JP3656530B2 - エンコーダ付組み合わせシールリングとこれを組み込んだ車輪支持用転がり軸受ユニット - Google Patents
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Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
この発明に係るエンコーダ付組み合わせシールリングは、自動車の車輪を懸架装置に対し回転自在に支持する転がり軸受ユニットに組み込んで、この転がり軸受ユニットを密封すると共に、この転がり軸受ユニットにより支持された車輪の回転速度を検出する為に利用する。
【０００２】
【従来の技術】
自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持すると共に、アンチロックブレーキシステム（ＡＢＳ）やトラクションコントロールシステム（ＴＣＳ）を制御すべく、この車輪の回転速度を検出する為に従来から、例えば特開昭６４−２１２１９号公報に記載されている様なエンコーダ付転がり軸受ユニットが知られている。
又、転がり軸受ユニットの端部開口を塞ぐシールリングの一部にエンコーダを組み付ける構造も、例えば特開平５−２６２３３号公報、同５−２３８３６９号公報、同６−２８１０１８号公報、同９−２７４０５１号公報、同１１−４４７０２号公報、欧州特許公報EP 0 495 323 A1 等に記載されている様に、従来から知られている。
【０００３】
車輪の回転速度検出を磁気的に行なう場合、上記エンコーダとして、円周方向に亙り磁気特性が交互に（一般的には等間隔に）変化するものを使用する。この様に円周方向に亙って磁気特性が交互に変化するエンコーダとしては、磁性材に円周方向に亙り多数の除肉部と充実部とを交互に形成したもの、或はＳ極とＮ極とを交互に配置した永久磁石が使用される。
このうち、永久磁石製のエンコーダは、センサ側の構造を簡単に構成し、しかも低速時の検出精度を確保する面から、近年使用される場合が増大している。
【０００４】
シールリングの一部にエンコーダを組み付ける構造を採用して、それぞれが円筒状である内周面と外周面との間の環状空間を塞ぐ場合で、シール性能を良好にする為には、シールリングとスリンガとを組み合わせた組み合わせシールリングを採用する事が好ましい。この場合には、スリンガを回転輪に、シールリングを静止輪に、それぞれ嵌合固定する。そして、このシールリングを構成するシールリップを上記スリンガの周面及び片側面に摺接させると共に、エンコーダをこのスリンガの他側面に添着する。
【０００５】
【発明が解決しようとする課題】
上述の様なエンコーダ付組み合わせシールリングを造る場合に従来は、スリンガの表面粗さを、全面に亙って同じとしていた。この為、このスリンガに対するエンコーダの結合強度の確保とシール性能の確保とを両立させる事が難しかった。この理由は、次の通りである。
即ち、上記エンコーダを上記スリンガに対し結合するには、ゴム磁石をこのスリンガに焼き付けしたり、接着剤により接着したりしている。何れの方法によりスリンガに対しエンコーダを結合固定するにしても、このスリンガの側面でこのエンコーダを結合固定する部分の表面粗さは粗い（表面粗さの値が大きい）事が望ましい。これに対して、シールリップの先端縁が摺接する、上記スリンガの周面及び側面は、表面粗さの値が小さな平滑面である事が、シール性確保の為には好ましい。
ところが、従来のエンコーダ付組み合わせシールリングを構成するスリンガの場合、上述の様に表面全体を同じ表面粗さとしていた為、上記エンコーダの結合強度の確保とシール性能の確保とを両立させる事が難しかった。
本発明は、この様な事情に鑑みて発明したものである。
【０００６】
【課題を解決する為の手段】
本発明のエンコーダ付組み合わせシールリングとこれを組み込んだ車輪支持用転がり軸受ユニットとのうち、請求項１に記載したエンコーダ付組み合わせシールリングは、静止輪の周面と回転輪の周面との間に存在する空間部の開口端部を塞ぐと共に、上記回転輪の回転速度を検出する為に使用する。
そして、上記静止輪の周面に固定されるシールリングと、上記回転輪の周面に固定される金属製のスリンガと、このスリンガに支持固定されるエンコーダとを備える。
又、上記シールリングは、上記静止輪の周面に嵌合固定される固定円筒部及びこの固定円筒部の端縁から上記回転輪の周面に向け折れ曲がった固定円輪部から成る芯金と、この芯金の全周に亙って添着された、シールリップを有する弾性材とを備える。
又、上記固定円筒部は、上記固定円輪部から遠い側の先端部の外径が中間部の外径よりも小さくなっており、この先端部の外周面が上記弾性材の一部により被覆されている。
又、上記スリンガは、磁性ステンレス鋼板製で、上記回転輪の周面に嵌合固定される回転円筒部と、この回転円筒部の端縁から上記静止輪の周面に向け折れ曲がった回転円輪部とを備えて、シールリップを有する弾性材は備えていない。
又、上記エンコーダは、円周方向に亙ってＳ極とＮ極とを交互に配置したゴム磁石製で、上記回転円輪部の他側面に結合固定されている。
又、上記スリンガは、上記回転円筒部の周面及び上記回転円輪部の片側面で上記シールリップの先端縁を摺接させるシール摺接部と、上記回転円輪部の他側面で上記エンコーダを支持固定するエンコーダ支持固定部とを有するものである。
そして、上記エンコーダ支持固定部の表面粗さの値（Ａ）を、上記シール摺接部の表面粗さの値（Ｂ）よりも大きく（Ａ＞Ｂと）している。
尚、本明細書で言う粗面とは、上記シールリップの先端縁を摺接させる平滑面に比較して粗い面を言い、必ずしも一般的に言われる粗面程粗くない場合も含む。
【０００７】
又、請求項２に記載したエンコーダ付組み合わせシールリングを組み込んだ車輪支持用転がり軸受ユニットは、静止側周面に静止側軌道を有する静止輪と、回転側周面に回転側軌道を有し、車輪を支持固定自在とした回転輪と、これら静止側軌道と回転側軌道との間に転動自在に設けられた複数の転動体と、上記静止側周面の端部と上記回転側周面の端部との間に設けられた、請求項１に記載したエンコーダ付組み合わせシールリングとから成る。
【０００８】
【作用】
上述の様に構成される本発明のエンコーダ付組み合わせシールリングにより、静止輪の周面と回転輪の周面との間を塞ぎ、これら両周面同士の間の空間内に異物が進入する事を防止すると同時に、この空間内に充填されたグリースが外部に漏洩する事を防止する作用、並びにセンサとの組み合わせにより上記回転輪の回転速度を検出する作用は、前述の各公報等に記載される等により従来から知られているエンコーダ付組み合わせシールリングの場合と同様である。
【０００９】
【発明の実施の形態】
図１〜２は、本発明の実施の形態の１例を示している。先ず、図１に示した、エンコーダ付組み合わせシールリング１に就いて説明する。このエンコーダ付組み合わせシールリング１は、後述する外輪５（図２）の端部に内嵌固定するシールリング２と、鋼板或はステンレス鋼板等の磁性金属板製で、後述する内輪６（図２）の端部に外嵌固定するスリンガ３と、このスリンガ３に支持固定されるエンコーダ４とを備える。
【００１０】
又、上記シールリング２は、断面Ｌ字形で全体が円環状の芯金７と、弾性材８とから成る。このうちの芯金７は、軟鋼板等の金属板により、断面略Ｌ字形で全体を円環状に形成して成り、静止輪である上記外輪５の内周面に、締り嵌めにより内嵌固定される固定円筒部９と、この固定円筒部９の軸方向端縁から、回転輪である上記内輪６の外周面に向け、直径方向内方に折れ曲がった固定円輪部１０とを有する。又、上記弾性材８は、上記芯金７の全周に亙って添着されたもので、１乃至複数本（図示の例では３本）のシールリップ１１ａ〜１１ｃを有する。一般的には、上記弾性材８は、ゴム製とし、上記芯金７に対し焼き付けにより結合している。
【００１１】
又、上記スリンガ３は、上記内輪６の端部外周面に締り嵌めにより外嵌固定される回転円筒部１２と、この回転円筒部１２の軸方向端縁から上記外輪５の内周面に向け直径方向外方に折れ曲がった回転円輪部１３とを備える。又、上記スリンガ３は、シールリップを有する弾性材は備えず、上記回転円筒部１２の外周面及び上記回転円輪部１３の片側面（図１〜２の左側面）で上記各シールリップ１１ａ〜１１ｃの先端縁を摺接させる部分を、表面粗さが０．３Ｒａ程度の平滑面としている。
【００１２】
更に、上記エンコーダ４は、円周方向に亙ってＳ極とＮ極とを交互に配置したゴム磁石製である。即ち、このエンコーダ４は、ゴム中にフェライト粉末を混入したゴム磁石を円輪状に形成したもので、軸方向（図１の左右方向）に亙って着磁している。着磁方向は、円周方向に亙って交互に且つ等間隔で変化させている。従って、上記エンコーダ４の側面にはＳ極とＮ極とが、円周方向に亙って交互に且つ等間隔で配置されている。この様なエンコーダ４は、上記回転円輪部１３の他側面（図１〜２の右側面）で上記各シールリップ１１ａ〜１１ｃとは反対側に位置する面に、この面を利用してフェライト粉末を混入したゴム材料をモールド成形する事により、添着支持されている。この様なエンコーダ４と上記回転円輪部１３の他側面との結合強度を確保する為に、この他側面は、表面粗さが１．０〜１．５Ｒａ程度の（上記外周面及び片側面に比較して粗い）粗面としている。
【００１３】
上述の様に構成するエンコーダ付組み合わせシールリング１は、例えば図２に示す様な転がり軸受ユニット１４に組み込んで、この転がり軸受ユニット１４により懸架装置に対し回転自在に支持した車輪の回転速度を検出自在とする。図２に示した転がり軸受ユニット１４は、駆動輪（ＦＲ車及びＲＲ車の後輪、ＦＦ車の前輪、４ＷＤ車の全輪）を懸架装置に対し支持するものである。この様な転がり軸受ユニット１４を構成する、静止輪である外輪５は、静止側周面である内周面に複列の外輪軌道１５、１５を有する。又、この外輪５の外周面中間部には、この外輪５を懸架装置に対し支持固定する為の、外向フランジ状の取付部１６を設けている。
【００１４】
又、上記外輪５の内側に、回転輪であるハブ１７及び内輪６を、この外輪５と同心に配置している。これらハブ１７及び内輪６は、組み合わされて回転輪を構成するもので、回転側周面であるこれらハブ１７及び内輪６の外周面には、それぞれ上記外輪軌道１５、１５と対向する、回転側軌道である内輪軌道１８、１８を形成している。又、上記ハブ１７の中心部には、スプライン孔１９を形成している。自動車への組み付け状態でこのスプライン孔１９には、図示しない等速ジョイントに付属のスプライン軸を挿入する。そして、この等速ジョイントに設けたハウジングの外端面と、このスプライン軸の先端部に螺合したナットとの間で、上記ハブ１７及び内輪６を軸方向両側から挟持する。尚、上記ハブ１７の外端開口部は、ナットの螺合緊締作業の後、図示しない蓋体を嵌着する事により塞ぐ。又、上記ハブ１７の外寄り（外とは、自動車への組み付け状態で幅方向外側となる部分を言い、図２で左）部分で、上記外輪５の外端開口から突出した部分に、車輪を支持する為のフランジ２２を設けている。図示しない車輪は、このフランジ２２に固設した図示しないスタッドにより、このフランジ２２に結合固定される。従って上記ハブ１７は、自動車の走行に伴って、上記車輪と共に回転する。
【００１５】
又、上記各外輪軌道１５、１５と上記各内輪軌道１８、１８との間には、転動体である玉２０、２０を、各列毎に複数個ずつ設けている。これら各玉２０、２０は、保持器２１、２１により、円周方向に互いに間隔をあけた状態で、転動自在に保持されている。従って上記ハブ１７は、上記外輪５の内側に回転自在に支持されている。尚、重量の嵩む自動車用の転がり軸受ユニットの場合には、転動体として、玉２０、２０に代えてテーパころを使用する場合もある。
【００１６】
更に、上記外輪５の外端部にはシールリング２３を内嵌固定し、このシールリング２３を構成するシールリップの先端縁を上記ハブ１７の中間部外周面に摺接させて、このハブ１７及び内輪６の外周面と外輪５の内周面との間に存在する空間２４の外端開口部を塞いでいる。前述の様に構成するエンコーダ付組み合わせシールリング１は、上述の様に構成する転がり軸受ユニット１４の内端部で、上記外輪５の内端部内周面と上記内輪６の内端部外周面との間に、上記空間２４の内端開口部を塞ぐ状態で組み付けている。即ち、上記外輪５の内端部に前記固定円筒部９を締り嵌めで内嵌固定すると共に、上記内輪６の内端部に前記回転円筒部１２を締り嵌めで外嵌固定している。又、この状態で、前記各シールリップ１１ａ、１１ｂ、１１ｃの先端縁を、図１に示す様に、上記回転円筒部１２の外周面及び前記回転円輪部１３の外側面に、全周に亙って摺接させる。又、前記エンコーダ４の内側面には、上記外輪５或は懸架装置の一部等、固定の部分に支持した図示しないセンサの検出部を、微小隙間を介して対向させる。
【００１７】
前述の様に構成し、上述の様に転がり軸受ユニット１４に組み付ける、本発明のエンコーダ付組み合わせシールリング１の場合には、前記スリンガ３を構成する回転円筒部１２の外周面及び回転円輪部１３の片側面で前記各シールリップ１１ａ〜１１ｃの先端縁を摺接させる部分を平滑面としている為、十分なシール性の確保を図れる。尚、上記回転円筒部１２の外周面及び回転円輪部１３の片側面のうち平滑面とする部分は、少なくとも上記各シールリップ１１ａ〜１１ｃの先端縁が摺接する部分であれば足りる。例えば、上記回転円筒部１２の外周面と回転円輪部１３の片側面との連続部には何れのシールリップの先端縁も摺接する事はないので、表面粗さの値を必ずしも小さくする必要はない。
【００１８】
これに対して、上記回転円輪部１３の他側面でエンコーダ４を支持固定すべき面を表面粗さの値が大きい粗面としている為、このエンコーダ４の上記スリンガ３に対する結合強度を大きくできる。この為、長期間に亙る使用によっても、上記エンコーダ４が上記スリンガ３から剥離したりする事を防止できて、上記エンコーダ付組み合わせシールリング１及びこれを組み込んだ車輪支持用転がり軸受ユニットの耐久性を確保し、回転速度検出の信頼性を長期間に亙って維持できる。尚、上記回転円筒部１２の内周面は、前記内輪６の内端部に嵌合固定した状態で、嵌合面をシールできる程度の表面粗さであれば良い。
【００１９】
【発明の効果】
本発明のエンコーダ付組み合わせシールリングとこれを組み込んだ車輪支持用転がり軸受ユニットは、以上に述べた通り構成され作用する為、優れたシール性を有し、しかも、回転速度検出装置による回転速度検出の信頼性を長期間に亙って維持できる。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明の実施の形態の１例を示す部分拡大断面図。
【図２】転がり軸受ユニットに組み込んだ状態を示す断面図。
【符号の説明】
１ エンコーダ付組み合わせシールリング
２ シールリング
３ スリンガ
４ エンコーダ
５ 外輪
６ 内輪
７ 芯金
８ 弾性材
９ 固定円筒部
１０ 固定円輪部
１１ａ、１１ｂ、１１ｃ シールリップ
１２ 回転円筒部
１３ 回転円輪部
１４ 転がり軸受ユニット
１５ 外輪軌道
１６ 取付部
１７ ハブ
１８ 内輪軌道
１９ スプライン孔
２０ 玉
２１ 保持器
２２ フランジ
２３ シールリング
２４ 空間
【発明の属する技術分野】
この発明に係るエンコーダ付組み合わせシールリングは、自動車の車輪を懸架装置に対し回転自在に支持する転がり軸受ユニットに組み込んで、この転がり軸受ユニットを密封すると共に、この転がり軸受ユニットにより支持された車輪の回転速度を検出する為に利用する。
【０００２】
【従来の技術】
自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持すると共に、アンチロックブレーキシステム（ＡＢＳ）やトラクションコントロールシステム（ＴＣＳ）を制御すべく、この車輪の回転速度を検出する為に従来から、例えば特開昭６４−２１２１９号公報に記載されている様なエンコーダ付転がり軸受ユニットが知られている。
又、転がり軸受ユニットの端部開口を塞ぐシールリングの一部にエンコーダを組み付ける構造も、例えば特開平５−２６２３３号公報、同５−２３８３６９号公報、同６−２８１０１８号公報、同９−２７４０５１号公報、同１１−４４７０２号公報、欧州特許公報EP 0 495 323 A1 等に記載されている様に、従来から知られている。
【０００３】
車輪の回転速度検出を磁気的に行なう場合、上記エンコーダとして、円周方向に亙り磁気特性が交互に（一般的には等間隔に）変化するものを使用する。この様に円周方向に亙って磁気特性が交互に変化するエンコーダとしては、磁性材に円周方向に亙り多数の除肉部と充実部とを交互に形成したもの、或はＳ極とＮ極とを交互に配置した永久磁石が使用される。
このうち、永久磁石製のエンコーダは、センサ側の構造を簡単に構成し、しかも低速時の検出精度を確保する面から、近年使用される場合が増大している。
【０００４】
シールリングの一部にエンコーダを組み付ける構造を採用して、それぞれが円筒状である内周面と外周面との間の環状空間を塞ぐ場合で、シール性能を良好にする為には、シールリングとスリンガとを組み合わせた組み合わせシールリングを採用する事が好ましい。この場合には、スリンガを回転輪に、シールリングを静止輪に、それぞれ嵌合固定する。そして、このシールリングを構成するシールリップを上記スリンガの周面及び片側面に摺接させると共に、エンコーダをこのスリンガの他側面に添着する。
【０００５】
【発明が解決しようとする課題】
上述の様なエンコーダ付組み合わせシールリングを造る場合に従来は、スリンガの表面粗さを、全面に亙って同じとしていた。この為、このスリンガに対するエンコーダの結合強度の確保とシール性能の確保とを両立させる事が難しかった。この理由は、次の通りである。
即ち、上記エンコーダを上記スリンガに対し結合するには、ゴム磁石をこのスリンガに焼き付けしたり、接着剤により接着したりしている。何れの方法によりスリンガに対しエンコーダを結合固定するにしても、このスリンガの側面でこのエンコーダを結合固定する部分の表面粗さは粗い（表面粗さの値が大きい）事が望ましい。これに対して、シールリップの先端縁が摺接する、上記スリンガの周面及び側面は、表面粗さの値が小さな平滑面である事が、シール性確保の為には好ましい。
ところが、従来のエンコーダ付組み合わせシールリングを構成するスリンガの場合、上述の様に表面全体を同じ表面粗さとしていた為、上記エンコーダの結合強度の確保とシール性能の確保とを両立させる事が難しかった。
本発明は、この様な事情に鑑みて発明したものである。
【０００６】
【課題を解決する為の手段】
本発明のエンコーダ付組み合わせシールリングとこれを組み込んだ車輪支持用転がり軸受ユニットとのうち、請求項１に記載したエンコーダ付組み合わせシールリングは、静止輪の周面と回転輪の周面との間に存在する空間部の開口端部を塞ぐと共に、上記回転輪の回転速度を検出する為に使用する。
そして、上記静止輪の周面に固定されるシールリングと、上記回転輪の周面に固定される金属製のスリンガと、このスリンガに支持固定されるエンコーダとを備える。
又、上記シールリングは、上記静止輪の周面に嵌合固定される固定円筒部及びこの固定円筒部の端縁から上記回転輪の周面に向け折れ曲がった固定円輪部から成る芯金と、この芯金の全周に亙って添着された、シールリップを有する弾性材とを備える。
又、上記固定円筒部は、上記固定円輪部から遠い側の先端部の外径が中間部の外径よりも小さくなっており、この先端部の外周面が上記弾性材の一部により被覆されている。
又、上記スリンガは、磁性ステンレス鋼板製で、上記回転輪の周面に嵌合固定される回転円筒部と、この回転円筒部の端縁から上記静止輪の周面に向け折れ曲がった回転円輪部とを備えて、シールリップを有する弾性材は備えていない。
又、上記エンコーダは、円周方向に亙ってＳ極とＮ極とを交互に配置したゴム磁石製で、上記回転円輪部の他側面に結合固定されている。
又、上記スリンガは、上記回転円筒部の周面及び上記回転円輪部の片側面で上記シールリップの先端縁を摺接させるシール摺接部と、上記回転円輪部の他側面で上記エンコーダを支持固定するエンコーダ支持固定部とを有するものである。
そして、上記エンコーダ支持固定部の表面粗さの値（Ａ）を、上記シール摺接部の表面粗さの値（Ｂ）よりも大きく（Ａ＞Ｂと）している。
尚、本明細書で言う粗面とは、上記シールリップの先端縁を摺接させる平滑面に比較して粗い面を言い、必ずしも一般的に言われる粗面程粗くない場合も含む。
【０００７】
又、請求項２に記載したエンコーダ付組み合わせシールリングを組み込んだ車輪支持用転がり軸受ユニットは、静止側周面に静止側軌道を有する静止輪と、回転側周面に回転側軌道を有し、車輪を支持固定自在とした回転輪と、これら静止側軌道と回転側軌道との間に転動自在に設けられた複数の転動体と、上記静止側周面の端部と上記回転側周面の端部との間に設けられた、請求項１に記載したエンコーダ付組み合わせシールリングとから成る。
【０００８】
【作用】
上述の様に構成される本発明のエンコーダ付組み合わせシールリングにより、静止輪の周面と回転輪の周面との間を塞ぎ、これら両周面同士の間の空間内に異物が進入する事を防止すると同時に、この空間内に充填されたグリースが外部に漏洩する事を防止する作用、並びにセンサとの組み合わせにより上記回転輪の回転速度を検出する作用は、前述の各公報等に記載される等により従来から知られているエンコーダ付組み合わせシールリングの場合と同様である。
【０００９】
【発明の実施の形態】
図１〜２は、本発明の実施の形態の１例を示している。先ず、図１に示した、エンコーダ付組み合わせシールリング１に就いて説明する。このエンコーダ付組み合わせシールリング１は、後述する外輪５（図２）の端部に内嵌固定するシールリング２と、鋼板或はステンレス鋼板等の磁性金属板製で、後述する内輪６（図２）の端部に外嵌固定するスリンガ３と、このスリンガ３に支持固定されるエンコーダ４とを備える。
【００１０】
又、上記シールリング２は、断面Ｌ字形で全体が円環状の芯金７と、弾性材８とから成る。このうちの芯金７は、軟鋼板等の金属板により、断面略Ｌ字形で全体を円環状に形成して成り、静止輪である上記外輪５の内周面に、締り嵌めにより内嵌固定される固定円筒部９と、この固定円筒部９の軸方向端縁から、回転輪である上記内輪６の外周面に向け、直径方向内方に折れ曲がった固定円輪部１０とを有する。又、上記弾性材８は、上記芯金７の全周に亙って添着されたもので、１乃至複数本（図示の例では３本）のシールリップ１１ａ〜１１ｃを有する。一般的には、上記弾性材８は、ゴム製とし、上記芯金７に対し焼き付けにより結合している。
【００１１】
又、上記スリンガ３は、上記内輪６の端部外周面に締り嵌めにより外嵌固定される回転円筒部１２と、この回転円筒部１２の軸方向端縁から上記外輪５の内周面に向け直径方向外方に折れ曲がった回転円輪部１３とを備える。又、上記スリンガ３は、シールリップを有する弾性材は備えず、上記回転円筒部１２の外周面及び上記回転円輪部１３の片側面（図１〜２の左側面）で上記各シールリップ１１ａ〜１１ｃの先端縁を摺接させる部分を、表面粗さが０．３Ｒａ程度の平滑面としている。
【００１２】
更に、上記エンコーダ４は、円周方向に亙ってＳ極とＮ極とを交互に配置したゴム磁石製である。即ち、このエンコーダ４は、ゴム中にフェライト粉末を混入したゴム磁石を円輪状に形成したもので、軸方向（図１の左右方向）に亙って着磁している。着磁方向は、円周方向に亙って交互に且つ等間隔で変化させている。従って、上記エンコーダ４の側面にはＳ極とＮ極とが、円周方向に亙って交互に且つ等間隔で配置されている。この様なエンコーダ４は、上記回転円輪部１３の他側面（図１〜２の右側面）で上記各シールリップ１１ａ〜１１ｃとは反対側に位置する面に、この面を利用してフェライト粉末を混入したゴム材料をモールド成形する事により、添着支持されている。この様なエンコーダ４と上記回転円輪部１３の他側面との結合強度を確保する為に、この他側面は、表面粗さが１．０〜１．５Ｒａ程度の（上記外周面及び片側面に比較して粗い）粗面としている。
【００１３】
上述の様に構成するエンコーダ付組み合わせシールリング１は、例えば図２に示す様な転がり軸受ユニット１４に組み込んで、この転がり軸受ユニット１４により懸架装置に対し回転自在に支持した車輪の回転速度を検出自在とする。図２に示した転がり軸受ユニット１４は、駆動輪（ＦＲ車及びＲＲ車の後輪、ＦＦ車の前輪、４ＷＤ車の全輪）を懸架装置に対し支持するものである。この様な転がり軸受ユニット１４を構成する、静止輪である外輪５は、静止側周面である内周面に複列の外輪軌道１５、１５を有する。又、この外輪５の外周面中間部には、この外輪５を懸架装置に対し支持固定する為の、外向フランジ状の取付部１６を設けている。
【００１４】
又、上記外輪５の内側に、回転輪であるハブ１７及び内輪６を、この外輪５と同心に配置している。これらハブ１７及び内輪６は、組み合わされて回転輪を構成するもので、回転側周面であるこれらハブ１７及び内輪６の外周面には、それぞれ上記外輪軌道１５、１５と対向する、回転側軌道である内輪軌道１８、１８を形成している。又、上記ハブ１７の中心部には、スプライン孔１９を形成している。自動車への組み付け状態でこのスプライン孔１９には、図示しない等速ジョイントに付属のスプライン軸を挿入する。そして、この等速ジョイントに設けたハウジングの外端面と、このスプライン軸の先端部に螺合したナットとの間で、上記ハブ１７及び内輪６を軸方向両側から挟持する。尚、上記ハブ１７の外端開口部は、ナットの螺合緊締作業の後、図示しない蓋体を嵌着する事により塞ぐ。又、上記ハブ１７の外寄り（外とは、自動車への組み付け状態で幅方向外側となる部分を言い、図２で左）部分で、上記外輪５の外端開口から突出した部分に、車輪を支持する為のフランジ２２を設けている。図示しない車輪は、このフランジ２２に固設した図示しないスタッドにより、このフランジ２２に結合固定される。従って上記ハブ１７は、自動車の走行に伴って、上記車輪と共に回転する。
【００１５】
又、上記各外輪軌道１５、１５と上記各内輪軌道１８、１８との間には、転動体である玉２０、２０を、各列毎に複数個ずつ設けている。これら各玉２０、２０は、保持器２１、２１により、円周方向に互いに間隔をあけた状態で、転動自在に保持されている。従って上記ハブ１７は、上記外輪５の内側に回転自在に支持されている。尚、重量の嵩む自動車用の転がり軸受ユニットの場合には、転動体として、玉２０、２０に代えてテーパころを使用する場合もある。
【００１６】
更に、上記外輪５の外端部にはシールリング２３を内嵌固定し、このシールリング２３を構成するシールリップの先端縁を上記ハブ１７の中間部外周面に摺接させて、このハブ１７及び内輪６の外周面と外輪５の内周面との間に存在する空間２４の外端開口部を塞いでいる。前述の様に構成するエンコーダ付組み合わせシールリング１は、上述の様に構成する転がり軸受ユニット１４の内端部で、上記外輪５の内端部内周面と上記内輪６の内端部外周面との間に、上記空間２４の内端開口部を塞ぐ状態で組み付けている。即ち、上記外輪５の内端部に前記固定円筒部９を締り嵌めで内嵌固定すると共に、上記内輪６の内端部に前記回転円筒部１２を締り嵌めで外嵌固定している。又、この状態で、前記各シールリップ１１ａ、１１ｂ、１１ｃの先端縁を、図１に示す様に、上記回転円筒部１２の外周面及び前記回転円輪部１３の外側面に、全周に亙って摺接させる。又、前記エンコーダ４の内側面には、上記外輪５或は懸架装置の一部等、固定の部分に支持した図示しないセンサの検出部を、微小隙間を介して対向させる。
【００１７】
前述の様に構成し、上述の様に転がり軸受ユニット１４に組み付ける、本発明のエンコーダ付組み合わせシールリング１の場合には、前記スリンガ３を構成する回転円筒部１２の外周面及び回転円輪部１３の片側面で前記各シールリップ１１ａ〜１１ｃの先端縁を摺接させる部分を平滑面としている為、十分なシール性の確保を図れる。尚、上記回転円筒部１２の外周面及び回転円輪部１３の片側面のうち平滑面とする部分は、少なくとも上記各シールリップ１１ａ〜１１ｃの先端縁が摺接する部分であれば足りる。例えば、上記回転円筒部１２の外周面と回転円輪部１３の片側面との連続部には何れのシールリップの先端縁も摺接する事はないので、表面粗さの値を必ずしも小さくする必要はない。
【００１８】
これに対して、上記回転円輪部１３の他側面でエンコーダ４を支持固定すべき面を表面粗さの値が大きい粗面としている為、このエンコーダ４の上記スリンガ３に対する結合強度を大きくできる。この為、長期間に亙る使用によっても、上記エンコーダ４が上記スリンガ３から剥離したりする事を防止できて、上記エンコーダ付組み合わせシールリング１及びこれを組み込んだ車輪支持用転がり軸受ユニットの耐久性を確保し、回転速度検出の信頼性を長期間に亙って維持できる。尚、上記回転円筒部１２の内周面は、前記内輪６の内端部に嵌合固定した状態で、嵌合面をシールできる程度の表面粗さであれば良い。
【００１９】
【発明の効果】
本発明のエンコーダ付組み合わせシールリングとこれを組み込んだ車輪支持用転がり軸受ユニットは、以上に述べた通り構成され作用する為、優れたシール性を有し、しかも、回転速度検出装置による回転速度検出の信頼性を長期間に亙って維持できる。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明の実施の形態の１例を示す部分拡大断面図。
【図２】転がり軸受ユニットに組み込んだ状態を示す断面図。
【符号の説明】
１ エンコーダ付組み合わせシールリング
２ シールリング
３ スリンガ
４ エンコーダ
５ 外輪
６ 内輪
７ 芯金
８ 弾性材
９ 固定円筒部
１０ 固定円輪部
１１ａ、１１ｂ、１１ｃ シールリップ
１２ 回転円筒部
１３ 回転円輪部
１４ 転がり軸受ユニット
１５ 外輪軌道
１６ 取付部
１７ ハブ
１８ 内輪軌道
１９ スプライン孔
２０ 玉
２１ 保持器
２２ フランジ
２３ シールリング
２４ 空間
Claims (2)
- 静止輪の周面と回転輪の周面との間に存在する空間部の開口端部を塞ぐと共に、この回転輪の回転速度を検出する為に使用するエンコーダ付組み合わせシールリングであって、
上記静止輪の周面に固定されるシールリングと、上記回転輪の周面に固定される金属製のスリンガと、このスリンガに支持固定されるエンコーダとを備え、
上記シールリングは、上記静止輪の周面に嵌合固定される固定円筒部及びこの固定円筒部の端縁から上記回転輪の周面に向け折れ曲がった固定円輪部から成る芯金と、この芯金の全周に亙って添着された、シールリップを有する弾性材とを備え、
上記固定円筒部は、上記固定円輪部から遠い側の先端部の外径が中間部の外径よりも小さくなっており、この先端部の外周面が上記弾性材の一部により被覆されており、
上記スリンガは、磁性ステンレス鋼板製で、上記回転輪の周面に嵌合固定される回転円筒部と、この回転円筒部の端縁から上記静止輪の周面に向け折れ曲がった回転円輪部とを備えて、シールリップを有する弾性材は備えず、
上記エンコーダは、円周方向に亙ってＳ極とＮ極とを交互に配置したゴム磁石製で、上記回転円輪部の他側面に結合固定されており、
上記スリンガは、上記回転円筒部の周面及び上記回転円輪部の片側面で上記シールリップの先端縁を摺接させるシール摺接部と、上記回転円輪部の他側面で上記エンコーダを支持固定するエンコーダ支持固定部とを有するものであるエンコーダ付組み合わせシールリングであって、
上記エンコーダ支持固定部の表面粗さの値（Ａ）を、上記シール摺接部の表面粗さの値（Ｂ）よりも大きく（Ａ＞Ｂと）したエンコーダ付組み合わせシールリング。 - 静止側周面に静止側軌道を有する静止輪と、回転側周面に回転側軌道を有し、車輪を支持固定自在とした回転輪と、これら静止側軌道と回転側軌道との間に転動自在に設けられた複数の転動体と、上記静止側周面の端部と上記回転側周面の端部との間に設けられた、請求項１に記載したエンコーダ付組み合わせシールリングとから成るエンコーダ付組み合わせシールリングを組み込んだ車輪支持用転がり軸受ユニット。
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