しかし、上述した方法には、図8に掲げる問題があった。すなわち、基盤層50が湾曲している(矢印X)ことにより、基盤層50上に傾斜が生じて、塗布された液状の舗装層51が、硬化する前に周縁部52や縁石56に向かって(矢印Y)垂れてしまい、舗装層51の平滑性が損なわれるという問題があった。このように、舗装層51の平滑性が損なわれると、意匠性が低下するだけではなく、当該垂れた部分の舗装層53が堰となってしまい、排水性が急速に低下するという問題が生じた。また、平滑性が損なわれることによって、垂れた部分の舗装層53に歩行者の靴などが引っ掛かってしまう虞もあり、安全性にも問題が生じる結果となった。
そこで、二点鎖線部に示すように、垂れた部分の舗装層53を、硬化後に切除するという方法が考え得る。しかし、この方法を採用したとしても、舗装層53上に保護層54(所謂トップコート)などを塗布した場合は、やはり保護層54が垂れて堰を形成し、上述と同様の問題を生じさせる虞が残った。この場合、舗装層53と同様にして、保護層54の垂れた部分55を切除する方法も考え得るが、二度(舗装層53及び保護層54)も切除を行うのは比較的面倒であった。しかも、保護層54は、舗装層51に比べて比較的層が薄く形成される場合が一般的であるため、垂れた部分55だけではなく、保護層54や舗装層51をも切除してしまう虞があった。これにより、保護層54が除去された舗装層51から急速に劣化が進行し、舗装層51の意匠性及び耐久性が著しく劣化するという問題を生じていた。
そこで、本発明は、上記の実状に鑑み、床面の排水性を損なうことなく、且つ意匠性及び安全性に優れる舗装方法の提供を課題とする。
本発明に係る舗装方法は、「中央部の表面高さよりも周縁部の表面高さの方が低い形状に湾曲した基盤層の表面に、平滑な下地層を形成する下地層形成工程と、前記下地層の表面に、目地型枠部材を貼着する目地型枠貼着工程と、前記目地型枠部材が貼着された前記下地層の表面に、前記目地型枠部材の厚みと同じ高さになるように、樹脂及び骨材を含有する混合物から成る表層材を塗布する表層材塗布工程と、前記表層材が略硬化した状態で、前記目地型枠部材を前記下地層の表面から剥離する目地型枠剥離工程と、該目地型枠剥離工程において前記目地型枠部材が除去された、前記表層材の前記周縁部の表面を、前記目地型枠部材の厚みよりも低くなるように研削して液溜部を形成する液溜部形成工程と、前記液溜部が形成された後の前記表層材の表面に、液状の樹脂の混合物を保護層として塗布する保護層塗布工程とを具備し、前記液溜部形成工程では、前記表層材の前記周縁部に形成された前記表層材による堰を削り取るとともに、前記保護層を溜めるための前記液溜部を切削する」ものである。
ここで、「基盤層」とは、各種の舗装環境(例えば、駅のプラットホーム、コンコース、公園、広場、工場の床、店舗の床、廊下、階段、歩行通路、駐車場等)の基盤を形成する層を示し、土、コンクリート、アスファルトコンクリート、モルタル、及び樹脂モルタルが例示できる。また、「平滑な」とは、施工面上に存在する比較的小さな凹凸を埋め合わせ、滑らかな表面形状を形成する状態を示す。さらに、「目地型枠部材」とは、形状及び材質は特に限定されるものではない。材質としては、例えば木、樹脂、金属、陶器などが挙げられる。形状としては、格子枠状、幾何学模様、棒状、その他所望の目地模様に沿った形状で、且つ均一な厚みを有するものが適用される。また、「略硬化した状態」とは、表層材が完全に硬化した状態のみならず、硬化途中の過程(所謂半硬化状態)も含む状態である。また、「樹脂モルタル」とは、結合材である樹脂の中に、粒径が5mm以下の骨材を混合し、硬化剤を用いて硬化させるコンクリートの一種である。さらに、「液溜部」とは、「表層材の前記周縁部の表面を、前記目地型枠部材の厚みよりも低くなるように研削」するものであれば、如何なるものであっても良く、例えば、周縁部分の表層材表面に凹状の切れ込みを入れたり、御椀型に湾曲した窪みを作成したり、周縁部の角を舐めるように斫りとる状態が例示できる。さらに、「保護層」とは、例えばアクリル系樹脂エマルジョンを主成分とする公知のスキン系樹脂や、本例の表層材と同様のMMA樹脂モルタル等、公知の樹脂の混合物が適用可能である。
従って、本発明の舗装方法によれば、まず、中央部の表面高さよりも周縁部の表面高さの方が低い形状に湾曲(以下、単に「湾曲」と云う)した基盤層の表面を、研磨したり適宜の下地層を塗布するなどして平滑な下地層を形成する。ここで、下地層としては、コンクリート、アスファルトコンクリート、及びモルタルなど特に限定されるものでは無いが、例えば樹脂モルタルを塗布して形成する。そして、下地層の表面に、目地型枠部材を貼着させて固定する。続いて、貼着された目地型枠部材の厚みと同じになるように、樹脂及び骨材を含有する混合物(以下、「樹脂モルタル」と云う)から成る表層材を塗布する。このように、目地型枠部材の均一な高さに合わせて塗布していくことで、表層材を均一で平滑な形状に形成することができる。次に、塗布した表層材が略硬化した状態で、下地層の表面より目地型枠部材を剥離する。さらに、基盤層の周縁部に位置する表層材の表面を研削し、液溜部を形成する。液溜部の形状としては、特に限定されるものではなく、目地型枠部材の厚みよりも薄くなるよう(すなわち表面高さが低くなるよう)形成するものであれば、如何なるものでも良い。そして、液溜部の形成された表層材の表面に、保護層を塗布し、舗装を完成させる。ここで、基盤層が湾曲していることにより、液状の樹脂の混合物である保護層が、周縁部に位置する表層材の表面に向かって垂れていくことが懸念される。しかし、本発明によれば、表層材に液溜部が形成されていることにより、垂れてきた保護層が、液溜部に溜まって収納され、周縁部で堰を形成しない。
また、本発明の舗装方法において、「前記基盤層は、駅のプラットホームを形成する層であり、前記目地型枠部材は、前記駅のプラットホームの長尺方向に対して略垂直な方向に略等間隔で貼着される複数の横目地型枠部材を有している」ものとすることができる。
ここで、「駅のプラットホームの長尺方向」とは、プラットホーム(以下、単に「ホーム」と云う)に進入する電車の進行方向を示し、「長尺方向に対して略垂直な方向」とは、ホームの幅方向に並行な方向を示す。
従って、本発明の舗装方法によれば、ホームの長尺方向に対して略垂直な方向(以下、単に「幅方向」と云う)に横目地型枠部材が貼着され、幅方向に横目地が形成される。なお、ホームは、一般的に、ホーム内に降り込んできた雨水を線路側へと排水するために、ホーム端よりホーム中央部の方が盛り上ったかまぼこ型の湾曲形状を呈している。ここで、幅方向(つまり短尺方向)に横目地が形成されていることにより、ホーム中央部からホーム端へと流れようとする雨水が、横目地を伝うことで一層効果的に線路側へと排水されるため、極めて排水性の良い舗装層を提供できる。
ところで、一般的に、駅のホームの床に表現される目地模様のうち、横目地模様を有するものとしては、複数のタイル状のものが芋目地状に敷き詰められた模様や、碁盤目状のもの、すなわち四角形状を組み合わせたものが多い。これは、自然石やレンガ、タイル等を埋め込んで舗装された舗装層に似せているためであり、合成樹脂ののっぺりとした風合いを払拭し、自然石を用いた舗装層に似た高級感を演出すると共に、歩行者の靴の滑り止め効果なども得られるという利点がある。この時、複数の横目地間の間隔としては、出来るだけ大きい方がより上質の高級感を得ることが可能となる。これは、自然石やタイル等は、サイズが大きいほど、一般的に値段が高騰するためであり、また、施工に要する手間や時間も増大するからである。
これに対し、本発明を含む塗り床工法を用いた舗装方法では、自然石などを使用せず、横目地型枠部材間の間隔を増大させるのみで大きさを変えられる為、比較的簡易且つ安価に高級感のある舗装層を作成することができる。しかし、横目地間の間隔があまりに増大すると、前述した靴の滑り止め効果や排水効果が低下し、安全性に問題を生じさせる可能性があった。
そこで、本発明の舗装方法において、「前記目地型枠部材は、棒状の目地型枠部材であり、前記目地型枠貼着工程は、複数の第一横目地型枠部材を、前記駅のプラットホームの長尺方向に対して略垂直な方向に第一間隔で貼着する第一横目地貼着工程と、複数の第二横目地型枠部材を、前記駅のプラットホームの長尺方向に対して略垂直な方向に、前記第一間隔より狭い間隔の第二間隔で貼着する第二横目地貼着工程とを有している」ものとすることができる。
ここで「棒状」とは、適宜の厚みと幅を有し、且つ直線状を呈する物体の形状を示し、例えば、略2mmの厚みと10mmの幅を有する帯状の目地型枠部材などが挙げられる。
従って、本発明の舗装方法によれば、比較的乗客などの目に付きやすい乗降口付近の横目地模様を、第一横目地貼着工程によって形成し、安全上最大限まで大きくして高い意匠性を確保する。一方、屋根などがなく、駅員のみしか通行しないような場所(ホームの先端部分や駅舎近く等)の横目地模様は、第二横目地貼着工程によって形成し、より高い排水性を確保することにより、高い安全性を実現することが可能となる。このように、一連のホーム内で、二つの間隔の横目地(第一間隔で貼着する第一横目地貼着工程、及び第二間隔で貼着する第二横目地貼着工程)模様を具備していることにより、意匠性及び安全性の双方を満足することのできる舗装層を提供することが出来る。
また、本発明の舗装方法によれば、棒状の目地型枠部材を適用していることにより、予め完成された目地模様状に形成されている専用の目地型枠部材を用いる場合に比べて、極めて簡易に横目地型枠部材同士の間隔を変更することができる。これにより、迅速且つ経済的な舗装方法を提供できる。さらに、本発明の舗装方法によれば、棒状の目地型枠部材を適用していることにより、駅のホームのような、湾曲した形状の施工面や、ベンチや自動販売機のような障害物の多い施工面であっても、現場の施工面の形状に沿って簡易に目地型枠部材の間隔や配置を変更することが可能である。従って、より複雑な施工面に適した舗装方法が提供できる。
このように、本発明の舗装方法によれば、基盤層の周縁部に位置する表層材の表面を研削し、液溜部を形成するため、垂れてきた保護層が、液溜部に溜まって収納され、周縁部で堰を形成しない。つまり、表層材の周縁部を研削するという一度の工程だけで、平滑な舗装層を形成することができ、排水性の良い舗装層を提供できる。また、平滑な舗装層を提供できることから、歩行者の靴などが引っ掛かってしまう虞や、保護層の堰によって意匠性が低下するという懸念も払拭することができ、経済的であり、且つ意匠性と安全性の高い舗装方法を提供できる。
以下、本発明の一実施形態である舗装方法について、図1乃至図7に基づき説明する。図1は本発明の舗装方法によって舗装された駅のプラットホームを示す斜視図であり、図2は舗装層の一部を拡大した斜視図及び断面図であり、図3は目地型枠部材の拡大断面図であり、図4は墨出し工程及び目地型枠貼着工程を示す説明図であり、図5は表層材塗布工程を示す説明図であり、図6は目地型枠剥離工程を示す説明図であり、図7は液溜部形成工程を示す説明図である。
本実施形態の舗装方法によって舗装された駅のプラットホーム1(以下、単に「ホーム1」と云う)は、主に図1に示すように、基盤層2の表面上に第一間隔3aで区画形成された複数の舗装層4aと、同基盤層2上に第二間隔3bで区画形成された複数の舗装層4bとを具備して構成されている。舗装層4a及び4bは、点字ブロック5や、列車乗降口に対する高さ基準点としての笠石6などが敷設されていない部分の床面を舗装するものであり、複数の横目地7a,7bと、横目地7a,7bに対して略垂直な方向に形成された縦目地8a,8bとで区画されている。なお、本発明の舗装方法は、少なくとも横目地7a,7bを具備すると、排水効果が向上するため好適であるが(詳細は後述する)、本実施形態においては、さらに、横目地7a,7bに対して略垂直な方向に形成され、且つ第一間隔3aまたは第二間隔3bと略等しい間隔で形成された縦目地8a及び8bを有している。また、基盤層2は、ホーム内に降り込んできた雨水等を効率的に排水するために、ホーム1の中央部A側(紙面上側)からホーム端側の周縁部B(紙面下側)に向かって湾曲し、緩やかに傾斜している。
図2(a)は、舗装層4aの一部を拡大した斜視図であり、図2(b)は、舗装層4aと笠石6の断面を模式的に示した説明図である。なお、図2(c)に関しては後述にて説明するため、ここでは説明を省略する。本実施形態の舗装層4aは、図2(a),(b)に主に示すように、下地層9と、目地層10と、表層材11と、保護層12とを備えている。
下地層9は、基盤層2上の凹凸を埋め合わせて平滑にするものであり、アスファルトコンクリートやセメントコンクリート等公知のコンクリートが選択可能であるが、本実施形態においては、樹脂モルタルが適用されている。なお、コンクリートとは、結合材と骨材とを主に混合したものである。また、樹脂モルタルとは、結合材として合成樹脂を用い、且つ粒径が5mm以下の骨材のみを用いたコンクリートの一種であり、水及びセメントを結合材とする一般的なセメントコンクリートに比べて、機械的強度、耐水性、耐磨耗性、電気絶縁性、及び耐薬品性などに優れる。下地層9に用いられる樹脂モルタルの結合材としては、不飽和ポリエステル、エポキシ、フラン、ポリウレタン、及びメチルメタクリレートモノマー(以下、単に「MMA樹脂」と云う)等を主成分とする樹脂が例示できる。骨材としては、粒径が5mm以下であれば特に限定されるものではないが、例えば、粉末状のセルベン、珪岩、炭酸カルシウム、チタン、寒水石、パーライト、バーミキュライト、スチレン樹脂発泡体、クレー、カオリン、タルク、炭酸バリウム、及び雲母が例示できる。
目地層10は、横目地7a,7b及び縦目地8a,8b(以下、単に「目地部」と云う)の色を表現する層に該当し、本実施形態においては樹脂モルタルが適用されている。目地層10に配合されている骨材及び結合材としては、下地層9に例示したものが適用できるが、さらに、目地の色を表現するための顔料が配合されている。
表層材11は、舗装層4a及び4b(以下、単に「舗装層4」と称す)を主に構成する層であり、本実施形態においては、下地層9及び目地層10と同様に樹脂モルタルが適用されている。なお、表層材11に配合されている結合材としては、特にMMA樹脂が適用されている。MMA樹脂とは、メチルメタクリレートモノマーを主成分とするアクリル系樹脂であり、速硬性・低温硬化性に優れ、硬化後の経時変化が少ない等の特長を有するものである。また、本実施形態の表層材11には、さらに、表層材11の表面に膜を形成することで大気中の酸素を遮断し、当該MMA樹脂の重合反応を阻害しないよう防護する機能を有するワックスが配合されている。ワックスとしては、特に限定されるものではないが、例えばパラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸等の高級脂肪酸が例示できる。また、表層材11には、MMA樹脂の硬化反応を触発させるための硬化剤(ベンゾイルパーオキサイド等)や、硬化促進剤(アミン系硬化促進剤等)がさらに添加されている。ここで、表層材11に適用されるMMA樹脂モルタルが、本発明の「樹脂及び骨材を含有する混合物」に該当する。
本実施形態における表層材11に配合されている骨材としては、下地層9または目地層10と同様のものが例示できるが、本実施形態においては、粉末状のセルベンを特に配合している。セルベンとは、食器などの陶磁器廃材を細かく砕いて不純物を取り除いたものであり、焼成によって白色に着色された所謂カラーセラミックスの一種である。このように、白色系のセラミックスを骨材に適用することで、樹脂の黄変などが起き難く、且つ天然石の白色御影石によく似た高級感のある風合いを再現することができる。また、白色系セラミックスに加え、黒色系のセラミックスを添加することによって、表層材11の色味(グレースケール)を自由に変更することができる。
また、舗装層4aを構成する表層材11のうち、ホーム1の周縁部B側に形成された表層材11は、図2(b)の二点鎖線円部に示すように、液溜部13が形成されている。液溜部13は、表層材11の表面の一部を研削することで形成され、点字ブロック5や笠石6(図1参照)と接する部位に主に形成されている。液溜部13の形成方法に関しては、詳細は後述する。
保護層12は、表層材11の表面及び目地部を被覆する層であり、下地層9、目地層10、及び表層材11と同様に、MMA樹脂を結合材とするMMA樹脂モルタルが適用されている。なお、本例の保護層12は透過性を有しており、表層材11の表面に、奥行きのある高級な質感を付与している。また、保護層12には、紫外線による表層材11の変質・劣化を低減するための紫外線吸収剤がさらに配合されている。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、二酸化チタン、及び酸化亜鉛等が例示でき、紫外線を吸収(または遮蔽)する機能を有するものであれば、特に限定されるものではない。ここで、保護層12に適用されるMMA樹脂モルタルが、本発明の「液状の樹脂の混合物」に該当する。
一方、本発明の舗装方法では、目地部を形成する方法として、図3に示すような目地型枠部材14が用いられる。目地型枠部材14は、剥離テープ15と、粘着層16と、発泡層17と、保護テープ18とを具備している。剥離テープ15は、ゴミなどが粘着層16に付着して粘着力が低下することを防止するものであり、切断・折り曲げ・剥離作業などを阻害しない程度の柔らかさを持つシート状物質であれば、材質は特に限定されるものではない。粘着層16は、発泡層17を目地層10に対して貼着させて固定するものであり、発泡層17の裏面側に形成されている。材質としては、ゴム系粘着剤や、アクリル酸エステル等のアクリル系粘着剤等、公知の粘着手段が適用される。
発泡層17は、内部に多数の空隙を有し、粘着層16を介して目地層10上に貼着され、表層材11を区画する部材である。材質としては、多数の空隙を有するものであれば如何なるものであっても良く、発泡性ポリウレタン系樹脂、発泡性ポリエチレン系樹脂、グラスウール等が例示できる。保護テープ18は、発泡層17の表層側(保護テープ18が貼着されている側)から表層材11などが空隙内へと浸透し、固着することを防止するものであり、発泡層17の表層側に形成されている。材質としては、例えばポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、またはポリエチレンテレフタレート(所謂PET)など、比較的薄手で透湿性の低いものが適用される。
なお、剥離テープ15、粘着層16、発泡層17、及び保護テープ18はほぼ等しい表面形状を有している。目地型枠部材14は、厚みが約2mm、幅が約10mmの棒状の物体であり、適宜の長さ(例えば数十メートル程度)のものが環状に巻回された状態で施工現場へと搬送され、所定の長さに切断される。そして、目地層10上に貼着されることで機能するものである(詳細は後述する)。
続いて、本発明の舗装方法について説明する。本発明の舗装方法は、七つの工程、すなわち、「下地層形成工程」、「第一目地貼着工程」、「第二目地貼着工程」、「表層材塗布工程」、「目地型枠剥離工程」、「液溜部形成工程」、及び「保護層塗布工程」に大別することができる。
まず、施工領域を特定し、養生を行う(養生工程)。具体的には、舗装する基盤層2を特定し、基盤層2上にある塵、ゴミ、埃などを、掃除機などで除去する。基盤層2としては、道路、広場、駅のコンコースまたはプラットフォーム等が挙げられるが、本例では特に駅のプラットホーム(ホーム1)を例示している。そして、基盤層2周辺にある既設の舗装層や配置物(ベンチ、自動販売機、ゴミ箱、電柱等)をビニールシートで覆って固定し、以下に続く下地研磨工程において発生する土埃などが配置物等に降りかからないようにする(所謂「養生」をする)。続いて、下地研磨工程では、基盤層2表面を公知の研磨機を用いて削り、下地層9が密着しやすいように平坦にする。そして、平坦になった基盤層2表面を箒など掃き、削り出された細かい土埃などを基盤層2上より取り除く。そして、前述のビニールシートを取り除き、さらに残った細かい汚れ等を公知の集塵機で取り除いて、基盤層2を下地層9が塗布可能な状態へと仕上げる。
次に、「下地層形成工程」では、図2(b)に示すように、平坦になった基盤層2に対して、下地層9及び目地層10を形成する。具体的には、まず、基盤層2の周囲(点字ブロック5及び笠石6を含む)をビニールシート19で覆い、テープ20などで固定する(再養生工程:図4参照)。そして、MMA樹脂及び骨材を配合して樹脂モルタルを作成し、基盤層2上に塗布する。これにより、基盤層2上に残存する細かな凹凸が埋め合わされ、平滑な表面形状を有する下地層9が形成される。なお、樹脂モルタルを基盤層2上に塗布する方法としては、特に限定されるものではなく、例えばローラーや刷毛、鏝など適宜の工具を用いる。
続いて、下地層9の表面に、目地層10を形成する(目地層塗布工程)。すなわち、MMA樹脂、顔料、及び骨材を配合して着色された樹脂モルタルを作成し、この樹脂モルタルを下地層9の表面に一様に塗布する。この際、公知の測量器やレーザー墨出し装置等を用いて、レベリング(施工する面の水平出し)をすると、より好ましい。目地層10は、後述する「目地型枠剥離工程」において目地型枠部材14が剥離された後に、舗装層4を俯瞰した状態で目地部から見える層であり、表層材11の色とは対照的な色(例えば、表層材11が白ベースであれば、黒色や茶色等)に着色することが望ましい。また、顔料を配合せず、自然な色合いをそのまま利用する構成とすることも当然可能である。
次に、目地型枠貼着工程では、目地層10の表面に目地型枠部材14を貼着する。具体的には、まず、公知の測量器やレーザー墨出し装置を用いて、所定の目地模様を形成するための位置だしをする。そして、糸車に収められた細くて丈夫な糸を墨汁に浸し、前述の位置だしに沿って当該目地模様上に糸を配置する。この状態で、糸を爪先で弾くと、目地層10上に糸が衝突して付着していた墨が落ち、目地層10上に所望の目地模様の下書き21(図4参照)が出来上がる。
そして、下書き21に沿って目地型枠部材14を配設する。詳細には図4に示すように、プラットホームの長尺方向に対して略垂直な方向(以下、「横方向」と云う)に描画された下書き21上に、目地型枠部材14を配置する。そして、粘着層16に貼着されている剥離テープ15を剥がし、粘着層16を下書き21に沿って押し付けて、目地層10上に貼着させていく。そして、基盤層2の形状に沿った所定の長さ(例えば、基盤層2の表面積が5m×3mであれば、約5m等)で切断する。こうして、横目地7a(または横目地7b)を形成する横目地部材22が配設される。続いて、下書き21で示される碁盤目状の目地模様のうち、横方向に直交する方向、すなわちホーム1の幅方向に対して略並行な方向(以下、「縦方向」または「幅方向」と云う)に目地型枠部材14を配置する。そして、横方向と同様にして剥離テープ15を剥がし、粘着層16を目地層10上に貼着させる。次に、所定の長さ(前述の例では、約3m)で切断する。こうして、縦目地8a(または縦目地8b)を形成する縦目地部材が配設される。ここで、複数の横目地部材22間の間隔(第一間隔3a)は、例えば300mm程度のものが例示できる。また、この第一間隔3aは、棒状の目地型枠部材14を適用していることにより、自由に変更することが可能である。例えば、図1に示すように、ホーム1の先端部分、つまり、ホーム1上の屋根が途切れて、雨が直接的に降りかかるような部位においては、第一間隔300mmよりも狭い第二間隔3b(150mm等)を用いて、横目地部材22を貼着していくことも容易に可能である(「第二横目地貼着工程」)。なお、粘着層16から剥離テープ15を剥がす工程と、所定の長さに切断して縦部材または横部材を配設する工程との順番は、上記に限られるものではなく、逆であっても良いし、同時進行であっても良い。また、第一横目地貼着工程と第二横目地貼着工程との順番もまた、逆であっても良いし、同時進行であっても良い。なお、横目地部材22が、本発明の「第一横目地型枠部材」及び「第二横目地型枠部材」に該当する。また、第一横目地型枠部材と、これに直交する縦目地部材とを貼着する工程が「第一目地型枠貼着工程」に該当し、第二横目地型枠部材と、これに直交する縦目地型枠部材とを貼着する工程が「第二目地型枠貼着工程」に該当する。
続いて、MMA樹脂、ワックス、骨材、及び硬化剤を配合し、MMA樹脂モルタルを作成する(表層材配合工程)。まず、小型の撹拌装置(公知のミキサー等)の中に、白色系カラーセラミックスを320kg、及び黒色系カラーセラミックスを80kg投入する。黒色系カラーセラミックスについては、より具体的には、黒色ベース骨材が71.5%、グレー補色骨材が23.75%、及びベージュ補色骨材が4.75%の配合比率に基づいて、黒色ベース骨材を57.2kg、グレー補色骨材を19kg、及びベージュ補色骨材を3.8kg投入する。そして、投入された各種骨材をまんべんなく撹拌し、本例における骨材400kgを作成する。
次に、バケツなどの容器内にMMA樹脂を5kg投入する。そして、当該MMA樹脂の中に、硬化剤75g(MMA樹脂の質量に対して1.5%)を投入する。ここで、投入する硬化剤の量は前述に限定されるものではなく、基盤層2の温度及びMMA樹脂の温度に応じて適宜変更可能である。そして、硬化剤の投入されたMMA樹脂の中に、前述で作成した骨材のうち11.2kgを投入し、撹拌する。撹拌時間は、おおよそ45秒〜55秒程度が望ましい。こうして、表層材11が作成される。なお、必要とされる表層材11がもっと多量である場合は、前述の配合にしたがって逐次追加分を作成していく。
そして、「表層材塗布工程」では、図5に示すように、作成された表層材11を目地層10上に塗布していく。さらに、充填された樹脂モルタルの表面を鏝23など適宜の工具で撫でて平らにしていき、目地型枠部材14の厚みと同じ高さになるように均す。こうして、舗装層4が形成される。ここで、表層材11にはワックスが配合されていることにより、MMA樹脂により比重の軽いワックスが表層材11の表面付近に浮上し、膜を形成する。このため、表層材11の内部が大気の酸素から遮断され、MMA樹脂の重合反応が酸素によって阻害されないため硬化が迅速に進行する。
そして、表層材11の表面が乾燥するまで待機する。なお、施工時間を短縮するために、公知の乾燥手段、例えばドライヤーなどを用いて表面を乾燥させても良いが、本実施形態の表層材11には結合材としてMMA樹脂が適用され、さらにMMA樹脂の硬化を促進させる硬化促進剤が添加されている。また、前述のワックスの膜がMMA樹脂の硬化を促進することにより、特段の手段を用いずとも迅速に硬化反応が進行する。
表層材11の表面が乾燥した段階で、目地型枠部材14を目地層10上より剥離する(「目地型枠剥離工程」)。より詳細には、図6に示すように、目地部から目地型枠部材14を抉り出し、目地層10の表面から剥離していく。ここで、表層材11に配合されているワックスは、MMA樹脂より比重が軽いため表層材11の表面付近に集中的に膜を形成し、目地部には膜を形成し難い。また、発泡層17の空隙に含まれる酸素によって、発泡層17と接触している部位(すなわち目地部)の表層材11の重合反応が阻害され、比較的硬化し難い状態となっている。従って、目地部の表層材11と発泡層17とが固着し難く、目地型枠部材14を極めてスムーズに剥離することが可能である。なお、表層材11の表面のみが硬化し、目地部に位置する端面部は柔らかい前述した状態が、本発明の「略硬化した状態」に該当する。
そして、目地部に付着した表層材11のバリや、表面に付着したゴミをスクレイパー等で取り除き、箒で基盤層2外へと掃き出す。そして、テープ20及びビニールシート19を除去する(表層材ケレン工程、養生除去工程)。
次に、「液溜部形成工程」に移行する。図7は、液溜部13を作成する様子を示した説明図である。「液溜部形成工程」では、上述の目地型枠剥離工程までにおいて、ホーム1(図1参照。以下同じ)上に碁盤目状に形成された表層材11のうち、ホーム1の周縁部B(図1参照)に位置する表層材11の表面の一部を研削し、液溜部13を形成する。より具体的には、図7に示すように、適宜の工具を用いて、点字ブロック5及び笠石6(図1参照)に接する部位の表層材11の表面を削り取る。適宜の工具としては、例えば、公知の電動ディスクサンダーや電動ディスクグラインダー、ハンマータガネが例示できるが、ここでは、一般的な小型電動ディスクサンダー29を図示している。液溜部13の形状としては、特に限定されるものではなく、塗布する保護層12(後述する)の量やホーム1の湾曲(または傾斜)形状に合わせて、適宜に選択され得る。本例では、約300mm角に区画形成された表層材11のうち、笠石6から傾斜距離24の間に位置する表層材11の表面を削り、深さ25に達するような傾斜上の切れ込みを入れて、液溜部13を作成している。傾斜距離24は100mm程度、深さ25は5mm程度である。傾斜距離24及び深さ25の数値としては、上記に限定されるものではないが、あまりに大きくしすぎると、笠石6と舗装層4(図1参照)との間に段差が生じてしまい、歩行性を損なうため好適ではない。また、あまりに小さくしすぎると、後述する保護層塗布工程において保護層12の堰26が生じてしまい(詳細は後述する)、排水性および歩行性を損なうためやはり好適ではない。すなわち、上記の程度の数値にすると、舗装層4が平滑に構成でき効果的である、との実証を経験上得ている。そして、研削された表層材11の欠片を、掃除機などを用いて集塵する。
次に、「保護層塗布工程」では、図2(b)に示すように、表層材11の表面及び目地部に保護層12を塗布する。詳細には、まず、保護層12を、基盤層2の表面積に応じて小分けする。例えば、基盤層2の表面積が約100m2の場合は、保護層12の塗布領域を30m2毎に区分けし(30m2×3+10m2)、当該塗布領域を被膜するのに十分な量の保護層12を其々小分けして作成する。保護層12を塗布する際、ローラー、刷毛、鏝、スプレーガンなど適宜の工具を利用するが、これら工具に付着した保護層12の量が変化することにより、一回の塗り初めから塗り終わりまでに、保護層12の膜厚が変化することが懸念される。これにより、表層材11の色の見え方が変化して色むらの原因になる恐れがあるが、本例のように、保護層12を小分けしてこまめに塗布していくことにより、一回の塗り初めから塗り終わりまでに生じる保護層12の膜厚変化を小さくすることができ、色むらの無い舗装層4が提供できる。そして、保護層12を乾燥させ、硬化させる。このようにして、舗装層4が完成する。
ここで、表層材11に液溜部13が形成されていない、従来の舗装方法を用いた場合を説明する。図2(c)に示すように、従来の舗装方法によれば、表層材11の表面高さは全て均一であり、目地型枠部材14(図5参照)の厚みと略等しい高さに形成されている。この状態で、保護層12を塗布すると、ホーム1が周縁部Bに向かって傾斜していることにより、液状の樹脂である保護層12が傾斜に沿って垂れてしまい笠石6との接触部付近で堰26を形成する。なお、図示は省略したが、表層材11も、液状の樹脂の混合物(MMA樹脂モルタル)を塗布して硬化させ、形成するものであるため、保護層12と同様に、笠石6との接触部付近で堰を形成することも考え得る。この状態で、保護層12を塗布すると、表層材11が形成する堰と保護層12の堰26との高さが重畳されて、さらに高さのある堰が形成される虞も生じる。このように、笠石6(または点字ブロック5:図1参照)との接触部付近に堰26等が形成されると、矢印27に示すように、ホーム1上に降り込んできた雨水等がスムーズに排水されず、ホーム1上に滞留する。これにより、歩行者の足元が滑りやすくなり、安全性が低下するという問題があった。また、堰26等に靴が引っ掛かって、歩行者が歩き難さを感じるという虞もあった。
このような問題を解決するために、堰26を適宜の工具で研削するという方法も考え得る。しかし、この方法によれば、図2(c)からも明らかなように、笠石6や点字ブロック5の表面を傷つけてしまう虞がある。点字ブロック5は、目の機能が低下した歩行者などに、ホーム端の場所を知らせる機能を有するものであるので、この表面を傷つけ、点字ブロック5としての機能を損なわせるようなことは、万が一にもあってはならない。また、笠石6は、列車や電車の床面の高さに応じて基準値が定められており、例えば、一般的な列車であれば760mm、利用客の多い電車専用ホームであれば1100mm、電車と列車共用とのホームであれば920mm、新幹線のホームであれば1250mmという厳格な規格が存在する。従って、笠石6の表面を傷つけ、高さが変わってしまったり、配置が歪んでしまうようなことがあれば、笠石6ごと再補修する必要が生じ、極めて不経済である。また、仮に表層材11にも堰が発生すれば、当該堰と保護層12の堰26とを除去する作業が二度手間となり、極めて面倒であった。
これに対し、本発明の舗装方法によれば、図2(b)に示すように、表層材11の表面に液溜部13が形成されていることにより、周縁部Bに向かって垂れてきた保護層12が液溜部13内に収納され、堰26(図2(c)参照)を形成することが無い。従って、平滑な舗装層4を提供することが出来る。また、舗装層4が平滑であることにより、極めて排水性が良く、安全性の高い舗装層4を提供できる。
また、仮に表層材11が垂れてきて、笠石6との接触部付近に堰を生じさせることがあった場合でも、本例では、液溜部形成工程を具備しているから、液溜部13を作成する際に当該堰も一緒に削り取ることができる。これにより、一度のみの研削作業を行うだけで平滑な舗装層4を提供でき、迅速な舗装方法を提供できる。さらに、本発明の舗装方法によれば、点字ブロック5や笠石6の表面を傷つける虞が少ないため、舗装のやり直しにかかるリスクやコストを低減することができ、経済的な舗装方法を提供できる。
さらに、本例の舗装方法によれば、図1に示すように、第一間隔3aと第二間隔3bとの二つの目地間隔を用いて舗装層4が作成されている。これにより、意匠性と安全性とを兼ね備える舗装層4を、比較的簡易に形成することができる。
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
上記実施形態では、棒状の目地型枠部材14を用いて碁盤目状の目地模様を形成する場合を例示したが、この方法に限定されるものではない。すなわち、予め格子状に組み立てられた別途の型枠部材を用いても良いし、碁盤目状ではなく、他の幾何学模様を表現する目地型枠部材を用いても良い。また、目地部を具備しない、平坦な舗装層4にも当然適用が可能である。但し、本例のように、碁盤目状の目地部を有する舗装層4とすると、目地部を伝って水が流れるため排水性が良く、駅のプラットホームや公園の広場などにも好適に使用され得る。さらに、棒状の目地型枠部材14を用いることによって、基盤層2の湾曲や傾斜の形状に応じて自由に目地模様を変更できるため、比較的簡易に意匠性の高い舗装層4を提供できる。
また、上記実施形態では、下地層9、目地層10、表層材11、及び保護層12にMMA樹脂モルタルを用いるものを例示したが、この構成に限定されるものではない。例えば、エポキシ性樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、及びビニルエステル系樹脂などを用いた樹脂モルタルであっても構わない。要するに、ホーム1に代表されるような湾曲した施工面上を舗装するものであれば、如何なるものであっても良い。