JP3856066B2 - 弾性体の反発特性評価方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、球技用ボールを打撃手段で打撃したときのボールあるいは打撃手段の反発特性を評価する弾性体の反発特性評価方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば、ゴルフボールの飛距離は、ボールの反発特性に大きく左右される。このボールの反発特性を評価する基準として、従来、剛壁に対するボールの反発係数が用いられている。ここでは、クラブヘッドを剛体とみなしてクラブによる打撃を剛壁に対する衝突現象に置き換えて評価を行っている。
【0003】
一方、クラブヘッドについては、従来、パーシモンや中実なスチール製のものが一般的であったためにその弾性変形特性は特に問題とされず、それを評価する一般的な基準はなかったが、近年、中空金属製のものが普及するようになり、ヘッド性能を評価する上で弾性変形特性が注目されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかるに、上記の剛壁に対するボールの反発係数は、衝突前後のボール速度の比で定義され、これを得るにはボール速度を実測する必要がある。しかし、高速に運動するボールの速度測定は面倒で計測誤差が大きく、しかもボール重量のばらつきを考慮し得ない等の問題がある。さらに、実際にクラブでボールを打撃する場合、上記のような中空金属製のクラブヘッドではその弾性変形特性がボールの飛距離に大きく影響することから、より適切な評価を行うためにはヘッドの特性を含めた総合的な評価基準が必要である。
【0005】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、計測作業が簡易で済み、かつ適切な評価結果を得ることの可能な弾性体の反発特性評価方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このような目的を果たすために、本発明においては、弾性体としてのボールを剛体とみなした打撃手段で打撃したときの反発特性を評価する弾性体の反発特性評価方法において、ボールに径方向の圧縮荷重を加える圧縮試験を行い、この圧縮試験と実際の打撃現象との間のボールの変形状態の相違に基づいて、圧縮試験で得られた負荷時並びに除荷時の荷重・たわみ曲線より求められる吸収エネルギー並びに放出エネルギーをそれぞれ衝突前後の運動エネルギーに換算してボールの反発係数を得るものとした。なお、この反発係数は、ボールを剛壁に衝突させた際の衝突前後の相対速度の比で表されるものである。
【0007】
また、本発明においては、弾性体としてのボールを弾性を有する打撃手段で打撃したときの反発特性を評価する弾性体の反発特性評価方法において、ボールと打撃手段の打撃面とを当接させて打撃方向の荷重を加える圧縮試験を行い、この圧縮試験と実際の打撃現象との間のボール並びに打撃手段の変形状態の相違に基づいて、圧縮試験で得られた負荷時並びに除荷時の荷重・たわみ曲線より求められる吸収エネルギー並びに放出エネルギーをそれぞれ衝突前後の運動エネルギーに換算してボールと打撃手段との合成反発係数を得るものとした。なお、この合成反発係数は、ボールと打撃手段とが衝突した際の衝突前後の相対速度の比で表されるものである。
【0008】
これによると、評価対象であるボールや打撃手段を静止させた静的な圧縮荷重試験となるため、簡易に測定可能でかつ計測誤差が小さい。しかも、衝突前後の運動エネルギーからの衝突速度の算出過程でボールや打撃手段の重量が加味されるため、ボールや打撃手段の重量のばらつきを考慮することができる。このため、ボール単独の反発特性並びにボールと打撃手段との総合的な反発特性について簡易で適切な評価を行うことが可能となる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図面を参照して本発明の構成を詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明による弾性体の反発特性評価方法に基づくゴルフボールの圧縮試験の状況を模式的に示している。ここでは、圧縮試験機のステージ1上のボール2に対してロードセル3を介して圧縮荷重が加えられている。この試験により、無負荷状態から予め設定された最大荷重に至るまでの負荷過程、並びに最大荷重から無負荷状態までの除荷過程においてボール2に生じるたわみ量が測定され、図2に示すように、負荷並びに除荷の両過程におけるヒステリシスを示す荷重・たわみ曲線PBが得られる。
【0011】
この荷重・たわみ曲線PBに基づき以下に詳しく示すように、圧縮試験時の吸収エネルギー並びに放出エネルギーが算出され、ついでこの吸収エネルギー並びに放出エネルギーがボール2の変形状態に応じて衝突前後の運動エネルギーに換算され、剛壁に対するボール2の反発係数を得る。
【0012】
まず、負荷時並びに除荷時の仕事量がそれぞれ吸収エネルギー並びに放出エネルギーに等しく、この負荷時の吸収エネルギーE1、並びに除荷時の放出エネルギーE2は、図中に斜線を付して示す領域の面積、すなわち負荷時並びに除荷時の各荷重・たわみ曲線の積分値となり、次式により得られる。ここで、xはたわみ量を、pは荷重を示し、P(x)は荷重・たわみ曲線の関数である。
【数1】
【0013】
実際の衝突現象では剛壁に対向したボールの片側にのみたわみが生じるのに対して、図1に示したように圧縮試験ではたわみがボールの両側に均等に生じる。。すなわち、圧縮試験では実際の衝突現象に比較して2倍のたわみが生じることになる。そこで、圧縮試験結果を実際の衝突現象にあてはめるにあたり、荷重に対するたわみ量を半分とみなし、これにより図3に示すように、圧縮試験で得られた測定曲線PBに基づいてたわみを半分とみなした推定曲線PB’を得る。
【0014】
この推定曲線PB’とX軸との間の面積であらわされる衝突前並びに衝突後の運動エネルギーEa、Ebがそれぞれ、上記圧縮試験時の吸収エネルギーE1並びに放出エネルギーE2の半分とみなすと、次式が得られる。
【数2】
【0015】
一方、衝突前並びに衝突後の運動エネルギーEa、Ebはそれぞれ、衝突速度Va、反発速度Vbにより次式で示される。ここで、Mはボール重量、gは重力加速度である。
【数3】
この式5・6と上記式3・4より、衝突速度Va並びに反発速度Vbが次式で示される。
【数4】
【0016】
剛壁に対する弾性体の衝突時の反発係数eは、弾性体の衝突速度Va、反発速度Vbより次式で定義される。
【数5】
この式9に上記式7・8を代入すると、次式を得る。
【数6】
これより、上記式1・2により算出された吸収エネルギーE1、並びに放出エネルギーE2から反発係数eを算出することができる。
【0017】
なお、ここでは、式3・4において衝突前並びに衝突後の運動エネルギーEa、Ebをそれぞれ、上記圧縮試験で得られた測定曲線PBから求められる吸収エネルギーE1、並びに放出エネルギーE2の半分とみなし、それらより反発係数eを直接算出する方法を示したが、本発明においては、上記のとおり圧縮試験で得られた測定曲線PBに基づいてたわみを半分とみなして得られた推定曲線PB’ から衝突前後の運動エネルギーEa、Ebを求める、すなわち推定曲線PB’とX軸との間の面積を上記式1・2と同様な積分計算で求め、これより上記式10と同様な反発係数eと衝突前後の運動エネルギーEa、Ebとの間の関係式から反発係数eを算出すれば良い。また、衝突前後の運動エネルギーEa、Ebから衝突速度Va並びに反発速度Vbの両方を求めた上で式9から反発係数eを得る。
【0018】
以上は、予め設定された最大荷重値に対するものであり、この最大荷重値の大きさに応じて反発係数は異なる値を示す。一般に、反発係数は衝突速度の増加に反比例して指数関数的に減少することが知られている。そこで、最大荷重の大きさを変えた試験を多数回行い、これにより得られる反発係数から、推定上の衝突速度と反発係数との関係式を作成しておけば、任意の衝突速度に対応した反発係数を簡単に求めることができる。
【0019】
図4は、本発明による弾性体の反発特性評価方法に基づくゴルフボールとクラブヘッドの圧縮試験の状況を示している。ここでは、圧縮試験機のステージ1上のアダプタ5に支持された打撃手段としてのヘッド4のフェイス面(打撃面)4aにボール2を当接させた状態でヘッド4並びにゴルフボール2にロードセル3を介して圧縮荷重が加えられている。ヘッド4は、中空のもので、例えばチタンやアルミニウム合金からなる金属製、あるいはFRPコンポジットからなるものである。
【0020】
アダプタ5は、ボール2並びにヘッド4に対してフェイス面4aに略直交する打撃方向に圧縮荷重が作用するようにヘッド4を保持するものであり、これにより実際の打撃現象と略同一の負荷状態を実現することができる。ここでは、ヘッド4のフェイス面4aと相反する側を緊密に受容する凹所5aが設けられており、荷重が略均一に分散されてヘッド4の部分的な変形が抑制され、これにより実際にヘッド4によりボール2を打撃する場合の衝突現象と同様に、フェイス面4aの側にのみたわみを生じさせることができる。なお、ヘッド4全体にたわみを生じさせる態様も可能であり、試験目的やヘッド4の構造等に応じて適宜な形態のアダプタが採用される。
【0021】
他方、ボール2については上記のボール2単独の圧縮試験と同様に、ボール2の両側にたわみが生じる。このため、圧縮試験結果を実際の衝突現象にあてはめるにあたっては、荷重に対するボールのたわみ量のみを半分とみなしてボール2とヘッド4との合成反発係数を算出する。すなわち、上記圧縮試験により、図5に示すように、ボール2とヘッド4とが合成された状態での負荷並びに除荷の各過程における荷重・たわみ曲線PBHが得られるが、この荷重・たわみ曲線PBHに対してボール2のたわみ量についての補正を行う。
【0022】
これにはまず、上記ボール2単独の場合と同様にして、ボール2単独の測定曲線PBを求め、このボール2単独の測定曲線PBに基づき、たわみを半分とみなしたボール2単独の推定曲線PB’を得る。そして、上記圧縮試験により得られたボール2とヘッド4との合成の測定曲線PBHからボール2単独の推定曲線PB’を差し引く。これにより、ボール2とヘッド4との合成の推定曲線PBH’が得られ、この合成の推定曲線PBH’に基づいてボール2とヘッド4との合成反発係数を算出する。なお、ここで得られるボール2とヘッド4との合成の推定曲線PBH’は、ボール2単独の推定曲線PB’とヘッド4単独の測定曲線PHとを合成したものに等しくなる。
【0023】
ところで、上記のとおり反発係数は衝突速度に左右されるため、反発係数による評価を行うにあたっては衝突速度を特定することになる。このとき、上記式5・6に示した衝突前後の運動エネルギーと衝突速度並びに反発速度との関係式においてボール重量が加味されることになり、ここでボール重量のばらつきを考慮することができる。またボールとヘッドとの合成反発係数による評価においても上記ボール単独の評価と同様にしてボールとヘッドとの両方の重量が加味されることになり、そこでボールやヘッドの重量のばらつきが考慮される。
【0024】
以上、ゴルフで使用されるボール並びにその打撃手段としてのクラブヘッドについて説明を行ったが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、硬式野球ボールやソフトボールでも良く、その他軟式野球ボールやテニスボールといった比較的変形の大きなものにも適用可能である。また、野球用の打撃手段として金属バットを挙げることができる。さらに、テニスラケット等も適切な圧縮試験装置を用いて荷重・たわみ曲線を得ることにより評価可能である。また、圧縮試験機による計測作業の制御回路とその出力に基づいて所要の数値を算出するための演算回路とを接続したシステムを組み立てることで評価を容易に行うことができる。
【0025】
なお、本実施形態においては、圧縮試験での吸収エネルギー並びに放出エネルギーを衝突前後の運動エネルギーに換算するにあたり、圧縮試験と実際の衝突現象との間のボールの変形状態の相違に基づいて衝突前後の運動エネルギーをそれぞれ吸収エネルギー並びに放出エネルギーの半分とみなす、すなわち係数0.5を乗じる換算を行ったが、この換算する際の係数は0.5に限定されるものではなく、圧縮試験と実際の衝突現象との間の変形状態の相違に基づいて適宜設定される。
【0026】
【実施例】
実際にゴルフボールに対して圧縮試験を行い上記の手順で反発係数を算出した。ここでは、重量45.55gのツーピースボールに対して最大荷重を1500kgとして圧縮試験を行った。これによると、負荷時の吸収エネルギーE1が6.8494kgf・m、除荷時の放出エネルギーE2が4.3669kgf・mとなり、推定衝突速度Vaは38.3879m/sec、推定反発速度Vbは30.6517m/sec、反発係数eは0.7985であった。これと同一構造のボールについて衝突前後の速度を実測する従来の方法により得られた反発係数が、衝突速度が38m/secのときに平均で0.7954となっており、本発明に基づく方法により適切な評価が可能であることが実証された。
【0027】
【発明の効果】
このように本発明によれば、静的な荷重による圧縮試験で得られる負荷時並びに除荷時の荷重・たわみ曲線に基づいて反発特性の評価を行うため、簡易に測定可能でかつ計測誤差が小さく、しかもボールや打撃手段の重量のばらつきを考慮することができ、反発特性について簡易で適切な評価を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に基づくゴルフボールの圧縮試験状況を示す模式図。
【図2】図1に示した圧縮試験で得られる負荷並びに除荷の各過程における荷重・たわみ曲線を示す線図。
【図3】実際の打撃時の想定される荷重・たわみ曲線を示す線図。
【図4】本発明に基づくゴルフボール並びにクラブヘッドの圧縮試験状況を示す模式図。
【図5】図1に示した圧縮試験で得られる負荷並びに除荷の各過程における荷重・たわみ曲線、並びに実際の打撃時の想定される荷重・たわみ曲線を示す線図。
【符号の説明】
1 圧縮試験機のステージ
2 ゴルフボール
3 ロードセル
4 クラブのヘッド
5 アダプタ
Claims (2)
- 弾性体としてのボールを剛体とみなした打撃手段で打撃したときの反発特性を評価する弾性体の反発特性評価方法であって、
ボールに径方向荷重を加える圧縮試験を行い、該圧縮試験と実際の打撃現象との間のボールの変形状態の相違に基づいて、前記圧縮試験で得られた負荷時並びに除荷時の荷重・たわみ曲線より求められる吸収エネルギー並びに放出エネルギーをそれぞれ衝突前後の運動エネルギーに換算して前記ボールの反発係数を得ることを特徴とする弾性体の反発特性評価方法。 - 弾性体としてのボールを弾性を有する打撃手段で打撃したときの反発特性を評価する弾性体の反発特性評価方法であって、
前記ボールと前記打撃手段の打撃面とを当接させて打撃方向に荷重を加える圧縮試験を行い、該圧縮試験と実際の打撃現象との間のボール並びに前記打撃手段の変形状態の相違に基づいて、前記圧縮試験で得られた負荷時並びに除荷時の荷重・たわみ曲線より求められる吸収エネルギー並びに放出エネルギーをそれぞれ衝突前後の運動エネルギーに換算して前記ボールと前記打撃手段との合成反発係数を得ることを特徴とする弾性体の反発特性評価方法。
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