背景のもとで、双子葉植物であるタバコから単離した GSTをコードする遺伝子を、タバコにおいて過剰発現させることによってストレス下における生育を増強させた報告がある(Nature Biotech., 15 : 988-991,1997)。しかしながら、単子葉植物であるイネから単離された GST遺伝子ならびにイネにおいて GST遺伝子を過剰発現させることによるストレス耐性付与についてはこれまでに報告がない。
【0004】
GSTは、除草剤等の生体異物ならびに内性基質の代謝による過酸化物の解毒機能(Annu.Rev.Plant Physiol.Plant Mol.Biol.,47 : 127-158, 1996)に加えて、活性酸素消去能があることが知られており(Plant J.,18,285-292,1999)、各種ストレスに対して細胞を防御する酵素としてきわめて重要である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の課題は、ストレス耐性に関与する GST遺伝子を単離し、この遺伝子を単子葉植物において過剰発現させることにより各種ストレス耐性を付与する手段を提供することにある。
ネを効率的に生産する手段をも課題とする。
【0006】
【発明を解決するための手段】
本発明者らは、このような課題を解決すべく鋭意検討した結果、遺伝子工学てき手法によりGST 遺伝子が導入された形質転換細胞が効率よく得られ、これを再生することによりGST 遺伝子導入イネが確実に得られることを見いだし、さらに、イネに低温ストレスに対して優れた耐性を付与する手段を提供することが可能であることを見いだし、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明、以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子にある。
(a)配列番号で表されるアミノ酸配列からなるグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
(b)アミノ酸配列(a)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
【0008】
さらに、本発明は、上記グルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子を含む植物導入用ベクターにある。
さらに、本発明は、以下の(a)又は(b)の組換えタンパク質にある。
(a)配列番号で表されるアミノ酸配列からなるグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
(b)アミノ酸配列(a)において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
【0009】
さらに、本発明は、上記グルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子を含むベクターを導入したイネの胚様体カルスの分裂細胞を固体培地上で培養することを特徴とするグルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子導入イネの作出方法にある。
さらに、本発明は、前記の方法により得られるグルタチオンS-トランスフェラーゼ遺伝子導入イネにある。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
A. 本発明は、特定の GST遺伝子(以下、単に GST遺伝子ともいう。)に関する。本発明の GST遺伝子は、これをイネに導入して、このイネを形質転換することにより、特に低温抵抗性に優れたイネを作出することのできる遺伝子である。
【0011】
この GST遺伝子のクローニングは、通常公知の方法により行うことができる。すなわち、まず GST遺伝子の由来となる生物の細胞を分離して、この細胞から全 RNAを抽出する。この全 RNAの抽出は、通常公知の方法により行うことができる。次いで、この全 RNAから、通常公知の方法により mRNA のみを分離する。
cDNAの合成も、通常公知の方法により行うことができる。すなわち、得られた mRNA を鋳型とし、オリゴdT又はランダムプライマーをプライマーとして用い、逆転写酵素を用いて cDNA を合成し、所望する cDNA を調製することができる。
【0012】
次に、この cDNA の断片群を調製して、これをクローニング用のベクターに組み込み、さらにこれを適切な宿主中で増幅させて、GST 遺伝子の出所となる生物のcDNAライブラリーを調製することができる。なお、このクローニング用のベクターに cDNA 断片が組み込まれた否かについては、このベクターが保有する薬剤耐性マーカー等によって確認することができる。
クローニング用のベクターとしては、特に限定されず、例えばpUC8、pUC9、pBR322、pBluescriptII、λZAPII等の通常クローニングに用いられる公知のクローニング用ベクターを用いることができる。
【0013】
これらのクローニング用ベクターは、通常公知の方法により作出することも可能であるが、市販品を用いることも可能である。なお、上記で合成した cDNAに、GST 遺伝子に関連する塩基配列の DNAプライマーを用いて、PCR 法により GST遺伝子の塩基配列に関連する cDNA 断片を増幅して、これをクローニングすることも可能である。
上記の遺伝子ライブラリーの調製は、市販のキットにより簡便に行うことも可能である。また、生物の種類によっては、市販の遺伝子ライブラリーを用いて、そのまま以下に記載するクローンのスクリーニングを行うことも可能である。
【0014】
所望する遺伝子ライブラリーの調製は、上記のごとくして得た本発明 GST遺伝子の出所となる生物の遺伝子ライブラリーから、所望の GST遺伝子を含むクローンを選別することにより行われる。このスクリーニング方法としても、上記の遺伝子ライブラリーの形態に応じた通常公知の方法を用いることができる。
【0015】
上記のGST遺伝子のプローブとして用いる DNA断片は、少なくとも所望の GST遺伝子の塩基配列の一部(配列番号3)を含むことが必要である。このような配列を有するプローブは、例えば既知の GST遺伝子同士で共通する部分の配列を化学合成した DNA断片や、本発明 GST遺伝子の由来となる植物のゲノム DNAを細胞核部分から抽出して、このゲノム DNAを鋳型とし、既知の GST遺伝子間で保存されている領域の配列を化学合成したオリゴヌクレオチド断片をプライマーとした PCR法により得られる DNA断片を用いることができる。
【0016】
このようにして得られたクローンから、塩基配列自動解析装置をなどを用いて、所望の GST遺伝子の塩基配列を決定することができる。
本発明の GST遺伝子そのものを入手することができる。すなわち、上記と同様に調製した GST遺伝子の由来となる生物の cDNA を鋳型とし、上記のごとく決定された GST遺伝子の塩基配列の5’末端側と3’末端側の配列を含む DNA断片をプライマーとした PCR法により、GST遺伝子を増幅することができる。
【0017】
なお、いわゆる部位特異的突然変異法などの通常公知の遺伝子の塩基配列の変更手段を講ずることによって、前記の工程により調製した本発明 GST遺伝子の塩基配列の一部を改変して、その遺伝子がコードするアミノ酸配列の一部を人為的に変更した GST遺伝子若しくはそのアミノ酸配列を含む GSTが、本発明の技術的範囲に含まれることを本発明者は認識する。
【0018】
B.植物への GST遺伝子の導入用ベクター
本発明は、 GST遺伝子をイネなどの植物に導入して、低温抵抗性などを有する形質転換植物を作出することを目的の一つとする。
そして、 GST遺伝子をイネなどの植物に導入する前提として、優れた本発明の GST遺伝子の導入効率を有する遺伝子導入用ベクター(以下、単に導入用ベクターともいう。)を作出することが必要である。すなわち、 GST遺伝子および必要に応じてマーカー遺伝子を、プラスミッドに組み込んだ組換え DNAを構築することが必要である。本発明に用いられるベクターとしては、市販の pUC 19 などの pUC系ベクター等が挙げられる。
【0019】
導入用ベクターは、 GST遺伝子の他に、本発明で利用する遺伝子発現調節機構としてのプロモーター配列として、例えばカリフラワーモザイクウイルス (CaMV) 由来の 35S転写物[EMBO J. 6:3901-3907, 1987]およびトウモロコシのユビキチン[Plant Mol. Biol.,18: 675-689, 1992]のプロモーター(配列番号1)が挙げられ、ターミネーター配列としては、例えばカリフラワーモザイクウイルス由来やノパリン合成酵素遺伝子由来のターミネーター(配列番号2)等が挙げられるが、植物体中で機能することが知られているプロモーターやターミネーターであればこれらのものに限定されない(図4参照)。
【0020】
また、必要に応じてプロモーター配列と GST遺伝子の間に、GST 遺伝子の発現を増強させる機能を持つイントロン配列、例えばトウモロコシのアルコールデヒドロゲナーゼ (Adh 1)のイントロン配列[Gene & Dev.,1: 1183-1200, 1987]を導入することができる。
【0021】
C.GST遺伝子のイネへの導入
上記のようにして調整したGST遺伝子を包含するベクターを、イネの胚様体カルスにアグロバクテリウム法 [Plant J.,6:271-282, 1994] により導入する。
GST 遺伝子が導入されたイネ細胞は、GST 遺伝子あるいはその発現産物の解析により、GST 遺伝子を保持する形質転換細胞を選択することも可能であるが、より効率的に目的の形質転換細胞を選択するためには、有効な選抜マーカー遺伝子を上記 GST遺伝子と併用することが好ましい。その際に使用する選抜マーカーとしては、抗生物質ハイグロマイシンに対する抵抗性を植物に付与するヒグロマイシン・フォスフォトランスフェラーゼ(hpt) 遺伝子およびビアラフォス (bialaphos)に対する抵抗性を付与するフォスフィノスリシン(Phosphinothricin)アセチルトランスフェラーゼ(bar) 遺伝子等から選ばれる1つ以上の遺伝子を使用することができる。本発明では、これらの選抜マーカー遺伝子を利用した形質転換細胞の選抜効率を高めるために、カリフラワーモザイクウイルス由来の35Sプロモーターに hpt遺伝子を連結したバイナリーベクター pEKH を構築して用いた(図5参照)。
【0022】
実施例において詳細に説明するが、アグロバクテリウム法による遺伝子導入には、アグロバクテリウムの本発明遺伝子導入用ベクター等による形質転換が必要である。本発明では、上記の選抜マーカー遺伝子を含むバイナリーベクターに、 GST遺伝子を含有するベクターを、制限酵素処理により組み込んだものを用いてできる。
【0023】
D.本発明GST遺伝子を包含する組換え DNAのイネへの導入
本発明におけるイネの胚様体カルスは、次のようにして得ることができる。
種を指す。その代表的な栽培品種としては、コシヒカリ等の日本型品種および IR36 等のインド型品種があるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
イネ(Oryza sativa L. var. Sasanishiki)の完熟種子を次亜塩素酸で消毒後、2, 4-ジクロロ酢酸を含む ND2寒天固形培地に置床して培養する。3週間後胚盤組織より生じたカルスを ND2寒天固形培地に移植して3日ないしそれ以上培養すると、アグロバクテリウム法に供試できる胚様体カルスが得られる。
【0025】
胚様体カルスへの組換え DNAの導入
上記で得られたカルスを材料としてアグロバクテリウム法を用いて導入を行う。アグロバクテリウムは、公知の EHA101、LBA4404 などを用いることができる。本発明GST遺伝子を包含する組換え DNAを、アグロバクテリウムに導入する方法は、通常公知のエレクトロポレーション法によるが、装置の具体例として BioRad社の ジーン・パルサー(Gene Pulser) などがあげられる。
【0026】
上記で得たアグロバクテリウムを、選抜用薬剤を含む培地で培養することによって、本発明 GST遺伝子および選抜マーカー遺伝子が導入されたアグロバクテリウムのみを増殖することができる。
前記で得た胚様体カルスに、上記で得たアグロバクテリウムを感染させることにより、胚様体カルスのゲノム中に、本発明 GST遺伝子および選抜マーカー遺伝子を組み込むことができる。
【0027】
E. GST遺伝子を導入した胚様体カルスからの植物体の再生
上記で得た GST遺伝子導入胚様体カルスから、残存するアグロバクテリウムを除去し、ハイグロマイシンなどの選抜用薬剤を含んだ再分化誘導用培地に置床して培養することにより、 GST遺伝子導入植物体が得られる。
【0028】
植物体の再生に用いられる基本培地としては、ハイグロマイシン等の選抜薬剤を含む N6SE 寒天固形培地を用いた。選抜培地で増殖したハイグロマイシン耐性カルスは、ハイグロマイシン等を含む MSRE 寒天固形培地に置床し再分化を誘導した。再分化したシュートは、馴化用の MSHF 寒天固形培地に移して発根を促し組換え植物体を育成する。
【0029】
再分化培地に移植されたカルスは、20〜30℃、好ましくは 25〜28℃、1日あたり 500〜2,000 ルクス、好ましくは 800〜1,000 ルクス、20〜60日間、好ましくは30〜40日間培養すると、個々の耐性カルスから導入した GST遺伝子を保持したイネ植物体が再分化してくる。
【0030】
上記で得られたハイグロマイシン耐性細胞塊 (カルス) およびその再分化植物体に目的とする GST遺伝子が組み込まれていることの確認は、これらの細胞および組織から常法に従って DNAを抽出し、公知の PCR法もしくはサザン法を用いて導入した遺伝子を検出することにより行うことができる。
【0031】
得られたイネ植物体は、土壌、またはバーミキュライト等の土壌の代用となりうる資材を詰めた容器、若しくは水耕液中で栽培し、株分けすることにより、増殖させることができる。このようにして増殖されたGST遺伝子導入イネも、本発明の範囲に含まれる。
なお、本発明において GST遺伝子導入イネとは、本発目の遺伝子を導入したカルスなどの細胞、植物体の根、茎、葉、花、実(種籾)を総称するものである。
【0032】
本発明の遺伝子導入イネは、自家受粉によって後代植物を作出することが可能であり、また、本発明遺伝子は安定して後代に遺伝する。また、他のイネとの交配により新たな品種を作出するために本発明遺伝子導入植物を用いることができる。
本発明により得られる GST遺伝子導入イネは、低温発芽性や低温伸長性などの各種ストレスに耐性を有するものである。
【0033】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
A.イネGST遺伝子の取得
1.cDNAライブラリーの作成
いもち病圃場抵抗性の弱い水稲品種ササニシキの播種後3週間の幼苗にいもち病菌レース037の胞子を散布した。散布後、幼苗をビニール製の湿室に24時間置き、葉を採種してcDNAライブラリーの作成の材料として用いた。いもち病感染葉からmRNAを抽出し、Stratagene社のλZAPIIシステムを用いてcDNAライブラリーを作成し、λZAPIIベクターからヘルパーファージを用いた In vitro excision法によってプラスミッドとして大腸菌に導入した。形質転換した大腸菌は、アンピシリン(100mg/ml)を含んだマコンキー寒天培地にプレーティングし、コロニーを形成させて cDNA プラスミッドライブラリーとして用いた。
【0034】
2.プラスミッドの抽出・精製・変性・保存
任意の大腸菌のコロニーを選抜し、2mlの2×YT (1.6%バクト・クリプトン( Bacto tryptone), 1% イースト・エキストラクト , 0.5% NaCl) 培地に接種し、37℃で培養した後、1.5mlの培養液からPromega 社の Wizard DNA miniprep kitを用いてプラスミッドを精製した。精製したプラスミッドは、アガロースゲル電気泳動法により、DNA 量を定量して、約30μgのプラスミッドDNA を取りアルカリ変性処理を行った。アルカリ変性は、0.2Nの NaOH 溶液中で5分間行い、1/4 量の 5M 酢酸アンモニウムを加えエタノール沈殿を行った後、減圧処理により乾燥した。残りのプラスミッド DNAは-20℃で、また、大腸菌の培養液の一部を取って、グリセロールストックとして-80℃で保存した。
【0035】
3.部分塩基配列の解析
上記で得た各クローンの部分塩基配列は、アルカリ変性したプラスミッドをテンプレートとして用い、Applied Biosystems社のダイターミネーターサイクルシークエンサー法により ABI373 自動シークエンサーを用いて決定した。シークエンスプライマーはT3およびT7プライマーを用い、両方向からcDNAの塩基配列を決定した。本解析により全長cDNAを含むと思われた10クローンを選択し、以下の方法で完全長cDNAクローンの塩基配列を決定した。
【0036】
4.完全長 cDNA クローンの塩基配列の決定
完全長の cDNA を含むプラスミッド DNAを数種類の6塩基認識の制限酵素で切断して、大まかな制限酵素地図を作製し、適当な大きさ(200〜400bp)の断片を pUC系ベクターにサブクローニングした。これらプラスミッドの抽出、精製、変性、保存、シークエンスは前述と同様の操作を行い、M13 および RV プライマーを用いて両方向のシークエンスを行った。
【0037】
5.完全長 cDNA のホモロジー検索
上記により完全長 cDNA の塩基配列を決定したクローン PSL029 は、全長1032塩基からななることが判明した。PSL029のホモロジーについて、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のBLAST Serverに接続して検索を行った。その結果、クローン PSL029 に含まれる完全長 GST cDNA断片は、5'末より162塩基から800塩基に翻訳部位を有し、212個のアミノ酸からなるポリペプチドをコードすることが判明した(配列番号4及び配列番号5)(図1)。なお、complete CDSがコードするアミノ酸配列は、既知のコムギ GST (Triticum aestivum glutathione S-transferase mRNA, complete cds. Subramaniam , et. al., 1997 )とホモロジーが83%と、相同性が非常に高いことが判明した。
【0038】
B.本発明導入用ベクターの作出
スペクチノマイシン耐性遺伝子を含む SpUC ベクターおよび pBI221ベクターを、それぞれ制限酵素 HindIIIおよび EcoRIで処理し、SpUCベクター中にカリフラワーモザイクウィルス35Sプロモーター(35S)、β-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)、ノパリン合成酵素ターミネーター(nos)を導入し、pS221 ベクターを作成した(図2参照)。続いてpS221 の SacI サイトに SalI リンカーを導入して、pS221sを作成した。そこへ、BSベクターにクローニングされている PSL029 cDNA断片を、制限酵素 XbaI および XhoI で切断して、GUS 遺伝子と置換することにより pS221s へ挿入した。上記方法により、タバコなど双子葉植物において強力な発現を可能とする GST導入用ベクター pS221s 29PSが取得できた。(図3参照)
【0039】
pS221s 29PS の 35Sプロモーターと、pAHC17のユビキチンプロモーターを入れ替えるべく、次の操作を行った。pS221s 29PS としてクローニングされたベクター、およびプラスミッド pAHC17 について各100ng をそれぞれ制限酵素 XbaI およびPstIで処理した。具体的には、ベクターとしてのプラスミッド DNA溶液5ng/μlを2μl、TE buffer を6μl、5×H バッファーを2μl、1,000unit の PstIおよびXbaIをそれぞれ 1μl 加えて混合し、37℃で1時間反応させた。反応後、pS221s 29PS の制限酵素処理溶液1μl、pAHC17の制限酵素処理溶液3μlをとり、DW6μl、TAKARA社製 DNA ライゲーションキット(ver.2) の s溶液I を10μl加えて混合し、16℃オーバーナイトで反応させてライゲーションを行った
【0040】
1.5mlチューブにおいて-80℃でストックしているコンピテントセルDH5α50μlを5分間氷中で解凍した後、上記のライゲーション産物2μlを加え、さらに氷中で15分間放置した。それから42℃2分間のヒートショックを与えた後、氷中で急冷した。その後、このチューブにSOC培地(bacto trypton (20g/L) , バクト・イーストエキストラクツ(5g/L) , NaCl (0.5g/L) , 2.5mM KCl , 10mM MgCl2 , 20mM glucose, pH7.0)500μlを加えて37℃で2時間培養した。培養物80μlをスペクチノマイシン100ppm含有の 2×YT寒天固形培地(1.6% bacto trypton , 1% yeast extract , 0.5% NaCl,1.5%寒天)プレートに塗布し、37℃オーバーナイトで培養した。
【0041】
プレートに発生した多数のスペクチノマイシン耐性コロニーから、ランダムに16個選択し、それぞれについて滅菌した爪楊枝でコロニーの一部を掻き取り、2×YT液体培地(1.6% bacto trypton , 1% yeast extract , 0.5% NaCl )1ml にて37℃オーバーナイトで振盪培養した。
【0042】
培養物を4℃ 15,000rpmで5分間遠心し、上清を取り除いた。残った沈殿物
に セル・タサスペンジョン溶液(cell resuspension solution)(50mM Tris (pH7.5) ; 10mM EDTA ; and 100μg/mlRNase A) 50μlを加え マイクロチューブミキサーにて懸濁し、そこへ セルリシス溶液(cell lysis solution)(0.2M NaOH and 1% SDS) を100μl加えて透明になるまで穏やかに撹拌した。次に中和溶液(2.55M 酢酸カリウム) を75μl 加えて上下に反転させながら十分に撹拌した後、4℃ 15,000rpmで5分間遠心し、上清 (cleared lysate) を新しいチューブに移した。上清の2.5倍量のエタノールを加え十分に撹拌後、4℃ 15,000rpmで20分間遠心し上清を取り除いたあと、洗浄のため1mlの70%エタノールを加えて4℃15,00rpmで5分間遠心した。70%エタノール洗浄をもう一度繰り返した後、上清を捨ててプラスミッド DNAである沈殿物をデシケーターで乾燥させ、10μlの TE バッファーを加えて65℃10分間で溶解した。
【0043】
上記方法により調製した16個のプラスミド DNA溶液について、目的であるユビキチンプロモーターが挿入されたか否かを確認するため、0.7%アガロースゲルにおいて電気泳動を行った。電気泳動の結果より、pS221s 29PS プラスミドより大きめのクローンを選択し、このプラスミド DNAを制限酵素 PstI および XbaI で処理した。処理溶液を電気泳動で確認し、ユビキチンプロモーター断片である 2.0kbp の位置と、pS221s 29PS より 35Sプロモーターが削除された断片である 4.7kbp の位置にバンドが確認されたクローン、すなわちユビキチンプロモーター下流にGST遺伝子が正常に連結されたプラスミッドを、本発明導入用ベクター Sub29PS(図4参照)として得た。
【0044】
C.GST遺伝子のイネへの導入と発現
1.バイナリーベクターの作成
上記のようにして調整したGST遺伝子を包含するベクターを、アグロバクテリウム法[Plant J.,6 : 271-282 , 1994] によりイネの胚様体カルスに導入するために、カリフラワーモザイクウイルス由来の35Sプロモーターに hpt遺伝子を連結したバイナリーベクター pEKH を構築して用いた(図5参照)。なお、このバイナリーベクターには、nos プロモーター下流にカナマイシン抵抗性遺伝子 (npt)を連結したものも含んでいる。GST 遺伝子を包含するベクター Sub29PSおよびバイナリーベクター pEKH をそれぞれ制限酵素 Sse8387I で所定の位置を一カ所切断し、これらをライゲーションすることによって pEKH-Sub29PS(図5)を得た。なお、バイナリーベクター pEKH に挿入される Sub29PSの方向は正逆どちらでも構わない。
【0045】
2.イネの胚様体カルスの誘導
イネ(Oryza sativa L. var. Sasanishiki)の完熟種子を1%次亜塩素酸で消毒後、ND2培地 (KNO3 (2830mg/L) 、(NH4)2SO4 (463mg/L) 、KH2PO4 (400mg/L)、CaCl2/2H2O (166mg/L)、MgSO4/7H2O (185mg/L)、MnSO4/4H2O (4.4mg/L)、H3BO3 (1.6mg/L) 、ZnSO4/7H2O (1.5mg/L)、KI (0.8mg/L)、FeSO4/7H2O (27.8mg/L)、Na2/EDTA (37.3mg/L) 、グリシン (2.0mg/L) 、ニコチン酸 (0.5mg/L)、ピリドキシン塩酸塩 (0.5mg/L)、チアミン塩酸塩 (1.0mg/L) 、ミオイノシトール (100mg/L)、シュークローズ (20g/L)、2,4-D (2 mg/L)、0.9 % 寒天固形培地)に置床して25℃明所で培養する。3週間後胚盤組織より生じた 2〜3mm の状態の良いカルスを選抜し、25℃明所で3日間 ND2培地において培養することにより、アグロバクテリウム法に供試可能な胚様体カルスが得られる。
【0046】
3.アグロバクテリウムへのGST遺伝子を包含するバイナリーベクターの導入
40μl ずつ分注して-80℃でストックしておいた市販のアグロバクテリウム EHA101 を氷中にて溶解し、 GST遺伝子を包含するバイナリーベクターのプラスミッド DNA溶液 (0.1ng/μl)を2μl 加え、静かにピペッティングして氷中に5分間放置する。その後氷中において Bio-Rad社の Gene Pulser用キュベットに移し、25μF、200Ω、2.5kVの設定において4.3秒間パルスを与えた。その後速やかに SOC液体培地を 1ml加え、薬剤耐性遺伝子の発現のため28℃で1時間培養した。培養後のアグロバクテリウムを、クロラムフェニコール25ppm、カナマイシン50ppm、スペクチノマイシン50ppmを含むAB寒天固形培地に塗布し、25℃3日間培養することによって、本発明 GST遺伝子および選抜マーカー遺伝子が導入されたアグロバクテリウムのみを増殖することができた。
【0047】
4.胚様体カルスへの組換え DNAの導入
上記で得たアグロバクテリウムを、AB寒天固形培地に塗布し、25℃、3日間培養する。増殖したアグロバクテリウムを薬匙で掻き取り、アセトシリンゴン入りAA培地 (AA無機塩、アミノ酸、B5ビタミン、シュークローズ (20g/L) 、2,4-D (2mg/L)、カイネチン (0.2mg/L) 、アセトシリンゴン(acetosyringone)(10mg/L) 、Muller et al. 1978) に懸濁させて、波長600nm における吸光度が0.15〜0.20となるように調整する。
【0048】
調整した懸濁液に、前記で得た胚様体カルスを、軽く振とうしながら1.5〜2分間浸漬することによって、胚様体カルスにアグロバクテリウムを感染させる。浸漬後の胚様体カルスは、滅菌したペーパータオル等で余分な水分を除去し、N6CO寒天固形培地(KNO3 (2830mg/L)、(NH4)2SO4 (463mg/L)、KH2PO4 (400mg/L)、CaCl2/2H2O (166mg/L)、MgSO4/7H2O (185mg/L)、MnSO4/4H2O (4.4mg/L)、H3BO3 (1.6mg/L)、ZnSO4/7H2O (1.5mg/L)、KI (0.8mg/L)、FeSO4/7H2O(27.8mg/L)、Na2/EDTA (37.3mg/L)、グリシン (2.0mg/L) 、ニコチン酸(0.5mg/L)、ピリドキシン塩酸塩 (0.5mg/L) 、チアミン塩酸塩 (1.0mg/L) 、シュークローズ (30g/L) 、グルコース (10g/L) 、2,4-D (2mg/L)、アセトシリンゴン (10mg/L)、ゲルライト( gelrite)(2g/L))に置床し、25〜28℃の暗所で3日間培養する。このことによって、胚様体カルスのゲノム中に、本発明 GST遺伝子および選抜マーカー遺伝子を組み込むことができる。
【0049】
5.GST遺伝子を導入した胚様体カルスからの植物体の再生
上記で培養した胚様体カルスから、残存するアグロバクテリウムを除去するため、クラフォラン(500mg/L)入り滅菌水で洗浄する。洗浄したカルスは、滅菌したペーパータオル等で余分な水分を除去し、ハイグロマイシンなどの選抜用マーカー薬剤を含んだN6SE寒天固形培地(KNO3 (2830mg/L)、(NH4)2SO4 (463mg/L)、KH2PO4 (400mg/L)、CaCl2/2H2O (166mg/L)、MgSO4/7H2O (185mg/L)、MnSO4/4H2O (4.4mg/L)、H3BO3 (1.6mg/L)、ZnSO4/7H2O (1.5mg/L)、KI (0.8mg/L)、
FeSO4/7H2O (27.8mg/L)、Na2/EDTA (37.3mg/L)、グリシン(2.0mg/L) 、ニコチン酸 (0.5mg/L)、ピリドキシン塩酸塩(0.5mg/L)、チアミン塩酸塩(1.0mg/L) 、シュークローズ(30g/L) 、2,4-D(2mg/L)、ゲルライト(2g/L) 、クラフォラン (500mg/L)、ヒグロマイシン (50mg/L))に置床する。置床後3週間、25℃、暗所で培養することによって、増殖する薬剤耐性カルスを得ることができる。なお、この間、アグロバクテリウムが増殖してくるようであれば、クラフォラン (500mg/L)入り滅菌水で再度洗浄し、N6SE寒天固形培地での培養を継続する。
【0050】
上記で得た耐性カルスを、MSRE寒天固形培地(MS無機塩、MSビタミン、シュークローズ(30g/L) 、ソルビトールl(30g/L) 、カザミノ酸 (2g/L) 、NAA (1mg/L)、BAP (2mg/L)、クラフォラン (250mg/L)、ヒグロマイシン (50mg/L)、gelrite (4g/L))に置し、25℃、明所で培養し、再分化を誘導した。再分化したシュートは、MSHF寒天固形培地(MS無機塩、MSビタミン、シュークローズ (30g/L) 、ヒグロマイシン (50mg/L)、寒天 (8g/L))に移して発根を促し、組換え植物体を育成する。
【0051】
6.形質転換植物の遺伝子解析
上記で得られたハイグロマイシン耐性細胞塊 (カルス) およびその再分化植物体に目的とする GST遺伝子が組み込まれていることの確認は、これらの細胞および組織から常法に従って DNAを抽出し、公知の PCR法もしくはサザン法を用いて導入した遺伝子を検出することにより行うことができる。
【0052】
GST遺伝子を保持する植物体の選抜
再分化したイネ87系統それぞれの葉身0.1gを採取し、液体窒素で凍結、粉砕後、Nucleon PHYTOPURE for PLANT DNA EXTRACTION KIT (Amersham LIFE SCIENCE製)を用いてゲノム DNAを抽出した。
【0053】
上記で得られた約 100 ng のゲノム DNAをテンプレートとして PCR反応を行い、導入した遺伝子配列の増幅を試みた。PCR 反応条件は、PCR Amplification kit (Takara Co.) に従っておこなった。具体的には、10mM Tris-HCl、2.5 mM MgCl2、50 mM KCl、0.01% ゼラチン、pH 8.3、dNTP (dATP, dGTP, dCTP, dTTP) 各2.5 mM混合物, Ex-Taq DNA ポリメラーゼ 1.25 unitおよびプライマー2種類(それぞれ配列番号1、2に示す配列を有するオリゴヌクレオチド)各 2μM を混合して反応液を調製した。反応液 25 mLを DNA Engine PTC-200 (MJ Research社製)を用いて、95℃-1分、53℃-0.5分、72℃-1分の温度条件を 30 回繰り返して増幅反応を行った。
【0054】
PCR産物を常法に従い 0.7% アガロースゲル電気泳動法で分析したところ、約1.2 kbの増幅された DNAバンドが確認された。このバンドパターンより再生植物個体より得られた 86 系統のうち、育成中に枯死した個体を除く 77 系統に GST遺伝子が組み込まれていることが確認された(図6参照)。
【0055】
7.形質転換イネの導入 GST遺伝子転写産物の解析
イネの GST遺伝子組換え体において、導入遺伝子の転写産物である mRNA が発現されていることを確認する目的で行った。
上記の組換えイネ自殖後代2世代目の系統番号1,6,16、および非組換え植物体の葉をそれぞれ 0.1g採取し、液体窒素で凍結、粉砕後、RNeasy Plant Mini Kit (QIAGEN製) を用いて全RNAを抽出した。全RNA 10μgを用いてノーザンブロット解析を行った。ハイブリダイゼーションから検出までは、ジーンイメージTM (アマシャム株式会社) を用いた。ストリンジェンシー条件として、65℃の1×SSC、0.1% SDS溶液で20分間、続いて65℃の0.1×SSC、0.1% SDSで20分間洗浄した。プローブは、配列番号1、3に示すプライマー2種類による増幅断片を用いた。この結果は、図7に示したとおりである。この図7において明らかなように、GST 遺伝子組換えイネは、非組換えイネに比べて非常に高い mRNA 発現量を示した。
【0056】
8.形質転換イネの葉のGST活性
上記の組換えイネ自殖後代2世代目の系統番号1,6,16、および非組換え植物体の葉をそれぞれ 0.1g採取し、タンパク抽出緩衝液(100mM Tris緩衝液 (pH8.5)、10mM EDTA、1mM メルカプトエタノール)5mlを用いて磨砕し、抽出液を得る。この抽出液について15000rpm、5分間の遠心処理(2回)を行い、上澄みを得る。得られた抽出液中の総タンパク質濃度を、プロテンアッセイ (Bio-Rad 製)を用いて測定し、各抽出液中の総タンパク質濃度が0.5mg/mlとなるように DW を用いて調整した。
【0057】
上記タンパク抽出液を用いて、葉における GST活性を測定した。測定方法は Habigら(J. Biol. Chem.,56: 7130-7139, 1974)の方法に準じて行った。具体的には、90μlの反応液(100mM リン酸水素二カリウム(pH6.5)、0.5mM GSH、基質としての0.5mM CDNB)に、上記タンパク抽出液(0.5mg/ml)を10μl 加えて、25℃、15分間インキュベート後における340nm 吸光度より算出した。
この結果は、図8に示したとおりである。GST遺伝子組換えイネは、非組換えイネに比べて20〜40%高い活性値を示した。
【0058】
9.形質転換イネの耐冷性試験
以下に、低温冠水条件下における発芽性試験と、低温冠水条件下における伸長性試験について記載する。これらの試験に供試した種子は、共通して次のような処理を行っている。対照として用いる非形質転換ササニシキおよび形質転換イネの自殖後代の種子 (T1) を、閉鎖系温室内において同一条件下で栽培し、自殖種子を得た。収穫した種子を温室内で3週間自然乾燥を行い、その後50℃3日間処理によって休眠打破を行った。試験供試前の種子消毒として、スポルタック乳剤(日産化学工業 (株) )100倍液10分間浸漬処理を行った。
【0059】
▲1▼低温冠水条件下における発芽性試験
対照として非形質転換ササニシキを用い、形質転換イネは系統番号1, 6, 16を用いた。なお、参考として低温発芽性の優れる水稲品種 Dunghan Shaliも用いた。深さ20mm、直径9cmのシャーレに、100粒の上記消毒後の種子を置床し、10mmの冠水となるようにDWを加え、13℃で培養して継時的に発芽率を調査した。試験規模は、非形質転換ササニシキおよび ダンガンシャリ(Dunghan Shali) については3反復、形質転換イネについては種子量の都合上、各系統番号の種子をそれぞれ1反復とり、形質転換イネとして3反復とした。この結果を図9および図10に示す。
【0060】
図9には、置床後の発芽率の推移を示し、図10には、この発芽率の推移を基に算出した発芽率50%到達日数を示した。この結果より、低温冠水条件下における形質転換イネの発芽は、Dunghan Shali には及ばないものの、明らかに非形質転換イネより早まることが確認できた。このことは、GST 遺伝子をイネに導入することにより、低温発芽性が向上することを証明するものである。
【0061】
▲2▼低温冠水条件下における伸長性試験
低温冠水条件下における発芽性試験と同様、対照として非形質転換ササニシキ、参考として低温伸長性の優れる水稲品種 Dunghan Shali、形質転換イネは系統番号1, 6, 16を用いた。これらについて、前述の通り種子消毒を行い、続いて30℃で出芽長3mmとなるように揃えた。3mmに出芽長の揃った種子25粒を、0.6%寒天培地に深さ5mmとなるように置床し、さらに寒天培地表面から10mmの冠水となるように DW を加え、15℃全日照明下で培養した。培養開始から13日目の葉身長と根長について図11に示す。
【0062】
図11より、形質転換イネの低温冠水条件下における葉身は、供試した3系統とも、Dunghan Shali には及ばないものの、非形質転換イネより明らかに伸長したことが確認できた。また、根についても、系統番号 1を除いて明らかな伸長が認められた。なお、根については、低温伸長性の優れる Dunghan Shaliにおいても、非形質転換ササニシキと同程度しか伸長しておらず、反面、形質転換イネは伸長が認められるという点は特筆すべき事実である。以上の結果は、GST 遺伝子をイネに導入することにより、出芽後の葉身ならびに根の低温伸長性が向上することを証明するものである。
【0063】
以上、耐冷性に関する試験結果は、GST 遺伝子をイネに導入することにより、特に困難とされる寒冷地での銘柄水稲の直播栽培を可能とする技術となることは確実であり、また、直播栽培のみならず、水稲栽培における低温をはじめとした各種ストレスに対する抵抗性の向上が期待される。
【発明の効果】
本発明により、ストレス耐性に関与する GST遺伝子が単離され、この遺伝子を単子葉植物において過剰発現させることによりイネ等の単子葉植物に各種ストレス耐性を付与することができた。
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【配列表】
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【図面の簡単な説明】
【図1】 GST遺伝子の読み取り可能枠の塩基配列(配列番号4)とコードするアミノ酸配列(配列番号5)
【図2】pS221sプラスミッドベクターの模式図
【図3】pS221s 29PSプラスミッドベクターの模式図
【図4】Sub29PSプラスミッドベクターの模式図
【図5】pEKH-Sub29PSバイナリーベクターの模式図
【図6】遺伝子導入当代における導入遺伝子の確認(PCR法、系統番号1〜15)
【図7】遺伝子導入後代(T2)の葉身における転写産物発現量の解析(ノーザン解析)
【図8】遺伝子導入後代(T2)の葉身における GST活性
【図9】GST導入イネの13℃冠水条件下における発芽率の推移
【図10】GST 導入イネの13℃冠水条件下における発芽率50%到達日数
【図11】GST 導入イネの15℃冠水条件下における伸長性

Claims (5)

  1. 以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子を導入したイネの胚様体カルスを、固形培地上で培養し、植物体を再生させることを特徴とする、イネに低温ストレス耐性を付与する方法:
    (a)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるグルタチオンS-トランスフェラーゼタンパク質
    (b)配列番号5で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
  2. 前記遺伝子が、配列番号4で表される塩基配列からなる遺伝子である、請求項1に記載の方法。
  3. 低温ストレス耐性が、根の低温伸長性の向上を含む、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 再生させて得られた形質転換イネの耐冷性を試験することをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法によって得られる、以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子を導入した低温ストレス耐性が付与された形質転換イネ:
    (a)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるグルタチオンS-トランスフェラーゼタンパク質
    (b)配列番号5で表されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
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