JP3807177B2 - 耐二次加工脆性および成形性に優れた冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として自動車用外板等に用いられる、極めてプレス成形性に優れ、耐二次加工脆性の良好な冷延鋼板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、鋼中の炭素原子、窒素原子を数10ppm以下まで製鋼工程で低減し、さらに残留した炭素原子、窒素原子をTi,Nbなどの炭窒化物生成元素を添加して無害化した、いわゆるInterstitial Free Steel(IF鋼)が開発された(特公昭61−32375号公報、特公平1−40895号公報、特公平5−10411号公報、特公平5−5887号公報、特公平5−5888号公報、特公平7−47796号公報、特公平7−62209号公報)。IF鋼は、完全非時効かつ高いr値の良好な機械特性を有しているため、自動車外板等のプレス成形用鋼板として広く用いられている。
【0003】
しかし、IF鋼は名前の通り侵入型元素を鋼組織中に含まないので、結晶粒界強度が粒内と比較して弱く、低温で二次加工脆化が生じる懸念がある。特に、最近の自動車部品ではプレス形状が複雑化しており、プレス成形段階で鋼板に付与される歪み量は増加しているが、歪み量が高くなるほど二次加工脆化が顕著となるため、IF鋼をベースとしたプレス成形用鋼板の耐二次加工脆性改善の要求がますます高まっている。IF鋼の耐二次加工脆性を改善するための技術として、特公平7−57892号公報等には、Bを添加することが提案されている。しかし、このようにBを添加すると、遷移温度は上昇して耐二次加工脆性は改善されるが、伸びおよびr値がB添加によって低くなるため、最近の自動車部品のように複雑な形状にプレス成形することができなくなる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、従来の技術では、最近の自動車用鋼板に施される複雑なプレス成形に耐える高い成形性と、そのような複雑なプレス成形後も二次加工脆性破壊が生じない優れた耐二次加工脆性とを兼備した冷延鋼板を提供することが困難である。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、複雑なプレス成形に耐える高い成形性と、高歪みで複雑なプレス成形加工後でも二次加工脆性破壊が生じない優れた耐二次加工脆性とを兼備し、自動車用鋼板等のプレス成形用鋼板として好適な冷延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする
【0006】
【課題を解決しようとする手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、NbおよびTiを複合添加したIF鋼において、NbおよびTiの量を特定の範囲に制御し、さらに、C,N,Pの量を最適な範囲とすることによって、耐二次加工脆性とr値がともに良好となることを見出した。また、そのような成分組成を有する鋼板においてr値と耐二次加工脆性をともに、特に優れた範囲とすることができる条件が存在することを見出した。
【0007】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、以下の(1)〜(3)を提供する。
(1) 重量%で、
C :0.0025%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.05〜0.25%、
P :0.009〜0.02%、
S :0.003〜0.02%、
sol.Al:0.01〜0.1%、
Ti:0.020〜0.04%、
Nb:0.021〜0.03%、
N :0.0025%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする耐二次加工脆性および成形性に優れた冷延鋼板。
【0008】
(2) 上記(1)において、平均結晶粒径が15μm以下であることを特徴とする耐二次加工脆性および成形性に優れた冷延鋼板。
【0009】
(3) 重量%で、
C :0.0025%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.05〜0.25%、
P :0.009〜0.02%、
S :0.003〜0.02%、
sol.Al:0.01〜0.1%、
Ti:0.020〜0.04%、
Nb:0.021〜0.03%、
N :0.0025%以下
を含有する鋼を連続鋳造して鋼スラブとし、生成された鋼スラブを熱間圧延、および冷間圧延し、810〜870℃で連続焼鈍した後、調質圧延することを特徴とする耐二次加工脆性および成形性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
1.鋼組成
本発明の冷延鋼板は、重量%で、C:0.0025%以下、Si:0.05%以下、Mn:0.05〜0.25%、P:0.009〜0.02%、S:0.003〜0.02%、sol.Al:0.01〜0.1%、Ti:0.020〜0.04%、Nb:0.021〜0.03%、N:0.0025%以下を含有する。以下、これらの限定理由について説明する。
【0011】
C :0.0025%以下
Cは、固溶状態で伸び、r値を劣化させるため、製鋼工程でできるだけ除去することが望ましい。本発明では、固溶Cは後述するようにTiおよびNbに固定されるが、C含有量が0.0025%を超えると、後述する量のTiおよびNbでは十分に固定できず、固溶Cによるr値、伸びの劣化が顕著となるため、C含有量は0.0025%以下とする。r値、伸びをさらに良好なものとするためには、C含有量を0.0020%以下とすることが望ましい。
【0012】
Si:0.05%以下
Siは、本発明鋼板においては、成形性向上およびめっき表面外観向上のために低減することが望ましい。Si含有量が0.05%を超えると伸びおよび鋼板表面性状が劣化するため、Si含有量は0.05%以下とする。
【0013】
Mn:0.05〜0.25%
Mnは、MnSを形成して熱間延性に有害なSを無害化する。Mn含有量が0.05%未満ではSを無害化する効果が十分でなく、また、Mn含有量が0.25%を超えると前記効果が飽和するばかりか、Mnによる固溶強化が顕著となり伸びが劣化する。このため、Mn含有量を0.05〜0.25%とする。
【0014】
P :0.009〜0.02%
Pは、鋼のr値を向上させる効果がある。P含有量が0.009%未満ではこの効果が不十分であり、一方、0.02%を超えると固溶強化によって伸びが低下する。このため、P含有量を0.009〜0.02%とする。
【0015】
S :0.003〜0.02%
Sは不純物元素であり、鋼板の成形性を劣化させるので製鋼工程でできるだけ低減する。S含有量が0.02%を超えると、前述のMnや後述のTiでは十分に固定されず、延性低下が顕著となり、一方、0.003%未満に低減してもそれ以上の材質向上効果が得られないばかりか、製造コストが極めて高くなる。このため、S含有量を0.003〜0.02%とする。
【0016】
sol.Al:0.01〜0.1%
Alは、製鋼工程で脱酸のために添加される元素である。sol.Al量が0.01%未満ではその効果が十分でなく、sol.Al量が0.1%を超えるとAlによる固溶強化が顕著となり伸びが低下する。このため、sol.Al量を0.01〜0.1%とする。
【0017】
Ti:0.020〜0.04%
Tiは、不純物元素であるC,N,Sとの間で析出物を生成することにより、これら不純物元素を無害化するために添加される。さらに、成形性および二次加工脆性の双方に優れた鋼板を得るためには、後述するNb含有量とのバランスが重要である。Ti含有量が0.020%未満では上記不純物を無害化する効果が十分でなく、一方、Ti含有量が0.04%を超えるとC,N,Sが完全にTiによって析出してNbがすべて固溶状態となり、その結果、固溶強化が大きくなり過ぎて伸びが劣化する。このため、Ti含有量を0.020〜0.04%とする。成形性をさらに向上させるためには0.025%以上であることが望ましく、自動車用外板等に用いるために表面性状を重視する場合には0.035%以下とすることが望ましい。
【0018】
Nb:0.021〜0.03%
Nbは、鋼中不純物であるCと結合してNbCを形成する。このNbCは、熱延板の粒径を微細化させてr値を向上させるとともに、連続焼鈍中の結晶粒成長を抑制して微細粒組織とすることにより耐二次加工脆性を向上させる。NbCを適切に生成させるためには固溶C濃度とのバランスが重要であり、したがって固溶Cを析出物として固定するTiとの最適な組み合わせによって初めて本発明の効果が発揮される。しかし、Nb含有量が0.021%未満では上記効果が十分でなく、0.03%を超えると固溶Nb量が多くなり、固溶強化によって伸びが低下する。したがって、Nb含有量を0.021%以上0.03%以下とする必要がある。さらに高い成形性が求められる場合はNb含有量を0.025%以下とすることが望ましい。
【0019】
N :0.0025%以下
Nは鋼中の不純物元素であり、Tiによって無害化される。しかしながら、N含有量が0.0025%を超えるとTi含有量を増加する必要が生じ、さらにTiN析出物による析出強化によって鋼板の延性が劣化する。したがって、N含有量を0.0025%以下にする。成形性をさらに向上させるためにはN含有量を0.0020%以下にすることが望ましい。
【0020】
2.結晶粒径
耐二次加工脆性には結晶粒径も影響し、結晶粒径が小さいほど好ましい。平均結晶粒径が15μmを超えると耐二次加工脆性が低下する傾向にあるため、平均結晶粒径を15μm以下とすることが望ましい。さらに望ましくは、平均結晶粒径が12μm以下である。
【0021】
3.製造方法
次に上記成分組成を有する鋼板の製造方法について説明する。
上記鋼板を製造するに際しては、上記組成の鋼を連続鋳造して鋼スラブとし、その後熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍し、調質圧延する。上記鋼板のr値および耐二次加工脆性を特に優れたものにするためには、連続焼鈍を810〜870℃で行なうことが好ましい。
【0022】
熱間圧延は、スラブを連続鋳造した後に直接に行なってもよいし、連続鋳造後に再加熱してから行なってもよいが、鋼板の表面性状をより良好にする観点からは、スラブを冷却後、スラブ表面を2mm以上除去し、再加熱して熱間圧延に供することが望ましい。また、再加熱を行なう場合には、再加熱温度が1290℃を超えると表面性状が劣化し、1100℃未満だと圧延能率が低下することから、1100℃以上1290℃以下の温度に再加熱することが望ましい。
【0023】
また、鋼板のr値をより向上させる観点からは、熱間圧延で鋼板の結晶粒径を10μm以下に微細化することが望ましい。そのためには熱間圧延は900℃以上920℃以下の温度で完了することが望ましく、また、熱延終了後直ちに平均冷却速度20℃/sec以上で700℃までを急冷することが望ましい。熱延後の巻取り温度は、巻取り後のフェライト粒成長を抑制するために650℃以下であることが望ましい。
【0024】
以上のようにして得られた熱延鋼板に冷間圧延を行なう際には、r値をより向上させる観点から、冷間圧延の圧延率を70%以上90%以下とすることが望ましい。
【0025】
連続焼鈍は常法に従って行なえばよいが、上述したように810〜870℃で行なうことにより、冷延鋼板のr値および耐二次加工脆性を特に優れたものとすることができる。この温度範囲で連続焼鈍を行なうことにより、r値向上に有効な板面//(111)の良好な集合組織が得られ、しかも結晶粒径が微細になり、優れた耐二次加工性が得られる。810℃未満で連続焼鈍を行なうとr値向上に有効な板面//(111)の良好な集合組織が成長せず、そのため1.8以上の高r値が得られない。一方、870℃超で連続焼鈍を行なうと平均結晶粒径が15μm以上となり、耐二次加工脆性が低下する傾向にある。
【0026】
調質圧延は、板形状の調整および表面粗さ調節のために行なう。調質圧延の圧延率は、0.4〜1.2%で行なうことが望ましい。0.4%未満では調質圧延の効果が十分でなく、1.2%超では加工硬化により伸びが低下するためである。
【0027】
なお、本発明の冷延鋼板は、以上のようにして製造した冷延鋼板に亜鉛めっき等の表面処理を施した鋼板を含むものである。表面処理として溶融亜鉛めっきを施す場合には、連続焼鈍と同時に行なうことができる。また、さらに合金化処理を行ってもよい。表面処理として電気めっきを行なう場合には、調質圧延後に電気めっきラインにより行なうことができる。
【0028】
【実施例】
次に、本発明の実施例について述べる。
[実施例1]
表1に示す鋼番号1〜13の成分を有する鋼を連続鋳造して鋼スラブとし、得られた鋼スラブを1270℃に再加熱した後に熱間圧延を行なった。熱間圧延の仕上温度は910℃、仕上板厚は2.8mmとした。その後、平均冷却速度25℃/secで冷却して、640℃で巻き取った。得られた熱延鋼板を酸洗した後、0.7mmまで冷間圧延を行なった(冷間圧延率75%)。その後、連続焼鈍・溶融亜鉛めっきラインを用いて焼鈍および合金化溶融亜鉛めっきを施した。連続焼鈍・溶融亜鉛めっきラインでは、均熱帯温度は850℃で約60sec保持し、また、めっき付着量は45g/m2とし、合金化処理は誘導加熱方式合金化炉を用いて500〜550℃で亜鉛めっき層中のFe濃度を約10%に調整した。得られためっき鋼板に圧延率0.7%の調質圧延を施した。
【0029】
以上のようにして得られた鋼番号1〜13に係る鋼板の特性を評価した結果を表2に示す。表2中のYP、TSおよびElは、それぞれの鋼板からJIS5号型引張試験片を圧延方向と平行に採取して引張試験を実施して得られた値である。また、表2中のr値は、めっき層の影響を除去するためそれぞれの鋼板を塩酸により酸洗した後にr値を測定し、3方向のr値測定結果から得られた平均r値:mean−r=(r0+2×r45+r90)/4である。ここで、r0:圧延方向と平行な方向のr値、r45:圧延方向と45度方向のr値、r90:圧延方向と直角方向のr値である。
【0030】
表2中の遷移温度は、鋼板の耐二次加工脆性を評価するものであり、鉄と鋼59−12(1973),S491に示された方法に基づき、具体的には以下に示す条件で測定した。すなわち、それぞれの鋼板から得た供試材を直径105mmの円盤とし、これらを50φ−5Rの円筒パンチで絞りぬき、35mmの深さで耳を切断して開口部をなし、種々の温度で開口部を先端角60°の円錐パンチで広げて延性破断(または破断しない)から脆性破壊へ遷移する温度を測定した。この遷移温度が−50℃以下であれば、鋼板は十分な耐二次加工脆性を有している。また、表2中の表面性状は、めっきの色むら等の表面性状の良否を目視でA(優)〜D(劣)の4段階で判定した結果であり、Bランク以上の鋼板が自動車用外板として使用可能である。
【0031】
表2に示すように、本発明例である鋼番号1〜6の鋼板は、伸び、r値などの機械特性に優れており、かつ、遷移温度が−50℃以下であって、耐二次加工脆性にも優れている。また、鋼板表面性状は良好であり、自動車用外板として好適に使用することができる。これに対して、比較例である鋼番号7〜13の鋼板は、いずれかの鋼成分の含有量が本発明範囲を外れるため、いずれかの特性が不良である。具体的には以下の通りである。すなわち、鋼番号7はC濃度が高いため、鋼番号8はN濃度が高いため、鋼番号9はTi濃度が低いため、いずれの鋼板も伸びおよびr値が優れない。鋼番号10は、Ti濃度が高いため耐二次加工脆性が優れないばかりか表面性状も優れない。鋼11はNb濃度が低いため耐二次加工性が優れない。鋼12はNb濃度が高いため伸びおよびr値が優れない。鋼13は、P濃度が低いためにr値が優れない。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
[実施例2]
表1に示した鋼番号1の成分を有する鋼を連続鋳造して鋼スラブとし、得られたスラブを1270℃に再加熱した後に熱間圧延を行なった。熱間圧延の仕上温度は910℃、仕上板厚は2.8mmとした。その後、平均冷却速度25℃/secで冷却して640℃で巻き取った。得られた熱延鋼板を酸洗した後、0.7mmまで冷間圧延を行なった(冷間圧延率75%)。その後、連続焼鈍ラインを用いて表3に示す均熱温度で焼鈍を行ない、圧延率0.7%の調質圧延を施した。得られた冷延鋼板の特性を、実施例1と同様に評価した結果を表3に示す。
【0035】
表3に示すように、焼鈍温度が本発明範囲内の記号B〜Eは、全ての特性が良好である。これに対して、焼鈍温度が本発明範囲よりも低い記号Aに係る鋼板はr値が低く、焼鈍温度が本発明範囲よりも高い記号Fは耐二次加工脆性が不良である。
【0036】
表3より、本発明の製造方法によれば、優れたr値および耐二次加工脆性を有する冷延鋼板が得られることが確認された。
【0037】
【表3】
【0038】
【発明の効果】
本発明によれば、最近の複雑形状を有する自動車用外板等のプレス部品にも成形が可能な極めて優れたプレス加工性と、そのような複雑形状に成形した後にも脆性破壊が生じにくい優れた耐二次加工脆性とを兼備する冷延鋼板(溶融または電気亜鉛めっき鋼板などの表面処理鋼板を含む)を提供することができ、産業上極めて有用である。
Claims (3)
- 重量%で、
C :0.0025%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.05〜0.25%、
P :0.009〜0.02%、
S :0.003〜0.02%、
sol.Al:0.01〜0.1%、
Ti:0.020〜0.04%、
Nb:0.021〜0.03%、
N :0.0025%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする耐二次加工脆性および成形性に優れた冷延鋼板。 - 平均結晶粒径が15μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の耐二次加工脆性および成形性に優れた冷延鋼板。
- 重量%で、
C :0.0025%以下、
Si:0.05%以下、
Mn:0.05〜0.25%、
P :0.009〜0.02%、
S :0.003〜0.02%、
sol.Al:0.01〜0.1%、
Ti:0.020〜0.04%、
Nb:0.021〜0.03%、
N :0.0025%以下
を含有する鋼を連続鋳造して鋼スラブとし、生成された鋼スラブを熱間圧延、および冷間圧延し、810〜870℃で連続焼鈍した後、調質圧延することを特徴とする耐二次加工脆性および成形性に優れた冷延鋼板の製造方法。
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