JP4298204B2 - アトピー性皮膚炎治療剤 - Google Patents
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Description
本発明は、こんにゃく芋から抽出したスフィンゴ糖脂質を含有するアトピー性皮膚炎治療剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
アトピー性皮膚炎はアレルギー性皮膚炎の1種であるが、近年患者数が増加し、5歳以下の小児の20%、成人でも10%もの人がアトピー性皮膚炎であるという報告がある。アトピー性皮膚炎の症状は強い痒みを伴って湿疹が出るもので、重症患者になると慢性的にじくじくした状態が続くようになる。このような状態になっている人が味わう苦痛は計り知れないものである。現在、各方面でアトピー性皮膚炎の治療方法について研究が行われているが、行われている治療方法といえば、対症的なステロイド剤の投与や抗ヒスタミン剤の投与がほとんどであった。このような治療は、一時的に症状が改善するが、治療を止めた途端に以前よりさらに症状が悪化してしまう例も少なくない。
【0003】
最近、アトピー性皮膚炎患者は健常人に比べて角質層のセラミド量が極端に少なく、またセラミドが十分に作られないために皮膚のバリア機能が低下してしまうことが明らかになった。バリアの破壊された皮膚ではケラチノサイトからのIL-1αの産生が高まることが知られている。そこで、セラミドが少なくなった皮膚にセラミドを補給することが、皮膚のバリア機能を改善しアトピー性皮膚炎の症状の緩和に有効であることがわかってきた。
【0004】
従来、アトピー性皮膚炎用治療薬には牛や豚の脳から抽出されたセラミドや、化学的に合成されたセラミドまたはセラミドと類似の構造を有する擬似セラミドが配合される例が多かった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし動物由来のスフィンゴ糖脂質にはウィルス感染の可能性があった。また、1986年に狂牛病が発生してからは、ヒトへの感染の可能性から供給量が激減した。また、化学的に合成したセラミドや擬似セラミドは天然品との構造の相違や、ラセミ体として得られることから、効果には疑問が持たれており、植物由来のセラミドが求められていた。
【0006】
植物由来のセラミドとしては、これまでにコムギ、コメヌカ、ダイズなどから抽出されたものが知られており、その優れた保湿効果から化粧品原料として用いられている。また、美容食品としてコムギやコメヌカから抽出されたグルコシルセラミドを経口摂取する例としてはFragrance Journal, 23(1), 81(1995)などがあり、1日あたり20mgのセラミド含有物を経口摂取することで皮膚の保湿作用に効果があることが報告されている。しかし、これら植物由来のセラミドは高純度化が難しく、高純度品は非常に高価になることから、化粧品や食品用途としては使用されているものの、アトピー性皮膚炎の治療において積極的に使用されることはなかった。
【0007】
本発明は、アトピー性皮膚炎の緩和、治療に効果があると考えられる植物由来のスフィンゴ糖脂質を有効成分とするアトピー性皮膚炎治療剤を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、植物から抽出した抽出物をアトピー性皮膚炎の患部に塗布すること又は経口摂取することによって、アトピー性皮膚炎の症状が緩和または治癒できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、こんにゃく芋から有機溶剤によって抽出されたスフィンゴ糖脂質を有効成分とすることを特徴とするアトピー性皮膚炎治療剤を要旨とするものであり、その適用方法としては、皮膚に塗布して用いるものまたは経口摂取するものである。また好ましい抽出原料がこんにゃくトビ粉であることを特徴とする前記のアトピー性皮膚炎治療剤である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のアトピー性皮膚炎治療剤における有効成分であるスフィンゴ糖脂質は、グルコシルセラミドを主成分とするものであり、他の成分を含んでいても構わない。スフィンゴ糖脂質は、経皮、経口で吸収されると体内で代謝されてセラミドの形で表皮組織に到達し、皮膚内部からの水分の蒸散の抑制、外部からの有害物質の進入を防御する角質層を構成するものである。
【0011】
本発明における有効成分であるスフィンゴ糖脂質は、こんにゃく芋から有機溶剤を用いて抽出することにより得られるものである。こんにゃく芋は、スフィンゴ糖脂質の含有量が多く、そのアトピー性皮膚炎の治癒効果が高い。中でも安価に入手できるこんにゃくトビ粉を使用することが好ましい。こんにゃくトビ粉はこんにゃく芋を原料とするこんにゃく製造時の副産物として年間3000〜4000トン生じるにもかかわらず特有のえぐ味と刺激臭を有するため、一部肥料、コンクリート等の増粘剤として利用されているものの、食品としては全く利用されていない資源である。これらの植物原料はそのまま用いても良いし、乾燥、すりつぶし、加熱などの操作によって加工されていてもよい。
【0012】
本発明で抽出溶媒として使用する有機溶媒としては、原料およびスフィンゴ糖脂質と抽出中に反応し、本発明の効果を損なうものでなければいかなるものでも使用できる。また、一種類の溶媒を単独で用いても複数の溶媒を混合して用いても良い。かかる有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノールなどのアルコール類、ヘキサン、ペンタン、ジエチルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチルなどが挙げられる。これらの中で好ましい例としては、メタノール、エタノール、ヘキサン、アセトンが挙げられ、特に好ましい例としてはエタノールが挙げられる。また、これらの有機溶媒で抽出する際には抽出効率をあげるために例えば水、界面活性剤などの添加物を本発明の効果を損なわない範囲で加えることができる。
【0013】
抽出に使用する有機溶媒の量は、原料となる植物に対して望ましくは1〜30倍量程度、さらに望ましくは1〜10倍量程度が良い。溶媒の使用量がこの範囲以下であれば、原料全体に溶媒が行き渡らず、抽出が不十分になる恐れがあり、この範囲を超える量の溶媒を添加してももはや抽出量に影響はなく、後の濃縮工程での溶媒除去作業の負担が増えるのみである。
【0014】
抽出温度は、使用する溶媒の沸点にもよるが、好ましくは、0〜80℃、さらに好ましくは室温程度から60℃の範囲がよい。抽出温度がこの範囲以下であれば、抽出効率が低下し、この範囲以上の温度をかけても抽出効率に大きな影響はなく、いたずらにエネルギー使用量が増えるのみである。
【0015】
抽出時間は、1〜48時間が好ましく、さらに好ましくは2〜20時間である。抽出時間がこの範囲より短いと、十分に抽出が行われず、この範囲を超えていたずらに長く時間をかけて抽出を行っても、もはや抽出量の増大は見込めない。
【0016】
なお、抽出操作は1回のみの回分操作に限定されるものではない。抽出後の残渣に再度新鮮な溶媒を添加し、抽出操作を施すこともできるし、抽出溶媒を複数回抽出原料に接触させることも可能である。すなわち、抽出操作としては、回分操作、半連続操作、向流多段接触操作のいずれの方式も使用可能である。また、ソックスレー抽出など公知の抽出方法を使用してもよい。
【0017】
次に、抽出残渣を分離除去する。分離の方法は特に限定されず、例えば吸引ろ過、フィルタープレス、シリンダープレス、デカンター、遠心分離器、ろ過遠心機などの公知の方法を用いることができる。
【0018】
このようにして得られた抽出液は濃縮工程に送られる。濃縮方法は特に限定されず、例えばエバポレーターのような減圧濃縮装置や加熱による溶媒除去などにより、濃縮することができる。
【0019】
本発明のアトピー性皮膚炎治療剤は上記抽出物をこのままでも使用できるが、抽出物中に含まれるスフィンゴ糖脂質の濃度は10.0質量%以下と低いために、引き続いて不純物類を取り除き、より純度を向上せしめる方がより好ましい。純度を向上せしめる方法はいかなるものを用いてもよい。例えば、水や有機溶媒による洗浄、アルカリ性溶液による洗浄、カラムクロマトグラフィーによる精製、活性炭などを通す方法、極性の異なる溶媒による分配、再結晶法などが挙げられる。特に純度の高いスフィンゴ糖脂質を得る必要がある場合には、アルカリ性溶液により処理した後、クロロホルムやジエチルエーテルなどで分配し、有機層を分取して濃縮し、さらに樹脂カラムやシリカゲルカラムクロマトグラフィーによってスフィンゴ糖脂質を分離することが好ましい。これらは周知の方法により行うことができる。
【0020】
次に、得られたスフィンゴ糖脂質含有混合物の分析方法であるが、最も簡便な分析方法としては薄層クロマトグラフ法があげられる。標準にはヒトやウシ由来のグルコシルセラミドが市販されているので、これを使用し、シリカゲル薄層プレートを用いてクロロホルム−メタノール系など適当な溶媒系を用いて展開させ、濃硫酸やアンスロン試薬などで発色させれば容易に分析できる。その他、高速液体クロマトグラフ法、各種クロマトグラフ−マススペクトロメトリー法など公知の方法により分析することもできる。
【0021】
本発明のアトピー性皮膚炎治療剤は、アトピー性皮膚炎による乾燥肌、ひび割れ、紅斑、擦過傷、角質剥離などの肌の諸症状および掻痒感や痛みなどの症状を緩和するものである。処方は本発明のアトピー性皮膚炎治療剤を外部から塗布する方法、経口摂取する方法のいずれでもよく、塗布する方法では例えばクリーム、ローション、軟膏等の剤形にすればよく、経口摂取する方法では粉末、錠剤、カプセル剤、ゲル、ソフトカプセル剤、ドリンク剤などに加工して摂取することができる。
【0022】
本発明のアトピー性皮膚炎治療剤は、植物由来のスフィンゴ糖脂質を含有することから安全性が高く、スフィンゴ糖脂質の含有量は特に限定されるものではないが、本発明の効果を発現させるために好ましい植物由来スフィンゴ糖脂質の含有量は、塗布するものであれば0.001〜95質量%である。含有量がこれより少ない場合、本発明の効果の発現が遅くなったり少なくなる傾向があり、これより多く含有してもさらに効果が上がるものではなく、使用感が悪化するだけである。また、経口摂取するものであれば、1日当りのスフィンゴ糖脂質の摂取量が、1μg〜100gであり、摂取する頻度は限定されないが、3日に1回から1日10回程度の頻度で継続して摂取することが好ましい。1日当りのスフィンゴ糖脂質の摂取量が1μgより少ない場合は、十分に効果が発現しない可能性があり、100g以上摂取してももはや効果が上がるものではない。
【0023】
本発明のアトピー性皮膚炎治療剤はヒトを対象としたものに限定されない。近年、犬の皮膚病の70%以上をアトピー性皮膚炎が占めているといわれ、ペットのアトピー性皮膚炎も大きな問題となりつつあることから、犬、猫をはじめとするペット、牛、豚、羊等の家畜に処方してもよい。このような動物に処方する場合、塗るものは前述のような形態にして処方すればよく、経口摂取するものはペット用食品や飲料、家畜用飼料等に添加して処方すればよい。
【0024】
本発明のアトピー性皮膚炎治療剤は、皮膚に塗布する化粧水、乳液、モイスチャークリーム、日焼け止め、日焼け用化粧品、パック、ファンデーション、おしろい、ほお紅、アイメークアップ、香水、オーデコロン、リップクリーム、口紅等に添加して用いることもでき、またアトピー性皮膚炎患者用のスキンケア商品である洗顔クリーム、洗顔石鹸、シャンプー、リンス、トリートメント、さらには浴用剤などに添加してもよい。経口摂取するものでは、一般の食品に添加して摂取しても良い。一般の食品としては例えばパン、うどん、そば、ご飯等主食となるもの、チーズ、ウインナー、ソーセージ、ハム、魚介加工品等の食品類、クッキー、ケーキ、ゼリー、プリン、キャンディー、チューインガム、ヨーグルトなどの菓子類、清涼飲料水、酒類、栄養ドリンク、コーヒー、茶、牛乳などの飲料が挙げられる。
【0025】
本発明のアトピー性皮膚炎治療剤は、その効果を促進するためにビタミン類、コラーゲン、スクワラン、大豆レシチン、植物由来ステロール類、ヒアルロン酸、ソルビトール、キチン、キトサン、グリセリン、ブチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、シリコーン、ロウ類、キサンタンガム、グアーガム、アラビアガム、ペクチン、クインスシード、アスコルビン酸、乳酸ナトリウム液、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ナイアシン、ナイアシンアミド、オリーブ抽出物やイチョウ葉抽出物等各種植物抽出物などの成分や、抗ヒスタミン剤、抗ロイコトリエン薬、塩酸ナロキソン、シクロスポリン薬、ステロイド系製剤、プロトピック軟膏、ネオーラル、マクロライド系免疫抑制剤などの医薬品とともに併用することもできる。
【0026】
本発明のアトピー性皮膚炎治療剤を使用したときの効果としてはアトピー性皮膚炎による乾燥肌、ひび割れ、紅斑、擦過傷、角質剥離などの肌の諸症状および掻痒感や痛みなどの症状を緩和するものであるが、皮膚のバリア能の改善状態や皮膚の水分量の増加は例えば経表皮水分損失量(TEWL)の測定、角質水分量の測定など従来公知の測定方法を用いて知ることができる。TEWLの測定には例えばEvaporimeter(Servo Med社 スウェーデン)、Tewameter(Courage+Khazaka社 ドイツ)などを用いることができる。また、角質水分量の測定には例えばCorneometer(Courage+Khazaka社 ドイツ)、Skikon-200(アイ・ビイ・エス(株))などを用いることができる。また、IgE値の測定によってもアトピー性皮膚炎の治癒状態を把握することができる。
【0027】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。まず、以下の実施例において用いた測定装置、測定方法について説明する。
(1)スフィンゴ糖脂質の定性方法
スフィンゴ糖脂質の定性にはシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)を使用した。所定量の試料をシリカゲルプレート(メルク社製Sillicagel60F254タイプ、層厚0.5mm)にアプライし、クロロホルム:メタノール:水=87:13:2(容量比)の展開槽に導入し、展開した。展開後はシリカゲルプレートをドライヤーなどで乾燥し、硫酸噴霧して加熱することによって発色した。
(2)スフィンゴ糖脂質の定量方法
スフィンゴ糖脂質の定量には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた。Waters製 LC Module 1を用い、カラムはGLサイエンス社製Inertsil SIL 100Aを用いた。溶媒はクロロホルム:メタノール=9:1(容量比)を用い、流速1.0ml/分で25℃で測定した。検出には光散乱検出器(ALLTECH社製 500ELSD)を用いた。
スフィンゴ糖脂質の標準物質としては、こんにゃくトビ粉に2倍量のエタノールを加えて室温で2時間攪拌して抽出した抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーとPLCプレートを用いて精製し、上記の液クロの条件で他のピークがないことを確認したこんにゃく由来グルコシルセラミドを用いた。
【0028】
製造例1
こんにゃくトビ粉1kgを攪拌槽に仕込み、そこにエタノール2Lを加え、常温で2時間攪拌した。その後、ろ過により抽出液と残渣を分離した。抽出液をエバポレーターにより濃縮し、茶褐色の蝋状濃縮物10.7gを得た。これを上記の定性、定量方法に基づいて測定したところ、TLCによってスフィンゴ糖脂質のスポットが検出され、HPLCによってスフィンゴ糖脂質が0.55g含有されていることがわかった。トビ粉抽出物中のスフィンゴ糖脂質の純度は5.1質量%であった。
【0029】
このトビ粉抽出物10.7gを20.0gのエタノールに溶解させ、0.4mol/Lの水酸化カリウムの水性メタノール溶液500mlの中に攪拌しながら導入した。そのまま2時間攪拌した後、水500ml、クロロホルム500mlを導入し、激しく攪拌した後静置し、クロロホルム層を回収した。エバポレーターでクロロホルムを留去してスフィンゴ糖脂質含有物6.6gを得た。HPLCで測定したスフィンゴ糖脂質の含有量は0.57gであった。アルカリ処理後のスフィンゴ糖脂質の純度は8.6質量%まで向上した。
【0030】
次に内径5cm、長さ100cmのガラス製のエンプティカラムに、メタノール中で十分に膨潤させた生化学工業製HP−セルロファインを60cmの高さまで湿式充填した。メタノール2Lを流した後、メタノールの液面が樹脂の上端まで達したときに上記のスフィンゴ糖脂質含有物6.6gをメタノールに溶解して20mlにしたものを導入した。続いてメタノールを流速10.0ml/分で流し、流出液を40mlずつ分けて回収した。回収した流出液を薄層クロマトグラフィーによって分析した結果、最初から500mlには何も含まれておらず、その後160mlにスフィンゴ糖脂質が濃いスポットで観測された。この160mlを集めて溶媒を留去したところ、0.61gの茶褐色ペースト状物質が得られた。HPLCによってスフィンゴ糖脂質含有量を求めたところ0.32gであり、得られた抽出物のスフィンゴ糖脂質純度は52質量%となった。
【0031】
次に内径2cm、長さ100cmのガラス製のエンプティカラムにシリカゲル(ナカライテスク社製シリカゲル60、70〜230メッシュ)を60cmの高さまで充填し、酢酸エチル:メタノール=95:5の混合溶媒2Lを流した。展開溶媒の液面が樹脂の上端まで達したときに上記の方法で得られた茶褐色ペースト状物質0.61gをメタノールに溶解して2mlにしたものを導入した。続いて同じ展開溶媒を流速5.0ml/分で流し、流出液を20mlずつ分けて回収した。回収した流出液を薄層クロマトグラフィーによって分析した結果、最初から120mlには何も含まれておらず、その後180mlにはスフィンゴ糖脂質のスポットは無かったが他の不純物が流出していた。その後の120mlにはスフィンゴ糖脂質が濃いスポットで観測された。この120mlを集めて溶媒を留去したところ、0.31gの白色固体が得られた。HPLCによってスフィンゴ糖脂質含有量を求めたところ0.31gであり、得られた処理物のスフィンゴ糖脂質純度は100質量%となった。
【0032】
実施例1(クリーム)
製造例1において得られたこんにゃく芋由来のスフィンゴ糖脂質1.0gをステアリン酸15g、セタノール2g、流動パラフィン1g、オクチルドデカノール1g、プロピルパラベン0.05gとともに70℃で撹拌して溶解し、組成物Aとした。一方、別の容器にはグリセリン12g、水酸化カリウム0.5g、メチルパラベン0.2gを70℃の精製水67.25gに溶解し、組成物Bとした。組成物Bを強く撹拌している中に組成物Aを導入し、減圧下で5時間撹拌することにより、アトピー性皮膚炎治療用クリーム100gを得た。
【0033】
実施例2(ローション)
製造例1において得られたこんにゃく芋由来のスフィンゴ糖脂質1.0gをプロピレングリコール5g、70%ソルビット液3g、ポリオキシエチレンソルビットラウリルエーテル(20E.O.)0.1g、エタノール10g、メチルパラベン0.1g、クエン酸ナトリウム0.2g、セタノール2g、流動パラフィン1g、オクチルドデカノール1g、プロピルパラベン0.05gとともに70℃で撹拌して溶解し、組成物Aとした。一方、別の容器にはグリセリン12g、水酸化カリウム0.5g、メチルパラベン0.2gを精製水76.55gに導入し、組成物Bとした。60℃で組成物A,Bを混合し、乳化機「ポリトロンPT10−35」で3時間強く撹拌することにより、アトピー性皮膚炎治療用ローション100gを得た。
【0034】
製造例2
小麦粉10kgを攪拌槽に仕込み、そこにエタノール20Lを加え、常温で2時間攪拌した。その後、ろ過により抽出液と残渣を分離した。抽出液をエバポレーターにより濃縮し、茶褐色の蝋状濃縮物68.2gを得た。これを上記の定性、定量方法に基づいて測定したところ、TLCによってスフィンゴ糖脂質のスポットが検出され、HPLCによってスフィンゴ糖脂質が0.50g含有されていることがわかった。小麦粉抽出物中のスフィンゴ糖脂質の純度は0.7質量%であった。
【0035】
この小麦粉抽出物68.2gを200gのエタノールに溶解させ、0.4mol/Lの水酸化カリウムの水性メタノール溶液5Lの中に攪拌しながら導入した。そのまま2時間攪拌した後、水5L、クロロホルム5Lを導入し、激しく攪拌した後静置し、クロロホルム層を回収した。エバポレーターでクロロホルムを留去してスフィンゴ糖脂質含有物26.8gを得た。HPLCで測定したスフィンゴ糖脂質の含有量は0.48gであった。アルカリ処理後のスフィンゴ糖脂質の純度は1.8質量%になった。
【0036】
次に内径5cm、長さ100cmのガラス製のエンプティカラムに、メタノール中で十分に膨潤させた生化学工業製HP−セルロファインを60cmの高さまで湿式充填した。メタノール2Lを流した後、メタノールの液面が樹脂の上端まで達したときに上記のスフィンゴ糖脂質含有物6.7gをメタノールに溶解して20mlにしたものを導入した。続いてメタノールを流速10.0ml/分で流し、流出液を40mlずつ分けて回収した。回収した流出液を薄層クロマトグラフィーによって分析した結果、最初から500mlには何も含まれておらず、その後100mlにスフィンゴ糖脂質が濃いスポットで観測された。この160mlを集めて溶媒を留去したところ、0.27gの黄色ペースト状物質が得られた。この操作をさらに3回繰り返し、スフィンゴ糖脂質含有物26.8gを処理して精製物1.09gを得た。HPLCによってスフィンゴ糖脂質含有量を求めたところ0.44gであり、得られた抽出物のスフィンゴ糖脂質純度は40質量%となった。
【0037】
次に内径2cm、長さ100cmのガラス製のエンプティカラムにシリカゲル(ナカライテスク社製シリカゲル60、70〜230メッシュ)を60cmの高さまで充填し、酢酸エチル:メタノール=95:5の混合溶媒2Lを流した。展開溶媒の液面が樹脂の上端まで達したときに上記の方法で得られた黄色ペースト状物質1.09gをメタノールに溶解して3mlにしたものを導入した。続いて同じ展開溶媒を流速5.0ml/分で流し、流出液を20mlずつ分けて回収した。回収した流出液を薄層クロマトグラフィーによって分析した結果、最初から120mlには何も含まれておらず、その後220mlにはスフィンゴ糖脂質のスポットは無かったが他の不純物が流出していた。その後の160mlにはスフィンゴ糖脂質が濃いスポットで観測された。この160mlを集めて溶媒を留去したところ、0.35gの白色固体が得られた。HPLCによってスフィンゴ糖脂質含有量を求めたところ0.35gであり、得られた処理物のスフィンゴ糖脂質純度は100質量%となった。
【0038】
比較例1(クリーム)
製造例2において得られた小麦由来のスフィンゴ糖脂質1.0gをステアリン酸15g、セタノール2g、流動パラフィン1g、オクチルドデカノール1g、プロピルパラベン0.05gとともに70℃で撹拌して溶解し、組成物Aとした。一方、別の容器にはグリセリン12g、水酸化カリウム0.5g、メチルパラベン0.2gを70℃の精製水67.25gに溶解し、組成物Bとした。組成物Bを強く撹拌している中に組成物Aを導入し、減圧下で5時間撹拌することにより、アトピー性皮膚炎治療用クリーム100gを得た。
【0039】
比較例2
実施例1において、製造例1において得られたこんにゃく芋由来のスフィンゴ糖脂質の代わりに合成セラミドのコスモファーム社製セラミド3(純度92.3%)を1.08g添加した以外は同様に製造し、スフィンゴ糖脂質を含まないクリーム100gを得た。
【0040】
比較例3
実施例1において、製造例1において得られたこんにゃく芋由来のスフィンゴ糖脂質を添加せず、代わりに1.0gの精製水を添加した以外は同様に製造し、スフィンゴ糖脂質を含まないクリーム100gを得た。
【0041】
試験例1<アトピー性皮膚炎治療剤塗布試験>
アトピー性皮膚炎の症状があり、ステロイド剤の塗布による治療を受けていて、症状が快方に向かったことからステロイド剤の塗布を止めてから1週間経過した20歳代の男女各25人に協力してもらった。患部のTEWL値を測定して、平均値がほぼ同じになるように男女各5人ずつのグループを5つ作り、実施例1のクリーム、実施例2のローション、比較例1のクリーム、比較例2のクリーム、比較例3のクリームをそれぞれのグループで1日2回ずつ患部に塗布してもらった。そこで、1週間後、2週間後に皮膚の状態や痒みについて調べた。それぞれの項目の評価は、アンケートによって行い、「完治した」を3点、「改善した」を2点、「変わらない」を1点、「悪化した」を0点とし、1グループ男女10人の合計値で示した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
以上のように、本発明のスフィンゴ糖脂質を含有するクリームまたはローションを処方したグループは明らかな改善が見られたが、比較例2の合成セラミドを含有するものや比較例3のような本発明のスフィンゴ糖脂質を含有しないクリームを処方したグループは、ステロイド剤を止めたことによって症状が悪化する傾向が見られた。
【0044】
実施例3(ドリンク剤)
製造例1において得られたこんにゃく芋由来のスフィンゴ糖脂質1.0gを大豆レシチン(ツルーレシチン工業(株)製「SLP−ペースト」)5gに70℃で溶解し、これを強く攪拌されている飲料水99gに70℃で導入した。そのまま乳化機「ポリトロンPT10−35」で30℃で3時間強く撹拌し、攪拌を止めて徐冷し、アトピー性皮膚炎治療剤ドリンク剤100gを得た。得られたドリンク剤は均一で、1ヶ月後も沈殿は生じなかった。
【0045】
実施例4(ソフトカプセル)
製造例1において得られたこんにゃく芋由来のスフィンゴ糖脂質1.0gを大豆レシチン(ツルーレシチン工業(株)製「SLP−ペースト」)5gに70℃で溶解した。この溶液0.6gをゼラチン、グリセリン、水からなる皮膜に封入してアトピー性皮膚炎治療用ソフトカプセル剤を作った。
【0046】
比較例4(ドリンク剤)
製造例2において得られた小麦由来のスフィンゴ糖脂質1.0gを大豆レシチン(ツルーレシチン工業(株)製「SLP−ペースト」)5gに70℃で溶解し、これを強く攪拌されている飲料水99gに70℃で導入した。そのまま乳化機「ポリトロンPT10−35」で30℃で3時間強く撹拌し、攪拌を止めて徐冷し、アトピー性皮膚炎治療用ドリンク剤100gを得た。得られたドリンク剤は均一で、1ヶ月後も沈殿は生じなかった。
【0047】
比較例5
実施例3において、製造例1において得られたこんにゃく芋由来のスフィンゴ糖脂質の代わりに1.0gの食用コラーゲンを添加した以外は同様に製造し、スフィンゴ糖脂質を含まないドリンク剤100gを得た。
【0048】
比較例6
実施例3において、製造例1において得られたこんにゃく芋由来のスフィンゴ糖脂質を添加せず、代わりに1.0gの精製水を添加した以外は同様に製造し、スフィンゴ糖脂質を含まないドリンク剤100gを得た。
【0049】
試験例2<アトピー性皮膚炎治療剤経口摂取試験>
12週齢の雄のNCマウス40匹を5匹ずつケージに入れて飼育した。これらのマウスの腹部を刈毛した後、5日連続で腹部皮膚に0.2体積%のジニトロフルオロベンゼンエタノール溶液0.1mlを塗布し、感作処置を施した。最後の処置から10日後に0.1体積%のジニトロフルオロベンゼンアセトン溶液を0.02ml塗布し、アレルギー反応を惹起した。これらのマウスを10匹ずつの4グループに分け、それぞれ毎日1回、3週間胃ゾンデで100μlずつ実施例3、比較例4、比較例5、比較例6のドリンク剤を経口投与した。1日後、1週間後、2週間後の各グループの10分間当りのスクラッチング回数と、血清IgE値を測定し、そのグループごとの平均値を表2に示した。
【0050】
【表2】
【0051】
以上のように、こんにゃく芋から抽出されたスフィンゴ糖脂質を経口摂取したグループはスクラッチング回数が突出して減少し、血清IgE値も速やかに低減した。
【0052】
【発明の効果】
本発明によれば、塗布または経口摂取することにより、アトピー性皮膚炎患者の皮膚に不足しているセラミドを速やかに供給でき、症状の緩和または治癒に優れた効果を有する安全性が高いアトピー性皮膚炎治療剤を提供できる。
さらに、芋類から抽出した抽出物を用いることによって、本発明のアトピー性皮膚炎治療剤が、簡単に低コストで製造できる。
Claims (4)
- こんにゃく芋から有機溶剤によって抽出されたスフィンゴ糖脂質を有効成分とすることを特徴とするアトピー性皮膚炎治療剤。
- 皮膚に塗布して用いるものである請求項1記載のアトピー性皮膚炎治療剤。
- 経口摂取するものである請求項1記載のアトピー性皮膚炎治療剤。
- こんにゃく芋が、こんにゃくトビ粉であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のアトピー性皮膚炎治療剤。
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