JP4162359B2 - 油圧・機械式無段変速装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、静油圧式無段変速装置(本明細書において「HST」と称する。)と差動機構とを組み合わせた、油圧・ 機械式無段変速装置の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
車両駆動技術としては、HSTを用いた油圧式無段変速装置も多く採用されているが、HSTと差動機構を組み合わせた油圧・機械式無段変速装置(ハイドロメカニカルトランスミッション。略して「HMT」と称される。)も、高効率を達成することができ、重い車両で前後進が要求される場合の変速装置として適することから、幅広く生産され使用されるに至っている。このHMTの代表的な構成として、差動機構として一組の遊星歯車機構を使用したものがある。具体的には、遊星歯車機構を構成するサンギア、インターナルギア、遊星キャリアの三要素のうちいずれか一の要素(第一の要素)に回転動力を入力し、残りの二要素のうち一の要素(第二の要素)から出力回転を取り出すとともに、他の要素(第三の要素)からHSTに対する出力又は入力を連動するよう構成したものである。
【0003】
このHMTは、前記第三の要素にHSTに対する入力を連動するか、HSTに対する出力を連動するかによって、二つの形式に分けられる。即ち、前記第三の要素にHSTの油圧ポンプの入力軸を回転比一定で結合するものは出力分割型(入力結合型)とされ、前記第三の要素にHSTの油圧モータの出力軸を回転比一定で結合するものは入力分割型(出力結合型)とされる。そして、両形式ともに、HSTの油圧ポンプの入力軸又は油圧モータの出力軸を前記遊星歯車機構の三要素のいずれに結合するかの組合せにより、図6に示される如く、各形式につき六つのタイプ、計十二のタイプがある。
【0004】
ここで、このHMTを車両に適用する場合は、入力分割型は高速時に効率が良く、出力分割型は低速時に効率が良いとされる。従って、トラクタにHMTを適用したい場合は、牽引作業等の高速走行を行う場合は入力分割型が適しており、低速で作業を行う場合は出力分割型が適することとなって、両形式は一長一短である。しかし、出力分割型は、前進側の効率は良くなるものの、後進側の効率が悪くなってしまう問題があり、また速度ゼロ近辺に動力循環域が存在しており、クラッチ等と併用しないと成り立たない等の不都合がある。従って、トラクタ等に現在実用化されているものは主に入力分割型となっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、現在の状況としては、HMTを用いたHMT式トランスミッションも採用されるようになってきているが、依然としてHST式トランスミッションも相当程度利用されている。また、HMT式トランスミッションは、HSTによって無段変速等を行う点等において既存のHST式トランスミッションと構成が共通する部分が多々ある。従って、既存の該HST式トランスミッションの部品を流用しながらHMTを構成できる余地が相当程度あり、この流用に成功すれば、HMT式トランスミッションの製造コスト削減に寄与するところ大である。
【0006】
この点、既存のHST式トランスミッションにおいては、エンジンからの動力を伝達する軸は、HSTの油圧ポンプの入力軸と共用とするか、該油圧ポンプの入力軸と同心させて配置して、カップリング等で連結させるのが一般である。一方、前記入力分割型のHMTを用いたHMT式トランスミッションにおいては、遊星歯車機構のうち三要素のうち、一の要素をHSTの油圧ポンプに連動連結するとともに、他の二つの要素をそれぞれ出力側又は入力側へ連結させる必要がある。加えて、遊星歯車機構の前記三要素はすべてその回転軸心を同一とするものであり、そのような三要素それぞれに対する入力又は出力の経路を、互いに干渉することなく配置する必要がある。従って、従来のHMT式トランスミッションは、エンジンからの動力を遊星歯車機構に入力させるための軸を、油圧ポンプの入力軸と軸心を異ならせて配置し、遊星歯車機構と油圧ポンプの入力軸と、及び、油圧モータの出力軸と遊星歯車機構とを、それぞれギアトレーン等で連結するのが通例であった。
【0007】
また、既存のHST式トランスミッションにおいては、ポンプとモータとを一体としたタイプのHSTが広く採用されている。これは、一体型とするとユニット化が可能でありトランスミッション製造時等の取り回しに便宜であること、コンパクト性に優れること、汎用性が高く多量に生産されるためコストを安くできること等の利点があるからであり、また、PTO装置(動力取出し装置)のための動力源を取り出しやすいので、該PTO装置を必要とするトラクタのトランスミッション用として特に広く用いられている。しかし、入力分割型のHMTにおいては、HSTを一体型とすると、遊星歯車機構にエンジンからの動力を入力させるための軸と、該遊星歯車機構とHSTの油圧ポンプ及び油圧モータとを連動連結させる経路が複雑となるため、トラクタのトランスミッションとして用いられるHMT式トランスミッションにおいても、一体型のHSTの採用は困難とされていた。
【0008】
従って、上述のようなレイアウトの差異等により、既存のHST式トランスミッションとできる限り共通性を持たせてHMT式トランスミッションを構成することが、困難であるという事情があった。特に、HMT式トランスミッション用のHSTに、前記の一体型HSTを採用することが困難であることから、HMT式トランスミッション用のHSTを独自に設計製造する必要が生じており、これが設計工数・製造コストの大幅なアップ要因となっていた。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
請求項1においては、エンジンの出力回転の変速を行う油圧・機械式無段変速装置であって、油圧ポンプ(14)と油圧モータ(15)とを流体的に接続したHST(7)と、遊星歯車機構(30)と、を組み合わせて構成されたものにおいて、該HST(7)は、一体的に形成された平板状の油路板(13)をミッションケース(35)内で直立させて設け、該油路板(13)の側面の上半部に油圧ポンプ(14)を、下半部に油圧モータ(15)をそれぞれ付設し、該油路板(13)の内部に穿設される作動油循環経路によって、該油圧ポンプ(14)と油圧モータ(15)を油圧的に結合し、該油圧ポンプ(14)の回転軸心に、エンジンからの駆動力を前記遊星歯車機構(30)に伝達する伝達軸(5)と、該油圧ポンプ(14)を駆動する中空状のポンプ軸(17)と、を配置し、該中空軸としたポンプ軸(17)の内部に、前記伝達軸(5)を貫通させ、ポンプ軸(17)と伝達軸(5)とは相対回転自在とし、該ポンプ軸(17)と伝達軸(5)とは、外嵌し同心させて配置した状態で、前記油路板(13)を貫通して後方へ延出させ、前記遊星歯車機構(30)の三要素である遊星キャリア(31)、インターナルギア(32)、サンギア(33)のうち、該遊星キャリア(31)を前記伝達軸(5)の出力側に連結し、該遊星歯車機構(30)のインターナルギア(32)を前記ポンプ軸(17)の入力側に連結し、前記油圧モータ(15)のモータ軸(21)を、前記サンギア(33)の出力側と連結したものである。
【0011】
請求項2においては、請求項1記載の油圧・機械式無段変速装置において、前記伝達軸(5)が、PTO軸(11)に対する動力伝達軸を兼ねるものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0013】
図1は本発明の一実施例に係るHMT式トランスミッションのスケルトン図である。図2はHMT式トランスミッションにおいて、油圧・機械式無段変速装置の構成を示した側面断面図、図3はモータ軸と副変速第一軸との連結構成を示した側面断面展開図である。
【0014】
以下、図1から図3までを参照しながら、このHMT式トランスミッション100の構成を説明する。このHMT式トランスミッションは、例えば農用トラクタ等の車両に適用が可能であり、具体的には図2に示すように、フライホイール1にダンパ2を介して、このトランスミッション100に対する動力を受け入れるための入力軸3が取り付けられ、該入力軸3の後方に第一の軸たる伝達軸5が同心状に配置されて、該伝達軸5は入力軸3とカップリング4を介して相対回転不能に連結されている。前記入力軸3の後方にはHST7の後述の油圧ポンプ14が配置され、前記伝達軸5は該油圧ポンプ14の回転軸心を貫通しながら後方へ延出される。該伝達軸5の後端にはPTO中間軸8が同心状に配置されて軸支され、該PTO中間軸8はカップリング9を介して前記伝達軸5に連結し、相対回転不能とされている。PTO中間軸8にはPTO主軸10が相対回転不能に連結されて図1に示す如く更に後方に延長され、更には、該PTO主軸10に平行に、リアPTO軸11を配置している。PTO主軸10と該リアPTO軸11との間には、歯車変速式のPTO変速機構12が介設されている。換言すれば、前記伝達軸5は、エンジンからの動力を該リアPTO軸11(及び後述するミッドPTO軸79)に対し伝達する役割を果たしている。
【0015】
このHMT式トランスミッション100に配置される油圧・機械式無段変速装置(HMT)101は、HST7と、差動機構である遊星歯車機構30とを組み合わせて構成される。以下、このHST7について説明する。このHST7は油圧ポンプ・油圧モータ一体型とし、一体的に形成された平板状の油路板13を図2に示す如くミッションケース35内で直立させて設け、該油路板13の一側面の上半部に油圧ポンプ14を、下半部に油圧モータ15をそれぞれ付設し、該油路板13の内部に穿設される図外の作動油循環油路によって、両者14・15が油圧的に結合されている。該油圧ポンプ14及び油圧モータ15の両者は、HSTハウジング16によって覆われる。
【0016】
上記油圧ポンプ14は図2に示すように、該HSTハウジング16内部において前記伝達軸5に相対回転自在に外嵌される、第二の軸たる中空のポンプ軸17と、該ポンプ軸17に対し相対回転不能に嵌合されるシリンダブロック18と、該シリンダブロック18に穿設されたシリンダ孔に油密を保ちながら往復動自在に嵌合される複数のピストン19と、該ピストン19を往復駆動させる斜板カムの作用を行うための可動斜板20とによりなり、可動斜板式のアキシャルピストンポンプとしている。前記ポンプ軸17は油路板13を貫通して後方へ少量延出されており、該ポンプ軸17の後端に、後述する遊星歯車機構30のインターナルギア32が固定される。該可動斜板20は、車両座席に設けた変速操作手段、例えば変速ペダルと、適宜のリンク機構等をもって連係されている。この変速ペダルは例えば、前後二つの踏面を有するシーソー式に構成して、前側の踏面を踏み込むと前進し、後側を踏み込むと後進するようにし、また、その踏込み量に応じて無段に増速できるように構成している。HST7の前記油圧ポンプ14部分の前部にはチャージポンプ6が配設され、前記伝達軸5の動力にて駆動されるように構成し、前記HST7の内部的な油漏れを補償するようにしている。
【0017】
油圧モータ15は、HSTハウジング16内部において前記ポンプ軸17に平行に支持されるモータ軸21と、該モータ軸21に相対回転不能に嵌合されるシリンダブロック22と、該シリンダブロック22に穿設されたシリンダ孔に往復動自在に嵌合される複数のピストン23と、該ピストン23の伸張駆動を前記シリンダブロック22の回転駆動力に変換するための斜板カム作用を行う固定斜板24とによりなり、固定斜板式のアキシャルピストンモータとしている。
【0018】
この構成により、ポンプ軸17に動力を入力させながら前記変速ペダルを踏み込んで前記可動斜板20を中立位置から任意の角だけ傾動させることにより、シリンダブロック18に支持されるピストン19が該可動斜板20により往復駆動されて圧油を吐出し、該吐出された圧油は、前記油路板13内の作動油循環回路を介して、油圧モータ15へ送油される。該圧油は該油圧モータ15のピストン23を伸張駆動させてシリンダブロック22を回転させ、モータ軸21の回転動力として取り出される。
【0019】
次に、遊星歯車機構30について説明する。この遊星歯車機構30は、前記HST7の後方に配置され、前記伝達軸5とPTO中間軸とを連結する前記カップリング9に遊星キャリア31が固設されて、該遊星キャリア31に複数の遊星歯車34・34・・・を軸支している。この遊星歯車群34・34・・・の外周にはインターナルギア32が噛合され、該遊星歯車群34・34・・・の内周にはサンギア33が噛合される。前記インターナルギア32はHST7の前記ポンプ軸17に固定され、HST7を駆動するように構成している。一方、前記サンギア33は、前述のPTO中間軸8に外嵌して相対回転自在とされた、筒状の副変速第一軸25の一端に形設されている。該副変速第一軸25に平行に副変速第二軸26が軸支され、該副変速第二軸26と副変速第一軸25との間には、歯車変速式の副変速機構27が設けられている。
【0020】
また、前記HST14の出力側を構成するモータ軸21には、伝動軸28がカップリング29を介して相対回転不能に連結され、該伝動軸28の後端には出力ギア36が固定される。該出力ギア36は図1・図3に示す如く中間ギア37に噛合され、該中間ギア37は、前記副変速第一軸25に固定された駆動ギア38に噛合される。
【0021】
この構成により、前記遊星キャリア31に入力されたエンジンからの駆動力は、該遊星キャリア31に支持される遊星歯車34・34・・・において二手に分岐され、該分岐された一方はインターナルギア32を介して前記HST7のポンプ軸17に入力されて、HST7による無段変速及び回転方向の変更が行われた後、モータ軸21から伝動軸28→出力ギア36→中間ギア37→駆動ギア38と伝達されて、最終的に副変速第一軸25に伝達される。分岐された他方は、サンギア33に入力され、同じく副変速第一軸25に伝達される。即ち、エンジンからの駆動力を遊星歯車装置30においていったん分岐し、その一方をHST7により無段変速させた上で他方の駆動力と合成させることにより、副変速第一軸25を無段に変速し、あるいは、動力が伝達されない中立状態をも現出できるようにしているのである。
【0022】
前記副変速第一軸25と副変速第二軸26との間に設けられる副変速機構27は、副変速第一軸25上に固定される大径歯車39及び小径歯車40と、前記副変速第二軸26上に相対回転自在に設けられる二つのカウンターギア41・42と、該副変速第二軸26に相対回転不能に係合されるスプラインハブ43と、該スプラインハブ43に相対回転不能かつ軸方向摺動自在に嵌合されるクラッチスライダ44とによりなる。第一のカウンターギア41は大径歯車39と、第二のカウンターギア42は小径歯車40とそれぞれ常時噛合されて、第一のカウンターギア41は高速で、第二のカウンターギア42は低速でそれぞれ回転するようになっており、また、両カウンターギア41・42は、前記クラッチスライダ44に係合し得る係合爪を有している。該クラッチスライダ44は、車両に設けられる副変速レバーと、適宜のリンク機構等を介して連係させている。従って、該副変速レバーの操作により前記クラッチスライダ44を摺動させて二つのカウンターギア41・42のうちいずれか一と選択的に係合させることにより、副変速第二軸26に高速回転又は低速回転を得ることができ、更に、前記クラッチスライダ44をいずれの歯車41・42にも係合しない位置におくことで、駆動力が断たれる状態とすることもできるようになっている。
【0023】
この副変速第二軸26にはデフ駆動軸45がカップリング46を介して相対回転不能に連結され(図1)、該デフ駆動軸45の端部にはベベルギア47が固定される。一方、該ベベルギア47に近接して左右のデフヨーク軸48・48が配置され、該デフヨーク軸48・48の内端側同士をデフ装置49によって差動的に結合している。そして、該デフ装置49を駆動するための入力ベベルギア50を、前記ベベルギア47に噛合させるようにしている。前記デフヨーク軸48・48のそれぞれには減速ギア51が固定され、該減速ギア51は、後車軸52上の歯車53に噛合されて、該後車軸52に固定される後輪54を駆動する。
【0024】
また、前記デフ駆動軸45には前輪駆動歯車55が固設され、該前輪駆動歯車55は中間歯車56に噛合される。また、前記デフ駆動軸45と平行に前輪出力軸57が配置されて、該前輪出力軸57上には摺動歯車58が、相対回転不能かつ軸方向摺動自在に嵌合されている。該摺動歯車58は、車両座席に設けた図外の駆動モード切替レバーに、適宜のリンク機構等を介して連係させている。この構成において、駆動モード切替レバーを傾動操作して前記摺動歯車58を軸方向に摺動させ、前記中間歯車56に係脱させることにより、前輪出力軸57に対する駆動力を断接して、後輪駆動又は四輪駆動の切換を行うことができる。
【0025】
前記前輪出力軸57はドライブシャフト59や自在継手等を介して、フロントアクスル装置60の入力軸61と連動連結される(図1)。該フロントアクスル装置60においては、左右の前車軸62を差動的に連結するためのデフ装置63が配置され、該デフ装置63は左右のデフヨーク軸64・64の内端側同士を連結すべく構成し、前記入力軸61に固設されたベベルギア65により駆動されるようになっている。前記デフヨーク軸64・64の駆動力は、ベベルギア65を介してキングピン軸66→前車軸62と伝達されて、左右の前車輪67を駆動する。
【0026】
この構成の作用について、停止状態の車両を発進させる場合を例に説明する。即ち、エンジンからの動力はフライホイール1から入力軸3→伝達軸5と伝達されて、遊星歯車機構30の遊星キャリア31を駆動する。一方、前記車両が停止状態にあるということは副変速第一軸25が停止していることを意味するので、サンギア33は回転を停止した状態になっている。遊星キャリア31が回転し、サンギア33が停止していることから、インターナルギア32が駆動され、該インターナルギア32の回転がポンプ軸17に伝達されて、油圧ポンプ14が駆動される。ここで、油圧ポンプ14の可動斜板20を中立位置から傾動させると、油圧ポンプ14は圧油を油圧モータ15に対し吐出し、油圧モータ15が駆動される。油圧モータ15の出力側を構成するモータ軸21の回転は、伝動軸28→出力ギア36→中間ギア37→駆動ギア38と伝達されて、副変速第一軸25が駆動され、副変速第二軸26から後車軸52、あるいは前後の車軸52・62に動力が伝達されて、車両が発進されることとなる。
【0027】
前記PTO主軸10とリアPTO軸11との間に配設されるPTO変速機構12は、図1に示す如く、該PTO主軸10に固設される第一原動歯車68及び第二原動歯車69と、前記リアPTO軸11に対し相対回転自在かつ軸方向摺動不能に嵌合される従動歯車70と、同じくリアPTO軸11に対し相対回転不能かつ軸方向摺動自在に嵌合されるクラッチギア71とによりなる。該クラッチギア71は、車両座席の適宜位置に設けたPTO変速レバーと、適宜のリンク機構を介して連係させている。前記従動歯車70は常時前記第一原動歯車68に噛合されるとともに、その側面に爪部を形成している。一方、前記クラッチギア71は軸方向の摺動により前記第二原動歯車69に係脱可能となるよう構成され、かつ前記爪部に向かい合う該クラッチギア71の側面に爪部を設けて、前記従動歯車70の爪部に対して係脱可能となるようにしている。従って、前記PTO変速レバーの操作により該クラッチギア71を軸方向に摺動させ、前記従動歯車70に係合してリアPTO軸11に低速回転を得、又は前記第二原動歯車69に係合してリアPTO軸11に高速回転を得ることができる。
【0028】
前記PTO主軸10には更にミッドPTO駆動ギア72が形設され、また、該PTO主軸10に平行に、PTO伝達軸73及びアイドル軸74が軸支されている。該PTO伝達軸73には入力ギア75が固定され、前記ミッドPTO駆動ギア72の動力が、前記リアPTO軸11に相対回転自在に外嵌された伝達ギア76を介して、該入力ギア75から入力されるようにしている。前記PTO伝達軸73には出力ギア77が固定され、前記アイドル軸74上の遊転歯車78に噛合される。前記アイドル軸74に平行にミッドPTO軸79が配置軸支され、該ミッドPTO軸79に相対回転不能かつ軸方向摺動自在に、クラッチギア80が配設されている。該クラッチギア80は、車両座席の適宜位置に配設したミッドPTOクラッチレバーに、適宜のリンク機構を介して連係させている。従って、該ミッドPTOクラッチレバーの傾動操作により該クラッチギア80を軸方向に摺動させて前記遊転歯車78に係脱させることにより、前記ミッドPTO軸79に対して動力を断接することができる。
【0029】
次に、前記HMT式トランスミッションの実施例との比較対照例として、従来のHST式トランスミッションの構成例を、図4・図5を参照して説明する。図4は既存のHST式トランスミッションのスケルトン図、図5はHST式トランスミッションにおいて、HST近傍の構成を示した側面断面図である。
【0030】
即ち、このHST式トランスミッション200は、エンジンからの動力を遊星歯車機構を介さずHSTのポンプ軸17’に直接連結する点で、前記実施例のHMT式トランスミッション100と異なるものである。具体的には、エンジンからの動力は、ダンパ2、カップリング4を介してHSTのポンプ軸17’に伝達され、HST7の油圧ポンプ14を回転させる。該ポンプ軸17’にはPTO中間軸8にカップリング9を介して連結され、リアPTO軸11・ミッドPTO軸79に対し動力を伝達する役割をもポンプ軸17’に兼ねさせている。この構成において、該油圧ポンプ14の可動斜板20を中立位置から傾動させることにより油圧ポンプ14はポンプ作用を行い、吐出された圧油は油圧モータ15に送られて、モータ軸21を回転させる。該モータ軸21は伝動軸28、出力ギア36、中間ギア37、駆動ギア38を介して、前記PTO中間軸8に相対回転自在に外嵌された、副変速第一軸25に連動連結される。その他の構成、例えばPTO変速装置12や副変速装置27等の構成は、HMT式トランスミッション100と略同様に構成している。
【0031】
即ち、前述のHMT式トランスミッション100は、図2に示す如く、HST7の油圧ポンプ14のポンプ軸17を中空軸として、エンジンから遊星歯車機構30に動力を伝達するための伝達軸5を該ポンプ軸17内を貫通させて設けていることから、エンジンから該遊星歯車機構30に対する動力伝達経路と、HST7とが、互いに干渉しないすっきりしたレイアウトとすることができる。即ち、該動力伝達経路をHST7を迂回させるように設けたり、HST7を分離型としてそのポンプとモータとの間に動力伝達経路を通したりする必要がないのである。従って、コンパクト性に優れるHMT式トランスミッションを構成できる。
【0032】
加えて前記HMT式トランスミッション100は、図2に示す如く、遊星歯車機構30へエンジンからの動力を伝達するための伝達軸5を、HST17の油圧ポンプ14の回転軸心に配置し、エンジンからの動力を受け入れるための入力軸3は、該伝達軸5と同心させて配置し、カップリング4により連結させる構成としている。これは、エンジンからの動力を受け入れる入力軸3を、図5に示す如くHST17の油圧ポンプ14の回転軸心に配置されるポンプ軸17’に同心させて配置し、カップリング4により連結させる、既存のHST式トランスミッション200の通例の動力伝達構成と類似するものであり、共通性の高いものである。従って、HST式トランスミッション200の部品を流用してHMT式トランスミッション100を構成できる余地が広がって、コストの節減に寄与できることにもなる。
【0033】
尚、本実施例においては、前記伝達軸5を遊星キャリア31に、前記ポンプ軸17をインターナルギア32に連結しており、図6の入力分割型における(4)に相当する構成となっている。ただし、前記伝達軸5及びポンプ軸17は、遊星歯車機構30の三要素(遊星キャリア31、インターナルギア32、サンギア33)のうち、別の要素にそれぞれ連結する構成とすることもできる。
【0034】
【発明の効果】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示すような効果を奏する。
【0035】
請求項1に示す如く、エンジンの出力回転の変速を行う油圧・機械式無段変速装置であって、油圧ポンプ(14)と油圧モータ(15)とを流体的に接続したHST(7)と、遊星歯車機構(30)と、を組み合わせて構成されたものにおいて、該HST(7)は、一体的に形成された平板状の油路板(13)をミッションケース(35)内で直立させて設け、該油路板(13)の側面の上半部に油圧ポンプ(14)を、下半部に油圧モータ(15)をそれぞれ付設し、該油路板(13)の内部に穿設される作動油循環経路によって、該油圧ポンプ(14)と油圧モータ(15)を油圧的に結合し、該油圧ポンプ(14)の回転軸心に、エンジンからの駆動力を前記遊星歯車機構(30)に伝達する伝達軸(5)と、該油圧ポンプ(14)を駆動する中空状のポンプ軸(17)と、を配置し、該中空軸としたポンプ軸(17)の内部に、前記伝達軸(5)を貫通させ、ポンプ軸(17)と伝達軸(5)とは相対回転自在とし、該ポンプ軸(17)と伝達軸(5)とは、外嵌し同 心させて配置した状態で、前記油路板(13)を貫通して後方へ延出させたので、HST(7)を駆動するためのポンプ軸(17)の内部に、駆動力を前記遊星歯車機構(30)に伝達する伝達軸(5)を貫通させて配置することで、駆動力を前記遊星歯車機構(30)に伝達するための経路を、HST(7)と干渉せずに設けることができる。即ち、駆動力を前記遊星歯車機構(30)に伝達するための経路をHST(7)を迂回させて設けたり、該HST(7)をポンプ・モータ分離型として両者の間に前記経路を通したりする必要がないのである。
このことより、すっきりした簡素な動力伝達レイアウトを提供でき、油圧・機械式無段変速装置のコンパクト化に寄与できる。
また、エンジンからの動力を遊星歯車機構(30)に伝達する伝達軸(5)が、前記油圧ポンプ(14)の回転軸心に配置されるので、エンジンからの動力をHSTポンプ軸に同心させて配置させるのが一般である既存のHST式トランスミッションと共通性の高い動力伝達レイアウトとすることができる。
従って、HST式トランスミッションの部品を流用してHMT式トランスミッションを構成できる余地が増大し、これはコストの節減に寄与できることを意味する。
【0036】
また、前記遊星歯車機構(30)の三要素である遊星キャリア(31)、インターナルギア(32)、サンギア(33)のうち、該遊星キャリア(31)を前記伝達軸(5)の出力側に連結し、該遊星歯車機構(30)のインターナルギア(32)を前記ポンプ軸(17)の入力側に連結し、前記油圧モータ(15)のモータ軸(21)を、前記サンギア(33)の出力側と連結したので、HST(7)を駆動するためのポンプ軸(17)の内部に、駆動力を前記遊星歯車機構(30)の遊星キャリア(31)に伝達して駆動させるための伝達軸(5)を貫通させて配置することができ、駆動力を前記遊星歯車機構(30)に入力させるための経路を、HST(7)と干渉せずに設けることができる。
また、該遊星歯車機構の他の二の要素のうちインターナルギア(32)を前記ポンプ軸(17)に連結させる構成であるので、該インターナルギア(32)から油圧ポンプ(14)からに動力を伝達させるための経路を、エンジンからの駆動力を前記遊星歯車機構(30)に入力させるための経路と干渉させずに設けることが容易である。
従って、すっきりした簡素な動力伝達レイアウトを提供でき、油圧・機械式無段変速装置のコンパクト化に寄与できる。
また、エンジンからの動力を遊星歯車機構(30)に伝達する伝達軸(5)が、前記油圧ポンプ(14)の回転軸心に配置されるので、エンジンからの動力をHSTポンプ軸に同心させて配置させるのが一般である既存のHST式トランスミッションと、共通性の高い動力伝達レイアウトとすることができる。従って、HST式トランスミッションの部品を流用してHMT式トランスミッションを構成できる余地が増大し、これはコストの節減に寄与できることを意味する。
【0037】
請求項2に示す如く、前記伝達軸(5)がPTO軸(11)に対する動力伝達軸を兼ねるので、前記伝達軸(5)から動力を取り出す構成とすることで、動力取出し装置の構成を簡素なものとすることができる。従って、トラクタのトランスミッションとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例に係るHMT式トランスミッションのスケルトン図。
【図2】 HMT式トランスミッションにおいて、油圧・機械式無段変速装置の構成を示した側面断面図。
【図3】 モータ軸と副変速第一軸との連結構成を示した側面断面展開図。
【図4】 従来のHST式トランスミッションのスケルトン図。
【図5】 従来のHST式トランスミッションにおいて、HST近傍の構成を示した側面断面図。
【図6】 HMTの十二のタイプについてそれぞれ略示した図。
【符号の説明】
5 伝達軸(第一の軸)
7 HST
14 油圧ポンプ
15 油圧モータ
17 ポンプ軸(第二の軸)
30 遊星歯車機構(差動機構)
100 HMT式トランスミッション
101 HMT(油圧・機械式無段変速装置)
Claims (2)
- エンジンの出力回転の変速を行う油圧・機械式無段変速装置であって、油圧ポンプ(14)と油圧モータ(15)とを流体的に接続したHST(7)と、遊星歯車機構(30)と、を組み合わせて構成されたものにおいて、該HST(7)は、一体的に形成された平板状の油路板(13)をミッションケース(35)内で直立させて設け、該油路板(13)の側面の上半部に油圧ポンプ(14)を、下半部に油圧モータ(15)をそれぞれ付設し、該油路板(13)の内部に穿設される作動油循環経路によって、該油圧ポンプ(14)と油圧モータ(15)を油圧的に結合し、該油圧ポンプ(14)の回転軸心に、エンジンからの駆動力を前記遊星歯車機構(30)に伝達する伝達軸(5)と、該油圧ポンプ(14)を駆動する中空状のポンプ軸(17)と、を配置し、該中空軸としたポンプ軸(17)の内部に、前記伝達軸(5)を貫通させ、ポンプ軸(17)と伝達軸(5)とは相対回転自在とし、該ポンプ軸(17)と伝達軸(5)とは、外嵌し同心させて配置した状態で、前記油路板(13)を貫通して後方へ延出させ、前記遊星歯車機構(30)の三要素である遊星キャリア(31)、インターナルギア(32)、サンギア(33)のうち、該遊星キャリア(31)を前記伝達軸(5)の出力側に連結し、該遊星歯車機構(30)のインターナルギア(32)を前記ポンプ軸(17)の入力側に連結し、前記油圧モータ(15)のモータ軸(21)を、前記サンギア(33)の出力側と連結したことを特徴とする、油圧・機械式無段変速装置。
- 請求項1記載の油圧・機械式無段変速装置において、前記伝達軸(5)が、PTO軸(11)に対する動力伝達軸を兼ねることを特徴とする、油圧・機械式無段変速装置。
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