本発明は、4,5−エポキシモルヒナン誘導体またはその薬理学的に許容される酸付加塩の安定な医薬品組成物に関する。更に詳しくは、4,5−エポキシモルヒナン誘導体を有効成分とし、水溶性酸化防止剤、脂溶性酸化防止剤、シネルギストまたは糖類を含有させることを特徴とする4,5−エポキシモルヒナン誘導体の安定な医薬品組成物に関する。
モルヒネは強力な鎮痛作用を有し、術後疼痛、癌性疼痛等の疾患に用いられている。しかしながら、この薬物は依存形成、呼吸抑制作用、便秘等臨床上問題となる重篤な副作用があり、使用にあたっては厳重な管理を必要とする鎮痛薬である。
近年、中枢で鎮痛作用に関与する受容体としてμ、δ、κの3つのタイプのオピオイド受容体の存在が明らかにされ、また精神作用を示すσオピオイド受容体も知られている。
モルヒネにみられるこれらの重篤な副作用はμ受容体とσ受容体アゴニスト特有のものであり、δ、κ受容体アゴニストには見られないといわれている。
4,5−エポキシモルヒナン誘導体は、これらモルヒネ様の重篤な副作用を有さず、かつモルヒネ等と交差耐性を持たず、さらにσ受容体に全く親和性を示さない、強い鎮痛・利尿活性を持つκおよびδ受容体アゴニストであり、有用な鎮痛剤、利尿剤として期待されている(WO93/15081)。
しかしながら、これらの4,5−エポキシモルヒナン誘導体類は熱、光、酸素に対して化学的に不安定であり、保存時には、低温保存、遮光、不活性ガス置換等の手段をとる必要がある。
したがって、これら一連の4,5−エポキシモルヒナン誘導体を安定な形で製剤にすることは極めて有用である。
従来、モルヒナン誘導体であるモルヒネの安定化方法としては、例えば、特開平2−160719のように、モルヒネに塩基性成分を添加し製剤の安定性を改善する試み、また、ナロキソンにチオ硫酸ナトリウム、トコフェロール等の抗酸化剤を組み合わせた安定化医薬組成物(DE29719704)等が知られているが、4,5−エポキシモルヒナン誘導体類についての安定化組成物ならびに安定化方法は、未だ検討されていない。
WO93/15081
特開平2−160719
DE29719704
本発明の目的は、この4,5−エポキシモルヒナン誘導体の安定な医薬品組成物および安定化方法を提供することにある。
本発明は、特定の4,5−エポキシモルヒナン誘導体と、下記の(1)、(2)、(3)または(4)から選ばれる物質の少なくとも1種を含有することを特徴とするシロップ剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、硬カプセル剤、凍結乾燥製剤、ゲル剤、ローション剤、点鼻剤、点眼剤、またはエアゾール剤である医薬品組成物である。
(1) チオ硫酸ナトリウムである水溶性酸化防止剤
(2) 没食子酸プロピルおよびトコフェロールから選ばれる脂溶性酸化防止剤
(3) クエン酸もしくはその塩から選ばれるシネルギスト
(4) D−マンニトール、D−ソルビトール、キシリトール、およびブドウ糖から選ばれる糖類
本発明の4,5−エポキシモルヒナン誘導体を含む医薬品組成物は、4,5−エポキシモルヒナン誘導体の安定性を改善した安定な医薬品製剤であり、さらに、配合比、成分の最適化により著しく安定化される。また、医薬品の形態が異なってもその安定化効果が認められることから、医薬品製造/保管時の取扱の改善、投与時の有効性、安全性ならびに使用性の向上につながる可能性を示唆しており、また、様々な剤形、投与ルートの選択、種々の疾患治療への適応拡大が期待できるものである。
本発明は、4,5−エポキシモルヒナン誘導体と、水溶性酸化防止剤、脂溶性酸化防止剤、シネルギスト、または糖類の少なくとも1種を含有することを特徴とする安定な医薬品組成物である。
本発明に用いられる4,5−エポキシモルヒナン誘導体は、WO93/15081に記載されている方法により製造することができる、一般式(I)で表される化合物またはその薬理学的に許容される酸付加塩である。
ここで、…は二重結合又は単結合を表し、R1は炭素数1から5のアルキル、炭素数4から7のシクロアルキルアルキル、炭素数5から7のシクロアルケニルアルキル、炭素数6から12のアリ−ル、炭素数7から13のアラルキル、炭素数4から7のアルケニル、アリル、炭素数1から5のフラン−2−イルアルキル、または炭素数1から5のチオフェン−2−イルアルキルを表し、R2は水素、ヒドロキシ、ニトロ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルキル、または−NR7R8を表し、R7は水素または炭素数1から5のアルキルを表し、R8は水素、炭素数1から5のアルキル、または−C(=O)R9−を表し、R9は、水素、フェニル、または炭素数1から5のアルキルを表し、R3は水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、または炭素数1から5のアルコキシを表し、Aは−N(R4)C(=X)−、−N(R4)C(=X)Y−、−N(R4)−、または−N(R4)SO2−(ここでX、Yは各々独立してNR4、SまたはOを表し、R4は水素、炭素数1から5の直鎖もしくは分岐アルキル、または炭素数6から12のアリ−ルを表し、式中R4は同一または異なっていてもよい)を表し、Bは原子価結合、炭素数1から14の直鎖もしくは分岐アルキレン(ただし炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシおよびフェノキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよく、1から3個のメチレン基がカルボニル基でおきかわっていてもよい)、2重結合および/または3重結合を1から3個含む炭素数2から14の直鎖もしくは分岐の非環状不飽和炭化水素(ただし炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシおよびフェノキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよく、1から3個のメチレン基がカルボニル基でおきかわっていてもよい)、またはチオエーテル結合、エーテル結合および/もしくはアミノ結合を1から5個含む炭素数1から14の直鎖もしくは分岐の飽和または不飽和炭化水素(ただしヘテロ原子は直接Aに結合することはなく、1から3個のメチレン基がカルボニル基でおきかわっていてもよい)を表し、R5は水素または下記の基本骨格:
を持つ有機基(ただし炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、イソチオシアナト、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、およびメチレンジオキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよい)を表し、R6は水素、炭素数1から5のアルキル、または炭素数1から5のアルカノイルを表す。
一般式(I)において、R1はメチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、シクロプロピルメチル、アリル、ベンジル、またはフェネチルが好ましく、シクロプロピルメチルまたはアリルがより好ましい。
R2およびR3は各々独立して水素、ヒドロキシ、アセトキシ、またはメトキシが好ましい。
Aは−N(R4)C(=O)−、−N(R4)C(=O)O−、−N(R4)−、または−N(R4)SO2−(R4は水素、炭素数1から5の直鎖または分岐アルキルを表す。)が好ましく、中でも−N(R4)C(=O)−または−N(R4)C(=O)O−(R4は水素、炭素数1から5の直鎖または分岐アルキルを表す。)が好ましい。
Bは炭素数1から3の直鎖アルキレン、−CH=CH−、−C≡C−、−CH2O−、または−CH2S−が好ましく、中でも炭素数1から3の直鎖アルキレン−CH=CH−、または−C≡C−が好ましい。
R5は水素または下記の基本骨格:
を持つ有機基(ただし炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、イソチオシアナト、トリフルオロメチル、トルフルオロメトキシ、およびメチレンジオキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されてもよい)が好ましい。
R6は水素が好ましい。
特に好ましいのは17-(シクロプロピルメチル)-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナン塩酸塩 (以下、化合物1という)、17-(シクロプロピルメチル)-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)プロピオルアミド]モルヒナン塩酸塩(以下、化合物2という)である。
薬理学的に好ましい酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、グルタル酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マンデル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、フタル酸塩等の有機カルボン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンセンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩等の有機スルホン酸塩等があげられ、中でも塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩等が好ましいが、もちろんこれに限られるものではない。
薬効成分である4,5−エポキシモルヒナン誘導体の配合量に関しては、1医薬品組成物中に占める薬効成分含量は治療効果のある量であればいくらでもよく、例えば0.01〜10000μg/医薬品組成物の範囲とすることができるが、通常は、0.1〜1000μg/医薬品組成物の範囲が好ましい。
本発明に用いられる水溶性酸化防止剤としてチオール誘導体が、脂溶性酸化防止剤としてフェノール系化合物類、脂溶性ビタミン類が、シネルギストとしてクエン酸またはその塩が挙げられる。ここでいうシネルギストとは、それ単独での酸化防止効果は弱いが、他の酸化防止剤との組み合わせにより、その作用を増強させうるものである。
具体的には、水溶性酸化防止剤としてチオール誘導体であるチオ硫酸ナトリウムが用いられる。
脂溶性酸化防止剤としては、フェノール系化合物である没食子酸プロピルまたは脂溶性ビタミン類であるトコフェロールが用いられる。
シネルギストとしてはクエン酸またはその塩が用いられる。
上記の水溶性酸化防止剤、脂溶性酸化防止剤およびシネルギストから選ばれる少なくとも1種を酸化防止剤として用いる。また、少なくとも1種の糖類または界面活性剤と混合して用いることもできる。
酸化防止剤の配合量は、組成物重量に対して0.00001〜10重量%、好ましくは0.001〜10重量%、特に好ましくは0.001〜1重量%である。
酸化防止剤は、溶液中に溶解または分散させても、半固形物中あるいは固体中に分散させても十分な効果を発揮することが確認されており、シロップ剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、硬カプセル剤、ソフトカプセル剤、注射剤、凍結乾燥製剤、軟膏剤、テープ剤、ローション剤、点鼻剤、点眼剤、エアゾール剤、懸濁剤、乳剤、硬膏剤、坐剤等の全ての剤形の安定化に有効である。
本発明に用いられる糖類は、具体的には、D−マンニトール、D−ソルビトール、キシリトール、ブドウ糖である。
D−マンニトール、D−ソルビトール、キシリトール、ブドウ糖を単独で、または2種以上の混合物として用いる。また、少なくとも1種の水溶性酸化防止剤、脂溶性酸化防止剤、シネルギストまたは界面活性剤と混合して用いることもできる。
糖類の配合量は、組成物重量に対して0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜20重量%、特に好ましくは1〜20重量%である。
糖類は、特に注射剤の安定化に有効であることが確認されており、さらに酸化防止剤として水溶性酸化防止剤、脂溶性酸化防止剤またはシネルギストを合わせて用いることにより、より高い安定化効果が得られることも示されている。中でもD−マンニトール、D−ソルビトール、キシリトール、またはブドウ糖が注射剤の安定化に有効であり、合わせて用いる酸化防止剤としては、水溶性酸化防止剤であるチオ硫酸ナトリウム、シネルギストであるクエン酸が特に好ましい。
本発明に用いられ得る界面活性剤は、具体的には、セスキオレイン酸ソルビタン、ラウリン酸ソルビタン、パルミチン酸ソルビタン、ミリスチン酸グリセリル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等を例示することができる。
好ましくは、ミリスチン酸グリセリル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを単独で、または2種以上の混合物として用いる。また、少なくとも1種の水溶性酸化防止剤、脂溶性酸化防止剤、シネルギストまたは糖類と混合して用いることもできる。
界面活性剤の配合量は、組成物重量に対して0.0001〜20重量%、好ましくは0.001〜20重量%、特に好ましくは0.01〜10重量%である。
界面活性剤は、特に軟膏剤、ゲル剤、テープ剤、ローション剤、点鼻剤、点眼剤、エアゾール剤、坐剤等の外用剤の安定化に有効であることが確認されており、さらに酸化防止剤として水溶性酸化防止剤、脂溶性酸化防止剤、またはシネルギストを合わせて用いることにより、より高い安定化効果が得られることも示されている。中でもミリスチン酸グリセリルまたはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルが外用剤の安定化に有効であり、合わせて用いる酸化防止剤としては、シネルギストであるクエン酸が特に好ましい。
本発明の医薬品組成物には必要に応じて、使用可能な賦形剤、結合剤、増粘剤、可溶化剤、溶剤、等張化剤、緩衝剤、保存剤、基剤等の添加剤を加えても良い。
本発明において添加剤とは薬学的に許容しうるものであれば特に限定されるものではないが、例えば賦形剤として、乳糖、白糖、ショ糖、ソルビトール、結晶セルロース、トウモロコシデンプン、ゼラチン、デキストラン、結合剤としてヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、増粘剤としてアラビアゴム、ヒアルロン酸ナトリウム、キサンタンガム、溶剤として、水、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリソルベート80、グリセリン、大豆油、等張化剤として塩化ナトリウム、D−マンニトール、キシリトール、ブドウ糖、溶解補助剤として、シクロデキストリン、非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、セスキオレイン酸ソルビタン、ラウリン酸ソルビタン、パルミチン酸ソルビタン、オレイン酸グリセリル、ミリスチン酸グリセリル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、緩衝剤として、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、リン酸、コハク酸、乳酸、酢酸、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、保存剤として、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、塩化ベンザルコニウム、基剤として、白色ワセリン、ウィテプゾル、プラスチベース、流動パラフィン等が挙げられる。
本発明の医薬品組成物は、シロップ剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、硬カプセル剤、凍結乾燥製剤、軟膏剤、ゲル剤、テープ剤、ローション剤、点鼻剤、点眼剤、エアゾール剤、硬膏剤、坐剤等に利用可能である。
以下、本発明の優れた効果を明らかにするため、実施例を用いて説明するが、本発明はこれにより制限されるものではない。
参考例1
メスフラスコに各種酸化防止剤をそれぞれ所定量添加した化合物1の水溶液(10μg/mL)および未添加の化合物の水溶液を調製した。試験例1・2および比較例を表1に示す。
安定性試験:試験例1・2および比較例の水溶液をアンプル密封後、80度、5日間保存後の化合物1の薬物濃度をHPLC法(UV法)により測定し、残存率を算出し、水溶液安定性を評価した。
表2から明らかなように、比較例の酸化防止剤無添加系に比べ、酸化防止剤を0.1%添加した試験例1・2は残存率が高く顕著な化合物1の安定化効果を示した。
参考例2
処方例1に示すように、化合物1(10μg/mL)に所定量の等張化剤を添加した注射液を得た。試験例1〜4および比較例を表3に示す。
(処方例1)注射剤:
化合物1 1mg
等張化剤 0.9〜5g
注射用蒸留水 適 量
合 計 100mL
安定性試験:試験例1〜4および比較例の水溶液を窒素バブリング後、アンプルへ密封した。アンプルを80度、7日間保存後のサンプル中化合物1の薬物残存率をHPLC法(UV法)により測定し、加速保存後の安定性を評価した。
表4から明らかなように、比較例の塩化ナトリウム等張化剤に比べ、試験例1〜4は薬物残存率が著しく高く、注射剤の加速保存において、糖類の等張化剤による顕著な化合物1の安定化効果を示した。
参考例3
処方例2に示すように、化合物1(10μg/mL)の5%マンニトール水溶液にチオ硫酸ナトリウムを所定量添加した注射液および未添加の注射剤を得た。試験例1〜3および比較例を表5に示す。
(処方例2)注射剤:
化合物1 1mg
チオ硫酸ナトリウム 0〜1g
マンニトール 5g
注射用蒸留水 適 量
合 計 100mL
安定性試験:試験例1〜3および比較例の水溶液をアンプル密封した。アンプルを120度、60分間加熱滅菌後のサンプル中化合物1の薬物純度をHPLC法(UV法)により測定し、滅菌後製剤安定性を評価した。
表6から明らかなように、比較例の酸化防止剤無添加系に比べ、試験例1〜3は薬物純度が高く、注射剤の滅菌行程において、チオ硫酸ナトリウムの顕著な化合物1の安定化効果を示した。またチオ硫酸ナトリウムの添加量の影響は0.1〜1.0%の間で認められずいずれの添加量でも同等の安定化効果をしめした。
実施例1
化合物1及び所定量の酸化防止剤を溶解した水溶液、あるいは酸化防止剤未添加の水溶液を、乳糖およびアビセルPH−101の混合物に滴下・混合し造粒物を得た。本品を40度12時間乾燥して処方例3に示すような顆粒剤を得た。試験例2、3、5〜9および比較例0、1、4を表7に示す。
(処方例3)顆粒剤:
化合物1 100mg
チオ硫酸ナトリウム 0〜1g
アビセルPH−101 31g
乳糖 適 量
合 計 100g
安定性試験:試験例2、3、5〜9および比較例0、1、4の顆粒剤を製造直後の、化合物1の薬物純度をHPLC法(UV法)により測定し、製剤安定性を評価した。
表8から明らかなように、比較例の酸化防止剤無添加系に比べ、試験例2、3、5〜9の顆粒剤中薬物純度は顕著に高く、顆粒においても化合物1の安定化効果を示した。また、試験例6〜9にてチオ硫酸ナトリウムの添加量の影響を検討したところ、0.1〜0.2%で最も高い安定化効果を示した。
実施例2
化合物1及び所定量の酸化防止剤を溶解した水溶液、あるいは酸化防止剤未添加の水溶液を、乳糖、アビセルPH−101およびHPC−SLの混合物に滴下・混合し造粒物を得た。本品を40度12時間乾燥して整粒後ステアリン酸マグネシウムと混合し打錠成形し、処方例4に示すような錠剤を得た。実施した試験例1および比較例を表9に示す。
(処方例4)錠剤:
化合物1 100mg
チオ硫酸ナトリウム 0〜1g
アビセルPH−101 30g
HPC−SL 3g
ステアリン酸マグネシウム 0.5g
乳糖 適 量
合 計 100g
安定性試験:試験例1および比較例の錠剤を瓶に密閉後、40度、75%R.H.で3ヶ月間保存後の化合物1の薬物残存率をHPLC法(UV法)により測定し、製剤安定性を評価した。
表10から明らかなように、比較例の酸化防止剤無添加系に比べ、試験例1は残存率が高く、錠剤においても顕著な化合物1の安定化効果を示した。
参考例4
化合物1及び所定量の酸化防止剤を溶解した水溶液、あるいは酸化防止剤未添加の水溶液を、ポリエチレングリコール400溶解して処方例5に示すようなソフトカプセル用充填液を調製した。実施した試験例1〜3および比較例を表11に示す。
(処方例5)ソフトカプセル用充填液:
化合物1 40mg
チオ硫酸ナトリウム 0〜0.1g
精製水 2g
ポリエチレングリコール400 適 量
合 計 100g
安定性試験:試験例1〜3および比較例のソフトカプセル用充填液をアンプル密封後、80度、1週間保存後の化合物1の薬物残存率をHPLC法(UV法)により測定し、充填液安定性を評価した。
表12から明らかなように、比較例の酸化防止剤無添加系に比べ、試験例1〜3は残存率が高く、本充填液中においても酸化防止剤の顕著な化合物1の安定化効果を示した。また、チオ硫酸ナトリウムの添加量の影響を検討したところ、添加量の増加とともに、安定化効果は増大することが明らかとなった。
参考例5
試験例1および比較例のソフトカプセル用充填液を窒素バブリングにより脱気後、処方例6に示すゼラチン皮膜に100mg充填し、ソフトカプセル剤を調製した。試験例1および比較例を表13に示す。
(処方例6)ソフトカプセル用ゼラチン皮膜:
ゼラチン 21g
コハク化ゼラチン 21g
グリセリン 23g
酸化チタン 0.7g
精製水 適 量
合 計 100g
安定性試験:試験例1および比較例のソフトゼラチンカプセルを瓶に密閉後、40度、75%R.H.、1箇月保存後の、ソフトカプセル中化合物1の薬物濃度をHPLC法(UV法)により測定し、ソフトカプセルの安定性を評価した。
表14から明らかなように、比較例の酸化防止剤無添加系に比べ、試験例1は残存率が高く、ソフトカプセルにおいても酸化防止剤による顕著な化合物1の安定化効果を示した。
実施例3
化合物1及び所定量のチオ硫酸ナトリウムを溶解した水溶液、あるいは未添加の水溶液に、ゲル化剤としてヒロドキシプロピルメチルセルロースを、保湿剤としてポリエチレングリコール4000、保存剤としてパラオキシ安息香酸エチルおよびパラオキシ安息香酸ブチルを溶解して処方例7に示すような水性ゲル剤を調製した。実施した試験例1および比較例を表15に示す。
(処方例7)水性ゲル剤:
化合物1 1mg
ヒロドキシプロピルメチルセルロース 2g
ポリエチレングリコール4000 15g
チオ硫酸ナトリウム 0〜0.1g
パラオキシ安息香酸エチル 0.03g
パラオキシ安息香酸ブチル 0.02g
精製水 適 量
合 計 100g
安定性試験:試験例1および比較例の水性ゲル剤をアルミチューブに密閉後、60度、75%R.H.、1箇月保存後の水性ゲル剤中化合物1の薬物純度をHPLC法(UV法)により測定し、水性ゲル剤の安定性を評価した。
表16から明らかなように、比較例のチオ硫酸ナトリウム無添加系に比べ、0.1%添加系の試験例1は過酷条件下の保存においても薬物純度が高く、水性ゲル剤においても、チオ硫酸ナトリウムによる顕著な化合物1の安定化効果を示した。
実施例4
処方例8に示すように、化合物1を界面活性剤に加温して溶かし込み、流動パラフィンならびに白色ワセリンと混合し、ワセリン軟膏剤を得た。試験例1〜6および比較例を表17に示す。
(処方例8)ワセリン軟膏剤:
化合物1 1mg
界面活性剤 5g
流動パラフィン 15g
白色ワセリン 適 量
合 計 100g
製造時安定性試験:試験例1〜6および比較例の軟膏を調製直後の軟膏中、主分解物(N-oxide体)の生成率を純度試験法(HPLC−UV法)により測定し、軟膏の製造時安定性を評価した。
表18から明らかなように、比較例の界面活性剤添加系に比べ、試験例1〜6は主分解物の生成が抑制され、特に、試験例5・6のモノミリスチン酸グリセリルあるいはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルの使用により顕著な安定化効果を示した。
実施例5
処方例9に示すように、化合物1およびクエン酸をモノミリスチン酸グリセリンに加温して溶かし込み、流動パラフィンならびに白色ワセリンと混合し、クエン酸の所定量添加あるいは未添加のワセリン軟膏剤を得た。試験例1・2および比較例を表19に示す。
(処方例9)ワセリン軟膏剤:
化合物1 1mg
モノミリスチン酸グリセリル 5g
クエン酸 0〜0.1g
流動パラフィン 15g
白色ワセリン 適 量
合 計 100g
安定性試験:試験例1・2および比較例の軟膏をアルミチューブに密閉後、60度、75%R.H.、0.5箇月保存後の軟膏中化合物1の薬物純度をHPLC法(UV法)により測定し、軟膏の安定性を評価した。
表20から明らかなように、比較例のクエン酸無添加系に比べ、試験例1・2は薬物純度が高く、ワセリン軟膏においてもクエン酸(シネルギスト)による顕著な化合物1の安定化効果を示した。
参考例6
処方例10に示すように、化合物2(50μg/mL)に所定量の等張化剤を添加した注射液を得た。試験例1〜3および比較例を表21に示す。
(処方例10)注射剤:
化合物2 5mg
等張化剤 0.9〜5g
注射用蒸留水 適 量
合 計 100mL
安定性試験:試験例1〜3および比較例の水溶液をアンプルへ密封した。アンプルを121度、30分間高圧蒸気滅菌後のサンプル中化合物2の薬物残存率をHPLC法(UV法)により測定し、滅菌後の薬物安定性を評価した。
表22から明らかなように、比較例の塩化ナトリウム等張化剤に比べ、試験例1〜3は薬物残存率が著しく高く、注射剤の高圧蒸気滅菌行程において、糖類の等張化剤による顕著な化合物2の安定化効果を示した。
本発明の4,5−エポキシモルヒナン誘導体を含む医薬品組成物は、上記試験の結果から明らかなごとく、4,5−エポキシモルヒナン誘導体の安定性を改善した安定な医薬品製剤であり、さらに、配合比、成分の最適化により著しく安定化される。また、医薬品の形態が異なってもその安定化効果が認められることから、医薬品製造/保管時の取扱の改善、投与時の有効性、安全性ならびに使用性の向上につながる可能性を示唆しており、また、様々な剤形、投与ルートの選択、種々の疾患治療への適応拡大が期待できるものである。