JP4342647B2 - 可変容量型ベーンポンプの背圧溝構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本願の発明は、可変容量型ベーンポンプの背圧溝構造に関し、特にサイドプレートやカバープレートに形成される背圧溝内を流動する背圧油の流動を円滑化して、ポンプ騒音およびポンプ振動の低減を図った、可変容量型ベーンポンプの背圧溝構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
圧力平衡型ベーンポンプにおいては、ポンプ吸入部とポンプ吐出部との対が2組あり、両組におけるポンプ吸入部同志および両組におけるポンプ吐出部は、互いに向かい合った配置とされている。
【0003】
しかしながら、可変容量型ベーンポンプにおいては、ポンプ吸入部とポンプ吐出部との対が1組しかない構造になっており、ベーンの飛び出しを補助する背圧油を供給するためにサイドプレートやカバープレートに形成される背圧溝も、このような1組のポンプ吸入部とポンプ吐出部との対に対応する構造のものとなっている。
【0004】
すなわち、図11に図示されるように、サイドプレート05には、ポンプ吸入側においてベーンの飛び出しを補助する背圧油を供給する半円弧状の背圧溝028aが形成され、また、ポンプ吐出側においてベーンの飛び出しを補助する背圧油を供給する半円弧状の背圧溝028bが形成されて、これら両半円弧状の背圧溝028a、028bが、両側2個所において、絞り050 により連通されている。背圧溝028aは、背圧側流体通路027 を介して高圧側(ポンプ吐出室)連通されている。なお、018bはポンプ吸入部に連通する吸入凹溝、019bはポンプ吐出部に連通する吐出貫通溝である。
【0005】
また、図10に図示されるように、カバープレート03には、ポンプ吸入側においてベーンの飛び出しを補助する背圧油を供給する半円弧状の背圧溝029aが形成され、また、ポンプ吐出側においてベーンの飛び出しを補助する背圧油を供給する半円弧状の背圧溝029bが形成されて、これら両半円弧状の背圧溝029a、029bは、不連通とされている(特開平11−93856号公報参照)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、ポンプ吸入側においては、ポンプ室容積の拡大によりカムリングに引かれてベーンの飛び出し量が増大するので、これを補償するために、ベーンの飛び出しを補助する背圧油は増量されるが、ポンプ吐出側においては、ポンプ室容積の縮小によりカムリングに押されてベーンの飛び出し量が減少するので、これを補償するために、ベーンの飛び出しを補助する背圧油は減量される傾向にある。
【0007】
このため、ポンプ吐出側において、カバープレートの背圧溝029b、ポンプ吐出側にあるロータの背圧孔016 (図12参照)およびサイドプレートの背圧溝028bから追い出される背圧油は、絞り050 を通ってポンプ吸入側の背圧溝028aに流入しようとし、そこからさらに、ポンプ吸入側にあるロータの背圧孔016 に流入しようとする。
【0008】
そうすると、図12に図示されるように、絞り050 を通ってポンプ吸入側の背圧溝028aに流入しようとする背圧油は、ポンプ吸入側におけるポンプ室容積の拡大によるベーンの飛び出し量の増大を補償するために高圧室(ポンプ吐出室)からポンプ吸入側の背圧溝028aに送り込まれてくる背圧油と衝突することになる。
【0009】
このような、ポンプ吐出側においてサイドプレートの背圧溝028bから追い出される背圧油と、ポンプ吸入側においてサイドプレートの背圧溝028aに流入しようとする背圧油(高圧油)との衝突は、ポンプ騒音とポンプ振動の問題を発生させる原因となる虞がある。
【0010】
本願の発明は、従来の可変容量型ベーンポンプが有する前記のような問題点を解決して、特にサイドプレートやカバープレートに形成される背圧溝内を流動する背圧油の流動を円滑化して、ポンプ騒音とポンプ振動を低減させた、可変容量型ベーンポンプの背圧溝構造を提供することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段および効果】
本発明は、前記のような課題を解決した可変容量型ベーンポンプの背圧溝構造に係り、その請求項1に記載された発明は、ポンプハウジング内に回転自在に収容され、周方向に等間隔に放射方向に指向して複数のベーン溝を有するとともに、各ベーン溝にベーンが収装されたロータと、前記ポンプハウジング内に移動変位可能に配置され、前記ロータの外周部との間に前記ベーンで仕切られたポンプ室を形成するように嵌装されて、前記ポンプ室の容積が最大となるような付勢力が与えられているカムリングと、前記ポンプハウジング内に回転不能に収容され、前記ロータと前記カムリングとの一側に摺接して、前記ベーン溝内のベーン背後の背圧孔に連通する背圧溝を有するサイドプレートと、前記ポンプハウジングの開口を塞ぎ、前記ロータと前記カムリングとの他側に摺接して、前記ベーン溝の背圧孔に連通する背圧溝を有するカバープレートとを備えてなる可変容量形ベーンポンプの背圧溝構造において、前記サイドプレートは、前記ポンプ室から同サイドプレートの吐出貫通溝を経て吐出される高圧流体の吐出室に接し、前記サイドプレートの背圧溝は、環状の背圧溝がポンプ吸入側とポンプ吐出側とに2分割された形状の分割背圧溝とされ、ポンプ吸入側の分割背圧溝が前記サイドプレートに形成された背圧側流体通路を介して前記吐出室に連通され、前記カバープレートの背圧溝は、ポンプ吸入側およびポンプ吐出側にわたる環状の背圧溝とされ、前記サイドプレートのポンプ吸入側の分割背圧溝には、前記吐出室の高圧流体が直接導入されて、吸気側のベーン溝の背圧孔に供給され、サイドプレートの前記背圧側流体通路と、サイドプレートのポンプ吸入側の前記分割背圧溝と、ポンプ吸入側にあるベーン溝の前記背圧孔と、カバープレートの前記環状背圧溝と、ポンプ吐出側にあるベーン溝の前記背圧孔と、サイドプレートのポンプ吐出側にある前記分割背圧溝とは、上記順序で連通する行き止まり流路を構成していることを特徴とする可変容量型ベーンポンプの背圧溝構造である。
【0012】
請求項1に記載された発明は、前記のように構成されているので、ロータと、カムリングと、サイドプレートと、カバープレートとを前記の態様で備えてなる可変容量形ベーンポンプの背圧溝構造が、サイドプレートの背圧溝は、高圧側に連通されて、環状の背圧溝がポンプ吸入側とポンプ吐出側とに分割された形状の分割背圧溝とされ、カバープレートの背圧溝は、環状の背圧溝とされることにより構成されている。
【0013】
この結果、ポンプ吐出側において、ポンプ室容積の縮小によりカムリングに押されてベーンの飛び出し量が減少することにより、サイドプレートの吐出側背圧溝、ポンプ吐出側にあるロータの背圧孔およびカバープレートの吐出側背圧溝から追い出される背圧油は、カバープレートの吐出側背圧溝と環状に連通されたカバープレートの吸入側背圧溝に流入して、そこからさらにポンプ吸入側にあるロータの背圧孔に流入しようとするので、この背圧油は、ポンプ吸入側において、ポンプ室容積の拡大によりカムリングに引かれてベーンの飛び出し量が増大することにより、高圧室(ポンプ吐出室)からサイドプレートの吸入側背圧溝に送り込まれてくる背圧油と衝突することはない。これにより、両背圧油の衝突に起因するポンプ騒音とポンプ振動の発生が低減される。
【0015】
また、サイドプレートの背圧溝は、環状の背圧溝がポンプ吸入側とポンプ吐出側とに2分割された形状の2分割背圧溝とされる結果、環状の背圧溝がポンプ吸入側とポンプ吐出側とに分割された形状の分割背圧溝として構成されるサイドプレートの背圧溝を、最も単純な構造にして、簡単に形成することができる。
【0016】
また、請求項2記載のように請求項1記載の発明を構成することにより、カバープレートの背圧溝は、環状の背圧溝がポンプ吸入側とポンプ吐出側とに仮想上仕切られる片方の個所において閉塞されたC型背圧溝とされる。
【0017】
この結果、ポンプ吐出側において、ポンプ室容積の縮小によりカムリングに押されてベーンの飛び出し量が減少することにより、サイドプレートの吐出側背圧溝、ポンプ吐出側にあるロータの背圧孔およびカバープレートの吐出側背圧溝から追い出される背圧油は、カバープレートの吐出側背圧溝とC字状に連通されたカバープレートの吸入側背圧溝に流入して、そこからさらにポンプ吸入側にあるロータの背圧孔に流入しようとするので、C字の一方端側から他方端側までC字の連続部を巡る長いパスを経てロータの背圧孔に流入することになり、この間、背圧油の流動エネルギーが流動摩擦損失により減殺されるので、それだけ、ポンプ騒音とポンプ振動の発生を低減することができる。
【0018】
さらに、請求項3記載のように請求項2記載の発明を構成することにより、前記した片方の個所は、ポンプ吐出工程が終了してポンプ吸入工程が開始する側の個所とされる。
【0019】
この結果、サイドプレートの吐出側背圧溝、ポンプ吐出側にあるロータの背圧孔およびカバープレートの吐出側背圧溝から追い出される背圧油がカバープレートの背圧溝(C型背圧溝)のC字状の一方端側から他方端側までC字の連続部を巡る長いパスを経てロータの背圧孔に流入しようとする流動方向は、ロータの回転方向と逆になるので、背圧油の流動エネルギーがロータとの摩擦損失により効果的に減殺されることになり、それだけ、ポンプ騒音とポンプ振動の発生をさらに低減することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、図1ないし図9に図示される本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態における背圧溝構造が適用される可変容量型ベーンポンプの正面図、図2は、図1のII−II線矢視縦断面図、図3は、図2のIII−III線矢視横断面図、図4は、図1の可変容量型ベーンポンプのカバープレートの裏面図、図5は、同サイドプレートの裏面図、図6は、図4のカバープレートの変形例を示す図、図7は、図6のカバープレートに形成されるC型背圧溝の閉塞位置とロータの回転方向との関係を示す説明図、図8は、背圧油の流れを示す説明図、図9は、図1の可変容量型ベーンポンプの特性線図である。
【0021】
図1ないし図3に図示されるように、本実施形態における背圧溝構造が適用される可変容量型ベーンポンプ1は、ポンプボディ本体であるポンプハウジング2の正面開口(図2において右向き)をカバープレート3が覆っており、該カバープレート3により覆われたポンプハウジング2の内部のポンプカートリッジ収容空間4には、ポンプカートリッジを構成するサイドプレート5と、アウタケース6と、カムリング7と、ロータ8とが収容されている。
【0022】
サイドプレート5は、収容空間4の底部に挿入され、該サイドプレート5の上からアウタケース6が挿入され、該アウタケース6の内部には、カムリング7が、シールピン9を軸支部として揺動可能に収容されている。シールピン9は、一端がサイドプレート5に形成されたピン受け孔に挿入され、他端がカバープレート3に形成されたピン受け孔に挿入されて固定されている。
【0023】
カムリング7がシールピン9により軸支された位置とポンプ軸心に関し略対称の位置には、アウタケース6の内周面とカムリング7の外周面との摺動部をシールするシール部10が設けられており、これらシールピン9とシール部10とにより、アウタケース6の内周面とカムリング7の外周面との間の空間が第1の流体圧室11と第2の流体圧室12とに仕切られている。第1の流体圧室11は、図3においては、2室に分かれて描かれているが、サイドプレート5の摺接面に形成された溝により、これらの2室は連通されている。
【0024】
カムリング7は、第2の流体圧室12と該第2の流体圧室12に連通する室47とにまたがって収容されたスプリング36により、常時第1の流体圧室11側に向けて揺動するように付勢されている。室47は、ねじ栓(プラグ)49により閉塞されている。
【0025】
カムリング7の内部には、ロータ8が収容されており、該ロータ8には、図3に図示されるように、円周方向に等間隔に放射方向に指向して複数のベーン溝13が形成されており、該ベーン溝13内に収装されたベーン14が、ロータ8がポンプ駆動軸15により駆動されて回転した時、カムリング7のカム面に従ってベーン溝13内を往復摺動する。各ベーン14は、ロータ8の軸方向に沿って該ロータ8に形成された背圧孔16に供給されるポンプ吐出圧により、常時カムリング7のカム面に向けて付勢されている。
【0026】
このようにして、各ベーン14が常時カムリング7のカム面に向けて付勢されることにより、隣接する2つのベーン14、14と、カムリング7のカム面と、ロータ8の外周面と、サイドプレート5およびカバープレート3とにより囲まれて形成されるポンプ室17がポンプ作用をして、吸入部18から吸入した作動油を加圧して、吐出部19を経て吐出室20に吐出する。
【0027】
吸入部18は、図4および図5に図示されるように、カバープレート3に形成された吸入溝である吸入貫通溝18a と、サイドプレート5に形成された吸入溝である吸入凹溝18b とからなる。また、吐出部19は、図4および図5に図示されるように、カバープレート3に形成された吐出溝である吐出凹溝19a と、サイドプレート5に形成された吐出溝である吐出貫通溝19b とからなる。吸入貫通溝18a 、吐出貫通溝19b は、カバープレート3、サイドプレート5をそれぞれ壁厚方向に貫通している。
【0028】
カバープレート3に形成された吸入貫通溝18a とサイドプレート5に形成された吸入凹溝18b とは互いに連通して、吸入行程にあるポンプ室17に臨んでいる。また、カバープレート3に形成された吐出凹溝19a とサイドプレート5に形成された吐出貫通溝19b とは互いに連通して、吐出行程にあるポンプ室17に臨んでいる。
【0029】
カバープレート側の吸入貫通溝18a と吐出凹溝19a とは、カバープレート3に1組のみ設けられ、また、サイドプレート側の吸入凹溝18b と吐出貫通溝19b とは、サイドプレート5に1組のみ設けられている。
【0030】
作動油は、ポンプ吸入口21からポンプハウジング2に形成された吸入側流体通路26a 、制御バルブ22のスプール収納孔22a 内に収容されたスプール23の2つのランド24、25により挟まれた環状室26b 、ポンプハウジング2に形成された吸入側流体通路26c 、カバープレート3に形成された吸入側流体通路26d を経て、前記した吸入部18に導かれる。
【0031】
他方、ポンプ室17のポンプ作用により加圧された作動油は、前記のとおり、吐出部19を出て吐出室20に入るが、そこから図示されないポンプ吐出口を出て、車両における動力舵取装置等の各種流体圧利用機器に送られる。
【0032】
加圧された作動油の一部は、また、図2〜図5および図8に図示されているように、吐出室(高圧室)20からサイドプレート5に形成された背圧側流体通路27を経て、サイドプレート5に形成された一方の半円弧状溝からなる背圧溝28a に入り、そこから図2において上半のポンプ吸入側にあるロータ8の背圧孔16に導かれ、次いで、カバープレート3に形成された環状溝からなる背圧溝29を経て下半のポンプ吐出側にあるロータ8の背圧孔16に導かれて、サイドプレート5に形成された他方の半円弧状溝からなる背圧溝28b に至る。
【0033】
これらの背圧側流体通路27、一方の半円弧状背圧溝28a 、上半背圧孔16、環状背圧溝29、下半背圧孔16、他方の半円弧状背圧溝28b は、背圧油の行き止まり流路を構成しており、この行き止まり流路内に充満した背圧油は、各ベーン14をカムリング7のカム面に向けて付勢すると同時に、吐出部19内の作動油の一部とともに、カバープレート3とロータ8との間隙およびサイドプレート5とロータ8との間隙を介してカバープレート3とロータ8との摺接部およびサイドプレート5とロータ8との摺接部に至り、これらの摺接部をそれぞれ潤滑する。
【0034】
そして、最終的には、駆動軸15の軸受部に滲出して、そこを潤滑し、ポンプハウジング2に形成された潤滑油戻し通路30、吸入側流体通路26d を経て、ポンプ吸入側に還流される。
【0035】
加圧された作動油は、さらに、吐出室20からサイドプレート5に形成された可変オリフィス31(図3参照)を経て減圧されて第2の流体圧室12に導かれる。可変オリフィス31の上流側の加圧された作動油は、図示されないポンプハウジング2に形成された流体通路を通り、その端部開口32を経て制御バルブ22のスプール23の一方のランド24により画成された第1弁室(高圧側)33に入る。
【0036】
そして、この第1弁室33に流入した加圧された作動油は、一方のランド24がポンプハウジング2に形成された流体通路34を開放したとき、ここを流れ、次いで、アウタケース6に形成されたオリフィス35を経て減圧されて第1の流体圧室11に導かれる。
【0037】
カムリング7は、第1の流体圧室11に導かれた作動油の圧力と第2の流体圧室12に導かれた作動油の圧力との差圧により、スプリング36の付勢力に抗して、シールピン9を中心に図3において左方に揺動する。
【0038】
そうすると、カムリング7のサイドプレート5に接する側の側面が、可変オリフィス31を徐々に塞ぐので、第2の流体圧室12内の作動油圧力はさらに減圧されて、カムリング7は、シールピン9を中心にさらに左方に揺動する。そして、第1の流体圧室11内の作動油の圧力が、第2の流体圧室12内の作動油の圧力とスプリング36の付勢力との合力と釣り合う位置において停止する。
【0039】
第1の流体圧室11に導かれる作動油の圧力は、制御バルブ22により、次のようにして制御される。
制御バルブ22のスプール23の他方のランド25により画成された第2弁室(低圧側)37には、スプール23を常時第1弁室33方向に付勢するようにして、スプリング38が縮設されている。
【0040】
また、第2弁室37は、ポンプハウジング2に形成されたオリフィス40、ポンプハウジング2とアウタケース6とにまたがって形成された流体通路39を介して第2の流体圧室12に連通している。オリフィス40は、第2の流体圧室12内に流入した作動油の圧力脈動を平滑化して、これを第2弁室37に導く。
【0041】
他方、第1弁室33には、前記のとおり、可変オリフィス31の上流側の加圧された作動油が流入しているので、スプール23は、この加圧された作動油の圧力と、第2弁室37内のスプリング38の付勢力と減圧された作動油の圧力との合力とが釣り合う位置まで移動して停止する。このようにして、流体通路34の開口量が制御され、該流体通路34およびオリフィス35を経て第1の流体圧室11に導かれる作動油の圧力が制御される。
【0042】
したがって、いま、ポンプが始動されて、ポンプ回転数が次第に増大すると(アイドリングの状態)、ポンプ吐出量が次第に増大し、可変オリフィス31の前後の差圧が上昇する。そして、第1弁室33内の作動油の圧力が増大して、スプール23を図3において左方に移動させ、流体通路34の開口量を大きくさせる。
【0043】
そうすると、流体通路34、オリフィス35を経て第1の流体圧室11に導かれる作動油の圧力が徐々に増大していき、やがて、第2の流体圧室12内の作動油の圧力とスプリング36の付勢力との合力と釣り合うようになる。
【0044】
この間、カムリング7は、図3の位置で静止しており、ロータ8との偏心量は最大であり、ポンプ吐出量は最大にされている。したがって、ポンプ回転数が前記のようにして増大するのにつれて、ポンプ吐出量は急激に増大する(図9のo−a線参照)。
【0045】
ポンプ回転数が増大して、車両のアイドリングの回転数から低速時の回転数に達すると、可変オリフィス31の前後の差圧がさらに上昇し、第1の流体圧室11内の作動油の圧力は、第2の流体圧室12内の作動油の圧力とスプリング36の付勢力との合力を越えるので、カムリング7は、第1の流体圧室11内の作動油の圧力に押されて図3において徐々に左方に揺動し、カムリング7とロータ8との偏心量、ポンプ室17に臨む吸入部18の面積およびポンプ室17に臨む吐出部19の面積は徐々に減少するが、ポンプ吐出量は略一定の高水準に維持される(図9のa−b線参照)。
【0046】
ポンプ回転数がさらに増大して、車両の中・高速時の回転数に達すると、可変オリフィス31の前後の差圧がさらに上昇し、カムリング7は、第1の流体圧室11内の作動油の圧力に押されて、さらに左方に揺動する。これにより、カムリング7とロータ8との偏心量、ポンプ室17に臨む吸入部18の面積およびポンプ室17に臨む吐出部19の面積は小さくなるので、ポンプ吐出量は徐々に低減される(図9のb−c線参照)。
【0047】
この間、カムリング7のこの左方への揺動により、可変オリフィス31は徐々に閉じられていくが、その最小開口面積は維持されて、カムリング7のこの左方への揺動が停止する。
【0048】
したがって、ポンプ回転数がさらに増大しても、カムリング7は左方にそれ以上揺動しないので、カムリング7とロータ8との偏心量は一定の最小量に維持されて、ポンプ吐出量は略一定の低水準に維持される(図9のc−d線参照)。
【0049】
このようにして、本実施形態における可変容量型ベーンポンプ1は、ポンプ回転数の増大に応じてカムリング7がロータ8との偏心量を小さくするように移動するので、図9に図示されるようなポンプ吐出量特性(o−a−b−c−d)を得ることができる。
【0050】
本実施形態において、サイドプレート5に形成される背圧溝は、前記のとおり、半円弧状溝からなる背圧溝28a と、同じく半円弧状溝からなる背圧溝28b とから構成されている。また、カバープレート3に形成される背圧溝は、前記のとおり、環状溝からなる背圧溝29として構成されている。しかしながら、カバープレート3に形成される背圧溝は、この構造に限定されるものではなく、図6に図示されるC型背圧溝29' のように変形実施されてもよい。
【0051】
このC型背圧溝29' は、図4に図示される環状の背圧溝29がポンプ吸入側とポンプ吐出側とに仮想上仕切られる片方の個所において閉塞された形状をなしている。この片方の個所は、好ましくは、図7に分かり易く図示されているように、ポンプ吐出工程が終了してポンプ吸入工程が開始する側の片方の個所とされるのがよい。
【0052】
この片方の個所がこのように選択されると、ロータ8の回転方向は、図7において反時計方向となる。これに対して、ポンプ吐出側において、ポンプ室容積の縮小によりカムリング7に押されてベーン14の飛び出し量が減少することにより、サイドプレート5の吐出側半円弧状背圧溝28b 、ポンプ吐出側にあるロータ8の背圧孔16およびカバープレート3の吐出側背圧溝(C型背圧溝29' の下半)から追い出される背圧油の流動方向は、C字の連続部を巡る時計方向となる。この結果、ロータ8の回転方向と前記追い出される背圧油の流動方向とは逆になるので、背圧油の流動エネルギーがロータ8との摩擦損失により効果的に減殺されて、それだけ、ポンプ騒音とポンプ振動の発生を低減することができる。
【0053】
本実施形態は、前記のように構成されているので、その可変容量型ベーンポンプ1の背圧溝構造によれば、次のような効果を奏することができる。
ポンプハウジング2内に回転自在に収容され、周方向に等間隔に放射方向に指向して複数のベーン溝13を有するロータ8と、ポンプハウジング2内に移動変位可能に配置され、ロータ8の外周部との間にポンプ室17を形成するように嵌装されて、ポンプ室17の容積が最大となるような付勢力が与えられているカムリング7と、ポンプハウジング2内に回転不能に収容され、ロータ8とカムリング7との一側に摺接して、ベーン溝13に連通する背圧溝を有するサイドプレート5と、ポンプハウジング2の開口を塞ぎ、ロータ8とカムリング7との他側に摺接して、ベーン溝13に連通する背圧溝を有するカバープレート3とを備えてなる可変容量形ベーンポンプ1の背圧溝構造において、サイドプレート5の背圧溝は、高圧のポンプ吐出室20側に連通されて、環状の背圧溝がポンプ吸入側とポンプ吐出側とに分割された形状の分割背圧溝(半円弧状背圧溝28a 、28b )とされ、カバープレートの背圧溝は、環状の背圧溝29とされている。
【0054】
この結果、ポンプ吐出側において、ポンプ室容積の縮小によりカムリング7に押されてベーン14の飛び出し量が減少することにより、サイドプレート5の吐出側半円弧状背圧溝28b 、ポンプ吐出側にあるロータ8の背圧孔16およびカバープレート3の吐出側背圧溝(環状背圧溝29の下半)から追い出される背圧油は、カバープレート3の吐出側背圧溝(環状背圧溝29の下半)と環状に連通されたカバープレート3の吸入側背圧溝(環状背圧溝29の上半)に流入して、そこからさらにポンプ吸入側にあるロータ8の背圧孔16に流入しようとするので、この背圧油は、ポンプ吸入側において、ポンプ室容積の拡大によりカムリング7に引かれてベーン14の飛び出し量が増大することにより、ポンプ吐出室20からサイドプレート5の吸入側半円弧状背圧溝28a に送り込まれてくる背圧油と衝突することがない。これにより、両背圧油の衝突に起因するポンプ騒音とポンプ振動の発生が低減される。
【0055】
また、サイドプレート5の背圧溝は、環状の背圧溝がポンプ吸入側とポンプ吐出側とに2分割された形状の2分割背圧溝(半円弧状背圧溝28a 、28b )とされているので、環状の背圧溝がポンプ吸入側とポンプ吐出側とに分割された形状の分割背圧溝として構成されるサイドプレート5の背圧溝を、最も単純な構造にして、簡単に形成することができる。
【0056】
また、カバープレート3の背圧溝が、図6に図示されるようなC型背圧溝29' により構成される場合には、ポンプ吐出側において、ポンプ室容積の縮小によりカムリング7に押されてベーン14の飛び出し量が減少することにより、サイドプレート5の吐出側半円弧状背圧溝28b 、ポンプ吐出側にあるロータ8の背圧孔16およびカバープレート3の吐出側背圧溝(C型背圧溝29' の下半)から追い出される背圧油は、カバープレート3の吐出側背圧溝(C型背圧溝29' の下半)とC字状に連通されたカバープレート3の吸入側背圧溝(C型背圧溝29' の上半)に流入して、そこからさらにポンプ吸入側にあるロータ8の背圧孔16に流入しようとするので、C字の一方端側から他方端側まで、C字の連続部を巡る長いパスを経てロータ8の背圧孔16に流入することになり、この間、背圧油の流動エネルギーが流動摩擦損失により減殺されるので、それだけ、ポンプ騒音とポンプ振動の発生を低減することができる。
【0057】
さらに、ポンプ吐出側において、サイドプレート5の吐出側半円弧状背圧溝28b 、ポンプ吐出側にあるロータ8の背圧孔16およびカバープレート3の吐出側背圧溝(C型背圧溝29' の下半)から追い出される背圧油は、前記のとおり、カバープレート3のC型背圧溝29' のC字の連続部を巡る長いパスを経てポンプ吸入側にあるロータ8の背圧孔16に流入しようとするが、その流動方向は、ロータ8の回転方向と逆になるので、背圧油の流動エネルギーがロータ8との摩擦損失により効果的に減殺されて、それだけ、ポンプ騒音とポンプ振動の発生をさらに低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態における背圧溝構造が適用される可変容量型ベーンポンプの正面図である。
【図2】図1のII−II線矢視縦断面図である。
【図3】図2のIII−III線矢視横断面図である。
【図4】図1の可変容量型ベーンポンプのカバープレートの裏面図である。
【図5】同サイドプレートの裏面図である。
【図6】図4のカバープレートの変形例を示す図である。
【図7】図6のカバープレートに形成されるC型背圧溝の閉塞位置とロータの回転方向との関係を示す説明図である。
【図8】背圧油の流れを示す説明図である。
【図9】図1の可変容量型ベーンポンプの特性線図である。
【図10】従来の可変容量型ベーンポンプのカバープレートの裏面図であって、図4と同様の図である。
【図11】同サイドプレートの裏面図であって、図5と同様の図である。
【図12】従来の可変容量型ベーンポンプにおける背圧油の流れを示す説明図である。
【符号の説明】
1…可変容量型ベーンポンプ、2…ポンプハウジング、3…カバープレート、4…ポンプカートリッジ収納空間、5…サイドプレート、6…アウタケース、7…カムリング、8…ロータ、9…シールピン、10…シール部、11…第1の流体圧室、12…第2の流体圧室、13…ベーン溝、14…ベーン、15…ポンプ駆動軸、16…ベーン背圧孔、17…ポンプ室、18…吸入部、18a …吸入貫通溝、18b …吸入凹溝、19…吐出部、19a …吐出凹溝、19b …吐出貫通溝、20…吐出室、21…ポンプ吸入口、22…制御バルブ、22a …スプール収納孔、23…スプール、24、25…ランド、26a …吸入側流体通路、26b …環状室、26c 、26d …吸入側流体通路、27…背圧側流体通路、28a 、28b …半円弧状背圧溝、29…環状背圧溝、29’…C型背圧溝、30…潤滑油戻し通路、31…可変オリフィス、32…端部開口、33…第1弁室(高圧側)、34…流体通路、35…オリフィス、36…スプリング、37…第2弁室(低圧側)、38…スプリング、39…流体通路、40…オリフィス、47…室、49…ねじ栓。
Claims (3)
- ポンプハウジング内に回転自在に収容され、周方向に等間隔に放射方向に指向して複数のベーン溝を有するとともに、各ベーン溝にベーンが収装されたロータと、
前記ポンプハウジング内に移動変位可能に配置され、前記ロータの外周部との間に前記ベーンで仕切られたポンプ室を形成するように嵌装されて、前記ポンプ室の容積が最大となるような付勢力が与えられているカムリングと、
前記ポンプハウジング内に回転不能に収容され、前記ロータと前記カムリングとの一側に摺接して、前記ベーン溝内のベーン背後の背圧孔に連通する背圧溝を有するサイドプレートと、
前記ポンプハウジングの開口を塞ぎ、前記ロータと前記カムリングとの他側に摺接して、前記ベーン溝の背圧孔に連通する背圧溝を有するカバープレートと
を備えてなる可変容量形ベーンポンプの背圧溝構造において、
前記サイドプレートは、前記ポンプ室から同サイドプレートの吐出貫通溝を経て吐出される高圧流体の吐出室に接し、
前記サイドプレートの背圧溝は、環状の背圧溝がポンプ吸入側とポンプ吐出側とに2分割された形状の分割背圧溝とされ、ポンプ吸入側の分割背圧溝が前記サイドプレートに形成された背圧側流体通路を介して前記吐出室に連通され、
前記カバープレートの背圧溝は、ポンプ吸入側およびポンプ吐出側にわたる環状の背圧溝とされ、
前記サイドプレートのポンプ吸入側の分割背圧溝には、前記吐出室の高圧流体が直接導入されて、吸気側のベーン溝の背圧孔に供給され、
サイドプレートの前記背圧側流体通路と、サイドプレートのポンプ吸入側の前記分割背圧溝と、ポンプ吸入側にあるベーン溝の前記背圧孔と、カバープレートの前記環状背圧溝と、ポンプ吐出側にあるベーン溝の前記背圧孔と、サイドプレートのポンプ吐出側にある前記分割背圧溝とは、上記順序で連通する行き止まり流路を構成している
ことを特徴とする可変容量型ベーンポンプの背圧溝構造。 - 前記カバープレートの背圧溝は、環状の背圧溝がポンプ吸入側とポンプ吐出側とに仮想上仕切られる片方の個所において閉塞されたC型背圧溝とされたことを特徴とする請求項2記載の可変容量型ベーンポンプの背圧溝構造。
- 前記片方の個所は、ポンプ吐出工程が終了してポンプ吸入工程が開始する側の個所とされたことを特徴とする請求項2記載の可変容量型ベーンポンプの背圧溝構造。
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