JP4146610B2 - 濁度予測システム、濁度制御システムおよび濁度管理システム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、濁度予測システム、濁度制御システムおよび濁度管理システムに関し、特に浄水場での数時間後の処理水濁度を予測し、原水の濁度・水質変動に対応して凝集剤投入率を決定し、処理水濁度を所望範囲内に制御する濁度予測システム、濁度制御システムおよび濁度管理システムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般的な浄水場では、河川などから得た原水に対して凝集剤を投入することにより不純物を粒子(フロック)化し、さらに沈殿およびろ過を行うという一連の浄化処理が行われる。
この浄化処理では、凝集剤の投入率によってフロックの形成状態が異なる。例えば、凝集剤が少なすぎる場合は、不純物を凝集できなかったり、不純物の凝集が不十分で沈殿せず、その後段のろ過工程に悪影響を及ぼす恐れがある。また、凝集剤が多すぎる場合は、凝集剤の余分な投入による処理コストが増加してしまう。
【0003】
従来の浄水場では、係員が原水を用いたビーカーテストを行うことにより凝集剤の投入率を決定していた。凝集剤の効果は、原水のpHやアルカリ度に影響を受けるため、原水を殺菌するために投入される塩素も考慮して、pH調整剤が投入される。
したがって、ビーカーテストでは、原水を試料として凝集剤の投入率とpH調整剤の投入率の組み合わせを段階的に変えてフロック形成試験を行い、フロックが良好に形成されるように凝集剤の投入率を選択していた。
【0004】
また、このような凝集剤投入率の決定を自動化する方法として、インパルス応答を用いた伝達関数を定義した重回帰モデルを使う方法が提案されている。
この他、急速混和池で形成される微小フロックの粒径とフロック形成状態とに相関関係があることに着目し、この微小フロックの粒径の計測値をフィードバックさせて、その粒径が所望の設定値となるような凝集剤投入率をPI制御で自動的に決定するようにしたものが提案されている(例えば、特願平7−112103号公報など参照)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のビーカーテストを行う方法では、凝集剤投入率の決定までに時間を要するため、降雨時のように原水濁度が急激に変化するような場合には迅速に対応できず、また手作業が必要なことから自動化が難しいという問題点があった。
また、重回帰モデルを用いる方法については、一般的に、凝集剤投入率、原水水質および水温が非線形の関係にあるため、これら変数の変化範囲を広くカバーする単一内部モデルを生成できない。そのため、各変数の変化範囲を区分して複数の内部モデルを生成する必要があり、モデル生成のために膨大な作業や時間を要するという問題点があった。さらに、これら複数の内部モデルを切り替えて用いるため制御が不連続となる可能性もある。
【0006】
また、微小フロックの粒径を計測してPI制御する方法では、微小フロックの粒径に基づきフロック形成状態を予測していることになるが、他の要因を考慮していないため高い予測精度を得ることが難しく、また微小フロックであってもその形成に時間がかかるため、フィードバックに無視できない誤差や時間遅れが発生し、結果としてPI制御が安定しないという問題点があった。
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、所定時間後に得られる処理水の濁度を十分な信頼性を持って予測できる濁度予測システムを提供することを目的とし、また複雑なモデルを用いることなく遅れ時間を考慮して凝集剤投入率を決定できる濁度制御システムを提供することを目的とし、さらに原水水質の急変にも自動的に追従できる濁度管理システムを提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するために、本発明にかかる濁度予測システムは、浄水場の浄化処理を示す各種計測データを所定の推論モデルを用いて演算処理することにより、浄水場で所定時間後に生成される処理水の処理水濁度を推定して出力する濁度予測システムであって、少なくとも計測データの、原水濁度、原水流量、凝集剤投入率、気温、および処理水濁度を含む入力データと、その入力データを入力条件として浄水場から得られた実際の処理水濁度と、からなる履歴データを複数取り込み、処理水濁度の推定に必要となる出力許容誤差に応じて各履歴データが分布する入力空間を複数に分割することにより量子化して複数の単位入力空間を形成するとともに対応する単位入力空間内に各履歴データを配置し、1つ以上の履歴データを有する単位入力空間ごとにその単位入力空間の履歴データを代表する事例を作成することにより生成された事例ベースと、この事例ベースを検索することにより、入力空間内において新たな入力データに対応する単位入力空間に最も近い他の単位入力空間であって、かつ事例を有する1つ以上の単位入力空間からそれぞれ事例を取得する事例検索部と、新たな予測変数データの組に対応する処理水濁度を算出して出力する出力推定部とを備え、出力推定部において、事例検索部により検索された事例の処理水濁度から新たな入力データに対応する処理水濁度を算出して出力するようにしたものである。
【0008】
濁度予測システムの入力データとして、少なくとも計測データの、原水pH、前塩素投入率および処理水pHをさらに含んでもよい。
【0009】
本発明にかかる濁度制御システムは、浄水場の浄化処理を示す各種計測データを所定の推論モデルを用いて演算処理することにより、浄水場で投入すべき凝集剤の投入率を推定して出力する濁度制御システムであって、少なくとも計測データの、原水濁度、原水流量、気温、および処理水濁度と、浄化処理で所定時間後に生成される処理水の予測水濁度とを含む入力データと、その入力データを入力条件として浄水場で実際に投入された凝集剤の投入率と、からなる履歴データを複数取り込み、凝集剤投入率の推定に必要となる出力許容誤差に応じて各履歴データが分布する入力空間を複数に分割することにより量子化して複数の単位入力空間を形成するとともに対応する単位入力空間内に各履歴データを配置し、1つ以上の履歴データを有する単位入力空間ごとにその単位入力空間の履歴データを代表する事例を作成することにより生成された事例ベースと、この事例ベースを検索することにより、入力空間内において新たな入力データに対応する単位入力空間に最も近い他の単位入力空間であって、かつ事例を有する1つ以上の単位入力空間から、それぞれ事例を取得する事例検索部と、新たな入力データに対応する凝集剤投入率を算出して出力する出力推定部とを備え、出力推定部において、事例検索部により検索された事例の凝集剤投入率から新たな予測変数データの組に対応する凝集剤投入率を算出して出力するようにしたものである。
【0010】
濁度制御システムの入力データとして、少なくとも計測データの、原水pH、前塩素投入率および処理水pHをさらに含んでもよい。
【0011】
本発明にかかる濁度管理システムは、浄水場浄化処理を示す各種計測データに基づき、浄水場で投入すべき凝集剤の投入率を決定することにより、浄水場で生成される処理水の濁度を管理する濁度管理システムであって、計測データに基づき、所定時間後の処理水濁度を推定し予測濁度として出力する濁度予測システムと、計測データと濁度予測システムで得られた予測濁度とに基づき、浄化処理で投入すべき凝集剤の投入率を推定出力する濁度制御システムとを備え、濁度予測システムは、少なくとも計測データの、原水濁度、原水流量、凝集剤投入率、気温、および処理水濁度を含む第1の入力データと、その第1の入力データを入力条件として浄水場から得られた実際の処理水濁度と、からなる第1の履歴データを複数取り込み、処理水濁度の推定に必要となる出力許容誤差に応じて各第1の履歴データが分布する第1の入力空間を複数に分割することにより量子化して複数の第1の単位入力空間を形成するとともに対応する第1の単位入力空間内に各第1の履歴データを配置し、1つ以上の第1の履歴データを有する第1の単位入力空間ごとにその第1の単位入力空間の第1の履歴データを代表する第1の事例を作成することにより生成された第1の事例ベースと、この第1の事例ベースを検索することにより、当該第1の入力空間内において新たな第1の入力データに対応する第1の単位入力空間に最も近い他の単位入力空間であって、かつ第1の事例を有する1つ以上の第1の単位入力空間から、それぞれ第1の事例を取得する第1の事例検索部と、この第1の事例検索部により検索された第1の事例の処理水濁度から新たな第1の入力データに対応する処理水濁度を算出して出力する第1の出力推定部とを備え、濁度制御システムは、少なくとも計測データの、原水濁度、原水流量、気温、および処理水濁度と、濁度予測システムで得られた所定時間後の処理水濁度を示す予測濁度とを含む第2の入力データと、その第2の入力データを入力条件として浄水場で実際に投入された凝集剤の投入率と、からなる第2の履歴データを複数取り込み、凝集剤投入率の推定に必要となる出力許容誤差に応じて各第2の履歴データが分布する第2の入力空間を複数に分割することにより量子化して複数の単位入力空間を形成するとともに対応する単位入力空間内に各第2の履歴データを配置し、1つ以上の第2の履歴データを有する単位入力空間ごとにその単位入力空間の第2の履歴データを代表する第2の事例を作成することにより生成された第2の事例ベースと、この第2の事例ベースを検索することにより、当該第2の入力空間内において新たな第2の入力データに対応する第2の単位入力空間に最も近い他の第2の単位入力空間であって、かつ第2の事例を有する1つ以上の第2の単位入力空間から、それぞれ第2の事例を取得する第2の事例検索部と、この第2の事例検索部により検索された第2の事例の凝集剤投入率から新たな第2の入力データに対応する凝集剤投入率を算出して出力する第2の出力推定部とを備えるものである。
【0012】
濁度予測システムの第1の入力データとして、少なくとも入力データの、原水pH、前塩素投入率および処理水pHをさらに含んでもよく、濁度制御システムの第2の入力データとして、少なくとも入力データの、原水pH、前塩素投入率および処理水pHをさらに含んでもよい。
【0013】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施の形態である濁度管理システムを示す構成図である。以下では、河川から取水した原水を浄化処理して配水する浄水場を例として説明する。
まず、浄水場50での浄水処理について説明する。
ポンプ51で河川などから取水した原水が着水井52へ導入され、続く混和池53で凝集剤が投入されて不純物が粒子(フロック)化される。このとき殺菌のための塩素(以下、前塩素という)も投入される。
【0014】
その後、フロック形成池54では、時間をかけて凝集剤が反応してフロックが形成され、沈殿池55でそのフロックが沈殿する。沈殿池55の上層から得られた処理水は、ろ過池56で砂などを用いたフィルタでろ過され、ポンプ井57へ貯水される。そして、需要に応じてポンプ井57から汲み出され、配水池(図示せず)を経て水需要家へ配水される。
水処理制御装置58では、濁度管理システム10から指示された凝集剤投入率12に基づき混和池53で原水へ投入する凝集剤の投入率を調節している。これにより、浄水場50で生成される処理水の濁度が所定範囲内に管理される。
【0015】
次に、濁度管理システム10について説明する。この濁度管理システム10は、浄水場50で計測された各種の計測データ40に基づき、所定時間後の処理水濁度を予測し、得られた予測濁度と各種の計測データ40に基づき、凝集剤の投入率を逐次自動的に決定するシステムである。
濁度管理システム10には、計測データ40のうちの予測変数データ41から事例ベース推論モデルを用いて所定時間後に得られる処理水濁度を予測濁度11として推定出力する濁度予測システム20、および予測濁度11と計測データ40のうちの制御変数データ43とから事例ベース推論モデルを用いて凝集剤投入率12を決定する濁度制御システム30から構成されている。
【0016】
まず、濁度予測システム20について説明する。図2に濁度予測システムの構成例を示す。この濁度予測システム20には、履歴データ21、事例ベース生成部22、事例ベース23、事例検索部24、出力推定部25および適応学習部26が設けられている。
濁度予測システム20の具体的構成としては、全体としてパソコンなどの情報処理装置から構成されており、事例ベース生成部22、事例検索部24、出力推定部25および適応学習部26は、情報処理装置で実行されるソフトウェア(アプリケーション)で実現されている。また履歴データ21や事例ベース23は、ハードディスクやメモリなどの情報記憶装置に格納されたデータからなり、必要に応じて読み出され、また更新される。
【0017】
この濁度予測システム20では、事例ベース推論モデルを用いて予測変数データ41から、浄水処理に要する所定時間だけ経過した後、例えば1〜6時間後に沈殿池55から出力される処理水の濁度を予測している。
履歴データ21は、計測データ40のうち濁度の予測に用いる予測変数データ41と、その予測データ41が得られた場合に浄水場50で実際に処理され生成される処理水の濁度すなわち処理水濁度(実績)との組み合わせからなるデータであり、ここでは浄水場50から過去に計測して得られた多数のデータが用いられる。
【0018】
事例ベース生成部22では、このような履歴データ21のうち、予測変数データ41を入力変数とするとともに処理水濁度(実績)を出力値とし、各入力変数の入力空間を所望の予測精度で量子化して事例化することにより事例ベース23を生成する。
事例検索部24では、浄水場50から得られた新たな予測変数データ41に対応する1つ以上の事例を事例ベース23から検索する。出力推定部25では、事例検索部24で検索された1つ以上の事例から、新たな予測変数データ41に対応する出力値すなわち予測濁度11を導出する。
【0019】
予測変数データ41としては、浄水場50のポンプ51で取水した原水の濁度、原水流量(あるいはろ過流量でもよい)、凝集剤投入率、フロック形成池54や沈殿池55周辺の気温、沈殿池55から出力された処理水の濁度が用いられる。また、pH値の違いによる凝集剤の反応効果を考慮する場合は、上記の変数に加えて、原水のpH値、前塩素投入率、沈殿池55から出力された処理水のpH値を用いてもよい。
この予測変数データ41は、予測対象となる原水(処理水)に関するデータが用いられるため、実際には予測時点のデータだけでなく過去に計測されたデータからなる時系列データも用いられる。
【0020】
適応学習部26では、新たな予測変数データ41とその場合に浄水場50で実際に処理され生成された水の処理水濁度(実績)との組み合わせ、すなわち予測実績データ42に基づき、事例ベース23の対応する事例を逐次更新する。
なお、履歴データ21や事例ベース生成部22については、濁度予測システム20に常時必要なものではなく、事例ベース生成部22の機能を有する別個の演算処理装置で履歴データ21から事例ベース23を生成し、濁度予測システム20へ組み込むようにしてもよい。また、適応学習部26も必須の構成ではなく、浄水場50の振る舞いの変動に応じて適応学習部26の要否を判断すればよい。
【0021】
次に、濁度制御システム30について説明する。図3に濁度制御システムの構成例を示す。この濁度制御システム30には、履歴データ31、事例ベース生成部32、事例ベース33、事例検索部34、出力推定部35および適応学習部36が設けられている。
濁度制御システム30の具体的構成としては、全体としてパソコンなどの情報処理装置から構成されており、事例ベース生成部32、事例検索部34、出力推定部35および適応学習部36は、情報処理装置で実行されるソフトウェア(アプリケーション)で実現されている。また履歴データ31や事例ベース33は、ハードディスクやメモリなどの情報記憶装置に格納されたデータからなり、必要に応じて読み出され、また更新される。
【0022】
この濁度制御システム30では、事例ベース推論モデルを用いて制御変数データ43から、浄水処理に要する所定時間だけ経過した後、例えば1〜6時間後に浄水場50で生成される処理水の濁度を所望の範囲内に制御するのに必要な凝集剤の投入率を推定している。
履歴データ31は、計測データ40のうち凝集剤投入率の推定に用いる制御変数データ43と、実際に浄水場50で投入された凝集剤投入率(実績)との組み合わせからなるデータであり、ここでは浄水場50から過去に得られた多数のデータが用いられる。
【0023】
事例ベース生成部32では、このような履歴データ31のうち、制御変数データ43を入力変数とするとともに凝集剤投入率(実績)を出力値とし、各入力変数の入力空間を所望の予測精度で量子化して事例化することにより事例ベース33を生成する。
事例検索部34では、浄水場50から得られた新たな制御変数データ43に対応する1つ以上の事例を事例ベース33から検索する。出力推定部35では、事例検索部34で検索された1つ以上の事例から、新たな制御変数データ43に対応する出力値すなわち凝集剤投入率12を導出する。
【0024】
制御変数データ43としては、上記した所定時間後の予測濁度のほか、浄水場50のポンプ51で取水した原水の濁度、原水流量(あるいはろ過流量でもよい)、フロック形成池54や沈殿池55周辺の気温、沈殿池55から出力された処理水の濁度が用いられる。また、pH値の違いによる凝集剤の反応効果を考慮する場合は、上記の変数に加えて、原水のpH値、前塩素投入率、沈殿池55から出力された処理水のpH値を用いてもよい。
この制御変数データ43は、予測対象となる原水(処理水)に関するデータが用いられるため、実際には予測時点のデータだけでなく過去に計測されたデータからなる時系列データも用いられる。
【0025】
適応学習部36では、新たな制御変数データ43とその場合に浄水場50で実際に投入された凝集剤の投入率(実績)との組み合わせ、すなわち制御実績データ44に基づき、事例ベース33の対応する事例を逐次更新する。
なお、履歴データ31や事例ベース生成部32については、濁度制御システム30に常時必要なものではなく、事例ベース生成部32の機能を有する別個の演算処理装置で履歴データ31から事例ベース33を生成し、濁度制御システム30へ組み込むようにしてもよい。また、適応学習部36も必須の構成ではなく、浄水場50の振る舞いの変動に応じて適応学習部36の要否を判断すればよい。
【0026】
このように、本発明は実際的な運用性を有しており、上記の濁度予測システム20によれば、浄水処理の所要時間を見越して将来生成される処理水の濁度を十分な信頼性を持って予測できる。また、上記の濁度制御システムによれば、浄水処理の所要時間を見越して将来生成される処理水の濁度を所望の範囲に制御するために必要な凝集剤投入率を十分な信頼性を持って予測できる。
したがって、濁度管理システム10において、濁度予測システム20で予測された予測濁度11を用いて、濁度制御システム30で凝集剤投入率12を決定することにより、浄水処理にある程度時間を要する場合でも、係員の手作業を要することなく迅速かつ自動的に予測濁度11および凝集剤投入率12を導出でき、投入する凝集剤に過不足のない安定した濁度管理を実施できる。
【0027】
また、濁度予測システム20や濁度制御システム30では、浄水場50の振る舞いを実際に計測した計測データを用いて事例ベース23,33を構成しているため、事例ベース23,33自体が浄水場50の濁度予測や濁度制御に関する制御系が持つ入出力関係を内包している。
したがって、従来のような入出力関係を表すための重回帰モデルなど特殊な内部モデルを必要とせず、予測や制御の連続性が得られるとともに、降雨などによる原水水質の急激な変化にも迅速に対応できる。
【0028】
さらに、濁度予測システム20や濁度制御システム30では、新たな予測変数データや制御変数データと類似した予測変数データや制御変数データを持つ既存の事例を事例ベースから検索している。このとき、後述のように、入力量子化数をパラメータとして入力空間を量子化して事例ベースと類似度を定義し、評価指標値を算出して量子化数を決定している。このため収束計算を必要とせず、さらにこの評価指標値から事例ベース生成時に直ちにモデルの完成度を評価でき、別途テストデータを用いてモデル評価を行う必要がない。
【0029】
また、濁度予測システム20や濁度制御システム30での濁度予測や濁度制御に必要な変数として、濁度、流量、投入率、気温、さらにはpHという、比較的数が少なく計測しやすい変数で精度よく濁度を予測できる。
これにより、多種にわたる多数の変数を用いる場合と比較して、変数が少ない分だけ演算処理速度も向上しシステム全体のリアルタイム性も高まるとともに、これら変数を検出するためのセンサ類を多数設置する必要がなく設備コストを削減できる。
【0030】
以上で説明した濁度予測システム20と濁度制御システム30とでは、扱うデータ、すなわち履歴データ21,31、事例ベース23,33の内容や入力・出力変数が異なるものの、その構成についてはほぼ同様である。
したがって、事例ベース生成部22,32、事例検索部24,34、出力推定部25,35および適応学習部26,36を実現するソフトウェア(アプリケーション)については、同じものを利用でき、パソコンなどの情報処理装置でこれらソフトウェアを並列的に実行すればよい。
【0031】
また、これら濁度予測システム20および濁度制御システム30については、双方とも上記のような事例ベース推論モデルを用いる必要はない。例えば、他の方法で予測濁度11から凝集剤投入率12を決定できるのであれば、濁度予測システム20のみを適用すればよく、また他の方法で予測濁度11を予測できるのであれば、濁度制御システム30のみを用いてもよく、いずれの場合も上記した濁度予測システム20または濁度制御システム30の作用効果が得られる。
【0032】
次に、本実施の形態で用いる事例ベース推論の動作について説明する。以下では濁度予測システム20の事例ベース推論モデルを例として説明するが、これは濁度予測システム20だけではなく、濁度制御システム30にも同様にして適用される。
まず、図4〜6を参照して、濁度予測システム20の事例ベース生成部22の動作について説明する。図4は本実施の形態にかかる事例ベース推論モデルで用いる位相の概念を示す説明図、図5は入力空間の量子化処理を示す説明図、図6は事例ベース生成処理を示すフローチャートである。
【0033】
事例ベース23は、位相(Topology)の概念を導入して作成された事例ベースであり、所望の出力許容誤差(要求精度)に応じて入力空間が量子化されており、それぞれ量子化されてできた単位入力空間(以下、メッシュという)ごとに、入出力間の関係が定義されている。
事例検索部24では、この事例ベース23を参照することにより、新たな予測変数データ41に対応するメッシュを選択し、そのメッシュあるいはその近傍メッシュからそれぞれのメッシュを代表する事例を検索する。この予測変数データ41は、事例ベース23の生成に用いる履歴データ21と同じ入力変数データから構成されている。
【0034】
出力推定部25では、事例検索部24で検索された1つ以上の事例の出力データから、新たな予測変数データ41に対応する推定出力データ、ここでは予測濁度11を算出して出力する。
適応学習部26では、対象の振る舞いから実際に得られた新規な予測実績データ42に基づき、事例ベース23の学習を適応的に行う。新規予測実績データ42は、事例ベース23の生成に用いる履歴データ21と同じ構成ではあるが、履歴データ21として使用されていない別個のデータからなっており、例えば濁度予測動作の開始後に対象ここでは浄水場50から実際の計測で得られた新たなデータなどが用いられる。
【0035】
本実施の形態で用いる事例ベース推論モデルでは、数学の位相論における連続写像の概念に基づき、入力空間を量子化し位相空間とすることにより、要求精度である出力誤差の許容幅ε(出力許容誤差)に応じた事例ベースと類似度の一般的な定義を行っている。
位相論における連続写像の概念とは、例えば空間X,Yにおいて、写像f:X→Yが連続であるための必要十分条件が、Yにおける開集合(出力近傍)O逆写像f-1(O)がXの開集合(入力近傍)に相当することである、という考え方である。この連続写像の概念を用いて、入力空間から出力空間への写像fが連続することを前提とし、図4に示すように、出力空間において出力誤差の許容幅を用いて出力近傍を定めることにより、これら出力近傍とその出力誤差の許容幅を満足する入力近傍とを対応付けることができ、入力空間を量子化し位相空間として捉えることができる。
【0036】
入力空間の量子化処理は、図6に示すような手順で行われる。
履歴データ21は、過去に得られた入力データと出力データとの組からなり、図5では入力x1,x2と出力yとから構成されている。これら履歴データは入力空間x1−x2において、図5右上のように分布している。これを図5右下のように、x1,x2方向にそれぞれ所定幅を有する等間隔のメッシュで量子化する場合、図5左下に示すように出力誤差の許容幅εを考慮して、メッシュの大きさすなわち入力量子化数を決定している。
【0037】
出力誤差の許容幅εとは、推定により得られる出力と新規入力データに対する未知の真値との誤差をどの程度まで許容するかを示す値であり、モデリング条件として予め設定される。
したがって、この許容幅εを用いてメッシュの大きさを決定することにより、出力近傍の大きさに対応する入力近傍すなわち事例を定義でき、その事例に属する全ての入力データから推定される出力データの誤差が、出力誤差の許容幅εを満足することになる。
【0038】
事例ベース生成部22では、このような入力空間の量子化処理を用いて、事例ベース23を生成している。図6において、まず、履歴データ21を読み込むとともに(ステップ100)、出力誤差の許容幅εなどのモデリング条件を設定し(ステップ101)、この許容幅εに基づき各種評価指標を算出し、その評価指標に基づいて各入力変数ごとに入力量子化数を選択する(ステップ102)。そして、各メッシュに配分された履歴データ21から事例ベース23を構成する各事例を生成する(ステップ103)。
【0039】
ここで、図7〜10を参照して、評価指標を用いた入力量子化数の決定処理について説明する。
図7は入力量子化数の決定処理を示すフローチャート、図8は評価指標の1つである出力分布条件を示す説明図、図9は評価指標の1つである連続性条件を示す説明図、図10は各評価指標の充足率と入力量子化数との関係を示す説明図である。
【0040】
出力分布条件とは、図8に示すように、選択した入力量子化数で入力空間を量子化して得られた任意のメッシュについて、そのメッシュ内に属する履歴データの出力yの出力分布幅が出力誤差の許容幅εより小さい、という条件である。これにより1つのメッシュすなわち入力近傍が、これに対応する出力近傍に定めた条件すなわち出力誤差の許容幅εを満足するかどうか検査される。
連続性条件とは、図9に示すように、選択した入力量子化数で入力空間を量子化して得られた任意のメッシュについて、そのメッシュで生成された事例の出力値yと、その事例と類似度rの周囲に存在する周囲事例の平均出力値y’との差が、出力誤差の許容幅ε(r+1)より小さい、という条件である。
【0041】
これにより、各事例間すなわち入力近傍間での出力値の差が、これらに対応する出力近傍間に定めた条件すなわち出力誤差の許容幅εを満足するかどうか検査される。この連続性条件を満たすことにより、各事例が連続的に所望の精度を満たすように、入力空間をカバーしていると判断できる。この連続性条件を検査する場合、検査対象メッシュの事例と周囲事例との距離すなわち後述する類似度rを考慮する必要がある。これは先に述べた位相論における連続写像の概念を正しく反映させるためである。
ここで、メッシュ内の出力誤差許容幅がε以内であることから、2つの事例間の類似度がrの場合、その出力誤差許容幅はε(r+1)以内となる。したがって、上記の連続性条件は、任意のメッシュで生成された事例の出力値yと、その事例と類似度rの周囲事例の平均出力値y’との差が、出力誤差の許容幅ε(r+1)より小さい、という条件となる。
【0042】
入力量子化数の決定処理では、図7に示すように、まず評価指標の良否を判定するための基準として評価基準(しきい値)を設定する(ステップ110)。そして、各入力量子化数ごとに各評価指標を算出し(ステップ111)、得られた評価指標と評価基準とを比較して、評価基準を満足する評価指標が得られた入力量子化数を選択する(ステップ112)。
評価基準としては、出力分布条件および連続性条件をともに満たす事例が90%以上となる入力量子化数を選択するのが望ましく、システムでは90%もしくは95%の分割数が表示されるようになっている。この90%や95%という値は、統計的に考えて適切な値と考えられるからである。
【0043】
この入力量子化数は、各入力変数ごとに順に決定される。例えば、入力変数がx1,x2,‥,xnの場合、x1からxnまで順に入力量子化数を決定していく。
ここで、評価指標を算出する際、すべての入力変数に入力量子化数を割り当てる必要がある。したがって、xiに関する評価指標を求める際、x1〜xi-1については、その時点ですでに決定されている入力量子化数を用い、xi以降のxi+1,‥,xnについては、xiと同じ入力量子化数を用いる。
【0044】
前述した各条件のうち、出力分布条件と連続性条件については、評価指標として、その条件を満足する事例の全事例に対する割合すなわち評価指標充足率が用いられる。例えば、xiに関する入力量子化数mの評価指標値は、x1,x2,‥,xnの入力レンジ幅をそれぞれの入力量子化数で量子化し、量子化により生成された全事例における、その評価指標条件を満たす事例の割合、すなわち出力分布条件充足率と連続性条件充足率とで求められる。
そして、その入力変数xiについて、これら全ての評価指標値が評価基準をクリアした入力量子化数からいずれかを選択し、その入力変数xiの入力量子化数として決定する。
【0045】
このとき、出力分布条件充足率SDと連続性条件充足率SCの各評価指標は、入力量子化数mの増加に応じて単調に増加するのではなく、図10に示すように、ある程度の上下幅を伴って放物線状に変化するため、ある入力量子化数mについては評価基準を再度下回った後、m2のように評価基準を満足するケースもある。
これについては、予め設定される検査入力量子化数の最大値mmaxまでのうち、出力分布条件充足率SDと連続性条件充足率SCの各評価指標が評価基準を満足する最も小さい入力量子化数m1を選択することにより、最大値mmaxに依存することなく最適な入力量子化数を選択できるとともに、メッシュ数を最小限に抑制でき、事例ベースのサイズを小さくできる。
【0046】
事例ベース生成部22では、以上のようにして入力量子化数が選択され、その入力量子化数で量子化された入力空間ここでは各メッシュに各履歴データが配分されて、事例が生成される。
図11は事例生成処理を示す説明図、図12は事例生成処理を示すフローチャートである。
【0047】
まず、選択された入力量子化数に基づき各入力変数を量子化(分割)し、メッシュを生成する(ステップ120)。図11では、入力変数x1が10分割されるとともに入力変数x2が6分割されている。そして、各履歴データが各メッシュに振り分けられて(ステップ121)、履歴データが存在するメッシュが事例として選択され、その入出値および出力値が算出される(ステップ122)。図11右上に示すように、同一メッシュに3つの履歴データが振り分けられた場合、図11右下に示すように、これらが1つ事例として統合される。このとき、事例を代表する出力値として3つの履歴データの出力yの平均値が用いられ、事例を代表する入力値としてそのメッシュの中央値が用いられる。
【0048】
図2の濁度予測システムでは、このようにして生成された事例ベース23を用いて、新規に入力された予測変数データ41から予測濁度11を推定する。
まず、事例検索部24では、予測変数データ41の各入力変数の値と類似度とを用いて事例ベース23から類似事例を検索する。
図13は類似度の定義を示す説明図、図14は事例検索部24における類似事例検索処理を示すフローチャートである。類似度とは、事例ベース23が持つ入力空間に設けられた各メッシュのうち、各事例が新規入力データに対応するメッシュとどの程度の類似性を有しているか示す尺度である。
【0049】
図13では、入力データここでは予測変数データ41に対応する中央メッシュに事例が存在すれば、その事例と入力データとは「類似度r=0」であると定義されている。また、中央メッシュの1つ隣に存在する事例とは「類似度r=1」となり、以降、中央メッシュから1メッシュずつ離れていくごとに類似度が1ずつ増加していく。したがって、推定を行う場合、類似度rの事例による推定値は、(r+1)×出力誤差許容幅ε以内の精度を持つことになる。
このとき、推定を行う入力値に対してうまく両側の事例が使用された場合は、(r+1)×εよりも良い精度の出力値である場合が予想される。また、推定を行う値に対して片側の事例のみが使用された場合は、(r+1)×ε程度の精度であることが、入出力の連続性のもとに予想される。
【0050】
事例検索部24では、図14に示すように、まず、入力データを取り込み(ステップ130)、事例ベース23が持つ入力空間から、その入力データに対応するメッシュを選択するとともに(ステップ131)、事例検索範囲として用いる類似度を0に初期化し(ステップ132)、その類似度が示す事例検索範囲から類似事例を検索する(ステップ133)。
ここで、入力データに対応するメッシュに事例が存在した場合は(ステップ134:YES)、その事例を類似事例として出力する(ステップ136)。一方、ステップ134において、入力データに対応するメッシュに事例が存在しなかった場合は(ステップ134:NO)、類似度を1だけ増やして事例検索範囲を拡げ(ステップ135)、ステップ133へ戻って、再度、類似事例を検索する。
【0051】
このようにして、事例検索部24において、新規入力データに対応する類似事例が事例ベース23から検索され、出力推定部25で、これら類似事例に基づき、新規の入力データAに対応する出力データYが推定される。例えば、図15に示すように、入力データA(22.1,58.4)に対応するメッシュ150に事例が存在した場合、その事例の出力値y=70.2が推定出力データとして選択される。
また、図16に示すように、入力データA(23.8,62.3)に対応するメッシュ151に事例が存在しなかった場合、事例検索部24では検索範囲152を拡大して類似事例を検索する。そして、検索された事例から出力推定部25で推定出力データを算出する。このとき、複数の事例が検索された場合は、それら各事例の出力値の平均値が推定出力データとして用いられる。このようにして、出力推定部25では、新規入力データAに対応する推定出力データYが推定されて出力される。
【0052】
次に、図17,18を参照して、適応学習部の動作について説明する。
図2に示すように、適応学習部26では、対象すなわち浄水場50から実測して得られた新規の予測実績データ42に基づき事例ベース23を更新する。このとき、新規予測実績データ42を例えば1時間ごとに自動的に得るようにしてもよく、これにより適応学習の自動化が可能となる。
まず、事例ベース23が持つ入力空間から新規データに対応する事例が検索される。ここで、その新規データに対応する事例が存在した場合は、その事例のみを改訂する。
【0053】
図17は、対応する事例が存在する場合の適応学習動作を示す説明図である。
ここでは、新規データB(23.9,66.8,48.2)に対応する事例160が存在するため、新規データBの出力値y=48.2と改訂前の事例160の出力値49.7とから、その事例の新たな出力値y=49.0を算出している。
出力改訂演算式としては、忘却係数CForgetを設け、この忘却係数が示す比率で改訂前出力値Yoldと新規データBの出力値Yとを加算し、その事例の改訂後の出力値としている。
【0054】
一方、新規データに対応する事例が存在しない場合は、その新規データに基づき新たな事例を生成する。図18は、対応する事例が存在しない場合の適応学習動作を示す説明図である。
ここでは、新規データB(23.7,62.3,43.8)に対応するメッシュ161に事例が存在しないため、その新規データBに対応するメッシュの中央値を入力値とし、新規データBの出力値yを代表の出力値とする新規事例162を新たな生成して、事例ベース23に追加している。
【0055】
以上説明したように、本実施の形態にかかる推論モデルは、事例ベース推論の枠組みをモデリングに適用したもので、位相(Topology)の概念に基づき、システムの入出力関係の連続性が成り立つ一般的な対象に適用可能なモデリング技術といえる。
したがって、データは同定された入力空間に事例として蓄えられ、出力推定時には入力と予め蓄積されている入力事例との位相距離(類似度)により推定出力データの信頼性が示せるという特徴を持つ。
本実施の形態では、このようなモデルを用いて出力データを推定するようにしたので、ニューラルネットワークや重回帰モデルなどの従来の推論モデルと比較して、次のような作用効果が得られる。
【0056】
従来の推論モデルでは、
1)入出力全域の関係を規定するために特殊なモデル構造を用いているため、システムに最適な構造を見つけるためには多くの手間を必要とする。
2)履歴データの学習を行う場合、モデル構造の持つ複数のパラメータを同定するための収束計算を行う必要があり、この処理に膨大な時間がかかる。
3)新たなデータに基づきモデルを更新する場合にもパラメータの同定を行う必要があり、実際には適応学習が困難である。
4)推定を行う入力値に対してモデル出力値がどの程度信頼できるかどうかを把握するのが困難である。
【0057】
これに対して、本実施の形態によれば、
1)過去に経験した事例(問題と解答)を事例ベースとして蓄積し、システムの入出力関係を内包する入出力事例を用いているため、入出力関係を表すための特殊なモデルを必要としない。
2)事例ベースを生成する場合は、入力量子化数をパラメータとして入力空間を量子化して事例ベースと類似度を定義し、評価指標値を算出して量子化数を決定している。このため収束計算を必要とせず、さらにこの評価指標値からモデルの完成度を評価でき、従来のように別途テストデータを用いてモデル評価を行う必要がない。
【0058】
また、本実施の形態によれば、
3)新たに入力された問題に対する解答は、類似事例を検索することにより得ている。したがって、問題に対して検索された事例の類似の程度が判定できるため、この類似度を解答の信頼性評価に利用できる。
4)事例ベースが個々の事例から構成されているため、新たなデータに基づき事例ベースを部分改訂でき、従来のようにパラメータの同定を行う必要がなく、容易に適応学習できる。
【0059】
なお、従来のモデルにおける学習と収束計算の問題については、事例ベース推論(Case-Based Reasoning:CBR)において事例ベース構造と類似度の定義という問題となる。これは、従来の事例ベース推論において、対象の十分な知見がなければ定義できないという、工学上の大きな問題となっている。本実施の形態にかかる事例ベース推論モデルでは、数学の位相論における連続写像の概念に基づき、出力許容誤差すなわち要求精度に応じた事例ベースと類似度との一義的な定義を、入力空間を量子化し位相空間とすることで行っている。したがって、対象の十分な知見すなわち入出力構造の同定を必要とすることなく、入出力モデルを定めることができる。
【0060】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、濁度予測システムとして、浄水場から得られた計測データの、原水濁度、原水流量、凝集剤投入率、気温、および処理水濁度を含む入力データから、事例ベース推論モデルを用いて、所定時間後に浄水場で生成される処理水の濁度を予測濁度として推定するようにしたので、浄水処理の所要時間を見越して将来生成される処理水の濁度を十分な信頼性を持って予測できる。また、濁度制御システムとして、浄水場から得られた計測データの、原水濁度、原水流量、気温、および処理水濁度を含む入力データと所定時間後に生成される処理水の予測濁度とから、事例ベース推論モデルを用いて、浄水場で投入すべき凝集剤の投入率を推定するようにしたので、浄水処理の所要時間を見越して将来生成される処理水の濁度を所望の範囲に制御するために必要な凝集剤投入率を十分な信頼性を持って予測できる。
【0061】
さらに、濁度管理システムとして、濁度予測システムで予測された予測濁度を用いて、濁度制御システムで凝集剤投入率を決定するようにしたので、浄水処理にある程度時間を要する場合でも、係員の手作業を要することなく迅速かつ自動的に予測濁度および凝集剤投入率を導出でき、投入する凝集剤に過不足のない安定した濁度管理を実施できる。また、従来のような入出力関係を表すための重回帰モデルなど特殊な内部モデルを必要とせず、予測や制御の連続性が得られるとともに、降雨などによる原水水質の急激な変化にも迅速に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施の形態による濁度管理システムを示す構成図である。
【図2】 濁度予測システムの構成例である。
【図3】 濁度制御システムの構成例である。
【図4】 事例ベース推論モデルで用いる位相の概念を示す説明図である。
【図5】 入力空間の量子化処理を示す説明図である。
【図6】 事例ベース生成処理を示すフローチャートである。
【図7】 入力量子化数の決定処理を示すフローチャートである。
【図8】 出力分布条件を示す説明図である。
【図9】 連続性条件を示す説明図である。
【図10】 各評価指標の充足率と入力量子化数との関係を示す説明図である。
【図11】 事例生成処理を示す説明図である。
【図12】 事例生成処理を示すフローチャートである。
【図13】 類似度の定義を示す説明図である。
【図14】 類似事例検索処理を示すフローチャートである。
【図15】 出力推定動作(類似事例が存在する場合)を示す説明図である。
【図16】 出力推定動作(類似事例が存在しない場合)を示す説明図である。
【図17】 適応学習動作(対応事例が存在する場合)を示す説明図である。
【図18】 適応学習動作(対応事例が存在しない場合)を示す説明図である。
【符号の説明】
10…濁度管理システム、11…予測濁度、12…凝集剤投入率、20…濁度予測システム、21…履歴データ、22…事例ベース生成部、23…事例ベース、24…事例検索部、25…出力推定部、26…適応学習部、30…濁度制御システム、31…履歴データ、32…事例ベース生成部、33…事例ベース、34…事例検索部、35…出力推定部、36…適応学習部、40…計測データ、41…予測変数データ、42…予測実績データ、43…制御変数データ、44…制御実績データ、50…浄水場、51…ポンプ、52…着水井、53…混和池、54…フロック形成池、55…沈殿池、56…ろ過池、57…ポンプ井、58…水処理制御装置。
Claims (7)
- 浄水場の浄化処理を示す各種計測データを所定の推論モデルを用いて演算処理することにより、前記浄水場で所定時間後に生成される処理水の処理水濁度を推定して出力する濁度予測システムであって、
少なくとも前記計測データの、原水濁度、原水流量、凝集剤投入率、気温、および処理水濁度を含む入力データと、その入力データを入力条件として浄水場から得られた実際の処理水濁度と、からなる履歴データを複数取り込み、処理水濁度の推定に必要となる出力許容誤差に応じて前記各履歴データが分布する入力空間を複数に分割することにより量子化して複数の単位入力空間を形成するとともに対応する単位入力空間内に前記各履歴データを配置し、1つ以上の履歴データを有する単位入力空間ごとにその単位入力空間の履歴データを代表する事例を作成することにより生成された事例ベースと、
この事例ベースを検索することにより、前記入力空間内において新たな入力データに対応する単位入力空間に最も近い他の単位入力空間であって、かつ事例を有する1つ以上の単位入力空間から、それぞれ事例を取得する事例検索部と、
この事例検索部により検索された前記事例の処理水濁度から前記新たな入力データに対応する処理水濁度を算出して出力する出力推定部と
を備えることを特徴とする濁度予測システム。 - 請求項1記載の濁度予測システムにおいて、
前記入力データは、少なくとも前記計測データの、原水pH、前塩素投入率および処理水pHをさらに含むことを特徴とする濁度予測システム。 - 浄水場の浄化処理を示す各種計測データを所定の推論モデルを用いて演算処理することにより、前記浄水場で投入すべき凝集剤の投入率を推定して出力する濁度制御システムであって、
少なくとも前記計測データの、原水濁度、原水流量、気温、および処理水濁度と、前記浄化処理で所定時間後に生成される処理水の予測水濁度とを含む入力データと、その入力データを入力条件として浄水場で実際に投入された凝集剤の投入率と、からなる履歴データを複数取り込み、凝集剤投入率の推定に必要となる出力許容誤差に応じて前記各履歴データが分布する入力空間を複数に分割することにより量子化して複数の単位入力空間を形成するとともに対応する単位入力空間内に前記各履歴データを配置し、1つ以上の履歴データを有する単位入力空間ごとにその単位入力空間の履歴データを代表する事例を作成することにより生成された事例ベースと、
この事例ベースを検索することにより、前記入力空間内において新たな入力データに対応する単位入力空間に最も近い他の単位入力空間であって、かつ事例を有する1つ以上の単位入力空間から、それぞれ事例を取得する事例検索部と、
この事例検索部により検索された前記事例の凝集剤投入率から前記新たな入力データに対応する凝集剤投入率を算出して出力する出力推定部と
を備えることを特徴とする濁度制御システム。 - 請求項3記載の濁度制御システムにおいて、
前記入力データは、少なくとも前記計測データの、原水pH、前塩素投入率および処理水pHをさらに含むことを特徴とする濁度制御システム。 - 浄水場の浄化処理を示す各種計測データに基づき、前記浄水場で投入すべき凝集剤の投入率を決定することにより、前記浄化処理で生成される処理水の濁度を管理する濁度管理システムであって、
前記計測データに基づき、所定時間後の処理水濁度を推定し予測濁度として出力する濁度予測システムと、前記計測データと前記濁度予測システムで得られた予測濁度とに基づき、前記浄化処理で投入すべき凝集剤の投入率を推定出力する濁度制御システムとを備え、
前記濁度予測システムは、
少なくとも前記計測データの、原水濁度、原水流量、凝集剤投入率、気温、および処理水濁度を含む第1の入力データと、その第1の入力データを入力条件として浄水場から得 られた実際の処理水濁度と、からなる第1の履歴データを複数取り込み、処理水濁度の推定に必要となる出力許容誤差に応じて前記各第1の履歴データが分布する第1の入力空間を複数に分割することにより量子化して複数の第1の単位入力空間を形成するとともに対応する第1の単位入力空間内に前記各第1の履歴データを配置し、1つ以上の第1の履歴データを有する第1の単位入力空間ごとにその第1の単位入力空間の第1の履歴データを代表する第1の事例を作成することにより生成された第1の事例ベースと、
この第1の事例ベースを検索することにより、当該第1の入力空間内において新たな第1の入力データに対応する第1の単位入力空間に最も近い他の単位入力空間であって、かつ第1の事例を有する1つ以上の第1の単位入力空間から、それぞれ第1の事例を取得する第1の事例検索部と、
この第1の事例検索部により検索された前記第1の事例の処理水濁度から前記新たな第1の入力データに対応する処理水濁度を算出して出力する第1の出力推定部と
を備え、
前記濁度制御システムは、
少なくとも前記計測データの、原水濁度、原水流量、気温、および処理水濁度と、前記濁度予測システムで得られた所定時間後の処理水濁度を示す予測濁度とを含む第2の入力データと、その第2の入力データを入力条件として浄水場で実際に投入された凝集剤の投入率と、からなる第2の履歴データを複数取り込み、凝集剤投入率の推定に必要となる出力許容誤差に応じて前記各第2の履歴データが分布する第2の入力空間を複数に分割することにより量子化して複数の単位入力空間を形成するとともに対応する単位入力空間内に前記各第2の履歴データを配置し、1つ以上の第2の履歴データを有する単位入力空間ごとにその単位入力空間の第2の履歴データを代表する第2の事例を作成することにより生成された第2の事例ベースと、
この第2の事例ベースを検索することにより、当該第2の入力空間内において新たな第2の入力データに対応する第2の単位入力空間に最も近い他の第2の単位入力空間であって、かつ第2の事例を有する1つ以上の第2の単位入力空間から、それぞれ第2の事例を取得する第2の事例検索部と、
この第2の事例検索部により検索された前記第2の事例の凝集剤投入率から前記新たな第2の入力データに対応する凝集剤投入率を算出して出力する第2の出力推定部と
を備える
ことを特徴とする濁度管理システム。 - 請求項5記載の濁度管理システムにおいて、
前記第1の入力データは、少なくとも前記入力データの、原水pH、前塩素投入率および処理水pHをさらに含むことを特徴とする濁度管理システム。 - 請求項5記載の濁度管理システムにおいて、
前記第2の入力データは、少なくとも前記入力データの、原水pH、前塩素投入率および処理水pHをさらに含むことを特徴とする濁度管理システム。
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