JP4385394B2 - クライオスタット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、非破壊生体検査システムとして、例えば極低温におけるジョセフソン効果を利用して脳などの生体磁気を計測するSQUID(Superconducting Quantum Interference Device)磁束計測システムに使用される測定センサ等を冷却保持するためのクライオスタットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図4は従来のクライオスタットの構成を示す縦断面図である。
図4において、クライオスタット1は、内槽2と外槽3によりその本体が形成されており、それらは例えばガラス繊維強化プラスチック(Glass Fiber Reinforced Plastics、以下GFRPと記す)を素材として形成されている。
【0003】
そして、内槽2は有底円筒状の本体部2aと、本体部2aの上部に本体部2aよりも径を絞られて形成された円筒状のネック部2bとからなり、本体部2aの底部は人の頭部に適合するように円弧状に形成されている。
【0004】
そして、生体検査用のセンサ(SQUIDセンサアレー)4がネック部2bより内槽2の本体部2a内に挿入されて円弧状の底部に設置され、このセンサ4を冷却する冷媒として例えば液体ヘリウムがネック部2bより本体部2aの内部に充填され、ネック部2bの内部には断熱材5が設けられている。
【0005】
外槽3は、内槽2を囲むように配置され、外槽3の内壁と内槽2の外壁との間には真空層6が形成されている。
また、外槽3の側面には真空層6に連通する真空引口3aが形成され、外槽3の底部は内槽2の円弧状の底部を囲むように形成されて、その外部に脳磁計測部3bが形成されている。
【0006】
そして、ネック部2bの側面には、例えば銅からなるドーナツ状の高温用のサーマルアンカ7a、低温用のサーマルアンカ7bが順次内槽2の下方に接続されて真空層6内に配置されている。
これらのサーマルアンカ7a,7bは、例えば銅などで形成された熱伝導率が高く、かつ熱容量の高い熱溜めである。
【0007】
そして、このサーマルアンカ7a,7bには、それぞれ例えば銅からなる網状で外部からの輻射熱をシールドするサーマルシールド8a,8bが互いに熱伝導可能に接続され、サーマルシールド8bを内側、サーマルシールド8aを外側として内槽2を順次取り囲むように真空層6内に配置されている。
【0008】
この場合、低温用のサーマルアンカ7bに接続されたサーマルシールド8bは、内槽2の円弧状の底部近傍の真空層6内においては人の頭部に適合する円弧状に形成されている。また、サーマルアンカ7b下部のネック部2bの周囲には真空層6内のガスを吸着するために例えば活性炭等の吸着材9が巻き回されて設けられている。
【0009】
次に図4に示したクライオスタットにおいて外部からの熱の侵入を防止するサーマルシールド効果について説明する。
内槽2内の液体ヘリウムは外部からの放射・伝導による侵入熱で少しづつ蒸発し、蒸発したヘリウムはネック部2bと断熱材5の隙間を上昇し、その際にネック部2bが冷却され、ガスが熱を吸収し熱交換が行われる。
【0010】
そして、2段に構成されたサーマルアンカー7a,7bが冷却されることにより、同様に2段に構成されたサーマルシールド8a,8bが冷却され、外槽3の外部から侵入する輻射熱を吸収することで、内槽2に熱が伝わらないようにしており、これをサーマルシールドと呼んでいる。
【0011】
そして、高温用のサーマルシールド8aは例えば100〜180Kと比較的温度が高く、低温用のサーマルシールド8bは20〜50Kと低く設定され、サーマルシールド8a,8bとの間、内槽2、外槽3の壁との間隙は、アルミを蒸着したスーパーインシュレーションと呼ばれるフィルム状の薄膜(図示せず)を互いに接触しないように挟んで多数枚組込み、多重の熱シールドを実現することで輻射による熱侵入を極めて低くするようにしている。
【0012】
このようなクライオスタット1の製造においては、ガス分子による伝熱を下げる為に、クライオスタット1を恒温槽に入れて全体の温度を上昇させ、この状態で真空ポンプを真空引口3aに接続して1週間〜1ヶ月の長時間真空引きをする。しかし、生体磁気計測用クライオスタットはGFRPなどのプラスチックを素材とするため、素材中の水分を主成分とする脱ガスがあり高真空は望めない。
【0013】
そして、液体ヘリウムなどの冷媒を内槽2の内部に注入するため、内槽2の壁面などが冷却されてクライオポンプ効果で、結果的には真空層6に存在するヘリウムガス以外の気体の分圧は、内槽2の外壁面付近は極めて低くなり断熱効果が出てくる。
一般的に、真空層6内の気体分子の密度は外槽3の内側から内槽2の外側に向かって小さくなっていると考えられている。
【0014】
しかし、高温用のサーマルシールド8aなどは気体分子がある程度の密度で存在するため冷却前の全体の初期真空度が高ければ、その分だけ気体分子による外槽3付近の熱輸送が少なくなる。このため、真空引きは出来る限り真空度が上昇するように実施される。
【0015】
一方、クライオポンプが効かないヘリウムガスは活性炭などの多孔質の吸着材9で吸収され、総合的には内槽2の壁面近傍の真空度は高くなりガスによる熱侵入は極めて小さくなる。
そして、その結果として液体ヘリウムの蒸発速度はわずかなものとなる。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このようなクライオスタットには次のような問題点があった。
1.製作時の真空引きに長時間かかるのは、GFRPの素材そのものの脱ガスとともに、スーパーインシュレーションと呼ばれる輻射防止用のフィルムの表面積が極めて大きく、吸着した水分等の脱ガスが多いことと併せ、脱ガスを促進する温度まで上昇させるとGFRPの構造材や接着剤への悪影響があるいため、比較的低温で真空引きをせざるを得ないことによる。
【0017】
このため、全体をくまなくゆっくりと温度上昇させ、歪をできるだけ与えないようにしながら時間をかけて温度を上げた後、真空引きをしなければならない。また、温度を上昇させるための大型恒温槽の設備も必要で時間とコストがかかり、なおかつ脱ガスの効果を狙うには比較的低温なため真空度もさほど上がらないという問題点がある。
【0018】
2.液体ヘリウムを冷媒とする生体磁気計測用のクライオスタットはGFRPできているため、ガスの微少な透過は免れることができない。
外槽3の内壁と内槽2の外壁の隙間が狭い部分などのサーマルシールドの弱い部分は特に、透過したガスがある程度以上になり真空度が低下してくると結露することがある。
また、内槽2のネック部2bは蒸発ガスで熱交換しているものの、比較的温度の高い部分で、フランジ付近では常温に近い。
【0019】
GFRPは温度が高いとヘリウムガスを透過するため、常にこの部分からヘリウムガスが真空層6内に供給されているが、その量はばらついている。
通常、ヘリウムガスを吸着させるのに十分な容量を持つ吸着材9を内蔵させるが、透過量が多いと時間の経過と共に吸着しきれないガスが内部の真空度を下げていき、蒸発量が上昇することがある。
これらの原因で蒸発量が上昇した際は、一旦クライオスタット1を常温に戻し、ポンプで真空引きをしなければならない。
【0020】
真空引きの頻度はクライオスタット1の出来や、製造初期の真空度でばらつくが、1年から5年程度である。このようなメインテナンス時は、常温のまま真空引きするため、真空度はそれほど上がらない。
真空度の劣化が激しい場合や、早く真空度を上げる場合は、製造時同様クライオスタット1を恒温槽に入れて全体の温度を上昇させ、真空層6の容器内壁及び吸着材9からの脱ガスを促進させる必要がある。
【0021】
しかし、クライオスタット1内にはセンサ4が組込まれている為温度はそれほど上げられず、またセンサ4を取り出すとしても、その作業コストと時間は製造時以上にかかることになり大きな問題となる。
【0022】
一方、生体磁気計測用のセンサ4の交換が必要になることが時としてあり、このような場合にも液体ヘリウムを全て蒸発させて内部温度を室温まで上げねばならず、やはり時間がかかる。
温度を上昇させるため、外部から内槽2内などにガス供給したり、内槽2内にヒータを組込むなどの手段で強制的に温度をあげることも考えられるが、内槽2やセンサ4、内部ケーブルは局部的な温度上昇による歪に対して強くはないため、通常このようなことはしない。
【0023】
クライオスタット1は外部からの熱侵入が極めて小さいため、液体ヘリウムを抜いてメインテナンスする際、常温に戻るまで少なくとも1週間から2週間が必要となる。液体ヘリウムが内部に残っている場合は、さらに自然蒸発までの時間が必要となる。また真空引きには少なくとも数日〜1週間はかかる。したがって、これらのメインテナンスは非常に時間がかることと併せ、手間がかかることも大きな問題となる。
【0024】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、機器に熱的な損傷を加えることなく、メインテナンス時間及びメインテナンスの手間を低減すると共に、製造時の真空引きのコストと真空引き時間を低減、短縮することができるクライオスタットを実現することを目的とする。
【0025】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1においては、内部に生体検査用のセンサが設置されると共に前記センサを冷却する冷媒が充填される本体部とこの本体部に接続された筒状のネック部とを有する内槽と、前記内槽を囲むように配置され前記内槽の外壁との間に真空層を形成する外槽と、前記ネック部に接続されて前記真空層に配置されるサーマルアンカーと、前記サーマルアンカーに接続されて前記真空層に配置されるサーマルシールド、とを有するクライオスタットにおいて、前記サーマルアンカーと前記サーマルシールドの少なくともいずれかを加熱する少なくとも一つのヒータを設けたことを特徴とする。
【0026】
本発明の請求項2においては、請求項1記載のクライオスタットにおいて、前記サーマルシールドは網状であり、前記ヒータは前記サーマルシールドに編み込まれるか巻き回されていることを特徴とする。
【0027】
本発明の請求項3においては、請求項1または請求項2記載のクライオスタットにおいて、前記真空層に配置されガスを吸着する吸着材と、この吸着材を加熱するヒータを設けたことを特徴とする。
【0028】
本発明の請求項4においては、請求項3記載のクライオスタットにおいて、前記ヒータは前記吸着材の周囲または内部に配置されることを特徴とする。
【0031】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
尚、以下の図面において、図4と重複する部分は同一番号を付してその説明は適宜に省略する。
図1は本発明によるクライオスタットの構成を示す縦断面図である。
【0032】
図1において、10a,10bはサーマルアンカー7a,7bに熱伝導可能に固定されたヒータであり、通電されることにより真空層6を加熱する。
ヒータ10a,10bは、例えばセラミックまたはマンガニンなどの高抵抗の金属線であり、外部より通電するための引出線11を兼用するようにしても良い。
【0033】
尚、引出線11は熱伝導による外部からの熱侵入を低減させるためにネック部2bの周囲に巻き付けられている。尚、引出し線11は細い銅線などでもよい。また、図には示さないが、ヒータ10a,10bの近傍に熱電対などの温度センサを設置して外部に引き出し、温度をモニタできるようにしてもよい。
【0034】
尚、真空層6を加熱するために、サーマルアンカー7a,7b以外に、内槽2の外壁と外槽3の内壁の両方またはいずれか一方にヒータ線(図示せず)を設置するようにしても良い。
【0035】
また、サーマルシールド8a,8bは通常、網状の銅等で作成されるが、この網状にヒータ線(図示せず)を編み込むか、巻き付けるなどして全体が一様に加熱される構造にしても良い。
【0036】
12は吸着材9を加熱するために熱伝導可能に接触させたヒータであり、吸着材9に熱を均一に伝播させるために吸着材9の周囲に巻き回されている。
また、ヒータ12は、図2に示すように吸着材9の内部に配置しても良い。
【0037】
図2において、9は活性炭等の吸着材、13はこれを保持する為の紙などの多孔質の容器、14は引出線であり、吸着材9の内部にヒータ12が設置されている。
図3は吸着材9を連続して接続した場合の構成例を示すものであり、この連続して接続された吸着材9は、ネック部2bの周囲に巻き回される。
【0038】
次に、図1に示したクライオスタットの動作について説明する。
ヒータ10a,10bに電流を供給すると、サーマルアンカー7a,7bの温度が上昇し、サーマルアンカー7a,7bに接続されたサーマルシールド8a,8bも徐々に熱伝導により温度上昇し、真空層6内は全体的に均一に温度が上昇する。
【0039】
この場合、熱伝達経路はサーマルアンカー7a(7b)→サーマルシールド8a(8b)、サーマルアンカー7a(7b)→ネック部2bであるため、脱ガスを促進した部分から先に温度上昇させることができる。
【0040】
従って、製造時においてはネック部2bや内槽2の内側を例えば空冷などで冷却させながら、真空層6内にある構造材(スーパーインシュレーションを含む)のみの温度を上昇させ、接着部や構造部の温度を上げることなく効果的な真空引きを実施することができる。
また、メインテナンス時では、低い温度にあるときでも内槽2及び外槽3に熱的なストレスを与えずに徐々に温度を上げることができる。
【0041】
また、網状のサーマルシールド8a,8bに編み込むか、巻き付けられたヒータ(図示せず)に電流を供給すると、サーマルシールド8a,8bが直接加熱されて真空層6内の温度が上昇する。
この場合、製造時、メインテナンス時において、サーマルアンカー7a,7bにヒータ10a,10bを設置した場合と同様の効果を得ることができるとともに、サーマルアンカー7a,7bにヒータ10a,10bを設置した場合に比較してより小さい電流で温度を上昇させることができる。
【0042】
また、内槽2の外壁と外槽3の内壁の両方またはいずれか一方に設置されたヒータ(図示せず)に電流を供給すると、それらの壁面全体が加熱されて真空層6内の温度が上昇する。
この場合、サーマルアンカー7a,7bにヒータ10a,10bを設置する場合と比較してより小さい電流で温度を上昇させることができる。
【0043】
また、内部の冷媒に直接大量の熱を供給できる為、より早く蒸発を促したり、容器の温度を上昇させることができる。
また、壁面に接触させたヒータに給電して全体の温度を室温以上に上昇させることで、真空引きの際には脱ガスを促して、より早い真空度の上昇を得ることが出き、さらにヒータを外槽3の内壁に設置して加熱した場合、外槽3の壁面の脱ガスも促進することができる。
【0044】
そして、吸着材9に接続されたヒータ12に電流を供給し、吸着材9の温度をガスが放出される温度まで上昇させて吸蔵ガスを排出させることにより、容器全体の温度を上昇させなくても、速やかに吸着材を再生させることができる。
従って、容器へ熱ストレスを与えて劣化させることなく、早い真空引きが可能となる。
【0045】
また、図2及び図3に示したように、吸着材9の内部にヒータ12を設けた場合は、周囲に熱を奪われること無く効果的に吸着材9の温度のみを上昇させることができるため、吸蔵ガスの放出により吸着材9の再生の速度がさらに向上する。
この場合、水など離脱温度の高いガスも、周囲の温度をそれほど上昇させること無く吸着材9の温度のみを上昇させることが出来る為、周囲の構造材への影響をさらに少なくすることができる。
【0046】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、真空層を加熱するためのヒータをサーマルアンカとサーマルシールドの少なくとも一つに設けるようにしたので、機器に熱的な損傷を加えることなく、メインテナンス時間及びメインテナンスの手間を低減すると共に、製造時の真空引きのコストと真空引き時間を低減、短縮することができるクライオスタットを実現することができる。
【0047】
また、本発明によれば、真空層内に設けられた吸着材を加熱するヒータを設けたので、機器全体の温度を上昇させること無く、速やかに吸着材を再生させることができ、機器に熱的な損傷を加えることなく、メインテナンス時間及びメインテナンスの手間を低減すると共に、製造時の真空引きのコストと真空引き時間を低減、短縮することができるクライオスタットを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるクライオスタットの構成を示す縦断面図である。
【図2】吸着材の内部にヒータを配置した場合の構成図である。
【図3】内部にヒータを配置した吸着材を連結させた場合の構成図である。
【図4】従来のクライオスタットの構成を示す縦断面図である。
【符号の説明】
1 クライオスタット
2 内槽
2b ネック部
3 外槽
4 センサ
5 断熱材
6 真空層
7a,7b サーマルアンカ
8a,8b サーマルシールド
9 吸着材
10a,10b,12 ヒータ
Claims (4)
- 内部に生体検査用のセンサが設置されると共に前記センサを冷却する冷媒が充填される本体部とこの本体部に接続された筒状のネック部とを有する内槽と、前記内槽を囲むように配置され前記内槽の外壁との間に真空層を形成する外槽と、前記ネック部に接続されて前記真空層に配置されるサーマルアンカーと、前記サーマルアンカーに接続されて前記真空層に配置されるサーマルシールド、とを有するクライオスタットにおいて、
前記サーマルアンカーと前記サーマルシールドの少なくともいずれかに、前記真空層を加熱するヒータを設けたことを特徴とするクライオスタット。 - 請求項1記載のクライオスタットにおいて、
前記サーマルシールドは網状であり、前記ヒータは前記サーマルシールドに編み込まれるか巻き回されていることを特徴とするクライオスタット。 - 請求項1または請求項2記載のクライオスタットにおいて、
前記真空層に配置されガスを吸着する吸着材と、この吸着材を加熱するヒータを設けたことを特徴とするクライオスタット。 - 請求項3記載のクライオスタットにおいて、
前記ヒータは前記吸着材の周囲または内部に配置されることを特徴とするクライオスタット。
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