JP4445149B2 - 三次元分極計測用の走査型非線形誘電率顕微鏡 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、強誘電材料の永久分極の状態や結晶性を評価するものとして開発した走査型非線形誘電率顕微鏡の改良技術であって、三次元分極を計測できる走査型非線形誘電率顕微鏡に関する。
【0002】
【従来の技術】
本発明者らは先に誘電・強誘電析料の線形・非線形誘電率分布の計測がおこなえる走査型非線形誘電率顕微鏡(SNDM)を開発した。本顕微鏡は機械的応答、熱的応答である圧電・焦電応答などを使わずに、純電気的に分極分布を測定するものであって、分解能もサブナノメータオーダ達していることが確かめられており、極微小分極分布観察のための測定法の一つとして注目を集めている。
まず、この走査型非線形誘電率顕微鏡の動作原理について説明する。本顕微鏡の原理は本件発明者らが提案している印加交番電界による誘電率変化の動的測定法を基本にしたものであり、それは以下に述べるように残留分極を固定したまま、電束と電界の間の非線形性の次数を分離できる計測法である。
まず、比較的大きな振幅E03=Vp/dとゆっくりした角周波数ωpをもつ交番電界が非線形性をもった誘電体に印加され、そのため微分容量Cs(t)が時間の関数として交番的に変化する状況を考える。ここでz軸(3方向)を残留分極Prの方向にとり簡単化のためこの方向のみの変化を考える。このような物質中で電束密度D3と電界E3の関係は非線形性まで考慮に入れて
D3=Pr+ε33E3+ε333E32 /2+ε3333E33 /6+ε33333E34 /24‥‥(1)
で与えられる。その展開係数ε33、ε333およびε3333‥‥をここではそれぞれ二次(線形)、三次(最低次の非線形)および四次‥‥の誘電率と呼ぶことにする。それらは、2階、3階および4階‥‥のテンソル量である。なお、この一見奇妙な呼び名は電気的エンタルピーH2などのエネルギー関数を電界で展開したときの展開次数から定義されたものであり、通常D−E関係で定義される電界の次数より一次大きいことに注意されたい。
特に3階のテンソル量であるε333は圧電定数と同様に対称中心をもつ材料には存在せず、強誘電材料においては、残留分極Prの向きを反転させるとそれに従って符号が変わる性質をもっている。少々正確さを欠くがこのことを図示したのが図11であり、強誘電体のヒステリシス曲線において、D=Prの点ではD−E曲線は上に凸であり(二次曲線成分の係数は負)ε333=−ε'333<0、D=−Prの点では下に凸となりε333=ε'333>0(大きさは同じで逆符号)となる。また、未分極状態(原点)ではD−E曲線は点対称で二次曲線成分はなくなりε333=0となる。さらに、一次の傾きである線形の誘電率は分極の反転によっては変化しないことも、この図からあわせて理解できる。
【0003】
このような特性を持つ材料に外部から強制的に電界を印加し、その各点でのD−E曲線の傾きの変化すなわち微分容量の変化を計測することにより、非線形誘電率を計測するのである。具体的には、試料に外部から
Ep3=Epcosωpt (2)
の交番電界を印加し、その試料の微分容量をω0の角周波数(ωp≪ω0)の微小高周波電界E 3で測定する。
E 3=E 0cosω0t (3)
ただし、Ep ≫ E 0 の関係にある。ここで
E3=Ep3+E 3 (4)
を(1)式に代入し整理すると、微小高周波電界によって誘起される微小な電束密度D 3は以下のように与えられる。(ただし、下式ではω0に近い成分のみを抽出し2ω0などのω0からかけはなれた成分を無視している。)
D 3=(ε33+ε333 Ep3+ε3333Ep3 2/2)E 3 (5)
上式は外部から強制的に印如した電界Ep3により、微分誘電率が変化することを表しており、そのため微分容量Cs(t)は次式に従い変化する。
Cs(t)=Cs0+ΔCs(t) (6)
ここで、Cs0 は零印加電界時の静電容量、ΔCs(t)は電界印加による静電容量の交番的変化分であり、これらの比は
ΔCs(t)/Cs0=ε333 Epcosωpt/ε33+ε3333 Ep 2cos2ωpt/4ε33
+ε33333 Ep3cos3ωpt/24ε33+‥‥‥‥ (7)
で与えられる。
以上のことより、三次の誘電率に起因する容量変化は印加電界と同一周波数で変化し、その振幅は印加電界の振幅に比例し、四次の誘電率による容量変化は印加交番電界の2倍の周波数をもち、その振幅の自乗に比例する振幅をもつことがわかる。
【0004】
次に、走査型非線形誘電率顕微鏡用プローブおよびシステムを説明する。
上記印加電界による容量変化(誘電率変化)の直流成分に対する比は大きくて10-3の大きさであり、通常は10-5〜10-8程度の微小な変化である。この変化を測定用基板上の任意の位置で測定できるプローブを本発明者らが開発した。開発したプローブには同軸共振器を用いた分布定数型とLC共振器を用いた集中定数型があるが、ここでは最近の高分解能型に対応した集中定数型について説明する。
図12に走査型非線形誘電率顕微鏡用集中定数型プローブの概念図を示す。薄板状の誘電体試料(基板)9の背面に電極(背面電極)3を配置し、その表面側に円形のアース導体(リング)2とその中心位置に探針1を組み合わせたプローブを配置する。中心導体(探針)1直下の試料の静電容量Cs(t)と外付けのインタクタンスLで構成された集中定数型の共振器の共振周波数に同調して発振器が発振する。すなわち、発振器の帰還回路にLC共振器が入った形態となっている。リング2と背面電極3間に外部から角周波数ωp振幅Vpの電圧を印加すると、非線形効果のため静電容量が変化し発振周波数の交番的変化が起こる。同図中Cgは円形のアース導体(リング)2直下の静電容量であり、Cg(t)はCs(t)に比べて十分大きくとるので共振周波数に関しては無視でき、中心導体直下の微小な部分の情報(これを基に顕微鏡像が作られる。)が得られる。また図中のCoは共振器や発信回路中に存在する浮遊容量である。ただし、上記説明は基板の厚さが探針の直径より小さい場合についてのみ正確であり、探針先端の直径が被測定基板の厚さより十分小さいときは(通常の試料はほとんどこの場合に該当する。)、探針直下への電界の集中のため基板表面近くの部分の容量変化が観測される。
因みに上記原理に従って作成した集中定数型プローブの発振周波数は1GHz〜2.2GHz程度であり、探針はSTMなどに用いられるW針の作り方を参考にして本顕微鏡用の仕様に合わせて製作したもの、及び導電性の原子間力顕微鏡用のカンチレバーを用いている。プローブの発振器6から出力される信号は非線形誘電率の大きさに対応してFM変調されており、このFM波を復調器7によって復調し、それをロックインアンプ8で検波することによって非線形誘電率の大きさに対応した出力信号が得られる。また試料台であるx−yステージを動かすことにより、非線形誘電率の分布測定が行われ、これを画像化して顕微鏡像ができるものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで従来の走査型非線形誘電率顕微鏡は、試料表面に対して垂直方向に低周波数の交番電界をかけたときの静電容量の変化を取り出すものであり、原理的に前記電界方向即ち試料表面に対して垂直方向の分極しか計測出来ない。
本発明の課題は、非線形誘電率顕微鏡において試料に対して異なる方向からの交番電界を印加できる手段を実現し、それに基く容量変化の測定をして三次元分極を高分解能で観測できる新たな非線形誘電率顕微鏡を開発し、提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の走査型非線形誘電率顕微鏡は、非線形を起こすための交番電界の方向を容量変化を計測するための高周波電界の方向に対して直交する方向に印加することで試料表面に沿った水平方向の分極成分の検出を可能とする。そして、この非線形を起こすための交番電界を発生させる試料表面に沿った水平方向に対峙する電極対を、直交する二組とすることによってあらゆる水平方向の電界の印加を可能として、あらゆる水平方向の分極成分の検出ができるようにする。更にはこの印加電界に従来の試料面に垂直方向の電界を加えることによって非線形を起こすための交番電界の方向を三次元的に自由に設定できるようににして、あらゆる方向の分極成分の検出ができるように構成した。
【0007】
【発明の実施の形態】
図1(a)に示す従来のSNDMは、主に非線形を起こすための交番電界の方向と容量変化をセンシングするための高周波電界の方向が同じ場合に計測される非線形定数(ここではそれらをまとめてε333と呼ぶことにする)を計測することで分極を評価している。なお、本明細書では原則として分極の方向を3(z)方向として扱うものとする。従来のプローブは、試料表面に垂直方向に電界を印加しているため、試料表面に垂直な分極成分を評価することしかできない。しかし、実際の計測評価の場面では、分極は必ずしも試料表面に垂直に向いているとは限らないため、水平方向の分極成分を評価したい場合がある。
SNDMで水平方向の分極成分の計測を可能にする方法は、いくつか考えられる。例えば、三次(最低次)の非線形の誘電率ε333を計測する方法でも、非線形を起こすための電界及び容量変化をセンシングする電界共に、試料の面内方向にかけるようなプローブを用いれば、面内方向の分極を計測することができる。しかし、この方法では空間分解能が上がらないと考えられる。また、別の方法として、図1(b)に示すような非線形を起こすための交番電界の方向と容量変化をセンシングするための高周波電界の方向が垂直な場合に計測される非線形定数(ここではそれらをまとめてε311と呼ぶことにする)を計測する方法がある。この場合もいくつかの方法が考えられるが、本発明者はその中で試料面内のε311の分布を非常に高い空間分解能で計測可能な新しいプローブを開発し実際に計測を行って現象の検証を実行した。また、それを用いてε311とε333を同時に計測するシステム、及び回転電界を用いて分極の方向を3次元ベクトルとして計測可能なシステムを開発した。それについて以下に述べる。
この、3次元ベクトル計測が可能になると、図2(a)に示すような水平及び垂直方向の分極が混在するa−cドメインの計測、図2(b)に示すような種々の方向に向く分極が混在することで特性が向上するとされているエンジニアード・ドメイン構造の計測、図2(c)に示すような分極の方向が面内で種々の方向を向いているドメイン構造などを効果的に計測・評価することが可能になる。
【0008】
本発明の原理を説明する。図3は、非線形を起こすための交番電界E 3の方向と容量変化をセンシングするための高周波電界E 3の方向が並行な場合(「従来の技術」で説明した非線形誘電率ε333の計測)の原理図である。図に示すとおり、探針先端の電界分布は、E 3,E 3共に針先に集中し試料表面に垂直方向となっている。この形態における電束密度と電界との関係は次式となる。
【数1】
また、交番電界E 3=Epcosωpt印加時の静電容量Cs に対する交番容量変化ΔCs の比は次式で表せる。
【数2】
これに対応して図4が非線形誘電率ε311を計測する本発明の実施形態を示したものであり、非線形を起こすための交番電界E 3の方向と容量変化をセンシングするための高周波電界E 3の方向が垂直な場合の原理図である。図に示すとおり、E 3を印加するための電極対を探針の両側に設置している。このとき、探針の電位(0V)と両側の電極の中点の電位が同じになるように+V 1及び−V 1を印加することで、E 3は探針に収束しないで試料表面に水平となる。一方、高周波電界E 3は探針先端に集中し試料表面に垂直な方向となる。このようにすることで、非線形誘電率ε311を計測することが可能となる。この方法は、高周波電界E 3が探針先端に集中しているため、高い空間分解能での計測が可能である。この形態における電束密度と電界との関係は次式で表せる。
【数3】
また、交番電界E 1=Epcosωpt印加時の静電容量Cs に対する交番容量変化ΔCs の比は次式で表せる。
【数4】
図4は交番電界E 3を印加する電極対を一方向にのみ配置している例であるが、これを図5のように交差する二方向(図では、x方向及びy方向)に配置し、それぞれに印加する電圧V x,及びV yの大きさの割合を変化させることで、電界を合成させx−y平面の任意方向の電界ベクトルを形成する事が可能となる。この方法を用いると、試料を回転させることなく面内の任意の方向の分極を計測することが可能になる。二対の電極方向が直交配置であり、その際のE x,及びE yの関係がE x=E1cosα,E y=E1sinαとなるように変化させると、合成された電界の大きさは振幅Epが一定で角度αの方向に傾いた交番電界となる。なお、以上の説明では電極対を直交する二対の電極としたが、これに限られることなく交差する複数組の電極であればよい。
【0009】
次なる形態として、図6に示すように、試料の背面に電極を配置してリング電極との間に、容量変化をセンシングするための高周波電界E 3の方向と並行な非線形を起こすための交番電界E 3を重畳して印加する構成としたブローブは、ε333とε311の同時計測が可能である。ε311を計測するために印加する交番電界E 1と、ε333を計測するために印加する交番電界E 3の周波数をそれぞれω1,ω3と変えて同時に印加する。このときのロックインアンプの出力をω1で同期検波すればε311を、ω3で同期検波すればε333を分離して計測することができる。なお、ここでは分極方向にではなく試料厚さ方向に3(z軸)方向を、試料面方向に1(x軸)方向をとっている。
【0010】
[実験データ1]
図7に実際にこのブローブの特性を評価した結果を示す。用いた試料はyカットLiNbO3である。ここでは実際に結晶学において定義されている結晶方向を考慮するので、試料面に垂直な方向がこの結晶の(結晶学的に定義されている)y(2)方向となり、z(3)方向が分極方向、そしてこの両方向に直交する軸(面)がx(1)軸(面)の方向となる。すなわち、本明細書において便宜的に行った面(軸)定義において、基板(試料面)に垂直な面をx(1)面とした表記と異なり、これがy(2)面となる。前述でε311(=ε31)と表した非線形誘電率はこの場合の結晶学的な表現慣例に従うとx(1)とy(2)が入れ換わりε322(=ε32)となる。
図7の(b)に結晶学により定義された LiNbO3 (点群3mに属する)の非線形誘電率の対称表を示す。同図で小点・で示したところは0を示している。因みにε111=ε11=0ということ。また、εi(jk)=εiJ であり、この(jk)=(1,1)=1,(2,2)=2,(3,3)=3,(3,2)=(2,3)=4,(1,3)=(3,1)=5,(1,2)=(2,1)=6とする。また、図中で●同士が線で結ばれているところは同じ値をもつことを、●と○が線で結ばれているところは同じ大きさではあるが逆符号であることを表す。ここではε322=ε32 がz(3)方向に電界を印加した時のy(2)方向の誘電率変化に寄与する項であり、x(1)方向に電界を印加したときの基板(試料面)に垂直な方向の容量変化に寄与する項ε122(=ε12)は存在しない。この図(b)はこのことを示している。
この結晶は、ε311の他に値の等しいε322が存在しているがε122は存在しない材料である。この試料に、図5に示した形態のもので15°づつに方向を変えて交番電界を印加したとき、計測されるy方向の容量変化の割合をプロットした結果が図7(c)である。この図は、原点から任意の角度に直線を引きグラフの曲線と交差した点までの距離が、その方向に電界を印加した時に得られる信号の強さを表している(アンテナの指向性の図と類似)。つまりこの場合、yカットLiNbO3 結晶の結晶学的に定義されたz方向に電界を印加したときが最も容量変化が大きく、同様に定義されたx方向に電界を印加したときには容量変化がないという結果を表している。これは、ε322が存在しているためz方向(3方向)に電界を印加したときy方向(2方向)の容量が変化したが、ε122が存在しないためx方向(1方向)に電界を印加したときy方向(2方向)の容量は変化がしなかったことを示している。電界をz方向からずらした場合でもいくらか値が得られているのは、x方向に印加したとき以外ではいくらか電界のz方向成分があるからである。それを考慮して計算した結果を実線でプロットしてある。この理論値と実験値がよく一致していることからもわかるように、今回開発したプローブは所望の特性を有していることがわかる。この実験のように、非線形を起こすための電界の方向を変化させていき、最も強い信号が得られた方向が分極の方向であると決定できる。
図8は、非線形を起こすための電界の方向を変えてPZT薄膜の分極の面内方向成分の計測を行った実験結果である。図8(a)と(b)では電界の方向を90°変えて印加している。電界の方向と分極の方向が同一の場合(図8(a)の場合)は、分極方向を3(z)とし、試料面に垂直の方向を1とする本明細書の定義におけるε311が計測されるため信号が観測されている。一方、図8(b)の場合は、分極の方向と垂直な方向に電界を印加したため信号が得られていない。このことから、この試料は分極の水平方向成分が存在し、その方向は、図8(a)の電界の方向であることがわかる。また図8(a)の白い部分と黒い部分では分極の水平方向成分の向きは180°反対である。
開発した本発明のプローブは、ε311とε333を独立に計測できるためε333も計測してみた。その結果を図8(c)に示す。この図が示すとおり、図8(a)で信号が得られた部分とほぼ同じ場所からε333による信号も得られており、この試料には分極の水平方向成分とともに垂直方向成分も存在していることが伺える。即ち、分極は試料表面に対して斜め方向を向いていることがわかる。また、このプローブはトポグラフィ(プローブ顕微鏡像)との同時計測も可能である。その測定結果を図8(d)に示す。
【0011】
次に、回転電界を用いて、分極方向をリアルタイムで計測する方法について説明する。図5に示した方法で電界の角度を変えていき、最も強い方向が分極方向であることに基いた計測であるが、回転電界を用いることにより、分極の方向をリアルタイムで計測できる方法を説明する。
図9に示すように、適当な角周波数ω1を用いてE x=E0cosω1t,E y=E0sinω1tとなるように電界を印加することで、角周波数ω1で回転する回転電界を得ることができる。このとき容量変化の割合(FM復調器の出力)はω1で周期的に変化する。これをロックインアンプでω1の信号を参照信号として同期検波すると、ロックインアンプの位相の情報が分極の方向を直接表すことになる。よって、プローブで試料表面をスキャンしながらロックインアンプの位相情報をプロットしていくことで、分極の方向の2次元分布が測定できる。これを画像化して顕微鏡像とすることができるが、このとき探針を介して信号を得ているため空間分解能が高いものとなる。
【0012】
次に、交差する2つの回転電界を用いて分極の3次元ベクトルとしてリアルタイムに計測する方法について説明する。
この方法は図10に示すとおり、図5に示した試料面に並行する二対の直交電極と試料厚み方向に電界を印加する電極とを組み合わせた形態で実行する。交差する2平面を回転する回転電界を利用することで、分極の方向を3次元ベクトルとしてリアルタイムに計測することが可能である。前述の図9の方法では、1つの平面内を回転する回転電界とロックインアンプの位相情報を用いることで、面内の分極の方向を計測可能であることを述べたが、ここでは、これを更に発展させ、交差する2つの平面をそれぞれ異なった角周波数で回転する回転電界を印加し、出力をそれぞれの角周波数で同期検波することで、独立にそれぞれの位相情報を得ることができる。即ち、図10(a)のように3方向の電界E 1 ,E 2 ,E 3
【数5】
を印加した例で説明すると、回転電界は図10(b)に示すように、x−y平面及びx−z平面をそれぞれ角周波数ωa,ωbで回転することになる。このときωaで同期検波した場合の位相情報は、分極をx−y平面に投射したときの角度θを表し、ωbで同期検波した場合の位相情報は、分極をx−z平面に投射したときの角度φを表している。これらを計測することにより、分極の方向を3次元ベクトルとして計測が可能である。なお、この場合も方向3は分極方向を意味しておらず、試料厚さ方向にとっている。
【0013】
【発明の効果】
本発明の走査型非線形誘電率顕微鏡は、非線形を起こすための低周波の交番電界を試料表面方向に印加することができるようにしたので、従来不可能であった試料表面に並行方向の分極成分を計測できる画期的なものである。しかも、探針をプローブとする走査型非線形誘電率顕微鏡であるから、高分解能の計測ができる。また、本発明の走査型非線形誘電率顕微鏡は、非線形を起こすための低周波の交番電界を試料表面方向に印加する電極対を、探針を中心として対称位置に複数組備えることで、試料表面方向における所望方向の電界を合成して印加することができる。このことによって、試料表面方向のあらゆる方向の分極を計測することができる。更に、本発明の走査型非線形誘電率顕微鏡は、非線形を起こすための低周波の交番電界を試料に印加する電極対として、探針を中心とした表面方向の試料表面の対称位置に備え、更に試料の裏面にも電極を備えることにより、それぞれの電極対に異なる周波数の交番電界を印加すると共に、検出信号をそれぞれの周波数で同期検波することにより、分極方向成分を分離して同時に検出することができる。
【0014】
本発明の走査型非線形誘電率顕微鏡を用いた分極方向計測法は、非線形を起こすための低周波の交番電界の方向を時系列的に変化させることができるので、検出信号が最も強くなったときの電界方向に分極方向があると判定することにより、強誘電体等の試料の分極方向を容易にリアルタイムで判定することができる。そして、非線形を起こすための低周波の交番電界を試料に印加する電極対は、探針を中心とした表面方向の試料表面の対称位置に備え、更に試料の裏面にも電極を備え、交差する2平面を回転する回転電界を各電極対に印加することで、三次元的にあらゆる方向の電界を合成することが可能であり、これによって三次元方向の分極を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】面内方向の分極計測の種類を説明する図である。
【図2】三次元ベクトル計測の適用例を示す図である。
【図3】深さ方向の分極を計測するSNDMモデルを示す図である。
【図4】面内方向の分極を計測するSNDMモデルを示す図である。
【図5】面内方向の分極計測用の電極パターンを示す図である。
【図6】深さ方向と面内方向の同時計測を説明する図である。
【図7】yカットLiNbO3を用いて計測した例を示す図である。
【図8】PZT薄膜の測定例を示す図である。
【図9】面内分極を走査しながら分極方向を判定する計測法を説明する図である。
【図10】2つの交差する回転電界を印加しながら三次元の分極方向を判定する計測法を説明する図である。
【図11】強誘電体のヒステリシス曲線と非線形誘電率を説明する図である。
【図12】本発明の基礎となる走査型非線形誘電率顕微鏡システムを示す図である。
【符号の説明】
1 探針 6 発振器
2 リング電極 7 FM復調器
3 背面電極 8 ロックイン・アンプリファイア
4,5 電極対 9 試料
Claims (5)
- 試料表面方向に対向する電極対を配置して非線形を起こすために試料に低周波の交番電界を印加させ、その容量変化を計測するために前記電極対の間にあって試料表面に接触させる探針と、該探針と該探針先端部より十分大きな面積を有する電極間(ただし、この静電容量は探針直下の静電容量よりはるかに大である)に高周波電界を印加する走査型非線形誘電率顕微鏡であって、前記非線形を起こすための低周波の交番電界を試料表面方向に印加することにより、試料表面に沿った水平方向の分極成分の検出を可能としたことを特徴とする走査型非線形誘電率顕微鏡。
- 非線形を起こすための低周波の交番電界を試料表面方向に印加する電極対は、探針を中心として対称位置に複数組備えることで、試料表面方向における所望方向の電界を合成して印加できる請求項1に記載の走査型非線形誘電率顕微鏡。
- 試料表面方向に対向する電極対を配置して非線形を起こすために試料に低周波の交番電界を印加させ、その容量変化を計測するために前記電極対の間にあって試料表面に接触させる探針と、該探針と該探針先端部より十分大きな面積を有する電極間(ただし、この静電容量は探針直下の静電容量よりはるかに大である)に高周波電界を印加する走査型非線形誘電率顕微鏡であって、前記非線形を起こすための低周波の交番電界を試料に印加する電極対は、探針を中心とした表面方向の試料表面の対称位置に備え、更に試料の裏面にも電極を備え、それぞれに異なる周波数の交番電界を印加すると共に、検出信号をそれぞれの周波数で同期検波することにより、分極方向成分を分離検出することにより、分極方向成分を分離して同時に検出することができることを特徴とする走査型非線形誘電率顕微鏡。
- 試料表面方向に対向する電極対を配置して非線形を起こすために試料に低周波の交番電界を印加させ、その容量変化を計測するために前記電極対の間にあって試料表面に接触させる探針と、該探針と該探針先端部より十分大きな面積を有する電極間(ただし、この静電容量は探針直下の静電容量よりはるかに大である)に高周波電界を印加する走査型非線形誘電率顕微鏡を用い、前記非線形を起こすための低周波の交番電界の方向を時系列的に変化させ、検出信号が最も強くなったときの電界方向に分極方向があると判定する分極方向計測法。
- 非線形を起こすための低周波の交番電界を試料に印加する電極対は、探針を中心とした表面方向の試料表面の対称位置に備え、更に試料の裏面にも電極を備え、交差する2平面を回転する回転電界を各電極対に印加することで、三次元的にあらゆる方向の電界を発生させることを特徴とする請求項4に記載の分極方向計測法。
Priority Applications (1)
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JP2001084529A JP4445149B2 (ja) | 2001-03-23 | 2001-03-23 | 三次元分極計測用の走査型非線形誘電率顕微鏡 |
Applications Claiming Priority (1)
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