JP4345956B2 - 農園芸用抗菌溶液およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物の病害の防除に利用可能な農園芸用抗菌溶液とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
木酢液を農園芸用途の資材として使用することは広く行われている。農作物、樹木、果樹等の発芽促進、生長促進および収穫量の増加の効果があるとされる。また、木酢液に植物の病害の防除効果があると伝承的に言われているが、学術的に試験して明らかにしている実例は極めて少なく、木酢液の抗菌作用についてはミズナラ木酢液が暗色雪腐病菌の成長抑制を行うとの報告(非特許文献1参照)があるのみである。スギから調製された木酢液に関する抗菌作用の報告はない。一方、スギの材部、樹皮部および葉部に存在する精油や樹脂成分が抗菌性を有することは良く知られている。スギ樹脂成分であるフェルギノールがシイタケの生育阻害作用を持つことがわかっているし、一般的な細菌に対して抗菌作用を持つスギのジテルペンが単離されて報告されている。植物病原菌に対する抗菌作用を調べた例は少ないが、スギ樹皮から単離したジテルペンがイネいもち病菌およびリンゴ斑点落葉病菌などの植物病原菌に対して生育阻害作用を有するとして特許出願されている(特許文献1(発明の名称:ジテルペンキノン化合物)参照、特許文献2(発明の名称:抗癌作用を有するアビエタン型ジテルペンキノン化合物およびその製造方法)参照)。ただし、スギの有機溶媒抽出物をそのまま植物病原菌の抗菌剤として利用する例は見あたらない。
【0003】
【特許文献1】
特開2000−344708号公報
【0004】
【特許文献2】
特開2002−193869号公報
【0005】
【非特許文献1】
黒沢隆司ら、「暗色雪腐病菌(Racodium therryanum)に対するミズナラ木酢液の成長抑制効果」日本林学会北海道支部論文集、1996年、44号、p.216−217
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、合成抗菌農薬に代わる天然由来の病害防除効果を有する農園芸用抗菌溶液とその製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、はじめにスギの抽出方法と分画方法を検討し、植物病原性菌に対する作用を調べた。この結果、スギのいずれの部位の抽出物も植物病原性菌に対する抗菌作用があり、特にスギの材部のメタノール抽出物やヘキサン抽出物に植物病原性菌に対する優れた抗菌作用があることを確認した。次いでスギの抽出物とスギ木酢液とを混合した溶液の製造方法を検討し、幾つかの界面活性剤を用いると、均一溶解溶液または安定な乳化溶液が製造できることを確認した。さらに、得られた溶液の植物病原性菌に対する作用および農作物栽培時の病害防除効果を調べ、スギの抽出物とスギ木酢液をそれぞれ単独で用いるより、抗菌作用が強くなり実用的であることを確かめて、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の農園芸用抗菌溶液は、スギを炭化して得られるスギ木酢液と、スギの材部から抽出して得られるサンダラコピマリノールおよびフェルギノールを含有するスギ材部抽出物とを含有することを特徴とする。また、この本発明の農園芸用抗菌溶液を製造する方法は、スギの材部を有機溶媒で抽出してスギの抽出物を調製し、スギを炭化して得られるスギ木酢液と混合することを特徴とする。
【0009】
本発明の農園芸用抗菌溶液は、塩基によりpHを3〜8に中和してもよい。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の農園芸用抗菌溶液は、以下の1および2項に述べる製造方法で製造したスギの抽出物と木酢液を以下の3項の方法で混合して製造される。本発明の農園芸用抗菌溶液の効力の評価は、以下の4項の方法により行った。
【0011】
1.スギの抽出物の調製
スギの各部位は含水率が20%程度以下まで乾燥させてから使用することが好ましい。乾燥した各部位を適当な粉砕器により粉砕し、粉末状とすることが好ましい。粒度が3 mm以下であれば効果的に抽出できるが、これより大きいと抽出率が落ちる恐れがある。
【0012】
スギの粉末の抽出には、低〜中程度の沸点の有機溶媒が使用できる。極性溶媒であればメタノール、エタノール、アセトンなどを、また非極性溶媒であればヘキサン、エーテルなどを使用できる。これらの溶媒は単独でも使用できるし、あるいは、2種類以上を適当な比率で混合して使用することもできる。
【0013】
スギの材部、樹皮部および葉部をメタノールで抽出し、メタノールを留去すると淡褐色から黒褐色の油状またはワックス状のメタノール抽出物が得られる。スギの材部、樹皮部および葉部はできるだけ細かな粉末状にしておく方が抽出効率がよい。抽出方法としては、粉末状にしたスギの各部をメタノールに1〜2週間浸漬する方法(浸漬法)、メタノールに浸漬した状態で加温して数時間、数回抽出を繰り返す方法(加温浸漬法)、ソックスレー抽出器を用いて12〜48時間程度連続抽出する方法などが用いられる。いずれの方法を用いても抽出率に大きな差は無く、また抽出時間は限定されるものではない。溶媒使用量の点からはソックスレー抽出器が最も少なくて済むメリットがある。また、メタノールに代えて、エタノールを使用して抽出した場合も全く同様の結果となり、一般的な低級アルコールが抽出に使用可能である。
【0014】
得られたメタノール抽出物は図1に示す溶媒抽出分画方法で溶媒への溶解度の違いを利用して分画することもできる。ただし、抽出物を植物病原性菌に対する抗菌溶液として用いる観点からは、必ずしも分画操作を必要としない。
【0015】
スギの材部、樹皮部および葉部をヘキサン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンなど比較的極性の低い溶媒で抽出する方法も可能である。例えば、スギ材部をソックスレー抽出器でヘキサンにより抽出したヘキサン抽出物はメタノール抽出物を溶媒抽出分画して得られるトルエン−ヘキサン可溶物と同等の抽出率となる。
【0016】
スギの溶媒抽出物およびその溶媒分画物について植物病原性微生物に対する抗菌試験を実施し、いずれのスギの溶媒抽出物およびその溶媒分画物も抗菌作用を有することを確認した。本発明の目的には、いずれのスギの溶媒抽出物およびその溶媒分画物も使用可能である。
【0017】
2.木酢液の調製
本発明では、未利用資源の利用の観点と製造過程で廃棄物を少なくする観点から、スギを用いて炭化調製したスギ木酢液を使用する。すなわち、スギの抽出物の調製の試料調製段階で得られた廃棄するスギ屑やスギを溶媒抽出した後の残渣部である溶媒抽出済みのスギなどを木酢液抽出の材料にできる。また、スギの製材時の廃棄物や鋸屑および汚染の少ないスギ建築廃材を原料として使用してもよい。
【0018】
スギの炭化は小規模では電気炉を用いて行えるが、大規模に製造する場合は一般的に用いられる炭製造用の炭化炉や炭化装置を用いるとよい。炭化方法は一般的な炭製造条件でよいが、炭化の炉内温度は、木酢液の生成がほぼ完了する300℃以上、望ましくは400℃以上とするのがよい。炭化時間は材料の形状や大きさに影響されるので、炭化炉からでる気体を冷却して溶液が留出しなくなる時点を目安とする。冷却して集めた溶液成分を静置して分離する上澄みとして木酢液が得られる。使用材料により得られる溶液の分離時間に差がでるので、静置期間は十分長くする方が望ましい。通常数週間から数ヶ月間の間静置する。静置時間の短縮のために、遠心分離を用いることができる。1000〜3000 rpmで遠心分離すると容易に分離し、上澄みの木酢液を採取できるようになる。得られた木酢液はそのまま用いるか、一度常圧または減圧で蒸留して用いる。成分組成に変動が無いことを、キャピラリーガスクロマトグラフィーで確かめるほうがよい。
【0019】
製造した木酢液は植物病原性微生物に対する抗菌試験を実施し、抗菌活性があるのを確認した上で用いるのがよい。木酢液は酸性を示し、そのpHは一般に1.5−3.0を示す。このため、木酢液の添加量によっては抗菌試験に用いる培地が酸性側に傾き、酸性のために植物病原性微生物が死滅したり、生育を阻害されたりすることになる。抗菌試験に用いる培地がpH 5.5以下の酸性に傾く場合は、あらかじめ木酢液を適当なアルカリで中和するか、木酢液を添加後培地のpHを5.5以上に調製して、抗菌試験を行う必要がある。
【0020】
3.木酢液とスギの抽出物との混合による農園芸用抗菌溶液の製造
木酢液は酸性のまま農園芸用抗菌溶液の製造に用いることができる。使用上において溶液が酸性を示すのが好ましく無い場合は、木酢液のpHを水酸化ナトリウム水溶液のような塩基で中和した後、農園芸用抗菌溶液の製造に用いることもできる。この場合、使用する木酢液の量は塩基で中和する前の量に換算して用いることとする。
【0021】
木酢液または中和した木酢液にスギの溶媒抽出物またはその溶媒分画物を混合して本発明の農園芸用抗菌溶液を得る。混合割合は重量部で、木酢液または中和した木酢液100部に対して、スギの溶媒抽出物またはその溶媒分画物1〜100部、望ましくは2〜50部を混合する。スギの溶媒抽出物またはその溶媒分画物5部以上を混合する場合は、混合溶液が静置すると2層に分離し、実際に散布使用するのが困難になると考えられる。このような場合、人体に有害性の低いエタノールや酢酸を溶解補助のために添加することができる。木酢液100部に対する添加量は100部以上望ましくは500部以上を用いれば、混合溶液の2相への分離を防止できる。混合溶液の2相への分離を防止するために、エタノールや酢酸に代え、適当な界面活性剤を用いることができる。木酢液100部に対して界面活性剤5〜500部、望ましくは20〜200部を用いる。使用する界面活性剤のHLB値は8以上、好ましくは10以上ある方が2相分離を防止する効果が高い。中和した木酢液に対して使用する場合は、界面活性剤の種類はアニオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれも用いることができる。しかし、酸性溶液である木酢液を中和せずそのまま用いる場合は、アニオン性界面活性剤は使用できず、両性イオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤を選択する。使用する界面活性剤は、食品、化粧品、医薬品、農薬などに一般的に使用されているものでよいが、安全性の高いものを用いるのが好ましい。例えば、アニオン性界面活性剤としては脂肪酸ナトリウム、胆汁酸ナトリウム、N-アシルサルコシンのナトリウム塩、N-アシルグルタミン酸モノナトリウムおよびジナトリウム塩、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム塩、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム塩、N-メチル-N-アシルタウリンナトリウム塩などが、両性イオン性界面活性剤としてはアルキルベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、大豆や卵黄などから得られるレシチンおよびその水素添加物などが、非イオン性界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体、脂肪酸アルカノールアミド、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0022】
界面活性剤を加えて製造した木酢液とスギの抽出物の混合溶液はそのまま保存できるが、必要であれば水で稀釈して保存することができる。稀釈しない場合はペースト状か相当粘稠な溶液状態になる。水で稀釈すると混合溶液の粘性は下がり、溶液は黄褐色から黒褐色を示し、透明または乳濁した状態となる。また、静置すると2相分離することがあるが、使用する前にしばらく振り混ぜると乳化状態に戻り、水で稀釈して散布等に用いるのに支障は無い。
【0023】
4.木酢液とスギの抽出物とを含有する農園芸用抗菌溶液の効力の評価
木酢液とスギの抽出物とを含有する本発明の農園芸用抗菌溶液の抗菌活性の評価のため、植物病原性細菌(トマト青枯病菌)および植物病原性カビ(トウガラシ疫病菌、トマト萎凋病菌およびメロン根腐萎凋病菌)を抗菌活性のスクリーニングおよび効果判定に用いた。はじめに、スギの抽出物の抗菌試験を行った。スギ抽出物、殊にスギ材部の抽出物に植物病原性菌に対する抗菌活性があり、最小発育阻止濃度(MIC)にはスギの抽出部位、抽出方法および溶媒分画方法により若干の差異はあるものの、いずれの抽出物もかなりの抗菌活性を有することを明らかにした。また、抗菌活性物質がスギ抽出物に存在することを溶媒抽出分画物の分離精製により証明した。次に、木酢液の抗菌試験により、植物病原性菌に対する抗菌活性を有することを明らかにした。また、木酢液中に存在する主要構成成分について抗菌試験を行い、複数の抗菌活性成分があることを確かめた。最後に、木酢液とスギの抽出物から成る溶液(本発明の農園芸用抗菌溶液)の抗菌試験を行い、木酢液とスギ抽出物をそれぞれ単独で用いるよりも、両者を混合した溶液を用いる方が抗菌効果が高いことを確認した。
【0024】
次いで、木酢液とスギの抽出物とを含有する本発明の農園芸用抗菌溶液の農園芸植物栽培での効果を確かめる試験を行った。水耕栽培において、葉菜類の葉面散布で木酢液とスギの抽出物の混合溶液の薬害性が低いことおよび水耕栽培養液に混入した植物病原性菌の殺菌ができることを確認した。また、木酢液とスギの抽出物とを含有する本発明の農園芸用抗菌溶液がビニールハウス栽培のキュウリべと病およびキュウリうどんこ病の病害防除に効果があり、殊にキュウリベと病の防除作用については市販農薬(殺菌剤)であるダコニールよりさらに効果が高いことを確かめた。
【0025】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。
【0026】
【実施例】
実施例1
樹齢約30年のスギを伐採し、葉、外皮(樹皮)、内皮(靱皮)、辺材、心材にそれぞれに分けて、ウィレー型粉砕機で約3 mm以下に裁断して試料した。外皮および内皮は学術的にはそれぞれ樹皮および靱皮になるが、以降慣用的名称を使用する。
【0027】
スギ間伐材から外皮および内皮を除き、心材と辺材を区別せずに鋸屑状に裁断したものをスギ材(心材・辺材混合材)とした。鋸屑状スギ材は105 ℃の恒温乾燥器で恒量になるまで乾燥した。図1に溶媒抽出分画の方法を示す。乾燥したスギ材300 gを保温型ソックスレー抽出器を用いてメタノール 5.0 dm3 で還流下に12時間連続抽出したのち、減圧下に濃縮し、メタノール抽出物S-2 6.00 gを得た。次いで、メタノール抽出物S-2 6.00 gをメタノール36 cm3に溶解し、トルエン60 cm3を加えたのち減圧下室温でメタノールを留去し、析出した褐色沈殿を遠心分離機(H-103N、国産化学(株))を用い2000 rpmの回転数で遠心分離し、トルエン不溶物S-3 3.03 gを得た。上澄みのトルエン溶液にはヘキサン40 cm3を加え、析出した沈殿を同様に遠心分離して、トルエン−ヘキサン不溶物S-5 0.30 gを得た。更に、上澄みのトルエン−ヘキサン溶液を減圧下濃縮し、トルエン−ヘキサン可溶物S-6 2.67 gを得た。この操作を繰り返し、トルエン−ヘキサン可溶物を集めた。
【0028】
全く同じ方法で、スギの葉、外皮、内皮、辺材および心材を抽出した。抽出および分画の結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
スギ材のトルエン-ヘキサン可溶物S-6 5.40 gをシリカゲル80 gを用い、ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒(100:0、99:1、97:3、85:15、80:20、50:50、0:10で順次溶出)でカラムクロマトグラフィーを行った(図2参照)。ヘキサン−酢酸エチル(97:3)の分画 1.13 gを再度クロマトグラフィー(シリカゲル35 g、ヘキサン−酢酸エチル(99:1))で精製し、サンダラコピマリナール225 mgとフェルギノール819 mgとを単離した。 ヘキサン−酢酸エチル(85:15)の分画1.51 gを再度クロマトグラフィー(シリカゲル35 g、ベンゼン−ジエチルエーテル(75:1))で精製し、スギオール117 mg、サンダラコピマリノール690 mg、およびフィロクラダノール145 mgを単離した。ヘキサン−酢酸エチル(80:20)の分画0.40 gを再度クロマトグラフィー(シリカゲル20 g、ベンゼン−ジエチルエーテル(97:3))で精製し、β-シトステロール36 mgを単離した。単離したテルペノイドは、文献に記載されている各種スペクトルデータと比較して同定した。
【0030】
同様にして、スギの葉、外皮、内皮、辺材および心材のトルエン−ヘキサン可溶部S-6 から単離した樹脂成分の収率を表1に示す。
【0031】
実施例2
スギ心材を試料とし、ヘキサン抽出法で抽出分画する検討を行った。宮崎県高岡町(樹齢約30年)のスギを伐採し、心材と辺材に切り分けて鋸屑状に粉砕した心材粉末を試料に用いた。鋸屑状スギ材は105 ℃の恒温乾燥器で恒量になるまで乾燥した。ヘキサン抽出法での抽出は次のように行った。乾燥したスギ材300 gを保温型ソックスレー抽出器を用いてヘキサン 5.0 dm3 で還流下に24時間連続抽出したのち、減圧下に濃縮し、ヘキサン抽出物3.64 gを得た。乾燥スギ心材1 kgあたりでは18.2 gのヘキサン抽出物が得られたことになる。スギ心材のヘキサン抽出物の収量はスギ心材をメタノール抽出後溶媒分画して得られるトルエン−ヘキサン可溶物S-6の収量の3/4程度であった。
【0032】
実施例3
植物病原性菌としてトマト青枯病菌(Ralstonia solanacearum)、トウガラシ疫病菌(Phytophthora capsici L.)、トマト萎凋病菌(Fusarium oxysporum)およびメロン根腐萎凋病菌(Pythium splendens Braun)の4菌株を用いた。試料はジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し滅菌ろ過して試料溶液とした。試料溶液を滅菌したポテトスクロース寒天培地(PSA)またはポテトデキストロース寒天培地(PDA)に一定濃度添加し、試験培地とした。PSA培地はトマト青枯病菌に対して用い、他の菌株はPDA培地を用いた。試験培地に植物病原性菌を植菌し、30 ℃で7日間静置培養したのち、コロニー形成の有無を判定し、最小発育阻止濃度(MIC)を決定した。
【0033】
4種類の植物病原性菌株に対するスギ材(辺材・心材混合物)とスギ心材の溶媒抽出分画物の抗菌試験結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
試料としてスギ材およびスギ心材のいずれを用いた場合も、メタノール抽出物S-2から溶媒分画が進むにつれて、MIC値は低くなる傾向にあった。すなわち、高極性成分を多く含むメタノール抽出物S-2やトルエン不溶物S-3に比べて、低極性成分を多く含むトルエン−ヘキサン不溶物S-5およびトルエン−ヘキサン可溶物S-6でMIC値が低くなった。トルエン−ヘキサン可溶物S-6が最も強い抗菌作用を示す分画であり、この分画に含まれる樹脂成分の抗菌作用が強いことを示唆している。
【0035】
また、実施例2の方法で得たスギ心材ヘキサン抽出物のMIC値は、心材トルエン−ヘキサン可溶物S-6と同等かまたは少し大きい。
【0036】
実施例4
スギ心材のトルエン−ヘキサン可溶物S-6中の樹脂成分の含有量をカラムクロマトグラフィーで分離して調べ、同時に植物病原性菌への抗菌活性をカラムクロマトグラフィーの各フラクション(Fr)について比較する検討を行った。スギ心材トルエン−ヘキサン可溶物S-6のシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行った。ヘキサン、ヘキサン:ベンゼン= 4:1-1:1、ベンゼン、ベンゼン:酢酸エチル=9:1-3:1と順次展開溶媒を変化させて溶出させた。溶出した各フラクションについて薄層クロマトグラフィー(TLC)と核磁気共鳴スペクトル測定(1H-NMR)および赤外分光(IR)測定を行い、主要成分を確認した(表3)。
【0037】
【表3】
カラムクロマトグラフィーの各フラクションを含有する主要成分に基づき8区分し、トマト青枯病菌に対する抗菌試験により抗菌作用を比較した。試料をDMSOに溶解しPSAの固形培地に試料溶液を加えて試験培地とし、青枯病菌を植菌して5日間静置培養後、コロニーの発生の有無を観察して最小発育阻止濃度(MIC)を判定した。結果を表3に示す。Fr. 44-62およびFr. 78-93のMIC値は0.63 mg cm-3以下となり、最も抗菌作用が強かった。次いでFr. 63-77、Fr. 94-99およびFr.100-108の抗菌作用が強い。最も抗菌作用の強いFr. 44-62およびFr. 78-93はフェルギノールとサンダラコピマリノールをそれぞれ主成分とするので、強い抗菌作用は両者に基づくものと考えられる。
【0038】
実施例5
スギ材(辺材・心材混合物)の単離樹脂成分の植物病原性菌に対する抗菌効果を調べた。植物病原性菌としてトマト青枯病菌(Ralstonia solanacearum)、トウガラシ疫病菌(Phytophthora capsici L.)、トマト萎凋病菌(Fusarium oxysporum)およびメロン根腐萎凋病菌(Pythium splendens)の4種類を用いた。単離した樹脂成分の評価には、スギ材の主要樹脂成分であるフェルギノール、サンダラコピマリノールおよびサンダラコピマリナールを試験試料とした。試料はいずれもDMSOに溶解し、メンブレンフィルター(孔径0.25 マイクロメーター)を用いて滅菌ろ過して試料溶液とした。試料溶液を滅菌したポテトスクロース寒天培地(PSA)またはポテトデキストロース寒天培地(PDA)に一定濃度添加し、試験培地とした。PSA培地をトマト青枯病菌に対して用い、他の菌株についてはPDA培地を用いた。試験培地に植物病原性菌を植菌し、30 ℃で7日間静置培養したのち、コロニー形成の有無を判定し、最小発育阻止濃度(MIC)を決定した。結果を表4に示す。
【0039】
【表4】
フェルギノールとサンダラコピマリノールがいずれの菌に対しても低いMICを示すことがわかった。ただし、スギ材抽出物の抗菌活性はこの2つの化合物のみによるものではないことは、溶媒分画物のいずれもが相当な抗菌活性を有していることからも明らかである。
【0040】
実施例6
木酢液の調製を行った。樹齢25年前後の宮崎県産スギ(Cryptomeria japonica D.Don)の辺材部分を用いた。スギ辺材を約10×10×100 mm3の細片にし、炭化温度と保持時間を変化させた炭化により、木酢液を調製するのに用いた。試料の含水率は、ケット式赤外水分測定器により重量減少から求めた。試料の炭化は、炉心管出口に冷却浴とリービッヒ冷却器を持つ受け器をつないだ炭化用電気炉装置により行った。シリコニット電気炉TSH-635S(シリコニット高熱工業(株)製)は、約25 °傾斜させ出口側を低くした。冷却浴とリービッヒ冷却器には0 ℃の冷却水を循環させた。炉心管(50×42×1000 mm)の中央に樹木細片約 20 g を詰め、窒素ガスを約20 cm3/min の流速で流しながら、200 ℃/hで炭化反応温度まで昇温した後、その炭化反応温度で1時間保持する方法で炭化を行った。炭化反応温度は400-900 ℃まで100 ℃ごとに変化させた。電気炉を室温まで自然冷却した後、炉心管より炭化物を取り出した。冷却した受け器には褐色の液体を捕集できた。この液体を2週間冷暗所に静置し、上層の木酢液と下層の木タールにそれぞれ分離した。また、炉心管内部には黒褐色油状物として木タールが若干付着していた。これをアセトンで溶解して集めた後、溶媒を減圧下に除去して木タールをさらに得た。受け器に捕集されたものと炉心管内部に残ったものを合わせて、木タールの収量とした。
【0041】
同様の方法でスギ材、心材、葉、外皮、内皮を炭化した。また、スギの抽出物を製造するのに使用したメタノール抽出済みの各部位についても同様に炭化を行った。なお、メタノール抽出済みの各部位の材料は鋸屑状の形態のものを磁製灰分測定用ボートに入れ、炭化炉で炭化した。炭化により得られる木酢液を含む炭化物の物質収支を表5に示す。
【0042】
【表5】
得られたスギの木酢液は、キャピラリーガスクロマトグラフィー(GC)による成分分析を行った。次の40種の化合物を分析標品として使用した;メタノール(1)、エタノール(2)、アセトン(3)、酢酸(4)、プロピオン酸(5)、酪酸(6)、吉草酸(7)、クロトン酸(8)、レブリン酸(9)、安息香酸(10)、γ-ブチロラクトン(11)、2-フルアルデヒド(12)、5-メチル-2-フルアルデヒド(13)、5-ヒドロキシメチル-2-フルアルデヒド(14)、2-アセチルフラン(15)、フルフリルアルコール(16)、テトラヒドロフルフリルアルコール(17)、フェノール(18)、カテコール(19)、o-クレゾール(20)、m-クレゾール(21)、p-クレゾール(22)、4-エチルフェノール(23)、2,5-キシレノール(24)、2,6-キシレノール(25)、3,5-キシレノール(26)、グアイアコール(27)、4-メチルグアイアコール(28)、4-エチルグアイアコール(29)、バニリン(30)、4-アセチルグアイアコール(31)、シリンゴール(32)、4-メチルシリンゴール(33)、4-エチルシリンゴール(34)、4-プロピルシリンゴール(35)、シリンガアルデヒド(36)、4-アセチルシリンゴール(37)、シリンガ酸メチル(38)、シクロテン(39)、マルトール(40)。
【0043】
キャピラリーGC分析は水素炎イオン化検出器(FID)とデータ処理装置クロマトパック C-R4Aを接続したガスクロマトグラフGC-14B((株)島津製作所製)を使用して行った。テレフタル酸処理ポリエチレングリコール修飾キャピラリーカラムBP-21(0.25 mm I. D.×25 m、 エス・ジー・イー・ジャパン(株)製)、ポリ[ビス(3-シアノプロピル)シロキサン-co-1,4-ビス(ジメチルシリレン)ベンゼン]修飾キャピラリーカラム BPX-70(70 %シアノプロピルシロキサン相当、0.25 mm I. D.×25 m、エス・ジー・イー・ジャパン(株)製)を分析に使用した。木酢液はメンブレンフィルター(0.45 mm)でろ過したのち1μlをキャピラリー GC測定に使用した。成分の同定は標品添加法により行い、また被検成分追加法を利用して定量分析を行った。ほとんどの成分は以下に示す標準分析条件(D)により分析可能であったが、この条件でピーク分離が不十分であった成分については分析条件(E)から(J)により分析した。いずれの分析条件でも検出器温度は300 ℃またキャリヤーガスはヘリウムを用いた。ただし、酪酸(6)とγ-ブチロラクトン(11)および4-エチルフェノール(23)と3,5-キシレノール(26)は、いずれの分析条件でもお互いに分離できなかったので、それぞれ酪酸(6)および4-エチルフェノール(23)を標品として含量を求めた。
【0044】
(D)標準分析:カラム、BP21;カラム温度、45 ℃(0-3 min )、45-209 ℃(4 ℃/min、3-44 min)、209 ℃ (44-50 min);注入温度、300 ℃.
(E)メタノール(1)の分析:カラム、BP21;カラム温度、40 ℃(0-5 min )、40-200 ℃(10 ℃/min、5-21 min)、200 ℃ (21-25 min);注入温度、150 ℃.
(F)アセトン(3)の分析:カラム、BP21;カラム温度、45 ℃(0-5 min )、45-210 ℃(15 ℃/min、5-16 min)、210 ℃ (16-25 min);注入温度、120 ℃;.
(G)酢酸(4)、プロピオン酸(5)および2-フルアルデヒド(12)の分析:カラムBP21;カラム温度、105 ℃(0-10 min )、105-205 ℃(10 ℃/min、10-20 min)、205 ℃ (20-25 min);注入温度、300 ℃.
(H)クロトン酸(8)の分析:カラム、BP21;カラム温度、100 ℃(0-10 min )、100-120 ℃(2 ℃/min、10-20 min)、120-208 ℃(8 ℃/min、 20-31 min)、208 ℃ (31-35 min);注入温度、300 ℃.
(I)フェノール(18)、o-クレゾール(20)の分析:カラム、BPX70;カラム温度、115 ℃(0-13 min )、115-250 ℃(15 ℃/min、13-22 min)、250 ℃ (22-25 min);注入温度、300 ℃.
(J)カテコール(19)の分析:カラム、BP21;カラム温度、100 ℃(0-10 min )、100-205 ℃(15 ℃/min、10-17 min)、205 ℃ (17-30 min);注入温度、300 ℃.
異なる炭化温度で製造したスギ辺材の木酢液のGC分析結果を表6に示す。また、異なる樹木から400 °Cの炭化温度で製造した木酢液のGC分析結果を表7に示す。
【0045】
【表6】
【表7】
実施例7
スギ辺材木酢液の植物病原性菌に対する抗菌効果を調べた。植物病原性菌としてトマト青枯病菌(Ralstonia solanacearum)、トウガラシ疫病菌(Phytophthora capsici L.)、トマト萎凋病菌(Fusarium oxysporum)およびメロン根腐萎凋病菌(Pythium splendens)の4種類を用いた。スギ辺材木酢液(pH 2.0)を培地に添加した場合、培地の酸性化による抗菌作用への影響が懸念された。そこで、水酸化ナトリウム水溶液で中和したスギ木酢液(pH 6.0)も調整した。木酢液は蒸留水で希釈した後、メンブレンフィルター(0.22 μm)で滅菌濾過し試料溶液とした。試料溶液を滅菌したポテトスクロース寒天培地(PSA)またはポテトデキストロース寒天培地(PDA)に一定濃度添加し、試験培地とした。試料溶液を添加した濃度ごとに、試験培地pHを測定した。PSA培地はトマト青枯病菌(細菌)に対して用い、他の3種類の菌(カビ)に対してはPDA培地を用いた。試験培地に植物病原性菌を植菌し、30 ℃で7日間静置培養したのち、コロニー形成の有無を判定し、最小発育阻止濃度(MIC)を決定した。
【0046】
スギ辺材木酢液の抗菌試験結果を表8に示す。
【0047】
【表8】
中和木酢液(pH 6.0)のMICは細菌であるトマト青枯病菌に対して5 mg cm-3となり、3種類のカビ(トウガラシ疫病菌、トマト萎凋病菌およびメロン根腐萎凋病菌)に対してはそれより2-4倍高い値となった。そのときの試験培地pHはいずれも5.8-6.0であった。中和しない元の木酢液(pH 2.0)のMICは中和木酢液(pH 6.0)のMICの倍希釈の値となった。このときの試験培地のpHは、4.9-5.1であり、中和木酢液(pH 6.0)の場合に比べ酸性に傾いていた。中和木酢液(pH 6.0)と元の木酢液(pH 2.0)とのMICの差は小さいが、試験培地pHの低下が抗菌効果に寄与したと判断した。
【0048】
実施例8
次に、木酢液の主要な構成成分について植物病原菌に対する抗菌効果を調べた。水への溶解性が低い3,5-キシレノールとシリンガアルデヒドはDMSOを溶解補助に使い均一水溶液としたが、他化合物は蒸留水に溶解して溶液とし、pHを7.0に中和した後、メンブレンフィルター(0.22 μm)で滅菌濾過し試料溶液とした。試料水溶液を実施例7と同様の方法で抗菌試験した。結果を表9に示す。
【0049】
【表9】
スギ材木酢液の構成成分として酢酸とメタノールの含有量は特に多いが、いずれの抗菌性も極めて弱く、木酢液抗菌活性への寄与は小さいと考えられる。また、アルコール類、ケトン類およびカルボン酸類のいずれも抗菌作用は弱かった。次いで含有量が多いグアイアコール類およびフェノール類は強い抗菌作用を持ち、また青枯病菌と根腐萎凋病菌に対して他の2種の菌に比べて若干高い抗菌作用を持っていた。それらの抗菌活性の強さと豊富な含有量から、スギ材木酢液の抗菌活性に対するグアイアコール類およびフェノール類の寄与が大きいと考えられる。一方、フラン類やシクロテンの抗菌作用はグアイアコール類およびフェノール類に比べるとかなり弱い結果となった。マルトールは青枯病菌と根腐萎凋病菌に対する抗菌作用は強いが、トウガラシ疫病菌とメロン根腐萎凋病菌に対しては弱かった。シリンゴール類はグアイアコール類とほぼ同等の抗菌作用を持っていた。スギ材木酢液にはグアイアコール類しか存在しないが、広葉樹材木酢液およびタケ木酢液はグアイアコール類とシリンゴール類の両方を含み、しかもシリンゴール類の含有量の方が多い。広葉樹材木酢液およびタケ木酢液ではグアイアコール類とシリンゴール類の両者が抗菌活性に寄与すると推定できる。
【0050】
実施例9
スギ材メタノール抽出物 S-2 50.0 g、スギ辺材木酢液100 g、非イオン性界面活性剤としてプルロニックP-85(旭電化製) 100 gを混合した後、蒸留水で1 dm3に定容して、スギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液を調製した。この溶液は褐色透明で均一であり、pH 2.9を示す酸性溶液であった。
【0051】
スギ辺材木酢液100 gのpHを5 mol/l水酸化ナトリウム水溶液でpH 6.0に中和して後、スギ材メタノール抽出物 S-2 50.0 gとプルロニックP-85 100 gを混合し、蒸留水で稀釈後さらに5 mol/l水酸化ナトリウム水溶液でpH 6.0に調整し、最終的に1 dm3に定容してスギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 6.0)を得た。
【0052】
実施例10
実施例9でプルロニックP-85 100 gに代え、プルロニックP-68 200 gを用いた以外は全く同様にスギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液を調製した。この溶液は褐色透明で均一であり、pH 3.0を示す酸性溶液であった。
【0053】
実施例11
スギ材メタノール抽出物 S-2 10 g、スギ辺材木酢液10 g、卵黄レシチン40 gをスパーテルでよく混合した。褐色ペースト状物が得られた。ペースト状物1.0 gを取り、蒸留水100 cm3を加えて超音波洗浄器で混合すると淡黄褐色の乳濁溶液が得られた。ただし、静置すると沈殿が生じるので、使用時に良く混合する必要がある。
【0054】
実施例12
スギ材メタノール抽出物 S-2 1.0 g、スギ辺材木酢液50 gを5 mol/l水酸化ナトリウム水溶液でpH 7.0に中和した溶液およびオレイン酸ナトリウム10 gを混合後、蒸留水で500 cm3に稀釈した。溶液は濁りがある淡褐色均一溶液となった。
【0056】
実施例14
スギ材メタノール抽出物S-2に代えて、スギ材トルエン−ヘキサン可溶物S-6を用いた以外は、実施例9と同方法で、スギ辺材木酢液−スギ材トルエン−ヘキサン可溶物S-6溶液を調製した。溶液は黄土色の濁りのある均一溶液となった。
【0057】
実施例15
スギ材メタノール抽出物S-2に代えて、スギ心材ヘキサン抽出物を用いた以外は、実施例9と同方法で、スギ辺材木酢液−スギ心材ヘキサン抽出物溶液(pH 2.9およびpH 6.0)を調製した。濁りのある黄褐色を呈する均一溶液となった。長期間静置すると2相に分離する場合が見られるが、振り混ぜると均一溶液に戻り、採取および稀釈に支障はない。
【0058】
実施例16
スギ心材ヘキサン抽出物 5.0 g、タケ木酢液2.0 g、プルロニックP-85(旭電化) 20 gを混合して、黄褐色ペースト状物を得た。蒸留水で1 dm3に稀釈すると濁りのある均一溶液となり、pH 4.8を示した。
【0059】
実施例17
スギ材メタノール抽出物 S-2 0.5 gおよびスギ辺材木酢液1.0 gをエタノール5 cm3に稀釈し、褐色均一溶液を得た。同様にして、エタノールに代えて、メタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸、プロピオン酸およびジメチルスルホキシド(DMSO)を用い、いずれも褐色均一溶液を得た。これらの溶液のpHは2.5-3.2の範囲を示した。メタノール、イソプロパノール、アセトン、およびジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解する場合は、スギ辺材木酢液1.0 gをあらかじめ5 mol/l水酸化ナトリウムでpH 7.0に中和した溶液をスギ辺材木酢液に代えて使用すると、pHが約7.0を示す溶液も調製できた。
【0060】
実施例18
スギ辺材木酢液200 g、スギ材メタノール抽出物S-2 100 gおよびプロニックP-85 200 gを実施例9と同じ方法で1 dm3に定容して、pH 2.7とpH 6.0の溶液を得た。また、スギ材メタノール抽出物S-2 100 gに代えてスギ材ヘキサン抽出物100
gを使用して、pH 2.7とpH 6.0の溶液を得た。
【0061】
実施例19
実施例9で調製したスギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 6.0)を蒸留水で所定濃度に希釈し、ポテトスクロース寒天(PSA)培地に添加して試験培地を調製した。これにトマト青枯病菌(Ralstonia solanacearum 8224株)を植菌して30 ℃で7日間静置培養し、コロニー形成が見られない最低濃度をMICとした。
【0062】
スギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 6.0)の78倍希釈濃度がMICであった。スギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 6.0)を78倍希釈した時の試験培地中の試料濃度は、スギ材メタノール抽出物S-2 0.63 mg cm-3およびスギ辺材木酢液1.25 mg cm-3である。すなわち、スギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 6.0)250 cm3を栽培使用時に水で20 dm3になるように希釈すると、トマト青枯病菌に対するMICとなるスギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 6.0)の希釈溶液が調製できる。この溶液は淡褐色の濁りのある溶液になる。長時間置くと若干褐色油状沈殿が底に生じるので、用時に希釈使用が望ましい。同条件で、スギ材メタノール抽出物S-2 およびスギ辺材木酢液をそれぞれ単独で使用した場合のMICは、それぞれ5.0 mg cm-3および10.0 mg cm-3であった。両者を組み合わせたスギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 6.0)で抗菌活性が強くなった。
【0063】
実施例20
トマト青枯病(Ralstonia solanacearum)の複数の菌株に対する実施例9で調製したスギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 6.0)の抗菌活性の変動を調べた。トマト青枯病菌として8224、AA6001、AA6006、AA9007およびKu7502-1の5菌株を用いた。供試菌株のトマトに対する病原性試験を茎部に針で菌接種する方法で行い、接種後の経過観察で病原性の強さを判定した(表10)。
【0064】
【表10】
AA6001が最も病原性が強く、次いで8224株となった。他の菌株の病原性はこれらより低かった。
【0065】
スギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 6.0)の試料濃度はスギ材メタノール抽出物S-2 50 mg cm-3およびスギ辺材木酢液100 mg cm-3である。酵母エキス−ペプトン寒天培地(YPA;酵母エキス5 g、ペプトン10 g、グルコース5 g、NaCl 5 gおよび寒天15 gを水1 dm3に溶解調製、pH 7.0)、Heart Infusion Agar (HIA) (DIFCO)、およびPSAの3種類の培地を用いて、連続2倍希釈法によりMICを決定した。
【0066】
表11にトマト青枯病菌に対する最小発育阻止濃度(MIC)をスギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 6.0)の培地への添加濃度で示す。
【0067】
【表11】
いずれの菌株に対しても、スギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 6.0)を1/160濃度添加した場合がMICとなった。YPA、HIAおよびPSAのいずれの培地を用いた場合も、A液のMICは同一濃度となった。しかし、YPAおよびPSAを用いた試験培地では時折生育にばらつきが生じ、HIAが最も安定した生育状態を示した。
【0068】
更に詳しくMICを決定するため、スギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 6.0)の添加濃度を細かく変化させてトマト青枯病菌に対する抗菌試験を行った(表12)。
【0069】
【表12】
菌株によってMICに多少差がみられたが、スギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 6.0)を1/120濃度添加したときがMICとなることがわかった。このときの試料濃度は、スギ辺材木酢液0.83 mg cm-3およびスギ材メタノール抽出物S-2 0.41 mg cm-3である。詳しい検討により、実施例18での予備試験結果より、若干スギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 6.0)の青枯病菌への抗菌作用は強い結果となった。
【0070】
実施例21
水耕養液栽培で一般的に用いられている大塚A処方培養液を試験に用いた。すなわち、大塚化学(株)製の大塚ハウス1号(含有成分:窒素全量10.0%、リン酸8.0%、加里24%、苦土5%、マンガン0.1%、ホウ素0.1%、鉄0.18%)1.5 gと大塚ハウス2号(含有成分:硝酸性窒素11.0%、石灰23.0%)1.0 gを水1リットルに溶解して大塚A処方培養液とした。大塚A処方培養液に青枯病菌を接種した状態で生菌数をコロニー計数する方法で、実施例9で調製したスギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 2.9)の殺菌効果を判定する試験をした。前培養した青枯病菌を初濃度106 CFU cm-3となるように大塚A処方培養液に加え、振盪培養した。24、48および72時間後に溶液を採取し、固体培地に接種して静置培養しコロニー数を計測して生菌数を求めた。スギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 2.9)を1/100濃度添加した大塚A処方培養液に青枯病菌を接種し、同様に生菌数を調べて比較した。結果を表13に示す。
【0071】
【表13】
大塚A処方培養液中で青枯病菌は3×106 CFU cm-3から48時間後に7×108 CFU cm-3まで増殖した。一方、スギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 2.9)を1/100濃度添加した大塚A処方培養液に青枯病菌を接種した場合は時間経過しても生菌数は0となり、青枯病菌の増殖が起こらず殺菌的に働いたことがわかった。
【0072】
実施例22
実施例21の水耕栽培で使用する大塚A処方培養液に実施例9で調製したスギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 2.9)を1/100濃度で添加するとトマト青枯病菌の増殖を完全に抑制することが明らかとなった。そこでさらに、スギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 2.9)を水耕栽培で使用することを前提に、培養液に植物を植えた条件下での抗菌効果を調べることにした。
【0073】
25℃のファイトトロンに設置した水耕栽培装置(ホームハイポニカ401、協和(株))にパプリカを定植し、30日後(生育前期)、70日後(生育中期)、120日後(生育後期)に培養液を分取し、濾過滅菌後、供試した。なお、実験期間中、パプリカの培養液中における根の張りもよく、生育は旺盛であった。根の影響を詳細に検討するため、4つの試験区を設け、トマト青枯病菌AA6001株の菌濃度が約107 cfu/mlになるように加え、30 ℃で振とう培養後、24時間毎に72時間まで菌数を調べた。その結果を表14に示す。
【0074】
【表14】
大塚A処方培養液およびパプリカを生育させた大塚A処方培養液では青枯病菌は増殖していたが、それらにスギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 2.9)を1/100濃度で添加した場合はトマト青枯病菌の増殖を完全に抑えており、パプリカを栽培したことによる根の影響は定植30、70、120日後でも認められなかった。
【0075】
実施例23
スギ辺材木酢液に代え、実施例14で調製したスギ辺材木酢液−スギ心材ヘキサン抽出物溶液(pH 6.0)または実施例9で調製したスギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 6.0およびpH 2.9)を使用した以外は、実施例7と同様の方法で植物病原性菌に対する抗菌試験を行った。結果を表15に示す。
【0076】
【表15】
実施例24
実施例9で調製したスギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 2.9)の利用に関する基礎データ収集のため、葉菜類の葉面処理をした場合の葉菜類生育への影響と障害発生について水耕栽培試験により検討した。試験は次の条件で行った。
【0077】
▲1▼試料溶液
スギ辺材木酢液−スギ材メタノール抽出物S-2溶液(pH 2.9)
▲2▼耕種概要
供試品目:リーフレタス、サラダナ、結球レタス
培養液管理:EC 育苗期1.2-1.5 dS/m、定植後1.8-2.0 dS/m (NFT耕) ;大塚A処方80%濃度;pHは全期間5.5-6.5に管理
炭酸ガス濃度:350 ppm
試験区:昼28 ℃−夜20 ℃および 昼25 ℃−夜15 ℃
播種:H12年5月12日、定植H12年5月26日
▲3▼散布処理
散布時期:本葉4-5枚展開時(H12年6月5日の夕方)
散布濃度:試験溶液の稀釈率100倍(pH 5.09)、1000倍(pH 5.16)、2000倍(pH 5.23)および無処理
散布量:1株あたり3-5 cm3
▲4▼調査項目
調査株数:5株/区 反復無し
生育調査:生体重、葉数、葉長・葉幅(最大葉)
障害株調査:健全(0)、微(1) ;障害葉が全体の5%以下、 軽(2);障害葉が全体の5-10% 中(3);障害葉が全体の10-30%、甚:(4) ;障害葉が全体の30%以上、として指数評価する。
【0078】
試験結果を表16に示す。
【0079】
【表16】
100倍稀釈で軽度の障害発生と生育抑制が見られるが、1000倍稀釈以上では、散布による影響はほとんど無いと判断された。
【0080】
実施例25
実施例14で調製したスギ辺材木酢液−スギ心材ヘキサン抽出物溶液(pH 2.9)のキュウリ各種地上部病害(べと病、うどんこ病)に対する防除効果を検討するため、次のような試験を行った。
【0081】
▲1▼試料溶液
試験液A:実施例15で調製したスギ辺材木酢液−スギ心材ヘキサン抽出物溶液(pH 2.9)
▲2▼耕種概要(品種・施肥・一般管理)
品種:シャープ1 (2本仕立、台木:光パワーゴールド)
定植:平成13年10月2日
施肥その他一般管理は併行に準じた。
▲3▼区制・面積
ビニールハウス内
1区 3 m2 (4株8側枝) 3反復
▲4▼散布方法
平成13年11月6日、 11月13日および11月20日の計3回散布した。散布には肩掛け噴霧器を用い、 10 アール当たり300 リットルを散布した。
▲5▼調査月日・方法
調査は、散布開始時(11月6日) 、第2回散布時(11月13日)最終散布時(11月20日)、最終散布1週間後(11月27日)、最終散布17日後(12月7日)に行った。散布開始時、第2回散布時は上位3葉を除くすべての葉、最終散布前、最終散布1週間後、最終散布17日後については上位10葉を、下記の調査基準により発病程度別に調査し、発病葉率、発病度を算出した。
調査基準(うどんこ病、べと病)
0 :病斑を認めない
1 :葉にわずかに病斑を認める
2 :葉面の約1/2に病斑を認める
3 :葉面の約3/4に病斑を認める
4 :葉のほぼ全面に病斑を認める
発病度={Σ(指数×発病程度別葉数)/(調査葉数×4)}×100
表17に(A)ベと病に対する試験結果、表18に(B)うどんこ病に対する試験結果、表19に(C)うどんこ病に対する防除価の推移を示す。散布時のpHについては300倍希釈で5.0、 500倍希釈で5.8であった。
【表17】
【表18】
【表19】
べと病に対しては、試験液Aの300倍および500倍稀釈液での処理が対照のダコニール1000と比較して優れた防除効果を示した。うどんこ病に対しては調査開始時に各区とも発生が見られなかったが、第2回調査時に水区および無処理区においてうどんこ病の発生が見られた。試験液Aの300倍処理区、500倍処理区とも最終散布時で発生が見られた。最終散布1週間後の調査で徐々に進展していき、最終散布17日後の調査においてではすべての調査葉で発病する甚発生であった。うどんこ病に対しては、発生前からの散布でダコニール1000と同等の試験液Aの防除効果が認められる。しかし、残効性については今回の試験では1〜2週間ではないかと考えられる。なお、今回の調査では試験液Aによる薬害らしき症状は全く見あたらなかった。
【0082】
【発明の効果】
木酢液とスギの抽出物とを含有する本発明の農園芸用抗菌溶液は、木酢液とスギの抽出物をそれぞれ単独で用いた農園芸用抗菌溶液よりも抗菌作用が強くなるので、植物の病害防除用として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】スギの溶媒抽出分画方法を示す説明図である。
【図2】スギの樹脂成分の分離方法を示す説明図である。
Claims (3)
- スギを炭化して得られるスギ木酢液と、スギの材部から抽出して得られるサンダラコピマリノールおよびフェルギノールを含有するスギ材部抽出物とを含有する農園芸用抗菌溶液。
- トマト青枯病菌、トウガラシ疫病菌、トマト萎凋病菌、メロン根腐萎凋病菌、キュウリべと病菌およびキュウリうどんこ病菌のうちいずれかまたは複数に対する抗菌作用を有する請求項1に記載の農園芸用抗菌溶液。
- 請求項1または2に記載の農園芸用抗菌溶液を製造する方法であって、スギの材部を有機溶媒で抽出してスギの抽出物を調製し、スギを炭化して得られるスギ木酢液と混合することを特徴とする農園芸用抗菌溶液の製造方法。
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