(参考実施形態1)
本発明の参考となる参考実施形態1を図面を参照して説明する。本参考実施形態1は本発明をポンプレスABS装置に適用した電動ブレーキ装置であり、特に、マスタシリンダ(以下、M/Cという)をモータによりストロークさせると共に、そのストローク長さを通常用いるM/Cよりも長いものとした点に特徴がある。図1にその全体構成を示す。
図1に示すように、本参考実施形態1の電動ブレーキ装置には、運転者の制動要求に応じて操作されるブレーキペダル1、ストロークシミュレータ2、ペダル操作量(踏力、ストローク)センサ3が備えられている。ストロークシミュレータ2は、ブレーキペダル1によって踏み込まれるピストン2a、ピストン2aが摺動するシリンダ2b、およびシリンダ2b内に配置されたスプリング2cを備えた構成となっている。そして、ブレーキペダル1とピストン2aとが接続されており、ブレーキペダル1が踏み込まれると、スプリング2cからのバネ力によってペダル操作量に応じた反力とストロークがブレーキペダル1に加えられるようになっている。また、ストロークシミュレータ2にはペダル操作量検出手段としてのペダル操作量センサ3も備えられている。このペダル操作量センサ3によってペダル操作量、例えばペダル踏力をスプリング2cの反力に応じて検出できるようになっている。以下、ペダル操作量センサを単に踏力センサという。
また、電動ブレーキ装置には、ブレーキペダル1とは分離された構成として、M/C40、アクチュエータとしてのモータ5及びギア機構6、ABSアクチュエータ71、各車輪に対応したホイールシリンダ(以下、W/Cという)8a〜8dが備えられている。
M/C40は、マスタピストン40aによってプライマリ室40bとセカンダリ室40cとに分割され、プライマリ室40bが第1配管系統、セカンダリ室40cが第2配管系統に接続された構成となっている。第1および第2配管系統はそれぞれ、左前輪(W/C8a)および右後輪(W/C8b)と左後輪(W/C8c)および右前輪(W/C8d)とに分配接続されている。なお、各車輪の組み合わせは、前2輪および後2輪であってもよい。
この各部屋40b、40cは共に、通常用いられるM/Cよりも長く、すなわち、M/C40のストローク量をブレーキペダル1の踏み込み量に応じたストロークシミュレータ2のピストン2aのストローク量よりも長くすることにより、M/C40の圧力室の容量が大きくなっており、後述するように、ホイールシリンダ圧の減圧が継続しABS制御が長時間にわたるような場合でも、M/Cストロークに余裕を持たせボトミングが発生しないようにして、ABS動作の継続を可能にしたものである。
そして、ピストンロッド40dの軸方向への移動に伴ってマスタピストン40aを移動させ、各部屋40b、40cのブレーキ液圧(以下、M/C圧という)を増加させて、各W/Cのブレーキ液圧(以下、W/C圧という)を増加させるようになっている。また、M/C40にはマスタリザーバ4eが備えられており、各部屋40b、40cのそれぞれがマスタリザーバ4eに接続された構成となっている。
M/Cのアクチュエータとしてのモータ5は、後述するECU10によりペダル操作量センサ3からの踏力検出値に基づいて演算される目標制動力に応じた踏力指示電流値によって回転駆動力(出力)を発生する。ギア機構6は、ボールネジやラックアンドピニオンなどで構成されており、モータ5での回転駆動力を直線運動に変換する。このギア機構6によって、上述したピストンロッド40dが駆動されるようになっており、モータ5の回転駆動力がギア機構6によって直線運動に変換されると、その変換後の力に応じてピストンロッド40dが駆動されるようになっている。すなわち、モータ5の回転駆動力に応じたM/C圧を発生させ、そのM/C圧に応じたW/C圧を発生させるようになっている。なお、ギア機構6には、モータ必要トルクと必要軸力を調整するために、減速、増速ギアが備えられても良い。
ABSアクチュエータ71は、各車輪毎に増圧弁73a〜73dおよび減圧弁74a〜74dと、第1および第2配管系統それぞれにリザーバ751a、751bおよび逆止弁76a,76bを備えた、通常のABSアクチュエータである。以下、第1配管系統の左前輪について説明する。なお、他の車輪、すなわち第1配管系統の右後輪、第2配管系統の右前輪および左後輪についても同様の動作が行われるので、それらについての説明は省略する。
M/C40のプライマリ室40bとW/C8aとの間に、ECU10により非導通時に連通状態、導通時に遮断状態に制御される2位置弁としての増圧弁73aが接続され、M/C40の発生したブレーキ液圧が増圧弁73aの連通状態においてW/C8aに発生するようになっている。そして、増圧弁73aのW/C8a側(下流側)には、ECU10により非導通時に遮断状態、導通時に連通状態に制御される2位置弁としての減圧弁74aと、減圧弁74aの下流側(W/C8aとは反対側)にはリザーバ751aが接続されている。減圧弁74aは、ABS制御中の減圧タイミング時に連通状態にされてW/C8a内のブレーキ液をリザーバ751aに逃がし、W/C圧の減圧を行うように作動する。なお。リザーバ751aの容量は、通常のABSアクチュエータに用いられるリザーバ容量よりも大きく、M/C40の容量相当、より詳しくは、プライマリ室40bの容量から、W/C8aおよび8bの容量を含む第1配管系統の容量を差し引いた容量を備えている。
さらに、増圧弁73aのM/C40側(上流側)と、リザーバ751aとの間が逆止弁76aによって接続されている。ブレーキ動作中のM/C圧の増圧過程では逆止弁76aによりブレーキ液がリザーバ751aに送られることはなく、ブレーキ動作が終了しピストンロッド40d(すなわち、マスタピストン40a)がモータ5により戻されてプライマリ室40bの容積が大きくなると、リザーバ751aに貯溜されたブレーキ液が、逆止弁76aを介して吸い出されてプライマリ室40bに戻り、次のM/C圧の増圧に備えるようになっている。
他の増圧弁73b〜73d、及び減圧弁74b〜74dは、上述した増圧弁73aおよび減圧弁74aと同じ構成で同じ動作を行い、第2配管系統のリザーバ751bおよび逆止弁76bも上述したリザーバ751aおよび逆止弁76aと同じ構成で同じ動作を行う。なお、増圧弁73a〜d、および減圧弁74a〜dは、ECU10により、それぞれデューティー比制御され、発生圧がリニアに制御される。
さらに、本参考実施形態1の電動ブレーキ装置には、モータ5及びABSアクチュエータ71を駆動するためのECU10が備えられている。このECU10には、踏力センサ3からの検出信号に加え、各車輪毎に備えられた車輪速度センサ11a〜11dからの車輪速度信号、その他の各種センサからの信号が入力されるようになっている。そして、ECU10は、入力された各信号に基づいて各種演算を行ない、この演算によって求められた指令値をモータ5及びABSアクチュエータ71への駆動信号として出力するようになっている。
次に、上記のように構成されたブレーキ装置の作動を、図2のタイムチャートを参照して説明する。
まず、乗員がブレーキペダル1を踏み込むと、ECU10が踏力センサ3の出力信号であるぺダル踏力に応じて、予め設定されているマップより車輪が発生すべき目標制動力を読み出し、この目標制動力よりモータ駆動信号がモータ5に与えられる。モータ5の駆動によりピストンロッド40dにペダルの踏力に比例したストロークを発生させる。このストロークと共にプライマリ室40aおよびセカンダリ室40bの圧力、すなわちM/C圧が増大し、減圧弁74a〜dが非導通、すなわち遮断状態に置かれた状態で、非通電、すなわち連通状態の増圧弁73a〜dを介してW/C圧が増大し、各車輪に制動力が発生して車両速度が減少する。
ECU10は、各車輪速度センサ11a〜dからの車輪速度信号に基づき車両のスリップ率(=スリップ速度/車体速度=(車体速度−車輪速度)/車体速度)を演算しており、このスリップ率が予め設定された目標スリップ率を越えている場合にABS制御が開始される。
ABS制御は、(A)減圧モード、(B)増圧コントロールモード、(C)パルス増圧・保持モードを1周期として繰り返される。図2には、ABS制御が行われる期間、および、各モードA、B、Cの期間がそれぞれ示されている。
(A)減圧モードは、上記演算されたスリップ率が目標スリップ率を例えば15%上回った時点で車輪がロック状態になったとして、増圧弁73aを遮断状態(閉)、減圧弁74aを連通状態(開)とすることにより実行され、減圧により車輪速度が増加し始めた時点で減圧弁74aを遮断状態(閉)とし減圧モードを終了する。なお、ブレーキ動作開始後の初回の減圧モードは、さらにスリップ速度が所定値を越えた場合に実行されるという条件も付け加えられる。これにより、走行状態の瞬間的な変化に対して不必要なABS制御に入らないようにしている。
(B)増圧コントロールモードは、上記減圧モード終了と同時に開始する。すなわち、減圧モード終了時に、減圧弁74aが非導通となり遮断されると、増圧弁73aは同時に遮断状態から連通状態へ変わり、短時間の連通と遮断を繰り返すことにより、W/C圧が増加し、車輪速度をロック状態から増加させる。図2おいては、増圧弁の連通/遮断の繰り返しを簡略化して表わしている。
この時、ECU10により車輪速度センサ11aの出力信号の微分値として加速度(速度増加率)が演算される。この加速度は増圧コントロールモード中に車輪速度の増加と共に、小→大→小へと変化する。ECU10により、車輪加速度が小さくなった、あるいは増加率が0となった時点で、増圧コントロールモードを終了し次のパルス増圧・保持モードに移行する。
(C)パルス増圧・保持モードは、減圧弁74aが非導通状態である遮断状態に保たれたまま、増圧弁73aにパルス通電し、W/C8aのW/C圧を、導通時に増圧、非導通時に保持することを繰り返すものである。その間、W/C圧は、段階的に増加し、M/C圧へと近づいていく。W/C圧の増加に伴い制動力が増加することにより、車輪速度が減少し、さらにスリップ率が増加して上記目標スリップ率を15%上回ると、増圧弁73aを遮断状態とし、減圧弁74aを連通状態にすることにより、再び上述のような減圧モードが開始される。
以下、減圧(A)、増圧コントロール(B)、パルス増圧・保持(C)の一連の動作モードが繰り返されることにより、ABS制御が継続する。
ところで、この間、M/Cストロークは、減圧モードでは増圧弁73aが遮断状態であるためストロークは変化せず、増圧コントロールモードおよびパルス増圧中において増圧弁73aが連通状態となるときに、それに応じてストロークが増加する。すなわち、ABS制御中は、M/Cストロークは増加することはあっても、減少することはない。したがって、図2中SLで示されるように、M/C40の最大ストロークが短いと、ブレーキペダル1を踏みつづけていても、ストローク代が0となればその時点でボトミング状態となり、W/C圧の減圧および増圧ができなくなる、すなわちABS制御が不能となる。
しかし、本参考実施形態1では、M/C40のストロークを通常用いるものよりも長いもの(図2中、LLで示される)を用いることにより、M/Cストローク限界を上昇させることができ、ABS制御が長時間継続するような場合でも、M/Cストロークにボトミングが発生せず、制御不能になることを防止できる。なお、M/C40は、ブレーキペダル1の踏み込みで直接ストロークされるのではなく、踏力センサ3の信号に基づき制御されるモータ5によりストロークされるので、M/Cストロークを確保するためにブレーキペダル1自体のストロークを長くする必要がない。
さらにリザーバ容量が小さいと、図2中RLで示すように、早めに減圧ブレーキ液を貯溜できなくなり、それ以上W/C圧の減圧ができない、すなわちABS制御不能となる。これに対して、本参考実施形態1では、リザーバ751a、751bをM/C40の各室40b、40cの容積に応じて容量を増加させたものを用いているので、ABS制御の継続中に繰り返し行われるW/C圧の減圧により吸い出されるブレーキ液を十分貯溜することができ、ABS制御を不能に陥らせることなく長時間継続させることができる。
(参考実施形態2)
次に、本発明の参考となる参考実施形態2について、図面を参照して説明する。本参考実施形態2は本発明をポンプレスABS装置に適用した電動ブレーキ装置であり、特に、W/C圧を減圧する際のブレーキ液を、M/Cに接続されているマスタリザーバへ直接戻すオープン回路を用いている点に特徴がある。図3にその全体構成を示す。なお、上記参考実施形態1と同じ構成には同一符号を付して、説明を省略する。また、同一符号を付された構成部分であっても、動作が若干異なる場合はその旨説明する。
図3に示すように、本参考実施形態2の電動ブレーキ装置は、上記参考実施形態1と同様、ブレーキペダル1、ストロークシミュレータ2、踏力センサ3、モータ5及びギア機構6を備えている。
M/C4は、通常のストローク長を備えたもので、したがって上記参考実施形態1のM/C40よりもストローク長は短いものでよい。プライマリ室4bおよびセカンダリ室4cに接続され大気圧におかれたマスタリザーバ4eには、後述するように、各W/C8a〜8dから減圧に伴い排出されるブレーキ液が直接戻るオープン回路を構成するように配管されている。
ABSアクチュエータ72は、上記参考実施形態1と同一構成で同様に配管接続された増圧弁73a〜73dと、参考実施形態1と同一構成で、下流側を上記マスタリザーバ4eへ接続した減圧弁74a〜74dとを有している。
W/C8a〜8dおよび車輪速度センサ11a〜11dは上記参考実施形態1と同一構成である。
ECU10は、ABSアクチュエータ72が参考実施形態1と若干異なっているが、制御ロジックは上記参考実施形態1と同じである。すなわち、ABS制御が開始されると、(A)減圧モード、(B)増圧コントロールモード、(C)パルス増圧・保持モードを、スリップ速度および車輪速度の変化率(加速度)に基づいて繰り返す。上記参考実施形態1と異なる点は、W/C圧の減圧時、W/C8aからのブレーキ液の戻り先は、ABSアクチュエータ内に設けたリザーバではなく、マスタリザーバ4eであることである。すなわち、増圧弁73aを遮断状態のまま減圧弁74aを連通状態とすることにより、大気圧より高い圧力のW/C8aから大気圧におかれたマスタリザーバ4eへブレーキ液を戻すことができ、このオープン回路により、ポンプレスABS制御装置を実現している。
図4は、本参考実施形態2の動作を示すタイムチャートであり、上記参考実施形態1のタイムチャート(図2)と同じ制御ロジックに基づき同様の動作状態となることを示している。ただし、図4ではM/C4のストローク限界までW/C圧を加圧でき、ストローク限界に達した後はW/C圧は変化しない様子が示されている。
以上より、参考実施形態2においても、M/C4はブレーキペダル1の踏み込みで直接ストロークされるのではなく、踏力センサ3の信号に基づき制御されるモータ5によりストロークされるので、M/Cストロークを確保するためにブレーキペダル1自体のストロークを長くする必要がない。
また、本参考実施形態2ではオープン回路を用いているためW/C圧の減圧時の液溜量に制限はないので、ABS制御が長時間続いても、その間、W/C圧の減圧不能に陥ることがなため、車輪ロックを防止することができる。
(参考実施形態3)
次に、本発明の参考となる参考実施形態3について、図面を参照して説明する。本参考実施形態3は本発明をポンプレスABS装置に適用した電動ブレーキ装置であり、特に、参考実施形態1とは、(C)パルス増圧・保持モードにおいて、M/Cストロークを短時間戻すことにより、ブレーキ液をM/Cに戻す油量補償制御を行う点が異なっている。図5にその全体構成を示す。なお、上記参考実施形態1および参考実施形態2と同じ構成には同一符号を付して、説明を省略する。また、同一符号を付された構成部分であっても、動作が若干異なる場合はその旨説明する。
図5に示すように、本参考実施形態3の電動ブレーキ装置は、上記参考実施形態1と同様、ブレーキペダル1、ストロークシミュレータ2、踏力センサ3、モータ5及びギア機構6を備えている。
M/C4は、上記参考実施形態2と同様、通常のストローク長を備えたもので、したがって上記参考実施形態1のM/C40よりもストローク長は短いものでよい。プライマリ室4bおよびセカンダリ室4cの配管系統は、上記参考実施形態1と同一である。
ABSアクチュエータ71は、上記参考実施形態1と同一構成であるが、リザーバ75aおよび75bは、上記M/C4の容積に応じて同様に通常の容量を有するものでよい。
W/C8a〜8dおよび車輪速度センサ11a〜11dは上記参考実施形態1、2と同一構成である。
本参考実施形態3におけるECU10による制御ロジックは、上記参考実施形態1、2とは、基本となるABS制御ロジックである(A)減圧モード、(B)増圧コントロールモード、(C)パルス増圧・保持モードを繰り返す点は同じであるが、パルス増圧・保持モード中にM/Cストロークを短時間戻す油量補償制御を行う点で異なっている。以下、図6のフローチャートを参照して説明する。
車両のイグニッションオンとともに、ECU10により本フローチャートの処理が始められ、所定の演算周期(たとえば、10〜20ms)で以下のルーチンが繰り返される。
ステップS100で、現在ABS制御中か否かを判定する。これは、上記参考実施形態1、2と同様、ECU10が演算するスリップ率が予め設定されている目標スリップ率を上回っている場合をABS制御中と判定するものである。NOの場合はステップS190へ移行し、YESの場合はステップS110へ移行する。
ステップS110では4輪ともパルス増圧・保持モードであるか否かを判定する。この判定は、増圧コントロールモードが終了した後、スリップ率が目標スリップ率に達していない状態か否かを判定することにより行われる。NOであれば、ステップS190へ移行し、YESならばステップS120へ移行する。
ステップS120では、増圧コントロールモードであるか否かを判定する。この判定は、各車輪速度の増加率、すなわち車輪加速度が所定値以上であるか否かにより判定される。YESの場合は、増圧コントロールモードであり油量補償制御を行わないのでステップS190へ移行し、NOの場合にステップS130へ移行する。このステップにより、増圧コントロール中にM/Cストローク戻しによるM/C圧の減圧が発生して、W/C圧が増圧できなくなることを防止することができる。
ステップS130では、前回の油量補償制御の実行からの終了経過時間kが所定値T1を上回ったか否かを判定する。この所定時間T1は、ABS制御中に前回の油量補償制御が終了した後、少なくともパルス増圧・保持モードおよび減圧モードが実行された後に、次の油量補償制御を開始できるよう、W/C圧の減圧によりW/C8aやリザーバ75aに貯溜されるブレーキ液量も考慮して、予め設定されるものであり、この時間設定により、制動力を回復させるパルス増圧・保持モード中で、かつ、リザーバ等の貯溜量に余裕がなくなる前に油量補償制御を行うことができる。このステップS130での判定の結果、NO、すなわちk≦T1の場合はステップS190へ移行し、YES、すなわちk>T1の場合はステップS140へ移行する。
ステップS140では、油量補償制御の実行として、油量補償制御の実行時間tをインクリメントする。次にステップS150で、補償制御実行時間としての経過時間tが所定値T2を上回ったか否かを判定し、NO、すなわちt≧T2ならば油量補償制御が終了したものとしてステップS190へ移行し、YES、すなわちt<T2ならばステップS160へ移行して油量補償制御を継続する。
ステップS160で、4輪の増圧弁73a〜73dを遮断状態、すなわち保持状態に固定し、ステップS170でモータ5の電流指示値を−I2とする。この指示値I2は、例えば10〔A〕程度とすれば、モータ5を−10〔A〕の電流で逆回転させてM/Cストロークを戻すことにより、リザーバ75aおよび75bよりそれぞれ減圧モード中に貯溜されたブレーキ液を、逆止弁76aおよび76bを介してプライマリ室4bおよびセカンダリ室4cへ戻すことができる。
ステップS180で油量補償制御の終了経過時間kを0にリセットし、ステップS100以降の処理を繰り返す。
一方、W/C圧の増圧中に実行されるステップS190では、油量補償制御の終了経過時間kをインクリメントし、ステップS200で4輪の増圧弁73a〜73dにおいて、保持固定されている状態を解除、すなわち連通−遮断自在とする。ステップS210で、モータ5の電流指示値を踏力検出値に応じて決定された踏力指示電流値I1に設定し、ステップS220で油量補償制御の実行時間tを0にリセットし、ステップS100以降の処理を繰り返す。
以上の処理により実行される本参考実施形態3の動作経過を図7のタイムチャートに基づき説明する。なお、図7中、ABS制御中の各モードをA、B、Cと表わすとともに、油量補償制御期間をDと表わしている。
ブレーキペダル1が踏み込まれる前は、増圧弁73a〜dは連通状態、減圧弁74a〜dは遮断状態になっており、油量補償制御終了経過時間kはステップS190以降の処理により順次インクリメントされて、油量補償制御が始まらない限りT1を越えても値が増加し続ける。ブレーキペダル1が踏み込まれて、踏力検出値に応じた踏力指示電流値によりモータ5が駆動されM/C4がストロークしM/C圧が上昇する。
M/C圧の増加に応じて各輪のW/C圧も増加し車輪に制動力が発生し、車輪速度の減少、スリップ率の上昇によりABS制御が開始される。ABS制御の開始とともに、上述した(A)減圧モード、(B)増圧コントロールモード、(C)パルス増圧・保持モードと推移する。このパルス増圧・保持モード中に、終了経過時間kが所定値T1を越えていれば、油量補償制御を開始する。なお、図7の例ではABS制御が始まって最初の油量補償制御は、増圧コントロールモードが終了した時点で時間カウンタkはT1を大きく越えているので、制御タイミングに応じて図上では若干の遅れがあるが直ちに油量補償制御が開始され、2回目以降では、時間カウンタkがT1に達した時点で油量補償制御が開始されていることを示している。
油量補償制御が開始されると、モータ5には逆回転のための電流値である逆回転指令値I2(=−10A)が補償実行時間t=T2の期間、与えられる。これにより、M/Cストロークが戻り、すなわちM/Cストローク量が小さくなり、M/C圧が若干の時間遅れをもって短時間減少する。
このM/Cストロークの戻りにより、リザーバ75a、75bより、減圧モード中に貯溜されたブレーキ液をそれぞれ逆止弁76a、76bを介してM/C4のプライマリ室4bおよびセカンダリ室4cへ還流させて、各部屋の油量を補充させることができる。
時間カウンタtがT2を越えると油量補償制御は終了となり、モータ電流値は踏力に応じた踏力指示電流値に切り替えられ、ブレーキペダル1は踏み込まれたまま、すなわち踏力は最大値であるので、油量補償制御の開始前の電流値I1に戻ってモータ5を駆動する。これによりM/Cストローク量が増加する方向にピストンロッド4dを押してM/C圧を発生させる。
油量補償制御の終了とともに、補償終了時間kのカウンタ値を1へインクリメントし(S190)、補償実行時間tのカウンタ値を0にリセットする(S220)。その後は、ステップS190以下のルーチンが繰り返され、時間カウンタ値kがT1を越えた時点で次の油量補償制御を行う。
このように、本参考実施形態3は、ABS制御中に、制動(W/C圧増加)→スリップ率増加→減圧モード(A)→増圧コントロールモード(B)→パルス増圧・保持モード(C)→油量補償制御(D)→パルス増圧・保持モード(C)→スリップ率増加→減圧モード(A)→・・・と繰り返され、ABS制御が長時間継続する場合でも、M/Cストロークが短時間戻されることにより、W/C圧の減圧によるリザーバ75a、bの貯溜量が容量限界に達することを防止して、ABS制御不能になることを回避することができる。
その間、電動ブレーキシステムによりブレーキペダル1の踏み込みとM/C4のストロークとは切り離されているので、乗員が車輪に制動力を発生させ続けようとブレーキペダル1を踏み込んだままであっても、M/Cストロークを適宜戻して、リザーバ75a、bからM/C4へブレーキ液を戻すことにより、ABS制御を継続させることができる。
(参考実施形態4)
次に、本発明の参考となる参考実施形態4について、図面を参照して説明する。本参考実施形態4は本発明をポンプレスABS装置に適用した電動ブレーキ装置であり、特に、参考実施形態2とは、パルス増圧・保持モードにおいて、M/Cストロークを短時間戻し、これによりブレーキ液をM/Cに戻すことにより補充する油量補償制御を行う点が異なっている。また、上記参考実施形態3とは、油量補償制御の制御ロジックは同じである。
したがって、参考実施形態2とは制御ロジックのみ異なっており、全体構成は上述した図3と同じであるので、参考実施形態2と同じ構成には同一符号を付して、説明を省略する。
本参考実施形態4は、図3に示されるように、上記参考実施形態2と同様、ブレーキペダル1、ストロークシミュレータ2、踏力センサ3、M/C4、モータ5、ギア機構6、ABSアクチュエータ72、W/C8a〜8d、ECU10および車輪速度センサ11a〜11dを備えている。ただし、ECU10が参考実施形態3と同様の油量補償制御を行う点が、上記参考実施形態2と異なっている。なお、ABS制御動作は上述の参考実施形態1〜3と同じであるので説明を省略する。
次に、本参考実施形態4の動作について、上記参考実施形態3と異なる点を中心に、図6のフローチャートおよび図7のタイムチャートを参照して説明する。
本参考実施形態4におけるABS制御の制御ロジックは上記実施形態と同様であるので説明を省略する。W/C圧の減圧は、参考実施形態2と同様に、減圧弁74aを連通状態にして、ブレーキ液がマスタリザーバ4eに戻ることにより行われる。
油量補償制御(D)は、参考実施形態3と同様、図6に示したフローチャートにより処理が行われ、パルス増圧・保持モード(C)中に、4つの増圧弁43a〜dを保持状態(閉)として、所定時間T2の間モータ5を逆回転させてM/Cストローク量を小さくすることにより行われる。ただし、上記参考実施形態3と異なる点は、油量補償制御によりM/Cストローク量が小さくなったときに、M/C4のプライマリ室4bおよびセカンダリ室4cへのブレーキ液の補充は、マスタリザーバ4eより行われることである。
油量補償制御(D)が終了し、モータ5が踏力指示電流値によりM/Cストローク量が増加する方向にピストンロッド4dを押して、M/C圧を発生させる。
このように、本参考実施形態4は、ABS制御中に、制動(W/C圧増加)→スリップ率増加→減圧モード(A)→増圧コントロールモード(B)→パルス増圧・保持モード(C)→油量補償制御(D)→パルス増圧・保持モード(C)→スリップ率増加→減圧モード(A)→・・・と繰り返され、ABS制御が長時間継続する場合でも、M/Cストロークが短時間戻されることにより、M/C4のボトミングの発生を防止して、ABS制御不能になることを回避することができる。
また、本参考実施形態4は、W/C圧の減圧によるブレーキ液は大気圧であるマスタリザーバ4eへ還流する、いわゆるオープン回路であるので、減圧する上での制限はなく、ABS制御が長時間にわたって行われても、W/C圧の減圧不能によるABS制御不能となることを防止することができる。
その間、電動ブレーキシステムによりブレーキペダル1の踏み込みとM/C4のストロークとは切り離されているので、乗員が車輪に制動力を発生させ続けようとブレーキペダル1を踏み込んだままであっても、M/Cストロークを適宜戻して、ABS制御を継続させることができる。
(参考実施形態5)
次に、本発明の参考となる参考実施形態5について、図面を参照して説明する。本参考実施形態5は本発明をポンプレスABS装置に適用した電動ブレーキ装置であり、特に、参考実施形態3とは、油量補償制御におけるM/Cストローク戻しの実行期間T2およびモータ電流指示値I2を、M/Cストロークの大きさに応じて可変制御する点が異なっている。したがって、全体構成は上記参考実施形態3の図5と同じであり、説明を省略する。
本参考実施形態5では、制動中のM/CストロークLが所定値以上になった場合に、その大きさに応じてM/Cストロークの戻し量(モータ電流I2に相当)と戻し時間(T2に相当)とを決定し、油量補償制御を行うものである。
まず、制動中のM/Cストローク量Lを演算により推定する原理について説明する。
すなわち、モータ5の電流値I1に基づき得られるモータ推力よりM/Cの出力油圧を推定し、この推定油圧と実際のM/C圧Pとの差より算出されるM/Cピストン4aの加速度よりM/Cストロークを算出する。
これは、M/Cピストン4aに関する数式1の運動方程式により表わされる。
(数1)
〔(I1×K−M)−(J+j)×α/R〕×η/R−(P×A+f)
=mp×α
ただし、
(数2)
I1:モータ電流値(変数)
K:モータトルク定数
J:モータ慣性モーメント(定数)
M:モータ摩擦トルク(定数)
R:減速比=ピストンストローク/モータ回転角(定数)
η:減速機効率(定数)
j:減速機慣性モーメント(定数)
P:M/C出力液圧(変数)
A:M/Cシリンダ断面積(定数)
mp:M/Cピストン質量(定数)
f:M/Cピストン摩擦抵抗+M/Cリターンスプリング戻し力(定数)
α:M/Cピストンの加速度である。したがって、数式1の左辺はモータの出力推力と実際のM/Cの出力油圧との差となる。
モータ電流I1およびM/C出力液圧Pを検出し、数式1より加速度αを算出する。この加速度αを時間τ=0でストロークL=0の初期条件のもと、下記の数式3のように時間に関する2回積分を行うことにより、ブレーキ作動中のM/CピストンのストロークLを算出することができる。
(数3)
L=∫∫αdτ (ただし、ペダル踏み始めをτ=0、L=0とする)
なお、実際のM/C出力液圧Pは、踏力センサ3の踏力検出値に応じて決まる踏力指示電流値によるモータ5の駆動により発生したものであるので、踏力検出値から算出することができる。また、図示しない圧力センサによりM/C4のプライマリ室4bやセカンダリ室4cの出力圧を直接検出することにより、M/C圧Pとして用いてもよい。
次に、ECU10が実行する制御フローについて、図8を参照して説明する。
本制御フローは、イグニッションオンとともに開始され、所定の演算周期(10〜20ms)で繰り返し実行される。まず、ステップS300で制動中か否かを判定する。これは、踏力センサ3からの信号により判定される。NOの場合はステップS460でL=0とし、ステップS300に戻る。YESの場合は、ステップS310へ移行する。
ステップS310で、現在ABS制御中か否かを判定する。これは、上記参考実施形態1〜4と同様、ECU10が演算するスリップ率が予め設定されている目標スリップ率を上回っている場合をABS制御中と判定するものである。NOの場合はステップS400へ移行し、YESの場合はステップS320へ移行する。
ステップS320では4輪ともパルス増圧・保持モードであるか否かを判定する。この判定は、増圧コントロールモードが終了した後、スリップ率が目標スリップ率に達していない状態か否かを判定することにより行われる。NOであれば、ステップS400へ移行し、YESならばステップS330へ移行する。
ステップS330では、増圧コントロールモードであるか否かを判定する。この判定は、各車輪速度の増加率、すなわち車輪加速度が所定値以上であるか否かにより判定される。YESの場合は、増圧コントロールモード中であり油量補償制御を行わないのでステップS400へ移行し、NOの場合にステップS340へ移行する。このステップにより、増圧コントロールモード中にM/Cストローク戻しによるM/C圧の減圧が発生して、W/C圧が増圧できなくなることを防止することができる。
ステップS340で油量補償制御の実行時間tが0、すなわちリセットされているかを判定し、NOの場合はステップS360へ移行し、YESの場合はステップS350へ移行する。
ステップS350では、数式3により演算されたM/CストロークLが閾値KLを越えているかを判定する。この閾値KLは、例えば、M/Cのストローク限界(最大ストローク量)の60%に相当する量として予め設定することができる。判定の結果、NOの場合は油量補償制御が不要であるのでステップS400へ移行し、YESの場合は油量補償制御を行うためステップS360へ移行する。
ステップS400では、M/CストロークLに対して、予め設定されたマップより、油量補償制御の実行時間T2と油量補償制御時のストローク戻しのためのモータ電流I2とを読み出し、一時記憶しておく。これにより、演算周期毎にこれらのメモリ値を更新しておく。
次のステップS410では、油量補償制御を行わないので4輪の増圧弁73a〜dの保持、すなわち遮断状態の固定を解除し、ステップS420でモータ5の電流指示値を、踏力センサ3からの踏力検出値に基づきECU10により算出された踏力指示電流値I1に設定する。これにより、モータ5が駆動されM/Cピストン4aがストロークして踏力に応じたM/C圧が発生する。そして、ステップS430で、補償制御実行時間tをリセットしておく。
一方、ステップS360では、油量補償制御が行われるので補償制御実行時間tをインクリメントし、ステップS370で補償制御実行時間tが所定時間T2より小さいか否かを判定する。この所定時間T2は直前にステップS400で演算、記憶された値を用いる。判定の結果、NOすなわちt≧T2の場合はステップS410へ移行し通常のABS制御を実行する。YESすなわちt<T2の場合は油量補償制御を継続し、ステップS380へ移行する。
ステップS380では、4輪の増圧弁73a〜dを遮断状態、すなわち保持状態に固定し、ステップS390でモータ5の電流指示値を−I2とする。この指示値I2は、直前にステップS400で演算、記憶された値を用いる。これによりモータ5を−I2〔A〕の電流で逆回転させてM/Cストロークを戻すことにより、リザーバ75aおよび75bよりそれぞれ貯溜されたブレーキ液を、逆止弁76aおよび76bを介してプライマリ室4bおよびセカンダリ室4cへ戻すことができる。
次にステップS440で、数式1の計算に必要な変数(モータ電流、M/C出力油圧)および定数(モータ・減速機定数、機械損失、M/C特性データ)を読み込み、ステップS450で、数式3によりM/CストロークLを演算し、またステップS300以降のルーチンを繰り返す。
以上の処理により、演算周期毎に、モータ5の推力と実際のM/Cの出力油圧との差よりM/C4の現時点のストローク長Lを推定するとともに、このストローク長に対して油量補償制御のためのモータの戻し電流とその期間を演算し、油量補償制御を行うことができる。
なお、上記参考実施形態5においては、M/C4のマスタピストン4aの現在のストローク量Lをモータ電流とM/C圧とにより推定演算したが、後述する図10と同様に、M/C4からギア機構6までの変位を測定することによりM/Cストロークを検出するストロークセンサ9を備えるようにし、このストロークセンサ9による検出値をECU10へ入力し、数式3の代わりに直接、ストローク量Lとして用いてもよい。
したがって、この場合の制御フローは、図8において、ステップS440およびS450を省略することができる。また、M/Cストローク量Lの精度向上、すなわち、油量補償制御の精度を高めることができる。
(参考実施形態6)
次に、本発明の参考となる参考実施形態6について、図面を参照して説明する。本参考実施形態6は、上記参考実施形態4と同様、本発明を、減圧弁からの減圧されたブレーキ液を大気圧に置かれたマスタリザーバへ直接戻すポンプレスABS装置に適用した電動ブレーキ装置であり、特に、参考実施形態4とは、油量補償制御におけるストローク戻しの実行時間T2およびモータ電流指示値I2を、減圧弁74a〜dの連通状態の情報より推定したABSによる消費油量、すなわち、W/C8a〜dから流出した油量に応じて可変制御する点が異なっている。したがって、全体構成は上記参考実施形態4(および参考実施形態2)の図3と同じであり、説明を省略する。
本参考実施形態6では、制動中に、車体減速度より推定した4輪の平均油圧と減圧弁の連通時間とよりW/Cから放出された消費油量(以下、消費油量、または、放出油量という)を演算し、その油量が所定値以上になった場合に、油量に応じてM/Cストロークの戻し量(モータの戻し電流)と戻し時間とを決定し、油量補償制御を行うものである。
まず、ABS制御中の消費油量の推定方法について説明する。
ABS制御の減圧中の、各輪についての数式4に示される運動方程式が成り立つ。
(数4)
G×W×S−K×PW=m×g
ただし、
(数5)
G:車体減速度(変数)
W:車体重量(定数または変数)
g:各輪の車輪加速度(変数)
S:各輪の制動力配分(たとえば、4輪とも等しく1/4)(定数)
K:各輪制動力係数(制動力/液圧)(定数)
PW:各輪W/C圧
m:車輪系の慣性質量
R:減圧弁の流速係数(流速/差圧)(定数)
T:減圧弁の開放(連通)時間(変数)である。車体減速度G、各輪の車輪加速度gを検出して上記運動方程式より、各輪のW/C圧PWを算出する。
次に、減圧弁の連通時間Tを積算して、この減圧弁の開放による放出流量Qを数式6により算出する。
(数6)
Q=RΣ(T×PW)
この放出された油量QをM/Cストロークを戻す油量補償制御により補償するという考え方より、戻しストローク量ΔLはAをM/Cのシリンダ断面積として、数式7により算出される。
(数7)
ΔL=Q/A
次に、ECU10が実行する制御フローについて、図9を参照して説明する。
本制御フローは、イグニッションオンとともに開始され、所定の演算周期で繰り返し実行される。まず、ステップS500で制動中か否かを判定する。これは、踏力センサ3からの信号により判定される。NOの場合はステップS710でQ=0とし、ステップS500に戻る。YESの場合は、ステップS510へ移行する。
ステップS510で、現在ABS制御中か否かを判定する。これは、上記参考実施形態1〜5と同様、ECU10が演算するスリップ率が予め設定されている目標スリップ率を上回っている場合をABS制御中と判定するものである。NOの場合はステップS680へ移行し、YESの場合はステップS520へ移行する。
ステップS520では、上記数式4および数式6の演算に必要な、車輪速度の読み込みおよび車体減速度の演算、および、数式4による4輪のW/C圧の平均値PWの演算を行う。次にステップS530で、各減圧弁74a〜74dの通電状態より現在減圧中か否かを判定する。YESの場合は、ステップS540で減圧弁74a〜74dの連通時間(減圧時間)Tをインクリメントし、NOの場合は、ステップS550へ移行する。
ステップS550では、これまでの減圧時間Tと4輪のW/C圧の平均値PWとにより、予め設定されたマップより、これまで放出により消費された消費油量qを読み出す。このマップは、数式6を演算する代わりにマップの形で予め記憶するものである。
次にステップS560で減圧時間Tを0にリセットし、ステップS570で消費油量の積算値Qを上記消費油量qで加算(Q=Q+q)した後、ステップS580で消費油量qをリセットする。
次にステップS590で、4輪ともパルス増圧・保持モードであるか否かを判定する。この判定は、増圧コントロールモードが終了した後、スリップ率が目標スリップ率に達していない状態か否かを判定することにより行われる。NOであれば、ステップS680へ移行し、YESならばステップS600へ移行する。
ステップS600では、増圧コントロールモードであるか否かを判定する。この判定は、各車輪速度の増加率、すなわち車輪加速度が所定値以上であるか否かにより判定される。YESの場合は、増圧コントロールモードであるのでステップS680へ移行し、NOの場合にステップS610へ移行する。このステップS600により、増圧コントロールモード中にM/Cストローク戻しによるM/C圧の減圧が発生して、W/C圧が増圧できなくなることを防止することができる。
ステップS610では、ステップS570で演算された積算消費油量Qが予め設定された閾値KQを越えているかを判定する。判定の結果、NOの場合は油量補償制御が不要であるのでステップS680へ移行し、YESの場合は油量補償制御を行うためステップS620へ移行する。
ステップS620では、積算消費油量Qに対して、予め設定されたマップより、油量補償制御の実行時間T2と油量補償制御時のストローク戻しのためのモータ電流I2とを読み出し、一時記憶しておく。ステップS630で油量補償制御の実行時間tをインクリメントし、ステップS640で実行時間tが上記ステップS620でマップより得られたT2より小さいか否かを判定する。判定の結果、NOすなわちt≧T2の場合はステップS650へ移行し、YESすなわちt<T2の場合は油量補償制御を継続し、ステップS660へ移行する。
ステップS660では、4輪の増圧弁73a〜dを遮断状態、すなわち保持状態に固定し、ステップS670でモータ5の電流指示値を、実行時間T2の期間、−I2とする。この指示値I2は、直前にステップS620で演算、記憶された値を用いる。これによりモータ5を−I2〔A〕の電流でT2の期間、逆回転させてM/Cストロークを戻すことにより、マスタリザーバ4eよりブレーキ液を、プライマリ室4bおよびセカンダリ室4cへ積算消費油量Q分補充することができる。
一方、補償制御実行時間tがT2を越えたときには、ステップS650で積算消費油量Qをリセットし、ステップS680へ移行する。
ステップS680〜S700では、油量補償制御を実行しないときのABS制御フローであり、上記各実施形態におけるステップS200〜S220(図6)と同様、ステップS680で4輪の増圧弁73a〜73dを保持固定されている状態を解除、すなわち連通−遮断自在とし、ステップS690でモータ5の電流指示値を踏力検出値に応じて決定された踏力指示電流値I1に設定し、ステップS700で油量補償制御の実行時間tを0にリセットし、ステップS500以降の処理を繰り返す。
以上の処理により、演算周期毎に、車輪速度センサ11a〜dの出力値より、車体減速度Gと車輪加速度gとを演算し、これらの演算値に基づき数式4より各輪の平均W/C圧PWを推定し、これと減圧時間とより減圧時に各輪のW/Cより放出され、消費されたブレーキ液の油量Qを演算する。そして、この消費油量Qが所定値KQを越えた場合に、消費油量に応じて決められたモータの戻し電流値I2および戻し時間T2によりモータ5を逆回転させてM/Cストロークを戻すことにより、M/Cのプライマリ室およびセカンダリ室に上記消費された油量をマスタリザーバより補償することができる。
(第1実施形態)
次に、本発明の第1実施形態について、図面を参照して説明する。本第1実施形態は本発明を適用した電動ブレーキ装置であり、特に、参考実施形態4とは、実際のM/Cストロークを検出し、検出値に応じてM/C内にエアが混入したと判定される場合に、上記参考実施形態4と同様の油量補償制御、すなわちM/Cストローク戻しを行って、M/C圧を増加させて、適正なW/C圧を得るようにした点が異なっている。
本第1実施形態は、図10に全体構成を示すように、上記参考実施形態2、4を示す図3とは、M/C4のストロークを検出するストロークセンサ9を備える点が異なっており、それ以外は同一構成に同一符号を付して説明を省略する。なお、本第1実施形態では、油量補償制御をABS制御とは無関係に行われるので、ABS制御に関する説明は省略する。
ストロークセンサ9は、M/C4からギア機構6までの変位を測定することによりM/Cストロークを検出し、その検出値をECU10へ入力している。
次に、本第1実施形態の油量補償制御におけるM/Cストローク戻しのフローチャートについて図11を参照して説明する。
車両のイグニッションオンとともに、ECU10により本フローチャートの処理が始められ、所定の演算周期(たとえば、10〜20ms)で以下のルーチンが繰り返される。
まず、ステップS800で、制動中か否かを判定する。これは、踏力センサ3からの信号により判定される。NOの場合はステップS890へ移行し、YESの場合は、ステップS810へ移行する。
ステップS810で、モータ5の実際の電流値を読み込んで、予めマップとして記憶されたこの電流値とストロークとの関係より、M/Cストロークの推定値LSを読み出す。
ステップS820で、ストロークセンサ9よりM/C4の実際のストローク長Lを入力し、ステップS830で、実ストローク長Lが推定値LSと閾値KSとの和よりも大きいか否かを判定する。この閾値KSは、ABSアクチュエータ72の配管中に混入したエアの量に応じて実際のストローク長Lと推定値LSとの差が大きくなって、W/C8a〜dにM/C圧が充分作用しなくなる状態に応じて決められ、予め設定されている。判定の結果、NOの場合実際のストローク長Lと推定値LSとの差は小さいため、通常の制動およびABS制御を行うためステップS890へ移行し、YESの場合、両者の差が閾値KSよりも大きくなったため、エアが混入したものとして、上記各参考実施形態と同様、油量補償制御、すなわち、モータ5を短時間逆回転させてM/Cストロークを戻すために、ステップS840へ移行する。
ステップS840では、油量補償制御が継続するので補償制御実行時間tをインクリメントする。
ステップS850〜S880は、上記参考実施形態3、4におけるステップS150〜ステップS180と同様、ステップS850で、補償制御実行時間tが所定値T2を上回ったか否かを判定し、NO、すなわちt≧T2ならば油量補償制御が終了したものとしてステップS890へ移行し、YES、すなわちt<T2ならばステップS860へ移行して油量補償制御を継続する。
ステップS860で、4輪の増圧弁73a〜73dを遮断状態、すなわち保持状態に固定し、ステップS870でモータ5の電流指示値を−I2とする。この指示値I2は、例えば10〔A〕程度とすれば、モータ5を−10〔A〕の電流で逆回転させてM/Cストロークを戻すことにより、マスタリザーバ4eより貯溜されたブレーキ液を、プライマリ室4bおよびセカンダリ室4cに吸入して配管中にブレーキ液量を補充することにより、M/C圧を各W/Cへ確実に伝達できるようにしている。この操作は、通常、エア混入時のブレーキペダルのポンピング操作と同様の効果を電動ブレーキ装置で実現するものである。
ステップS880で油量補償制御の終了経過時間kを0にリセットし、ステップS800以降の処理を繰り返す。
一方、油量補償制御の非動作中に実行されるステップS890では、油量補償制御の終了経過時間kをインクリメントし、ステップS900で4輪の増圧弁73a〜73dを、保持固定されている状態を解除、すなわち連通−遮断自在とする。ステップS910で、モータ5の電流指示値を踏力検出値に応じて決定された踏力指示電流値I1に設定し、ステップS920で油量補償制御の実行時間tを0にリセットし、ステップS800以降の処理を繰り返す。
こうして、ストロークセンサ9により検出された実際のM/Cストローク長Lとモータ5の電流値から推定されたストローク長LSとの差が閾値KSより大きい場合は、モータの戻し電流I2、戻し期間T2によるM/Cストローク戻しを行う油量補償制御を繰り返すことによって、電動ブレーキ装置でのポンピング操作を可能にし、ブレーキ配管中にエアが混入した場合でも、M/C圧を確実に各W/Cへ伝達することが可能である。
(他の実施形態)
上記参考実施形態5は、クローズ回路を用いたポンプレスABS制御を行う電動ブレーキ装置において、油量補償制御の際のモータの戻し電流および戻し期間を、M/Cのストローク長を演算による推定値あるいはセンサによる検出値として求め、このストローク長に応じて可変制御するものであるが、これに限らず、同じ図5に示すクローズ回路において、参考実施形態6と同様に、減圧弁74a〜74dから減圧時放出された消費油量を算出し、この消費油量を補償するよう油量補償制御におけるモータの戻し電流および戻し期間を可変制御するようにしてもよい。
また、上記参考実施形態6は、オープン回路を用いたポンプレスABS制御を行う電動ブレーキ装置において、油量補償制御の際のモータの戻し電流および戻し期間を、減圧弁から減圧時に放出された消費油量の算出値に応じて、この消費油量を補償するよう可変制御するものであるが、これに限らず、同じ図3に示すオープン回路において、参考実施形態5と同様に、M/Cのストローク長を演算による推定値あるいはセンサによる検出値として求め、このストローク長に応じて油量補償制御の際のモータの戻し電流および戻し期間を可変制御するようにしてもよい。
さらに、上記第1実施形態は、オープン回路の電動ブレーキ装置において、実際のM/Cストロークの検出値とモータ電流より算出されるM/Cストロークの推定値との差が大きいときに油量補償制御によってM/Cへブレーキ液を補充するようにして、ブレーキ配管中にエアが混入した場合でもM/C圧を確実にW/Cへ伝達できるようにしたが、これに限らず、図4に示すクローズ回路で、上記第1実施形態と同様、M/Cストロークの検出値と推定値との差に応じてエア混入に対する油量補償制御を行うようにしてもよい。