JP3985907B2 - フィルムコーティング粒剤の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、薬物の溶出速度を制御するフィルム、もしくは防湿性のフィルムを有する粒剤の製造方法に関し、さらに詳しくは、製造直後と長期間貯蔵した後で性能が変わらない安定なフィルムを有するフィルムコーティング粒剤の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
医薬品製剤は薬物(医薬品薬効成分)の溶出速度を制御するために、あるいは湿気による力価の低減を防止するためにフィルムを施される。従来はフィルム基剤である高分子物質を有機溶媒に溶解し、フィルムコーティングに供されていた。しかし、近年の環境汚染問題や労働者の作業環境の改善の観点から、有機溶媒の使用を避けるために、水系のフィルムコーティング基剤を使用されるようになってきた。
【0003】
薬物の溶出速度を制御する、あるいは強力に防湿することのできる水系のフィルムコーティング基剤の一つとして、エチルセルロースの水分散体が市販されている。徐放性製剤を製造するために、エチルセルロースの水分散体をフィルムコーティング剤として用いた例としては、アニーリング剤(水溶性高分子)の配合(特表昭55−500709号公報)、細孔形成剤の配合(特開平3−3275618号公報)、オイドラギットの配合(特開昭57−109716号公報)が知られているが、これらには長期の貯蔵によるフィルムの機能(徐放性)の変化、および、その安定化に関する記述はない。フィルムの安定化については、適当な温度および湿度雰囲気下で加熱処理することが特開平7−138189号公報、特開平7−165609号公報に示されている。しかしながら、これらはコーティング条件を考慮していないために、例えば60℃、9%RH(相対湿度)、24時間という条件では湿度が低すぎて充分にフィルムを安定化させることができず、よって、高い湿度雰囲気が必要であるとしている。好ましい条件の一例は、60℃の処理で、湿度は約60%以上、時間は48〜72時間であるとされている。これらの記述からは、0〜約50%RHという低湿度雰囲気では効果が充分でないものと推定される。
【0004】
しかしながら、湿度雰囲気が約60%RH以上であると、次の操作に移る前には必ず乾燥しなければならず、また、粒剤の場合は著しく固結してしまうので、ほぐす操作が必要となる。特に粒剤の固結は、ほぐす際にフィルムを損傷してしまうので、なんとしても避ける必要がある。さらに、加熱処理時間が長すぎる(48時間以上)ので、生産性の向上の点から短縮する必要がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題を解決し、長期間の貯蔵においても徐放性などの性能が低下しない安定なフィルムを有するフィルムコーティング粒剤を、製造工程における粒剤の固結や薬物力価の低減を引き起こすことなく効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のフィルムコーティング方法を用いることで、湿度雰囲気下での加熱処理条件を大幅に緩和できることを見出し、本発明をなすに至った。
即ち、本発明は、薬物を含有する素粒剤を、転動流動型コーティング装置を用いて転動流動させるとともに、実質的に直径1μm以下のエチルセルロースを主成分とする球形固体粒子と可塑剤からなる水分散体を噴霧してコーティングを行い、次いで9.5%以上、30.0%以下の相対湿度雰囲気下、かつ、40℃以上、80℃以下の温度で熱処理を行うことを特徴とするフィルムコーティング粒剤の製造方法に関する。
【0007】
以下、本発明について説明する。
本発明において、フィルムコーティングに供される、薬物を含有する素粒剤は、1種もしくは2種以上の薬物と賦形剤(例えば、乳糖、トウモロコシデンプン、結晶セルロース、マンニット、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ステアリン酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸など)から成る。その大きさは10μm以上、5mm以下程度であり、その形状は球状、楕円粒状、棒状、多面体状、などである。好ましくは、緻密で、かつ、表面が滑らかな、短径と長径の比(短径/長径)が0.8以上の球状で、75〜1410μmの大きさのものである。さらに好ましくは、最大粒度が最小粒度の1.7倍以下程度の粒度分布のものである。その製造方法は、高速攪拌造粒、押し出し造粒、押し出し造粒+マルメ、転動造粒、流動層造粒、転動流動層造粒、核粒子を用いたコーティング造粒、などが使用され、特に好ましくは、押し出し造粒+マルメ法、および、核粒子を用いたコーティング造粒法(修飾造粒法)である。修飾造粒法を用いる場合は、形状および粒度分布の点で、市販の球形顆粒であるセルフィア<登録商標>(旭化成工業(株)製)やノンパレル(フロイント産業(株)の商品名)などを使用することが好ましい。
【0008】
本発明において、薬物とは、人および動物の疾病の治療、予防、診断に使用されるものであって、器具機械ではないもののことであり、例としては、以下のようなものを挙げることができる。
即ち、抗癲癇剤(例、フェニトイン、アセチルフェネトライド、トリメタジオン、フェノバルビタール、プリミドン、ニトラゼパム、バルプロ酸ナトリウム、スルチアム、等)、解熱鎮痛消炎剤(例、アセトアミノフェン、フェニルアセチルグリシンメチルアミド、メフェナム酸、ジクロフェナクナトリウム、フロクタフェニン、アスピリン、アスピリンアルミニウム、エテンザミド、オキシフェンブタゾン、スルピリン、フェニルブタゾン、イブプロフェン、アルクロフェナク、ナプロキセン、ケトプロフェン、塩酸チノリジン、塩酸ベンジダミン、塩酸チアラミド、インドメタシン、ピロキシカム、サリチルアミド、等)、鎮暈剤(例、ジメンヒドリナート、塩酸メクリジン、塩酸ジフェニドール、等)、麻薬(例、塩酸アヘンアルカロイド、塩酸エチルモルヒネ、リン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデイン、オキシメテバノール、等)、精神神経用剤(例、塩酸クロルプロマジン、マレイン酸レボメプロマジン、マレイン酸ペラジン、プロペリシアジン、ペルフェナジン、クロルプロチキセン、ハロペリドール、ジアゼパム、オキサゼパム、オキサゾラム、メキサゾラム、アルプラゾラム、ゾテピン、等)、骨格筋弛緩剤(例、クロルゾキサゾン、カルバミン酸クロルフェネシン、クロルメザノン、メシル酸プリジノール、塩酸エペリゾン、等)、自律神経用剤(例、塩化ベタネコール、臭化ネオスチグミン、臭化ピリドスチグミン、等)、鎮痙剤(例、硫酸アトロピン、臭化ブトロピウム、臭化ブチルスポコラミン、臭化プロパンテリン、塩酸パパベリン、等)、抗パーキンソン剤(例、塩酸ビペリデン、塩酸トリヘキシフェニジル、塩酸アマンタジン、レボドパ、等)、眼科用剤(例、ジクロルフェナミド、メタゾラミド、等)、抗ヒスタミン剤(塩酸ジフェンヒドラミン、dl−マレイン酸クロルフェニラミン、d−マレイン酸クロルフェニラミン、プロメタジン、メキタジン、フマル酸クレマスチン、等)、強心剤(例、アミノフィリン、カフェイン、dl−塩酸イソイソプロテレノール、塩酸エチレフリン、塩酸ノルフェネリン、ユビデカレノン、等)、不整脈用剤(例、塩酸プロカインアミド、ピンドロール、酒石酸メトプロロール、ジソビラミド、等)、利尿剤(例、塩化カリウム、シクロペンチアジド、ヒドロクロロチアジド、トリアムテレン、アセタゾラミド、フロセミド、等)。
【0009】
さらにまた、血圧降下剤(例、臭化ヘキサメトニウム、塩酸ヒドララジン、シロシンゴピン、レセルピン、塩酸プロプラノール、カプトプリル、メチルドパ、等)、血管収縮剤(例、メシル酸ジヒドロエルゴタミン、等)、血管拡張剤(例、塩酸エタフェノン、塩酸ジルチアゼム、塩酸カルボクロメン、四硝酸ペンタエリスリトール、ジピリダモール、硝酸イソソルビド、ニフェジピン、クエン酸ニカメタート、シクランデレート、シンナリジン、等)、動脈硬化用剤(例、リノール酸エチル、レシチン、クロフィブラート、等)、循環器官用剤(例、塩酸ニカルジピン、塩酸メクロフェノキサート、チトクロームC、ピリジノールカルバメート、ピンボセチン、ホパンテン酸カルシウム、ペントキシフィリン、イデベノン、等)、呼吸促進剤(例、塩酸ジメフリン、等)、鎮咳去痰剤(例、リン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデイン、臭化水素酸デキストロメトルファン、ノスカピン、塩酸L−メチルシステイン、塩酸ブロムヘキシン、テオフィリン、塩酸エフェドリン、アンレキサノクス、等)、利胆剤(例、オサルミド、フェニルプロパノール、ヒメクロモン、等)、整腸剤(例、塩化ベルベリン、塩酸ロペラミド、等)、消化器官用剤(例、メトクロプラミド、フェニペントール、ドンペリドン、等)、ビタミン剤(例、酢酸レチノール、ジヒドロタキステロール、エトレチナート、塩酸チアミン、硝酸チアミン、フルスルチアミン、オクトチアミン、シコチアミン、リボフラビン、塩酸ピリドキシン、リン酸ピリドキサール、ニコチン酸、パンテチン、シアノコバラミン、ビオチン、アスコルビン酸、フィトナジオン、メナテトレノン、等)、抗生物質(例、ベンジルペニシリンベンザチン、アモキシシリン、アンピシリン、シクラシリン、セファクロル、セファレキシン、エリスロマイシン、キタサマイシン、ジョサマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、グリセオフルビン、セフゾナムナトリウム、等)、化学療法剤(例、スルファメトキサゾール、イソニアジド、エチオナミド、チアゾスルホン、ニトロフラントイン、エノキサシン、オフロキサシン、ノルフロキサシン、等)などが挙げられる。
【0010】
特に、本発明は低温処理が可能となるために、融点が低い、あるいは、熱によって力価が低下するために、高温で加熱処理することのできなかった薬物、例えば、ゾテピン、イブプロフェン、カルバミン酸クロルフェネシン、ユビデカレノン、ジソビラミド、硝酸イソソルビド、シクランデレート、イデベノン、酢酸レチノール、塩酸エチルモルヒネ、臭化ネオスチグミン、臭化ブチルスポコラミン、臭化プロパンテリン、フマル酸クレマスチン、塩酸チアミン、フルスルチアミン、オクトチアミン、アスコルビン酸、ベンジルペニシリンベンザチン、アモキシシリン、シクラシリン、セファクロル、セファレキシン、エリスロマイシン、ジョサマイシン、スルファメトキサゾールなどに対して有用である。素粒剤中の薬物含有量は薬物の投与量によって決まるが、あえて例を示せば、極微量で薬効が発現する薬物の場合は0.01重量%程度、薬効の発現に多量の薬物が必要な場合は95重量%程度である。
【0011】
本発明ではフィルムコーティング剤として、エチルセルロースを主成分とする実質的に直径1μm以下の球形固体粒子と可塑剤を含有する水分散体が使用される。エチルセルロースを主成分とする球形固体粒子の粒度分布は実質的に直径1μm以下である。「実質的」という意味は、直径1μmを越える球形固体粒子(但し、最大で5μm程度)がフィルムコーティング剤としての成膜性や分散安定性を阻害しない程度の量の存在を認めているという事であり、その量は0.5体積%以下である。球形固体粒子は小さい方が好ましいが、その分布としては、直径0.6μm以下のものは95体積%以上、0.5μm以下のものは75体積%以上、0.4μm以下のものは1体積%以上であることが好ましい。球形固体粒子の「球形」とは球形度が0.7以上のことを意味し、0.8以上であることがより好ましい。
【0012】
エチルセルロース以外の副成分としては、球形固体粒子に内包するか、あるいは複合体化したもので、球形固体粒子の水分散体を製造するために必要な助剤、あるいは球形固体粒子の水中での分散安定性を維持するのに必要な助剤、あるいは細菌汚染を防止するための助剤などのことである。例としては、界面活性剤(例、ラウリル硫酸ナトリウム)、乳化助剤(例、セチルアルコール)、消泡剤、静菌剤、殺菌剤などを挙げることができる。その配合量はエチルセルロースに対して30重量%以下、好ましくは20重量%以下である。
【0013】
このようなエチルセルロースの水分散体は、これ自身では最低成膜温度が高すぎて実用に供しえない。そこで可塑剤を配合し、最低成膜温度を下げる必要があるが、前述のようなエチルセルロースを主成分とする球形固体粒子の大きさが1μm以下であると、可塑剤の使用量が少なくて良い。可塑剤の配合は、その配合量が多い場合、成膜後に分離(ブリード)などを起こし、薬物溶出速度が経時的に変化してしまうという欠点を有する。本発明で使用されるフィルムコーティング剤の場合、可塑剤の使用量が少なくて良いため、経時変化を最小に抑えることができる。本発明では、エチルセルロースの球形固体粒子が水中に安定に分散し、可塑剤はほとんどがエチルセルロース粒子に吸収され、場合によっては一部が水に溶解した状態のものを使用する。可塑剤は水と分離して油球を形成したり、あるいは二層分離してはならない。場合によっては、水溶性高分子、糖類、イオン性物質などの薬物の溶出速度調整剤、アンモニア水、水酸化アンモニウムなどの分散安定化剤、タルク、軽質無水ケイ酸、酸化チタン、トウモロコシデンプン、結晶セルロースなどのフィルムコーティング助剤など、通常のフィルムコーティングに使用される助剤を含んでいても良い。
【0014】
エチルセルロースの球形固体粒子の水分散体は種々の方法で製造され、例えば、Pharmaceutical Technology,Vol.11,No.3,p56−68(1987)に示されているようなエマルジョン−溶媒蒸発法、あるいは転相法などで製造される。例としては、FMC社(米国)製造の「Aquacoat」ECD−30などを挙げることができる。
【0015】
本発明で使用されるエチルセルロースとは、The United States Pharmacopia23(米国)のGuide to General Chapters/General Test and Assays/<431>Methoxy Determinationの方法(但し、0.1Nチオ硫酸ナトリウム液1mLはエトキシル基0.7510mgに相当)によって測定されるエトキシル基(−0C2H5)の含有率が41.0〜51.0重量%のものである。
【0016】
本発明で使用される可塑剤は、エチルセルロースのガラス転移温度および最低成膜温度を低下させる物質である。例としては、アセチル化モノグリセリド、クエン酸トリエチル、トリアセチン、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジメチル、中鎖脂肪酸トリグリセリド、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸トリブチル、クエン酸アセチルトリブチル、アジピン酸ジブチル、オレイン酸、オレイノールなどを挙げることができる。可塑剤の選択は、薬物の溶解性と製剤設計(薬物溶出速度、保存安定性の設定)に大きく依存する。一例を挙げれば、薬物の溶解度が低い場合は、フィルムコーティングのバッチバラツキを低減できるのでアセチル化モノグリセリドの使用が好ましく、また、薬物の溶解度が高い場合は、フィルムコーティング量を少なくし得るクエン酸トリエチルの使用が好ましい。配合量は、最低成膜温度、フィルムの熱軟化による融着性(フィルムコーティング操作に影響)、保存安定性などを考慮して決められるが、おおよそエチルセルロース100重量部に対して10〜70重量部、好ましくは25〜50重量部程度である。
【0017】
本発明で使用される水溶性高分子としては医薬品製剤に汎用されるものが使用され、その例としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、HPMCと略称することもある)、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、プルラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、キサンタンガム、などを挙げることができる。本発明ではこれらの一種、もしくは二種以上を使用する。
【0018】
本発明で使用される転動流動型コーティング装置とは、略円筒型の空間と、底部には、被コーティング粒子を転動させるための円盤と温風を供給するためスリットあるいは小孔を有し、上部には、温風を排出するための排風口(通常はバグフィルター付き)を持つものであり、フィルムコーティング液を噴霧するためのスプレーノズルが上部から下部に向かって、あるいは略円筒型空間下部の円盤の回転の接線方向に取り付けられている。略円筒型空間の形状、転動用の円盤の形状、温風を供給するためのスリットあるいは小孔の形状および位置、スプレーノズルの形状(噴霧能力、異物の付着防止)の違いによって、種々の装置が提案されているが、本発明においてはいずれの装置を用いてもよい。市販品としては(株)パウレック製「マルチプレックス」、不二パウダル(株)製「ニューマルメライザー」、フロイント産業(株)製「スパイラフロー」、同「ローターコンテナー」付き「フローコーター」、などがある。特に好ましい装置は「マルチプレックス」である。
【0019】
転動流動型コーティング装置を使用してエチルセルロース水分散液を噴霧し、フィルムコーティングを行うと、温風による流動作用と円盤による転動作用が素粒剤に与えられるため、素粒剤に付着したコーティング剤が乾燥する前に良く展延される。さらに略円筒型空間下部から円盤の転動作用の接線方向にエチルセルロース水分散液を噴霧するのが好ましく、このように接線方向に噴霧することにより、スプレーノズル先端から球形素顆粒までの距離が短く、充分水分を持った状態で付着するため、付着効率が高く、その後の展延効果も高くなるのであろう。その結果得られるフィルムはより緻密であり、従来技術と比べて著しく緩和された条件での加熱処理でも、エチルセルロース粒子の連続化が容易に達成され、結局、長期間の貯蔵においても薬物の溶出速度の変わらない、安定なフィルムになるものと考えられる。「マルチプレックス」が好ましい理由は、そのスプレーノズルが、その外側に噴霧と同一方向にエアーを流す機構を備えており、このエアーが非コーティング粒子等の付着防止の他に、フィルムコーティング剤の付着防止、噴霧された液滴を球形素顆粒に良く付着させる作用、および、球形素顆粒をよく転動流動させる作用をもつためである。
【0020】
本発明において、フィルムコーティング粒剤のフィルムはその厚みが30μm以上であることが好ましい。30μm以下ではフィルム強度が低く、経時変化しやすい。上限は特にないが、あまり厚すぎるとフィルムコーティングに長時間かかり、実用的でない。そのような制約からいうと、上限はおおよそ100μmである。フィルムが厚くなると溶出速度が遅くなりすぎるなどの影響が出てくるが、そのような場合は適宜水溶性物質を配合するなどして、適当な溶出速度と適当なフィルムを厚みを確保してもよい。コーティング量は素粒剤の粒度や形状、表面の滑らかさなどによって大きく変わるが、素粒剤100重量部に対して、5〜100重量部程度であり、好ましくは10〜25重量%程度である。
【0021】
このようにして得られたフィルムコーティング粒剤は8.5%以上、60.0%未満の相対湿度雰囲気下で、40℃以上80℃以下の温度で、適当な時間処理される。湿度が8.5%RH未満、もしくは40℃未満であると、充分にエチルセルロース粒子の連続化が起こらないので、長期の貯蔵によって薬物の溶出速度が変化してしまう。また、湿度が60.0%RH以上であると粒剤の吸湿がはなはだしく、乾燥が必須となり、さらには粒剤の固結が生じるのでほぐしてやらなければ使いものにならなくなる。温度が80℃を越えると、薬物の力価の低下が生じやすくなるので好ましくない。湿度が8.5%未満でも温度を60℃以上にすれば、安定なフィルムを作ることは可能だが、本発明の方法に比べて長時間を要するので、生産性の点から不利である。好ましくは9.0〜58.0%RH、40〜70℃、さらに好ましくは9.5〜30.0%RH、40〜60℃である。加熱時間はいくつか水準を変えて試験を行い、溶出速度が底打ちになる条件を見つけ、設定する必要がある。通常は0.5〜24時間であり、その多くは1〜6時間程度の短時間である。
【0022】
この加熱処理は、デシケーターに適当な湿度を与える硫酸水溶液あるいは飽和塩水溶液などを入れ、そこにフィルムコーティング粒剤を入れ、デシケーターを恒温器に入れて加湿・加熱するか、あるいは、フィルムコーティング粒剤を直接恒温恒湿器にて加湿・加熱するか、あるいは、フィルムコーティング粒剤を転動流動層もしくは流動層にて転動流動(流動)させ、同時に水を噴霧し、粒剤を加湿・加熱すればよい。加湿によって水分含有量が上がる場合があるが、本発明は、比較的低湿度、短時間の処理なので粒剤の固結などの問題はほとんど生じない。但し、長期間保存した場合、あるいは加速的な保存安定性試験を行った場合、粒剤の軽い固結が生じる場合がある。これを回避するためには乾燥処理を施すことが効果的である。
【0023】
本発明は、より低温で処理できるので、低融点の薬物、あるいは、加熱によって失活する薬物を使用する場合に多大なる効果がある。従来、そのような薬物を含有する粒剤にエチルセルロース水分散体でフィルムコーテイングを施す場合、フィルムの安定化が不充分であるために、その使用を断念せざるを得ない場合があった。湿度雰囲気下で加熱する場合、より低温でもエチルセルロース粒子の連続化を促進できる理由は、フィルムの水分が可塑剤として作用し、ガラス転移点が下がるためと考えられる。
【0024】
粒剤の薬物溶出速度は、医薬品の品質保証期間内安定であることが求められる。通常、その期間は3年間であり、溶出速度のバラツキの限度は薬理効果の発現に同等性が認められる範囲内である。その目安としては、例えば、「徐放性製剤(経口投与剤)の設計及び評価に関するガイドライン」(日本公定書協会編、医薬品製造指針1992年版、p107−112(薬事時報社))に、最終製品の包装形態で、40℃、75%RH、6ケ月間の保存安定性試験を行い、その間、溶出率が20〜40%、40〜60%、70%以上の適当な時間において、それぞれ±15%以内、±15%以内、±10%以内であることが示されている。本発明は、従来技術では難しかった低温の処理、あるいは短時間の処理でこれを達成することができる。
【0025】
本発明において、フィルムコーティング粒剤は、エチルセルロース水分散体フィルムのコーティングのバッチバラツキ低減、あるいは薬物とエチルセルロース水分散体フィルムの配合変化の防止などの目的で、素粒剤の外側に水溶性高分子(例、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、等)などをフィルムコーティングしても良いし、また、貯蔵時の固結防止、あるいは腸溶性を付与することなどを目的として、エチルセルロース水分散体フィルムの外側に、さらに他のフィルムコーティング剤をコーティングしても良い。
【0026】
このようにして得られたフィルムコーティング粒剤の粒度分布は、前記の素粒剤粒度分布にフィルムの厚みが増したものである。それは75〜1410μmの範囲内であることが好ましい。さらに好ましくは実質的に75〜500μmの範囲内である。この範囲内の粒度分布であると、服用が容易である、食品などに混合して服用することが可能である、第12改正日本薬局方製剤総則で規定の「散剤」あるいは「顆粒剤」との混合性が良いので調剤しやすい、他の賦形剤と混合して打錠してもフィルムの損傷が少ない、などの利点を有する。「実質的」という意味は、前述の利点を損なわない程度に75μm未満、あるいは500μmを越える粒子を含んでいても良いということであり、それは75μm未満の粒子が10重量%以下、500μmを越える粒子が5重量%以下(但し、最大で850μm程度)であることをいう。
【0027】
本発明において、フィルムコーティング粒剤は、そのまま投薬されるか、あるいはカプセルに充填して使用されるか、あるいは他の薬剤と混合して使用されるか、あるいは他の賦形剤や薬物や薬物を含む粒剤やフィルムコーティングを施した粒剤と混合後、打錠して錠剤とし、使用される。食品や経管流動食などに混合して投薬することも可能である。また、医薬品以外に、農薬や、肥料、あるいは工業用途として使用することも可能である。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
なお、測定法、調製法等は次の通りである。
▲1▼粒度分布[重量%]の測定方法
JIS標準篩を用いて素粒剤およびコーティング粒剤を各々50g正確に秤量し、ロータップ式篩分機で篩分したときの篩上重量の重量百分率で表した。
▲2▼粗比容積[cm3/g]
目開き4000μmの篩上に置いた薬包紙上に素粒剤20gを置き、薬包紙をゆっくり除いて50cm3メスシリンダー内に落下させる。そのときの体積を素粒剤重量20gで除して求めた。
▲3▼エチルセルロースを主成分とした球形固体粒子の球形度[−]
粒子形状を電子顕微鏡を用いて撮影し、その50個の粒子の短径と長径の比(短径/長径)の平均値をとった。
▲4▼エチルセルロースを主成分とした球形固体粒子の粒度分布[体積%]
試料の水分散体を適当な透過率を示す濃度に水で希釈し、1分間超音波分散した後、攪拌しながら、相対屈折率1.2、取り込み回数10回、の条件で、レーザー回折式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製、LA−910型)にて測定し、体積基準の粒子径分布を求めた。
▲5▼薬物の溶出率[%]の測定方法
薬物の溶出率は、日本分光工業(株)製、自動溶出試験機DT−600を用い、パドル法(100rpm)にて測定した。試験液は第12改正日本薬局方一般試験法崩壊試験法の試験液第2液を用いた。測定は2回行い、その平均値をとった。
▲6▼素粒剤の調製
イブプロフェン70重量部と結晶セルロース(アビセル<登録商標>PH−101、旭化成工業(株)製)30重量部を粉体混合後、プラネタリーミキサー(品川工業所製5−DM型、パドル:ビーター型)で攪拌しながら加水練合し、ダイス孔径が直径0.5mmの押し出し機(ドームグラン、DG−1L型、不二パウダル(株)製)で押し出し、次いで、球形化機(マルメライザー、Q−230型、不二パウダル(株)製)で15分間球形化したものを流動層乾燥機で乾燥し、目開き1410μmの篩で篩上に残る粗大粒子を除去し素粒剤を得た。素粒剤の短径と長径の比は0.86であり、粗比容積は2.20cm3/gであった。得られた素粒剤の粒度分布を表1に示す。
▲7▼HPMCコート粒剤の調製
転動流動型コーティング装置(マルチプレックス、MP−01型、(株)パウレック製)に上記素粒剤を仕込み、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学(株)製、TC−5E)5部、水95部からなる被覆液を噴霧し、素粒剤100重量部に対し、HPMCが5重量部コーティングされたHPMCコート粒剤を得た。粒度分布を表2に示す。
【0029】
【実施例1】
エチルセルロース水分散体(「Aquacoat」ECD−30、固形分濃度:30%、FMC社製造、旭化成工業(株)販売)32部、クエン酸トリエチル2.4部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業(株)製、TC−5E)10%水溶液30部、水35.6部の割合からなるコーティング液を調製し、HPMCコート粒剤700gに対し、前出の転動流動型コーティング装置を用いて、回転板回転数:450rpm、タンジェンシャルボトムスプレーを使用し、スプレーエアー圧:1.6kgf/cm2、スプレーエアー流量:40L/min、給気温度:55℃、排気温度:36℃、風量:105m3/hr、コーティング液供給速度:14g/minの条件でコーティングした。使用したエチルセルロース水分散体は、0.4μm以上の粒子はなく、平均で0.145μm(メジアン径)の大きさであり、かつ、球形度は1.0であった。コーティングはHPMCコート粒剤100重量部に対して、15重量部になるように行った。コーティング液供給停止後、そのまま放置し、排気温度が40℃まで上がったらヒーターを切って室温まで冷却し、コーティング粒剤を取り出した。ヒーターを切ってから取り出しまで約30分かかった。得られたコーティング粒剤の粒度分布を表3に示す。コーティングフィルムの厚みは36μm(篩下積算分布50%粒径から算出)であった。
【0030】
次いで、ZnCl2飽和水溶液を入れたデシケーター中に、得られたコーティング粒剤約500gを入れ、熱風乾燥機にて、50℃、2時間加熱した。この時のデシケーター中の温度は50℃、相対湿度は10.0%RHであった。コーティング粒剤の固結は全く見られなかった。これをガラス製気密容器に入れ40℃、75%RHの条件下に放置し保存安定性試験を行った。結果を表4に示す。
【0031】
8週間放置した後の溶出速度は、保存の前の溶出速度に比較してほとんど変化は見られなかった。また、8週間保存後のガラス製気密容器中の粒剤はほとんど固結していなかった。
【0032】
参考例
実施例1で調製したコーティング粒剤を、恒温恒湿機(タバイエスペックコーポレーション製)にて、50℃、57.0%RHで2時間加湿・加熱処理した。粒剤は振盪すればほぐれる程度に軽く固結した。これをガラス製気密容器に入れ40℃、75%RHの条件下に放置し保存安定性試験を行った。結果を表5に示す。
【0033】
8週間放置した後の溶出速度は、保存の前の溶出速度に比較してほとんど変化は見られなかった。また、8週間保存後のガラス製気密容器中の粒剤は固結していたが、スパチュラで軽くほぐすことができる程度だった。
【0034】
【比較例1】
実施例1で調製したコーティング粒剤を50℃、8.0%RHで2時間加熱処理した。これをガラス製気密容器に入れ40℃、75%RH、及び、50℃、8%RHの条件下に放置し保存安定性試験を行った。結果を表6、表7に示す。
この場合、8週間保存した後の溶出速度は、保存前の溶出速度に比較して両方の条件ともに、大幅に遅延した。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
【0039】
【表5】
【0040】
【表6】
【0041】
【表7】
【0042】
【発明の効果】
本発明により、長期間の貯蔵においてフィルムの徐放性などの機能が変化しない安定なフィルムコーティング粒剤を、低湿度で、低温度、かつ、短時間の処理で、処理中に粒剤の固結を引き起こすことなく製造することができる。
Claims (2)
- 薬物を含有する素粒剤を、転動流動型コーティング装置を用いて転動流動させるとともに、実質的に直径1μm以下のエチルセルロースを主成分とする球形固体粒子と可塑剤からなる水分散体を噴霧してコーティングを行い、次いで9.5%以上、30.0%以下の相対湿度雰囲気下、かつ、40℃以上、80℃以下の温度で熱処理を行うことを特徴とするフィルムコーティング粒剤の製造方法。
- エチルセルロースを主成分とする球形固体粒子と可塑剤からなる水分散体を、転動流動型コーティング装置の転動作用の接線方向に噴霧することを特徴とする請求項1記載のフィルムコーティング粒剤の製造方法。
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