JP3938240B2 - 鋼線及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ゴム物品の補強材等に用いられる、延性に優れた高強度鋼線およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、スチールラジアルタイヤ、高圧ホース等のゴム物品の補強に用いられる鋼線は、0.70から0.90質量%程度の炭素を含む高炭素鋼鋼材を所定の中間線径まで伸線して熱処理と黄銅めっき処理とを施して高炭素鋼線材とし、さらに、この高炭素鋼線材を最終線径まで伸線することにより製造されている。この製造方法における熱処理としては、鋼線材を加熱してオーステナイト化した後に冷却して微細パーライト組織とする、いわゆるパテンティング処理が一般に行われている。また、最終線径までの伸線は、液体潤滑剤を用いた湿式伸線法が広く行われている。この鋼線をゴム物品の補強に用いる場合には、単線、あるいは撚合わせてスチールコードを形成したものを未加硫ゴム中に埋設し、これを加熱して、ゴムの加硫および鋼線とゴムとの接着が行われる。
【0003】
近年、省エネ、省資源に対する要請の高まりを背景として、より高強度な鋼線の発現が望まれている。上記のような製造方法により高強度な鋼線を製造するためには、鋼線材に施す伸線加工量を増加する必要がある。ところが、伸線加工量を増加すると鋼線の延性が低下し、製造中の断線あるいは使用時の耐久性の低下等の問題が生じ易くなる。そこで、より少ない伸線加工量で高強度を得るべく、鋼線材の成分に関し、炭素含有量増加やクロム等の合金元素の添加が提案されている。
【0004】
例えば、特開平4−311523号公報には、炭素含有量が0.80〜1.10重量%であり、0.1〜0.3重量%のクロムを含有する高炭素鋼線材が開示されている。また、特開平5−295436号公報には、炭素含有量が0.9〜1.10重量%の鋼線材、あるいはこれにさらに0.10〜0.50重量%のクロムを添加した鋼線材が開示されている。ところが、上記のような鋼線材を用いればより少ない伸線加工量で高強度を得ることができるが、延性は必ずしも改善されるとは限らず、高強度と高延性とを両立するためには熱処理と伸線加工を適正な条件で行うことが必要である。
【0005】
炭素含有量が多い、いわゆる過共析鋼の熱処理にあたっては、初析セメンタイトの生成を抑制することが肝要とされており、例えば、特開平2−294426号公報には、加熱してオーステナイト化した後に冷却してパーライト変態を起こさせる過程において、加熱後から共析温度通過までの時間を0.8秒以下に設定することにより、初析セメンタイトの発生を抑制する熱処理方法が開示されている。また、特開平8−283867号公報には、オーステナイト化後の冷却過程においてパーライト変態開始前に加工を加え、炭素含有量に応じた特定範囲で変態させることにより、初析セメンタイトの無い鋼線材を得る熱処理方法が開示されている。しかしながら、これらの熱処理方法においてはパーライト変態開始時の核発生頻度の著しい上昇を伴うため、得られる鋼線材のパーライトノジュールサイズが必要以上に小さくなってしまう。このため、熱処理したままの鋼線材の延性は良好になるものの、伸線加工による強度上昇率が小さくなるために所要の強度を得るための伸線加工量はさほど減少せず、伸線加工によって得られた鋼線の延性もさほど改善されないという問題点がある。
【0006】
また、特開平6−332040号公報には、0.90〜1.10重量%の炭素を含有する鋼線、あるいは更に0.10〜0.30重量%のクロムを含有する鋼線をオーステナイト化し、変態開始前に一旦350〜500℃に保定した後に600℃以下の温度まで10℃以上昇温して保定し、ベイナイト組織が面積率で80%以上の鋼線とする技術が開示されている。しかしながら、この方法によって得られる鋼線も伸線加工による強度上昇率が小さいため、上述の初析セメンタイト抑制に関する技術と同様の問題点がある。
【0007】
一方、高強度鋼線を製造するための伸線加工においては、加工される鋼線材の変形抵抗が高いために加工に伴う発熱が大きくなり、時効硬化による鋼線の劣化や、ダイス摩耗の促進等の問題が発生し易い。そこで、伸線加工中の発熱を抑制を図り、例えば、次のような技術が提案されている。
【0008】
特開平8−24938号公報には、最終ダイスの摩擦係数を規制しつつ減面率を2〜11%としたスキンパス伸線を施すことにより最終ダイスにおける発熱を抑制する伸線方法が開示されている。また、特開平8−218282号公報には、(1)ダイスのベアリング長さを短めにして引き抜き抵抗を下げ、(2)最終引き抜きにはダブルダイスを用いてスキンパス伸線とし、(3)最終ダイスを含む伸線下流の数枚のダイスとして燒結ダイヤモンドニブのものを用いて引き抜き力を低減し、さらに(4)潤滑液温度を低く保持する伸線技術が開示されている。しかしながら、これらの伸線方法によれば、伸線直後の鋼線の延性は良好となるものの、撚線等の加工を加えたとき、あるいはゴム中に埋設後の加硫により時効硬化が進行したときに延性が大きく低下するという問題点がある。これは、スキンパス等によりダイスの減面率を低くして伸線すると、鋼線の表層部に加工歪みが集中するため、表層部の延性が大きく低下するためと推察される。
【0009】
そこで、伸線加工によって導入される加工歪みの分布の均一化を図り、加工歪みが最大となる表層部の延性低下を抑制する技術が提案されている。例えば、特開平7−305285号公報には、最終ダイスでの伸線加工歪みε(ε=2・ln(d0/d1)、d0=伸線加工前の鋼線材の直径(mm)、d1=ダイス通過後の鋼線の直径(mm),ln=自然対数)が4.0以上となる伸線加工を行うにあたり、(1)εが0.75未満の伸線加工で用いるダイスの減面率を(22.67ε+3)%から29%の範囲に、(2)εが0.75以上2.25以下の伸線加工で用いるダイスの減面率を20%から29%の範囲に、(3)εが2.25をこえる伸線加工で用いるダイスの減面率を(−6.22ε+43)%から(−5.56ε+32.5)%の範囲に調整して伸線することを特徴とする鋼線の製造方法が開示されている。しかしながら、このような製造方法によれば、表層部の実質的な加工歪みは抑制されるが、伸線加工中の発熱による時効硬化の抑制効果は不十分であり、伸線速度を増加すると、伸線加工時あるいは撚線加工時に断線が生じ易くなり、経済的な生産が困難であるという問題点がある。また、最終ダイスでの伸線加工歪みεが4.0以上となる伸線加工についての条件を与えるものであり、炭素含有量の増加、あるいはクロム等の添加により所要の伸線加工歪みεを4.0未満にまで減少させて伸線する場合の最適条件を与えるものではない。
【0010】
また、従来、鋼線の延性の試験方法として、鋼線が破断するまでに加えることのできる一方向の捻り量である破断捻回値の大小で評価する方法、あるいは、破断捻回値の大小と破断面の形態とを考慮して延性の優劣を判断する方法等が採用されていた。また、特開平8−218282号公報に開示されている発明においては、一方向に所定回数捻った後、逆方向に捻り返して鋼線が破断するまでの捻回−トルク曲線により延性の優劣を判定する方法が採用されている。しかしながら、上記のような従来の試験において良好な特性を示す鋼線は、試験に供した時点での延性は良好であるものの、鋼線に撚線等の加工を加えた後、あるいはさらに加熱により時効硬化した後の延性が良好であるとは限らず、これらを補強材として使用したゴム物品の耐久性の向上が保証されるものではないという問題がある。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点をふまえ、伸線加工時においても断線し難い優れた延性を持ち、かつ撚線等の加工を加えても、あるいはさらに加熱により時効硬化しても延性の低下が少ない高強度鋼線と、その製造方法とを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、種々実験、検討の結果、前記課題を解決するためには、(1)鋼線の表層部の実質的な歪みを、特定の繰り返し捻り試験値に基づき評価、規定すること、および(2)これを製造するためには、単に過共析鋼線材を用いるのみならず、熱処理条件、伸線条件あるいはその両者を適正化することにより、伸線加工によって導入される加工歪みの分布の均一化を図ることが重要であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の鋼線の製造方法は、0.85から1.10質量%の炭素を含有する高炭素鋼線材に熱処理と伸線加工を施して得られる直径が0.10から0.40mmの鋼線であり、引張強さTS(N/mm2)が次式、
TS≧2500−1450logD(1)
(式中、Dは鋼線の直径(mm)、logは常用対数を示す)で表される関係を満足し、かつ、軸線が直線となるように保持した鋼線に、鋼線の直径の100倍の長さ当たり3回に相当する捻りを加えてから元の状態に捻り戻すことを繰り返したときに、鋼線にクラックが発生するまで加えた捻り及び捻り戻しの総量である繰り返し捻り試験値RT(回/100D)が、次式、
logRT≧2.0−0.001{TS−(2500−1450logD)}(2)
で表わされる関係を満足する鋼線の製造方法であって、
前記鋼線の製造方法の工程が、所定の中間線径の鋼線材に熱処理を施してパーライト組織とする熱処理工程と、該熱処理を施した鋼線材を最終線径まで伸線加工する湿式連続伸線工程とを含み、
前記熱処理工程が、0.85から1.10質量%の炭素を含有する高炭素鋼源線材を加熱してオーステナイト相とする加熱段階と、オーステナイト相とした線材を冷却して過冷オーステナイトとする冷却段階と、パーライト変態が進行する温度に保持する保持段階とを含み、加熱段階における到達線温度を800℃以上、1000℃未満とし、冷却段階以降パーライト変態開始前に、線材の表層部温度がその内部温度よりも低くなる時期を設け、線材内部の平均パーライトノジュールサイズが2.5〜3.5μmであり、表層部の平均パーライトノジュールサイズがその内部の平均パーライトノジュールサイズよりも0.3μm以上小さい組織とし、
前記湿式連続伸線工程における各ダイスでの伸線加工歪みεを次式、
ε=2×ln(D0/d)(4)
(式中、D0は伸線加工前の綱線材の直径(mm)、dはダイス通過後の鋼線の直径(mm),lnは自然対数を示す)で表わし、各ダイスでの伸線加工歪みεと最終ダイスでの伸線加工歪みεnとの伸線加工歪みの差Δεを次式、
Δε=εn−ε(5)
で表したときに、
1)最終ダイスにおける伸線加工歪みεnを3.0から4.0に、
2)最終ダイスの減面率を4.0%から8.0%に、
3)Δε≦1.0のダイスの減面率を(10.0×Δε+8.0)%から(12.0×Δε+13.0)%に、
4)ε≦0.75のダイスの減面率を(20.0×ε+3.0)%から25%に、
5)残りのダイスの減面率を18%から25%に、
して湿式連続伸線を行うことを特徴とする。
【0014】
本発明の鋼線の製造方法においては、好ましくは0.10から0.50質量%のクロムを含有する鋼線材を用いる。また、引張強さTSについては、TS≧2750−1450logDで表される関係を満足することが好ましい。
【0016】
ここで、パーライトノジュールとは、パーライト組織を構成するセメンタイトラメラの方向がほぼ一定となっている領域を指し、平均パーライトノジュールサイズとは、断面に現われたパーライトノジュールの平均円相当直径を指す。また、表層部とは、鋼線材の表面からの深さが約100μm未満の部分を指し、内部とは、鋼線材の表面からの深さが約100μm以上の部分を指す。
【0018】
【発明の実施の形態】
先ず、本発明において採用する上記繰り返し捻り試験を具体的に説明する。この試験は、軸線が直線となるように保持した鋼線に、鋼線の直径の100倍の長さ当たり3回に相当する量の捻りを繰り返し与え、鋼線にクラックを発生させる試験である。試験中の鋼線の軸線を直線に保持するためには、鋼線の軸線方向に軽く張力を掛けておく。この鋼線をまず所定回数N0回捻り、この時点から逆方向に同量だけ捻り戻すことによりもとの状態に戻す。これを1サイクルとして繰り返し、鋼線にクラックを発生させる。ここで、所定回数N0とは鋼線の直径の100倍の長さ当たり3回に相当する捻り回数であり、捻りに供される鋼線の長さをL(mm)、鋼線の直径をD(mm)とすれば、式N0=3×(L/100D)で表される値である。
【0019】
また、繰り返し捻り試験値RTとは、上記の試験において鋼線にクラックが発生するまでに加えられた捻りおよび捻り戻しの総量を、長さ100D当たりの捻り回数で表わした値であり、次のようにして求める。すなわち、N0回の捻りと捻り戻しサイクルをn回繰り返した次のサイクルでNf1回(Nf1≦N0)捻った時点でクラックが発生したとすれば、繰り返し捻り試験値RT(回/100D)は、次式、
RT=(2nN0+Nf1)/(L/100D) (6a)
で表わされる。また、N0回の捻りと捻り戻しサイクルをn回繰り返した次のサイクルで、N0回捻り、ここからNf2回(Nf2≦N0)だけ捻り戻した時点でクラックが発生したとすれば、繰り返し捻り試験値RT(回/100D)は、次式、
RT={(2n+1)N0+Nf2}/(L/100D) (6b)
で表わされる。
【0020】
上記繰り返し捻り試験の好適な条件は下記の通りである。
(1)捻りに供される鋼線の長さは、約50mmとする。
(2)鋼線の軸方向に掛ける張力は、鋼線の直径が0.25mm以下のときは約1.0kgに、0.25mmを超えるときは約1.5kgとする。
(3)鋼線の捻り速度は、約30回/分とする。
(4)クラック発生の検出は、クラック発生に伴うアコースティックエミッション(AE波)を検出することにより行う。AE波は、固体が変形または破壊する際の歪みエネルギーの開放によって発生する弾性波である。これをAEセンサーを用いて電気信号としてとらえることにより、試験片が破断する以前の微小なクラック発生をも正確に検出することができ、精度よく評価することができる。
【0021】
本発明において、鋼線の延性の指標として前述した繰り返し捻り試験値を採用したのは、繰り返し捻り試験値の高い鋼線は、試験に供した時点での延性が高いのみならず、これに撚線等の加工を加えても、あるいは加熱により時効硬化させても延性の低下が小さいことを新規に知見したためである。
【0022】
一般に、鋼線の引張強さが高いほど、あるいは鋼線の直径が大きいほど延性の確保が困難となる。このため、従来の鋼線は、TS≧2500−1450logD、およびlogRT≧2.0−0.001{TS−(2500−1450logD)}を同時に満足するものではなかったが、本発明の鋼線はこれら両者を満足し、実際にゴム物品の補強材等として使用されるときも、高い強度と優れた延性を併せ持つものである。
【0023】
鋼線の強度については、引張強さTS(N/mm2)がTS≧2500−1450logDを満足すればゴム物品の補強材として好適に使用することができるが、TS≧2750−1450logDを満足するようにすれば、ゴム物品の軽量化に対して顕著な効果をもたらす。
【0024】
上記のような繰り返し捻り試験値が高い鋼線とするためには、鋼線の表層部の延性が、伸線加工に伴う延性低下の少ない鋼線内部の延性に近いことが望ましい。この鋼線の表層部と内部の延性の比較は、鋼線の体積の約10%に当たる表層部を除去した鋼線の繰り返し捻り試験値と、表層部を除去しない鋼線の繰り返し捻り試験値とを比較することにより行うことができ、表層部を除去しない鋼線の繰り返し捻り試験値が、表層部を除去した鋼線の繰り返し捻り試験値の80%以上であることが好ましい。
【0025】
なお、本発明の鋼線をゴム物品の補強材として使用するときには、表面にゴム接着性の皮膜を設けることができる。ゴム接着性の皮膜を設ける手段としては、熱処理を施した鋼線材の表面に黄銅めっき層を形成してから伸線加工する等の、従来の手段を適用することができる。
【0026】
次に、本発明の鋼線の製造方法について説明する。本発明の鋼線の製造方法は、所定の中間線径の鋼線材に熱処理を施してパーライト組織とする熱処理工程と、該熱処理を施した鋼線材を最終線径まで伸線加工する湿式連続伸線工程とを含む鋼線の製造方法において、次のような熱処理を施すことを特徴とする。
【0027】
すなわち、本発明の鋼線の製造方法における熱処理工程では、0.85から1.10質量%の炭素を含有する高炭素鋼線材を使用し、これを加熱してオーステナイト相とする加熱段階と、オーステナイト相とした線材を冷却して過冷オーステナイトとする冷却段階と、パーライト変態が進行する温度に保持する保持段階とを含み、加熱段階における到達線温度を800℃以上、1000℃未満とし、冷却段階以降パーライト変態開始前に、線材の表層部温度がその内部温度よりも低くなる時期を設け、鋼線内部の平均パーライトノジュールサイズが2.5〜3.5μmであり、表層部の平均パーライトノジュールサイズがその内部の平均パーライトノジュールサイズよりも0.3μm以上小さい組織とする。
【0028】
ここで、0.85から1.10質量%の炭素を含有する高炭素鋼線材を用いるのは、炭素含有量を0.85質量%以上とすることにより、熱処理後の鋼線材の引張強さを高め、所要の引張強さの鋼線を得るために必要な伸線加工量を低減することができ、伸線加工によって導入される加工歪みを低減することができるためである。一方、炭素含有量が1.10%を超えると、伸線加工性が悪化し、経済的な製造が困難になるためである。好ましくは、0.88から0.95質量%の炭素を含有する高炭素鋼線材を用い、熱処理後の引張強さが135から150kg/mm2となるようにする。また、同様の理由から、0.10から0.50質量%のクロムを含有する高炭素鋼線材を用いることが有利である。
【0029】
本発明の鋼線材の製造方法における熱処理の主たる特徴は、冷却段階以降パーライト変態開始前に、線材の表層部温度が内部温度よりも低くなる時期を設けることであり、好ましくは、表層部温度と内部温度との差が5℃以上、さらに好ましくは、10℃以上となる時期を設ける。すなわち、表層部のオーステナイトの過冷度を内部のオーステナイトの過冷度よりも大きくすることにより、続くパーライト変態での表層部におけるパーライト核発生の頻度を内部よりも多くし、表層部の平均パーライトノジュールサイズを内部よりも小さくする。
【0030】
このような温度履歴を与えるためには、加熱によりオーステナイト相とした線材を過冷オーステナイトとする段階において、線材表面から熱を奪う速度を、線材内部から表層部に熱が移動する速度よりも大きくすることが必要である。一方、パーライト変態が進行する温度に保持する保持段階においては、パーライト変態に伴って発生する潜熱を奪いつつも線温度が過剰に低下しないように保持し、ベイナイトの発生を抑制しつつ鋼線材の強度を確保することが好ましい。
【0031】
そこで、冷却段階に用いる冷却手段と保持段階に用いる保持手段とを夫々設け、これらの冷却能力を個別に制御できるようにすることがこの発明の実施において有利である。冷却手段および保持手段としては、溶融鉛浴、流動層浴、強制空冷および水冷却等を用いることができる。また、冷却手段と保持手段とが同じ手段である必要はなく、異なる手段を組み合わせてもよい。
【0032】
なお、冷却手段および保持手段として流動層を用いる場合は、表層部の平均パーラートノジュールサイズをその内部のそれよりも0.3μm以上小さい組織とするためには、冷却用流動層の温度を保持用流動層の温度よりも30℃以上低くし、冷却段階において線材表面から速やかに熱を奪うようにすることが好ましい。さらに好ましくは、冷却用流動層の温度を保持用流動層の温度よりも50℃以上低くする。
【0033】
また、加熱してオーステナイト相とする段階においては、オーステナイト化を完全にするために、到達線温度を800℃以上にする。そして、平均パーライトノジュールサイズを2.5〜3.5μmとするためには、到達線温度を800℃以上1000℃以下、好ましくは950℃以下とし、オーステナイト粒の大きさが過大にならないようにする。
【0034】
さらに、線材の黒化処理、高周波誘導炉加熱等により、オーステナイト化のための加熱の昇温速度を速くして短時間でオーステナイト化を行えば、この発明をさらに有利に実施することができる。すなわち、このようにすることにより、オーステナイト粒の大きさをより小さくすることができるため、鋼線内部の平均パーライトノジュールサイズを2.5〜3.5μmとすることがより容易となる。
【0035】
本発明において、鋼線材の内部の平均パーライトノジュールサイズが2.5〜3.5μmとなるようにするのは、続く湿式連続伸線工程における、伸線加工性と加工硬化性とを両立させるためである。すなわち、鋼線材内部の平均パーライトノジュールサイズが2.5μm未満であると伸線加工による強度の増加率が低下し、所要の強度の鋼線を得るには伸線加工量を増加しなければならなくなる。一方、鋼線材内部の平均パーライトノジュールサイズが3.5μmを超えると延性が低下し、続く湿式連続伸線工程において、内部クラック等が発生しやすくなる。
【0036】
また、表層部の平均パーライトノジュールサイズをその内部のそれよりも0.3μm以上小さい組織とするのは、鋼線材の表層部の平均パーライトノジュールサイズが小さいほど伸線加工後の鋼線の表層部のフェライト実質歪みが小さくなるという関係が有り、表層部の平均パーライトノジュールサイズをその内部のそれよりも0.3μm以上小さい組織とすることにより、鋼線の繰り返し捻り試験値の改善に対して顕著な効果が得られることを見出したためである。
【0037】
従って、鋼線材内部の平均パーライトノジュールサイズを2.5から3.5μmとし、かつ表層部の平均パーライトノジュールサイズを内部のそれよりも0.3μm以上小さくすることで、伸線加工性と加工硬化特性に優れ、かつ伸線加工による表層部の歪み増加が少ない鋼線材を得ることができる。
【0038】
上記熱処理に続く湿式連続伸線工程において、鋼線材表層部への伸線加工歪みの集中がなるべく生じない条件で伸線することが望ましい。一般に、ダイスアプローチ角度が小さいほど、あるいはダイスの減面率が大きいほど加工歪みの分布は均一となり、鋼線表層部への加工歪みの集中は緩和される。そこで、表層部への加工歪み集中緩和に関しては、引抜力が加工される鋼線材の破断強度を超えない範囲内で、各ダイスのアプローチ角度をなるべく小さく、減面率はなるべく大きく設定することが望ましい。しかしながら、実際の操業においては、ダイス加工精度、潤滑性等の観点から、アプローチ角度が狭小な、例えば5度未満のダイスを鋼線材の伸線に用いることは現実的でない。そこで、減面率を極力大きく設定することが望ましいのであるが、各ダイスの減面率を一律に高く設定すると、良好な潤滑が困難となってかえって表層部の歪みが増加したり、断線が増加したりして、生産性良く経済的に製造することが困難となる。そこで、伸線加工歪み分布の均一性に加え、湿式連続伸線における鋼線通過速度、鋼線の変形抵抗、鋼線の表面状態等の推移をも考慮して設定することが好ましい。
【0039】
具体的には、鋼線材の伸線に一般に使用されている形状のダイス、例えばアプローチ角が8°から12°、ベアリング長さが0.3dから0.6d程度のものを使用する場合、次のような条件で湿式連続伸線を実施することが好ましい。すなわち、湿式連続伸線工程における各ダイスでの伸線加工歪みεをε=2×ln(D0/d)(式中、D0は伸線加工前の鋼線材の直径(mm)、dはダイス通過後の鋼線の直径(mm)、lnは自然対数を示す)で表わし、各ダイスでの伸線加工歪みεと最終ダイスでの伸線加工歪みεnとの伸線加工歪みの差△εを△ε=εn−εで表したときに、
1)最終ダイスにおける伸線加工歪みεnを3.0から4.0に、
2)最終ダイスの減面率を4.0%から8.0%に、
3)△ε≦1.0のダイスの減面率を(10.0×△ε+8.0)%から(12.0×△ε+13.0)%に、
4)ε≦0.75のダイスの減面率を(20.0×ε+3.0)%から25%に、
5)残りのダイスの減面率を18%から25%に、
して湿式連続伸線を行う。
【0040】
上記によって規定されるダイス減面率の好ましい範囲を、図1に斜線領域にて示す。
最終ダイスの減面率を他のダイスの減面率よりも低く4%から8%の範囲に設定するのは、次の理由による。通常の湿式連続伸線装置においては、最終ダイス以外のダイスでの伸線は潤滑液中で行われるのに対し、最終ダイスを通過した鋼線は潤滑液に浸漬されない。このため、最終ダイスの減面率を8%よりも高く設定すると、最終ダイス通過後の鋼線の温度が高くなって時効による延性低下が大きくなり、伸線速度の増加によってさらにそれが助長される。また、潤滑性が損なわれ、ダイス寿命の低下や、鋼線表面の損傷等の問題も生じやすい。そこで、最終ダイスの減面率の上限を8%とする。一方、最終ダイスの減面率が4%未満の、いわゆるスキンパス伸線を施すと、伸線加工歪みが鋼線表層部に集中し、繰り返し捻り試験値の低下をもたらすため、最終ダイスの減面率の下限値を4%とした。
【0041】
また、△ε=εn−ε(式中、εnは最終ダイスにおけるε値)が1.0以下の伸線加工で用いるダイスの減面率を、図1に示すように、最終ダイスに向かって上限と下限とが漸減する範囲とし、(10.0×△ε+8.0)%から(12.0×△ε+13.0)%に設定するのは、伸線加工歪み分布を過度に不均一にしない範囲で、伸線中の温度上昇による鋼線の延性劣化や潤滑性の劣化を抑制するためである。すなわち、△εが0.1以下になると鋼線の変形抵抗が急に増加するようになるとともに鋼線の通過速度も増加する。このため、△εが0.1以下のダイスの減面率を(12.0×△ε+13.0)%を超えて設定すると、伸線加工に伴う発熱が大きくなり、伸線中および撚線工程における断線やダイス寿命の低下等が生じやすくなる。一方、△εが0.1以下のダイスの減面率を(10.0×△ε+8.0)%未満に設定すると、表層部への加工歪みの集中が大きくなり、鋼線の繰り返し捻り試験値の低下をもたらす。
【0042】
なお、εと鋼線材の変形抵抗との関係は、鋼線材の炭素含有量、Cr含有量等によって異なるが、上述のようにダイスの減面率を△εとの関係において設定することにより、鋼線材の成分に拘らず、最終ダイス近傍における時効硬化による延性劣化を伸線加工歪み分布を過度に不均一にせず、抑制することができる。
【0043】
その上流の、△εが0.1を超えるダイスにおいては、鋼線材の変形抵抗と通過速度がともにさほど高くないため、伸線加工歪み分布をなるべく均一にすべく、ダイス減面率を18%以上とすることが好ましいが、25%を超えると引抜力過大による断線が生じやすくなる。また、εが0.75以下のダイスにおいては、鋼線材の表面の潤滑性が悪く、ダイス減面率を高くすると断線が生じやすい場合がある。特に、表面に黄銅めっき等を施した鋼線材は、伸線初期のダイスの減面率を大きく設定するとめっきの剥離等が生じやすく、鋼線材表層部の損傷等により、製造される鋼線の表層部の歪みがかえって大きくなってしまうことがある。このような場合は、第1パス目のダイスの減面率を低く設定し、下流向かってダイスの減面率を漸増することが好ましいが、伸線加工歪み分布を過度に不均一にしないように、εが0.75以下のダイスの減面率の下限を(20.0×ε+3.0)%とする。
【0044】
特に好ましくは、上述のダイス減面率の範囲内において、εが0.75近傍のダイスの減面率をなるべく高く設定し、その下流のダイスの減面率の略推移がεの増加に従って減少するように設定する。特に、引張強さTS(N/mm2)がTS≧2750−1450logDを満足するような高強度鋼線の製造に対して効果的である。
【0045】
なお、本発明の鋼線の製造方法においては、0.85から1.10質量%の炭素を含有する高炭素鋼線材を用いるため、εn、すなわち総伸線加工歪み量を高々3.0以上とすることで、引張強さが高く、ゴム物品補強材として好適な鋼線を製造することができる。また、εnが4.0未満でも引張強度が4000N/mm2を超えるような超高強力鋼線が製造できるため、εnが4.0を超えるような過度な伸線を敢えて施すこと無く、高い強度と延性を両立する鋼線を容易に製造することができる。
【0046】
また、伸線加工を施した後に、張力を加えながら繰り返し曲げ加工を施すことも好ましい。これにより表層部の加工歪みがさらに低減するために延性が改善され、同時に表面引張り残留応力も低減することができ、優れた耐久性を持つ鋼線とすることができる。なお、ダイス減面率を上述の条件に設定して伸線した鋼線は、厳しい曲げ加工を施すときでも断線し難く、繰り返し曲げ加工を容易に実施することができる。
【0047】
【実施例】
実施例1〜3、比較例1,2
約4000N/mm2の引張強さを有する直径0.19mmの鋼線に関する実施例および比較例について説明する。
約0.90質量%の炭素を含有しクロムを含有しない直径約5.5mmの高炭素鋼材(90C材)に乾式伸線を施し、直径約1.32mmの鋼線材を製造した。また、約0.90質量%の炭素と約0.20質量%のクロムを含有する直径約5.5mmの高炭素鋼材(90C−Cr材)に乾式伸線を施し、直径約1.25mmの鋼線材を製造した。さらに、比較のために、約0.82質量%の炭素を含有しクロムを含有しない直径約5.5mmの高炭素鋼材(82C材)に乾式伸線を施し、直径約1.46mmの鋼線材を製造した。これらの鋼線材に、図2の熱処理−めっき工程フローの説明図に示すような(I)〜(VIII)からなる設備を用い、下記表1に示す条件での熱処理と黄銅めっき処理とを施し、黄銅めっき鋼線材を製造した。なお、黒化処理は、鋼線材を炭素懸濁液中に通過させた後に乾燥することで実施した。
【0048】
【表1】
【0049】
上記表1において、鋼線材(I)および(II)では、鋼線材表面から熱を奪う速度を線材内部から表層部に熱が移動する速度よりも大きくすべく、冷却用流動層の温度を保持用流動層の温度よりも50℃以上低く設定し、表層部の平均パーライトノジュールサイズを内部のそれよりも0.3μm以上小さくした。これら適合例の熱処理の冷却段階以降パーライト変態開始前における、鋼線材の表層部と内部の温度差の最大値は、約10℃と見積もられる。
【0050】
鋼線材(III)は、冷却用流動層の設定温度と保持用流動層の設定温度との差が小さく、表層部の平均パーライトノジュールサイズと内部のそれとの差が0.3μm未満である従来の熱処理を施した例である。また、鋼線材(IV)は、表層部の平均パーライトノジュールサイズを内部のそれよりも0.3μm以上小さくしているが、炭素含有量の少ない82C材を用いた例である。
【0051】
上記表1に示す引張強さは、JIS G3510の引張試験に基づき測定した。また、平均パーライトノジュールサイズは次の(1)〜(4)に従い測定した。
(1)黄銅めっき鋼線材を樹脂に埋め込み横断面を鏡面研磨した後に、1%硝酸アルコール溶液にてエッチングした。
(2)エッチングした横断面をSEMにて5000倍に拡大し、写真撮影した。写真撮影の総視野面積は、表層部および内部の各々の部分について1000μm2以上とした。
(3)撮影した総視野中のパーライトノジュールの個数を求め、パーライトノジュール1個当たりの平均面積を求めた。
(4)上記平均面積と同面積となる円の直径を求め、平均パーライトノジュールサイズとした。
【0052】
次に、これらの黄銅めっき鋼線材(I)〜(IV)を、下記表2に示す条件にて伸線し、直径0.19mmの鋼線を製造した。伸線にあたり、アプローチ角が約12°でベアリング長さが約0.5dの超硬合金ダイスと、スリップ式の湿式連続伸線機を用いた。また、湿式連続伸線機の最終ダイスと巻取りとの間に図3の(イ)に示すような曲げ加工装置を設置し、ローラー径12mm、ローラー個数20個、カミ量約3mm(図3(ロ))、張力約2kgの条件にて鋼線に繰り返し曲げ加工を施した。
【0053】
【表2】
【0054】
表2において、パススケジュールAおよびBは、ダイス減面率を、本発明の鋼線の製造方法における好適な範囲に設定した例である。パススケジュールCは、各ダイス減面率を本発明の鋼線の範囲において低く設定した例である。また、比較例2におけるパススケジュールDは、εが4.0を超える伸線加工を施すにあたり、特開平7−305285号公報に開示されたダイス減面率の条件に適合するパススケジュールを採用した。これらの4種類のパススケジュールの詳細を下記表3から表6に、またεとダイス減面率との関係を図4から図7に夫々示す。
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
各々の条件にて製造した鋼線の引張強さTSおよび繰り返し捻り試験値RTを測定した。測定条件は下記の通りである。
引張強さTSは、JIS G3510の引張り試験に準拠して測定した。
【0060】
繰り返し捻り試験値RTは、図10に示す装置を用いて行った。図10において、6は試験に供する鋼線1の一端を把持する回転側チャックであり、装置ベース12上に固定された駆動機構8により、把持した鋼線1の軸周りに回転される。7は固定側チャックであり、鋼線1の他端を回転しないように把持する。固定側チャック7は、鋼線1の軸線方向に移動できるように装置ベース12上に支持されている。固定側チャック7の鋼線1とは反対側には、プーリー10を介して重り11をぶら下げたワイヤ9が接続されており、鋼線1に張力を掛けるようになっている。
【0061】
繰り返し捻り試験値RTの測定にあたり、捻りに供される鋼線の長さが50mmとなるように、回転側チャック6と固定側チャック7との間の鋼線1の長さを調整し、鋼線1の端部を回転側チャック6および固定側チャック7で把持した。また、重り11は、重さが約1.0kgのものを用いた。鋼線の直径の100倍の長さ当たり3回に相当する回転数N0は、式N0=3×(L/100D)よりN0=7.89であり、駆動機構8により、回転側チャック6を時計方向へ7.89回転させてから反時計方向へ7.89回転させて元の位置に捻り戻すことを繰り返し、鋼線1に、鋼線の直径の100倍の長さ当たり3回に相当する量の捻りを繰り返し与えた。なお、回転側チャック6の回転速度は約30回/分とした。
【0062】
また、クラック発生の検出は、図10において鋼線1の直下に配置したAEセンサー4により行った。また、AEセンサー4の上にはグリース5を盛り付けて鋼線1がグリース5中を貫通するようにし、AE波を効率よく検出できるようにした。なお、AEセンサーは、利得が約40dBのプリアンプを内蔵する周波数帯域90〜300kHzのものを用い、50kHzのハイパスフィルタおよび1000kHzのローパスフィルタを通して利得60dBのメインアンプに接続し、メインアンプ出力を記録計に表示させた。試験中のノイズに起因するメインアンプの出力は、±数十μVであったのに対し、クラック発生時には±数百μVの出力が得られ、クラック発生の時点を明確に特定することができた。
【0063】
得られた結果を下記の表7および図11に示す。なお、繰り返し捻り試験値は、各々の鋼線について5回測定した。
【0064】
【表7】
【0065】
表7に示すように、各実施例および比較例の鋼線の引張強さはほぼ同等であり、狙いの引張強さを満足するものであった。また、図11に示すように、実施例1〜3の鋼線は本発明に規定する繰り返し捻り試験値を満たすが、比較例1,2の鋼線はこれを満たすものではなかった。また、クロムを含有する鋼線材を用いて本発明に適合する熱処理を施し、かつ好適なダイス減面率で湿式伸線した実施例2の鋼線は、特に高い繰り返し捻り試験値を示した。
【0066】
実施例4、比較例3
次に約3300N/mm2の引張強さを有する直径0.28mmの鋼線に関する実施例および比較例について説明する。
【0067】
約0.90質量%の炭素と約0.20質量%のクロムを含有する直径約5.5mmの高炭素鋼材(90C−Cr材)に乾式伸線を施し、直径約1.32mmの鋼線材を製造した。さらに、比較のために、約0.82質量%の炭素を含有しクロムを含有しない直径約5.5mmの高炭素鋼材(82C材)に乾式伸線を施し、直径約1.53mmの鋼線材を製造した。これらの鋼線材に、図2の熱処理−めっき工程フローの説明図に示すような設備を用い、下記表8に示す条件での熱処理と黄銅めっき処理とを施し、黄銅メッキ鋼線材を製造した。
【0068】
【表8】
【0069】
表8において、鋼線材(V)では、冷却用流動層の温度を保持用流動層の温度より50℃以上低く設定し、表層部の平均パーライトノジュールサイズを内部のそれよりも0.3μm以上小さくした。また、鋼線材(VI)は、82C材を用い、表層部の平均パーライトノジュールサイズと内部のそれとの差が0.3μm未満である従来の熱処理を施した例である。
【0070】
次に、これらの黄銅メッキ鋼線材を、下記表9に示す条件にて伸線し、直径0.28mmの鋼線を製造した。伸線にあたり、アプローチ角が約12°でベアリング長さが約0.5dの超硬合金ダイスと、スリップ式の湿式連続伸線機を用いた。また、湿式連続伸線機の最終ダイスと巻取り部との間に図3に示すような曲げ加工装置を接地し、ローラー径16mm、ローラー個数9個、カミ量約6mm、張力約2kgの条件にて鋼線に繰り返し曲げ加工を施した。
【0071】
【表9】
【0072】
表9において、パススケジュールEおよびFは、ダイス減面率を、本発明の鋼線の製造方法における好適な範囲に設定した例である。これらの4種類のパススケジュールの詳細を下記表10と表11に、またεとダイス減面率との関係を図8と図9に夫々示す。
【0073】
【表10】
【0074】
【表11】
【0075】
各々の条件にて製造した鋼線の引張強さTSおよび繰り返し捻り試験値RTを測定した。繰り返し捻り試験値RTは、N0=5.36、重り11の重さ約1.5kgとし、その他の条件は直径0.19mmの鋼線の実施例と同じにして測定した。その結果を下記表12および図11に示す。なお、繰り返し捻り試験値は、各々の鋼線について5回測定した。
【0076】
【表12】
【0077】
表12に示すように、実施例4および比較例3の鋼線の引張強さはほぼ同等であり、狙いの引張強さを満足するものであった。また、図11に示すように、実施例4の鋼線は本発明に規定する繰り返し捻り試験値を満たすが、比較例3の鋼線はこれを満たすものではなかった。
【0078】
次に、実施例2および比較例2の鋼線について、ゴム物品補強材としての耐久性を次のようにして評価した。
各々の鋼線を3+8構造のスチールコードに撚り上げ、図12に示すように、このスチールコード21をゴム22中に多数本を並列して埋設し、145℃で45分間の加硫処理を行い、耐久性試験片20を作製した。これらの試験片20に、図13に示すプーリー30を用いた装置を使用し、コード1本あたり5kgの張力を加えながら繰り返しまげを与え、破断に要する繰り返し曲げ回数を測定した。その結果、図14に示すように、実施例2の鋼線は、比較例2の鋼線に比べ優れた耐久性を示した。
【0079】
【発明の効果】
以上に説明してきたように、本発明の鋼線は、高い強度と優れた延性を併せ持つものであり、しかも撚線等の加工、加硫により加熱時効等を施しても延性の低下が少なく、ゴム物品の補強材として用いるときにも優れた耐久性を示すものである。このように優れた特性を有する鋼線は、本発明の製造方法により得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の鋼線材の製造方法における、ダイス減面率の好適な範囲を示す線図である。
【図2】熱処理−めっき工程のフローの説明図である。
【図3】繰り返し曲げ加工装置の説明図である。
【図4】パススケジュールAのダイス減面率を示す線図である。
【図5】パススケジュールBのダイス減面率を示す線図である。
【図6】パススケジュールCのダイス減面率を示す線図である。
【図7】パススケジュールDのダイス減面率を示す線図である。
【図8】パススケジュールEのダイス減面率を示す線図である。
【図9】パススケジュールFのダイス減面率を示す線図である。
【図10】繰り返し捻り試験に用いた装置の説明図である。
【図11】実施例および比較例の鋼線の繰り返し捻り試験値を示す線図である。
【図12】耐久性試験片の透視斜視図である。
【図13】耐久性試験に用いた装置の説明図である。
【図14】実施例2および比較例2の鋼線による耐久試験片の破断までの曲げ回数を示す線図である。
【符号の説明】
1 鋼線
2 ローラー
3 カミ量
4 AEセンサー
5 グリース
6 回転側チャック
7 固定側チャック
8 駆動機構
9 ワイヤ
10 プーリー
11 重り
12 装置ベース
20 耐久試験片
21 スチールコード
22 ゴム
30 プーリー
Claims (3)
- 0.85から1.10質量%の炭素を含有する高炭素鋼線材に熱処理と伸線加工を施して得られる直径が0.10から0.40mmの鋼線であり、引張強さTS(N/mm2)が次式、
TS≧2500−1450logD(1)
(式中、Dは鋼線の直径(mm)、logは常用対数を示す)で表される関係を満足し、かつ、軸線が直線となるように保持した鋼線に、鋼線の直径の100倍の長さ当たり3回に相当する捻りを加えてから元の状態に捻り戻すことを繰り返したときに、鋼線にクラックが発生するまで加えた捻り及び捻り戻しの総量である繰り返し捻り試験値RT(回/100D)が、次式、
logRT≧2.0−0.001{TS−(2500−1450logD)}(2)
で表わされる関係を満足する鋼線の製造方法であって、
前記鋼線の製造方法の工程が、所定の中間線径の鋼線材に熱処理を施してパーライト組織とする熱処理工程と、該熱処理を施した鋼線材を最終線径まで伸線加工する湿式連続伸線工程とを含み、
前記熱処理工程が、0.85から1.10質量%の炭素を含有する高炭素鋼源線材を加熱してオーステナイト相とする加熱段階と、オーステナイト相とした線材を冷却して過冷オーステナイトとする冷却段階と、パーライト変態が進行する温度に保持する保持段階とを含み、加熱段階における到達線温度を800℃以上、1000℃未満とし、冷却段階以降パーライト変態開始前に、線材の表層部温度がその内部温度よりも低くなる時期を設け、線材内部の平均パーライトノジュールサイズが2.5〜3.5μmであり、表層部の平均パーライトノジュールサイズがその内部の平均パーライトノジュールサイズよりも0.3μm以上小さい組織とし、
前記湿式連続伸線工程における各ダイスでの伸線加工歪みεを次式、
ε=2×ln(D0/d)(4)
(式中、D0は伸線加工前の綱線材の直径(mm)、dはダイス通過後の鋼線の直径(mm),lnは自然対数を示す)で表わし、各ダイスでの伸線加工歪みεと最終ダイスでの伸線加工歪みεnとの伸線加工歪みの差Δεを次式、
Δε=εn−ε(5)
で表したときに、
1)最終ダイスにおける伸線加工歪みεnを3.0から4.0に、
2)最終ダイスの減面率を4.0%から8.0%に、
3)Δε≦1.0のダイスの減面率を(10.0×Δε+8.0)%から(12.0×Δε+13.0)%に、
4)ε≦0.75のダイスの減面率を(20.0×ε+3.0)%から25%に、
5)残りのダイスの減面率を18%から25%に、
して湿式連続伸線を行うことを特徴とする鋼線の製造方法。 - 0.10から0.50質量%のクロムを含有する綱線材を用いる請求項1記載の鋼線の製造方法。
- 引張強さが次式、
TS≧2750−1450logD (3)
(式中、TS、D、及びlogは前記と同じものを示す)で表わされる関係を満足する請求項1又は2記載の鋼線の製造方法。
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