JP3542423B2 - ビール酵母の活性を促進する抽出液と該抽出液を用いたビールの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ビール酵母の活性を促進する抽出液と該抽出液を用いたビールの製造方法に関し、詳しくは発酵期間を短縮し、かつ従来法に劣らない香味を有するビールを製造することのできる、ビール酵母の活性を促進する抽出液と該抽出液を用いたビールの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在の我が国で主に行われている下面発酵酵母を用いたビールの製造方法は、(1)主原料である大麦から麦芽を作る工程(製麦工程)、(2)この麦芽を粉砕し、温水と混合したのち、ホップ等の原料を添加して麦汁を作る工程(仕込み工程)、(3)この麦汁を冷却後、酵母を添加し、アルコール発酵せしめ、いわゆる若ビールを作る工程(発酵工程)、(4)この若ビールを数週間低温で貯蔵し、ビールを作る工程(貯酒工程、後発酵工程ともいう)、(5)濾過工程を経て、容器に詰め、ビールとして出荷されている。
【0003】
上記(3)の発酵工程では、発酵タンクに冷麦汁と酵母を添加することにより、発酵を行わせている。酵母は増殖し、麦汁中のエキス分をアルコールと炭酸ガスに代謝する。一定期間発酵を継続し、然るべきエキス含量に至った後に、発酵タンクの底より沈降酵母を回収し、熟成タンクに移し、20日以上の熟成を行っている。
【0004】
ドイツ、日本を含んだ多くの国で造られている下面発酵ビールの場合、発酵期間は5〜10℃の温度にて、7〜10日間必要であるが、もしこの発酵期間を短縮することができれば、設備を増設することなく、生産量を拡大することができ、生産コストを低減することができるなど、大きなメリットがある。
【0005】
従来、酵母を活性化し、発酵期間を短縮する具体的方策として、(1)通常の発酵温度よりも高い温度を採用する、(2)酵母の添加量を増加させる、(3)連続発酵を行う、〔(1)〜(3)の参照文献:「麦酒醸造学」松山茂助 著、東洋経済新報社発行、「私のビール醸造学」、サッポロビール株式会社総合研究所編〕、(4)麦汁に亜鉛を添加する〔T. Jacobsen ら、 Journal of The Institute of Brewing 1982 、Vol.88、 p. 387 〕、及び、上記(1)〜(4)の方法を組み合わせた方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、上記(1),(2)の方法でビール製造を行った場合、従来法で製造されたビールと比較して、泡持ちの低下や香味の低下など、ビール品質の低下を余儀なくされ、更に回収酵母の弱化により再使用は不可能となるなどの問題がある。
【0007】
また、上記(3)の方法においては、ニュージーランドのCoutts方式などがあるが、発酵中の微生物管理が必要であり、一旦運転を中止すると再開に時間がかかり、さらに異なったタイプのビール製造時の切り換え等において柔軟性を欠くという問題がある。
【0008】
さらに、上記(4)の方法で添加する亜鉛は、我が国の酒税法上の添加物の範囲外であり、使用することはできない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来の問題点を解消し、従来法で製造されたビールと比較して香味の低下など、ビール品質の低下を生じさせることなく、しかも微生物管理等においての問題を発生させることなく、発酵期間を短縮したビールを製造することのできる、ビール酵母の活性を促進する抽出液と該抽出液を用いたビールの製造方法を提供することを目的とするものである。
【0010】
すなわち、本発明は、発酵期間を短縮したビールを製造することのできる、ビール酵母の活性を促進する抽出液と該抽出液を用いたビールの製造方法を提供するものである。発酵期間を短縮することができれば、設備を増設することなく、生産量を拡大することができ、生産コストを低減することができるなど、大きなメリットがある。
【0011】
また、本発明は、発酵期間を短縮すると同時に、従来法に劣らない香味を有するビールを製造することのできる、ビール酵母の活性を促進する抽出液と、従来法に劣らない香味を有するビールを製造しうる方法を提供することを目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の如き課題を解決するため鋭意研究を行った結果、発酵工程において、麦汁を製造する際に出るビール粕から抽出される抽出液を発酵初期に添加することにより、酵母の活性を促進し、発酵期間を短縮し、且つ従来法に劣らない香味を有するビールを得ることができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに到った。
【0013】
すなわち、請求項1に係る本発明は、ビール粕又はその乾燥物に酸性溶媒を加えて酸性溶液とし、該溶液を濾過もしくは固形物を沈殿させて得られる上澄からなる、ビール酵母の活性を促進する抽出液を提供するものである。
また、請求項2に係る本発明は、請求項1に記載の抽出液をビール製造における発酵工程の発酵初期に添加することを特徴とするビールの製造方法を提供するものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
請求項1に係る本発明は、ビール酵母の活性を促進する抽出液に関し、ビール粕又はその乾燥物に酸性溶媒を加えて酸性溶液とし、該溶液を濾過もしくは固形物を沈殿させて得られる上澄からなるものである。
【0015】
ここでビール粕とは、通常のビール製造の際、麦汁を作る仕込み工程において、マッシュを濾過によって不溶物を分離し、麦汁を得るが、このときの不溶物を指す。
請求項1に係る本発明のビール酵母の活性を促進する抽出液は、このようなビール粕、或いはこのビール粕を乾燥させたビール粕の乾燥物から抽出されたものである。
このビール粕の乾燥物は、具体的には、麦汁を搾り終えたビール粕を水洗し、粕中の細部を除去し穀皮部分を得た後、得られた穀皮部分を脱水し、さらに乾燥及び殺菌を行ったものである。乾燥は、100〜120℃で3〜4時間程度行えば良い。また、殺菌は、120〜150℃で10〜20分間程度行えば良い。
【0016】
請求項1に係る本発明のビール酵母の活性を促進する抽出液は、上記のようなビール粕又はその乾燥物に酸性溶媒を加えて酸性溶液とし、該溶液を濾過もしくは固形物を沈殿させて得られる上澄からなるものである。
より具体的には、該抽出液は、ビール粕又はその乾燥物に乳酸、好ましくは0.5重量%の乳酸を加え、濾過若しくは固形物を沈殿させて得られた上澄み液を指す。このような抽出液を用いると、抽出された成分(亜鉛などの無機成分と考えられる)が酵母を活性化させ、発酵速度が向上し、発酵期間の短縮が可能となる。
【0017】
請求項1に係る本発明のビール酵母の活性を促進する抽出液は、麦汁量に対して、0.05〜0.2重量%の範囲で添加することが望ましい。
ここで請求項1に係る本発明のビール酵母の活性を促進する抽出液の添加量が、麦汁量に対して、0.05重量%未満であると、発酵期間を短縮させることができない。一方、請求項1に係る本発明のビール酵母の活性を促進する抽出液を0.2重量%より多く加えても、発酵期間短縮の程度は変わらない。
【0018】
なお、請求項1に係る本発明のビール酵母の活性を促進する抽出液は、ビール以外にも、発泡酒等で発酵のためにビール酵母を用いる酒類の製造に対して適用することができる。
【0019】
次に、請求項2に係る本発明は、ビールの製造方法に関し、請求項1に記載の抽出液をビール製造における発酵工程の発酵初期に添加することを特徴とするものである。
請求項2に係る本発明は、ビールを製造するにあたり、発酵工程に特色を有するものである。この発酵工程では、発酵タンクに冷麦汁と酵母を添加することにより、発酵を行わせるが、請求項2に係る本発明は、この発酵工程において、発酵初期に、請求項1に記載の抽出液を添加することを特徴とするものである。
【0020】
ここで発酵初期とは、発酵開始とほぼ同時が好ましい。発酵開始から1日経過してから投入しても、発酵期間の短縮にはならない可能性がある。
【0021】
通常は、発酵開始と同時に添加する。つまり、エキス分を調整した麦汁にビール酵母を添加し、これに請求項1に記載の抽出液を添加して、発酵を行う。このようなものは、我が国の酒税法上の添加物の範囲内のものと認められる。
【0022】
以上のようにして、目的とするビールを製造することができる。
すなわち、上記した如き請求項1に係る本発明のビール酵母の活性を促進する抽出液、並びに上記した如き請求項2に係る本発明のビールの製造方法によれば、発酵期間を短縮しながらも、従来法に劣らない香味を有するビールを製造することができる。
【0023】
上記した如き請求項1に係る本発明のビール酵母の活性を促進する抽出液、並びに上記した如き請求項2に係る本発明のビールの製造方法によれば、従来法では約7〜8日必要とした発酵期間を、約5〜6日に短縮することができる。このような短縮が可能である、その主たる作用因子は、ビール粕、その乾燥物等による酵母の浮遊性向上、及び、発酵による麦汁pHの低下に伴うビール粕中の無機成分、特に亜鉛等の溶出によるものであると考えられる。
【0024】
すなわち、通常の麦汁のpHは5.6前後であるが、発酵により最終的にpHは4.3前後となる。ビール粕中の無機成分は麦汁・水では殆ど溶出せず、pHが4.8程度の酸性域から溶出が起こる。実際の発酵では、2日目頃にはpHは4.8程度となり、ビール粕中の無機成分の溶出が始まった。溶出された無機成分は即座に酵母に取り込まれ、酵母を活性化させ、発酵速度が向上し、発酵期間の短縮が可能となる。
【0025】
換言すれば、請求項2に係る本発明の方法では、ビールを製造するにあたり、麦汁に酵母を添加して発酵を行う発酵工程において、発酵初期に請求項1に係る本発明のビール酵母の活性を促進する抽出液を添加することにより、酵母の繰り返し使用による酵母の活性低下を抑え、さらには活性化することにより、発酵期間を短縮することができる。このような発酵期間の短縮は、ビール粕由来の無機成分によるものと考えられる。
【0026】
【実施例】
次に、本発明を実施例により詳しく説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。
【0027】
参考調製例1(ビール粕乾燥物の調製)
仕込み工程において麦汁を搾り終えたビール粕を5kg採取し、1cm2 当たり16目のステンレス網上に広げ、水道水にて30分間流水洗浄し、粕中の細粒部を除去し、穀皮部分2.6kgを得た。得られた穀皮部分をナイロンネットに採り、(株)日立製作所製の一槽式洗濯機(商品名:KW−70R1静御前)により脱水を2分間行った後、ステンレスバットに移し、(株)ヤマト科学製の乾熱器DN63により120℃で3時間乾燥し、ビール粕の乾燥物0.6kgを得た。なお、このものは、使用するときに、(株)トミー精工製のオートクレーブSS−245により120℃で15分殺菌を行った。
【0028】
参考例1
(1)発酵試験
エキス分を11重量%に調整した麦汁400リットル(L)に、ビール酵母を1500万Cells/ml添加し、さらに、これに上記参考調製例1で得られたビール粕乾燥物を0.1重量%(対麦汁量)の割合で添加し、発酵試験を行った。この試験の際の発酵温度の経過を図1に示す。また、発酵経過を図2に示す。なお、比較のためにビール粕を全く添加しなかった場合(無添加の場合)についても、同様に試験を行った。その結果を併せて図2に示した。
【0029】
発酵温度の経過については、図1に示すように、まず麦汁の温度を8℃にし、これに酵母を添加し、酵母の発酵熱により16時間で10.7℃とし、48時間保持した。次いで、酵母への温度ショックを与えないために、初めの24時間で10.5℃まで冷却し、以降は1.0℃/24時間の割合で冷却した。
【0030】
本参考例1において、発酵に使用したタンクは、サッポロビール醸造技術研究所保有の30L容(内径250mm、高さ900mm、(株)曽我製作所製)及び400L容(内径550mm、高さ2661mm、(株)曽我製作所製)のタンクである。
【0031】
なお、発酵中の麦汁中のエキスの量及び浮遊酵母数については、次のような方法により測定したものである。
1) エキスの量の測定方法
エキスの量の測定は、京都電子(株)製の密度比重計(DA−300)及び多検体チェンジャ(CHG−230)により、20℃における比重を測定し、エキス量に換算した。なお、エキスが2.5重量%前後になった時点を発酵終了とした。
【0032】
2) 浮遊酵母数の測定方法
浮遊酵母数の測定は、萓垣医理科工業(株)製のトーマ血球計を用い、オリンパス(株)製の顕微鏡BH−2により検鏡測定した。
【0033】
(2)ビール揮発性成分及び香味試験結果
次に、上記のようにして発酵を行った後、得られた若ビールを貯酒工程,濾過工程を経て、ビールを製造した。
このようにして製造されたビールの揮発性成分アセトアルデヒド及びアセトインの量、さらに酢酸エチルと酢酸イソアミルの量を第1表に示す。なお、これらの量は以下の通りにして分析した。揮発性成分アセトアルデヒド及びアセトインのような成分が多すぎると、ビール香味上好ましくないものとされる。
また、このようにして製造されたビールの香味について、以下のような方法で測定し、結果を第1表に示した。なお、比較のためにビール粕を全く添加しなかった場合(無添加の場合)についても、同様に行った。その結果を併せて第1表に示した。
【0034】
3) アセトアルデヒドの分析
アセトアルデヒドの分析は、(株)島津製作所製のガスクロマトグラフィー(GC−14A・検出器はFID)を使用して行った。カラムはジーエルサイエンス(株)製の3mステンレスカラムO.D4mm、I.D3mm(PEG−1540、10% Uniport R 80/100メッシュ)を用い、測定条件はカラム温度90℃、注入口温度140℃、検出器温度140℃であり、キャリアガスとして窒素30ml/分で行った。サンプル調製は300ml容の三角フラスコに食塩18g及びビール50mlを加え、内部標準3−Hepatanon 0.5mlを添加し、ヘッドスペース5mlをガスクロマトグラフィーに注入するヘッドスペースガスクロ法で測定した。
【0035】
4) アセトインの分析
アセトインの分析は、(株)島津製作所製のガスクロマトグラフィー(GC−14A・検出器はFID)を使用して行った。カラムはJ&W SIETIFIC社製の30m×0.320mmキャピラリーカラムDB−WAX 0.25μm を使用した。測定条件は、カラム温度−昇温法(65〜250℃まで、1℃/分で昇温)にて、注入口温度250℃、検出器温度300℃であった。サンプル調製はビール100mlに内部標準n−オクチルアルコール1mlを添加し、ジクロロメタン10mlで抽出し、0.5mlに濃縮し、25μlをGCに注入し測定した。
【0036】
5) 香味試験法(官能検査)
官能検査とは、高度に熟練したパネラー10人前後により、人間の感覚器官を使用し、ある判定基準に従い、ビールの評価をするものであり、今回、高度の官能識別能力を有する11人のパネラーによるトライアングル法を用いた。
【0037】
トライアングル法は、比較試験法の中でも非常に重要なときに行い、内容の明かされていない3つのビール(内2つは同一のもの)の中から香味の異なったものを見つけ出すものである。また、香味試験の評点は、一連の試験での品質の良否を見い出す点数であって、色・光沢・香り・味・後味濃醇さ・苦味の質・強さについて評価し、各項目に係数を掛けた評点により評価する方法である。今回は色・光沢を除き、各項目の最高合計評点を80点とし、各パネラーの評価の内、最高と最低を除いた平均点を使用した。
【0038】
発酵経過については、図2に示されるように、麦汁に酵母を添加した時点(A)からビール粕を添加し、発酵を行わせた結果、ビール粕を添加したもの(参考品1)は、ビール粕無添加のもの(比較対照品)と比較して、浮遊酵母数が多かった。また、ビール粕を添加したもの(参考品1)は、ビール粕無添加のもの(比較対照品)と比較して、発酵3日目からエキス低下が早くなり、発酵期間はビール粕無添加のもの(比較対照品)が8日であったが、ビール粕を添加したもの(参考品1)は6日と、発酵期間が2日早くなった。
【0039】
【表1】
【0040】
ビール揮発性成分試験結果については、上記第1表に示すように、アセトアルデヒドやアセトインが多すぎると、ビール香味上好ましくないとされるが、ビール粕を添加したもの(参考品1)は、アセトアルデヒドが1.6ppm、アセトンは1.2ppmであり、ビール粕無添加のもの(比較対照品)と比較して低いことが分かる。
【0041】
次に、香味試験結果については、上記第1表に示すように、高度の官能識別能力を有する11人のパネラーにより行ったトライアングルテストでは、ビール粕を添加したもの(参考品1)とビール粕無添加のもの(比較対照品)とを識別できたパネラーは、3名と少なかった。また、香味試験評点は80点満点で、得点の高いものほど香味に優れているが、ビール粕を添加したもの(参考品1)は、76.2と、ビール粕無添加のもの(比較対照品)より高い評点となり、前記したような発酵期間の短縮のみならず、香味上も望ましい結果が得られた。
【0042】
参考例2
エキス分を11重量%に調整した麦汁30Lに、ビール酵母を1500万Cells/mlを添加し、上記参考調製例1で得られたビール粕乾燥物を0.1重量%(対麦汁量)の割合で添加し、参考例1と同様にエキス、浮遊酵母数の測定を行い、さらに発酵中、経日的に浮遊酵母をサンプリングし、浮遊酵母中の亜鉛含量を測定した。結果を第2表に示す。なお、比較のためにビール粕を全く添加しなかった場合(無添加の場合=比較対照品)についても、同様に行った。その結果を併せて第2表に示した。
【0043】
なお、第2表における酵母中の亜鉛含量の測定は、 A. Lentini ら、 The Institute of Brewing Australia & New Zealand Section Proceeding of the Twenty-First Convention 4-9 March 1990の方法を参考にして行った。
【0044】
【表2】
*:酵母中亜鉛含量は、乾燥酵母50mg中の濃度
【0045】
第2表によれば、通常発酵での酵母中の亜鉛濃度はビール粕無添加のもの(比較対照品)のように、発酵日数の経過と共に浮遊酵母数は増加するため、同一重量中の亜鉛濃度は低下していくが、ビール粕を添加したもの(参考品2)は、ビール粕中より溶出された亜鉛を酵母が取り込むため、発酵4日目まで酵母中の亜鉛含量は増加し、発酵終了時点の亜鉛含量も、ビール粕無添加のもの(比較対照品)より高く、発酵期間は2日間短縮されることが分かる。
【0046】
実施例1(ビール粕乾燥物の抽出液を使用した試験)
上記参考調製例1で得られたビール粕乾燥物400gに、0.5%乳酸4Lを加え、その上澄液(抽出液)2.3Lを、発酵開始時に麦汁400Lに添加し、発酵試験を行った。この試験の際の発酵経過を図3に示す。なお、比較のためにビール粕乾燥物の抽出液を全く添加しなかった場合(無添加の場合)についても、同様に試験を行った。その結果を併せて図3に示した。
【0047】
図3から明らかなように、発酵開始後、2日目から差が現れ、ビール粕乾燥物の抽出液を使用したもの(本発明品)は、ビール粕乾燥物の抽出液無添加のもの(比較対照品)と比べて、2日早く発酵が終了した。
【0048】
【発明の効果】
請求項1に係る本発明によれば、従来法で製造されたビールと比較して香味の低下など、ビール品質の低下を生じさせることなく、しかも微生物管理等においての問題を発生させることなく、発酵期間を短縮したビールを製造することのできる、ビール酵母の活性を促進する抽出液が提供される。
請求項2に係る本発明によれば、発酵工程において、発酵初期から請求項1に係る本発明のビール酵母の活性を促進する抽出液を添加することにより、従来の発酵に比べて、酵母の浮遊性及び活性化によって、発酵期間を短縮することができる。実施例によれば、従来、8日間程度かかったものが、6日間と、或いは従来、9日間程度かかったものが、7日間と、それぞれ2日間程度短縮された。勿論、ビール粕からの抽出液は、我が国の酒税法上の添加物の範囲内のものと認められる。
【0049】
従って、本発明によれば、冷却エネルギーの節約・製造サイクルの短縮という効果が期待できる。発酵期間を短縮することができれば、設備を増設することなく、生産量を拡大することができ、生産コストを低減することができるなど、大きなメリットがある。
【0050】
また、本発明によれば、上記のように発酵期間を短縮すると同時に、従来法に劣らない香味を有するビールを製造することができる。
すなわち、製品ビールの成分では、アセトアルデヒド、アセトインが少なく、香味品質の向上を図ることができる。
【0051】
要約すると、本発明によれば、従来法で製造されたビールと比較して、香味の低下など、ビール品質の低下を生じさせることなく、しかも微生物管理等においての問題を発生させることなく、ビールの発酵期間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、参考例1における発酵試験の際の発酵温度の経過を示すグラフである。
【図2】図2は、参考例1における発酵試験の際の発酵経過を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例1における発酵試験の際の発酵経過を示すグラフである。
【符号の説明】
A 麦汁に酵母を添加した時点
Claims (2)
- ビール粕又はその乾燥物に酸性溶媒を加えて酸性溶液とし、該溶液を濾過もしくは固形物を沈殿させて得られる上澄からなる、ビール酵母の活性を促進する抽出液。
- 請求項1に記載の抽出液をビール製造における発酵工程の発酵初期に添加することを特徴とするビールの製造方法。
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