JP3693010B2 - 菓子用生地の製造方法および装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内部に気泡を含む菓子、例えばスポンジケーキ、カステラ、シフォンケーキ、カスタードケーキ、ワッフルの生地を製造する方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
スポンジケーキなどの菓子は、卵、砂糖、小麦粉などを発泡させて得た発泡生地を焼成することによって製造される。
生地の調製にあたって、卵を添加する方法としては、別立法と共立法がある。別立法は、卵黄と卵白を分離し、これらをそれぞれ発泡させた後に混合する方法である。別立法では、生地のきめが粗くなるものの、発泡が容易となる利点がある。
共立法は、卵黄と卵白とを分離することなく発泡させる方法である。共立法では、発泡がしにくくなるものの、生地のきめが細かくなり、しっとりとした食感が得られる特徴がある。
【0003】
小麦粉を添加する方法としては、後粉法とオールイン法がある。
後粉法は、小麦粉以外の原料を混合し発泡させた後、これに小麦粉を添加する方法である。
一般に、小麦粉のタンパク質が生地中に多く溶出すると、架橋構造を有するグルテンが形成され、生地の特性(硬さ、粘度、安定性等)や焼成後の食感に大きな影響を与える。
後粉法は、小麦粉の合わせかた(添加法)や撹拌時間などの条件設定が難しいものの、タンパク質の溶出量を少なくでき、グルテンを形成されにくくすることができるため、食感を向上させることができる利点がある。
オールイン法は、全ての原料を混合した後、発泡させる方法であり、短時間で生地を調製することができる特徴がある。
【0004】
従来、原料を発泡させるには、小型の縦型ミキサを用いて、少量の原料を回分式で撹拌する方法が採られている。
この方法では、線径が細い線条体(ワイヤ)からなるホイッパを有する小型ミキサ(30コート前後)を使用するため、細かな気泡を生成させることができるものの、生地の製造効率が低くなる問題がある。
製造効率を高めるには大型のミキサを用いることが有効であるが、大型ミキサには、ホイッパの強度確保のため太径の線条体が用いられていることから、大型ミキサを用いる場合には、気泡サイズが大きくなり、生地の調製時間が長くなる問題がある。
このため、原料を連続的に撹拌し、発泡させることが可能な連続発泡機を用いる方法が提案されている。この方法では、連続処理が可能となるため、細かい気泡を含む生地を効率的に製造できる。
【0005】
特開昭61−100145号公報、特開平6−225682号公報、および特開平9−172940号公報には、生地を連続的に製造する方法および装置が開示されている。
特開昭61−100145号公報には、卵白側攪拌装置と、卵黄側攪拌装置と、これら攪拌装置で得られた生地材料を混合するミキサ部とを備えた製造装置が開示されている。
この公報には、卵白側攪拌装置で発泡させた卵白側材料と、卵黄側攪拌装置で発泡させた卵黄側材料とを、ミキサ部で混合することによって生地を製造する方法が示されている。
【0006】
特開平6−225682号公報には、原料を発泡させる発泡装置と、得られた種生地に小麦粉等を混合するミキサを備え、ミキサが回転2軸構造を有する製造装置が開示されている。
この公報には、卵などの種生地原料を発泡装置で発泡させた後、ミキサを用いて種生地に小麦粉等を混合する製造方法が示されている。
【0007】
特開平9−172940号公報には、卵白用溶解槽と、卵黄用溶解槽と、これらからの卵生地を管状に吐出するノズルと、卵生地を撹拌する撹拌機とを備えた製造装置が開示されている。
この公報には、卵黄と卵白をそれぞれホイップした後、混合し、得られた卵生地を管状に連続吐出し、管状の卵生地内に粉体材料を投入した後、卵生地をほぐして粉体材料と卵生地とを混合させる製造方法が開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
近年では、従来品よりも柔らかい食感の菓子(スポンジケーキ等)が要望されている。
しかしながら、従来の製造方法では、製品に柔らかさを与えるために、発泡工程における撹拌条件を調整して生地中の気泡を大きくすると、製品の形状安定性や湿潤感(しっとり感)が低下する問題があった。
さらに、従来の製造方法では、発泡時に生地に大きなストレスが加えられるため、気泡膜中のタンパク質が変成し、気泡の物理的強度が低下することがあった。
気泡の強度が低下すると、後粉工程や焼成工程において、気泡が潰れたり、気泡どうしが合一することにより、製品の形状安定性やきめの細かさが低下する問題があった。
【0009】
また、特開昭61−100145号公報に示された製造方法では、別立法が採用されているため装置が複雑となる問題があった。
さらに、卵白側攪拌装置と、卵黄側攪拌装置とからの2種の生地材料が直接ミキサ部に導入されるため、ミキサ部において生地が均質になりにくく、気泡の安定性が低下し、製品の形状安定性、きめの細かさ等の特性が低下することがあった。
また特開平6−225682号公報に示された製造方法では、回転2軸構造のミキサを用いるため、処理速度を一定に維持しつつ撹拌条件を変更するのが難しい。
このため、原料の品質や環境条件の変化に対応して製造条件を変更するのが難しく、後粉工程においてグルテン形成量を最適化するのが難しくなる問題があった。
また特開平9−172940号公報に示された製造方法では、別立法が採用されているため装置が複雑となる問題があった。
【0010】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、その目的は以下のとおりである。
(1)製品の形状安定性や湿潤感(しっとり感)を低下させることなく、製品に柔らかさを与え、しかもきめが細かい製品を得ることができる菓子用生地の製造方法および装置の提供。
(2)装置構成を簡略化することができる菓子用生地の製造方法および装置の提供。
(3)生地中のグルテン形成量を容易に調整できる菓子用生地の製造方法および装置の提供。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、食味の点で優れた菓子を詳細に分析した結果、製品に形状安定性や湿潤感(しっとり感)を与えるには、気泡を小さくするのが好ましく、柔らかさを与えるには気泡を大きくするのが好ましいことを見出した。このことから、生地中に微細な気泡と粗大な気泡の双方を混在させることによって、上記各特性を兼ね備えた製品を得ることができるとの知見を得た。本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、その構成は以下の通りである。本発明の菓子用生地の製造方法は、原料を混合するとともに発泡させる一次発泡工程と、この工程で得られた一次発泡生地を撹拌し、さらに発泡させる二次発泡工程とを有し、前記一次発泡工程が、前記一次発泡生地の比重S 1 を、0.35〜0.5g/cm 3 とするものであり、前記二次発泡工程が、この工程で得られる二次発泡生地の比重S 2 と、前記一次発泡生地の比重S 1 との差(S 1 −S 2 )を、0.2g/cm 3 以下とするものであることを特徴とする。本発明の製造方法では、原料として卵を用い、この卵を、卵黄と卵白に分離せずに前記一次発泡工程に用いるのが好ましい。本発明の製造方法では、前記二次発泡工程に続いて、前記二次発泡生地に小麦粉を添加し、混合する後粉工程を行うことができる。前記後粉工程においては、回分式混合機を用いて前記二次発泡生地と前記小麦粉を混合することができる。本発明の菓子用生地の製造方法に用いられる菓子用生地の製造装置は、前記原料を混合するとともに発泡させる一次発泡機と、この一次発泡機により得られた前記一次発泡生地を撹拌し、さらに発泡させる二次発泡機とを備えていることを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の菓子用生地の製造装置の一実施形態を示すものである。
図1において、符号1は、原料を混合するとともに発泡させる縦型ミキサ(一次発泡機)を示し、符号2は、縦型ミキサ1からの一次発泡生地を移送する移送機を示し、符号3は、移送機2からの一次発泡生地を撹拌し、さらに発泡させる発泡機(二次発泡機)を示し、符号4は、発泡機3からの二次発泡生地を小麦粉と混合するミキサ(混合機)を示す。
【0013】
縦型ミキサ1としては、原料を収容する容器(ミキサボウル)と、容器内の材料を混合するホイッパと、ホイッパを回転させるモータとを備えたものが好適である。
縦型ミキサ1としては、比較的大型のものを用いるのが好ましい。例えば90コート以上(容器の容量が90コート以上)のものを用いるのが好適である。
なお、コートとは1/4ガロンの容量を指し、0.946L(米)または1.136L(英)を意味する。
縦型ミキサ1として90コート未満のものを用いると、一次発泡工程において生地中に形成される気泡が小さくなりすぎ、製品の柔らかさが低下するため好ましくない。
【0014】
発泡機3としては、円筒状のケーシング内に、円筒状のドラムが挿通され、ケーシング内面およびドラム外面に撹拌ピンが形成され、これらケーシングとドラムとの間で生地を連続的に撹拌し発泡させる連続発泡機が使用可能である。
また発泡機3としては、縦型ミキサを用いることもできる。
この縦型ミキサとしては、比較的小型のものを用いるのが好ましい。例えば50コート以下のものを用いるのが好ましい。
50コートを越えるミキサを用いる場合には、二次発泡工程において生地中に形成される気泡が大きくなりすぎ、製品の形状安定性や湿潤感(しっとり感)が低下するため好ましくない。
【0015】
ミキサ4としては、回分式のものを用いてもよいし、連続式のものを用いてもよい。
特に、回分式ミキサ(回分式混合機)は、連続式ミキサに比べ、生産性は低いものの、撹拌時間を調節することによって容易にグルテン生成量を調整できるため、高品質な菓子用生地の製造に適している。
ミキサ4の処理能力が焼成装置の処理能力を上回る場合には、ミキサ4で得られた生地を直ちに焼成するのが難しくなるため、この生地を長時間放置することになり、生地中のグルテン量増加による菓子の品質低下を招く。
このため、ミキサ4の処理能力は、焼成装置の処理能力に応じて定めるのが好ましい。
【0016】
次いで、上記製造装置を用いた場合を例として、本発明の菓子用生地の製造方法の一実施形態を説明する。
以下に示す製造方法は、次の3つの工程を有する。
(1)原料を混合し、発泡させる一次発泡工程
(2)一次発泡工程で得られた一次発泡生地を撹拌し、さらに発泡させる二次発泡工程
(3)二次発泡工程で得られた二次発泡生地に小麦粉を混合する後粉工程
以下、各工程について詳しく説明する。
【0017】
(1)一次発泡工程
この工程では、原料、例えば卵、砂糖、油脂類、安定剤(乳化剤、気泡安定剤)を縦型ミキサ1に投入し、撹拌する。
この際、撹拌条件、例えば撹拌速度(撹拌羽根等の回転速度)を適宜設定することによって、原料を混合するだけでなく発泡させ、一次発泡生地を得る。
この工程では、縦型ミキサ1として、比較的大型のもの(例えば90コート以上)を用いることによって、原料中に生成する気泡を大きくすることができる。
【0018】
卵(液卵)を添加する際には、卵黄と卵白を分離せずに添加する共立法を採用するのが好ましい。
また、原料に過大なストレスが加えられるのを防ぐため、縦型ミキサ1における撹拌速度(撹拌羽根等の回転速度)は、生産効率を低下させない範囲でなるべく遅く設定するのが好ましい。
【0019】
原料を撹拌する際の縦型ミキサ1内の原料温度は、20〜25℃とするのが好ましい。
この温度が上記範囲未満である場合、または上記範囲を越える場合には、発泡が不十分となりやすくなる。
【0020】
発泡によって、原料は乳化し、流動性が低下するため、その保形性が向上する。
流動性が低くなるため、比重が異なる複数の原料が再分離するのを防ぎ、これらを均一に混合することができる。例えば主原料である液卵と、液卵に対し比重が異なる油脂類、安定剤とを均一に混合することができる。
【0021】
この工程では、生地中に気泡が生成するため、その比重は低下する。すなわち一次発泡生地の比重は、発泡前の原料の比重より小さくなる。
一次発泡生地の比重は、菓子の種類によって適宜選択されるが、0.35〜0.5g/cm3(好ましくは0.4〜0.45g/cm3)とするのが好適である。
この比重が上記範囲未満となる場合には、一次発泡生地の調製時間が長くなる。また気泡が小さくなり過ぎるおそれがある。
この比重が上記範囲を越える値となる場合には、一次発泡生地が不均一となりやすくなる。また大きな気泡が形成されるため、この気泡が壊れやすくなり、生地の形状が不安定となりやすくなる。
【0022】
また、この工程では、生地中に気泡が生成するため、粘度が低下する。すなわち発泡後の一次発泡生地の粘度は、発泡前の原料の粘度より小さくなる。
【0023】
(2)二次発泡工程
この工程は、菓子用生地に必要な量の気泡を生地中に生成させる工程である。
この工程では、一次発泡工程で得られた一次発泡生地を移送機2により発泡機3に移送し、ここで撹拌し、発泡させる。
ケーシング内にドラムを備えた連続発泡機を用いる場合には、一次発泡生地をケーシングとドラムとの間に投入し、ドラムを回転させることによって、撹拌ピンにより生地に剪断力を加え、生地中に気泡が抱き込まれるようにする。
これによって、一次発泡工程で生地中に形成された粗大な気泡の一部が剪断され微細化するとともに、新たに微細気泡が生成する。
比較的小型の縦型ミキサ(例えば50コート以下)を用いる場合においても、粗大気泡の一部が剪断され微細化するとともに、新たに微細な気泡が生成する。
従って、粗大気泡と微細気泡とが混在した二次発泡生地が得られる。
二次発泡工程において、一次発泡工程とは大きさが異なる気泡を生成させることができるのは、二次発泡工程では、一次発泡工程で用いられる縦型ミキサ1とは気泡形成能力(線径や撹拌機構)が異なる発泡機3を用いるためである。
【0024】
上述のように、一次発泡生地は、粘度が低くなっているため、二次発泡工程においては、撹拌時に生地に加えられるストレスが小さくなる。
さらに、一次発泡生地が、流動性が低く原料の再分離が起こりにくいため均質であることから、二次発泡工程において、生地に大きなストレスを与えることなく、十分な発泡が可能となる。
【0025】
二次発泡生地の比重は、菓子の種類によって適宜選択されるが、0.25〜0.4g/cm3(好ましくは0.3〜0.35g/cm3)とするのが好適である。
この比重を上記範囲未満とする場合には、気泡が小さく、かつ均一になりすぎる。この場合には、気泡膜が薄くなり、後粉工程や焼成工程において気泡が潰れ、製品の形状安定性が低下することがある。
この比重を上記範囲を越える値とする場合には、気泡の安定性が悪化し、製品のきめが粗くなるため好ましくない。
【0026】
二次発泡生地の比重S2と一次発泡生地の比重S1との差(S1−S2)は、0.2g/cm3以下であることが好ましい。この比重差は、0.08〜0.16とするのがさらに好ましい。
この比重差が上記範囲を越える場合には、生地中の気泡の大きさが均一化しやすくなり、製品が硬くなると共に形状安定性が低下する。
また比重差が上記範囲を下回る場合には、一次発泡時に生成する気泡の大きさが不十分となるか、または二次発泡時に生成する気泡の微細化が不十分となりやすい。このため、製品のしっとり感または柔らかさが低下すると共に形状安定性が低下する。
【0027】
生地に過大なストレスが加えられるのを防ぐため、発泡機3における撹拌速度(撹拌羽根等の回転速度)は、生産効率を低下させない範囲でなるべく遅く設定するのが好ましい。
【0028】
(3)後粉工程
この工程では、ミキサ4において二次発泡生地に小麦粉を添加し、これらを撹拌、混合する。この際、少量の水を加えてもよい。
これによって、二次発泡生地と小麦粉とが混合した菓子用生地が得られる。
なお、小麦粉を含まない菓子を製造する場合には、この後粉工程は不要である。
【0029】
以上の工程を経て得られた菓子用生地は、焼成により、スポンジケーキなどの製品となる。
生地の焼成は、ピールレスオーブンなどを用いて行うことができる。
【0030】
本実施形態の製造方法は、原料を混合するとともに発泡させる一次発泡工程と、一次発泡生地を撹拌し、さらに発泡させる二次発泡工程とを有するので、以下の効果を得ることができる。
(i)一次発泡工程において、生地中に粗大な気泡を生成させ、二次発泡工程において、粗大気泡の一部を剪断し微細化するとともに、新たに微細気泡を生成させることができる。
このため、粗大気泡と微細気泡とが混在した製品(スポンジケーキ等)を得ることができる。
よって、粗大な気泡によって製品に柔らかさを与え、かつ微細な気泡によって製品に形状安定性および湿潤感(しっとり感)を与えることができる。
従って、柔らかく、かつ形状安定性に優れ、しかも湿潤感(しっとり感)に富んだ製品を得ることができる。
【0031】
(ii)一次発泡工程において、原料を発泡させるため、低粘度の一次発泡生地を得ることができることから、二次発泡工程において、撹拌時に生地に加えられるストレスを小さくすることができる。
さらに、一次発泡生地が、流動性が低く原料の再分離が起こりにくいため均質であることから、二次発泡工程において、生地に大きなストレスを与える必要がない。
よって、二次発泡工程において生地に過大なストレスが与えられることに起因して気泡膜中のタンパク質が変成するのを防ぎ、気泡の物理的強度低下を防ぐことができる。
このため、後粉工程や焼成工程において、気泡が潰れたり気泡どうしが合一することにより、製品の形状安定性やきめの細かさが低下するのを未然に防ぐことができる。
従って、形状安定性およびきめの細かさの点で優れた製品を得ることができる。
【0032】
(iii)一次発泡生地の比重が低くすぎる場合には、気泡が小さくなり過ぎ、製品の形状安定性や湿潤感(しっとり感)が低下し、高くなりすぎる場合には、生地が不均一となりやすい。
よって、この比重を0.35〜0.5g/cm3とすることによって、形状安定性や湿潤感(しっとり感)に優れ、しかも均質な製品を得ることができる。
【0033】
(iv)二次発泡生地の比重S2と一次発泡生地の比重S1との差(S1−S2)が大きすぎる場合には、生地中の気泡の大きさが均一化しやすくなり、形状安定性が低下する。
よって、この比重差を0.2g/cm3以下とすることによって、形状安定性の点で優れた製品を得ることができる。
【0034】
(iv)卵を、卵黄と卵白に分離することなく用いる共立法を採用することによって、卵黄用および卵白用のミキサを不要とし、装置構成を簡略化することができる。従って、装置コスト低減を図ることができる。
【0035】
(v)ミキサ4として回分式ミキサ(回分式混合機)を用いる場合には、撹拌時間等を調節することによって、容易に撹拌条件を変更することができる。
従って、原料の品質や環境条件の変化に対応して製造条件を適宜変更し、後粉工程においてグルテン形成量を最適化するのが容易となる。
【0036】
【実施例】
(実施例1)
図1に示す製造装置を用いて、次のようにして菓子用生地を製造した。
(1)一次発泡工程
液全卵30kg(温度30℃)と、グラニュー糖12kgと、副原料(乳化剤、水飴、水等)6kgとを、縦型ミキサ1(愛工舎製12コートミキサ)を用いて6分間撹拌し、一次発泡生地を得た。
一次発泡生地の比重は0.45g/cm3となった。
(2)二次発泡工程
一次発泡生地を、連続発泡機3(関西久保長製、ロータ180rpm、エア流量2.45L/min)を用いて撹拌し、発泡させ、二次発泡生地を得た。二次発泡生地の比重は0.33g/cm3となった。
(3)後粉工程
予め篩いを通した小麦粉4kgと水720gとを、二次発泡生地14kgに添加し、ミキサ4(関東混合機工業製120コートミキサ)を用いて混合した。この際、撹拌羽根の回転速度は中速度とし、撹拌時間は4分間とした。
得られた菓子用生地の比重は0.33g/cm3となった。
この菓子用生地1100gを、ビールレスオーブンを用い、185℃の温度で32分間焼成し、20個の円筒状のスポンジケーキを得た。
【0037】
(比較例1)
一次発泡工程を行わずに菓子用生地を製造した。後粉工程における撹拌時間は3分間とした。その他の試験条件は実施例1に準じて定めた。
得られた菓子用生地の比重は0.33g/cm3となった。
この菓子用生地を実施例1と同様にして焼成し、20個のスポンジケーキを得た。
【0038】
(比較例2)
一次発泡工程を行わずに菓子用生地を製造した。後粉工程における撹拌時間は5分間とした。その他の試験条件は実施例1に準じて定めた。
得られた菓子用生地の比重は0.32g/cm3となった。
この菓子用生地を実施例1と同様にして焼成し、20個のスポンジケーキを得た。
【0039】
(食味試験)
実施例および比較例で得られたスポンジケーキを食味し、柔らかさ、湿潤感(しっとり感)、きめの細かさ等の点で評価した。
その結果、比較例1のスポンジケーキは、口溶けはよいが、全体的に柔らかさに乏しかった。
また、比較例2のスポンジケーキは、全体的に硬く、口溶けが悪かった。
これに対し、実施例1のスポンジケーキは、柔らかく、口溶けの点で優れていた。
このことから、実施例1では、生地の比重が、比較例1、2の生地の比重と同程度であるにもかかわらず、食味が優れていることがわかった。
【0040】
(形状安定性評価)
実施例および比較例で得られたスポンジケーキの形状を調べ、落ち込み(中央部の沈み込み)が生じているかどうかを確認した。
その結果、比較例1、2のスポンジケーキでは、20個中、それぞれ5個、8個において落ち込みが見られたのに対し、実施例1のスポンジケーキでは、落ち込みが見られなかった。
このことから、実施例1のスポンジケーキは、形状安定性に優れていることがわかった。
【0041】
(実施例2)
一次発泡工程における撹拌時間を変化させ、一次発泡生地の比重を表1に示すとおりとし、かつ二次発泡工程における撹拌条件(撹拌速度等)を変化させ、二次発泡生地の比重を表1に示すとおりとして菓子用生地を作製し、これを焼成して20個のスポンジケーキを得た。その他の試験条件は実施例1に準じて定めた。
得られたスポンジケーキを上記食味試験に供した。また形状安定性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1より、一次発泡生地の比重が0.35〜0.5g/cm3であるときに、形状安定性および食味の点で優れたスポンジケーキが得られたことがわかる。
また、二次発泡生地の比重が0.25〜0.4g/cm3であるとき(特に0.3〜0.35g/cm3であるとき)に形状安定性および食味の点で優れたスポンジケーキが得られたことがわかる。
また、比重差が0.2g/cm3以下であるとき(特に0.08〜0.16g/cm3であるとき)に形状安定性および食味の点で優れたスポンジケーキが得られたことがわかる。
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の菓子用生地の製造方法は、原料を混合するとともに発泡させる一次発泡工程と、一次発泡生地を撹拌し、さらに発泡させる二次発泡工程とを有するので、一次発泡工程において、生地中に粗大な気泡を生成させ、二次発泡工程において、粗大気泡の一部を剪断し微細化するとともに、新たに微細気泡を生成させることができる。
このため、粗大気泡と微細気泡とが混在した製品(スポンジケーキ等)を得ることができる。
よって、粗大な気泡によって製品に柔らかさを与え、かつ微細な気泡によって製品に形状安定性および湿潤感(しっとり感)を与えることができる。
また、一次発泡工程において、原料を発泡させるため、低粘度、かつ流動性が低い一次発泡生地を得ることができる。このため、二次発泡工程において、生地に過大なストレスが与えられるのを防ぐことができる。
よって、二次発泡工程において生地に過大なストレスが与えられることに起因して、製品の形状安定性やきめの細かさが低下するのを未然に防ぐことができる。
従って、柔らかさ、形状安定性、湿潤感(しっとり感)、きめの細かさの点で優れた製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の菓子用生地の製造方法の一実施形態に用いられる製造装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1・・・縦型ミキサ(一次発泡機)、3・・・発泡機(二次発泡機)、4・・・ミキサ
Claims (5)
- 原料を混合するとともに発泡させる一次発泡工程と、この工程で得られた一次発泡生地を撹拌し、さらに発泡させる二次発泡工程とを有し、前記一次発泡工程が、前記一次発泡生地の比重S 1 を、0.35〜0.5g/cm 3 とするものであり、前記二次発泡工程が、この工程で得られる二次発泡生地の比重S 2 と、前記一次発泡生地の比重S 1 との差(S 1 −S 2 )を、0.2g/cm 3 以下とするものであることを特徴とする菓子用生地の製造方法。
- 原料として卵を用い、この卵を、卵黄と卵白に分離せずに前記一次発泡工程に用いることを特徴とする請求項1記載の菓子用生地の製造方法。
- 前記二次発泡工程に続いて、前記二次発泡生地に小麦粉を混合する後粉工程を行うことを特徴とする請求項1または2記載の菓子用生地の製造方法。
- 前記後粉工程において、回分式混合機を用いて前記二次発泡生地と前記小麦粉を混合することを特徴とする請求項3記載の菓子用生地の製造方法。
- 請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の菓子用生地の製造方法に用いられる製造装置であって、前記原料を混合するとともに発泡させる一次発泡機と、この一次発泡機により得られた前記一次発泡生地を撹拌し、さらに発泡させる二次発泡機とを備えていることを特徴とする菓子用生地の製造装置。
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