JP4164731B2 - 織物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は印刷用スクリ−ン、耐熱フィルタ−、濾過用フィルタ−、セパレ−タ、安全ネット、ジオテキステイル、プリント配線基板、電磁波遮蔽透視メッシュ等に使用可能な織物に関する。
【0002】
【従来の技術】
印刷用スクリ−ンはシルク、ステンレス、ナイロン、ポリエステル等のメッシュ織物を使用して製造されるが、シルクは強度、寸法安定性に問題があり、ステンレスは強度はあるものの、弾性回復性、瞬発性に問題がある上に、高価であるため、現在はポリエステルやナイロン等の熱可塑性樹脂製のものが多くなり、とくに寸法安定性に優れる点、低価格である点でポリエステル製のものが多用化されている。
【0003】
しかしながら、最近の電子回路の印刷分野においては印刷精度の向上に対する要求がますます厳しくなってきており、高強度で高弾性率を有する繊維からなるスクリ−ン紗が要求されている。かかる高強度・高弾性率を有する繊維としてス−パ−繊維、たとえば全芳香族系ポリアミド繊維、全芳香族系ポリエステル繊維、炭素繊維等が挙げられるが、全芳香族系ポリアミド繊維は吸湿性による寸法安定性が劣るという問題点、全芳香族系ポリエステル繊維はインキ通過性、乳剤の塗布性等が劣るという問題点、炭素繊維は折れやすいという問題点を抱えていた。最近例えば特開平10−331048号公報等に示されているように繊度の小さいモノフィラメントのポリベンザゾール繊維を用いて上記の問題を解決しようとした試みも開示されている。モノフィラメントポリベンザゾール及びその製造方法に付いては特開平8−27622号公報に開示がある。精密な印刷を実現するためには、印刷中にスクリーン紗から発生するスカムを抑えることが最重要課題である。しかし、このスカムの発生はポリベンザゾール繊維等の剛直繊維表面のフィブリル化の進行に伴う繊維構造に内在する問題であり、これを解決して耐刷性の向上を図るためには繊維構造の設計、ひいては繊維そのものの製造方法から見直す必要があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
電子回路の印刷のような精密な印刷を行うためには、繊度の小さいモノフィラメントを用い、オ−プニングエリアを大きく取る必要がある。上述の全芳香族系ポリアミド、全芳香族系ポリエステル、ポリベンザゾールからなる繊維を使用したスクリ−ン紗の強度、弾性率は、織物組織にもよるが、精密印刷用としては不十分で実用化に至っていないのが現状である。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上述のス−パ−繊維からなる織物、たとえば、該織物を精密印刷用スクリ−ン紗として使用した時の問題点を解決したものであり、織物の経糸方向および緯糸方向の単位目付当たりの引張強度に着目してなされたものである。
すなわち、本発明は下記の構成からなる。
1.繊維表面の平均自乗粗さが20nm以下であるポリベンザゾール繊維を経糸及び/又は緯糸に使用してなる織物であって、単位目付当たりに対する経糸方向の引張強度が0.5Nm2/g 以上、緯糸方向の引張強度が0.5Nm2/g 以上であることを特徴とする織物。
2.ポリベンザゾール繊維が、繊維表面の結晶配向角が1.3度以下であることを特徴とする1記載の織物。
3.摩耗試験における破断までのサイクルが5200回以上であることを特徴とする1記載の織物。
4.ポリベンザゾール繊維のボイド径が25.5Å以上であることを特徴とする1記載の織物。
【0006】
以下本発明を繊維の製造法からはじめて織物の作成法まで詳しく述べる。繊維の究極物性を実現する手段としては、いわゆるラダーポリマーなどの剛直ポリマーが考えられてきたが、こうした剛直なポリマーは可撓性が無く、有機繊維としてのしなやかさや加工性を持たせるためには、直線上のポリマーであることが重要な条件である。
【0007】
S.G.WierschkeらがMaterial Research Society Symposium Proceedings Vol.134, p.313 (1989年)に示したように、直線状のポリマーで最も高い理論弾性率を持つのはシス型のポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールである。この結果は田代らによっても確認され(Macromolecules vol. 24, p.3706(1991年))、ポリベンザゾールのなかでも、シス型のポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールが475GPaの結晶弾性率を持ち(P. GalenらMaterial Research Society Symposium Proceedings Vol. 134, p.329 (1989年))、究極の一次構造を持つと考えられた。従って究極の弾性率を得るためには、ポリマーとしてポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールを素材とするのが理論的な帰結である。
【0008】
該ポリマーの繊維化は米国特許5296185号、米国特許5385702号に記載された方法で行われ、熱処理方法は米国特許5296185号に提案がなされている方法で行われるが、かかる方法で得られる摩擦試験における破断までのサイクルは高々5000回未満である。従ってこれらの方法の改良について研究の必要性を痛感し鋭意研究の結果、繊維中のボイド径が25.5Å以上であっても次に示す方法により所期の物性を工業的に容易に達成出来ることを見いだした。
【0009】
ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)とポリ燐酸からなるドープを紡糸口金から紡出する。これ以後凝固、中和、水洗、乾燥、張力下の熱処理を経て製造される。スカムの発生原因を抑えるために、繊維の耐摩耗性を改善せしめる手段として繊維を構成するポリマーの表面部分の結晶構造を緻密化高配向化する方法がある。本発明において、この目的のためにポリベンザゾール繊維表面の結晶構造を緻密に変化せしめることに成功し且つ吸水率を極度に低く抑えたポリベンザゾール繊維を工業的に得た。
【0010】
かかる繊維の表面結晶構造は、繊維表面の平均自乗粗さが20nm以下であることを特徴とするか、更に好ましくは、繊維表面の結晶配向角が1.3度以下であるか、又は摩耗試験における破断までのサイクルが5200回以上であることを特徴とするポリベンザゾール繊維である。従って本発明はかかる技術的背景によりこれまでの技術的困難を克服し、特異な結晶配向を実現させることにより耐摩耗性を向上せしめたポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維を提供し、その工業的生産を可能にするものである。
【0011】
上記の構造的特徴を発現せしめるため、本発明のポイントは以下に示す手法により実現できる。即ち、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールからなるポリマーのドープを紡糸口金から非凝固性の気体中に押し出して得られた紡出糸を凝固浴中に導入してドープ糸条が含有する燐酸を抽出した後、中和、水洗、乾燥、熱処理を行うが、繊維を一定張力下に500℃以上で熱処理する事で繊維表面が緻密化したポリベンザゾールを得ることを見いだした。
【0012】
以下、更に本発明を詳述する。本発明におけるポリベンザゾール繊維とは、PBOホモポリマー、及び実質的に85%以上のPBO成分を含みポリベンザゾール(PBZ)類とのランダム、シーケンシャルあるいはブロック共重合ポリマーをいう。ここでポリベンザゾール(PBZ)ポリマーは、例えばWolf等の「Liquid Crystalline Polymer Compositions, Process and Products」米国特許第4703103号(1987年10月27日)、「Liquid Crystalline Polymer Compositions, Process and Products」米国特許第4533692号(1985年8月6日)、「Liquid Crystalline Poly(2,6-Benzothiazole) Compositions, Process and Products」米国特許第4533724号(1985年8月6日)、「Liquid Crystalline Polymer Compositions, Process and Products」米国特許第4533693号(1985年8月6日)、Eversの「Thermooxidative-ly Stable Articulated p-Benzobisoxazole and p-Benzobisoxazole Polymers」米国特許第4539567号(1982年11月16日)、Tsaiらの「Method for making Heterocyclic Block Copolymer」米国特許第4578432号(1986年3月25日)、等に記載されている。
【0013】
PBZポリマーに含まれる構造単位としては、好ましくはライオトロピック液晶ポリマーから選択される。モノマー単位は構造式(a)〜(h)に記載されているモノマー単位から成り、更に好ましくは、本質的に構造式(a)〜(d)から選択されたモノマー単位から成る。
【0014】
【化1】
【0015】
【化2】
【0016】
実質的にPBOから成るポリマーのドープを形成するための好適溶媒としては、クレゾールやそのポリマーを溶解し得る非酸化性の酸が含まれる。好適な酸溶媒の例としては、ポリ燐酸、メタンスルフォン酸及び高濃度の硫酸或いはそれ等の混合物があげられる。更に適する溶媒は、ポリ燐酸及びメタンスルフォン酸である。また最も適する溶媒は、ポリ燐酸である。
【0017】
溶媒中のポリマー濃度は好ましくは少なくとも約7重量%であり、更に好ましくは少なくとも10重量%、最も好ましくは14重量%である。最大濃度は、例えばポリマーの溶解性やドープ粘度といった実際上の取り扱い性により限定される。それらの限界要因のために、ポリマー濃度は20重量%を越えることはない。
【0018】
好適なポリマーやコポリマーあるいはドープは公知の手法により合成される。例えばWolfe等の米国特許第4533693号(1985年8月6日)、Sybert等の米国特許第4772678号(1988年9月20日)、Harrisの米国特許第4847350号(1989年7月11日)に記載される方法で合成される。実質的にPBOから成るポリマーはGregory等の米国特許第5089591号(1992年2月18日)によると、脱水性の酸溶媒中での比較的高温、高剪断条件下において高い反応速度での高分子量化が可能である。
【0019】
この様にして重合されるドープは紡糸部に供給され、紡糸口金から通常100℃以上の温度で吐出される。口金細孔の配列は通常円周状、格子状に複数個配列されるが、その他の配列であっても良い。口金細孔数は特に限定されないが、紡糸口金面における紡糸細孔の配列は、吐出糸条間の融着などが発生しないような孔密度を保つ必要がある。
【0020】
紡出糸条は十分な延伸比(SDR)を得るため、米国特許第5296185号に記載されたように十分な長さのドローゾーン長が必要で、かつ比較的高温度(ドープの固化温度以上で紡糸温度以下)の整流された冷却風で均一に冷却されることが望ましい。ドローゾーンの長さ(L)は非凝固性の気体中で固化が完了する長さが必要であり大雑把には単孔吐出量(Q)によって決定される。良好な繊維物性を得るにはドローゾーンの取り出し応力がポリマー換算で(ポリマーのみに応力がかかるとして)2g/d以上が必要である。
【0021】
ドローゾーンで延伸された糸条は次に抽出(凝固)浴に導かれる。紡糸張力が高いため、抽出浴の乱れなどに対する配慮は必要でなく如何なる形式の抽出浴でも良い。例えばファンネル型、水槽型、アスピレータ型あるいは滝型などが使用出来る。抽出液は燐酸水溶液や水が望ましい。最終的に抽出浴において糸条が含有する燐酸を99.0%以上、好ましくは99.5%以上抽出する。本発明における抽出媒体として用いられる液体に特に限定はないが好ましくはポリベンザゾールに対して実質的に相溶性を有しない水、メタノール、エタノール、アセトン、エチレングリコール等である。また抽出(凝固)浴を多段に分離し燐酸水溶液の濃度を順次薄くし最終的に水で水洗しても良い。さらに該繊維束を水酸化ナトリウム水溶液などで中和し、水洗することが望ましい。
【0022】
本発明でとくに重要な、繊維表面構造を緻密に変化させる方法について述べる。吸湿を防ぐためには、繊維表面の高結晶配向の実現が重要な因子となる。このために、抽出工程において繊維ドープの凝固速度を遅くして繊維の内外層で構造に変化をつけることが肝要である。凝固速度を遅くする方法としては、凝固液の燐酸水溶液濃度を濃くしたり、浴温度を低くしたり、非水系の凝固剤を選択することが有効である。最適な燐酸水溶液濃度は50%以上80%未満、望ましくは55%以上70%未満、最も望ましくは60%以上65%未満である。濃度が高い方が効果は大きいが必要以上に濃いと繊維強度が低下し好ましくない。凝固浴温度については大略5℃以下であれば何度であっても良いが、あまり温度を下げすぎても浴のまわりに露が発生するため製造機械運転上好ましくない。好ましくは4℃からー30℃さらに好ましくは0℃からー15℃の温度範囲である。非水系の凝固剤を選択する場合は、エタノール、メタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、エチレングリコールなどのグリコール類など、水と親和性のある有機溶剤が好ましい。勿論複数の上記非水系凝固剤や水を混合して使っても良い。
【0023】
こののち繊維を乾燥させ更に熱処理工程を通す。乾燥温度は繊維強度の低下をもたらさない温度とし、具体的には150℃以上400℃以下、好ましくは200℃以上300℃以下、更に好ましくは220℃以上270℃以下とする。熱処理温度については、400℃以上700℃以下、好ましくは500℃以上680℃以下、更に好ましくは550℃以上630℃以下とする。
【0024】
本発明にかかる繊維は、繊維表面の平均自乗粗さが20nm以下、好ましくは16nm以下、更に好ましくは10nm以下、繊維表面の結晶配向角が1.3度以下、好ましくは1.1度以下、更に好ましくは0.9度以下、摩耗試験における破断までのサイクルが5200回以上、好ましくは5600回以上、更に好ましくは6000回以上、ボイド径が25.5Å以上、好ましくは30Å以上150Å未満、更に好ましくは35Å以上90Å未満である。尚、本特許に於いて用いた回折点の指数付けはFratiniら(Material Research Society Symposium Proceedings Vol. 134, p.431 (1989年))により提案されている結晶模型に従う。
【0025】
繊維表面の平均自乗粗さRmsは原子間力顕微鏡(AFM)を用いて評価する。AFMはSeiko Instruments(SII)社製のSPI3800N-SPA300を使用する。探針はバネ定数2N/m、長さ450μm・幅60μm・厚さ4μmのSi製矩形型カンチレバーSII社からSi-DF3)を用いた。スキャナーは100μmスキャナーを観察モードはDFMモードを採用する。走査は速度0.5 Hz 、走査方向は繊維軸に平行とし、大気中摂氏20度相対湿度65%の条件で測定する。測定に供する繊維は、エタノールとnヘキサンの混合液で洗浄、乾燥後用いた。観察視野範囲は一片5μm四方の正方形領域とし、観察後付属のソフトウエアの三次元傾斜補正等を施し平面化処理を行う。繊維の曲率の存在により画像を平面化した時に生じる歪みを考慮するため、中心部の3μm四方の正方形領域のみの平均自乗粗さRmsを付属のソフトウエアを用いて補正の後算出する。観察はランダムに10点以上の場所で行い、それぞれのRmsを求め、平均値を算出した。尚Rmsは式1を用いて表現することが出来る。
【0026】
Rms =[ (1/N) Σ(Z i − Z 0 ) 2 ] 0.5 式1
ここでZiは各測定点での高さ、Z0は測定個所全体にわたっての平均の高さ、Nは測定点数を表す。
【0027】
繊維表面の結晶配向角は電子顕微鏡(例えばPhillipsTEM-430、JEOL JEM-2010)を用いて繊維表面から引き剥がした薄片を高分解能観察することにより解析評価する。まず、ガラスプレート上に酢酸イソアミルで稀釈したコロジオン溶液を薄くのばして広げた上に繊維単糸を数本並べる。コロジオンの溶媒が蒸発して固化するのを待って繊維をガラスプレート上から引き剥がす。この時引き剥がした跡(コロジオンの膜上)には繊維から引き剥がされた繊維表面の薄片が付着している様子が実体顕微鏡によって確認することが出来る。この部分を3mm角程度剃刀などを用いてコロジオンの膜ごと切り出し、電子顕微鏡観察用の日新EM社製マイクログリッド又はAgar Scientific 社製 holey carbon film上にポリベンザゾール繊維表面薄片のついている面をうつぶせにして並べる。ふた付のペトリ皿に移し酢酸イソアミル蒸気との共存下に数時間放置し、繊維薄片をマイクログリッドに十分固着させる。その後マイクログリッドが浸るくらいまで酢酸イソアミルを追加し、一昼夜放置しコロジオン膜を流しさった後乾燥させる。高分解能観察のため電子顕微鏡は200,000倍以上で非点収差の補正を行った後用いた。試料繊維薄片の受ける電子線からのダメージを最小限に抑えるため、一視野撮影に要する露光時間は5秒以内、非点収差の補正も含めた合計の照射時間は電子線を受けたときの繊維の寿命(十分な解像度を有する電子線回折パターンが観測できる持続時間)の35%以内になるよう抑えた。高分解能電子顕微鏡(格子)像の記録はコダックSO−163ネガフィルムをコダックD−19現像液を稀釈ぜずに用いて現像するか若しくはイメージングプレートシステム(例えば、JEOL PixsysTEM)を用いて行う。撮影した格子像は印画紙に焼き付ける。(200)格子がほぼ繊維軸と平衡方向に走っている様子が観察される。隣同士の2個の結晶がもつ(200)格子軸がなす角φを結晶配向角と定義する。100個以上の結晶の組を観察、平均して該結晶配向角を評価する。
【0028】
繊維中心と表面の結晶配向比は繊維を薄く切って作った超薄切片の制限視野電子線回折像を測定することで求める。単繊維と硬化剤を混合したSpurrエポキシレジンで包埋した物を摂氏70度のオーブン中で一夜放置し固化固定する。次にこのレジンブロックをライヘルト社製のウルトラマイクロトームに取り付け、ガラスナイフを用いて包埋した繊維がブロック表面近傍に現れるまで研磨する。次にダイアトーム社製ダイアモンドナイフを用いて超薄切片を作成した後、300メッシュの銅グリッド上に回収し薄くカーボン蒸着を施す。電子顕微鏡内に超薄切片を入れ、繊維の中心と表面の両方を併せ持つ切片を探しだし、表面と中心の両方について制限視野電子線回折像を撮影する。像の記録は電顕フィルム(例えばAgfa Scientia EM 23D56、又はコダックSO-163ネガフィルム)かイメージングプレートシステムを用いて記録する。R. J. Youngらの方法(J. Mat. Sci., 24, p5431 (1990))に準拠し、(010)と(‐210)回折点の子午線方向の回折強度プロファイルの拡がりからピークプロファイルの半値幅2θを算出した後、式2を用いて繊維中心の半値幅2θを繊維表面の半値幅2θで除し、繊維表面と中心の結晶配向比を求める。尚、電顕フィルムから回折強度プロファイルを数値化するときは光学的なネガフィルム黒化度読みとり装置(例えば、Joyce-Loebl Chromoscan 3)を用いる。
【0029】
結晶配向比 = 2θ(繊維中心)/2θ(繊維表面) 式2
【0030】
繊維に含まれる水分率の測定は、繊維を摂氏20度、相対湿度65%の環境下に重量変化が観測されなくなるまで放置した後秤量によって決定する。即ち、繊維の重量を化学天秤を用いて秤量した後該繊維を230℃に調節した電気オーブン中で30分間放置し繊維中の水分をとばした後再度秤量する。平衡水分率は式3に示す式を用いて評価する。
【0031】
平衡水分率=
100 x(平衡に達したときの繊維重量−乾燥後の繊維重量)/乾燥後の繊維重量[%]
【0032】
耐摩耗性の評価はJIS L1095 ‐ 7.10.2に準拠し、破断までのサイクルを数えることで評価した。この時繊維には1.0g/dの張力をかけた。
【0033】
<小角X線散乱の測定方法>
ボイド径の評価は小角X線散乱法を用い、下記の方法で行った。測定に供するX線は、(株)リガク製ローターフレックスRU-300を用いて発生させた。ターゲットとして銅対陰極を用い、出力30kV x 30mA のファインフォーカスで運転した。光学系は(株)リガク製点収束カメラを用い、X線はニッケルフィルターを用いて単色化した。検出器は、フジ写真フィルム(株)製イメージングプレート(FDL UR-V)を用いた。試料と検出器間の距離は200mm 乃至350mm の間の適当な距離でよい。空気などからの妨害バックグラウンド散乱を抑えるため、試料と検出器の間は、ヘリウムガスを充填した。露光時間は2時間乃至24時間であった。イメージングプレート上に記録された散乱強度信号の読みとりは、富士写真フィルム(株)製デジタルミクログラフィー(FDL5000) を用いた。得られたデータには、バックグラウンド補正を施した後赤道方向の散乱強度I に対してギニエプロット(バックグラウンド補正後の散乱強度の自然対数ln(I) を散乱ベクトルの2乗k2に対してプロットする)を作成した。ここで散乱ベクトルkはk=(4π/ λ)sinθ、λはX線の波長1.5418Å、θは散乱角2θの半分である。
【0034】
このようにして得られたポリベンザゾール繊維は引張強度が4.0GPa以上、望ましくは4.5GPa以上、引張弾性率が150GPa以上、更に望ましくは200GPa以上であることが、メッシュ織物の引張強度を高める上で好ましい。
【0035】
ポリベンザゾール繊維の繊度は用途によって適宜設定することができる。たとえば本発明の織物を10メッシュ以上の印刷スクリ−ン(紗)に使用する場合には、モノフィラメントでの使用となるので、繊維直径が5〜1000μm、とくに精密印刷用に使用される場合には繊維直径が5〜50μmが好ましい。土木用補強材として使用する場合にはモノフィラメントの形態でポリベンザゾール繊維を経糸及び/又は緯糸として使用してもよいが、マルチフィラメントの形態で使用してもよい。マルチフィラメントの形態で使用する場合は、該マルチフィラメント100%がポリベンザゾール繊維で構成されていてもよく、他の熱可塑性ポリマ−からなる繊維と複合化された形態で構成されていてもよい。複合化された形態の場合、織物としての経糸方向および緯糸方向の各々の引張強度が本発明を満足する上で、少なくとも50重量%以上がポリベンザゾール繊維であることが好ましい。そして、マルチフィラメントとしての総繊度は500〜10000デニ−ル、とくに1000〜3000デニ−ルが好ましい。さらに、本発明の織物は経糸または緯糸のどちらか一方にモノフィラメントを適用した構造のものでもよく、無論、経糸および緯糸双方がモノフィラメントで構成された織物、経糸および緯糸双方がマルチフィラメントで構成された織物すべてを含むものである。
【0036】
一般に高強度・高弾性率を有する繊維は通常、繊維表面がフィブリル化しやすい傾向にあるが、本発明に使用されるポリベンザゾール繊維は高強度・高弾性率を有しているものの、製造方法の説明で詳しく述べたような繊維表面の構造的特徴のために繊維表面のフィブリル化は生じにくい。そのため製織する際に繊維表面のフィブリル化がほとんどないので、織目に該フィブリル化物が詰まったりすることがなく、織物表面が平滑であることがより一層求められる精密印刷用スクリ−ンとして本発明の織物を使用する場合に好適である。さらにより一層の表面平滑を付与するために、ポリベンザゾール繊維に熱可塑性樹脂、あるいはポリシロキサン及び/又はフッソ系樹脂を被覆することが好ましい。
【0037】
該熱可塑性樹脂としてはポリブチレンテレフタレ−ト、ポリエチレンテレフタレ−ト等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド;ポリエ−テルイミド;ポリエ−テルケトン;ポリエ−テルエ−テルケトン;ポリフェニレンサルファイド;ポリエ−テルスルフォン;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンなどを挙げることができるが、中でも融点が120℃以上のポリマ−を使用することが好ましい。これらの熱可塑性樹脂中には難燃剤、撥水剤、制電剤、除電剤、紫外線吸収剤等の添加剤が含有されていてもよい。
【0038】
該熱可塑性樹脂をポリベンザゾール繊維に被覆する方法としては、溶融した熱可塑性樹脂の浴にポリベンザゾール繊維を浸漬する溶融ディップ法、溶融した熱可塑性樹脂とポリベンザゾール繊維(モノフィラメント)を1つのノズル孔を通して繊維表面に樹脂を被覆する溶融押出被覆法(カバ−ヤ−ン法)、溶媒に溶解させた樹脂を浴にいれてその中をポリベンザゾール繊維を通す溶解ディップ法等を挙げることができ、ポリベンザゾール繊維表面に均一に熱可塑性樹脂が被覆され得る方法であればいずれをも採用できる。ポリベンザゾール繊維はモノフィラメント、マルチフィラメントのいずれの形態で樹脂を被覆してもよい。マルチフィラメントの場合には、マルチフィラメントを構成する単位の1つであるモノフィラメントの周囲に熱可塑性樹脂が被覆されていれば、単位のモノフィラメントが複数固着していてもよいが、マルチフィラメントの可撓性の点で単位のモノフィラメントが離れているほうが好ましい。
【0039】
熱可塑性樹脂で被覆されたポリベンザゾール繊維を用いて製織された織物はホットロ−ルプレス等の手段で経糸および緯糸の交点を熱接着することにより、織物の目ズレを防止したり、織物強度を高めることができる。
【0040】
またポリシロキサンとは鎖状オルガノポリシロキサンを示し、25℃下での粘度が5〜200000センチポイズのジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、変性ポリシロキサンなどを挙げることができる。
【0041】
ポリシロキサンのポリベンザゾール繊維への被覆量は、繊維表面を均一に斑なく覆うことができる量であればよく、たとえば、繊維重量に対して0.1重量%以上であればよく、とくに4〜20重量%であることが好ましい。
【0042】
また、上述のフッ素系樹脂としてはテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCFE)等を挙げることができ、これらの樹脂を乳化剤等を添加したエマルジョンの状態で使用する。具体的には、フッ素系樹脂のエマルジョンをポリベンザゾール繊維に10〜50重量%付着させた後、350℃以上の温度で加熱焼成して繊維表面に弗素系樹脂を被覆することができる。繊維への付着手段は上記のポリシロキサンの付着手段と同じ方法を挙げることができる。
【0043】
さらには、上述のポリシロキサンとフッ素系樹脂とを別々に2段付着、あるいは混合液として1段付着させて加熱焼成することも可能である。かかる場合、ポリシロキサンとフッ素系樹脂との繊維への付着量は、合計で1重量%以上であることが好ましく、1〜20重量%、とくに3〜10重量%が好適である。そして、ポリシロキサンとフッ素系樹脂との混合割合は前者:後者=1:9〜9:1(重量比)、とくに5:5〜9:1であることが好ましい。
【0044】
上述の繊維表面への樹脂の被覆は繊維の形態で被覆してもよく、織物に製織した後に被覆してもよい。
【0045】
本発明の織物は、上述のモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントを使用して作製されるが、織り方は用途に応じて適宜設定されるものである。たとえば、印刷用スクリ−ンとしての使用を目的とする場合には、ポリベンザゾール繊維のモノフィラメントを経糸および緯糸として使用して製織し、プレセット、ソ−ピング、熱加工して所定の厚みとメッシュ数のものを製造することができる。スクリ−ンとして使用する場合の織密度は経糸緯糸共に通常10〜600本/インチ(10〜600メッシュの平織)であるが、印刷用インキの供給量や絵柄の線幅に応じて適宜選択すればよい。好ましい織密度は、200〜500メッシュで、高精度の印刷では300〜450メッシュの織密度が好ましい。
【0046】
ついで紗張工程に供されるが、スクリ−ン枠は木製、金属製、樹脂製のいずれでもよく、とくにアルミ製のものが耐久性、作業性、耐薬品性の点から好ましい。かかるスクリ−ンは、ポリベンザゾール繊維を構成要件としているので、高いテンションで紗張を行うことができるとともに、紗張後の経時変化が少ないので、次工程である乳剤の塗布工程で放置する時間は短くてすみ、一晩放置で十分である。紗張工程を経たスクリ−ンは感光性、または感熱性樹脂、乳剤の塗布に供される。感光性または感熱性樹脂としては、重クロム酸アンモニウム塩等の重クロム酸塩類、各種のジアゾ化合物、S.B.Q系感光剤、アクリルモノマ−感光剤等が使用され、乳剤樹脂としてはゼラチン、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル、アクリル系樹脂など、あるいはこれらの混合物が使用され、これらに乳化剤、帯電防止剤等の添加剤を加えて感光性または感熱性樹、脂乳剤が形成される。
【0047】
塗り重ねにより所望の厚みになるように乳剤を塗布した後、乾燥されたスクリ−ンは露光または加熱工程によって最終的に仕上げられる。パタ−ンの焼き付けは使用する乳剤によって異なるが、通常は高圧水銀ランプ、キセノンランプ等を光源に用い、1〜1.5m程度の距離で2〜5分間露光することによって成される。未感光部分は水に浸漬後、水スプレ−等で除去する。
【0048】
上述のスクリ−ンはポリベンザゾール繊維を構成要件としているので、紗テンションを高くすることができ、弾性回復性、寸法安定性も良好であることから、とくに繊維直径が10〜70μm、さらには35μm以下のモノフィラメントを使用し、300メッシュ以上、とくに400メッシュ以上の高密度スクリ−ンを製造することができる。
【0049】
本発明の織物を土木用強化材として使用する場合は、その織り方に制限はなくまた、ポリベンザゾール繊維の繊度も目的に応じて適宜選択することができる。鉄道、道路等の盛土築堤用や地盤改良用および山岳斜面の改良、河岸部や海岸部の護岸用に使用される場合、とくに軟弱地盤表層処理、水中堤体不等沈下防止、洗掘、吸出防止、フィルタ−材、ドレ−ン材、さらには土嚢等に使用される場合には、織物の厚みを薄くして目付を小さくすることで該織物の透水性を高めることができる。本発明の織物は上述のようにポリベンザゾール繊維を使用しているので高引張強度を有し、織物の厚みを薄くすることで透水性をも高めることができ、さらには織物の厚みを薄くしても砂の栽荷荷重に十分耐えることができる。
【0050】
以上、本発明の織物の用途を印刷用スクリ−ンおよび土木用強化材について説明したが、本発明の織物の用途はこられに限定されるものではなく、耐熱フィルタ−、濾過フィルタ−等のフィルタ−、セパレ−タ、電磁波遮蔽透視メッシュ、安全ネット、プリント配線基板材料、プラスチック補強材、セメント補強材、ゴム補強材等の産業資材分野に幅広く使用することができる。
【0051】
【実施例】
(実施例1)
米国特許第4533693号に示される方法によって得られた、30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が24.4dL/gのポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール14.0(重量)%と五酸化リン含有率83.17%のポリ燐酸から成る紡糸ドープを紡糸に用いた。ドープは金属網状の濾材を通過させ、次いで2軸から成る混練り装置で混練りと脱泡を行った後、昇圧させ、重合体溶液温度を170℃に保ち、孔数33を有する紡糸口金から170℃で紡出し、温度60℃の冷却風を用いて吐出糸条を冷却した後、さらに自然冷却で40℃まで吐出糸条を冷却した後、凝固浴中に導入した。温度−10℃のエタノールを凝固液として繊維を作成した。次に繊維をゴゼットロールに巻き付け一定速度を与えて第2の抽出浴中でイオン交換水で糸条を洗浄した後、0.1規定の水酸化ナトリウム溶液中に浸漬し中和処理を施した。更に水洗浴で水洗した後、巻き取り、80℃の乾燥オーブン中で乾燥し繊維中に含まれる水分率が2%以下になるまで放置した。更に張力5.0g/d、温度600℃の状態で2.4秒間熱処理を行った。この様にして得た繊維を分繊して織物製造用の原糸とした。この繊維の結晶配向角は0.79度、平均自乗粗さは13.3nm、耐摩耗性6023回、ボイド径41オングストローム、繊維強度5.3GPa、繊維弾性率392GPaであった。
次に、この様にして得られたポリベンザゾ−ル繊維を分繊して得たモノフィラメントを経糸および緯糸に使用し、スルザ−織機で300メッシュに製織してメッシュ織物を得た。製織性は良好でオサやヘルド等にもスカム等のフィブリル化物の発生は見られなかった。このメッシュ織物をアルミフレ−ムに張り、ポリビニルアルコール−酢酸ビニル系の感光乳剤(NK−14、カ−レ−社製)を塗布し、乾燥後に高圧水銀ランプで露光し、線幅80μmのパタ−ンを焼き付け、未感光部分は水洗除去してスクリ−ンを作製した。このスクリ−ンを用いてガラス板にパタ−ンを6000回印刷したところ、線幅80μmのパタ−ンがほとんどずれることなく鮮明に印刷されていた。結果を表1にまとめる。
【0052】
【表1】
【0053】
(比較例1)
結晶配向角は1.51度、平均自乗粗さは24.2nm、平衡水分率0.71%、耐摩耗性4601回、ボイド径21オングストローム、繊維強度5.6GPa、繊維弾性率321GPaであるポリパラフェニレンベンゾビシオキサゾール繊維を使うこと以外は実施例1と同じ条件でスクリーンを作成した。5000回印刷した時点でスカムによる目詰まりのため印刷したパターンの線が所々でつぶれていた。結果を表1にまとめる。
【0054】
(比較例2)
ケブラー29を用いた以外は実施例1と同様にしてメッシュ織物を作製した。製織性は良好であったが、得られた織物の強度はポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維に比べて弱く、伸度の大きいものであった。該メッシュ織物からスクリ−ンを実施例1と同様にして作製して印刷したが、2000回を越えた時点で伸度が大きいためパタ−ンがずれて印刷されていた。結果を表1にまとめる。
【0055】
【発明の効果】
本発明の織物は経糸方向および緯糸方向の引張強度が高く、また、該織物を構成する繊維自体の引張強度も高く、たとえば精密印刷用のスクリ−ン等に好適に使用できる。また、土木用強化材として使用する場合には軽量でありながら強く、透水性にも優れたものである。
Claims (4)
- 繊維表面の平均自乗粗さが20nm以下であるポリベンザゾール繊維を経糸及び/又は緯糸に使用してなる織物であって、単位目付当たりに対する経糸方向の引張強度が0.5Nm2/g 以上、緯糸方向の引張強度が0.5Nm2/g 以上であることを特徴とする織物。
- ポリベンザゾール繊維が、繊維表面の結晶配向角が1.3度以下であることを特徴とする請求項1記載の織物。
- 摩耗試験における破断までのサイクルが5200回以上であることを特徴とする請求項1記載の織物。
- ポリベンザゾール繊維のボイド径が25.5Å以上であることを特徴とする請求項1記載の織物。
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