JP4211026B2 - 粘着付与剤樹脂エマルション - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は粘着付与剤樹脂エマルションに関して、ベースポリマーとの良好な相溶性により、タック、粘着力、保持力の粘着物性バランスに優れ、特に高温保持力に優れた水性粘着剤組成物を製造できるものを提供する。
【0002】
【発明の背景】
粘着付与剤樹脂エマルションは、一般的に、アクリルエマルションや天然ゴムラテックス、SBR及びCRなどの合成ゴム系の各種ラテックスに代表されるベースポリマーに対して粘着特性等の向上を目的として添加され、紙や各種プラスチックス基材に塗布したラベル、テープ、シートなどの粘・接着製品に広く使用されている。
特に、近年は、VOCの問題、作業衛生面や安全性などの観点から、従来の溶剤型に代わり、環境に優しい水系エマルション型粘着剤に大きく転換されつつある。一方、最近では、粘着剤の基材あるいは被着体として従来より広く使用されてきたポリ塩化ビニルが徐々に使用されなくなりつつあり、代わってポリプロピレン、ポリエチレンなどの非極性のプラスチックが以前にも増して多く使用されつつある。
【0003】
かかるプラスチック材料に対する水系粘着剤組成物としては、アクリル系共重合体エマルション、SBRラテックスなどの水分散型ポリマーをベースポリマーとして、これにロジン系樹脂、テルペン系樹脂などの天然系樹脂や、石油樹脂などの合成系樹脂の水分散物を粘着付与剤樹脂として添加して、ポリマー物性を改質したものが広範に使用されている。特にロジン系樹脂はベースポリマーとの相溶性に優れ、ポリオレフィンに対する接着力の改質効果に優れていることから広く使用されている。
上記ロジン系樹脂は、ロジン類や変性ロジン類と、多価アルコールを加熱脱水縮合させて得られるロジンエステルが大部分で、ロジン類の変性方法と多価アルコールの種類を組み合わせることにより、常温で液状のものから高軟化点の固形状樹脂まで多様な樹脂を得ることが可能であり、必要な各種粘着物性への対応が容易である。
【0004】
【従来の技術】
そこで、上記ロジンエステルのなかでも、重合ロジンエステル、或は、ロジン類やロジン誘導体にアクリル酸などのα,β−不飽和カルボン酸を付加した変性ロジンのエステル化物、並びにこれらを粘着付与剤樹脂に用いた粘着剤組成物、又はこれらの類縁物の従来技術を挙げると次の通りである。
(1)特許文献1
ポリオレフィンに対する常温でのタック、接着力と共に、高温での接着力を付与することを目的として、(メタ)アクリル系重合体のエマルションと、樹脂酸ダイマーを60重合%以上含有してなる重合ロジンに多価アルコールを反応して得られ、且つ、軟化点が150〜168℃である重合ロジンエステルを粘着付与剤樹脂とするエマルションを含有してなる水性粘着剤組成物が開示されている。
【0005】
(2)特許文献2
ポリオレフィン曲面に対する密着性や粘着シートの透明性の改善を目的として、(メタ)アクリル系重合体のエマルションと、重合ロジンエステル、部分マレイン化不均化ロジンのエステル化物、或は、部分フマル化不均化ロジンのエステル化物であって、110〜150℃の軟化点を有する粘着付与剤樹脂のエマルションを含有する水性粘着剤組成物が開示されている。
【0006】
(3)特許文献3
高温接着力の改善を目的として、(メタ)アクリル系のベースポリマーと、このベースポリマーに対して相溶性に劣る粘着付与剤樹脂を含有する溶剤系の感圧接着剤組成物であり、この相溶性に劣る粘着付与剤樹脂として、軟化点168℃のマレイン酸変性重合ロジンエステル(実施例4参照)などが開示されている。
また、特許文献9には、同様の目的で、単なる(メタ)アクリル系ポリマーに替えて、アクリル系ポリマーに特定のエチレン系単量体を付加重合して得たポリマーをベースポリマーとするものが開示されている。
【0007】
(4)特許文献4
熱安定性などの改善を目的として、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子と、特定酸価のロジン系化合物と、親水性可塑剤とを含有する水溶性ホットメルト接着剤であり、当該ロジン系化合物としては、ガムロジン、トールロジン、ウッドロジン、重合ロジン、不均化ロジンなどのロジン類、ロジン変性マレイン酸樹脂、エステル型ロジン変性マレイン酸樹脂、或は、ロジン−アクリル酸共重合体(下記の特許文献8のアクリル化ロジンに相当)などが好ましいとしている。
【0008】
(5)特許文献5
幅広い温度領域での接着特性の改善を目的として、(メタ)アクリル酸エステル単量体に、ロジンのアクリル酸エステル及び共重合性単量体を共重合させたアクリル系ポリマーと、軟化点105℃以上、好ましくは105〜190℃のロジン系粘着付与剤樹脂を含有させた溶剤系の感圧接着剤組成物であり、ロジン系粘着付与剤樹脂としては、軟化点125℃のマレイン酸変性不均化ロジンが記載されている(実施例2参照)。
【0009】
(6)特許文献6
色調安定性に優れ、103〜120℃程度の軟化点を有するとともに、ホットメルト接着剤用タッキファイヤーとして好適なアクリル酸変性ロジンエステルが開示されている。
【0010】
(7)特許文献7
加熱安定性の改善を目的として、部分的にアクリル酸を付加した不均化ロジンのエステル化物であって、好ましい軟化点が100〜140℃であるものを粘着付与剤樹脂とするホットメルト接着剤組成物が開示されている。
また、特許文献10にも、同様のアクリル酸変性不均化ロジンエステル、並びにこれを用いたホットメルト接着剤組成物が開示されている。
【0011】
(8)特許文献8
透明性の改善などを目的とした光重合性のアクリル系感圧性接着剤であって、アルキルアクリレート単量体を主成分とする単量体混合物に、アクリル酸付加ロジンを配合し、光重合した感圧接着剤である。上記アクリル酸付加ロジンとしては、アクリル化ロジンが好ましいとしている。
【0012】
【特許文献1】
特許第2720712号公報
【特許文献2】
特開昭63−256672号公報
【特許文献3】
特開平1−16882号公報(第6頁)
【特許文献4】
特開平11−35919号公報(段落14)
【特許文献5】
特開平4−114079号公報(第3頁)
【特許文献6】
特開平7−286139号公報(請求の範囲、段落30、段落32〜33)
【特許文献7】
特開平2−180979号公報
【特許文献8】
特開2002−3796号公報(段落22)
【特許文献9】
特開平1−221474号公報
【特許文献10】
特開平2−248481号公報
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、ロジン系樹脂においては、軟化点が高くなると概ね粘着力、凝集力が増す傾向があるが、軟化点が高いほど粘着付与剤樹脂の分子量も大きくなり、ベースポリマーとの相溶性が低くなるため、タックが低下する傾向があり、タック、粘着力、保持力の粘着物性バランスを良好に確保することは難しい。
【0014】
例えば、上記特許文献4又は8のアクリル化ロジンでは、これを使用して水性エマルション化しても、軟化点が低く凝集力が悪いうえ、耐水性も確保できないという問題がある。また、上記特許文献3に示すように、軟化点168℃のマレイン酸変性重合ロジンエステルなどはベースポリマーとの相溶性に劣るため、軟化点が高い分だけ保持力などの改善は期待できる反面、タックなどが低下する問題があり、上記特許文献1についても、高軟化点の重合ロジンエステルを粘着付与剤樹脂とするが、なお保持力(特に、高温保持力)などについては改善の余地が大きいのである。
このように、上記特許文献1〜8は、必ずしもタック、粘着力、保持力の粘着物性バランスが充分ではなく、特に、高温保持力などの実用物性についても更なる改善が要望される。
【0015】
本発明は、かかる事情に鑑みて、高軟化点にも拘わらず、タック、粘着力、保持力の粘着物性バランスに優れ、特に高温保持力に優れた粘着付与剤樹脂の水性エマルションを開発することを技術的課題とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アクリル酸変性した重合ロジン系のエステルは、粘着付与剤樹脂エマルションとしてアクリルポリマーなどの水系高分子エマルションに配合した場合、分子量が大きく極めて高い軟化点を有するにも拘わらず、ベースポリマーとの相溶性が良好であることから、タック、粘着力、保持力の粘着物性バランスに優れ、とりわけ高温保持力に優れることを見い出して、本発明を完成した。
【0017】
即ち、本発明1は、重合ロジンをアクリル酸で変性し、その変性率が1〜10重量%であるアクリル酸変性重合ロジンを多価アルコールでエステル化し、軟化点140〜180℃としたアクリル酸変性重合ロジンエステルを水中に分散したことを特徴とする粘着付与剤樹脂エマルションである。
【0019】
本発明2は、上記本発明1において、ダイマー酸を30重量%以上含有する重合ロジンをアクリル酸で変性することを特徴とする粘着付与剤樹脂エマルションである。
【0020】
本発明3は、上記本発明1又は2において、アクリル酸に代えて、フマル酸で重合ロジンを変性し、当該フマル酸変性重合ロジンを多価アルコールでエステル化することを特徴とする粘着付与剤樹脂エマルションである。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明は、第一に、重合ロジンをアクリル酸で変性率1〜10重量%の割合で変性し、エステル化して、軟化点140〜180℃としたアクリル酸変性重合ロジンエステルを水中に分散した粘着付与剤樹脂エマルションであり、第二に、アクリル酸に替えてフマル酸で同割合にて変性した同軟化点のフマル酸変性重合ロジンエステルよりなる粘着付与剤樹脂エマルションである。
【0022】
上記重合ロジンは、原料ロジン類に二量化反応を施して得られる生成物であり、一般には、二量化ロジンであるダイマー酸の外に、単量体ロジンであるモノマー酸が混在している。市販の重合ロジンには、ダイマー酸を低率で含有するものもあるが、60重量%以上含有するものが一般的である。
上記二量化反応を施す原料ロジン類としては、トールロジン、ガムロジン、ウッドロジンなどが挙げられる。
上記アクリル酸変性重合ロジンにおいて、アクリル酸で変性する対象の重合ロジンとしては、重合ロジンのみを使用しても良いし、重合ロジンと単量体ロジン類との混合物でも良く、当該単量体ロジン類としては、トールロジン、ガムロジン、ウッドロジンなど(即ち、上記原料ロジン類に相当するもの)や、不均化ロジン、水添ロジンなどが挙げられる。当該重合ロジンとしては、本発明3に示すように、ダイマー酸を30重量%以上含有したものが好ましく、より好ましくは60重量%以上のダイマー酸を含有して130℃以上の軟化点を有する重合ロジンである。市販品としては、ダイマレックス、ダイマレックスA700、ポリペール、ポリレックス(イーストマンケミカル社製品)、シルバロスPR 295、シルバロスPR R−85(アリゾナケミカル社製品)などが好ましい。
また、重合ロジンと単量体ロジン類の混合物をアクリル酸変性する場合、その混合比率は、アクリル酸変性重量ロジンエステルに適正な軟化点を付与する見地から、重合ロジン/単量体ロジン類(重量比)=50/50〜100/0程度が好ましく、より好ましくは70/30〜100/0程度である。
【0023】
上記アクリル酸変性重合ロジンエステルの製造方法を述べると、重合ロジンをアクリル酸で変性する工程と、多価アルコールでエステル化する工程を基本原理とし、例えば、下記の手順によって製造できるが、特に制約はなくこの他の任意の方法で製造しても良い。
即ち、先ず、適正なダイマー酸を含有する市販の重合ロジン、或は、市販の重合ロジンに単量体ロジン類を混合して含有率を調整したものを、不活性ガス雰囲気下で加熱溶解した後、攪拌しながら180〜200℃でアクリル酸を添加する。その後、徐々に220〜230℃まで昇温し、熟成した後、アクリル酸変性重合ロジンを得る。尚、原料ロジン類にアクリル酸を付加した後、或は、付加させながら水添又は不均化を行っても良い。
続いて、200℃程度まで冷却し、多価アルコールを添加した後、徐々に270〜280℃まで昇温し、同温度下で脱水縮合反応を行ってアクリル酸変性重合ロジンエステルを得るのである。尚、エステル化の途中、又はエステル後に、不均化、水添などの化学変性を行っても良い。
【0024】
上記アクリル酸変性に際しては、アクリル酸モノマーを加熱溶解した重合ロジンに滴下または一括添加するが、アクリル酸の添加量は全重合ロジン100重量部に対して、有効成分で1〜10重量部の添加が適量であり、好ましくは2〜5重量部である。
上記アクリル酸変性重合ロジンと多価アルコールの反応に際しては、ロジン系樹脂と多価アルコールによる公知のエステル化法を適用することができる。この場合、アクリル酸変性重合ロジンと多価アルコールの混合比率は、アクリル酸変性重合ロジンのカルボキシル基当量に対して、アルコールの水酸基当量比換算でCOOH/OH=1/(0.2〜2.0)程度が適当である。
上記多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール等の2価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の3価アルコール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の4価アルコール、ジペンタエリスリトール等の6価アルコール、或いはトリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−イソブチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン等のアミノアルコールなどが挙げられる。
【0025】
得られたアクリル酸変性重合ロジンエステルは、アクリル酸変性とエステル化によって、高軟化点であるにも拘わらず、ベースポリマーとの相溶性も比較的良好である。この場合、アクリル酸変性重合ロジンエステルの軟化点は140〜180℃であり、好ましくは145〜180℃である。軟化点が140℃より低くなると、保持力が低下する恐れがあり、逆に、分子量の増大に伴って軟化点が過剰に高くなるとベースポリマーとの相溶性が損なわれてタックや粘着力が低下する恐れがある。従って、タック、粘着力、保持力の粘着物性バランスを確保する見地から、アクリル酸変性重合ロジンエステルは140〜180℃の軟化点を有することが重要である。
【0026】
上記アクリル酸変性重合ロジンエステルよりなる粘着付与剤樹脂は、乳化剤を用いて水中に分散させてエマルションと成し、アクリルエマルション、天然ゴムラテックス、合成ゴムラテックスなどの各種高分子エマルションに混合して水系粘着剤として使用される。
上記粘着付与剤樹脂を乳化させる際の乳化剤は特に限定されることなく、アニオン系、ノニオン系、カチオン系の各種の乳化剤が使用できるが、アニオン系乳化剤及びノニオン系乳化剤などを単用または併用することが好ましい。また、その使用量は固形の粘着付与剤樹脂100重量部に対して1〜10重量部、好ましくは1〜5重量部とするのが適当である。
【0027】
上記アニオン系乳化剤には、有機スルホン酸、硫酸エステルのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられ、具体的には下記の(1)〜(6)などである。
(1)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩類。
(2)ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウムなどのアルキル(又はアルケニル)硫酸エステル塩類
(3)ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキル(又はアルケニル)エーテル硫酸エステル塩類。
(4)ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類。
(5)モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸2ナトリウムなどのアルキルスルホコハク酸エステル塩並びにその誘導体類。
(6)アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムなどのアルキルジアリールエーテルジスルホン酸塩並びにその誘導体類。
【0028】
また、上記ノニオン系乳化剤としては下記の(1)〜(7)などが挙げられる。
(1)ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキル(又はアルケニル)エーテル類。
(2)ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類。
(3)ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレエートなどのソルビタン高級脂肪酸エステル類。
(4)ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどのポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類。
(5)ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノオレエートなどのポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類。
(6)オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステル類。
(7)ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー。
【0029】
粘着付与剤樹脂の水性エマルションを製造する際の乳化剤としては、その他、必要に応じて合成高分子系の乳化剤を使用することもできる。
合成高分子系乳化剤とは、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、(メタ)アクリル酸エステル類、アクリルアマイド、酢酸ビニル、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などの重合性モノマーを2種以上重合させて得られる重合体を水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどのアルカリ類で塩形成させて水に分散又は可溶化させた水分散性重合体である。また、上記モノマーの他にも、重合可能なモノマー類を限定されることなく使用でき、重合方法も特に制約されることはない。
【0030】
本発明の粘着付与剤樹脂エマルションは、溶剤型乳化法、無溶剤型乳化法、転相乳化法、或はその他の公知の乳化法により製造できる。
上記溶剤型乳化法は、粘着付与剤樹脂をメチレンクロライド等の塩素系炭化水素溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、メチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、或は溶解可能な溶剤類などの有機溶剤に溶解させ、乳化剤と水を混合溶解した乳化水を予備混合して、粗粒子の水性エマルションを調製した後、各種ミキサー、コロイドミル、高圧乳化機、高圧吐出型乳化機、高剪断型乳化分散機などを用いて微細乳化した後、常圧或は減圧下で加熱しながら上記有機溶剤を除去する方法である。
上記無溶剤乳化法は、常圧或は加圧下で溶融した粘着付与剤樹脂と乳化水を予備混合し、粗粒子の水性エマルションを調製した後、各種乳化分散機を用いて同様に微細乳化させる方法である。
また、上記転相乳化法は、常圧或は加圧下で粘着付与剤樹脂を加熱溶融した後、攪拌しながら乳化水を徐々に加えて先ず油中水型エマルションを形成させ、次いで水中油型エマルションに相反転させる方法であり、溶剤法或は無溶剤法いずれの方法でも可能である。
【0031】
アクリルエマルション、SBRラテックス、CRラテックスなどの水系高分子エマルションの固形100重量部に対して、本発明の粘着付与剤樹脂エマルションを固形分で1〜50重量部配合することにより、水系粘着剤組成物が製造できる。
更に詳細には、本発明の粘着付与剤樹脂エマルションは、アクリルエマルションに対しては、固形分100重量部に5〜30重量部、SBRラテックス及びCRラテックスでは、同じく10〜50重量部添加することが好ましい。
上記アクリルエマルションは、(メタ)アクリル酸とC1〜C18のアルキルアルコールとのエステル単量体を反応させて得られる(メタ)アクリル酸エステル系重合体を主成分とする水分散物である。
上記エステル単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリルなどが挙げられるが、主成分としては、アクリル酸n−ブチル及び又はアクリル酸2−エチルヘキシルが好ましく、他の単量体を1種以上使用することもできる。
【0032】
上記(メタ)アクリル酸エステル系重合体は上記単量体の他にも、これらと共重合可能なビニル系単量体の少なくとも1種を共重合させたものであっても良い。共重合可能な単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸などのカルボキシル基含有単量体及び、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの水酸基含有単量体を使用することができ、更にアクリルアマイド、N−メチロールアクリルアマイド、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、ビニルピロリドンなどの窒素含有単量体や、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのビニル基含有単量体を使用することもできる。
前記(メタ)アクリル酸エステル系重合体100重量部中に、当該単量体の1種又は2種以上を、20重量部以下、好ましくは10重量部以下の割合で共重合させて使用することもできる。
【0033】
アクリルエマルションを製造するには、水を分散媒及び反応の場として、界面活性剤、及び重合開始剤の存在下で、単量体を共重合させる。
共重合反応を行う際の界面活性剤としては、アニオン系、ノニオン系、カチオン系乳化剤が使用できるが、アニオン系及び又はノニオン系乳化剤が好ましい。当該乳化剤の具体例としては、前記粘着付与剤樹脂エマルションの製造に際して記載した各種乳化剤を単用又は併用できる。
【0034】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、などの過硫酸塩の他に、過酸化水素、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどの過酸化物及びアゾビスイソブチロニトリルなども使用できる。また、比較的低温で重合を行う場合には、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムなどの還元剤を併用してレドックス重合させることもできる。
【0035】
更に、エマルション粒子の安定化のために、保護コロイドとしてポリビニルアルコール及びその誘導体や、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体などの水溶性高分子を添加することもできる。
【0036】
また、生成する重合体の重合速度の制御を目的として、各種塩類も添加でき、重合体の分子量を制御するためにドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタンなどの連鎖移動剤、及びα−メチルスチレンダイマーなどの分子量調整剤を使用することもできる。
更に、粘着剤を塗工乾燥する工程で造膜速度を改善するために、各種高沸点溶剤類などの造膜助剤を少量添加することもできる。
【0037】
【作用】
本発明では、重合ロジンの所定割合でのアクリル酸変性、並びにこれに続くエステル化反応を行って製造した特定範囲の軟化点を有するアクリル酸変性重合ロジンのエステル化物を粘着付与剤樹脂とする。
この場合、出発原料として、重合ロジンと単量体ロジン類の混合物を使用した場合に限らず、重合ロジンを単独で使用した場合にも、重合ロジン中にはダイマー酸の外にモノマー酸が混在することから、モノマー酸のアクリル酸変性物、ダイマー酸のアクリル酸変性物、或はアクリル酸の付加していないダイマー酸と、多価アルコールとがランダムに脱水縮合した複合エステル化物が生成物として得られる。このため、本発明のアクリル酸変性重合ロジンエステルは、例えば、アクリル酸変性ロジンエステル、冒述の特許文献1の重合ロジンエステル、或はこれらの混合物とは異なり、エステル化密度、分子量及び軟化点の適正な向上が期待できることから、本発明の粘着付与剤樹脂エマルションを配合した水系粘着剤組成物では、粘着物性バランスに優れ、特に、高温保持力が改善されるものと推察される。
また、一方、例えば、冒述の特許文献3に示すように、二塩基酸であるマレイン酸を重合ロジンに付加させると、主成分として三官能のカルボキシル基を有するロジン類が生成するため、多価アルコールでエステル反応させた場合、エステル化密度が高くなり、分子量が大きくなり過ぎるので、アクリル系高分子などに配合した場合、ベースポリマーとの相溶性が低下し、粘着物性を損なう問題がある。さらに、後述の製造例にも示すように、マレイン酸変性重合ロジンは、多価アルコールでエステル化する場合に反応性が悪いために、粘着付与剤樹脂としての機能も劣る。
これに対して、本発明の粘着付与剤樹脂はアクリル酸で変性した重合ロジンのエステル化物であるため、特定範囲の高軟化点を有するにも拘わらず、上記マレイン酸で変性したエステルと比べて、エステル化密度及び分子量ともに若干小さいために、ベースポリマーとの相溶性も比較的良好で、粘着物性も良好である。
また、フマル酸で変性した重合ロジンのエステル化物を粘着付与剤樹脂とする場合には、幾何異性体であるマレイン酸の場合と違って、重合ロジンとの反応及びその後のエステル化反応も何ら問題なく、アクリル酸で変性した場合と同じく良好な粘着物性バランスを示す。
【0038】
【発明の効果】
本発明では、140〜180℃の軟化点を有するアクリル酸変性重合ロジンエステルを粘着付与剤樹脂とするため、高軟化点であるにも拘わらず、アクリル系ポリマーなどのベースポリマーとの相溶性を比較的良好に確保できるため、タック、粘着力、保持力の粘着物性バランスに優れるうえ、特に、従来のロジン系粘着付与剤樹脂エマルションでは、満足なレベルにはなかった高温粘着特性を特段に改善できる。
また、フマル酸変性重合ロジンのエステル化物は、アクリル酸変性重合ロジンエステルに遜色のない粘着物性を示し、高温粘着特性も良好である。
【0039】
【実施例】
以下、本発明の粘着付与剤樹脂の製造例、当該粘着付与剤樹脂の水性エマルションの製造実施例、当該粘着付与剤樹脂エマルションを使用した水系粘着剤組成物の製造例、並びに当該水系粘着剤組成物の接着性能評価試験例を順次説明する。また、実施例、製造例、試験例中の「部」、「%」は特に指定しない限り、重量基準である。
尚、本発明は下記の実施例、試験例などに拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0040】
《ロジン系粘着付与剤樹脂の製造例》
下記の製造例1〜9において、製造例1〜2、4、6〜7、9はアクリル酸変性重合ロジンエステルの例、製造例3、5、8はフマル酸変性重合ロジンエステルの例である。また、製造例1〜3は出発原料として重合ロジンを単用した例、製造例4〜9は重合ロジンと単量体ロジン類を併用した例である。
一方、下記の比較製造例1〜7において、比較製造例1は冒述の特許文献1に準拠した重合ロジンエステルの例、比較製造例2はフマル酸変性ロジンエステルの例、比較製造例3はアクリル酸変性ロジンエステルの例、比較製造例4はメタクリル酸変性ロジンエステルの例、比較製造例5は冒述の特許文献3に準拠したマレイン酸変性重合ロジンエステルの例、比較製造例6は冒述の特許文献7に準拠したアクリル酸変性不均化ロジンエステルの例、比較製造例7は軟化点が140℃より低いアクリル酸変性重合ロジンエステルの例である。
【0041】
(1)製造例1
撹拌装置、冷却器、温度計及び窒素導入管を備えた反応容器に、重合ロジン(重合部66.0%、酸価150.1、軟化点133℃)100部を仕込んだ後、窒素ガスを吹き込みながら加熱溶融させた。その後、攪拌を開始して190℃に温度を維持した。98%アクリル酸5.1部を滴下漏斗に秤量し、滴下しながら加え、220℃まで昇温して3時間反応させてアクリル酸変性重合ロジンを得た。得られた樹脂の性状は、酸価172.4、軟化点144℃であった。
次いで、内温を190℃まで冷却し、当該アクリル酸変性重合ロジン100部に対してペンタエリスリトール13.1部を添加した。その後徐々に280℃まで昇温して8時間脱水縮合反応させた。得られたアクリル酸変性重合ロジンエステルの軟化点は177℃、酸価は14.4であった。
【0042】
(2)製造例2
上記製造例1を基本として、重合ロジン100部を仕込み加熱溶融させた後、98%アクリル酸2.6部を加え、反応させてアクリル酸変性重合ロジンを得た。得られた樹脂の性状は、酸価160.9、軟化点143℃であった。
次いで、当該アクリル酸変性重合ロジン100部に対してペンタエリスリトール12.2部を添加して脱水縮合反応させた。得られたアクリル酸変性重合ロジンエステルの軟化点は166℃、酸価は15.6であった。
【0043】
(3)製造例3
上記製造例1を基本として、重合ロジン100部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら加熱溶融させた。その後、攪拌を開始して内温を190℃に維持した。続いてフマル酸2.0部を加えた後、210℃で2時間反応させてフマル酸変性重合ロジンを得た。得られた樹脂の性状は、酸価156.2、軟化点138℃であった。
次いで、内温を190℃に維持して、当該フマル酸変性重合ロジン100部に対してペンタエリスリトール11.8部を添加した。その後徐々に280℃まで昇温して8時間脱水縮合反応させた。得られたフマル酸変性重合ロジンエステルの軟化点は166℃、酸価は18.3であった。
【0044】
(4)製造例4
上記製造例1を基本として、重合ロジン88部と中国産ガムロジン(酸価169、軟化点80℃)12部を仕込み加熱溶融させた後、98%アクリル酸2.6部を加え、反応させてアクリル酸変性重合ロジンを得た。得られた樹脂の性状は、酸価165.1、軟化点132℃であった。
次いで、当該アクリル酸変性重合ロジン100部に対してペンタエリスリトール12.5部を添加して脱水縮合反応させた。得られたアクリル酸変性重合ロジンエステルの軟化点は160℃、酸価は14.7であった。
【0045】
(5)製造例5
上記製造例3を基本として、重合ロジン88部とガムロジン12部を仕込み加熱溶融させた後、フマル酸2.5部を加え、反応させてフマル酸変性重合ロジンを得た。得られた樹脂の性状は、酸価163.9、軟化点135℃であった。
次いで、当該フマル酸変性重合ロジン100部に対してペンタエリスリトール12.4部を添加して脱水縮合反応させた。得られたフマル酸変性重合ロジンエステルの軟化点は160℃、酸価は16.8であった。
【0046】
(6)製造例6
上記製造例1を基本として、重合ロジン88部と不均斉化ロジン(酸価154、軟化点80℃)12部を仕込み加熱溶融させた後、98%アクリル酸2.2部を加え、反応させてアクリル酸変性重合ロジンを得た。得られた樹脂の性状は、酸価159.7、軟化点130℃であった。次いで、当該アクリル酸変性重合ロジン100部に対してペンタエリスリトール12.1部を添加して脱水縮合反応させた。得られたアクリル酸変性重合ロジンエステルの軟化点は156℃、酸価は16.6であった。
【0047】
(7)製造例7
上記製造例1を基本として、重合ロジン70部とガムロジン30部を仕込み加熱溶融させた後、98%アクリル酸3.1部を加え、反応させてアクリル酸変性重合ロジンを得た。得られた樹脂の性状は、酸価171.7、軟化点126℃であった。
次いで、当該アクリル酸変性重合ロジン100部に対してペンタエリスリトール13.0部を添加して脱水縮合反応させた。得られたアクリル酸変性重合ロジンエステルの軟化点は146℃、酸価は15.7であった。
【0048】
(8)製造例8
上記製造例3を基本として、重合ロジン70部とガムロジン30部を仕込み加熱溶融させた後、フマル酸3部を加えて、反応させてフマル酸変性重合ロジンを得た。得られた樹脂の性状は、酸価167.7、軟化点123℃であった。
次いで、当該フマル酸変性重合ロジン100部に対してペンタエリスリトール12.7部を添加して脱水縮合反応させた。得られたフマル酸変性重合ロジンエステルの軟化点は147℃、酸価は17.3であった。
【0049】
(9)製造例9
上記製造例1を基本として、重合ロジン50部とガムロジン50部を仕込み加熱溶融させた後、98%アクリル酸5.1部を加え、反応させてアクリル酸変性重合ロジンを得た。得られた樹脂の性状は、酸価186.0、軟化点122℃であった。
次いで、当該アクリル酸変性重合ロジン100部に対してペンタエリスリトール14.1部を添加して脱水縮合反応させた。得られたアクリル酸変性重合ロジンエステルの軟化点は145℃、酸価は15.8であった。
【0050】
(10)比較製造例1
上記製造例1を基本として、重合ロジン100部を仕込み加熱溶融させた。その後、190℃でペンタエリスリトール11.4部を添加した後、徐々に280℃まで昇温し、同温度下で8時間脱水縮合反応させた。得られた重合ロジンエステルの軟化点は156℃、酸価は15.2であった。
【0051】
(11)比較製造例2
上記製造例3を基本として、ガムロジン100部を仕込み、加熱溶融させた。その後、フマル酸3部を加え、反応させてフマル酸変性ロジンを得た。得られた樹脂の性状は酸価186.9、軟化点93℃であった。
次いで、当該フマル酸変性ロジン100部に対してペンタエリスリトール14.2部を加えて脱水縮合反応させた。得られたフマル酸変性ロジンエステルの軟化点は110℃、酸価は17.0であった。
【0052】
(12)比較製造例3
上記製造例1を基本としながら、ガムロジン100部を仕込み、加熱溶融させた。その後、98%アクリル酸4部を滴下しながら加え、反応させてアクリル酸変性ロジンを得た。得られた樹脂の性状は、酸価188.3、軟化点96℃であった。
次いで、当該アクリル酸変性ロジン100部に対してペンタエリスリトール14.3部を加えて脱水縮合反応させた。得られたアクリル酸変性ロジンエステルの軟化点は115℃、酸価は16.0であった。
【0053】
(13)比較製造例4
上記製造例1を基本として、ガムロジン100部を仕込み、加熱溶融させた後、160℃でメタクリル酸4部を滴下しながら加えた。添加後昇温したが約180℃でメタクリル酸が還流したため温度が上がらず、3時間反応させても同様の状態であった。その後、減圧下で未反応物を除去してメタクリル酸変性ロジンを得た。得られた樹脂の性状は酸価176.0、軟化点88℃であった。
次いで、当該メタクリル酸変性ロジン100部に対してペンタエリスリトール13.3部を加えて脱水縮合反応させた。得られたメタクリル酸変性ロジンエステルの軟化点は94℃、酸価は17.3であった。
尚、上述のように、原料ガムロジンへのメタクリル酸の付加反応性は劣ることから、確認のために重合ロジンへのメタクリル酸の付加反応を試みたが、ほとんど付加しなかった。
【0054】
(14)比較製造例5
上記製造例3を基本として、重合ロジン100部を仕込み、加熱溶融させた後、フマル酸に替えて無水マレイン酸3.5部を加えた以外は、製造例3と同様の条件で反応し、マレイン酸変性重合ロジンを得た。得られた樹脂の性状は酸価160.0、軟化点140℃であった。
次いで、当該マレイン酸変性重合ロジン100部に対してペンタエリスリトール12.1部を加えて脱水縮合反応させた。しかし、他の製造例と異なり、反応中に多量の白色粘稠物の留出が観察された(即ち、反応中に分解物が多く発生した)。得られたマレイン酸変性重合ロジンエステルの軟化点は176℃、酸価は21.4であった。
【0055】
(15)比較製造例6
上記製造例1を基本として、ガムロジン100部を仕込み、加熱溶融させた後、160℃で98%アクリル酸4.6部を滴下しながら加えた。添加後190℃まで昇温して2時間反応させた。
次いで、5%パラジウムカーボン0.07部を添加し、260℃まで昇温して不均斉化反応を行った。反応終了後、触媒を濾過して容器より排出し、アクリル酸変性不均斉均化ロジンを得た。得られた樹脂の性状は、酸価183.0、軟化点95℃であった。続いて、当該アクリル酸変性不均斉化ロジン100部を再度反応容器に仕込み、上記手順で溶融した後、190℃まで昇温してペンタエリスリトール13.9部を加えた。次いで280℃まで徐々に昇温して同温度下で8時間脱水縮合反応させた。得られたアクリル酸変性不均斉化ロジンエステルの軟化点は117℃、酸価は15.5であった。
【0056】
(16)比較製造例7
上記製造例1を基本として、重合ロジン50部とガムロジン50部を仕込み、加熱溶融させた後、98%アクリル酸0.6部を加えた以外は、製造例1と同様の条件で反応し、アクリル酸変性重合ロジンを得た。得られた樹脂の性状は酸価160.4、軟化点108℃であった。
次いで、当該アクリル酸変性重合ロジン100部に対してペンタエリスリトール12.2部を加えて脱水縮合反応させた。得られたアクリル酸変性重合ロジンエステルの軟化点は132℃、酸価は16.5であった。
【0057】
そこで、上記製造例1〜9及び比較製造例1〜7で得られた各ロジン系粘着付与剤樹脂を使用して、これを乳化剤により水中に分散して粘着付与剤樹脂エマルションを製造した。
《粘着付与剤樹脂エマルションの製造実施例》
(1)実施例1
前記製造例1に記載のアクリル酸変性重合ロジンエステル(軟化点177℃)100部をトルエン100部に溶解させてトルエン溶液を得た。
次いで、乳化剤としてソフタノールMES−9(日本触媒社製品:有効成分24%)12.5部を水116部に希釈溶解して乳化水溶液を調製し、この乳化水溶液を上記トルエン溶液に添加した後、攪拌混合して予備乳化を行った。
得られた予備乳化物をマントンガウリン社製高圧乳化機によって300kg/cm2の圧力で乳化して乳化物を得た。
この乳化物を110mmHgの条件下で加熱減圧蒸留してトルエンを除去した後、固形分を調整して固形分50.3%、pH6.7、粒子径0.26μmの粘着付与剤樹脂エマルションを得た。尚、上記pH値は25℃での測定値であり、下記の実施例及び比較例においても同様である。
【0058】
(2)実施例2
上記実施例1を基本として、前記製造例2に記載のアクリル酸変性重合ロジンエステル(軟化点166℃)を使用した以外は実施例1と同様の条件で乳化物を製造し、固形分50.1%、pH6.8、粒子径0.20μmの粘着付与剤樹脂エマルションを得た。
【0059】
(3)実施例3
上記実施例1を基本として、前記製造例3に記載のフマル酸変性重合ロジンエステル(軟化点166℃)に代替し、トルエン100部に替えて90部とした以外は実施例1と同様の条件で乳化物を製造し、固形分50.2%、pH6.4、粒子径0.22μmの粘着付与剤樹脂エマルションを得た。
【0060】
(4)実施例4
上記実施例1を基本として、前記製造例4に記載のアクリル酸変性重合ロジンエステル(軟化点160℃)に代替し、トルエン100部に替えて90部とした以外は実施例1と同様の条件で乳化物を製造し、固形分50.4%、pH6.5、粒子径0.22μmの粘着付与剤樹脂エマルションを得た。
【0061】
(5)実施例5
上記実施例1を基本として、前記製造例5に記載のフマル酸変性重合ロジンエステル(軟化点160℃)に代替し、トルエン100部に替えて90部とした以外は実施例1と同様の条件で乳化物を製造し、固形分50.3%、pH6.2、粒子径0.21μmの粘着付与剤樹脂エマルションを得た。
【0062】
(6)実施例6
上記実施例1を基本として、前記製造例6に記載のアクリル酸変性重合ロジンエステル(軟化点156℃)に代替し、トルエン100部に替えて90部とした以外は実施例1と同様の条件で乳化物を製造し、固形分50.5%、pH6.5、粒子径0.21μmの粘着付与剤樹脂エマルションを得た。
【0063】
(7)実施例7
上記実施例1を基本として、前記製造例7に記載のアクリル酸変性重合ロジンエステル(軟化点146℃)に代替し、トルエン100部に替えて82部とした以外は実施例1と同様の条件で乳化物を製造し、固形分49.8%、pH6.6、粒子径0.28μmの粘着付与剤樹脂エマルションを得た。
【0064】
(8)実施例8
上記実施例1を基本として、前記製造例8に記載のフマル酸変性重合ロジンエステル(軟化点147℃)に代替し、トルエン100部に替えて82部とした以外は実施例1と同様の条件で乳化物を製造し、固形分50.5%、pH6.3、粒子径0.24μmの粘着付与剤樹脂エマルションを得た。
【0065】
(9)実施例9
上記実施例1を基本として、前記製造例9に記載のアクリル酸変性重合ロジンエステル(軟化点143℃)に代替し、トルエン100部に替えて82部とした以外は実施例1と同様の条件で乳化物を製造し、固形分50.5%、pH6.3、粒子径0.29μmの粘着付与剤樹脂エマルションを得た。
【0066】
(10)比較例1
上記実施例1を基本として、前記比較製造例1に記載の重合ロジンエステル(軟化点156℃)に代替し、トルエン100部に替えて90部とした以外は実施例1と同様の条件で乳化物を製造し、固形分50.2%、pH6.8、粒子径0.20μmの粘着付与剤樹脂エマルションを得た。
【0067】
(11)比較例2
上記実施例1を基本として、前記比較製造例2に記載のフマル酸変性ロジンエステル(軟化点110℃)に代替し、トルエン100部に替えて66部とした以外は実施例1と同様の条件で乳化物を製造し、固形分50.3%、pH6.6、粒子径0.21μmの粘着付与剤樹脂エマルションを得た。
【0068】
(12)比較例3
上記実施例1を基本として、前記比較製造例3に記載のアクリル酸変性ロジンエステル(軟化点115℃)に代替し、トルエン100部に替えて66部とした以外は実施例1と同様の条件で乳化物を製造し、固形分50.2%、pH6.5、粒子径0.21μmの粘着付与剤樹脂エマルションを得た。
【0069】
(13)比較例4
上記実施例1を基本として、前記比較製造例4に記載のメタクリル酸変性ロジンエステル(軟化点94℃)に代替し、トルエン100部に替えて66部とした以外は実施例1と同様の条件で乳化物を製造し、固形分49.7%、pH6.4、粒子径0.18μmの粘着付与剤樹脂エマルションを得た。
【0070】
(14)比較例5
上記実施例1を基本として、前記比較製造例5に記載のマレイン酸変性重合ロジンエステル(軟化点176℃)に代替した以外は実施例1と同様の条件で乳化物を製造し、固形分50.0%、pH6.2、粒子径0.22μmの粘着付与剤樹脂エマルションを得た。
【0071】
(15)比較例6
上記実施例1を基本として、前記比較製造例6に記載のアクリル酸変性不均化ロジンエステル(軟化点117℃)に代替し、トルエン100部に替えて66部とした以外は実施例1と同様の条件で乳化物を製造し、固形分50.2%、pH6.5、粒子径0.23μmの粘着付与剤樹脂エマルションを得た。
【0072】
(16)比較例7
上記実施例1を基本として、前記比較製造例7に記載のアクリル酸変性重合ロジンエステル(軟化点132℃)に代替し、トルエン100部に替えて66部とした以外は実施例1と同様の条件で乳化物を製造し、固形分50.3%、pH6.6、粒子径0.28μmの粘着付与剤樹脂エマルションを得た。
【0073】
上記実施例1〜9及び比較例1〜7で得られた各粘着付与剤樹脂エマルションにおいて、既述した各粒子径(μm)は下記の要領で測定した平均粒子径である。即ち、測定装置(LA−920;(株)堀場製作所社製)を用いて、タングステンランプの透過率(即ち、測定装置における透過率(H))で80〜85%になるように、粘着付与剤樹脂エマルションを蒸留水で希釈し、且つ、相対屈折率を1.2とした条件で測定し、その結果をコンピュータ処理して、得られた算術平均径をエマルションの平均粒子径とした。
上記実施例1〜9の平均粒子径は、比較例1〜6と同様に、0.2μm台を保持しており、実施例1〜9の粘着付与剤樹脂エマルションは実用レベルの微粒子性を具備していることが確認できた。
尚、図1は、前記製造例1〜9及び比較製造例1〜7の各粘着付与剤樹脂を製造する際の重合ロジンのダイマー酸含有率、重合ロジンと単量体ロジン類の混合割合、アクリル酸(又はフマル酸)の変性率、アクリル酸(又はフマル酸)変性重合ロジン(即ち、ベース樹脂)及びそのエステル化物の酸価、軟化点、並びに上記実施例1〜9及び比較例1〜7の各粘着付与剤樹脂エマルションの性状などをまとめたものである。
【0074】
《水性エマルション型アクリル系粘着剤の製造例》
上記実施例1〜9及び比較例1〜7の各粘着付与剤樹脂エマルションを、ベースポリマーとしてのアクリル系重合体エマルションに添加して水性エマルション粘着剤を調製し、この水性エマルション粘着剤の粘着性能評価試験を行った。
先ず、上記アクリル系重合体の製造方法は次の通りである。
【0075】
即ち、攪拌装置、冷却器、温度計及び窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガス気流下で、イオン交換水47.7部および還元剤(重亜硫酸ナトリウム)0.1部を溶解し、水溶液(A)とした。
また、イオン交換水34.5部にポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル1.5部とポリエチレングリコールオレイルエーテルスルホン酸アンモニウム1.5部を溶解させ、そこへアクリル酸2−エチルヘキシル97.0部とメタクリル酸3.0部と触媒(過硫酸アンモニウム)0.5部を加えてホモミキサーで予備乳化し、分散液(B)とした。
上記水溶液(A)を82℃に保ち、そこへ上記分散液(B)を4時間かけて滴下重合を行った。分散液(B)の全量を滴下し終わった後、82℃で1時間反応を行い、イオン交換水1.5部に還元剤(重亜硫酸ナトリウム)0.1部と触媒(過硫酸アンモニウム)0.1部を溶解したものを加えた。
さらに1時間完結反応を行い、冷却した後150メッシュの金網でろ過を行って、固形分54.8%のアクリル系重合体エマルションを得た。
次いで、上記アクリル系重合体エマルション100部(固形分換算)に対して、実施例1〜9及び比較例1〜7の各粘着付与剤樹脂エマルジョンを10部(固形分換算)と、粘度調整剤としてプライマルASE−60(日本アクリル化学社製)とアンモニア水を微量添加した。その後、調整水を加えて固形分を調整し、水性エマルション型アクリル系粘着剤を製造した。
【0076】
《水性エマルション粘着剤の粘着性能評価試験例》
上記実施例1〜9及び比較例1〜7の各粘着付与剤樹脂エマルションを用いた水性粘着剤を、乾燥後の塗膜厚が30μmとなるように、厚さ25μmのPETフィルム上に塗工し、120℃にて5分間乾燥させて粘着シートを作成し、下記の各種性能評価試験に供した。
【0077】
(1)タック
JIS−Z0237に記載されたJ.Dow法に準じて、23℃雰囲気下で、傾斜角30度の平滑斜面上に貼りつけた上記粘着シート上に1/32(鋼球No.1)〜32/32(鋼球No.32)インチの鋼球を転がし、シート上で停止する最大鋼球の番号を測定した。従って、当該試験では、鋼球番号が大きいほどタック性能がよいと判断する。
【0078】
(2)保持力
JIS−Z0237に基づいて、被着体としてステンレス板(SUS304を280版研磨紙で研磨して表面加工したもの)を用いて、これに25×25mmの上記粘着シートを貼り付けた。その後、60℃及び80℃雰囲気下で、重力方向に1kgの荷重をかけて、1時間荷重をかけた後のずれ幅(mm)、或は錘の落下時間(分)を測定した。
【0079】
(3)粘着力
JIS−Z0237に基づき、被着体としてポリエチレン板を用いて、これに25mm幅の上記粘着シートを貼り付け、20分後に180度方向へ300mm/分の速度にて引き剥がしたときの剥離強度を測定した。
【0080】
図2はその試験結果を示す。
冒述したように、タックは軟化点の影響を受け易いため、軟化点の高い実施例1〜9は軟化点の低い比較例2〜4及び比較例6に比べるとタック値は若干小さいが、軟化点の高い比較例1及び5とは同様のレベルであり、実施例のタック値自体のレベルは実用に供する際に問題のない水準であった。
粘着力については、実施例1〜9は比較例2〜6より優れており、実施例と同様のレベルを有するのは比較例1だけであった。
60℃での耐熱保持力については、実施例1〜9は錐の落下はなく、きわめて優れた評価であるのに対して、比較例5を除く他の比較例はすべて錐が8〜45分の範囲内で落下した。また、80℃での耐熱保持力については、実施例1では錐の落下がなかったのを初め、他の実施例2〜9でも比較例に比べて優れた保持力が確認された。
特に、粘着付与剤樹脂がアクリル酸変性重合ロジンエステルで共通する実施例1〜9と比較例7を対比すると、実施例1〜9は、軟化点が本発明の特定範囲より低い比較例7に比べて、タック、粘着力、耐熱保持力ともに勝り、軟化点を140〜180℃に特定化することの重要性が明らかになった。
以上の点を総合評価すると、比較例1〜7の各粘着付与剤樹脂エマルションを使用した粘着剤は、タック、粘着力、保持力のうちの概ね2物性、或はそれ以上で劣り、粘着物性バランスが悪いのに対して、実施例1〜9を使用した粘着剤は、タック、粘着力、保持力の粘着物性バランスに優れ、特に、比較例では課題の大きい高温保持力に優れることが明らかになった。
従って、ロジン系の粘着付与剤樹脂に、優れた粘着物性バランスを付与するためには、(a)重合ロジンエステルではなく、アクリル酸で変性した重合ロジンをエステル化する必要があること(比較例1との対比)、(b)アクリル酸で変性する対象は単量体ロジン類、或は不均化ロジンではなく、重合ロジンを選択する必要があること(比較例3、比較例6との対比)、(c)また、重合ロジンの変性にはマレイン酸やメタクリル酸ではなく、アクリル酸を選択する必要があること(比較例4〜5との対比)、(d)アクリル酸変性重合ロジンエステルの軟化点は140℃以上であること(比較例7との対比)の夫々の要素の重要性が明確になった。
このことは、フマル酸変性重合ロジンエステルについても同様である。
【図面の簡単な説明】
【図1】製造例1〜9及び比較製造例1〜7の各粘着付与剤樹脂を製造する際の重合ロジンのダイマー酸含有率、重合ロジンと単量体ロジン類の混合割合、アクリル酸(又はフマル酸)の変性率、アクリル酸(又はフマル酸)変性重合ロジン(即ち、ベース樹脂)及びそのエステル化物の酸価、軟化点、並びに実施例1〜9及び比較例1〜7の各粘着付与剤樹脂エマルションの性状などを示す図表である。
【図2】実施例1〜9及び比較例1〜7の各粘着付与剤樹脂エマルションを用いて製造した水性粘着剤の粘着物性評価試験の結果を示す図表である。
Claims (3)
- 重合ロジンをアクリル酸で変性し、その変性率が1〜10重量%であるアクリル酸変性重合ロジンを多価アルコールでエステル化し、軟化点140〜180℃としたアクリル酸変性重合ロジンエステルを水中に分散したことを特徴とする粘着付与剤樹脂エマルション。
- ダイマー酸を30重量%以上含有する重合ロジンをアクリル酸で変性することを特徴とする請求項1に記載の粘着付与剤樹脂エマルション。
- アクリル酸に代えて、フマル酸で重合ロジンを変性し、当該フマル酸変性重合ロジンを多価アルコールでエステル化することを特徴とする請求項1又は2に記載の粘着付与剤樹脂エマルション。
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