以下、本発明の第1実施形態として、ハイブリッド型のタッチパネルの絶縁性透明基板上に形成された透明導電層の一部を、スリット状に除去して透明電極を形成する透明基板加工方法に本発明を適用した例ついて説明する。
まず、透明基板の加工に用いるレーザー加工装置について説明する。図6は、このレーザー加工装置の概略構成図である。図において、Qスイッチ10aで制御されるYAGレーザー光源部10からは、波長λ=1064[nm]の近赤外光からなるYAGレーザー光(以下、単にレーザー光という)が出射される。そして、ステップインデックス型の光ファイバ2によって加工ヘッド3に導かれる。この加工ヘッド3は、複数のレンズから構成されたレンズ群3a、これらを収容するヘッドケース3b、レーザー出口3cなどを有している。加工ヘッド3に進入したレーザー光Lは、レンズ群3aによって集光せしめられながら、レーザー出口3cからレーザー加工対象物100に向けて出射される。
レーザー加工対象物は、タッチパネルに用いられる透明基板100である。図7は、この透明基板100を示す拡大断面図である。透明基板100は、多層構造となっている。具体的には、基材層100aの裏面(図中下側面)にハードコート層100gが被覆されている。また、基材層100aのおもて面に、ハードコート層100b、固着層100c、第2反射防止層100d、第1反射防止層100e、導電層100fが順次積層されている。各層の材質や厚みは、次の表1に示す通りである。
先に示した図6において、上記レーザー出口3cから出射されたレーザー光Lは、透明基板100を表面層たる導電層100f側から照射して、照射領域における少なくとも導電層100fを円形状に加熱・蒸発させる。透明基板100はX−Yテーブル4の移動台5上に固定されている。この移動台5は駆動部6内に配設されたリニアモータ6aで駆動されることで図中水平方向に2次元的に移動可能となっている。レーザー光Lの1照射あたりの時間は極めて短い。レーザー光Lの照射が停止されると、移動台5がX−Y方向に高速移動して次のレーザー照射位置が決定される。このようにしてレーザー光Lの照射と、移動台5の移動とが繰り返されると、導電層100fの円形状除去部分が複数連なった溝状の凹部が形成され、残った導電層部分が透明電極パターンとなる。本レーザー加工装置では、加工ヘッド3内において、レンズ群3aによってレーザー光Lを集光せしめて透明基板100に対する照射面積を小さくするので、そのエネルギー密度を高めて加工効率を向上させることができる。しかも、寸法の小さな加工パターンまで加工できるため、加工パターンの微細化も可能となる。
上記YAGレーザー光源部10やリニアモータ6aは、パーソナルコンピュータ11a、シーケンサ11b、同期連動型運転用の制御回路基板11c等からなる制御部11で制御される。例えば、制御部11はYAGレーザー光源部10の駆動部を制御し、これによってレーザー光の繰り返し周期が変更される。また、YAGレーザー光源部10からのレーザー光の出力に応じてリニアモータ4aを駆動制御して透明基板100を移動させる。また、移動台5の移動状態に応じてYAGレーザー光源部10からのレーザー光の出力を変化させる。また、次に説明する目的などのために、レーザー光の繰り返し周期を移動台5の移動速度に応じてリアルタイムに変化させる。即ち、移動台5の移動開始や移動終了の際における加減速時に、導電層100f上のレーザー光のエネルギー密度を一定にして均一な加工形状(テーパ形状)を形成できるようにする目的などである。これらの制御が行われることにより、移動台5の加速及び減速時に必要な助走距離が大幅に短縮される。そして、このことにより、従来のエッチング加工と同等もしくはそれ以上の加工速度(例えば1基板あたり35秒〜15秒程度)でスリット加工が可能となる。また、寸法精度の向上によって焦げ付きや未加工部分の発生が防止される。なお、本実施形態に係るレーザー加工装置には上記移動台5の移動距離を検知するセンサを設けており、このセンサの出力に基づいてリニアモータ6aをフィードバック制御させるようにしている。
図8は、本透明基板加工方法によって電極パターンが形成されたタッチパネルの断面図である。また、図9(a)及び(b)はそれぞれ、同タッチパネルの分解斜視図及び平面図である。図8に示すように、タッチパネルには、導電層100fからなる複数の透明電極がレーザー加工によって形成されている。これら透明電極をそれぞれ通常状態で接触させないように、1組の上下タッチパネル基板101、102が所定の高さ(例えば9〜12μm)のスペーサー103を介して対向した構造になっている。このタッチパネルを図8中の上方から押圧すると、上タッチパネル基板101が2点鎖線で示すように変形し、上下のタッチパネル基板101、102の透明電極同士が接触する。この接触による上下透明電極間の抵抗の変化から、押圧されたか否か及び押圧された位置を知ることができる。また、図9(a)及び(b)に示すように、上下のタッチパネル基板101、102のそれぞれには、互いに直交するスリット104、105が各導電層100fに形成されている。
これらスリット104、105は、図6に示したレーザー加工装置によって導電層100fが部分的に除去されて形成されたものである。具体的には、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等によって表面に導電層100fが形成された透明基板100は、導電層100fを上方に向けてX−Yテーブル4上にセットされる。セットされた透明基板100の導電層100fは、所定のスポット径に絞られたレーザー光が照射されながら移動台5とともにX−Y方向に移動せしめられる。この移動の過程で、約数[μm]〜1000[μm]の幅のレーザー光Lの照射によって発生した熱によってレーザー照射部分が蒸発して導電層100fから除去される。これによって各電極領域を絶縁するスリット104、105が形成され、上タッチパネル基板101、あるいは下タッチパネル基板102になるのである。
このようにしてスリット104、105を得る本透明基板加工方法では、エッチング処理を伴うフォトリソグラフィー法を用いることなく、透明基板100に複数の透明電極を形成することができる。このため、フォトレジストの現像液やエッチング液の廃液によって環境を汚すことなく、上下のタッチパネル基板101、102を製造することができる。また、透明電極のパターン形状を変える場合でも、フォトリソグラフィー用の遮光マスクを用いることなくCADデータに基づいた導電層100fの加工を施してパターンに応じた複数の透明電極を形成することができる。このため、異なった電極パターンのタッチパネル用基板101、102についてそれぞれ専用の遮光パターンの遮光マスクを用意しなければならないためにリードタイムを長くしてしまうといった事態が起こらない。よって、他品種少量生産といういわゆるオンデマンドの要求に対しても十分に対応することができる。
一方、フォトリソグラフィー法を用いた電極加工では、フォトレジストの現像液やエッチング液等の廃液が発生して環境を汚してしまうという不具合がある。また、透明電極のパターンを変える場合は、フォトリソグラフィー用の遮光マスクを新規に作成しなければならないため、加工効率が悪く、他品種少量生産への対応及び低コスト化が難しかった。特に、ハイブリッド方式のタッチパネルのように導電層100fに数本のスリットを形成するような場合でも、数百本のスリットを形成するデジタル方式のタッチパネルの場合と同じフォトリソグラフィー工程が必要になってくるため、加工部分が少ないにもかかわらず廃液の低減及び低コスト化を図ることが難しかった。
次に、従来の透明基板加工方法について説明する。本発明者らは、従来、図7に示した透明基板100の基材層100aとして、滑剤が混練されたPET樹脂の延伸成型によって得られたPETフィルムを使用していた。かかる構成の基材層100aを用いた透明基板100にレーザー加工を施したものの一例を平面図として図10に示す。図において、透明基板100には複数の円形凹部が連なったスリット104,105が形成されている。個々の円形凹部は、それぞれレーザー光Lの1スポットによって形成されたものである。円形凹部の円形状輪郭の内側は、レーザー照射によって少なくとも上記導電層(100f)が除去されて窪んでいるが、上記基材層(100a)は確実に残されている。残された基材層には無数の気泡Apが形成され、これによってスリット104,105部分の光透過性が著しく悪化していることがわかる。これに対し、円形状輪郭の外側は、レーザー照射を受けておらず上記導電層が残っている。上記導電層(100f)だけでなく、基材層を含む全ての層が残されており、気泡Apが全く生じていないことがわかる。レーザー照射によって上記基材層に何らかの変化を生じせしめて、無数の気泡Apを形成してしまったことが明白である。
次に、本第1実施形態に係る透明基板加工方法の特徴について説明する。本透明基板加工方法においては、図7に示した透明基板100の基材層100aとして、延伸成型のための滑剤が混練されておらず、樹脂剤表面に塗布されたPETフィルムからなるものを用いる。かかる構成の基材層100aを有する透明基板100にレーザー加工を施したものの一例を平面図である図11に示す。図示のように、レーザー加工後の透明基板100であるにもかかわらず、スリット104,105(円形状輪郭)内に、気泡Apが殆ど発生していないことがわかる。このように気泡Apが有効に抑えられた理由は、次のように考えられる。即ち、一般に、滑剤には視認し得ないほど微小の金属微粒子が含まれている。金属微粒子は、YAGレーザー光等のレーザー光に破壊され易い。基材層100a内部に含まれる無数の金属微粒子がレーザー光によって破壊されたことで、基材層100a内に無数の気泡が発生したと考えられる。これに対し、本透明基板加工方法で使用する透明基板100の基材層100aでは、内部に滑剤由来の金属微粒子を含んでいない。おもて面(図7の上側面)に金属微粒子を付着させている可能性はあるが、それが破壊されたとしても、破壊の際に生ずるエネルギーが上側の層を突き破って外気に逃げる。あるいは、既に上側の層が除去されているために外気に直接逃げる。このため、気泡Apが形成されないばかりでなく、基材層100aの傷つきも起こらないと考えられる。また、基材層100aの裏面に金属微粒子が付着している可能性もあるが、この裏面の位置ではレーザー光Lの焦点から比較的離れていることでエネルギー減衰したレーザー光Lが金属微粒子に照射される。このため、裏面では、レーザー光Lが金属微粒子に当たってもこれをほとんど破壊しないと考えられる。
以上、本第1実施形態に係る透明基板加工方法においては、上記基材100aとして、滑剤が混練されていないPETフィルムを用いることで、基材100aに生ずる気泡Apを大幅に低減することができる。そして、このことにより、気泡Apに起因する透明基板100の光透過性の低下を抑えることができる。なお、基材100aの材質については、PETに限らず、滑剤が混練されていないアクリル等の他の透明樹脂を用いることが可能である。また、本第1実施形態に係る透明基板加工方法にて加工された透明基板100は、上述のように気泡Apの発生が大幅に低減されたが、輝点を生ずる場合があった。
次に、ハイブリッド型のタッチパネル用の透明基板に透明電極を形成する透明基板加工方法に本発明を適用した第2実施形態にいて説明する。本第2実施形態に係る透明基板加工方法においても、第1実施形態と同じレーザー加工装置を用いる。また、加工対象物として、上記第1実施形態と同じ透明基板(100)を用いる。但し、上記透明基板100に対して、このレーザー加工装置にてレーザー加工を施すのに先立ち、加熱処理を施しておく。加熱温度は、上記透明基板100を変形させない程度の温度である。そうすると、後のレーザー加工において、レーザー光の強度を少なくとも10[%]程度弱めても、上記導電層(100f)を十分に除去することができた。そして、上記基材層100aとして滑剤が混練されたものを用いているにもかかわらず、それに発生する上記気泡Apを大幅に低減することができた。しかも、気泡Apばかりでなく、輝点Bpの発生も大幅に低減することができた。よって、上記第1実施形態の透明基板加工方法よりも、透明基板100の光透過性の低下を抑えることができた。
なお、本第2実施形態において、加工対象物として光透過性部材たる上記透明基板100を用いた例について説明したが、非光透過性の部材を用いることもできる。この場合、加工対象物の光透過性の低下という不具合は関係なくなるが、予めの加熱処理によってレーザー加工強度を低減することができる。加工対象物として上記透明基板100を用いた場合のレーザー強度の減少率は10[%]程度であったが、非透過性部材を用いる場合、その材質によっては減少率を40[%]まで向上させることができた。
本第2実施形態に係る透明基板加工方法に用いるレーザー加工装置としては、加工対象物を加熱する加熱手段を備えるものを用いることが望ましい。かかる構成のレーザー加工装置を用いれば、上記X−Yテーブル4上の加工対象物に対し、レーザー加工前の加熱処理を容易に施すことができるからである。加熱手段としては、加熱処理のために加工対象物に接触させた加熱部材をレーザー加工に先立って加工対象物から取り外す手間を省くという観点から、ハロゲンランプ等の非接触加熱方式のものを用いることが望ましい。
次に、ハイブリッド型のタッチパネル用の透明基板に透明電極を形成する透明基板加工方法に本発明を適用した第3実施形態にいて説明する。本第3実施形態に係る透明基板加工方法においても、第1実施形態と同じレーザー加工装置を用いる。また、上記透明基板100を用いる点も同様である。但し、レーザー加工装置にて、上記透明基板100に対してレーザー照射を2回施す。1回目は前処理用の照射であり、2回目は加工用の照射である。具体的には、まず1回目の照射では、透明基板100に対し、基材層100a上に積層された各層の何れも変形させない程度にエネルギーの弱い弱レーザー光を用いる。そのエネルギー強度は、具体的には、基材層100a上に積層された何れの層にも亀裂(部分的な除去による)を生じない程度に弱くなっている。かかる弱レーザー光にて、上記透明基板100のスリット形成対象領域を一通り照射するのである。弱レーザー光の強度は、従来の加工用レーザー光の強度を「100」とすると、「35」程度の値である。次の2回目の照射では、強レーザー光を用いて少なくとも導電層100fを部分的に除去して上記スリット104,105を形成するのである。このときの強レーザー光の強度は、従来の加工用レーザー光の強度を「100」とすると、「80」程度の値である。前処理を行ったことにより、エネルギー強度を約2割も低減することができるのである。そして、このことにより、上記第2実施形態の透明基板加工方法よりも更に、透明基板100の光透過性の低下を抑えることができた。
次に、本発明の第4実施形態として、本発明をレーザー加工装置に適用した例について説明する。なお、本第4実施形態に係るレーザー加工装置の基本的な構成については、第1実施形態に係る透明基板加工方法で用いたレーザー加工装置と同様であるので、その説明を省略する。
図12は、本レーザー加工装置のX−Yテーブルを示す拡大構成図である。図において、X−Yテーブル4の上に設けられた移動台5は、透明基板等のワーク(光透過性部材)が載置されるガラス板5aと、これを支持する支持部5bとを備えている。支持部5bは、ポリアセタール樹脂などのYAGレーザー光に侵され難い材料で構成され、天板の無い箱状に形成されている。4つの側壁と、底盤とを有しているのである。そして、矩形状のガラス板5aの縁部付近を4つの側壁で支持している。支持部5b内には、その箱状の形状によって空隙Gが形成されている。また、支持部5bの底盤上には、白金等の光反射性材料からなる光反射部材としての反射板5cが固定されている。透明基板100は、図示しない固定機構により、上記導電層を上方に向けた状態で移動台5のガラス板5a上に固定された状態で、導電層側からレーザー光Lが照射される。
図13は、透明基板100に向けて照射されたレーザー光の軌跡を示す模式図である。図示のように、レーザー光Lは、透明基板100を次のような順序で透過する。即ち、導電層100f、第1反射防止層100e、第2反射防止層100d、固着層100c、ハードコート層100b、基材層100a、ハードコート層100gという順である。レーザー光Lは、少なくとも導電層100fを除去し得る程度のエネルギーを発揮する強レーザー光である。よって、透過に伴って少なくとも導電層100fを除去する。そして、移動台5の上記空隙Gに抜けた後、空隙G内を進んで反射板5cに到達する。このとき、到達面が光の焦点(導電層100fの表面か、あるいはその近傍)から比較的離れた位置にあるため、反射板5c面での反射角度が垂直方向からやや斜めになる。よって、反射したレーザー光Lは、導電層100f表面でのビームスポット径L1よりも広がりながら、透明基板100に向けて進むことになる。そして、やがて透明基板100の裏面のハードコート層100gに到達する。この時点で、レーザー光Lのエネルギーは、光拡散に伴って導電層到達時よりも大幅に減衰している。本レーザー加工装置では、この時点のレーザー光Lを、透明基板100の全ての層を変形させない程度までエネルギー減衰させ得る値に、空隙Gの高さを設定している。よって、反射板5cで反射した後、再び透明基板100に到達したレーザー光Lは、弱レーザー光となっている。この弱レーザー光の一部は、当初の導電層100f表面でのビームスポット径L1よりも外側領域を透過する。この外側領域は、未だ加工のための強レーザー光が照射されていない領域である。図13では、便宜上、この領域を斜線でハッチングしている。
透明基板100に対するレーザー光Lの1スポットが終わると、移動台5が水平方向に高速移動して、次のレーザー照射領域が先のレーザー照射領域の隣設部分に設定される。この隣設部分は、先のレーザー照射に伴う光反射によって、既に弱レーザー光が照射されている部分である。上記第2実施形態に係る透明基板加工方法における1回目のレーザー照射処理が施された部分なのである。よって、次の強レーザー光によるレーザー照射は、既に弱レーザー光によって前処理のなされた領域に対してなされる。
本レーザー加工装置における強レーザー光の強度は、従来の加工用レーザー光の強度を「100」とすると、「35〜75」程度の値である。反射光を弱レーザー光と利用したことにより、エネルギー強度を約2.5割〜6.5割も低減することができたのである。なお、「35〜75」と広範囲の値になったのは、ITOの種類によって除去可能なエネルギー強度が異なってきたためである。
以上の構成の本レーザー加工装置においては、透明基板100を透過したレーザー光を反射板5cで反射させて透明基板100の未光透過領域に再進入させる。そして、このことにより、導電層100fの除去処理に必要なレーザー光のエネルギー強度を低く抑えて、輝点や気泡の発生を抑えることができる。しかも、上記第2実施形態に係る透明基板加工方法とは異なり、弱レーザー光の照射による前処理と、強レーザー光の照射による加工処理とを透明基板100に対して並行して施すことができる。よって、時間を分けて両処理を別々に施すことによる生産性の低下を回避することができる。
なお、本レーザー加工装置において、弱レーザー光の照射による前処理を施し得る領域は、その弱レーザー光の元となった強レーザー光のビームスポット径の隣設領域に限られる。このため、次のレーザー照射領域が先のレーザー照射領域から比較的離れている場合には、次のレーザー照射領域に対する前処理を施すことができない。このような場合には、次のレーザー照射において、弱レーザー光による照射と、強レーザー光による照射とを連続して施すことが望ましい。このようにすれば、次のレーザー照射領域においても前処理後の加工処理を行うことができる。また、透明基板100に対する初のレーザー照射でも、当然ながら前処理が行われていないので、弱レーザー光と、強レーザー光との連続照射を行うことが望ましい。
図14は、本第4実施形態に係るレーザー加工装置の第1変形例装置の一部を示す拡大構成図である。この第1変形例装置は、X−Yテーブル4を360°回転可能に支持するターンテーブル13を備えている。また、移動台5の上面には、その全面に反射板5cが固定されている。透明基板100は、この反射板5c上に直接接触するように載置されて、図示しない自動固定機構によって固定されている。移動台5の上方には、透明基板100の四隅のそれぞれに対応する4つの吸引ノズル12が、図示しない支柱に上下移動可能に固定されている。
かかる構成の第1変形例装置では、透明基板100の導電層側とは反対側の面に反射板5cを直接接触させながら、透明基板100をレーザー加工する。すると、図13に示したように透明基板100を反射板5cから離間させながらレーザー加工する場合に比べ、更に低いエネルギー強度で且つより輪郭のはっきりしたレーザー加工を行うことができる。なお、エネルギー強度が適切であれば、図14に示したように透明基板100と反射板5cとをピッタリと密着させながらレーザー加工を行っても、透明基板100にダメージを与えるようなことはない。
図15は、反射板5cとこれの上に載置された透明基板とを示す平面模式図である。反射板5cとしては、その反射面がナノメートルオーダーでの傷のないものを用いることが理想であるが、コストや処理時間の観点からすると現実的ではない。そこで、反射面に研磨傷の残ったものを使用するのが一般的である。本発明者らは、このような研磨傷の残った反射板5cを使用すると、反射光を主にその研磨加工方向に反射させることを見出した。具体的には、図示の例では、図中X方向に延びる無数の研磨傷を有する反射板5cを使用している。すると、レーザースポット領域Sに対してそのX方向に隣接する領域Rに向けて反射する光量が、Y方向に隣接する領域に向けて反射する光量よりも多くなる。よって、反射板5cの研磨加工方向に沿ってレーザー光の照射箇所を移動させるように移動台5を制御して透明基板100をレーザー加工することが望ましい。なお、移動台5の移動方向を研磨加工方向に厳密に沿わせることは非常に困難である。本発明者らの試験によれば、レーザー加工方向と研磨加工方向とのずれを±30°以内に収めれば、レーザー光を研磨加工方向に向けて良好に反射させることができた。しかしながら、ずれ角が30°を超えると研磨加工方向への反射光量が急激に低下し始め、45°を超えると加工パワー不足となって良好なレーザー加工を行うことができなくなった。
そこで、本第1変形例装置は、透明基板100と反射板5cとのうち、反射板5cだけをその配置方向が変化するように移動させる光反射部材移動手段たる反射板ターン装置を備えている。この反射板ターン装置は、図14に示したターンテーブル13や4つの吸引ノズル12などによって構成されている。
図16は、反射板5cをこれに載置された加工前の透明基板100とともに示す平面模式図である。図において、透明基板100は、無数の研磨傷を図中X方向に延在させている反射板5c上に固定されている。このように固定される透明基板100に対し、第1変形例装置は図17に示すように図中X方向に延在するスリット104だけを加工する。図中X方向に延在するスリット104を全て加工し終わると、次に、図18に示すように4つの吸引ノズル12によって透明基板100を吸引して反射板5cから持ち上げる。そして、ターンテーブル12を90°回転させた後、透明基板100を再び反射板5c上に戻して固定する。すると、図19に示すように、透明基板100は、無数の研磨傷を図中Y方向に延在させている反射板5c上に固定されることになる。このように固定される透明基板に対し、第1変形例装置は図20に示すように図中Y方向に延在するスリット105を加工する。
本第1変形例装置では、加工形状に合わせてターンテーブル13を適宜回転させながらレーザー加工を行うことで、加工形状にかかわらず、透明基板100に対するレーザー光の照射箇所を研磨加工方向に沿って移動させることができる。よって、より低エネルギーでのレーザー加工を確実に実現することができる。
反射板5cとしては、YAGレーザー光を64[%]以上の反射率で反射させるものを用いることが望ましい。これは次に説明する理由による。即ち、本発明者らは、互いに材質の異なる複数の反射板5cを用意して、それぞれについて、レーザー強度の加工閾値低下度合いと、YAGレーザー(1064nm)の反射率と、輝点や気泡の抑制度合いとの関係を調べてみた。この結果を次の表2に示す。
表2において、加工閾値低下度合いとは、反射板5cを用いない場合に比べて、どれだけレーザー強度を弱めることができたかを示している。そして、「×」は反射板5cを用いない場合とそれほど変わらないことを示しているのに対し、「○」はレーザー強度が良好に弱められたことを示している。「◎」は更に弱められたことを示している。また、輝点や気泡の抑制度合いとは、反射板5cを用いない場合に比べて、どれだけ輝点や気泡の発生を抑えることができたかを示している。そして、「×」は反射板5cを用いない場合とそれほど変わらないことを示しているのに対し、「○」は輝点や気泡が良好に抑えられたことを示している。「◎」は更に良好な抑制効果が得られたことを示している。YAGレーザーの光反射率と、加工閾値低下度合いと、輝点や気泡の抑制度合いとには、良好な相関関係が成立している。反射板5cのYAGレーザー反射率が高くなるほど、加工閾値低下度合いや輝点等の抑制度合いが向上するのである。レーザー強度の加工閾値の低下によって輝点や気泡を良好に抑えるためには、反射板5cとしてYAGレーザーの反射率が64[%]以上のものを用いなければならないことがわかる。材質としては、白金や金などが挙げられる。
図21は、本第4実施形態に係るレーザー加工装置の第2変形例装置の一部を示す拡大構成図である。同図において、X−Yテーブル4の上に設けられた移動台5は、透明基板等のワークが載置される反射板5dと、これを支持する支持部5bとを備えている。支持部5bは、ポリアセタール樹脂などのYAGレーザー光に侵され難い材料で構成され、天板の無い箱状に形成されている。4つの側壁と、底盤とを有しているのである。そして、矩形状の反射板5dを4つの側壁で支持している。支持部5b内には、その箱状の形状によって空隙Gが形成されている。この空隙G内は、図示しない吸引手段で吸引されることによって減圧せしめられる。
上記反射板5dには、多孔質アルミナからなるものが用いられている。上記吸引手段によって空隙G内が減圧せしめられると、反射板5d上に載置された透明基板100が、多孔質アルミナの多孔を通じて反射板5dに向けて吸引されて密着せしめられる。かかる構成では、透明基板100を反射板5dに対して吸引によって密着させることで、反射板5d表面から部分的に浮かせた状態で透明基板100をレーザー加工することによる加工精度の低下を回避することができる。
本発明者らは、互いに多孔質素材の異なる4種類の反射板5dを用意して、それぞれについてYAGレーザー光による加工閾値と、輝点や気泡の抑制度合いとを調べてみた。この結果を次の表3に示す。なお、反射板5dを用いない場合の加工閾値は28[A:アンペア]であり、4[KHz]の繰り返し周波数で46.8[W]に相当する。
表3に示すように、多孔質ジルコニアからなる反射板5dでは、加工閾値を低下させることができなかったために、輝点や気泡を抑えることができなかった。これに対し、多孔質アルミナプレートからなる反射板5dでは、加工閾値を2.0〜3.0[A]低下させて、輝点や気泡を良好に抑えることができた。加工閾値の低下度合いの差は、アルミナの純度の差によるもので、純度が高くなるほど加工閾値を低下させることができる。このように、反射板5dとして多孔質アルミナからなるものを用いることで、輝点や気泡を良好に抑え得ることが実験によって確かめられた。なお、純度99.5[%]の多孔質アルミナプレー度は、三井鉱山マテリアル社製のもので、その製品番号はFA−220である。また、2.0〜3.0[A]は、4[KHz]の繰り返し周波数で8.4〜12.7[W]に相当する。
図22は、非多孔質素材で構成した反射板5dを用いて透明基板100を吸引する例を示している。図示のように、非多孔質素材を用いる場合には、反射板5aに吸引用の複数の吸引孔H(直径1〜2mm)を設ける必要がある。これら吸引孔HをYAGレーザー光Lの照射対象領域に位置させてしまうと、図示のように、位置させてしまった箇所でYAGレーザー光Lを反射させることができなくなる。よって、透明基板100に対するレーザー加工パターンに合わせて、吸引孔Hをレーザー照射領域に位置させないようにパターンニングした反射板5dを用いる必要がでてくる。そうすると、レーザー加工パターンが変わる毎に、それ専用の孔パターンニングを施した反射板5dを用意する必要が生じ、製造コストを増加させてしまう。一方、本第2変形例装置のように、反射板5dとして多孔質素材からなるものを用いれば、それに吸引孔Hを設ける必要がないので、かかるコストアップを回避することができる。
次に、本発明の第5実施形態として、本発明をレーザー加工用光透過性部材であるレーザー加工用透明導電膜(以下、単に透明導電膜という)に適用した例について説明する。
図23は、本透明導電膜の一例を示す拡大断面図である。同図において、透明導電膜110は、ポリカーボネイト(PC)やPET等からなる基材層110aと、ITO等からなる表面層としての導電層110cと、両層の間に設けられたレーザー透過阻害層110bとを有している。図示しないYAGレーザー光等のレーザー光は図中上側から透明導電膜110に向けて照射される。そして、導電層110cを除去した後、レーザー透過阻害層110bに進入する。このレーザー透過阻害層110bは、レーザー光を吸収あるいは反射してその透過を阻害する。よって、レーザー光はレーザー透過阻害層110bによって大幅に減衰せしめられてから、基材層110aに到達することになる。これにより、基材層110aに生ずる輝点や気泡を抑えることができる。
上記レーザー透過阻害層110bについては、レーザー光の透過を阻害する
一方で、一般的な可視光を良好に透過させる材料で構成することが望ましい。このようにすることで、レーザー透過阻害層110bを設けることによる透明導電膜110の光透過性の悪化を抑えることができ、例えばタッチパネル基板や液晶ディスプレイ用基板として十分に機能させ得るようになるからである。
YAGレーザー光を良好に反射させてその透過を阻害する一方で、可視光を良好に透過させる材料としては、誘電体多層膜が挙げられる。高屈折率透明材料からなる層と、低屈折率透明材料からなる層とを交互に重ね合わせた多層膜である。例えば、Ta2O5透明層と、Si透明層とを交互に重ね合わせた2、4、6層構造の誘電体多層膜では、それぞれ、YAGレーザー光に対して65.3%、86.4%、95.1%の反射率を発揮することが知られている。また、これらの透明層は、一般的にタッチパネル基板や液晶ディスプレイ基板に用いられる材質である。
YAGレーザー光を良好に反射させる一方で、可視光を良好に透過させる材料として、チタン、タンタル、亜鉛の少なくとも何れかを含む透明層も有効であると考えられる。これは次に説明する理由による。即ち、本発明者らは、帝人株式会社から市販されている3種類の透明導電膜に対して、YAGレーザー加工を施してみた。これら透明導電膜は、何れも図24に示すような構造になっている。即ち、ポリカーボネイトからなる基材層120aのおもて面側に、保護層120bと、耐エッチング層120cと、表面層たるITOからなる導電層120dとが順次積層されている。また、基材層120aの裏面側には、保護層120bと、耐エッチング層120cとが順次積層されている。保護層120bは、ポリカーボネイトからなる基材層120aを外気と遮断してその吸湿を防止する役割を担っている。また、耐エッチング層120cは、ITOからなる導電層120dの部分的な除強による電極パターンを形成するためのエッチング処理時において、基材層120aをエッチング液から守る役割を担っている。レーザー加工ではなく、フォトリソグラフィー法による電極パターンの形成を前提とした透明導電膜なのである。
かかる構造の3種類の透明導電膜120に対し、通常の方法(反射板の付設や加熱前処理を行わない)でYAGレーザー加工による電極パターンを形成してみたところ、輝点や気泡の発生度合いが異なった。著しく発生したもの、僅かに発生したもの、殆ど発生しなかったものに分かれたのである。そこで、これらの透明導電膜120について、それぞれX線プローブマイクロアナライザによる表面元素分析を実施してみた。その結果と、輝点や気泡の発生度合いとの関係を次の表4に示す。
輝点や気泡が著しく発生した膜Aでは、チタン、タンタル、亜鉛をそれぞれ表面元素として全く含んでいない。これに対し、輝点や気泡が僅かであったか、あるいは殆ど発生しなかった膜B、Cは、これら3つの元素を含んでいた。このことから、これら3つの元素が、おもて面側の保護層120b又は耐エッチング層120c中においてYAGレーザー光を反射したために、輝点や気泡が抑えられたと考えられる。なお、膜Aは、膜Bや膜Cの約100倍量のSiを含有しているが、SiはYAGレーザー光を良好に透過させるので、これによる影響であるとは考え難い。また、チタンはYAGレーザーに対して良好な吸収性を発揮することが知られているので、反射だけではなく、吸収によるエネルギー減衰効果をもたらしていると思われる。
以上、各実施形態において、光透過性部材としてタッチパネル用の透明基板を加工する例について説明したが、他の光透過性部材を加工する方法や装置についても、本発明の適用が可能である。また、各実施形態において、レーザー光としてスポット形状が円形状のものを透明基板100に照射して、導電層100fなどの表層を部分的に円形状に除去する例について説明した。しかしながら、スポット形状が多角形状などといった他の形状のレーザー光を照射する場合にも、本発明の適用が可能である。また、移動台5を移動させることで透明基板100に対するレーザー照射位置を変化させるレーザー加工装置について説明したが、加工ヘッド3を移動させてレーザー照射位置を変化させるようにしてもよい。