JP4057410B2 - 絶縁樹脂組成物およびそれを用いた絶縁電線 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、埋立、焼却などの廃棄時において、重金属化合物の溶出や、多量の煙、腐食性ガスの発生がない絶縁樹脂組成物および電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線に関する。
【0002】
【従来の技術】
電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線の被覆材料には、難燃性、引張特性、耐熱性など種々の特性が要求される。このため、これら絶縁電線の被覆材料として、ポリ塩化ビニル(PVC)コンパウンドやエチレン系共重合体を主成分とするベース樹脂に分子中に臭素原子や塩素原子を含有するハロゲン系難燃剤を配合した、樹脂組成物を使用することがよく知られている。
近年、このような被覆材料を用いた絶縁電線を適切な処理をせずに廃棄した場合の種々の問題が提起されている。例えば、埋立により廃棄した場合には、被覆材料に配合されている可塑剤や重金属安定剤の溶出、また焼却した場合には、多量の腐食性ガスの発生、ダイオキシンの発生などという問題が起こる。
このため、有害な重金属やハロゲン系ガスなどの発生がないノンハロゲン難燃材料で電線を被覆する技術の検討が盛んに行われている。
従来のノンハロゲン難燃材料は、ハロゲンを含有しない難燃剤を樹脂に配合することで難燃性を発現させたものであり、このような被覆材料の難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水和物が、また、樹脂としては、ポリエチレン、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体などが用いられている。
【0003】
【特許文献1】
特開2001−60414公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで電子機器内に使用される電子ワイヤハーネスには、安全性の面から高い難燃性が要求されており、非常に厳しい難燃性規格 UL1581(Reference Standard for Electrical Wires,Cables, and Flexible Cords)などに規定される垂直燃焼試験(Vertical Flame Test)のVW−1規格や水平難燃規格、JIS C3005に規定される60度傾斜難燃特性をクリアするものでなければならない。さらに、難燃性以外の特性についても、ULやCSA規格、電気用品取締規格をすべて満足する場合、破断伸び200%以上、破断抗張力10MPa以上という高い機械特性が要求されている。
【0005】
ノンハロゲン難燃材料を用いた絶縁電線においてこのような高度の難燃性と機械特性を実現するために、以下のような技術が検討されてきた。
まず、赤燐と水酸化マグネシウムを併用した絶縁組成物が検討されてきたが、赤燐の発色のために電線を白をはじめとする任意の色に着色できないことや、廃棄する際に赤燐が地中に流出し湖沼を富養化するおそれがあることなどの問題がある。
また、水酸化マグネシウムを多量に加えた絶縁組成物が検討されているが、絶縁層の肉厚によっては燃えてしまうことがあり、また、難燃性が不十分であったり、機械的強度が著しく低下したりするという問題がある。
特開平2−75642号には、ポリオレフィン又はエチレン系共重合体に対して無機難燃剤とメラミンシアヌレート化合物を併用した例が開示されている。しかしこの組成物を用いた絶縁電線では前記のVW−1規格に不適合であり、また通常用いられる高級脂肪酸で表面処理した水酸化マグネシウムを200重量部程度まで加えてゆくと機械的強度が著しく低下する。
また特開2001−60414にはエチレン酢酸ビニル共重合体に対してアクリルゴムを加え、さらにシラン処理なされた水酸化マグネシウムを使用することにより、難燃性、機械特性及び絶縁抵抗を両立させる手法が開示されている。しかしながらUL、CSA、電気用品規格のすべてを満足する伸び特性、機械的強度を満足することができず、また肉厚が0.4mm程度の細径線の難燃性や浸水後の電気特性を十分に満足できるものではなかった。
【0006】
さらに絶縁電線は、絶縁電線被覆層の端末を剥がし各種金属端末と接続する処理が必要とされ、この被覆層の剥離が容易であること(以下、電線の皮むき性という)が要求される。この可否により例えば家電製品等への量産対応性が大きく左右される。しかし通常のノンハロゲンの樹脂組成物を被覆材とする絶縁電線の場合は、従来のPVC樹脂組成物を被覆材とする絶縁電線と比較して皮むき性が劣り、電線の皮をむいた際被覆層が一部伸びた部分(以下ひげという)が残るなどの問題点がある。このひげ等が加工部に残っていると接触不良などの問題が生じる可能性が大きくなる。またノンハロゲン難燃組成物の場合、金属水和物等の配合量が多いため、押し出し時に目やにが大量に発生する問題がある。
【0007】
本発明は、これらの問題を解決し、絶縁電線に要求される高度の難燃性と優れた機械特性を有し、任意の色に着色でき、被覆層の皮むき性が容易で、かつ、廃棄時の埋立による重金属化合物やリン化合物の溶出や、焼却による多量の煙、腐食性ガスの発生などの問題のない絶縁樹脂組成物及びこの組成物を被覆材とする絶縁電線を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、被覆材のベース樹脂としてエチレン系共重合体を用い、上記課題に鑑み鋭意検討を行ったところ、場合によりベース樹脂の一成分としてさらにアクリルゴムを使用し、特定の表面処理剤で処理された水酸化マグネシウムを2種以上混合することにより、200%以上の伸び及び機械的強度を満足し、肉厚の薄い電線においてもVW−1規格に適合する優れた難燃特性を有し、しかも電気特性特に浸水後の電気に優れ、導体からの被覆材の皮むき性が良好で、燃焼時にダイオキシンなどの有害物質を発生しない絶縁電線が得られることを見出した。
本発明はこの知見に基づくものである。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)エチレン系共重合体を主成分とする樹脂成分100重量部に対し、水酸化マグネシウム200〜280重量部を含有し、水酸化マグネシウムのうち25重量%から80重量%がシランカップリング剤で表面処理されており、かつ20重量%から75重量%がポリマーでコートされている水酸化マグネシウムであることを特徴とする絶縁樹脂組成物、
(2)エチレン系共重合体を主成分とする樹脂成分100重量部に対し、水酸化マグネシウム200〜280重量部を含有し、水酸化マグネシウムのうち25重量%から80重量%がシランカップリング剤で表面処理されており、かつ20重量%から75重量%が脂肪酸及びポリマーでコートされている水酸化マグネシウムであることを特徴とする絶縁樹脂組成物、
(3)エチレン系共重合体95〜40重量%およびアクリルゴム5〜60重量%からなる樹脂成分を主成分とする樹脂成分100重量部に対し、水酸化マグネシウム200〜280重量部を含有し、水酸化マグネシウムのうち25重量%から80重量%がシランカップリング剤で表面処理されており、かつ20重量%から75重量%がポリマーでコートされている水酸化マグネシウムであることを特徴とする絶縁樹脂組成物、
(4)エチレン系共重合体95〜40重量%およびアクリルゴム5〜60重量%からなる樹脂成分を主成分とする樹脂成分100重量部に対し、水酸化マグネシウム200〜280重量部を含有し、水酸化マグネシウムのうち25重量%から80重量%がシランカップリング剤で表面処理されており、かつ20重量%から75重量%がポリマー及び脂肪酸でコートされている水酸化マグネシウムであることを特徴とする絶縁樹脂組成物、
(5)エチレン系共重合体の酸含有量をAi%、その量をMi質量部とし、アクリルゴムの量をNi質量部としたときに、
ΣMi×(Ai/100)+ΣNi×0.7≧37
であることを特徴とする(3)または(4)に記載の絶縁樹脂組成物、
(6)アクリルゴムがエチレンとアクリル酸アルキルとの2元系共重合体アクリルゴム0〜57重量%、エチレンとアクリル酸アルキルとカルボキシル基を側鎖に有する不飽和炭化水素との3元系共重合体アクリルゴム3〜60重量%からなることを特徴とする(3)〜(5)のいずれか1項に記載の絶縁樹脂組成物、
(7)(1)〜(6)のいずれか1項に記載の絶縁樹脂組成物の架橋体で導体を被覆したことを特徴とする絶縁電線、
を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明においては、エチレン系共重合体に場合によりアクリルゴムを配合したベース樹脂に、シランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウムを必須成分とし、脂肪酸やポリマーで表面処理なされている水酸化マグネシウムを併用使用することにより、UL、CSA、電気用品規格の全規格に適合する伸び、機械特性、難燃性(垂直難燃性など)が優れた絶縁樹脂組成物を得、さらにこれを導体の周りに被覆し架橋することにより、UL、CSA、電気用品規格の全規格に適合する伸び、機械特性、難燃性(垂直難燃性など)および皮むき性が優れた絶縁電線を得ることに成功したものである。
本発明の絶縁樹脂組成物においては、アクリルゴムを配合することにより、皮むきの際にひげ状に被覆層を伸ばすことがなく皮むき性が良好になるとともに、さらに難燃性を向上させることが可能になり、絶縁特性と機械的強度を高いレベルに維持することができる。またアクリルゴムとして、特にエチレンとアクリル酸アルキルとカルボキシル基を側鎖に有する化合物との3元系共重合体アクリルゴムを使用することにより、難燃性を大幅に向上させることができる。
さらにアクリルゴムとシラン処理水酸化マグネシウムの併用により、非常に高い難燃性が得られる。さらにこのシラン処理水酸化マグネシウムと脂肪酸及びポリマーで表面処理なされた水酸化マグネシウムを併用使用することにより、薄肉電線においても難燃性を維持しつつ、200%以上の伸び特性を有する優れた機械特性を発揮することが可能となる。
さらにシラン処理水酸化マグネシウム並びに脂肪酸及びポリマーで表面処理された水酸化マグネシウムを併用使用することにより、高い絶縁抵抗を維持し、さらに長期浸水させてもまた高温多湿下に保管されても絶縁抵抗が維持可能な絶縁樹脂組成物及び絶縁電線を得ることができる。
【0011】
以下、本発明の絶縁樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
(A)エチレン系共重合体
本発明の絶縁樹脂組成物は、樹脂の1成分にエチレン系共重合体を用いる。本発明に用いることのできるエチレン系共重合体として具体的には例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メタクリレート共重合体(EMA)などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。難燃性および機械特性向上の点からは、本発明で用いるエチレン系重合体として好ましいものはエチレン−酢酸ビニル共重合体である。
また、難燃性を向上させるうえでエチレンに対し共重合させた共重合成分の含有量(例えばEVAでは酢酸ビニル(VA)含有量、EEAではエチルアクリレート(EA)含有量)が、20重量%以上が好ましく、さらに好ましくは28重量%以上、さらに30重量%以上が好ましい。またエチレン−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニルの含有量が60〜80重量%程度のエチレン酢酸ビニル共重合体を併用した方がよい。このようなエチレン酢酸ビニル共重合体を加えることにより、難燃性を向上させるのみならず、成型時の押し出し負荷を大幅に下げることが可能となる。
アクリルゴムの酸含有量を70重量%として、ベース材料全体に含まれる酸含有量が37重量%以上、さらに好ましくは38重量%、さらに好ましくは40重量%以上が好ましい。またベース全体の酸含有量が53重量%以下が好ましい。
この酸含有量が37重量%より低いと難燃性が低下し、またこの酸含有量が53重量%より大きくなると絶縁抵抗が低下する。、エチレン系共重合体のMFR(メルトフローレイト)は、強度の面、樹脂組成物の混練り加工性の面から0.2〜20、さらに好ましくは0.5〜10程度が好ましい。
【0012】
(B)アクリルゴム
本発明においては、樹脂成分100重量部中5〜60重量%の範囲内でアクリルゴムを使用することができる。
アクリルゴムはアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルエステル系単量体成分と各種官能基を有する単量体を少量共重合させて得られるゴム弾性体であり、各種官能基を有する単量体としては、2−クロルエチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、アクリル酸、アクリロニトリル、ブタジエン等を適宜使用することができる。具体的には、Nipol AR(商品名、日本ゼオン社製)、JSR AR(商品名、JSR社製)等を使用することができる。
特に単量体成分としてはアクリル酸メチルを使用するのが好ましく、その場合には、エチレンとの2元共重合体や、これにさらにカルボキシル基を側鎖に有する不飽和炭化水素をモノマーとして共重合させた3元共重合体を特に好適に使用することができる。具体的には、2元共重合体の場合にはベイマックDPやベイマックDLSを、3元共重合体の場合にはベイマックG、ベイマックHG、ベイマックGLS(商品名、いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)を使用することができる。
これらのアクリルゴムを配合することにより、皮むきの際にひげ状に被覆材を伸ばすことなく皮むき性が良好になる。またアクリルゴムの配合により著しく難燃性が向上させることができる。特にシラン処理水酸化マグネシウムと併用使用することにより、高い難燃性を維持することが可能となる。
本発明においてアクリルゴムは、樹脂成分中5〜60重量%の割合で使用することができる。アクリルゴムの量が5重量%より少ないと、難燃性、電線の皮むき性に問題が生じ、また60重量%を越えると電線の押し出し加工性が著しく低下するだけではなく、未架橋時の電線同士の粘着が著しく大きくなり生産性が大幅に低下するためである。
【0013】
またアクリルゴムとしてエチレンとアクリル酸アルキルとカルボキシル基を側鎖に有する不飽和炭化水素との3元系共重合体アクリルゴムを使用することにより、難燃性が向上するため加えた方が好ましい。配合量としては3元系アクリルゴムを3重量%以上加えた方が好ましく、さらに好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上加えた方が好ましい。またこの3元系アクリルゴムは押し出し負荷を上げる傾向があり、好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下、より好ましくは35重量%以下に抑えた方がよい。
さらにエチレンとアクリル酸アルキルとカルボキシル基を側鎖に有する不飽和炭化水素との3元系共重合体アクリルゴムを使用することにより強度が強固となり、力学的強度が向上するとともに、さらに架橋構造が密になることから、ある程度水に浸漬した際や高温多湿下に放置された場合でも絶縁抵抗の低下を抑えることが可能となる。さらにシラン処理水酸化マグネシウムと共にポリマーコートをした水酸化マグネシウムを併用使用することにより、さらに水に浸漬した際や高温多湿下に長期間放置された際の絶縁抵抗の低下を大幅に抑えることが可能となる。
【0014】
(C)水酸化マグネシウム
シラン処理水酸化マグネシウムの表面処理に用いられるシランカップリング剤としては、例えば、末端にアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ビニル基((メタ)アクリロイル基を含む)、エポキシ基を有するものが挙げられる。これらのシランカップリング剤は単独でも2種以上併用してもよい。その中でも末端にビニル基を有するものをその一成分として用いることが好ましく、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。これらのビニル基を末端に有するシランカップリング剤は1種単独でも、2種以上併用して使用してもよい。
またビニル基以外のシランカップリング剤と2種類以上併用しても良い。これらのシランカップリング剤は全シランカップリング剤中の少なくとも20重量%以上、好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上である。
またアミノ基を末端に有するシランカップリング剤を併用することにより、絶縁特性をさらに改善することができる。その配合量は全シランカップリング剤中の20重量%以下、好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0015】
本発明で用いることができるシランカップリング剤表面処理水酸化マグネシウムとしては、表面無処理のもの(市販品としては、キスマ5(商品名、協和化学社製)など)、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸で表面処理されたもの(キスマ5A(商品名、協和化学社製)など)、リン酸エステル処理されたものなどを上記のシランカップリング剤により表面処理したもの、またはシランカップリング剤によりすでに表面処理された水酸化マグネシウムの市販品(キスマ5L、キスマ5P(いずれも商品名、協和化学社製))、ファインマグMO−E、SN−E(いずれも商品名、TMG社製)、マグニフィンH5A、H5IV、H10A(いずれも商品名、アルベマール社製))などがある。
また、上記以外にも、予め脂肪酸やリン酸エステルなどで部分的に表面処理した水酸化マグネシウムに追加的にシランカップリング剤を用い表面処理を行った金属水和物なども用いることができる。
【0016】
水酸化マグネシウムの表面処理を行う場合は、未処理又は部分表面処理金属水和物に予め又は混練りの際シランカップリング剤をブレンドして行うことができる。このときのシランカップリング剤は、表面処理するに十分な量が適宜加えられるが、具体的には金属水和物に対し0.1〜3.0重量%、好ましくは0.2〜2重量%、さらに好ましくは0.3〜1.重量%である。
本発明においては、シランカップリング剤で表面処理された水酸化マグネシウムは、絶縁体としたときの高い力学的強度を維持するだけでなく、燃焼時に殻形成を促進する。特にビニル基を末端基に有するシランカップリング剤で表面処理なされた水酸化マグネシウムとアクリルゴムを併用することにより、表面が殻形成し難燃性が飛躍的に向上する。
【0017】
またポリマーコートされた水酸化マグネシウムとしてはマグニフィンH5MV、H5HV、H10MV、H10HV(いずれも商品名、アルベマール浅野社製)などが挙げられる。シラン処理水酸化マグネシウムとこのポリマーコート水酸化マグネシウムを併用することにより、難燃性を維持しつつ、高い伸び特性と機械強度を保持し、さらに電気特性及び浸水後や高温高湿中に長期間放置されても高い体積固有抵抗や絶縁抵抗を維持することが可能となる。
本材料に使用する水酸化マグネシウムのうち、25重量%から80重量%はシランカップリング剤で表面処理されている水酸化マグネシウムを、また20重量%から75重量%がポリマーでコートされている水酸化マグネシウムを使用しなければならない。
シラン処理水酸化マグネシウムが25重量%より少ない場合(ポリマーコート水酸化マグネシウムが75重量%より多い場合)、難燃性が著しく低下したり、また力学的強度が著しく低下する。またシラン処理水酸化マグネシウムが80重量%より多い場合(ポリマーコート水酸化マグネシウムが20重量%より少ない場合)、材料自体の伸びが低下するのみならず、絶縁抵抗や長期間水に浸水させた後の絶縁抵抗が著しく低下する。
【0018】
さらにポリマーコート水酸化マグネシウムの一部として脂肪酸で処理された水酸化マグネシウムを使用しても良い。この脂肪酸で処理なされた水酸化マグネシウムを併用することにより、伸び特性を向上させることが可能となる。脂肪酸で処理なされた水酸化マグネシウムはポリマーコート水酸化マグネシウム中の60重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下の範囲で置き換えが可能である。脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などがあり、特にステアリン酸やオレイン酸が好ましい。
本発明においてこの水酸化マグネシウムの配合量は、エチレン系共重合体及びアクリルゴムの合計100重量部に対して、200重量部〜290重量部、好ましくは230〜270重量部である。この金属水和物の配合量が少なすぎると要求される難燃性が確保できず、また多すぎると力学的強度や伸び特性が著しく低下する。
【0019】
本発明において特性を害しない範囲において第三樹脂成分としてスチレン系エラストマーやエチレンプロピレンゴムや不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィンを加えることができる。
(D)スチレン系エラストマー
本発明においては、スチレン系エラストマーを使用することができる。
スチレン系エラストマーとしては、スチレンの重合体ブロックSと共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBの少なくとも1個とからなるブロック共重合体又はこれを水素添加して得られるもの、あるいはこれらの混合物であり、例えば、S−B−S、B−S−B−S、S−B−S−B−Sなどの構造を有するビニル芳香族化合物‐共役ジエン化合物ブロック共重合体あるいは、これらの水素添加されたもの等を挙げることができる。
これらの共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンなどのうちから1種または2種以上が選ばれ、中でもブタジエン、イソプレンおよびこれらの組合せが好ましい。
上記(水添)ブロック共重合体の具体例としては、SBS、SIS、SEBS、SEPS等を挙げることができる。
【0020】
(E)エチレン−プロピレンゴム
エチレン−プロピレンゴムとしては、エチレンとプロピレンだけからなるEPM、さらに非共役ジエンを少量共重合させた3元系共重合体EPDMが使用できる。EPDMに使用される非共役ジエンとしては、ジシクロペンタジエン、5−エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン等を使用したものを使用することができる。
【0021】
以上(D)、(E)のスチレン系エラストマーおよびエチレン−プロピレンゴムは絶縁抵抗を著しく向上させる働きがあり、電線の皮むき性を低下させることなく絶縁抵抗を向上させることができる。
これらの(D)、(E)の樹脂は樹脂成分中、25重量%以下の範囲で使用することが可能である。
【0022】
(F)不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィン
不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィンとは、直鎖状ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを不飽和カルボン酸やその誘導体で変性した樹脂のことであり、変性に用いられる不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸の誘導体としては、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸などがある。ポリオレフィンの変性は、例えば、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸等を有機パーオキサイドの存在下に溶融、混練することにより行うことができる。マレイン酸の変性量は通常0.5〜7重量%程度である。
不飽和カルボン酸で変性されたポリオレフィンは樹脂とフィラーの接着としての効果があり、コンパウンドの強度を高める効果がある。
配合量はポリマー成分100重量%中のうち0〜20重量%、さらに好ましくは2〜15重量%さらに好ましくは5〜12重量%の範囲で使用することができる。
【0023】
本発明の絶縁樹脂組成物には、必要に応じスズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛及びホウ酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種を配合することができ、さらに難燃性を向上することができる。これらの化合物を用いることにより、燃焼時の殻形成の速度が増大し、殻形成がより強固になる。従って、燃焼時に内部よりガスを発生するメラミンシアヌレート化合物とともに、難燃性を飛躍的に向上させることができる。
本発明で用いるホウ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛は平均粒子径が5μm以下が好ましく、3μm以下がさらに好ましい。
本発明で用いることのできるホウ酸亜鉛として、具体的には例えば、アルカネックスFRC−500(2ZnO/3B2 O3 ・3.5H2 O)、FRC−600(いずれも商品名、水澤化学社製)などがある。またスズ酸亜鉛(ZnSnO3 )、ヒドロキシスズ酸亜鉛(ZnSn(OH)6 )として、アルカネックスZS、アルカネックスZHS(いずれも商品名、水澤化学社製)などがある。
【0024】
さらに難燃性を向上させるために本絶縁樹脂組成物にはメラミンシアヌレート化合物を加えることができる。本発明で用いるメラミンシアヌレート化合物の平均粒径は好ましくは10μm以下、より好ましくは7μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。また、分散性の面から表面処理されたメラミンシアヌレート化合物が好ましく用いられる。
本発明で用いることのできるメラミンシアヌレート化合物としては、例えばMCA−0、MCA−1(いずれも商品名、三菱化学社製)や、Chemie Linz Gmbhより上市されているものがある。また脂肪酸で表面処理したメラミンシアヌレート化合物、シラン表面処理したメラミンシアヌレート化合物としては、MC610、MC640(いずれも商品名、日産化学社製)などがある。
【0025】
本発明の絶縁樹脂組成物には、電線・ケ−ブルにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。
酸化防止剤としては、4, 4’−ジオクチル・ジフェニルアミン、N, N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2, 2, 4−トリメチル−1, 2−ジヒドロキノリンの重合物などのアミン系酸化防止剤、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3, 5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3, 5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1, 3, 5−トリメチル−2, 4, 6−トリス(3, 5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール系酸化防止剤、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンゾイミダゾールおよびその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)などのイオウ系酸化防止剤などがあげられる。
【0026】
金属不活性剤としては、N, N’−ビス(3−(3, 5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1, 2, 4−トリアゾール、2, 2' −オキサミドビス−(エチル3−(3, 5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)などがあげられる。
難燃(助)剤、充填剤としては、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ホワイトカーボンなどがあげられる。
【0027】
滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系などがあげられ、なかでも、ワックスE、ワックスOP(いずれも商品名、Hoechst社製)などの内部滑性と外部滑性を同時に示すエステル系、アルコール系、金属石けん系などが挙げられる。その中でもステアリン酸亜鉛やステアリン酸は、絶縁抵抗の向上の効果があり、ステアリン酸亜鉛やステアリン酸マグネシウムは、目やにを防ぐ効果がある。さらに滑剤としてシリコーン化合物や脂肪酸アミドを併用することにより、簡単に導体との密着性を制御することが可能となる。
【0028】
本発明の絶縁樹脂組成物は、上記の各成分を、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど、通常用いられる混練装置で溶融混練して得ることができる。
【0029】
次に本発明の絶縁電線について説明する。
本発明の絶縁電線は、導体が、上記の本発明の絶縁樹脂組成物の架橋体により被覆されたものであり、本発明の絶縁樹脂組成物を通常の電線製造用押出成形機を用いて導体周囲に押出被覆し、その後、その被覆層を架橋することにより製造することができる。被覆層を架橋体とすることにより、耐熱性の向上のみならず、難燃性も向上する。
架橋の方法は特に制限はなく、電子線架橋法や化学架橋法で行うことができる。
電子線架橋法で行う場合、電子線の線量は1〜30Mradが適当であり、効率よく架橋をおこなうために、トリメチロールプロパントリアクリレートなどのメタクリレート系化合物、トリアリルシアヌレートなどのアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物などの多官能性化合物を架橋助剤として配合してもよい。
化学架橋法の場合は樹脂組成物に、ヒドロペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステル、ケトンペルオキシエステル、ケトンペルオキシドなどの有機過酸化物を架橋剤として配合し、押出成形被覆後に加熱処理により架橋をおこなう。
本発明の絶縁電線の導体径や導体の材質などは特に制限はなく、用途に応じて適宜定められる。導体の周りに形成される絶縁樹脂組成物の被覆層の肉厚も特に制限はないが、0.15〜1mmが好ましい。また、絶縁層が多層構造であってもよく、本発明の絶縁樹脂組成物で形成した被覆層のほかに中間層などを有するものでもよい。
【0030】
以下、実施例を用いて詳細に説明する。
なお、本発明は以下の実施例に限定されるものでなく、種々に改変可能なものである。
【0031】
まず、表に示す各成分を室温にてドライブレンドし、バンバリーミキサーを用いて溶融混練して、各絶縁樹脂組成物を製造した。
次に、電線製造用の押出被覆装置を用いて、以下の電線を試作した。
導体(導体径0.78mmφの錫メッキ軟銅撚線 構成:7本/0. 26mmφ)上に、予め溶融混練した絶縁樹脂組成物を押し出し法により被覆して、各々絶縁電線を製造した。外径は2.44mm(被覆層の肉厚0.86mm)とし、被覆後、10Mradで電子線照射して架橋を行った。
導体(導体径0.48mmφの錫メッキ軟銅撚線 構成:7本/0. 16mmφ)上に、予め溶融混練した絶縁樹脂組成物を押し出し法により被覆して、各々絶縁電線を製造した。外径は1.32mm(被覆層の肉厚0.42mm)とし、被覆後、10Mradで電子線照射して架橋を行った。
なお、表1に示す各成分は下記のものを使用した。
【0032】
【0033】
得られた各絶縁電線について、以下の試験を行った。結果を表1〜4に示した。
1)伸び、抗張力
各絶縁電線の伸び(%)と被覆層の抗張力(MPa)を、標線間25mm、引張速度500mm/分の条件で測定した。伸びおよび抗張力の要求特性はそれぞれ、各々200%以上、10MPa以上である。
2)難燃性
各絶縁電線について、UL1581の Vertical Flame Test をおこない、合格数を示した(合格数/N数)。また、合格数がN数(全数)と等しいものについては最大燃焼時間を測定した。
3)絶縁抵抗
各絶縁電線について、JIS C 3005に規定される絶縁抵抗の初期値および20℃の温水中で2週間浸水した後の絶縁抵抗を測定した。
初期値は100MΩ・km以上、浸水後は10MΩ・km以上が必要である。
4)皮むき性
平刃の加工機で絶縁電線の被覆部を皮むきし、皮むき部(端末部)のひげの有無を観測した。
○:ひげは無く良好。 △:ひげはあるが、非常に少ない。 ×:カット不可又はひげが大
5)電線の量産性
電線の量産性を電線の押し出し可能線速、線同士の粘着性で評価した。
○:押し出し速度100m/分以上で外観が良く、未架橋時に絶縁体同士がくっつかない。
×:押し出し速度、外観、未架橋時に絶縁体同士の粘着性のいずれかに問題あり。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
実施例1〜8はいずれの評価項目も問題なかったのに対し、比較例1では水酸化マグネシウムとしてシランカップリング剤で処理したものしか使用していないので、20時間浸水後の絶縁抵抗が大きく低下した。また比較例2、3では、シランカップリング剤で処理した水酸化マグネシウムを使用していないので、比較例1ほどではないものの浸水後の絶縁抵抗が低下するとともに、垂直難燃試験で不合格であるものがあり、難燃性の点で問題があった。
【0037】
【発明の効果】
本発明の絶縁樹脂組成物は、埋立、焼却などの廃棄時において、重金属化合物の溶出や、多量の煙、腐食性ガスの発生がないノンハロゲン難燃材料であり、かつ、電気・電子機器の絶縁電線に要求される極めて高い難燃性と力学的強度を満足することができる。またリン系化合物を使用しないため、廃棄による湖沼等への汚染のおそれもなく、さらに任意の色に着色、印刷できる。したがってこれを用いた本発明の絶縁電線は、極めて高い難燃性と力学的強度を有し、着色、印刷も自在で、電気・電子機器に配線される絶縁電線として好適に用いることができ、廃棄における重金属化合物の溶出や、多量の煙、腐食性ガスの発生などの問題がないという優れた効果を奏する。
Claims (7)
- エチレン系共重合体を主成分とする樹脂成分100重量部に対し、水酸化マグネシウム200〜280重量部を含有し、水酸化マグネシウムのうち25重量%から80重量%がシランカップリング剤で表面処理されており、かつ20重量%から75重量%がポリマーでコートされている水酸化マグネシウムであることを特徴とする絶縁樹脂組成物。
- エチレン系共重合体を主成分とする樹脂成分100重量部に対し、水酸化マグネシウム200〜280重量部を含有し、水酸化マグネシウムのうち25重量%から80重量%がシランカップリング剤で表面処理されており、かつ20重量%から75重量%が脂肪酸及びポリマーでコートされている水酸化マグネシウムであることを特徴とする絶縁樹脂組成物。
- エチレン系共重合体95〜40重量%およびアクリルゴム5〜60重量%からなる樹脂成分を主成分とする樹脂成分100重量部に対し、
水酸化マグネシウム200〜280重量部を含有し、水酸化マグネシウムのうち25重量%から80重量%がシランカップリング剤で表面処理されており、かつ20重量%から75重量%がポリマーでコートされている水酸化マグネシウムであることを特徴とする絶縁樹脂組成物。 - エチレン系共重合体95〜40重量%およびアクリルゴム5〜60重量%からなる樹脂成分を主成分とする樹脂成分100重量部に対し、
水酸化マグネシウム200〜280重量部を含有し、水酸化マグネシウムのうち25重量%から80重量%がシランカップリング剤で表面処理されており、かつ20重量%から75重量%がポリマー及び脂肪酸でコートされている水酸化マグネシウムであることを特徴とする絶縁樹脂組成物。 - エチレン系共重合体の酸含有量をAi%、その量をMi質量部とし、アクリルゴムの量をNi質量部としたときに、
ΣMi×(Ai/100)+ΣNi×0.7≧37
であることを特徴とする請求項3または4に記載の絶縁樹脂組成物。 - アクリルゴムがエチレンとアクリル酸アルキルとの2元系共重合体アクリルゴム0〜57重量%、エチレンとアクリル酸アルキルとカルボキシル基を側鎖に有する不飽和炭化水素との3元系共重合体アクリルゴム3〜60重量%からなることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の絶縁樹脂組成物。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載の絶縁樹脂組成物の架橋体で導体を被覆したことを特徴とする絶縁電線。
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