JP3877303B2 - タングステン重合金からなる振動子 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、携帯電話等に内臓される振動発生装置用のタングステン重合金からなる振動子の構成、特にニッケルメッキ層に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、普及されている携帯電話に内臓される振動発生装置用の振動子部材として、特に比重17.5〜18.5という高比重のタングステン重合金が広く用いられている。
【0003】
タングステン重合金としては、主組成がW-Ni-Cu系、W-Ni-Fe系及びW-Mo-Ni-Fe系からなるものが知られており、これからなる振動子は従来からいわゆる粉末冶金法により製造されている。すなわち、振動子は、W粉末にNi、Cu、Fe、Mo等の粉末を添加した混合粉末を扇状に加圧成形したものを、1300〜1500℃の高温で焼結するものである。ここで、通常のタングステン重合金は、高比重を得るためにW組成が90〜98wt%の範囲に設定され、一方残りが添加金属組成から構成されている。そして、添加金属は、焼結時に液相を発生させて合金の高密度化を図り、また材料としての靭性を高める機能を果たすものである。そして、かかる振動子が、通常は振動発生装置内の小型モータの回転軸にいわゆる加締めにより固定されている。
【0004】
上記携帯電話に用いられるタングステン重合金からなる振動子は、従来から規定の環境試験に耐えうる耐食性を有することが求められてきた。ここで、タングステン重合金は、例えば硫化水素及び亜硫酸試験等の酸あるいはアルカリに対しては充分な耐食性を有するが、一方で特に高温高湿試験では水酸化タングステン及び酸化タングステンが生成されるなど腐食されやすことが知られている。従って、通常の上記振動子に用いるタングステン重合金の表面にはいわゆるニッケルメッキ層を形成することにより、その高温高湿試験での腐食防止が図られてきた。
上記の高温高湿試験の従来条件は、振動子がモーターの回転軸に加締められた形態において、例えば40℃/90%×1000hrsであり、この試験で腐食が発生しないことが求められてきた。ここで、特に回転軸に加締められた振動子を試験するのは、加締めにより振動子表面のニッケルメッキ層がマイクロクラック等の損傷をうけて、これが腐食を引き起こす主要因となりうるからである。
【0005】
上記振動子のタングステン重合金へのニッケルメッキ層の形成には、従来はいわゆる電解メッキ法及び無電解メッキ法の2つが適用されてきた。そして、前記の従来条件下での高温高湿試験に対しては、両者いずれの方法によっても充分な耐食性を有するニッケルメッキ層を比較的容易に形成することができた。
【0006】
ところで、前者の電解メッキ法は、一般的に合金へのニッケルメッキ層の密着性に優れているが、メッキ層厚の不均一やピンホール発生などの緻密性に劣るといわれている。一方、後者の無電解メッキ法は、前者とは対照的に、緻密性に優れているが密着性に劣るといわれている。そして、密着性と緻密性がともに優れたニッケルメッキ層を形成する方法として、特に第1層目に密着性に優れた電解メッキ層を形成し、次いで第2層目に緻密性に優れた無電解メッキ層を形成する、という2層メッキ法が提示されている(特開平7−224345号公報)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
最近、携帯電話に内臓される振動子の高温高湿試験に関して、特にIEC−68−2−30規定の試験条件にも耐食性を保つことが求められている。具体的には、振動子がモーターの回転軸に加締められた形態において、1サイクルが25℃/95%×12hrs―55℃/95%×12hrsの試験サイクルを合計35回継続する、という試験条件である。これは、腐食発生に対して前記従来条件に比べてより厳しいものである。
【0008】
そこで本発明者は、従来技術の電解メッキ法及び無電解メッキ法、更には前記2層メッキ法よってタングステン重合金の表面にニッケルメッキ層を形成した振動子について、実際に上記条件での高温高湿試験を行ってみた。この結果、従来技術のメッキ方法で形成されたニッケルメッキ層は、いずれも振動子の腐食を防止できないことがわかった。
【0009】
以上より、今後とも携帯電話にタングステン重合金からなる振動子を適用していくには、特にIEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件に耐えうるような耐食性を有するニッケルメッキ層を形成できる手段を見い出す、ことが主要な課題といえる。
【0010】
本発明は、携帯電話等に内臓される振動発生装置用のタングステン重合金からなる振動子において、特に振動子表面にIEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件に耐えうるような耐食性を有するニッケルメッキ層の構成及び形成方法を見い出し、これにより腐食のない高品質のタングステン重合金からなる振動子を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明の振動子は、本体部材がタングステン重合金からなり、表面にニッケルメッキ層が形成されている振動子であって、前記振動子表面には少なくとも2層の複数層からなるニッケルメッキ層が形成されており、前記ニッケルメッキ層の第1層目には無電解メッキ法によるニッケルメッキ層が形成され、前記第2層目以上は無電解及び電解メッキから選ばれる少なくとも一つニッケルメッキ層が形成されていることを特徴とする。これにより、特に第1メッキ層におけるピンホール等の損傷発生が基本的に防止され、結果としてIEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件にも耐えうるような耐食性を有するニッケルメッキ層が比較的容易に形成できる。前記において、「タングステン重合金」とは、比重17.5〜18.5の高比重タングステン合金をいう。
【0012】
本発明においては、前記ニッケルメッキ層が熱処理されていることが好ましい。これにより、特に母材(タングステン重合金)と第1層目の前記無電解メッキ層の密着性が改善され、併せてニッケルメッキ層全体の延性も高められ、よって加締めにおけるマイクロクラック等の損傷発生が抑制できる。この結果、IEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件に耐えうるような耐食性を有するニッケルメッキ層が形成できて、最終的に腐食のない高品質のタングステン重合金からなる振動子が得られる。
【0013】
また、前記ニッケルメッキ層形成前の振動子の表面が粗面化されていることが好ましい。前記粗面化は、電解脱脂洗浄またはケミカルエッチング加工による凹凸付けであることが好ましい。これにより、特に母材(タングステン重合金)と第1層目の前記無電解メッキ層との密着性が一層改善できて、結果としてIEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件にも耐えうるような耐食性を有するニッケルメッキ層が比較的容易に形成できる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図1から図2を用いて説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態である携帯電話等に内臓される振動発生装置用の振動子の組立構成を示す。
【0016】
振動子1は、組成W95%-Ni3%-Cu2%(但し、各組成は重量%)で比重18.2のタングステン重合金から構成されており、これは従来技術の前記粉末冶金法により製造されたものである。振動子1のタングステン重合金表面には、ニッケルメッキ層2が形成されている。振動子1の形状は、半径Rが3mm、円周長Lが3.7mm及び肉厚tが3mmの扇状をなしており、その中心部には取付溝3が設けられている。そして、小型モーター4の回転軸5が上記取付溝3に挿入・加締められることで、振動子1は小型モーター4に固定・装着されている。
【0017】
本発明者は、上記振動子1がモーター4の回転軸5に加締められた形態において、IEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件に耐えうるような耐食性を有するニッケルメッキ層2を実現するために、その構成及び形成方法の両面から詳しく検討した。
この結果、(1)図2に示すように、ニッケルメッキ層2は基本的に少なくとも2層の複数層2a、2b、2c・・からなり、ここで特にその第1層目には無電解メッキ法によるニッケルメッキ層2aを、第2層目からは無電解及び電解メッキのいずれかの方法によるニッケルメッキ層2b、2c・・をそれぞれ形成し、(2)次いで形成した複数層からなる上記ニッケルメッキ層2には、下記(iii)に詳述する適切な熱処理を行う、という2つの手段を組合せることにより、目的とする腐食のない高品質のタングステン重合金からなる振動子1が得られるを確かめた。
【0018】
本発明者の解析によると、上項(1)でニッケルメッキ層2を複数層により段階的な一種の境界をなして形成することにより、振動子1の加締めで上側のメッキ層にマイクロクラック等の損傷が発生しても、これが下側のメッキ層へと伝播することが抑制されて、第1層目の無電解メッキ層2aは損傷から保護できることがわかった。
【0019】
また、同じく上項(1)で第1層目に無電解メッキ層2aを形成することにより、特に電解メッキ層に比べてより均一でピンホール等の損傷のない緻密なメッキ層が得られた。一方、上項(2)で最終的にニッケルメッキ層2を下記(iii)に詳述する熱処理をすることにより、特に第1層目の無電解メッキ層2aで電解メッキ層に比べて劣るところの密着性が改善されるとともに、併せてメッキ層2全体の延性が高められて、加締めにおけるマイクロクラック等の損傷発生が抑制できることがわかった。結局、上記本実施形態によるニッケルメッキ層2の特徴は、第1層目に基本的に緻密性に優れ、かつ熱処理により密着性が改善された無電解メッキ層2aを形成したことであり、これが前記従来技術による第1層目に電解メッキ層を形成した2層メッキ構成と異なる点である。
【0020】
なお、本発明者による予備検討では、第1層目に電解メッキ層を形成したいずれのニッケルメッキ層ともIEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件に耐えうるような耐食性を有するものが得られなかった。これは、電解メッキ層では層厚が不均一でピンホール等の損傷が不可避、という元来の欠点に起因するといえる。
【0021】
上記ニッケルメッキ層2の形成は、下記のメッキ前処理−メッキ形成−熱処理という3つの一連の工程で行った。
【0022】
(i) メッキ前処理
タングステン重合金からなる振動子1のメッキ前処理として、(a)まず従来からのいわゆるカセイソーダ溶液などによるアルカリ脱脂洗浄と塩酸活性洗浄に加えて、特に電解脱脂洗浄も行い、次いで(b)振動子1表面の凹凸付けのために、特にフェリシアン化カリ、弗硝酸あるいは過酸化水素溶液によるエッチング加工を行い、更に(c)いわゆる電解ニッケルストライク処理として通常の0.1μmの電解ニッケルメッキ層を形成した。ここで、本発明者による検討結果では、上記のエッチング加工等による振動子1表面の凹凸付け(表面粗度Ra0.1〜0.5μm、表面部を断面方向から走査電子顕微鏡で観察して測定。)は、特に本実施形態における第1層目の無電解メッキ層2aの密着性の改善に有効であった。
【0023】
(ii)メッキ形成
上記ニッケルメッキ層2の形成には、従来から公知の方法を用いた。具体的には、まず無電解メッキでは主成分となる金属塩として硫酸ニッケル、還元剤として次亜りん酸ナトリウム等を溶解させた適正なメッキ浴中に振動子1を浸して化学反応により振動子1の表面にNiを析出させるいう方法。また、電解メッキでは硫酸ニッケルを主成分としたワット浴中に浸した振動子1をカソードとし、適正な電流密度範囲で動作させ振動子1の表面にNiを析出させるという方法をそれぞれ適用した。そして、上記の各メッキ層厚としては、第1層目の無電解メッキ層2aは0.5〜3.0μmの範囲に、第2層目からの無電解及び電解いずれかのメッキ層2b、2c・・は1〜7μmの範囲に、かつ全体のニッケルメッキ層2の層厚は1.5〜10.0μmの範囲にそれぞれ設定した。ここで、特に第1層目の無電解メッキ層の層厚を第2層目からの値に比べて小さく設定しており、これは振動子1表面への第1層目の無電解メッキ層の密着性を高めるためである。
【0024】
(iii)熱処理
複数層のニッケルメッキ層2が形成された振動子1は、600〜900℃の温度範囲で、アルゴンガス、グリーンガスあるいは水素などの非酸化性ガス雰囲気あるいは真空中において処理時間が10分以上の熱処理を行った。これにより、特に第1層目の無電解メッキ層2aの密着性を改善するとともに、併せてメッキ層2全体の延性も高め、よって加締めにおけるマイクロクラック等の損傷発生を抑制できた。
【0025】
上記本発明の有効性を再確認するために、上記本実施形態による典型的な構成として、第1及び第1層目がともに無電解メッキ層2a、2bからなる2層のニッケルメッキ層2を形成した振動子1を準備し、IEC−68−2−30規定の高温高湿試験を行った。具体的には、振動子がモーターの回転軸に加締められた形態において、1サイクルが25℃/95%×12hrs―55℃/95%×12hrsの試験サイクルを合計35回継続する、という試験条件である。ここで、第1及び第2層目の無電解メッキ層2a、2bの層厚はそれぞれ1.5μm及び3.5μmに設定した。また、メッキ形成後の振動子1について、温度750℃の水素雰囲気中で15分間の熱処理を行った。そして、メッキ形成前の振動子1については、アルカリ脱脂洗浄−電解脱脂洗浄−フェリシアン化カリ溶液によるエッチング加工−塩酸活性洗浄―電解ニッケルストライク処理からなる一連のメッキ前処理を行った。
【0026】
上記ニッケルメッキ層2を形成した振動子1をモーター4の回転軸5に加締められた形態において、上記高温高湿試験を行った。この結果、振動子1には腐食は発生せず、よって本実施形態によるニッケルメッキ層2は目的とする優れた耐食性を有することが再確認できた。
【0027】
以上のように、携帯電話等に内臓されるタングステン重合金からなる振動子において、特に振動子表面に上記本実施形態によるニッケルメッキ層を形成することにより、IEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件に耐えうるような優れた耐食性を有する振動子が実現できる。
【0028】
【発明の効果】
本発明によれば、携帯電話等に内臓されるタングステン重合金からなる振動子において、特に振動子表面にIEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件に耐えうるような耐食性を有するニッケルメッキ層が形成できて、よって腐食のない高品質のタングステン重合金からなる振動子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態であるニッケルメッキ層を形成した振動子の組立構成図
【図2】本発明の実施の形態であるニッケルメッキ層の構成図
【符号の説明】
1 振動子
2 ニッケルメッキ層
2a,2b ニッケルメッキ層の複数層
3 取付孔
4 モーター
5 回転軸
【発明の属する技術分野】
本発明は、携帯電話等に内臓される振動発生装置用のタングステン重合金からなる振動子の構成、特にニッケルメッキ層に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、普及されている携帯電話に内臓される振動発生装置用の振動子部材として、特に比重17.5〜18.5という高比重のタングステン重合金が広く用いられている。
【0003】
タングステン重合金としては、主組成がW-Ni-Cu系、W-Ni-Fe系及びW-Mo-Ni-Fe系からなるものが知られており、これからなる振動子は従来からいわゆる粉末冶金法により製造されている。すなわち、振動子は、W粉末にNi、Cu、Fe、Mo等の粉末を添加した混合粉末を扇状に加圧成形したものを、1300〜1500℃の高温で焼結するものである。ここで、通常のタングステン重合金は、高比重を得るためにW組成が90〜98wt%の範囲に設定され、一方残りが添加金属組成から構成されている。そして、添加金属は、焼結時に液相を発生させて合金の高密度化を図り、また材料としての靭性を高める機能を果たすものである。そして、かかる振動子が、通常は振動発生装置内の小型モータの回転軸にいわゆる加締めにより固定されている。
【0004】
上記携帯電話に用いられるタングステン重合金からなる振動子は、従来から規定の環境試験に耐えうる耐食性を有することが求められてきた。ここで、タングステン重合金は、例えば硫化水素及び亜硫酸試験等の酸あるいはアルカリに対しては充分な耐食性を有するが、一方で特に高温高湿試験では水酸化タングステン及び酸化タングステンが生成されるなど腐食されやすことが知られている。従って、通常の上記振動子に用いるタングステン重合金の表面にはいわゆるニッケルメッキ層を形成することにより、その高温高湿試験での腐食防止が図られてきた。
上記の高温高湿試験の従来条件は、振動子がモーターの回転軸に加締められた形態において、例えば40℃/90%×1000hrsであり、この試験で腐食が発生しないことが求められてきた。ここで、特に回転軸に加締められた振動子を試験するのは、加締めにより振動子表面のニッケルメッキ層がマイクロクラック等の損傷をうけて、これが腐食を引き起こす主要因となりうるからである。
【0005】
上記振動子のタングステン重合金へのニッケルメッキ層の形成には、従来はいわゆる電解メッキ法及び無電解メッキ法の2つが適用されてきた。そして、前記の従来条件下での高温高湿試験に対しては、両者いずれの方法によっても充分な耐食性を有するニッケルメッキ層を比較的容易に形成することができた。
【0006】
ところで、前者の電解メッキ法は、一般的に合金へのニッケルメッキ層の密着性に優れているが、メッキ層厚の不均一やピンホール発生などの緻密性に劣るといわれている。一方、後者の無電解メッキ法は、前者とは対照的に、緻密性に優れているが密着性に劣るといわれている。そして、密着性と緻密性がともに優れたニッケルメッキ層を形成する方法として、特に第1層目に密着性に優れた電解メッキ層を形成し、次いで第2層目に緻密性に優れた無電解メッキ層を形成する、という2層メッキ法が提示されている(特開平7−224345号公報)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
最近、携帯電話に内臓される振動子の高温高湿試験に関して、特にIEC−68−2−30規定の試験条件にも耐食性を保つことが求められている。具体的には、振動子がモーターの回転軸に加締められた形態において、1サイクルが25℃/95%×12hrs―55℃/95%×12hrsの試験サイクルを合計35回継続する、という試験条件である。これは、腐食発生に対して前記従来条件に比べてより厳しいものである。
【0008】
そこで本発明者は、従来技術の電解メッキ法及び無電解メッキ法、更には前記2層メッキ法よってタングステン重合金の表面にニッケルメッキ層を形成した振動子について、実際に上記条件での高温高湿試験を行ってみた。この結果、従来技術のメッキ方法で形成されたニッケルメッキ層は、いずれも振動子の腐食を防止できないことがわかった。
【0009】
以上より、今後とも携帯電話にタングステン重合金からなる振動子を適用していくには、特にIEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件に耐えうるような耐食性を有するニッケルメッキ層を形成できる手段を見い出す、ことが主要な課題といえる。
【0010】
本発明は、携帯電話等に内臓される振動発生装置用のタングステン重合金からなる振動子において、特に振動子表面にIEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件に耐えうるような耐食性を有するニッケルメッキ層の構成及び形成方法を見い出し、これにより腐食のない高品質のタングステン重合金からなる振動子を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明の振動子は、本体部材がタングステン重合金からなり、表面にニッケルメッキ層が形成されている振動子であって、前記振動子表面には少なくとも2層の複数層からなるニッケルメッキ層が形成されており、前記ニッケルメッキ層の第1層目には無電解メッキ法によるニッケルメッキ層が形成され、前記第2層目以上は無電解及び電解メッキから選ばれる少なくとも一つニッケルメッキ層が形成されていることを特徴とする。これにより、特に第1メッキ層におけるピンホール等の損傷発生が基本的に防止され、結果としてIEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件にも耐えうるような耐食性を有するニッケルメッキ層が比較的容易に形成できる。前記において、「タングステン重合金」とは、比重17.5〜18.5の高比重タングステン合金をいう。
【0012】
本発明においては、前記ニッケルメッキ層が熱処理されていることが好ましい。これにより、特に母材(タングステン重合金)と第1層目の前記無電解メッキ層の密着性が改善され、併せてニッケルメッキ層全体の延性も高められ、よって加締めにおけるマイクロクラック等の損傷発生が抑制できる。この結果、IEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件に耐えうるような耐食性を有するニッケルメッキ層が形成できて、最終的に腐食のない高品質のタングステン重合金からなる振動子が得られる。
【0013】
また、前記ニッケルメッキ層形成前の振動子の表面が粗面化されていることが好ましい。前記粗面化は、電解脱脂洗浄またはケミカルエッチング加工による凹凸付けであることが好ましい。これにより、特に母材(タングステン重合金)と第1層目の前記無電解メッキ層との密着性が一層改善できて、結果としてIEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件にも耐えうるような耐食性を有するニッケルメッキ層が比較的容易に形成できる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図1から図2を用いて説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態である携帯電話等に内臓される振動発生装置用の振動子の組立構成を示す。
【0016】
振動子1は、組成W95%-Ni3%-Cu2%(但し、各組成は重量%)で比重18.2のタングステン重合金から構成されており、これは従来技術の前記粉末冶金法により製造されたものである。振動子1のタングステン重合金表面には、ニッケルメッキ層2が形成されている。振動子1の形状は、半径Rが3mm、円周長Lが3.7mm及び肉厚tが3mmの扇状をなしており、その中心部には取付溝3が設けられている。そして、小型モーター4の回転軸5が上記取付溝3に挿入・加締められることで、振動子1は小型モーター4に固定・装着されている。
【0017】
本発明者は、上記振動子1がモーター4の回転軸5に加締められた形態において、IEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件に耐えうるような耐食性を有するニッケルメッキ層2を実現するために、その構成及び形成方法の両面から詳しく検討した。
この結果、(1)図2に示すように、ニッケルメッキ層2は基本的に少なくとも2層の複数層2a、2b、2c・・からなり、ここで特にその第1層目には無電解メッキ法によるニッケルメッキ層2aを、第2層目からは無電解及び電解メッキのいずれかの方法によるニッケルメッキ層2b、2c・・をそれぞれ形成し、(2)次いで形成した複数層からなる上記ニッケルメッキ層2には、下記(iii)に詳述する適切な熱処理を行う、という2つの手段を組合せることにより、目的とする腐食のない高品質のタングステン重合金からなる振動子1が得られるを確かめた。
【0018】
本発明者の解析によると、上項(1)でニッケルメッキ層2を複数層により段階的な一種の境界をなして形成することにより、振動子1の加締めで上側のメッキ層にマイクロクラック等の損傷が発生しても、これが下側のメッキ層へと伝播することが抑制されて、第1層目の無電解メッキ層2aは損傷から保護できることがわかった。
【0019】
また、同じく上項(1)で第1層目に無電解メッキ層2aを形成することにより、特に電解メッキ層に比べてより均一でピンホール等の損傷のない緻密なメッキ層が得られた。一方、上項(2)で最終的にニッケルメッキ層2を下記(iii)に詳述する熱処理をすることにより、特に第1層目の無電解メッキ層2aで電解メッキ層に比べて劣るところの密着性が改善されるとともに、併せてメッキ層2全体の延性が高められて、加締めにおけるマイクロクラック等の損傷発生が抑制できることがわかった。結局、上記本実施形態によるニッケルメッキ層2の特徴は、第1層目に基本的に緻密性に優れ、かつ熱処理により密着性が改善された無電解メッキ層2aを形成したことであり、これが前記従来技術による第1層目に電解メッキ層を形成した2層メッキ構成と異なる点である。
【0020】
なお、本発明者による予備検討では、第1層目に電解メッキ層を形成したいずれのニッケルメッキ層ともIEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件に耐えうるような耐食性を有するものが得られなかった。これは、電解メッキ層では層厚が不均一でピンホール等の損傷が不可避、という元来の欠点に起因するといえる。
【0021】
上記ニッケルメッキ層2の形成は、下記のメッキ前処理−メッキ形成−熱処理という3つの一連の工程で行った。
【0022】
(i) メッキ前処理
タングステン重合金からなる振動子1のメッキ前処理として、(a)まず従来からのいわゆるカセイソーダ溶液などによるアルカリ脱脂洗浄と塩酸活性洗浄に加えて、特に電解脱脂洗浄も行い、次いで(b)振動子1表面の凹凸付けのために、特にフェリシアン化カリ、弗硝酸あるいは過酸化水素溶液によるエッチング加工を行い、更に(c)いわゆる電解ニッケルストライク処理として通常の0.1μmの電解ニッケルメッキ層を形成した。ここで、本発明者による検討結果では、上記のエッチング加工等による振動子1表面の凹凸付け(表面粗度Ra0.1〜0.5μm、表面部を断面方向から走査電子顕微鏡で観察して測定。)は、特に本実施形態における第1層目の無電解メッキ層2aの密着性の改善に有効であった。
【0023】
(ii)メッキ形成
上記ニッケルメッキ層2の形成には、従来から公知の方法を用いた。具体的には、まず無電解メッキでは主成分となる金属塩として硫酸ニッケル、還元剤として次亜りん酸ナトリウム等を溶解させた適正なメッキ浴中に振動子1を浸して化学反応により振動子1の表面にNiを析出させるいう方法。また、電解メッキでは硫酸ニッケルを主成分としたワット浴中に浸した振動子1をカソードとし、適正な電流密度範囲で動作させ振動子1の表面にNiを析出させるという方法をそれぞれ適用した。そして、上記の各メッキ層厚としては、第1層目の無電解メッキ層2aは0.5〜3.0μmの範囲に、第2層目からの無電解及び電解いずれかのメッキ層2b、2c・・は1〜7μmの範囲に、かつ全体のニッケルメッキ層2の層厚は1.5〜10.0μmの範囲にそれぞれ設定した。ここで、特に第1層目の無電解メッキ層の層厚を第2層目からの値に比べて小さく設定しており、これは振動子1表面への第1層目の無電解メッキ層の密着性を高めるためである。
【0024】
(iii)熱処理
複数層のニッケルメッキ層2が形成された振動子1は、600〜900℃の温度範囲で、アルゴンガス、グリーンガスあるいは水素などの非酸化性ガス雰囲気あるいは真空中において処理時間が10分以上の熱処理を行った。これにより、特に第1層目の無電解メッキ層2aの密着性を改善するとともに、併せてメッキ層2全体の延性も高め、よって加締めにおけるマイクロクラック等の損傷発生を抑制できた。
【0025】
上記本発明の有効性を再確認するために、上記本実施形態による典型的な構成として、第1及び第1層目がともに無電解メッキ層2a、2bからなる2層のニッケルメッキ層2を形成した振動子1を準備し、IEC−68−2−30規定の高温高湿試験を行った。具体的には、振動子がモーターの回転軸に加締められた形態において、1サイクルが25℃/95%×12hrs―55℃/95%×12hrsの試験サイクルを合計35回継続する、という試験条件である。ここで、第1及び第2層目の無電解メッキ層2a、2bの層厚はそれぞれ1.5μm及び3.5μmに設定した。また、メッキ形成後の振動子1について、温度750℃の水素雰囲気中で15分間の熱処理を行った。そして、メッキ形成前の振動子1については、アルカリ脱脂洗浄−電解脱脂洗浄−フェリシアン化カリ溶液によるエッチング加工−塩酸活性洗浄―電解ニッケルストライク処理からなる一連のメッキ前処理を行った。
【0026】
上記ニッケルメッキ層2を形成した振動子1をモーター4の回転軸5に加締められた形態において、上記高温高湿試験を行った。この結果、振動子1には腐食は発生せず、よって本実施形態によるニッケルメッキ層2は目的とする優れた耐食性を有することが再確認できた。
【0027】
以上のように、携帯電話等に内臓されるタングステン重合金からなる振動子において、特に振動子表面に上記本実施形態によるニッケルメッキ層を形成することにより、IEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件に耐えうるような優れた耐食性を有する振動子が実現できる。
【0028】
【発明の効果】
本発明によれば、携帯電話等に内臓されるタングステン重合金からなる振動子において、特に振動子表面にIEC−68−2−30規定の高温高湿試験条件に耐えうるような耐食性を有するニッケルメッキ層が形成できて、よって腐食のない高品質のタングステン重合金からなる振動子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態であるニッケルメッキ層を形成した振動子の組立構成図
【図2】本発明の実施の形態であるニッケルメッキ層の構成図
【符号の説明】
1 振動子
2 ニッケルメッキ層
2a,2b ニッケルメッキ層の複数層
3 取付孔
4 モーター
5 回転軸
Claims (4)
- 本体部材がタングステン重合金からなり、表面にニッケルメッキ層が形成されている振動子であって、
前記振動子表面には少なくとも2層の複数層からなるニッケルメッキ層が形成されており、
前記ニッケルメッキ層の第1層目には無電解メッキ法によるニッケルメッキ層が形成され、前記第2層目以上は無電解及び電解メッキから選ばれる少なくとも一つのニッケルメッキ層が形成されていることを特徴とする振動子。 - 前記ニッケルメッキ層が熱処理されている請求項1に記載の振動子。
- 前記ニッケルメッキ層形成前の振動子の表面が粗面化されている請求項1または2に記載の振動子。
- 前記粗面化が、電解脱脂洗浄またはケミカルエッチング加工による凹凸付けである請求項3に記載の振動子。
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