JP4230597B2 - ポリウレタン樹脂系スラッシュ成形用材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はスラッシュ成形用材料に関する。さらに詳しくは、特に自動車内装部品に適したポリウレタン樹脂系スラッシュ成形用材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
スラッシュ成形法は、複雑な形状(アンダーカット、深絞り等)の製品が容易に成形できること、肉厚が均一にできること、材料の歩留まり率が良いことから、近年、自動車の内装材等の用途に広く利用されており、主に軟質のポリ塩化ビニル(以下PVCという)系粉末がこのような用途に使用されている(例えば特開平5−279485号公報)。しかし、軟質化されたPVCは低分子量の可塑剤を多量に含有するため、可塑剤の凝固点以下ではソフト感が消失してしまう問題があった。
このような問題点を解決するものとして、熱可塑性ポリウレタン樹脂とブロック化ポリイソシアネート架橋剤とからなるスラッシュ成形用材料が知られている(例えば特開平5−43826号公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、熱可塑性ポリウレタン樹脂とブロック化ポリイソシアネート架橋剤とからなるスラッシュ成形用材料は、ソフト感、長期耐久性等は良好なものの、成形(熱溶融)時に架橋が進行して溶融粘度が上昇し、樹脂粉末間の気泡が抜けにくく、成形体表面にピンホールや色ムラができ成形体の外観を損ね易いという問題点があった。
本発明は、成形性が良好で成形体の外観を損ねることがなく、しかも低温においてもソフト感を有し、耐候性や耐熱性等の長期耐久性、耐薬品性などに優れるスラッシュ成形用材料を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するポリウレタン樹脂系スラッシュ成形材料について鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち本発明は、分子主鎖にラジカル重合性不飽和基を有し、数平均分子量が10,000〜100,000、熱軟化開始温度が120〜220℃であって、ラジカル重合性不飽和基濃度が、0.1〜5モル/10 3 gである熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)および顔料(B)からなることを特徴とするポリウレタン樹脂系スラッシュ成形用材料;分子主鎖にラジカル重合性不飽和基を有し、数平均分子量が10,000〜100,000、熱軟化開始温度が120〜220℃であり、過剰の脂肪族系ジイソシアネート(a1)と、主鎖にラジカル重合性不飽和基を有しラジカル重合性不飽和基濃度が、0.2〜7モル/10 3 gであるポリエステルジオール(a2−1)からなる数平均分子量500〜10,000の高分子ジオール(a2)および必要により炭素数2〜15の脂肪族ジオール類、炭素数3〜12の環状基を有するジオール類、2価フェノール類のアルキレンオキシド低モル付加物(分子量500未満)又はこれらの2種以上の混合物である低分子ジオール(a3)とから誘導されるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(a)に、脂肪族系ジアミン(b1)および脂肪族モノアミン(b2)を反応させて得られる熱可塑性ウレタンエラストマー(A)および顔料(B)からなることを特徴とするポリウレタン樹脂系スラッシュ成形用材料である。
【0005】
【作用】
本発明のスラッシュ成形用材料は、架橋剤を含まないため成形時の溶融粘度の上昇がなく、表面にピンホールや色ムラのない外観の良好な成形体を与えることができる。さらにポリウレタン樹脂の分子主鎖に導入されたラジカル重合性不飽和基が、紫外線暴露下あるいは高温暴露下等において発生する劣化の原因となるラジカルを捕捉して安定化することにより樹脂の劣化を阻止し、その結果成形体の耐光安定性、耐熱安定性等の長期の耐久性が保持される。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明における分子主鎖にラジカル重合性不飽和基を有する熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)は、過剰の脂肪族系ジイソシアネート(a1)と、主鎖にラジカル重合性不飽和基を有するポリエステルジオール(a2−1)からなる数平均分子量500〜10,000の高分子ジオール(a2)および必要により低分子ポリオール(a3)とから誘導されるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(a)に、脂肪族系ジアミン(b1)および脂肪族モノアミン(b2)を反応させることにより得られる。
【0007】
上記脂肪族系ジイソシアネート(a1)としては、炭素数(NCO基中の炭素を除く、以下同様)2〜18の脂肪族ジイソシアネート[エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエート等];炭素数4〜15の脂環族ジイソシアート[イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水添TDI)、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロへキセン等];炭素数8〜15の芳香脂肪族ジイソシアネート[m−もしくはp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等];これらのジイソシアネートの変性物(カーボジイミド基、ウレトジオン基、ウレトイミン基、ウレタン基、ウレア基等を有する変性物);およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
これらのうち好ましいものは脂肪族ジイソシアネートおよび脂環族ジイソシアネートであり、特に好ましいものはHDI、IPDIおよび水添MDIである。
【0008】
高分子ジオール(a2)を構成する(a2−1)としては、たとえばα,β−不飽和ジカルボン酸からなるジカルボン酸成分と低分子ジオールとから誘導されるポリエステルジオールが挙げられる。
【0009】
上記ジカルボン酸成分を構成するα,β−不飽和ジカルボン酸としては、例えばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、これらのエステル形成性誘導体[無水物、低級アルキル(炭素数1〜4)エステル等]およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0010】
上記α,β−不飽和ジカルボン酸とともに必要により他のジカルボン酸を併用することができる。併用できる他のジカルボン酸としては、炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸[例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、アゼライン酸など]、炭素数8〜12の芳香族ジカルボン酸[フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸など]、これらのエステル形成性誘導体[酸無水物、低級アルキル(炭素数1〜4)エステルなど]およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0011】
該(a2−1)中のラジカル重合性不飽和基濃度は、通常0.2〜7モル/103g、好ましくは0.5〜6.5モル/103g、さらに好ましくは2〜6モル/103gの範囲で選択される。
ラジカル重合性不飽和基濃度を上記範囲とするためには、ジカルボン酸成分に占めるα,β−不飽和ジカルボン酸もしくはその誘導体の比率はその分子量によって異なるが、通常少なくとも10重量%、好ましくは20〜80重量%またはそれ以上である。α,β−不飽和ジカルボン酸の比率が10重量%未満では所望の長期耐久性を有するポリウレタンエラストマー(A)を得ることができない場合がある。
また、該(a2−1)の数平均分子量は、通常500〜10,000,好ましくは800〜5,000、さらに好ましくは1,000〜3,000である。
【0012】
上記低分子ジオールとしては、炭素数2〜15の脂肪族ジオール類[直鎖ジオール(例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなど)、分岐鎖を有するジオール(例えばプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,2−、1,3−もしくは2,3−ブタンジオールなど)など];炭素数3〜12の環状基を有するジオール類[脂環基含有ジオール{例えばシクロヘキサンジメタノール、4,4’−ビス(ヒドロキシエトキシ)−ジシクロヘキシルプロパンなど}、芳香環含有ジオール{例えばm−およびp−キシリレングリコール、2価フェノール類(ハイドロキノン等の単環フェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF等のビスフェノール類、ジヒドロキシナフタレン等の多核フェノール類など)のアルキレンオキシド低モル付加物(分子量500未満)など]およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
上記および以下において、アルキレンオキシドとしては炭素数2〜4のアルキレンオキシド[エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−、2,3−、1,3−もしくは1,4−ブチレンオキシド]およびこれらの2種以上の併用系(ランダムおよび/またはブロック)が挙げられる。好ましいものはエチレンオキシド、プロピレンオキシドおよび1,4−ブチレンオキシドである。
【0013】
これらのうち好ましいものは、脂肪族ジオールおよび脂環基含有ジオールであり、特に好ましいものは、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、シクロヘキサンジメタノールおよび4,4’−ビス(ヒドロキシエトキシ)−ジシクロヘキシルプロパンである。
【0014】
高分子ジオール(a2)として、上記(a2−1)とともに必要により他の高分子ジオール(a2−2)を併用することができる。この場合の(a2−1)の比率は、通常少なくとも5重量%、好ましくは15重量%以上である。(a2−1)の比率が5重量%未満であると所望の長期耐久性を有する(A)が得られない場合がある。
【0015】
併用できる他の高分子ジオール(a2−2)としては、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエーテルエステルジオールなどが挙げられる。
該(a2−2)の数平均分子量は、通常500〜10,000,好ましくは800〜5,000、さらに好ましくは1,000〜3,000である。
【0016】
ポリエステルジオールとしては、前記(a2−1)の出発物質として例示した低分子ジオールの1種以上と、ジカルボン酸[炭素数4〜15の脂肪族ジカルボン酸(例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、アゼライン酸など)、炭素数8〜12の芳香族ジカルボン酸(フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸など)およびこれらのエステル形成性誘導体〔無水物、低級アルキル(炭素数1〜4)エステルなど〕から選ばれる1種以上]とから誘導される縮合ポリエステルポリオール[例えばポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリ(3−メチルペンチレンアジペート)ジオール、ポリエチレンイソフタレートジオールなど];上記低分子ジオールの1種以上に炭素数4〜12のラクトン(γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−バレロラクトンなど)を開環付加して得られるポリラクトンジオール(例えばポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオールなど);ポリラクトンジオールのジカルボン酸変性体(例えばアジピン酸変性ポリカプロラクトンジオール、テレフタル酸変性ポリカプロラクトンジオール、イソフタル酸変性ポリカプロラクトンジオールなど);上記低分子ジオールの1種以上と炭酸エステル(炭酸ジメチル、エチレンカーボネートなど)とから誘導されるポリカーボネートジオール(例えばポリヘキサメチレンカーボネートジオールなど)などが挙げられる。
【0017】
ポリエーテルジオールとしては、前記(a2−1)の出発物質として例示した低分子ジオールの1種以上にアルキレンオキシドを(共)付加させて得られるジオール[例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン(ブロックおよび/またはランダム)グリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリオキシブチレン−ポリオキシエチレン(ブロックおよび/またはランダム)グリコール、ポリオキシブチレン−ポリオキシプロピレン(ブロックおよび/またはランダム)グリコール、ビスフェノールAのプロピレンオキシド重付加物など]が挙げられる。
【0018】
ポリエーテルエステルジオールとしては、上記ポリエーテルジオールの1種以上(好ましくは数平均分子量500〜1,000のもの)と前記ジカルボン酸の1種以上とから誘導されるジオールが挙げられる。
【0019】
該(a2−2)として好ましいものはポリエステルポリオールであり、さらに好ましいものは縮合ポリエステルポリオールである。
【0020】
高分子ジオール(a2)の数平均分子量は、通常500〜10,000、好ましくは800〜5,000、さらに好ましくは1,000〜3,000である。数平均分子量が500未満では十分なソフト感が得られず、10,000を越えると所望の強度が発現しない。
また、該(a2)中のラジカル重合性不飽和基濃度は、通常0.2〜7モル/103g、好ましくは0.5〜6.5モル/103g、さらに好ましくは2〜6モル/103gである。
【0021】
該(a2)と共に必要により使用される低分子ジオール(a3)としては、前記(a2−1)の出発物質として例示した化合物が使用できる。該(a3)として好ましいものは脂肪族ジオールであり、特に好ましいものはエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールおよび3−メチル−1,5−ペンタンジオールである。
該(a3)を併用する場合の使用量は(a2)の重量に対して通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下である。
【0022】
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)の製造において、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(a)を形成する際の(a1)、(a2)および(a3)のモル比は、(a1)1モルに対し、(a2)は通常0.3〜0.8モル、好ましくは0.2〜0.5モル、(a3)は通常0〜0.3モル、好ましくは0.05〜0.15モルである。
また、該ウレタンプレポリマー(a)の遊離イソシアネート基含量は通常1〜10重量%、好ましくは3〜6重量%である。
【0023】
該(a)の形成反応に際しては、反応を促進するためにポリウレタンに通常用いられる触媒を使用することができる。該触媒としては、金属触媒たとえば錫系触媒[トリメチルチンラウレート、トリメチルチンヒドロキサイド、ジメチルチンジラウレート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチルチンマレエートなど];鉛系触媒[オレイン酸鉛、2−エチルヘキサン酸鉛、ナフテン酸鉛、オクテン酸鉛など];その他の金属触媒[ナフテン酸コバルトなどのナフテン酸金属塩、フェニル水銀プロピオン酸塩など];およびアミン系触媒たとえばトリエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチルヘキシレンジアミン、ジアザビシクロアルケン類[1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7〔DBU(サンアプロ製,登録商標)〕など];ジアルキルアミノアルキルアミン類[ジメチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノオクチルアミン、ジプロピルアミノプロピルアミンなど]または複素環式アミノアルキルアミン類[2−(1−アジリジニル)エチルアミン、4−(1−ピペリジニル)−2−ヘキシルアミンなど]の炭酸塩および有機酸塩(ギ酸塩など)等;N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、トリエチルアミン、ジエチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等;およびこれらの2種以上の併用系が挙げられる。
これらの触媒の使用量は、(a)の重量に基づいて、通常3重量%以下、好ましくは0.001〜2%重量である。
【0024】
該熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)は、上記イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(a)に脂肪族系ジアミン(b1)および脂肪族モノアミン(b2)を反応させることにより得られる。
【0025】
上記(b1)としては、炭素数4〜12の脂環族ジアミン[例えばイソホロンジアミン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,4−ジアミノシクロヘキサン等];炭素数2〜10の脂肪族ジアミン[例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等];炭素数8〜15の芳香脂肪族ジアミン[例えばm−もしくはp−キシリレンジアミン、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジアミン等]およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものは脂環族ジアミンおよび脂肪族ジアミンであり、特に好ましいものはイソホロンジアミンおよびヘキサメチレンジアミンである。
【0026】
上記(b2)としては、モノアルキル(炭素数1〜8)アミン[例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン等];ジアルキル(炭素数1〜8)アミン[例えばジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等];アルカノールアミン[例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等]およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
このらのうち好ましいものはジアルキルアミンおよびジアルカノールアミンであり、特に好ましいものはジプロピルアミン、ジブチルアミンおよびジエタノールアミンである。
【0027】
上記(A)の形成反応において、ウレタンプレポリマー(a)のイソシアネート基1当量に対する(b1)の当量比は、通常0.2〜0.98当量、好ましくは0.7〜0.95当量であり、また(b2)の当量比は、通常0.02〜0.3当量、好ましくは0.05〜0.15当量である。
【0028】
該(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される数平均分子量は、通常10,000〜100,000、好ましくは20,000〜60,000である。数平均分子量が10,000未満では所望の破断強度のスラッシュ成形体を得ることができず、100,000を越えると熱溶融時の溶融粘度が上昇し成形が困難になる場合がある。
【0029】
該(A)中のラジカル重合性不飽和基濃度は、通常0.1〜5モル/103g、好ましくは0.3〜4.5モル/103g、特に好ましくは1〜4モル/103gである。ラジカル重合性不飽和基濃度を上記範囲内とすることでソフト感に優れ長期耐久性の良好な成形体を得ることができる。
【0030】
本発明で用いられる熱可塑性ポリウレタンエラストマ−(A)の粉体の製造方法としては特に限定されないが、たとえば以下の方法が例示できる。
▲1▼ブロック状またはペレット状の(A)を冷凍粉砕法、氷結粉砕法等の方法で粉砕し、(A)の粉体を得る方法。
▲2▼(A)を溶解しない有機溶剤(n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタンなど)中で(A)の非水分散体を形成させ、該非水分散体から(A)を分離乾燥し、(A)の粉体を得る方法(例えば特開平4−255755号公報明細書に記載の方法)。
▲3▼分散剤を含有した水中で(A)の水分散体を形成させ、該水分散体から(A)を分離乾燥し、(A)の粉体を得る方法(例えば特開平7−133423号および特開平8−120041号各公報明細書に記載の方法)。
これらのうちでは、多量の有機溶剤を使用せずしかも所望の粒度の粉体が容易に得られる点で▲3▼の方法が好ましい。
【0031】
該(A)の示差走査型熱量計(DSC)により測定される熱軟化開始温度は通常120〜220℃、好ましくは140〜180℃である。熱軟化開始温度が120℃未満では樹脂粉体同士のブロッキングが発生し易く、200℃を超えると平滑な表面を有する成形体を得ることが困難になる。熱軟化開始温度は、(A)の分子量、(A)中のウレア基濃度、使用するジイソシアネートの種類等を選択することにより上記範囲の温度に適宜設定することが可能である。
【0032】
本発明において使用される顔料(B)としては、特に限定されず、公知の有機顔料および/または無機顔料を使用することができ、(A)100重量部当たり通常0.5〜7重量部、好ましくは1〜5重量部の割合で配合される。
有機顔料としては例えば不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、銅フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料等が挙げられ、無機系顔料としては例えばクロム酸塩、フェロシアン化合物、金属酸化物、硫化セレン化合物、金属塩類(硫酸塩、珪酸塩、炭酸塩、燐酸塩等)、金属粉末、カーボンブラック等が挙げられる。
【0033】
本発明のスラッシュ成形材料には、必要により可塑剤、安定剤などの添加剤を含有させることができる。
【0034】
上記可塑剤としては、フタル酸エステル[フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチルベンジル、フタル酸ジイソデシル等];脂肪族2塩基酸エステル[アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、セバシン酸−2−エチルヘキシル等];トリメリット酸エステル[トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリオクチル等];脂肪酸エステル[オレイン酸ブチル等];安息香酸エステル[ジエチレングリコールジ安息香酸エステル、ジプロピレングリコールジ安息香酸エステル等];脂肪族リン酸エステル[トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルフォスフェート、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシホスフェート等];芳香族リン酸エステル[トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート等];ハロゲン脂肪族リン酸エステル[トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(βークロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート等];およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
可塑剤の配合割合は、(A)100重量部あたり、通常0〜80重量部、好ましくは5〜50重量部である。80重量部を越えると成形表皮の表面に可塑剤が経時的にブリードアウトすることがあるので好ましくない。
【0035】
上記安定剤としては、特に限定されず、公知の酸化防止剤および/または紫外線吸収剤を使用することができ、通常(A)100重量部あたり、通常0〜5重量部、好ましくは0.01〜3重量部の割合で配合される。
酸化防止剤としては、フェノール系[2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール等]、ビスフェノール系[2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)等]、リン系[トリフェニルフォスファイト、ジフェニルイソデシルフォスファイト等]およびこれらの2種以上の併用が挙げられる。
また、紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系[2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等]、ベンゾトリアゾール系[2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等]、サリチル酸系[フェニルサリシレートなど]、ヒンダードアミン系[ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート等]およびこれらの2種以上の併用が挙げられる。
【0036】
本発明のスラッシュ成形用材料にはさらに必要に応じて他の公知の添加剤(ブロッキング防止剤、離型剤、耐熱安定剤、難燃剤等)を任意に含有させることができる。
【0037】
本発明のスラッシュ成形用材料の製造方法は特に限定されないが、以下の方法が挙げられる。
▲1▼(A)の粉体、(B)および添加剤を一括して混合装置で混合する方法。
▲2▼(A)の粉体を製造する任意の段階で、あらかじめ(B)および添加剤の一部または全部を含有させておく方法。
【0038】
本発明のスラッシュ成形用材料の製造装置は特に限定されず、公知の粉体混合装置を使用することができる。粉体混合装置としては、高速剪断混合装置(例えばへンシェルミキサー等)、低速混合装置(例えばナウタミキサー、プラネタリーミキサー等)等が挙げられる。
【0039】
本発明のスラッシュ成形用材料の平均粒子径は通常50〜400μm、好ましくは100〜300μm、特に好ましくは130〜200μmである。平均粒子径が50μm未満では粉体の流動性が悪くなり、スラッシュ成形時に金型の細部まで粉が入り込まず成形が困難になり、400μmを越えると成形した表皮にピンホールが発生しやすくなる。
また、100μm未満の粒子の割合は通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下である。50重量%を越えると粉塵が発生し作業環境が悪化するとともに粉体の流動性が悪くなり、スラッシュ成形時に金型の細部まで粉が入り込まず成形が困難となることがある。
【0040】
また、安息角は通常35゜以下、好ましくは33゜以下であり、スパチュラ角は通常50゜以下、好ましくは40゜以下である。安息角およびスパチュラ角が上記範囲外であると粉体の流動性が悪くなり、スラッシュ成形時に金型の細部まで粉が入り込まず成形が困難となることがある。
なお、ここでいう平均粒子径は[「TUBTEC」,レーゼンテック社製]などの粒度分布測定機で測定した篩い下50%の粒子径の値であり、安息角およびスパチュラ角は[「パウダーテスタ」,ホソカワミクロン社製]で測定される値である。
【0041】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の記載において「部」は重量部、「%」は重量%を示す。
【0042】
実施例1
撹拌棒および温度計をセットした反応容器に、無水マレイン酸387部および1,6−ヘキシレングリコール433部とを投入し、200℃で7時間、さらに3mmHgの減圧下、200℃で10時間反応を行い、分子量が2,000、ヒドロシキル価が58、酸価が2.0、ラジカル重合性不飽和基濃度が4.1モル/103gのポリエステルジオール(P1)を得た。
同様の反応容器に、該(P1)820部を投入し3mmHgの減圧下で110℃に加熱して1時間脱水を行った。続いてイソホロンジイソシアネート(IPDI)120部を投入し、110℃で10時間反応を行い末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得た。該ウレタンプレポリマーの遊離イソシアネート(NCO)含量は3.4%であった。
ビーカーに、該ウレタンプレポリマー230部および、ポリビニルアルコール[「PVA−235」、(株)クラレ製]3部を溶解した分散液750部を添加し、「ウルトラディスパーザー」(ヤマト科学製)を使用して回転数9000rpmで1分間混合した。
この混合液を撹拌棒および温度計をセットした反応容器に移し、攪拌しながらイソホロンジアミン15部とジエタノールアミン1.5部を投入し、50℃で10時間反応を行った。反応終了後濾別、乾燥を行い、次いでブロッキング防止剤[「サイロイド978」、富士デヴィソン化学製]1部および耐光安定剤[「DIC−TBS」、大日本インキ化学工業製]0.5部を加えウレタンエラストマー粉末を調製した。該ウレタンエラストマーの数平均分子量(GPCによる、以下同様)は40,000、熱軟化開始温度(DSCによる、以下同様)は170℃、ラジカル重合性不飽和基濃度は3.3モル/103gであり、粉末の平均粒子径は135μmであった。
該ウレタンエラストマー粉末100部、ジフェニルホスフェートのハイドロキノン縮合物[「CR733S」、大八化学(株)製]10部および酸化チタン「タイペークR−820」、石原産業(株)製]1部をへンシェルミキサー内に投入し200rpmで1分間混合した。混合物を100℃で1時間熟成した後40℃まで冷却し、ブロッキング防止剤(シリカ)[「サイロイド978」、富士デヴィソン化学製]1部を添加して、本発明のスラッシュ成形用材料(S1)を得た。
【0043】
実施例2
撹拌棒および温度計をセットした反応容器に、実施例1のポリエステルジオール(P1)410部およびポリカプロラクトンジオール[「プラクセルL220AL」,分子量2,000,(株)ダイセル製]410部を投入し、3mmHgの減圧下で110℃に加熱して1時間脱水を行った。続いてイソホロンジイソシアネート(IPDI)120部を投入し、110℃で10時間反応を行い末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得た。該ウレタンプレポリマーの遊離イソシアネート含量は3.4%であった。
該ウレタンプレポリマーを使用する以外は実施例1と同様にしてウレタンエラストマー粉末を調製した。該ウレタンエラストマーの数平均分子量は40,000、熱軟化開始温度は171℃、ラジカル重合性不飽和基濃度は1.7モル/103gであり、粉末の平均粒子径は135μmであった。
このウレタンエラストマー粉末を用いる以外は実施例1と同じ方法で本発明のスラッシュ成形用材料(S2)を得た。
【0044】
実施例3
撹拌棒および温度計をセットした反応容器に、イタコン酸364部および1,6−ヘキシレングリコール456部とを投入し、200℃で7時間、さらに3mmHgの減圧下、200℃で10時間反応を行い、数平均分子量が2,000、ヒドロシキル価が58、酸価が2.0、ラジカル重合性不飽和基濃度が3.4モル/103gのポリエステルジオール(P2)を得た。
実施例1の(P1)に代えて、該(P2)を用いた以外は実施例1と同様にしてウレタンプレポリマーを合成し、それを用いてウレタンエラストマー粉末を調製した。該ウレタンエラストマーの数平均分子量は40,000、熱軟化開始温度は170℃、ラジカル重合性不飽和基濃度は2.8モル/103gであり、粉末の平均粒子径は135μmであった。
このウレタンエラストマー粉末を用いた以外は実施例1と同じ方法で本発明のスラッシュ成形用材料(S3)を得た。
【0045】
比較例1
実施例1のポリエステルジオール(P1)に代えて、ポリカプロラクトンジオール[「プラクセルL220AL」、分子量2,000、(株)ダイセル製]を同量用いた以外は実施例1と全く同様にして、比較のためのスラッシュ成形用材料(S4)を得た。
【0046】
比較例2
比較例1で得た(S4)100部に、イソホロンジイソシアネート3量体のε−カプロラクタムブロック体(「VESTAGON B1530」、ヒュルスジャパン社製)の粉末4部を配合し、比較のためのスラッシュ成形用材料(S5)を調製した。
【0047】
物性測定例1
実施例1〜4および比較例1〜2で得た(S1)〜(S5)を、それぞれ220℃に加熱した金型に10秒間接触させ熱溶融後未溶融の粉末を除去し、室温中で1分間放置した後、水冷して成形シートを作成した。得られた成形シートについて下記試験方法により性能試験を行った。その結果を表1に示す。
(試験方法)
破断強度および伸び率(25℃)、低温破断強度および伸び率(−35℃)および硬度:JIS−K6301に準じて測定した。
外観:シート表面の色ムラを下記評価基準で目視判定した。
○;均一、△;僅かに色ムラが確認できる、×;色ムラ有り
【0048】
【表1】
【0049】
物性測定例2
物性測定例1と同様にして得た(S1)〜(S5)の各成形シートをモールド内にセットした状態でその上にウレタンフォーム形成成分[EOチップドポリプロピレントリオール(数平均分子量5,000)95部、トリエタノールアミン5部、水2.5部、トリエチルアミン1部およびポリメリックMDI61.5部からなる]を添加し発泡密着させ、(S1)〜(S4)の各表皮層を有するウレタンフォーム成形体を得た。これらの成形体を120℃の循風乾燥器内で500時間熱処理した後、該成形体からウレタンフォームをとり除き、各成形シート(表皮層)について下記試験方法により性能試験を行った。その結果を表2に示す。
(試験方法)
伸び率(25℃、−35℃):JIS−K6301に準じて測定した。
外観変化:下記評価基準で目視判定した。
○;変化無し、×;変化有り
【0050】
【表2】
【0051】
物性測定例3
物性測定例2で得た(S1)〜(S4)の各表皮層を有するウレタンフォーム成形体をそれぞれブラックパネル温度83℃のカーボンアークフェードメーター内で400時間処理した。処理後成形体からウレタンフォームをとり除き、各成形シート(表皮層)について下記試験方法により性能試験を行った。その結果を表3に示す。
(試験方法)
伸び率(25℃、−35℃):JIS−K6301に準じて測定した。
外観変化:下記評価基準で目視判定した。
○;変化無し、×;変化有り
【0052】
【表3】
【0053】
【発明の効果】
本発明のポリウレタン樹脂系スラッシュ成形用材料は下記の効果を有する。
1.架橋剤を含まないので成形性に優れ、ピンホールのない外観の優れた成形体を得ることができる。
2.耐熱老化性、耐光老化性等の長期耐久性に優れた成形体が得られる。
3.低硬度のため触感に優れる。
4.低温での伸びが大きいため、寒冷地でのインパネ表皮の割れを防止でき、また助手席のエアバッグをインパネに内蔵型にした場合の寒冷地での動作時の乗員保護性に優れている。
上記効果を奏することから本発明のスラッシュ成形用材料は、インパネをはじめ自動車内装材として極めて有用である。また、ソファー表皮等の家具など他の成形品への応用も可能である。
Claims (3)
- 分子主鎖にラジカル重合性不飽和基を有し、数平均分子量が10,000〜100,000、熱軟化開始温度が120〜220℃であって、ラジカル重合性不飽和基濃度が、0.1〜5モル/10 3 gである熱可塑性ポリウレタンエラストマー(A)および顔料(B)からなることを特徴とするポリウレタン樹脂系スラッシュ成形用材料。
- 分子主鎖にラジカル重合性不飽和基を有し、数平均分子量が10,000〜100,000、熱軟化開始温度が120〜220℃であり、過剰の脂肪族系ジイソシアネート(a1)と、主鎖にラジカル重合性不飽和基を有しラジカル重合性不飽和基濃度が、0.2〜7モル/10 3 gであるポリエステルジオール(a2−1)からなる数平均分子量500〜10,000の高分子ジオール(a2)および必要により炭素数2〜15の脂肪族ジオール類、炭素数3〜12の環状基を有するジオール類、2価フェノール類のアルキレンオキシド低モル付加物(分子量500未満)又はこれらの2種以上の混合物である低分子ジオール(a3)とから誘導されるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(a)に、脂肪族系ジアミン(b1)および脂肪族モノアミン(b2)を反応させて得られる熱可塑性ウレタンエラストマー(A)および顔料(B)からなることを特徴とするポリウレタン樹脂系スラッシュ成形用材料。
- 平均粒径が50〜400μmの粉体であり、かつ100μm未満の粒子の含有量が50重量%以下である請求項1又は2に記載のスラッシュ成形用材料。
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