JP4374564B2 - 投影レンズ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、有限距離に配置された物体の像を形成する結像光学系に関し、さらに詳しくは、スキャナー用光学系等に用いられる投影レンズに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、有限距離の物体の像をセンサーやフィルム上に投影する光学系があるが、その一例としてスキャナー用光学系が知られている。スキャナー用光学系では、原画の情報を忠実に読み取ることが要求されることから、単色に対する球面収差などの各補正に加えて、軸上色収差及び倍率色収差が良好に補正されていることが必要である。そこで、いずれの諸収差も良好に補正するために、特殊低分散ガラスを多用して構成されたもの(例えば、特許文献1を参照)や、単層の回折光学素子を用いて構成されたもの(例えば、特許文献2を参照)が知られている。
【0003】
【特許文献1】
特開2002−148514号公報
【特許文献2】
特開平11−326753号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、スキャナー用光学系を用いて、原稿面上の画像情報をCCD等のラインセンサー面上に縮小結像させ、該ラインセンサーからの信号により画像情報を電子情報として読み取る際には、原稿面全体をラインセンサー面上に高解像力で結像させることが重要である。
【0005】
例えば、スキャナー用光学系において軸上色収差の補正が不十分な場合、イメージスキャナー等のカラー画像読み取り用に用いると、B(青)、G(緑)、R(赤)の3波長域の最良像面位置(光軸上における光学性能が最も高くなる位置)が光軸方向にずれて、十分な光学性能を得ることができず、読み取り画像の劣化を招くという問題があった。
【0006】
また、倍率色収差の補正が不十分な場合、各波長域によって読み取り画像の大きさ(光軸からの高さ)が変化するため、上記の軸上色収差と同様に、読み取り画像の劣化を生じるという問題があった。
【0007】
このため、スキャナー用光学系では、従来、広帯域波長に対しても色収差が補正された特殊低分散ガラスの多用や、貼り合わせ面を増やすことで、(軸上及び倍率)色収差の補正を行っていた。しかしながら、特殊低分散ガラスは、材料そのものが高価な上に、加工性が悪いという問題があった。また、貼り合わせ面を増やすことは、該光学系の構成レンズ枚数を増やすことにつながり、さらにコストの高騰を招くという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、回折光学素子を効果的に応用し、高価な特殊低分散ガラスを用いずとも、可視域において色収差が良好に補正された投影レンズ(スキャナー用光学系等)を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記問題を解決するために、本発明の投影レンズは、有限距離の結像光学系において、物体からの主光線の光軸に対する傾き角度が20度以下であって、物体側から順に、正の屈折力を有する前レンズ群と、回折光学面を有する回折光学素子と、正の屈折力とを有する後レンズ群とを備え、前記前レンズ群は、物体側から順に、正レンズと、正メニスカスレンズと、正レンズと負レンズとの貼り合わせレンズとからなり、前記回折光学素子は、異なる光学材料からなる少なくとも2層の構成であり、前記後レンズ群は、物体側から順に、負レンズと正レンズとの貼り合わせレンズと、正メニスカスレンズと、正レンズとからなり、前記回折光学面の有効径(直径)をC(但し、複層の場合は空気との界面の直径)、本光学系のレンズの第1面から最終面までの長さをTとしたとき、次式0.05<C/T<3.0の条件を満足する。
【0010】
また、前記回折光学素子を有する投影レンズは、物像間距離をLとしたとき、次式0.05<T/L<1.0の条件を満足することが好ましい。
【0011】
また、前記回折光学素子を構成する少なくとも2層の異なる光学材料は、d線(λ=587.6nm)の屈折率をΔndとしたとき、次式Δnd>0.03の条件を満足することが好ましい。
【0012】
また、前記前レンズ群と前記後レンズ群との間に開口絞りが配置され、前記前レンズ群は、最も物体側の正レンズのd線(λ=587.6nm)の焦点距離をf1a、物体側から2番目の正レンズのd線の焦点距離をf1b、物体側から3番目の正レンズのd線の焦点距離をf1c、投影レンズ全系のd線の焦点距離をfとしたとき、次式f1a/f>f1b/f>f1c/fの条件を満足することが好ましい。
【0013】
また、前記前レンズ群と前記後レンズ群との間に開口絞りが配置され、前記後レンズ群は、最も像側の正レンズのd線(λ=587.6nm)の焦点距離をf2a、像側から2番目の正レンズのd線の焦点距離をf2b、像側から3番目の正レンズのd線の焦点距離をf2c、投影レンズ全系のd線の焦点距離をfとしたとき、次式f2a/f>f2b/f>f2c/fの条件を満足することが好ましい。
【0014】
また、前記回折光学素子は、開口絞りと一体であり、該回折光学素子の少なくとも前後のどちらかに隣接して迷光絞りを有し、前記回折光学面に入射する最大像高の主光線の光線角度(光軸となす角)の大きさをW(単位:度)としたとき、次式0.01<W<15.0の条件を満足することが好ましい。
また、前記前レンズ群と前記後レンズ群との間に開口絞りを有し、前記前レンズ群の前記負レンズ及び前記後レンズ群の前記負レンズのうち少なくともどちらかの負レンズは、アッベ数νd、屈折率ndとしたときに、次式νd<45、nd<1.80の条件を満足するガラス材料からなることが好ましい。
また、使用倍率をβとしたとき、次式−1.5≦β≦−0.5の条件を満足することが好ましい。
また、前記回折光学素子を構成する2種類の光学材料のアッベ数の差をΔνdとしたとき、次式Δνd>10.0の条件を満足することが好ましい。
また、前記前レンズ群及び前記後レンズ群のうち少なくともどちらかのレンズ群は、第2の回折光学面を有することが好ましい。
また、前記第2の回折光学面に入射する最大像高の主光線の光線角度(光軸とのなす角)の大きさをW(単位:度)としたとき、次式0.01<W<15.0の条件を満足することが好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る投影レンズの実施の形態について説明する。本発明の投影レンズは、物体側から順に、正の屈折力を有する前レンズ群GF、回折光学素子DOEと一体化した開口絞りS、正の屈折力を有する後レンズ群GRを備えて構成されている。いずれの実施例も、前レンズ群GFは、物体側から順に、正レンズL1〜L3、負レンズL4が配置されている。また、後レンズ群GRは、開口絞りSを挟んで、前レンズ群GFとほぼ対称な構造、すなわち物体側から順に、負レンズL5、正レンズL6〜L8が配置されている。このような構成により、前レンズ群GFと後レンズ群GRの(略)対称性を利用して、軸上及び軸外の諸収差を良好に補正することができる。
【0016】
また、本発明では、回折作用による面(以下、回折光学面という)を導入することにより、特に色収差に関して優れた補正が可能であり、且つ、回折光学素子に特有の問題であったフレアを低減し、その結果、優れた光学性能を達成することができることを見出した。以下、この点について詳述する。
【0017】
一般に、光線を偏向させる作用として、屈折作用、反射作用、及び回折作用の3種類が知られている。本発明において、回折光学面とは、光波としての回折作用を利用することにより光を屈曲させ、種々の光学作用を得ることのできる面をいう。具体的には、回折光学面は、負分散を生じさせることができること、小型化しやすいことなど、数々の利点を有している。その中でも特に、色収差補正に極めて有効であることが知られている。なお、このような回折光学素子の性質に関しては、「『回折光学素子入門』応用物理学会日本光学会監修」に詳しい。
【0018】
さて、本発明に係る投影レンズにおいては、回折光学面を有する一般の光学系の場合と同様に、回折光学面を通過する光線角度は、できるだけ小さい方が好ましい。これは、上記光線角度が大きくなると、回折光学面によるフレアが発生しやすくなり、画質を損ねてしまうからである。そこで、回折光学面によるフレアがあまり影響を及ぼさずに良好な画像を得るためには、本光学系の場合、その角度を15度以下とすることが望ましい。さらに、回折光学素子を少なくとも2種類の光学材料から構成することにより、一層良好な結像性能を得られることを見出した。
【0019】
以下、条件式の説明に沿って、本発明の投影レンズを詳細に説明する。本発明の投影レンズにおいて、物体からの主光線の光軸に対する傾き角度θは、20度以下とすることが望ましい。これによって高次の像面湾曲及びコマ収差の発生を防ぐことができる。なお、本発明の効果をより発揮するには、前記θは7度以下であることが望ましい。また、本発明において、回折光学素子が有する回折光学面の有効径(直径)をC(但し、複層の場合は空気との界面の直径)、本光学系のレンズの第1面から最終面までの長さをTとしたとき、次式(1)を満足する。
【0020】
【数1】
0.05<C/T<3.0 (1)
【0021】
上記条件式(1)は、回折光学面を有するレンズの適切な有効径(直径)Cと本光学系のレンズの第1面から最終面までの高さとの比における適切な範囲を規定している。条件式(1)の上限値を上回ると、有効径Cが大きくなりすぎ、回折光学面の製作が困難となりコストアップにつながるとともに、鏡筒径の大型化を招きやすくなる。また、回折光学面に外部からの有害光が入りやすくなり、フレア等による画質低下を招きやすくなる。また、収差上において、球面収差の発生が甚大となり、良好な結像性能を得ることができない。反対に、条件式(1)の下限値を下回ると、有効径Cが小さくなりすぎて回折光学面の格子ピッチが小さくなる傾向が強まり、回折光学面の製作が困難となりコストアップにつながるばかりか、(回折)格子によるフレア発生が大きくなり画質低下を招きやすくなる。さらには、光量不足の傾向が強まり不都合である。なお、本発明の効果を十分に発揮するには、条件式(1)の上限値を2.0とすることが好ましい。また、下限値を1.0とすることが好ましい。
【0022】
また、前記回折光学素子を有する投影レンズは、物像間距離をLとしたとき、次式(2)を満足する。
【0023】
【数2】
0.05<T/L<1.0 (2)
【0024】
上記条件式(2)は、本光学系のレンズの第1面から最終面までの長さTと物像間距離Lとの比における適切な範囲を規定している。条件式(2)の上限値を上回ると、本光学系のレンズの第1面から最終面までの長さTが大きくなりすぎて、鏡筒の重量が大きくなり軽量化に不適である。また、鏡筒が長くなりすぎて自重により鏡筒自身に撓みが発生して個々のレンズが偏芯しやすくなり、画質の劣化を招きやすい。反対に、条件式(2)の下限値を下回ると、本光学系のレンズの第1面から最終面までの長さTが小さくなりすぎて、レンズ厚が小さくなる。その結果、収差補正の自由度が少なくなり、軸外収差の補正が困難となって不都合が生じる。なお、本発明の効果を十分に発揮するには、上限値を0.4とすることが望ましい。また、下限値を0.15とすることが望ましい。
【0025】
また、本発明に係る投影レンズにおいて、回折光学素子を構成する少なくとも2層の異なる光学材料は、d線(λ=587.6nm)の屈折率をΔndとしたとき、次式(3)を満足する。
【0026】
【数3】
Δnd>0.03 (3)
【0027】
上記条件式(3)は、回折光学面Gfを構成する2種類の光学材料の屈折率差を規定している。条件式(3)の下限値を下回ると、格子の段差部分の高さが大きくなって反射や散乱等のフレアが発生して、角度特性(入射光線の入射角の変化に対する回折効率の低下の度合い)が悪くなったり、或いは諸波長に対する回折効率が低下してしまったりするため不都合である。
【0028】
また、本発明に係る投影レンズにおいて、前レンズ群は、4枚以上のレンズで構成されるとき、最も物体側の正レンズのd線(λ=587.6nm)の焦点距離をf2a、物体側から2番目の正レンズのd線の焦点距離をf2b、物体側から3番目の正レンズのd線の焦点距離をf2c、投影レンズ全系のd線の焦点距離をfとしたとき、次式(4)を満足する。
【0029】
【数4】
f1a/f>f1b/f>f1c/f (4)
【0030】
上記条件式(4)は、前レンズ群GFでの正レンズの適切なパワー配置を規定している。本発明は、開口絞りSを挟んで前レンズ群GFと後レンズ群GRが略対称型に構成されているため、軸上光線の光線高さは物体側から開口絞りSに向かって小さくなる。したがって、個々の正レンズでは球面収差の発生を抑えるために、軸上光線の光線高さが高いほど、レンズの屈折力を小さくすることが好ましいことを示している。この条件式(4)において、f1a、f1b、f1cのいずれかが一つでもこの条件を外れると、十分な球面収差補正を達成することが困難となり、良好な画質を得ることが難しい。
【0031】
また、本発明に係る投影レンズにおいて、後レンズ群GRが、4枚以上のレンズで構成されるとき、最も像側の正レンズのd線(λ=587.6nm)の焦点距離をf2a、像側から2番目の正レンズのd線の焦点距離をf2b、像側から3番目の正レンズのd線の焦点距離をf2c、投影レンズ全系のd線の焦点距離をfとしたとき、次式(5)を満足する。
【0032】
【数5】
f2a/f>f2b/f>f2c/f (5)
【0033】
上記条件式(5)は、後レンズ群GRでの正レンズの適切なパワー配置を規定している。本発明は、開口絞りSを挟んで前レンズ群GFと後レンズ群GRが略対称型に構成されているため、前述の条件式(4)と逆に、軸上光線の光線高さは開口絞りSから像側に向かって大きくなる。したがって、個々の正レンズでは球面収差の発生を抑えるために、軸上光線の光線高さが高いほど、レンズの屈折力を小さくすることが好ましいことを示している。この条件式(5)において、f2a、f2b、f2cのいずれかが一つでもこの条件を外れると、十分な球面収差補正を達成することが困難となり、良好な画質を得ることが難しい。
【0034】
また、本発明に係る投影レンズにおいて、回折光学素子は、開口絞りSと一体であり、該回折光学素子の少なくとも前後のどちらかに隣接して迷光絞りを有し、回折光学面Gfに入射する最大像高の主光線の光線角度(光軸となす角)の大きさをW(単位:度)としたとき、次式(6)を満足する。
【0035】
【数6】
0.01<W<15.0 (6)
【0036】
上記条件式(6)は、回折光学面Gfに入射する最大像高の主光線の適切な光線角度(光軸となす角)の大きさW(単位:度)の範囲を規定する。一般に、回折光学素子は、微小間隔(約1mm)当たり数百本程度の細かい等間隔の溝状の格子構造を備えて作られた光学素子であり、光が入射されると溝のピッチ(間隔)と光の波長とで定まる方向に回折光束を生じさせる性能を有している。ここで、条件式(6)の上限値を上回ると、回折光学面Gfに入射する光線角度が大きくなりすぎて、回折光学素子に形成されている格子の段差部分による散乱、反射等のフレア発生が甚大となり、所望の光学性能を得ることが難しい。反対に、条件式(6)の下限値を下回ると、各高さの像を形成する光束において充分な太さが取れなくなり、その結果、充分な像の明るさが確保できなくなるという不都合が生じる。
【0037】
また、本発明の投影レンズにおいて、優れた色収差補正を達成するために、開口絞りSを挟んだ2つのレンズ群GF,GRを各々貼り合わせレンズで構成することが望ましい。このとき、上記2つのレンズ群GF,GRのうち少なくともどちらかのレンズ群には、アッベ数νd、屈折率ndとしたとき、次式(7),(8)を満足するガラス材料からなる負レンズを有することが望ましい。
【0038】
【数7】
νd<45 (7)
nd<1.80 (8)
【0039】
条件式(7),(8)を満足する負レンズを有することにより、単色色収差及び軸上色収差を補正して画面全体にわたり良好な性能を確保できるとともに、画面周辺の倍率色収差を良好に補正することできる。さらに、上述のように、本レンズ系に貼り合わせレンズが設けられたとき、該貼り合わせレンズを光線が通過する際、色収差の発生を極力抑えることができる。
【0040】
条件式(7)の上限値を上回ると、色収差の補正が困難となる。特に、短波長の色収差が負側に大きく発生して、その補正が困難となる。なお、本発明の効果を十分に発揮するには上限を40.0とすることが望ましい。
【0041】
条件式(8)の上限値を上回ると、ペッツバール和が正側に大きくなって、像面の曲がりが大きくなってしまい、良好な画質が得ることが難しい。
【0042】
また、本発明の投影レンズにおいて、使用倍率をβとしたとき、−1.5≦β≦−0.5の範囲にあることが良好な結像性能を得るために望ましい。これは、本発明が開口絞りSに対して略対称な構成となっているためである。なお、本発明の投影レンズを完全対称系とすることもできる。このとき、使用倍率は−1.0倍であり、倍率色収差や歪曲収差の発生をほぼ抑えることができるので、収差補正においてより好ましい配置である。なお、本発明の効果を十分に発揮するには、上限値を−0.8とすることが望ましい。また、下限値を−1.2とすることが望ましい。
【0043】
また、本発明の投影レンズにおいては、さらに良好な性能を達成するため、回折光学素子を構成する2種類の光学材料のアッベ数の差をΔνdとしたとき、次式(9)を満足することが望ましい。
【0044】
【数8】
Δνd>10.0 (9)
【0045】
上記条件式(9)の下限値を下回ると、回折効率の波長特性が悪化してしまう不都合が生じる。すなわち、回折光学面Gfを形成する回折格子溝の高さが高くなり反射、散乱等のフレアが発生して、角度特性が悪くなったり或いは諸波長に対する回折効率が低下して、画質が劣化する。なお、本発明の効果を十分に発揮するには、上限値を20.0とすることが望ましい。そのとき、d線に対するブレーズ条件h=λd/Δndを満足するように格子高さhを選べば、d線,g線の回折効率(強度)ηをいずれも95%とすることができる。ここで、λdは、d線の波長を示す。また、回折効率(強度)ηは回折光学面において、入射する光の強度I0に対する一次回折光の強度I1の割合、すなわちη=I1/I0とする。
【0046】
そして、実際に本発明に係る投影レンズを構成する場合、前レンズ群GFには、物体側から順に、最も物体側に正レンズを有し、正メニスカスレンズと、正レンズと負レンズの貼り合わせレンズ有することが望ましい。また、後レンズ群GRには、物体側から順に、負レンズと正レンズの貼り合わせレンズと、正メニスカスレンズと、正レンズから構成されることが望ましい。ここで、良好な色消しのために、いずれの正レンズもアッベ数が45以上であることが望ましい。
【0047】
また、本発明の投影レンズにおいて、前レンズ群GF、後レンズ群GRのいずれかのレンズ面を回折光学面Gfとすることもでき、このとき条件式(6)を満たすことが好ましい。このように回折光学素子を備えることにより、高価な低分散ガラスを用いずとも優れた光学性能を得ることができるとともに、コストを抑えることができる。
【0048】
なお、本発明に係る投影レンズは、スキャナー以外、例えば、投影露光レンズ、近距離撮影レンズ等にも適用することが可能である。また、本発明に係る投影レンズに、非球面レンズ、屈折率分布型レンズ等を付加することにより、さらに良好な光学性能を得ることが可能である。
【0049】
【実施例】
以下、本発明の各実施例を添付図面に基づいて説明する。なお、各実施例において、回折光学面の位相差は、通常の屈折率と後述する非球面式(10),(11)とを用いて行う超高屈折法により計算した。超高屈折法とは、非球面形状と回折光学面の格子ピッチとの間の一定の等価関係を利用するものであり、本実施例においては回折光学面は超高屈折法のデータとして、すなわち、後述する非球面式(10),(11)及びその係数により示している。なお、本実施例では収差特性の算出対象として、d線、g線を選んでいる。また、焦点距離f1a〜f1c,f2a〜f2cは、d線での値を示す。本実施例において用いたこれらd線、g線、e線の波長の値を下の表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
各実施例において非球面は、光軸に垂直な方向の高さ(入射高)をyとし、非球面の頂点における接平面から高さyにおける非球面上の位置までの光軸に沿った距離(サグ量)をxとし、基準球面の曲率半径をrとし、近軸曲率半径をRとし、円錐定数をκとし、n次の非球面係数をCnとしたとき、次式(10),(11)で表される。
【0052】
【数9】
x=(y2/r)/{1+(1−κ・y2/r2)1/2}
+C2y2+C4y4+C6y6+C8y8+C10y10 (10)
R=1/{(1/r)+2C2} (11)
【0053】
なお、本実施例において用いた超高屈折法については、前述の「『回折光学素子入門』応用物理学会日本光学会監修」に詳しい。
【0054】
(第1実施例)
以下、本発明の第1実施例について図1、図2を用いて説明する。図1は、本発明の第1実施例に係る投影レンズのレンズ構成を示す図である。図1の投影レンズにおいて、前レンズ群GFは、物体側から順に、両凸レンズL1、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL2、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL3aと両凹レンズL3bとの貼り合わせレンズL3から構成されている。後レンズ群GRは、物体側から順に、両凹レンズL5と像側に凸面を向けた正メニスカスレンズL6との貼り合わせレンズ、像側に凸面を向けた正メニスカスレンズL7、両凸レンズL8から構成されている。
【0055】
なお、前レンズ群GFと後レンズ群GRとの間に、回折光学面Gfを有した回折光学素子DOEと一体化した開口絞りSが配置されている。また、開口絞りSの像側に、迷光絞りFSが配置されている。そして、後レンズ群GRの像側に、光学フィルターF1が配置されている。
【0056】
このように図1に示した本発明の第1実施例における各レンズの諸元を表2に示す。表2において面番号0〜22は、図1における符号0〜22に対応している。また、表2におけるrはレンズ面の曲率半径(非球面の場合には基準球面の曲率半径)を、dはレンズ面の間隔を、ndはd線、ngはg線に対する屈折率をそれぞれ示している。なお、表2において、非球面形状に形成されたレンズ面には、面番号の右に*印を付している。また、前述の条件式(1)〜(9)に対応する値、すなわち条件対応値も以下に示している。
【0057】
本実施例では、表2の面番号8〜12が回折光学素子DOEを示しており、面番号10及び11が回折折光学面Gfに相当している。また、面番号10においては、この回折光学面Gfの諸元を超高屈折法を用いて示している(Cn=0の場合は記載を省略している)。また、本実施例では、表2の面番号12が開口絞りS、面番号13が迷光絞りFS、面番号21及び22が光学フィルターF1を示す。
【0058】
以上の説明は、他の実施例においても同様である。
【0059】
【表2】
最大像高に対するθ=5.239度
(θは、物体からの主光線の光軸に対する傾き角度を示し、以降同様とする。)
【0060】
このように第1実施例では、上記条件式(1)〜(9)は全て満たされることがわかる。
【0061】
図2は、第1実施例の諸収差図である。この収差図において、FNOはFナンバーを、Yは像高を、dはd線を、gはg線を、CはC線を、FはF線をそれぞれ示している。なお、球面収差図において最大口径に対応するFナンバーの値、非点収差図と歪曲収差図では、像高の最大値をそれぞれ示し、コマ収差図では各像高の値を示す。また、非点収差図では実線はサジタル像面を示し、破線はメリディオナル像面を示している。以上の収差図の説明は、他の実施例においても同様である。
【0062】
各収差図から明らかなように、第1実施例では、各焦点距離状態において諸収差が良好に補正され、優れた結像性能が確保されていることがわかる。
【0063】
(第2実施例)
次に、本発明の第2実施例について図3、図4を用いて説明する。図3は、本発明の第2実施例に係る投影レンズのレンズ構成を示す図である。図3の投影レンズにおいて、前レンズ群GFは、物体側から順に、正メニスカスレンズL1、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL2、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズL3aと両凹レンズL3bとの貼り合わせレンズL3から構成されている。後レンズ群GRは、物体側から順に、両凹レンズL5と像側に凸面を向けた正メニスカスレンズL6との貼り合わせレンズ、像側に凸面を向けた正メニスカスレンズL7、両凸レンズL8から構成されている。
【0064】
なお、前レンズ群GFと後レンズ群GRとの間に、物体側から順に、迷光絞りFS1、回折光学面Gfを有した回折光学素子DOEと一体化した開口絞りS、迷光絞りFS2が配置されている。さらに、後レンズ群GRの像側に、光学フィルターF1が配置されている。
【0065】
このように図3に示した本発明の第2実施例における各レンズの諸元を表3に示す。表3において面番号0〜22は、図3における符号0〜22に対応している。また、前述の条件式(1)〜(9)に対応する値、すなわち条件対応値も以下に示している。
【0066】
本実施例では、表3の面番号9〜12が回折光学素子DOEを示しており、面番号10及び11が回折折光学面Gfに相当している。また、面番号10においては、この回折光学面Gfの諸元を超高屈折法を用いて示している(Cn=0の場合は記載を省略している)。また、本実施例では、表3の面番号8が迷光絞りFS1、面番号12が開口絞りS、面番号13が迷光絞りFS2、面番号21及び22が光学フィルターF1を示す。
【0067】
【表3】
最大像高に対するθ=5.407度
【0068】
このように第2実施例では、上記条件式(1)〜(9)は全て満たされることがわかる。
【0069】
図4は、第2実施例の諸収差図である。この収差図から明らかなように、第2実施例では、各焦点距離状態において諸収差が良好に補正され、優れた結像性能が確保されていることがわかる。
【0070】
さらには、上記のいずれの実施例においても、格子高さhを適切にして選べば、d線,g線の回折効率(強度)ηを95%以上とすることができる。
【0071】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、回折光学素子を有効に用いることにより、良好に収差補正されて優れた結像性能を有する、有限距離の結像光学系を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例に係る撮像レンズのレンズ構成を示す図である。
【図2】第1実施例における諸収差図である。
【図3】本発明の第2実施例に係る撮像レンズのレンズ構成を示す図である。
【図4】第2実施例における諸収差図である。
【符号の説明】
GF 前レンズ群
GR 後レンズ群
L1〜L8 各レンズ成分
DOE 回折光学素子
Gf 回折光学面
S 開口絞り
FS 迷光絞り
I 像面
Claims (11)
- 有限距離の結像光学系において、物体からの主光線の光軸に対する傾き角度が20度以下であって、物体側から順に、正の屈折力を有する前レンズ群と、回折光学面を有する回折光学素子と、正の屈折力とを有する後レンズ群とを備え、
前記前レンズ群は、物体側から順に、正レンズと、正メニスカスレンズと、正レンズと負レンズとの貼り合わせレンズとからなり、
前記回折光学素子は、異なる光学材料からなる少なくとも2層の構成であり、
前記後レンズ群は、物体側から順に、負レンズと正レンズとの貼り合わせレンズと、正メニスカスレンズと、正レンズとからなり、
前記回折光学面の有効径(直径)をC(但し、複層の場合は空気との界面の直径)、本光学系のレンズの第1面から最終面までの長さをTとしたとき、次式
0.05<C/T<3.0
の条件を満足することを特徴とする投影レンズ。 - 前記回折光学素子を有する前記投影レンズは、物像間距離をLとしたとき、次式
0.05<T/L<1.0
の条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の投影レンズ。 - 前記回折光学素子を構成する少なくとも2層の異なる光学材料は、d線(λ=587.6nm)の屈折率をΔndとしたとき、次式
Δnd>0.03
の条件を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の投影レンズ。 - 前記前レンズ群と前記後レンズ群との間に開口絞りが配置され、
前記前レンズ群は、最も物体側の正レンズのd線(λ=587.6nm)の焦点距離をf1a、物体側から2番目の正レンズのd線の焦点距離をf1b、物体側から3番目の正レンズのd線の焦点距離をf1c、投影レンズ全系のd線の焦点距離をfとしたとき、次式
f1a/f>f1b/f>f1c/f
の条件を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の投影レンズ。 - 前記前レンズ群と前記後レンズ群との間に開口絞りが配置され、
前記後レンズ群は、最も像側の正レンズのd線(λ=587.6nm)の焦点距離をf2a、像側から2番目の正レンズのd線の焦点距離をf2b、像側から3番目の正レンズのd線の焦点距離をf2c、投影レンズ全系のd線の焦点距離をfとしたとき、次式
f2a/f>f2b/f>f2c/f
の条件を満足することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の投影レンズ。 - 前記回折光学素子は、開口絞りと一体であり、
該回折光学素子の少なくとも前後のどちらかに隣接して迷光絞りを有し、
前記回折光学面に入射する最大像高の主光線の光線角度(光軸となす角)の大きさをW(単位:度)としたとき、次式
0.01<W<15.0
の条件を満足することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の投影レンズ。 - 前記前レンズ群と前記後レンズ群との間に開口絞りを有し、
前記前レンズ群の前記負レンズ及び前記後レンズ群の前記負レンズのうち少なくともどちらかの負レンズは、アッベ数νd、屈折率ndとしたときに、次式
νd<45
nd<1.80
の条件を満足するガラス材料からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の投影レンズ。 - 使用倍率をβとしたとき、次式
−1.5 ≦β≦ −0.5
の条件を満足することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の投影レンズ。 - 前記回折光学素子を構成する2種類の光学材料のアッベ数の差をΔνdとしたとき、次式
Δνd>10.0
の条件を満足することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の投影レンズ。 - 前記前レンズ群及び前記後レンズ群のうち少なくともどちらかのレンズ群は、第2の回折光学面を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の投影レンズ。
- 前記第2の回折光学面に入射する最大像高の主光線の光線角度(光軸とのなす角)の大きさをW(単位:度)としたとき、次式
0.01<W<15.0
の条件を満足することを特徴とする請求項10に記載の投影レンズ。
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