JP3882737B2 - ハイブリッド自動車およびその制御方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハイブリッド自動車およびその制御方法に関し、詳しくは、内燃機関および第1電動機から変速機を介して出力される動力と第2電動機から変速機を介さずに出力される動力とにより走行可能なハイブリッド自動車およびその制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
従来、この種のハイブリッド自動車としては、無段変速機を介して車軸に動力を出力可能なエンジンおよびモータを備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このハイブリッド自動車では、運転者がアクセルペダルを踏み込みんで要求動力が急増して無段変速機をダウンシフトする際には、ダウンシフトの最中にエンジンから無段変速機を介して車軸に出力される動力では不足する動力をモータにより出力している。
【0003】
しかしながら、特許文献1記載のハイブリッド自動車では、モータは変速機の変速比の急変更に伴い運転状態の急変を強いられることにより効率の低い運転ポイントでも運転しなくてはならず、車両全体のエネルギ効率を低下させる場合があった。
【0004】
本発明のハイブリッド自動車およびその制御方法は、運転者が要求する動力の急変に伴って変速機の変速比が急変更される最中における車両のエネルギ効率を向上させることを目的の一つとする。また、本発明のハイブリッド自動車およびその制御方法は、運転者が要求する動力の急変に伴って変速機の変速比が急変更される最中でも要求される動力を出力することを目的の一つとする。
【0005】
なお、出願人は、無段変速機を介して前輪の車軸に動力を出力可能なエンジンおよび前輪用モータと後輪の車軸に動力を出力する後輪用モータとを備えるハイブリッド自動車であって、渋滞走行時には、エンジンと前輪用モータとを停止させた状態で後輪用モータのみで走行することにより、無段変速機によるエネルギ損失を低減し、これにより、車両全体のエネルギ効率の向上を図るものを提案している(特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開2002−89687号公報(第6〜7頁、図1、図5)
【特許文献2】
特開2001−158254号公報(図1)
【0007】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
本発明のハイブリッド自動車およびその制御方法は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明のハイブリッド自動車は、
内燃機関および第1電動機から変速機を介して出力される動力と第2電動機から該変速機を介さずに出力される動力とにより走行可能なハイブリッド自動車であって、
運転者のアクセル操作に基づいて要求動力を設定する要求動力設定手段と、
該設定された要求動力に基づいて前記内燃機関から出力すべき目標動力と前記変速機の目標変速比とを設定する目標値設定手段と、
前記設定された目標動力が出力されるよう該内燃機関を運転制御すると共に前記設定された目標変速比となるよう前記変速機を駆動制御し、前記設定された要求動力のうち該内燃機関から出力される動力では不足する動力が前記第1電動機および/または前記第2電動機から出力されるよう該第1電動機および該第2電動機を駆動制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記目標値設定手段により前記要求動力の急変に伴って前記目標変速比が所定値以上変更されるよう設定された急変更設定時には、前記要求動力の急変のときから前記変速機の変速比が前記目標変速比の近傍に達するまで、前記不足する動力が前記第1電動機に優先して前記第2電動機から出力されるよう該第1電動機および該第2電動機を駆動制御する手段である
ことを要旨とする。
【0009】
この本発明のハイブリッド自動車では、運転者のアクセル操作に基づいて設定された要求動力の急変に伴って目標変速比が所定値以上変更される際には、要求動力の急変のときから変速機の変速比が目標変速比の近傍に達するまで、要求動力のうち内燃機関から出力される動力では不足する動力が、変速機を介して動力を出力する第1電動機に優先して変速機を介さずに動力を出力する第2電動機から出力されるよう制御する。即ち、変速比の急変更に伴って運転状態の急変を強いられる第1電動機に優先してこうした運転状態の急変が生じない第2電動機を駆動制御するのである。この結果、変速機の変速比の急変更時における車両のエネルギ効率を向上させることができる。もとより、要求動力のうち内燃機関から出力される動力では不足する動力は第1電動機や第2電動機から出力されるから、変速機の変速比が急変更の最中でも運転者の要求する動力を出力することができる。なお、第2電動機は変速機が接続されている車軸とは異なる車軸に接続されているものとしたり、変速機は無段変速機であるものとすることもできる。
【0010】
こうした本発明のハイブリッド自動車において、前記急変更設定時は、前記要求動力の急増に伴って前記変速機がダウンシフトされる時であるものとすることもできる。こうすれば、低回転高トルクの運転から高回転低トルクの運転まで強いられる第1電動機に優先してこうした運転状態の急変が生じない第2電動機を駆動制御するため、変速機のダウンシフト時における車両のエネルギー効率を向上させることができる。
【0011】
こうした本発明のハイブリッド自動車において、前記制御手段は、前記急変更設定時には、前記不足する動力が前記第2電動機から出力されるよう該第1電動機および該第2電動機を駆動制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、第1電動機を停止して第2電動機を駆動することになるから、第1電動機と第2電動機の制御を簡易なものとすることができる。
【0012】
また、本発明のハイブリッド自動車において、前記制御手段は、前記急変更設定時における前記変速機の変速比の変更の際に推定される前記内燃機関から出力される動力に基づいて前記不足する動力を設定すると共に該設定した不足する動力が前記第1電動機に優先して前記第2電動機から出力されるよう該第1電動機および該第2電動機を駆動制御する手段であるものとすることもできる。こうすれば、より確実に運転者が要求する動力を出力することができる。
【0013】
本発明のハイブリッド自動車の制御方法は、
内燃機関および第1電動機から変速機を介して出力される動力と第2電動機から該変速機を介さずに出力される動力とにより走行可能なハイブリッド自動車の制御方法であって、
(a)運転者のアクセル操作に基づいて要求動力を設定し、
(b)該設定された要求動力に基づいて前記内燃機関から出力すべき目標動力と前記変速機の目標変速比とを設定し、
(c)前記設定された目標動力が出力されるよう該内燃機関を運転制御すると共に前記設定された目標変速比となるよう前記変速機を駆動制御し、
(d)前記設定された要求動力のうち該内燃機関から出力される動力では不足する動力が前記第1電動機および/または前記第2電動機から出力されるよう該第1電動機および該第2電動機を駆動制御し、
(e)前記要求動力の急変に伴って前記目標変速比が所定値以上変更されたときには、前記要求動力の急変のときから前記変速機の変速比が前記目標変速比の近傍に達するまでは、前記ステップ(d)に代えて、前記不足する動力が前記第1電動機に優先して前記第2電動機から出力されるよう該第1電動機および該第2電動機を駆動制御する
ことを要旨とする。
【0014】
この本発明のハイブリッド自動車の制御方法によれば、運転者のアクセル操作に基づいて設定された要求動力の急変に伴って変速比が急変更する際には、要求動力の急変のときから変速機の変速比が目標変速比の近傍に達するまで、要求動力のうち内燃機関から出力される動力では不足する動力が、変速機を介して動力を出力する第1電動機に優先して変速機を介さずに動力を出力する第2電動機から出力されるよう制御することにより、変速比の急変更に伴って運転状態の急変を強いられる第1電動機の駆動制御を抑制できるから、変速機の変速比の急変更時における車両のエネルギ効率を向上させることができる。もとより、要求動力のうち内燃機関から出力される動力では不足する動力は第1電動機や第2電動機から出力されるから、変速機の変速比が急変更の最中でも運転者の要求する動力を出力することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。図1は、本発明の一実施例であるハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト24に接続されたプラネタリギヤ30と、プラネタリギヤ30に接続された発電可能な前輪用モータ40と、プラネタリギヤ30に接続されると共にディファレンシャルギヤ64などのギヤを介して前輪66a,66bに接続された無段変速機としてのCVT50と、デファレンシャルギヤ94などのギヤを介して後輪96a,96bに接続された後輪用モータ90と、装置全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0016】
エンジン22は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン22のクランクシャフト24には、図示しない補機に供給する電力を発電すると共にエンジン22を始動するスタータモータ26がベルト28により取り付けられている。エンジン22の運転制御、例えば燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量調節制御などは、エンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)29により行なわれている。エンジンECU29は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0017】
プラネタリギヤ30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合する第1ピニオンギヤ33と、この第1ピニオンギヤ33とリングギヤ32と噛合する第2ピニオンギヤ34と、第1ピニオンギヤ33と第2ピニオンギヤ34とを自転かつ公転自在に保持するキャリア35と備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア35とを回転要素として差動作用を行なう。プラネタリギヤ30のサンギヤ31にはエンジン22のクランクシャフト24が、キャリア35には前輪用モータ40の回転軸41がそれぞれ連結されており、エンジン22の出力をサンギヤ31から入力すると共にキャリア35を介して前輪用モータ40と出力のやりとりを行なうことができる。キャリア35はクラッチC1により、リングギヤ32はクラッチC2によりCVT50のインプットシャフト51に接続できるようになっており、クラッチC1およびクラッチC2を接続状態とすることにより、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア35の3つの回転要素による差動を禁止して一体の回転体、即ちエンジン22のクランクシャフト24と前輪用モータ40の回転軸41とCVT50のインプットシャフト51とを一体の回転体とする。なお、プラネタリギヤ30には、リングギヤ32をケース39に固定してその回転を禁止するブレーキB1も設けられている。
【0018】
前輪用モータ40は、例えば発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ43を介して二次電池44と電力のやりとりを行なう。また、後輪用モータ90も例えば発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ91を介して二次電池44と電力のやりとりを行なう。前輪用モータ40および後輪用モータ90は、モータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)49により駆動制御されており、モータECU49には、前輪用モータ40や後輪用モータ90を駆動制御するために必要な信号や二次電池44を管理するのに必要な信号、例えば前輪用モータ40の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ45からの信号や後輪用モータ90の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ93からの信号,図示しない電流センサにより検出される前輪用モータ40や後輪用モータ90に印加される相電流,二次電池44の端子間に設置された電圧センサ46からの端子間電圧,二次電池44からの電力ラインに取り付けられた電流センサ47からの充放電電流,二次電池44に取り付けられた温度センサ48からの電池温度などが入力されており、モータECU49からはインバータ43やインバータ91へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU49では、二次電池44を管理するために電流センサ47により検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)を演算している。なお、モータECU49は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によって前輪用モータ40を駆動制御すると共に必要に応じて前輪用モータ40の運転状態や二次電池44の状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0019】
CVT50は、溝幅が変更可能でインプットシャフト51に接続されたプライマリープーリー53と、同じく溝幅が変更可能で駆動軸としてのアウトプットシャフト52に接続されたセカンダリープーリー54と、プライマリープーリー53およびセカンダリープーリー54の溝に架けられベルト55と、プライマリープーリー53およびセカンダリープーリー54の溝幅を変更する第1アクチュエータ56および第2アクチュエータ57とを備え、第1アクチュエータ56および第2アクチュエータ57によりプライマリープーリー53およびセカンダリープーリー54の溝幅を変更することによりインプットシャフト51の動力を無段階に変速してアウトプットシャフト52に出力する。CVT50の変速比の制御は、CVT用電子制御ユニット(以下、CVTECUという)59により行なわれている。このCVTECU59には、インプットシャフト51に取り付けられた回転数センサ61からのインプットシャフト51の回転数やアウトプットシャフト52に取り付けられた回転数センサ62からのアウトプットシャフト52の回転数が入力されており、CVTECU59からは第1アクチュエータ56および第2アクチュエータ57への駆動信号が出力されている。また、CVTECU59は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってCVT50の変速比を制御すると共に必要に応じてCVT50の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0020】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、回転数センサ61からのインプットシャフト51の回転数Niや回転数センサ62からのアウトプットシャフト52の回転数No,シフトレバー80の操作位置を検出するシフトポジションセンサ81からのシフトポジションSP,アクセルペダル82の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ83からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル84の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ85からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ86からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。また、ハイブリッド用電子制御ユニット70からは、クラッチC1やクラッチC2への駆動信号やブレーキB1への駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。また、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU29やモータECU49,CVTECU59と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU29やモータECU49,CVTECU59と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0021】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20では、ブレーキB1をオフ,クラッチC1をオン,クラッチC2をオフの状態でエンジン22を運転せずに二次電池44からの電力を用いて前輪用モータ40や後輪用モータ90からの動力によって走行するモータ走行モードや、ブレーキB1をオフ,クラッチC1およびクラッチC2をオンの状態でエンジン22からの動力と二次電池44の従放電を伴って入出力される前輪用モータ40,後輪用モータ90からの動力によって走行する通常走行モードなどにより走行する。実施例では、モータ走行モードは主として発進時に用いられ、通常走行モードは発進してから所定車速(例えば、10km/hなど)に至った以降に用いられる。なお、実施例では、通常走行モードで二次電池44を充電する際には、エンジン22からの動力の一部を用いて前輪用モータ40を発電機として駆動させて行なう。
【0022】
次に、通常走行モードで走行している実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に、巡航運転から加速する際の動作について説明する。図2は、通常走行モードで走行している最中にハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば、8msec毎)に繰り返し実行される。
【0023】
この駆動制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、アクセルペダルポジションセンサ83からのアクセル開度Accや車速センサ86からの車速V,回転数センサ61からのインプットシャフト51の回転数Ni,回転数センサ62からのアウトプットシャフト52からの回転数Noなど制御に必要な情報を読み込み(ステップS100)、読み込んだアクセル開度Accと車速Vとに基づいて運転者が要求する要求動力P*を設定する(ステップS102)。ここで、要求動力P*は、実施例では、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクとの関係を予め設定して要求トルク設定マップとしてROM74に記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられるとROM74に記憶された要求トルク設定マップから対応する要求トルクを導出し、これに車速Vと換算係数kpを乗じて求めるものとした。要求トルク設定マップの一例を図3に示す。
【0024】
要求動力P*を設定すると、要求動力P*に基づいてエンジン22から出力すべきエンジン要求動力Pe*を設定し(ステップS104)、設定したエンジン要求動力Pe*をエンジン22から効率よく出力できるエンジン22の運転ポイントとして目標トルクTe*と目標回転数Ni*とを設定する(ステップS106)。ここで、エンジン要求動力Pe*は、例えば、予め設定された要求動力P*とエンジン要求動力Pe*との関係から求めるものとしたり、この関係に二次電池44の残容量(SOC)に基づいてなされる充放電要求を考慮して求めるものとすることができる。実施例では、二次電池44の残容量(SOC)から二次電池44の充放電の必要がないと判断できるときには、要求動力P*のすべてをエンジン要求動力Pe*で賄うようにエンジン要求動力Pe*が設定される。即ち、要求動力P*をエンジン22からの動力が走行に用いられる際の効率で割ってエンジン要求動力Pe*を求めるのである。
【0025】
目標トルクTe*と目標回転数Ni*とを設定すると、目標回転数Ni*と回転数Niとの偏差を閾値Nirefと比較する(ステップS108)。ここで、閾値Nirefは、CVT50の変速比γの変更の応答遅れに対する動力の不足分を許容できる範囲、即ち、エンジン22から目標トルクTe*を出力したときにインプットシャフト51が回転数Niで回転しているときと目標回転数Ni*で回転しているときの動力偏差による加速の影響が許容できる範囲としてのインプットシャフト51の回転数差として設定されるものであり、CVT50の特性やエンジン22の特性などにより設定することができる。目標回転数Ni*と回転数Niとの偏差が閾値Niref以下のときには、巡航運転が続行されているか若干の増速の要求がなされているにすぎないと判断して、前輪用モータ40および後輪用モータ90のトルク指令Tm1*,Tm2*に値0を設定し(ステップS109)、設定した目標トルクTe*や目標回転数Ni*,トルク指令Tm1*,Tm2*でエンジン22やCVT50,前輪用モータ40,後輪用モータ90が運転されるように目標トルクTe*と回転数NiとをエンジンECU29に、目標回転数Ni*をCVTECU59に、トルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU49に出力して(ステップS116)、本ルーチンを終了する。なお、目標回転数Ni*を受信したCVTECU59は、インプットシャフト51の回転数Niが受信した目標回転数Ni*となるように第1アクチュエータ56および第2アクチュエータ57を駆動制御し、目標トルクTe*と回転数Niとを受信したエンジンECU29はエンジン22が目標トルクTe*と回転数Niとによる運転ポイントで運転されるよう燃料噴射制御や点火制御などを行ない、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU49は前輪用モータ40からトルク指令Tm1*のトルクが出力されると共に後輪用モータ90からトルク指令Tm2*のトルクが出力されるよう前輪用モータ40および後輪用モータ90を駆動制御する。
【0026】
目標回転数Ni*と回転数Niとの偏差が閾値Nirefより大きいときには、CVT50の変速比γの変更の応答遅れに対する動力の不足は許容できないと判断し、回転数Niに基づいてエンジン22の目標トルクTe*を再設定すると共に(ステップS110)、再設定された目標トルクTe*と回転数Niとの積を要求動力P*から減じて後輪用モータ90によりアシストすべき動力としてアシスト動力Pas*を設定する(ステップS112)。ここで、再設定される目標トルクTe*は、エンジン22を回転数Niで回転させたときにエンジン22が効率のよく運転されるトルクやこのトルクより若干大きなトルク、即ち、CVT50がその変速比γをインプットシャフト51が目標回転数Ni*となるよう変更している最中にエンジン22から出力されると推定される動力に対応するトルクとして設定される。そして、設定したアシスト動力Pas*を車速Vと換算係数vrを乗じたもので割って後輪用モータ90のトルク指令Tm2*を設定すると共に前輪用モータ40のトルク指令Tm1*に値0を設定し(ステップS114)、設定した目標トルクTe*や目標回転数Ni*,トルク指令Tm1*,Tm2*をエンジンECU29やCVTECU59,モータECU49に出力して(ステップS116)、本ルーチンを終了する。
【0027】
図4は、巡航運転から加速する際のアクセル開度Accと車速Vと要求動力P*とインプットシャフト51の回転数Niとエンジン22の目標トルクTe*と後輪用モータ90のトルク指令Tm2*の時間変化を示す説明図である。巡航運転していた運転者が時間t1にアクセルペダル82を踏み込むことによりアクセル開度Accが急増すると、これに伴って要求動力P*が急増し(ステップS102)、巡航運転していたときの回転数Niに比して大きな目標回転数Ni*が設定され(ステップS106)、CVT50はインプットシャフト51が目標回転数Ni*となるよう変速比γの変更(ダウンシフト)を所定時間経過した時間t2に開始する。このとき、エンジン22の目標トルクTe*には、回転数Niに基づいて目標トルクTe*が再設定されるから、直ちに目標トルクTe*が要求動力P*に対応したものにはならない(ステップS110)。後輪用モータ90は、再設定された目標トルクTe*と回転数Niとの積と要求動力P*との偏差であるアシスト動力Pas*に基づいて設定されるトルク指令Tm2*で駆動される(ステップS112,S114)。したがって、CVT50の変速比γの変更に時間を要するものとしても、アクセルペダル82を踏み込んだ直後から車両には要求動力P*が出力される。CVT50の変速比γが変更される時間t2から時間t3では、回転数Niの増加に伴って再設定される目標トルクTe*も増加するから、後輪用モータ90のトルク指令Tm2*は順次減少する。このとき、エンジン22の目標トルクTe*は、図5のエンジン22の運転ポイントを例示する説明図に示すように、回転数Niの増加に比して大きく増加するから、この運転ポイントの曲線に似た曲線を示すようになる。時間t3にCVT50の変速比γの変更が完了すると、要求動力P*のすべてがエンジン22からの動力により賄われるようエンジン要求動力Pe*が設定されるから(ステップS104)、後輪用モータ90のトルク指令Tm2*には値0が設定される。
【0028】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、通常走行モードで巡航運転している最中に運転者がアクセルペダル82を踏み込んだときには、CVT50の変速比γの変更(ダウンシフト)を完了するまでアクセルペダル82の踏み込み量に応じて設定される要求動力P*のうちエンジン22からの動力では賄うことができない動力をアシスト動力Pas*として設定し、これを後輪用モータ90から出力するから、要求動力P*を出力することができる。しかも、アシスト動力Pas*をCVT50の変速比γの変更(ダウンシフト)によって低回転高トルクの運転から高回転低トルクの運転まで強いられる前輪用モータ40に優先してこうした運転ポイントの急変が生じない後輪用モータ90から出力するから、効率の悪い運転ポイントで前輪用モータ40を運転させることがない。この結果、CVT50の変速比γの変更時における車両全体のエネルギ効率を向上させることができる。
【0029】
実施例のハイブリッド自動車20では、CVT50の変速比γの変更時におけるアシスト動力Pas*を後輪用モータ90から出力するものとしたが、前輪用モータ40に優先して後輪用モータ90から動力を出力するものであればよく、アシスト動力Pas*の一部を前輪用モータ40から出力するものとしてもよい。
【0030】
実施例のハイブリッド自動車20では、CVT50の変速時に運転者が要求する要求動力P*に対してエンジン22からの動力では賄うことができない動力については前輪用モータ40に優先して後輪用モータ90から出力する処理をCVT50のダウンシフトの際に適用するものとしたが、変速機50の変速比γが大きく変更する場合であればダウンシフトの際に限らず、アップシフトの際にも上述の処理を適用するものとしてもよい。
【0031】
実施例のハイブリッド自動車20では、CVT50の変速比γの変更時には、回転数Niに基づいてエンジン22の目標トルクTe*を再設定するものとし、この再設定した目標トルクTe*に回転数Niを乗じたものをエンジン22から出力される動力と推定してアシスト動力Pas*を設定したが、目標トルクTe*の再設定は行なわず、CVT50の変速比γの変更の最中にエンジン22から出力される動力と回転数Niとの関係を予め実験などにより求めてROM74にマップとして記憶しておき、回転数Niに基づいてマップからエンジン22から出力されているであろう動力を導出し、この動力を用いてアシスト動力Pas*を設定するものとしてもよい。
【0032】
実施例のハイブリッド自動車20では、CVT50の変速比γの変更が完了するまでアシスト動力Pas*を後輪用モータ90から出力するものとしたが、CVT50の変速比γの変更が完了する若干前からアシスト動力Pas*を前輪用モータ40と後輪用モータ90とから出力するよう変更したり、あるいは、前輪用モータ40のみから出力するように変更するものとしてもよい。
【0033】
実施例のハイブリッド自動車20では、目標回転数Ni*と回転数Niとの偏差が閾値Nirefより大きいときにアシスト動力Pas*を後輪用モータ90から出力するものとしたが、目標回転数Ni*と回転数Niとの偏差の大きさに拘わらず、CVT50の変速比γを変更する際はアシスト動力Pas*を後輪用モータ90から出力するものとしてもよい。
【0034】
実施例のハイブリッド自動車20では、図2に例示する駆動制御ルーチンで二次電池44の充放電がない場合について説明したが、二次電池44の充放電がある場合には、充放電に用いる動力の分だけエンジン要求動力Pe*を増減して計算すればよい。
【0035】
実施例のハイブリッド自動車20では、無段変速機としてベルト式のCVT50を用いたが、トロイダル式の無段変速機としてもよい。また、変速機は、無段変速機に限られるものではなく、有段変速機であっても構わない。
【0036】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22と前輪用モータ40とをCVT50を介して前輪66a,66bの車軸に接続すると共に後輪用モータ90を後輪96a,96bの車軸に接続した構成としたが、エンジンとモータとをCVTを介して後輪の車軸に接続すると共にモータを前輪の車軸に接続するものとしてもよい。
【0037】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22と前輪用モータ40とをCVT50を介して前輪66a,66bの車軸に接続すると共に後輪用モータ90を後輪96a,96bの車軸に接続した構成としたが、後輪用モータ90は、前輪66a,66bの車軸に接続するものとしてもよい。即ち後輪用モータ90をアウトプットシャフト52に接続するものとしてもよいのである。
【0038】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例であるハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】 ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】 要求トルク設定マップの一例を示す説明図である。
【図4】 巡航運転から加速する際のアクセル開度Accと車速Vと要求動力P*とインプットシャフト51の回転数Niとエンジン22の目標トルクTe*と後輪用モータ90のトルク指令Tm2*の時間変化を示す説明図である。
【図5】 エンジン22の運転ポイントを示す説明図である。
【符号の説明】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 クランクシャフト、26スタータモータ、28 ベルト、29 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、30 プラネタリギヤ、31 サンギヤ、32 リングギヤ、33第1ピニオンギヤ、34 第2ピニオンギヤ、35 キャリア、39 ケース、40 前輪用モータ、41 回転軸、43 インバータ、44 二次電池、45 回転位置検出センサ、46 電圧センサ、47 電流センサ、48 温度センサ、49 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、50 CVT、51インプットシャフト、52 アウトプットシャフト、53 プライマリープーリー、54 セカンダリープーリー、55 ベルト、56 第1アクチュエータ、57 第2アクチュエータ、59 CVT用電子制御ユニット(CVTECU)、61 回転数センサ、62 回転数センサ、64 ディファレンシャルギヤ、66a,66b 前輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 シフトレバー、81 シフトポジションセンサ、82 アクセルペダル、83 アクセルペダルポジションセンサ、84 ブレーキペダル、85 ブレーキペダルポジションセンサ、86 車速センサ、90 後輪用モータ、91 インバータ、93 回転位置検出センサ、94ディファレンシャルギヤ、96a,96b 後輪、B1 ブレーキ、C1,C2 クラッチ。

Claims (7)

  1. 内燃機関および第1電動機から変速機を介して出力される動力と第2電動機から該変速機を介さずに出力される動力とにより走行可能なハイブリッド自動車であって、
    運転者のアクセル操作に基づいて要求動力を設定する要求動力設定手段と、
    該設定された要求動力に基づいて前記内燃機関から出力すべき目標動力と前記変速機の目標変速比とを設定する目標値設定手段と、
    前記設定された目標動力が出力されるよう該内燃機関を運転制御すると共に前記設定された目標変速比となるよう前記変速機を駆動制御し、前記設定された要求動力のうち該内燃機関から出力される動力では不足する動力が前記第1電動機および/または前記第2電動機から出力されるよう該第1電動機および該第2電動機を駆動制御する制御手段と、
    を備え、
    前記制御手段は、前記目標値設定手段により前記要求動力の急変に伴って前記目標変速比が所定値以上変更されるよう設定された急変更設定時には、前記要求動力の急変のときから前記変速機の変速比が前記目標変速比の近傍に達するまで、前記不足する動力が前記第1電動機に優先して前記第2電動機から出力されるよう該第1電動機および該第2電動機を駆動制御する手段である
    ハイブリッド自動車。
  2. 前記急変更設定時は、前記要求動力の急増に伴って前記変速機がダウンシフトされる時である請求項1記載のハイブリッド自動車。
  3. 前記制御手段は、前記急変更設定時には、前記不足する動力が前記第2電動機から出力されるよう該第1電動機および該第2電動機を駆動制御する手段である請求項1または2記載のハイブリッド自動車。
  4. 前記制御手段は、前記急変更設定時における前記変速機の変速比の変更の際に推定される前記内燃機関から出力される動力に基づいて前記不足する動力を設定すると共に該設定した不足する動力が前記第1電動機に優先して前記第2電動機から出力されるよう該第1
    電動機および該第2電動機を駆動制御する手段である請求項1ないし3いずれか記載のハイブリッド自動車。
  5. 前記第2電動機は前記変速機が接続されている車軸とは異なる車軸に接続されてなる請求項1ないし4いずれか記載のハイブリッド自動車。
  6. 前記変速機は無段変速機である請求項1ないし5いずれか記載のハイブリッド自動車。
  7. 内燃機関および第1電動機から変速機を介して出力される動力と第2電動機から該変速機を介さずに出力される動力とにより走行可能なハイブリッド自動車の制御方法であって、
    (a)運転者のアクセル操作に基づいて要求動力を設定し、
    (b)該設定された要求動力に基づいて前記内燃機関から出力すべき目標動力と前記変速機の目標変速比とを設定し、
    (c)前記設定された目標動力が出力されるよう該内燃機関を運転制御すると共に前記設定された目標変速比となるよう前記変速機を駆動制御し、
    (d)前記設定された要求動力のうち該内燃機関から出力される動力では不足する動力が前記第1電動機および/または前記第2電動機から出力されるよう該第1電動機および該第2電動機を駆動制御し、
    (e)前記要求動力の急変に伴って前記目標変速比が所定値以上変更されたときには、前記要求動力の急変のときから前記変速機の変速比が前記目標変速比の近傍に達するまでは、前記ステップ(d)に代えて、前記不足する動力が前記第1電動機に優先して前記第2電動機から出力されるよう該第1電動機および該第2電動機を駆動制御する
    ハイブリッド自動車の制御方法。
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