内燃機関の排気浄化触媒の触媒機能を効率的に発揮させるためには、排気浄化触媒の温度を速やかに触媒活性温度とするのが好ましい。そこで、排気浄化触媒の温度を上昇させるにあたり、排気浄化触媒に流入する排気の温度を利用することに加えて、排気浄化触媒に還元剤を供給して還元剤と排気浄化触媒との反応熱を利用することで、排気浄化触媒の温度上昇を行う。
ここで、排気浄化触媒での還元剤との反応が行われるためには、排気浄化触媒の温度が、該反応が起こり得る温度(以下、「暫定触媒活性温度」という)に達している必要がある。尚、暫定触媒活性温度は、上述の触媒活性温度より低い温度である。このように、排気浄化触媒の温度を制御するとき、触媒温度を把握するにあたりその推定を行うと、実際の触媒温度と推定触媒温度との間に温度差が生じる場合がある。そして、該温度差が生じることで、排気浄化触媒の温度上昇制御に不具合を発生させる虞や、排気浄化触媒の温度上昇のために供給された還元剤によってエミッションが悪化する虞がある。
本発明では、上記した問題に鑑み、排気浄化触媒の温度上昇制御にあたり、実際の触媒温度と推定触媒温度との間の温度差による該排気浄化触媒の温度上昇制御やエミッションへの悪影響を抑制することを目的とする。
本発明においては、排気浄化触媒の触媒温度の推定にあたり、排気浄化触媒を排気の流れ方向に沿って複数部位に分割し、分割された排気浄化触媒の各部位の触媒温度を、各部位の初期温度に対して少なくとも各部位に流入する排気の温度、該排気に含まれる還元剤量および該各部位内の熱容量を加味することで、推定する。そして、上記した課題を解決するために、触媒温度推定における初期温度の設定値に着目した。推定される排気浄化触媒の各部位の触媒温度は、該初期温度によってオフセットされるからである。
即ち、本発明は、内燃機関の排気浄化装置において、内燃機関の排気通路に設けられ、酸化能を有する排気浄化触媒と、
前記排気浄化触媒に流入する排気に還元剤を添加する還元剤添加手段と、
前記排気浄化触媒の下流側に設けられ、該排気浄化触媒から流出する排気の温度を検出する排気温度検出手段と、
前記排気浄化触媒を排気の流れ方向に沿って複数部位に分割し、分割された該排気浄化触媒の各部位の触媒温度を、該各部位の初期温度に対して少なくとも該各部位に流入する排気の温度、該排気に含まれる還元剤量および該各部位内の熱容量を加味することで、推定する触媒温度推定手段と、
前記触媒温度推定手段によって推定される、前記排気浄化触媒において排気が流入する部位である前端部位の触媒温度が暫定触媒活性温度を超えているときに、前記還元剤添加手段による排気への還元剤の添加を行う還元剤添加制御手段と、前記触媒温度推定手段によって推定される前記前端部位の触媒温度が前記暫定触媒活性温度より高い触媒活性温度を超えるとき、前記排気浄化触媒は触媒活性状態にあると判定する触媒活性判定手段と、前記排気温度検出手段によって検出される排気温度に基づいて該排気浄化触媒において排気が流出する後端部位の触媒温度である第一後端部位温度を推定する後端部位温度推定手段と、前記後端部位温度推定手段によって推定される前記第一後端部位温度と前記触媒温度推定手段によって推定される該後端部位の触媒温度である第二後端部位温度との温度差に基づいて、該触媒温度推定手段によって推定された各部位の触媒温度を補正する触媒温度補正手段と、を備え、前記触媒温度推定手段は、前記排気浄化触媒の各部位の触媒温度推定にあたり、該排気浄化触媒において前記後端部位を含む下流側の各部位の初期温度を該触媒温度推定開始時における前記第一後端部位温度に設定するとともに、該排気浄化触媒において前記前端部位を含む残りの上流側の各部位の初期温度を該触媒温度推定開始時における該第一後端部位温度より低い温度であって前記内燃機関における所定箇所の温度に設定する。
上述の内燃機関の排気浄化装置においては、排気通路に設けられた排気浄化触媒によって排気の浄化が行われる。ここで、排気の浄化、例えば排気中のNOxや粒子状物質の除去等が効率的に行われるには、排気浄化触媒の温度が触媒活性温度に達する必要がある。従って、排気浄化触媒の温度が低温であるときは、速やかに触媒活性温度にまで上昇させるのが好ましい。
そこで、排気浄化触媒の温度が比較的低温であるときは、内燃機関から排出される排気の温度によって排気浄化触媒の温度を上昇させる。そして、前端部位の触媒温度が、排気中の還元剤を酸化し得る温度、即ち暫定触媒活性温度に到達したときは、還元剤添加制御手段によって排気へ還元剤が添加されることで、該排気浄化触媒に還元剤を供給し、還元剤と排気浄化触媒との間で、還元剤の酸化による反応熱を発生させて、排気浄化触媒の温度上昇を行う。
このとき、還元剤添加手段による排気浄化触媒への還元剤の供給開始の判断は、触媒温度推定手段によって推定された前端部位の触媒温度が基準となる。ここで、触媒温度推定手段は、上述のように、排気の流れ方向に沿って複数部位に分割された排気浄化触媒の各
部位に対して、それぞれに初期温度を設定し、その設定温度に対して少なくとも各部位に流入する排気の温度、該排気に含まれる還元剤量および該各部位内の熱容量を加味することで、各部位の触媒温度を推定する。即ち、初期温度を起点として少なくとも流入排気の熱エネルギーと還元剤の酸化によって発生する酸化熱エネルギーによる温度上昇が加味されることで、各部位の推定触媒温度が推定される。更に、排気浄化触媒の熱容量を考慮することで、流入排気温度の変動による影響を緩和し、比較的安定的な触媒温度の推定が可能となる。
これにより、排気浄化触媒の速やかな温度上昇が図られる。尚、前端部位の触媒温度を還元剤添加の基準とするのは、前端部位の下流側に位置する部位の触媒温度が暫定触媒活性温度に到達していなくても、前端部位が暫定触媒活性温度に到達すれば前端部位に供給された還元剤の酸化エネルギーによって、下流側に位置する部位の触媒温度も順次暫定触媒活性温度に到達し得るからである。
尚、還元剤添加手段による還元剤の供給が行われる前においては、排気中に含まれる還元剤の大部分は内燃機関1からの排気に含まれる未燃焼の燃料等の還元剤である。そして、排気浄化触媒の触媒温度は暫定触媒活性温度より低いため、排気中の還元剤による排気浄化触媒の温度上昇への寄与を、非常に小さく扱うか、若しくは無視してもよい。
更に、触媒温度推定手段によって推定された触媒温度が触媒活性温度を超えるとき、触媒活性判定手段によって排気浄化触媒が触媒活性状態となって触媒機能を十分に発揮し得る状態であると判定される。このとき、該判定において前端部位の触媒温度を還元剤添加の基準とするのは、上述と同様の理由による。
また、排気浄化触媒の後端部位の触媒温度については、上述の触媒温度推定手段によって推定される第二後端部位温度の他に、後端部位温度推定手段によって推定される第一後端部位温度が存在する。後端部位温度推定手段は、排気温度検出手段によって検出される排気温度に基づいて後端部位の触媒温度を推定する。排気温度検出手段は排気浄化触媒の下流に備えられているため、排気温度検出手段によって検出される排気温度は後端部位の触媒温度を強く反映していると考えられる。従って、該排気温度から後端部位の触媒温度を推定することが可能である。その際、排気温度に関連する要素、例えば排気流量等を考慮して、排気温度から後端部位の触媒温度を推定するのが好ましい。
従って、後端部位温度推定手段によって推定される第一後端部位温度は、第二後端部位温度と比べて、より実際の後端部位の触媒温度に近い温度となり得る。そこで、触媒温度補正手段によって、第一後端部位温度と第二後端部位温度との温度差に基づいて触媒温度推定手段によって推定された触媒温度を補正し、以てより正確な触媒温度の推定を図る。即ち、該温度差が触媒温度推定手段による推定誤差とみなして、該温度差に応じて触媒温度推定手段による推定触媒温度を増減させる。従って、該温度差が大きくなるに従い、推定触媒温度の補正量が大きくなる。一方で、これにより、排気浄化触媒の温度上昇制御において触媒温度が急激に変動することになるため、該温度上昇制御は不安定となったり、また該補正によって触媒温度の上限値、例えば排気浄化触媒の溶損を防止するために設定される上限温度を制御上超えることで、該温度上昇制御が実質的に破綻したりする虞がある。
また、該補正量が大きいことは、触媒温度推定手段による推定触媒温度と実際の触媒温度との乖離が大きいことを意味するため、還元剤添加制御手段による還元剤添加時期が排気浄化触媒の酸化能が発揮されにくい時期であると、該添加剤によってエミッションが悪化する虞がある。
そこで、上述に示すように、触媒温度推定手段による触媒温度の推定において、該推定を開始する際に設定する排気浄化触媒の各部位の初期温度を、前端部位を含む上流側の部位と後端部位を含む下流側の部位とで区別する。即ち、各部位の初期温度は、触媒温度推定手段による触媒温度の推定において、推定触媒温度の起点となる温度であって、初期温度が変動するとその変動分に応じて推定触媒温度がオフセットされる。
そして、後端部位を含む下流側の部位の初期温度を第一後端部位温度とすることで、触媒温度補正手段による触媒温度の補正における補正量を可及的に少なくすることが可能となる。一方で、前端部位を含む上流側の部位の初期温度を第一後端部位温度より低い温度であって内燃機関における所定箇所の温度とすることで、還元剤添加制御手段による還元剤添加実行の判断基準や触媒活性判定手段による排気浄化触媒の触媒活性状態の判断基準となる前端部位の触媒温度に対してマージンを付加することになる。即ち、より低い温度を初期温度とすることで、上述した判断が行われるときの前端部位の温度が暫定触媒活性温度又は触媒活性温度を超えることがより確実となる。ここで、所定箇所とは、第一後端部位温度より低い温度を有する内燃機関の箇所であって、排気浄化触媒の前端部位の温度が到達し得る範囲でより低い温度を有する箇所である。例えば、内燃機関の冷却水温度や吸気温度等が例示できる。
これにより、排気浄化触媒の温度上昇制御にあたり、実際の触媒温度と推定触媒温度との間の温度差による該排気浄化触媒の温度上昇制御やエミッションへの悪影響が抑制される。
ここで、上述の内燃機関の排気浄化装置において、前記排気浄化触媒の触媒温度上昇時において、前記前端部位の触媒温度が前記後端部位の触媒温度より所定温度以上低くなる触媒半暖機状態であるか否かを判定する触媒半暖機判定手段を、更に備える場合、前記触媒推定手段による排気浄化触媒温度の推定に際する上述した各部位の初期温度の設定を、前記触媒半暖機判定手段によって前記排気浄化触媒が触媒半暖機状態であると判定されるときに、行ってもよい。
触媒半暖機状態とは、排気浄化触媒においてその前端部位の触媒温度と後端部位の触媒温度との間に温度差が生じ、排気浄化触媒として比較的広範囲の温度分布が生じた状態をいう。そこで、上述の所定温度とは、触媒半暖機状態の排気浄化触媒における温度分布の範囲、即ち高温側の触媒温度と低温側の触媒温度との温度差をいう。排気浄化触媒の前端部位は排気の流入があり、また後端部位はそれより上流側に位置する各部位の熱エネルギーが伝播するため、前端部位に流入する排気温度が低下するとき、前端部位の温度が低下する一方で後端部位の温度低下は比較的小さい。その状態で触媒温度を上昇させるとき、排気浄化触媒が触媒半暖機状態となる。
そこで、このような場合には、触媒温度推定手段による触媒温度の推定において、上述したように、該推定を開始する際に設定する排気浄化触媒の各部位の初期温度を、前端部位を含む上流側の各部位と後端部位を含む下流側の各部位とで区別する。これによって、実際の排気浄化触媒の温度分布に即して、該触媒推定をより正確に行うことが可能となる。
そして、排気浄化触媒が半暖機状態か否かの判断は、以下のように行ってもよい。即ち、上述の内燃機関の排気浄化装置において、前記内燃機関が機関停止した後、該内燃機関が再度始動するときに、前記触媒半暖機判定手段は、前記内燃機関が機関停止したときの前記排気温度検出手段によって検出される第一排気温度と該内燃機関が再度始動するときの該排気温度検出手段によって検出される第二排気温度との温度差に基づいて、前記排気浄化触媒が触媒半暖機状態であるか否かを判定する。
排気浄化触媒における広範囲の温度分布は、内燃機関が機関停止した後、比較的短い期間において生じ得る。即ち、内燃機関が機関停止することで排気浄化触媒へ流入する排気温度が低下するため、前端部位の温度は比較的速やかに温度低下する一方で、後端部位の温度はそれより上流側の部位の有する熱エネルギーによって温度低下は比較的緩やかとなる。その結果、排気浄化触媒において広範囲の温度分布が生じ、以て排気浄化触媒は、触媒半暖機状態となる。
そこで、このような場合に排気浄化触媒の温度上昇制御を行い、触媒温度推定手段による触媒温度の推定においては、上述したように、該推定を開始する際に設定する排気浄化触媒の各部位の初期温度を、前端部位を含む上流側の各部位と後端部位を含む下流側の各部位とで区別する。これによって、実際の排気浄化触媒の温度分布に即して、該触媒推定をより正確に行うことが可能となる。
尚、排気浄化触媒において広範囲な温度分布が生じず、触媒半暖機状態となっていない場合、例えば、内燃機関の機関停止後比較的長い時間が経過して、排気浄化触媒の各部位の温度がほぼ一様となるような場合には、触媒温度推定手段による触媒温度の推定においては、該推定を開始する際に設定する排気浄化触媒の各部位の初期温度を、前端部位を含む上流側の各部位と後端部位を含む下流側の各部位とで区別せずに、同一の初期温度としてもよい。このとき、機関始動時の排気浄化触媒から排出される排気温度または該排気温度から推定される第一後端部位温度を設定する。
ここで、上述までの内燃機関の排気浄化装置において、排気浄化触媒が触媒半暖機状態と判定されて、触媒温度推定手段による触媒温度の推定において、該推定を開始する際に設定する排気浄化触媒の各部位の初期温度を、前端部位を含む上流側の各部位は後端部位を含む下流側の各部位より低温側の温度に設定される。その結果、前端部位の触媒温度を基準として判定される触媒活性判定手段による判定において、排気浄化触媒が触媒活性状態に到達すると判断されるまでの時間が長くなり、触媒温度の上昇に要する還元剤添加制御手段による添加還元剤量が増大する。
そこで、前記触媒半暖機判定手段によって前記排気浄化触媒が触媒半暖機状態であると判定されるときは、該触媒半暖機判定手段によって前記排気浄化触媒が触媒半暖機状態でないと判定されるときと比べて前記触媒活性温度の値を低く設定してもよい。
即ち、排気浄化触媒の触媒活性状態の判断基準となる触媒活性温度を、触媒温度上昇時において排気浄化触媒が触媒半暖機状態か否かで変動させることによって、排気浄化触媒が触媒活性状態に到達すると判断されるまでの時間が短縮され、還元剤添加制御手段による添加還元材量の増大を抑制することが可能となる。
更に、上述までの内燃機関の排気浄化装置において、前記触媒活性判定手段によって前記排気浄化触媒が触媒活性状態にあると判定されるまでは、前記後端部位の触媒温度を前記触媒温度推定手段に代わって前記後端部位温度推定手段によって推定し、前記触媒活性判定手段によって前記排気浄化触媒が触媒活性状態にあると判定された後は、前記後端部位の触媒温度を、該判定時における前記第一後端部位温度を初期温度として前記触媒温度推定手段によって推定し、そして、前記触媒活性判定手段によって前記排気浄化触媒が触媒活性状態にあると判定されるとき、該判定前の前記後端部位の触媒温度と該判定後の該後端部位の触媒温度との温度差に基づいて、前記触媒温度推定手段によって推定された該後端部位を除く各部位の触媒温度を補正してもよい。
先ず、排気浄化触媒が触媒活性状態にあると判定されるまでの間は、後端部位を除く部
位については上述までと同じように触媒温度推定手段による触媒温度の推定が行われ、後端部位については後端部位温度推定手段による触媒温度の推定が行われる。次に、排気浄化触媒が触媒活性状態にあると判定された後は、後端部位を含む全ての部位において、触媒温度推定手段による触媒温度の推定が行われることとなる。このような触媒温度が推定される場合において、排気浄化触媒が触媒活性状態にあると判定されたときに、該判定前後の後端部位の温度差に基づいて温度補正が行われる。
このとき、後端部位の触媒温度は、該判定の前後において、後端部位温度推定手段による推定触媒温度である第一後端部位温度が加味された推定触媒温度となるため、該判定前後における後端部位の触媒温度の温度差は比較的小さくなる。従って、該判定時において行われる触媒温度推定手段による推定触媒温度の補正量は比較的小さくなり、以て、先述した該補正量の増大による排気浄化触媒の温度上昇制御やエミッションへの悪影響を抑制することが可能となる。
排気浄化触媒の温度上昇制御にあたり、実際の触媒温度と推定触媒温度との間の温度差による該排気浄化触媒の温度上昇制御やエミッションへの悪影響を抑制することが可能となる。
図1は、本発明が適用される内燃機関の排気浄化装置の概略構成を表すブロック図である。ここで、内燃機関1は、圧縮着火式の内燃機関である。内燃機関1の燃焼室には吸気通路2が接続されている。また、内燃機関1において燃焼により生成された排気は、内燃機関1から排気通路3へと排出される。排気通路3の途中には、酸化能を有する酸化触媒4と酸化触媒4の下流側にいわゆる吸蔵還元型NOx触媒が担持されたフィルタ(以下、単に「フィルタ」という)5が設けられている。尚、吸蔵還元型NOx触媒にはその成分に白金が含まれているため、フィルタ5は酸化能を有する触媒として作用する。また、酸化触媒4の上流側の排気通路3には、排気通路3を流れる排気に、還元剤である内燃機関1の燃料を添加する燃料添加弁6が設けられている。燃料添加弁6から排気へ添加された燃料は、酸化触媒4やフィルタ5に供給されて、これらの触媒に対して還元剤として作用するとともにこれらの触媒の酸化能によって酸化されて、酸化熱が発生する。
また、内燃機関1には、該内燃機関1を制御するための電子制御ユニット(以下、「ECU」という)20が併設されている。このECU20は、CPUの他、後述する各種のプログラム及びマップを記憶するROM、RAM等を備えており、内燃機関1の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関1の運転状態等を制御するユニットである。
ECU20には、クランクポジションセンサ9、アクセル開度センサ10等、内燃機関1の運転状態を検出する種々のセンサが電気配線を介して接続され、それらの出力信号がECU20に入力されるようになっている。更に、ECU20には、フィルタ5の下流側に設けられた排気温度センサ7、排気空燃比センサ8および水温センサ11が電気的に接続されている。排気温度センサ7によってフィルタ5から流出する排気の温度が、排気空燃比センサ8によって該排気の空燃比が、水温センサ11によって内燃機関1の冷却水の水温が検出される。
一方、ECU20には、燃料添加弁6が電気配線を介して接続され、ECU20からの
指令に従って燃料添加弁6から排気通路3を流れる排気に供給される燃料量等が制御される。また、図1には図示されていないが内燃機関1に備えられている燃料噴射弁もECU20と電気的に接続され、ECU20からの指令に従って燃料噴射弁からの燃料の噴射時期や噴射量が制御される。
このように構成される内燃機関1の排気浄化装置においては、排気中に含まれる粒子状物質がフィルタ5によって捕集された後酸化除去されたり、排気中のNOxがフィルタ5における吸蔵還元型NOx触媒によって還元されたりすることで、排気の浄化が行われる。また、酸化触媒4は排気中の燃料を酸化することで酸化熱を発生させて、フィルタ5に流入する排気温度を上昇させる。これによって、フィルタ5における吸蔵還元型NOx触媒の温度が上昇して、触媒機能による排気浄化能力が発揮される。
しかし、酸化触媒4およびフィルタ5の触媒機能が発揮されるには、各々の触媒の温度が触媒活性温度に到達している必要がある。そこで、酸化触媒4およびフィルタ5の触媒温度を触媒活性温度に速やかに上昇させるために、内燃機関1からの排気の有する熱エネルギーを利用するとともに、燃料添加弁6から燃料を排気へ添加して、該燃料が酸化触媒4およびフィルタ5の有する酸化能によって酸化されて発生する酸化熱を利用する。このとき、燃料添加弁6からの燃料の添加は、酸化触媒4またはフィルタ5の触媒温度が、暫定触媒活性温度に到達しているときに行われる必要がある。尚、暫定触媒活性温度は、触媒機能が十分に発揮され得る触媒活性温度より低い温度である。
酸化触媒4およびフィルタ5の触媒温度が暫定触媒活性温度に到達していないときに、燃料添加弁6から燃料が添加されると、該燃料が酸化触媒4やフィルタ5によって酸化されずに外気へ放出されエミッションが悪化する。そこで、燃料添加弁6からの燃料添加は、酸化触媒4やフィルタ5の温度を速やかに触媒活性温度に上昇させるために必要であるが、一方でこれらの触媒温度が暫定触媒活性温度に到達していないときはエミッションの悪化を抑制するために、燃料添加弁6からの燃料添加が実行されるのは好ましくない。従って、燃料添加弁6からの燃料添加を実行するためには、酸化触媒4およびフィルタ5の触媒温度を精度よく把握する必要がある。更には、これらの触媒が、触媒活性状態となったか否かの判定をより正確に行うためにも、これらの触媒温度を精度よく把握する必要がある。
そこで、酸化触媒4およびフィルタ5の触媒温度の上昇制御における、各触媒の触媒温度の推定について、以下に説明をする。尚、酸化触媒4およびフィルタ5の触媒温度を推定するにあたり、基本的な推定方法は概ね同一である。そこで、先ず、図2に基づいて、フィルタ5の触媒温度の推定について説明を、次に酸化触媒4の触媒温度の推定については、フィルタ5の推定を援用して説明する。
本実施例においては、フィルタ5を排気の流れる方向に沿って三分割し、その最上流側の部位を前端部位5aと、その最下流側の部位を後端部位5cと、前端部位5aと後端部位5cとの間の部位を中間部位5bとする。図2は、三分割されたフィルタ5の各部位の触媒温度を算出するための手順を概略的に示した図である。図2中はS1、S2、S3は、各々前端部位5a、中間部位5b、後端部位5cの触媒温度を算出するための処理であり、S1から順次S2、S3の順に処理が行われることで、各部位の触媒温度が順次算出される。
ここで、各部位の触媒温度を算出するにあたり、各部位の初期温度が設定される。図2に示すように、前端部位5a、中間部位5b、後端部位5cの各々の初期温度は、T0_a、T0_b、T0_cである。そして、前端部位5aに流入する排気をEX_0とし、前端部位5aに供給される燃料をHC_0とする。尚、燃料HC_0は、酸化触媒4にお
いて酸化されずに残った燃料であり、また排気EX_0の温度は、酸化触媒4から流出した排気の温度である。
処理S1における前端部位5aの触媒温度の算出手順を以下に示す。先ず、前端部位5aに供給された燃料HC_0のうち、前端部位5aの酸化能によって酸化される割合を算出する。酸化能を有する触媒における燃料の酸化の程度(以下、「酸化率」という)は、該触媒に流入する排気の流量と、該触媒自身の温度によって決定される。即ち、該触媒に流入する排気の流量が増加するに従い燃料の酸化率は低下し、また該触媒自身の温度が高くなるに従い燃料の酸化率は上昇する。そこで、内燃機関1の運転状態から推定される排気流量や前端部位5aの現時点での温度に基づいて、燃料の酸化率が算出される。そして、前端部位5aによって酸化されない燃料は前端部位5aの下流側に位置する中間部位5bへ供給される。以下、中間部位5b、後端部位5cでの燃料の酸化率の算出も同様に行われる。
次に、前端部位5aにおいて存在する熱エネルギーの総和を算出する。前端部位5aにおいては、前端部位5aに流入する排気の有する熱エネルギーEgad_aと、前端部位5aにおいて燃料が酸化されることによって発生する酸化熱の熱エネルギーEhcdp_aと、その時点において前端部位5aが有している熱エネルギーEdp_aとが存在する。
ここで、排気の有する熱エネルギーEgad_aは、前端部位5aに流入する排気Ex_0の流量と排気温度等から算出される。酸化熱の熱エネルギーEhcdp_aは、前端部位5aに供給された燃料HC_0の量と、上記において算出された酸化率等から算出される。前端部位5aが有している熱エネルギーEdp_aは、前端部位5aの触媒温度と重量等から算出される。従って、熱エネルギーEdp_a触媒温度の推定を開始した時点においては、初期温度T0_aと触媒の重量等から算出され、その後は以降に説明する算出方法に従って算出された触媒温度と触媒の重量等から算出される。
そして、これらの熱エネルギーの総和が前端部位5aとそこに存在する排気へ均等に分配されて、前端部位5aと該排気とが同一の温度へ変動すると考えて、新たな前端部位5aの温度を算出する。具体的には、前端部位5aにおいて存在する熱エネルギーの総和(Egad_a+Edp_a+Ehcdp_aで表される熱エネルギーの総和)を、前端部位5aと前端部位5aに存在する排気の総熱容量で除することで、前端部位5aと前端部位5aに存在する排気の温度Taを算出する。
その後、前端部位5aに存在していた排気は、排気温度Taの排気EX_aとなり、下流側の中間部位5bへと流入する。また、前端部位5aに供給された燃料HC_0は、上記の酸化率に応じた量が前端部位5aによって酸化されて、残りの酸化されなかった燃料HC_aが中間部位5bへ供給される。
以上までが処理S1における前端部位5aの触媒温度の算出方法である。次に、処理S2における中間部位5bの触媒温度の算出は、排気温度Taの排気EX_aと燃料HC_aに基づいて、上述の算出方法と同様に算出される。即ち、中間部位5bに流入する排気の有する熱エネルギーEgad_bと、中間部位5bにおいて燃料が酸化されることによって発生する酸化熱の熱エネルギーEhcdp_bと、現時点において中間部位5bが有している熱エネルギーEdp_bから、中間部位5bの温度Tbを算出する。
これにより、中間部位5bに存在していた排気は、排気温度Tbの排気EX_bとなり、下流側の後端部位5cへと流入する。また、中間部位5bに供給された燃料HC_aは、中間部位5bにおける酸化率に応じた量が中間部位5bによって酸化されて、残りの酸
化されなかった燃料HC_bが後端部位5cへ供給される。
同様に、処理S3における後端部位5cの触媒温度の算出は、排気温度Tbの排気EX_bと燃料HC_bに基づいて、上述の算出方法と同様に算出される。即ち、後端部位5cに流入する排気の有する熱エネルギーEgad_cと、後端部位5cにおいて燃料が酸化されることによって発生する酸化熱の熱エネルギーEhcdp_cと、現時点において後端部位5cが有している熱エネルギーEdp_cから、後端部位5cの温度Tcを算出する。
これにより、後端部位5cに存在していた排気は、排気温度Tcの排気EX_cとなり、フィルタ5から流出する。尚、この流出した排気の実際の温度は、排気温度センサ7によって検出される。また、後端部位5cに供給された燃料HC_bは、後端部位5cにおける酸化率に応じた量が後端部位5cによって酸化されて、残りの酸化されなかった燃料HC_cが、フィルタ5から排出される。
また、フィルタ5の上流側の排気通路に設けられた酸化触媒4については、酸化触媒4を排気の流れる方向において二分割し、その上流側の部位を前端部位4aと、その下流側の部位を後段部位4bとする。そして、フィルタ5の場合と同様に、酸化触媒4の各部位の触媒温度を、各部位に流入する排気温度と各部位に供給される燃料に基づいて算出する。但し、前端部位4aに流入する排気温度は、内燃機関1から排出された排気の温度であって、機関回転速度や機関負荷等の内燃機関1の運転状態等に基づいて算出する。また、前端部位4aに供給される燃料は、燃料添加弁6から排気へ添加された燃料や内燃機関1から排出される排気に含まれる未燃成分としての燃料等である。そこで、前端部位4aに供給される燃料を次のように算出する。
燃料添加弁6から添加された燃料の一部は直接前端部位4aへ到達し、残りは排気通路3の壁面に付着する。また、既に排気通路3の壁面に付着していた燃料の一部が蒸発して、改めて前端部位4aへ到達する。また、内燃機関1における燃料の燃焼において燃焼せずに排気中に未燃成分として残留している燃料が前端部位4aへ到達する。これらの前端部位4aへ到達する燃料量を、機関回転速度や機関負荷等の内燃機関1の運転状態や、該運転状態から推定される内燃機関1から排出直後の排気の温度等に基づいて算出する。
具体的には、例えば、内燃機関1の運転状態と燃料添加弁6からの燃料添加による前端部位4aへの直接の到達量との関係を実験等で予め測定して、内燃機関1の運転状態と燃料添加弁6からの添加量をパラメータとして前端部位4aへの直接の到達量を算出するマップを作成し、該マップにアクセスすることで、前端部位4aへの燃料の到達量を算出する。尚、燃料添加弁6からの燃料添加が実行されていないときは、前端部位4aへの燃料の到達量は、未燃成分として排気中に残留する量である。
そして、後端部位4bから排出される排気が、先述した排気Ex_0となり、前端部位4aおよび後端部位4bにおいて酸化されずに残った燃料が、先述した燃料HC_0となる。
ここで、上述した触媒温度の算出が行われる内燃機関1の排気浄化装置において、酸化触媒4の前端部位4aおよびフィルタ5の前端部位5aの触媒温度が酸化触媒4およびフィルタ5に担持される吸蔵還元型NOx触媒の各々の暫定触媒活性温度を超えると、燃料添加弁6からの燃料添加が行われる。また、前端部位4aおよび前端部位5aの触媒温度が酸化触媒4およびフィルタ5に担持される吸蔵還元型NOx触媒の各々の触媒活性温度を超えると、ECU20により各触媒が触媒活性状態になったと判定される。
そして、フィルタ5が触媒活性状態になったと判定されたとき、図2に示すフィルタ5の前端部位5a、中間部位5b、後端部位5cの各部位の推定温度が、排気温度センサ7によって検出される排気Ex_cの排気温度に基づいて補正される。排気温度センサ7は後端部位5cの下流側に設けられているので、排気温度センサ7によって検出される排気Ex_cの排気温度は、実際の後端部位5cの触媒温度に極めて近い値と考えられる。そこで、該検出温度と排気Ex_cの流量を踏まえて、実際の後端部位5cの触媒温度を推定し、該推定触媒温度を以下、第一後端部位温度という。尚、第一後端部位温度の推定を、以下、後端部位温度推定手段による推定という。また、図2に示す触媒温度の推定(以下、「触媒温度推定手段による推定」という)によって推定された後端部位5cの温度Tcを以下、第二後端部位温度という。
そこで、第一後端部位温度と第二後端部位温度との間に温度差が生じる場合には、触媒温度推定手段において推定誤差が存在すると考えられる。そこで、該温度差に応じて、触媒温度推定手段で推定された各部位の触媒温度Ta、Tb、Tcを補正する。例えば、第一後端部位温度がTc+ΔTdであるとき、各部位の触媒温度Ta、Tb、TcをTa+ΔTd、Tb+ΔTd、Tc+ΔTdと補正する。また、これに併せて、酸化触媒4の各部位の触媒温度も補正する。これにより、以降の酸化触媒4およびフィルタ5の各部位の触媒温度の推定がより正確に行うことが可能となる。尚、この触媒温度の補正を、以下、触媒温度補正手段による補正という。
ここで、内燃機関1が機関停止した後、比較的短い時間の経過後に再び内燃機関1が再び始動するとき、フィルタ5の各部位において広範囲の温度分布が生じる。図3に、内燃機関1の機関停止後の前端部位5aおよび後端部位5cの実際の触媒温度の推移を示す。尚、図3に示す触媒温度推移は、触媒温度推定手段で推定された触媒温度推移ではなく、実験において温度センサによって直接測定した触媒温度の推移である。図3の横軸は時間を表し、時間t1は内燃機関1が機関停止した時点を、時間t2は内燃機関1が再び機関始動した時点を表す。また、図5の縦軸は触媒温度を表し、触媒温度Tp1は暫定触媒活性温度を、触媒温度Tp2は触媒活性温度を表す。尚、内燃機関1が機関停止している間は、触媒温度推定手段による触媒温度の推定は行われない。
そして、図3中線L1は前端部位5aの触媒温度推移を表し、線L2は後端部位5cの触媒温度推移を表す。機関停止時t1以降においては、前端部位5aには燃焼による高温の排気が流入しなくなるため、前端部位5aの触媒温度は比較的早く低下する。一方で、後端部位5cは、その上流側に位置する前端部位5aや中間部位5bから熱が伝播するため、その触媒温度の低下は比較的緩やかである。その結果、前端部位5aの触媒温度と後端部位5cの触媒温度との間に比較的大きな温度差が生じる。
そして、該温度差が生じた状態で時点t2において内燃機関1が再度機関始動すると前端部位5aの触媒温度と後端部位5cの触媒温度との間に比較的大きい温度差が生じた状態で、フィルタ5の各部位の触媒温度の推定が再び開始される。尚、このように前端部位5aと後端部位5cとの間に比較的大きい温度差が生じた状態で、フィルタ5の触媒温度を上昇させる、即ち該触媒の暖機を行うことを触媒半暖機状態という。
フィルタ5の半暖機状態においては、該触媒温度の推定が再び開始されるとき、中間部位5bおよび後端部位5cの初期温度を、後端部位温度推定手段によって推定される第一後端部位温度とする。一方で、前端部位5aの初期温度を、水温センサ11によって検出される内燃機関1の冷却水の温度thwに設定する。冷却水温度thwは、後端部位5cの初期温度として設定される第一後端部位温度より低温の値である。
ここで、図4にフィルタ5の半暖機状態における前端部位5aの推定温度推移(図4中
、線L3で表される)と後端部位5cの推定温度推移(図4中、線L4で表される)を示す。尚、これらの温度は、触媒温度推定手段で推定される。また、図4には、後端部位温度推定手段による第一後端部位温度の推移(図4中、線L5で表される)も併せて示す。図4の横軸は時間であり、時間t2は図3に示す時間t2と同様にフィルタ5が半暖機状態で内燃機関1が再始動した時点を、時間t3は前端部位5aの触媒温度が暫定触媒活性温度Tp1を超えた時点を、時間t4は前端部位5aの触媒温度が触媒活性温度Tp2を超えた時点を表す。
従って、時間t2から時間t3までの間においては、燃料添加弁6からの燃料添加は行われず、排気温度および未燃成分として排気中に残存する燃料によってフィルタ5の触媒温度が推移する。前端部位5aの触媒温度は時間t2より徐々に増加していくが、後端部位5cの触媒温度の温度は、触媒温度推定手段による触媒温度の算出を行うために、前端部位5aの触媒温度に影響されて、前端部位5aの温度に徐々に近づいた後、前端部位5aの温度に追従するように上昇する。尚、第一後端部位温度は、触媒温度推定手段によって推定される前端部位5aの触媒温度には影響されないため、徐々に増大する。また、時間t3から時間t4までの間においては、燃料添加弁6から燃料添加によって各部位の触媒温度の温度上昇が速やかに行われる。
そして、時間t4において、ECU20によってフィルタ5が触媒活性状態となったと判定されるとともに、触媒温度補正手段による温度補正が行われる。即ち、触媒温度補正手段による温度補正は時間t4における第一後端部位温度(図4中、点P1で表される触媒温度)と時間t4における第二後端部位温度(図4中、点P2で表される触媒温度)との温度差ΔTpを、触媒温度推定手段によって推定される触媒温度に加算する。従って、図4に示すように時間t4直後において、前端部位5aと後端部位5cの触媒温度は急峻に上昇する。その後、一定のオーバーシュートをもって、前端部位5aと後端部位5cの触媒温度は目標となる触媒温度に収束する。
図4に示すように、前端部位5aの初期温度を冷却水温度thwとして触媒温度の推定とともにフィルタ5の温度上昇が行われることで、前端部位5aの触媒温度が冷却水温度thwの影響を受けて低温側の触媒温度で推移する。その結果、ECU20による触媒活性の判定が行われるとき(図4中、時間t4)、実際の触媒温度が触媒活性温度を超えている蓋然性が高くなり、より安全な触媒活性判定を行い得る。
更に、後端部位5cの初期温度を第一後端部位温度として触媒温度の推定とともにフィルタ5の温度上昇が行われることで、後端部位5cの推定触媒温度が第一後端部位温度が加味された値となる。そのため、前端部位5aと同様に後端部位5cの初期温度を冷却水温度thwと設定する場合と比べて、触媒温度補正手段による触媒温度の補正を行うときの補正量(図中のΔTpに相当)が小さくなる。その結果、時間t4以降に発生するオーバーシュート量を抑え、安定したフィルタの昇温を行うことが可能となる。尚、このオーバーシュート量が過度に大きくなると、フィルタ5の各部位の過剰昇温を抑制するための上限温度OTを超え、内燃機関1が機関停止する虞があるが、上述のような初期温度設定をすることで、フィルタ5の各部位の触媒温度のOT超過を抑制し得る。また、図4には中間部位5bの温度推移は示されていないが、後端部位5cと同じ初期温度を設定した上で、触媒温度推定手段による推定が行われる。
ここで、図5および図6に基づいて、上述した酸化触媒4およびフィルタ5の触媒温度の推定およびフィルタ5の触媒活性の判定を行いつつ、触媒温度を上昇させる制御(以下、「触媒温度上昇制御」という)について、説明する。尚、触媒温度上昇制御は、酸化触媒4およびフィルタ5の触媒温度を上昇させるときに実行されるルーチンである。図5および図6は、触媒温度上昇制御の処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、図5に示す触媒温度上昇制御について説明する。S101では、内燃機関1が機関停止しているか否かが判定される。内燃機関1が機関停止していると判定されるとS102へ進み、内燃機関1が機関停止していないと判定されるとS101の処理が再び行われる。
S102では、排気温度センサ7によって、フィルタ5から流出した排気の温度thco1が検出される。即ち、thco1は、内燃機関1の機関停止直後の排気温度であって、その時点における後端部位5cの触媒温度を強く反映する値である。S102の処理が終了すると、S103へ進む。
S103では、機関停止状態にある内燃機関1が、再び機関始動するか否かが判定される。内燃機関1が機関始動すると判定されるとS104へ進み、内燃機関1が機関始動しないと判定されるとS103の処理が再び行われる。
S104では、排気温度センサ7によって、フィルタ5から流出した排気の温度thco2が検出される。即ち、thco2は、内燃機関1の機関始動直後の排気温度であって、その時点における後端部位5cの触媒温度を強く反映する値である。そして、S102で検出した排気温度thco1とthco2との排気温度差ΔTexを算出する。S104の処理が終了すると、S105へ進む。
S105では、S104で算出された排気温度差ΔTexが所定温度差ΔTex0より小さいか否かが判定される。ここで、排気温度差ΔTexは、内燃機関1の機関始動時の排気温度thco2とその前の機関停止時の排気温度thco1との温度差であることから、排気温度差ΔTexは、内燃機関1が機関停止状態にあった時間を反映する値である。即ち、排気温度差ΔTexの値が比較的小さいことは、内燃機関1が機関停止状態にあった時間が比較的短いことを意味し、排気温度差ΔTexの値が比較的大きいことは、内燃機関1が機関停止状態にあった時間が比較的長いことを意味する。そして、内燃機関1が機関停止状態にあった時間が比較的短い場合には、先述したようにフィルタ5の前端部位5aの触媒温度と後端部位5cの触媒温度との間に比較的大きい温度差が生じ、フィルタ5が触媒半暖機状態となる。
そこで、排気温度差ΔTexに基づいて、フィルタ5が触媒半暖機状態であるか否かを判断することが可能である。その判定の基準となるのが所定温度差ΔTex0であり、所定温度差ΔTex0はフィルタ5の大きさや熱容量等から決定される値である。そして、排気温度差ΔTexが所定温度差ΔTex0より小さいときは、内燃機関1が機関停止状態にあった時間が比較的短いことを意味し、即ちフィルタ5が触媒半暖機状態にある蓋然性が高いことを意味する。そこで、その場合にはS106へ進む。また、排気温度差ΔTexが所定温度差ΔTex0以上であるときは、内燃機関1が機関停止状態にあった時間が比較的長いことを意味し、即ちフィルタ5において前端部位5aの触媒温度と後端部位5cの触媒温度との間の温度差は比較的小さいことを意味する。そこで、その場合にはS108へ進む。
S106では、S104で検出された排気温度thco2が所定排気温度thco0より大きいか否かが判定される。ここで、所定排気温度thco0は、後端部位5cの触媒温度が触媒活性状態にあるときのフィルタ5から流出する排気温度もしくは該排気温度に近い温度である。従って、S106において排気温度thco2が所定排気温度thco0より大きいときは、内燃機関1が機関停止状態にあった時間が非常に短く、フィルタ5が触媒半暖機状態となるまでには至らず、いまだ触媒活性状態を維持しているとみなし得る。そこで、排気温度thco2が所定排気温度thco0より大きいと判定されるとき
はS107へ進み、フィルタ5は触媒活性状態にあると判定し、本制御を終了する。また、排気温度thco2が所定排気温度thco0以下であると判定されるときは、フィルタ5は触媒半暖機状態にあると判定し、S109へ進む。
S105からS108に進むときは、フィルタ5の前端部位5aの触媒温度と後端部位5cの触媒温度との温度差は比較的小さい状態、即ちフィルタ5の触媒温度がほぼ一様に低下している状態である。そこで、触媒温度推定手段による触媒温度の推定を行うにあたり、前端部位5aの初期温度および後端部位5cの初期温度に、共に第一後端部位温度を設定する。換言すると、実際のフィルタ5の触媒温度に即した各部位の初期温度を設定するものである。尚、中間部位5bの初期温度は、後端部位5cの初期温度と同一とする。
S106からS109に進むときは、フィルタ5は触媒半暖機状態である。そこで、先述したように、触媒温度推定手段による触媒温度の推定を行うにあたり、前端部位5aの初期温度を、内燃機関1の冷却水温度thwに、後端部位5cの初期温度を第一後端部位温度に設定する。尚、中間部位5bの初期温度は、後端部位5cの初期温度と同一とする。
S108またはS109の処理が終了するとS110へ進む。S110では、S108またはS109において設定されたフィルタ5の各部位の初期温度に基づいて触媒温度推定手段による触媒温度の推定が行われる。そして、その推定された触媒温度に基づいて、燃料添加弁6からの燃料添加を伴って、触媒温度の上昇が図られ、フィルタ5が触媒活性状態となるか否かが判定される。そして、フィルタ5が触媒活性状態であると判定されると、触媒温度補正手段による推定触媒温度の補正が行われ、本制御を終了する。
尚、本制御が終了すると、フィルタ5は触媒活性状態となり、フィルタ5による排気中のNOxの浄化、粒子状物質の浄化等が行われる。
本制御によると、フィルタ5の触媒温度上昇による触媒活性化にあたって、フィルタ5が触媒半暖機状態か否かによって、触媒温度推定手段による触媒温度の推定の際の初期温度を、フィルタ5の各部位の触媒温度に即した温度に設定する。その結果、実際の触媒温度と推定触媒温度との間に生じる温度差を低減し、フィルタ5の温度上昇制御への悪影響やエミッションへの悪影響を抑制することが可能となる。
次に、図6に示す触媒温度上昇制御について説明する。尚、図6に示す制御フローが行われる内燃機関の排気浄化装置は図1に示すものと同一である。また、図6に示す制御フロー中、図5に示す制御フローの処理と同一の処理については、同一の参照番号を付して、その説明を省略する。
図6に示す制御においては、図5に示す制御のS102における処理が行われない。そして、S103で内燃機関1が機関始動すると判定されると、S201へ進む。S201では、内燃機関1の機関始動直後の排気温度thco2を排気温度センサ7によって検出するとともに、水温センサ11によって内燃機関1の冷却水温度thwを検出する。S201の処理が終了すると、S202に進む。
S202では、S201で検出した排気温度thco2と冷却水温度thwとの温度差が所定温度差ΔTcより大きいか否かが判定される。内燃機関1が機関停止すると内燃機関1からの熱エネルギーの伝達量が低下するため、該機関停止後、冷却水温度thwは、フィルタ5の触媒温度より低温となる。一方で、フィルタ5の後端部位5cにはそれより上流側の部位から熱エネルギーが伝播するため、後端部位5cの温度低下は緩やかであり、そのため排気温度thco2の温度低下も緩やかである。そこで、排気温度thco2
と冷却水温度thwとの温度差が比較的大きいと、内燃機関1の機関停止後比較的時間が経過しておらず、フィルタ5が触媒半暖機状態である蓋然性が高い。また、排気温度thco2と冷却水温度thwとの温度差が比較的小さいと、内燃機関1の機関停止後比較的長い時間が経過して、フィルタ5の各部位の触媒温度がほぼ一様となっている蓋然性が高い。そこで、排気温度thco2と冷却水温度thwとの温度差と基準となる所定温度差ΔTcとを比較して、フィルタ5の各部位の触媒温度の状態を判断する。
従って、排気温度thco2と冷却水温度thwとの温度差が所定温度差ΔTcより大きいと判断されるときは、フィルタ5は半暖機状態であると判断し、S109へ進み、先述したS109におけるフィルタ5の各部位の初期温度の設定が行われる。S109の処理終了後、S203へ進む。また、排気温度thco2と冷却水温度thwとの温度差が所定温度差ΔTc以下であると判断されるときは、フィルタ5は半暖機状態ではなく、各部位の触媒温度はほぼ一様となっていると判断し、S108へ進み、先述したS108におけるフィルタ5の各部位の初期温度の設定が行われる。S108の処理終了後、S204へ進む。
S203では、以降に行われるS110でのフィルタ5の触媒活性状態の判定の基準値となる触媒活性温度をThc1に設定する。また、S204では、触媒活性温度をThc2に設定する。このとき、Thc1の値はThc2の値より小さい。そして、S203またはS204の処理が終了すると、S110に進み、S108またはS109、およびS203またはS204において設定された各値に基づいて、触媒温度の推定、触媒温度の昇温、フィルタ5の触媒活性状態の判定、推定触媒温度の補正が行われ、本制御を終了する。
本制御によると、フィルタ5の触媒温度上昇による触媒活性化にあたって、フィルタ5が触媒半暖機状態か否かによって、触媒温度推定手段による触媒温度の推定の際の初期温度を、フィルタ5の各部位の触媒温度に即した温度に設定することで、実際の触媒温度と推定触媒温度との間に生じる温度差を低減し、フィルタ5の温度上昇制御への悪影響やエミッションへの悪影響を抑制することが可能となる。更に、フィルタ5が半暖機状態であるときのフィルタ5の触媒活性温度を、フィルタ5が半暖機状態でないときのフィルタ5の触媒活性温度より低温の値とすることで、触媒温度推定手段による触媒温度の推定において初期温度を低温の冷却水温度thwを用いることによるフィルタ5の触媒活性の判断までに要する時間を短くすることが可能となる。
但し、S203において触媒活性温度として設定されるThc1が過度に低温側に設定されると、フィルタ5の触媒活性状態の判定が正確に行われない可能性が高くなる。そこで、Thc1の値はS201で検出された排気温度thco2、冷却水温度thwの値やその他の内燃機関1の機関要素の温度等に基づいて、より適切な値に変動させてもよい。