JP3910430B2 - insituハイブリダイゼーション用反応容器およびその使用方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は,in situ ハイブリダイゼーション(in situ hybridization)用反応容器およびその使用方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
生体微量物質を同定するのための分析化学は生化学と組織化学として大きな発展を遂げてきた。組織化学は物質と物質代謝の状態を明らかにする目的に加え,臓器,生体組織および細胞の構造を保存したまま,それらに局在する情報を同時に得ようとする学問領域である。このような形態学と分析化学を基盤とする組織化学は,1950年以降の免疫組織化学の発達と70年台以降のin situハイブリダイゼーション組織化学の発達をもたらした。[蛋白質・核酸分子のin situ同定法,編集 遠山正彌 塩坂貞夫 木山博資,1994年9月1日発行,第9頁,株式会社 羊土社]
in situハイブリダイゼーションとは,細胞の染色体DNA(デオキシリボ核酸)や組織中のRNA(リボ核酸)を標的として,放射性同位体あるいは蛍光で検出できる化合物で標識したRNAプローブやDNAプローブとハイブリッド形成を行うことにより,特定遺伝子の染色体上バンドの位置決定あるいは遺伝子産物であるmRNA(メッセンジャーRNA)の組織中の局在領域決定を行う方法であり,これらの用語の詳細に関しては生化学事典[第3版,1998年10月8日発行,第151頁,株式会社 東京化学同人]などを参照することができる。
【0003】
RNAプローブやDNAプローブとは,細胞の染色体DNAや組織中のRNA等の特定部位と特異的に結合する性質を持った核酸配列であり,当該核酸配列の存在を検出するために放射性同位体や蛍光物質等の標識物を化学結合して用いられているが,近年は取り扱いの制限が厳しい放射性同位体の使用を避ける傾向が強まり,「低分子物質のジゴケシゲニンを標識したプローブ」と「酵素標識したジゴケシゲニンと結合する抗体」と「当該抗体に標識した酵素を発色・染色する酵素基質」との組合せ試薬が頻繁に用いられている。
【0004】
また,発生生物学においては胚における遺伝子の発現パターンを明らかにすることは非常に重要であり,胚の切片などを使用せずに丸ごとin situハイブリダイゼーションを行うホールマウントin situハイブリダイゼーション(whole mount in situ hybridization:WISH)法が開発され,発生生物学において不可欠な方法になっている。この方法は生体組織切片のin situハイブリダイゼーション法よりも比較的容易なので,作業未熟者はまずホールマウントin situハイブリダイゼーション法から修得するのも良いと報告されている。[免疫染色・in situハイブリダイゼーション,編集 野地澄晴,1997年12月25日発行,第80頁,株式会社 羊土社]
以上に記載のin situハイブリダイゼーション法の操作は,生体組織試料の組織構造がin situハイブリダイゼーション法の操作中に崩れてしまわないように生体組織試料を固定する工程,プローブが当該試料の核酸と反応し易くするために当該試料の不要部位の除去や蛋白質分解酵素による処理を行う工程,標識したプローブを当該試料と反応させる工程,過剰なプローブを洗浄して除去する工程,当該試料の核酸と結合したプローブの標識物を検出するために当該標識物と結合する酵素標識抗体等の試薬を反応させる工程,過剰な当該抗体等を洗浄して除去する工程,当該抗体を介して結合した酵素と酵素基質とを反応させる工程,過剰な酵素基質を洗浄して除去する工程,当該酵素基質が酵素反応により発色した像を写真撮影等で記録する工程から構成される。
【0005】
in situハイブリダイゼーション法は,組織化学領域において不可欠な手法になっているが,上記のように手技が比較的容易とされるホールマウントin situハイブリダイゼーションでさえ全工程の作業を終えるためには3日程度を要し,その期間に胚などの微小で軟弱な生体組織試料(縦横5mm程度)を多数の試薬類と幾度となく反応させて洗浄する作業を行うために,取り扱っていた生体組織が破損したり紛失したりすることが頻繁に発生した。この問題点の解決は,器具や自動化機器の開発により取り組まれてきた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
自動化機器は,自動in situハイブリダイゼーション装置としてホールマウントin situハイブリダイゼーション専用機が開発されている。当該装置は,カプセル容器を使用して生体組織試料を保護しながら2日程度で全工程を終了させることができる。この自動化機器を用いれば作業者の不用意な操作による生体組織試料の破損や紛失を避けることはできるが,一連の工程が自動化されているので反応条件などの容易な変更を行い難い場合もある。
また,一般に自動化機器は,生体組織試料と反応させる溶液の交換を機械的な液吸引で行う場合があるが,生体組織試料のうち特に物理的衝撃に極めて弱いものに対してこの液吸引操作を行った場合、該生体組織試料を破損させてしまうおそれがある。
【0007】
一方,器具に関しては作業者自身が円筒状の樹脂製容器を加工して円筒底面にナイロン製網を張り,直径と高さが1cm程度の篩を作製することで問題解決が図られている。当該器具の作製方法の詳細は,実験手順書[免疫染色・in situハイブリダイゼーション,編集 野地澄晴,1997年12月25日発行,第82頁,株式会社 羊土社]などに詳細が記載されているので参照できる。当該器具を用いれば,微小で軟弱な生体組織試料を器具と共に容器に入った状態で取り扱えるため,取り扱う生体組織試料が破損したり紛失したりすることがある程度は避けられる様になった。しかし,当該篩は操作中に開口部から微細な異物が入り込んでしまう場合があり,付着した繊維状異物等が原因となって異常な結果を誘引することもある。また,当該器具を用いても多数の試料を同時に取り扱う際には,一つの試料に対して数十回の溶液交換の操作が必要なため,軟弱な生体組織試料に当該篩の網目の形を付けて破損したり,液交換に時間を要して試料を乾燥させたりする事故が発生し,円滑に全操作が終えられない場合も発生する。
【0008】
近年,再生医療等の研究開発が盛んになるに従い,発生生物学の研究開発でも作業効率化が強く意識される様になり,当該分野で不可欠な手法であるホールマウントin situハイブリダイゼーション法を行う場合にも多数の生体組織試料を一度に取り扱うことが増えて来た。そして高価な自動化機器を使用せずに,作業未熟者でも多数の生体組織試料を一度に当該手技で操作できることが強く望まれるようになって来ている。
【0009】
本発明は,上記のような問題点を解決し、反応容器に入れた生体組織試料を常に溶液に浸った状態を保ったままで次々と別の溶液と接触させることが可能であり,その液交換は溶液を添加するだけであり,如何なる機械的な強制圧力も必要とせず,作業未熟者が当該反応容器を複数用いて多数の生体組織試料を一度に取り扱っても,従来の手技で発生した生体組織試料の乾燥や破損,異物付着等の問題を起こさずに操作を実施することが可能で、また,一度に多数の生体組織試料を取り扱うことも可能になることから,高価な自動化機器の購入を必要とせずに効率的なin situ ハイブリダイゼーションの操作を実施することが可能で、作業に未熟な者でも容易にin situハイブリダイゼーション法が行える反応容器とその使用方法を提供する事を目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、本発明のin situ ハイブリダイゼーション用反応容器の発明においては,
(1) 中空管からなり前記中空管の出口よりやや後退した位置に、前記中空管の内壁にその外周が密着した細孔板が設けられてなる受器と、当該受器の中空管内壁にその外周を密接させながら挿入することが可能で且つ当該受器の管内壁との摩擦力により所望の挿入位置で静止させておくことが可能な細孔板から少なくともなる蓋体とから構成され、前記受器と蓋体のいずれの細孔板も、液体と気体は通過可能であるが毛細管現象により細孔内に液体を保持できて当該細孔を当該液体の毛細管現象により当該液体で塞ぐことが可能な大きさの連続細孔を有し、
当該受器の出口端側を栓で密封し、入口開口部側から溶液と生体組織試料とを添加して液が出口端側から漏出しない状態に設置した後、当該蓋体の細孔板が当該受器に添加した溶液の液中に到達するまで当該蓋体を挿入した後に当該受器の栓による密封を解除したとき、当該受器中の溶液が当該蓋体の細孔板の上側表面位置に達するまで流出して流出が止まる機能を有することを特徴とするin situ ハイブリダイゼーション用反応容器を提供するものである。
【0012】
(2)また、前記in situ ハイブリダイゼーション用反応容器においては、当該反応容器の材質がガラス、セラミックス、ステンレス、樹脂から選ばれた1種またはその組合せであることが好ましい。
【0013】
(3)また、前記(1)または(2)に記載のin situ ハイブリダイゼーション用反応容器についての使用方法の発明は、当該受器の出口端側を栓で密封し、入口開口部側から溶液と生体組織試料とを添加した後に液が漏出しないようにする工程、当該受器に添加した溶液の液中まで当該蓋体の細孔板が挿入されるまで当該蓋体を挿入して生体組織試料を当該受器と当該蓋体の細孔板間の溶液中に位置させる工程、当該受器の栓による密封を解除して当該受器中の溶液を当該蓋体の細孔板の位置に達するまで流出させる工程、当該受器の入口開口部側から別途の溶液を添加し、それにより添加した溶液と同容量の溶液を当該受器から流出させる工程、を順次に行うことを特徴とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら本発明の反応容器並びにその使用方法について、実施の形態例を引用しながら説明するが、本発明の反応容器等は図示されたもののみに限定されるものではない。
【0015】
図1、図2に本発明の反応容器の実施の形態例の断面の端面図を示した。
【0016】
図1(a)は本発明の反応容器の受器,同(b)は蓋体,図2は図1(a)で示した受器に,図1(b)で示した蓋体が挿入された状態を示した反応容器の断面の端面図である。
【0017】
図1、図2において、1がin situ ハイブリダイゼーション用反応容器の受器の中空管、2が受器の細孔板、3が受器の中空管の入口開口部、4が受器の中空管の出口(液流出口)、5が蓋体の中空管、6が蓋体の中空管の出口先端部に設けられた細孔板、7が蓋体の中空管の入口開口部、8は蓋体の中空管5の入口開口部端に設けられた顎部を示している。
【0018】
尚、本発明において、受器の中空管の出口とは、当該中空管の2つの開口部のうち、受器の細孔板が設けられている側の開口部を出口と称している。また入口は前記出口の反対側の開口部を指す。
【0019】
図2は当該受器に当該蓋体を挿入した状態を示しているが,当該蓋体の細孔板6の外周が当該受器の内壁に密接して挿入出できることが肝要であり,当該受器の管内壁との摩擦力により所望の挿入位置で静止させておくことが出来れば、当該蓋体の細孔板以外の形状は何ら限定する必要は無い。
【0020】
すなわち,当該蓋体は細孔板6のみで構成されていても良いし,当該蓋体の脱着を容易にするために当該蓋体の細孔板6に対して細孔板6の機能を妨害しない筒状や細い棒状の挿入出用の操作部を設けても良い。図示したものは、筒状のものであり、特に、挿入出用の操作部に相当する部分が、受器の中空管1の内壁にその外周が密着してスライド可能な外径を有する中空管5からなり、蓋体の中空管5の入口開口部7側の端に顎部8を有している形状とした。受器の中空管1と蓋体の中空管5との関係があたかも注射器のシリンジとピストンのような関係に似ている構造になっている。ただし蓋体は、入口開口部7を有しており、そこから、種々の反応溶液や洗浄液などを流し込むことが出来るようになっている点や、ピストンの先端部分に相当する部分が、液体を流すことが出来る連続細孔(表裏に貫通する貫通孔)を有する細孔板6である点が異なっている。すなわちこの図示した実施の形態例では細孔板6は、蓋体の中空管5の出口先端部に前記細孔板6が取り付けられている。蓋体の細孔板6は、前記受器の中空管1の内壁に細孔板6の外周が密着出来るように、すなわち細孔板6の外周が露出するような態様にして蓋体の中空管5の出口先端部に取り付けられている。
【0021】
前記挿入出用の操作部に相当する部分(図示した例では中空管5がこれに相当する)は,細孔板と同一素材により細孔板と一体成形しても良いし,別素材の挿入出用の操作部を作成して溶接や接着剤等の適当な接合手段で細孔板に結合しても良い。また,本発明の反応容器の使用方法を実施したとき,当該蓋体の細孔板6より上部の溶液が無くなって当該受器の細孔板2と当該蓋体の細孔板6が形成する空間10に溶液が満たされた状態に達した時点で細孔板6の細孔内で生じる毛細管現象によって溶液の流出が停止し,さらに追加して当該蓋体の細孔板6の上部に溶液を添加することで再び当該受器の出口(液流出口)から溶液の流出が生じることが肝要であり、このような現象が生じる程度の比較的細い径の多数の連続(貫通)細孔を有する細孔板、言い換えれば、前記溶液や水などで毛細管現象により、細孔内がほぼ満たされる程度の比較的細い径の多数の連続(貫通)細孔を有する細孔板を用いる。よって,この要件が満たされる細孔板であれば,特に当該反応容器に適用する細孔板の厚さ,細孔数,細孔形状,および細孔径などを限定する必要はないが,細孔径は取り扱う生体組織試料よりも小さいことが必要であり20〜100マイクロメートル程度が好ましい。
【0022】
当該細孔板は上表面から下表面へ貫通した細孔(連続細孔)を有することが必要であり,具体例としてはガラス、セラミックス、ステンレスなどからなる焼結フィルタや樹脂製フィルタが例示できる。貫通した細孔は、直線状の細孔でもよいが、直線状の細孔である必要はなく、むしろ、通常は、直線状でなく不定形のの連続細孔になっていることが一般的である。
【0023】
本発明の反応容器は,試料として用いる生体組織試料の大きさなどに応じて大きいものや小さいサイズのものにすればよく、大きさについては特に限定するものではない。当該受器の中空管1の長さについても同様で、特に限定する必要は無いが,当該蓋体の挿入が容易な中空管の長さである10〜100ミリメートル程度が好ましく,10〜50ミリメートルの範囲が一層好ましい。また,当該受器の中空管の断面内径は,取り扱う生体組織試料が無理なく投入できる3〜30ミリメートルが好ましく,5〜20ミリメートルが一層好ましい。
【0024】
当該受器の中空管の断面形状は特に限定する必要は無いが,当該蓋体の細孔板の外周を当該受器の内壁に密接させて挿入することが容易な楕円形または円形が好ましい。
【0025】
また,当該反応容器は当該受器と当該蓋体の一組だけから構成されても良いが,当該反応容器の複数本が束状や列状に配列された一体成形物でも良く,具体例としては免疫測定や細胞培養等で汎用される96穴マイクロプレート様の構造が例示できる。
【0026】
本発明の反応容器の材質は,ガラス,セラミックス,ステンレス,樹脂から選ばれた1種またはその組合せが好ましく,当該受器の中空管内部の観察が容易な透明なガラスや樹脂が一層好ましい。当該樹脂は合成樹脂が好ましく,耐熱温度が70℃以上であるポリプロピレン等が加熱される場合に一層好ましい。
【0027】
本発明の反応容器を用いれば,当該受器の出口端側4を適当な栓(図示せず)で完全に密封した後,所定の溶液を加えて液が漏出しない状態に設置し,当該受器の入口開口部側(投入口側)から生体組織試料を投入し,引き続いて当該蓋体の細孔板が当該受器に添加した溶液の液中に到達するまで当該蓋体を挿入して生体組織試料を当該受器と当該蓋体の細孔板間の溶液中に位置させることで,生体組織試料が常に溶液に浸った状態を作ることができる。尚、当該受器の出口端側4を閉鎖する栓としては、本発明の目的が達成できれば特に限定はなく、具体的にはシリコンゴムなどの栓とか適当な樹脂製薄膜[例えば、“サランラップ”(旭化成株式会社)製)などのラップ類など]で出口端側を塞いでもよく、また、例えば分液漏斗に設けられているようなコックのように、栓を取り外ししなくとも通路の開閉が可能な栓を用いてもよい。
【0028】
次に,当該受器の下端の栓による密封を解除すると溶液は当該受器の下端の出口端側4から流出を始めるが,液面が当該蓋体の細孔板6の上側表面の位置に達した時点で細孔板の細孔内で生じる毛細管現象により当該受器からの溶液の流出が自然に止まる。尚、細孔板6の上側表面位置とは、厳密な意味での上側最表面と言う意味ではなく、毛細管現象で細孔板中に液が残る位置が、ほぼ細孔板の上側表面位置近傍なので、このように表現したものである。次にさらに,当該受器の開口部側7(投入口側)から別の所定の溶液を加えると再び当該受器の下端から溶液の流出が生じ,前記と同様に液面が当該蓋体の細孔板6の上側表面位置に達した時点で流出が自然に止まる。この操作を繰り返すことにより当該受器の細孔板2と当該蓋体の細孔板6間の溶液は,次々と新たな溶液に置き換えることができる。つまり,本発明の反応容器に入れた生体組織試料は,常に溶液に浸った状態を保ったままで次々と別の溶液と接触させることが可能であり,その液交換は溶液を添加するだけであり,如何なる機械的な強制圧力も必要としないので,作業未熟者が当該反応容器を複数用いて多数の生体組織試料を一度に取り扱っても,従来の手技で発生した諸問題(異物の混入,生体組織試料の乾燥や破損,等)は起こらない。
【0029】
また,本発明の反応容器を用いれば,in situ ハイブリダイゼーション法の操作で行う「生体組織試料の核酸と標識したプローブとの核酸間の反応」や「プローブの標識物と酵素標識抗体との抗原抗体反応」等が反応容器を変えずに行えるので,容器移し替えによる当該試料の破損や異物付着が防止できる。さらに,本発明の反応容器は,液交換の操作に如何なる機械的な強制圧力も必要としないので,本発明の反応容器を適用した自動化機器を作るに際しては既存装置よりも機械構造の簡略化が容易となる。
【0030】
【実施例】
以下に本発明の理解を容易にするために、実施例を挙げて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0031】
尚、以下の実施例の記載中「%v/v」は「容積/容積による百分率」を意味し、「%w/v」は「質量/容積による百分率」を意味する。
【0032】
(実施例1):生体組織試料(マウス胚)の前処理
生体組織試料の前処理は,教科書の手順に従って行った。すなわち,第26回組織細胞化学講習会テキスト(組織細胞化学2001,in situ hybridizationの実際,森田規之 河田光博 著,日本組織細胞化学会 編,第36〜43頁,学際企画 発行)を参照して,マウスの妊娠子宮の取り出し,子宮壁の切開,脱落膜の切開,体壁卵黄嚢(ライヘルト膜)・内臓壁卵黄嚢と羊膜の切開,と各段階を進める毎に培養皿を交換しながら進めた。
【0033】
取り出したマウス胚はリン酸緩衝液[10ミリモル/リットル リン酸ナトリウム(pH7.4),100ミリモル/リットル 塩化ナトリウム含有]の入った培養皿に入れ,薄い膜などを取り除き,固定液[10ミリモル/リットル リン酸ナトリウム(pH7.4),100ミリモル/リットル 塩化ナトリウム,0.1%v/vポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート,4%w/vパラホルムアルデヒド含有]の入った培養皿に入れ換え,観察したい組織に注意して,脳,心臓,眼,耳胞などの腔に液が溜まらないように注射針(27G)で穴を開けて浸透性をよくした。次に,上記の固定液が入った50ミリリットル容量のフタ付き樹脂製試験管に入れ換え,4℃で16時間静置した。以上の操作により生体組織の構造を固定した(生体組織の構造が崩れにくくなるように、パラホルムアルデヒドなどを用いた重合により強度を高めること)。
【0034】
液を除き,界面活性剤入りリン酸緩衝液[10ミリモル/リットル リン酸ナトリウム(pH7.4),100ミリモル/リットル 塩化ナトリウム,0.1%v/vポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート含有]を入れて4℃で5分間静置した。この操作はさらにもう一度繰り返した。液を除き,エタノール濃度を25,50,75%v/v含有した上記の界面活性剤入りリン酸緩衝液に順次取り替えて各5分間静置した後,エタノールに5分間浸して静置した。改めて新たなエタノールに10分間浸した後,新たな注射針を用いて脳,心臓,眼,耳胞などに穴を軽く開けた。そして,室温でエタノール濃度を75,50,25%v/v含有した上記の界面活性剤入りリン酸緩衝液に順次取り替えて各5分間静置した後,新たな界面活性剤入りリン酸緩衝液に5分間浸す操作を2回繰り返した。
【0035】
次に,液を除いて20マイクログラム/ミリリットル プロテイナーゼK(proteinase K)を含む界面活性剤入りリン酸緩衝液を加えて室温で15分間静置した。プロテイナーゼK処理は細胞膜を壊して後に反応させるプローブ溶液のジゴキシゲニン標識核酸配列が浸透しやすくするために行う。さらに,液を除いて2ミリグラム/ミリリットル グリシンを含む界面活性剤入りリン酸緩衝液を加えて室温で5分間静置した後,液を界面活性剤入りリン酸緩衝液に換えて室温で5分間静置する操作を2回繰り返した。
【0036】
次に0.2%w/vグルタルアルデヒドを含む上記の固定液に液を換えて室温で20分間静置した後,液を界面活性剤入りリン酸緩衝液に換えて室温で5分間静置する操作を2回繰り返した。
【0037】
そして,各胚を1個づつ滅菌済みの2ミリリットル容量のポリプロピレン製フタ付き試験管に移し,70℃に保温した界面活性剤入りリン酸緩衝液を加え,70℃で40分間静置した。引き続き,前記の容器ごと充分に氷冷した後,液を除いて6%w/v過酸化水素含有した上記の界面活性剤入りリン酸緩衝液に換えて室温で1時間静置し,液を界面活性剤入りリン酸緩衝液に換えて室温で5分間静置する操作を3回繰り返した。そして,液を除いて70℃に保温した1ミリリットルのプレハイブリダイゼーション溶液[75ミリモル/リットル クエン酸三ナトリウム(pH4.5),750ミリモル/リットル 塩化ナトリウム,50%w/vホルムアルデヒド,1%w/vドデシル硫酸ナトリウム,50ミリグラム/リットル 酵母由来tRNA,50ミリグラム/リットル ヘパリン含有]を加え,70℃恒温器中(BM機器株式会社製SYNTHETECH OVEN)に設置した振とう器(タイテック社製)に乗せて5分間攪拌した後,液を除いて新たに70℃に保温した1ミリリットルのプレハイブリダイゼーション溶液を加えて同様に1時間攪拌した。
【0038】
(実施例2):生体組織試料(ホヤ)の前処理
海洋生物のホヤは,発生生物学の領域では有用な生物であるが,急激な環境変化を与えると組織が萎縮してしまうため,L-メントールで麻痺状態にした後に組織固定の操作を行う。すなわち,海水中で浮遊する縦横3ミリメートル程度のホヤを集め,L-メントールを飽和濃度の1/100,1/50,1/20,1/10および1/5とした海水へ順次に移し替えてホヤを麻痺状態にした。その後は実施例1の操作手順に準じて固定液を用いた処理,エタノールによる処理,プロテイナーゼKによる処理,プレハイブレダイゼーション溶液による処理,等の前処理を順次に行った。
【0039】
(実施例3):ハイブリダイゼーションと洗浄操作
本発明の反応容器の受器は,ポリプロピレン製の注射管のシリンジ(外管)[長さ50ミリメートル,管厚1ミリメートル,断面内径8ミリメートル]に内径と合わせた円形の細孔板[厚さ1ミリメートル,細孔径約100マイクロメートルのポリプロピレン樹脂製フィルタ]を装着して作成した。細孔板の装着は注射管の開口部から挿入が可能な直径約6ミリメートルの樹脂製棒で細孔板を注射管の先端へ押し込み,管壁と細孔板の上下の表面が垂直になるように設置した。
【0040】
流出口(出口)をシリコンゴムの栓で閉ざした本発明の反応容器の受器に実施例1で示したプレハイブリダイゼーション溶液を1ミリリットル加え,実施例1または実施例2で前処理した生体組織試料を投入した。
【0041】
次に本発明の反応容器の蓋体はこの実施例では上記と同様の細孔板であって、細孔板のみからなる蓋体を用い,上記の樹脂製棒で管壁と細孔板の上下の表面が垂直になるように液中まで押し込み,前記の受器に挿入して生体組織試料を受器と蓋体の細孔板の間に位置させた。この場合の受器底面と蓋体との空間容量は0.7ミリリットルであった。
【0042】
次に受器の流出口を開いて過剰のプレハイブリダイゼーション溶液を放出した後,0.1ミリリットルのプローブ溶液[目的のmRNAと結合するジゴキシゲニン標識核酸配列を1マイクログラム/ミリリットル濃度で含有するプレハイブリダイゼーション溶液]を添加して流出するプレハイブリダイゼーション溶液を除いた後,本発明の反応容器の流出口と投入口(入口開口部)を閉ざした。流出口と投入口の閉鎖は,投入口は樹脂製薄膜(旭化成株式会社製“サランラップ”)を用い、流出口はシリコンゴムの栓を用いた。
【0043】
次に生体組織試料の入った本発明の反応容器は実施例1に示した70℃恒温器中に設置した振とう器に乗せて16時間攪拌することで,目的のmRNAにジゴキシゲニン標識核酸配列を結合させ,mRNAの存在位置にジゴキシゲニンを導入した。
【0044】
次に,mRNAと反応しなかった過剰なジゴキシゲニン標識核酸配列を除去する目的で,洗浄操作を行った。洗浄の操作は,まず本発明の反応容器の流出口と投入口を開き,投入口から1ミリリットルの第1洗浄液[75ミリモル/リットルのクエン酸三ナトリウム(pH4.5),750ミリモル/リットル 塩化ナトリウム,50%w/vホルムアルデヒド,1%w/vドデシル硫酸ナトリウム含有]を加えて流出する液を除いた。この結果,本発明の反応容器の流出口から1ミリリットルの液が自然に流出し,受器と蓋体の細孔板間で形成された空間容量には新たに加えた第1洗浄液が満たされた。次に,流出口と投入口を閉ざして前記の70℃恒温器中で30分間静置した。以上が洗浄操作の一連工程である。
【0045】
第1洗浄液を用いた洗浄操作はさらに2回繰り返した。引き続き,第1洗浄液の代わりに第2洗浄液[75ミリモル/リットル クエン酸三ナトリウム(pH4.5),750ミリモル/リットル 塩化ナトリウム,0.1%v/vポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート含有]を用いて洗浄操作(ただし室温,5分間静置)を3回,第2洗浄液の代わりに第3洗浄液[30ミリモル/リットル クエン酸三ナトリウム(pH4.5),300ミリモル/リットル 塩化ナトリウム,50%w/vホルムアルデヒド,1%w/vドデシル硫酸ナトリウム含有]を用いて洗浄操作(70℃,5分間静置)を2回,さらに第3洗浄液を用いて洗浄操作(70℃,30分間静置)を3回,第3洗浄液の代わりに第4洗浄液[第3洗浄液と第5洗浄液を等容量で混合した溶液]を用いて洗浄操作(70℃,10分間静置)を1回,第4洗浄液の代わりに第5洗浄液[100ミリモル/リットル トリス塩酸緩衝液(pH7.5),150ミリモル/リットル 塩化ナトリウム,0.1%v/vポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート含有]を用いて洗浄操作(室温,5分間静置)を5回繰り返した。
【0046】
本発明の反応容器を用いれば,受器と蓋体の細孔板間で形成された空間に満たされた洗浄液が流出するのに従って次に添加した洗浄液が当該空間に移動するため,各洗浄液が液層を成して移動することで効率的な液交換が行えた。また,生体組織試料は常に洗浄液に浸った状態を保てるので,生体組織試料が乾燥したり,生体組織内に気泡が入ることは無かった。
【0047】
(実施例4):mRNAに導入したジゴキシゲニンの検出
実施例3で目的のmRNAに導入したジゴキシゲニンにアルカリホスファターゼ標識抗ジゴキシゲニン抗体(Fab断片,ロシュ・ダイアグノティックス社製)を反応させた後,反応した当該抗体のアルカリホスファターゼ酵素活性を利用した発色酵素基質による染色を行い,目的のmRNAの存在位置に色素を沈着させた。
【0048】
すなわち,実施例3の操作を終えた本発明の反応容器に入った生体組織試料は,第5洗浄液の代わりにブロッキング溶液[1.5%v/vブロッキング試薬(ロシュ・ダイアグノティックス社製)を含む実施例3の第5洗浄液]を用いて実施例3の洗浄と同様の操作(室温,90分間振とう)を行った後,引き続きブロッキング溶液の代わりに抗体溶液[アルカリホスファターゼ標識抗ジゴキシゲニン抗体をブロッキング溶液で5000倍希釈した溶液]を用いて実施例3の洗浄と同様の操作(4℃,16時間静置)を行った。
【0049】
反応しなかった過剰のアルカリホスファターゼ標識抗ジゴキシゲニン抗体は,第5洗浄液を用いて実施例3の洗浄と同様に操作(室温5分間振とうで4回,続いて室温1時間振とうで7回)することにより除去した。次に第1緩衝液[100ミリモル/リットル トリス塩酸緩衝液(pH9.5),100ミリモル/リットル 塩化ナトリウム,50ミリモル/リットル 塩化マグネシウム,0.1%v/vポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート含有]を用いて実施例3の洗浄と同様の操作(室温,5分間静置)を2回,第2緩衝液[第1緩衝液と第3緩衝液を等容量で混合した溶液]を用いて実施例3の洗浄と同様の操作(室温,10分間静置)を2回,第3緩衝液[100ミリモル/リットル トリス塩酸緩衝液(pH9.5),100ミリモル/リットル 塩化ナトリウム,50ミリモル/リットル 塩化マグネシウム,0.1%v/vポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート,5%w/vポリビニルアルコール(70〜100kDa)含有]を用いて実施例3の洗浄と同様の操作(室温,20分間振とう)を6回行った後,発色液[0.34ミリグラム/ミリリットル ニトロブルーテトラゾリウム,0.17ミリグラム/ミリリットル ブロモクロロインドリルリン酸を含む第3緩衝液]を用いて実施例3の洗浄と同様の操作(室温,5分間振とう後3時間静置)を行いアルカリホスファターゼの存在位置に青色色素を沈着させた。色素沈着させるための酵素反応は,実施例1の界面活性剤入りリン酸緩衝液[10ミリモル/リットルリン酸ナトリウム(pH7.4),100ミリモル/リットル 塩化ナトリウム,0.1%v/vポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート含有]を用いて実施例3の洗浄と同様の操作(室温,5分間静置)を5回繰り返すことで停止した。
【0050】
(実施例5):写真撮影のための脱色・透明化処理
実施例4で得た生体組織試料は,目的のmRNAが存在する位置に青色色素が沈着しているので,この状態を写真撮影して記録した。
【0051】
すなわち,実施例4の操作を終えた本発明の反応容器に入った生体組織試料は,50%v/vエタノール溶液[50%v/vエタノールを含む実施例1の界面活性剤入りリン酸緩衝液]を用いて実施例3の洗浄と同様の操作(室温,5分間静置)を行った後,エタノールを用いて実施例3の洗浄と同様の操作(室温,2時間静置)を行って不必要に付着している青色色素を除去し,50%v/vエタノール溶液,実施例1の界面活性剤入りリン酸緩衝液,25%w/vグリセロール溶液および50%w/vグリセロール溶液[グリセロールを含む実施例1の界面活性剤入りリン酸緩衝液]を順次に用いて実施例3の洗浄と同様の操作(室温,5分間静置)を行った。この処理により生体組織試料は透明化するので,本発明の反応容器の蓋体をピンセットで除去して受器から生体組織試料を取り出して写真撮影に供した。
【0052】
以上の実施例3〜5に示した多段階で複雑な操作は,in situ ハイブリダイゼーション法に共通した一連工程であるが,本発明の反応容器を用いたことにより生体組織試料の紛失,乾燥や破損,異物付着等の問題を起こさずに操作することができた。
【0053】
【発明の効果】
本発明の反応容器を用いれば,当該反応容器に入れた生体組織試料は常に溶液に浸った状態を保ったままで次々と別の溶液と接触させることが可能であり,その液交換は溶液を添加するだけであり,如何なる機械的な強制圧力も必要としないので,作業未熟者が当該反応容器を複数用いて多数の生体組織試料を一度に取り扱っても,従来の手技で発生した生体組織試料の乾燥や破損,異物付着等の問題を起こさずに操作を実施することができる。また,一度に多数の生体組織試料を取り扱うことが可能になることから,高価な自動化機器の購入を必要とせずに効率的なin situ ハイブリダイゼーションの操作を実施することができる。
【0054】
従って本発明はin situ ハイブリダイゼーションの操作に有用なin situ ハイブリダイゼーション用反応容器およびその使用方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の反応容器の実施の形態例の断面の端面図。
【図2】本発明の反応容器の図1(a)で示した受器に,図1(b)で示した蓋体が挿入された状態を示した反応容器の断面の端面図。
【符号の説明】
1 in situ ハイブリダイゼーション用反応容器の受器の中空管
2 受器の細孔板
3 受器の中空管の入口開口部
4 受器の中空管の出口(液流出口)
5 蓋体の中空管
6 蓋体の細孔板
7 蓋体の中空管の入口開口部
8 蓋体の中空管5の入口開口部端に設けられた顎部
10 受器の細孔板2と蓋体の細孔板6が形成する空間
Claims (3)
- 中空管からなり前記中空管の出口よりやや後退した位置に、前記中空管の内壁にその外周が密着した細孔板が設けられてなる受器と、当該受器の中空管内壁にその外周を密接させながら挿入することが可能で且つ当該受器の管内壁との摩擦力により所望の挿入位置で静止させておくことが可能な細孔板から少なくともなる蓋体とから構成され、前記受器と蓋体のいずれの細孔板も、液体と気体は通過可能であるが毛細管現象により細孔内に液体を保持できて当該細孔を当該液体の毛細管現象により当該液体で塞ぐことが可能な大きさの連続細孔を有し、
当該受器の出口端側を栓で密封し、入口開口部側から溶液と生体組織試料とを添加して液が出口端側から漏出しない状態に設置した後、当該蓋体の細孔板が当該受器に添加した溶液の液中に到達するまで当該蓋体を挿入した後に当該受器の栓による密封を解除したとき、当該受器中の溶液が当該蓋体の細孔板の上側表面位置に達するまで流出して流出が止まる機能を有することを特徴とするin situ ハイブリダイゼーション用反応容器。 - 当該反応容器の材質がガラス、セラミックス、ステンレス、樹脂から選ばれた1種またはその組合せである請求項1に記載のin situ ハイブリダイゼーション用反応容器。
- 請求項1または2に記載の in situ ハイブリダイゼーション用反応容器の使用方法であって、
当該受器の出口端側を栓で密封し、入口開口部側から溶液と生体組織試料とを添加した後に液が漏出しないようにする工程、当該受器に添加した溶液の液中まで当該蓋体の細孔板が挿入されるまで当該蓋体を挿入して生体組織試料を当該受器と当該蓋体の細孔板間の溶液中に位置させる工程、当該受器の栓による密封を解除して当該受器中の溶液を当該蓋体の細孔板の上側表面位置に達するまで流出させる工程、当該受器の入口開口部側から別途の溶液を添加し、それにより添加した溶液と同容量の溶液を当該受器から流出させる工程、を順次に行うことを特徴とする in situ ハイブリダイゼーション用反応容器の使用方法。
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