JP3581269B2 - 垂直加速型飛行時間型質量分析計 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、垂直加速型飛行時間型質量分析計に係り、特に、複数のイオン源で生成されたイオンビームをイオン溜に同時並行的にイオン溜に導入、蓄積してマススペクトルを測定する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、質量分析計として、試料から発生させたイオンを飛行させることにより、試料のイオンを質量の大きなイオンと質量の小さなイオンとに分離して質量分析器に導入し、試料の質量分析を行う飛行時間型質量分析計(TOFMS)が提案されている。この飛行時間型質量分析計は、イオンに同一の運動エネルギーを与えたとき、イオンの質量電荷比(m/e:Mは質量数、eは素電荷量)が小さいものほど、イオン検出器に早く到達することを利用している。
【0003】
このような飛行時間型質量分析計の一つの種類として、従来、イオンを連続的に出射する連続イオン化法を用いた垂直加速型飛行時間型質量分析計(Orthogonal Acceleration TOFMS。以下、OA/TOFMS と称す)が提案されている。
【0004】
図10は、OA/TOF−MS の一構成例を模式的に示す図である。図中、1はイオン源、2はビーム規制スリット、3は長さy のイオン溜、4はイオン押出プレート、5はイオン溜3のイオン放出口に設けられた、金属メッシュ電極からなるグリッド、7はTOF−MS分光部、8はイオン検出器である。
【0005】
加速電圧V が印加されているイオン源1からのイオンは、eV の運動エネルギーでイオン規制スリット2を通ってイオン溜3に導入される。そして、このイオンが長さy のイオン溜3に充満された状態において、イオン押出プレート4に高圧パルス電圧(振幅電圧=V )を印加すると、第1グリッド5が接地電位または接地電位近傍の電位に保持されているので、イオン溜3内に充満されたイオンは、平均eV/2 の運動エネルギーでイオン溜3内でのイオンの飛行方向と垂直方向(TOFMSの光軸方向で図10のz方向)に加速され、イオン溜3のグリッド5から排出される。これがイオンパルスである。このとき、イオンはドリフト方向の長さy (イオン溜3の長さ)のビーム長分が排出される。
【0006】
イオン溜3から排出されたイオンパルスはTOFMS分光部7に進入し、TOFMS分光部7内を飛行した後、イオン検出器8に到達する。このとき、イオンはTOFMS分光部7内の飛行中に質量分離され、質量の小さいイオンから順次イオン検出器8に検出される。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、垂直加速型飛行時間型質量分析計を用いた場合に限らず、質量分析計を用いて、試料のイオンや、試料のフラグメントイオン(以下、これらを総称して試料イオンと称することにする。)の質量を精密に測定する場合には、標準物質のイオンの質量スペクトルを利用することが広く行われているが、そのためには、試料イオンと、標準物質のイオンの両方の質量スペクトルを測定する必要がある。
【0008】
このような場合、質量分析計で、まず標準物質のイオンの質量スペクトルを測定し、次に、試料イオンの質量スペクトルを測定するのが通常であるが、測定時間が掛かるばかりでなく、標準物質のイオンの質量スペクトルとを測定する時と、試料イオンの質量スペクトルを測定する時とで時間経過があるので、質量分析計において質量を決定するための種々のパラメータ、例えば電源電圧や、チャージアップ等、の条件が経時変化してしまい、試料イオンの質量の測定精度は低くなってしまうものである。
【0009】
これに対して、試料と標準物質とを同時に、同一イオン源でイオン化して質量分析計に導入することが考えられる。このようにすれば、試料イオンの質量スペクトルと、標準物質のイオンの質量スペクトルとが同時に測定できるので、質量分析計において質量を決定するための種々のパラメータの経時変化による測定精度の低下はなくなるからである。
【0010】
しかし、標準物質は、通常イオン化効率が試料よりも高く、容易にイオン化するので、試料と標準物質とを同時に、同一イオン源でイオン化した場合には、試料イオン強度と、標準物質のイオン強度の両方の質量スペクトルを同時にバランスよく測定することは非常に難しいものである。また、標準試料と、試料との物理化学的な特性が大きく異なる場合には、同一のイオン化条件やイオン化法でイオン化しようとしても、標準物質か試料の何れか一方のみがイオン化され、他方はイオン化されない場合も多々ある。
【0011】
そこで、次に、試料と標準物質とをそれぞれ別個のイオン源でイオン化して質量分析計に導入して、同時に質量スペクトルを測定することが考えられる。しかし、このように複数のイオン源からのイオンビームの質量スペクトルを同時に測定しようとする場合、質量分析計として、今日最も広く用いられている磁場型二重収束質量分析計を用いることは非常に難しいものである。即ち、磁場型二重収束質量分析計では、質量分解能は対物スリットの幅に反比例することが知られており、従って高分解能を得るためには対物スリットの幅は 0.1mm前後、高さは10mm前後とする必要があるが、2個のイオンビームをこのような幅の狭い対物スリットに入射させるには、物理的に与えられている空間が狭過ぎるのである。
【0012】
また、磁場型の質量分析計では、イオンの質量はイオン源で生成されたイオンビームの運動エネルギーに差があると測定精度が低下してしまうが、試料と標準物質とを同一のイオン化方によってイオン化した場合でも、双方のイオン源で生成されたイオンビームの運動エネルギーに微妙な差が生じることは避け難いので、高精度で両者のイオンの質量スペクトルを測定することは難しいものである。
【0013】
しかしながら、垂直加速型飛行時間型質量分析計においては、図10に示すように、一旦、TOFMS の光軸(図10のz方向)に対して直角方向に配置されたイオン溜3にイオンを蓄積するために、異なる複数のイオン源でイオン化されたイオンビームのイオン運動エネルギーが異なっているとしても、その運動エネルギーの相違は無視できる程度に小さいものとなる。即ち、垂直加速型飛行時間型質量分析計を用いた場合には、複数の異なるイオン源でイオン化したイオンビームを同時にイオン溜に導入、蓄積し、排出することによって、それら異なるイオンビームの質量スペクトルを同時に、且つ精度よく測定できる可能性があるのである。
【0014】
そこで、本発明は、複数の異なるイオン源でイオン化したイオンビームを同時にイオン溜に導入、蓄積し、排出することによって、それら異なるイオンビームの質量スペクトルを同時に、且つ精度よく測定できる垂直加速型飛行時間型質量分析計を提供することを目的とするものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明の垂直加速型飛行時間型質量分析計は、複数のイオン源と、押出プレートと、イオン放出口に設けられたグリッドと、押出プレートとグリッドの間に配置された中間電極とで構成されるイオン溜とを備え、押出プレート、グリッド、中間電極には、複数のイオンビームがイオン溜内で収束した状態でイオン溜内を飛行する電圧が印加されることを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明に係る垂直加速型飛行時間型質量分析計の第1の実施形態を示す図であり、イオン溜3近傍の部分のみを示す部分図である。その他については図10に示すと同じである。ただし、この実施形態では、イオン検出器8としてはイオン溜3のサイズと同等以上の検出面を持つ2次元の面型の検出器を用いる。
【0017】
図1(a)、(b)は、それぞれ、この実施形態のx−y平面における構成、y−z平面における構成を示しており、図中、1、1′はイオン源、10、10′は収束レンズ、11は中間電極を示す。なお、以下の説明においてはイオン源1、1′から出射されるイオンは正イオンであるとする。
【0018】
2個のイオン源1、1′が、y方向に関しては互いに正面に対向するように、z方向に関してはイオン溜3の中心に対してほぼ対称に、それぞれ配置されている。
【0019】
イオン源1とイオン溜3の間には収束レンズ10が配置されており、イオン源1′とイオン溜3の間には収束レンズ10′が配置されている。この収束レンズ10、10′は、アインツェルレンズ、または静電4重極レンズ、あるいは円筒レンズで構成することができるが、ここでは図に示すように、3つの電極からなるアインツェルレンズで構成されるものとする。そして、この場合にはイオンが正イオンであるので、中央電極には正の電圧V が印加され、その両側の電極は接地電位となされる。そして、この中央電極に印加する電圧V は、収束レンズ10、10′によるイオンビームの収束点がそれぞれイオン溜3の入射側端面近傍に位置するように設定する。望ましくは収束点をイオン溜3の入射側端面の位置に一致させることである。そのためには、この中央電極に印加する電圧V を、イオン源1に印加される加速電圧と同極性で、且つそれ以上の最適な電圧を与えればよい。これにより、イオン源1からのイオンビーム(以下、このイオンビームをイオンビームAと称する)及びイオン源1′からのイオンビーム(以下、このイオンビームをイオンビームBと称する)を、それぞれイオン溜3の入射側端面近傍に収束させることができる。なお、この収束レンズ10、10′は必要不可欠のものではなく、イオン源1、1′により、イオンビームA及びイオンビームBが共にイオン溜3の入射側端面近傍に収束させるようになされている場合には省略することが可能である。
【0020】
イオン溜3は、押出プレート4と、グリッド5、及び中間電極11で構成される。中間電極11は、押出プレート4とグリッド5の間に配置されている。そして、中間電極11のイオン溜3のイオンビームAの入射側、及びイオンビームBの入射側は、押出プレート4とグリッド5との端面とほぼ一致させるように取り付け支持する。この中間電極11は、押出プレート4とグリッド5の間に配置されていればよく、必ずしも押出プレート4とグリッド5間の中央でなくてもよい。
【0021】
図2に押出プレート4、グリッド5及び中間電極11の配置状態の斜視図を示すが、この中間電極11は、図2(a)に示すように1本の金属ワイヤ電極で構成してもよく、図2(b)に示すように複数本の金属ワイヤ電極で構成してもよく、あるいは図2(c)に示すように板状のメッシュ電極で構成してもよい。
【0022】
次に、押出プレート4、グリッド5、及び中間電極11に印加する電圧について、図3を参照して説明する。図3において、SW ,SW はスイッチを示す。また、図3では収束レンズ10、10′は省略している。
まず、グリッド5は常時接地電位となされている。
【0023】
スイッチSW は、押出プレート4に印加する電圧を切り換えるためのものであり、イオン溜3にイオンを導入し、蓄積する場合には図3の実線で示すように接続される。従って、この場合には押出プレート4は接地電位になされる。イオン溜3からイオンパルスを排出する場合には、瞬間的に図3の破線で示すように接続される。従って、この場合には押出プレート4にはイオンの電荷極性と同極性の高電圧V が印加される。
【0024】
スイッチSW は、中間電極11に印加する電圧を切り換えるためのものであり、イオン溜3にイオンを導入し、蓄積する場合には、図3の実線で示すように接続されて、中間電極11には電圧V が印加される。この電圧V の極性はイオンの電荷極性と逆である。この場合には正イオンであるので、V は負の電圧である。正イオンの運動エネルギーが数十eVである場合には、V は通常負の数V〜数十Vとなされる。
【0025】
また、イオン溜3からイオンパルスを排出する場合には、スイッチSW は図3の破線で示すように接続されて、中間電極11には高電圧V を可変抵抗Rで分圧した電圧VW0が印加される。この電圧VW0は、中間電極11が押出プレート4とグリッド5の間のどのような位置に配置されているかによって決まる電圧であり、図3に示すように押出プレート4とグリッド5間の距離が2S (mm)であり、中間電極11がグリッド5からa(mm)の距離に配置されているとすると、VW0=V×(a/2S )である。従って、中間電極11が押出プレート4とグリッド5の間の中央の位置に配置されている場合には、VW0=V/2である。つまり、中間電極11が押出プレート4とグリッド5の間のどのような位置に配置されているかに応じて、可変抵抗Rの値を調整して、VW0を上記のような電圧に設定するのである。なお、ここでは便宜的に、中間電極11は、押出プレート4とグリッド5の間の中央の位置に配置されているものとする。
【0026】
これらの二つのスイッチSW ,SW は図示しない制御手段によって連動して切り換え制御がなされる。これらのスイッチSW ,SW としては、QスイッチやMOSFETスイッチ等の高速のスイッチングが可能なものを用いる。
【0027】
次に、上述した説明と重複するが、動作について説明する。
まず、イオン溜3にイオンを導入し、蓄積する場合について説明する。
さて、イオン源1、1′から出射したイオンビームA,Bは、それぞれ収束レンズ10、10′によってイオン溜3のそれぞれの入射側端面近傍の位置で収束されてイオン溜3に導入し、蓄積されることになるが、このとき、スイッチSW ,SW は共に図3の実線で示すように接続されるので、押出プレート4は接地電位になされ、中間電極11には負の電圧V が印加される。このときのイオンビームAの振る舞いをシミュレーションした結果を図4に示す。このシミュレーションにおいては、収束レンズ10に入射するイオンビームの運動エネルギーは10eV、その運動エネルギー幅は 1.0eV、中間電極11に印加される電圧V は−20Vである。また、収束レンズ10の中央電極に印加される電圧V は+25Vである。図4においてはイオンビームAは、収束レンズ10によってイオン溜3の入射側端面とほぼ同じ位置に収束されてイオン溜3に導入し、蓄積されることが分かる。そして、イオン溜3内ではイオンビームは、ほぼ収束された状態を保ったままy方向に飛行している。つまり、イオン溜3の内部でのイオンのz方向の空間的広がりを最小限に抑えることが可能なのであり、このことによって、イオン溜3からイオンパルスとして排出するときのイオンの持つ運動エネルギーの広がりを最小限に抑えることが可能になり、以て質量分解能を向上させることができるのである。図示しないがイオンビームBの振る舞いも同様である。
【0028】
以上のようにして、イオン溜3の有効長さy の部分に2つのイオンビームA,Bを蓄積すると、イオン溜3内のイオンをイオンパルスとして排出する。このときには、スイッチSW ,SW は共に図3の破線で示すように接続されるので、押出プレート4には高電圧V が印加され、中間電極11にはVW0=V /2が印加される。これによって、イオン溜3内に蓄積されたイオンビームA,Bはグリッド5からイオンパルスとしてTOFMS分光部7に排出される。
【0029】
以上のように、この垂直加速型飛行時間型質量分析計によれば、2個の異なるイオン源1、1′からのイオンビームを同時にイオン溜3の内部に蓄積して、同時にイオンビームとして排出することができ、しかも、それぞれのイオンビームのz方向の空間的広がりを最小限に抑えることが可能であるので、異なるイオンビームの質量スペクトルを同時に、且つ高分解能で精度よく測定することが可能である。
【0030】
以上は、イオンパルスがイオン溜3からz方向に直進する、いわゆるリニア型のTOFMSについて説明したが、以上に説明した第1の実施形態の構成は、TOFMS分光部7がセクタ型や、リフレクトロン型であるものにおいても適用できるものである。
【0031】
次に、本発明に係る第2の実施形態について説明する。
図5は本発明に係る垂直加速型飛行時間型質量分析計の第2の実施形態を示す図であり、イオン溜3近傍の部分のみを示す部分図である。その他については図10に示すと同じである。また、この実施形態でも、イオン検出器8としてはイオン溜3のサイズと同等以上の検出面を持つ2次元の面型の検出器を用いる。
【0032】
図5(a)、(b)は、それぞれ、この実施形態のx−y平面における構成、y−z平面における構成を示しており、図中、1、1′はイオン源、10は収束レンズ、11は中間電極を示す。なお、以下の説明においてはイオン源1、1′から出射されるイオンは正イオンであるとする。
【0033】
この実施形態においては、2個のイオン源1、1′は、イオン溜3の同一側に配置され、それらのイオン源1、1′からのイオンビームは、y軸に平行にイオン溜3に入射するようになされている。即ち、イオン源1、1′からのイオンビームの飛行方向は同じである。なお、以下、イオン源1からのイオンビームをイオンビームAと称し、イオン源1′からのイオンビームをイオンビームBと称することにする。
【0034】
イオン源1、1′と、イオン溜3の間には収束レンズ10が配置されている。収束レンズ10はアインツェルレンズで構成されており、この場合にはイオンが正イオンであるので、中央電極には正の電圧V が印加され、その両側の電極は接地電位となされる。
【0035】
中間電極11は、上記の第1の実施形態に示すと同じであり、押出プレート4とグリッド5の間に配置されている。中間電極11のイオン溜3のイオンビームA,Bの入射側は、押出プレート4とグリッド5との端面とほぼ一致させるように取り付け支持されている。この中間電極11は、押出プレート4とグリッド5の間に配置されていればよく、必ずしも押出プレート4とグリッド5間の中央でなくてもよい。また、第1の実施形態で説明したように、中間電極11は、1本の金属ワイヤ電極で構成してもよく、複数本の金属ワイヤ電極で構成してもよく、あるいは板状のメッシュ電極で構成してもよい。
【0036】
この実施形態で重要なことは、収束レンズ10によるイオンビームA,Bの収束点が共にイオン溜3の入射側端面近傍に位置するように電圧V を設定することである。望ましくは収束点をイオン溜3の入射側端面の位置に一致させることである。そのためには、この中央電極に印加する電圧V を、イオン源1、1′に印加される加速電圧と同極性で、且つそれ以上の最適な電圧を与えればよい。これにより、イオンビームをイオン溜3の入射側端面近傍に収束させることができる。
【0037】
次に、押出プレート4、グリッド5、及び中間電極11に印加する電圧について、図6を参照して説明する。図6において、SW ,SW ,SW はスイッチを示す。
【0038】
スイッチSW は、押出プレート4に印加する電圧を切り換えるためのものであり、イオン溜3にイオンを導入し、蓄積する場合には図6の実線で示すように接続される。従って、この場合には押出プレート4には電圧V が印加される。この電圧V は、イオン源1、1′に印加される加速電圧と同極性で、且つそれ以上の電圧にする。また、イオン溜3からイオンパルスを排出する場合には、瞬間的に図6の破線で示すように接続される。従って、この場合には押出プレート4にはイオンの電荷極性と同極性の高電圧V が印加される。
【0039】
スイッチSW は、中間電極11に印加する電圧を切り換えるためのものであり、イオン溜3にイオンを導入し、蓄積する場合には、図6の実線で示すように接続されて、中間電極11には負の電圧VW1が印加される。イオンが正イオンである場合には、この電圧VW1は、上記の電圧V よりも低い電圧である。また、イオン溜3からイオンパルスを排出する場合には、図6の破線で示すように接続されて、中間電極11にはイオンの電荷極性と同極性の電圧VW0が印加される。この電圧VW0は、電圧V を可変抵抗Rで分圧した電圧であり、中間電極11が押出プレート4とグリッド5の間のどのような位置に配置されているかによって決まる。図6に示すように押出プレート4とグリッド5間の距離が2S (mm)であり、中間電極11がグリッド5からa(mm)の距離に配置されているとすると、VW0=V×(a/2S )である。従って、中間電極11が押出プレート4とグリッド5の間の中央の位置に配置されている場合には、VW0=V/2である。つまり、中間電極11が押出プレート4とグリッド5の間のどのような位置に配置されているかに応じて、可変抵抗Rの値を調整して、VW0を上記のような電圧に設定するのである。なお、ここでは便宜的に、中間電極11は、押出プレート4とグリッド5の間の中央の位置に配置されているものとする。
【0040】
スイッチSW は、グリッド5に印加する電圧を切り換えるためのものであり、イオン溜3にイオンを導入し、蓄積する場合には図6の実線で示すように接続される。従って、この場合にはグリッド5には、押出プレート4と同じ電圧V が印加される。また、イオン溜3からイオンパルスを排出する場合には、瞬間的に図6の破線で示すように接続される。従って、この場合にはグリッド5は接地電位となされる。
【0041】
これらの3つのスイッチSW ,SW ,SW は図示しない制御手段によって連動して切り換え制御がなされる。これらのスイッチSW ,SW ,SW としては、QスイッチやMOSFETスイッチ等の高速のスイッチングが可能なものを用いる。
【0042】
次に、上述した説明と重複するが、動作について説明する。
イオン源1、1′から出射したイオンビームは、収束レンズ10によってイオン溜3の入射側端面近傍の位置で収束されてイオン溜3に導入される。
【0043】
イオン溜3にイオンを導入し、蓄積する場合は、スイッチSW ,SW ,SW は何れも図6の実線で示すように接続されるので、押出プレート4及びグリッド5には同じ電圧V が印加され、中間電極11にはVW1が印加される。このとき、収束レンズ10の中央電極に印加する電圧V を適切な値に選択すると、イオン溜3の入り口と出口近傍の電位分布を、イオン溜3の入り口近傍の領域ではイオン源1、1′に印加される加速電圧以下の電位を持たせて、イオンビームA,Bを反射させることなくイオン溜3の内部に取り込めるように、また、イオン溜3の出口近傍ではイオン源1、1′に印加される加速電圧よりも高くすることができる。これは即ち、収束レンズ10の中央電極に印加する電圧V によって、イオン溜3の入り口近傍と出口近傍の電位分布を非対称にすることができることを意味している。
【0044】
そして、この第2の実施形態では、イオン溜3の入り口近傍と出口近傍の電位分布が、上述したように、イオン溜3の入り口近傍の領域ではイオン源1、1′に印加される加速電圧以下の電位を持たせてイオンビームをイオン溜3の内部に取り込めるように、また、イオン溜3の出口近傍ではイオン源1、1′に印加される加速電圧よりも高くなるように非対称になるように電圧V を選択する。また、この電圧V は、イオンビームの収束点がイオン溜3の入射側端面近傍に位置するような電圧でもあることは上述した通りである。
【0045】
図7にシミュレーション結果の例を示す。図7は、イオン源1、1′の加速電圧は共に 5V、V =10V、V =10V、VW1= 0Vとしたときの電位分布をシミュレーションしたものであり、イオン溜3の入り口近傍と出口近傍の電位分布が非対称になっていることがわかる。図7において20はイオンビームAの軌道を示す。イオンビームBの軌道も同様なものとなる。
【0046】
以上のように、この実施形態では、イオン溜3にイオンを導入し、蓄積する場合には、イオン溜3の入り口近傍と出口近傍の電位分布は非対称になるのであり、このときには、イオンビームAは、図8に示すようにイオン溜3の内部をy方向に一往復する。即ち、イオンビームAは、収束レンズ10によってイオン溜3のほぼ入射側端面に収束されてイオン溜3の内部に入射し、収束した状態でイオン溜3の内部を飛行して出口に至り、その出口で反射して収束した状態で入り口の方向に飛行するのである。図8に示すシミュレーションにおける電圧の条件は図7に示すと同じである。図示しないが、イオンビームBのイオン溜3の内部における振る舞いも図8に示すイオンビームAの振る舞いと同様である。
【0047】
次に、イオン溜3内のイオンを排出する場合について説明する。このとき、スイッチSW ,SW ,SW は何れも図6の破線で示すように接続されるので、押出プレート4には高電圧V が印加され、中間電極11にはVW0=V /2が印加され、グリッド5は接地電位になされる。これによって、イオン溜3内に蓄積された2つのイオンビームA,Bはグリッド5からTOFMS分光部7に排出される。
【0048】
以上のように、この垂直加速型飛行時間型質量分析計によれば、2個の異なるイオン源1、1′からのイオンビームを同時にイオン溜3の内部に蓄積して、同時にイオンビームとして排出することができ、しかも、イオン溜3の内部でのそれぞれのイオンビームのz方向の空間的広がりを最小限に抑えた状態で一往復させることができ、このことによって、イオン溜3からイオンパルスとして排出するときのイオンの持つ運動エネルギーの広がりを最小限に抑えることが可能になるので、異なるイオンビームの質量スペクトルを同時に、且つ高分解能で精度よく測定することが可能である。
【0049】
また、イオン溜3の内部でイオンを一往復させるので、イオン溜3の物理的な長さy の範囲に蓄積できるイオンの量は従来の2倍となるので、イオン源1、1′で生成されたイオンのTOFMS での検出効率は従来の2倍となる。
【0050】
そして、このことによって、装置の小型化が可能となる。即ち、イオン溜3に蓄積できるイオンの量は従来の2倍となるので、イオン溜3の長さy0 を従来の半分にしても同一量のイオンをイオン溜3に蓄積でき、同一感度が得られるからである。
【0051】
以上は、イオンパルスがイオン溜3からz方向に直進する、いわゆるリニア型のTOFMSについて説明したが、以上に説明した第2の実施形態の構成は、TOFMS分光部7がリフレクトロン型であるものにおいても適用できるものである。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記の第2の実施形態ではイオン源を2つとしたが、3個以上のイオン源を配置することも可能である。また、複数のイオン源の配置としては、第1の実施形態と第2の実施形態とを組み合わせて、図9(a)に示すような配置とすることも可能である。また、図9(b)に示すような配置とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る垂直加速型飛行時間型質量分析計の第1の実施形態を示す図である。
【図2】押出プレート4、グリッド5及び中間電極11の配置状態を示す斜視図である。
【図3】第1の実施形態において、押出プレート4、グリッド5、及び中間電極11に印加する電圧を説明するための図である。
【図4】第1の実施形態において、イオン溜3にイオンを導入し、蓄積するときのイオンビームの振る舞いのシミュレーション結果を示す図である。
【図5】本発明に係る垂直加速型飛行時間型質量分析計の第2の実施形態を示す図である。
【図6】第2の実施形態において、押出プレート4、グリッド5、及び中間電極11に印加する電圧を説明するための図である。
【図7】第2の実施形態において、イオン源1、1′の加速電圧を 5V、V =10V、V =10V、VW1= 0Vとしたときのイオン溜3近傍の電位分布のシミュレーション結果を示す図である。
【図8】第2の実施形態で、イオン溜3にイオンを導入し、蓄積するときのイオンビームの振る舞いのシミュレーション結果を示す図である。
【図9】本発明のイオン源の配置の変形例を示す図である。
【図10】OA/TOF−MS の一構成例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1、1′…イオン源、2…ビーム規制スリット、3…長さy のイオン溜、4…イオン押出プレート、5…グリッド、7…TOF−MS分光部、8…イオン検出器、10、10′…収束レンズ、11…中間電極。

Claims (1)

  1. 複数のイオン源と、
    押出プレートと、イオン放出口に設けられたグリッドと、押出プレートとグリッドの間に配置された中間電極とで構成されるイオン溜と
    を備え、
    押出プレート、グリッド、中間電極には、複数のイオンビームがイオン溜内で収束した状態でイオン溜内を飛行する電圧が印加される
    ことを特徴とする垂直加速型飛行時間型質量分析計。
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