JP3760585B2 - 熱転写シート - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は熱転写シートに関し、特に、転写時の走行性及び染料の保存安定性に優れた熱転写シートに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
昇華性染料を用いた熱転写方式は、きわめて短時間の加熱によって多数の色ドットを被転写材に転写させ、この多色の色ドットにより原稿のフルカラー画像を再現するものである。
【0003】
この熱転写方式において、熱転写シートとしては、ポリエステルフィルム等の基材シートの一方の面に、昇華性染料とバインダとからなる染料層を設けた、いわゆる昇華型熱転写シートが用いられる。
【0004】
上記熱転写方式では、サーマルヘッドにより画像情報に応じて熱転写シートを背後から加熱し、染料層に含まれる染料を被転写材(印画紙)に転写させて画像を形成する。
【0005】
このとき、熱転写シートのサーマルヘッドと接触する側の面には、低濃度印画から高濃度印画まで安定して低摩擦であることが要求され、一般に、熱転写シートがサーマルヘッドに融着することを防止し、スムーズな走行性を付与するために、染料層が形成された面とは反対側の面に耐熱滑性層が設けられている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、熱転写シートにより印画紙に印画する際には、サーマルヘッドから耐熱滑性層に熱を加え、反対面の染料層中の染料を印画紙に転写させるが、その染色濃度は熱量に比例し、これに応じてサーマルヘッドの表面温度は数百度単位で変化する。そのため、熱転写シートがサーマルヘッド上を移動する際、温度変化によってサーマルヘッド−耐熱滑性層間の摩擦係数が変化しやすい。サーマルヘッド−耐熱滑性層間の摩擦係数が変化すると、一定の速度で熱転写シートが移動し難くなり、鮮明な画像を得ることができない。
【0007】
例えば、摩擦が大きいときには、熱転写シートの移動が一時的に遅くなり、その部分だけ濃度が高くなる,いわゆるスティッキング(線状の印画ムラ)が発生する。
【0008】
このスティッキングを防止するためには、特に高温での摩擦係数を低減させる必要があるが、従来、この高温下の摩擦係数を低減させるための潤滑剤として、リン酸エステルが用いられている。
【0009】
しかしながら、リン酸エステルは酸性が強く、これを単独で耐熱滑性層に使用すると次のような不都合が生じている。
【0010】
すなわち、熱転写シートを巻回状態で保存した場合、染料層と耐熱滑性層との接触が生じる。このとき耐熱滑性層にリン酸エステルのような酸性の強い潤滑剤が含まれていると、染料層中の、酸性下で分解や化学的な変化をしやすい染料、例えばインドアニリン系色素が劣化し、発色性の変化や転写濃度の低下が起こる。
【0011】
そこで本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、サーマルヘッドによる加熱温度範囲で安定に低摩擦係数を実現することができ、しかも保存安定性に優れた熱転写シートを提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために、本発明の熱転写シートは、基板シートの一方の面に熱転写染料層を有するとともに、他方の面に耐熱滑性層を有してなり、耐熱滑性層は下記化5で示されるグリセリン脂肪酸エステルとリン酸エステルとを含有し、グリセリン脂肪酸エステルとリン酸エステルとの比率が、重量比で10:1〜1:2であり、グリセリン脂肪酸エステルとリン酸エステルとを合わせた含有量が、耐熱滑性層全体の10〜50重量%であることを特徴とするものである。
【0013】
リン酸エステルは、化6で示されるリン酸モノエステル及び化7で示されるリン酸ジエステルを含むものである。また、リン酸モノエステル及びリン酸ジエステルは、Na等のアルカリ金属と塩を形成していても良い。
【0014】
【化5】
【0015】
【化6】
【0016】
【化7】
【0017】
熱滑性層の潤滑剤としてリン酸エステルのみを用いると、酸性度が強すぎて染料層に悪影響を及ぼす。
【0018】
グリセリン脂肪酸エステルを併用することで、上記悪影響、例えば染料の劣化等が抑えられ、保存安定性が改善される。また、グリセリン脂肪酸エステルは、潤滑剤としての機能も有し、摩擦係数も低減される。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
熱転写シートは、例えば図1に示すように、基材シート1上に熱転写染料層2が形成されるとともに、これと反対側の面に耐熱滑性層3が形成されてなるものである。
【0021】
基板シート1には、従来公知の各種基材を用いることができる。例えば、ポリエステルフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポルスルホンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、アラミドフィルム等を使用することができる。この基材シートの厚さは任意であるが、1〜30μm、好ましくは2〜10μmである。
【0022】
上記基材シート1の印画紙と対向する側の面には、熱転写染料層2が形成されるが、この熱転写染料層2は、単色の場合には基材シート1の全面に連続層として形成される。また、フルカラー画像に対応するためには、イエロー、マゼンタ、シアンの各色の染料層2が分離して順次形成されるのが一般的である。
【0023】
図2は、位置検出のための検知マーク4、イエロー色染料層2Y、マゼンタ色染料層2M、シアン色染料層2Cが繰り返し形成された熱転写シートの一例を示すものである。
【0024】
ここで、イエロー、マゼンタ、シアンの形成順序は、必ずしもこの通りでなくとも良い。また、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色の繰り返しでもよい。さらには、図3に示すように、各色染料層2の間に検知マーク4を設けても良い。
【0025】
また、図4に示すように、熱転写染料層2の繰り返しの後に、印画後の印画面に転写して印画面を保護するような転写保護層5を設けてもよい。あるいは、図5に示すように、熱転写染料層2の繰り返しの前に、普通紙に転写するための転写受容層6を設けておき、熱転写染料層2の転写に先だって普通紙表面に受容層を形成するようにしてもよい。
【0026】
上記熱転写染料層2は、少なくとも各色染料とバインダとから構成されるが、ここで、バインダとしては従来公知のものを使用することができる。例えば、セルロース系、アクリル酸系、デンプン系等の水溶性樹脂、アクリル樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、エチルセルロース、アセチルセルロース等の有機溶剤あるいは水に可溶性の樹脂等が挙げられる。記録感度及び転写体の保存安定性の点から言えば、熱変形温度が70〜150℃のものが優れており、したがってポリスチレン、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、メタクリル樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等が好ましい。
【0027】
染料も任意のものを使用でき、例えばイエロー染料としては、アゾ系、ジスアゾ系、メチン系、スチリル系、ピリドン・アゾ系等及びこれらの混合系、マゼンタ染料としてはアゾ系、アントラキノン系、スチリル系、複素環系アゾ色素等及びこれらの混合系、シアン染料としては、インドアニリン系、アントラキノン系、ナフトキノン系、複素環系アゾ色素及びこれらの混合系が使用できる。
【0028】
これらの中で、シアン染料として用いられるインドアニリン系染料は、下記化8に示す構造を有し、酸性下で分解劣化し易く、結果として発色濃度が低下する。
【0029】
【化8】
【0030】
したがって、本発明は、このインドアニリン系染料を用いた熱転写シートに適用して好適である。
【0031】
一方、上記熱転写染料層2と反対側の面は、サーマルヘッドと接触走行するため、耐熱潤性層3が設けられる。
【0032】
本発明においては、この耐熱潤性層3がグリセリン脂肪酸エステルとリン酸エステルとを含有することが大きな特徴である。
【0033】
グリセリン脂肪酸エステルは、下記化9で示される化合物であり、脂肪酸の種類等により、様々な化合物がある。これらがいずれも使用可能であり、具体的には、モノミリスチン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル、ジオレイン酸グリセリル等を挙げることができる。
【0034】
【化9】
【0035】
一方、リン酸エステルとしては、市販のリン酸エステルがいずれも使用できる。具体的には、化10で示されるリン酸モノエステル及び化11で示されるリン酸ジエステル等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルを含むものであり、これらはNa等のアルカリ金属と塩を形成しても良い。また、リン酸エステルには、合成過程の副生成物であるリン酸トリエステルを微量含んでいても差し支えない。
【0036】
【化10】
【0037】
【化11】
【0038】
上記グリセリン脂肪酸エステルとリン酸エステルは、重量比率が10:1〜1:2となるように混合して用いる。この比率範囲を外れてリン酸エステルの割合が多くなりすぎると、酸性度の上昇による染料層の保存安定性の劣化が問題となる。逆にグリセリン脂肪酸エステルの割合が多くなりすぎると、走行性の低下が問題となる。
【0039】
また、これらグリセリン脂肪酸エステルとリン酸エステルを合わせた添加量は、耐熱潤性層全体の10〜50重量%とする。これらの添加量が多すぎると、耐熱潤性層成膜時に乾燥不良を起こしたり、巻き取り状態においてブロッキングを起こしやすくなる。逆にこれらの添加量が少なすぎると、摩擦係数の低減効果が不十分となる。
【0040】
上記耐熱潤性層3は、耐熱性に優れたバインダを主体とする層とされ、これに上記グリセリン脂肪酸エステルやリン酸エステルが添加されるが、バインダとしては従来公知のものがいずれも使用でき、例えば酢酸セルロース、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂等が使用可能である。
【0041】
また、このバインダは、耐熱安定性等を考慮すると、ポリイソシアネート化合物により架橋されていることが好ましく、特に先のグリセリン脂肪酸エステルも同時に架橋させることで、極めて安定に潤滑効果を発揮する耐熱潤性層3の形成が可能である。
【0042】
使用するポリイソシアネート化合物は、分子中に少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物がいずれも使用できる。例えば、トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4´−キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン−2,6−ジイソシアネート、1,3−ジ(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、トリメチル・ヘキサメチルジイソシアネート等や、ジイソシアネートとポリオールとを部分的に付加反応させたアダクト系(ポリイソシアネートプレポリマー)、例えばトリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとを反応させたアダクト体等を使用することができる。
【0043】
上記耐熱潤性層3は、上記バインダの他、必要に応じて各種潤滑剤や充填剤を含んでいてもよい。
【0044】
耐熱滑性層3に使用可能な充填剤としては、シリカ、タルク、クレー、ゼオライト、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボン等の無機充填剤や、シリコン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂等からなる有機充填剤が使用可能である。
【0045】
ただし、これらの添加量が多すぎると、耐熱潤性層3の成膜時に乾燥不良を起こしたり、巻き取り状態においてブロッキングの原因になりやすい。
【0046】
【実施例】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果に基づいて説明する。
【0047】
以下の手法により熱転写シートを作成した。
【0048】
染料層の形成
先ず、厚さ6μmのポリエステルフィルム(東レ社製 商品名ルミラー)を基材シートとし、その一方の面に下記インク組成物を乾燥厚さ1μmとなるように塗布、乾燥した。
【0049】
インドアニリン系染料 5.0重量部
ポリビニルブチラール樹脂(積水化学社製 商品名BX−1) 5.0重量部
メチルエチルケトン 45.0重量部
トルエン 45.0重量部
ここで、インドアニリン系インクとしては、先の化8に示すインドアニリン系染料において、置換基を表1に示すように変えた3種類の染料を用いた。
【0050】
【表1】
【0051】
耐熱潤性層の形成
次に、上記染料層が塗布された基材シートの反対側の面に、下記の組成よりなる耐熱滑性層を乾燥後厚さ1μmとなるように塗工し、熱転写シートを得た。
【0052】
ポリビニルアセタール系樹脂 5.0重量部
(電気化学工業(株)製 商品名デンカブチラール#3000k)
イソシアネート 0.5重量部
(日本ポリウレタン工業社製 商品名コロネートL)
球状シリカ 0.5重量部
(日本シリカ工業社製 商品名Nipsil E−200A)
上記組成物に対し、表2に示す種類、添加量で潤滑剤を添加、混合した。このとき、全体で100重量部になるように上記組成物の量を調整した。表2中、グリセリン脂肪酸エステルとリン酸エステルの重量%は、これら化合物と上記組成物の合計量を100としたときの値である。そして、これを溶剤(メチルエチルケトン:トルエン=1:1)により塗料化し、基材シートに塗工した。
【0053】
なお、グリセリン脂肪酸エステルとしては、モノミリスチン酸グリセリル(日光ケミカルズ社製 商品名NIKKOL MGM)、モノステアリン酸グリセリル(日光ケミカルズ社製 商品名NIKKOL MGS−A)、モノオレイン酸グリセリル(日光ケミカルズ社製 商品名NIKKOL MGO)、ジステアリン酸グリセリル(日光ケミカルズ社製 商品名NIKKOL DGS−80)、ジオレイン酸グリセリル(日光ケミカルズ社製商品名NIKKOL DGO−80)の5種類である。また、比較のため、グリセリン脂肪酸エステルの代わりに脂肪酸(ミリスチン酸:花王社製 商品名ルナック MY−98)や脂肪酸エステル(ステアリン酸ブチル:日光ケミカルズ社製 商品名NIKKOLBS)を用いたサンプルも作成した。リン酸エステルとしては、リン酸エステルA(東邦化学工業社製 商品名 PHOSPHANOL RL−210)、リン酸エステルB(東邦化学工業社製 商品名 PHOSPHANOL RS−410)、リン酸エステルC(東邦化学工業社製 商品名 PHOSPHANOL RD−720)の3種類である。
【0054】
以上により熱転写シートサンプル(サンプル1〜サンプル12)を作成したが、各サンプルテープに用いた染料、潤滑剤の種類、添加量を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
以上の各サンプルについて、走行性、スティッキング、染料保存性を調べた。
【0057】
すなわち、得られた熱転写シートをソニー社製フルカラープリンタ(商品名UP−D7000)に装着し、印画紙(ソニー社製 商品名UPC7010)に階調印画(16階調)し、目視にてスティッキングを調べた。スティッキングが発生しなかったものを○、発生したものを×とした。
【0058】
また、染料保存性については、得られた2枚の熱転写シート(20cm×20cm)の染料層と耐熱滑性層を重ね合わせ、2枚のガラス板に挟み、上から5kgの重りで荷重をかけ、50℃のオーブン(タバイ社製 商品名PHH−200)に入れて48時間保存した。保存前と保存後の熱転写シートについて、ソニー社製フルカラープリンタ(商品名UP−D7000)に装着して印画紙(ソニー社製 商品名UPC7010)に階調印画(16階調)し、各色の最高濃度をマクベス濃度計(商品名TR−924)による反射濃度測定により測定した。保存後最高濃度/保存前最高濃度×100(%)を算出し、染料保存性を評価した。結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3を見ると明らかなように、グリセリン脂肪酸エステルとリン酸エステルを併用した各サンプル(サンプル1〜サンプル8)は、染料保存性が良好で、いずれにおいても90%以上が達成され、実用上、問題のないものであった。染料保存性が低下すると、発色の変化や転写濃度の低下につながり、品質の高い画像形成のためには、染料保存性が最低でも90%程度であることが必要である。
【0061】
ただし、リン酸エステルの比率が少なすぎる場合(サンプル7)や、合計量が少なすぎる場合(サンプル8)には、その効果が不十分となって、スティッキングが見られた。逆に、リン酸エステルの比率が多すぎる場合(サンプル11)には、染料保存性の劣化が見られた。合計量が多すぎる場合(サンプル12)には、耐熱潤性層の状態が悪く、評価不可能であった。
【0062】
一方、脂肪酸や脂肪酸エステルを使用したサンプル(サンプル9、サンプル10)においては、いずれもスティッキングが確認され、満足のいく結果が得られなかった。
【0063】
【発明の効果】
以上の説明からも明らかなように、本発明によれば、耐熱潤性層の潤滑剤としてグリセリン脂肪酸エステルとリン酸エステルを併用し、グリセリン脂肪酸エステルとリン酸エステルとの比率が重量比で10:1〜1:2であり、グリセリン脂肪酸エステルとリン酸エステルとを合わせた含有量が、耐熱滑性層全体の10〜50重量%とすることで、走行性及び染料保存安定性に優れ、鮮明な画像が得られる熱転写シートを得ることができる。
【0064】
【図面の簡単な説明】
【図1】 熱転写シートの構成例を示す概略断面図である。
【図2】 熱転写シートの構成例を示す概略平面図である。
【図3】 各染料層の間に検知マークを設けた熱転写シートの一例を示す概略平面図である。
【図4】 転写保護層を設けた熱転写シートの一例を示す概略平面図である。
【図5】 転写受容層を設けた熱転写シートの一例を示す概略平面図である。
【符号の説明】
1 基材シート、2 熱転写染料層、3 耐熱潤性層
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