以下、本発明の実施の形態について説明する。
まず、以下順次説明する第1〜第9の実施の形態に係るアイドルストップ付き車両について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る車両1は、車体前部のエンジンルーム内にエンジン2が横方向に配置され、該エンジン2の出力が自動変速機3、差動装置4、車軸5a,5bを介して左右の前輪6a,6bに伝達されるように構成されたFF(フロントエンジン・フロントドライブ)タイプの車両である。また、この車両1は、燃費の向上や、環境汚染物質あるいは二酸化炭素の排出低減、及び騒音の抑制等を図るために、停車中等、後述する所定の条件が満たされたときにエンジン2を停止させる機能、いわゆるアイドルストップ機能を有するアイドルストップ付き車両であり、エンジンルーム内には、アイドルストップ時にエンジン2の始動用バッテリ7から電力供給を受けて作動し、電動モータ8a及びポンプ8b等からなる電動オイルポンプ8が配置されている。また、車室内には、アクセルペダル9やブレーキペダル10等が配置されている。
次に、上記自動変速機3について図2を用いて詳しく説明する。
図2に示すように、この自動変速機3は、主たる構成要素として、トルクコンバータ20と、該コンバータ20の出力により駆動される変速歯車機構として隣接配置された第1、第2遊星歯車機構30,40と、これらの遊星歯車機構30,40でなる動力伝達経路を切り換えるクラッチやブレーキ等の複数の摩擦要素51〜55及びワンウェイクラッチ56とを有し、これらによりDレンジにおける1〜4速、Sレンジにおける1〜3速及びLレンジにおける1〜2速と、Rレンジにおける後退速とが得られるようになっている。
上記トルクコンバータ20は、エンジン2の出力軸2aに連結されたケース21内に固設されたポンプ22と、該ポンプ22に対向して配置されて該ポンプ22により作動油を介して駆動されるタービン23と、該ポンプ22とタービン23との間に介設され、かつ、変速機ケース11にワンウェイクラッチ24を介して支持されてトルク増大作用を行うステータ25と、上記ケース21とタービン23との間に設けられ、該ケース21を介してエンジン2の出力軸2aとタービン23とを直結するロックアップクラッチ26とで構成されている。そして、上記タービン23の回転がタービンシャフト27を介して遊星歯車機構30,40側に出力されるようになっている。
ここで、このトルクコンバータ20の反エンジン側には、該トルクコンバータ20のケース21を介してエンジン2に駆動されるエンジン駆動式のオイルポンプ12が配置されている。
一方、上記第1、第2遊星歯車機構30,40は、いずれも、サンギヤ31,41と、このサンギヤ31,41に噛み合った複数のピニオン32…32,42…42と、これらのピニオン32…32,42…42を支持するピニオンキャリヤ33,43と、ピニオン32…32,42…42に噛み合ったリングギヤ34,44とで構成されている。
そして、上記タービンシャフト27と第1遊星歯車機構30のサンギヤ31との間にフォワードクラッチ51が、同じくタービンシャフト27と第2遊星歯車機構40のサンギヤ41との間にリバースクラッチ52が、また、タービンシャフト27と第2遊星歯車機構40のピニオンキャリヤ43との間に3−4クラッチ53がそれぞれ介設されていると共に、第2遊星歯車機構40のサンギヤ41を固定する2−4ブレーキ54が備えられている。
さらに、第1遊星歯車機構30のリングギヤ34と第2遊星歯車機構40のピニオンキャリヤ43とが連結されて、これらと変速機ケース11との間にローリバースブレーキ55とワンウエイクラッチ56とが並列に配置されていると共に、第1遊星歯車機構30のピニオンキャリヤ33と第2遊星歯車機構40のリングギヤ44とが連結されて、これらに出力ギヤ13が接続されている。
そして、この出力ギヤ13が、中間伝動機構60を構成するアイドルシャフト61上の第1中間ギヤ62に噛み合わされていると共に、該アイドルシャフト61上の第2中間ギヤ63と差動装置4の入力ギヤ71とが噛み合わされて、上記出力ギヤ13の回転が差動装置4のデフケース72に入力され、該差動装置4を介して左右の車軸5a,5bが駆動されるようになっている。
ここで、上記各クラッチやブレーキ等の摩擦要素51〜55の油圧供給状態及びワンウェイクラッチ56の作動状態と変速段との関係をまとめると、表1に示すようになる。ここで、この表1における○印は、摩擦要素51〜55においては作動油圧が供給されている状態であることを意味し、ワンウェイクラッチ56においてはロック状態であることを意味する。なお、摩擦要素51〜55のうち、フォワードクラッチ51、3−4クラッチ53、ローリバースブレーキ55、リバースクラッチ52は単一の油圧室を有し、該油圧室に作動油圧が供給されているときに当該摩擦要素が締結される。また、バンドブレーキでなる2−4ブレーキ54は、作動油圧が供給される油圧室として締結室54aと解放室54bとを有し、締結室54aのみに作動油圧が供給されているときに当該2−4ブレーキ54が締結され、解放室54bのみに作動油圧が供給されているとき、両室54a,54bとも作動油圧が供給されていないとき、及び両室54a,54bとも作動圧が供給されているときに、2−4ブレーキ54が解放されるようになっている。また、ワンウェイクラッチ56は、前進時(正駆動時)においては、1速でロック状態、2速〜4速でフリー状態となる。したがって、2速〜4速での逆駆動時においては、ワンウェイクラッチ56がロック状態となり、車軸5a,5bの車両後退方向回転がロックされる。
次に、上記自動変速機3が搭載されたアイドルストップ付き車両1のアイドルストップ制御について、第1〜第9の実施の形態を通して詳しく説明する。なお、既に説明したもの(エンジン2、自動変速機3等)については、第1〜第9の実施の形態を通して同一の符号を用いる。
まず、第1の実施の形態について説明すると、図3に示すように、当該アイドルストップ付き車両1には、アイドルストップ制御を行う制御回路100が備えられており、該制御回路100は、車両1の速度を検出する車速センサ101からの信号と、アクセルペダル9の踏み込み量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ102からの信号と、ブレーキペダル10が踏み込まれたときにオンとなるブレーキスイッチ103からの信号と、前輪5a,5b、及び後輪に設けられたキャリパのホイルシリンダに通じるブレーキ液通路上のブレーキ液の圧力を検出するブレーキ液圧センサ104からの信号と、路面の勾配を検出する路面勾配センサ105からの信号とを入力する。なお、上記路面勾配センサ105としては、ジャイロセンサや、カーナビゲーション用地図情報に基づいてその地点の路面勾配を算出する路面勾配算出装置等を用いることができる。なお、上記制御回路100等はエンジン及び変速機の制御装置の一部を記載したものであり、該制御装置の他の部分により、上記車速センサ101からの信号やアクセル開度センサ102からの信号等に基づく通常の変速制御やエンジン制御等が別途行われる。(第2〜第9の実施の形態において同じ)。
そして、制御回路100は、これらのスイッチやセンサからの信号に基いてアイドルストップ制御を実行し、上記変速機3の変速制御用アクチュエータ111…111(変速用ソレノイドバルブ等)と、バッテリ駆動式の電動オイルポンプ8と、エンジン2の燃料噴射弁121…121及び点火プラグ122…122とに制御信号を出力する。ここで、このバッテリ駆動式の電動オイルポンプ8は、前述したように、アイドルストップ時(エンジン停止中)に作動停止状態となるエンジン駆動式のオイルポンプ12に代わり、エンジン2の始動用バッテリ7から電力供給を受けて作動し、変速機3の摩擦要素51…55に作動油圧を供給するものである。
次に、上記制御回路100が実行するアイドルストップ制御を、図4に示すフローチャートを用いて説明する。
まず、ステップS1で、上記センサやスイッチからの各検出値を入力したうえで、ステップS2で、アイドルストップ中か否かを判定する。その結果、アイドルストップ中でない場合(NO)は、ステップS3で、車速がゼロ(車速が所定車速以下、ほぼゼロも含む)であり、かつブレーキスイッチ103がオンであるか否か、つまりエンジン2の自動停止条件が満足されているか否かを判定する。その結果、満足されていない場合(NO)は、そのままリターンし、満足されている場合(YES)は、ステップS4で、エンジン2を自動停止する。すなわち、燃料噴射弁121…121による燃料供給及び点火プラグ122…122による火花点火を停止する。なお、このとき、変速段は、通常の変速マップに従って変速された結果、1速となっている。
次いで、ステップS5で、路面勾配が所定勾配より大きいか否かを判定し、大きくない場合(NO)は、1速のまま変速せずにそのままリターンし、大きい場合(YES)は、ステップS6で、変速段を1速から2速に制御する。すなわち、変速制御用アクチュエータ111…111を制御して、フォワードクラッチ51の油圧室及び2−4ブレーキ54の締結室54aに作動油圧を供給し、フォワードクラッチ51及び2−4ブレーキ54を締結状態とさせる。なお、このとき、エンジン2の自動停止に伴い、エンジン駆動式のオイルポンプ12は停止状態となって作動油圧の生成が停止するため、制御回路100は、バッテリ駆動式の電動オイルポンプ8を作動させる。
これに対し、上記ステップS2で、アイドルストップ中である場合(YES)は、ステップS7で、ブレーキがオフ操作されたか否か、すなわちブレーキスイッチ103がオフとなったか否か、及び車速が所定車速より大きいか否か、つまりエンジン2の再始動条件が満足されているか否かを判定する。ここで、車速が所定車速より大きくなったときとは、例えば、ブレーキペダル10の踏み込みの緩みや、ブレーキペダル10は踏み込んでいるものの、背景技術で説明したようなブレーキ液圧の低下により、下り坂等で車両1が前進し始めた場合等である。そして、ステップS7で、満足されている場合(YES)は、ステップS8で、エンジン2を再始動する。すなわち、燃料噴射弁121…121による燃料供給及び点火プラグ122…122による火花点火を再開する。また、このエンジン2の再始動に伴い、エンジン駆動式のオイルポンプ12がエンジン2で再駆動されて該ポンプ12による作動油圧の生成が再開するため、制御回路100は、バッテリ駆動式の電動オイルポンプ8の作動を停止させる。
次いで、ステップS9で、現在の変速段が2速か否かを判定する。その結果、2速でない場合(NO)、つまり1速の場合は、変速をせずそのままリターンし、2速の場合(YES)は、ステップS10で、アクセル開度が所定開度より大きいか否かを判定する。その結果、アクセル開度が所定開度より大きい場合(YES)、つまり乗員が急発進を望んでいる場合は、大きな加速力が得られるように、ステップS11で、変速段を2速から1速に制御する。すなわち、変速制御用アクチュエータ111…111を制御して、フォワードクラッチ51の油圧室に作動油圧を供給し、フォワードクラッチ51を締結状態とさせる。なお、このとき、エンジン2の再始動に伴い、エンジン駆動式のオイルポンプ12が作動状態となって作動油圧の生成を再開するため、制御回路100は、バッテリ駆動式の電動オイルポンプ8を停止させる。一方、アクセル開度が所定開度以下の場合(NO)、つまり乗員が緩発進を望んでいる場合は、ステップS12で、2速を維持する。なお、2速の状態は、変速マップに基づく2−3シフトアップ変速が生じるまで維持される。
他方、ステップS7で、エンジンの再始動条件が満足されていない場合(NO)は、ステップS13で、現在の変速段が2速か否かを判定する。その結果、2速の場合(YES)は、そのままリターンし、2速でない場合(NO)は、ステップS14で、ブレーキ液圧が所定圧未満か否かを判定する。その結果、ブレーキ液圧が所定圧未満でない場合(NO)は、そのままリターンし、所定圧未満の場合(YES)は、ステップS8で、エンジン2を再始動し、以後、ステップS9以後の処理を行う。
次に、本アイドルストップ制御の作用について説明する。
いま、例えば、車両1がDレンジの4速で走行しているものとする。そのとき、乗員によりブレーキペダル10が踏み込まれると、徐々に車速が低下すると共に、変速段が変速マップに従って4速→3速→2速→1速というように低速段側に制御される。また、ブレーキペダル10の踏み込みによりブレーキスイッチ103がONとなっている。そして、車速がゼロとなると、車速がゼロとなったときからのブレーキスイッチ103のONの継続時間のカウントが開始する。そして、該継続時間が所定時間に達すると、エンジン2の自動停止条件が満たされてエンジン2が自動停止される。また、併せて、この停車地点の路面勾配が所定勾配より大きいときは、変速段が1速から2速に制御され、路面勾配が所定値以下であれば、1速で維持される。
そして、このアイドルストップ中に、乗員によるブレーキペダル10の踏み込みが解除されてブレーキスイッチ103がOFFとなると、エンジン2の再始動条件が満たされ、エンジン2が再始動される。また、エンジン再始動時の変速段が2速でアクセル開度が所定開度より大きいときは、併せて、2速から1速に変速される。なお、アクセル開度が所定開度以下のときは、2速が維持される。
一方、このアイドルストップ中に、乗員によるブレーキペダル10の踏み込みは解除されていなくても、ブレーキ液圧が所定圧未満に低下した場合は、現在の変速段が1速のときは、エンジン2が再始動されるが、現在の変速段が2速のときは、エンジン2が再始動されることはない。
以上のように、第1の実施の形態によれば、路面勾配に応じてエンジン自動停止中の自動変速機3の変速段が車両1の後退を阻止可能な2速(所定変速段)または1速(最低速段)のいずれかに制御されると共に、2速に制御された場合は、ブレーキ圧の変化にかかわらずエンジン2が再始動されず、変速段が1速に制御された場合は、ブレーキ液圧が所定圧未満となるとエンジン2が再始動されるから、アイドルストップ中(エンジン自動停止中)に上り坂等で車両1が後退するのが確実に防止されると共に、エンジン自動停止のたびに毎回2速に変速されるということがなくなって車両1の発進性の低下が抑制され、かつ無用にアイドルストップが解除されるのが防止される。
次に、第2の実施の形態について説明する。この第2の実施の形態は、第1の実施の形態で用いた路面勾配センサ105に代えて、図5に示すように、車両1とその後方物との間の距離を検出する後方物距離センサ106を設けると共に、これに伴って、図4のフローチャートのステップS5に代えて、図6に示すように、ステップS5’を設けたものである。
すなわち、ステップS5′では、第1の実施の形態のステップS5とは異なり、後方物との距離が所定距離未満か否かを判定する。そして、その結果、所定距離より大きい場合(NO)は、1速のまま変速せずにそのままリターンし、所定距離未満の場合(YES)は、ステップS6で、変速段を1速から2速に制御するのである。
なお、その他の構成は第1の実施の形態と同一であり、ステップS1で各検出値を入力したうえで、第1の実施の形態同様、ステップS2,S3,S7,S9,S10,S13,S14等で各種の判定を行い、これらの判定結果に応じて、ステップS4でのエンジン停止、ステップS8でのエンジン再始動、ステップS11での変速段の2速から1速への制御、ステップS12での変速段の2速維持、または現在の変速段の維持を行う。
以上のように構成したことにより、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態で説明した作用効果に加え、車両1が後続車両と接近しているような場合等、車両後退による影響が大きい場合にのみ、変速段が2速(所定変速段)に制御されることとなるので、変速段を2速とすることによる車両1の発進性の低下が一層抑制される。
なお、後方物距離センサ106としては、例えば超音波センサ、電波センサ、カメラ等を用いることができる。
次に、第3の実施の形態について説明する。この第3の実施の形態は、図7に示すように、第1の実施の形態で用いた路面勾配センサ105に加え、第2の実施の形態で用いた後方物距離センサ106を設けると共に、これに伴って、図8に示すように、第1の実施の形態のステップS5とステップS6との間に、第2の実施の形態同様のステップS5’を設けたものである。
すなわち、ステップS5で、路面勾配が所定勾配より大きいか否かを判定し、大きくない場合(NO)は、1速のまま変速せずにそのままリターンし、大きい場合(YES)は、第1の実施の形態とは異なり、ステップS5′で、後方物との距離が所定距離未満か否かを判定する。そして、その結果、所定距離より大きい場合(NO)は、1速のまま変速せずにそのままリターンし、所定距離未満の場合(YES)は、ステップS6で、変速段を1速から2速に制御するのである。
なお、その他の構成は第1の実施の形態と同一であり、ステップS1で各検出値を入力したうえで、第1の実施の形態同様、ステップS2,S3,S7,S9,S10,S13,S14等で各種の判定を行い、これらの判定結果に応じて、ステップS4でのエンジン停止、ステップS8でのエンジン再始動、ステップS11での変速段の2速から1速への制御、ステップS12での変速段の2速維持、または現在の変速段の維持を行う。
以上のように構成したことにより、第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態で説明した作用効果に加え、路面勾配が所定勾配以上で後方物との距離が所定距離未満のときにのみ、変速段が2速に制御されるから、換言すれば、車両後退の虞があってもその後方物等への影響がないときは、変速段が2速(所定変速段)とされないから、一層、変速段を2速とすることによる車両1の発進性の低下が抑制される。
次に、第4の実施の形態について説明する。この第4の実施の形態は、第1の実施の形態において、自動変速機の油圧制御系(油圧制御手段)の故障検出手段を設け、この検出結果を含めて変速段を制御するようにしたものである。
すなわち、図9に示すように、第4の実施の形態に係るアイドルストップ付き車両1には、アイドルストップ制御を行う制御回路200が備えられており、該制御回路200は、第1の実施の形態と同様の車速センサ201、アクセル開度センサ202、ブレーキスイッチ203、ブレーキ液圧センサ204、路面勾配センサ205、からの信号に加え、AT(自動変速機)油圧制御系故障検出手段206からの信号を入力する。ここで、このAT油圧制御系故障検出手段206は、後述する変速制御用アクチュエータ111…111等の電気系、及び油圧回路等の油圧系を含むAT油圧制御系(油圧制御手段)の故障を検出する。
制御回路200は、これらのスイッチやセンサからの信号に基いてアイドルストップ制御を実行し、変速機3の変速制御用アクチュエータ111…111(変速用ソレノイドバルブ等)と、バッテリ駆動式の電動オイルポンプ8と、エンジン2の燃料噴射弁121…121及び点火プラグ122…122とに制御信号を出力する。
この第4の実施の形態に係るアイドルストップ制御は、図10に示すフローチャートに従って行われる。
すなわち、まず、ステップT1で、上記センサやスイッチからの各検出値を入力したうえで、ステップT2で、自動変速機のAT油圧制御系が故障中か否かを判定する。その結果、故障中の場合(YES)は、ステップT3で、変速段を3速に制御する。なお、3速は、変速制御用アクチュエータ111…111への通電を全て停止することにより達成される。また、このとき、前述の表1に示すように、フォワードクラッチ51の油圧室、2−4ブレーキ54の締結室54a及び解放室54b、3―4クラッチ53の油圧室にそれぞれ作動油圧が供給され、フォワードクラッチ51、2−4ブレーキ54、3―4クラッチ53が締結状態となる。一方、ステップT2で故障中でない場合(NO)は、ステップT4以後の制御を行う。なお、ステップT4〜T16は、第1の実施の形態のステップS2〜S14と同一であり、制御回路200は、ステップT4,T5,T7,T9,T11,T12,T15,T16で各種の判定を行い、これらの判定結果に応じて、ステップT6でのエンジン停止、ステップT10でのエンジン再始動、ステップT3での変速段の3速への制御、ステップT13での変速段の2速から1速への制御、ステップT14での変速段の2速維持の制御、または現在の変速段の維持の制御を行う。
次に、本第4の実施の形態に係るアイドルストップ制御の作用について説明する。
まず、AT油圧制御系の非故障時は、上記ステップT1で入力された各種信号に基づいて、ステップT4以後、第1の実施の形態のステップS2以後と同様の制御が行われることにより、上記第1の実施の形態で説明したのと同様の作用が得られることとなる。
一方、AT油圧制御系の故障時は、ステップT1〜T3の制御が繰り返される。つまり、変速段が3速に制御された状態で維持される。
以上のように、第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態で説明した作用効果に加え、油圧が供給される摩擦要素の数が2速(所定変速段)及び1速(最低変速段)よりも多い3速(変速段)に制御されるAT油圧制御系(油圧制御手段)の故障時は、エンジン2の自動停止が禁止されるから、該故障時にエンジン2の始動用バッテリ7のバッテリ残存容量の低下が生じることがなく、エンジン2の始動性等に悪影響を及ぼすことがない。すなわち、自動変速機3が、動力伝達経路の状態を切り換える複数の油圧作動式摩擦要素51〜55と、該摩擦要素51〜55に供給する作動油圧を制御するAT油圧制御系とを有し、エンジンの自動停止中はバッテリ駆動式のAT制御油圧用電動オイルポンプ8(油圧供給手段)により作動油圧が供給されるように構成されている場合において、仮に、AT油圧制御系の故障時にもエンジン2を自動停止させるものとすると、エンジン2の自動停止中は上記バッテリ7から電動オイルポンプ8に電力が供給されることとなるが、このとき、油圧が供給される摩擦要素の数が2速及び1速よりも多い3速に制御されていると、3速ではフォワードクラッチ51,2−4ブレーキ54,3−4クラッチ53の3つの摩擦要素に油圧を供給せねばならず、摩擦要素に供給する油量が非故障時よりも増大すると共に、これに伴ってAT制御用油圧用電動オイルポンプ8の消費電力が非故障時よりも増大してバッテリ残存容量の低下量が大きくなり、この結果、エンジンの始動性等に悪影響を与える虞があるのである。しかし、本第4の実施の形態によれば、前述のように構成したことにより、これが防止されるのである。
次に、第5の実施の形態について説明する。この第5の実施の形態は、第4の実施の形態における、第1の実施の形態に対する第2の実施の形態に対応するものであり、路面勾配センサ205に代えて、図11に示すように、後方物距離センサ207を設けると共に、これに伴って、図10のフローチャートのステップT7に代えて、図12に示すように、ステップT7’を設けたものである。
すなわち、ステップT7′では、第4の実施の形態のステップT7とは異なり、後方物との距離が所定距離未満か否かを判定する。そして、その結果、所定距離より大きい場合(NO)は、1速のまま変速せずにそのままリターンし、所定距離未満の場合(YES)は、ステップT8で、変速段を1速から2速に制御するのである。
なお、その他の構成は第4の実施の形態と同一であり、ステップT1で各検出値を入力した上で、ステップT2,T4,T5,T9,T11,T12,T15,T16で各種の判定を行い、これらの判定結果に応じて、ステップT6でのエンジン停止、ステップT10でのエンジン再始動、ステップT3での変速段の3速への制御、ステップT13での変速段の2速から1速への制御、ステップT14での変速段の2速維持、または現在の変速段の維持を行う。
以上のように構成したことにより、第5の実施の形態によれば、第4の実施の形態で説明した作用効果に加え、車両1が後続車両と接近しているような場合等、車両後退による影響が大きい場合にのみ、変速段が2速(所定変速段)に制御されることとなるので、2速とすることによる車両1の発進性の低下が一層抑制される。
次に、第6の実施の形態について説明する。この第6の実施の形態は、第4の実施の形態における、第1の実施の形態に対する第3の実施の形態に対応するものであり、図13に示すように、路面勾配センサ205に加え、後方物距離センサ207を設けると共に、これに伴って、図14に示すように、ステップT7とステップT8との間に、第5の実施の形態同様のステップT7’を設けたものである。
すなわち、ステップT7では、路面勾配が所定勾配より大きいか否かを判定し、大きくない場合(NO)は、1速のまま変速せずにそのままリターンし、大きい場合(YES)は、第4の実施の形態とは異なり、ステップT7′で、後方物との距離が所定距離未満か否かを判定する。そして、その結果、所定距離より大きい場合(NO)は、1速のまま変速せずにそのままリターンし、所定距離未満の場合(YES)は、ステップT8で、変速段を1速から2速に制御するのである。
なお、その他の構成は第4の実施の形態と同一であり、ステップT1で各検出値を入力した上で、ステップT2,T4,T5,T9,T11,T12,T15,T16で各種の判定を行い、これらの判定結果に応じて、ステップT6でのエンジン停止、ステップT10でのエンジン再始動、ステップT3での変速段の3速への制御、ステップT13での変速段の2速から1速への制御、ステップT14での変速段の2速維持、または現在の変速段の維持を行う。
以上のように構成したことにより、第6の実施の形態によれば、第4の実施の形態で説明した作用効果に加え、路面勾配が所定勾配以上で後方物との距離が所定距離未満のときにのみ、変速段が2速に制御されるから、換言すれば、車両後退の虞があってもその後方物等への影響がないときは、変速段が2速(所定変速段)とされないから、一層、変速段を2速とすることによる車両1の発進性の低下が抑制される。
次に、第7の実施の形態について説明する。この第7の実施の形態は、第1の実施の形態において、自動変速機3の油圧制御系(油圧制御手段)の故障検出手段と、エンジン1の始動用バッテリ7の残存容量検出手段とを設け、これらの検出結果も含めてアイドルストップ制御を行うようにしたものである。
すなわち、図15に示すように、第7の実施の形態に係るアイドルストップ付き車両1には、アイドルストップ制御を行う制御回路300が備えられており、該制御回路300は、第1の実施の形態と同様の車速センサ301、アクセル開度センサ302、ブレーキスイッチ303、ブレーキ液圧センサ304、路面勾配センサ305からの信号に加え、AT(自動変速機)油圧制御系故障検出手段306からの信号及びバッテリ残存容量検出手段307からの信号を入力する。ここで、バッテリ残存容量検出手段307としては、例えば電圧センサ及び電流センサで検出された電圧及び電流に基づいてバッテリ残存容量容量を算出する算出装置や、電圧センサ等を用いればよい。本実施の形態においては、バッテリ7の電圧がバッテリ残存容量に略比例する傾向を利用して、電圧センサでバッテリ電圧を検出することにより、バッテリ残存容量を簡易的に検出するようにしている。
制御回路300は、これらのスイッチやセンサからの信号に基いてアイドルストップ制御を実行し、変速機3の変速制御用アクチュエータ111…111(変速用ソレノイドバルブ等)と、バッテリ駆動式の電動オイルポンプ8と、エンジン2の燃料噴射弁121…121及び点火プラグ122…122とに制御信号を出力する。
この第7の実施の形態に係るアイドルストップ制御は、図16に示すフローチャートに従って行われる。
すなわち、まず、ステップU1で、上記センサやスイッチからの各検出値を入力したうえで、ステップU2で、アイドルストップ中か否かを判定する。その結果、アイドルストップ中でない場合(NO)は、ステップU3で、自動変速機のAT油圧制御系が故障中か否かを判定する。その結果、故障中の場合(YES)は、ステップU4で、変速段を3速に制御する。なお、3速は、変速制御用アクチュエータ111…111への通電を全て停止することにより達成される。また、このとき、前述の表1に示すように、フォワードクラッチ51の油圧室、2−4ブレーキ54の締結室54a及び解放室54b、3―4クラッチ53の油圧室にそれぞれ作動油圧が供給され、フォワードクラッチ51、2−4ブレーキ54、3―4クラッチ53が締結状態となる。
次いで、ステップU5で、エンジン2の自動停止を禁止する閾値としてのアイドルストップ禁止バッテリ電圧Voとして第1電圧V1を設定する。一方、上記ステップU3での判定の結果、故障中でない場合(NO)は、ステップU6で、上記アイドルストップ禁止バッテリ電圧Voとして第2電圧V2を設定する。ここで、第1電圧V1の方が第2電圧V2よりも高い電圧とされている(V1>V2)。これは、変速段が3速に制御されている場合は、1速に制御されている場合よりも、前述の表2に示すように、油圧が供給される摩擦要素の数が多いので、バッテリ駆動式オイルポンプ8の消費電力が増加し、バッテリ残存容量の低下が大きくなるので、3速に制御されている場合はバッテリ残存容量に余裕があるときのみアイドルストップを許可することを目的とするものである。
次いで、ステップU7で、現在のバッテリ電圧が上記アイドルストップ禁止バッテリ電圧Voよりも大きい否かを判定する。その結果、大きくない場合(NO)はリターンし、大きい場合(YES)はステップU8を実行する。
つまり、ステップU8で、車速がゼロ(車速が所定車速以下、ほぼゼロも含む)であり、かつブレーキスイッチ303がオンであるか否か、つまりエンジン2の自動停止条件が満足されているか否かを判定する。その結果、満足されていない場合(NO)は、そのままリターンし、満足されている場合(YES)は、ステップU9で、エンジン2を自動停止する。すなわち、燃料噴射弁121…121による燃料供給及び点火プラグ122…122による火花点火を停止する。なお、このとき、変速段は、通常の変速マップに従って変速された結果、1速となっている。
次いで、ステップU10で、ステップU3同様、自動変速機のAT油圧制御系が故障中か否かを判定し、故障中の場合(YES)は、そのままリターンする。つまり、変速段を3速で維持する。一方、故障中でない場合(NO)は、次いで、ステップU11で、路面勾配が所定勾配より大きいか否かを判定し、大きくない場合(NO)は、1速のまま変速せずにそのままリターンし、大きい場合(YES)は、ステップU12で、変速段を1速から2速に制御する。すなわち、変速制御用アクチュエータ111…111を制御して、フォワードクラッチ51の油圧室及び2−4ブレーキ54の締結室54aに作動油圧を供給し、フォワードクラッチ51及び2−4ブレーキ54を締結状態とさせる。なお、このとき、エンジン2の自動停止に伴い、エンジン駆動式のオイルポンプ12は停止状態となって作動油圧の生成が停止するため、制御回路300は、バッテリ駆動式の電動オイルポンプ8を作動させる。
なお、ステップU13〜U20は、ステップU19を除き、第1の実施の形態のステップS7〜S14と同一であり、制御回路300は、U13,U15,U16,U19,U20で各種の判定を行い、これらの判定結果に応じて、ステップU14でのエンジンの再始動、ステップU17での変速段の2速から1速への制御、ステップU18での変速段の2速維持の制御、または現在の変速段の維持の制御を行う。ここで、上記ステップU19では、現在の変速段が2速または3速のいずれか一方であるかを判定する。そして、その結果、現在の変速段が2速または3速の場合(YES)はそのままリターンして現在の変速段を維持し、それ以外の場合(NO)、つまり最低速段の場合は、ステップU20を実行する。
次に、第7の実施の形態に係るアイドルストップ制御の作用について説明する。
まず、アイドルストップ中でない場合について説明すると、AT油圧制御系の非故障時は、アイドルストップ禁止バッテリ電圧Voが第2電圧V2に設定される。一方、AT油圧制御系の故障時は、アイドルストップ禁止バッテリ電圧Voが第1電圧V1に設定されると共に、変速段が3速に制御される。そして、このように設定されたアイドルストップ禁止バッテリ電圧Voよりも現在のバッテリ電圧の方が高く、かつエンジン2の自動停止条件も成立している場合は、エンジン2が再始動される。また、このとき、AT油圧制御系が故障中であれば、変速段が3速で維持され、故障中でなければ、路面勾配に応じて、変速段が1速のまま維持され、または1速から2速に制御されることとなる。
一方、アイドルストップ禁止バッテリ電圧Voよりも現在のバッテリ電圧の方が低いときは、エンジン2の自動停止が行われることがない。
他方、エンジン2の自動停止が実行された後、すなわちアイドルストップ中は、上記ステップU1で入力された各種信号に基づきステップU13以後、第1の実施の形態のステップS7以後と同様の制御が行われることにより、第1の実施の形態で説明したのと同様の作用が得られることとなる。
以上のように、第7の実施の形態によれば、第1の実施の形態で説明した作用効果に加え、バッテリ残存容量が所定値未満のときは、エンジン2の自動停止が禁止されるから、故障時にエンジン2の始動用バッテリ7のバッテリ残存容量の低下が生じることがなく、例えばエンジン2の始動性等に悪影響を及ぼすようなことがない。すなわち、エンジン2の自動停止中はバッテリ駆動式のAT制御油圧用電動オイルポンプ8(油圧供給手段)により作動油圧が供給されるように構成されている場合において、仮に、バッテリ残存容量が少ない場合でもエンジン2が自動停止されるものとすると、エンジン2の自動停止中は上記バッテリ7からAT制御油圧用電動オイルポンプ8に電力が供給される結果、バッテリ残存容量が大きく低下し、エンジン2の始動性等に悪影響を与える虞があるが、前述のように構成したことにより、これが防止されるのである。
加えて、上記バッテリ残存容量の所定値はAT油圧制御系の非故障時よりも故障時の方が大きくされているから、バッテリ7から電力が多く供給されるAT油圧制御系の故障時におけるバッテリ残存容量の低下によるエンジン始動性等の悪化が確実に防止されるのである。
次に、第8の実施の形態について説明する。この第8の実施の形態は、第7の実施の形態における、第1の実施の形態に対する第2の実施の形態に対応するものであり、路面勾配センサ305に代えて、図17に示すように、後方物距離センサ308を設けると共に、これに伴って、図16のフローチャートのステップU11に代えて、図18に示すように、ステップU11’を設けたものである。
すなわち、ステップU11′では、第7の実施の形態のステップU11とは異なり、後方物との距離が所定距離未満か否かを判定し、所定距離より大きい場合(NO)は、1速のまま変速せずにそのままリターンし、所定距離未満の場合(YES)は、ステップU12で、変速段を1速から2速に制御するのである。
なお、その他の構成は第7の実施の形態と同一であり、ステップU1で各検出値を入力したうえで、ステップU2,U3,U7,U8,U10,U13,U15,U16,U19,U20等で各種の判定を行い、これらの判定結果に応じて、ステップU9でのエンジン自動停止、ステップU14でのエンジン再始動、また、ステップU12での変速段の1速から2速への制御、ステップU17での変速段の2速から1速への制御、ステップU18での変速段の2速維持、または現在の変速段の維持を行う。
以上のように構成したことにより、第8の実施の形態によれば、第7の実施の形態で説明した作用効果に加え、車両1が後続車両と接近しているような場合等、車両後退による影響が大きい場合にのみ、変速段が2速(所定変速段)に制御されることとなるので、2速とすることによる車両1の発進性の低下が一層抑制される。
次に、第9の実施の形態について説明する。この第9の実施の形態は、第7の実施の形態における、第1の実施の形態に対する第3の実施の形態に対応するものであり、図19に示すように、路面勾配センサ305に加え、第8の実施の形態で用いた後方物距離センサ308を設けると共に、これに伴って、図20に示すように、ステップU11とステップU12との間に、第8の実施の形態同様のステップU11’を設けたものである。
すなわち、ステップU11では、路面勾配が所定勾配より大きいか否かを判定し、大きくない場合(NO)は、1速のまま変速せずにそのままリターンし、大きい場合(YES)は、第7の実施の形態とは異なり、ステップU11′で、後方物との距離が所定距離未満か否かを判定する。そして、その結果、所定距離より大きい場合(NO)は、1速のまま変速せずにそのままリターンし、所定距離未満の場合(YES)は、ステップU12で、変速段を1速から2速に制御するのである。
なお、その他の構成は第7の実施の形態と同一であり、ステップU1で各検出値を入力したうえで、ステップU2,U3,U7,U8,U10,U13,U15,U16,U19,U20等で各種の判定を行い、これらの判定結果に応じて、ステップU9でのエンジン自動停止、ステップU14でのエンジン再始動、また、ステップU12での変速段の1速から2速への制御、ステップU17での変速段の2速から1速への制御、ステップU18での変速段の2速維持、または現在の変速段の維持を行う。
以上のように構成したことにより、第9の実施の形態によれば、第7の実施の形態で説明した作用効果に加え、路面勾配が所定勾配以上で後方物との距離が所定距離未満のときにのみ、変速段が2速に制御されるから、換言すれば、車両後退の虞があってもその後方物等への影響がないときは、変速段が2速(所定変速段)とされないから、一層、変速段を2速とすることによる車両1の発進性の低下が抑制される。