JP4014012B2 - 抗消化性潰瘍剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、胃の消化機能に対する抑制作用や胃粘膜保護作用等を有する抗消化性潰瘍剤であって、特定のテルペノイド化合物を有効成分として含有する抗消化性潰瘍剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の抗消化性潰瘍剤としては、H2ブロッカー(「シメチジン」など)やプロトンポンプインヒビター(「オメプラゾール」など)のような胃粘膜に対する攻撃因子を抑制する薬剤が臨床において繁用されている。
【0003】
従来、抗潰瘍作用を有するテルペノイド化合物としては、フラノジテルペン誘導体(特開昭52−144665)、テルペンカルボン酸配糖体(特開昭61−271297)、桂皮中に含まれるテルペン誘導体(特開昭62−174035)、アヤメ科イリス属植物中に含まれるセスキテルペノイド2量体であるγ−イリゲルマノール他(特開昭64−66115、特開平2−142743)、木香(Saussurea Lappa)に含まれるセスキテルペンコスツノライド(特開平6−211826)等が知られている。
【0004】
しかしながら、上記テルペノイド化合物は、いずれも複合化合物であり、単一化合物によりその生物活性を発現しているものではない。また、本発明に係る特定のテルペノイド化合物について、各種急性潰瘍抑制作用、胃液分泌抑制作用、ペプシン活性抑制作用をすべて、もしくは複数有するという報告はこれまでない。さらに、抗消化性潰瘍剤として本発明物の特定のテルペノイド化合物を用いるという報告も見あたらない。
【0005】
上記攻撃因子を抑制する薬剤は、急性の潰瘍に対しては有効であるが、治療後薬剤投与を中止すると多くの症例で再発することが問題とされており、再発防止のためには粘膜防御機能を増強する薬剤が必要である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来の問題点を克服するためになされたものであり、粘膜保護作用等により消化性潰瘍を治療する抗消化性潰瘍治療剤を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の抗消化性潰瘍剤は、特定のテルペノイド化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を有効成分として含有するものであり、該有効成分が粘膜壊死誘発物質であるアルコール、アスピリン、ストレスあるいは幽門結紮による胃粘膜損傷を抑制すると同時に、攻撃因子である胃液分泌を抑制するというものである。
【0008】
テルペノイドは、炭素数5のイソプレン骨格により構成されており、イソプレン2個またはそれ以上を含む化合物の総称であって、炭素数10の化合物をモノテルペノイド、炭素数15の化合物をセスキテルペノイド、炭素数20の化合物をジテルペノイド、炭素数30の化合物をトリテルペノイドとして分類されている。これらのテルペノイド化合物は、植物の芳香などになる精油成分であり、自然界において無害な物質である。
【0009】
しかして、本発明の抗消化性潰瘍剤として使用されるテルペノイド化合物としては鎖状および環状のものがあり、鎖状モノテルペノイドとして、化学式(1)で表されるシトロネラールがあり、環状モノテルペノイドとして、化学式(2)で表される1−p−メンテン、化学式(3)で表されるジヒドロ−α−テルピネオール、化学式(4)で表されるカルボン、化学式(5)で表されるテルピネン−4−オール、化学式(6)で表される酢酸イソボルニルがある。
【0010】
また、環状セスキテルペノイドとしては、化学式(7)で表されるエレモールがある。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のテルペノイド化合物は抗消化性潰瘍剤として単独で用いられるが、複合して使用してもよく、各成分の含有量は、0.1〜100重量%で、さらに好ましくは、30〜60重量%である。
【0012】
本発明のテルペノイド化合物の評価方法としては、塩酸エタノールやアスピリン等による急性潰瘍抑制試験、胃液分泌量の測定、または、胃液のペプシン活性の測定などがあげられる。
【0013】
本発明で使用されるテルペノイド化合物は、本来的には、植物の種々の部分の水蒸気蒸留によって得られる植物精油に含まれる一群の化合物およびその誘導体であるが、他のテルペノイド化合物から化学反応により誘導したものでも好適に使用することができる。以下、本発明の化学式(1)〜(7)の化合物について詳述する。
【0014】
次式(化8)で表される化学式(1)のシトロネラール(C10H18O)は、
【0015】
【化8】
【0016】
学術的には、3,7−ジメチル−6−オクテン−1−アールであり、ジャワおよび台湾産シトロネラ油、メリッサ油などに多く含まれ、水蒸気蒸留で単離した後、さらに、亜硫酸水素ナトリウム付加物を生成させることにより精製する。合成品は、β−ピネンを熱異性化によりミルセンとし、塩化水素付加、加水分解、水素添加、アルコール体の酸化を行うことにより得られる。d体の性状は、沸点204〜205℃、比重0.850〜0.858、比旋光度[α]D+15.4°の無色液体であり、l体の性状は、沸点205〜206℃、比重 0.850〜0.860、比旋光度[α]D−13.6°の無色液体である。
【0017】
次式(化9)で表される化学式(2)のl−p−メンテン(C10H18)は、
【0018】
【化9】
【0019】
学術的には、1−メチル−4−(1−メチルエチル)−シクロヘキセンであり、モノテルペンアルコールの一つである。このものはアメリカ産テレピン油中に存在し、分留により精留する。合成品はリモネンの不均化反応によって得られる。性状は、沸点175〜177℃、比重d=0.820〜0.830の無色液体である。
【0020】
次式(化10)で表される化学式(3)のジヒドロ−α−テルピネオール(C10H20O)は、
【0021】
【化10】
【0022】
学術的には、4−メチル−(1−ヒドロキシ−1−メチルエチル)シクロヘキセンであり、天然には、アメリカ産テレビン油、パイン油中に存在し、パイン油から分留して得られる。合成品は、α−ピネンを原料とし、希硫酸で加水分解反応を行い、生成した抱水テルピンを脱水剤で処理した後、部分水素添加を行うことにより得られる。性状は、沸点210〜210.5℃(760mmHg)、比重d=0.912の無色液状ないし針状結晶である。
【0023】
次式(化11)で表される化学式(4)のカルボン(C10H14O)は、
【化11】
【0024】
学術的には、2−メチル−5−(1−メチルエテニル)−2−シクロヘキセン−1−オンであり、天然には、キャラウエー油、マンダリン油、ジンジャグラス油、各種スペアミント油などに含まれる。合成品は、d−リモネンにニトロシルクロライドを付加した後、脱塩化水素して、光学反転したl−カルボンオキシムを生成し、これを加水分解することにより得られる。l体の性状は、沸点230℃、比重d=0.965の無色〜淡黄色液体であり、d体の性状は、沸点231℃、比重d=0.9652の無色〜淡黄色液体である。
【0025】
次式(化12)で表される化学式(5)のテルピネン−4−オール(C10H18O)は、
【0026】
【化12】
【0027】
学術的には、1−メチル−4−イソプロピル−1−シクロヘキセン−4−オールであり、天然には、ナツメグ精油、ピーナッツ油、杉油などに含まれ、例えば、杉油を分液分画、カラムクロマト処理することによって得られる。また、特開平2−48541に開示された方法に従って合成することもできる。性状は、沸点212℃、88〜90℃(6mmHg)、比重d=0.912の無色透明の液体である。
【0028】
次式(化13)で表される化学式(6)の酢酸イソボルニル(C12H20O2)は、
【0029】
【化13】
【0030】
天然には、針葉油、ユーカリ油などに含まれ、exo−構造をもつ。合成品は、カンフェンと酢酸を硫酸存在下に40℃で反応させることによって得られる。性状は、沸点227℃、112℃(17mmHg)、比重d=0.980〜0.985の無色〜淡黄色液体である。なお、イソボルネオール(C10H18O)は酢酸イソボルニルを加水分解することにより得られ、その性状は、dl体で融点(封管)220℃、(d体では、融点217℃、比旋光度[α]D+33.53°、l体では、融点217℃、比旋光度[α]D−34.25°)の無色結晶である。実施例の結果を示す表2中では化合物7として表示する。
【0031】
次式(化14)で表される化学式(7)のエレモール(C15H26O)は、
【0032】
【化14】
【0033】
Hedycraria angusstifolia、台湾シトロネラ油、杉油などに含まれ、例えば、杉油からの分液分画およびカラムクロマト処理することによって単離される。性状は、沸点254℃、133℃(6mmHg)、比重d=0.922の白色結晶である。
【0034】
【実施例】
以下、実施例を挙げ具体的に説明するが、本発明は、これらにより限定されるものではない。なお、実施例の結果を示す表中の化合物1は化学式(1)で表されるシトロネラールを示し、以下同様に化合物7は化学式(7)で表されるエレモールを示す。
【0035】
本発明の抗消化性潰瘍剤の薬理作用について以下に説明する。まず、上記特定テルペノイド化合物を界面活性剤(例えば、アトラス社のTween 80等の非イオン性界面活性剤)を0.5%含む水溶液に懸濁して被検体とし、対照には0.5%界面活性剤溶液を用いた。また、使用動物には、SD系およびWistar系雄性ラット(体重140〜200g)を1群3〜5匹にして検証に用いた。
【0036】
胃の潰瘍観察および潰瘍強度の判定には、胃の噴門部及び幽門部近傍を糸で結紮して胃を摘出し、胃に10%ホルマリン生理食塩液6mlを注入し、同じ液に一晩浸漬して固定した。この胃を大彎に沿って切開し、実体顕微鏡下で潰瘍係数(潰瘍の長さの合計)を測定した。
【0037】
ここでの統計処理において、潰瘍係数は各個体の潰瘍の全長の平均値で示し、潰瘍の抑制率は下記の式により算出して求めた。
抑制率(%)=(1−被検体群の潰瘍係数/対照群の潰瘍係数)×100
【0038】
最初に、アルコール潰瘍に対する作用を示す。24時間絶食させたラットに群毎に被検体もしくは溶媒液を経口投与し、1時間後に、150mMの塩酸を含む60%アルコールを体重1kg当たり5ml経口投与した。この後2時間絶食、絶水下で放置した後、屠殺して前述のように胃を摘出して潰瘍を観察した。その結果を(表1)に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
化合物の上付き数字は、実験時の対照の番号を示す。
この結果から、本発明の特定テルペノイド化合物を投与したものについて明らかな潰瘍の抑制効果が認められ、強い胃粘膜保護作用があることがわかる。
【0041】
さらに、アスピリン潰瘍に対しては、ラットに前述の被検体及び溶媒液を経口投与し、1時間後に150mM塩酸に懸濁したアスピリンを100mg/kg経口投与した。2時間後に屠殺して前述のように潰瘍を観察した。その結果(表2)に示すように、アスピリン潰瘍に対しても抑制効果のあることがわかる。
【0042】
【表2】
【0043】
化合物の上付き数字は、実験時の対照の番号を示す。
【0044】
胃液分泌の測定は、絶食したラットを用いエーテル麻酔下で開腹して幽門部を結紮した。被検体を十二指腸内に投与した後直ちに腹部を縫合し、幽門結紮4時間後に麻酔下で胃を摘出して胃液を集めた。この胃液をメッシュで濾過した後計量し、さらに、3,000rpm,10分遠心し、得られた上清をpH、酸度およびペプシン活性の測定に供した。胃液のpHは、pHメーターを用いて、また、酸度は胃液の一部を用いてこれにフェノールレッドをpH指示薬として加え、中和に要する水酸化ナトリウムの量から算出した。さらに、ペプシン活性はヘモグロビンを基質として測定した。その結果(表3)に示すように本発明物は、エレモール(化7)を含むものを除いて、明らかに胃液、胃酸および胃液中のペプシン分泌を強力に抑制することがわかる。
【0045】
【表3】
【0046】
化合物の上付き数字は、実験時の対照の番号を示す。
【0047】
本発明の特定テルペノイド化合物を抗消化性潰瘍剤として人体に投与する場合、常温で液状のものは、ペースト状などにして、また、固体状のものは粉砕して硬カプセル剤に充填したり、あるいは、懸濁剤として服用する。本発明の抗消化性潰瘍剤の投与量は、患者の年齢、体重、疾患の程度によって適宜増減するが、経口投与の場合、通常、成人で1日当たり1〜1,000mg/kg程度が好ましく、1回または数回に分けて服用することができる。
【0048】
【発明の効果】
本発明の抗消化性潰瘍剤は、優れた胃粘膜保護作用を有し、しかも、胃液分泌抑制作用を合わせもち、長期間の単独製剤治療に有効なものである。また、植物体から得られる精油分に含まれる化合物であるので、安全性が高く、医薬として極めて有効なものである。さらに、精油成分を、植物体のこれまで有効に利用されていない未利用部分から熱水抽出して取得することが可能であることから、安価に供給可能となる。しかも、植物体から天然成分を得ることにより、光学活性体の提供が可能であり、より安全性の高いものである。
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