JP4047379B2 - 予め決められた性質を有するα−アミラーゼ変異体のデザイン方法 - Google Patents
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Description
本発明は、予め決められた性質を有するα−アミラーゼ変異体の新規デザイン方法に関し、該方法は細菌α−アミラーゼの今まで未知であった三次元構造に基づく。
発明の背景
α−アミラーゼ(α−1,4−グルカン−4−グルカノヒドロラーゼ、EC 3.2.1.1)は、デンプン並びに他の直鎖および枝分かれ鎖1,4−グルコシドオリゴ糖および多糖を加水分解することができる酵素の1群を構成する。研究されたほとんど全てのα−アミラーゼは、ほぼ同じ長さと間隔を有する数個の保存領域を有する。それらの領域のうちの1つはカルモジュリンのCa2+結合部位に似ており、その他のものは活性中心および/または基質の結合に必要であると思われる。
多数のα−アミラーゼのアミノ酸配列および一次構造が知られているけれども、全αアミラーゼの三次元構造を決定することは非常に難しいと判明した。三次元構造はα−アミラーゼ結晶のX線結晶学解析により決定できるが、構造を実際に解明するのに適当なα−アミラーゼ結晶を得ることは非常に困難であるとわかった。
今まで高分解能で決定されているのは数種類類のα−アミラーゼの三次元構造だけである。それらとしては、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)TAKAα−アミラーゼの構造(Swift他,1991)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)酸アミラーゼの構造(Brady他,1991)、ブタ膵臓α−アミラーゼの構造(Qian他,1993)、および大麦α−アミラーゼの構造(Kadziola他,1994,Journal of Molecular Biology 239: 104-121,A.Kadziola,Thesis,Dept.of Chemistry,U.of Copenhagen,Denmark)が挙げられる。更に、バシラス・サーキュランス(Bacillus circulans)シクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼ(CGTアーゼ)の三次元構造が既知である(Klein他,1992)(Lawson他,1994)。CGTアーゼはα−アミラーゼと同じ型の反応を触媒し、そしてα−アミラーゼとの幾らかの構造類似性を示す。
更に、B.サチリス(B.subtilis)α−アミラーゼの結晶化と予備的X線研究が記載されている〔Chang他(1992)およびMizuno他(1993)〕。最終的なB.サチリスα−アミラーゼ構造は報告されていない。同様に、B.リヘニフォルミス(B.licheniformis)α−アミラーゼ結晶の調製も報告されている(Suzuki他,1990)けれども、X線結晶学分析または三次元構造に関するその後の報告はまだない。
幾つかの研究チームが上記の既知α−アミラーゼ構造に基づいて三次元構造を組み立てようと試みている。例えば、Vihinen他(J.Biochem.107,267-272,1990)は、TAKAアミラーゼ構造を基にバシラス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)α−アミラーゼの三次元構造の模型製作(またはコンピューターシュミレーション)を開示している。この模型を使ってB.ステアロサーモフィラスα−アミラーゼの様々な部位特異的突然変異の仮想的構造結果を調査した。E.A.MacGregor(1987)は、A.オリゼのTAKAα−アミラーゼの既知構造および二次構造推定演算法を基にして大麦、ブタ膵臓およびバシラス・アミロリクファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)を含む異なる源からのα−アミラーゼ中のαヘリックスとβバレルの存在を推定している。更に、例えばB.アミロリクファシエンスα−アミラーゼ中に存在を見つけることができる可能なループおよびサブサイトを推定している(A.オリゼ配列および構造との比較に基づいて)。
A.E.MacGregor〔Starch/Starke 45(1993),No.7,p.232-237〕は、α−アミラーゼ関連酵素の構造と活性との関係を概説している。
今まで、B.リヘニフォルミス、B.アミロリクファシエンスおよびB.ステアロサーモフィラスのα−アミラーゼを包含する産業上有用なバシラスα−アミラーゼ(本明細書中では「テルマミル様α−アミラーゼ」と呼称する)についての三次元構造は全く入手可能でない。
発明の簡単な開示
テルマミル(Termamyl▲R▼)様細菌α−アミラーゼの三次元構造をたった今解明した。前記構造の解析に基づいて、構造上または機能上の理由からテルマミル様α−アミラーゼに様々な性質を付与するのに重要と思われる構造部分または特定のアミノ酸残基を同定することが可能である。更に、テルマミル様α−アミラーゼ構造を上述の真菌および哺乳類α−アミラーゼの既知構造と比較すると、それらの構造間に幾つかの類似性が存在すること、しかしまたα−アミラーゼ間に幾つかの顕著であるが以前に推定されなかった構造的相違性も存在することを発見した。本発明はそれらの発見に基づく。
従って、第一の面では、本発明は親のテルマミル様α−アミラーゼの変異体の作製方法であって、前記変異体はα−アミラーゼ活性を有し、且つ前記親のα−アミラーゼと比較すると少なくとも1つの変更された性質を有し、
i)テルマミル様α−アミラーゼ構造の少なくとも1つのアミノ酸残基または少なくとも1つの構造部分を同定することを目指してテルマミル様α−アミラーゼの構造を解析し、ここで前記アミノ酸残基または構造部分は親のテルマミル様α−アミラーゼの前記性質を変更するのに妥当であると思われ(構造上または機能上の理由に基づいて判断すると)、
ii)親のテルマミル様α−アミラーゼと比較すると、前記性質を変更するためにi)において同定されたアミノ酸残基または構造部分が変更されているテルマミル様α−アミラーゼ変異体を作製し、そして
iii)得られたテルマミル様α−アミラーゼ変異体を前記性質について試験する
ことを含んで成る方法に関する。
第二の面では、本発明は、親のテルマミル様α−アミラーゼの変異体の作製方法であって、前記変異体はα−アミラーゼ活性を有し、且つ前記親のα−アミラーゼと比較すると1または複数の変更された性質を有し、
i)テルマミル様α−アミラーゼの三次元構造を非テルマミル様α−アミラーゼの構造と比較し、
ii)非テルマミル様α−アミラーゼ構造とは異なるテルマミル様α−アミラーゼ構造の部分を同定し、そして
iii)ii)において同定されたテルマミル様α−アミラーゼの部分を変更し、それにより1または複数の性質が親のテルマミル様α−アミラーゼとは異なるテルマミル様α−アミラーゼ変異体を得ることを含んで成る方法に関する。
第三の面では、本発明は親の非テルマミル様α−アミラーゼの変異体の作製方法であって、前記変異体はα−アミラーゼ活性を有し且つ前記親のα−アミラーゼと比較すると1または複数の変更された性質を有し、
i)非テルマミル様α−アミラーゼの三次元構造をテルマミル様α−アミラーゼの構造と比較し、
ii)テルマミル様α−アミラーゼ構造とは異なる非テルマミル様α−アミラーゼ構造の部分を同定し、そして
iii)ii)において同定された非テルマミル様α−アミラーゼの部分を変更し、それにより1または複数の性質が親の非テルマミル様α−アミラーゼとは異なる非テルマミル様α−アミラーゼ変異体を得る
ことを含んで成る方法に関する。
本発明の上記方法によって変更することができる性質は、例えば基質特異性、基質結合性、基質開裂パターン、温度安定性、pH依存活性、pH依存安定性〔特に低(例えばpH<6、特にpH<5)または高(例えばpH>9)pH値で増加された安定性〕、酸化に対する安定性、Ca2+依存性、比活性、および着目の他の性質であることができる。例えば、変更は、親のテルマミル様α−アミラーゼに比較すると所定のpHで増加された比活性および/または変更された基質特異性を有する変異体を生成することができる。
更に別の面では、本発明はテルマミル様α−アミラーゼの変異体、そのような変異体をコードするDNA、および該変異体の調製方法に関する。最後に、本発明は様々な産業上の目的での前記変異体の使用に関する。
発明の具体的開示
テルマミル様α−アミラーゼ
バシラス種により生産される多数のα−アミラーゼがアミノ酸レベルで高度に相同であることは周知である。例えば、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含んで成るB.リヘニフォルミス(B.licheniformis)α−アミラーゼ〔テルマミル(Termamyl▲R▼、登録商標)として市販されている〕は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を含んで成るB.アミロリクファシエンス(B.amyloliquefaciens)α−アミラーゼと約89%相同であり、そして配列番号6に示されるアミノ酸配列を含んで成るB.ステアロサーモフィラス(B.stearothermophilus)α−アミラーゼと約79%相同であることがわかっている。他の相同α−アミラーゼとしては、バシラス種NCIB 12289,NCIB 12512,NCIB 12513またはDSM 9375の株に由来するα−アミラーゼ(それらは全てWO 95/26397中に詳細に記載されている)およびTsukamoto他,1988,Biochemical and Biophysical Research Communications,第151巻,第1号により記載されたα−アミラーゼが挙げられる。更に別の相同α−アミラーゼとしては、EP 252 666中に記載されたB.リヘニフォルミス(B.licheniformis)(ATCC 27811)により生産されるα−アミラーゼ、並びにWO 91/00353およびWO 94/18314において同定されたα−アミラーゼが挙げられる。他の市販のテルマミル様B.リヘニフォルミスα−アミラーゼは、Optitherm▲R▼およびTakatherm▲R▼(Solvayから入手可能)、Maxamyl▲R▼(Gistbrocades/Genencorから入手可能)、Spezym AA▲R▼(Genencorから入手可能)並びにKeistase▲R▼(Daiwaから入手可能)である。
それらのα−アミラーゼ間に見られる実質的な相同性のため、それらはα−アミラーゼの同一クラス、すなわち「テルマミル様α−アミラーゼ」のクラスに属すると考えられる。
従って、本明細書中では、「テルマミル様α−アミラーゼ」という用語は、アミノ酸レベルでテルマミル▲R▼(すなわちB.リヘニフォルミスα−アミラーゼ、配列番号2)に対して実質的相同性を示すα−アミラーゼを意味するためのものである。言い換えれば、テルマミル様α−アミラーゼは、本明細書中の配列番号2,4もしくは6に示されるアミノ酸配列、またはWO 95/26937中のもしくはTsukamoto他,1988中の配列番号1もしくは2に示されるアミノ酸配列を有するか、またはi)前記アミノ酸配列の少なくとも1つと少なくとも60%、例えば少なくとも70%、例えば少なくとも75%、または少なくとも80%、例えば少なくとも85%、少なくとも90%もしくは少なくとも95%の相同性を示し、そして/またはii)前記α−アミラーゼの少なくとも1つに対して惹起された抗体と免疫学的交差反応性を示し、そして/またはiii)本明細書の配列番号1,3および5から並びにWO 95/26397の配列番号4および5から、それぞれ明らかである上記α−アミラーゼをコードするDNA配列にハイブリダイズするDNA配列によりコードされる、α−アミラーゼである。
性質i)に関連する「相同性」は、任意の常用の演算法を使うことにより、好ましくはGAPペナルティーとして省略時の値を使うGCGパッケージバージョン7.3からのGAPプログラム(1993年6月)〔Genetic Computer Group(1991)Programme Manual for the GCG Package,version 7,575 Science Drive,Madison,Wisconsin USA 53711〕を使うことにより、決定することができる。
α−アミラーゼの性質ii)、即ち免疫学的交差反応性は、関連するテルマミル様α−アミラーゼに対して惹起されたまたはそれの少なくとも1つのエピトープと反応性である抗体を使ってアッセイすることができる。モノクローナルでもポリクローナルでもよい抗体は、当業界で既知の方法により、例えばHudson他,1989により記載された通りに、生産せしめることができる。免疫学的交差反応性は当業界で既知のアッセイを使って、例えばHudson他,1989により記載された通りに測定することができ、その例はウエスタンブロット法または放射状免疫拡散アッセイである。この点について、それぞれ配列番号2,4および6のアミノ酸配列を有するα−アミラーゼ間の免疫学的交差反応性が認められた。
性質iii)に従ってテルマミル様α−アミラーゼの特徴付けに使われるオリゴヌクレオチドプローブは、問題のα−アミラーゼの完全または部分ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列に基づいて適当に調製することができる。ハイブリダイゼーションを試験する際の適当な条件は、5×SSC中での予備浸漬と、20%ホルムアミド、5×デンハーツ溶液、50mMリン酸ナトリウム,pH6.8および50μgの超音波処理済変性子ウシ胸腺DNAを含む溶液中での約40℃で1時間のプレハイブリダイゼーション、次いで100μM ATPが補足された同一溶液中での約40℃での18時間のハイブリダイゼーション、または例えばSambrook他,1989により記載された別の方法を含んで成る。
本明細書中、「〜に由来する」という語は、問題の生物の株により生産されるかまたは生産可能であるα−アミラーゼだけでなく、そのような株から単離されたDNA配列によりコードされそして前記DNA配列により形質転換された宿主生物中で生産されるα−アミラーゼも指すために使われる。最後に、この用語は合成および/またはcDNA起源のDNA配列によりコードされ且つ問題のα−アミラーゼの識別特徴を有するα−アミラーゼを表すために使われる。この用語は親のα−アミラーゼが天然に存在するα−アミラーゼの変異体、即ち天然に存在するα−アミラーゼの1または複数のアミノ酸残基の変更(挿入、置換、削除)の結果である変異体であってもよいことを表すものでもある。
親のハイブリッドα−アミラーゼ
親のα−アミラーゼ(テルマミル様または非テルマミル様α−アミラーゼである)はハイブリッドα−アミラーゼであってもよく、即ち、少なくとも2つのα−アミラーゼに由来する部分アミノ酸配列の組合せを含んで成るα−アミラーゼであってもよい。
親のハイブリッドα−アミラーゼは、アミノ酸相同性および/または免疫学的交差反応性および/またはDNAハイブリダイゼーション(上で定義した通り)に基づいて、テルマミル様α−アミラーゼファミリーに属すると決定できるものであってもよい。この場合、ハイブリッドα−アミラーゼは典型的には、テルマミル様α−アミラーゼの少なくとも1部分と、微生物(細菌または真菌)および/または哺乳類起源のテルマミル様α−アミラーゼまたは非テルマミル様α−アミラーゼから選ばれた1または複数の別のα−アミラーゼの1もしくは複数の部分とから構成される。
よって、親のハイブリッドα−アミラーゼは、少なくとも2つのテルマミル様α−アミラーゼの組合せ、または少なくとも1つのテルマミル様α−アミラーゼと少なくとも1つの非テルマミル様細菌α−アミラーゼの組合せ、または少なくとも1つのテルマミル様α−アミラーゼと少なくとも1つの真菌α−アミラーゼの組合せ、を含んで成ることができる。例えば、親のα−アミラーゼは、B.リヘニフォルミスの株に由来するα−アミラーゼのC末端部分と、B.アミロリクファシエンスの株またはB.ステアロサーモフィラスの株に由来するα−アミラーゼのN末端部分とを含んで成る。例えば親のα−アミラーゼは、B.リヘニフォルミスα−アミラーゼのC末端部分の少なくとも430アミノ酸残基を含んで成り、そして例えば(a)配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するB.アミロリクファシエンスα−アミラーゼの37個のN末端アミノ酸残基に相当するアミノ酸セグメントと配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するB.リヘニフォルミスα−アミラーゼの445個のC末端アミノ酸残基に相当するアミノ酸セグメント、または(b)配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するB.ステアロサーモフィラスα−アミラーゼの68個のN末端アミノ酸残基に相当するアミノ酸セグメントと配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するB.リヘニフォルミスα−アミラーゼの415個のC末端アミノ酸残基に相当するアミノ酸セグメントを含んで成ることができる。
同様に、親のハイブリッドα−アミラーゼは非テルマミル様α−アミラーゼ群、例えばフンガミル(Fungamyl)様α−アミラーゼ群に属してもよい。この場合、ハイブリッドは非テルマミル様α−ミラーゼ群に属するα−アミラーゼの少なくとも1部分と共に、別のα−アミラーゼに由来する1または複数の部分を含んで成ることができる。
三次元テルマミル様α−アミラーゼ構造
本発明の基礎をなす三次元構造を解明するのに使ったテルマミル様α−アミラーゼは、B.アミロリクファシエンスα−アミラーゼ(配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する)の300個のN末端アミノ酸と、配列番号2のアミノ酸配列を有するB.リヘニフォルミスα−アミラーゼのアミノ酸301-483とから成る。細菌α−アミラーゼは「テルマミル様α−アミラーゼファミリー」に属し、その構造は任意のテルマミル様α−アミラーゼの構造を代表すると考えられる。
α−アミラーゼの構造は“X-Ray Structure Determination”,Stout,G.K.およびJensen,L.H.,John Wiley & Sons,Inc.,NY,1989に記載されたX線結晶学方法の原理に従って解析した。同形置換法を使った分解能2.2Åでのα−アミラーゼの解析結晶構造についての構造座標を、標準PDBフォーマット(Brookhaven Protein Data Base)において付録1に与える。
該酵素のアミノ酸残基は三文字アミノ酸記号(大文字)により表記される。
α−アミラーゼ構造は配列に関して規則正しいA,BおよびCの3つの球状ドメインから構成され、該ドメインはB,A,Cの順序で直線にほぼ沿って存在する。それらのドメインはドメインAが残基1〜103と206〜395、ドメインBが残基104〜205、ドメインCが残基396〜483であると定義することができ、ここでアミノ酸の番号はB.リヘニフォルミスα−アミラーゼに対するものである。これは縦に伸びた分子を与え、最長の軸は約85Åである。この軸と垂直をなす最も遠く離れた地点は約50Åであり、中央のAドメインにかかる。B.リヘニフォルミスα−アミラーゼ(配列番号2)の活性部位残基はD323,D231およびE261である。
ドメインA
ドメインAは最大ドメインであり、活性部位を含む(酵素表面にある深い窪み(claft)の底に位置する3アミノ酸残基のクラスターから成る)。全ての既知α−アミラーゼ構造のドメインAが同一の全体的折り畳み、即ち8本の中心β鎖(番号1〜8)と8つの隣接αヘリックスかり成る(β/α)8バレルを有する。βバレルはMcGregor(前掲)により限定される。β鎖1のC末端はループ1と称するループによりヘリックス1に連結され、同一パターンが他のループにも見られる。それらのループはサイズに幾らかの変動があり、或るものは非常に広範囲であり得る。
(β/α)8バレル中の8本の中心β鎖は、様々な既知α−アミラーゼ構造間で良く重なり、β鎖のC末端に位置する活性部位近くの周囲を含むこの構造部分は、異なるアミラーゼ間で高い類似性を示す。
β鎖とαヘリックスとをつなぐループは、α−アミラーゼ間で高い多様性を示す。これらのループは活性部位の構造的環境を構成し、そして基質との接触の大部分はそれらのループ中に存在するアミノ酸残基の中に認められる。基質特異性、基質結合性、pH/活性プロフィール、デンプン開裂パターンのような重要な特性は、これらのループ中のアミノ酸およびその位置により決定される。
本明細書中に開示されるテルマミル様α−アミラーゼ構造とフンガミル様α−アミラーゼ構造との間の実質的相違性は、ループ1,2,3および8において認められ、これは図面において見ることができる。
ドメインB
テルマミル様α−アミラーゼ構造はドメインAのループ3中に特殊なドメイン構造(ドメインBとも呼ばれる)を含んで成ることがわかった。テルマミル様α−アミラーゼのBドメインの構造は、既知のα−アミラーゼまたは(β/α)8バレルタンパク質のいずれにも今まで見たことがない。
ドメインB構造は非常に多数の荷電残基を有する非常にコンパクトな領域である。ドメインBはドメインAの鎖3とヘリックス3の間のループの延長として存在し(図7参照)、そして少なくとも1つの長いループを含み且つ-1,+3,-1X,+2の結合度(Richardson,1981,Adv.Protein Chem.34,167-339)を有する5連の非平行β−シート構造を含む。
Bドメインの最初の4本の鎖は一組の交差した指のように互いの周りにねじれた2つのヘアピンループを形成する(右巻き)。主鎖は2つの小さなβシート構造をつなぐβ鎖に折り畳まれる。1シートで1回のターンを形成した後、それが反対に折り畳まれ、そしてドメインAと接触した2連シートおよびα−アミラーゼ構造の内部孔を構築する。次いで主鎖は最初の2つのシートに対してほぼ直角をなして小さなシート構造に折り畳まれる。β鎖3の最上部にヘリックス3が入る前に、ドメインBの最後の約24個のアミノ酸がドメインAへの接触領域に2つのカルシウム結合部位を形成する。
ドメインBは、ドメイン−ドメイン接触領域を2つに分割する2本のペプチド鎖によりドメインAとつながれる。ドメインBはカルシウム結合領域と内部に埋もれた水を含む孔によりドメインAと接触している。様々なタイプの分子接触が存在する。酸性アミノ酸と塩基性アミノ酸間のイオン的相互作用が可能であり、それらの相互作用は高pHでの安定性におよびカルシウム結合部位を無傷のまま維持するのに非常に重要である。
ドメインC
ドメインCはアミノ酸394〜483から成るタンパク質のC末端部分である。ドメインCは、単一の8連シート構造を形成するβ鎖からもっぱら成り、それはそれ自身の上に逆方向に折り畳まれ、従ってβサンドイッチ構造として説明することもできる。結合度は+1,+1,+5,-3,+1,+1,-3であるが、鎖6と7はゆるくしか結合されない。βシートの一部はドメインAとの界面を構成する。
Ca結合およびNa結合部位
テルマミル様α−アミラーゼの構造は、それが4つのカルシウム結合部位と1つのナトリウム結合部位を示すという点で注目すべきである。言い換えれば、4つのカルシウムイオンと1つのナトリウムイオンが構造中に存在することがわかり、ただし1つのカルシウムイオンは非常に弱い配位を示す。2つのカルシウムイオンがドメインAとBの接点に存在する3つのイオンの直線状クラスターの一部を構成し、中心イオンはナトリウムだとされる。
ドメインAとBの間のカルシウムイオンに配位する残基は次の通りである(本明細書中の付録1に見られるPdbファイルの中のアミノ酸残基および原子のPdbファイル命名法を使用する):活性部位に最も近いカルシウムイオン(Pdbファイル中のIUM 502)には、His235とAsp194からの骨格カルボニル、残基Asp194,Asn102およびAsp200からの側鎖原子OD1、並びに1水分子WAT X3(原子OW7)。ドメインAとBの間のもう1つのカルシウムイオン(IUM 502)への配位子:Asp204とAsp159からの原子OD2、Asp183とAla181からの骨格カルボニル、Asp202からの原子OD1、並びに1水分子WAT X7(原子OW7)。ナトリウムイオン(IUM 505)の場合の結合部位はAsp 194,Asp200,Asp183およびAsp159からの原子OD2、並びにVal201からの骨格カルボニルを含む。
1つのカルシウムイオンがドメインAとCの間に位置し、別の1つがドメインCに位置する。最もよく配位されるものでもある最初に言及したカルシウムイオン(IUM 503)は、Gly300,Tyr302およびHis406からのカルボニル骨格、Asp430からの原子OD2/OD1、Asp407からの原子OD1、および1つの水分子WAT X6(原子OW7)を配位する。他方の非常に弱く配位されるカルシウム部位(IUM 504)は、4つの水分子WAT X21(原子OW8)、X6(原子OW6)、X9(原子OW0)およびX28(原子OW8)、Glu447からのOE1/OE2並びにAsn444からのOD1を含んで成る。
基質結合部位
いずれかの理論に限定されることなく、現在のところ基質分子と該酵素との好ましい相互作用(例えば水素結合および/または強力な静電気的相互作用)は、酵素に結合した時に基質の4Åの範囲内で認められると思われる。配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するB.リヘニフォルミスα−アミラーゼの下記残基が基質の4Åの距離内にあると予想され、従って基質との相互作用に関係していると思われる:
基質の4Åの距離内にあると予想される別のテルマミル様α−アミラーゼのアミノ酸残基は、配列番号2のアミノ酸配列とその別のテルマミル様α−アミラーゼのアミノ酸配列とを整列させ、それによって上記に同定したものと同等な位置を同定することにより、容易に同定することができる。
構造の一般性
種々のテルマミル様α−アミラーゼ間に高い相同性があるために、付録1の座標により明らかにされた解析構造は、全てのテルマミル様α−アミラーゼの構造を代表するものであると考えられる。他のテルマミル様α−アミラーゼの模型構造は、それぞれのアミノ酸配列間の整列を使って付録1に記載の座標を基にして問題のα−アミラーゼに応用することにより容易に組み立てることができる。模型構造の作製は実施例1に例示される。
上記で同定されたテルマミル様α−アミラーゼ構造の構造的に特徴のある部分(Ca結合部位、基質結合部位、ループなど)は、関連するテルマミル様α−アミラーゼの模型(または解析)構造に基づいてまたは単にそれぞれの構造要素のアミノ酸残基を同定するために本明細書中で使われるB.リヘニフォルミスα−アミラーゼのアミノ酸配列と問題のテルマミル様α−アミラーゼのアミノ酸配列との整列に基づいて、別のテルマミル様α−アミラーゼ中に容易に同定することができる。
更に、特定のテルマミル様α−アミラーゼの特定のアミノ酸残基の変更により定義される本発明のテルマミル様変異体については、同等の位置(それぞれの配列間の最良の可能なアミノ酸配列整列から決定した時)で変更された別のテルマミル様α−アミラーゼの変異体もその上包含されると解釈されるだろう。よって、特定のα−アミラーゼの構造部分を限定する目的でアミノ酸残基が同定されるのかまたはα−アミラーゼの変異体を同定するためにアミノ酸残基が使われるのかに関係なく、このアミノ酸残基はいずれかの他のテルマミル様α−アミラーゼの同等アミノ酸残基を表すものと見なすべきである。
新規α−アミラーゼ変異体のデザインのための本発明の方法
本発明の第一、第二および第三の面に従った方法では、「テルマミル様α−アミラーゼの構造」および「テルマミル様α−アミラーゼ構造」という語は、付録1に与えられた座標により限定された解析構造またはその解析構造を基に作られた特定のテルマミル様α−アミラーゼ(例えばB.リヘニフォルミスα−アミラーゼ)の模型構造を意味するものである。
ほとんどの場合、本発明に従って変更する予定の親のテルマミル様α−アミラーゼは、実際に構造解析に使ったα−アミラーゼ(付録1)とは異なる。これは、本発明の第一、第二または第三の面に従った方法の段階i)で解析構造(付録1)中に同定された1もしくは複数のアミノ酸残基または1もしくは複数の構造部分を、問題の親のテルマミル様α−アミラーゼの対応する1もしくは複数のアミノ酸残基または1もしくは複数の構造部分に置き換えなければならないことを意味する。「置き換え(translation)」は便利には、構造解析に使ったテルマミル様α−アミラーゼのアミノ酸配列と問題の親のテルマミル様α−アミラーゼのアミノ酸配列とのアミノ酸配列整列に基づいて行われる。
本発明の第一、第二および第三の面のそれぞれに従った方法の段階i)で実施する解析または比較は、タンパク質構造を解析および/または比較することができる任意の適当なコンピュータープログラム、例えばBiosym Technologies,Inc.より入手可能なコンピュータープログラムInsightを使って実施することができる。例えば、構造比較の基本原理は、比較しようとする三次元構造を二次構造要素(例えばバレル中の中心の8本のβ鎖)の整列に基づいて重ね合わせ、続いて重ね合わせた構造から構造間で異なる部分を容易に決定することができるというものである。
本発明の第一、第二および第三の面の方法の段階i)で同定される構造部分は、1アミノ酸残基から成ってもよい。しかしながら、通常は該構造部分は複数のアミノ酸残基を含んで成り、典型的にはテルマミル様α−アミラーゼ構造の上記部分のうちの1つ、例えばA,BまたはCドメインのうちの1つ、それらの領域のいずれかの界面、カルシウム結合部位、ループ構造、基質結合部位などを構成する複数のアミノ酸残基を含んで成る。
本明細書中の「構造または機能上の理由」という言い方は、関連する構造または構造部分の解析および酵素の機能に対するそれの予期される影響に基づいて変更が行われることを表すつもりである。よって、現在までに明らかになっている様々なα−アミラーゼの構造の分析を、所望によりそれらのα−アミラーゼ間の機能的相違の分析と組み合わせて、α−アミラーゼの或る性質がα−アミラーゼ構造の或る部分にあると指定するためにまたはそのような関係を予想するために使うことができる。例えば、活性部位の周りのループのパターンまたは構造の相違は、基質の活性部位への近づきやすさの相違を引き起こし、従って基質特異性および/または開裂パターンの相違を引き起こし得る。更に、基質結合(およびその結果として例えば特異性/開裂パターン)、カルシウムまたはナトリウムイオン結合(例えば酵素のカルシウム依存性に重要である)などに関係するかまたは関係すると思われるテルマミル様α−アミラーゼの部分が同定された(下記参照)。
アミノ酸残基または構造部分の変更は、典型的には問題の親酵素をコードするDNA配列の適当な変更により達成される。本発明の第一の面の方法の段階ii)において使われるような「変更された」という語は、次の意味を有する:アミノ酸残基に関して使われる時、この用語は問題のアミノ酸残基から別のアミノ酸残基への置換を意味する。構造部分に関して使われる時、この用語は前記構造部分の1もしくは複数のアミノ酸残基の置換、前記部分への1もしくは複数のアミノ酸残基の付加、または前記構造部分の1もしくは複数のアミノ酸残基の削除を意味する。
着目の変異体の作製は、変異体を製造する助けとなる条件下で、該変異体をコードするDNA配列を含んで成る微生物を培養し、続いて所望により得られた培養ブロスから該変異体を回収することにより達成される。これについては下記に詳細に記載する。
本発明の第一の面
本発明の第一の面の方法の好ましい態様によれば、変更しようとする親酵素の性質はカルシウム依存性、基質結合、開裂パターン、pH依存活性などから選択される。親のテルマミル様α−アミラーゼの上記性質を変更する方法の特定の例を下記に与える。
別の好ましい態様では、変更しようとする親のテルマミル様α−アミラーゼはB.リヘニフォルミスα−アミラーゼである。
本発明の第二および第三の面
本発明の第二および第三の面の方法の重要な利点の1つは、テルマミル様α−アミラーゼの構造(または構造部分)を非テルマミル様α−アミラーゼの構造(または構造部分)に変えることとその逆のことが可能であることである。例えば、非テルマミル様α−アミラーゼの特定性質の原因となるまたはそれに寄与すると思われる非テルマミル様α−アミラーゼのループ構造を同定することにより、テルマミル様α−アミラーゼの対応構造を前記非テルマミル様α−アミラーゼ構造で置き換え、またはもしテルマミル様α−アミラーゼ中に対応構造が存在しないなら、関連部分に関係する限り、結果として得られる変異体テルマミル様α−アミラーゼが非テルマミル様α−アミラーゼの対応部分に似るようにして、テルマミル様α−アミラーゼ中に前記構造を挿入することが可能である。非テルマミル様α−アミラーゼの対応部分に似るように親のテルマミル様α−アミラーゼの2以上の部分を変更すると、テルマミル様α−アミラーゼ変異体の非テルマミル様α−アミラーゼへの類似性を増加させることができ、従って前記変異体の性質を前記非テルマミル様α−アミラーゼの性質の方向に変えることが可能である。ループの変更が下記により詳細に記載される。
典型的には、本発明の第二の面の方法の段階iii)で実施される変更は、親のα−アミラーゼの前記部分の構造を非テルマミル様α−アミラーゼの対応部分に改造するために、変更しようとするテルマミル様α−アミラーゼの部分の1または複数のアミノ酸残基を削除することにより;変更しようとするテルマミル様α−アミラーゼの部分の1または複数のアミノ酸残基を非テルマミル様α−アミラーゼ中の対応位置にあるアミノ酸残基で置換することにより;または非テルマミル様α−アミラーゼ中に存在する1または複数のアミノ酸残基をテルマミル様α−アミラーゼ中の対応位置に挿入することにより、達成される。第三の面の方法については、変更はテルマミル様α−アミラーゼではなくて非テルマミル様α−アミラーゼに対して同様に実施されると理解することができる。
本発明の第二または第三の面の方法の段階ii)では、同定しようとする酵素の部分は、好ましくは折り畳まれた酵素において基質と接触する(「基質結合部位」という項目中の上記開示を参照のこと)かまたは基質特異性および/または開裂パターンに関係すると思われる部分、および/またはカルシウムもしくはナトリウムイオンの1つと接触している部分、および/または酵素のpHもしくは温度分布に貢献している部分、またはさもなければ構造上もしくは機能上の理由から、テルマミル様α−アミラーゼと非テルマミル様α−アミラーゼの1もしくは複数の性質の相違の原因であると考えられる部分である。
非テルマミル様α−アミラーゼ
本発明の第二の面の方法の段階i)で比較が行われそして本発明の第三の面の方法では親のα−アミラーゼである非テルマミル様α−アミラーゼは、テルマミル様α−アミラーゼ(上記で定義したような)の群に属さず、且つその結果として、異なる三次元構造を有する任意のα−アミラーゼであることができる。更に、非テルマミル様α−アミラーゼは、本発明を実施する時点で、明らかであるかまたは予想される三次元構造を有するものであるべきである。
非テルマミル様α−アミラーゼは、例えば、真菌α−アミラーゼ、哺乳類もしくは植物α−アミラーゼ、または細菌α−アミラーゼ(テルマミル様α−アミラーゼとは異なる)であることができる。そのようなα−アミラーゼの特定例としては、アスペルギルス・オリゼTAKAα−アミラーゼ、A.ニガー酸α−アミーゼ、バシラス・サチリスα−アミラーゼ、ブタ膵臓α−アミラーゼおよび大麦α−アミラーゼが挙げられる。それらのα−アミラーゼは全て、本明細書中に示されるようなテルマミル様α−アミラーゼの構造と明らかに異なる明瞭な構造を有する。
上述の真菌α−アミラーゼ、すなわちA.ニガーおよびA.オリゼ由来のα−アミラーゼは、アミノ酸レベルで高度に相同であり、一般に同じ部類(ファミリー)のα−アミラーゼに属すると考えられる。本明細書中、この部類は「フンガミル様α−アミラーゼ」と呼称され、これは登録商標フンガミル(Fungamyl▲R▼)として市販されているアスペルギルス・オリゼ由来の真菌α−アミラーゼおよびA.ニガーα−アミラーゼに対して高い相同性、即ち70%以上、例えば80%の相同性(上記に定義した通り)を示すα−アミラーゼを意味する。
テルマミル様α−アミラーゼのα−アミラーゼ構造の包括的説明および前記構造とフンガミル様α−アミラーゼの構造との比較から、それら2つの構造間に大きな相違点が存在することは明白である。本発明の方法では、フンガミル様α−アミラーゼと大きな相違を有する領域に属する親のテルマミル様α−アミラーゼの部分を変更することが特に重要である。特に、親のα−アミラーゼの次のループのうちの1つまたは複数:ループ1、ループ2、ループ3および/またはループ8において親のテルマミル様α−アミラーゼを変更することが着目される。
本発明の第三の面の方法では、親の非テルマミル様α−アミラーゼのループ1、ループ2、ループ3および/またはループ8を変更してテルマミル様α−アミラーゼ(例えばテルマミル)の同様なループに一層類似させることが特に着目される。
下記において、本発明の方法を使ってデザインした特定の形の変異体を記載する。
ループ変異
親のα−アミラーゼの基質特異性を変更するためには、ループ変異を考えることが適当である。例えばテルマミル様α−アミラーゼの1または複数のループ構造を非テルマミル様α−アミラーゼ(例えばフンガミル様α−アミラーゼ)の対応する1または複数のループ構造とより類似したものに変更すると、基質特異性を非テルマミル様α−アミラーゼの基質特異性の方向に変更することが可能であると期待される。下記に様々な型の着目のループ変異を列挙する。該変異体は変更された基質特異性に加えて他の変更された性質を有してもよいと理解されるだろう。特定のテルマミル様α−アミラーゼについて同定された下記変更は別のテルマミル様α−アミラーゼの別の同等位置での対応する変更も包含するものであることは理解されるだろう。更に、ループ変異が例えばテルマミル様α−アミラーゼ中の完全なループ構造またはそれの実質的部分を非テルマミル様α−アミラーゼ中の対応するループ構造(またはそれの実質的部分)に置換することを含むことも理解されるだろう。
ループ2変異
一態様では、本発明は親のテルマミル様α−アミラーゼの変異体であって、配列番号4のアミノ酸配列のアミノ酸断片44〜57に相当する断片(すなわちループ2)中に存在する親のα−アミラーゼの少なくとも1つのアミノ酸残基が削除されているかまたは配列番号10に示されるアミノ酸配列のアミノ酸断片66〜84に相当する断片中に存在する1もしくは複数のアミノ酸残基により置換されているか、あるいは鋳型として配列番号10の関連部分または別のフンガミル様α−アミラーゼの対応部分を使って1もしくは複数の追加のアミノ酸残基が付加されている変異体に関する。
配列番号10に示されるアミノ酸配列は、A.オリゼ(A.oryzae)α−アミラーゼ、すなわちフンガミル様α−アミラーゼのアミノ酸配列である。別のα−アミラーゼ、特にフンガミル様α−アミラーゼ中の対応する位置に見つかるアミノ酸残基または断片を、本発明の変異体の作製のための鋳型として使ってもよいことは理解されよう。別の相同α−アミラーゼ中の対応部分は、それぞれのα−アミラーゼのアミノ酸配列および/または三次元構造の比較に基づいて容易に同定することができる。
例えば、本発明の変異体は、該変異体のアミノ酸配列を前記親のα−アミラーゼのアミノ酸配列と最も近似するように整列した時に、配列番号4の残基Xから残基Yまでの部分と同じ位置を占め、前記領域が配列番号10の残基Zから残基Vまでの配列番号10の部分と少なくとも90%の配列相同性を有し、ここで
Xは配列番号4のアミノ酸残基占有位置44,45,46,47または48であり、
Yは配列番号4のアミノ酸残基占有位置51,52,53,54,55,56または57であり、
Zは配列番号10のアミノ酸残基占有位置66,67,68,69または70であり、そして
Vは配列番号10のアミノ酸残基占有位置78,79,80,81,82,83または84である
変異体であることができる。
言い換えれば、変異体は、配列番号4のアミノ酸断片44〜57に相当するかまたはその中に含まれる親のα−アミラーゼのアミノ酸断片X−Yが、配列番号10のアミノ酸配列のアミノ酸断片66〜84に相当するかまたはその中に含まれるアミノ酸断片Z−Vにより置き換えられている(ここでX,Y,ZおよびVは上述した意味を有する)ものであることができる。
この態様に従った変異体の特定例は、配列番号4のアミノ酸残基48〜51に相当する親のα−アミラーゼのアミノ酸断片が配列番号10のアミノ酸配列のアミノ酸残基70〜78に相当するアミノ酸断片により置き換えられている、親のテルマミル様α−アミラーゼの変異体である。
ループ3変異−限定変更
別の態様では、本発明は、親のテルマミル様α−アミラーゼの変異体であって、配列番号4のアミノ酸配列のアミノ酸断片195〜202に相当するアミノ酸断片中に存在する親のα−アミラーゼの少なくとも1つのアミノ酸残基が削除されているかまたは配列番号10に示されるアミノ酸配列のアミノ酸断片165〜177に相当するアミノ酸断片中に存在する1もしくは複数のアミノ酸残基により置換されているか、あるいは鋳型として配列番号10の関連部分または別のフンガミル様α−アミラーゼの対応部分を使って1もしくは複数の追加のアミノ酸残基が付加されている変異体に関する。
例えば、本発明の変異体は、配列番号4のアミノ酸断片195〜202に相当するかまたはその中に含まれる親のα−アミラーゼのアミノ酸断片X−Yが、配列番号10のアミノ酸配列のアミノ酸断片165〜177に相当するかまたはその中に含まれるアミノ酸断片Z−Vにより置き換えられており、ここで
Xは配列番号4のアミノ酸占有位置195または196に相当するアミノ酸残基であり、
Yは配列番号4のアミノ酸占有位置198,199,200,201または202に相当するアミノ酸残基であり、
Zは配列番号10のアミノ酸占有位置165または166に相当するアミノ酸残基であり、そして
Vは配列番号10のアミノ酸占有位置173,174,175,176または177に相当するアミノ酸残基である
変異体であることができる。
別の言い方で表現すれば、この面の変異体は、該変異体のアミノ酸配列を前記親のテルマミル様α−アミラーゼのアミノ酸配列と最も近似するように整列した時に、配列番号4の残基Xから残基Yまでの部分と同じ位置を占め、前記領域が配列番号10の残基Zから残基Vまでに及ぶ配列番号10の部分と少なくとも80%、例えば90%の配列相同性を有し、X,Y,ZおよびVの意味は上記に定義した通りである、ものであることができる。
この態様に従った変異体の特定例は、配列番号4のアミノ酸残基196〜198に相当する親のα−アミラーゼのアミノ酸断片が配列番号10のアミノ酸配列のアミノ酸残基166〜173に相当するアミノ酸断片により置き換えられている、親のテルマミル様α−アミラーゼの変異体である。
ループ3変異−完全ドメインB
更なる態様では、本発明は、親のテルマミル様α−アミラーゼの変異体であって、配列番号4のアミノ酸配列のアミノ酸断片117〜185に相当するアミノ酸断片中に存在する親のα−アミラーゼの少なくとも1つのアミノ酸残基が削除されているかまたは配列番号10に示されるアミノ酸配列のアミノ酸断片98〜210に相当するアミノ酸断片中に存在する1もしくは複数のアミノ酸残基により置換されているか、あるいは鋳型として配列番号10の関連部分または別のフンガミル様α−アミラーゼの対応部分を使って1もしくは複数の追加のアミノ酸残基が付加されている変異体に関する。
例えば、該変異体は、配列番号4のアミノ酸断片117〜185に相当するかまたはその中に含まれる親のα−アミラーゼのアミノ酸断片X−Yが、配列番号10のアミノ酸配列のアミノ酸断片98〜210に相当するかまたはその中に含まれるアミノ酸断片Z−Vにより置き換えられており、ここで
Xは配列番号4のアミノ酸占有位置117,118,119,120または121に相当するアミノ酸残基であり、
Yは配列番号4のアミノ酸占有位置181,182,183,184または185に相当するアミノ酸残基であり、
Zは配列番号10のアミノ酸占有位置98,99,100,101または102に相当するアミノ酸残基であり、そして
Vは配列番号10のアミノ酸占有位置206,207,208,209または210に相当するアミノ酸残基である
変異体であることができる。
この態様に従った変異体の特定例は、配列番号4のアミノ酸残基121〜181に相当する親のα−アミラーゼのアミノ酸断片が配列番号10のアミノ酸配列のアミノ酸残基102〜206に相当するアミノ酸断片により置き換えられている、親のテルマミル様α−アミラーゼの変異体である。
別の態様では、本発明は、親のテルマミル様α−アミラーゼの変異体であって、配列番号4のアミノ酸配列のアミノ酸断片117〜181に相当するアミノ酸断片中に存在する親のα−アミラーゼの少なくとも1つのアミノ酸残基が削除されているかまたは配列番号10に示されるアミノ酸配列のアミノ酸断片98〜206に相当するアミノ酸断片中に存在する1もしくは複数のアミノ酸残基により置換されているか、あるいは鋳型として配列番号10の関連部分または別のフンガミル様α−アミラーゼの対応部分を使って1もしくは複数の追加のアミノ酸残基が付加されている変異体に関する。
例えば、本発明の変異体は、配列番号4のアミノ酸断片117〜177に相当するかまたはその中に含まれる親のα−アミラーゼのアミノ酸断片X−Yが、配列番号10のアミノ酸配列のアミノ酸断片98〜202に相当するかまたはその中に含まれるアミノ酸断片Z−Vにより置き換えられており、ここで
Xは配列番号4のアミノ酸占有位置117,118,119,120または121に相当するアミノ酸残基であり、
Yは配列番号4のアミノ酸占有位置174,175,176または177に相当するアミノ酸残基であり、
Zは配列番号10のアミノ酸占有位置98,99,100,101または102に相当するアミノ酸残基であり、そして
Vは配列番号10のアミノ酸占有位置199,200,201または202に相当するアミノ酸残基である
変異体であることができる。
この態様に従った変異体の特定例は、配列番号4のアミノ酸残基121〜174に相当する親のα−アミラーゼのアミノ酸断片が配列番号10のアミノ酸配列のアミノ酸残基102〜199に相当するアミノ酸断片により置き換えられている変異体である。
ループ1変異−最少付加
更なる態様では、本発明は、親のテルマミル様α−アミラーゼの変異体であって、配列番号4のアミノ酸配列のアミノ酸断片12〜19に相当するアミノ酸断片中に存在する親のα−アミラーゼの少なくとも1つのアミノ酸残基が削除されているかまたは配列番号10のアミノ酸断片28〜42に相当するアミノ酸断片中に存在する1もしくは複数のアミノ酸残基により置換されているか、あるいは鋳型として配列番号10の関連部分または別のフンガミル様α−アミラーゼの対応部分を使って1もしくは複数の追加のアミノ酸残基が挿入されている変異体に関する。
例えば、本発明の変異体は、配列番号4のアミノ酸断片12〜19に相当するかまたはその中に含まれる親のα−アミラーゼのアミノ酸断片X−Yが、配列番号10のアミノ酸配列のアミノ酸断片28〜42に相当するかまたはその中に含まれるアミノ酸断片Z−Vにより置き換えられており、ここで
Xは配列番号4のアミノ酸占有位置12,13または14に相当するアミノ酸残基であり、
Yは配列番号4のアミノ酸占有位置15,16,17,18または19に相当するアミノ酸残基であり、
Zは配列番号10のアミノ酸占有位置28,29,30,31または32に相当するアミノ酸残基であり、そして
Vは配列番号10のアミノ酸占有位置38,39,40,41または42に相当するアミノ酸残基である
変異体であることができる。
この態様に従った変異体の特定例は、配列番号4のアミノ酸残基14〜15に相当する親のα−アミラーゼのアミノ酸断片が配列番号10のアミノ酸配列のアミノ酸残基32〜38に相当するアミノ酸断片により置き換えられている変異体である。
ループ1変異−完全ループ
更なる態様では、本発明は、親のテルマミル様α−アミラーゼの変異体であって、配列番号4のアミノ酸配列のアミノ酸残基7〜23に相当するアミノ酸断片中に存在する親のα−アミラーゼの少なくとも1つのアミノ酸残基が削除されているかまたは配列番号10に示されるアミノ酸配列のアミノ酸残基13〜45に相当するアミノ酸断片中に存在する1もしくは複数のアミノ酸残基により置換されているか、あるいは鋳型として配列番号10の関連部分または別のフンガミル様α−アミラーゼの対応部分を使って1もしくは複数の追加のアミノ酸残基が挿入されている変異体に関する。
例えば、本発明の変異体は、配列番号4のアミノ酸断片7〜23に相当するかまたはその中に含まれる親のα−アミラーゼのアミノ酸断片X−Yが、配列番号10のアミノ酸配列のアミノ酸断片13〜45に相当するかまたはその中に含まれるアミノ酸断片Z−Vにより置き換えられており、ここで
Xは配列番号4のアミノ酸占有位置7または8に相当するアミノ酸残基であり、
Yは配列番号4のアミノ酸占有位置18,19,20,21,22または23に相当するアミノ酸残基であり、
Zは配列番号10のアミノ酸占有位置13または14に相当するアミノ酸残基であり、そして
Vは配列番号10のアミノ酸占有位置40,41,42,43,44または45に相当するアミノ酸残基である
変異体であることができる。
この態様に従った変異体の特定例は、配列番号4のアミノ酸残基8〜18に相当する親のα−アミラーゼのアミノ酸断片が配列番号10のアミノ酸配列のアミノ酸残基14〜40に相当するアミノ酸断片により置き換えられている変異体である。
ループ8変異
更なる態様では、本発明は、親のテルマミル様α−アミラーゼの変異体であって、配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸残基322〜346に相当するアミノ酸断片中に存在する親のα−アミラーゼの少なくとも1つのアミノ酸残基が削除されているかまたは配列番号10に示されるアミノ酸配列のアミノ酸残基291〜313に相当するアミノ酸断片中に存在する1もしくは複数のアミノ酸残基により置換されているか、あるいは鋳型として配列番号10の関連部分または別のフンガミル様α−アミラーゼの対応部分を使って1もしくは複数の追加のアミノ酸残基が挿入されている変異体に関する。
例えば、本発明の変異体は、配列番号2のアミノ酸断片322〜346に相当するかまたはその中に含まれる親のα−アミラーゼのアミノ酸断片X−Yが、配列番号10のアミノ酸配列のアミノ酸断片291〜313に相当するかまたはその中に含まれるアミノ酸断片Z−Vにより置き換えられており、ここで
Xは配列番号2のアミノ酸占有位置322,323,324または325に相当するアミノ酸残基であり、
Yは配列番号2のアミノ酸占有位置343,344,345または346に相当するアミノ酸残基であり、
Zは配列番号10のアミノ酸占有位置291,292,293または294に相当するアミノ酸残基であり、そして
Vは配列番号10のアミノ酸占有位置310,311,312または313に相当するアミノ酸残基である
変異体であることができる。
本発明のこの面に係る変異体の特定例は、配列番号2のアミノ酸残基325〜345に相当する親のα−アミラーゼのアミノ酸断片が配列番号10のアミノ酸配列のアミノ酸残基294〜313に相当するアミノ酸断片により置き換えられている変異体である。
Ca 2+ 依存性
テルマミル様α−アミラーゼのCa2+依存性を減少できることが非常に好ましい。従って、更なる面では、α−アミラーゼ活性を示し且つ親のα−アミラーゼに比較して減少したCa2+依存性を有する親のテルマミル様α−アミラーゼの変異体に関する。減少したCa2+依存性は、該変異体が、親酵素に必要であるよりも低い外来媒質中のカルシウムイオン濃度の存在下で十分なデンプン分解活性を示し、従って例えばカルシウム錯生成剤(例えば或る種の洗剤ビルダー)を含有する媒質において得られる状態のようなカルシウムイオン洞渇状態に対して親酵素よりも敏感でないという機能的結果を有する。
本発明の変異体の減少したCa2+依存性は親のテルマミル様α−アミラーゼのCa2+結合親和力を増加させることにより有利に達成することができ、言い換えれば、酵素のCa2+結合が強くなればなるほどCa2+依存性が小さくなる。
現在のところナトリウムまたはカルシウムイオンから10Å以内に位置するアミノ酸残基が酵素のCa2+結合能に関与するかまたは重要であると思われる。
従って、本発明のこの面に係る変異体は、好ましくはテルマミル様α−アミラーゼ三次元構造において同定されたカルシウムおよび/またはナトリウムイオンから10Å以内に存在する1または複数のアミノ酸残基が、カルシウムに対するα−アミラーゼの親和力を増加させるように変更されているものである。
配列番号2のアミノ酸配列を有するB.リヘニフォルミスα−アミラーゼのCa2+結合部位から10Åの距離の範囲内に存在するアミノ酸残基は、実施例2に記載のようにして決定され、それは次のものである:
本発明のこの面の変異体を作製するためには、最適でないカルシウム結合の提供に関係していると考えられる上記に列挙したアミノ酸残基の少なくとも1つ(または配列番号2により限定されるもの以外の別のテルマミル様α−アミラーゼ中の同等位置を占有するアミノ酸残基)を、変異体酵素のCa2+結合親和力を改善する他の任意のアミノ酸残基により置き換えることが望ましい。実際には、アミノ酸残基の同定およびその後の変更は次の方法によって実施される:
i)構造上または機能上の理由から最適でないカルシウムイオン相互作用の原因であると考えられる、テルマミル様α−アミラーゼ構造のCa2+結合部位から10Å以内のアミノ酸残基を同定し、
ii)前記アミノ酸残基が構造上または機能上の理由から一層高いCa2+結合親和力の確立に重要であると思われる別のアミノ酸残基により置換されている変異体を作製し、そして得られたテルマミル様α−アミラーゼ変異体のCa2+依存性を調べる。
本明細書中で用いる「最適でないカルシウムイオン相互作用」という用語は、問題のアミノ酸残基から別のものへの置換が酵素のカルシウムイオン結合相互作用を改善することができるという前提に基づいて問題のアミノ酸残基が選ばれることを示すものである。例えば、問題のアミノ酸残基は、次の考えのうちの1つまたは複数に基づいて選択することができる:
− 酵素の表面近くに位置するアミノ酸残基(テルマミル様α−アミラーゼの構造から同定されるような)とカルシウムイオンとの間に改善された相互作用を得ること。例えば、問題のアミノ酸残基が周囲の溶媒に暴露されるなら、前記アミノ酸残基とカルシウムイオンとの間のより一層強固な相互作用に備えるように溶媒からの前記アミノ酸残基の遮蔽を高めることが有利かもしれない。これは、前記残基(または遮蔽に寄与する前記残基の付近にあるアミノ酸残基)をより嵩張ったアミノ酸残基または他の形で改善された遮蔽効果をもたらすアミノ酸残基によって置き換えることにより達成することができる。
− 例えばテルマミル様α−アミラーゼの構造を安定化することにより(例えばA,BおよびCドメイン間の接触を安定化するかまたは1もしくは複数の前記ドメインそれ自体を安定化することにより)、カルシウム結合部位を安定化すること。これは、例えば、アミノ酸側鎖へのより良好な配位に備えることにより達成することができ、例えば、カルシウム結合部位の例えば10Å以内、好ましくは3または4Å以内にあるN残基をD残基でそして/またはQ残基をE残基で置き換えることにより得ることができる。
− 例えば、カルシウムイオンとカルシウム結合部位との間により強力な相互作用を提供することにより、カルシウム結合部位を保護するかまたはカルシウムイオンとカルシウム結合部位との間の配位を改善すること。
実際に上記理論に従ってテルマミル様α−アミラーゼを作製する前に、テルマミル様α−アミラーゼ構造への、例えば親のテルマミル様α−アミラーゼの模型構造への適応により、もくろんだアミノ酸変更を査定することが便利かもしれない。
好ましくは変更しようとするアミノ酸残基がCa2+結合部位残基の8Å以内、例えばそのような残基の5Å以内に位置する。それぞれ8Åおよび5Å以内のアミノ酸残基は、10Å以内のアミノ酸残基を同定するのに使ったのと同様な方法により容易に同定することができる(実施例2参照)。
次の変異は、テルマミル様α−アミラーゼのCa2+依存性を減少させることに関して特に重要であると考えられる:
N104D〔配列番号2のB.リヘニフォルミスα−アミラーゼの、または別のテルマミル様α−アミラーゼ中の同等位置の同等(N→D)変異〕。
Ca2+依存性に適切な置換については、他の幾つかの置換も、酵素のコンホメーション(例えば酵素の全体的安定性に貢献するドメインA−Bおよび/またはドメインA−C相互作用)を安定化することにおいて、それらが親のテルマミル様α−アミラーゼ内のカルシウムもしくはナトリウム結合部位の所でのまたはその中でのカルシウムイオンもしくはナトリウムイオンの結合または保持の強度を増加させることができるという点から、重要であると思われる。
酵素のカルシウム安定性および/または耐熱性を増加させるためにCドメインを安定化することが望ましい。この点について、安定化は酵素によるカルシウムの結合の安定化、およびCドメインとAドメインの間の接触の改善(耐熱性にとって重要である)をもたらし得る。後者は、システイン橋の導入、塩橋の導入、または水素的、疎水的および/または静電気的相互作用の増加により達成することができる。
例えば、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するB.リヘニフォルミスα−アミラーゼのドメインCを、例えば次の変異:
A349C+I479Cおよび/またはL346C+I430Cの導入によって、ドメインAとドメインCの間にシステイン架橋を導入することにより安定化することができる。
次の変異の導入により塩橋を導入することもできる:
N457D,E
N457D,E+K385R
F350D,E+I430R,K
F350D,E+I411R,K
ドメインCのカルシウム結合部位は、アミノ酸残基H408および/またはG303を別の任意のアミノ酸残基で置換することにより安定化することかできる。特に着目されるのは、次の変異である:
H408Q,E,N,Dおよび/またはG303N,D,Q,E
これは良好なカルシウム結合またはカルシウム個渇からの保護を提供すると考えられる。
同様な変異を別のテルマミル様α−アミラーゼの同等位置に導入してもよい。
特に、カルシウム依存性を減少させることにおいて重要と思われる他の置換変異(配列番号2のB.リヘニフォルミスα−アミラーゼに関して)としては、次のものが挙げられる:R23K,H156Y,A181T,A209VおよびG310D(または別のテルマミル様α−アミラーゼ中の同等位置での同等の変異)。別のアミノ酸によるR214およびP345の置換もこの点で重要かもしれない。
高/低pHで変更された活性を有する変異体
活性部位残基のpKaを変えることによりテルマミル様α−アミラーゼの最適pHまたは与えられたpHでの酵素活性を変更することができると考えられる。これは、例えば、変更しようとするアミノ酸残基のアミノ酸側鎖の官能基とそれの付近の官能基との静電気的相互作用または疎水的相互作用を変えることにより、達成することができる。これは、例えば次の方法により達成することができる:
i)問題のテルマミル様α−アミラーゼの構造において、活性部位残基との静電気的または疎水的相互作用に関与すると思われる、活性部位残基から15Å以内、特に活性部位残基から10Å以内のアミノ酸残基を同定し、
ii)前記構造において、活性部位残基の静電気的および/または疎水的環境を変更するアミノ酸残基により前記アミノ酸残基を置換し、そして前記構造中の該アミノ酸残基の適応を評価し、
iii)所望により前記構造に適応するアミノ酸残基置換が同定されるまで段階i)および/またはii)を繰り返し、
iv)段階i),ii)および所望によりiii)から得られたテルマミル様α−アミラーゼ変異体を作製し、そして着目の前記変異体のpH依存酵素活性を試験する。
上記方法では、グルタミン酸基の5Å以内に正電荷を有する残基を付加する(それによってグルタミン酸基のpKaを約4.5から4に下げる)こと、またはグルタミン酸基の5Å以内に負電荷を有する残基を付加する(それによってpKaを約5に増加させる)こと、またはヒスチジンの約5Åの距離以内に同様な変更を作ること、が特に適切だろり。
別の面では、本発明は、低pHで(例えば最適pHに比べて)親のα−アミラーゼよりもより高い活性を示すテルマミル様α−アミラーゼの変異体に関する。特に、該変異体はB.リヘニフォルミスα−アミラーゼ(配列番号2)の次の位置のうちの少なくとも1つに相当するアミノ酸残基の変異を含んで成る:
E336,Q333,P331,I236,V102,A232,I103,L196。
次の変異:
E336R,K
Q333R,K
P331R,K
V102R,K,A,T,S,G
I236K,R,N
I103K,R
L196K,R
A232T,S,G
またはそれらの変異体の2以上の任意の組合せまたはそれらの変異体の1もしくは複数と本明細書中に開示される別の変異体との任意の組合せ、が特に重要である。
更に別の面では、本発明は高pHで親のα−アミラーゼより高い活性を有するテルマミル様α−アミラーゼ変異体に関する。特に、該変異体はB.リヘニフォルミスα−アミラーゼ(配列番号2)の次の位置のうちの少なくとも1つに相当するアミノ酸残基の変異を含んで成る:
N236,H281,Y273。
特に、該変異体はB.リヘニフォルミスα−アミラーゼ(配列番号2)の次の変異のうちの少なくとも1つに相当する変異を含んで成る:
N236I,Y,F,L,V
H281F,I,L
Y273F,W。
またはそれらの変異体の2以上の任意の組合せまたはそれらの変異体の1もしくは複数と本明細書中に開示される別の変異体との任意の組合せを含んで成る。
本発明の変異体の比活性に関連して重要と思われる変異は、B.リヘニフォルミスα−アミラーゼ(配列番号2)における置換S187Dに相当する変異である。
高められた耐熱性および/または変更された最適温度を有する変異体
更に望ましい面では、本発明は親のテルマミル様α−アミラーゼの変異体であって、高められた耐熱性の変異体を得るように親のα−アミラーゼから1もしくは複数のアミノ酸残基が削除されているか、置換されているかまたは付加されている変異体に関する。
テルマミル様α−アミラーゼ構造は水を含むことがある多数のユニークな内部孔と多数のクレバスを含有する。α−アミラーゼの耐熱性を高めるために、例えば孔の付近または周辺に1または複数の疎水的結合を導入することにより、好ましくはより嵩張った残基を導入することにより、孔およびクレバスの数を減らす(または孔もしくはクレバスの大きさを減らす)ことが望ましいだろう。例えば、変更しようとするアミノ酸残基が孔の形成に関与しているものである。
従って、別の面では、本発明は、親のテルマミル様α−アミラーゼの耐熱性を高めるおよび/または最適温度を変更する方法であって、
i)前記α−アミラーゼの三次元構造において親のテルマミル様α−アミラーゼの内部孔またはクレバスを同定し、
ii)該構造において、i)で同定した孔またはクレバスの近隣の1または複数のアミノ酸残基を、構造上または機能上の理由から疎水的相互作用を増加させ且つ前記孔またはクレバスの空所を埋めるかまたは大きさを減らすと思われる別のアミノ酸残基により置き換え、
iii)段階ii)から生じるテルマミル様α−アミラーゼ変異体を作製し、そして該変異体の耐熱性および/または最適温度を試験することを含んで成る方法に関する。
親のテルマミル様α−アミラーゼの孔またはクレバスを同定するのに用いる構造は、付録1に記載の構造またはそれに基づいて製作した親のテルマミル様α−アミラーゼの模型構造であることができる。
孔/クレバスが前記孔/クレバスの周辺のアミノ酸残基により同定され、そして前記孔/クレバスを満たすかまたはその大きさを減らすのに前記アミノ酸残基の変更が重要であることは理解されよう。下記に言及する特定のアミノ酸残基は、結晶構造において問題の孔/クレバスに隣接することが判明したものである。
ドメインAとBの間に位置する主要な孔を(完全にまたは部分的に)満たすために、B.リヘニフォルミスα−アミラーゼ(配列番号2)の下記残基の1または複数に相当するアミノ酸残基から別の任意のアミノ酸残基への変異が考えられる:
L61,Y62,F67,K106,G145,I212,S151,R214,Y150,F143,R146。
特に着目されるのは、親酵素のアミノ酸残基よりも嵩張ったアミノ酸残基への変異である。
特に着目されるのは、次の変異〔B.リヘニフォルミスα−アミラーゼ(配列番号2)の番号付け法を使った〕に相当する変異を含んで成るテルマミル様α−アミラーゼの変異体である:
L61W,V,F;
Y62W;
F67W;
K106R,F,W;
G145F,W;
I212F,L,W,Y,R,K;
任意の他のアミノ酸残基、特にF,W,IまたはLに置き換えられた
S151;
R214W;
Y150R,K;
F143W;および/または
R146W。
活性部位の近くの孔を満たすために、B.リヘニフォルミスα−アミラーゼ(配列番号2)の下記残基の1または複数に相当するアミノ酸残基から別の任意のアミノ酸残基への変異が考えられる:
L241,I236。
特に着目されるのは、より嵩張ったアミノ酸残基への変異である。
特に着目されるのは、B.リヘニフォルミスα−アミラーゼ中の1または複数の下記変異に相当する変異を含んで成るテルマミル様α−アミラーゼの変異体である:
L241I,F,Y,Wおよび/または
I236L,F,W,Y。
活性部位の近くの孔を満たすために、B.リヘニフォルミスα−アミラーゼ(配列番号2)の下記残基の1または複数に相当するアミノ酸残基から別の任意のアミノ酸残基への変異が考えられる:
L7,V259,F284。
特に着目されるのは、より嵩張ったアミノ酸残基への変異である。
特に着目されるのは、B.リヘニフォルミスα−アミラーゼ中の1または複数の下記変異に相当する変異を含んで成るテルマミル様α−アミラーゼの変異体である:
L7F,I,W
V259F,I,L
F284W。
活性部位の近くの孔を満たすために、B.リヘニフォルミスα−アミラーゼ(配列番号2)の下記残基の1または複数に相当するアミノ酸残基から別の任意のアミノ酸残基への変異が考えられる:
F350,F343。
特に着目されるのは、より嵩張ったアミノ酸残基への変異である。
特に着目されるのは、B.リヘニフォルミスα−アミラーゼ中の1または複数の下記変異に相当する変異を含んで成るテルマミル様α−アミラーゼの変異体である:
F350W
F343W。
活性部位の近くの孔を満たすために、B.リヘニフォルミスα−アミラーゼ(配列番号2)の下記残基の1または複数に相当するアミノ酸残基から別の任意のアミノ酸残基への変異が考えられる:
L427,V481。
特に着目されるのは、より嵩張ったアミノ酸残基への変異である。
特に着目されるのは、B.リヘニフォルミスα−アミラーゼ中の1または複数の下記変異に相当する変異を含んで成るテルマミル様α−アミラーゼの変異体である:
L427F,L,W
V481F,I,L,W。
変更された開裂パターンを有する変異体
デンプン液化工程では、デンプン分子を短鎖オリゴ糖に分解する(通常のテルマミル様α−アミラーゼのように)よりも長鎖オリゴ糖に分解する(例えばフンガミル様α−アミラーゼのように)ことができるα−アミラーゼを使うことが望ましい。生成した非常に短鎖のオリゴ糖(パノース前駆体)は、液化工程においてα−アミラーゼの後およびアミログルコシダーゼの前に使われるプルラナーゼにより適切に加水分解することができない。よって、パノース前駆体の存在下ではアミログルコアミラーゼの作用は高度の短鎖限定デキストリン、即ち三糖パノースで終わる。パノースの存在は糖化収率をかなり減少させるので、望ましくない。
よって本発明の1つの目的は、同時にテルマミル様α−アミラーゼの耐熱性を減らすことなく、テルマミル様α−アミラーゼの分解特性をフンガミル様α−アミラーゼのものに変更することである。
従って、別の面では、本発明は分岐点近くで基質を開裂させる能力が減らされているテルマミル様α−アミラーゼの変異体に関する。
該変異体は、好ましくは、
i)親のテルマミル様α−アミラーゼの三次元構造の模型において前記α−アミラーゼの基質結合領域を同定し〔例えば、基質結合部位から4Åの範囲内で(上記の「基質結合部位」という項目において記載されたように)〕、
ii)前記模型において、親の開裂パターンの原因であると思われるi)で同定した窪みの基質結合領域の1もしくは複数のアミノ酸残基を、構造上の理由から変更された基質開裂パターンを生じると思われる別のアミノ酸残基により置き換え、または基質との有利な相互作用を導入すると思われる基質結合領域の1もしくは複数のアミノ酸残基を削除し、または基質との有利な相互作用を導入すると思われる基質結合領域に1もしくは複数のアミノ酸残基を付加し、そして
iii)段階ii)から得られるテルマミル様α−アミラーゼ変異体を作製し、そして該変異体の基質開裂パターンを調べる
ことを含んで成る方法により作製することができる。
本発明のこの面に関連して特に着目される残基は、B.リヘニフォルミスα−アミラーゼ(配列番号2)の次の残基に相当し:
V54,D53,Y56,Q333,G57;そしてこの面に係る変異体は好ましくはそれらの残基のうちの1または複数に変異を含んで成る。
特に、該変異体は、分岐点近くでの開裂を防ぐと予想される下記変異のうちの少なくとも1つを含んで成る:
V54L,I,F,Y,W,R,K,H,E,Q
D53L,I,F,Y,W
Y56W
Q333W
G57あらゆる可能なアミノ酸残基
A52 Aより大きいアミノ酸残基、例えばA52W,Y,L,F,I。
真菌α−アミラーゼの変異体
更に別の態様では、本発明は親のフンガミル様α−アミラーゼの変異体であって、配列番号10のアミノ酸配列のアミノ酸残基291〜313に相当するアミノ酸断片中に存在する親のα−アミラーゼの少なくとも1つのアミノ酸残基が削除されているか、または配列番号4に示されるアミノ酸配列のアミノ酸残基98〜210に相当するアミノ酸断片中に存在する1もしくは複数のアミノ酸残基により置き換えられているか、または配列番号4の関連部分もしくは別のテルマミル様α−アミラーゼの対応部分を鋳型として使って1もしくは複数の追加のアミノ酸残基が挿入されている変異体に関する。
例えば、該変異体は、配列番号10のアミノ酸断片117〜185に相当するかまたはその中に含まれる親のα−アミラーゼのアミノ酸断片X−Yが、配列番号4のアミノ酸配列のアミノ酸断片98〜210に相当するかまたはその中に含まれるアミノ酸断片Z−Vにより置き換えられており、ここで
Xは配列番号10のアミノ酸占有位置117,118,119,120または121に相当するアミノ酸残基であり、
Yは配列番号10のアミノ酸占有位置181,182,183,184または185に相当するアミノ酸残基であり、
Zは配列番号4のアミノ酸占有位置98,99,100,101または102に相当するアミノ酸残基であり、そして
Vは配列番号4のアミノ酸占有位置206,207,208,209または210に相当するアミノ酸残基である
変異体であることができる。
本発明のこの面に係る変異体の特定例は、配列番号10のアミノ酸残基121〜181に相当する親のα−アミラーゼのアミノ酸断片が配列番号4のアミノ酸配列のアミノ酸残基102〜206に相当するアミノ酸断片により置き換えられている変異体である。
本発明のこの面に係る変異体の別の例は、配列番号10のアミノ酸残基121〜174に相当する親のα−アミラーゼのアミノ酸断片が配列番号4のアミノ酸配列のアミノ酸残基102〜199に相当するアミノ酸断片により置き換えられている変異体である。
更なる態様では、本発明は配列番号10に示されるアミノ酸配列のアミノ酸残基181〜184に相当するアミノ酸断片が削除されている、親のフンガミル様α−アミラーゼの変異体に関する。
本発明の変異体における一般変異
本発明の変異体または本発明の方法に従って調製した変異体が上記に概説したものに加えて1または複数の変更を含んで成ることは好ましいだろう。よって、α−アミラーゼ変異体の一部分に存在する1もしくは複数のプロリン残基が修飾されているかまたは非プロリン残基(これは天然に存在する可能な非プロリン残基のいずれであってもよく、好ましくはアラニン、グリシン、セリン、スレオニン、バリンまたはロイシンである)により置換されていることが有利かもしれない。
同様に、親のα−アミラーゼ中のアミノ酸残基中に存在する1または複数のシステイン残基が修飾されているかまたは非システイン残基、例えばセリン、アラニン、スレオニン、グリシン、バリンもしくはロイシンにより置き換えられていることが好ましいかもしれない。
更に、本発明の変異体は、唯一の変更としてまたは上述の変更のいずれかとの組合せとして、配列番号8のアミノ酸残基185〜209に相当するアミノ酸断片中に存在する1もしくは複数のAspおよび/またはGluがそれぞれAsnおよび/またはGlnにより置き換えられるように変更されてもよい。同じく着目されるのは、テルマミル様α−アミラーゼ中に存在する1または複数のLys残基が、配列番号8のアミノ酸残基185〜209に相当するアミノ酸断片中に存在するArgにより置き換えられる変異である。
本発明に従って、上述した変異の2個以上を有する変異体を調製することができると理解されるだろう。例えば、ループ1とループ2領域中の変異、ループ2と限定されたループ3中の変異、ループ1,ループ2,ループ3およびループ8中の変異、などを含んで成る変異体を調製することができる。
更に、上述した変異体のいずれかに点変異を導入することが有利かもしれない。
α−アミラーゼ変異体の調製方法
遺伝子中に変異を導入する方法は当業界において幾つか知られている。α−アミラーゼをコードするDNA配列のクローニングの簡単な説明の後で、α−アミラーゼコード配列中の特定部位に変異を作製する方法を記載することにする。
α−アミラーゼをコードするDNA配列のクローニング
親のα−アミラーゼをコードするDNA配列は、当業界で周知である様々な方法を使って、該α−アミラーゼを産生する任意の細胞または微生物から単離することができる。まず、研究しようとするα−アミラーゼを産生する生物体から染色体DNAまたはメッセンジャーRNAを使ってゲノムDNAおよび/またはcDNAライブラリーを作製する。次いで、該α−アミラーゼのアミノ酸配列が既知であるなら、相同の標識オリゴヌクレオチドプローブを合成し、それを使って問題の生物体から調製したゲノムライブラリーからα−アミラーゼをコードするクローンを同定することができる。あるいは、既知のα−アミラーゼ遺伝子に相同の標識オリゴヌクレオチドプローブ含有配列をプローブとして使って、低緊縮性のハイブリダイゼーションおよび洗浄条件下で、α−アミラーゼをコードするクローンを同定することができる。
α−アミラーゼをコードするクローンを同定する別の方法は、ゲノムDNAの断片を発現ベクター、例えばプラスミド中に挿入し、得られたゲノムDNAライブラリーを用いてα−アミラーゼ陰性細菌を形質転換せしめ、次いで形質転換された細菌をα−アミラーゼ基質を含む寒天上に塗布し、それによって該α−アミラーゼを発現するクローンの同定を可能にすることを含んで成るだろう。
あるいは、該酵素をコードするDNA配列を、確立された方法、例えばS.L.BeaucageおよびM.H.Caruthers(1981)により記載されたホスホロアミダイト法、またはMatthes他(1984)により記載された方法により、合成的に製造することができる。ホスホロアミダイト法では、例えば自動DNA合成装置中で、オリゴヌクレオチドを合成し、精製し、アニーリングし、連結させ、そして適当なベクター中でクローニングする。
最後に、DNA配列は、標準技術に従って合成起源、ゲノム起源またはcDNA起源の断片(適当なら、完全なDNA配列の種々の部分に相当する断片)を連結せしめることにより調製された、ゲノム起源と合成起源の混成、合成起源とcDNA起源の混成、またはゲノム起源とcDNA起源の混成であることができる。該DNA配列は、例えば米国特許第4,683,202号明細書またはR.K.Saiki他(1988)により記載された通り、特異的プライマーを使ったポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって調製することもできる。
部位特異的突然変異誘発
一度α−アミラーゼをコードするDNA配列が単離され、そして望ましい変異部位が同定されれば、合成オリゴヌクレオチドを使って変異を導入することができる。それらのオリゴヌクレオチドは所望の変異部位に隣接するヌクレオチド配列を含み;変異ヌクレオチドはオリゴヌクレオチド合成中に挿入される。特別な方法では、α−アミラーゼコード配列をブリッジする一本鎖のDNAギャップを、α−アミラーゼ遺伝子を担持するベクター中で作製する。次いで、所望の変異を有する合成ヌクレオチドを一本鎖DNAの相同部分にアニーリングせしめる。次いで残りのギャップをDNAポリメラーゼI(クレノウ断片)を使ってフィルインし、T4リガーゼを使って構成物を連結せしめる。この方法の特定例はMorinaga他(1984)に記載されている。米国特許第4,760,025号明細書は、カセットのわずかな変更を行うことによる多重変異をコードするオリゴヌクレオチドの導入を開示している。しかしながら、様々な長さを有する多数のオリゴヌクレオチドを導入することができるため、もっと多様な変異を何時でもMorinaga法により導入することができる。
α−アミラーゼをコードするDNA配列中に変異を導入する別の方法はNelsonおよびLong(1989)において記載されている。この方法は、化学合成したDNA鎖をPCR反応においてプライマーの1つとして使うことにより導入された所望の変異を含有するPCR断片の3段階作製を含む。このPCR生成断片から、制限エンドヌクレアーゼでの開裂により変異を含むDNA断片を単離し、そして発現プラスミド中に再び挿入することができる。
ランダム変異誘発
ランダム変異誘発は、問題のアミノ酸配列に翻訳する遺伝子の少なくとも3部分での限局化されたもしくは領域特異的なランダム変異誘発として、または全遺伝子内で実施される。
親のテルマミル様α−アミラーゼの耐熱性を高めることを目指した領域特異的ランダム変異誘発のために、好ましくは、B.リヘニフォルミスα−アミラーゼ(配列番号2)の下記アミノ酸残基に相当するコドン位置を目標に定めることができる:
ドメインAとCの間のカルシウム部位の安定性を改善するため
I428〜A435
T297〜L308
F403〜V409
ドメインAとBの間の安定性を改善するため
D180〜D204
H156〜T163
A232〜F238
テルマミル様α−アミラーゼ変異体による改善された基質結合(すなわち炭水化物種、例えばアミロースまたはアミロペクチンの改善された結合)、変更された(例えばより高い)基質特異性および/または基質の開裂(加水分解)に関する変更された(例えばより高い)特異性を得ることを目指して、特に適当には、配列番号2に示されるアミノ酸配列の下記のコドン位置(または本発明の範囲内の別の親のテルマミル様α−アミラーゼの同等のコドン位置)を目標に定めることができる:
13〜18
50〜56
70〜76
102〜109
163〜172
189〜199
229〜235
360〜364
327〜335
上記方法の段階a)に従って実施することができる親のα−アミラーゼをコードするDNA配列のランダム変異誘発は、便利には当業界で既知である任意の方法を使って実施することができる。
例えば、ランダム変異誘発は、適当な物理的もしくは化学的変異誘発剤の使用により、適当なオリゴヌクレオチドの使用により、またはDNA配列をPCR生成変異誘発にかけることにより、実施することができる。更に、ランダム変異誘発はそれらの変異誘発剤の任意の組合せの使用により実施することができる。
変異誘発剤は、例えば、塩基転位、塩基転換、挿入、混乱(スクランブリング)、欠失および/または挿入を誘導するものであることができる。
当該目的に適当な物理的または化学的変異誘発剤の例としては、紫外線(UV)照射、ヒドロキシルアミン、N−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)、O−メチルヒドロキシルアミン、亜硝酸、エチルメタンスルホネート(EMS)、亜硫酸水素ナトリウム、蟻酸およびヌクレオチド類似体が挙げられる。
そのような剤を使う時、変異誘発は、典型的には、変異せしめようとする親酵素をコードするDNA配列を、特定の変異誘発剤の存在下で、変異誘発が起こるのに適当な条件下でインキュベーションし、そして所望の性質を有する変異DNAについて選択することにより実施される。
オリゴヌクレオチドを使って変異誘発を行う時、該オリゴヌクレオチドの合成中に3種類の親でないヌクレオチドを使って、オリゴヌクレオチドの変更しようとする位置のところをドープまたはスパイクすることができる。ドープまたはスパイクされたオリゴヌクレオチドを、例えばPCR,LCRまたは任意のDNAポリメラーゼとリガーゼを使った発表された任意技術により、デンプン分解酵素をコードするDNAの中に組み込むことができる。
PCR変異誘発を使う時、親のα−アミラーゼ酵素をコードする化学的処理済のまたは未処理の遺伝子を、ヌクレオチドの取込み違い(mis-incorporation)を増加させる条件下で(Deshler 1992; Leung他,Technique,第1巻,1989,11〜15頁)PCRにかける。
E.コリ(Fowler他,Molec.Gen.Genet.,133,1974,179-191頁)、S.セレビシエまたは任意の他の微生物のミューテーター株は、例えば親酵素を含むプラスミドを用いてミューテーター株を形質転換せしめ、該プラスミドを有するミューテーター株を増殖させ、そして該ミューテーター株から変異型プラスミドを単離することにより、デンプン分解酵素をコードするDNAのランダム変異誘発に用いることができる。
変異誘発せしめようとするDNA配列は、便利には、親のデンプン分解酵素を発現する生物から調製したゲノムまたはcDNAライブラリー中に存在することができる。あるいは、該DNA配列は、プラスミドまたはバクテリオファージのような適当なベクター上に存在することができ、該ベクターそれ自体を変異誘発剤と共にインキュベートすることができまたは他の方法で変異誘発剤に暴露せしめることができる。変異誘発せしめようとするDNAは、前記細胞のゲノム中に組み込まれるかまたは細胞中に含まれるベクター上に存在するかのいずれかにより宿主細胞中に存在することもできる。最後に、変異誘発せしめようとするDNAは単離された形であってもよい。ランダム変異誘発にかけるDNA配列は、好ましくはcDNAまたはゲノムDNA配列である。
場合によっては、発現段階(b)またはスクリーニング段階(c)を実施する前に変異型DNA配列を増幅せしめることが好都合かもしれない。そのような増幅は当業界で既知の方法に従って実施することができるが、現在好ましい方法は親酵素のDNA配列またはアミノ酸配列に基づいて調製したオリゴヌクレオチドプライマーを使ったPCR増幅である。
変異誘発剤とのインキュベーションまたは変異誘発剤への暴露に続いて、該DNA配列を含む適当な宿主細胞を、発現が起こるような条件下で培養することにより、変異型DNAを発現させる。この目的で使われる宿主細胞は、所望によりベクター上に存在する変異型DNA配列により形質転換されているもの、または変異誘発処理の間、親酵素をコードするDNA配列を担持していたものであることができる。適当な宿主細胞の例は次のものである:
グラム陽性菌、例えばバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)、バシラス・リヘニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バシラス・レンタス(Bacillus lentus)、バシラス・ブレビス(Bacillus brevis)、バシラス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、バシラス・アルカロフィラス(Bacillus alkalophilus)、バシラス・アミロリクファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バシラス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、バシラス・サーキュランス(Bacillus circulans)、バシラス・ロータス(Bacillus lautus)、バシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バシラス・スリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)またはストレプトマイセス・ムリナス(Streptomyces murinus);およびグラム陰性菌、例えばE.コリ(E.coli)。
変異型DNA配列は、該変異型DNA配列の発現を可能にする機能をコードするDNA配列を更に含んでもよい。
限局化ランダム変異誘発:ランダム変異誘発は、有利には問題の親のα−アミラーゼの一部に限局化することができる。これは、例えば、酵素の或る領域が酵素の所定の性質に特に重要であると同定されている時、および変更すると改善された性質を有する変異体をもたらすと期待される時に有利であり得る。そのような領域は通常、親酵素の三次元構造が明らかにされそして該酵素の機能に関連づけられている時に同定することができる。
限局化ランダム変異誘発は、便利には、上述したようなPCR変異誘発技術または当業界で既知である他の任意の技術を使って実施される。
あるいは、変更しようとするDNA配列の部分をコードするDNA配列を例えば適当なベクター中に挿入することにより単離することができ、そして続いて前記部分を上述の変異誘発法のいずれかを使った変異誘発にかけることができる。
上述した本発明の方法のスクリーニング段階については、便利には次の原理に基づいたaaフィルターアッセイの使用によりこれを実施することができる:
着目の変異型デンプン分解酵素を発現することができる微生物を、該酵素を分泌させるのに適当な培地上で且つ適当な条件下でインキュベートし、ここで前記培地には第一のタンパク質結合性フィルターと、その上に置かれた低タンパク質結合力を有する第二のフィルターとを含んで成る二重フィルターが用意される。微生物は第二のフィルター上に置かれる。インキュベーション後、微生物から分泌された酵素を含んで成る第一のフィルターを、微生物を含んで成る第二のフィルターから分離する。第一のフィルターを所望の酵素活性についてのスクリーニングにかけ、そして第二のフィルター上に存在する対応する微生物コロニーを同定する。
酵素活性を結合させるのに使うフィルターは、任意のタンパク質結合性フィルター、例えばナイロンまたはニトロセルロースであることができる。発現生物のコロニーを含有する上側のフィルターは、タンパク質を結合する親和力が無いかまたは低い任意のフィルター、例えば酢酸セルロースまたはDuraporeTMであることができる。該フィルターは、スクリーニングに使用する条件のいずれかで予備処理してもよく、または酵素活性の検出中に処理してもよい。
酵素活性は色素、蛍光、沈澱、pH指示薬、IR吸光度、または他の既知の酵素活性検出技術により検出することができる。
検出する化合物は、任意の固定化剤、例えばアガロース、寒天、ゼラチン、ポリアクリルアミド、デンプン、濾紙、布により;または固定化剤の任意組合せにより固定化することができる。
α−アミラーゼ活性は、アガロース上に固定化されたCibacron Red標識アミロペクチンにより検出される。増加された耐熱性および高pH安定性を有する変異体についてスクリーニングするために、結合したα−アミラーゼ変異体を有するフィルターを特定時間に渡りpH10.5および60℃または65℃の緩衝液中でインキュベートし、脱イオン水中で手短に濯ぎ、そして活性検出用のアミロペクチン−アガロース母材上に置く。残余活性はアミロペクチン分解によるCibacron Redの溶解として検出される。検出条件は、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するα−アミラーゼによる活性がほとんど検出できないように選択される。安定化された変異体は、同一条件下で、Cibacron Redの放出の増加のために増強された色強度を示す。
低い温度でおよび/またはより広範な温度領域に渡り最適活性を有する変異体についてスクリーニングするために、結合した変異体を有するフィルターを直接アミロペクチン−Cibacron Red基質プレート上に置き、そして所望の温度(例えば4℃、10℃または30℃)で一定時間の間インキュベートする。この時間の後、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するα−アミラーゼによる活性はほとんど検出できず、一方、より低温で最適活性を有する変異体は増加されたアミロペクチン溶解を示すだろう。アミロペクチン母材上でのインキュベーション前に、問題の変異体の変更された依存性についてまたは問題の変異体とそのような添加剤との反応についてスクリーニングするために、様々な種類の所望の媒質−例えばCa2+、界面活性剤、EDTAまたは他の関連添加剤を含有する溶液−中でインキュベーションを実施することができる。
本発明の変異体の試験
本発明の変異体の試験は、適当には、例えばテンプン含有アガロース平板上で変異体をコードするDNA配列により形質転換された宿主細胞を増殖させ、そしてテンプン分解性宿主細胞を同定することによって該変異体のテンプン分解活性を決定することにより、実施することができる。変更された性質(比活性、基質特異性、開裂パターン、熱活性化、最適pH、pH依存性、最適温度および他の任意のパラメーターを含む)に関する追加の試験は、当業界で既知の方法に従って実施することができる。
α−アミラーゼ変異体の発現
本発明によれば、上述の方法によりまたは当業界で既知の任意の別法により生産される変異体をコードするDNA配列は、典型的にはプロモーター、オペレーター、リボソーム結合部位、翻訳開始シグナル、および場合により、リプレッサー遺伝子または様々なアクチベーター遺伝子をコードする調節配列を含有する発現ベクターを使って、酵素形態で発現せしめることができる。
本発明のα−アミラーゼ変異体をコードするDNA配列を含有する組換え発現ベクターは、便利には組換えDNA操作にかけることができる任意のベクターであることができ、ベクターの選択はそれを導入する予定である宿主細胞にしばしば依存するだろう。よって、該ベクターは自己複製ベクター、すなわちその複製が染色体複製とは無関係である染色体外存在物として存在するベクター、例えばプラスミド、バクテリオファージまたは染色体外要素、例えばミニ染色体または人工染色体であることができる。あるいは、ベクターは宿主細胞中に導入されると宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、それが組み込まれた1または複数の染色体と一緒に複製されるものであってもよい。
ベクター中、DNA配列は適当なプロモーター配列に作用可能に連結されるべきである。プロモーターは、特定の宿主細胞中で転写活性を示す任意のDNA配列であることができ、宿主細胞にとって相同または非相同のタンパク質をコードする遺伝子から誘導することができる。特に細菌宿主中での、本発明のα−アミラーゼ変異体をコードするDNA配列の転写を指令するのに適当なプロモーターの例は、E.コリのlacオペロンのプロモーター、ストレプトマイセス・ケリコロール(Streptomyces coelicolor)アガラーゼ遺伝子dagAプロモーター、バシラス・リヘニフォルミス(Bacillus licheniformis)α−アミラーゼ遺伝子(amyL)のプロモーター、バシラス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)麦芽生成アミラーゼ遺伝子(amyM)のプロモーター、バシラス・アミロリクエファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)α−アミラーゼ遺伝子(amyQ)のプロモーター、バシラス・サチリス(Bacillus subtilis)xylAおよびxylB遺伝子のプロモーターなどである。真菌宿主中での転写に有用なプロモーターの例は、A.オリゼ(A.oryzae)のTAKAアミラーゼ、リゾムーコル・ミーヘイ(Phizomucor miehei)のアスパラギン酸プロテイナーゼ、A.ニガー(A.niger)の中性α−アミラーゼ、A.ニガーの酸安定α−アミラーゼ、A.ニガーのグルコアミラーゼ、リゾムーコル・ミーヘイのリパーゼ、A.オリゼのアルカリ性プロテアーゼ、A.オリゼのトリオースリン酸イソメラーゼまたはA.ニデュランス(A.nidulans)のアセトアミダーゼをコードする遺伝子に由来するものである。
本発明の発現ベクターは、適当な転写ターミネーターを含んで成ってもよく、そして真核生物では、本発明のα−アミラーゼ変異体をコードするDNA配列に作用可能に連結されたポリアデニル化配列を含んで成ってもよい。転写終結配列およびポリアデニル化配列は適当にはプロモーターと同じ源に由来するものであろう。
ベクターは問題の宿主細胞中で該ベクターを複製できるようにするDNA配列を更に含んで成ることができる。そのような配列の例はプラスミドpUC19,pACYC177,pUB110,pE194,pAMB1およびpIJ702の複製開始点である。
ベクターは選択マーカー、例えば生成物が宿主細胞の欠陥を補完する遺伝子、例えばB.サチリスもしくはB.リヘニフォルミスからのdal遺伝子、または抗生物質耐性、例えばアンピシリン、カナマイシン、クロラムフェニコールもしくはテトラサイクリン耐性を付与するものを含んでもよい。更にベクターはアスペルギルス選択マーカー、例えばamdS,argB,niaDおよびsC(ヒグロマイシン耐性をもたらすマーカー)を含んでもよく、または例えばWO 91/17243に記載されたように同時形質転換により選択を成し遂げてもよい。
ある面では、例えば宿主細胞としてある種の細菌を使う時には、細胞内発現が有利かもしれないが、発現は細胞外であることが通常好ましい。一般に、本明細書中に言及するバシラス菌α−アミラーゼは、培地中への発現されたプロテアーゼの分泌を可能にするプレ領域を含んで成る。所望であれば、このプレ領域を別のプレ領域やシグナル配列により置き換えることができ、これは便利には各々のプレ領域をコードするDNA配列の置換により達成される。
α−アミラーゼ変異体、プロモーター、ターミネーターおよび他の要素をコードする本発明のDNA構成物をそれぞれ連結せしめ、そしてそれらの構成物を複製に必要な情報を含む適当なベクター中に挿入するのに用いる手順は当業者に周知である〔例えばSambrook他(1989)を参照のこと〕。
上記に定義したような本発明のDNA構成物または発現ベクターのいずれかを含んで成る本発明の細胞は、本発明のα−アミラーゼ変異体の組換え生産において宿主細胞として有利に使われる。便利にはDNA構成物(1または複数のコピー)を宿主染色体中に組み込むことにより、変異体をコードする本発明のDNA構成物を用いて細胞を形質転換せしめることができる。この組み込みは、おそらくDNA配列が細胞中に安定に維持されるだろうから、一般に有利であると考えられる。宿主染色体中へのDNA構成物の組み込みは、常法に従って、例えば相同または非相同組換えにより、実施することができる。あるいは、異なる型の宿主細胞に関連して上述したように発現ベクターを用いて細胞を形質転換せしめてもよい。
本発明の細胞は高等生物、例えば哺乳類または昆虫の細胞であってもよいが、好ましくは微生物細胞、例えば細菌または真菌(酵母を含む)細胞である。
適当な細菌の例は、グラム陽性菌、例えばバシラス・サチリス(Bacillus subtilis)、バシラス・リヘニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バシラス・レンタス(Bacillus lentus)、バシラス・ブレビス(Bacillus brevis)、バシラス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、バシラス・アルカロフィラス(Bacillus alkalophilus)、バシラス・アミロリクファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バシラス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、バシラス・サーキュランス(Bacillus circulans)、バシラス・ロータス(Bacillus lautus)、バシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バシラス・スリンジェンシス(Bacillus thuringiensis)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)もしくはストレプトマイセス・ムリナス(Streptomyces murinus)、またはグラム陰性菌、例えばE.コリ(E.coli)である。細菌の形質転換は、例えば、プロトプラスト形質転換によりまたはそれ自体既知の方法でコンピテント細胞を使うことにより、行うことができる。
酵母生物は好ましくはサッカロミセス(Saccharomyces)またはシゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)の種、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)から選択することができる。糸状菌は有利にはアスペルギルス(Aspergillus)種、例えばアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)またはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)に属し得る。真菌細胞は、プロトプラスト形成および該プロトプラストの形質転換、次いでそれ自体既知の方法での細胞壁の再生を含む方法により形質転換せしめることができる。アスペルギルス宿主細胞の適当な形質転換方法はEP 238 023に記載されている。
更に別の面では、本発明は本発明のα−アミラーゼ変異体の生産方法であって、上述した宿主細胞を変異体の生産の助けとなる条件下で培養し、そして細胞および/または培地から変異体を回収することを含んで成る方法に関する。
細胞を培養するのに使う培地は、問題の宿主細胞を増殖させそして本発明のα−アミラーゼ変異体の発現を得るのに適当な任意の常用培地であることができる。適当な培地は商品販売業者から入手可能であるかまたは発表された作製法に従って(例えばアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されたように)調製することができる。
宿主細胞から分泌されたα−アミラーゼ変異体は、便利には、遠心分離または濾過により培地から細胞を分離し、硫酸アンモニウムのような塩を使って培地のタンパク様成分を沈澱させ、次いでイオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等のようなクロマトグラフィー手法により精製することを含む周知の手順により、培地から回収することができる。
工業的用途
本発明のα−アミラーゼ変異体は、様々な工業的用途に備えた価値ある性質を有する。特に該酵素変異体は、洗剤、食器洗い用洗剤、および硬質面洗浄用洗剤組成物中の一成分として潜在的用途があるが、それはデンプンからの甘味料およびエタノールの製造において並びに織物製織にも有用である。従来のデンプン転化工程並びに液化および/または糖化工程の条件は、例えば米国特許第3,912,590号並びに欧州特許公開第252,730号および同第63,909号明細書に記載されている。
デンプンからの甘味料の製造:デンプンから果糖シロップへの「伝統的な」転化工程は、通常3つの連続した酵素処理工程、即ち液化工程の後の糖化工程と同化工程から成る。液化工程中に、デンプンは5.5〜6.2のpH値で且つ95〜160℃の温度で約2時間に渡りα−アミラーゼによりデキストリンに分解される。これらの条件下での最適な酵素安定性を確保するために、1mMのカルシウムが添加される(40ppmの遊離カルシウムイオン)。
液化工程の後、グルコアミラーゼ(例えばAMGTM)と枝切り酵素〔例えばイソアミラーゼまたはプルラナーゼ(例えばPromozymeTM)〕の添加によりデキストリンはデキストロース(ブドウ糖)に変換される。この段階の前に、高温を維持しながら(約95℃)、pHを4.5以下の値に下げ、そして液化用α−アミラーゼ活性を変性させる。温度を60℃に下げ、そしてグルコアミラーゼと枝切り酵素を添加する。糖化工程は24〜72時間続けられる。
糖化工程の後、pHを6〜8の範囲の値、好ましくはpH7.5に増加させ、そしてイオン交換によりカルシウムを除去する。ブドウ糖シロップは、次いで例えば固定化グルコースイソメラーゼ(例えばSweetzymeTM)を使って、高果糖シロップに転化される。
この方法の少なくとも3つの酵素的改善を得ることができた。3つの改善はいずれも個別的な恩恵として認めることができたが、任意の組合せ(例えば1+2、1+3、2+3または1+2+3)を使うことも可能であった:
改善1. 液化用α−アミラーゼのカルシウム依存性の減少
α−アミラーゼの高安定性を適切に確保するためには遊離カルシウムの付加が必要であるけれども、遊離カルシウムはグルコースイソメラーゼの活性を強く阻害するので、費用のかかる単位操作を使って、遊離カルシウムのレベルが3〜5ppm以下になる程度まで除去する必要がある。そのような操作が回避でき、そして液化工程が遊離カルシウムイオンの添加なしに実施できれば、コストの削減が得られるだろう。
それを達成するために、低濃度の遊離カルシウム(<40ppm)で安定であり且つ高活性である低カルシウム依存性テルマミル様α−アミラーゼが要求される。そのようなテルマミル様α−アミラーゼは、4.5〜6.5のpH域、好ましくは4.5〜5.5のpH域に最適pHを有するだろう。
改善2. 不用なマイラード生成物の形成の減少
液化工程中の不用なマイラード生成物の形成の程度はpHに依存する。マイラード生成物の形成の減少には低pHが好ましい。よって、該工程のpHをpH6.0付近からpH4.5付近の値に下げることができることが望ましいだろう。不運にも、一般に既知である全ての耐熱性テルマミル様α−アミラーゼが低pH(即ちpH<6.0)においてあまり安定でなく、そしてそれらの比活性は一般に低い。
上述した目標の達成は、4.5〜5.5の範囲の低pHでおよび0〜40ppmの範囲の遊離カルシウム濃度で安定であり、且つ高い比活性を維持しているテルマミル様α−アミラーゼを必要とする。
改善3.
A.ニガー(A.niger)のグルコアミラーゼとB.アシドプルリチカス(B.acidopullulyticus)のプルラナーゼを使って糖化すると、糖化工程の前にα−アミラーゼを不活性化しなければ液化工程からの残余α−アミラーゼ活性の存在がデキストロースの低収率を引き起こし得ることは以前に報告されている(米国特許第5,234,823号)。この不活性化は、典型的には糖化のために温度を60℃に下げる前に、95℃でpHを4.3以下に調製することにより行うことができる。
デキストロース収率に対するこの負の効果の理由は完全に解明されていないが、液化用α−アミラーゼ(例えばB.リヘニフォルミスからのテルマミルTM120L)が、アミロペクチン中の分岐点近くのおよびその両側の1,4−α−グルコシド結合を加水分解することにより、「リミットデキストリン」(B.アシドプルリチカスのプルラナーゼにとって良くない基質である)を生成すると推測される。グルコアミラーゼによるそれらのリミットデキストリンの加水分解は、三糖類パノースの生成をもたらし、これはグルコアミラーゼによって遅くしか加水分解されない。
この欠点を持たない耐熱性α−アミラーゼの開発は、別の不活性化段階が全く必要とされないだろうから、意味のある工程改善であろう。
テルマミル様の低pH安定性のα−アミラーゼが開発されれば、特異性の変化は、低pHでの増加された安定性と共に要望される利点となるだろう。
本発明の方法論および原理は、上記に概説したような必要な性質を有する本発明の変異体をデザインしそして製造することを可能にする。
洗剤組成物
本発明によれば、α−アミラーゼは典型的には洗剤組成物の一成分である。そのような場合、それは無粉塵性顆粒、安定化された液体または保護された酵素の形で洗剤組成物中に含めることができる。無粉塵性顆粒は、例えば米国特許第4,106,991号と同第4,661,452号(共にNovo Industri A/S)に開示されたようにして製造することができ、そして場合により既知の方法でコーティングすることができる。蝋状コーティング材料の例は、1000〜20000の平均分子量を有するポリ(エチレンオキシド)生成物(ポリエチレングリコール、PEG);16〜50エチレンオキシド単位を有するエトキシル化ノニルフェノール;アルコールが12〜20個の炭素原子を含みそして15〜80エチレンオキシド単位が存在するエトキシル化脂肪アルコール;脂肪アルコール;脂肪酸;並びに脂肪酸のモノ−、ジ−およびトリグリセリドである。流動床技術による使用に適当な皮膜形成コーティング材料の例は英国特許第1483591号に与えられている。液体酵素製剤は、例えば、確立された方法に従って、プロピレングリコールのようなポリオール、糖または糖アルコール、乳酸またはホウ酸を添加することにより安定化することができる。他の酵素安定剤は当業界で公知である。保護された酵素は欧州特許第238,216号に開示された方法に従って調製することができる。
本発明の洗剤組成物は任意の便利な形態、例えば粉末、顆粒、ペーストまたは液体であることができる。液体洗剤は、典型的には水70%までと有機溶剤0〜30%を含有する水性であってもよく、または非水性であってもよい。
洗剤組成物は1または複数の界面活性剤を含んで成り、その各々がアニオン性、非イオン性、カチオン性または両イオン性であることができる。洗剤は一般に、0〜50%のアニオン性界面活性剤、例えば直鎖アルキルベンゼンスルホネート(LAS)、α−オレフィンスルホネート(AOS)、アルキルスルフェート(脂肪アルコールスルフェート)(AS)、アルコールエトキシスルフェート(AEOSまたはAES)、第二級アルカンスルホネート(SAS)、α−スルホ脂肪酸メチルエステル、アルキル−もしくはアルケニル−コハク酸、または石鹸を含むだろう。それは0〜40%の非イオン性界面活性剤、例えばアルコールエトキシレート(AEOまたはAE)、カルボキシル化アルコールエトキシレート、ノニルフェノールエトキシレート、アルキルポリグリコシド、アルキルジメチルアミンオキシド、エトキシル化脂肪酸モノエタノールアミド、脂肪酸モノエタノールアミド、またはポリヒドロキシアルキル脂肪酸アミド(例えばWO 92/06154中に記載されたような)を含有してもよい。
洗剤組成物は、1または複数の別の酵素、例えばリパーゼ、クチナーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、ペルオキシダーゼ、例えばラッカーゼを更に含んでもよい。
洗剤は1〜65%の洗剤ビルダーまたは錯生成剤、例えばゼオライト、ジホスフェート、トリホスフェート、ホスホネート、シトレート、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTMPA)、アルキル−もしくはアルケニル−コハク酸、可溶性シリケートまたは積層シリケート(例えばHoechstからのSKS-6)を含んでもよい。洗剤はビルダー無添加(unbuilt)であってもよく、即ち洗剤ビルダーを本質的に含まなくてもよい。
洗剤は1または複数のポリマーを含んでもよい。ポリマーの例はカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリカルボキシレート、例えばポリアクリレート、マレイン酸/アクリル酸コポリマー、およびラウリルメタクリレート/アクリル酸コポリマーである。
洗剤は漂白系を含んでもよい。前記漂白系は、過酸を形成する漂白促進剤〔例えばテトラアセチルエチレンジアミン(TAED)またはノナノイルオキシベンゼンスルホネート(NOBS)〕と組み合わせることができるH2O2源(例えば過ホウ酸塩または過炭酸塩)を含んで成ることができる。あるいは、漂白系が例えばアミド、イミドまたはスルホン型のペルオキシ酸を含んで成ってもよい。
本発明の洗剤組成物の酵素は、常用の安定剤、例えばポリオール、例えばプロピレングリコールまたはグリセロール、糖または糖アルコール、乳酸、ホウ酸またはホウ酸誘導体、例えば芳香族ホウ酸エステルを使って安定化することができ、該組成物は例えばWO 92/19709およびWO 92/19708に記載されたようにして配合することができる。
洗剤は他の常用の洗剤成分、例えば織物コンディショナー(クレーを含む)、起泡増進剤、泡止め剤、防錆剤、汚れ懸濁剤、汚れ再付着防止剤、色素、殺菌剤、蛍光増白剤、または香料を含んでもよい。
pH(使用濃度の水溶液中で測定した時の)は通常は中性またはアルカリ性、例えば7〜11であろう。
本発明の範囲内の洗剤組成物の特定形態としては下記のものが挙げられる:
1)下記の成分を含んで成る少なくとも600g/lの嵩密度を有する顆粒とし製剤化された洗剤組成物
2)下記の成分を含んで成る少なくとも600g/lの嵩密度を有する顆粒として製剤化された洗剤組成物
3)下記の成分を含んで成る少なくとも600g/lの嵩密度を有する顆粒として製剤化された洗剤組成物
4)下記の成分を含んで成る少なくとも600g/lの嵩密度を有する顆粒として製剤化された洗剤組成物
5)下記の成分を含んで成る水性液体洗剤組成物
6)下記の成分を含んで成る水性液体洗剤組成物
7)下記の成分を含んで成る少なくとも600g/lの嵩密度を有する顆粒として製剤化された洗剤組成物
8)下記の成分を含んで成る顆粒として製剤化された洗剤組成物
9)下記の成分を含んで成る顆粒として製剤化された洗剤組成物
10)下記の成分を含んで成る水性液体洗剤組成物
11)下記の成分を含んで成る水性液体洗剤組成物
12)下記の成分を含んで成る少なくとも600g/lの嵩密度を有する顆粒として製剤化された洗剤組成物
13)直鎖アルキルベンゼンスルホネートの全部または一部が(C12〜C18)アルキルスルフェートにより置き換えられている、1)〜12)に記載の洗剤組成物。
14)下記の成分を含んで成る少なくとも600g/lの嵩密度を有する顆粒として製剤化された洗剤組成物
15)下記の成分を含んで成る少なくとも600g/lの嵩密度を有する顆粒として製剤化された洗剤組成物
16)追加の成分としてまたは明記してある漂白系の代替物として、安定化されたまたはカプセル化された過酸を含有する、1)〜15)に記載の洗剤組成物。
17)過ホウ酸塩が過炭酸塩に置き換えられている、1),3),7),9)および12)に記載の洗剤組成物。
18)マンガン触媒を更に含有する、1),3),7),9),12),14)および15)に記載の洗剤組成物。マンガン触媒は、例えば“Efficient manganese catalysts for low-temperature bleaching”,Nature,369,637-639,1994に記載の化合物の1つであることができる。
19)液体非イオン性界面活性剤(例えば直鎖アルコキシル化第一級アルコール)、ビルダー系(例えばホスフェート)、酵素およびアルカリを含んで成る非水性液体洗剤として製剤化された洗剤組成物。この洗剤はアニオン性界面活性剤および/または漂白系を含んでもよい。
本発明のα−アミラーゼ変異体は、洗剤に汎用される濃度で配合することができる。本発明の洗剤組成物では、α−アミラーゼ0.00001〜1mg(純粋な酵素タンパク質として計算)/l洗液に相当する量でα−アミラーゼを添加することができると現在のところ期待される。
食器洗い用組成物
食器洗い洗剤組成物は、アニオン性、非イオン性、カチオン性、両性またはそれらの型の混合物であることができる界面活性剤を含んで成る。該洗剤は0〜90%の非イオン性界面活性剤、例えば低〜無発泡性エトキシル化プロポキシル化直鎖アルコールを含有するだろう。
この洗剤組成物は、無機型および/または有機型の洗剤ビルダー塩を含有してもよい。そのような洗剤ビルダーは、含リン型と無リン型に細分することができる。洗剤組成物は一般に洗剤ビルダーを1〜90%含有する。
含リン無機アルカリ洗剤ビルダーの例としては、存在する場合、水溶性塩、特にアルカリ金属ピロリン酸塩、オルトリン酸塩およびポリリン酸塩が挙げられる。含リン有機アルカリ洗剤ビルダーの例としては、存在する場合、ホスホネートの水溶性塩が挙げられる。無リン無機ビルダーの例としては、存在する場合、水溶性アルカリ金属炭酸塩、ホウ酸塩および珪酸塩並びに様々な型の水不溶性結晶質または非晶質アルミノシリケートが挙げられる。その中でゼオライトが最もよく知られた代表例である。
適当な有機ビルダーの例としては、クエン酸、コハク酸、マロン酸、脂肪酸スルホネート、カルボキシメトキシスクシネート、ポリ酢酸、カルボン酸、ポリカルボン酸、アミノポリカルボン酸、ポリアセチルカルボン酸およびポリヒドロキシスルホン酸、のアルカリ金属塩、アンモニウム塩および置換アンモニウム塩が挙げられる。
別の適当な有機ビルダーとしては、ビルダー性質を有することが知られている高分子量ポリマーおよびコポリマー、例えば適当なポリアクリル酸、ポリマレイン酸およびポリアクリル酸/ポリマレイン酸コポリマー並びにそれらの塩が挙げられる。
食器洗い洗剤組成物は、塩素/臭素型または酸素型の漂白剤を含んでもよい。無機塩素/臭素型漂白剤の例は、次亜塩素酸および次亜臭素酸リチウム、ナトリウムまたはカルシウム、並びに塩素化リン酸三ナトリウムである。有機塩素/臭素型漂白剤の例は、複素環式N−ブロモおよびN−クロロイミド、例えばトリクロロイソシアヌル酸、トリブロモイソシアヌル酸、ジブロモイソシアヌル酸およびジクロロイソシアヌル酸、並びにそれらと水溶解性カチオンとの塩、例えばカリウムおよびナトリウム塩である。ヒダントイン化合物も適当である。
酸素漂白剤、例えば無機過塩の形、好ましくは漂白剤前駆体との無機過塩の形またはペルオキシ酸化合物としての酸素漂白剤が好ましい。適当なペルオキシ漂白化合物の典型例は、過ホウ酸アルカリ金属(四水和物と一水和物の両方)、過炭酸アルカリ金属、過珪酸アルカリ金属および過リン酸アルカリ金属である。好ましい促進物質はTAEDとグリセロールトリアセテートである。
本発明の食器洗い洗剤組成物は、常用の酵素安定剤、例えばポリオール、例えばプロピレングリコール、糖もしくは糖アルコール、乳酸、ホウ酸、またはホウ酸誘導体、例えば芳香族ホウ酸エステル、を使って安定化することができる。
本発明の食器洗い洗剤組成物は、別の常用の洗剤成分、例えば解膠剤、充填剤、泡止め剤(foam depressor)、防錆剤、汚れ懸濁剤、金属イオン封鎖剤、汚れ再付着防止剤、脱水剤、色素、殺菌剤、蛍光剤、増粘剤および香料を含んでもよい。
最後に、本発明のα−アミラーゼ変異体は従来の食器洗い洗剤、例えば次の特許刊行物のいずれかに記載された洗剤のいずれにおいても使うことができる:
実施例
実施例1:相同性に基づくTERMの模型製作の例
他のテルマミル様α−アミラーゼに対するB.リヘニフォルミスα−アミラーゼ(以下TERMと称する)の全体的相同性は高く、相似度は非常に高い。ウィスコンシン大学ジェネティクスコンピューターグループのGCGプログラムを使ってBSG(配列番号6のB.ステアロサーモフィラスα−アミラーゼ)およびBAN(配列番号4のB.アミロリクファシエンスα−アミラーゼ)に対して計算したTERMの相似度は、それぞれ89%と78%であった。TERMはBANおよびBSGに比較して残基G180とK181の間に2残基の欠失を有する。BSGはBANおよびTERMに比較してG371とI372の間に3残基の欠失を有する。更にBSGはBANおよびTERMに比較して20残基以上のC末端延長を有する。BANはBSGに比較してN末端が2残基少なく、TERMは1残基少ない。
B.リヘニフォルミスα−アミラーゼ(TERM)およびB.アミロリクファシエンスα−アミラーゼ(BAN)のそれぞれの構造について、本明細書中の付録1に開示される構造を基に模型を製作した。他のテルマミル様α−アミラーゼ(例えば本明細書中に開示されるような)の構造も同様にして組み立てることができる。
本構造を解明するのに使ったα−アミラーゼと比較して、TERMは178〜182の付近に2残基を欠いているという点で異なる。模型構造においてこれを補うために、BIOSYMからのHOMOLOGYプログラムを使って、欠失箇所を除いて構造中の同等位置にある残基(構造上保存された領域だけでなく)を代用した。TERM(BAN)ではG179(G177)とK180(K180)の間にペプチド結合を作った。解明された構造と模型構造との間の密接な構造関係(および後者の有効性)は、ごくわずかな原子の存在だけが模型において近づき過ぎるとわかったことにより指摘される。
この非常に大雑把なTERM構造に、解明された構造(付録1)のものと同じ座標においてINSIGHTプログラムを使って前記解明構造から全ての水(605)とイオン(カルシウム4とナトリウム1)を加えた。これはわずかなオーバーラップのみを伴って、言い換えれば非常に良好な一致で、行うことができた。この模型構造を次いで200段階のSteepest降下と600段階のConjugated傾斜(Brooks他,1983,J.Computational Chemistry 4,187-217頁参照)を使って最小化した。最小構造を次いで、5ps加熱に続いて35ps以上だが200psまでの平衡化の分子力学にかけた。Verlet演算法で進行するような動力学と平衡温度300Kを、湯浴へのBerendsenカップリングを使って維持した(Berendsen他,1984,J.Chemical Physics 81,3684-3690)。ピコ秒(ps)毎に回転と変換をとった。ポテンシャルエネルギーは約35ps平衡化後に安定になった。平均動的構造を引き出し、更なる分析に使った。
実施例2:解明された構造中に存在するイオンから10Å以内の残基の決定
付録1の座標をBIOSYM Technologiesにより提供されたINSIGHTプログラム中に読み取る。原子間の結合を示す立体座標を与える。イオンと水原子を提供する。プログラムパッケージのサブセット作製部を使って、コマンドZONEを使って構造中のカルシウムイオンとナトリウムイオンの周りに10Åサブセットを作る。10Å以内に原子を有する全ての残基をコンパイルし、LIST MOLECULEコマンドにより打ち出す。座標ファイル中においてイオンに名称イウム(ium)を与えることにより、イウムと呼ばれる全ての原子の周りの10Å範囲をコンパイルする。この方法で同定された特定残基は、「Ca2+依存性」という題の項目において上記に更に与えられる。
実施例3:解明された構造における窪みの決定
解明された構造は多数の内部孔および窪みを有する。そのような窪みについて分析する時、Connollyプログラムが一般に使われる(Lee,B.およびRichards,F.M.(1971)J.Mol.Biol.55,379-400頁)。このプログラムは、タンパク質の外面および内面を調査するために半径範囲でプローブを使う。この方法で検出できる最小の孔はプローブ半径を有する。
解明された構造を分析するために、INSIGHTプログラム中に組み込まれたConnollyプログラムの改良バージョンを使った。まず、解明された構造から水分子とイオンを解除(unmerge)することによりそれらの原子を取り除いた。コマンドMOLECULE SURFACE SOLVENTを使って、1.4Åのプローブ半径を使って全ての原子および残基について溶媒が接近可能な表面積を計算し、それを解明された構造の模型と一緒にグラフィック画像上に表示した。そこでは内部孔は外面への連接が全くないドット面として見えた。
その孔を埋めるための変異体案は、本明細書中に与えられている(「高められた耐熱性および/または変更された最適温度を有する変異体」という題の項目中に)。相同性組立構造または/および配列整列を使うことにより、TERMおよびBSGおよびBANの相同構造に向けて変異を作ることができる。
実施例4:本発明に従ったテルマミルTM変異体の作製
テルマミル(配列番号2)はB.サチリス中のpDN1528と称するプラスミドから発現される。このプラスミドはテルマミルをコードする完全遺伝子amyLを含み、その発現は自身のプロモーターにより指令される。更に、このプラスミドはプラスミドpUB110からの複製開始点oriと、クロラムフェニコールに対する耐性を付与するプラスミドpUC194からのcat遺伝子を含む。pDN1528は図9に示される。
配列番号1のコード領域の大部分を含む特別な変異誘発ベクターを作製した。pJeEN1と命名したこのベクターの重要な特徴は、pUCプラスミド由来の複製開始点、クロラムフェニコールに対する耐性を付与するcat遺伝子、およびbla遺伝子のフレームシフト含有変異形(その野性型は一般にアンピシリンに対する耐性を付与する;表現型ampR)を含有する。この変異形はampS表現型を生じる。プラスミドpJeEN1は図10に示され、そして該プラスミド上にE.コリ複製開始点ori、bla、cat、テルマミルアミラーゼ遺伝子の5′端が切り取られた変形、および抜粋した制限部位が示されている。
DengおよびNickoloffにより概説された制限酵素消化による選択を使う代わりに、修復されたbla遺伝子を有するプラスミドを含む形質転換されたE.コリ細胞のampR表現型に基づいて「選択プライマー」(プライマー#6616;下記参照)が組み込まれているプラスミドを選択することを除いて、DengおよびNickoloffにより記載された方法(1992,Anal.Biochem.200,81-88頁)により、amyL中に変異を導入する。変異誘発に使う薬品および酵素はStratageneからのChameleonTM変異誘発キット(カタログ番号200509)から入手した。
変異体プラスミド中のDNA配列の確認後、所望の変更を含む端が切り取られた遺伝子をPstI-EcoRI断片としてpDN1528中にサブクローニングし、そして変異体酵素を発現させるためにプロテアーゼおよびアミラーゼ欠損バシラス・サチリス(Bacillus subtilis)株中に形質転換せしめる。
テルマミル変異体V54Wは、次の変異誘発プライマー(左から右に向かって5′→3′で記載)を使って作製した:
テルマミル変異体A52W+V54Wは、次の変異誘発プライマー(左から右に向かって5′→3′で記載)を使って作製した:
プライマー#6616(左から右に向かって5′→3′で記載;Pは5′−リン酸を表す):
実施例5:「残余」α−アミラーゼ活性の存在下での糖化
変更された特異性を有する2つの適当なテルマミル変異体を、該変異体アミラーゼが活性である条件下で、A.ニガーのグルコアミラーゼとB.アシドプルリチカスのプルラナーゼを使ってDE 10(DE=デキストロース当量)マルトデキストリン基質を糖化することにより評価した。
糖化:糖化用の基質は、汎用コーンスターチから調製したDE 10噴霧乾燥マルトデキストリン230gを沸騰している脱イオン水460mlに溶かし、そして乾燥物質(DS)含量を約30%(w/w)に調整することにより、調製した。pHを4.7(60℃で測定)に調整し、そして15gの乾燥重量(乾量)に相当する基質のアリコートを50mlの青蓋付ガラスフラスコに移した。
次いでそのフラスコを60℃に平衡化した振盪水浴に入れ、酵素を添加した。必要ならばpHを4.7に再調整した。
次の酵素を使った:
グルコアミラーゼ:AMGTM(Novo Nordisk A/S);
用量0.18 AG/g DS
プルラナーゼ:PromozymeTM(Novo Nordisk A/S);
用量0.06 PUN/g DS
α−アミラーゼ:TermamylTM(Novo Nordisk A/S);
用量60 NU/g DS
Termamyl変異体V54W;用量60 NU/g DS
Termamyl変異体V54W+A52W;用量60 NU/g DS
2ml試料を定期的に採取した。各試料のpHを約3.0に調整し、次いで試料を沸騰水浴中で15分間加熱して酵素を不活性化した。冷却した後、試料をロータリーミキサー上で約0.1gの混合床イオン交換樹脂(Bio-Rad 501-X(D))で30分間処理し、次いで濾過した。各試料の糖組成をHPLCにより調べた。72時間後に次の結果が得られた〔DPnはnグルコース単位を有するデキストロース(D−グルコース)オリゴマーを表す〕:
上記結果から、対照(液化中に全くα−アミラーゼ活性が存在しないもの)に比較して、変異体V54WとV54W+A52Wからのα−アミラーゼ活性の存在はパノース(DP3)レベルを上昇させなかったことは明らかである。対照的に、テルマミル(Termamyl)α−アミラーゼ活性はパノースの高収率とその後のD−グルコース(DP1)収率の低下をもたらした。
よって、α−アミラーゼ変異体V54WまたはV54W+A52Wをデンプンの液化に使えば、糖化の開始前に残余α−アミラーゼ活性を不活性化する必要がないだろう。
実施例6:本発明のα−アミラーゼ変異体のカルシウム結合親和力
熱または変性剤(例えば塩酸グアニジン)への暴露によりアミラーゼがほぐれる時には蛍光の減少を伴う。カルシウムイオンの減少はほぐれ(unfolding)を引き起こすので、緩衝液(例えば50mM HEPES,pH7)中で、各α−アミラーゼ(例えば10μg/mlの濃度)を様々な濃度のカルシウム(例えば1μM〜100mMの範囲)またはEGTA(例えば1〜1000μMの範囲)〔EGTA=1,2−ジ(2−アミノエトキシ)エタン−N,N,N′,N′−四酢酸〕と共に十分に長い時間に渡って(例えば55℃で22時間)インキュベーションする前またはした後で蛍光を測定することにより、カルシウムに対するα−アミラーゼの親和力を測定することができる。
測定された蛍光Fは、酵素の折り畳まれた形態とほぐれた形態の寄与から成る。カルシウム濃度([Ca])に対するFの従属性を説明するために次の式を誘導することができる:
上式中、αNは酵素の生来の(折り畳まれた)形態の蛍光であり、βNはカルシウム濃度の対数に対するαNの一次従属であり(実験的に観察されるような)、αUはほぐれた形態の蛍光であり、そしてβUはカルシウ濃度の対数に対するαUの一次従属である。Kdissは次のような平衡過程についての見かけ上のカルシウム結合定数である:
(N=生来の酵素;U=ほぐれた酵素)
実際は、折り畳みがほぐれる過程は非常にゆっくり進行し、不可逆的である。ほぐる速度はカルシウム濃度に依存し、与えられたα−アミラーゼについてのその依存性(従属性)は酵素のカルシウム結合親和力の尺度を提供する。反応条件の標準セットを限定することにより(例えば55℃で22時間)、異なるα−アミラーゼについてKdissの有意義な比較を行うことができる。α−アミラーゼについてのカルシウム解離曲線は一般に、上記の式に当てはめることができ、Kdissの対応値の決定を可能にする。
WO 95/26397の配列番号1のアミノ酸配列を有する親のテルマミル様α−アミラーゼと本発明の指摘のテルマミル様α−アミラーゼ変異体について次のKdiss値が得点れた。
上記から、問題の変異体のカルシウム結合親和力が親よりも有意に強力にカルシウムを結合し、それにより親よりもかなり低いカルシウム依存性を有することは明白である。
配 列 表
下記の配列番号1,3,5において、関連するα−アミラーゼ遺伝子の5′コード配列と3′配列が記載される。5′配列は小文字で書かれた配列の最初の独立部分であり、コード配列は配列の中間部分であり(そこではシグナル配列が小文字で書かれておりそして成熟α−アミラーゼをコードする配列が大文字で書かれている)、そして3′配列は小文字で書かれた配列の三番目の独立部分である。
Claims (2)
- 親α−アミラーゼに対して変更された性質を有する、親α−アミラーゼの変異体の作製方法において、前記変更された性質が、増加したカルシウム結合親和性であり、
前記方法が、
(a)親α−アミラーゼの三次元構造のモデルを生成せしめ、この三次元構造のモデルの生成は、明細書中のAppendix 1に示される三次元構造の座標及びモデル構造を生成させるためにプログラムされたコンピュータを用いて行い、前記親α−アミラーゼは、配列番号:2、4又は6の配列を有するものであり、
(b)段階(a)において生成せしめた前記三次元構造及びモデル化方法を用いることにより、前記親α−アミラーゼの構造において、カルシウム結合部位から10Å以内にある少なくとも1個のアミノ酸残基又は構造部分を同定し;
(c)前記親α−アミラーゼをコードする核酸の配列を修飾することにより、段階(b)で同定された前記少なくとも1個のアミノ酸残基に対応する位置において1又は複数のアミノ酸の削除、挿入又は置換をコードする核酸を生成せしめ;そして
(d)前記修飾された核酸を宿主細胞中で発現せしめることにより前記変異体α−アミラーゼを産生せしめる;
ことを含んで成る、ことを特徴とする方法。 - 前記変異体が、酵素活性又は安定性の低下したカルシウムイオン依存性を有する、請求項1に記載の方法。
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