JP3569571B2 - 医用画像再構成方法及び磁気共鳴イメージング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置(MRI)、X線CT等の医療用画像診断装置に関し、特に医療用画像診断装置の画像再構成用データの処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、X線CT、MRIは組織描出能に優れた画像診断装置として、疾病の重要な診断手段となっている。これらの画像診断装置は信号計測原理は各々異なっているが、得られる計測データから画像を再構成する手法は共通している。
例えばX線CTでは各X線ビームに沿った線吸収係数の投影p(r,φ)から逆投影演算を行って画像を再構成する方法が行われている。この方法は、空間分解能が等方的であることから、殆どのX線CTで採用されている。この画像再構成方法では投影データを1次元フーリエ変換し、そのフーリエ空間のデータにフィルタ処理を施した後、フーリエ逆変換、逆投影することにより実空間のデータを得ることができる。
【0003】
一方、MRIでは人体中の水分に含まれる水素原子核に核磁気共鳴(NMR)現象を生じさせ、これにより放射される高周波(RF波)信号を計測する。このNMR信号から水素原子密度の空間分布を画像情報として得るための方法として、初期の段階においては磁場焦点法、センシティブプレーン法等の信号発生領域を空間的に限定する手法が試みられたが、現在では広い空間領域全体の信号を同時に得ることができ、信号の利用効率の高い2D―FFT法(2次元高速フーリエ変換法:平面の場合)や3D−FFT法(3次元高速フーリエ変換法:立体の場合)が商用機の主流となっている。またMRIにおいても一部の用途に限定されているものの、X線CTと同様の原理による逆投影再構成法も行われている。
【0004】
MRIにおける2D−FFT法による画像再構成方法では、空間の直交する2方向に傾斜磁場をかけて、横磁化の位相が位置によって直線的に変化する分布をもつようにしながら信号を計測する。このことを図2(a)に示す2D−FFT法のための典型的なデータ収集法であるスピンエコー法(SE法)により説明する。
【0005】
90度RFパルス21及びスライス選択傾斜磁場22を同時に印加することにより、選択された領域のスピンが励起され、このスピンは更に180度RFパルス23により反転され、NMR信号がエコー信号27として計測される。この際、1方向(x方向とする)にはx傾斜磁場26をかけつつNMR信号を連続してサンプリングする。この計測の際の傾斜磁場の方向をリードアウト方向という。このように傾斜磁場をかけながら計測される各サンプリングデータは、時間に比例した位相変化を示す。一方、同一時刻で個々の各スピンの位相を見ると、位置に対して直線的に変化する位相分散を持っている。すなわちx座標が信号の位相に反映される。ただし、x方向には位相ばかりでなく周波数も分散しており、周波数エンコードと呼ばれる。残りの1方向(y方向)に対しては、横磁化の励起(RFパルス21印加)から信号検出までの期間に、一時的にy傾斜磁場24を印加して一定量の位相分散を与える。この位相分散を与える方向を位相エンコード方向という。x方向の位相情報は経時的に連続するデータの中に盛り込まれるが、y方向の位相は1回の横磁化の励起に対して1回盛り込まれるのみであるため、励起を反復する必要がある。即ち、y傾斜磁場24の印加量を変化させることによりy方向座標に応じて異なる位相分散を与えて信号計測を反復する。図2(a)ではこれは破線で示している。図2(b)に示す3次元の計測の場合には、もう一つの方向(z方向)が同様に傾斜磁場28により位相エンコードされ、反復のループは2重になる(3D−FT法)。
【0006】
このように、2D−FT法ではx、y傾斜磁場の強度または印加時間を操作することにより、x、y方向の位置に応じた位相変化量を各位置のスピンに与えつつ、スピンの総和の信号(回転する磁気ベクトルの放射するRF信号)Sを計測する。信号Sは式で示すと次式となり、式(1)は計測信号Sが核スピン分布ρ(x,y)のフーリエ変換であることを表している。
【0007】
【数1】
【0008】
式中、ρは核スピン密度、γは磁気回転比、Gx、Gyはそれぞれx、y傾斜磁場強度、t、τはそれぞれx、y傾斜磁場の印加時間を表す。また式(1)においてkx、kyは傾斜磁場Gx、Gyの全印加量であり、計測信号Sはkx、kyの関数である。kx、kyはまた、物理的には空間角周波数に当たる。
ここで位相変化を一定の増分で行い、また積分を総和で置き換え、総和を2のべき乗個の要素に対してとると、高速フーリエ変換(FFT)が可能となる。FFTアルゴリズムによれば積を和や置換に置き換えることにより、計算時間の大幅な短縮が可能になる。このため現在のほぼ全ての臨床用MRI装置ではFFTが画像再構成に用いられている。ただし、データ点数を2のべき乗に限定することは不便であり、また比較的少数のマトリクスの画像ではFFTの高速化の利点は顕著ではないため、FFTを用いないで直接離散FTの積和演算を実行する方法も提案されている(特開平4−89031号公報)。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところでフーリエ変換により、核スピン分布ρ(x,y)を求める場合、k空間の無限区間にわたって積分することが理想的であるが、現実の計測データはk空間の有限区間に限られる。即ち、計測信号S(kx、ky)は、図5に示すように一般に実験パラメータkx、kyを操作しながら、kx−ky空間(k空間または位相空間と呼ばれる)の格子点でサンプリングされるが、通常は低空間周波数領域のデータが計測され、高周波数領域のデータは計測されない。この場合、離散フーリエ変換を用いる手法では一般に計測領域の外で同じデータが周期的に繰り返しているとみなして変換を行う。従って、計測データの境界領域まで高周波数成分が大きな振幅をもつ場合、境界で計測データの連続性が悪いと変換に伴い複雑な波形成分が現れる。この様子を模式的に図3に示す。図3(a)はk空間のデータが、単一周波数成分33からなる仮想的なケースを示す。この場合、単一周波数成分33をフーリエ変換したものは同図(b)に点線32で示す1本の線となるはずであるが、同図(a)に示すように境界31においてデータが不連続なときは、離散フーリエ変換では計測区間のデータが外側に反復していると仮定するので、変換後の波形には同図(b)に実線で示すような偽の周波数成分が大量に発生する。
【0010】
このように大きな振幅を持つ高周波成分が存在する場合、MR画像上では、コントラストが急変する輪郭に添って幾筋もの縞が現れるトランケーションアーチファクトと呼ばれる偽像となり、画像の品位を低下させる。これを防ぐために、通常は計測データに窓関数を掛け、境界近傍のデータを減衰させて滑らかに繋がるようにする(アポタイゼーション)。しかしこれは高周波成分を犠牲にしていることになり、画像の空間分解能が犠牲になる。一方、未計測領域のデータを線形予測により外挿してデータが滑らかに繋がるようにする方法も知られている (Journal of Magnetic Resonance, 82, 392−399(1989))。しかし、この線形予測を用いる方法では、予測係数を求めるために予測次数をpとするときp行p列の係数行列の固有値と固有ベクトルを求めるため計算量が膨大になるという欠点がある。
【0011】
ところで調和解析であるFFTが従来専ら再構成に用いられてきた理由は、それが高速再構成を可能にする唯一の方法であったためと考えられるが、近年の計算機の性能向上により、高速性の利点はそれほど重要ではなくなってきている。また、一般に計測データが基本波と調和関係にある先験的な理由はなく、調和展開では非調和項を調和項で近似することに起因する誤差により複数の高調波成分が生じ、画像が汚染される。
【0012】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、アーチファクトの低減が可能で、かつ高速実行が可能な医用画像再構成方法を提供することにあり、特にMRI装置におけるデータ処理に好適な画像再構成方法を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明による医用画像再構成方法は、医用画像診断装置において取得された1次元ないし3次元の位置情報を含む計測データを信号処理して画像データに変換し画像再構成する際に、従来のフーリエ変換による再構成処理に代って、フーリエ空間において計測データを非調和項の集合に展開する処理を行うものである。ここで、非調和項に展開するとは、計測区間の長さから決まる基本周期と調和関係にない正弦波又は余弦波、即ち非整数次の非調波(近似波)を用いて展開することを意味する。
【0014】
本発明の医用画像再構成方法は、X線CT、MRI、SPECT(Single Photon Emission CT)、PET(Positron Emission Tomography)等のフーリエ変換による画像再構成処理を実行する装置に適用でき、特に本発明によるMRIにおける画像再構成方法は、核スピンの核磁気共鳴信号を取得して核スピンの空間密度分布或いはスペクトル情報を画像再構成する磁気共鳴イメーンジング方法において、1ないし3次元の位置情報あるいはスペクトル情報を共鳴核スピンの横磁化の位相または共鳴周波数としてエンコードし、k空間で磁気共鳴信号を取得し、信号に再構成処理を施して該スピンの空間分布やスペクトルを求める際に、k空間のデータを計測区間の非調和項の集合に展開することにより核スピンの空間分布を得るものである。
【0015】
本発明の画像再構成方法において非調和波展開係数を求める演算は以下の手順で行う。まず、基本波の近傍の複数の非調波を計測データに適合させ、これらの中から適合誤差を最小にする1つの非調波を選択する。次に選択した非調波に対する適合誤差を求め、この誤差に対して2次高調波の近傍の複数の非調波を適合させ、誤差を最小化する1つの非調波を選択する。以下同様に非調波の周波数を上げながら操作を繰り返し、計測データの非調和関数による展開を得る。尚、低次の非調波から順次適合誤差を求めるようにしているのは、一般に生体のMRI画像データは低周波数成分ほど振幅が大きいからである。n次調波の近傍の複数の非調波の適合は並列演算が可能であるため高速に処理できる。
【0016】
非調和項への展開は、計測データが2次元或いは3次元データである場合には直交する2つ以上の方向に対して行うことができる。この場合、好適には2次元以上の計測データに対しては外挿する軸以外をフーリエ逆変換し、データをハイブリッド空間に移してから、未変換軸に対して上記の非調和展開を行う。展開係数はそれ自体が実空間のスピン密度分布を表す。更に2番目の軸に対しても外挿を行う場合には、外挿後のデータをフーリエ変換して一旦元のk空間に戻し、先と異なる軸に対して同様にハイブリッド空間に移して外挿を行う。要するに、外挿する軸以外を実空間に変換したハイブリッド空間上で1次元ずつ外挿を行う。所望の軸全てに外挿を行った後k空間に戻し、外挿されたデータを格子点上に配置してから新たに多次元逆FFTを行って画像を再構成する。ただし、最後の軸に関しては非調和展開をFFTの代わりにすることもできる。
【0017】
また本発明の別な態様では、MRIにおいてNMR信号の時間展開からNMRスペクトル情報を得るスペクトル計測あるいはスペクトロスコピックイメージ計測の場合、空間座標と時間座標が混在した空間でデータが計測されるので、時間座標を非調和項で展開する。この場合に計測データをフーリエ逆変換したハイブリッド空間に移行してから時間軸方向に非調和展開を実行する。また時間軸方向にフーリエ変換したハイブリッド空間に移行することにより、断層像計測の場合と同様、空間軸について非調和項で展開してもよい。
【0018】
本発明の方法によれば、測定データについて非調和展開を行うことにより、非調和項の係数として画像データ(MRIであれば核スピンの空間密度)を求めることができ、しかも測定区間以外のデータの外挿を行うことになるので、k空間の計測データの高周波数成分をフィルターにより減衰させる必要がなく、画像の分解能を低下させることがない。逆に外挿により未計測領域の高周波成分を生成するので、分解能を向上させることができる。しかも線形予測法と異なり、行列演算を行わないために比較的高速で実施できるという利点がある。特に本発明は非調波による展開過程を並列処理化することにより、実用性の高い再構成方法となる。また本発明の方法によれば、直交する2つ以上の方向についてそれぞれ別個に非調和展開を適用することにより任意の次元のデータを処理できる。またデータ点数を2のべき乗に限定する必要がなく、計測の自由度がます。
【0019】
更に本発明の方法によれば、非調和項を調和項で近似することに起因する誤差により生じる画像の汚染が回避される結果、画像が高品位になるという利点がある。また本発明では、スペクトロスコピックイメージング計測において、時間軸方向に非調和展開による外挿を行うことにより、スペクトル分解能を向上させることができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による画像再構成方法を実施例に基づき詳細に説明する。図4は本発明が適応されるMRI装置の概略構成図である。このMRI装置は、主として被検体401の置かれる空間に一様な静磁場H0を発生させるための電磁石または永久磁石から成る静磁場発生磁気回路402と、静磁場に重畳される傾斜磁場を発生するための傾斜磁場発生系403と、被検体401に高周波磁場を発生する送信系404と、被検体から生じるNMR信号を検出する検出系405と、検出されたNMR信号を信号処理するための信号処理系406と、これら傾斜磁場発生系403、送信系404及び検出系405を制御するシーケンサ407と、シーケンサ407を制御するコンピュータ408とを備えている。コンピュータ408は操作部421からの指令により制御される。
【0021】
傾斜磁場発生系403は、直交するx、yおよびzの3方向に強度が線形に変化する傾斜磁場Gx、Gy、Gzを発生する傾斜磁場コイル409及び各傾斜磁場コイルに電流を供給するためのその電源410を備えている。送信系404は、任意の周波数の高調波を発生するシンセサイザ411、変調器412、電力増幅器413及び送信コイル414aを備え、シンセサイザ411により発生させた高周波を変調器412で変調し電力増幅器413で増幅し、コイル414aに供給することにより被検体401の内部に高周波磁場を発生させる。これにより被検体401の組織内の特定の核スピンを励起させる。核種として通常は1Hを対象とするが、31P、13C等、核スピンを有する他の原子核を対象とすることもある。
【0022】
シーケンサ407は、傾斜磁場電源410及び変調器412を制御して、所定のタイミング及び強度で高周波磁場及び傾斜磁場を印加するシーケンスを繰り返す。
検出系405は、被検体から生じるNMR信号を検出するためのコイル414b、増幅器415、NMR信号を直交位相検波する検波器416及びA/D変換器417から成る。尚、コイル414は送受信両用でもよく、別々でもよい。被検体401から放出され、コイル414bにより受信されたNMR信号は、増幅器415を通った後、検波器416で直交位相検波され、A/D変換器417を経てコンピュータ408へ入力される。コンピュータ408では、A/D変換された信号に後述するような画像再構成のための演算や補正の演算を施し、最終的に核スピンの密度分布、緩和時間分布、スペクトル分布等に対応する画像データを形成する。
【0023】
信号処理系406は、計算途中のデータあるいは最終データを収納するメモリ424、425と、磁気ディスク426、光磁気ディスク427等の外部記憶装置及びCRTディスプレイ428等の表示装置を備え、コンピュータ408による演算結果である、核スピンの密度分布、緩和時間分布、スペクトル分布等に対応する画像をCRTディスプレイ428に表示する。
【0024】
本発明の画像再構成方法は、このような装置において計測されたNMR信号データを処理するに際し適応されるもので、まずこのような装置におけるNMR信号を計測するシーケンスの一実施例を説明する。
図2(a)は2D−FFT法のための計測シーケンスの典型的な1例である。同図中、横軸は時間軸を表す。まず、90゜高周波磁場(RF磁場)パルス21とともにz方向の傾斜磁場パルス22を印加し、z軸と垂直な特定のスライス面内の磁化を励起する。次に所定の時間横磁化を展開させた後、180゜RFパルス23で横磁化を反転し、スピンエコー27を発生させる。エコー27はx方向に傾斜磁場26(リードアウト傾斜磁場)が印加された状態でサンプリングされる。このサンプリング点数をMxとする。90゜RFパルス21と180゜RFパルス23の間で、横磁化を予め一定量分散させておくための傾斜磁場Gx25が印加される。また、y方向の位置情報をエンコードするための位相エンコード傾斜磁場Gy24が印加される。図2(a)のシーケンスは、傾斜磁場Gy24の振幅を同図中の点線のように毎回一定量ずつ変えながら、複数回反復される。この反復回数をMyとすると、計測全体ではMx×My個の測定データが得られる。
【0025】
個々のデータは、直交位相検波により複素数となる。この測定データは図5に示すkx−ky空間の領域51の格子点上に配置される。図5において、測定データは低空間周波数領域(kx、kyの絶対値の小さい領域)を中心領域とする領域51に配置されている。ここでは、Mx=Myである場合が示されているが、Mx≠Myであってもよい。
【0026】
本発明の画像再構成方法では、このような測定データに対して非調和展開を行い、画像データを形成する。一般に計測データは信号強度を振幅とする波形データであり、本発明による非調和展開ではこの波形を式(2)で示すようなn(n=1,2,3・・・N)次調波を中心とする±0.5次の非調波で展開する。
【0027】
【数2】
【0028】
(式中、Si #は非調波(近似値)、rは計測点数、qは展開項数、Bは非調波 (近似値)の振幅、Aは(計測区間長)−1、kiは計測点の座標を表す)。
このような非調和展開を具体的に実施するアルゴリズムの1例を、図1のフロー図に示す。一般の人体の解剖学的構造の画像では低(空間)周波数成分ほど振幅が大きいため、低周波数成分から順に非調和項の適合を行う。
【0029】
即ち、まず初期波形(計測波形)に対し、1次の調波を設定し(処理11)、この1次の調波を中心として−0.5次から1.4次までの非調波を設定する (処理12)。1次調波を含む10の非調波について、順次0.1次刻みで計測波形に適合させて(処理13)、誤差を計算する(処理14)。この際各々の非調和項の適合において振幅Bはパラメータとして変化させ、誤差を最小化するBの値を用いるものとする。また誤差I1は、式(3)で表すようにデータ各点の差の2乗和で定義し、誤差I1を最小化する非調和項を1つ選択する(処理16)。
【0030】
【数3】
【0031】
(式中、Siは計測値を表す)
次に初期波形から選択した非調和項を減じた残差を計算し(処理17)、この残差の波形に対して、処理11から処理16までを繰り返す。この際、nを1つ増して同様に疑n+1次調波(n+1次調波を中心とする非調波群)の適合を行う。同様に、順次高次の非調波を適合させる処理を繰り返し、残差Ikが所定の値εを下回るか、nが予め定めた項数qに達したら適合処理を終了する。
【0032】
展開項数qの1つの目安としては計測点数rが挙げられるが、ノイズが大の場合には項数qを大きくしても意味がないので、本発明による非調和展開の実際の適用に際しては、展開項数qをデータのS/Nに応じて決定する処理を付加してもよい。また、誤差In(n番目の処理14における誤差)がしきい値を下回らない時、疑n次調波の適合を行わず、n+1次の疑調波へ飛び越す処理を付加してもよい。
【0033】
また、以上の説明ではm次非調波として次数mを0.1刻みとした場合について説明したが、mとしてどのような値を設定するかは要求する精度と計算時間に応じて調整できる。
以上説明した本発明による非調和展開を、従来のFFTによる調和展開と比較して図6に概念的に示した。フーリエ変換は計測波形を図6(a)に示すように1次調波からN次調波の合成として展開するのに対し、非調和展開では同図(b)に示すようにn(n=1,2,3・・・N)次調波の代りに例えばn±0.5次の非調波を用いて展開する。従って、調和解析では計測区間の整数倍の正弦波で元の波形を展開するため、計測区間のデータが周期的に繰り返されるにすぎないが、非調和解析ではそうはならず、異なる波形が外挿される。
【0034】
尚、図6(b)では簡単のため1次元について各調波の位相ずれを省略して示しており、これは複素数データであるMRI信号の実部のみを取り上げたことに相当するが、虚部についても同時に余弦波で展開すれば一般性を失わない。
即ち、計測点kiの実部と虚部を収納した2次元のベクトルsiに対して、式 (4)により誤差Iを定義し、与えられたmに対して誤差Iを最小にする振幅Bを求める。核スピン分布ρは実関数であるため、式(1)から計測データの実部は偶関数、虚部は奇関数となる。そこでそれぞれ余弦関数、正弦関数で展開している。
【0035】
【数4】
【0036】
尚、適合誤差Iは自乗和の代わりに絶対値の和や絶対値の平方根の和で定義することもできる。
また、図1のフローではm次の非調波を適合させる処理12〜15をループで行うようにしているが、この処理は図7に示すように処理72〜74において、並列処理化することが好ましい。このような並列処理はベクトル演算が可能なコンピュータにより容易に実現できる。これにより全体の処理時間を短縮できる。尚、図7において処理71は、図1の処理11に、処理75〜77はそれぞれ図1の処理16〜18に対応し、同様の処理であるので説明を省略する。
【0037】
以上、計測データの次元を考慮せずに或いは1次元データであると仮定して非調和展開を適用する手法について説明してきたが、図5に示すような2D−FFT法のためシーケンスで取得されたデータは、2次元データであるので、これから画像データを形成するためには以下述べるように各方向について順次非調和展開を行う必要がある。このような2方向(これをkx、kyとする)共に非調和展開する場合を図8を参照して説明する。
【0038】
まず測定データに対してky方向にフーリエ逆変換を行い、データをハイブリッド空間kx−yに移す(処理81)。このハイブリッド空間においてデータをkx方向に非調和展開することにより(処理82)、データは計測区間80から外挿される。外挿後、フーリエ変換してk空間kx−kyに戻し(処理83)、未計測領域の外挿データ88をリマップして格子点上のデータを作成し、続いてx方向とy方向を入れ替えて同様の処理を行う。即ち、kx方向にフーリエ逆変換してハイブリッド空間x−kyに移り(処理84)、ky方向に非調和展開による外挿(処理85)を行った後フーリエ変換してk空間に戻る(処理86)。未計測領域の外挿データ89をリマップして格子点上のデータを作成し、この拡大された2次元データ(図5の領域51と52)に対して2次元逆FFTを施して画像を得る(処理87)。
【0039】
この実施例ではハイブリッド空間における非調和展開は、いずれもk空間のデータを外挿するために用いられており、処理87において最終的に拡大されたデータから画像データを形成するためには2次元逆FFTを用いている。しかし、この最終的に拡大されたデータから画像データを形成する処理に本発明による非調和展開を用いてもよい。その場合、y方向については処理85の展開係数をもってy方向のスピン分布関数とすることができる。
【0040】
以上、本発明の画像再構成方法を2次元FFT用に取得された計測データに適用する場合について説明したが、例えば図2(b)のパルスシーケンスで取得された3次元データkx−ky−kzの場合も同様に適用することができ、この場合にも外挿する軸以外をフーリエ逆変換し、データをハイブリッド空間に移してから、未変換軸に対して非調和展開を行う。各軸についてこのような非調和展開を行うことにより、3軸方向に拡大された3次元データを形成することができ、これを3次元FFTにより画像データとすることができる。また最後の軸に関しては非調和展開をFFTの代わりにすることもできる。
【0041】
またスペクトロスコピック画像の場合には、スペクトル情報は時間軸(これをkδ軸と記す)方向に配列されるが、これは3次元データの場合と同様に扱うことができるので、空間軸のみならずkδ軸に対しても同様にハイブリッド空間 (x−y−kδ)でデータを外挿できる。これによりスペクトル分解能を向上することができる。
【0042】
以上、FFTを前提としてk空間の格子点上で計測されたデータが提供されている場合について述べてきたが、計測データがk空間で不等間隔で配列されていてる場合でも、データ間隔に関する情報が得られるならば式(3)あるいは式 (4)による誤差計算と非調和展開が可能である。従って、図2(a)、図2 (b)に示すようなSE法のシーケンスばかりでなく、正弦波駆動のEPI(Echo Planner)や螺旋EPIのデータに対しても本発明の方法は適応可能である。
【0043】
また、本発明の画像再構成方法は非調和展開により計測区間外のデータを外挿する(FFTを補う)画像再構成法であるとともに計測データを非調和関数により近似して非調和項の係数から画像データを構成する画像再構成方法でもあり、後者の観点から見ると、非調和展開は計測データ点数が少ない場合、言い換えると再構成の点数が少ない場合により有効である。従って、本発明は計測区間の低周波領域のみを繰り返し計測するキーホール(key−hole)法や位相エンコード数を間引きしたシーケンスに好適である。
【0044】
以上述べた非調和展開は、一般に計測データをフーリエ変換によって画像データに形成する処理を実行する全ての医用画像診断装置に適用可能であり、FFTに代わる、或いはFFTを補うデータ外挿の手法として、MRIに限らずX線CT、SPECT、PET等に適用することができる。
以下、X線CTへの適用の例を述べる。X線CTには計測された複数の方向への投影データから画像データを得る方法として、逆投影演算を用いる方法(以下、逆投影法と記す)と、複数の投影データを1D−FFTすることにより2次元位相空間を充填するデータを得た後、これに2D−逆FFT演算を施して画像データを得る方法(以下、2D−FFT法と記す)とがある。後者の方法ではMRIの場合とは異なり、位相空間の計測データは原点を通る放射状の直線上に等間隔に配列されるため、2D−FFTに際して直交格子点上のデータを内挿により生成し直さなければならない。このため逆投影法に比べると演算量が多く、偽像も生じやすい。また、2次元位相空間のデータを全て計測し終ってからでなければ2D−FFT処理を開始できないという欠点があり、現在の商用機では主に逆投影法が採用されている。しかし、近年の計算機の処理能力の向上と、X線CTの1スライス当りのデータ取得速度の向上を考えると2D−FFT法の欠点は解消されつつあるといえる。いずれの方法に関しても非調和展開を適用できる。
【0045】
以下、X線CTにおける再構成の原理を述べる。まずX線吸収率の2次元分布ρ(x,y)の軸方向への投影p(r,φ)は式(5)で表される。
【0046】
【数5】
【0047】
投影pをr方向に1D−FFTしたP(k,φ)は、式(6)に示すように、中央断面定理により、2次元分布ρ(x,y)を2D−FFTしたF(kx,ky)に等しい。
【0048】
【数6】
【0049】
さてρ(x,y)は式(7)のようにF(kx,ky)に2D−逆FFTを施すことにより得られるが、
【0050】
【数7】
【0051】
式(7)を極座標表示に変換した後、式(6)の関係を用いると式(8)の関係が得られ、
【0052】
【数8】
【0053】
投影データに補正処理を施した後逆投影することによっても得られる。
逆投影法では、まずX線吸収率分布ρ(x,y)の投影データp(r,φ)を投影方向と直交する方向rへ1D−FFTし、P(k,φ)を得る。次いでP (k,φ)に対して、動径に当るk方向の高域強調フィルタ|k|を掛けてからkに関して1D−逆FFTを施した後、φについて逆投影して画像を得ている (式(8)を参照)。
【0054】
本発明に係る非調和展開を逆投影法に適用する第1の実施例では、上記過程において、P(k,φ)を計算した後でkに関する1次元データP(k,φ)をk方向に非調和展開して外挿データを追加してから、高域強調フィルタ以降の処理を行なう。P(k,φ)は中央断面定理により、ρ(x,y)の2次元フーリエ変換F(kx,ky)を極座標に変換した関数F(k,φ)に等しいから、上述の非調和展開は動径方向に高空間周波数情報を推定して付加したことになる。計測から画像再構成までの処理は角度毎の1次元データに対して実施されるので、計測中に他の角度のデータに対して処理を平行して実行できる。角度φを0からπまで変化させて、全ての角度について上記の非調和展開処理を施せば、kx−ky空間の必要な領域全てに亘って等方的に外挿したことになり、等方的に画像の解像度を向上させることができる。
【0055】
第2の実施例においては、2D−FFT法による再構成へ非調和展開を適用する。2D−FFT法ではP(k,φ)を全てのφについて計測し、kx−ky空間を充填するデータを極座標形式で得た後、直交格子点上のデータを内挿して生成する。一端格子点上のデータが生成された後のデータの取扱は先に述べたMRIの場合と同じである。従って、同様にハイブリッド空間へ移行してkxとkyに対して1次元ずつ順次非調和展開処理を施すことにより、MRIの場合と同様の解像度改善効果を得ることができる。
【0056】
さてSPECT、PETでは体内の単光子放出アイソトープや陽電子放出アイソトープによるガンマ線の様々な角度への投影をガンマカメラで検出し、これからアイソトープの2次元分布像を再構成する。そのアルゴリズムは投影像からの再構成であり、吸収補正等の固有の補正方法が付加されているものの基本的にはX線CTと同様である。現在主流としては逆投影法が用いられているが、2D−FFT法を用いることもできる。両者に対してX線CTの場合と同様に本発明による非調和展開を適用できる。
【0057】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によればフーリエ空間(k空間)のデータを計測区間に非調和項の集合に展開する処理を行うことにより、高周波成分をカットすることなく高周波成分データを外挿により補うようにしたので、リンギングアーチファクトを低減でき、更に調和関係にない高次項を調和項で近似して表現する必要がないため、高い空間分解能で高品位な画像が得られるという効果がある。特に複数の非調和項から適合する1つの非調和項を選択処理を並列処理することにより、処理の高速化を図ることができる。
【0058】
また本発明の画像再構成方法によれば、MRIのスペクトロスコピックイメージングにおいて時間軸についても非調和展開を適用することにより、スペクトル分解能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による非調和展開処理の一実施例を示すフロー図。
【図2】SE法のシーケンスを示す図で、(a)は2D−SE法、(b)は3D−SE法を示す。
【図3】有限区間の計測データに対するFFTによりスペルトルの汚染が生じる例を示す図。
【図4】本発明が適用されるMRI装置の全体の構成を示す図。
【図5】k空間における計測データの配列を示す図。
【図6】(a)は調和解析の概念を説明する図、(b)は(a)との関係における非調和解析の概念を説明する図。
【図7】本発明による非調和展開処理の他の実施例を示すフロー図。
【図8】2方向に順次非調波展開を行う場合を示すフロー図。
【符号の説明】
21…90゜RFパルス
22…スライス選択傾斜磁場パルス
23…180゜RFパルス
24…y座標位相エンコード傾斜磁場パルス
26…リードアウト傾斜磁場パルス
27…信号
28…z座標位相エンコード傾斜磁場パルス
31…計測区間の境界
33…単一周波数の波
401…被検体
407…シーケンサ
408…コンピュータ
409…傾斜磁場コイル
411…シンセサイザー
414…高周波コイル
416…直交位相検波器
417…A−D変換器
51…計測データ
52…外挿データ
80…計測データ
88…x方向外挿データ
89…y方向外挿データ
Claims (2)
- 被検体の被測定部位について取得された1次元ないし3次元の位置情報を含む計測データを信号処理して画像データに変換し画像再構成する医用画像再構成方法において、前記信号処理は、フーリエ空間において前記計測データを計測区間の非整数次の非調和項の集合に展開する処理を含むことを特徴とする医用画像再構成方法。
- 核スピンの核磁気共鳴信号を取得して核スピンの空間密度分布或いはスペクトル情報を画像再構成する信号処理手段を備えた磁気共鳴イメージング装置において、
前記信号処理手段は、1ないし3次元の位置情報あるいはスペクトル情報を共鳴核スピンの横磁化の位相または共鳴周波数としてエンコードし、k空間で磁気共鳴信号を取得し、信号に再構成処理を施して該スピンの空間分布やスペクトルを求める際に、k空間のデータを計測区間の非調和項の集合に展開することにより前記核スピンの空間分布やスペクトルを得ることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
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