JP3605869B2 - 耐寒性油脂組成物 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、耐寒性に優れた油脂組成物に関するものである。さらに詳しくは、−20℃程度の低温でも固化(結晶化または凝固と言うこともある。)しないか、または固化し難い油脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
常温で液体である植物由来の油を植物油とし、常温で固形または半固形であるパーム油、やし油などを植物脂と区別し、その用途にも差異がある。例えば、植物油は常温で液体であると言う性質を生かした用途、植物脂は常温で固形または半固形であると言う性質を生かした用途である。しかし、常温で液体の植物油であっても、0℃または−10℃の低温では、流動性が乏しくなり、固化するものがある。植物油の中でも、月見草種子油、ククナッツ種子油、タバコ種子油などの特殊な植物油は、−20℃の低温でも固化しない性質を持っているが、供給量が少なく、価格も高いため多量には使用されていない。
【0003】
ヒマシ油、ナタネ油、マカデミア油などの植物油は、常温で液体で供給量も少なくなく、価格も高くないため多量に使用されてもよいのであるが、−10℃の低温では、流動性が乏しくなり、固化する性質がある。
【0004】
植物油の主な用途は、チェーンソー用潤滑油、冷凍食品用油脂、化粧品用油脂の原料でがあるが、低温で固化すると、商品がこれら用途に使用できないという問題がある。
【0005】
チェーンソー用潤滑油は、立木伐採用に使用されるチェーンソーの摩擦部分に供給されるのであり、立木の伐採は温度の低い冬季にも行われるので、これに使用される潤滑油は、−15℃程度の低温で固化しない性質が要求される。冷凍食品用油脂の用途は、サラダ油、ドレッシング、マヨネーズ、アイスクリーム、ケーキなどであり、これらは使用前に変質しないように、冷蔵庫または冷凍庫で低温で保存され、使用時に流動性を発揮することが要求される。これら用途に使用される油脂には、優れた耐凍性が要求される。化粧品用油脂の用途は、化粧液、化粧用クリームであり、これらも使用前に変質しないように、冷所に保管され、使用時に流動性と透明性を発揮することが要求される。
【0006】
従来、植物油の低温で固化させないか、または固化する迄の時間を遅延させるには、植物油に、例えば、(1) オレイン酸などの不飽和脂肪酸を多く含む低融点の植物油を添加する方法、(2) ラウリン酸を結合脂肪酸とするショ糖ラウリン酸エステルを添加する方法、などが知られている。
【0007】
しかし、植物油の用途がショートニング、マヨネーズ、アイスクリーム等の食品用の場合は、硬さなどの物性、食感などの風味づけのために、固体脂(結晶化した油脂)を含んでいることが必要であるが、固体脂の含有量の高い植物油は上記の添加物を添加する方法によって、低温での固化を遅延させることが難しいばかりでなく、製品の食品にラウリン臭が残りこれを気にする場合は風味を損ない、好ましくない。
【0008】
この油脂類が低温で固化するという問題を解消する技術として、特開平5−209187号公報、特開平5−39497号公報などに記載の技術が提案されているが、未だ満足するに至っていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ヒマシ油、ナタネ油、マカデミア油などの常温で液体である植物油は、0℃または−10℃の低温では、流動性が乏しくなり、固化する性質があるので、この性質を改良すべく鋭意検討した結果、これら植物油に特定組成のショ糖脂肪酸エステルを特定割合で配合した組成物とすると、耐凍性を大幅に改良できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、温度10℃における固体脂量が10重量%以下の油脂{以下(A)成分と言う。}に、ショ糖脂肪酸エステル{以下(B)成分と言う。}を含有させた耐寒性油脂組成物において、(B)成分の含有量が0.01〜5重量%の範囲であり、(B)成分を構成する脂肪酸が、炭素数が8〜22の飽和脂肪酸{以下(b1)成分と言う。}と炭素数が16〜22の不飽和脂肪酸{以下(b2)成分と言う。}とが、重量比で80:20〜20:80の範囲で混合されたものであり、かつ、(B)成分のHLBが3以下であることを特徴とする。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る耐寒性油脂組成物は、温度10℃における固体脂量が10重量%以下の油脂{(A)成分}と、ショ糖脂肪酸エステル{(B)成分}とを含むことを必須とする。
以下、各成分につき説明する。
【0012】
(A)成分:
本発明で(A)成分とは、温度10℃における固体脂量が10重量%以下の油脂を言う。この(A)成分は、耐寒性油脂組成物が使用される各々の用途で油脂成分として機能する。すなわち、チェーンソー用潤滑の用途では潤滑性を発揮させ、冷凍食品用油脂の用途では食品に硬さなどの物性、食感などの風味を発揮させ、化粧品用油脂の用途では化粧品に硬さなどの物性を発揮させる。
【0013】
(A)成分は、温度10℃における固体脂(結晶化した油脂)量が10重量%以下の油脂でなければならない。(A)成分中の固体脂量が10重量%以上であると、(B)成分を添加しても低温で固化してしまい、−10℃ないし−20℃程度の低温でも凝固しない油脂組成物を提供するという、本発明の目的が達成されない。
なお、温度10℃における固体脂量は、油化学、第33巻、第3号、33〜39頁(1984年)に記載のパルスNMR法により測定することができる。
【0014】
(A)成分の具体例としては、ヒマシ油、ナタネ油、マカデミア油、ホホバ油、アボガド油、オリーブ油、サザンカ油、コーン油、ヘッゼルナッツ油、大豆油、米油、ゴマ油、綿実油、あまに油、くるみ油、けし油、たばこ種子油、日本きり油、ひまわり種子油、ぶどう種子油、あんず核油、かぼちゃ種子油、西洋すもの核油、大根種油、レモン油、茶油、つばき油などが挙げられる。中でも、ヒマシ油、ナタネ油またはマカデミア油を主成分とするものが、好ましい。
【0015】
(B)成分:
(B)成分とは、脂肪酸エステルを構成する脂肪酸が、炭素数が8〜22の飽和脂肪酸{(b1)成分}と炭素数が16〜22の不飽和脂肪酸{(b2)成分}とを、特定割合で含有するものであり、(b1)成分と(b2)成分との合計量は、(B)成分全体の脂肪酸合計量に対して95重量%以上を占めているショ糖脂肪酸エステルであることが好ましい。
【0016】
(B)成分は、(A)成分に吸着され耐寒性油脂組成物を低温下に放置しても固化(結晶化)させないか、固化するのを遅延させる機能を果たす。(B)成分は、従って、(A)成分に溶解する性質を有する必要がある。
上記飽和脂肪酸{(b1)成分}の炭素数を8〜22の範囲とするのは、一般の植物油脂の中に多く存在し、入手が容易であるからであり、上記不飽和脂肪酸{(b2)成分}の炭素数を16〜22とするのも、一般の植物油脂の中に多く存在し、入手が容易であるからである。
【0017】
(B)成分は、(b1)成分と(b2)成分とが、(B)成分全体の脂肪酸合計量に対して95重量%以上を占めているショ糖脂肪酸エステルが好ましい。炭素数が8未満の短鎖の飽和脂肪酸、炭素数が16未満の不飽和脂肪酸、および炭素数が22を越える長鎖の飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸は、一般に入手が困難であり、これらの成分が(B)成分全体の脂肪酸合計量に対して5重量%を越えた量を含むショ糖脂肪酸エステルは、(A)成分に吸着され耐寒性油脂組成物を低温下で放置しても固化(結晶化)するのを遅延させるという機能が著しく低下するので、好ましくない。
【0018】
(B)成分は、(b1)成分と(b2)とが、重量比で80:20〜20:80の範囲である必要がある。これは、一方が重量比で80%を越えると、その成分の性質が支配的になり、−10℃ないし−20℃程度の低温でも固化しないか、固化するのを遅延された油脂組成物を提供するという、本発明の目的が達成されなくなるからである。
【0019】
(B)成分は、HLBが3以下である必要がある。(B)成分のHLBが3を越えると、(B)成分の(A)成分に対する溶解性が低下し、均一な油脂組成物が得られないので好ましくない。(B)成分の特に好ましいHLBは、1〜2である。
【0020】
(b1)成分(炭素数が8〜22の飽和脂肪酸)の具体例としては、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸などが挙げられる。これらは、単独でも2種以上の混合物であってもよい。
【0021】
(b2)成分(炭素数が16〜22の不飽和脂肪酸)の具体例としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、アラキドン酸、セトレイン酸、エルカ酸、プラシジン酸などが挙げられる。これらは、単独でも2種以上の混合物であってもよい。
【0022】
前記(A)成分に対する(B)成分の混合割合は、本発明者らの実験によれば、(B)成分の量が少なすぎると、本発明の目的が達成されず、逆に多すぎると、効果が頭打ちとなり使用量の増加に伴う効果を期待し得ず、いずれも好ましくなく、(A)成分と(B)成分との合計重量に対して、0.01〜5重量%の範囲とする必要があることが分かった。中でも好ましいのは0.05〜5重量%、とりわけ好ましいのは0.1〜3重量%である。
【0023】
本発明に係る耐寒性油脂組成物は、上記の通り、(A)成分と(B)成分とを含むことを必須とするが、使用目的に応じて、これら成分の外に他の成分を含んでいてもよい。含ませることができる他の成分は、(A)成分に溶解する性質を有した香料、着色剤、ビタミン類、熱安定剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。これら他の成分の添加量は、0.001〜10重量%の範囲で適宜選ぶことができる。
【0024】
本発明に係る耐寒性油脂組成物を調製するには、上記(A)成分、(B)成分を所定量秤量し、必要があれば他の成分も秤量し、これらを加熱下、攪拌し、均一に混合すればよい。混合方法には、特に制限はない。耐寒性油脂組成物は、タンク、ローリー、ドラム缶、ガロン缶などの容器に収納され、場合によっては、さらに小わけされて出荷される。
【0025】
本発明に係る耐寒性油脂組成物の主な用途は、チェーンソー用潤滑油、冷凍食品用油脂、化粧品用油脂の原料である。
【0026】
【発明の効果】
本発明に係る耐寒性油脂組成物は、次のような有利な効果を奏し、その産業上の利用価値は、極めて大である。
1.本発明に係る耐寒性油脂組成物は、0℃程度の低温で固化しないか、または固化し難いので、チェーンソー用潤滑油の用途に好適である。
2.本発明に係る耐寒性油脂組成物は、長時間冷蔵庫または冷凍庫で、低温で保存しても固化しないか、または固化し難く、流動性を発揮するので、冷凍食品用油脂の用途に好適である。
3.本発明に係る耐寒性油脂組成物は、長時間冷所に保管しても固化しないか、または固化し難く、使用時には低温での流動性、透明性を発揮するので、化粧品用油脂の用途に好適である。
【0027】
【実施例】
以下、本発明を実施例、比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の記載例に限定されるものではない。
なお、以下の例において、「%」は「重量%」を意味し、油脂の物性、ショ糖脂肪酸エステルの組成は、次に記載の方法で測定、分析したものである。
【0028】
(1) 温度10℃における固体脂量(%)
油化学、第33巻、第3号、33〜39頁(1984年)に記載のパルスNMR法により測定する方法によった。
(2) 油脂の融点(℃)
日本油化学協会で制定している、基準油脂分析試験法の融点測定法に準拠して測定した。
【0029】
(3) ショ糖脂肪酸エステルの組成分析
ショ糖脂肪酸エステルを常法によりケン化し、常法により脂肪酸部分を抽出し、ガスクロマトグラム法により分析し、分析チャート上の面積割合より組成とその割合を算出する方法によった。
【0030】
(4) 固化時間
実施例、比較例で得た混合油脂組成物を、攪拌下、65℃に加熱して均一な混合組成物とし、引続き、所定温度に設定した恒温槽に移し、油脂が透明な状態から、固化(結晶化)して全体が白色不透明になる迄の時間を目視観察した。結果は、時間(hr)で表示した。この時間が長時間であるほど、耐寒性(耐凍性)が優れていることを意味する。
【0031】
(5) HLBの測定
ショ糖脂肪酸エステルにつき、親水性原子団と疎水性原子団のそれぞれの基数を常法に従い測定し、次式、すなわち、HLB=Σ{(親水性原子団の基数)+(疎水性原子団の基数)}に基づき算出する方法によった。
【0032】
[実施例1〜3、比較例1〜6]
攪拌機、温度調節器、温度計などを装備した容量500ミリリッターのフラスコに、表−1に示す物性値を持つ油脂を仕込み、これに表−2に示す物性値を持つショ糖脂肪酸エステルを1重量%宛添加し、攪拌混合した。この混合物を、攪拌下、65℃に加熱して、均一な油脂組成物とした。
【0033】
得られた油脂組成物につき、上に記載の方法で、油脂の種類によって恒温槽の設定温度を変更し、すなわち、油脂の融点より10℃低い温度、すなわち、0℃(マカデミア油)、−15℃(ヒマシ油)、−20℃(ナタネ油)とし、「固化時間」(hr)を測定した。
測定結果を、表−1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
表−1〜表−2から、次のことが明らかである。
(1) (A)成分の油脂に対する(B)成分のショ糖脂肪酸エステルの量、(B)成分における(b1)成分と(b2)成分との割合が、本発明の要件を満たす耐寒性油脂組成物は、0℃以下の低温において放置した場合の固化する迄の時間が長く、耐寒性(耐凍性)に優れている(実施例1〜実施例3参照)。
(2) これに対して、(B)成分のショ糖脂肪酸エステルを全く含まないもの(比較例1)、(A)成分の油脂に対する(B)成分のショ糖脂肪酸エステルの量の要件を満たしても、(B)成分が(b2)成分を含まないもの(比較例2、比較例5)、(b1)成分を含まないもの(比較例4)、(b1)成分と(b2)成分を含むが、両者の割合が本発明の要件を満たさないもの(比較例3)は、0℃以下の低温においても固化する迄の時間が短く、耐寒性(耐凍性)に劣る。
Claims (6)
- 温度10℃における固体脂量が10重量%以下の油脂{以下(A)成分と言う。}に、ショ糖脂肪酸エステル{以下(B)成分と言う。}を含有させた耐寒性油脂組成物において、(B)成分の含有量が0.01〜5重量%の範囲であり、(B)成分を構成する脂肪酸が、炭素数が8〜22の飽和脂肪酸{以下(b1)成分と言う。}と炭素数が16〜22の不飽和脂肪酸{以下(b2)成分と言う。}とが、重量比で80:20〜20:80の範囲で混合されたものであり、かつ、(B)成分のHLBが3以下であることを特徴とする耐寒性油脂組成物。
- (A)成分がヒマシ油、ナタネ油またはマカデミア油を主成分とするものである、請求項1記載の耐寒性油脂組成物。
- (B)成分を構成する脂肪酸の全量に対する(b1)成分と(b2)成分の合計量が、(B)成分全体の脂肪酸合計量に対して95重量%以上である、請求項1記載の耐寒性油脂組成物。
- 請求項1記載の耐寒性油脂組成物よりなることを特徴とする、チェーンソー用潤滑油。
- 請求項1記載の耐寒性油脂組成物よりなることを特徴とする、冷凍食品用油脂。
- 請求項1記載の耐寒性油脂組成物よりなることを特徴とする、化粧品用油脂。
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