JP3613044B2 - 誘電体磁器組成物 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、ニッケル等の卑金属を内部電極に用いる積層セラミックコンデンサ(以降、積層コンデンサと称する)用の誘電体磁器組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
積層コンデンサは、内部電極とセラミックグリーンシートを交互に複数枚積層した積層体を所定形状に切断した後、一体焼成し作製される。
【0003】
前記内部電極材料には、従来PdあるいはPd合金が使用されていたが、Pdは高価であるため、近年比較的安価なNi等の卑金属材料を用いた製品に置換えられつつある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、内部電極材料に卑金属を用い、大気中で誘電体と一体焼成を行うと、内部電極が酸化されるため、中性雰囲気、または還元性雰囲気中で焼成を行う必要がある。これに対し、従来の誘電体材料は還元性雰囲気中で焼成すると、誘電体が還元され絶縁抵抗が低くなり、所望の特性が得られない。この対策として耐還元性の誘電体磁器組成物として、特開昭61−155255号公報に誘電体磁器組成物が提案されているが、この耐還元性誘電体磁器組成を用いた積層セラミックコンデンサは、絶縁抵抗特性(IR寿命特性)の劣化が大きく信頼性に課題があると共に、大量焼成した場合、得られた製品は静電容量はバラツキが大きくなる等の問題があった。
【0005】
本発明の誘電体組成物は、中性あるいは還元性雰囲気中で大量焼成を行っても、絶縁抵抗の劣化が少なく、しかも静電容量のバラツキを制御すると共に、静電容量温度変化率の小さい積層コンデンサが得られる誘電体磁器組成物を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために本発明は、BaTiO3に対し、BaCO 3、MgO、Y2O3、MnO2、BaO・SiO2・Al2O3化合物を所定量添加することにより所期の目的を達成することができる。また必要に応じては更に、酸化バナジウム、酸化アルミニウムを添加し、更に性能の優れた積層コンデンサ用誘電体材料を提供することができるものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に記載の発明は、BaTiO3100モルに対し、BaCO 3をBa/Tiのモル比が1.001〜1.04になるように添加し、更にMgOを0.5〜5.0モル、Y2O3を0.1〜3.0モル、MnO2を0.01〜0.4モル、BaO・SiO2・Al2O3化合物を0.6〜5.0モルを添加したことを特徴とする誘電体磁器組成物であり、基本成分の過剰BaCO 3と添加したMnO2は誘電体組成物の耐還元性を強化し、特にMnO2は中性雰囲気中、あるいは還元性雰囲気中での大量焼成において、誘電体組成の絶縁抵抗の劣化を防ぐとともに、積層コンデンサの静電容量のバラツキを抑制し均質な焼結体が得られる効果があり、MgO、Y2O3の添加は誘電率、静電容量温度特性等の電気特性を満足させるという効果を有し、BaO・SiO2・Al2O3化合物の添加は比較的低い温度の焼成において誘電体組成の焼結を促進し、絶縁抵抗を安定させ電気的性能を満足させることのできる緻密な焼結体が得られるという作用を有するものである。
【0008】
本発明の請求項2に記載の発明は、アルミニウムをAl2O3に換算し、BaTiO3100モルに対して0.1〜3.0モル添加したことを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器組成物であり、Al2O3の添加は多成分系誘電体磁器組成物の焼成過程で発生しやすい、主成分以外の副成分に作用して均一な成分相を形成し、焼結性と電気特性を安定させる有効な作用を有するものであり、この添加量を規定したものである。
【0009】
本発明の請求項3に記載の発明は、バナジウムをV2O5に換算し、BaTiO3100モルに対し、0.01〜0.26モル添加したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の誘電体磁器組成物であり、V2O5の添加は還元雰囲気の焼成で還元されやすい基本成分のTiO2の還元を抑制し積層コンデンサの絶縁抵抗の低下を防ぎ、静電容量ばらつきの小さい積層コンデンサを得ることができるという作用を有するものであり、この添加量範囲を規定したものである。
【0010】
(実施の形態1)
先ず、各出発原料をBaTiO3100モルに対し、(表1)に示す組成となるように、BaCO3、Y2O3、MgO、MnO 2 、BaO・SiO2・Al2O3をそれぞれ秤量し、これらの出発原料に純水を加え、部分安定化ジルコニア玉石を媒体としてボールミルで17時間湿式混合粉砕を行った後、脱水乾燥する。BaTiO3、およびBaO・SiO2・Al2O3は予め固相法にて合成した微粉砕材料を用いた。
【0011】
【表1】
【0012】
次に、この脱水乾燥した混合材料を解砕し、32メッシュ篩を全通させた後、アルミナ質の坩堝に入れ、1100℃の温度で2時間保持し仮焼した。このとき、仮焼温度が高すぎると得られた積層コンデンサの静電容量の容量温度変化率が大きくなりすぎることがあり注意が必要である。
【0013】
次いで、仮焼原料を混合と同様、ボールミルで平均粒径が1.0μm以下になるように湿式粉砕を行った後、脱水乾燥と32メッシュ篩を全通させ、誘電体材料を作製した。
【0014】
作製した誘電体材料にバインダーとしてポリビニルブチラール樹脂、溶剤とし酢酸nブチル、可塑剤としてフタル酸ジブチルを加え、イットリア部分安定化ジルコニアボールと共にボールミルで72時間混合しスラリーを作製した。
【0015】
得られたスラリーを、公知のドクターブレード法を用いポリエステルフィルム上に成形し、誘電体セラミックグリーンシート(以降、グリーンシートと称する)を作製した。
【0016】
作製したグリーンシート表面にNiを主成分とする内部電極ペーストをスクリーンで印刷し、乾燥を行う。このNi内部電極ペーストを印刷したグリーンシートを、公知の積層コンデンサ製造方法に従って、複数枚積み重ねて熱圧着し、グリーン積層体を形成した後、3.3mm×1.7mmの積層コンデンサグリーンチップ(以降、グリーンチップと称する)形状に切断を行う。
【0017】
これらのグリーンチップをジルコニア敷粉と混ぜ合わせアルミナ質のサヤに1万個入れ、400℃の温度で12時間、窒素混合空気雰囲気中でバインダー除去を行った後、引き続き窒素、水素の混合グリーンガスを用い酸素濃度が調整されたNiが酸化されない還元性雰囲気中で、温度1220〜1340℃で2時間保持し焼結を行った。その後、降温冷却過程の900℃の温度で1時間、窒素、水素、酸素で調整した雰囲気中で保持し、焼結体の再酸化を行った後、室温まで冷却し積層コンデンサの焼結体を作製した。尚、各組成の最適焼成温度は、それぞれの組成の焼結体密度が最大となる温度を用いた。
【0018】
次に、得られた積層コンデンサ焼結体をバレル研磨した後、焼結体端面に露出した内部電極と電気的に接続するように、焼結体端面にCuを主成分とする外部電極ペースト塗布を行い、窒素と水素の混合グリーンガスで酸素濃度を調整した雰囲気中において、850℃で15分間焼付を行い外部電極を形成した。
【0019】
形成した外部電極表面に、電解メッキ法を用いてニッケル膜、更にニッケル膜の表面に半田膜を形成し積層コンデンサを完成した。
【0020】
得られた積層コンデンサを、20℃(室温)、周波数1KHzにおける静電容量、誘電正接(tanδ)のバラツキ、及び−55〜+125℃間の20℃の静電容量に対する変化率を測定し、その結果を(表2)に、また室温においてDC電圧25Vを印加したときの絶縁抵抗(IR)と、放置試験として、積層コンデンサを150℃の恒温槽に1時間保持した後、室温に戻し48時間室温に放置した時の静電容量を基準にして、その後室温放置1000時間までの静電容量の経時変化率、及び加速寿命試験として125℃の温度下で、DC200Vの電圧を250時間連続印加した後の絶縁抵抗劣化状況(IRが1×107Ω以下に劣化したものを不良としてカウントした)を(表3)に示した。
【0021】
【表2】
【0022】
【表3】
【0023】
(表2)、(表3)から明らかなように、本発明による誘電体組成物は初期性能として誘電率が2000を越えて高く、静電容量バラツキも±5%以内と小さく、更に静電容量の変化率が±15%以下と小さく、絶縁抵抗も1×1012Ωと高く劣化は認められない。また、放置試験での静電容量経時変化率は−1.0〜−1.3%と小さく、更に焼結体の副成分相も発生していない。これに対し、主成分のBaO/TiO2のモル比が1.001より小さいと還元雰囲気中での大量焼成で還元され半導体化し、1.04を越えると誘電体の焼結が不十分となり良好な焼結体が得られない。MgOの添加が0.5モルより少ないと焼結不十分となり、5モルを越えると、積層コンデンサの静電容量温度変化率が大きくなると共に、静電容量の経時変化が大きくなる。Y2O3が0.1モル未満では静電容量の温度変化率が大きくなると共に、静電容量の経時変化率とtanδが大きくなり、3モルを越えると誘電率が2000以下に低下し実用的でなくなる。MnO2の添加が0.01モル未満では焼結体が部分的に半導体化され静電容量のバラツキが大きく、また絶縁抵抗値が小さくなり、その結果加速寿命試験において絶縁抵抗値が大幅に劣化し、0.4モルを越えると静電容量の温度変化率、経時変化率も大きく、また絶縁抵抗の劣化も大きくなる。
【0024】
BaO・SiO2・Al2O3添加量が0.6モル未満では、十分な焼結体が得られず、静電容量、絶縁抵抗にばらつきを生じ、実用的でなくなる。また、5.0モルを越えると焼結性は向上するものの誘電率が低下し、静電容量の温度変化率が大きくなり実用的でない。
【0025】
以上の結果から主成分のBaTiO3 100モルに対し、BaCO 3 を0.1〜4モル範囲過剰添加することにより、還元雰囲気中での大量焼成において誘電体が還元される事なく良好な焼結体が得られる。MgOの0.5〜5.0モルの添加は静電容量の温度変化率を小さくすると共に、絶縁抵抗値を向上させる効果があり、Y2O3の0.1〜3.0モルの添加は更に静電容量の温度変化率、及び絶縁抵抗値を向上させる効果を有する。またMnO2の0.01〜0.4モル添加は主成分のBaTiO3のTiO2の還元を防止し絶縁抵抗特性を向上させる。BaO・SiO2・Al2O3の0.6〜5.0モルの添加は比較的低温での焼成を可能なものにし、静電容量、絶縁抵抗のばらつきを小さくする効果があることが明らかとなる。但し、各添加物の添加量が本発明の範囲を外れると電気特性のばらつきを大きくすると共に、静電容量温度変化率を大きくする傾向があり好ましくないことがわかる。尚、BaTiO3、BaO・SiO2・Al2O3化合物を予め固相法で作製した微粉末を用いたが、固相法以外の方法で作製した化合物を用いても同様な効果が得られることを確認している。
【0026】
(実施の形態2)
先ず、本発明の誘電体組成物BaTiO3100モルに対しBaCO3を2モル、MgOを2.5モル、Y2O3を1.0モル、MnO2を0.2モル、BaO・SiO2・AlO3化合物2.1モルを添加し、これに更に(表4)に示す量のAl2O3、及びV2O5を各々秤量する。
【0027】
【表4】
【0028】
次いで、実施の形態1と同条件で材料粉末を作製した後、この材料を用いて積層コンデンサを作製した。但し、焼成時、一さやあたりのグリーンチップ素子の詰め量を実施の形態1のときの1.5倍の15000個とし、他の条件は同条件で行い、焼成最高温度は1220〜1340℃の範囲で行った。
【0029】
その後、実施の形態1と同様に得られた積層コンデンサを評価し、その結果を(表5)、及び(表6)に示した。
【0030】
【表5】
【0031】
【表6】
【0032】
(表5)、(表6)に示すように、BaTiO3100モルに対し、BaCO 3 を2モル、MgOを2.5モル、Y2O3を1.0モル、MnO2を0.2モル、BaO・SiO2・Al2O3化合物を2.1モル添加した組成に、更に、V2O5、Al2O3を添加した誘電体磁器組成で、V2O5の添加量が0.01〜0.26モルの範囲添加した組成は、焼成時、さや詰め量を増やした場合においてV2O5が主成分中のTiO2の還元を抑制し、高い絶縁抵抗と絶縁抵抗の劣化のない優れた積層コンデンサが得られる。このとき、V2O5の添加量が0.26モルを越えると、静電容量の温度変化率が大きくなると共に、絶縁抵抗が劣化してしまう。また、0.01モル未満だと、大量焼成した場合、絶縁性にばらつきを生じてしまう。一方、Al2O3を0.1〜3.0モルの範囲で添加した組成は、本発明のような多成分系組成で発生しやすい副成分相に作用し、副成分の発生しない均一な焼結体を得ることができる。これに対し、添加量が3.0モルを越えると、静電容量温度変化率と誘電損失が大きくなり、また、0.1モル未満だと副成分相の発生が多くなり、好ましくないことがわかる。
【0033】
以上の結果から、本発明のBaTiO3を主成分とし、これにBaCO 3、MgO、Y2O3、MnO2、BaO・SiO2・Al2O3を添加した組成にさらにV2O5を添加することにより、還元性雰囲気での大量焼成において、誘電体の還元を防止し絶縁抵抗性能を向上させ、またAl2O3を添加することにより焼結体表面に副成分の発生を抑制した積層コンデンサが得られることが明らかである。
【0034】
【発明の効果】
以上、本発明によれば、BaTiO3に対して、BaCO 3、MgO、Y2O3、MnO2、BaO・SiO2・Al2O3化合物を所定量添加することにより、還元雰囲気中の比較的低温での焼成において、電気特性の安定した優れた積層コンデンサ用誘電体磁器組成物が得られ、また必要に応じ、V2O5、Al2O3を添加することにより、中性あるいは還元性雰囲気中での大量焼成においても、絶縁抵抗ならびに静電容量のバラツキが小さく、かつ誘電率の温度変化率の優れたものとなる。
Claims (3)
- BaTiO3100モルに対し、BaCO 3をBa/Tiのモル比が1.001〜1.04になるように添加し、さらにMgOを0.5〜5.0モル、Y2O3を0.1〜3.0モル、MnO2を0.01〜0.4モル、BaO・SiO2・Al2O3を0.6〜5.0モル添加したことを特徴とする誘電体磁器組成物。
- アルミニウムをAl2O3に換算して、BaTiO3100モルに対して0.1〜3.0モル添加したことを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
- バナジウムをV2O5に換算して、BaTiO3100モルに対して0.01〜0.26モル添加したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の誘電体磁器組成物。
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