本発明は、ガス種を分別する機能を有するガスセンサに関し、特に、接触燃焼式ガスセンサを用いたガスセンサ、及び煙も分別する機能を有する煙ガス分別センサに関する。
従来、汎用性の高い接触燃焼式ガスセンサを用いてガス漏れ検知等を行うガス検知装置が数多く提案されている。この一例を図13を用いて説明する。図13は、従来のガス検知装置に用いられる接触燃焼式ガスセンサの概観図である。特に、図13(A)及び(B)はそれぞれ、従来の接触燃焼式ガスセンサの感応素子部及び補償素子部の概観図である。
この種の接触燃焼式ガスセンサは、可燃性ガスと空気中の酸素を触媒上で燃焼させることで得られる燃焼熱を白金コイルの抵抗変化としてとらえるようにしている。図13(A)に示すように、感応素子部は、20umφの(白金)Ptコイル42Aに直径約1mmの球状になるように、Pd/Al2O3触媒層43Aが塗布されている。また、図13(B)に示すように、補償素子部は、同様のPtコイル44Aに直径約1mmの球状になるように、Al2O3触媒層45Aが塗布されている。そして、実用的には、可燃性ガスに対するPtコイル42Aの抵抗変化が微少であるため、上記感応素子部及び補償素子部をブリッジ回路に組み込み、直流又はパルスをこのブリッジ回路の両端に印加し、可燃性ガスに対するブリッジ回路の中点電圧の変化を、センサ出力として測定する。
図14は、上述の従来の接触燃焼式ガスセンサによるガス濃度とセンサ出力の関係を示すグラフである。図中、Gc1はイソブタンの出力特性を示し、同様に、Gc2は水素、Gc3はエタノール、そしてGc4はメタンの出力特性を示す。この図に示すように、上記4種のガスに対応するセンサ出力は、ガス濃度増加に対して単調増加する、いずれも類似した特性を有する。ここで、エタノールは、酒類を起因とする日常生活で頻繁に発生する無害なものの例である。一方、イソブタン、水素、メタン等は、ガス漏れ等を起因として非日常的に発生する有害なガスとして検出すべきものの例である。
ところが、上述の従来の接触燃焼式ガスセンサは、熱容量が大きく、応答性及び測定精度もよくなかったので、図14に示すように、いずれのガスに対しても類似の出力特性を呈し、これらを分離識別して検出することは困難であった。したがって、従来の接触燃焼式ガスセンサを用いたガスセンサ装置は、すべてのガス種に共通のガス検知基準値を設定し、この基準値に基づいて、ガス検知をせざるを得なかった。この結果、通常の家庭内に存在する酒類や調味料等に起因するエタノール系ガスや酢酸系ガス等の無害なガスにも、ガスセンサが反応し誤警報する可能性があった。そこで、この点を改善した他の従来例として、ガス種に対する選択性を持たせるため、センサキャップに活性炭等のフィルターをつけたガスセンサ装置も提案されている。更に、他の従来例として、ガス種に対応させた複数の特性の異なるガスセンサを備えて、これらを同時に駆動させるようにしたガスセンサ装置等も提案されている。ところが、これらの従来例でも、フィルター等の選択性を持たせるための手段が別途必要となったり、複数の特性の異なるガスセンサが必要となったりして、装置の複雑化、大型化や消費電力増大によりコスト高を招くという問題があった。
よって本発明は、上述した現状に鑑み、接触燃焼式ガスセンサの構造及びセンサ出力取得タイミングを最適化して、1つの接触燃焼式ガスセンサだけで複数のガス種を分別できるようにして、小型化及び低コスト化を達成したガスセンサを提供することを課題としている。また、検出高速化及び低消費電力化を達成したガスセンサを提供することを課題としている。
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の有極性ガス分別機能付ガスセンサは、図8〜図12に示すように、ガス漏れ検出すると共に、間欠的に通電されて駆動する接触燃焼式ガスセンサ40の通電開始時点から前記接触燃焼式ガスセンサ40のセンサ出力が安定する定常時点までの立上り期間における前記センサ出力を利用して有極性ガスを分別する有極性ガス分別機能付ガスセンサであって、前記接触燃焼式ガスセンサ40に対する通電間隔の変動に伴う、前記立上り期間における前記センサ出力の最大値と前記定常時点における前記センサ出力の値である定常値との比率の変動具合に基づいて前記有極性ガスを分別することを特徴とする。
請求項1記載の発明によれば、接触燃焼式ガスセンサ40のセンサ出力の立上り期間における最大値と定常時点における定常値との比率を利用して有極性ガスを分別する。すなわち、接触燃焼式ガスセンサ40を用いて上記最大値及び定常値を取得すると、その比率はガス種により通電間隔の変動に伴う変動具合が異なることに着目することによって、有極性ガスの分別が可能になる。このように、接触燃焼式ガスセンサ40のセンサ出力の立上り期間における最大値と定常時点における定常値との比率を利用することにより、ガス漏れ検出をする接触燃焼式ガスセンサ40を用いて有極性ガスが分別できるようになる。
上記課題を解決するためになされた請求項2記載の有極性ガス分別機能付ガスセンサは、図8〜図12に示すように、請求項1記載の有極性ガス分別機能付ガスセンサにおいて、前記有極性ガスの飽和吸着時間に基づいて設定された第1通電間隔による前記センサ出力の前記最大値及び前記定常値を取得する第1センサ出力取得手段101aと、この第1通電間隔よりも長い第2通電間隔による前記センサ出力の前記最大値及び前記定常値を取得する第2センサ出力取得手段101bと、前記第1センサ出力取得手段101aにより取得された前記最大値及び前記定常値による前記比率を、第1出力比として算出する第1出力比算出手段102と、前記第2センサ出力取得手段101bにより取得された前記最大値及び前記定常値による前記比率を、第2出力比として算出する第2出力比算出手段103と、前記第1出力比と前記第2出力比との比較に基づいて、前記有極性ガスを分別する第1分別手段104と、前記第1分別手段104による分別結果を出力するガス検知出力手段300とを含むことを特徴とする。
請求項2記載の発明によれば、有極性ガスの飽和吸着時間に基づいて設定された第1通電間隔によるセンサ出力から算出された第1出力比と、上記第1通電間隔よりも長い第2通電間隔によるセンサ出力から算出された第2出力比との比較に基づいて、有極性ガスを分別するようにしている。すなわち、有極性ガスの飽和吸着時間を考慮して通電間隔を設定すると有極性ガスの出力比が安定的になることを利用することにより、有極性ガスを他と分別するようにしている。このように、有極性ガスの飽和吸着時間を考慮して通電間隔を設定すると有極性ガスの出力比が安定的になることを利用することにより、ガス漏れ検出をする接触燃焼式ガスセンサ40を用いて有極性ガスの分別が可能になる。
上記課題を解決するためになされた請求項3記載の有極性ガス分別機能付ガスセンサは、図8〜図12に示すように、請求項2記載の有極性ガス分別機能付ガスセンサにおいて、前記有極性ガスは、前記通電間隔によらず前記出力比が約5倍程度である第1有極性ガスと、前記通電間隔によらず前記出力比が約10〜13倍程度である第2有極性ガスとを含み、前記第1出力比又は前記第2出力比に基づいて、前記第1有極性ガスと前記第2有極性ガスとを分別する第2分別手段105を更に含み、前記ガス検知出力手段300は、前記第2分別手段105による分別結果も出力することを特徴とする。
請求項3記載の発明によれば、有極性ガスの分別に加えて、更に有極性ガスのうち、通電間隔によらず出力比が約5倍程度である第1有極性ガスと、出力比が約10〜13倍程度である第2有極性ガスとが分別可能になる。
上記課題を解決するためになされた請求項4記載の有極性ガス分別機能付ガスセンサは、図8〜図12に示すように、請求項3記載の有極性ガス分別機能付ガスセンサにおいて、前記第1通電間隔及び前記第2通電間隔はそれぞれ、約10秒及び約30秒であり、前記第1有極性ガスはエタノールを起因として発生するガスであり、前記第2有極性ガスは酢酸を起因として発生するガスであることを特徴とする。
請求項4記載の発明によれば、エタノールを起因として発生する第1有極性ガス、酢酸を起因として発生する第2有極性ガスが分別できるようになる。エタノール及び酢酸を起因として発生するガスは日常的に酒や調味料から発生される可能性が高いので、これらを分別することにより誤警報を防止できるようになる。
上記課題を解決するためになされた請求項5記載の有極性ガス分別機能付ガスセンサは、図4に示すように、請求項1、2、3、又は4記載の有極性ガス分別機能付ガスセンサにおいて、前記接触燃焼式ガスセンサ40は、シリコンウエハに支持された絶縁膜上にヒータ素子及び触媒層が形成され、更に前記シリコンウエハの裏面からエッチングされて薄膜ダイヤフラムが形成されていることを特徴とする。
請求項5記載の発明によれば、接触燃焼式ガスセンサ40は、シリコンウエハに支持された絶縁膜上にヒータ素子及び触媒層が形成され、更にシリコンウエハの裏面からエッチングされて薄膜ダイヤフラムDsが形成されているので、熱容量を小さくできる。
上記課題を解決するためになされた請求項6記載の煙有極性ガス分別機能付ガスセンサは、ガス漏れ検出すると共に、間欠的に通電されて駆動する接触燃焼式ガスセンサ40の通電開始時点から前記接触燃焼式ガスセンサ40のセンサ出力が安定する定常時点までの立上り期間における前記センサ出力を利用して有極性ガス及び火災時に発生する煙を分別する煙有極性ガス分別機能付ガスセンサであって、前記接触燃焼式ガスセンサ40に対する通電間隔の変動に伴う、前記立上り期間における前記センサ出力の最大値と前記定常時点における前記センサ出力の値である定常値との比率の変動具合に基づいて、前記有極性ガス及び煙を分別することを特徴とする。
請求項6記載の発明によれば、接触燃焼式ガスセンサ40のセンサ出力の立上り期間における最大値と定常時点における定常値との比率を利用することにより、ガス漏れ検出をする接触燃焼式ガスセンサ40を用いて、有極性ガス及び火災時に発生する煙を分別できるようになる。また、ガス種分別用フィルタ等も不要になる。この結果、小型、低価格かつ更に高性能のガスセンサが得られる。
請求項1記載の発明によれば、接触燃焼式ガスセンサ40のセンサ出力の立上り期間における最大値と定常時点における定常値との比率を利用することにより、ガス漏れ検出をする接触燃焼式ガスセンサ40を用いて有極性ガスが分別できるようになる。また、ガス種分別用フィルタ等も不要になる。この結果、小型、低価格かつ高性能のガスセンサが得られる。
請求項2記載の発明によれば、有極性ガスの飽和吸着時間を考慮して通電間隔を設定すると有極性ガスの出力比が安定的になることを利用することにより、ガス漏れ検出をする接触燃焼式ガスセンサ40を用いて有極性ガスの分別が可能になる。この結果、小型、低価格かつ高性能のガスセンサが得られる。
請求項3記載の発明によれば、有極性ガスの分別に加えて、更に有極性ガスのうち、通電間隔によらず出力比が約5倍程度である第1有極性ガスと、出力比が約10〜13倍程度である第2有極性ガスとが分別可能になる。このため、更に高性能で信頼性の高いガスセンサが得られる。
請求項4記載の発明によれば、エタノールを起因として発生する第1有極性ガス、酢酸を起因として発生する第2有極性ガスが分別できるようになる。酢酸及びエタノールを起因として発生するガスは日常的に酒や調味料から発生される可能性が高いので、これらを分別できるようになるということは、誤警報の少ない信頼性の高いガスセンサが得られるということになる。
請求項5記載の発明によれば、接触燃焼式ガスセンサ40は、シリコンウエハに支持された絶縁膜上にヒータ素子及び触媒層が形成され、更にシリコンウエハの裏面からエッチングされて薄膜ダイヤフラムDsが形成されているので、熱容量を小さくできる。この結果、消費電力が低減され、かつガス濃度変化に対して高速に応答し、更に測定精度が向上するようになる。
請求項6記載の発明によれば、接触燃焼式ガスセンサ40のセンサ出力の立上り期間における最大値と定常時点における定常値との比率を利用することにより、ガス漏れ検出をする接触燃焼式ガスセンサ40を用いて、有極性ガス及び火災時に発生する煙を分別できるようになる。また、ガス種分別用フィルタ等も不要になる。この結果、小型、低価格かつ更に高性能のガスセンサが得られる。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
参考例
まず、図1〜図7を用いて、参考例について説明する。
この参考例においては、まず、図1〜図3を用いて基本構成、駆動波形及びガス種分別方法について説明する。図1は、参考例のガス種分別機能付ガスセンサの参考例の基本構成を示すブロック図である。図2(A)及び(B)は、参考例に関わる駆動波形の例を示すタイムチャートである。図3は、参考例に関わるガス種分別のための判定基準及びガス判定パターンを示す説明図である。
図1に示すように、コントローラ10には、駆動電源20、ガス検知出力手段30、及び検出用のブリッジ回路を含む接触燃焼式ガスセンサ40が接続されている。このガス種分別機能付ガスセンサでは、図2に示すような駆動パルスが供給されて接触燃焼式ガスセンサ40が通電制御され、このセンサ40のセンサ出力に基づいてコントローラ10で、ガス種が分別されてガス検知出力される。この分別原理は、図6に示すように、接触燃焼式ガスセンサ40の通電開始時点からセンサ出力が安定する定常時点までの立上り期間におけるセンサ出力が、特定種のガス(例えば、酢酸、エタノール等)に対して固有のピーク波形を呈することを利用するものであるが、これに関しては再度後述する。
上記コントローラ10は、図2(A)に示すように、10秒間のパルスOFF期間と400msの通電期間D10とで1周期が構成される駆動パルスの通電期間D10において、図2(B)に示すように、パルスONから5ms時点T5、同10ms時点T10、同20ms時点T20、及び同300ms時点T300において、それぞれセンサ出力を取得する。これらの各時点T5、T10、T20及びT300は、特定のガス固有のピーク波形を識別して検出しやすいように、予め採取したデータに基づいて設定されたものである。
コントローラ10は、センサ出力取得手段11、第1〜3判定手段12〜14、ガス種分別手段15、判定パターン格納手段16、センサ駆動制御手段17及び補正手段18を含む。コントローラ10は、ハードウエアとして、演算部、記憶部及びタイマ部等を有し、上記各手段11〜16は、記憶部に格納される制御プログラムにしたがって演算部が行う後述する図7の処理動作に対応するものである。
上記センサ出力取得手段11は、補正手段18を介して、図2に示す各時点T5、T10、T20及びT300でセンサ出力を取得する。そして、このセンサ出力取得手段11は、各時点T5、T10、T20及びT300にそれぞれ対応する、第1時点出力取得手段11a、第2時点出力取得手段11b、第3時点出力取得手段11c及び第4時点出力取得手段11dから構成される。例えば、第1時点出力取得手段11aはパルスONから5ms時点T5でのセンサ出力を取得し、同様に、第2時点出力取得手段11b、第3時点出力取得手段11c及び第4時点出力取得手段11dもそれぞれ、10ms時点T10、20ms時点T20及び300ms時点T300でのセンサ出力を取得する。
第1〜3判定手段12〜14は、上記センサ出力取得手段11から供給される各時点でのセンサ出力を受けて、図3の説明図に示す判定基準にしたがって、Y又はNの判定結果を出力する。図1の第1判定手段12、第2判定手段13及び第3判定手段14はそれぞれ、図3の第1判定YN1、第2判定YN2及び第3判定YN3に対応した方法でY又はNの判定を下す。例えば、この第1判定手段12は、第1判定YN1に示す判定基準にしたがい、10ms時点出力S10(上記時点T10でのセンサ出力)と5ms時点出力S5(上記時点T5でのセンサ出力)とを比較して、この判定基準を満たすと上記Y、さもなければNを出力する。第2判定手段13及び第3判定手段14も同様にそれぞれ、図3に示す判定基準、第2判定YN2及び第3判定YN3にしたがい、Y又はNを出力する。
ところで、上記第1判定手段12は、10ms時点出力S10と、5ms時点出力S5とを比較して、上記Y又はNを出力している。また、図3には記載していないが、0ms時点出力(パルスON時点でのセンサ出力)と上記5ms時点出力S5とを比較すると、いずれのガスの場合にも、5ms時点出力S5の方が大きくなる。すなわち、上記第1判定手段12のY又はNの出力により、0〜10ms時点(第1立上り期間に相当)のセンサ出力のピーク波形の有無が検出されることになる。同様に、10〜300ms時点(第2立上り期間に相当)におけるセンサ出力のピーク波形の有無は、上記第2判定手段13及び第3判定手段14により検出されることになる。すなわち、第1判定手段12は第1ピーク有無検出手段に相当し、第2判定手段13及び第3判定手段14は第2ピーク有無検出手段に相当する。なお、5ms時点T5は特定の立上り初期時点に相当し、300ms時点T300は定常時点に相当する。これら時点T5及びT300は、参考例において、後述する酢酸及びエタノールの特性及びセンサ性能を考慮して設定したものであり、分別ガスが異なったり、センサ性能が異なる場合には、適宜、変更してもよい。
ガス種分別手段15は、上記第1〜3判定手段12〜14で出された各Y又はNの判定結果を受け、判定パターン格納手段16に格納されるガス判定パターン(図3に示す)を参照することにより、センサ出力が、酢酸、エタノール又はメタン、H2等の3つのパターンのいずれに一致するかを判定して、その判定結果、すなわち、ガス分別結果を出力する。例えば、第1判定YN1がN、第2判定YN2がY、そして第3判定YN3がNであれば、ガス種分別手段15は、この時点でのセンサ出力から酢酸を分別検出したことになる。同様に、第1判定YN1がY、第2判定YN2がY、第3判定YN3がNならエタノール、第1判定YN1がY、第2判定YN2がY、第3判定YN3がYならメタン、H2等を分別検出したことになる。なお、この分別については、図5及び図6において、データを用いてより具体的に説明する。
センサ駆動制御手段17は、接触燃焼式ガスセンサ40に対して駆動電源20を通電制御して図2(A)、(B)で示すような10秒間のパルスOFF期間と400msの通電期間D10とで1周期が構成される駆動パルスを、電源ONされて所定のトリガーが有るまで、継続的に発生させる。なお、図2(A)、(B)で示す駆動パルスにおいて、OFFに相当する駆動パルスのレベルは、必ずしもゼロではない。すなわち、この駆動パルスはセンサ出力取得手段11で所望のセンサ出力が取得されやすいように、直流バイアスが印加されることもある。
補正手段18は、後述するブリッジ回路からの検出出力に所定の補正をしたものをセンサ出力として、上記センサ出力取得手段11に供給する。すなわち、図2で示す駆動パルスによる純粋な空気中における上記ブリッジ回路からの検出出力を初期検出出力として予め計測しておき、この初期検出出力を実際に上記ブリッジ回路から得られる検出出力から減算したものを、上記センサ出力として上記センサ出力取得手段11に供給する。
上記駆動電源20は、既成の電池等が用いられる。またガス検知出力手段30は、上記コントローラ10のガス種分別手段15からガス種判定結果を受けてその判定結果を出力する。ガス検知出力手段30は、例えば、ガス漏れ警報を音声や発光表示等により発する公知のスピーカやLED及びそれらのドライバー回路で構成される。上記判定結果が酢酸、又はエタノールを示す場合には、それらは人体に無害なので、ガス検知出力手段30から警報を出さないようにする。又は、表示のみで音声警報は出さないようにする。上記判定結果がH2等を示す場合には、異常事態なので、音声警報、又は音声警報と表示警報の両方を出すようにする。なお、酢酸、又はエタノールの検出を区別するために、異なる色のLED表示をさせるようにしてもよい。
上記接触燃焼式ガスセンサ40は、上記図2(A)及び(B)で示すような駆動パルスが供給されて、間欠的に駆動する。この接触燃焼式ガスセンサ40は、基本的に、感応素子部Rs及び補償素子部Rrから構成されている。感応素子部Rsは(白金)Ptヒータ42及びPd/Al2O3触媒層43を含み、補償素子部RrはPtヒータ44及び(アルミナ)Al2O3触媒層45を含む。上記Ptヒータ42、44は、固定抵抗R1、R2及び可変抵抗Rvと共にブリッジ回路を構成している。そして、このブリッジ回路のPtヒータ44及び固定抵抗R1の接続点、並びにPtヒータ42及び固定抵抗R2の接続点には、上記コントローラ10を介して駆動パルスが所定のインターバルで間欠的に供給される。また、Ptヒータ42及び44の接続点、並びに可変抵抗Rvからは、センサ出力としての電圧値がコントローラ10に供給される。
この接触燃焼式ガスセンサ40を使用するに際しては、まず、検出動作開始前に、上記補正手段18からセンサ出力取得手段11に供給されるセンサ出力がゼロになるように上記可変抵抗Rvを調整する。この状態において、COガス等が感応素子部Rsに触れると触媒作用により、この素子の表面で酸化されて反応熱が生じる。この反応熱により、Ptヒータ42の抵抗値が上昇し、この抵抗値の上昇によりブリッジ回路の平衡が崩れ、コントローラ10に上記センサ出力が供給される。この場合、Ptヒータ44は周囲温度の変動によるPtヒータ42の抵抗値の変動を相殺し、反応熱に起因するPtヒータ42の抵抗値の変動成分のみを取り出せるように補償する。上記接触燃焼式ガスセンサ40の構造については、図4を用いて後述する。
次に、図4を用いて上記参考例で用いられる接触燃焼式ガスセンサ40の構造について説明する。図4(A)、(B)及び(C)はそれぞれ、この接触燃焼式ガスセンサ40の平面図、背面図及びAA線断面図である。
図4(A)及び(B)に示すように、この接触燃焼式ガスセンサは、(シリコン)Siウエハ41の上に、(酸化)SiO2膜48c、(窒化)SiN膜48b、及び(酸化ハフニウム)HfO2膜48aからなる絶縁薄膜が生膜され、その上に、感応素子部Rsとして(白金)Ptヒータ42及びPd/Al2O3触媒層43、補償素子部Rrとして(白金)Ptヒータ44及び(アルミナ)Al2O3触媒層45が形成されている。また、図3(C)に示すように、異方性エッチングして凹部46及び47を形成して、それぞれ薄膜ダイヤフラムDs及びDrを形成することにより熱容量を小さくしている。このような構成にすることにより、高速反応可能でかつ測定精度が向上した接触燃焼式ガスセンサが得られる。また、熱容量が小さくなるので、消費電力が低減される。
次に、図5及び図6を用いて上記実施形態で用いられる接触燃焼式ガスセンサ40による各ガスの出力特性について説明する。図5及び図6はそれぞれ、接触燃焼式ガスセンサ40による無極性ガス及び有極性ガスのセンサ出力特性を示すグラフである。なお、図5及び図6においては、横軸は、前述の図2に示したような駆動パルスを接触燃焼式ガスセンサ40に供給した際のパルスON時点(図中、0時点)からの経過時間を示す。
図5において、Sv1は(一酸化炭素)COガスのセンサ出力特性を示し、同様に、Sv2、Sv3及びSv4はそれぞれ、(メタン)CH4ガス、(水素)H2ガス、(イソブタン)i・C4H10ガスのセンサ出力特性を示す。これらのガスは主にガス漏れ時に発生するものであり、ここでは、各ガスの濃度は共に1000ppmにしてデータを採取した。この図5に示すように、4種類のガスに対してセンサ出力は、0時点(パルスON時点)から100ms経過するまでは特有の波形を描いて上昇するが、100ms以降は固有出力値の定常状態になることがわかる。しかしながら、これらの無極性ガスは、パルスON時点から100ms経過時点まではいずれも単調に増加し、その後はそれぞれ各ガス固有の一定値で安定する共通の変動パターンを有することがわかる。このような特性を利用して、本接触燃焼式ガスセンサ40は、ガス漏れ等の異常事態を検出することができる。
また、図6において、Sv5は(酢酸)CH3COOHガスのセンサ出力特性を示し、Sv6は(エタノール)C2H5OHガスのセンサ出力特性を示す。これらのガスは主に日常生活で台所等で調味料や酒類を起因として発生するものであり、ここでは、各ガスの濃度は共に1000ppmにしてデータを採取した。この図6のSv5で示すように、酢酸に対するセンサ出力は、パルスON時点から5ms経過するまで急激に上昇してこの時点で第1ピークを迎えた後、急激に下降する。そして、10ms経過時点で極小になった後、再び急激に上昇して30ms経過時点で第2ピークを迎える。そして、その後は単調に減少し200ms経過時点で固有出力値の定常状態になる。すなわち、このSv5に示す酢酸に対するセンサ出力は、定常状態になるまでに2つのピークを有するピーク波形になることがわかる。この酢酸は、の第1ガスに相当する。
更に、図6のSv6で示すように、エタノールに対するセンサ出力は、パルスON時点から30ms経過するまで急激に上昇してこの時点でピークを迎えた後は、単調に減少し200ms経過時点で固有出力値の定常状態になる。すなわち、このSv6に示すエタノールに対するセンサ出力は、定常状態になるまでに1つのピークを有するピーク波形になることがわかる。このような固有のピーク波形特性を利用して、本接触燃焼式ガスセンサ40は酢酸及びエタノールを分別して検出することができる。このエタノールは、第2ガスに相当する。
上記のような特有なパルス波形が発生する理由としては、吸着力が大きな要因になるものと考えられる。すなわち、酢酸やエタノール等の極性が大きく、吸着力の大きなガスは、パルスOFF期間にガス分子がセンサ表面に吸着し、パルスONしセンサが通電されると吸着したガスは瞬時に燃焼するので、これに伴いセンサ出力も大きくなる。なお、このときには接触燃焼反応も同時に起こっている。一方、メタン、水素、一酸化炭素等の無極性、又は極性の小さいガスは、吸着力も小さいので、上記のような現象は起こらず、センサ出力は定常値で安定するまで徐々に増加していく。
このように、特定種のガスが固有のピーク波形を呈することを利用してガス種を分別するようにしているので、1つの接触燃焼式ガスセンサを用いるだけで複数のガス種を分別できるようになる。これにより、日常的に酒や調味料から発生される酢酸及びエタノールを起因として発生するガスが分別できるようになり、誤警報の少ない信頼性の高いガスセンサが得られる。
上述の図5及び図6のような各ガスのセンサ出力特性を利用して、ガス種分別を行うために上記コントローラ10が行う処理動作について、図7を用いて説明する。
図7は、本発明の参考例に関わる処理動作を示すフローチャートである。この実施形態では、図2で示したような駆動パルスを用いて、通電期間D10における5ms時点T5、10ms時点T10、20ms時点T20、及び300ms時点T300において、それぞれセンサ出力を取得する。そして、各時点T5、T10、T20及びT300で取得されたセンサ出力が、図3に示す判定基準でY/N判定された後、図3に示すガス判定パターンを参照して、ガス種が判定される。これにより、ひとつの接触燃焼式ガスセンサを用いて、複数種のガスを分別するものである。
図7のステップP1においては、図2で示した駆動パルスの通電期間D10における5ms時点T5において接触燃焼式ガスセンサ40のセンサ出力が、5ms時点出力S5として取得される。同様に、ステップP2、ステップP3、及びステップP4においてはそれぞれ、図2で示した駆動パルスの通電期間D10における10ms時点T10、20ms時点T20、及び300ms時点T300において、それぞれセンサ出力が10ms時点出力S10、20ms時点出力S20、及び300ms時点出力S300として取得される。これらの出力S5、S10、S20、及びS300は、コントローラ10の有する記憶部に一時保存される。
次に、ステップP5においては、上記一時格納されている5ms時点出力S5及び10ms時点出力S10が読み出され、これらが判定パターン格納手段16に格納される図3で示した判定基準に基づきY/N判定される。同様に、ステップP6においては10ms時点出力S10及び20ms時点出力S20が読み出され、ステップP7においては20ms時点出力S20及び300ms時点出力S300が読み出され、これらが判定パターン格納手段16に格納される図3で示した判定基準に基づきY/N判定される。これらの各Y/N判定結果もコントローラ10の有する記憶部に一時保存される。なお、上記ステップP5は第1ピーク有無検出手段に相当する。また、上記ステップP6及びステップP7は第2ピーク有無検出手段に相当する。
そして、ステップP8において、上記一時格納されている第1判定YN1、第2判定YN2及び第3判定YN3よる判定結果が読み出され、これらが判定パターン格納手段16に格納される図3で示したガス判定パターンと比較されて、ガス種が分別される。ステップP8における判定が、第1判定YN1、第2判定YN2、第3判定YN3の順にN、Y、NであればステップP9の酢酸検知出力処理に移行し、Y、Y、NであればステップP10のエタノール検知出力処理に移行し、そして、Y、Y、YであればステップP11のメタン、H2等検知出力処理に移行する。なお、上記ステップP8はガス種分別手段に相当する。
ステップP9及びステップP10における酢酸検知出力処理及びエタノール検知出力処理では、それらは人体に無害なので、ガス検知出力手段30から警報を出さないようにする。又は、表示のみで音声警報は出さないようにする。又は、酢酸、又はエタノールの検出を区別するために、ステップP9及びステップP10において、異なる色のLED表示をさせるようにしてもよい。
一方、ステップP11におけるメタン、H2等検知出力処理では、それは異常事態の可能性があるので、ガス検知出力手段300から音声警報、又は音声警報と表示警報の両方を出すようにする。但し、いずれのガスも含まない正常状態にもこのステップP11になるので、この正常状態を上記異常事態と区別するために、300ms時点出力S300のセンサ出力を監視して、正常状態では警報を出さないようにする。なお、上記ステップP9、ステップP10及びステップP11はガス検知出力手段に相当する。
なお、このフローチャートでは、図2で示した駆動パルスの1周期相当の処理のみを示しているが、現実的には、この駆動パルスを連続的に発生させて上述の処理を連続的に行うようにする。これにより、より確実にガス分別ができるようになる。
以上のように参考例によれば、接触燃焼式ガスセンサ40の立上り期間におけるセンサ出力に着目して、ステップP5及びステップP6、7により、ピーク波形有無を検出するようにしているので、ピーク波形の異なる3種類のガスが1つの接触燃焼式ガスセンサを用いるだけで分別できるようになる。また、ガス種分別用フィルタ等も不要になる。この結果、小型、低価格かつ高性能のガス種分別機能付ガスセンサが得られる。特に、日常的に酒や調味料から発生される酢酸及びエタノールを起因として発生するガスと、これ以外のガスと分別できるようになるので、誤警報の少ない信頼性の高いガスセンサが得られるようになる。更に、図4で示したような熱容量の小さな接触燃焼式ガスセンサを用い、立上り期間におけるセンサ出力を取得して瞬間的な燃焼反応を利用するようにしているので、高速にガス種分別ができるようになる。
更に、図8〜図12を用いて本発明の有極性ガス分別機能付ガスセンサの実施形態について説明する。
この実施形態においては、まず、図8及び図9を用いて基本構成及び駆動波形について説明する。図8は、本発明の有極性ガス分別機能付ガスセンサの実施形態の基本構成を示すブロック図である。図9は、本発明の実施形態に関わる駆動波形の例を示すタイムチャートである。
図8に示すように、コントローラ100には、駆動電源20、検出用のブリッジ回路を含む接触燃焼式ガスセンサ40、及びガス検知出力手段300が接続されている。このガス種分別機能付ガスセンサでは、図9に示すような駆動パルスが供給されて接触燃焼式ガスセンサ40が通電制御され、このセンサ40のセンサ出力に基づいてコントローラ100で、ガス種が分別されてガス検知出力される。この分別原理は、図11に示すように、接触燃焼式ガスセンサ40の立上り期間におけるセンサ出力の最大値と定常時点におけるセンサ出力の定常値との比率、すなわち出力比を算出し、通電間隔の変動に伴うこの出力比の変動具合に基づいてガス種を分別するが、これに関しては再度後述する。
上記コントローラ100は、図9に示すような、10秒間のパルスOFF期間の直後の400msの通電期間D10、及び30秒間のパルスOFF期間の直後の400msの通電期間D30において、センサ出力を取得する。このコントローラ100は、センサ出力取得手段101、第1及び第2出力比算出手段102及び103、第1及び第2分別手段104及び105、センサ駆動制御手段170及び補正手段180を含む。このコントローラ100は、ハードウエアとして、演算部、記憶部及びタイマ部等を有し、上記各手段101〜105は、記憶部に格納される制御プログラムにしたがって演算部が行う後述する図12の処理動作に対応するものである。
上記センサ出力取得手段101は、補正手段180を介して、図9に示す上述の通電期間D10及びD30でセンサ出力を取得する。これら通電期間D10及びD30は共に400msであるが、この期間中は、例えば、5ms毎にセンサ出力を取得する。すなわち、各通電期間D10及びD30でそれぞれ、80回ずつサンプリングされることになる。このセンサ出力取得手段101は、上記通電期間D10及びD30にそれぞれ対応する、第1センサ出力取得手段101a及び第2センサ出力取得手段101bから構成される。この第1センサ出力取得手段101aは、酢酸やエタノール等の有極性ガスの飽和吸着時間に基づいて設定された上記10秒間のパルスOFF直後の400msの通電期間D10における上記80回のセンサ出力から、最大値及び定常値を取得する。この最大値及び定常値については後述する。また、第2センサ出力取得手段101bは、上記30秒間のパルスOFF直後の400msの通電期間D30における上記80回のセンサ出力から、最大値及び定常値を取得する。
上記第1出力比算出手段は102は、第1センサ出力取得手段101aにより取得された最大値及び定常値の比率、すなわち、通電期間D10における(最大値−定常値)/定常値を第1出力比として算出する。また、第2出力比算出手段103は、第2センサ出力取得手段101bにより取得された最大値及び定常値による比率、すなわち、通電期間D30における(最大値−定常値)/定常値を第2出力比として算出する。この最大値−定常値は後述する最大吸着燃焼出力に対応し、定常値は接触燃焼出力に対応する。
そして、第1分別手段104は、これら第1出力比及び第2出力比の比較に基づいて、有極性ガスを他のガスと分別する。第2分別手段105は、第1出力比又は第2出力比に基づいて、更に有極性ガスのうち、通電間隔によらず出力比が約5倍程度である第1有極性ガス、例えば、エタノールと、出力比が約10〜13倍程度である第2有極性ガス、例えば、酢酸とを分別する。
センサ駆動制御手段170は、接触燃焼式ガスセンサ40に対して駆動電源20を通電制御して図9に示すような10秒及び30秒の通電間隔を有する駆動パルスを、電源ONされて所定のトリガーが有るまで、継続的に発生させる。なお、図9で示す駆動パルスにおいて、OFFに相当する駆動パルスのレベルは、必ずしもゼロではない。すなわち、この駆動パルスはセンサ出力取得手段101で所望のセンサ出力が取得されやすいように、直流バイアスが印加されることもある。
補正手段180は、後述するブリッジ回路からの検出出力に所定の補正をしたものをセンサ出力として、上記センサ出力取得手段101に供給する。すなわち、図9で示す駆動パルスによる純粋な空気中における上記ブリッジ回路からの検出出力を初期検出出力として予め計測しておき、この初期検出出力を実際に上記ブリッジ回路から得られる検出出力から減算したものを、上記センサ出力として上記センサ出力取得手段101に供給する。
上記駆動電源20は、図1の参考例で説明したと同様なので、ここでは説明を省略する。またガス検知出力手段300は、上記コントローラ100の第1及び第2分別手段104及び105からガス種分別結果を受けてその分別結果を出力する。ガス検知出力手段300は、例えば、ガス漏れ警報を音声や発光表示等により発する公知のスピーカやLED及びそれらのドライバー回路で構成される。上記判定結果が酢酸、又はエタノールを示す場合には、それらは人体に無害なので、ガス検知出力手段300から警報を出さないようにする。又は、表示のみで音声警報は出さないようにする。上記判定結果がH2等を示す場合には、異常事態なので、音声警報、又は音声警報と表示警報の両方を出すようにする。なお、酢酸、又はエタノールの検出を区別するために、異なる色のLED表示をさせるようにしてもよい。
上記接触燃焼式ガスセンサ40は、図1の参考例及び図4で示したと同様の構成をしており、供給される駆動パルスが異なるのみであるので、ここでは説明は省略する。この接触燃焼式ガスセンサ40を使用するに際しては、検出動作開始前に、上記補正手段180からセンサ出力取得手段101に供給されるセンサ出力がゼロになるように上記可変抵抗Rvを調整しておく。
更に、図10及び図11を用いて、本ガス種分別機能付ガスセンサのガス種分別の判定基準となる出力比について説明する。図10は、エタノールを被験物質として、本接触燃焼式ガスセンサの駆動間隔を1秒、10秒及び30秒としたときの、それぞれのセンサ出力を示すグラフである。図11は、ガス濃度及び駆動間隔を変えたときの、複数のガスの出力比を示すグラフである。図10においては、横軸は、前述の図9に示したような駆動パルスを接触燃焼式ガスセンサ40に供給した際のパルスON時点(図中、0時点)からの経過時間を示す。また、図11においては、横軸の下の数値は駆動間隔−ガス濃度を示す。
図10において、H1は駆動間隔を1秒とした直後の400msの通電期間D1におけるエタノールのセンサ出力特性が示されている。同様に、H10は駆動間隔を10秒とした直後の400msの通電期間D10におけるエタノールのセンサ出力特性、H30は駆動間隔を30秒とした直後の400msの通電期間D30におけるエタノールのセンサ出力特性を示す。この図10に示すように、パルス駆動間隔を1秒から10秒に変動させるとセンサ出力、特にピーク値は大きく変動するが、パルス駆動間隔を10秒から30秒に変動させてもセンサ出力はほとんど変動しない飽和特性があることがわかる。これはエタノールの飽和吸着時間は10〜30秒であることを示している。エタノール以外の他の有極性ガスの飽和吸着時間もほとんど、10〜30秒程度であることがわかっている。一方、メタン、水素、一酸化炭素等の無極性ガスは、吸着力が有極性ガスよりも小さいので、このような飽和吸着時間10〜30秒の特性はないことがわかっている。このように有極性ガスが10〜30秒程度の飽和吸着時間を有することを利用して、有極性ガスを分別することが可能になる。
図11において、ガス濃度及び駆動間隔を変えたときの複数種のガスの出力比が示されている。この出力比は、一般的には、最大吸着燃焼出力/接触燃焼出力で表される。接触燃焼出力(請求項1の定常値に相当)はセンサ出力が定常状態になったときの出力値であり、最大吸着燃焼出力はピーク出力から上記接触燃焼出力を減じた値である。この図の例では、通電期間を400msとし、上記接触燃焼出力をパルスONから300ms経過時点のセンサ出力とし、上記ピーク出力を通電期間中のセンサ出力の最大値としている。そして、駆動パルスの駆動間隔を10秒及び30秒にして、エタノール、酢酸、綿灯芯、及び木材の煙に対する出力比のデータを採取、算出している。なお、各駆動間隔において、それぞれ3通りのガス濃度を設定して採取、算出したデータも記載している。
図11に示すように、エタノールは上記設定した駆動間隔及びガス濃度によらす、上記出力比はほぼ5倍で一定である。また、酢酸は上記設定した駆動間隔及びガス濃度によらす、上記出力比はほぼ10〜13倍程度である。すなわち、これらの有極性ガスは10〜30秒程度の飽和吸着時間を有するので、駆動間隔によらず出力比は安定的であることがわかる。一方、これ以外の綿灯芯及び木材の煙は、上記設定した駆動間隔及びガス濃度において、駆動間隔及びガス濃度に相関性が有ることがわかる。このような特性を利用して、エタノールや酢酸等の有極性ガスを、これとは他種のガスや煙と分別することが可能になる。更に上記エタノール及び酢酸の出力比特性を利用して、エタノールと酢酸との分別も可能になる。このように、上記出力比を利用することにより、1つのガス漏れ検出に利用する接触燃焼式ガスセンサを用いるだけでガス種が分別できるようになる。
上述の図11のような各ガスの出力比特性を利用して、ガス種分別を行うために上記コントローラ100が行う処理動作について、図12を用いて説明する。図12は、本発明の第2実施形態に関わる処理動作を示すフローチャートである。この実施形態では、図9で示したような駆動パルスを用いて、接触燃焼出力をパルスONから300ms経過時点で取得し、400msの通電期間中のセンサ出力の最大値をピーク出力として取得する。そして、駆動間隔10秒及び30秒の出力比を比較して、エタノール、酢酸及びその他を分別する。なお、この駆動間隔10秒及び30秒は、酢酸やエタノール等の有極性ガスの飽和吸着時間に基づいて設定されたものである。
図11のステップP101においては、図9で示した駆動間隔を10秒直後の通電期間D10において、例えば、5ms毎に計80回のセンサ出力W10が取得される。また、ステップP102においては、同様に、通電期間D30において計80回のセンサ出力W30が取得される。これら取得されたセンサ出力は、コントローラ100の記憶部に一時保存される。
次にステップP103においては、上記一時保存されているD10における80回のセンサ出力W10から、その最大値及び定常値(接触燃焼出力)が取得される。そして、ステップP104において、ステップP103で取得された最大値及び定常値を用いて、(最大値−定常値)/定常値が第1出力比として算出される。なお、上記ステップP103及びステップP104はそれぞれ、請求項2の第1センサ出力取得手段及び第1出力比算出手段に相当する。
同様に、ステップP105においては、上記一時保存されているD30における80回のセンサ出力W30から、その最大値及び定常値(接触燃焼出力)が取得され、ステップP106において、ステップP105で取得された最大値及び定常値を用いて、(最大値−定常値)/定常値が第2出力比として算出される。なお、上記第1出力比及び第2出力比は、コントローラ100の記憶部に一時保存される。上記ステップP105及びステップP106はそれぞれ、請求項2の第2センサ出力取得手段及び第2出力比算出手段に相当する。
そして、ステップP107において、一時格納されている第1出力比及び第2出力比が読み出され、これら第1出力比及び第2出力比の比較に基づいて、有極性ガスが他のガスと分別される。この分別は、例えば、図11に示した出力比特性を利用して、それらの第1出力比及び第2出力比が2割程度の変動幅に納まっていれば変化無し、すなわち、検出されたガスは、酢酸やエタノール等の有極性ガスであると判断してステップP108に移行し、さもなければ、変化有り、すなわち、有極性ガス以外の他のガスと判断してステップP111に移行する。なお、上記ステップP107は請求項2の第1分別手段に相当する。
ステップP108においては、図11に示した出力比特性を利用して、上記第1出力比又は第2出力比のいずれかの値に基づいて、エタノールと酢酸の分別がおこなわれる。すなわち、第1出力比(又は第2出力比)が約5程度であれば検出されたガスはエタノールと判断されステップP109に移行し、それが10〜13程度であれば検出されたガスは酢酸と判断されステップP110に移行する。念のため追加説明すると、エタノール及び酢酸はともに、上記通電間隔によらず固有の出力比を有するので、このステップP108における判断には、第1出力比又は第2出力比のいずれを用いてもよい。なお、上記ステップP108は請求項3の第2分別手段に相当する。
このようにして、エタノール、酢酸、及びその他が分別されると、それぞれ、ステップP109、ステップP110及びステップP111において、エタノール検知出力処理、酢酸検知出力処理及びその他の検知処理が行われる。ステップP109及びステップP110におけるエタノール検知出力処理及び酢酸検知出力処理では、それらは人体に無害なので、ガス検知出力手段300から警報を出さないようにする。又は、表示のみで音声警報は出さないようにする。或いは、エタノール検出及び酢酸検出を区別するために、ステップP109及びステップP110において、異なる色のLED表示をさせるようにしてもよい。上記ステップP109、ステップP110及びステップP111は請求項2のガス検知出力手段に相当する。
一方、ステップP111におけるその他の検知出力処理では、検出されたガスが図11で示す綿灯芯、又は木材の燃焼を起因とする煙、或いは、メタンガスや水素ガスなどの無極性ガス、又は極性が非常に小さいガスに相当する可能性がある。現実的には、上記綿灯芯、又は木材の燃焼を起因とする煙は火災時に発生し、上記メタンガスや水素ガスなどの無極性ガス、又は極性が非常に小さいガスはガス漏れ時に発生するものと考えられる。すなわち、ステップP111に至ったということは、異常事態の可能性もあるので、ガス検知出力手段300から音声警報、又は音声警報と表示警報の両方を出すようにする。この警報を発する際に、例えば、上記参考例の方法を利用してメタンガスや水素ガスを検出し、また、図11の綿灯芯、及び木材に相当するグラフに示すように、出力比が濃度上昇に伴い上昇していく傾向を検出し、火災による煙を検出して、その結果によって、警報の仕方を変えるようにしてもよい。但し、このような異常検出に属さない正常状態にもこのステップP111になる可能性があるので、この正常状態を上記異常事態と区別するために、例えば、通電期間中の300ms時点出力のセンサ出力を監視して、正常状態では警報を出さないようにする。
なお、このフローチャートでは、図2で示した駆動パルスの1周期相当の処理のみを示しているが、現実的には、この駆動パルスを連続的に発生させて上述の処理を連続的に行うようにする。これにより、より確実にガス分別ができるようになる。
以上のように本発明の実施形態によれば、酢酸やエタノール等の有極性ガスの飽和吸着時間を考慮して通電間隔を設定すると、有極性ガスの出力比が安定的になることを利用することにより、ガス漏れ検出する1つの接触燃焼式ガスセンサを用いるだけで有極性ガスとその他を分別可能にする。また、更に有極性ガスのうち、通電間隔によらず出力比が約5程度であるエタノールを起因として発生するガスと、出力比が約10〜13程度である酢酸を起因として発生するガスとが分別可能になる。すなわち、日常的に酒や調味料から発生されるエタノール及び酢酸を起因として発生するガスと、これ以外が分別できるようになるので、誤警報の少ない信頼性の高いガスセンサが得られるようになる。もちろん、1つの接触燃焼式ガスセンサを用いるだけでガス分別できるようになるので、参考例同様、小型、低価格かつ高性能のガス種分別機能付ガスセンサが得られるのはいうまでもない。更に、図4で示したような熱容量の小さな接触燃焼式ガスセンサを用い、立上り期間におけるセンサ出力を取得して瞬間的な燃焼反応を利用するようにしているので、高速にガス種分別ができるようになる。
なお、本発明は、上記各センサ出力の取得時間、通電間隔、通電時間等を、参考例及び実施形態に例示した値に限定するものではない。それらの値は、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更することが可能である。また、実施形態で有極性ガスとして例示したエタノールや酢酸以外にも、固有の出力比をもつガスに対して、本発明は適用可能である。
ガス種分別機能付ガスセンサの参考例の基本構成を示すブロック図である。
図2(A)及び(B)は、参考例に関わる駆動波形の例を示すタイムチャートである。
参考例に関わるガス種分別のための判定基準及びガス判定パターンを示す説明図である。
図4(A)、(B)及び(C)はそれぞれ、本接触燃焼式ガスセンサの平面図、背面図及びAA線断面図である。
接触燃焼式ガスセンサによる無極性ガスのセンサ出力特性を示すグラフである。
接触燃焼式ガスセンサによる有極性ガスのセンサ出力特性を示すグラフである。
参考例に関わる処理動作を示すフローチャートである。
本発明の有極性ガス分別機能付ガスセンサの実施形態の基本構成を示すブロック図である。
本発明の実施形態に関わる駆動波形の例を示すタイムチャートである。
本接触燃焼式ガスセンサの駆動間隔を変えたときの、それぞれのセンサ出力を示すグラフである。
ガス濃度及び駆動間隔を変えたときの、複数のガスの出力比を示すグラフである。
本発明の実施形態に関わる処理動作を示すフローチャートである。
図13(A)及び図13(B)はそれぞれ、従来の接触燃焼式ガスセンサの感応素子部及び補償素子部の概観図である。
従来の接触燃焼式ガスセンサによるガス濃度とセンサ出力の関係を示すグラフである。
符号の説明
10、100 コントローラ
20 駆動電源
30、300 ガス検知出力手段
40 接触燃焼式ガスセンサ
42、44 Ptヒータ
43 Pd/Al2O3触媒層
45 Al2O3触媒層
Rs 感応素子部
Rr 補償素子部