JP4190322B2 - インクジェット記録ヘッド及びプリンタ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数のノズルからインク滴を吐出することによって、被記録媒体に画像情報を記録するインクジェット記録ヘッド、及びそのインクジェット記録ヘッドを搭載したプリンタに関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録ヘッドの画像品質の向上を目的として、圧力吸収体を設置することにより、特に共通液室内の圧力を低減する技術として、以下のようなものが開示されている。
例えば、特許文献1には、個別液室内の圧力発生源(ヒーター)と、共通液室の間の領域に、圧力ダンパーを設けたインクジェット記録ヘッドが開示されている。
また、特許文献2には、共通液室に圧力変動吸収用の複数のダンパを設け、特に、インク透過性フィルタを用いてダンパ室が2分割されているインクジェット記録ヘッドが開示されている。
【0003】
【特許文献1】
特開平6−191030号公報
【特許文献2】
特開2000−158668号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
オンデマンド型のインクジェット(IJ)記録技術には、インクを充填した個別液室の壁の一部に振動板を設け、圧電アクチュエータ等の圧力変換手段により振動板を変位させ、液室内の体積を変化させて圧力を高めてインクを吐出する方式や、液室内に通電によって発熱する発熱体を設けて、発熱体の発熱により生じる気泡によって液室内の圧力を高め、インクを吐出する方式が広く知られている。近年ではインクジェットプリンタの低価格化、高画質化、及び一般家庭へのパソコンの普及などによりインクジェットプリンタが様々な用途で数多く使用されている。
【0005】
上記のように、インクジェット型記録ヘッドにてインク滴を飛ばす場合には、個別液室の圧力を上昇させる必要がある。ここで発生する圧力は、インク滴を飛ばすと同時に、共通液室へと伝播する。この圧力が再び加圧液室側へ伝わると、加圧液室の圧力を予期しない値に変動させる要因となり、インク滴を所望の質量及び速度で飛ばすことができなくなり、噴射不良を引き起こす。特に、同時に複数の加圧液室を作用させてインクを吐出させる場合、個別の加圧液室から共通液室に伝えられる圧力は非常に大きなものとなり、特に噴射不良が発生しやすく、即ち、相互干渉が発生するようになる。
【0006】
上記のような問題の発生を防ぐためには、共通液室における圧力減衰効率を高める必要がある。その手段としては、一般に共通液室の体積を大きく取る、あるいは共通液室の壁面に振動板のような圧力吸収体を設ける、といった手法がとられる。特に、圧力吸収体を用いる手法は、共通液室寸法を大きくすることなく圧力を吸収でき、また適切な吸収体を用いれば、圧力減衰効果が非常に高いため、特に広く用いられている。圧力吸収体は、共通液室の壁面の一部を剛性の低い部材もしくは構造とし、壁面そのものの振動によって圧力を減衰させる方式、及び共通液室壁面にゴムのように弾性の低い部材をコーティングすることによって、その部材の表面の変形によって圧力を減衰させる方式等によって実現される。これらのうち、共通液室の壁面そのものの振動によって圧力を減衰させる方式は、製造の容易さ(コスト面及び工法的難易度)と減衰効率の良さから、特に優れた方式である。
【0007】
しかし、共通液室の壁面の剛性を下げて振動が容易に生じる構成にすると、壁面そのものの共振による共通液室の圧力変動の発生が問題となってくる。図11及び図12は、共通液室の壁面の剛性を下げて圧力吸収体として作用させた場合と、剛性を下げなかった場合との、観測可能な最も低次(低周波数)の壁面の振動モードの比較を説明するための図で、共通液室の剛性を下げた場合の壁面の振動モードを図11に示し、剛性を下げていない場合の壁面の振動モードを図12に示すものである。
【0008】
上記の2つのケースは、共通の壁面の寸法(面積)は同じであるが、壁面の厚さを変えることにより互いに異なる剛性を有するようにしたものである。これら両者は同じモードの振動であるが、発生周波数が大きく異なり、剛性を下げて圧力吸収体とした場合(図11)には、共振周波数がかなり低いところに移っている。
【0009】
このため、インク滴を吐出させる周期が短くなる、即ちヘッドの駆動周波数が高くなると、上記の壁面の共振周波数と重なる場合が発生する。通常、インクジェット記録ヘッドの駆動周波数は、数k〜十数kHzの範囲で使われることが多く、壁面の共振周波数よりは低くなっているが、剛性を下げた壁面では、共振周波数が駆動周波数の範囲内まで下がる場合が生じてくる。
【0010】
上記の共通液室の壁面の共振点では、壁面の振動のため、共通液室の圧力自体も大きく変動する。図13は、共通液室壁面の剛性を下げて圧力吸収体として作用させた場合(図11に該当)の共通液室の圧力変化の周波数依存を示す図である。図13の結果から、図11に示すごとくの振動に対応する周波数で、大きく圧力変動が生じることがわかる。このため、本来共通液室の圧力を減衰させるために設けた圧力吸収体が、それ自身の存在によりかえって圧力を増大させる結果となる。これを避けるためには、この共振点を避けてヘッドを駆動させる必要が生じ、駆動条件設定に制約が生じてしまう。
【0011】
また、近年のインクジェットプリンタの高速化のため、ヘッドのノズル数は増大する傾向にある。ノズル数が増大する、即ち個別の加圧液室数が増えると、それに伴って共通液室長も長くなる。その場合、圧力吸収体も長くなり、剛性が下がることによって、更に共振点が低周波側にシフトするようになる。このため、今後ノズル数の増加に伴って、更に駆動条件の設定が厳しくなるという問題が生じる。
【0012】
以上述べたとおり、圧力吸収体を用いて共通液室の圧力を低減する手法は大きな問題を抱えているが、この点に加え、上記特許文献1においては、個別液室単位で圧力を吸収するための圧力ダンパを設けているため、ダンパの剛性を十分に下げることが難しく、効果的な圧力ダンパを設計することは困難である。また、上記特許文献2においては、ダンパ室を複数に分けているため、工法が複雑になるという問題がある。
【0013】
本発明は、以上の問題点に鑑み、圧力吸収体を用いて効率的な共通液室の圧力減衰効果を得ると同時に、圧力吸収体自身の共振による副作用を抑えることで、高品質な画像を高速で印字できるようにしたインクジェット記録ヘッド及び該インクジェット記録ヘッドを用いたプリンタを提供することを目的としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、複数のインク加圧液室が配置された加圧液室基板と、該加圧液室を形成する壁面の一部を構成し、他の壁面よりも剛性の低い振動板と、各前記加圧液室が連通部を介して接続された共通液室と、前記振動板を振動させることにより各前記インク加圧液室内部の圧力を変化させる圧力変換手段とを備え、各前記インク加圧液室にそれぞれ連通した複数のノズルからインク滴を吐出することによって、被記録媒体に画像情報を記録するインクジェット記録ヘッドにおいて、前記共通液室は、前記振動板の前記インク加圧液室形成面とは反対側の面を壁面の一部として形成され、前記共通液室に面する位置の前記振動板には、他の壁面よりも剛性が低く、振動によって圧力を吸収するダンパ面が前記加圧液室基板に対向しない領域に構成され、該ダンパ面は、前記インク加圧液室が配列された方向をX方向としたときに、前記振動板と同一の層の上に部分的に別の層が形成され、該別の層の存在によって、前記共通液室のX方向全長に渡っては形成されずに、該X方向において部分的に前記ダンパ面の存在しない領域が形成されていることを特徴としたものである。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記ダンパ面は、複数の領域に分割されずに、一続きの領域で構成されていることを特徴としたものである。
【0016】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記共通液室の前記X方向に伸びる壁面のうち、前記ダンパ面の存在しない領域は、該壁面のX方向両端部に設けられていることを特徴としたものである。
【0021】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれか1に記載のインクジェット記録ヘッドを搭載したプリンタである。
【0022】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明に関わるインクジェット記録ヘッドの液室の構成例を説明するための概略図で、インクジェット液室要部のノズル配列方向の直交方向の断面概略図を図1(A)に、ノズル配列方向の断面概略図を図1(B)に示すものである。
また図2は、図1の液室部を備えるインクジェット記録ヘッドの分解斜視図を示す図である。なお、以下に説明する図1ないし図4において、本発明の特徴である圧力吸収体の図示は省略し、本発明が適用されるインクジェット記録ヘッドの構成例を説明する。上記圧力吸収体については、図5以降を参照して後述する。
【0023】
図2に示すように、インクジェット記録ヘッドにおいては、複数の加圧液室(インク加圧液室)4を形成した加圧液室基板1と、ノズルプレート8と、振動板6とが積層され、ノズルプレート8には、加圧液室4に対応して連通したノズル3が設けられている。振動板6には、圧力変換器である圧電素子7が接合され、圧電素子7には、ドライバIC16を接合したFPCケーブル15が電気的な接続を伴って接合されている。圧電素子7は、対応する加圧液室4に対応して振動板6を変位させるように形成されており、ここでは棒状の圧電素子がダイヤモンドカッターでダイシングされ、個々の加圧液室4に対応するように分離されている。
また、図2の個々の加圧液室4は、図1(B)に示すごとく区分されている。なお、図1(B)の支持部材11は、必要に応じて設ければよい。
【0024】
上記のごとくのインクジェット記録ヘッドにおいては、図示しない画像形成信号に基づいて、駆動信号がドライバIC16からFPCケーブル15を通って圧電素子7に供給され、この駆動信号に応じて圧電素子7が伸縮し、その伸縮によって生じる変位が振動板6に伝えられ、それぞれ必要とする加圧液室4の内部圧力を適切に制御することで、ノズル3からインク滴12を吐出する。
【0025】
圧電素子7は、ベース基板2と接合されており、ベース基板2は、さらにフレーム13(図1)に接合されている。インクジェットプリンタ本体は、図示しないキャリッジにフレームを取り付けることでインクジェット記録ヘッドを搭載し、図示しない電気回路にFPCケーブル15を接続し、さらにインクカートリッジなどのインク供給源14(図1)から加圧液室4にインクを供給する。
【0026】
図3は、インクジェット記録ヘッドの加圧液室長手方向(ノズル配列方向の直交方向)の断面要部を示す図で、ノズル部分を含む断面図を示すものである。ノズル列は2列設けられており、これらは対称である。図3には、一方のノズル列を省略してヘッドの片側半分を示している。
【0027】
図3に示すように、ベース基板2と同様に、加圧液室基板1もフレーム13に接合されている。また封止剤17は、接着剤としての役割も兼ねる。なお、図3の構造は、厳密には図1や図2の構成とは異なっているが、その構成要素は図1及び図2の構成と同様であって、図3において図1及び図2と同様の機能を有する部分には同じ符号を付してある。
なお説明の都合上、上記の構成を例として説明するが、本発明はこれらに限定されるものではないことは言うまでもない。
【0028】
図1ないし図3では、インクジェット記録ヘッドのノズル3からのインクの噴射方向が上向きとなるように示されているが、画像を形成する部材、例えば紙などに向けてインクを噴射する場合は、ノズル3からのインクの噴射方向は、鉛直下向きである場合が多い。本発明の好適な実施の形態においても、画像形成時(=インク噴射時)には、水平に搬送される紙などの画像形成部材に対して鉛直方向上からインクが飛翔する。
【0029】
図4は、図3のA−A断面の概略構成図である。ただし、図3の上下を反転して、ノズル3から鉛直下向きにインク滴12が飛翔するように表現している。インクは、インク供給源14(詳細な構成は図示せず)から連結管18を通って共通液室9へと進み、連通部10を介して連接している加圧液室4を通って各ノズル3へと至る。なお、これらノズル3のうち、共通液室9の長手方向の端部のノズル、あるいは両端部のノズルに対応する加圧液室4は、画像形成には用いずに、気泡排出の吸引用として設けたダミーとしてもよい。
【0030】
図5及び図6は、本発明に関わる圧力吸収体について説明するために、図4に示すごとくのインクジェット記録ヘッドから、共通液室9と連通管18を含む要部を抜粋して示す図で、本発明に関わるインクジェット記録ヘッド要部の構成図を図5に、比較例として従来技術によるインクジェット記録ヘッドの要部の構成図を図6に示すものである。図5において、紙面左から右への方向(共通液室の長手方向かつ加圧液室の配列方向)をX方向とし、共通液室9を形成する壁面のうち、X方向に延びる壁面の少なくとも一面に、圧力吸収体20を設ける。この圧力吸収体20によって振動により圧力を吸収するダンパ面が形成される。
【0031】
このとき、図5に示すように、X方向において圧力吸収体20が設けられていない領域である、圧力吸収体の非存在領域21を形成する。なお、図5では共通液室9のX方向の両端部2箇所に上記圧力吸収体の非存在領域21が形成されているが、これら非存在領域21の配置数及び配置位置は、上記のように共通液室9の両端部2カ所に限定されることなく、他の構成としてもよい。
【0032】
上記のように、共通液室9の壁面の長手方向全域に圧力吸収体20を設けない構成とすることにより、圧力吸収体20の長手方向長は短くなり、振動板としての剛性が高くなって、共振周波数が高周波側にシフトする。これにより、より低周波側に存在する駆動周波数帯と共振周波数とを離すことができ、共振による圧力変動に起因する噴射異常を防ぐことができる。一方、図6に示すような構成では、圧力吸収体20が長くなって剛性が低下し、共振点が低周波側にシフトするという問題が生じる。
【0033】
図7は、本発明のインクジェット記録ヘッドにおける共通液室圧力変化の周波数特性を評価した結果の一例を示す図で、図5に示す共通液室9のX方向の長さのうち、その両端25%を圧力吸収体の非存在領域21としたインクジェット記録ヘッドの特性評価結果を示すものである。図7に示すように、本発明に関わるインクジェット記録ヘッドでは、図13に示した従来のインクジェット記録ヘッド(図6の構成に該当)の特性に比し、圧力共振の発生周波数を大きく引き上げられることがわかる。従って、本発明の構成を備えることによって、より高速にヘッドを駆動することができ、プリンタの印字速度を引き上げることができる。
【0034】
図5に示すように、圧力吸収体20によるダンパ面は、複数に分割されることなく一続きの領域を形成するように構成されることが望ましい。圧力吸収体20を複数領域に分割して構成した場合、個々の領域の圧力吸収体20の剛性が非常に高くなり、圧力吸収効果が低下する。これを抑えるために圧力吸収体20の厚さを薄くする等の措置を施す場合、その工法が難しくなり、歩留まりが低下する。すなわち、上記のように圧力吸収体20が一続きの領域を形成するように構成することで、最も効率よく圧力吸収を行うことができる。
【0035】
また、図5に示すように、圧力吸収体の非存在領域21は、共通液室9のX方向両端部に配されるようにすることが望ましい。X方向の両端部以外に、例えばX方向の中央部に非存在領域21を配置すると、圧力吸収体20を分割することになり、上記の例と同様に分割された個々の領域の圧力吸収体20の剛性が非常に高くなり、圧力吸収効果が低下するために望ましくない。また、圧力吸収体の非存在領域21を共通液室9のX方向の片側のみに配置すると、該非存在領域21が配置されている側の端部にて、圧力吸収効果が不十分になる場合が生じる。このため、部分的に噴射異常を引き起こす可能性がある。従って、圧力吸収体の非存在領域21は、共通液室9のX方向両端部に配置することが望ましい。
【0036】
図8は、圧力吸収体の他の構成例を説明するための要部概略図で、インクジェット記録ヘッドの加圧液室長手方向(ノズル配列方向の直交方向)の断面の要部を示す図である。図8において、圧力吸収体20は、加圧液室4に配置された振動板6と同一の層によって構成されている。すなわち、加圧液室4で振動板6として機能する層が、共通液室9では圧力吸収体20として機能するような構成となっている。
【0037】
上記のような構成であれば、振動板6と圧力吸収体20とを同時に形成することができ、製造工程を簡略化することができる。通常、振動板6の剛性は、共通液室9の圧力吸収体として使用するには剛性が低すぎ、上述したごとくの共振による問題を引き起こしやすいが、本発明を適用することにより、圧力吸収体20の共振周波数を、駆動周波数に対して十分高い周波数にシフトさせることができる。
【0038】
但し、この場合、図5に示したような、圧力吸収体の非存在領域21に圧力吸収体20の層が存在しない、という構成にすることはできない。すなわち、図8の構成では、圧力吸収体の非存在領域21に対応する個別の加圧液室4にも振動板6が形成されており、全体を一体で形成するためには、この振動板6の構成層を共通液室9にも配置する必要があるためである。
【0039】
図9は、本発明に関わるインクジェット記録ヘッド要部の他の構成例を示す図である。図8の構成において、圧力吸収体の非存在領域21を形成するためには、図9に示すように、圧力吸収体20の層を共通液室9の全体に形成し、部分的に固定部材22によって振動を抑え、圧力吸収体の非存在領域21として機能させ、非存在領域21を除く圧力吸収体20の領域をダンパ面として機能させるようにするのが良い。特に、この固定部材22を、加圧液室基板1の一部を用いて形成することにより、特に工法を追加する必要もなく圧力吸収体の非存在領域21を形成することができる。
【0040】
一方、図8に示すように圧力吸収体20と振動板6とを同一層で共通化することなく、圧力吸収体20と振動板6とを独立して個別に形成する場合、共通液室9を形成する壁面と同一素材を用いて、圧力吸収体20を形成する手段が考えられる。この場合は、圧力吸収体20として機能させる部分の厚さを薄くすることによって圧力吸収体20を形成する。しかしながら、このような構成では、十分な圧力吸収(ダンパ)機能を発揮させるためには、共通液室9を構成する素材、即ちフレーム13の構成素材の厚みを非常に薄くする必要があり、工法的に難しい。そこで、フレーム13の構成素材に比して弾性率の低い部材、例えばポリイミドのような樹脂材を用いて圧力吸収体20を形成するのが良い。これにより、効果的な圧力吸収体を、より簡単な工法で実現できるようになる。
【0041】
以上述べた構成によって、圧力吸収体20の共振周波数を高めるようにすると、逆に、圧力吸収効果自体は低下してしまう。そのため、吐出特性に問題が出るレベルまで圧力吸収効果を低下させることなく、十分に共振周波数をシフトできる最適形状を取る必要がある。この点について検討するため、圧力吸収体20及び共通液室9の構造が異なる8種類の印字ヘッドを作成し、噴射試験により、以下のような評価を行った。
【0042】
評価A:相互干渉評価・・・圧力吸収体が十分に機能しているか。
評価B:高周波駆動における噴射安定性・・・圧力吸収体の共振点を十分高周波側にシフトできているか。
評価基準は、○=全てのチャンネルが良好に噴射,△=1割以下のチャンネルが噴射異常、×=1割以上のチャンネルが噴射異常、とした。
【0043】
上記の評価に影響を及ぼすと思われる因子は、圧力吸収体20の寸法及び弾性率と、共通液室9の全長である。そこで、共通液室9の全長をLx、圧力吸収体20の長手方向長(ダンパ面のX方向長)をLdx、同短手方向長(ダンパ面のX方向の垂直方向)をLdy、同厚さ(ダンパ面を構成する部材の厚さ)をTd、同弾性率(ダンパ面を構成する部材の弾性率)をGdとしたときに、
K=Lxa×Ldxb×Ldyc×Tdd×Gde ・・・(1)
とおき、上記(1)式において、a〜eをフィッティングパラメータと考え、これを最適化することで、Kという一つのパラメータで圧力吸収体20の性能(圧力吸収効果、及び圧力吸収体の共振周波数による副作用)を表すことを考えた。その結果、(1)式において、a=−1、b=1、c=1、d=−0.3、e=−1とおけば、現象をよく表すことができることがわかった。
【0044】
図10は、上述した8種類の構造の印字ヘッドにおける評価結果を示す図である。図10の結果から、Kが大きいと圧力吸収体としての効果は高くなるが、共振による悪影響が大きくなることが判る。これらを両立させるためには、Kの値を1.0×10-13以上かつ2.0×10-13以下とすればよいことが判る。
【0045】
以上、インクジェット記録ヘッドの実施の形態を説明してきたが、これらインクジェット記録ヘッドを用いることによって、噴射特性が良好で、かつ高速のインクジェットプリンタを実現することができる。
【0046】
(実施例1)
SUS製の支持基板に対して、圧力変換手段としての積層圧電素子を嫌気性接着剤を用いて接合し、ダイシングソーを用いてこの圧電素子に溝加工を行い、各加圧液室に対応するよう分離した。この溝加工した圧電素子の側面に通電部材としてのFPCをはんだを用いて接合し、アクチュエータユニットを形成した。次に電鋳工法で製作したノズル板と振動板、及びエッチング工法で製作したシリコン製の流路板を、高精度に位置決め積層し、それぞれの界面をエポキシ接着剤で接合した。この振動板の裏面に先に製作したアクチュエータユニットの圧電素子上面をエポキシ接着剤で接合した。
【0047】
そして、長手方向長さ37mm、短手方向長さ2mm、深さ1mmの共通液室が形成され、該共通液室壁面の中央部に設けられた長さ20mm、幅1.2mmの開口に厚さ20μmのポリイミド膜が圧力吸収体として貼り付けられた樹脂製のフレームを、上記振動板の裏面及び支持基板の端面に嫌気性接着剤を用いて接着し、インクジェットヘッドを作成した。
【0048】
上記のインクジェットヘッドをプリンタに搭載して印字試験を行ったところ、全ノズルからインクを吐出して印字(以後マルチ印字と称す)した場合でも、不良画質が発生することのない、良好な結果を得た。比較例として、共通液室側面全体(37mm×2mm)に設けた開口にポリイミド膜が貼り付けられた従来技術によるフレームを用いてインクジェットヘッドを作成し、同様にプリンタに搭載して印字試験を行ったところ、不良画質が発生し、本発明により特性が改善されることを確認した。
【0049】
(実施例2)
SUS製の支持基板に対して、圧力変換手段としての積層圧電素子を嫌気性接着剤を用いて接合し、ダイシングソーを用いてこの圧電素子に溝加工を行い、各加圧液室に対応するよう分離した。この溝加工した圧電素子の側面に通電部材としてのFPCをはんだを用いて接合し、アクチュエータユニットを形成した。次に電鋳工法で製作したノズル板と振動板、及びエッチング工法で製作したシリコン製の流路板を、高精度に位置決め積層し、それぞれの界面をエポキシ接着剤で接合した。この振動板の裏面に先に製作したアクチュエータユニットの圧電素子上面をエポキシ接着剤で接合した。
【0050】
そして、長手方向長さ37mm、短手方向長さ2mm、深さ1mmの共通液室が形成され、該共通液室壁面の中央部に設けられた長さ25mm、幅1.2mmの開口を有する樹脂製のフレームを、上記振動板の裏面及び支持基板の端面に嫌気性接着剤を用いて接着し、インクジェットヘッドを作成した。このとき、フレームに空いた開口を振動板で塞ぐようにして接着を行った。
【0051】
上記のインクジェットヘッドをプリンタに搭載して印字試験を行ったところ、全ノズルからインクを吐出して印字(以後マルチ印字と称す)した場合でも、不良画質を発生することのない、良好な結果を得た。
【0052】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明のインクジェット記録ヘッドによれば、インク加圧液室が配列された方向をX方向としたときに、共通液室を構成する壁面のうち、X方向に延びた壁面の少なくとも一部の面に、他の壁面よりも剛性が低く、振動によって圧力を吸収するダンパ面を構成し、そのダンパ面を共通液室のX方向全長に渡っては形成せずに、該X方向において部分的にそのダンパ面の存在しない領域を形成することにより、共通液室の形状に依存することなく、圧力吸収体の剛性を調整することができ、圧力吸収体の共振周波数を制御することができる。これにより、駆動周波数から共振周波数を離すことが可能となり、インクの噴射特性を安定化させ、高速駆動でも良好な画質を得ることができる。
【0053】
さらに本発明のインクジェット記録ヘッドによれば、ダンパ面を複数の領域に分割せずに、一続きの領域で構成することにより、構造的な剛性を最も低くすることができるので、圧力吸収体の圧力吸収効果をより高めることができ、上記の効果をより効果的に得ることができる。
【0054】
さらに本発明のインクジェット記録ヘッドによれば、共通液室のX方向に伸びる壁面のうち、ダンパ面の存在しない領域を、該壁面のX方向両端部に設けることにより、圧力吸収体としての効果を最も高めることができる構成となり、圧力吸収効果をより高めることができ、上記の効果をより効果的に得ることができる。
【0055】
さらに本発明のインクジェット記録ヘッドによれば、加圧液室を形成する壁面の一部を他の壁面よりも剛性の低い振動板として構成し、圧力変換手段を、振動板と、振動を発生させる駆動源とによって構成し、さらにダンパ面を、振動板と同一の層によって一体形成することにより、各加圧液室の振動板と圧力吸収体とを同時に形成することができるため、製造工程をより簡略化することができる。
【0056】
さらに本発明のインクジェット記録ヘッドによれば、振動板と同一の層を、共通液室を構成するX方向に伸びる壁面のうち、ダンパ面を形成する面のX方向全長に渡って形成し、さらにダンパ面を形成する面において、振動板と同一の層の上に部分的に別の層を形成し、この別の層の存在によって、振動板層の同一の層において上記別の層が存在しない領域を、ダンパ面として機能させることにより、振動板−圧力吸収体層の構造を工夫することなく、上記の構造を形成することができるため、製造工程を更に簡略化できる。
【0057】
さらに本発明のインクジェット記録ヘッドによれば、共通液室を形成する他の壁面よりも弾性率の低い部材でダンパ面を構成することにより、共通液室の壁面の構成素材とは別に、圧力吸収体として適した素材を用いることができるため、効果的な圧力吸収体を、より容易な製造工程で得ることができる。
【0058】
さらに本発明のインクジェット記録ヘッドによれば、共通液室のX方向の長さをLx(m)、ダンパ面のX方向の長さをLdx(m)、ダンパ面のX方向に垂直な方向の長さをLdy(m)、ダンパ面の厚さをTd(m)、及びダンパ面を構成する部材の弾性率をGd(Pa)としたときに、1.0×10-13<Lx-1×Ldx×Ldy×Td-0.3×Gd-1<2.0×10-13とすることにより、圧力吸収効果と共振点を駆動周波数からずらす効果を両立することができるため、高速駆動と噴射安定性とを両立することができる。
【0059】
また、本発明によれば、上述した本発明に関わるインクジェット記録ヘッドを使用することにより、高速で駆動してもインクの噴射が安定し、高速かつ高画質なプリンタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に関わるインクジェット記録ヘッドの液室の構成例を説明するための概略図である。
【図2】 図1の液室部を備えるインクジェット記録ヘッドの分解斜視図を示す図である。
【図3】 インクジェット記録ヘッドの加圧液室長手方向(ノズル配列方向の直交方向)の断面要部を示す図である。
【図4】 図3のA−A断面の概略構成図である。
【図5】 本発明に関わる圧力吸収体について説明するために、図4に示すごとくのインクジェット記録ヘッドから、共通液室と連通管を含む要部を抜粋して示す図で、本発明に関わるインクジェット記録ヘッド要部の構成図である。
【図6】 本発明に関わる圧力吸収体について説明するために、図4に示すごとくのインクジェット記録ヘッドから、共通液室と連通管を含む要部を抜粋して示す図で、従来技術によるインクジェット記録ヘッドの要部の構成図である。
【図7】 本発明のインクジェット記録ヘッドにおける共通液室圧力変化の周波数特性を評価した結果の一例を示す図である。
【図8】 圧力吸収体の他の構成例を説明するための要部概略図である。
【図9】 本発明に関わるインクジェット記録ヘッド要部の他の構成例を示す図である。
【図10】 圧力吸収体及び共通液室の構造が異なる8種類の印字ヘッドにおける評価結果を示す図である。
【図11】 共通液室の壁面の剛性を下げて圧力吸収体として作用させた場合と、剛性を下げなかった場合との、観測可能な最も低次(低周波数)の壁面の振動モードの比較を説明するための図で、共通液室の剛性を下げた場合の壁面の振動モードを示す図である。
【図12】 共通液室の壁面の剛性を下げて圧力吸収体として作用させた場合と、剛性を下げなかった場合との、観測可能な最も低次(低周波数)の壁面の振動モードの比較を説明するための図で、剛性を下げていない場合の壁面の振動モードを示す図である。
【図13】 共通液室壁面の剛性を下げて圧力吸収体として作用させた場合の共通液室の圧力変化の周波数依存を示す図である。
【符号の説明】
1…加圧液室基板、2…ベース基板、3…ノズル、4…加圧液室(インク加圧液室)、6…振動板、7…圧電素子、8…ノズルプレート、9…共通液室、10…連通部、11…支持部材、12…インク滴、13…フレーム、14…インク供給源、15…FPCケーブル、16…ドライバIC、17…封止剤、18…連結管20…圧力吸収体、21…非存在領域、22…固定部材。
Claims (4)
- 複数のインク加圧液室が配置された加圧液室基板と、該加圧液室を形成する壁面の一部を構成し、他の壁面よりも剛性の低い振動板と、各前記加圧液室が連通部を介して接続された共通液室と、前記振動板を振動させることにより各前記インク加圧液室内部の圧力を変化させる圧力変換手段とを備え、各前記インク加圧液室にそれぞれ連通した複数のノズルからインク滴を吐出することによって、被記録媒体に画像情報を記録するインクジェット記録ヘッドにおいて、前記共通液室は、前記振動板の前記インク加圧液室形成面とは反対側の面を壁面の一部として形成され、前記共通液室に面する位置の前記振動板には、他の壁面よりも剛性が低く、振動によって圧力を吸収するダンパ面が前記加圧液室基板に対向しない領域に構成され、該ダンパ面は、前記インク加圧液室が配列された方向をX方向としたときに、前記振動板と同一の層の上に部分的に別の層が形成され、該別の層の存在によって、前記共通液室のX方向全長に渡っては形成されずに、該X方向において部分的に前記ダンパ面の存在しない領域が形成されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
- 請求項1に記載のインクジェット記録ヘッドにおいて、前記ダンパ面は、複数の領域に分割されずに、一続きの領域で構成されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
- 請求項1または2に記載のインクジェット記録ヘッドにおいて、前記共通液室の前記X方向に伸びる壁面のうち、前記ダンパ面の存在しない領域は、該壁面のX方向両端部に設けられていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
- 請求項1ないし3のいずれか1に記載のインクジェット記録ヘッドを搭載したプリンタ。
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