JP4299943B2 - 建築物の緑化用人工土壌成形体及び壁面緑化用パネル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ビルディングなどの建造物の屋上、屋根、ベランダ、アトリウム、または擁壁、橋脚などの構造物、その他の建築物の表面に人工土壌を設けて植栽する場合に用いられる建築物の緑化用人工土壌成形体及び壁面緑化用パネルに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、建築物の要所を人工土壌で覆うと共に、これに鑑賞用の植物を栽培することにより、人工的な建築物を美しく緑化して、落ちついた雰囲気や精神的なやすらぎ感をも与えられるようにする試みがなされている。
【0003】
このような緑化は、主として建造物の屋上、屋根、ベランダ、アトリウム、または擁壁、橋脚などの構造物、その他の建築物の表面に対して行われるが、その建築物の機能を損なったり、汚損しないように使用される人工土壌には、種々の機能が要求される。
【0004】
すなわち、人工土壌としてできるだけ軽量であり、かつ薄い層で植物を育成できる水分の保持性、および根の成長を妨げない柔らかさと通気性などである。
【0005】
ところで、通常の土壌は、人工土壌に比べて通気性や水分の保持量が少ないので、植物を育成に必要な土壌層はかなり厚く形成する必要があり、また比重が大きいので、これをコンクリート枡に入れたり、袋などの容器に入れて使用すると建物に大きな荷重がかかるという欠点がある。
【0006】
また、低比重で軽量であるといわれる多孔質の人工土壌資材として、バーミキュライトやパーライトが周知であり、必要に応じてピートモス、水苔、ロックウールなどの比較的軽量の土壌資材を混ぜて使用されることもある。これらの人工土壌資材は、粒状もしくは粉状またはこれらの混合物状(以下、粉粒体状という。)であり、これを樹脂で固めたものは、育苗床資材として利用されることが知られている。
【0007】
粉粒体状のパーライトをポリビニルアルコールなどの水溶性のつなぎ材(バインダー)で固めた育苗床資材としては、特開昭48−26507号公報に、稲作用の自動田植え機に利用できる成形育苗床が記載されている。
【0008】
また、特開平2−128622号公報には、天然の土壌とロックウールなどの繊維状資材との混合物に対し、バインダーとして水溶性高分子(ポリビニルアルコール)を添加し、密度200〜500kg/m3 程度のブロック状に加熱プレス成形した植物栽培用成形資材が記載されている。
【0009】
また、実開平6−38476号公報には、鉢や花壇、畑などに定植すると、微生物などによって自然に崩壊したり分解したりする育苗床として、土、水およびポリビニルアルコールの樹脂粉末の混合物を成形したものが記載されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記した従来の植物栽培用の土壌成形体は、いずれも水溶性高分子で土壌を固めたものであり、またこれらは建築物上に重ねて置けるものではなく、長期間使用すると水に溶けたり、微生物で分解して天然土壌と同化するものであり、建築物の緑化に適したものではなかった。
【0011】
すなわち、水溶性のポリビニルアルコールをバインダーとして成形した土壌を建造物の屋上、屋根、ベランダ、アトリウム、または擁壁、橋脚などの構造物、その他の建築物の表面を覆うように設置すると、ポリビニルアルコールが水に溶けたり微生物で分解されたりし、天然土壌や人工土壌が建物の所定緑化区域外に流出し、流出した土壌が建物を汚損したり排水パイプなどを詰まらせ、建築物の機能を損なう場合があるという問題が起こることになる。
【0012】
また、耐水性に優れたポリビニルアルコールとして、重合度が高く、けん化度も高いものがクラレ社などから市販されている。しかし、このような耐水性ポリビニルアルコールと、予め多孔質化された軽量の人工土壌とを混合して成形した土壌成形体は、ポリビニルアルコールで充分に結着され難く、たとえばバーミキュライト粒子が小片化すると、結着されていない部分が露出して水で流出しやすくなり、成形体の強度も徐々に低下して経時と共に人工土壌および植栽された植物の取り替えは困難になる。
【0013】
さらにまた、垂直に切り立った壁面や急斜面(以下、壁面等と略記する。)を人工土壌を用いて緑化する場合には、人工土壌が特に水で流出しやすくなり、また雨水で濡れ難くて自然灌水が充分に期待できず、特に重力に抗して壁面方向に均一に水分を保持させるように灌水することも困難である。そのため、蔦、藤、朝顔などの蔓(つる)性植物を長い年月をかけて育成すること以外に壁面等を確実に緑化できず、短期間で完成する簡便な壁面緑化のための手段がなかった。
【0014】
そこで、この発明は、上記した問題点を解決して、充分に軽量化されかつ水が浸透しても土壌保持力に優れている人工土壌成形体を提供し、また建築物の一部の緑化区域に敷き詰めて設置が容易であると共に、軽量で必要に応じて取り替えが簡単にでき、かつ水が浸透しても崩壊し難く土壌は流出せず、建築物の機能や美観を損なわない緑化用人工土壌成形体とすることである。
【0015】
また、ほぼ垂直の壁面や急斜面を人工土壌を用いて簡便に短期間に緑化でき、灌水が容易にできると共に、人工土壌が雨水や灌水によって流出しない壁面緑化用パネルを提供することである。
【0016】
さらにまた、被緑化用壁面の各所に水分の保持量の差がないように灌水できる壁面緑化用パネルを提供することである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、この発明の建築物の緑化用人工土壌成形体は、膨積性粒子を含む粒子状人工土壌資材と、耐水性ポリビニルアルコールとを必須成分とし、前記粒子を膨積させて成型した多孔質成形体からなり、前記膨積した際に人工土壌資材内に形成された空隙を耐水性ポリビニルアルコールの硬化物で保形したことを特徴とする建築物の緑化用人工土壌成形体としたのである。膨積性粒子としては、バーミキュライトを使用することができる。
【0018】
上記したように構成される建築物の緑化用人工土壌成形体は、膨積性粒子を膨積した際に、人工土壌資材内に形成された空隙に耐水性ポリビニルアルコールの硬化物を介在させて保形するので、多孔質の成形体の内部まで耐水性のポリビニルアルコールで確実に保形されており、人工土壌成形体の機械的強度が高まって成形体が崩れ難く、個々の粒子が確実に保持されていてこれらが流出し難い。そのため、建物を汚損したり排水パイプなどが詰まり難く、建築物の機能を損なうことのない人工土壌成形体となる。
【0019】
また、膨積性粒子を膨積した際に耐水性ポリビニルアルコールは、空隙に柱状の支持体または三次元網目状の支持体として介在し、細粒化された膨積性粒子同士の間隔を保持するので、少量で効率よく多孔質の人工土壌成形体を保形することができ、たとえば多孔質成形体の密度が200〜500kg/m3 のような極めて軽量な人工土壌成形体を提供できる。
【0020】
また、耐水性ポリビニルアルコールが、重合度1700以上であり、かつけん化度98mol%以上の耐水性ポリビニルアルコールである上記した建築物の緑化用人工土壌成形体は、特に耐水性がよくて土壌保持力に優れている人工土壌成形体となり、このものは建築物の一部の緑化区域の表面に簡単に敷き詰めて設置が可能であると共に、簡便に取り替えができる。
【0021】
また、耐水性ポリビニルアルコールが、熱処理による高結晶化、熱硬化性樹脂の架橋構造の導入、またはアセタール化された変性ポリビニルアルコールである前記の建築物の緑化用人工土壌成形体は、さらに耐水性がよくて土壌保持力に優れており、土壌が建物を汚損せず排水パイプなどを詰まらせることもなく、建築物の機能を損なわないと共に、簡単に敷き詰めて設置が可能であると共に、保形性がよいので極めて簡便に取り替えができる建築物の緑化用人工土壌成形体となる。
【0022】
また、壁面等を簡便に短時間に緑化し、雨水や灌水によって流出しない壁面緑化用パネルを提供するため、前記の人工土壌成形体を枠体で保持した壁面緑化用パネルとしたのである。
【0023】
また、灌水が容易であると共に壁面の各部において水分の保持量に差がないように灌水できる壁面緑化用パネルを提供するため、前記の人工土壌成形体の背面に保水性シートおよび防水性シートを順に重ね、これらを枠体でまとめて保持した壁面緑化用パネルとしたのである。
【0024】
さらにまた、壁面等において灌水が容易にできる壁面緑化用パネルを提供するため、前記の壁面緑化用パネルにおいて、枠体に注水口を形成し、送水用チューブを前記注水口に注水可能に配置した壁面緑化用パネルとしたのである。
【0025】
【発明の実施の形態】
この発明に用いる膨積性粒子を含む粒子状人工土壌資材は、加熱や化学反応などによって膨張する性質を持った膨積性粒子を含有するものであり、他の成分としては、比較的軽量の人工土壌資材であれば特に限定することなく、木粉、燻炭、ヤシガラ、モミガラなどを採用してもよい。また、主成分が粒子状であればよく、他に粉末、フレーク、繊維などの形態のものを含んでいてもよい。
【0026】
膨積性粒子の具体例としては、パーライト、バーミキュライト、発泡ポリスチレン、発泡ポリウレタンのいずれも粒状のものが挙げられる。なかでも膨張率が大きくて好ましいものは、パーライトまたはバーミキュライトである。
【0027】
パーライトは、真珠岩パーライト、黒曜石パーライトのいずれであってもよく、その大きさは、通常、1〜9号が適当であるが、成形性および植物の根の張り具合を考慮すれば3〜7号が好ましく、2種以上のパーライトを混合して用いてもよい。
【0028】
バーミキュライトは、雲母群鉱物によく似た含水ケイ酸塩鉱物であり、結晶構造中に水酸基や結晶水を有し、約800℃以上に加熱処理するか、または過酸化水素水などの過酸化物を接触させると、層間を広げるように約10〜30倍に延びて膨積(膨張)する性質がある。この発明に用いるバーミキュライトは、産地にこだわらずにバーミキュライト原石を使用できるが、ナトリウムイオン、アンモニウムイオンなどのカチオンでマグネシウムイオンを交換して製造したイオン交換バーミキュライトであってもよい。このようなバーミキュライトの大きさは、通常、0号(0.1mm角)から4号(7mm角)が適しているが、植物の根の成長を良好にするには2〜4号が好ましい範囲であり、2種類以上の大きさを混合して使用してもよい。
【0029】
人工土壌資材中のバーミキュライトの配合量(化学膨積後)は、成形体全体の容積の20〜55%であることが好ましく、より好ましくは35〜45%である。なお、使用する化学膨積バーミキュライトは、土壌に影響の少ない薬品処理品であり、かつ膨積時間および発熱温度が80℃以上になるタイプが好ましい。
【0030】
また、焼成バーミキュライトを使用し、樹脂結合剤を温水で溶かして混合する場合には、成形体全体の55%以下が適しており、より好ましくは20〜45%である。
【0031】
バーミキュライトを化学膨積するには、過酸化物を適量の溶媒に懸濁させ、または溶解し、これをバーミキュライトに混合する。なお、使用する化学膨積用のバーミキュライトは、土壌に影響の少ない薬品処理品であり、かつ膨積時間および発熱温度が80℃以上になるタイプのものが好ましい。
【0032】
バーミキュライトを化学膨積する場合に用いる過酸化物としては、過酸化水素または過酸化水素の付加物(リン酸塩付加物、硫酸塩付加物、ホウ酸塩付加物、尿素付加物)などの無機過酸化物、または有機過酸化物が挙げられる。有機過酸化物としては、アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類、アセトンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類、t−ブチルハイドロパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイイド、t−ジブチルパーオキサイドなどのヒドロキシまたはアルキルパーオキサイド類などが挙げられる。また、このような過酸化物の溶媒としては、水、酢酸エチルなどのエステル類、メチルエチルケトンなどのケトン類、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、ヘキサン、ベンゼンなどの炭化水素類の有機溶媒が挙げられる。
【0033】
上記した過酸化物のバーミキュライトに配合するときの濃度は、高いほどバーミキュライトの膨積度が高くなって好ましく、また膨積反応に要する時間を短縮できて好ましい。過酸化水素を用いる場合は、市販されている過酸化水素水を用いて約1〜35%水溶液を用いることが適当であり、15%以上のものが膨積時間が短くて好ましい。
【0034】
この発明に用いる耐水性ポリビニルアルコールは、酢酸ビニルを重合し、得られたポリ酢酸ビニル(ポリビニルアセテート)をけん化して合成される合成樹脂であり、けん化度および重合度を調整することによって耐水性を高めたもの、または熱処理による高結晶化、熱硬化性樹脂の架橋構造の導入、またはアセタール化されることによって耐水性を高めた変性ポリビニルアルコールである。
【0035】
このように本願の発明に好適な耐水性ポリビニルアルコールの一種として、重合度1700以上であり、かつけん化度98mol%以上の完全けん化型の耐水性ポリビニルアルコールがある。すなわち、ポリビニルアルコールは、重合度が高く、けん化度が高いものの水に対する溶解度は低くなる。実用性を加味した限界値を示せば重合度1700〜2500(または2400)、けん化度98〜99mol%である。
【0036】
また、耐水性を高めた変性ポリビニルアルコールは、熱処理、熱硬化性樹脂の添加による架橋構造の導入処理、またはアセタール処理によってポリビニルアルコール本来の水溶性を変えて耐水化したものである。このように処理された変性ポリビニルアルコールは、温水や沸騰水にも溶けない程度に耐水性を示す。結晶性が高く、さらに分子中に疎水性基を導入した変性ポリビニルアルコールの市販品としては、クラレ社製:RSポリマーが挙げられる。
【0037】
上記熱処理において、特に、完全けん化型の耐水性ポリビニルアルコールは結晶化しやすいポリマーであり、硬化後に熱処理をすればさらに耐水性を高めることができる。その場合の熱処理としては、150〜160℃で4〜5分、または180℃で1〜2分の熱処理が適当である。
【0038】
熱硬化性樹脂の添加による架橋構造の導入処理としては、尿素、メラミン、フェノール樹脂などの初期縮合物をポリビニルアルコールに例えば10重量%程度添加し、適当な硬化促進剤を添加して所要温度で架橋反応させる処理により、ポリビニルアルコールの一部と共重合するか、または分散した熱硬化性樹脂による架橋構造を導入して、水溶化を防ぐことができる。
【0039】
また、アセタール化処理では、酸触媒を使用してホルマリンその他のアルデヒドと化学反応させることにより、ポリビニルアルコールをアセタール化し、耐水化させることができる。
【0040】
以上述べた必須成分の他に、粒子状人工土壌資材中には、肥料や透水性改善のための資材や繊維状の補強材などを配合することが好ましい。
【0041】
肥料は、植物の成育に充分な施用効果を与えるために、各種有効期間の緩効性肥料、速効性肥料、特殊肥料などをブレンドし、例えば約5年の間は施肥管理を必要としない人工土壌成形体とすることができる。また、緑化の目的や植物の種類に応じて肥料成分の組成は適宜に変更できる。
【0042】
透水性を改善する土壌資材としては、木材、ヤシガラ、モミガラなどを炭化したものを一種類または二種類以上混合して使用する。混合量は、成形体全体の0.5〜15重量%程度が好ましい範囲である。
【0043】
また、特に成形体をパネル型などに成形した場合に、機械的な強度を向上させるために、ワラ、トウモロコシの繊維、ヤシ繊維などの植物繊維を細かく裁断した繊維状の補強材を配合することが好ましい。混合量は、成形体全体の0.5〜10重量%程度が好ましい範囲である。
【0044】
この発明における人工土壌成形体の形状や大きさは、建築物の緑化目的などに応じて適当に設計すればよいが、生産性や製品の汎用性を考慮すると、ブロックで成型し、これを裁断してパネル(平面または曲面の板状構造)状に成形したものが好ましい。
【0045】
例えば、基本寸法が、厚み50mmでサイズ300mm角のパネルとする場合には、長方体状のブロックサイズを300×300×1000mmとし、これを長手方向に裁断して50×300×300mmのパネルを19枚製造する。
【0046】
前記したブロックを製造するには、バーミキュライトなどの膨積性粒子を含む粒子状人工土壌資材を加熱する際に、マイクロ波で加熱してもよいが、その際に必要な出力やマイクロ波の浸透深さを考慮すると、ブロックではなくパネルを加熱することが好ましい。
【0047】
このように建築物の緑化を用途とする人工土壌成形体は、パネルの形態であることが好ましいが、壁面や屋上その他における人工土壌の取り替え作業をより簡便に行なうために、パネルに持ち手を付設することが好ましい。持ち手は、パネルを一枚ずつ成形する場合に、成形型内に持ち手(保持ジグとも称される。)の基部が埋め込まれるように置き、そのまま成形することにより固定できる。
【0048】
持ち手の材質は、マイクロ波加熱の方法で製造する場合には、金属を避けて、セラミックス系材料、または耐熱温度が100℃以上の合成樹脂などを採用することが好ましい。
【0049】
また、この発明の人工土壌成形体は、水分の保持性を高めるために、その底面、側面などに保水性のよい織布、不織布、紙、高吸水性樹脂などからなるシートやフィルムなどを合わせて設けたものであってもよい。
【0050】
壁面緑化用パネルに係る発明の実施形態を、以下に添付図面に基づいて説明する。
【0051】
図1および図2に示すように、実施形態の壁面緑化用パネルは、成形したブロック状の人工土壌成形体1の複数枚を並べて方形状の枠体2で保持し、この枠体2に、この枠体に壁面設置用のフック状の係止部3を設けたものである。そして、人工土壌成形体1の背面には、保水性シート4および防水性シート5をこの順に重ね、これらを枠体2によってまとめて保持する。
【0052】
このような壁面緑化用パネルでは、枠体2のパネル前面部2aの上面に注水口6を形成し、送水用チューブ7(図2)を注水口6に沿わせて注水可能に配置して設けており、人工土壌成形体1にはメキシコマンネングサなどの丈の低い壁面緑化用の植物Aを一面に生育させることができる。
【0053】
図示した枠体2は、格子状に形成されて広い開口面積を形成して人工土壌成形体1を押さえるパネル前面部2aと、被緑化壁に固定されるパネル背面部2bとからなり、これらは要所を複数のネジ8で固定して組み付けられている。枠体2は、ステンレス鋼、アルミ合金、亜鉛メッキ鋼板などの錆びにくく、耐久性および所要強度のある金属で形成するか、小型ものではプラスチックで軽量に形成することが好ましく、亜鉛メッキ鋼板などは塗装を施したものが好ましい。プラスチック製の枠体として、スタンパブルシート成形品またはシートモールディングコンパウンド(SMC)成型品を採用することもできる。
【0054】
パネル前面部2aの開口は、格子9で区分されて正方形に開口したものを図示したが、目合いの大きな菱形の網目状に区分してもよく、枠体2の縁から延びた爪などの抑え部分を形成することにより、区分することなくほぼ全面開口を形成するものであってもよい。格子または網目の具体例としては、20〜200mm程度の目合いを採用して好ましい結果を得ている。
【0055】
保水性シート4は、人工土壌成形体1の背面側から水分を均等に供給するものであり、腐食し難い繊維からなる不織布や厚地の編織布を採用する。具体例としては、ポリエステルフェルトまたはコットンフェルトが挙げられ、シートの厚さは、0.5〜10mm程度あればよく、より好ましくは3mm程度である。
【0056】
防水性シート5は、保水性シート4および人工土壌成形体1の乾燥を防止し、保水性シート4にしみ込んだ水分を長時間保持するものである。また、緑化用植物の成長した根が壁面緑化用パネルを突き抜けて、壁面との固定を阻害しないようにするものでもある。このような防水性シート5としては、ゴム、プラスチックなどの材質からなるものが適当である。
【0057】
図2に示すように、係止部3は、被緑化壁の上に予め設けた格子状の構築物10の横桟部分に係止可能なフック状の返し縁部分をパネル背面部2bの上端縁に形成したものを示したが、このような形状のものに限定されるものではなく、例えば壁面に埋設したボルトに固定できる係止孔とナットや、ピン、バックルその他の周知の係止手段に対応できるものであればよい。また、格子状の構築物10に枠体2の縁を係止する爪などの周知の係止具(図示せず。)を設けた場合には、枠体2に係止部3を設けずに壁面緑化用パネルを構成することもできる。
【0058】
枠体2の上面に送水用チューブ7を注水口6に注水可能に配置するには、枠体2の上面などに方形状に切り起こした爪11やチューブを挿通するリング、バンドなどを設けることが好ましい。送水用チューブ7には、図外の加圧ポンプから送水された水が、常時、または灌水の必要量に応じて間欠的に供給され、要所には滴下用の小孔または透水部が形成されている。
【0059】
【実施例および比較例】
実施例および比較例に使用したポリビニルアルコールの物性(重合度、けん化度、変性の有無)を以下に示す。なお、表中には< >内に示す略称で示した。
(1)耐水性ポリビニルアルコール(クラレ社製:ポバール、PVA−117)
重合度1700、けん化度98〜99mol %<完全けん化PVA>、
(2)耐水性ポリビニルアルコール(クラレ社製:ポバール、NSH−916)
重合度1600、けん化度99.4mol %<高けん化PVA>、
(3)耐水性ポリビニルアルコール(クラレ社製:ポバール、RS−117)
重合度1700、けん化度97〜99mol%<変性PVA>、
(4)ポリビニルアルコール(クラレ社製:ポバール、PVA−224)
重合度2400、けん化度86.5〜89.5mol %<部分けん化PVA224>
(5)ポリビニルアルコール(クラレ社製:ポバール、PVA−110)
重合度1100、けん化度98〜99mol %<部分けん化PVA110>。
【0060】
〔実施例1〜4、比較例1〜3〕
表1または表2に示す配合組成(重量部)でバーミキュライトを含む土壌資材(黒曜石パーライト、バーク堆肥、緩効性肥料、わら)とポリビニルアルコールとを混合し、これを正方形の平板状パネル成形用の型内に入れて、15%濃度の過酸化水素水を添加するか、またはマイクロ波加熱により加熱し、バーミキュライトを膨積させて50mm×300mm×300mmの多孔質性の(密度200〜300kg/m3 )人工土壌パネルを形成した。膨積方法の化学膨積またはマイクロ波加熱の種別は表中に併記した。
【0061】
得られた人工土壌パネルは、図示した形態の壁面緑化用パネルを用いて1年または2年の屋外暴露試験を行い、ブロック型の人工土壌成形体の形状の維持性によって耐候性を観察した。
【0062】
また、耐水性を調べるために、人工土壌成形体を流水中に浸漬し、7日後および300日後の溶解量(重量の減少量)を調べ、これらの結果を表1または表2中に併記した。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表1および表2の結果からも明らかなように、けん化度の低いポリビニルアルコールを使用した比較例1、2、または、重合度の低いポリビニルアルコールを使用した比較例3では、耐候性が悪くて浸食され、重量も半減し、耐水性試験では、流水中で3日間の形状維持ができなかった。
【0066】
これに対して耐水性のポリビニルアルコールを使用した実施例は、2年間の屋外暴露に耐える耐候性があり、しかも300日間の流水に耐えて重量が殆ど変化しないという耐水性があり、土壌が流失せずに建物を汚損したり排水パイプなどを詰まらせることがなく、建築物の機能を損なわない性質があるものと認められた。
【0067】
また、植栽適合性の確認試験として、メキシコマンネングサを1年間栽培したが、実施例1〜4のものでは全て異常なく、順調な生育状態であった。
【0068】
【発明の効果】
この発明は、以上説明したように、バーミキュライトなどの膨積性粒子を含む粒子状人工土壌資材を膨積した際に、人工土壌資材内に形成された空隙を耐水性ポリビニルアルコールの硬化物で保形した建築物の緑化用人工土壌成形体であるから、多孔質の成形体の内部まで耐水性のポリビニルアルコールで確実に保形されていて、耐水性および土壌保持力に優れ、かつ低密度で充分に軽量化されており、そのために建築物の緑化区域に敷き詰めるだけで、設置および取り替えが容易であり、また土壌が流失しないので建物を汚損したり排水パイプなどを詰まらせることがなく、建築物の機能を損なわないという利点がある。
【0069】
また、上記の建築物の緑化用人工土壌成形体において、耐水性ポリビニルアルコールが、重合度1700以上であり、かつけん化度98mol%以上の耐水性ポリビニルアルコールであるものは、特に耐水性が優れており、建築物の緑化に適したものである。
【0070】
また、前記した建築物の緑化用人工土壌成形体において、耐水性ポリビニルアルコールが分子鎖中に疎水性基を導入した変性ポリビニルアルコールのものは、さらに耐水性がよく、土壌保持力に優れており、確実に建物を汚損せずその機能を損なわないものとなる。
【0071】
また、人工土壌成形体を枠体で保持した壁面緑化用パネルは、壁面や急斜面を短期間の工期で簡便に緑化でき、灌水が容易にできると共に、壁面緑化用パネルから人工土壌が雨水や灌水によって流出しないという利点がある。
【0072】
また、枠体に注水口を形成し、注水可能な壁面緑化用パネルに係る発明では、灌水がより容易である利点があり、さらに保水性シートおよび防水性シートを設けた壁面緑化用パネルは、各部において水分の保持量に差がないように灌水できる壁面緑化用パネルであるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】壁面緑化用パネルに係る発明の実施形態を示す部品分解斜視図
【図2】壁面緑化用パネルに係る発明の実施形態の使用状態を示す斜視図
【符号の説明】
1 人工土壌成形体
2 枠体
2a パネル前面部
2b パネル背面部
3 係止部
4 保水性シート
5 防水性シート
6 注水口
7 送水用チューブ
8 ねじ
9 格子
10 構築物
11 爪
A 植物
Claims (7)
- バーミキュライトからなる膨績性粒子を含む粒子状人工土壌資材と、耐水性ポリビニルアルコールとを必須成分とし、前記粒子を膨積させて成形体全体の容積の20〜55%含まれるようにして成型した多孔質成形体からなり、層間を広げるように膨積したバーミキュライトによって人工土壌資材内に形成された空隙に耐水性ポリビニルアルコールの硬化物を介在させて保形したことを特徴とする建築物の緑化用人工土壌成形体。
- 耐水性ポリビニルアルコールが、重合度1700以上であり、かつけん化度98mol%以上の耐水性ポリビニルアルコールである請求項1記載の建築物の緑化用人工土壌成形体。
- 耐水性ポリビニルアルコールが、熱処理による高結晶化、熱硬化性樹脂の架橋構造の導入、またはアセタール化された変性ポリビニルアルコールである請求項1記載の建築物の緑化用人工土壌成形体。
- 多孔質成形体の密度が、200〜500kg/m3である請求項1〜3のいずれか1項に記載の建築物の緑化用人工土壌成形体。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の人工土壌成形体を枠体で保持した壁面緑化用パネル。
- 請求項5に記載の壁面緑化用パネルにおいて、人工土壌成形体の背面に保水性シートおよび防水性シートを順に重ね、これらを枠体でまとめて保持した壁面緑化用パネル。
- 請求項5または6に記載の壁面緑化用パネルにおいて、枠体に注水口を形成し、送水用チューブを前記注水口に注水可能に配置した壁面緑化用パネル。
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